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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】超電導バルクの着磁方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20220830BHJP
   H01F 13/00 20060101ALI20220830BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01F6/00
H01F13/00
G01N24/00 600C
G01N24/00 600D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018056664
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019169626
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】野村 師子
(72)【発明者】
【氏名】仲村 高志
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-133849(JP,A)
【文献】特開2002-008917(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095614(WO,A1)
【文献】特開2016-143733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
H01F 13/00
G01N 24/00
H01L 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二種超電導体からなり円筒状に形成された超電導バルクの超電導遷移温度(Tc)よりも高い温度(T1)にて、前記超電導バルクの内周空間の磁場が均一となる磁場(H0)を前記超電導バルクに印加する磁場印加工程と、
前記超電導バルクに磁場(H0)が印加された状態で、前記超電導バルクを超電導遷移温度(Tc)よりも低い着磁温度(T2)まで冷却する磁場中冷却工程と、
前記超電導バルクの温度を前記着磁温度(T2)に維持したまま、前記超電導バルクに印加された磁場(H0)を除去する減磁工程と、
前記超電導バルクの温度を、前記着磁温度(T2)以下の調整温度(T3)に調整する温度調整工程と、
前記超電導バルクの温度を、前記調整温度(T3)よりも低い使用温度(T4)まで冷却する着磁後冷却工程と、
を含み、
前記温度調整工程が、前記減磁工程の完了後に実施される
超電導バルクの着磁方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導バルクの着磁方法において、
前記減磁工程の後に前記超電導バルクの温度を前記調整温度よりも低い過冷却温度(Tcl)まで冷却する過冷却工程を含み、
前記温度調整工程は、前記過冷却工程の後に実施され、前記超電導バルクの温度を前記過冷却温度(Tcl)から前記調整温度まで昇温させる工程を含む、超電導バルクの着磁方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超電導バルクの着磁方法において、
前記調整温度(T3)が、前記着磁温度(T2)よりも5K低い温度(T2-5)以上であり、且つ、前記着磁温度(T2)以下である、超電導バルクの着磁方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導バルクの着磁方法において、
前記温度調整工程は、前記超電導バルクの温度を前記調整温度で一定時間保持する工程を含む、超電導バルクの着磁方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超電導バルクの着磁方法において、
前記温度調整工程及び前記着磁後冷却工程が、複数回繰り返される、超電導バルクの着磁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導バルクの着磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)は、静磁場中に置かれた試料の原子核に固有の周波数をもつ電磁波を印加したときに発生する原子核スピン(磁気モーメント)の共鳴現象である。核磁気共鳴装置(NMR装置)は、斯かる共鳴現象をNMR信号(NMRスペクトル)として検出して、試料の構造を解析する機器である。磁場強度が大きい程、NMR信号の感度と分解能が高くなるため、NMR装置には強い磁場を発生するための磁場発生装置(磁極とも言う)が備えられる。
【0003】
強磁場を発生する磁極として、超電導体を着磁させることにより磁場を発生する超電導磁極が開発されている。超電導磁極に用いられる超電導体としては、超電導遷移温度が高く且つ冷却が比較的容易な、第二種超電導体からなる塊(バルク)状の超電導体(以下、単に超電導バルクと言う)が好ましく用いられる。
【0004】
NMR装置の超電導磁極に用いられる超電導バルクは、例えば円筒状に形成される。この場合、以下の手順で超電導バルクが着磁される。
(1)磁場印加工程
磁場印加工程では、円筒状の超電導バルクの超電導遷移温度(臨界温度)Tcよりも高い温度T1にて、超電導バルクの内周空間(以下、ボアとも言う)内に、磁束が軸方向に通る磁場が発生するように、外部磁場発生装置により磁場(印加磁場)が超電導バルクに印加される。
(2)磁場中冷却工程
磁場中冷却工程では、外部磁場発生装置によって上記のように磁場が印加された超電導バルクが、超電導遷移温度Tcよりも低い着磁温度T2まで冷却される。
(3)減磁工程
減磁工程では、超電導バルクの温度を着磁温度T2に維持したまま、外部磁場発生装置により発生されている印加磁場を除去する(印加磁場がゼロにされる)。
(4)着磁後冷却工程
着磁後冷却工程では、印加磁場が除去された超電導バルクの温度を着磁温度T2よりも低い使用温度T4に冷却する。
【0005】
減磁工程にて印加磁場が除去された場合、印加磁場を維持するように超電導バルク内に超電導電流が誘起される。こうして超電導バルク内に超電導電流が流れることにより、超電導バルクのボア内には、印加された磁場が保持され、軸方向に磁束が通る磁場が形成される。すなわち、減磁工程にて、超電導バルクが印加された磁場を捕捉することにより、磁場(捕捉磁場)が発生する。捕捉磁場が発生している超電導バルクのボア内には試料が置かれる空間(室温ボア空間)が形成される。この室温ボア空間には、NMRスペクトル信号を検出するためのプローブが配置される。このプローブに、測定試料が入った試料管を挿入して、NMRスペクトルの測定を行う。
【0006】
NMR装置によって試料の分子構造を解析するに当たり、超電導体のボア内の磁場の均一性が低い場合、得られるNMRスペクトルがブロードとなり、或いはサイドバンドと呼ばれるサテライトピークが多数検出される。この場合、試料の分子構造を適切に識別することができない。よって、NMR装置に用いられる超電導磁極は、強磁場を発生することができ、且つ試料が置かれる室温ボア空間の磁場の均一性を高めることができるように構成されているのが好ましい。従って、従来から、円筒状の超電導バルクのボア内の磁場の均一性を高めることができる超電導磁極の開発が進められている。
【0007】
特許文献1は、円筒状で磁化率の大きい超電導バルクの両端面に円筒状で磁化率の小さい超電導バルクを同軸状に配設することにより構成された円筒状の超電導バルクを有する超電導磁極を開示する。特許文献1に開示された超電導磁極によれば、超電導バルクの磁化率と形状を一定の条件を満たすように設計することにより、超電導バルクの軸方向における磁場の均一性が高められた磁場空間を超電導バルクのボア内に形成することができる。
【0008】
特許文献2は、円筒状であって軸方向における中央部分の内径が端部分の内径よりも大きくなるように形成された超電導バルクを有する超電導磁極を開示する。特許文献2に開示された超電導磁極によれば、円筒状の超電導バルクの軸方向における中央部分の内径を端部分の内径よりも大きくしたことにより、超電導バルクの磁化により生じる不均一な磁場を相殺するような磁場が超電導バルクのボア内に形成される。こうして不均一な磁場が除去されることにより、超電導バルクの軸方向における磁場の均一性が高められた磁場空間を超電導バルクのボア内に形成することができる。
【0009】
特許文献3は、円筒状の超電導バルクの内側に円筒状の内側超電導体(内挿超電導円筒部材)が配設された超電導磁極を開示する。超電導バルクと内側超電導体との臨界電流密度の異方性を利用して不均一な捕捉磁場を補正することにより、磁場の均一性が高められた磁場空間を超電導バルクのボア内に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-034692号公報
【文献】特開2014-053479号公報
【文献】特開2016-006825号公報
【発明の概要】
【0011】
(発明が解決しようとする課題)
NMR装置で複雑な有機化合物の構造を解析する場合には、高分解能NMRスペクトル、すなわちシャープなピークを有し且つサイドバンドが少ないNMRスペクトルを得る必要がある。このような高分解能スペクトルを得るためには、試料が置かれる空間(例えば室温ボア空間)で、0.001ppm程度の磁場均一性が要求される。このような極めて高い磁場均一性は、超電導体の捕捉磁場のみで作り出すことはできない。そのため、捕捉磁場が形成される試料空間内(例えば室温ボア内)に多数のシムコイル(室温シムコイル)を設置して、個々の室温シムコイルに流す電流値を調整することによって試料空間内の磁場の均一性を上記のレベルまで高める必要がある。
【0012】
ところが、超電導バルクは、その製造方法に由来した材料特性の不均一性が存在する。例えば、超電導バルク内に存在し超電導状態であるときに磁束を拘束するピン止め点は、均一に分散配置しておらずに偏在する。この材料特性の不均一性が、捕捉磁場の均一性を悪化させる一因となる。従来では、こうした材料特性の不均一性を有する超電導バルクを用いて磁極を構成した場合、上記特許文献に記載の技術を適用し、尚且つ、室温ボア空間内に配置した多数の室温シムコイルで捕捉磁場を調整しても、上記したレベルの均一性を得ることは困難であった。そのため、超電導バルクを用いたNMR装置では、超電導コイルを用いたNMR装置と比較した場合、NMRスペクトルのピークがブロードになり、また、サイドバンドも多数検出されてしまう。
【0013】
本発明は、超電導コイルを用いたNMR装置で得られるNMRスペクトルと同等の高分解能NMRスペクトルを得ることができる程度に高い均一性を有する磁場を形成するための、超電導バルクの着磁方法を提供することを、目的とする。
【0014】
(課題を解決するための手段)
本発明は、第二種超電導体からなり円筒状に形成された超電導バルク(1)の超電導遷移温度(Tc)よりも高い温度(T1)にて、超電導バルクの内周空間の磁場が均一となる磁場(H0)を超電導バルクに印加する磁場印加工程と、超電導バルクに磁場(H0)が印加された状態で、超電導バルクを超電導遷移温度(Tc)よりも低い着磁温度(T2)まで冷却する磁場中冷却工程と、超電導バルクの温度を着磁温度(T2)に維持したまま、超電導バルクに印加された磁場(H0)を除去する減磁工程と、超電導バルクの温度を、着磁温度(T2)以下の調整温度(T3)に調整する温度調整工程と、超電導バルクの温度を、調整温度(T3)よりも低い使用温度(T4)まで冷却する着磁後冷却工程と、を含み、温度調整工程が、減磁工程の完了後に実施される、超電導バルクの着磁方法を提供する。
【0015】
また、本発明に係る超電導バルクの着磁方法は、減磁工程の後に超電導バルクの温度を調整温度よりも低い過冷却温度(Tcl)まで冷却する過冷却工程を含み、温度調整工程が過冷却工程の後に実施されてもよい。この場合、温度調整工程では、超電導バルクの温度が過冷却温度(Tcl)から調整温度(T3)まで昇温されることになる。つまり、温度調整工程は、超電導バルクの温度を過冷却温度(Tcl)から調整温度(T3)まで昇温させる工程を含む。
【0016】
また、本発明において、調整温度(T3)が、着磁温度(T2)よりも5K低い温度(T2-5)以上であり、且つ、着磁温度(T2)以下であるとよい。すなわち、調整温度(T3)は、以下の範囲の温度
T2-5≦T3≦T2
であるとよい。
【0017】
また、本発明において、温度調整工程は、超電導バルクの温度を調整温度(T3)で一定時間保持する工程を含むと良い。
【0018】
また、本発明に係る超電導バルクの着磁方法は、温度調整工程及び着磁後冷却工程が、複数回繰り返されてもよい。この場合、複数回繰り返される温度調整工程における各調整温度(T3)は、一定でもよいし、異なっていても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、減磁工程にて超電導バルクに着磁させた後に、温度調整工程を実施することにより、磁場の均一性をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る超電導バルクをその中心線を含む平面で切断した断面図である。
図2図2は、超電導バルクが組み込まれた磁極を上下方向に沿った中心線を含む平面で切断した断面を表す概略図である。
図3図3は、磁極が挿入空間に挿入された外部磁場発生装置の概略図である。
図4図4は、予冷工程から着磁後冷却工程を経た超電導バルクの温度履歴を示すグラフである。
図5図5は、NMR装置の概略構成を示す図である。
図6図6は、実施例1にて測定したNMRスペクトルである。
図7図7は、比較例にて測定したNMRスペクトルである。
図8図8は、実施例2に係る基準スペクトル、第三スペクトル、第七スペクトル、第八スペクトル、及び第九スペクトルを併記した図である。
図9図9は、図8中の、化学シフト0.5ppm~2.5ppm付近のスペクトルを示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態に係る超電導バルクは、第二種超電導体からなり、周知の溶融凝固法により製造される。第二種超電導体として、高温酸化物超電導体であるRE-Ba-Cu-O(REはYを含む希土類元素)系の超電導体を例示できる。また、本実施形態に係る超電導バルクは、円筒状に形成される。この場合、c軸方向が円筒の軸方向に一致するように、超電導バルクが形成される。
【0022】
図1に本実施形態に係る超電導バルク1をその中心線L1を含む平面で切断した断面図を示す。図1に示すように、超電導バルク1は、一方端面1a及び他方端面1bを有する円筒状に形成される。超電導バルク1は、所定の径方向長さを有する複数の円筒状の超電導バルクを軸方向に沿って同軸的に積み重ねることによって形成される。図1においては、8個の円筒状の超電導バルクが、軸方向に沿って同軸的に積み重ねられることにより、超電導バルク1が形成される。積み重ねられる超電導バルクの個数は特に限定されない。なお、一つの超電導バルクによって円筒状の超電導バルク1を構成してもよい。超電導バルク1の内周面に囲まれた空間(内周空間)が、超電導バルク1のボアである。
【0023】
また、積み重ねられた8個の超電導バルクのうち、上から1番目、2番目、7番目、8番目にそれぞれ位置する超電導バルク(11,12,17,18)の内径は等しい。これらの超電導バルクを端側超電導バルクと呼ぶ。また、積み重ねられた8個の超電導バルクのうち、上から3番目、4番目、5番目、6番目にそれぞれ位置する超電導バルク(13,14,15,16)の内径は等しい。これらの超電導バルクを中央側超電導バルクと呼ぶ。そして、図1からわかるように、端側超電導バルク(11,12,17,18)の内径は、中央側超電導バルク(13,14,15,16)の内径よりも小さい。従って、超電導バルク1のボアは、軸方向における両端側にて径が小さく、軸方向における中央にて径が大きくなるような段付円柱状の空間として形成される。つまり、超電導バルク1のボアは、軸方向における中央領域で広く、端部領域で狭くなるように、形成される。
【0024】
図2は、超電導バルク1が組み込まれた本実施形態に係る超電導磁極10を上下方向に沿った中心線を含む平面で切断した断面を表す概略図である。図2に示すように、超電導磁極10は、超電導バルク1と、冷却装置2と、コールドヘッド3と、内挿超電導円筒部材4と、室温ボアケース5と、ヒータ6と、温度センサ7と、真空断熱容器8と、温度制御装置9とを備える。
【0025】
冷却装置2は、冷凍サイクル運転の実施によって超電導バルク1の超電導遷移温度(臨界温度)Tc(例えば90K)以下の冷熱を生成でき、且つ、最低到達温度が後述する使用温度T4以下であるものであればどのようなものであってもよい。冷却装置2として、パルス管冷凍機、GM冷凍機、スターリング冷凍機を例示することができる。
【0026】
コールドヘッド3は、冷却装置2が生成した冷熱を外部に伝達するための伝熱部材である。このためコールドヘッド3は熱伝導率の高い金属、例えば銅により形成される。
【0027】
コールドヘッド3は、柱状に形成された軸部31と、円板状に形成されたステージ部32とを有する。軸部31の一方の端部が冷却装置2の冷熱生成部分(図示省略)に接触される。例えば、冷却装置2がパルス管冷凍機である場合、軸部31は蓄冷管の低温端部に接触され、冷却装置2がGM冷凍機である場合、軸部31は膨張空間を画成するシリンダ部分に接触される。図2において、軸部31は冷却装置2の上側に設けられる。軸部31の上端(他方の端部)に円板状のステージ部32が連続的に且つ同軸的に形成される。
【0028】
円板状のステージ部32は、軸方向における一方端面32a(下端面)及び他方端面32b(上端面)と、外周面32cを有する。ステージ部32の一方端面32aが軸部31の上端に接続される。そして、図2において上方を向いたステージ部32の他方端面32bに円筒状の超電導バルク1の一方端面1aが接触するように、ステージ部32上に超電導バルク1が載置される。超電導バルク1の一方端面1aとステージ部32の他方端面32bとの接触により、超電導バルク1がコールドヘッド3(ステージ部32)に熱的に接続される。
【0029】
超電導バルク1は、ステージ部32の他方端面32bから図2において上方に延設される。また、ステージ部32と超電導バルク1は同軸配置される。さらに、ステージ部32の外径は超電導バルク1の外径よりも大きい。従って、ステージ部32の他方端面32bには、超電導バルク1の一方端面1aが接触したリング状の超電導体接触領域と、超電導体接触領域よりも内周側の円形領域が存在する。内周側の円形領域上には、超電導バルク1のボアが形成される。
【0030】
内挿超電導円筒部材4は、円筒状に形成される。内挿超電導円筒部材4は、薄肉銅パイプの外周面の全面に超電導テープ線材を貼付することにより構成される。内挿超電導円筒部材4の軸方向高さは超電導バルク1の軸方向高さに等しい。また、内挿超電導円筒部材4の外径は、超電導バルク1の端部側超電導バルク(11,12,17,18)の内径にほぼ等しいか僅かに小さい。
【0031】
内挿超電導円筒部材4は、図2に示すように、超電導バルク1の内周側に、超電導バルク1と同軸的に配設されるとともに、コールドヘッド3のステージ部32の他方端面32b上に超電導バルク1とともに載置される。このため、内挿超電導円筒部材4は、その外周面が超電導バルク1の内周面に対面した状態でステージ部32に載置されるとともに、その一方の端面(下端面)にてコールドヘッド3(ステージ部32)に熱的に接続される。
【0032】
また、内挿超電導円筒部材4を構成する超電導テープ線材は、テープ状の金属基材(例えば、ハステロイ)の表面に、超電導薄膜(例えば、GdBaCuO系超電導体)を形成することにより構成される。この超電導薄膜は、そのテープ面に垂直な方向がc軸方向であるように成形される。従って、内挿超電導円筒部材4のc軸方向は、径方向に一致する。なお、前述したように、内挿超電導円筒部材4と超電導バルク1は同軸配置されており、超電導バルク1のc軸方向は軸方向である。従って、内挿超電導円筒部材4のc軸方向は超電導バルク1のc軸方向と異なる方向(具体的には直交する方向)である。超電導電流は、超電導体のc軸に垂直な方向に流れる。従って、超電導バルク1には周方向に沿って超電導電流が流れるが、内挿超電導円筒部材4には、その周面内方向に超電導電流が流れる。内挿超電導円筒部材4により、超電導バルク1が着磁した際におけるボア内の不均一磁場が補正される。
【0033】
真空断熱容器8は、コールドヘッド3のステージ部32の外径よりも大きい内径を有する円筒形状の本体部81と、本体部81の図2において上端から径内方に放射状に延設されることによりリング状に形成されたカバー部82とを有する。本体部81の下方端が冷却装置2の上面に気密的に固定される。本体部81は、冷却装置2から図2の上方に延設されるとともに、その内周空間に、超電導バルク1、コールドヘッド3、及び内挿超電導円筒部材4を収納するように、これらの構成要素と同軸的に配設される。このとき、真空断熱容器8のカバー部82は、超電導バルク1及び内挿超電導円筒部材4の上側に所定の間隔を開けて配置する。
【0034】
図2に示すように、リング状のカバー部82の中央には、軸方向に貫通する円孔821が形成される。円孔821の中心軸は、超電導バルク1のボアの中心軸に一致する。また、円孔821の径は、内挿超電導円筒部材4の内径よりも小さい。この円孔821を通じて、室温ボアケース5が本体部81の内周空間内に挿入される。
【0035】
室温ボアケース5は、有底円筒状の容器部51と、容器部51の開口端から径外方に放射状に延設されたリング状のフランジ部52とを有する。フランジ部52の外径は円孔821の径よりも大きい。また、容器部51の外径は、円孔821の径と等しいか又は僅かに小さい。そして、容器部51が円孔821から真空断熱容器8の本体部81の内周空間内に差し込まれるとともに、フランジ部52が真空断熱容器8のカバー部82の上面に載置される。ここで、上記したように、円孔821の中心軸は超電導バルク1の内周空間(ボア)の中心軸に一致する。従って、本体部81の内周空間内に差し込まれた容器部51は、超電導バルク1のボア(内周空間)に進入する。つまり、容器部51は超電導バルク1のボア内に配設される。容器部51内の空間に、例えばNMR装置にて分析される試料がプローブとともに載置される。容器部51内の空間は、超電導バルク1のボアのほぼ中央に設けられる。この空間を、室温ボア空間RBと呼ぶ。
【0036】
また、室温ボアケース5のフランジ部52の下面が、真空断熱容器8のカバー部82の上面に、図示しない封止手段によって気密的に固定される。これによりカバー部82に形成された円孔821が塞がれる。また、上述のように真空断熱容器8の本体部81は冷却装置2に気密的に固定されている。従って、真空断熱容器8、室温ボアケース5及び冷却装置2によって、密閉空間CSが冷却装置2の図2において上方に形成される。この密閉空間CS内に、超電導バルク1、コールドヘッド3、及び内挿超電導円筒部材4が配設される。真空断熱容器8は、アルミニウム合金等の非磁性材料で形成される。
【0037】
ヒータ6は、コールドヘッド3の軸部31に取り付けられており、通電されることにより発熱するように構成される。ヒータ6が通電されることによってコールドヘッド3及びコールドヘッド3に熱的接続された超電導バルク1及び内挿超電導円筒部材4が加熱される。
【0038】
温度センサ7は、コールドヘッド3のステージ部32の一方端面32aに取り付けられる。温度センサ7は、コールドヘッド3(ステージ部32)の温度情報を検出する。そして、検出した温度情報を温度制御装置9に出力する。なお、ステージ部32の温度は、それに載置された超電導バルク1の温度にほぼ等しいと考えられる。従って、温度センサ7は、超電導バルク1の温度情報を検出すると言える。
【0039】
温度制御装置9は温度センサ7及びヒータ6に電気的に接続され、上述したように温度センサ7が検出した温度情報を入力する。また、温度制御装置9は、温度センサ7から入力した温度情報に基づいて、ヒータ6の通電(通電の可否及び通電量)を制御する。温度制御装置9によって、超電導バルク1の冷却温度が調整される。
【0040】
次に、上記構成の超電導磁極10が備える超電導バルク1を着磁する方法について説明する。この着磁方法は、(1)減圧工程、(2)挿入工程、(3)予冷工程、(4)磁場印加工程、(5)磁場中冷却工程、(6)減磁工程、(7)過冷却工程、(8)取り出し工程、(9)昇温・保持工程、(10)着磁後冷却工程を含み、上記工程がこの順で実行されることにより、超電導バルク1が着磁されるとともに室温ボア空間RBに磁場が発生される。なお、減圧工程が予冷工程の前に実行され、磁場中冷却工程が、減圧工程、挿入工程、予冷工程、磁場印加工程の後に実行されるのであれば、これらの工程は、上記した順に実行されなくても良い。以下、各工程について説明する。
【0041】
(1)減圧工程
減圧工程では、図2において図示しない排気装置を用いて密閉空間CSの内部を排気する。これにより、密閉空間CS内の気圧が、例えば1×10-3Pa以下の真空状態にされる。
【0042】
(2)挿入工程
挿入工程では、超電導磁極10が備える超電導バルク1が外部磁場発生装置の挿入空間に挿入される。図3は、超電導磁極10が挿入空間に挿入された外部磁場発生装置100の概略図である。
【0043】
図3に示すように、外部磁場発生装置100は、本体部101及び本体部101の下部に取り付けられた複数の脚部102を有する。従って、本体部101の下方には空間が存在する。本体部101は上下方向に沿った中心軸を持つ略円柱状に形成される。また、略円柱状の本体部101には、その中心軸線を通るように上下方向に沿って貫通した円柱状の挿入空間103が形成される。この挿入空間103に超電導磁極10が挿入される。
【0044】
また、本体部101の内部に、超電導コイル104及び複数の超電導シムコイル105が配設される。超電導コイル104は例えば超電導マグネットにより構成することができる。超電導コイル104は、図3に示す所定の高さ領域H内に形成される挿入空間103(着磁空間)を囲うようにリング状に形成されており、励磁されることにより、挿入空間103のうち超電導コイル104に囲まれた領域空間(すなわち着磁空間)に磁場を形成する。また、超電導シムコイル105は、超電導コイル104の励磁により着磁空間に形成された磁場を補正する役割を果たす。
【0045】
外部磁場発生装置100の挿入空間103に超電導磁極10を挿入するには、まず、本体部101の下方であり且つ挿入空間103の直下に設けられているジャッキ106上に超電導磁極10を載置する。これにより、超電導磁極10が挿入空間103の直下に配設される。そして、ジャッキ106を操作して超電導磁極10を上方に移動させる。超電導磁極10が上方に移動していくと、超電導磁極10のうち真空断熱容器8及びその内部に配設される構成部材が挿入空間103にその下方側から進入する。そして、超電導バルク1が挿入空間103内の着磁空間(超電導コイル104に囲まれた空間)に収まる高さ位置まで超電導磁極10が上方移動した時点で、超電導磁極10の上方移動を停止する。これにより挿入工程が完了する。挿入工程の完了時には、超電導磁極10の超電導バルク1が挿入空間103内の着磁空間に配設される。
【0046】
(3)予冷工程
予冷工程では、超電導磁極10の冷却装置2を作動させともに、ヒータ6を作動させる。冷却装置2の作動により、コールドヘッド3が冷却され、さらにコールドヘッド3に熱的接続された超電導バルク1及び内挿超電導円筒部材4が冷却される。また、温度センサ7から得られる超電導バルク1の温度が超電導遷移温度Tcよりも高い所定温度T1になるように、温度制御装置9によるヒータ6の通電量の制御がなされる。この予冷工程の実施により、超電導バルク1の温度が上記所定温度T1に調整される。所定温度T1として、例えば100Kを例示できる。
【0047】
(4)磁場印加工程
磁場印加工程では、超電導バルク1の温度が超電導遷移温度Tcよりも高い温度である状態で、例えば上記予冷工程にて超電導バルク1の温度が温度T1にされている状態で、超電導コイル104を励磁させて、磁場を着磁空間に形成する。このとき、超電導バルク1のボア内に磁束が軸方向に通る磁場が発生するように、超電導バルク1に磁場が印加される。また、超電導シムコイル105を励磁させて、超電導バルク1のボア内における印加磁場の均一性が高められる。従って、この磁場印加工程の実施により、超電導バルク1の超電導遷移温度Tcよりも高い温度T1にて、超電導バルク1のボア(内周空間)の磁場が均一となる磁場(H0)が、超電導バルク1に印加される。
【0048】
(5)磁場中冷却工程
磁場中冷却工程では、磁場印加工程の実施によって超電導バルク1に磁場(H0)が印加された状態で、超電導バルク1の温度が超電導遷移温度Tcよりも低い着磁温度T2になるように、温度制御装置9によるヒータ6の通電量の制御がなされる。磁場中冷却工程の実施により、超電導バルク1の温度が着磁温度T2に調整される。これにより、超電導バルク1及び内挿超電導円筒部材4が超電導状態にされる。着磁温度T2として、例えば50Kを例示できる。ここで、超電導バルク1が第二種超電導体で構成されているので、磁場中冷却工程にて超電導バルク1が超電導遷移温度以下になると、超電導バルク1の内部では、磁束線が常電導介在物などにピン止めされる。
【0049】
(6)減磁工程
減磁工程では、磁場H0が印加された超電導バルク1の温度を磁場中冷却工程の実施によって着磁温度T2に維持したまま、超電導コイル104に流す電流をゼロまでゆっくりと下げる。また、複数ある超電導シムコイル105に流れる電流もゼロにする。このようにして、超電導バルク1に印加されていた磁場(印加磁場H0)を取り去る。すると、超電導バルク1のボアの中心付近では、印加磁場を与えたときと同じ磁場分布が維持される。以下、その理由を説明する。超電導コイル104に流す電流を減らし、超電導バルク1の外側の磁場が下がると、超電導バルク1内の磁束線も外周部から抜け出す。しかし、超電導バルク1内では磁束線がピン止めされて自由に抜けないため、外周近傍は磁束線の密度が下がるが、内部に磁束線の分布が変わらない領域が残る。そのため、超電導バルク1の内側(室温ボアが位置する側)には、外部磁場がゼロになっても減磁工程開始前と同じ磁場分布を維持した領域が残る。その結果、超電導バルク1のボアの中心付近には磁場印加工程で印加した均一な磁場が維持される。すなわち、超電導バルク1のボアの中心付近では、印加された磁場がちょうどコピーされて残るような状態で、磁場が保持される。
【0050】
(7)過冷却工程
過冷却工程では、減磁工程の実施によって着磁された超電導バルク1の温度が、着磁温度T2よりも低い過冷却温度Tclになるように、ヒータ6の通電量が温度制御装置9により制御される。この場合、ヒータ6への通電を停止することにより、超電導バルク1の温度を冷却装置2の最低到達温度まで冷却することができる。過冷却温度Tclとして、着磁温度T2が50Kの場合、Tcl=40K程度を例示できる。
【0051】
(8)取り出し工程
取り出し工程では、過冷却工程の実施によって超電導バルク1の温度が過冷却温度Tclに調整されている超電導磁極10が外部磁場発生装置100から取り出される。この場合、ジャッキ106を作動させて、超電導磁極10を外部磁場発生装置100に相対的に下方移動させる。そして、外部磁場発生装置100の挿入空間103から超電導磁極10を取り出す。なお、取り出し工程の実施時に超電導バルク1の温度が比較的高い場合、着磁されている超電導バルク1と超電導コイル104との相互作用によって超電導バルク1のボア内の磁場が乱れて磁場の均一性が失われる虞がある。例えば、超電導バルク1の温度が着磁温度T2(例えば50K)であるときに取り出し工程を実施した場合、超電導バルク1のボア内の磁場の均一性が低下する度合いが大きい。このため、本実施形態では、上記過冷却工程にて超電導バルク1の温度をより低下させた状態で取り出し工程を実施して、より低い温度で超電導磁極10が取り出される。このため取り出し時における超電導バルク1のボア内の磁場の均一性の乱れを抑制することができる。
【0052】
(9)昇温・保持工程
昇温・保持工程では、取り出し工程の実施によって外部磁場発生装置100から取り出された超電導磁極10が備える超電導バルク1の温度が、過冷却温度Tcl及び後述する使用温度T4よりも高く且つ着磁温度T2以下の調整温度T3になるように、ヒータ6の通電量が温度制御装置9により制御される。これにより、超電導バルク1の温度が調整温度T3に調整される。この場合、超電導バルク1の温度は、過冷却温度Tclからそれよりも高い調整温度T3に昇温される。また、超電導バルク1の温度が調整温度T3に達した後に、超電導バルク1の温度が調整温度T3で一定時間保持されるように、ヒータ6の通電量が制御される。この昇温・保持工程が、本発明の温度調整工程に相当する。
【0053】
調整温度T3は、着磁温度T2よりも5K低い温度(T2-5K)以上であり、且つ、着磁温度T2以下の温度であると良い。つまり、調整温度T3は、以下に示す温度範囲内の温度であるとよい。
T2-5K≦T3≦T2
例えば、着磁温度T2が50Kである場合、調整温度T3は、45K以上50K以下の温度であるのがよい。なお、調整温度T3は、着磁温度T2に一致していてもよい。
【0054】
(10)着磁後冷却工程
着磁後冷却工程では、昇温・保持工程が完了した超電導バルク1の温度が、調整温度T3よりも低い使用温度T4になるように、ヒータ6の通電量が温度制御装置9により制御される。この場合、ヒータ6への通電を停止することにより、超電導バルク1の温度を冷却装置の最低到達温度まで冷却することができる。使用温度T4として、着磁温度T2が50Kの場合、T4=40K程度を例示できる。使用温度T4は過冷却温度Tclに等しくてもよい。
【0055】
上記した工程を経て、超電導バルク1の着磁が完了する。図4は、上記工程のうち、予冷工程から着磁後冷却工程を経た超電導バルク1の温度履歴を示すグラフである。図5のグラフの横軸が時間であり、縦軸が超電導バルク1の温度である。また、図4には、時間の経過に対応して実施される各工程が示される。図4に示すように、予冷工程の開始から時間t1が経過した時点で超電導バルク1の温度が温度T1にされる。また、時間t1から時間t2の間における超電導バルク1の温度は温度T1に調整されており、この間に磁場印加工程が実施される。
【0056】
また、時間t2から磁場中冷却工程が実施されて、時間t3にて超電導バルク1の温度が着磁温度T2にされる。時間t3から時間t4の間における超電導バルク1の温度は着磁温度T2に調整されており、この間に減磁工程が実施されて、印加磁場が除去されるとともに、超電導バルク1が着磁される(磁場を捕捉する)。
【0057】
時間t4から過冷却工程が実施されて、時間t5には、超電導バルク1の温度が過冷却温度Tclに達している。時間t5から時間t6の間における超電導バルク1の温度は過冷却温度Tclに調整されており、この間に取り出し工程が実施されて、超電導磁極10が外部磁場発生装置100から取り出される。
【0058】
時間t6から昇温・保持工程が実施されて、時間t6aの時点で超電導バルク1の温度が調整温度T3にされる。その後、時間t7まで昇温・保持工程が実施される。時間t6aから時間t7までの間、超電導バルク1の温度は調整温度T3に維持される。そして、時間t7から着磁後冷却工程が実施されて、時間t7aにて超電導バルク1の温度が使用温度T4にされる。その後、超電導バルク1の温度が使用温度T4に維持される。超電導バルク1の温度が使用温度T4に維持された超電導磁極10は、例えば、NMR装置による試料の分子構造解析に利用される。
【0059】
次に、超電導磁極10を用いたNMR装置について簡単に説明する。図5は、NMR装置200の概略構成を示す図である。NMR装置200は、超電導磁極10と、プローブ210と、分析装置220とを備える。プローブ210は、検出コイル212と、室温シムコイル213とを有する。室温シムコイル213の内側に検出コイル212が配設される。また、検出コイル212の内側に、測定すべき試料Pが入った試料管211が挿入される。
【0060】
分析装置220は、高周波発生装置221、パルスプログラマ(送信器)222、高周波増幅器223、プリアンプ(信号増幅器)224、位相検波器225、アナログ-デジタル(A/D)変換器226、及びコンピュータ227を備える。
【0061】
また、超電導磁極10の超電導バルク1は使用温度T4に冷却された状態で着磁されており、これにより室温ボア空間RBに磁場が形成されている。また、室温ボア空間RBにプローブ210が挿入される。NMR装置200にて試料Pの分子構造を分析する場合、試料Pが充填された試料管211をプローブ210に挿入する。これにより、磁場が形成された室温ボア空間RB内に試料Pが置かれる。すなわち磁場中に試料Pが置かれる。その後、高周波発生装置221を作動させる。すると、高周波発生装置221により発生された高周波パルスがパルスプログラマ222及び高周波増幅器223を経て検出コイル212に通電され、試料Pにパルス電磁波(ラジオ波)が照射される。磁場中に置かれた試料Pにラジオ波を照射させた場合に起きる核磁気共鳴により、試料Pのまわりに設けられた検出コイル212に微小電流が流れる。この微小電流を表す信号(NMR信号)が、プリアンプ224、位相検波器225、A/D変換器226を経てコンピュータ227に受け渡される。コンピュータ227は、受け渡されたNMR信号に基づいてNMRスペクトルを算出する。得られたNMRスペクトルから試料Pの分子構造が解析される。
【0062】
ところで、超電導磁極10を備えるNMR装置200によって試料Pの分子構造を解析するに当たり、試料Pが置かれる室温ボア空間RBの磁場のばらつきが大きいと、得られるNMRスペクトルがブロードとなり、試料Pの分子構造を適切に識別することができない。よって、試料Pの分子構造を精度よく識別するためには、室温ボア空間RBの磁場がより均一であることが好ましい。
【0063】
特に、複雑な分子構造を持つ試料を解析するためには、測定時に室温ボア空間RB内の磁場のばらつきが0.001ppm以下であるという高い磁場の均一性が要求される。磁場のばらつきが0.001ppm以下の極めて均一性が高い磁場空間は、最終的には、プローブ210の室温シムコイル213で磁場を調整することにより達成されるが、室温シムコイル213で調整する前の磁場の均一性のレベルが低い場合、いくら室温シムコイル213によって磁場を調整しても、上記したレベルの均一性を達成することができない。従って、室温シムコイル213での磁場の調整前であっても、室温ボア空間RB内の磁場の均一性がある一定のレベルに達していなければならない。そのために、従来では、特許文献1乃至3に記載の技術のように、超電導バルクの形状を工夫したり、或いは内挿超電導円筒部材を用いたりして、室温ボア空間内の磁場の均一性を高めていた。
【0064】
しかし、上記特許文献1乃至3の技術を用いても、第二種超電導体からなる超電導バルクの製造方法に由来する磁場の不均一性まで改善するには至らない。第二種超電導体からなる超電導バルクは、一般的に溶融凝固法により製造されるが、その方法により製造される超電導バルク内でピン止め点を完全に均一に分散配置させることは困難であり、その結果、ピン止め点が超電導バルク内に偏在してしまう。超電導バルクが着磁されたときにはピン止め点にて磁場(磁束線)が拘束されるため、ピン止め点が超電導バルク内で偏在している場合、捕捉(拘束)される磁場の密度が一様でなく、これにより、磁場の均一性が悪化する。このような磁場の均一性の悪化を従来技術では改善することはできない。
【0065】
これに対し、本実施形態では、超電導バルクの製造方法に由来する磁場の不均一性が改善されるために、室温ボア空間内の磁場の均一性がより高められる。この理由について以下に説明する。
【0066】
超電導バルクを超電導遷移温度Tc以下の温度に冷却した後に印加磁場を除去する磁場中冷却法では、減磁工程の実施時に超電導バルクに磁場が捕捉される。このとき、超電導バルクに残った磁束線は、上述したように超電導バルクに存在するピン止め点に拘束される。従って、ピン止め点が偏在している場合、捕捉される磁場の均一性が乱れる。
【0067】
一般に、超電導バルク内に捕捉された複数の磁束線は、互いの反発力によって等間隔(均等)に配列しようとする。そのため、磁束線のピン止め力(ピン止め点における拘束力)が弱い場合には、時間の経過とともに少しずつ超電導バルク1内で磁束線が再配列して等間隔になろうとする。しかし、ピン止め力が強い場合には、再配列しようとする磁束線の動きが抑制される。また、ピン止め力は、温度に影響し、温度が低いほど大きい。そのため、過冷却した状態では磁束線の再配列は進みにくくなる。つまり、ピン止め点の偏在が原因で生じた磁束線の分布の乱れは、過冷却した状態で固定されてしまう。
【0068】
逆に、ピン止め力は、温度が高いほど小さい。本実施形態においてはこの点に着目し、超電導バルク1の着磁後に、昇温・保持工程(温度調整工程)を実施している。昇温・保持工程では、超電導バルク1の温度が、その前後に実施される工程にて設定される温度よりも高い調整温度T3に一旦調整される。つまり、超電導バルク1の着磁後に、超電導バルク1の温度が、その前に設定される温度(過冷却温度Tcl)或いはその後に設定される温度(使用温度T4)よりも高い温度に一旦調整される。そのため、昇温・保持工程の実施中にピン止め力が低下し、ピン止め点における磁束線の拘束が緩和される。これにより、ピン止め点にて拘束されている磁束線が動きやすくなり、その結果、一部の磁束線が動いて等間隔に配列しなおす。つまり、磁束線が再配列する。再配列後の磁場の均一性は、再配列前の磁場の均一性よりも高い。このようにしてより磁場が均一化されると考えられる。
【0069】
ただし、昇温・保持工程の実施中に超電導バルク1の温度を上げ過ぎると、磁束線が自由に動き回る結果、捕捉した磁束線が超電導バルク1から排除されてしまい、捕捉磁場強度が低下する。この点に関し、本実施形態では、昇温・保持工程における超電導バルク1の調整温度T3が着磁温度T2以下に設定される。このため、捕捉した磁場が超電導バルク1から多量に排除されて、捕捉磁場強度が低下することを抑制できる。
【0070】
このような、昇温・保持工程の実施(すなわち温度調整工程の実施)による磁場の均一性の改善効果は、以下の実証実験により証明されている。
【0071】
(実施例1)
図2に示す超電導磁極10を用意した。なお、超電導バルク1の材質は、EuBaCu系超電導体(超電導遷移温度Tc=93K)である。また、超電導バルク1のうち端側超電導バルクの内径は32mm、外径は64mmであり、中央側超電導バルクの内径は40mm、外径は64mmである。また、室温ボア空間RBの径は23mmである。
【0072】
次いで、用意した超電導磁極10の密閉空間CS内を1×10-3Pa以下の気圧に減圧した(減圧工程)。次に、減圧工程が完了した超電導磁極10を、図3に示すように外部磁場発生装置100の挿入空間103に挿入した(挿入工程)。続いて、超電導磁極10の冷却装置2を作動させるとともにヒータ6に通電し、さらに温度制御装置9でヒータ6の通電量を制御することにより、超電導バルク1の温度をその超電導遷移温度Tcよりも高い100K(T1)に調整した(予冷工程)。そして、その状態で、超電導コイル104を4.7Tに励磁して、超電導バルク1に磁場を印加した(磁場印加工程)。また、超電導コイル104で印加した磁場の均一性を超電導シムコイル105で調整した。これにより、室温ボア空間RBの中心のφ6.9mm×高さL10mmの空間(試料空間)の磁場の均一性が、水のNMRスペクトルのHピークの半値幅が1ppm以下になるように、調整された。なお、この調整は、試料空間内に補正用のプローブを配置し、プローブに水を充填した試料管を挿入して水のNMRスペクトルを測定し、測定した水のNMRスペクトルのHピークの半値幅が上記範囲内になるように、NMRスペクトルを測定しながら超電導シムコイル105を制御することによりなされる。
【0073】
磁場印加工程が完了した後に、試料空間から補正用プローブを取り出した。その後、超電導バルク1に印加されて均一性が調整された磁場を維持しながら、ヒータ6の通電量を制御して、超電導バルク1を50K(着磁温度T2)まで冷却した(磁場中冷却工程)。次いで、超電導バルク1の温度が50Kである状態を維持しながら、印加磁場を0まで下げた(減磁工程)。その後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を低下させ、温度が安定するまで待った(過冷却工程)。そして、超電導バルク1の温度が安定した後に、超電導磁極10を外部磁場発生装置100から取り出した(取り出し工程)。取り出し時の超電導バルク1の温度は39Kであった。すなわち過冷却温度Tclは39Kである。
【0074】
次いで、取り出した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、昇温速度10K/Hで超電導バルク1の温度を過冷却温度Tcl(39K)から48.5K(調整温度T3)まで昇温させた。超電導バルク1の温度が48.5K(調整温度T3)に達したら、その温度で超電導バルク1を10時間保持した(昇温・保持工程)。その後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再度39K(使用温度T4)にまで低下させた(着磁後冷却工程)。
【0075】
以上の工程を経た超電導磁極10の室温ボア空間RB内に、測定用のプローブ210を挿入して固定した。このプローブ210に、測定すべき試料Pとしてのクロトン酸エチルを充填した試料管211を挿入した。プローブ210は分析装置220に接続されている。このような構成で、試料のNMRスペクトルを測定した。なお、測定時における超電導バルク1の温度は39K(使用温度T4)である。
【0076】
(比較例)
実施例1と同様の超電導磁極10を用い、実施例1と同様の減圧工程、挿入工程、予冷工程、磁場印加工程、磁場中冷却工程、減磁工程、過冷却工程、取り出し工程を実施した。その後、昇温・保持工程及び着磁後冷却工程を行うことなく、実施例1と同様な方法で、試料P(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを測定した。なお、測定時における超電導バルク1の温度は39K(過冷却温度Tcl)である。
【0077】
図6は、実施例1にて測定したNMRスペクトル(実施例スペクトル)であり、図7は、比較例にて測定したNMRスペクトル(比較例スペクトル)である。なお、図6及び図7には、測定した試料であるクロトン酸エチルの化学構造式が示されている。また図6及び図7のスペクトルの複数のピークに付記された数字は、クロトン酸エチルの化学構造式中の数字により示される官能基に対応する。例えば、図6及び図7中の数字1,7に対応するピークは、クロトン酸エチルの両末端のエチル基に対応する。
【0078】
図6図7とを比較して明らかなように、実施例スペクトルに表されるピーク(図6)は、比較例スペクトルに表されるピーク(図7)よりもシャープである。また、比較例スペクトルには、分子構造を特定するピークの両サイドにサイドバンドと呼ばれる不必要なピークが多数出現していることが確認されるのに対し、実施例スペクトルに出現するサイドバンドの個数は少なく、その高さも低いのがわかる。このことから、本実施例によれば、測定されるNMRスペクトルの精度が大幅に改善されたことがわかる。NMRスペクトルの精度の改善は、測定時に室温ボア空間RB内の磁場の均一性が高められていることに起因すると考えられる。つまり、実施例1に示す超電導バルク1の着磁方法により、より詳細には昇温・保持工程(温度調整工程)の実施により、室温ボア空間RB内の磁場の均一性が向上したことがわかる。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様の超電導磁極10を用い、実施例1と同様の減圧工程、挿入工程、予冷工程、磁場印加工程、磁場中冷却工程、減磁工程、過冷却工程、取り出し工程を実施した。その後、昇温・保持工程及び着磁後冷却工程を行うことなく、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを基準スペクトルとして測定した。
【0080】
続いて、基準スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから46K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、直ちにヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39K(使用温度T4)まで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第一スペクトルとして測定した。
【0081】
続いて、第一スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから46K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を46Kで1時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第二スペクトルとして測定した。
【0082】
続いて、第二スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから47K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を47Kで1時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第三スペクトルとして測定した。
【0083】
続いて、第三スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから47.5K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を47.5Kで1時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第四スペクトルとして測定した。
【0084】
続いて、第四スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから48K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を48Kで1時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第五スペクトルとして測定した。
【0085】
続いて、第五スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから48.5K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を48.5Kで1時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第六スペクトルとして測定した。
【0086】
続いて、第六スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから48.5K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を48.5Kで10時間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第七スペクトルとして測定した。
【0087】
続いて、第七スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから46K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を46Kで5日間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第八スペクトルとして測定した。
【0088】
続いて、第八スペクトルの測定に供した超電導磁極10のヒータ6を作動させるとともにその通電量を制御して、超電導バルク1の温度を39Kから47K(調整温度T3)まで昇温速度10K/Hで昇温させた。昇温完了後、超電導バルク1の温度を47Kで7日間保持した(昇温・保持工程)。昇温・保持工程の完了後、ヒータ6の通電を停止して、超電導バルク1の温度を再び39Kまで低下させた(着磁後冷却工程)。その後、実施例1と同様な方法で、試料(クロトン酸エチル)のNMRスペクトルを第九スペクトルとして測定した。
【0089】
このように、実施例2では、まず、昇温・保持工程を実施しない場合についてのNMRスペクトルを基準スペクトルとして測定し、その後、様々な条件の昇温・保持工程(保持時間ゼロも含む)及び着磁後冷却工程を連続的に繰り返し実施して、それぞれの昇温・保持工程が実施された場合についてのNMRスペクトルを第一スペクトル乃至第九スペクトルとして測定した。なお、各NMRスペクトルの測定時における超電導バルクの温度は、いずれも39Kである。基準スペクトル、及び、第一乃至第九スペクトルを測定する際における昇温・保持工程の各条件(調整温度T3、保持時間)を、表1に示す。
【表1】
【0090】
図8は、実施例2に係る基準スペクトル、第三スペクトル、第七スペクトル、第八スペクトル、及び第九スペクトルを併記した図である。また、図9は、図8中の、化学シフト0.5ppm~2.5ppm付近のスペクトルを示す拡大図である。図8及び図9からわかるように、第三、第七、第八、第九スペクトルに表されるピークは、基準スペクトルに表されるピークに比べてシャープであり、ブロードノイズ(ピークの裾野部分の広がり)が減少している。また、特に図9からわかるように、昇温・保持工程を繰り返すにつれて、ピークの分離が顕著になり、且つ、ブロードノイズ及びサイドバンドが減少していくことがわかる。このことからも、本実施例の昇温・保持工程の実施により、磁場の均一性が向上することがわかる。
【0091】
以上のように、本実施形態に係る超電導バルク1の着磁方法は、第二種超電導体からなり円筒状に形成された超電導バルク1の超電導遷移温度Tcよりも高い温度T1にて、超電導バルク1のボアの磁場が均一となる磁場H0を超電導バルク1に印加する磁場印加工程と、超電導バルク1に磁場H0が印加された状態で、超電導バルク1を超電導遷移温度Tcよりも低い着磁温度T2まで冷却する磁場中冷却工程と、超電導バルク1の温度を着磁温度T2に維持したまま、超電導バルク1に印加された磁場H0を除去する減磁工程と、超電導バルク1の温度を、着磁温度T2以下の調整温度T3に調整する温度調整工程(昇温・保持工程)と、超電導バルク1の温度を、調整温度T3よりも低い使用温度T4まで冷却する着磁後冷却工程と、を含む。
【0092】
本実施形態に係る超電導バルクの着磁方法によれば、減磁工程にて超電導バルク1が着磁された後に温度調整工程(昇温・保持工程)を実施することにより、超電導バルク1の製造方法に由来する磁場の不均一性を改善することができる。このため、より一層、磁場の均一性を高めることができる。
【0093】
また、実施例2に示すように、第一スペクトル乃至第九スペクトルを得る際における調整温度T3が、46K~48.5Kである。着磁温度が50Kであるので、上記の調整温度T3の範囲は、着磁温度T2(=50K)よりも5K低い温度(T2-5)以上であり、且つ、調整温度(T2)以下である。調整温度(T3)を上記した範囲内に設定することにより、磁場の均一性の改善効果を高めることができるとともに、磁場強度の低下を抑えることができる。なお、調整温度T3が上記範囲未満の温度であると磁場の均一性の改善効果を高めることができず、調整温度T3が上記範囲よりも高い温度であると磁場強度の低下が大きくなる。
【0094】
また、実施例2の第二スペクトル乃至第九スペクトルを得る際における温度調整工程(昇温・保持工程)では、超電導バルク1の温度を調整温度T3で一定時間保持している。このように超電導バルク1の温度を調整温度T3で所定時間保持することにより、より磁場の均一性を高めることができる。
【0095】
また、実施例2に示すように、温度調整工程及び着磁後冷却工程が、複数回繰り返されることにより、より磁場の均一性を高めることができる。この場合、複数回繰り返される温度調整工程における各調整温度(T3)は、一定でもよいし、異なっていても良い。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、減磁工程で超電導バルク1を着磁した後に過冷却工程を実施し、その後、取り出し工程を実施して超電導磁極10を外部磁場発生装置100から取り出し、その後に温度調整工程(昇温・保持工程)が実施される。つまり、温度調整工程は、超電導磁極10を外部磁場発生装置100から取り外した後に実行される。この場合、温度調整工程では、超電導バルク1の温度が過冷却温度Tclから調整温度T3まで昇温される。しかしながら、超電導磁極10を外部磁場発生装置100から取り出す前に、すなわち超電導磁極10が外部磁場発生装置100に挿入された状態で、温度調整工程を実施することもできる。この場合、温度調整工程の実施前に過冷却工程及び取り出し工程を行う必要はなく、温度調整工程の実施後に着磁後冷却工程を実施して超電導バルク1の温度を使用温度T4まで冷却した状態で、超電導磁極10を外部磁場発生装置100から取り出せばよい。またこの場合、超電導バルク1の温度が着磁温度T2に維持された状態(すなわち調整温度T3が着磁温度T2に等しい状態)で温度調整工程が実施されるか、あるいは、超電導バルク1の温度が着磁温度T2から調整温度T3に降温された状態で温度調整工程が実施される。
【0097】
また、本発明に係る温度調整工程は、超電導バルクの温度を調整温度T3で一定時間保持しなくてもよい。例えば、温度調整工程が昇温・保持工程である場合、上記実施例2の第一スペクトルを得る際に実施した着磁方法のように、超電導バルクの温度が調整温度T3に達したら、直ちに着磁後冷却工程を実施してもよい。この場合であっても、超電導バルクが調整温度T3に一旦調整されたことによって、超電導バルクのボア内の磁場均一性を高める効果を得ることができる。
【0098】
また、上記実施形態では、円筒状の超電導バルク1のボアの中央部分の径が端部分の径よりも大きくなるように、超電導バルク1が形成されているが、ボアの径が一定の超電導バルク1に対しても、本発明の着磁方法を適用することができる。また、上記実施形態では、内周側に内挿超電導円筒部材4が設けられている超電導バルク1を着磁する例を示したが、内挿超電導円筒部材4が設けられていない超電導バルク1に対しても、本発明の着磁方法を適用することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変形可能である。
【符号の説明】
【0099】
1…超電導バルク、2…冷却装置、3…コールドヘッド、4…内挿超電導円筒部材、5…室温ボアケース、6…ヒータ、7…温度センサ、8…真空断熱容器、9…温度制御装置、10…超電導磁極、100…外部磁場発生装置、103…挿入空間、104…着磁用コイル、105…超電導シムコイル、200…NMR装置、210…プローブ、211…試料管、212…検出コイル、213…室温シムコイル、220…分析装置、RB…室温ボア空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9