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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ピストンの潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20220830BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20220830BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20220830BHJP
   F16J 1/08 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
F02F3/00 P
F02F3/00 Q
F02F5/00 A
F01M1/06 C
F16J1/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018087005
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019190445
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 慎司
(72)【発明者】
【氏名】桐村 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】森下 翔平
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-164012(JP,A)
【文献】特開2001-329909(JP,A)
【文献】特開2001-336447(JP,A)
【文献】実開平06-034152(JP,U)
【文献】特開平10-141134(JP,A)
【文献】中国実用新案第2613607(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2004/0237775(US,A1)
【文献】特開2012-112376(JP,A)
【文献】特開2010-164030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00- 3/28
F02F 5/00
F02F 11/00
F01M 1/00- 9/12
F16J 1/00- 1/24
F16J 7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダに沿って往復するピストンの潤滑構造であって、
前記ピストンは、
円筒形状の外周面を有し、オイルリングを収容可能なオイルリング溝が前記外周面に沿って連続的に構成されたランド部と、
前記ランド部の前記外周面から延在され、互いに対向させて設けられた一対のスカートを備えたスカート部と、
一対の前記スカートの相互間において、前記ピストンを往復させる部材が回転自在に連結され、前記ピストンの往復方向に直交させて構成された軸部と、
一対の前記スカートのうち、スラスト側の前記スカートと前記軸部とのオイルリング溝の周方向相互間に設けられ、前記オイルリング溝から前記ランド部を貫通して構成されたスラスト側貫通孔と、
一対の前記スカートのうち、反スラスト側の前記スカートが延在された範囲内に設けられ、前記オイルリング溝から前記ランド部を貫通して構成された反スラスト側貫通孔と、を有し
前記オイルリング溝には、径方向外方の端部を周方向の全周に亘って連続して切り欠いたオイルリング溝斜面が形成され、
前記オイルリング溝斜面の面積は、反スラスト側よりもスラスト側の方が大きく形成されているピストンの潤滑構造。
【請求項2】
前記スラスト側貫通孔は、前記外周面から離れた位置の前記オイルリング溝に開口されている請求項1に記載のピストンの潤滑構造。
【請求項3】
前記オイルリング溝には、スラスト側の前記スカートが延在された範囲内において、前記ピストンの往復方向のクランク室側に凹ませた窪み部が局所的に形成され、
前記窪み部は、前記外周面から前記オイルリング溝の内側の端部に向けて延在して形成されている請求項1又は2に記載のピストンの潤滑構造。
【請求項4】
前記スラスト側貫通孔は、スラスト側の前記スカートの両側に設けられ、
一方側の前記スラスト側貫通孔と、他方側の前記スラスト側貫通孔とは、個数及び大きさの少なくとも1つを異ならせて設定されている請求項1からのいずれか1項に記載のピストンの潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダに沿って往復するピストンの潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、シリンダ内におけるピストンの往復運動を、コンロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換して、車両の駆動力を発生する。ピストンは、シリンダの内壁にオイルを介して接している。ピストンのオイルリング溝に設けられたオイルリングは、シリンダの内壁から過剰なオイルを掻き落とす。オイルリング溝には、過剰なオイルをシリンダのクランク室に戻すオイル戻し通路が形成されている(例えば、特許文献1を参照)。このようにして、ピストンとシリンダの内壁との間に油膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-329909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダの内壁は、ピストンが往復するときに、そのピストンから押圧力(スラスト力)を受ける。スラスト力は、ピストンの昇降方向(シリンダの上下方向)と、コンロッドの揺動方向(シリンダの上下方向から傾斜した方向)との成す角度によって、ピストンの径方向外方に発生する力である。
【0005】
スラスト力は、コンロッドの揺動角、筒内圧、及び慣性力に影響を受け、クランクシャフトの角度、回転数、エンジン負荷によって変化する。スラスト力が変化すると、シリンダとピストンとの間の油膜の厚みが変わってしまう。ここで、スラスト力が大きいと、油膜の厚みが不足する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、シリンダとの間に適切な油膜を形成して潤滑させることができるピストンの潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明のピストンは、ランド部と、スカート部と、軸部と、スラスト側貫通孔と、反スラスト側貫通孔と、を有している。ランド部は、円筒形状の外周面を有し、オイルリングを収容可能なオイルリング溝が外周面に沿って連続的に構成されている。スカート部は、ランド部の外周面から延在され、互いに対向させて設けられた一対のスカートを備えている。軸部は、一対のスカートの相互間において、ピストンを往復させる部材が回転自在に連結され、ピストンの往復方向に直交させて構成されている。スラスト側貫通孔は、一対のスカートのうち、スラスト側のスカートと軸部とのオイルリング溝の周方向相互間に設けられ、オイルリング溝からランド部を貫通して構成されている。反スラスト側貫通孔は、一対のスカートのうち、反スラスト側のスカートが延在された範囲内に設けられ、オイルリング溝からランド部を貫通して構成されている。オイルリング溝には、径方向外方の端部を周方向の全周に亘って連続して切り欠いたオイルリング溝斜面が形成され、オイルリング溝斜面の面積は、反スラスト側よりもスラスト側の方が大きく形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリンダとの間に適切な油膜を形成して潤滑させることができるピストンの潤滑構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るピストンが設けられた内燃機関を示す模式図。
図2】ピストンを示す側面図。
図3】ピストンを示す底面図。
図4】ピストンを下方から示す斜視図。
図5】ピストンを図4のF5-F5線に沿って示す断面図。
図6】ピストンを図4のスラスト側貫通孔及び反スラスト側貫通孔が露出するように切り欠いて示す断面図。
図7】ピストンを図6のスラスト側貫通孔が含まれる領域F7で示す断面図。
図8】ピストンを図6の反スラスト側貫通孔が含まれる領域F8で示す断面図。
図9】ピストンのスカート部に対するオイルの潤滑状態を示す模式図。
図10】実施形態の変形例1に係るピストンを示す底面図。
図11】実施形態の変形例2に係るピストンを示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「実施形態」
「内燃機関1の構成」
内燃機関1の構成について、図1図7を参照して説明する。
【0011】
内燃機関1は、図1に示すように、車両の駆動力を発生する装置である。内燃機関1は、混合ガス(燃料及び空気)を爆発燃焼させることによって、熱エネルギーを発生させる。内燃機関1は、熱エネルギーを機械的エネルギー(燃焼荷重)に変換する。燃焼荷重によって、タイヤの駆動部材に連結されたクランクシャフト15のクランク軸Cが回転される。内燃機関1は、下記のピストン11~オイルリング21を備えている。
【0012】
ピストン11は、シリンダ12に沿って昇降(往復)する。ピストン11は、図1に示すように、シリンダ12の内壁(ライナー12e)に接している。ピストン11は、4サイクル行程からなるエンジンにおいて、シリンダ12の燃焼室12aにおける混合ガス(燃料及び空気)の爆発燃焼の度に、シリンダ12のライナー12eを2往復するように、降下及び上昇する。
【0013】
ピストン11は、図1に示すような例えば右周りクランクの構成において、降下するときに、ピストンピン14に連結されたコンロッド13を、図1の左上から右下に向かって突き下げるように移動する。一方、ピストン11は、右周りクランクの構成において、上昇するときに、ピストンピン14に連結されたコンロッド13によって、図1の左下から右上に向かって突き上げられるように移動する。ピストン11の詳細は、後述する。
【0014】
シリンダ12は、ピストン11を上下に往復可能に収容する。シリンダ12は、図1に示すように、ピストン11の上方Uに、燃焼室12aを構成する。吸気路12bは、混合ガス(燃料及び空気)を燃焼室12aに供給する。排気路12cは、混合ガス(燃料及び空気)が爆発燃焼した後の排気ガスを燃焼室12aから排出する。
【0015】
シリンダ12のクランク室12d(オイルパン)には、ピストン11と連動するコンロッド13及びクランクシャフト15が回転自在に収容される。クランク室12dの下部には、オイルEOが溜められる。本実施形態において、ウエットサンプ式のエンジンを用いた構成としているが、ドライサンプ式のエンジンを用いた構成としてもよい。ドライサンプ式の場合、ピストン11から落下したオイルEOは、クランクケースとは別のタンクに溜められ、オイルポンプによってライナー12eに供給される。
【0016】
シリンダ12のライナー12eは、オイルEOを介して、ピストン11と接する。本実施形態において、オイルEOは、クランク室12dからクランクシャフト15によってライナー12e掻き上げられて(はねかけられるようにして)、そのライナー12eに供給される構成としている。その他、オイルEOは、貯油タンクやクランク室12dから独立した機構によってライナー12e吹きかけられて、そのライナー12eに供給される構成としてもよく、オイルEOの供給方法は限定しない。
【0017】
コンロッド13は、ピストン11の上下運動を回転運動に変換する。コンロッド13は、図1に示すように、シリンダ12のクランク室12dに収容される。コンロッド13は、その上部が、ピストン11の内部スペース11uに挿入される。コンロッド13は、その上部に形成された小端部13aが、ピストンピン14に回転自在に連結される。コンロッド13は、その下部に形成された大端部13bが、クランクシャフト15のクランクピン15bに回転自在に連結される。
【0018】
ピストンピン14は、ピストン11とコンロッド13とを回転自在に連結する。ピストンピン14は、図1に示すように、ピストン11のピン孔11vを介して、コンロッド13の小端部13aに挿入される。
【0019】
クランクシャフト15は、コンロッド13の往復運動をクランクシャフト15のクランク軸Cに伝達する。又、クランクシャフト15は、回転しながら、シリンダ12のクランク室12dに溜まったオイルEOをピストン11に向かって掻き上げる。クランクシャフト15は、図1に示すように、シリンダ12のクランク室12dに収容される。クランクシャフト15は、中央部15aがクランク軸Cに連結され、クランクピン15bがコンロッド13の大端部13bに回転自在に連結される。
【0020】
吸気弁16は、シリンダ12の吸気路12bから燃焼室12aに混合ガス(燃料及び空気)を流入させる。吸気弁16は、図1に示すように、シリンダ12の吸気路12bと燃焼室12aの間に設けられる。
【0021】
排気弁17は、シリンダ12の燃焼室12aから排気路12cに排気ガスを排出させる。排気弁17は、図1に示すように、シリンダ12の排気路12cと燃焼室12aの間に設けられる。
【0022】
点火プラグ18は、シリンダ12の燃焼室12aの混合ガス(燃料及び空気)に点火して爆発燃焼させる。点火プラグ18は、図1に示すように、シリンダ12の燃焼室12aに対向して設けられる。なお、点火プラグ18は、例えばディーゼルエンジンのような圧縮自然着火エンジンの場合、不要である。
【0023】
トップリング19(第1圧縮リング)は、ピストン11とシリンダ12のライナー12eとの間をシールする。換言すると、トップリング19は、シリンダ12の燃焼室12aに供給された混合ガス(燃料及び空気)を、その燃焼室12aに留める。トップリング19は、図1及び図7に示すように、ピストン11のランド部11Aに取り付けられる。
【0024】
セカンドリング20(第2圧縮リング)は、トップリング19を補助する。又、セカンドリング20は、ピストン11とシリンダ12のライナー12eとの間のオイルEOの厚みを調整する。セカンドリング20は、図1及び図7に示すように、ピストン11のランド部11Aにおいて、トップリング19の下に取り付けられる。本実施形態において、圧縮リングは、第1圧縮リング及び第2圧縮リングの2つの部材によって構成しているが、第1圧縮リング及び第2圧縮リングを統合して1つの部材によって構成してもよい。
【0025】
オイルリング21(オイルコントロールリング)は、ピストン11が降下するときに、ピストン11とシリンダ12のライナー12eとの間の過剰なオイルEOをクランク室12dに掻き落とす。オイルリング21は、図1及び図7に示すように、ピストン11のランド部11Aにおいて、セカンドリング20の下に取り付けられる。オイルリング21は、図7に示すように、上部レール21a、下部レール21b、及びスペーサ21cから構成されている。上部レール21a及び下部レール21bは、スペーサ21cによって、シリンダ12のライナー12eに向かって押圧される。実施形態において、オイルリング21は、上部レール21a、下部レール21b、及びスペーサ21cの3つの部材(3ピース構造)によって構成しているが、部材同士を統合して2つの部材(2ピース構造)によって構成してもよい。
【0026】
「内燃機関1の構成部材に生じるスラスト力」
内燃機関1の構成部材に生じるスラスト力について、図1を参照して説明する。
【0027】
スラスト力は、図1に示すように、ピストンの昇降(往復)方向H1(シリンダ12の上下方向)と、コンロッド13の揺動方向H2(シリンダ12の上下方向から傾斜した方向)との成す角度によって、ピストン11の径方向外方に発生する力である。シリンダ12のライナー12eは、ピストン11が降下又は上昇するときに、そのピストン11から径方向外方にスラスト力を受ける。勿論、図1に示すコンロッド13の揺動角は、一例であって、クランク角度によって変化する。
【0028】
ここで、ピストン11は、例えば燃焼行程において、燃焼荷重を受けて降下する。このとき、ピストン11は、コンロッド13を図1の左上から右下に向かって突き下げるようにして、ライナー12e内を降下する。ピストン11は、ピン孔11vに挿入されたピストンピン14を介して、コンロッド13の小端部13aと連結されている。このため、シリンダ12のライナー12eには、図1に示すように、ピストン11の昇降方向H1と、コンロッド13の揺動角との関係によって、ピストン11の径方向外方にスラスト力が発生する。ランド部11Aは、ピストン11のピン孔11vを基準にして図1の左側に傾く。このため、スラスト側TS(スラスト側ライナー12e1)にかかるスラスト力P1は、反スラスト側ATS(反スラスト側ライナー12e2)にかかる反スラスト力P2よりも大きくなる。
【0029】
この結果、ランド部11Aは、スラスト側ライナー12e1に相対的に大きなスラスト力P1で押圧し、反スラスト側ライナー12e2に相対的に小さな反スラスト力P2で押圧する。スラスト側ライナー12e1は、周方向の全周に亘って連続するライナー12eのうち、ピストン11のピン孔11vよりもスラスト側TSに対向する部分(図1の左側)である。反スラスト側ライナー12e2は、周方向の全周に亘って連続するライナー12eのうち、ピストン11のピン孔11vよりも反スラスト側ATSに対向する部分(図1の右側)である。
【0030】
なお、シリンダ12のライナー12eは、4サイクル行程の各サイクルにおいて、それぞれスラスト荷重を受ける。4サイクル工程のうち、燃焼行程(膨張行程)におけるスラスト荷重が、相対的に最も大きくなる。したがって、燃焼行程において燃焼荷重に起因するスラスト力を受ける側(スラスト側ライナー12e1)をスラスト側と称することが一般的である。
【0031】
「ピストン11の構成」
ピストン11の構成について、図1図8を参照して説明する。
【0032】
ピストン11は、図2に示すように、ランド部11A、スカート部11B、及び軸部11Cによって構成されている。ランド部11Aは、シリンダ12のライナー12eに沿って昇降する。ランド部11Aは、円筒形状の外周面を有し、オイルリング21を収容可能なオイルリング溝11gが外周面に沿って連続的に構成されている。スカート部11Bは、ランド部11Aの首振りを抑制する。スカート部11Bは、ランド部11Aの外周面から延在され、互いに対向させて設けられた一対のスカートを備えている。軸部11Cは、一対のスカートの相互間において、ピストン11を昇降(往復)させるコンロッド13がピストンピン14を介して回転自在に連結され、ピストン11の昇降方向に直交させて構成されている。ピストン11は、以下の上面11d~反スラスト側貫通孔11xを備えている。
【0033】
上面11dは、シリンダ12の燃焼室12aにおける混合ガス(燃料及び空気)の爆発燃焼に伴う圧力を受け止める。ピストン11は、上面11dで圧力を受けることによって降下する。上面11dは、図1及び図2などに示すように、ピストン11の上端に形成されている。上面11dは、シリンダ12の燃焼室12aの一部(下部)を構成する。
【0034】
トップリング溝11eは、トップリング19を収容する。トップリング溝11eは、図6図8などに示すように、ランド部11Aの周方向の全周に亘って連続した凹形状に形成されている。ここで、トップリング19は、トップリング溝11eからランド部11Aの径方向外方に突出して、シリンダ12のライナー12eに接する。
【0035】
セカンドリング溝11fは、セカンドリング20を収容する。セカンドリング溝11fは、図6図8などに示すように、ランド部11Aの周方向の全周に亘って連続した凹形状に形成されている。セカンドリング溝11fは、トップリング溝11eの下に形成されている。ここで、セカンドリング20は、セカンドリング溝11fからランド部11Aの径方向外方に突出して、シリンダ12のライナー12eに接する。
【0036】
オイルリング溝11gは、オイルリング21を収容する。オイルリング溝11gは、図6図8などに示すように、ランド部11Aの周方向の全周に亘って連続した凹形状に形成されている。オイルリング溝11gは、セカンドリング溝11fの下に形成されている。ここで、オイルリング21の上部レール21a及び下部レール21bは、オイルリング溝11gからランド部11Aの径方向外方に突出して、シリンダ12のライナー12eに接する。
【0037】
窪み部11g1は、オイルEOを流通(還流)するための空間である。窪み部11g1は、後述する反スラスト側貫通孔11xを、内部スペース11uまで貫通させない構成からなる。窪み部11g1は、図9の拡大領域bに示すように、スラスト側スカート11nに位置するオイルリング溝11gにおいて、シリンダ12のクランク室12d側に向かって局所的に凹んだ形状からなる。窪み部11g1は、シリンダ12の外周面からオイルリング溝11gの内側の端部(側壁)まで水平方向(径方向内方)に延在するように、半円筒形に切り欠いて構成されている。窪み部11g1は、オイルリング溝11gの外周に形成されたスラスト側斜面11h1mも切り欠いて構成されている。窪み部11g1は、図9のスラスト側TSの領域に示すように、スラスト側スカート11nに位置するオイルリング溝11gの中央と両側に、形成されている。窪み部11g1の形状や個数などは、限定されない。窪み部11g1の奥行などを設定することによって、還流させるオイルEOの量を規定することができる。
【0038】
オイルリング溝斜面11hは、シリンダ12のライナー12eとの間において、オイルEOの流路を構成する。オイルリング溝斜面11hは、図4図6などに示すように、オイルリング溝11gの径方向外方の下端を周方向の全周に亘って連続して切り欠いた斜面からなる。オイルリング溝斜面11hは、周方向に沿ってライナー12eに対向する。オイルリング溝斜面11hは、周方向の全周(一周)にわたって同一に構成することができる。ここで、オイルリング溝斜面11hは、図7及び図8に示すように、スラスト側TSに位置するスラスト側斜面11h1を、反スラスト側ATSに位置する反スラスト側斜面11h2と比べて大きく形成することもできる。換言すると、オイルリング溝斜面11hは、図7に示すスラスト側斜面11h1が径方向に対して相対的に長く、図8に示す反スラスト側斜面11h2が径方向に対して相対的に短く構成することができる。このような構成によって、スラスト側斜面11h1の部分はオイルEOの通路面積が相対的に大きく、反スラスト側斜面11h2の部分はオイルEOの通路面積が相対的に小さくなる。スラスト側斜面11h1と反スラスト側斜面11h2とは、オイルリング溝11gの周方向に沿って連続している。
【0039】
ファーストランド11i(トップランド)は、シリンダ12のライナー12eに対してオイルEOを介して対向している。ファーストランド11iは、図2及び図7などに示すように、ランド部11Aの上端とトップリング溝11eとの間に位置する外周面である。
【0040】
セカンドランド11jは、シリンダ12のライナー12eに対してオイルEOを介して対向している。セカンドランド11jは、図2及び図7などに示すように、トップリング溝11eとセカンドリング溝11fとの間に位置する外周面である。
【0041】
サードランド11kは、シリンダ12のライナー12eに対してオイルEOを介して対向している。サードランド11kは、図2及び図7などに示すように、セカンドリング溝11fとオイルリング溝11gとの間に位置する外周面である。
【0042】
フォースランド11mは、シリンダ12のライナー12eに対してオイルEOを介して対向している。フォースランド11mは、図3及び図4などに示すように、オイルリング溝11gと第1サイドウォール部11sとの間に位置する外周面である。又、フォースランド11mは、図3及び図4などに示すように、オイルリング溝11gと第2サイドウォール部11tとの間に位置する外周面である。
【0043】
スラスト側スカート11nは、ピストン11が上昇するときに、ランド部11Aが首振りすることを防止する。スラスト側スカート11nは、図3及び図4などに示すように、シリンダ12のスラスト側ライナー12e1に沿うように円弧状に形成されている。スラスト側スカート11nは、ランド部11Aのスラスト側TSから下死点に向かって延びるように形成されている。スラスト側スカート11nは、スラスト側ライナー12e1にオイルEOを介して接して昇降する。ここで、ピストン11は、圧縮工程における慣性荷重が作用すると、ピストンピン14に連結されたコンロッド13によって、図1の左下から右上に向かって突き上げられるように上昇する。このとき、スラスト側スカート11nは、ピストンピン14まわりのモーメント荷重などを受け、オイルEOを介してシリンダ12のスラスト側ライナー12e1に接触する。このようにして、ランド部11Aがピストンピン14を中心にして図1の右側に傾斜することを防止する。
【0044】
反スラスト側スカート11pは、ピストン11が降下するときに、ランド部11Aが首振りすることを防止する。反スラスト側スカート11pは、図3及び図4などに示すように、シリンダ12の反スラスト側ライナー12e2に沿うように円弧状に形成されている。反スラスト側スカート11pは、ランド部11Aの反スラスト側ATSから下死点に向かって延びるように形成されている。反スラスト側スカート11pは、反スラスト側ライナー12e2にオイルEOを介して接して昇降する。ここで、ピストン11は、燃焼行程における燃焼荷重が作用すると、ピストンピン14に連結されたコンロッド13を、突き下げるように降下する。このとき、反スラスト側スカート11pは、ピストンピン14まわりのモーメント荷重などを受けて、シリンダ12の反スラスト側ライナー12e2に接触する。このようにして、ランド部11Aがピストンピン14を中心にして図1の左側に傾斜することを防止する。
【0045】
スラスト側下端11qは、ピストン11が降下しているときに、スラスト側スカート11nにオイルEOを供給し易くする。このため、スラスト側下端11qは、図2図3及び図6などに示すように、スラスト側スカート11nの下端を、周方向に沿って円弧状に切り欠くようにして形成されている。ここで、ピストン11が降下しているときに、スラスト側下端11qとシリンダ12のスラスト側ライナー12e1との間に、オイルEOが溜まる。そのオイルEOは、ピストン11の降下に伴って、スラスト側スカート11nとスラスト側ライナー12e1との間に供給される。
【0046】
反スラスト側下端11rは、ピストン11が降下しているときに、反スラスト側スカート11pにオイルEOを供給し易くする。このため、反スラスト側下端11rは、図2図3及び図6などに示すように、反スラスト側スカート11pの下端を、周方向に沿って円弧状に切り欠くようにして形成されている。ここで、ピストン11が降下しているときに、反スラスト側下端11rとシリンダ12の反スラスト側ライナー12e2との間に、オイルEOが溜まる。そのオイルEOは、ピストン11の降下に伴って、反スラスト側スカート11pと反スラスト側ライナー12e2との間に供給される。
【0047】
第1サイドウォール部11sは、スラスト側スカート11nと反スラスト側スカート11pとの間の側壁を構成する。第1サイドウォール部11sは、図3及び図4などに示すように、スラスト側スカート11nの一端と反スラスト側スカート11pの一端との間を連結するように形成されている。第1サイドウォール部11sは、シリンダ12のライナー12eと接していない。第1サイドウォール部11sの中央部分は、第1サイドウォール部11sの両側部分よりも軸方向Zに沿って厚く形成され、軸部11Cを構成している。
【0048】
第2サイドウォール部11tは、第1サイドウォール部11sと対向するようにして、スラスト側スカート11nと反スラスト側スカート11pとの間の側壁を構成する。第2サイドウォール部11tは、図3及び図4などに示すように、スラスト側スカート11nの他端と反スラスト側スカート11pの他端との間を連結するように形成されている。第2サイドウォール部11tは、シリンダ12のライナー12eと接していない。第2サイドウォール部11tの中央部分は、第2サイドウォール部11tの両側部分よりも軸方向Zに沿って厚く形成され、軸部11Cを構成している。
【0049】
内部スペース11uは、ピストン11において、スラスト側スカート11n、反スラスト側スカート11p、第1サイドウォール部11s、及び第2サイドウォール部11tによって囲まれた空間である。内部スペース11uは、図1に示すコンロッド13の上部を収容する。また、内部スペース11uは、オイルリング溝11gから反スラスト側貫通孔11xを介してオイルEOを排出させる。内部スペース11uは、図4図6などに示すように、ピストン11の下端から上方Uに向かって大きく窪んでいる。内部スペース11uは、シリンダ12のクランク室12dと対向している。
【0050】
ピン孔11vは、ピストンピン14の両側を支持する。ピン孔11vは、図2及び図3などに示すように、軸部11Cを軸方向Zに沿って貫通している。ピン孔11vは、ピストン11を昇降する部材が連結される。部材は、ピストンピン14を介してピストン11と連動するコンロッド13である。
【0051】
「ピストン11のスラスト側貫通孔11wの構成」
ピストン11のスラスト側貫通孔11wの構成について説明する。
【0052】
スラスト側貫通孔11wは、オイルリング溝11gのスラスト側TSの部分からオイルEOを排出する。スラスト側貫通孔11wは、図6及び図7などに示すように、スラスト側スカート11nと軸部11Cとの周方向相互間に設けられている。スラスト側貫通孔11wは、ピストン11の昇降方向H1に沿って、オイルリング溝11gからランド部11Aを貫通して構成されている。スラスト側貫通孔11wは、オイルリング溝11gと、ランド部11Aの下端との間を上下に貫通して形成されている。換言すると、スラスト側貫通孔11wは、図3及び図5などに示すように、フォースランド11mを貫通して形成されている。
【0053】
スラスト側貫通孔11wは、図面では一例として、一対からなる。一方のスラスト側貫通孔11wは、図3に示すように、スラスト側スカート11nの周方向の一端部11n1と隣り合うように、一方のフォースランド11mを貫通して形成されている。他方のスラスト側貫通孔11wは、図3に示すように、スラスト側スカート11nの周方向の他端部11n2と隣り合うように、他方のフォースランド11mを貫通して形成されている。このように、スラスト側貫通孔11wは、周方向の全周に亘って連続するオイルリング溝11gのうち、ピン孔11vよりもスラスト側TSであってスラスト側スカート11nの周方向外側に位置する部分に形成されている。スラスト側貫通孔11wの形状や個数などは、限定されない。
【0054】
スラスト側貫通孔11wは、図6及び図7などに示すように、フォースランド11m及びスラスト側斜面11h1から離れた位置のオイルリング溝11gに開口されている。換言すると、スラスト側貫通孔11wは、フォースランド11m及びスラスト側斜面11h1と接していない。又、スラスト側貫通孔11wは、図6及び図7などに示すように、オイルリング溝11gの径方向内方の側面に接し、かつ、オイルリング溝11gの下面から上方Uのサードランド11kに向かって延びている。換言すると、スラスト側貫通孔11wは、オイルリング溝11gの側面に対して切り込むように形成されている。
【0055】
「ピストン11の反スラスト側貫通孔11xの構成」
ピストン11の反スラスト側貫通孔11xの構成について説明する。
【0056】
反スラスト側貫通孔11xは、オイルリング溝11gの反スラスト側ATSの部分からオイルEOを排出する。反スラスト側貫通孔11xは、前述した窪み部11g1を、内部スペース11uまで貫通させた構成からなる。反スラスト側貫通孔11xは、図6及び図8などに示すように、反スラスト側スカート11pが延在された範囲内に設けられている。反スラスト側貫通孔11xは、ピストン11の昇降方向H1を横断する方向に沿って、オイルリング溝11gからランド部11Aを貫通して構成されている。反スラスト側貫通孔11xは、オイルリング溝11gと、内部スペース11uとの間を水平に貫通して形成されている。換言すると、反スラスト側貫通孔11xは、図3及び図5などに示すように、オイルリング溝11gから内部スペース11uまで水平に貫通して形成されている。
【0057】
反スラスト側貫通孔11xは、図面では一例として、一対からなる。一対の反スラスト側貫通孔11xは、反スラスト側スカート11pの周方向の両側に形成されている。このように、反スラスト側貫通孔11xは、周方向の全周に亘って連続するオイルリング溝11gのうち、ピン孔11vよりも反スラスト側ATSに位置する部分に形成されている。反スラスト側貫通孔11xの形状や個数などは、限定されない。反スラスト側貫通孔11xは、図6及び図8などに示すように、反スラスト側スカート11p及び反スラスト側斜面11h2と接している。換言すると、反スラスト側貫通孔11xは、反スラスト側スカート11p及び反スラスト側斜面11h2に切り込むように形成されている。
【0058】
「ピストン11の潤滑構造の主機能」
ピストン11の主機能について、図9を参照して説明する。
【0059】
オイルEO1は、図9のスラスト側TSの領域に示すように、スラスト側スカート11nに向かって流れるオイルである。オイルEO1は、ピストン11が降下しているときに、一対のフォースランド11mに位置するオイルリング溝斜面11hに沿って、スラスト側TSの部分をスラスト側スカート11nに向かって流れている。
【0060】
オイルEO2は、図9の拡大領域aに示すように、スラスト側スカート11nに流入することなく、僅かに排出されるオイルである。オイルEO2は、オイルEO1のごく一部が分岐され、オイルリング溝11gに形成されたスラスト側貫通孔11wに流入するものである。オイルEO2は、オイルEO1と比較して、極めて微量である。なお、仮に、燃焼室12aから燃料がオイルリング溝11g内に混入した場合でも、オイルEO2がその燃料を含んだ状態で排出されることから、燃料がスラスト側スカート11nに流入することを抑制できる。ここで、スラスト側貫通孔11wは、フォースランド11m及びスラスト側斜面11h1と接していない。これにより、スラスト側貫通孔11wは、フォースランド11m及びスラスト側斜面11h1からオイルEO2が流入することを抑制できる。オイルEO2は、スラスト側貫通孔11wからフォースランド11mの下方に排出される。
【0061】
オイルEO3は、図9の拡大領域aに示すように、スラスト側スカート11nに流入する十分な量のオイルである。オイルEO3は、オイルEO1の大部分が分岐されたものである。オイルEO3は、オイルEO1と比較して、僅かに少ない量である。オイルEO3は、スラスト側スカート11nに向かって流れて、スラスト側スカート11nに供給される。ここで、スラスト側斜面11h1は、反スラスト側斜面11h2と比べて大きく形成されている。スラスト側斜面11h1が形成されたオイルリング溝11gの部分は、反スラスト側斜面11h2が形成されたオイルリング溝11gの部分よりも、オイルEOの通路面積が相対的に大きい。このため、オイルEO3は、スラスト側スカート11nに供給され易い。
【0062】
オイルEO3は、スラスト側スカート11nから排出されることを可能な限り抑制して、そのスラスト側スカート11nに留めることが好ましい。そこで、図9の拡大領域bに示すように、オイルリング溝11gに形成された窪み部11g1を用いて、オイルEO3の一部(オイルEO3a及びオイルEO3b)を循環させる。具体的には、図9の拡大領域bに示すオイルEO3a及びオイルEO3bは、窪み部11g1を通って、図7に示すオイルリング21に向かって流入する。オイルEO3a及びオイルEO3bは、図7に示すオイルリング21のスペーサ21cから上部レール21aと下部レール21bとの隙間を通って、オイルリング溝11gに流入する。オイルリング溝11gに流入したオイルEO3a及びオイルEO3bは、スラスト側スカート11nに供給される。このように、スラスト側スカート11nにおいてオイルEO3を可能な限り排出せずに再利用するために、非貫通穴である窪み部11g1を用いてオイルEO3a及びオイルEO3bをオイルリング溝11gに還流させる。
【0063】
オイルEO3は、圧縮工程の初期は勿論、圧縮工程の全体にわたって、スラスト側スカート11nに留まることができる。これは、オイルEO3が、スラスト側斜面11h1に加えて、窪み部11g1にも存在するからである。換言すると、オイルEO3の一部(オイルEO3a及びオイルEO3b)が窪み部11g1を介してオイルリング溝11gからスラスト側スカート11nに循環して、スラスト側スカート11nを十分に潤滑させることができる。このように、オイルEO3は、圧縮工程の全体にわたる長期間において、スラスト側スカート11nに留まることができる。
【0064】
なお、オイルEO3は、窪み部11g1の周辺において、燃料が殆ど混入していない。換言すると、窪み部11g1の周辺のオイルリング溝11gにおいて、燃料を十分に希釈されている。このため、窪み部11g1を通ったオイルEO3は、燃料の影響を受けることなく、スラスト側スカート11nの循環に積極的に用いることができる。
【0065】
また、オイルリング溝11gに還流したオイルEO3a及びオイルEO3bの余剰分は、スラスト側貫通孔11wが排出されるので、オイルEO3a及びオイルEO3bが燃焼室12aへ流入することを抑制することができる。この結果、オイルリング溝11gが仮にオイルEOで満たされた状態になっても、オイルリング溝11gからオイルEOの余剰分を排出することによって、燃焼室12aへのオイルEOの流入を抑制して、燃焼室12aにおける燃焼効率の低下を抑制することができる。
【0066】
これにより、相対的に高荷重のスラスト力P1が掛かるスラスト側TSにおいて、スラスト側スカート11nに十分な量のオイルEO3が供給される。この結果、ピストン11のスラスト側スカート11nと、シリンダ12のスラスト側ライナー12e1との間に適切な油膜を形成して、潤滑させることができる。オイルEO3は、内燃機関1の燃焼行程のときに、スラスト側スカート11nに引き伸ばされ、万遍なく行き渡る。このため、ピストン11は、スラスト側スカート11nに掛かる高荷重のスラスト力P1に耐えることができる。換言すると、ピストン11のスラスト側スカート11nと、シリンダ12のスラスト側ライナー12e1との金属接触を防止できる。
【0067】
スラスト側TSにおいて、スラスト側貫通孔11wは、フォースランド11m及びオイルリング溝斜面11hから離れた位置のオイルリング溝11gに開口されている。これにより、フォースランド11m及びオイルリング溝斜面11hからスラスト側貫通孔11wに流れ込むオイルEOの量を減らすことができる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、更に十分な量のオイルEOを供給することができる。
【0068】
又、スラスト側TSにおいて、スラスト側貫通孔11wは、オイルリング溝11gと、ランド部11Aの下端(フォースランド11m)との間を貫通して形成されている。これにより、スラスト側スカート11nに位置するオイルリング溝11gのオイルEOが過剰である場合、その過剰なオイルEOを下方に向かって速やかに排出することができる。さらに、スラスト側スカート11nに位置するオイルリング溝11gのオイルEOが不足している場合、オイルEOを下方から上方に向かって速やかに供給することができる。この結果、スラスト側貫通孔11wは、スラスト側スカート11nに位置するオイルリング溝11gに対して、過不足ない量のオイルEOを供給することができる。
【0069】
オイルEO4は、図9の反スラスト側ATSの領域に示すように、反スラスト側スカート11pに向かって流れるオイルである。オイルEO4は、図8に示すオイルリング21の下部レール21bに淀みつつ、一対のフォースランド11mに位置するオイルリング溝斜面11hに沿って、反スラスト側ATSの部分を反スラスト側スカート11pに向かって流れている。ここで、オイルEO4は、反スラスト側スカート11pにおいて過剰となり易い。そこで、後述するように、オイルEO4を、相対的に油量が多いオイルEO5と、相対的に油量が少ないオイルEO6とに分岐して、そのオイルEO5を積極的に排出する。
【0070】
オイルEO5は、図9の拡大領域cに示すように、反スラスト側スカート11pにとって過剰とならないように、反スラスト側スカート11pに供給されることなく排出されるオイルである。オイルEO5は、オイルリング21の下部レール21bに淀んでいるオイルEO4の大部分が分岐され、オイルリング溝11gに形成された反スラスト側貫通孔11xに流入するものである。ここで、反スラスト側貫通孔11xは、反スラスト側スカート11p及び反スラスト側斜面11h2に接して形成されている。これにより、反スラスト側貫通孔11xは、反スラスト側スカート11p及び反スラスト側斜面11h2からオイルEO5が流入し易い。オイルEO5は、反スラスト側貫通孔11xから内部スペース11uに排出される。
【0071】
オイルEO6は、図9の拡大領域cに示すように、反スラスト側スカート11pにとって、最小限必要な量のオイルである。オイルEO6は、オイルEO4のごく一部が分岐されたものである。オイルEO6は、反スラスト側スカート11pの中央に向かって流れて供給される。ここで、反スラスト側斜面11h2は、スラスト側斜面11h1と比べて小さく形成されている。このため、オイルEO6は、反スラスト側スカート11pに供給され難い。
【0072】
これにより、相対的に低荷重の反スラスト力P2が掛かる反スラスト側ATSにおいて、反スラスト側スカート11pに必要最小限の量のオイルEO6が供給される。圧縮工程における慣性荷重に伴う反スラスト力P2は、燃焼行程における燃焼荷重に伴うスラスト力P1と比べて、十分に小さい。このため、必要最小限のオイルEO6によって、ピストン11の反スラスト側スカート11pと、シリンダ12の反スラスト側ライナー12e2との金属接触を防止できる。この結果、ピストン11の反スラスト側スカート11pと、シリンダ12の反スラスト側ライナー12e2との間に適切な油膜を形成して、潤滑させることができる。又、反スラスト側スカート11pと反スラスト側ライナー12e2との間は、スラスト側TSと比較して隙間が大きくなるが、過剰なオイルEOを滞留させることなく、低フリクション(摩擦)が保たれる。又、オイル消費を抑制できる。
【0073】
「ピストン11の潤滑構造の効果」
ピストン11の潤滑構造の効果について説明する。
【0074】
本実施形態によれば、スラスト側貫通孔11wは、スラスト側スカート11nと軸部11Cとの周方向相互間に設けられ、オイルリング溝11gからランド部11Aを貫通して構成されている。反スラスト側貫通孔11xは、反スラスト側スカート11pが延在された範囲内に設けられ、オイルリング溝11gからランド部11Aを貫通して構成されている。これにより、スラスト力P1が作用するスラスト側TSにおいて、スラスト側スカート11nに十分な量のオイルEO(オイルEO3)を供給することができる。一方、スラスト力P1が作用しない反スラスト側ATSにおいて、反スラスト側スカート11pに必要最小限のオイルEO(オイルEO6)を供給することができる。この結果、ピストン11は、シリンダ12との間に適切な油膜を形成して潤滑させることができる。
【0075】
本実施形態によれば、スラスト側貫通孔11wは、外周面(例えばフォースランド11m)から離れた位置のオイルリング溝11gに開口されている。スラスト側貫通孔11wは、フォースランド11mと接していない。これにより、フォースランド11mからスラスト側貫通孔11wに流れ込むオイルEO(オイルEO2)の量を減らすことができる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、更に十分な量のオイルEO(オイルEO3)を供給することができる。
【0076】
本実施形態によれば、オイルリング溝11gには、径方向外方の端部を周方向の全周に亘って連続して切り欠いたオイルリング溝斜面11hが形成されている。オイルリング溝斜面11hの面積は、反スラスト側の反スラスト側斜面11h2よりも、スラスト側のスラスト側斜面11h1の方が大きく形成されている。これにより、スラスト側スカート11nに対するオイルEO(オイルEO3)の供給量を相対的に多くし、反スラスト側スカート11pに対するオイルEO(オイルEO6)の供給量を相対的に少なくすることができる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、更に十分な量のオイルEO(オイルEO3)を供給することができる。
【0077】
本実施形態によれば、オイルリング溝11gには、スラスト側スカート11nが延在された範囲内において、ピストン11の往復方向のクランク室12d側に凹ませた窪み部11g1が局所的に形成されている。窪み部11g1は、外周面からオイルリング溝11gの内側の端部(側壁)に向けて延在して形成されている。これにより、スラスト側スカート11nから排出されるオイルEO3を可能な限り抑制して、そのオイルEO3をスラスト側スカート11nに留めることができる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、安定して十分な量のオイルEO3を供給することができる。
【0078】
「変形例1」
図10に示す変形例1のピストン11は、実施形態のピストン11に対して、スラスト側貫通孔11wの個数を異ならせている。
【0079】
変形例1のピストン11は、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分(図10の上側)に、スラスト側貫通孔11wが1つ形成されている。一方、変形例1のピストン11は、スラスト側スカート11nの周方向外側の他方の部分(図10の下側)に、スラスト側貫通孔11wが3つ形成されている。3つのスラスト側貫通孔11wは、周方向に沿って互いに離れて形成されている。
【0080】
変形例1によれば、スラスト側貫通孔11wの数を、スラスト側スカート11nの両側の一方側と、他方側とで、異ならせている。変形例1では、スラスト側貫通孔11wは、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分よりも、他方の部分の方が多い。これにより、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分は、他方の部分と比べて、オイルリング溝11g内を流れるオイルEOの圧力が高くなる。スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分と他方の部分では、オイルリング溝11gを流れるオイルEOに圧力勾配が発生する。このため、オイルEOは、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分(高圧側)から他方の部分(低圧側)に向かって、オイルリング溝11gを流れ易くなる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、安定して十分な量のオイルEOを供給することができ、オイルEOの余剰分についてもスラスト側貫通孔11wから排出しやすくなる。
【0081】
「変形例2」
図11に示す変形例2のピストン11は、実施形態のピストン11に対して、一対のスラスト側貫通孔11wの大きさを異ならせている。
【0082】
変形例2のピストン11は、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分(図11の上側)に、実施形態のスラスト側貫通孔11wよりも小さいスラスト側貫通孔11w1が形成されている。一方、変形例2のピストン11は、スラスト側スカート11nの周方向外側の他方の部分(図11の下側)に、実施形態のスラスト側貫通孔11wよりも大きいスラスト側貫通孔11w2が形成されている。
【0083】
変形例2によれば、スラスト側貫通孔11wの大きさを、スラスト側スカート11nの両側の一方側と、他方側とで、異ならせている。変形例2では、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分に位置するスラスト側貫通孔11w1は、他方の部分に位置するスラスト側貫通孔11w2よりも、小さく形成されている。このため、オイルEOは、スラスト側スカート11nの周方向外側の一方の部分(高圧側)から他方の部分(低圧側)に向かって、オイルリング溝11gを流れ易くなる。この結果、スラスト側スカート11nに対して、安定して十分な量のオイルEOを供給することができ、オイルEOの余剰分についてもスラスト側貫通孔11wから排出しやすくなる。
【0084】
なお、本発明を実施するに当たり、具体的な態様を種々に変更して実施できる。
【0085】
例えば、上記した実施形態において、ピストン11は、内燃機関のシリンダ12内を上下方向に沿って往復(昇降)する構成を想定している。これに代えて、ピストン11は、内燃機関のシリンダ内を水平方向などに沿って往復する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…内燃機関、11…ピストン、11A…ランド部、11B…スカート部、11C…軸部、11d…上面、11e…トップリング溝、11f…セカンドリング溝、11g…オイルリング溝、11g1…窪み部、11h…オイルリング溝斜面、11h1…スラスト側斜面、11h2…反スラスト側斜面、11i…ファーストランド(外周面)、11j…セカンドランド(外周面)、11k…サードランド(外周面)、11m…フォースランド(外周面)、11n…スラスト側スカート、11n1…一端部、11n2…他端部、11p…反スラスト側スカート、11q…スラスト側下端、11r…反スラスト側下端、11s…第1サイドウォール部、11t…第2サイドウォール部、11u…内部スペース、11v…ピン孔、11w,11w1,11w2…スラスト側貫通孔、11x…反スラスト側貫通孔、12…シリンダ、12e…ライナー、12e1…スラスト側ライナー、12e2…反スラスト側ライナー、13…コンロッド(ピストン11を往復させる部材)、14…ピストンピン、15…クランクシャフト、16…吸気弁、17…排気弁、18…点火プラグ、19…トップリング、20…セカンドリング、21…オイルリング、EO,EO1,EO2,EO3,EO4,EO5,EO6…オイル、P1…スラスト力、P2…反スラスト力、TS…スラスト側、ATS…反スラスト側、T…スラスト方向、AT…反スラスト方向、U…上方、L…下方、Z…(ピン孔11vの)軸方向、C…(クランクシャフト15の)クランク軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11