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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20220830BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20220830BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/04 B
A63B102:32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018180782
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020048829
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅敏
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6371868(US,B1)
【文献】特開平9-266964(JP,A)
【文献】米国特許第7326472(US,B2)
【文献】登録実用新案第3217472(JP,U)
【文献】特開2002-17908(JP,A)
【文献】特開2010-29660(JP,A)
【文献】特開2014-4098(JP,A)
【文献】特開2000-254260(JP,A)
【文献】特開2002-780(JP,A)
【文献】米国特許第6775723(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04-53/06
A63B 53/00
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部材と、フェース側が開口したヘッド本体とが接続されており、
前記ヘッド本体は、ソール部分を含み、
前記ソール部分の内面側に、前記ヘッド本体よりも比重が大きい重量物が固着されており、
前記重量物の周縁には前記重量物を固定するための溶接部が配置されており、
前記重量物のトウ・ヒール方向の幅に関し、バック側の幅がフェース側の幅よりも小さく形成されており、
前記重量物は、該重量物の平面視において、実質的に直線状の辺からなる多角形状を有し、該辺の数が5個以下であり、
前記ソール部分の前記内面側には、凹部が形成され、かつ、前記重量物は、前記凹部に配置されており、
前記凹部は、前記重量物を収容するための空間を規定する底部と壁部とを有し、
前記壁部は、前記重量物を位置決めするために前記重量物よりもわずかに大きい輪郭形状を有する、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記溶接部は、前記壁部と前記重量物とに跨って配置されている、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記重量物の重量は、前記フェース部材と前記ヘッド本体との合計重量の10%以上である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記重量物は、厚さが10mm以下のプレート状である、請求項1ないし3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記重量物の平面視において、前記重量物の重心は、前記重量物のヘッド前後方向の中心位置よりもフェース側に位置する、請求項1ないし4のいずれか記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記重量物は、その平面視において、前記フェース側の幅が大きい台形状である、請求項1ないし5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部材と、フェース側が開口したヘッド本体とが接続されており、
前記ヘッド本体は、ソール部分を含み、
前記ソール部分の内面側に、前記ヘッド本体よりも比重が大きい重量物が固着されており、
前記重量物の周縁には前記重量物を固定するための溶接部が配置されており、
前記重量物のトウ・ヒール方向の幅に関し、バック側の幅がフェース側の幅よりも小さく形成されており、
前記ソール部分の前記内面側には、凹部が形成され、かつ、前記重量物は、前記凹部に配置されており、
前記凹部は、前記重量物を収容するための空間を規定する底部と壁部とを有し、
前記溶接部が、前記重量物の周縁に配置されており、かつ、前記壁部と前記重量物とに跨って配置されており、
前記溶接部が形成された前記壁部の上面は、前記重量物の上面よりも高く構成されている、
ゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、内部が中空とされたゴルフクラブヘッドが記載されている。このゴルフクラブヘッドは、フェース部材と、フェース側が開口したヘッド本体とを含み、これらが溶接固着されて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5576972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、さらに打球の飛距離を増大させるために、ゴルフクラブヘッドにおいて、低重心化の要請がある。低重心化は、フェースのスイートスポットをフェースセンター(実打点付近)に近づけるので、打球の打出し角度を大きくし、かつ、スピン量を小さくする。したがって、低重心化されたゴルフクラブヘッドも、打球の飛距離の増大をもたらす。
【0005】
ゴルフクラブヘッドを低重心化するために、ヘッド本体の内部のソール部分に重量物を溶接固着することが考えられる。この場合、重量物とヘッド本体との溶接は、ヘッド本体の開口から溶接トーチを挿入して行える。
【0006】
しかしながら、一般に、ヘッド本体の内部という限られたスペースでの溶接作業は、難しい。特に、重量物のバック側(ヘッド後方側)の縁は、ヘッド本体のより奥まった位置にあるので、溶接作業者の手元から遠く、かつ、その位置では溶接トーチの可動域も制限される。なぜなら、ヘッド本体は、典型的に、平面視及び側面視において、いずれもバック側ほど小さく形成されているからである。
【0007】
したがって、溶接トーチの先端部を重量物のバック側の縁に沿って正確に移動させるには、熟練した技術を要し、生産性が悪化するという課題があった。また、重量物の溶接が不十分であると、ボール打撃時の衝撃により、重量物の脱落や異音の発生というおそれがあった。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、生産性を損ねることなく、低重心化を実現しうるゴルフクラブヘッド及びその製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、フェース部材と、フェース側が開口したヘッド本体とが接続されており、前記ヘッド本体は、ソール部分を含み、前記ソール部分の内面側に、前記ヘッド本体よりも比重が大きい重量物が固着されており、前記重量物の周縁には前記重量物を固定するための溶接部が配置されており、前記重量物のトウ・ヒール方向の幅に関し、バック側の幅がフェース側の幅よりも小さく形成されている、ゴルフクラブヘッドである。
【0010】
第2の発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドの製造方法であって、フェース部材と、フェース側が開口しかつソール部分を含むヘッド本体とを準備する工程と、前記ヘッド本体よりも比重が大きく、かつ、前記ゴルフクラブヘッドのトウ・ヒール方向に関して、バック側の幅が、フェース側の幅よりも小さく構成されている重量物を準備する工程と、前記ヘッド本体の前記ソール部分の内面側に前記重量物を配置する工程と、前記ヘッド本体の前記開口から溶接トーチをヘッド本体の内部に挿入し、前記重量物の周縁に溶融金属を配置して前記重量物を前記ヘッド本体に固定する溶接工程と、前記溶接工程の後、前記フェース部材と前記ヘッド本体とを接合する工程とを含む。
【0011】
第1の発明及び第2の発明(以下、これらをまとめて「本発明」ということがある。)の他の態様では、前記ソール部分の前記内面側には、凹部が形成されても良く、前記重量物は、前記凹部に配置されても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記凹部は、壁部によって画定され、前記溶接部は、前記壁部と前記重量物とに跨って配置されても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記重量物の重量は、前記フェース部材と前記ヘッド本体との合計重量の10%以上とされても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記重量物は、厚さが10mm以下のプレート状とされても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記重量物の平面視において、前記重量物の重心は、前記重量物のヘッド前後方向の中心位置よりもフェース側に位置しても良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記重量物は、その平面視において、フェース側の前記幅が大きい台形状とされても良い。
【0017】
本発明の他の態様では、前記重量物は、その平面視において、複数の直線の辺からなる多角形状とされても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明のゴルフクラブヘッドは、フェース部材と、フェース側が開口したヘッド本体とが接続される。また、前記ゴルフクラブヘッドは、前記ヘッド本体の前記ソール部分の内面側に、前記ヘッド本体よりも比重が大きい重量物が固着される。このため、低重心化を図ることができる。
【0019】
さらに、前記ゴルフクラブヘッドには、前記重量物の周縁に、前記重量物を固定するための溶接部が配置される。この溶接部は、前記ヘッド本体のフェース側の開口から溶接トーチをヘッド本体の内部に挿入し、前記重量物の周縁に溶融金属を配置することで得ることができる。
【0020】
ここで、前記重量物のバック側の縁は、前記ヘッド本体の前記開口から離れているため一般的に溶接作業性が悪い箇所ではある。しかしながら、本発明のゴルフクラブヘッド及びその製造方法では、前記重量物のトウ・ヒール方向の幅に関し、バック側がフェース側よりも小さく構成されているので、作業性の低い溶接箇所が少なくなり、生産性の悪化を抑制することができる。
【0021】
したがって、本発明によれば、生産性を損ねることなく、低重心化を実現しうるゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図2図1の平面図である。
図3図2のIII-III線の断面図である。
図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
図5】本実施形態のゴルフクラブヘッドの組立前の分解斜視図である。
図6】ヘッド本体の平面図である。
図7】溶接工程を説明する斜視図である。
図8】(A)~(C)は、重量物の形状を説明するための平面図である。
図9図6のIX-IX線の断面図である。
図10】本実施形態のゴルフクラブヘッドの変形例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、第1の発明(ゴルフクラブヘッド)の実施の一形態が、第2の発明(ゴルフクラブヘッドの製造方法)とともに、図面に基づき説明される。以下に詳述される実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容を理解するためのものであって、本発明は、それらの具体的な構成に限定されるものではない。また、以後の説明では、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0024】
図1~5は、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に、「ヘッド」ということがある。)1の斜視図、平面図、図2のIII-III線の断面図、分解斜視図及び別の分解斜視図をそれぞれ示している。また、図1~3は、基準状態とされたヘッド1が描かれている。
【0025】
[ヘッドの基準状態]
ヘッド1の基準状態とは、ヘッド1が、水平面HPに対して、そのロフト角α(図3)及びライ角(図示省略)に保たれた状態である。基準状態では、図2に示されるように、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、任意の垂直面VP内に配される。垂直面VPに沿った水平な方向yが、ヘッド1のトウ・ヒール方向であり、垂直面VPと直交する水平な方向xがヘッド前後方向とされる。なお、ヘッド1の前側を「フェース側」と、ヘッド1の「後側」をバック側として、それぞれ慣例的に説明される場合がある。また、上記x及びyにともに直交する方向zが、ヘッド上下方向とされる。
【0026】
[ヘッドの基本構成]
図1~5において、本実施形態のヘッド1は、内部に中空部i(図3に示す)を有し、例えば、典型的なウッド型として構成される。ウッド型のヘッドは、ドライバー(#1)の他、少なくともブラッシー(#2)、スプーン(#3)、バフィ(#4)及びクリーク(#5)を含む。また、本実施形態のヘッド1は、先に列挙されたものと番手又は名称が異なっていても、略類似した形状を持つヘッドを含む。本発明の他の実施形態では、ヘッド1は、例えば、ユーティリティー型として構成されても良い。
【0027】
本実施形態のヘッド1は、例えば、フェース部2、クラウン部3、ソール部4及びサイド部5を含んでおり、さらに、内部に重量物40を含んでいる。
【0028】
フェース部2の前面は、ボールを打撃するための打撃面であるフェース2aとして機能する。クラウン部3は、フェース部2に連なってヘッド上面を構成している。ソール部4は、フェース部2に連なってヘッド底面を構成している。サイド部5は、クラウン部3とソール部4との間を接続し、ヘッド側面を構成している。サイド部5のトウ側及びヒール側は、それぞれ、フェース部2のトウ側及びヒール側に接続されている。フェース部2、クラウン部3、ソール部4及びサイド部5により、中空部iが画定される。
【0029】
図1及び図2に示されるように、クラウン部3のヒール側には、例えば、ネック部6が設けられても良い。ネック部6は、シャフト(図示省略)が固定可能なように、シャフト差込孔6aを有する筒状に構成されている。シャフト差込孔6aの軸中心線は、上記シャフト軸中心線CLに対応している。
【0030】
本実施形態のヘッド1は、フェース部材20とヘッド本体30とを含み、これらが互いに接続されている。
【0031】
[フェース部材]
フェース部材20は、図1図5に示されるように、例えば、バック側が開口したカップ状として構成されている。本実施形態のフェース部材20は、フェース部2と、フェース2aの周縁からヘッド後方に延びる返し部7とを含んでいる。このようなフェース部材20は、例えば、鋳造、板材のプレス又は鍛造等によって準備することができる。フェース部材20は、金属材料で構成されており、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼又はアルミニウム合金など種々のものが採用される。本実施形態では、Ti-8Al-1Mo-1V(比重約4.2)が採用されている。
【0032】
本実施形態において、返し部7は、例えば、クラウン部3のフェース側を構成するクラウン側返し部7a、ソール部4のフェース側を構成するソール側返し部7b、トウ側返し部7c及びヒール側返し部7dを含む。
【0033】
[ヘッド本体]
ヘッド本体30は、図3図5に示されるように、フェース側が開口しており、フェース部材20よりもヘッド後方に位置する。この実施形態では、ヘッド本体30は、例えば、カップ状に構成されているが、このような態様に限定されるものではない。また、ヘッド本体30は、その内部空間に、重量物40を配置して溶接を行うために利用できる開口として、フェース側の開口のみを具える。ヘッド本体30は、例えば、金属材料の鋳造品として、各部が一体成形される。また、ヘッド本体30の金属材料としては、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼又はアルミニウム合金など種々のものが採用可能である。好ましい態様では、ヘッド本体30は、フェース部材20と溶接が可能な金属材料とされる。本実施形態のヘッド本体30は、フェース部材20と同一の金属材料で構成されている。
【0034】
本実施形態において、ヘッド本体30は、クラウン部3、ソール部4及びサイド部5それぞれのバック側の主要部を構成するクラウン部分3a、ソール部分4a及びサイド部分5aを含み、さらに、ネック部6を一体に含んでいる。このように、本実施形態のヘッド本体30は、ヘッド1からフェース部材20を除いたバック側の主要部分を構成する。
【0035】
[フェース部材とヘッド本体との接合]
本実施形態では、フェース部材20とヘッド本体30とは、互いの開口部O1及びO2を向き合わせて、その部分で一体に溶接固着されている。これにより、本実施形態のヘッド1は、クラウン部3、ソール部4及びサイド部5等をトウ・ヒール方向に横切って延びる溶接部32(図1~3に示す)が形成される。一般に、溶接部32は、他の部分に比べて厚く構成され、その部分の剛性を高めやすい。一方、本実施形態によれば、溶接部32がフェース2aの周縁からバック側に離れて配置されるため、フェース部2の剛性が過度に高められることが抑制され、ひいては、高い反発性能を実現できる利点がある。なお、この溶接は、予め、重量物40をヘッド本体30に固着した後で行われる。
【0036】
特に限定されるものではないが、より高い反発性能を得るために、図3に示されるように、返し部7のヘッド前後方向の長さL1は、例えば、5mm以上とされ、好ましくは7mm以上とされる。また、特に限定されるものではないが、より高い反発性能を得るために、フェース部材20の返し部7に関しては、クラウン側返し部7a、ソール側返し部7b、トウ側返し部7c及びヒール側返し部7dがネック部6の位置を除いて、環状にほぼ連続していることが好ましい。
【0037】
[重量物]
図3図5に示されるように、ヘッド本体30のソール部分4aの内面側には、重量物40が固着されている。重量物40は、ヘッド本体30よりも大きな比重を有する材料で構成される。したがって、本実施形態のヘッド1は、低重心化を図ることができる。
【0038】
好ましい態様では、重量物40の重量は、フェース部材20とヘッド本体30との合計重量の10%以上とされる。これにより、ソール部4に大きな重量が配分され、ヘッド1のさらなる低重心化が図られる。
【0039】
重量物40としては、例えば、高比重の金属材料が望ましい。具体的には、重量物40は、Wを含む合金が望ましく、とりわけ、W、Ni及びFeを含むタングステン・ニッケル・鉄合金で構成されるのが望ましい。このような合金は、その化学成分中のWの割合を高めるによって、より高い比重を持つように調整され得る。より好ましい態様では、重量物40の比重は、7以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10~15の範囲とされる。
【0040】
図6には、ヘッド本体30の平面図(クラウン部分3aは一部破断されている)が示されている。図6に示されるように、重量物40は、そのトウ・ヒール方向の幅に関し、バック側の幅W2がフェース側の幅W1よりも小さく構成されている。
【0041】
[溶接部]
重量物40の周縁42には重量物40をヘッド本体30に固定するための溶接部50が配置されている。すなわち、重量物40は、ヘッド本体30に溶接部50を用いて固着されている。溶接部50は、ヘッド本体30がフェース部材20に固着される前に、溶接工程により提供される。
【0042】
図7には、上記溶接工程の一例が示されている。図7に示されるように、溶接工程では、まず、作業者が、ヘッド本体30の開口から溶接トーチTをヘッド本体30の内部に挿入する。次に、溶接トーチTのアークを重量物40の周縁42に当てて溶融池を作りながら、そこに溶接棒Bを供給することにより、重量物40の周縁42に連続して溶融金属52が配置される。配置された溶融金属52は、固化して溶接部50(溶接ビード)となる。好適な溶接工程の一例は、作業者によるTIG溶接である。
【0043】
カップ状のヘッド本体30の内部という限られたスペースの中では溶接作業性が悪いが、本実施形態のように、重量物40の幅が規制されることにより、溶接作業性を改善することができる。すなわち、重量物40の幅に関し、溶接が比較的容易に行えるフェース側の幅W1を大きくする一方、溶接作業性の悪いバック側の幅W2を小さくすることで、重量物40の体積を十分に確保しつつ、溶接作業性を向上させることができる。したがって、本実施形態のヘッド1及びその製造方法によれば、生産性を損ねることなく、高い反発性と低重心化を実現しうるヘッド1を提供することができる。
【0044】
本実施形態の重量物40は、その平面視において、フェース側の幅W1が大きい台形状とされる。したがって、この実施形態では、重量物40のトウ・ヒール方向の幅は、フェース側からバック側に向かって連続的に減少する。一方、重量物40は、バック側の幅W2がフェース側の幅W1よりも小さく構成されていれば、図8(A)~(C)に示されるように、様々な平面形状が採用されても良い。特に、図8(C)のように、バック側の幅W2は、ゼロでも良い。
【0045】
本実施形態では、重量物40の前記幅に関し、バック側の幅W2がフェース側の幅W1よりも小さく構成されていれば良いが、好ましくは、W2/W1が小さいことが望ましく、とりわけ0.9以下、より好ましくは0.8以下が望ましい。
【0046】
好ましい態様では、重量物40は、その平面視において、本質的に、複数の直線の辺からなる多角形状であるのが望ましい。これにより、溶接工程において、溶接トーチTの動きが直線的になり、手作業でも安定した操作が可能になるため、作業性がさらに向上する。なお、複数の直線の辺からなる多角形状の態様には、溶接作業性を悪化させない程度の小さい円弧状の面取り(例えば曲率半径が5mm程度)が、重量物40の平面視における各コーナ部に設けられているものが含まれる。なお、多角形状の重量物40とする場合、辺の数が過度に多くなると、溶接工程が煩雑化する傾向があるので、好ましくは五ないし四角形状が望ましい。
【0047】
また、本実施形態の重量物40は、バック側の幅W2がフェース側の幅W1よりも小さく構成されているため、図8に示されるように、重量物40の重心Gは、重量物40のヘッド前後方向の中心位置よりもフェース側に位置する。これは、例えば、ヘッド1の重心深度を浅くし、フェース2aのスイートスポットが高くなるのを効果的に防ぐのにも役立つ。
【0048】
また、ヘッド1のさらなる低重心化を図るためには、重量物40の厚さt(図5に示す)は、極力小さくすることが好ましい。好ましい態様では、重量物40において、厚さtは、10mm以下、より好ましくは5mm以下の薄いプレート状とされる。このような態様によれば、ヘッド1のさらなる低重心化を図ることができる。
【0049】
なお、重量物40に十分な重量を与えるためには、ある程度の体積を維持する必要もある。重量物40の薄肉化と十分な体積の確保という2つの要請を満足させるためには、重量物40は、平面視において、より大きな面積を持つ必要があり、ひいては、そのバック側の縁42bは、ヘッド本体30の開口部O2からよりバック側へと遠ざかる傾向がある。しかしながら、本実施形態の製造方法によれば、このような態様においても、ヘッド1の生産性の悪化を十分に抑制することができる。
【0050】
図9には、図6のIX-IX線の断面図が示されている。図9に示されるように、本実施形態の溶接部50は、ヘッド本体30側と一体に溶融し、重量物40とは互いに溶融していない。重量物40の比重を高めた場合、W等の成分の増加により、他の金属材料との溶接性が低下するからである。本実施形態の溶接部50は、重量物40の表面に密に接触することで、そのヘッド前後方向x、トウ・ヒール方向y又は上下方向zなどの移動を拘束するように機能している。
【0051】
好ましい態様では、図5及び図9に示されるように、ヘッド本体30のソール部分4aの内面側には、凹部34が形成され、重量物40は、この凹部34に配置されている。凹部34は、重量物40を位置決めするために、重量物40よりもわずかに大きい輪郭形状を有する壁部35によって画定される。
【0052】
好ましい態様では、溶接部50は、壁部35と重量物40とに跨って配置されている。これにより、溶接部50は、重量物40を上側から拘束するので、重量物40の上下移動を抑止することができる。また、溶接部50は、流動性を有する溶融金属の状態では、壁部35と重量物40との間の微小隙間に浸透し、両者の間の隙間をなくすように機能する。これは、重量物40とヘッド本体30との間のヘッド前後方向及びトウ・ヒール方向のガタツキを減じ、打撃時の異音の発生などを効果的に抑制するのに役立つ。なお、溶接部50による重量物40の拘束効果を高めるために、壁部35の上面は、重量物40の上面よりも高く構成されているのが望ましい。
【0053】
さらに好ましい態様では、凹部34に重量物40を配置する前に、凹部34の表面に、予め、ろう材などを配置する工程を含むことができる。ろう材は、溶接工程での熱によって溶融し、流動して凹部34と重量物40との間の隙間に進入して固化するため、両者の間の隙間をさらに小さくするのに役立つ。
【0054】
溶接部50は、ヘッド本体30及び重量物40の金属材料の組合せによっては、ヘッド本体30及び重量物40にともに溶融しかつ固化するものでもよい。
【0055】
[変形例]
図10には、ヘッド1の変形例の分解斜視図が示される。図10の変形例では、ヘッド1は、板状のフェース部材20と、フェース側が開口したヘッド本体30とが接続されて構成されるものである。フェース部材20は、フェース部2の主要部を構成するもので、例えば、フェース部2の輪郭と同じか、それよりもわずかに小さい輪郭形状を有しており、図4の実施形態のような返し部7を有していない態様が示される。一方、ヘッド本体30は、この板状のフェース部材20を除いて、本質的に、ヘッド1の残余の部分を構成している。ヘッド本体30は、その内部に重量物40を配置しかつ溶接固着するために利用可能な開口としては、フェース側の開口部O2のみを有している。このような変形例では、ヘッド本体30のフェース側の開口部O2が、先の実施形態よりも小さくなる場合もあるが、本発明を適用することで、生産性の悪化が防止できる。このように、本発明の技術思想は、フェース側に開口を有するヘッド本体30を用いて作られる様々なヘッド1に適用することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の態様で実施しうるのは言うまでもない。また、本明細書において、ある実施形態で説明された要素及びそれらの変形例は、明示がなくても、他の実施形態で示された対応する要素に適用することが意図されていると理解されなければならない。
【符号の説明】
【0057】
1 ゴルフクラブヘッド
20 フェース部材
30 ヘッド本体
34 凹部
35 壁部
40 重量物
50 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10