(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/02 20060101AFI20220830BHJP
C12N 9/96 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C12N9/02
C12N9/96
(21)【出願番号】P 2018056334
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩江 一磨
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
(72)【発明者】
【氏名】木全 伸介
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-066087(JP,A)
【文献】特開2004-105025(JP,A)
【文献】特開2007-289096(JP,A)
【文献】特開2003-116539(JP,A)
【文献】米国特許第06753159(US,B1)
【文献】特開2001-299387(JP,A)
【文献】特開2017-012169(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176225(WO,A1)
【文献】国際公開第03/014725(WO,A1)
【文献】特開2007-228842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸オキシダーゼを、オクチルフェノールエトキシレートおよびアミンを含む緩衝液と共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの
液状組成物における安定化方法。
【請求項2】
前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、2-モルホリノエタンスルホン酸,一水和物(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸),二水和物(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの
液状組成物における安定化方法。
【請求項3】
前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、およびピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1
又は請求項2に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの
液状組成物における安定化方法。
【請求項4】
35℃で7日間保存しても安定である、請求項1~3のいずれかに記載のアスコルビン酸オキシダーゼの液状組成物における安定化方法。
【請求項5】
液状組成物におけるアスコルビン酸オキシダーゼの濃度が0.1~50U/mLとなるように共存させる、請求項1~4のいずれかに記載のアスコルビン酸オキシダーゼの液状組成物における安定化方法。
【請求項6】
液状組成物におけるアミンを含む緩衝液の濃度が5~200mMとなるように共存させる、請求項1~5のいずれかに記載のアスコルビン酸オキシダーゼの液状組成物における安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体成分を酵素的に測定する方法はこれまで種々開発されてきている。この中で、コレステロールオキシダーゼなどのオキシダーゼを用いる方法は、オキシダーゼの作用により生成した過酸化物をペルオキシダーゼの存在下、水素供与体の発色系に導き比色定量に供する。本測定系は生体成分中のアスコルビン酸の影響を受けやすいことから、過酸化水素測定前または測定時に生体成分中に存在するアスコルビン酸にアスコルビン酸オキシダーゼ(以下ASOと略す)を作用させ、デヒドロアスコルビン酸に変換せしめ影響を回避することが一般に行われている。しかし、溶液中のASOは非常に不安定であり、試薬保存中に失活し試薬の保存安定性を左右する要因となっている。
【0003】
これに対し、安定化剤としてカタラーゼ、ゼラチン、グロブリン、ペルオキシダーゼ、メトヘモグロビンまたはヘマチン等を用いることで効果があることが示されている。また、金属と陰性の酸基とからなる化合物およびカタラーゼ及び/またはペルオキシダーゼの添加でASOの保存安定性が向上することが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、アスコルビン酸オキシダーゼを含む溶液に糖アルコールを添加する方法(例えば、特許文献2参照)、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させる方法(例えば、特許文献3参照)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンおよびこれらの塩より選ばれる物質を用いる方法(例えば、特許文献4参照)、ビリルビン酸(塩)を配合させる方法(例えば、特許文献5参照)が開示されている。しかしながら、これらの方法では液状試薬として耐えうる安定性には尚問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平8-15430号
【文献】特開2003-116539号
【文献】WO2013/176225
【文献】特許4288559号
【文献】特許4620881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は長期間安定な液状試薬として耐えうるようASOを安定化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ASOをある種の界面活性剤および緩衝液と共存させることにより、またASOをある種の緩衝液と共存させることにより、ASOを液状状態で安定に保つことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0007】
[項1]アスコルビン酸オキシダーゼを、オクチルフェノールエトキシレートおよびアミンを含む緩衝液と共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項2]前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、2-モルホリノエタンスルホン酸,一水和物(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸),二水和物(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項3]前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、およびピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1または項2に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項4]アスコルビン酸オキシダーゼを、アミンを含む緩衝液と共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項5]前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、2-モルホリノエタンスルホン酸,一水和物(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸),二水和物(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項4に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項6]前記アミンを含む緩衝液が、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、およびピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項4または項5に記載のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[項7]アスコルビン酸オキシダーゼ、以下の(1)および以下の(2)を含む、アスコルビン酸オキシダーゼが安定化された組成物。
(1)オクチルフェノールエトキシレート
(2)アミンを含む緩衝液。
[項8]アスコルビン酸オキシダーゼ、以下の(2)を含む、アスコルビン酸オキシダーゼが安定化された組成物。
(2)アミンを含む緩衝液。
[項9]項7または項8に記載の組成物を含む、生体成分分析用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、安定なASO含有液状製剤を提供でき、長期間または過酷な条件下での保管後の液状製剤においてもアスコルビン酸の影響を受けることなく、正確な測定値を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(界面活性剤と緩衝液との組合せによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化)
本発明の実施態様は、アスコルビン酸オキシダーゼを、特定の界面活性剤(オクチルフェノールエトキシレート)及びアミンを含む緩衝液と共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法である。
【0010】
例えば、オクチルフェノールエトキシレートとして、Triton X-100(「Triton」は登録商標。以下同様)、Triton X-114、Nonidet P-40(「Nonidet」は登録商標。以下同様)、Igepal CA-630(「Igepal」は登録商標。以下同様)が挙げられる。
【0011】
本発明の方法において、使用されるアミンを含む緩衝液は特に限定されないが、例えば、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸〔N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid(ACES)〕、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸〔N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)〕、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸〔N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)〕、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン〔N,N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine(Bicine)〕、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン〔Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane(Bis-Tris)〕、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸〔N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid(CAPS)〕、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸〔3-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid(EPPS)〕、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸〔2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)〕、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸〔2-Hydroxy-3-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid(HEPPSO)〕、2-モルホリノエタンスルホン酸,一水和物〔2-Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate(MES)〕、3-モルホリノプロパンスルホン酸〔3-Morpholinopropanesulfonic acid(MOPS)〕、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸〔2-Hydroxy-3-morpholinopropanesulfonic acid(MOPSO)〕、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)〔Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)〕、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸),二水和物〔Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid),dihydrate(POPSO)〕、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸〔N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid(TAPS)〕、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸〔N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid(TES)〕、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン〔N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine(Tricine)〕およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン〔Tris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)〕からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミンが挙げられる。
【0012】
本発明の方法において、前記アミンを含む緩衝液は、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸〔N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)〕、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸〔N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)〕、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸〔2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)〕およびピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)〔Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)〕からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明のASOの安定化方法において使用する前記アミンを含む緩衝液と前記界面活性剤の組合せは特に限定されない。
【0014】
ASOを含む溶液中のアミンを含む緩衝液の濃度としては特に限定されるものではないが、範囲の上限は、好ましくは200mMさらに好ましくは100mM、範囲の下限は20mMさらに好ましくは5mMで、使用されるのが望ましい。
【0015】
また、アミンを含む緩衝液のpH調整範囲は特に限定されないが、一般に生体試料の測定に必要な酵素等がいずれも中性付近で安定な性質を示しており、本発明においても中性付近の緩衝液を用いることが好ましい。範囲の上限は、好ましくは9.5さらに好ましくは7.5、範囲の下限は、好ましくは4.5さらに好ましくは6.0で、調整されるのが望ましい。
【0016】
本発明で用いられるASOとは、EC1.10.3.3に分類される以下の反応を触媒する酵素である。
L-アスコルビン酸+1/2O2→デヒドロアスコルビン酸+H2O
上記酵素の由来は特に限定されないが、例えばキュウリ、カボチャ等の植物などから採取されるものなどを含有する。
また、本発明に用いられるASOには特開平6-209770に記載の以下の反応を触媒する酵素も含む。
L-アスコルビン酸+1/2O2→デヒドロアスコルビン酸+H2O2
上記酵素の由来は特に限定されないが、例えば微生物などから採取されるものなどを含有する。前記微生物としては特に限定されないが、例えばトリコデルマ(Trichoderma)属、モルティエレラ(Mortierella)属またはユペニシリウム属(Eupenicillium)が挙げられる。
ASOを含む溶液中のASOの濃度は、特に限定されないが、酵素の起源によっても異なり、通常0.1~50U/mLの範囲で好適に用いられる。
【0017】
本発明のASOの安定化方法においては、さらに防腐剤などを共存させてもよい。防腐剤は特に限定されないが、例えば、アジ化物、キレート剤、抗生物質、抗菌剤などが挙げられる。
【0018】
また、本発明のASOの安定化方法は、種々の生化学診断方法に適用できる。該生化学診断方法としては、例えば尿酸、遊離脂肪酸、グルコース、中性脂肪、コレステロール、リン脂質等を測定する方法が挙げられる。
具体的には、本発明のASOの安定化方法には、前記診断方法に必要な他の構成成分を共存させてもよい。例えば中性脂肪測定試薬を構成する成分には、一般にASOのほか、リパーゼ、グリセロールキナーゼ、ATP、マグネシウム、ペルオキシダーゼ、色原体などが挙げられ、これらのすべてを共存させてもよいし、これらの中から適宜必要なものを選んで共存させてもよい。
【0019】
(アミンを含む緩衝液によるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化)
本発明の別の実施態様は、アスコルビン酸オキシダーゼを、アミンを含む緩衝液と共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法である。
【0020】
本実施態様に用いるアミンを含む緩衝液の種類や濃度、pH調整範囲等は、前記の界面活性剤と緩衝液との組合せによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化の項において説明したものと同じであり得る。
【0021】
より効果的にアスコルビン酸オキシダーゼを安定化できるという観点から、好ましくは、本実施態様に用いるアミンを含む緩衝液は、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸〔N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)〕、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸〔N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)〕、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸〔2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)〕またはピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)〔Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)〕であり、より好ましくは、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)またはピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)であり、中でも好ましくは、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)である。
【0022】
(アスコルビン酸オキシダーゼが安定化された組成物)
本発明の別の実施態様は、アスコルビン酸オキシダーゼ、および、以下の(1)よび以下の(2)を含む、アスコルビン酸オキシダーゼが安定化された組成物である。
(1)オクチルフェノールエトキシレート、
(2)アミンを含む緩衝液。
【0023】
前記界面活性剤(オクチルフェノールエトキシレート)およびアミンを含む緩衝液の詳細については、前記の界面活性剤と緩衝液との組合せによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化の項で説明したとおりである。
【0024】
本発明の更に別の実施態様は、アスコルビン酸オキシダーゼ、および、以下の(2)を含む、アスコルビン酸オキシダーゼが安定化された組成物である。
(2)アミンを含む緩衝液。
【0025】
前記アミンを含む緩衝液の詳細については、前記のアミンを含む緩衝液によるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化の項で説明したとおりである。
具体的に、本実施態様に用いるアミンを含む緩衝液としては、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)またはピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)が好ましく、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)またはピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)がより好ましく、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)が、なかでも好ましい。
【0026】
本発明は、前記のいずれかに記載の組成物を含む、生体成分分析用キットであってもよい。
種々の生体成分測定方法が既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のASO安定化方法やASO含有組成物を生体成分分析用キットに適用して、各種試料中の生体成分の量又は濃度を測定することができる。その組成は特に限定されない。
本発明の組成物またはキットは、汎用自動分析機への適用などを考慮して2つ以上に分包される態様をとる場合もあるが、その場合ASOは少なくともいずれかに含まれていればよく、その場合、ASOを含むほうの組成物にアミンを含む緩衝液を共存させればよい。また、本発明の組成物(キットに含まれる形態を含む)は、水溶液であっても凍結乾燥したものであってもよい。本発明によれば、ASOが経時的に失活し易い液状製剤においても長期的な保存安定性を示すことができる。かかる観点を考慮すれば、本発明は液状製剤(例えば、水溶液等の液状の組成物)において、より有効に用いられ得る。
【0027】
(アスコルビン酸オキシダーゼの活性測定法)
ASOの活性測定は、以下の測定条件で行う。
<反応液>
100mM リン酸緩衝液 pH5.6
0.5mM L-アスコルビン酸
<測定条件>
(1)上記反応液を1mMキュベットにとり、30℃で約5分間予備加温する。
(2)酵素溶液0.1mLを添加し反応を開始する。正確に5分間反応させた後に、0.2N塩酸溶液3.0mLを加えて反応を停止させる。この液を分光光度計で245nmの吸光度を測定する。
(3)盲検は反応液を30℃で5分放置後、0.2N塩酸溶液3.0mLを加えて混和し、次いで酵素溶液0.1mLを加えて調製する。この液を同様に急高度を測定する。
【0028】
本発明において「アスコルビン酸オキシダーゼが安定である」とは、アスコルビン酸オキシダーゼの経時的な失活が抑制され、長期的な保存安定性が改善されていることをいう。具体的には、界面活性剤もアミンを含む緩衝液も含まない蒸留水(但し、塩化マグネシウムを1g/Lを含んでいてもよい)で保存した場合に比べて、35℃で7日間保存後のASOの残存酵素活性が高められていることをいう。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0030】
実施例1:アスコルビン酸オキシダーゼの安定化
ASO(東洋紡製ASO-311)3U/mLを塩化マグネシウム(1g/L)を含む蒸留水、ADA(100mM、pH7.0)、PIPES(100mM、pH7.0)、BES(100mM、pH7.0)、またはHEPES(100mM、pH7.0)に溶解し、この水溶液にTriton X―100を1g/L加え、蒸留水にTriton X―100を加えない場合を対照として、37℃で7日間保存し、残存活性(溶解直後の活性値=[スタート活性]に対する保存後の活性値の割合)を検討した。
【0031】
【0032】
結果を表1に示す。
界面活性剤(Triton X-100)およびアミンを含む緩衝液(ADA、PIPES、BES、またはHEPES)の組み合せ効果を調べた。Triton X-100単独での使用では、安定化効果-4%と安定化効果が見られないにも関わらず、アミンを含む緩衝液(ADA、PIPES、BES、またはHEPES)と組み合わせて使用することにより、緩衝液単独の場合よりもアスコルビン酸オキシダーゼの安定性が向上することを見出した。また、本試験において、緩衝液単独でのアスコルビン酸オキシダーゼの安定化についてもデータを取得したところ、ASOをADA、PIPES、BESまたはHEPESに溶解することで、蒸留水に対し良好な安定性が得られることが確認された。この緩衝液単独でのアスコルビン酸オキシダーゼ安定化効果は、特に、緩衝液としてPIPESまたはHEPESを用いた場合に高いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、ASOを含有する、より長期間安定な液状試薬を供することができる。