(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20220830BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20220830BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20220830BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01L21/78 L
H01L21/90 M
H01L21/316 X
(21)【出願番号】P 2018135135
(22)【出願日】2018-07-18
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏憲
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-191436(JP,A)
【文献】特開2008-243943(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0283933(US,A1)
【文献】特開2004-055852(JP,A)
【文献】特開2005-302985(JP,A)
【文献】特開2019-212703(JP,A)
【文献】特開2017-063223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/768
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上に、シリコン窒化膜と有機膜を積層構造の中に含む保護膜が形成された半導体装置であって、
前記シリコン窒化膜の上に前記シリコン窒化膜よりも厚く前記有機膜が形成され、
平面視において、前記半導体基板の上で前記シリコン窒化膜が形成された領域の内側に前記有機膜の端部が位置するように、前記有機膜が形成され
、
平面視において、前記シリコン窒化膜の端部から見て前記半導体基板の端部がある側と反対側において、前記シリコン窒化膜の端部に沿って延伸し前記半導体基板の表面から掘り下げられた溝が、前記シリコン窒化膜の端部側から、前記半導体基板の端部がある側と反対側に向かって複数列にわたり、前記シリコン窒化膜の端部から、前記半導体基板の端部がある側と反対側に向かうに従い、幅が狭くかつ浅く、前記半導体基板に形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
平面視における前記有機膜の端部と前記シリコン窒化膜の端部との間の間隔は10μm以上200μm以下とされたことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
平面視において、前記シリコン窒化膜の端部が前記半導体基板の端部よりも内側に位置するように、前記シリコン窒化膜が形成され、
平面視における前記シリコン窒化膜の端部と前記半導体基板の端部との間の間隔は50μm以上200μm以下とされたことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体基板の上にシリコン酸化膜が形成され、前記シリコン窒化膜は前記シリコン酸化膜の上に形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板の上にTEOS酸化膜が形成され、前記シリコン酸化膜は前記TEOS酸化膜の上に形成されたことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記有機膜は、ポリイミドで構成されたことを特徴とする請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記半導体基板は、III族窒化物半導体からなる層を含む積層構造を具備することを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ上に多数が形成された後に切断分離されて得られる半導体装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体装置(各種トランジスタや各種ダイオード)を製造するに際しては、大きな半導体ウェハ(半導体基板)中に多くの単体の半導体チップが配列して形成され、最後に半導体チップ間が切断(ダイシング)されることによって、個々の半導体チップ(半導体装置)が分断されて得られる。この切断は、通常は半導体ウェハと交差する円盤状の回転する切断刃(ブレード)を用いて行われる。この際、切断分離された半導体チップ中の端部(切断刃と当接した側)でチッピング(欠け)が発生することがある。チッピングは、ダイシング時に半導体ウェハ中に発生したクラックに起因して発生する。半導体チップにおいて実際の電気的な動作をする領域(動作領域)はこの端部からは離間しているが、チッピングが大きくなると、このような動作や信頼性に対して悪影響を及ぼす。広バンドギャップのIII族窒化物化合物半導体は、パワー半導体素子や発光素子の材料として広く用いられているが、一般的にGaNに代表されるIII族窒化物化合物半導体はシリコン等と比べて加工の際にクラックが発生しやすいため、特にチッピングが発生しやすい。
【0003】
半導体チップにおける動作領域をこのように切断された端部から十分に離間させることによって、チッピングやクラックによる悪影響を低減することができる。しかしながら、この場合には、半導体チップ単体の実質的な面積が大きくなるため、1枚の半導体ウェハから得られる半導体チップの個数が減少し、半導体チップを安価とすることが困難である。
【0004】
このため、特許文献1には、個々の半導体チップ(半導体装置)において表面に形成された酸化膜(シリコン酸化膜)を端部側で除去し、この酸化膜の端部の形状をテーパー形状(ベベルカット形状)とすることにより、チッピングの発生やクラックの半導体チップ側への進展が抑制できることが記載されている。ここで、酸化膜のベベルカット形状は、機械的加工等によって形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術において、ベベルカット形状は、半導体チップの全周にわたり形成されるが、このような機械的加工を全ての半導体チップにおいて正確に全周にわたり行うためには、長時間を要した。また、ここで機械的加工を施す必要があるのは酸化膜の端部のみであるが、例えばこの際に半導体基板が損傷すると、半導体チップの電気的特性や信頼性に対する悪影響が発生した。
【0007】
このため、特許文献1に記載の技術によって、ダイシング時におけるチッピングやクラックの発生が抑制された安価な半導体装置を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、半導体基板の上に、シリコン窒化膜と有機膜を積層構造の中に含む保護膜が形成された半導体装置であって、前記シリコン窒化膜の上に前記シリコン窒化膜よりも厚く前記有機膜が形成され、平面視において、前記半導体基板の上で前記シリコン窒化膜が形成された領域の内側に前記有機膜の端部が位置するように、前記有機膜が形成され、平面視において、前記シリコン窒化膜の端部から見て前記半導体基板の端部がある側と反対側において、前記シリコン窒化膜の端部に沿って延伸し前記半導体基板の表面から掘り下げられた溝が、前記シリコン窒化膜の端部側から、前記半導体基板の端部がある側と反対側に向かって複数列にわたり、前記シリコン窒化膜の端部から、前記半導体基板の端部がある側と反対側に向かうに従い、幅が狭くかつ浅く、前記半導体基板に形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、平面視における前記有機膜の端部と前記シリコン窒化膜の端部との間の間隔は10μm以上200μm以下とされたことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、平面視において、前記シリコン窒化膜の端部が前記半導体基板の端部よりも内側に位置するように、前記シリコン窒化膜が形成され、平面視における前記シリコン窒化膜の端部と前記半導体基板の端部との間の間隔は50μm以上200μm以下とされたことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記半導体基板の上にシリコン酸化膜が形成され、前記シリコン窒化膜は前記シリコン酸化膜の上に形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記半導体基板の上にTEOS酸化膜が形成され、前記シリコン酸化膜は前記TEOS酸化膜の上に形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記有機膜は、ポリイミドで構成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記半導体基板は、III族窒化物半導体からなる層を含む積層構造を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように構成されているので、ダイシング時におけるチッピングやクラックの発生が抑制された安価な半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る半導体装置を製造する際のダイシング時の状況を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る半導体装置を製造する際のダイシング時の状況を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る半導体装置の比較例(a)、実施例のダイシング後の外観写真である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る半導体装置の変形例の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置は、III族窒化物化合物半導体(GaN)からなる層を最上部に具備する半導体基板を用いて半導体素子(HEMT:High Electron Mobility Transistor)が形成され、その表面には、シリコン窒化膜、厚い有機膜(ポリイミド膜)を少なくとも積層構造中に具備する保護膜が形成されている。
【0013】
図1は、この半導体装置1の構造を示す断面図である。ここで用いられる半導体基板10においては、シリコン単結晶で構成されたシリコン基板11の上にバッファ層12を介してGaN層13がエピタキシャル成長によって形成されている。
図1における動作領域Sには、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極等を具備するHEMTが形成されているが、その構造は従来より知られるものと同様であり、本願発明とは無関係であるため、その記載は省略されている。
【0014】
半導体基板10(GaN層13)の表面には、HEMTにおける層間絶縁膜となるTEOS酸化膜21が形成されている。TEOS酸化膜21は、常温で液体であるTEOS(テトラエトキシシラン)を原料として例えばプラズマCVD等によって形成した酸化膜である。TEOS酸化膜21は、シラン(SiH4)を原料とした通常のシリコン酸化膜と比べて、厚く形成できる、段差被覆性が高い、等の異なる特性を具備する。前記の通り、TEOS酸化膜21は層間絶縁層であるため、実際にはその内部に配線等が設けられているが、その記載はここでは省略されている。
【0015】
TEOS酸化膜21の上には、この半導体装置1における保護膜を構成するための積層構造が構成されている。保護膜は、半導体装置1における表面の絶縁性や耐湿性等の確保と、機械的保護のために設けられる。ここでは、まず、TEOS酸化膜21の上に、シランを原料として例えばプラズマCVD等によって形成された酸化膜(シリコン酸化膜)22が形成される。酸化膜22の組成はSiO2に近いSiOxであり、xの値は成膜条件等により異なる。酸化膜22の絶縁性は高いが、透湿性が高く、これによって耐湿性を確保することは困難である。
【0016】
酸化膜22の上には、窒化膜(シリコン窒化膜)23が形成される。窒化膜23は、例えばシランとアンモニア等を原料としたプラズマCVD等によって形成される。窒化膜23の組成はSi3N4に近いSiNyであり、yの値は成膜条件等により異なる。窒化膜23は酸化膜22、TEOS酸化膜22と比べて緻密な構造を具備するために、透湿性が低く、これによって耐湿性を確保することができる。一方、窒化膜23を厚く形成することは困難であるため、窒化膜23のみによって絶縁性や機械的強度を確保することは困難であるために、前記の酸化膜22と組み合わせた積層構造が採用される。
【0017】
また、上記の酸化膜22、窒化膜23を組み合わせた積層構造全体の厚さも、半導体装置1における機械的強度を確保するためには十分ではない。このため、
図1においては、最上層に厚い有機膜24が形成される。有機膜24は、例えばポリイミドで構成され、その成膜方法は酸化膜22、窒化膜23とは異なり、例えば塗布法等によって厚く形成することができる。また、そのパターニングも、例えば有機膜24を感光性ポリイミドで構成した場合には、マスクを用いた露光を行った後に現像することによって、容易に行うことができる。
【0018】
ここで、この半導体装置1においては、その端部側の構造に特徴を有する。
図1において、この半導体装置1(半導体基板10)の端部Eは、ダイシング時のブレードで上下方向に切断されることによって形成される。この際、TEOS酸化膜21は半導体基板10の全面にわたり形成されているが、その上側の酸化膜22、窒化膜23は、端部E側では除去されており、酸化膜22、窒化膜23の端部E1は半導体基板10の端部Eから離間している、すなわち、
図1において、L1>0とされている。更に、窒化膜23の上の有機膜24の端部E2は、酸化膜22、窒化膜23の端部E1よりも内側(端部Eから遠い側)に位置している、すなわち、
図1において、L2>0とされている。
【0019】
図2は、この半導体装置1を製造する際の、ダイシングが行われる際の状況を示す図である。ここでは、大きな半導体ウェハ(半導体基板10)を用いて左右方向で隣接する2つの半導体装置1が形成され、半導体ウェハにおけるこれらの間が切断刃(ブレード)100によって厚さ方向で切断される状況が示されている。
図1の形状に対応して、この状態においては、半導体基板10上のTEOS酸化膜21は半導体基板10の全面にわたり形成されている。一方、酸化膜22、窒化膜23は、チップ(左右両側の半導体装置1)間の切断刃100が当接する箇所(スクライブライン)を挟んで、切断刃100の幅Wよりも広い間隔D1の間隔をもって形成されている。酸化膜22、窒化膜23における間隔D1の空隙は、例えばドライエッチングによって形成される。
【0020】
更に、有機膜24は、スクライブラインを挟んで、D1よりも大きいD2の間隔をもって形成されている。有機膜24における間隔D2の空隙は、例えば、有機膜24を感光性ポリイミドで構成した場合には、マスクを用いた露光、現像を経ることによって形成することができる。
【0021】
図3においては、平面視において半導体チップ(半導体装置1)が縦横で2個ずつ並んだ箇所における上面図を模式的に示す。ここでは、縦方向、横方向に沿ったスクライブラインM(切断刃100)がそれぞれ3本ずつ設けられている。なお、
図3におけるW、D1、D2は、強調して示されており、実際にはこれらの間の差はより小さい。また、実際にダイシングを行う際には切断刃100により1箇所(1本の切断線)毎に切断が行われるが、ここでは便宜上全ての切断箇所における切断刃100が重複して表示されている。
【0022】
上記の構成によって、切断刃100によって切断後の半導体装置1におけるチッピングの発生を抑制することができる。
図4(a)は、上記のようなシリコン基板11、バッファ層12、GaN層13で構成された半導体基板10を用い、
図1におけるL1=50μm、L2=0(
図2におけるD1=D2)とした場合、
図4(b)においては、同様の半導体基板10、W、D1とし、L2=10μm(D2>D1)とした場合における、切断後の半導体装置1の端部付近の外観写真である。L2=10μmとした
図4(b)の場合においては,
図4(a)の場合に発生していたチッピングの発生が抑制されている。
【0023】
この原因は、半導体基板10の端部E付近におけるクラックの進展しやすさに起因すると推定される。まず、高い機械的強度、ヤング率をもつ窒化膜23が半導体基板10の上側に形成されることによって、半導体基板10は補強されるために、クラックは進展しにくくなると考えられる。しかしながら、窒化膜23の内部応力は大きいために、特に窒化膜23の端部E1では半導体基板10における内部応力が急激に変化するために、比較的クラックは発生しやすくなる、あるいは窒化膜23によるクラックの抑制の効果が不十分となる。この際、厚い有機膜24の端部E2を半導体基板10の端部Eからみて窒化膜23の端部E1よりも遠ざけることによって、半導体基板10内の内部応力の変動を緩やかにすることができる。これによって、クラックの進展を抑制し、チッピングを抑制することができる。このため、
図1において、L2≧10μm、特にL2≧20μmとすることが好ましい。また、クラックの動作領域Sへの影響を低減するためには、L1≧50μm、特にL1≧70μm、あるいはL1+L2≧90μmとすることが好ましい。ただし、動作領域Sとしては要求される特性に応じた一定の面積が必要となるため、L1、L2が大きすぎると、実質的にチップ面積が増大し、1枚の半導体ウェハから得られる半導体チップ数が減少し、製造コストが高くなるため、L1≦200μm(特にL1≦150μm)、L2≦200μm(特にL2≦150μm)、あるいはL1+L2≦300μmとすることが好ましい。
【0024】
最上層に形成され、かつ最も厚い有機膜24は、半導体装置の機械的保護という観点からは、半導体基板10の表面における広い領域を覆うことが好ましいと一般的には予想される。しかしながら、上記の構成においては、窒化膜23で覆われる半導体基板10の表面の領域を制限し、かつ有機膜24で覆われる窒化膜23の表面の領域を制限することによって、チッピングやクラックが抑制される。
【0025】
上記の半導体装置1を製造するに際して、切断刃100を用いたダイシングは、従来の半導体装置を製造するに際しても行われていることと変わりがなく、上記の半導体装置1における大きな特徴は、窒化膜23の端部E1と有機膜24の端部E2の位置関係である。ただし、窒化膜23/酸化膜22のパターニングと、有機膜24のパターニングは、従来の半導体装置においてもボンディングパッド等を露出させるために通常行われており、異なるのは、これらのパターニングをする際のパターン(露光時のマスクのパターン)のみである。このため、従来の半導体装置と比べて、上記の半導体装置1を製造する際の製造コストは上昇せず、上記の半導体装置1を安価に得ることができる。更にこの際、上記の半導体装置1においてはチッピングの発生が抑制されるため、チップ歩留まりが向上する。このため、上記の半導体装置1を特に安価に得ることができる。
【0026】
上記の半導体装置1において、半導体基板10の外周部付近の構成を工夫することにより、更にクラックによる素子への悪影響、あるいはクラックの発生を抑制することができる。
図5は、この半導体装置1の構造を
図1に対応させて示す図である。この半導体装置2においては、半導体基板10における積層構成と、半導体基板10上の層間絶縁層、保護膜に関する構成は、前記の半導体装置1と同様である。ここでは、半導体基板10における端部E(端部E1)側において、複数の溝が形成されている点が異なる。
図5においては、図中左側から順に溝T1~T5が形成されている。溝T1~T5は、いずれも端部E1に沿って形成されるため、その平面形状は
図3における端部E1、E2と同心の相似形状とされ、溝T1が最も外側、溝T5が最も内側となる。実際に半導体装置2において電気的に機能する動作領域Sは溝T5よりも更に内側となる。
【0027】
溝T1~T5は、半導体基板10に対してそれぞれ溝T1~T5に対応した開口が設けられたマスクを用いたフォトリソグラフィ(フォトレジスト塗布、露光、現像)を行った後に、ドライエッチングを行うことによって形成される。その後、酸化膜22と同様のシリコン酸化膜を溝T1~T5が埋め込まれる程度に厚く形成した後に、半導体基板10表面のシリコン酸化膜を除去することによって、溝T1~T5の中に埋め込み酸化層30として残存させることができる。その後のTEOS酸化膜21、酸化膜22、窒化膜23、有機膜24の形成、窒化膜23/酸化膜22、有機膜24のパターニングについては、前記の半導体装置1と同様である。
【0028】
この場合において、端部E側からこの半導体基板10にクラックが発生した場合、半導体基板10の端部側から外側のトレンチT1まではクラックが進展することがあっても、トレンチT1の存在により、これよりも内側(図中右側)にトレンチが進展することが抑制される。ただし、このようにトレンチT1が存在すると、半導体基板10におけるその周囲で内部応力が急激に変動するために、前記の窒化膜23の端部E1がある場合と同様に、この部分で半導体基板10にクラックが発生しやすくなることがある。このため、
図5の構成においては、溝T2~T5が設けられ、溝T1から溝T5の表面からの深さは、半導体基板10における内部応力に対する各溝の内部応力に対する影響が徐々に小さくなるように、内側(図中右側)に向かって徐々に浅くなるように設定されている。
【0029】
ここで、溝T1~T5は、ドライエッチングによって同時形成され、その開口幅X1~X5は、X1>X2>X3>X4>X5となるように設定されている。開口幅X1~X5は、マスクにおける開口幅として設定することができる。ここで、図示されるように、どの溝においても溝の深さ/開口幅(アスペクト比)は1よりも十分に大きくなっている。このようにアスペクト比の大きな溝を形成する際には、溝の底面側へのドライエッチングの際の反応性ガスが供給される状況が溝の開口幅に応じて異なるため、開口幅が狭いほど底部側でのエッチング速度が低下する。このため、同時にエッチングされた場合でも、上記の開口幅に応じ、溝X1を最も深く、溝T5を最も浅くすることができる。また、溝T1~T5は、半導体基板10中の内部応力の急激な変動を抑制するために設けられ、半導体装置2における電気的な動作には全く関与しない。このため、溝T1~T5の深さの絶対値に要求される精度は高くない。
【0030】
このため、内部の埋め込み酸化層30を含む上記の溝T1~T5に関わる構造を、容易に形成することができる。なお、上記の例では、各溝の中には埋め込み酸化層30が設けられるものとしたが、他の構造、例えば導電層で埋め込む、溝の内面に酸化膜を形成した上で導電層で埋め込む、等の構造を用いても同様である。また、上記の例では5つの溝T1~T5が用いられたが、その数は適宜設定することができる。
【0031】
また、特に動作領域Sにおいてパワー半導体素子が形成され、動作時において半導体基板10(GaN層13)中の電界強度が高くなる場合には、特に外周部における電界強度を緩和するための溝をガードリングとして設けることがある。こうした場合には、このようなガードリングを上記の溝T1~T5としても用いることができる。また、
図5の例においては、各溝は断面が矩形形状(溝内面の側壁が鉛直方向に沿った形状)とされたが、内径が下側に向かうに従って小さくなるようなテーパー形状としてもよい。こうした形状は、ドライエッチングの条件によって設定することができる。また、
図5における左右方向での溝の間隔は等間隔である必要はなく、この間隔は適宜設定が可能である。例えば、内部応力の変動を小さくするために、内側にむかうに従って間隔が広くなるように設定することができる。また、上記の例では、平面視において溝は動作領域Sにおける全ての側を囲んで形成されるものとした。しかしながら、動作領域の周囲で溝が全周にわたり連続的に形成されている必要はない。
【0032】
また、上記の例では、半導体基板10においてGaN層13が最上部に形成され、GaN層13中に半導体素子が形成されるものとした。しかしながら、半導体基板の構造によらず、上記の構成が有効であることは明らかである。この際、チッピング、クラックが発生しやすい層が半導体基板中に存在する場合には、特に上記の構成は有効である。このため、半導体基板において、化合物半導体(III族窒化物半導体を含む)で構成される層が含まれる場合において、特に上記の構成は有効である。
【符号の説明】
【0033】
1、2 半導体装置
10 半導体基板
11 シリコン基板
12 バッファ層
13 GaN層
21 TEOS酸化膜
22 酸化膜(シリコン酸化膜)
23 窒化膜(シリコン窒化膜)
24 有機膜
30 埋め込み酸化層
100 切断刃(ブレード)
E、E1、E2 端部
M スクライブライン
S 動作領域
T1~T5 溝