IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ボールエンドミル 図1
  • 特許-ボールエンドミル 図2
  • 特許-ボールエンドミル 図3
  • 特許-ボールエンドミル 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B23C5/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018046986
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019155545
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】細川 真靖
(72)【発明者】
【氏名】坂口 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】新妻 知征
(72)【発明者】
【氏名】松林 優衣
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-030023(JP,A)
【文献】実開平07-037514(JP,U)
【文献】実公昭62-012503(JP,Y2)
【文献】特表2017-511208(JP,A)
【文献】特開2017-185564(JP,A)
【文献】特開2002-052412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向いてすくい面とされる壁面と上記すくい面に交差する逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が上記軸線上に中心を有する球状をなす切刃が形成されたボールエンドミルであって、
上記切刃は、上記エンドミル本体の先端側から上記中心を通り上記軸線に垂直な平面を越えて後端側に向けて延びており、
上記切刃の径方向すくい角が上記エンドミル本体の先端側から後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなり、
上記切刃の上記平面を越えた後端側の部分でも、上記径方向すくい角は後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
上記平面を越えた後端側の部分での軸線方向の単位長さあたりの上記径方向すくい角の変化量が、上記平面よりも先端側の部分での軸線方向の単位長さあたりの上記径方向すくい角の変化量よりも、大きいことを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
【請求項3】
上記すくい面には、上記切刃に交差する稜線が形成されていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボールエンドミル。
【請求項4】
上記逃げ面には、上記切刃に交差する稜線が形成されていないことを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する球状をなす切刃が形成され、この切刃が、エンドミル本体の先端側から上記中心を通り上記軸線に垂直な平面を越えて後端側に向けて延びているボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に用いられるボールエンドミルとして、特許文献1には、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、該軸線回りの回転軌跡が球面状をなす切刃が、上記軸線方向先端側から後端側に向けて、上記球面の中心を通り該軸線に垂直な平面を越えるように延設されており、上記切刃は、上記平面よりも上記軸線方向先端側では後端側に向かうに従いエンドミル回転方向の後方側に捩れるように形成される一方、該平面を越えた上記軸線方向後端側では、上記軸線に対する捩れ角が後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-30023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この特許文献1に記載されたボールエンドミルでは、上記軸線方向後端側で後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされた上記切刃の捩れ角が、該切刃の上記軸線方向最後端部において負角となるようにされている。
【0005】
このため、エンドミル本体の先端部に形成される切屑排出溝の上記切刃のすくい面とされるエンドミル回転方向を向く壁面も、上記平面を越えた軸線方向後端側の部分では軸方向すくい角が負角になるとともに、これに伴い径方向すくい角も負角となるおそれがあり、この部分での切刃の切れ味が鈍くなって切削抵抗の増大を招いたり、エンドミル本体にビビリ振動が発生したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のように切刃がエンドミル本体の先端側から該切刃の回転軌跡がなす球の中心を通り軸線に垂直な平面を越えて後端側に向けて延びているボールエンドミルにおいて、この平面を越えた後端側の部分でも切刃に鋭い切れ味を確保して切削抵抗の増大やビビリ振動を抑制することが可能なボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向いてすくい面とされる壁面と上記すくい面に交差する逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が上記軸線上に中心を有する球状をなす切刃が形成されたボールエンドミルであって、上記切刃は、上記エンドミル本体の先端側から上記中心を通り上記軸線に垂直な平面を越えて後端側に向けて延びており、上記切刃の径方向すくい角が上記エンドミル本体の先端側から後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなり、上記切刃の上記平面を越えた後端側の部分でも、上記径方向すくい角は後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなることを特徴とする。
【0008】
このように構成されたボールエンドミルでは、切刃の径方向すくい角がエンドミル本体の先端側から後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなっており、すなわち切刃の回転軌跡がなす球の中心を通る軸線に垂直な平面を越えた後端側の部分でも、径方向すくい角は後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなる。
【0009】
従って、この後端側の部分での切刃の切れ味を鋭くすることができ、切刃の後端側部分を使用するアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の軸傾斜切削において切削抵抗の増大を防ぐとともにビビリ振動の発生も抑制することができる。
【0010】
また、上記切刃を、上記エンドミル本体の先端側から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に向けて捩れるように形成することにより、少なくとも上記エンドミル本体の先端側から上記中心を通り上記軸線に垂直な平面に達するまでの範囲では、切刃の切れ味をさらに鋭く確保して、一層確実な切削抵抗の低減やビビリ振動の抑制を図ることができる。
また、上記平面を越えた後端側の部分での軸線方向の単位長さあたりの上記径方向すくい角の変化量が、上記平面よりも先端側の部分での軸線方向の単位長さあたりの上記径方向すくい角の変化量よりも、大きいこととしてもよい。
【0011】
さらに、すくい面には、上記切刃に交差する稜線が形成されていないことにより、この稜線との交点が起点となって切刃にチッピングが生じるのを防ぐことができるので、たとえ高硬度の金型等に対して上述のように切刃の切れ味を鋭くしても、長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能となる。また、同じく上記逃げ面にも、上記切刃に交差する稜線が形成されていないことにより、同様の効果を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、このようにすくい面や逃げ面に切刃に交差する稜線が形成されていないとは、例えばすくい面や逃げ面の切刃に沿った方向のJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm未満であることが望ましい。このような方向の最大高さ粗さRzが2.0μm以上となるような段差がすくい面や逃げ面に形成されていると、上記稜線が目視でも確認でき、この稜線と切刃との交点からチッピングが生じるおそれが高くなる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、切刃の回転軌跡がなす球の中心を通る軸線に垂直な平面を越えた後端側の部分で切刃に鋭い切れ味を確保することができる。このため、この後端側の部分を使用するアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の軸傾斜切削において切削抵抗の増大とビビリ振動の発生を抑えて、安定した切削加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を示すエンドミル本体の先端部の斜視図である。
図2図1に示す実施形態の正面図である。
図3図1に示す実施形態のさらに先端部の側面図である。
図4図1に示す実施形態の切刃上の位置と径方向すくい角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図4は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に形成されており、後端側(図1において右上側)の部分は円柱状のままのシャンク部2とされ、先端部に切刃部3が形成されている。
【0016】
このようなボールエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、切刃部3によって被削材に切削加工を施し、金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に用いられる。
【0017】
切刃部3には、エンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れる複数条(本実施形態では4条)の切屑排出溝4が周方向に間隔をあけて形成されており、これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向いてすくい面5とされる壁面と、周方向に隣接する切屑排出溝4の間を切刃部3の先端内周部から後端外周部に延びてこのすくい面5に交差する逃げ面6との交差稜線部には、軸線O回りの回転軌跡が軸線O上に中心Cを有する球状をなす切刃7がそれぞれ形成されている。
【0018】
これらの切刃7は、互いの軸線O回りの回転軌跡が重なり合うとともに、この回転軌跡が切刃部3の先端から後端側に向けて上記中心Cを越える範囲にまで形成されている。例えば、通常の底刃の回転軌跡が半球状となるボールエンドミルの切刃部先端から底刃の後端までの軸線方向の長さを百分率で100%とした場合、本実施形態のボールエンドミルの切刃7は図4に示すように140%を越える範囲にまで延びている。従って、上記シャンク部2の外径は、切刃7の最大外径である上記中心Cに垂直な平面の位置の外径よりも小さくされる。
【0019】
また、4つの切刃7のうち、軸線Oを間にして反対側に位置する2つの切刃7は、切刃部3先端の軸線O近傍から延びる長切刃7aとされている。これに対して、残りの2つの切刃7は、その逃げ面6の切刃部3先端側部分が切り欠かれることにより、軸線Oから外周側に間隔をあけた位置から後端側に延びる短切刃7bとされている。なお、エンドミル本体1は、軸線Oに関して180°回転対称形状とされている。
【0020】
さらに、すくい面5は、切刃部3の先端内周部から後端外周部に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に延びるエンドミル回転方向Tに膨らんだ1つの凸曲面によって形成されており、本実施形態ではこのすくい面5に切刃7と交差する稜線は形成されてはいない。同様に、逃げ面6も、切刃7が形成された範囲では切刃部3の先端外周側から後端外周側に膨らんだ1つの凸曲面によって形成され、この逃げ面6にも本実施形態では切刃7と交差する稜線は形成されてはいない。
【0021】
ここで、このようにすくい面5や逃げ面6に切刃7と交差する稜線が形成されていないとは、例えばすくい面や逃げ面の切刃に沿った方向のJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm未満であることであり、本実施形態では0.58μmとされている。この最大高さ粗さRzが2.0μm以上であると、目視によってもこのような稜線を確認することができる。
【0022】
さらに、本実施形態では、切屑排出溝4が上述のようにエンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れていて、すくい面5も切刃部3の先端内周部から後端外周部に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に延びていることから、切刃7もエンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れ、少なくとも上記エンドミル本体1の先端側から上記中心Cを通り上記軸線Oに垂直な平面に達するまでの範囲では、切刃7には正角のすくい角が与えられる。
【0023】
そして、さらに切刃7の径方向すくい角は、エンドミル本体1の先端側から後端側に向かうに従い正角側に漸次大きくなっている。ここで、図4の下側に示した図は、上述のように通常の底刃の回転軌跡が半球状となるボールエンドミルの切刃部先端から底刃の後端までの軸線方向の長さを百分率で100%とした場合に、この百分率に対応する短切刃7b上の各位置での径方向すくい角を表したものである。
【0024】
この図4に示すように短切刃7bの先端(20%の位置)では径方向すくい角が負角の約-2°であるのに対し、短切刃7bの後端側に向かうに従い径方向すくい角は徐々に正角側に大きくなってゆき、およそ60%の位置で0°となり、これよりも後端側では径方向すくい角は正の範囲で漸次増大していって、短切刃7bの後端側の140%の位置では約16°となる。これが、従来のボールエンドミルであると、切刃の位置が100%を越えたところから径方向すくい角は小さくなってゆく。
【0025】
従って、このような構成のボールエンドミルでは、切刃7の回転軌跡がなす球の中心Cを通る軸線Oに垂直な平面を越えた切刃7の後端側の部分でも、図4に示したように切刃7の径方向すくい角は正角側に漸次大きくなるので、この後端側の部分において切刃7に鋭い切れ味を確保することができる。
【0026】
このため、この切刃7の後端側部分を使用するアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の軸傾斜切削において切削抵抗の増大を防ぐことができるとともに、ビビリ振動の発生も抑えて、安定した切削加工を行うことが可能となる。特に、本実施形態では、この切刃7の後端側部分の径方向すくい角が正角であるので、一層鋭い切れ味を確保することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態では、切刃7がエンドミル本体1の先端側から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向けて捩れており、これによって少なくとも上記エンドミル本体1の先端側から上記中心Cを通り上記軸線Oに垂直な平面に達するまでの範囲では、切刃7の軸方向すくい角も後端側に向かうに従い正角側に漸次増大するので、切刃7の上記範囲における切れ味を一層鋭く確保することができ、さらに確実に切削抵抗の低減とビビリ振動の抑制を促すことができる。
【0028】
さらに、このように切刃7の後端側の部分の切れ味を鋭くしても、本実施形態のボールエンドミルでは、例えばすくい面5や逃げ面6の切刃7に沿った方向のJIS B0601:2013における最大高さ粗さRzが2.0μm未満とされるなどして、これらすくい面5や逃げ面6に切刃7と交差する稜線が形成されないようにすることにより、鋭い切刃7にチッピングが生じるような事態を防止することができる。
【0029】
すなわち、このように切刃7に交差する稜線がすくい面5や逃げ面6に形成されていると、この稜線と切刃7との交点を起点として切刃7にチッピングが生じ易くなるが、本実施形態ではそのような起点となる交点を形成する稜線がすくい面5や逃げ面6に形成されていないので、切刃7の特に後端側の部分の径方向すくい角を正角側に漸次増大するようにして切れ味を鋭くしても、このようなチッピングが生じるのを防ぐことができる。
【0030】
なお、本実施形態では、すくい面5と逃げ面6との双方が、切刃7に交差する稜線が形成されていないものとしたが、すくい面5と逃げ面6の一方が切刃7に交差する稜線が形成されていないものとされていてもよい。ただし、本実施形態のように切刃7に交差する稜線がすくい面5と逃げ面6の双方に形成されていない方が、チッピングを確実にするためには望ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 すくい面
6 逃げ面
7 切刃
7a 長切刃
7b 短切刃
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
C 切刃7の軸線O回りの回転軌跡がなす球の中心
図1
図2
図3
図4