(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】フロントデフレクタ
(51)【国際特許分類】
B62D 37/02 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B62D37/02 A
(21)【出願番号】P 2018242858
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 章博
(72)【発明者】
【氏名】別所 正昭
(72)【発明者】
【氏名】野村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】和泉 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貴史
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150913(JP,A)
【文献】特開2016-002827(JP,A)
【文献】特開2017-024446(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150667(WO,A1)
【文献】特開2018-144637(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014008384(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299006(US,A1)
【文献】特開2002-293207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
B62D 35/00
B60R 19/48
B62D 25/20
B62D 25/08
B62D 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における前輪よりも前方の下面に設けられたフロントデフレクタであって、
車両前方に向けて開口し、上記車両の前進走行時に上記フロントデフレクタの内部空間に空気を取り入れるための空気取入口と、
上記空気取入口から上記内部空間に取り入れた空気を、該内部空間内で車両後側かつ車幅方向外側に指向させるガイド部と、
上記車両の正面視で前輪と重複する位置において車両後方に向けて開口し、上記内部空間の空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する空気排出口とを備えていることを特徴とするフロントデフレクタ。
【請求項2】
請求項1記載のフロントデフレクタにおいて、
上記フロントデフレクタの下面に、下側に突出しかつ上記車両の前進走行時に生じる走行風を車両前側の端面により車幅方向外側へガイドするフィン部が設けられており、
上記空気排出口は、上記フィン部の車両後側の端面に開口していることを特徴とするフロントデフレクタ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフロントデフレクタにおいて、
上記空気排出口は、上記空気取入口よりも車幅方向外側に位置していることを特徴とするフロントデフレクタ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のフロントデフレクタにおいて、
上記フロントデフレクタは、上側部材と下側部材との上下2部材で構成され、
上記下側部材は、その周縁部で上記上側部材に固定されているとともに、該周縁部以外の部分に、上記上側部材に引っ掛けられる引掛部を有していることを特徴とするフロントデフレクタ。
【請求項5】
請求項4記載のフロントデフレクタにおいて、
上記ガイド部は、上記下側部材に立設された立壁部で構成されており、
上記引掛部は、上記立壁部の上端面に設けられていることを特徴とするフロントデフレクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における前輪よりも前方の下面に設けられたフロントデフレクタに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の燃費向上を目的として、前輪による気流の乱れを抑制することが行われている。この気流の乱れは、車両の前進走行時に車両の前部の床下を通って前輪に達した走行風が、前輪の回転によってかき乱されることで生じる。
【0003】
例えば特許文献1では、車両(自動車)の前進走行時に生じる走行風が前輪に極力当接しないように、車両における前輪ホイールハウスよりも前方の下面に、フロントデフレクタを装着するようにしている。このフロントデフレクタは、車両における前輪ホイールハウスよりも前方の下面から下側に突出するように上下方向に延びる壁部を有し、この壁部に走行風を当てるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、更なる空力特性の向上に向け、鋭意分析を行った。その結果、上記特許文献1のようなフロントデフレクタを前輪の前側に設けたとしても、前輪の車幅方向外側の端面が、通常、フロントデフレクタの上下方向に延びる壁部の車幅方向外側の端よりも車幅方向外側に位置するため、そのフロントデフレクタの壁部に対して車幅方向外側を通過した走行風が、前輪の車幅方向外側部分に当たることが明らかになった。
【0006】
そこで、フロントデフレクタの下面に、下側に突出しかつ走行風を車幅方向外側へガイドするフィン部を設けることが考えられる。このフィン部は、例えば、上記特許文献1のフロントデフレクタの壁部の車両前側の端面を、車幅方向外側ほど車両後側に位置するように傾斜させることで構成することができる。このようなフィン部によって、フィン部の車両前側の端面に当たった走行風を車幅方向外側に偏向させて、その偏向された走行風が、フィン部に対して車幅方向外側を通過する走行風と共に、前輪に対して車幅方向外側を通るようにする。
【0007】
しかしながら、フロントデフレクタに上記のようなフィン部を設けたとしても、前輪の車幅方向外側の端面とフロントデフレクタのフィン部の車幅方向外側の端との位置関係によっては、フィン部により偏向された走行風が前輪に当たる場合があり、車両の空気抵抗をより低減するためには、改良の余地がある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両の前進走行時に生じる走行風が前輪に当たるのを出来る限り抑制可能なフロントデフレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、車両における前輪よりも前方の下面に設けられたフロントデフレクタを対象として、車両前方に向けて開口し、上記車両の前進走行時に上記フロントデフレクタの内部空間に空気を取り入れるための空気取入口と、上記空気取入口から上記内部空間に取り入れた空気を、該内部空間内で車両後側かつ車幅方向外側に指向させるガイド部と、上記車両の正面視で前輪と重複する位置において車両後方に向けて開口し、上記内部空間の空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する空気排出口とを備えている、という構成とした。
【0010】
上記の構成により、空気取入口からフロントデフレクタの内部空間に空気が取り入れられ、その内部空間内でガイド部により空気が車両後側かつ車幅方向外側に指向され、その指向された空気が、空気排出口から車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出される。空気排出口から排出された空気(走行風)は、ガイド部により指向される向きによって、前輪に当たらないようにすることができる。また、空気排出口から排出された走行風は、フロントデフレクタに対して車幅方向外側を通過した走行風を、前輪に当たらないように車幅方向外側へ押し出すようになる。したがって、走行風が前輪に当たるのを出来る限り抑制することができる。
【0011】
上記フロントデフレクタにおいて、上記フロントデフレクタの下面に、下側に突出しかつ上記車両の前進走行時に生じる走行風を車両前側の端面により車幅方向外側へガイドするフィン部が設けられており、上記空気排出口は、上記フィン部の車両後側の端面に開口している、ことが好ましい。
【0012】
このことにより、フィン部によって、フィン部の車両前側の端面に当たった走行風を車幅方向外側に偏向させることができ、このフィン部により偏向された走行風が、フロントデフレクタに対して車幅方向外側を通過した走行風を車幅方向外側へ押し出す。ここで、フロントデフレクタが空気取入口、ガイド部、及び空気排出口を備えていない構成では、フィン部により偏向された走行風が前輪に当たる場合がある。しかし、本発明では、空気排出口から排出された空気(走行風)が、フィン部により偏向された走行風を、前輪に当たらないように車幅方向外側へ押し出す。これにより、フロントデフレクタに対して車幅方向外側を通過した走行風も、前輪に当たらないように車幅方向外側へ押し出される。また、空気排出口がフィン部の車両後側の端面に開口していることで、空気排出口の開口面積を大きくして、空気排出口からの空気の排出量を多くすることができる。これにより、フィン部により偏向された走行風が、前輪により一層当たり難くなる。
【0013】
上記フロントデフレクタにおいて、上記空気排出口は、上記空気取入口よりも車幅方向外側に位置している、ことが好ましい。
【0014】
このことで、ガイド部により車両後側かつ車幅方向外側に指向された空気が、空気排出口から後側に向かって車幅方向外側に斜めにスムーズにかつ勢い良く排出され、空気排出口から排出された走行風が前輪に当たるのを効果的に抑制することができる。また、空気排出口から排出された走行風が、フロントデフレクタに対して車幅方向外側を通過した走行風を、車幅方向外側へ良好に押し出すことができる。
【0015】
上記フロントデフレクタの一実施形態において、上記フロントデフレクタは、上側部材と下側部材との上下2部材で構成され、上記下側部材は、その周縁部で上記上側部材に固定されているとともに、該周縁部以外の部分に、上記上側部材に引っ掛けられる引掛部を有している。
【0016】
すなわち、フロントデフレクタの下側部材は、通常、合成ゴム等のような軟質合成樹脂で構成されるため、下側部材における周縁部以外の部分(特に中央部及びその近傍部分)が下側に変位し易くなる。そこで、下側部材における周縁部以外の部分に引掛部を設けて該引掛部を上側部材に引っ掛けることで、下側部材における周縁部以外の部分の下側への変位を防止することができる。
【0017】
上記一実施形態において、上記ガイド部は、上記下側部材に立設された立壁部で構成されており、上記引掛部は、上記立壁部の上端面に設けられている、ことが好ましい。
【0018】
このことで、引掛部によって下側部材における周縁部以外の部分の下側への変位を防止することができるとともに、ガイド部(立壁部)の変形も防止して、空気を車両後側かつ車幅方向外側へ確実に指向させるようにすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のフロントデフレクタによると、車両の前進走行時に生じる走行風が前輪に当たるのを出来る限り抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るフロントデフレクタが設けられた車両の前部の一部(左前側部分)を示す斜視図である。
【
図4】フロントデフレクタ及びマットガードの車両前側部分の下部を車両後側から見た図である。
【
図5】フロントデフレクタにおける上側部材、下側部材及びクリップを示す分解斜視図である。
【
図6】フロントデフレクタにおける下側部材を示す斜視図である。
【
図7A】本実施形態のフロントデフレクタと同様のフロントデフレクタを、車両における前輪よりも前方の下面に設けて、前輪の前側部分の圧力を測定した結果と、走行風の流れとを示す図である。
【
図7B】
図7Aのフロントデフレクタに代えて、空気取入口、立壁部、及び空気排出口を備えていないフロントデフレクタ(形状は
図7Aのフロントデフレクタと同じ)を、
図7Aと同じ車両の同じ位置に設けて、前輪の前側部分の圧力を測定した結果と、走行風の流れとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1~
図3は、本発明の実施形態に係るフロントデフレクタ30が設けられた車両1(本実施形態では、自動車)の前部2の一部(左前側部分)を示す。以下、車両1についての前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。また、以下の説明で左右一対あるもの(例えば前輪3)は、左側のものしか図示していない。尚、
図1中、矢印Frは、車両1の前方を示す(
図3、
図5、
図6、
図7A及び
図7Bにおいても同様)。
【0023】
車両1の前部2は、車両1の運転者が乗り込む客室部分よりも前側の部分であって、エンジン、トランスミッション、冷却装置、懸架装置、舵取り装置、左右一対の前輪3等のような、車両1の走行に関わる構成部品を搭載する搭載空間(エンジンルームを含む)と、前照灯4や霧灯等のような、車両1の前方又は側方に対する灯火類とを有している。
【0024】
また、車両1の前部2は、前部2の左右両側の側面をそれぞれ形成する左右一対のフロントフェンダー5と、左右一対のフロントフェンダー5の前端(車両1の前端)に配設されたフロントバンパー6と、左右一対のフロントフェンダー5及びフロントバンパー6で囲まれた上記搭載空間(エンジンルーム)の上方開口を覆うボンネット7とを有している。
【0025】
フロントバンパー6の車幅方向(左右方向)の両端部は、車両1の前端から左右両側の側方にそれぞれ回り込むコーナ部6aとされている。これら左右のコーナ部6aは、車両1の底面視において、車幅方向外側ほど後側に位置するラウンド形状に形成されている(
図3参照)。
【0026】
左右のフロントフェンダー5の下側に、左右の前輪3がそれぞれ収容される左右一対の前輪ホイールハウス8がそれぞれ設けられている。各前輪ホイールハウス8は、マットガード9で覆われており、該マットガード9によって、前輪3が跳ね上げる汚泥、小石、水滴が上記搭載空間に進入するのが防止される。マットガード9は、例えば、ポリプロピレン等の硬質合成樹脂製であって、車両1の側面視で、前輪3の上側部分に沿うように略円弧状に形成されている。
【0027】
車両1の前部2における下面(底面)には、前側アンダーカバー21と、その後側に位置する後側アンダーカバー22とが設けられている。後側アンダーカバー22は、車幅方向に延びる不図示のサスペンションクロスメンバの前側に位置していて、上記エンジンの下側を覆っている。
【0028】
図1~
図4に示すように、車両1の前部2における前輪3よりも前方の下面には、左右一対のフロントデフレクタ30が設けられている。各フロントデフレクタ30は、前輪ホイールハウス8の前端(マットガード9の前端)と、フロントバンパー6と、前側アンダーカバー21とで囲まれた部分に設けられている。すなわち、各フロントデフレクタ30は、車両1における前輪ホイールハウス8よりも前方の下面に、前輪3の前方に間隔を隔てて設けられている。各フロントデフレクタ30は、車両1の前進走行時に生じる走行風が前輪3に当たらないようにして、車両1の空気抵抗を低減するものである。
【0029】
左右のフロントデフレクタ30は、車両1の車幅方向中央に対して対称の位置に取り付けられているとともに、車両1の車幅方向中央に対して対称の形状に形成されている。左右のフロントデフレクタ30の構成は、基本的に同じであるので、以下では、左側のフロントデフレクタ30について詳細に説明する。また、以下に説明する左側のフロントデフレクタ30についての前、後、左、右、上及び下は、それぞれ、左側のフロントデフレクタ30が車両1に設けられた状態での前、後、左、右、上及び下のことであり、車両1についての前、後、左、右、上及び下と同じである。
【0030】
本実施形態では、左側のフロントデフレクタ30(以下、フロントデフレクタ30という)は、
図5に示すように、上側部材31と下側部材32との上下2部材で構成されている。上側部材31は、金属の板材で形成され、下側部材32は、可撓性を有する合成ゴム等の軟質合成樹脂で形成されている。
【0031】
上側部材31は、車両1の底面視においてフロントバンパー6のコーナ部6aと同様の形状(ラウンド形状)に形成された、前端から車幅方向外側の端にかけての曲線状縁部31aを有している(
図3参照)。この曲線状縁部31aが、コーナ部6aの下面に複数箇所でボルト37により取付固定されている。上側部材31の後端縁部は、上側に折り曲げられた折曲部31bとされている。
【0032】
下側部材32は、上側部材31の曲線状縁部31aの内側に位置する、曲線状縁部31aと同様のラウンド形状に形成された曲線状縁部32aを有し、この曲線状縁部32aが複数箇所でクリップ38により上側部材31に取付固定されている。
【0033】
下側部材32の車幅方向内側の端縁部は、上側部材31の車幅方向内側の端縁部と上下に重ねられて、上側部材31に複数箇所でボルト39により取付固定されている。上側部材31及び下側部材32の車幅方向内側の端縁部は、前側アンダーカバー21及び後側アンダーカバー22上に支持されている。
【0034】
下側部材32の後端縁部は、上側に立ち上がる縦壁部32bとされ、この縦壁部32bが、複数箇所でクリップ40により上側部材31の折曲部31bに取付固定されている。マットガード9の前端部も、クリップ40により縦壁部32bと共に折曲部31bに取付固定されている(
図4参照)。
【0035】
このように下側部材32は、その周縁部の複数箇所でクリップ38,40及びボルト39により上側部材31に固定されていることになる。また、下側部材32は、上記周縁部以外の部分に、上側部材31に引っ掛けられる引掛部32cを有している。本実施形態では、引掛部32cは、後述の立壁部32hの上端面から上側に延びるように設けられている。引掛部32cには、クリップ部材34が挿通されるクリップ挿通孔32dが形成されている。
【0036】
下側部材32が上側部材31に固定される際、引掛部32cが、上側部材31に形成された貫通孔31cを通って上側部材31の上側に露出する。上側部材31の上面において貫通孔31cの側方には、クリップ挿通孔31dが形成された突出部31eが設けられている。上側部材31の上側に露出した引掛部32cのクリップ挿通孔32dは、突出部31eのクリップ挿通孔31dと対向することになり、これらクリップ挿通孔32d,31dにクリップ部材34を挿通することで、クリップ部材34がクリップ挿通孔32d,31dに係合され、これにより、引掛部32cが上側部材31に引っ掛けられることになる。
【0037】
下側部材32における周縁部以外の部分は、該周縁部よりも下側に凹む凹部32eとされ、下側部材32が上側部材31に取付固定された状態にあるとき、凹部32eの上側の開口が上側部材31により塞がれることで、凹部32eが、上側部材31と下側部材32との間に形成される内部空間とされる。
【0038】
フロントデフレクタ30の下面(下側部材32の下面)における後側端部でかつ車幅方向外側の部分には、下側に突出しかつ車両1の前進走行時に生じる走行風を前側の端面により車幅方向外側へガイドするフィン部32fが設けられている。このフィン部32fの前側端面に、走行風が当たる。フィン部32fの前側端面は、車幅方向外側の端部を除いて、車幅方向外側ほど後側に位置するように傾斜し、フィン部32fの前側端面における車幅方向外側の端部は、車幅方向外側に略真っ直ぐに延びている。フィン部32fの車幅方向外側の端は、前輪3(ここでは、左側の前輪3)の車幅方向外側の端面よりも車幅方向内側に位置する(
図2及び
図3参照)。
【0039】
下側部材32の凹部32eにおいて、フィン部32fに対応する部分の凹み量が、他の部分の凹み量よりも大きくなっている。フィン部32fの後側の端面は、縦壁部32bで構成される。
【0040】
フロントデフレクタ30(詳細には、下側部材32)は、前方に向けて開口しかつ車両1の前進走行時にフロントデフレクタ30の内部空間(凹部32e)に空気を取り入れるための空気取入口32g(
図1~
図3、
図5及び
図6参照)と、この空気取入口32gから内部空間に取り入れた空気を、内部空間内で後側かつ車幅方向外側に指向させるガイド部としての立壁部32h(
図5及び
図6参照)と、フィン部32fの後側の端面(縦壁部32b)に後方に向けて開口し、内部空間の空気を、後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する空気排出口32i(
図4~
図6参照)とを備えている。
【0041】
空気排出口32iは、空気取入口32gよりも車幅方向外側に位置しているとともに、車両1の正面視で前輪3と重複する位置に位置している。空気取入口32gは、前輪3よりも車幅方向内側に位置している。
【0042】
また、空気排出口32iの開口面積(特に上下方向の長さ)が、空気取入口32gの開口面積(特に上下方向の長さ)よりも大きくされている。この構成は、空気排出口32iがフィン部32fの後側の端面に開口していることで、可能になる。
【0043】
図5及び
図6に示すように、立壁部32hは、凹部32eの底部に立設されていて、空気取入口32gに対して車幅方向内側の近傍部分から、空気排出口32iに対して車幅方向内側の近傍部分に向かって、後側に向かって車幅方向外側に傾斜して延びている。立壁部32hの、前後方向に対する車幅方向外側への傾斜角は、立壁部32hにより指向される空気(走行風)が、空気排出口32iから排出された後に前輪3に当たらないように設定されている。
【0044】
立壁部32hによって、フロントデフレクタ30の内部空間は、車幅方向において内側空間部と外側空間部とに区画され、外側空間部が空気流通路とされる。空気取入口32g及び空気排出口32iは、外側空間部に連通することになる。
【0045】
下側部材32は、軟質合成樹脂で形成されているので、変形し易い。そこで、凹部32eの底部における立壁部32hの内側空間部側には、立壁部32hが風圧によって内側空間部側に変位しないように、立壁部32hに対して垂直な方向に延びる複数のリブ32jが立設されている。また、上記のように、下側部材32における周縁部以外の部分に、上側部材31に引っ掛けられる引掛部32cが設けられていることで、下側部材32における周縁部以外の部分(特に中央部及びその近傍部分)の下側への変位が防止される。さらに、引掛部32cが立壁部32hの上端面に設けられていることで、下側部材32における周縁部以外の部分の下側への変位が防止されることに加えて、立壁部32hの変形も防止される。尚、引掛部32cは、立壁部32hの長手方向の中央部又はその近傍部分に設けることが好ましい。
【0046】
上記のフロントデフレクタ30の構成により、空気取入口32gからフロントデフレクタ30の内部空間(凹部32e)に空気が取り入れられ、その内部空間内で立壁部32hにより空気が後側かつ車幅方向外側に指向され、その指向された空気(走行風)が、空気排出口32iから後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出される(
図3に示す、フロントデフレクタ30の内部空間を通過する走行風の流れF2を参照)。立壁部32hにより走行風が指向されることによって、その走行風は、空気排出口32iから排出された後に前輪3には当たらない。また、フィン部32fの後側の空間の気圧は、その空間の前のフィン部32fによって負圧になり易い。さらに、空気排出口32iがフィン部32fの後側の端面に開口しているとともに、空気取入口32gよりも車幅方向外側に位置しているので、フロントデフレクタ30の内部空間を通過しながら立壁部32hにより指向された走行風は、空気排出口32iから後側に向かって車幅方向外側に斜めにスムーズにかつ勢い良く排出される。
【0047】
一方、フィン部32fによって、フィン部32fの前側の端面に当たった走行風は、車幅方向外側に偏向される。ここで、フロントデフレクタ30が、本実施形態のような空気取入口32g、立壁部32h、及び空気排出口32iを備えていない場合、フィン部32fにより偏向された走行風は、最終的には後側に曲がる。前輪3の車幅方向外側の端面がフィン部32fの車幅方向外側の端に対して大きく車幅方向外側にずれている場合には、フィン部32fにより偏向されて後側に曲がった走行風が、前輪3に当たる場合がある。
【0048】
しかし、本実施形態では、空気排出口32iから排出された走行風によって、フィン部32fにより偏向された走行風が、前輪3に当たらないように車幅方向外側へ押し出される(
図3に示す、フィン部32fにより偏向された走行風の流れF1を参照)。これにより、フロントデフレクタ30(フィン部32f)に対して車幅方向外側を通過した走行風も、前輪3に当たらないように車幅方向外側へ押し出される。したがって、フィン部32fにより偏向された走行風及びフロントデフレクタ30(フィン部32f)に対して車幅方向外側を通過した走行風も、前輪3に当たらなくなる。
【0049】
図7Aは、本実施形態のフロントデフレクタ30と同様のフロントデフレクタを、車両における前輪よりも前方の下面に設けて、前輪の前側部分の圧力を測定した結果と、走行風の流れとを示す。一方、
図7Bは、
図7Aのフロントデフレクタに代えて、フロントデフレクタ30のような空気取入口32g、立壁部32h、及び空気排出口32iを備えていないフロントデフレクタ(形状は
図7Aのフロントデフレクタと同じ)を、
図7Aと同じ車両の同じ位置に設けて、前輪の前側部分の圧力を測定した結果と、走行風の流れとを示す。いずれも測定時の車両の速度は、100km/hである。
【0050】
図7Bでは、前輪の前側部分においてフロントデフレクタのフィン部と同じ高さ位置における車幅方向外側部分の圧力がかなり高くなっている(濃い色になっている)。これは、その圧力が高くなっている部分に、フロントデフレクタのフィン部により偏向された走行風が当たっているからである。また、
図7Bでは、前輪の側方において走行風が乱れて渦が発生していることが分かる。
【0051】
これに対し、
図7Aでは、前輪の前側部分においてフロントデフレクタのフィン部と同じ高さ位置では車幅方向全体に亘って圧力が低くなっている(薄い色になっている)。このことは、空気排出口から排出された走行風、フィン部により偏向された走行風、及び、フロントデフレクタ(フィン部)に対して車幅方向外側を通過した走行風のいずれも、前輪に当たっていないことを示す。すなわち、フィン部により偏向された走行風が、空気排出口から排出された走行風によって車幅方向外側へ押し出されて、前輪に当たらなくなったと考えられる。また、
図7Aでは、前輪の側方において走行風の乱れが殆どなく、渦も殆ど発生していないことが分かる。
【0052】
したがって、本実施形態では、フロントデフレクタ30が、空気取入口32gと、空気取入口32gからフロントデフレクタ30の内部空間に取り入れた空気を、該内部空間内で後側かつ車幅方向外側に指向させるガイド部としての立壁部32hと、上記内部空間の空気を、後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する空気排出口32iとを備えているので、車両1の前進走行時に生じる走行風が前輪3に当たるのを出来る限り抑制することができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態では、フロントデフレクタ30が、走行風を前側の端面により車幅方向外側へガイドするフィン部32fを備えているが、このフィン部32fはなくてもよい。このようなフィン部32fがなくても、空気排出口32iから排出された走行風が、フロントデフレクタ30に対して車幅方向外側を通過した走行風を、前輪3に当たらないように車幅方向外側へ押し出すことができる。
【0055】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、車両における前輪よりも前方の下面に設けられたフロントデフレクタに有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
3 前輪
8 前輪ホイールハウス
30 フロントデフレクタ
31 上側部材
32 下側部材
32c 引掛部
32e 凹部(内部空間)
32f フィン部
32g 空気取入口
32h 立壁部(ガイド部)
32i 空気排出口