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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット用銅素材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220830BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20220830BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20220830BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C9/00
H01L21/285 S
C22F1/08 A
C22F1/00 613
C22F1/00 624
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 686A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018244225
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105563
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 訓
(72)【発明者】
【氏名】秋山 好之
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-31064(JP,A)
【文献】特開2006-73863(JP,A)
【文献】特開平8-3664(JP,A)
【文献】特開2013-19010(JP,A)
【文献】特開2018-59171(JP,A)
【文献】特開平11-158614(JP,A)
【文献】特開2007-23390(JP,A)
【文献】特開2014-201814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 9/00
H01L 21/285
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分を除いたCuの純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とされ、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を合計で2massppm超え10massppm未満の範囲で含有することを特徴とするスパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項2】
前記添加元素として、Pを少なくとも2massppmを超えて含有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項3】
ガス成分であるOの含有量が1massppm未満、Hの含有量が1massppm未満、Nの含有量が1massppm未満、Sの含有量が10massppm未満、Clの含有量が1massppm未満とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項4】
円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項5】
円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット用銅素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等における配線膜等として使用される銅膜を形成する際に用いられるスパッタリングターゲット用銅素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等の配線膜としてAlが広く使用されている。最近では、配線膜の微細化(幅狭化)および薄膜化が図られており、従来よりも比抵抗の低い配線膜が求められている。
そこで、上述の配線膜の微細化および薄膜化にともない、Alよりも比抵抗の低い材料である銅(Cu)からなる配線膜が提供されている。特に、導電性が要求される用途においては、純度の高い純銅からなる配線膜が使用される。
【0003】
ところで、上述の配線膜は、通常、スパッタリングターゲットを用いて真空雰囲気中で成膜される。
スパッタリングターゲットを用いて成膜を行う場合、スパッタリングターゲット内の異物に起因して異常放電(アーキング)が発生することがあり、そのため均一な配線膜を形成できないことがある。ここで異常放電とは、正常なスパッタリング時と比較して極端に高い電流が突然急激に流れて、異常に大きな放電が急激に発生してしまう現象であり、このような異常放電が発生すれば、パーティクルの発生原因となったり、配線膜の膜厚が不均一となったりしてしまうおそれがある。したがって、成膜時の異常放電はできるだけ回避することが望まれる。
【0004】
ここで、上述の銅膜を成膜するスパッタリングターゲットとしては、例えば特許文献1-3に開示されたものが提案されている。
【0005】
特許文献1には、純度が99.995wt%以上である純銅において、実質的に再結晶組織を有し、平均結晶粒径が80ミクロン以下であり、かつビッカース硬度が100Hv以下とされたスパッタリング用銅ターゲットが提案されている。
この特許文献1においては、再結晶組織として結晶粒を微細化するとともに歪量を低減することにより、粗大クラスタの発生を抑制し、さらに、銅粒子の方向性を揃えて銅配線を均一に成膜することを目的としている。
【0006】
また、特許文献2には、電気銅からゾーンメルト法により溶解インゴットを作成する工程と、上記溶解インゴットを真空溶解することにより高純度銅インゴットを作成する工程と、上記高純度銅インゴットを100~600℃で熱処理することにより再結晶させる工程と、熱処理した上記高純度銅インゴットに機械加工を施す工程とを具備することにより、酸素含有量が10ppm以下であり、硫黄含有量が1ppm以下であり、鉄含有量が1ppm以下であり、純度が99.999%以上の高純度銅基材から成るスパッタリングターゲットを得るスパッタリングターゲットの製造方法が提案されている。
この特許文献2においては、成膜時における配線膜の流動性が良好であり、緻密で密着性が良好な配線膜を形成することが可能なスパッタリングターゲットを製造することを目的としている。
【0007】
さらに、特許文献3には、純度が99.99mass%以上である純銅からなり、平均結晶粒径が40μm以下であり、EBSD法にて測定した全結晶粒界長さLとΣ3粒界長さLσ3及びΣ9粒界長さLσ9の和L(σ3+σ9)との比率である(Σ3+Σ9)粒界長さ比率(L(σ3+σ9)/L)を28%以上とした熱延銅板が提案されている。
この特許文献3においては、加工性及び疲労特性に優れるともに、成膜時における異常放電の発生を抑制することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-158614号公報
【文献】特開2007-023390号公報
【文献】特開2014-201814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、最近では、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等においては、配線膜のさらなる高密度化が求められており、従来にも増して、微細化および薄膜化された配線膜を安定して形成する必要がある。また、さらなる高速成膜のために高電圧を負荷する必要があり、この場合においても異常放電の発生を抑制することが求められている。
【0010】
ここで、特許文献1に記載されたスパッタリング用銅ターゲットにおいては、再結晶組織として平均結晶粒径を微細化するとともに歪量を低減することが記載されているが、高電圧を負荷した場合に異常放電を十分に抑制できないおそれがあった。
また、特許文献2に記載されたスパッタリングターゲットの製造方法においては、ゾーンメルト法によって純度が99.9995%の溶解インゴットを製造していることから、スパッタリングターゲットの生産効率が大幅に低下してしまうといった問題があった。また、Cuの純度が高くなると、結晶粒が粗大化しやすくなって混粒組織となり、異常放電の原因となるおそれがあった。
さらに、特許文献3に記載された熱延銅板においては、結晶組織を上述のように規定しているが、高電圧を負荷した場合には異常放電を十分に抑制できないおそれがあった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高電圧を負荷した場合であっても異常放電の発生を抑制して安定して成膜を行うことができるとともに、低コストで製造可能なスパッタリングターゲット用銅素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明者ら鋭意検討した結果、スパッタリングターゲットの内部に所定のサイズのボイドが多く存在すると、このボイドを起因として異常放電(アーキング)が発生しやすくなることが分かった。
そして、純銅材に、ガス成分と反応して化合物を生成する添加元素を適量添加することによって、ボイドの生成を抑制可能であるとの知見を得た。
【0013】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のスパッタリングターゲット用銅素材は、ガス成分を除いたCuの純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とされ、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を合計で2massppm超え10massppm未満の範囲で含有することを特徴としている。
【0014】
この構成のスパッタリングターゲット用銅素材においては、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を合計で2massppm超え10massppm未満の範囲で含有するので、ガス成分とこれらの添加元素が化合物を生成することにより、ガス成分を固定でき、ボイドの発生を抑制することが可能となる。これにより、成膜時において、ボイドに起因した異常放電(アーキング)の発生を抑制することが可能となる。
また、ガス成分を除いたCuの純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とされているので、必要以上に高純度化されておらず、比較的低コストで製造することができる。
【0015】
ここで、本発明のスパッタリングターゲット用銅素材においては、前記添加元素として、Pを少なくとも2massppmを超えて含有してもよい。
この場合、前記添加元素としてPを少なくとも2massppmを超えて含有することにより、ガス成分(O、H、N、S、Cl)とPとの化合物を十分に生成することができ、ボイドの生成をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0016】
また、本発明のスパッタリングターゲット用銅素材においては、ガス成分であるOの含有量が1massppm未満、Hの含有量が1massppm未満、Nの含有量が1massppm未満、Sの含有量が10massppm未満、Clの含有量が1massppm未満とされていることが好ましい。
この場合、ガス成分であるO、H、N、S、Clの含有量がそれぞれ上述のように制限されているので、上述の添加元素とガス成分(O、H、N、S、Cl)との化合物を生成させることによって、上述のガス成分を確実に固定でき、より的確にボイドの生成を抑制することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明のスパッタリングターゲット用銅素材においては、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満であることが好ましい。
この場合、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満に制限されているので、ボイドに起因した異常放電(アーキング)の発生を確実に抑制することが可能となる。
【0018】
また、本発明のスパッタリングターゲット用銅素材においては、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満であることが好ましい。
この場合、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満に制限されているので、介在物に起因した異常放電(アーキング)の発生を確実に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高電圧を負荷した場合であっても異常放電の発生を抑制して安定して成膜を行うことができるとともに、低コストで製造可能なスパッタリングターゲット用銅素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】スパッタ面が円筒形状をなすスパッタリングターゲット用銅素材におけるボイド及び介在物の個数密度の測定位置を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲット用銅素材の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】スパッタ面が円形をなすスパッタリングターゲット用銅素材におけるボイド及び介在物の個数密度の測定位置を示す説明図である。
図4】スパッタ面が矩形をなすスパッタリングターゲット用銅素材におけるボイド及び介在物の個数密度の測定位置を示す説明図である。
図5】本発明例1の組織観察結果を示す写真である。(a)が倍率100倍、(b)が倍率1000倍である。
図6】比較例3の組織観察結果を示す写真である。(a)が倍率100倍、(b)が倍率1000倍である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット用銅素材について説明する。
本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材は、半導体装置、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等において配線膜として使用される銅膜を基板上に成膜する際に用いられるスパッタリングターゲットの素材となるものである。なお、スパッタリングターゲット用銅素材としては、円筒形状、円板状、矩形平板状のものがある。
【0022】
本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材においては、円筒面(外周面)がターゲットスパッタ面とされた円筒型スパッタリングターゲットの素材として使用されるものである。
図1に示すスパッタリングターゲット用銅素材においては、軸線Oに沿って延在する円筒形状をなしており、例えば外径Dが140mm≦D≦200mmの範囲内、内径dが100mm≦d≦180mmの範囲内、軸線O方向長さLが80mm≦L≦350mmの範囲内とされている。
【0023】
そして、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材は、ガス成分を除いたCuの純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とされ、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を合計で2massppm超え10massppm未満の範囲で含有する。
なお、本実施形態では、上述の添加元素として、Pを少なくとも2massppmを超えて含有することが好ましい。
【0024】
また、本実施形態では、ガス成分であるOの含有量が1massppm未満、Hの含有量が1massppm未満、Nの含有量が1massppm未満、Sの含有量が10massppm未満、Clの含有量が1massppm未満とされていることが好ましい。
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材においては、組織観察の結果、観察視野内の円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満であることが好ましい。
また、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材においては、組織観察の結果、観察視野内の円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満であることが好ましい。
【0025】
以下に、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材の組成、ボイドの個数密度、介在物の個数密度を上述のように規定した理由について説明する。
【0026】
(Cuの純度:99.99mass%以上99.999mass%未満)
配線膜等として使用される銅膜をスパッタにて成膜する際に、異常放電(アーキング)の発生を抑えるためには、不純物量を極力低減することが好ましい。ただし、Cuの純度を99.999mass%以上に高純度化するためには、製造工程が複雑となり、製造コストが大幅に上昇することになる。また、Cuの純度が高くなると、結晶粒が粗大化しやすくなり、混粒組織となり、かえって異常放電の原因となるおそれがある。
一方、配線膜等として使用される銅膜の特性を確保するためには、Cuの純度を99.99mass%以上とする必要がある。
そこで、本実施形態では、ガス成分を除いたCuの純度を99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とすることにより、製造コストの低減を図るとともに、成膜された銅膜の特性を確保している。
なお、銅膜の特性をさらに確実に確保するためには、Cuの純度の下限を99.993mass%以上とすることが好ましく、99.995mass%以上とすることがさらに好ましい。
一方、製造コストのさらなる低減を図るためには、Cuの純度の上限を99.998mass%以下とすることが好ましく、99.997mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
(P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素:2massppm超え10massppm未満)
上述の添加元素は、ガス成分(O、H、N、S、Cl)と反応して化合物を生成し、ガス成分を固定する。これにより、ガス成分によるボイドの発生を抑制することが可能となる。
ここで、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素の合計含有量が2massppm以下では、ガス成分を十分に固定することができず、ガス成分によるボイドの発生を十分に抑制することができないおそれがある。
一方、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素の合計含有量が10massppm以上となると、添加元素とガス成分を含む化合物が数多く生成し、あるいは化合物が粗大化してしまい、この化合物を起因とした異常放電が発生するおそれがある。
【0028】
このため、本実施形態では、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素の合計含有量を2massppm超え10massppm未満の範囲内としている。
なお、ガス成分によるボイドの発生をさらに抑制するためには、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素の合計含有量の下限を3massppm以上とすることが好ましい。
一方、添加元素とガス成分を含む化合物に起因した異常放電の発生をさらに抑制するためには、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素の合計含有量の上限を8massppm以下とすることが好ましい。
【0029】
(P:2massppm超え)
上述の添加元素の中でも、Pは、銅中への添加が容易であり、かつ、ガス成分と化合物を生成しやすく、ボイドの発生を抑制する効果が高い。
このため、上述の添加元素としてPを少なくとも2massppmを超えて含有することが好ましい。
なお、Pの含有量は3massppm以上とすることが好ましく、5massppm以上とすることがさらに好ましい。
【0030】
(O:1massppm未満、H:1massppm未満、N:1massppm未満、S:10massppm未満、Cl:1massppm未満)
ガス成分であるO、H,N,S,Clの含有量を低く抑えることにより、上述の添加元素によって、これらのガス成分を確実に固定でき、ガス成分によるボイドの発生をより効率的に抑制することが可能となる。
よって、本実施形態においては、ガス成分であるOの含有量を1massppm未満、Hの含有量を1massppm未満、Nの含有量を1massppm未満、Sの含有量を10massppm未満、Clの含有量を1massppm未満に、それぞれ制限することが好ましい。
【0031】
なお、Oの含有量は0.5massppm以下とすることが好ましい。
Hの含有量は0.5massppm以下とすることが好ましい。
Nの含有量は0.5massppm以下とすることが好ましい。
Sの含有量は5massppm以下とすることが好ましい。
Clの含有量は0.5massppm以下とすることが好ましい。
【0032】
(ボイドの個数密度:1個/cm未満)
本実施形態であるスパッタリングターゲット用素材において円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数を少なくすることによって、このボイドに起因した異常放電の発生を十分に抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態においては、組織観察の結果、観察視野内の円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度を1個/cm未満に制限している。
【0033】
ここで、本実施形態のスパッタリングターゲット用銅素材においては、上述のように、軸線Oに沿って延在する円筒形状をなしており、以下のように組織観察を行い、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度を測定している。
図1(a),(b)に示すように、軸線O方向の中央部において、それぞれ円周方向に等間隔(90°間隔)の(1)、(2)、(3)、(4)の位置からブロックを採取し、図1(c)に示すように、これらの4個のブロックを厚さ方向(径方向)に(α)、(β)、(γ)のブロックに3分割して、合計12個の観察試料を採取した。これらの観察試料を研磨して鏡面仕上げとし、光学顕微鏡を用いて組織観察を行い、観察視野内における上述のボイドの個数密度を測定し、これらの12個の観察試料の測定結果の平均値を算出した。
なお、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材においては、円相当径が35μmを超える粗大なボイドについては、上述の観察試料内において観察されないことが好ましい。
【0034】
(介在物の個数密度:1個/cm未満)
本実施形態であるスパッタリングターゲット用素材において円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数を少なくすることによって、この介在物に起因した異常放電の発生を十分に抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態においては、組織観察の結果、観察視野内の円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度を1個/cm未満に制限している。
ここで、介在物の個数密度の測定は、上述のボイドの個数密度と同様の方法で実施することが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材の製造方法の一例について図2を参照して説明する。
【0036】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、ガス成分を除いた銅の純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の銅原料を溶解し、銅溶湯を得る。このとき、銅溶湯をカーボン材と接触させるとともに、アルゴンガスによるガスバブリングを実施することにより、ガス成分(O,H,N,S,Cl)を低減させることが好ましい。
次いで、得られた銅溶湯に、所定の濃度となるようにP,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を添加して、成分調製を行う。
そして、本実施形態では、連続鋳造装置を用いて所定の断面形状(本実施形態では、断面円形状)の鋳塊を製造する。
【0037】
(熱間加工工程S02)
次に、所定の断面形状を有する鋳塊に対して熱間加工を行う。本実施形態では、熱間押出加工を実施し、円筒形状の熱間加工材を得る。
ここで、熱間加工工程S02における加工温度は、600℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、熱間加工工程S02における総加工率は、70%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(冷間加工工程S03)
次に、上述のようにして得られた熱間加工材に対して、冷間加工を行う。本実施形態では、冷間引抜加工を実施し、円筒形状の冷間加工材を得る。
ここで、冷間加工工程S03における総加工率は、1%以上40%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
(熱処理工程S04)
次に、冷間加工材に対して、熱処理を実施する。なお、必要に応じて、冷間加工工程S03と熱処理工程S04を繰り返し実施してもよい。
ここで、最終の熱処理工程S04においては、熱処理温度を600℃以上700℃以下の範囲とし、熱処理温度での保持時間を1時間以上4時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
(機械加工工程S05)
次に、熱処理後に機械加工を行い、表面の酸化膜を除去するとともに所定の形状に仕上げる。
以上のような工程により、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材が製造されることになる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材によれば、ガス成分を除いたCuの純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の範囲内とされているので、必要以上に高純度化されておらず、比較的低コストで製造することができる。また、結晶粒の局所的な粗大化を抑制でき、混粒組織による異常放電の発生を抑制することができる。
【0042】
そして、本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材によれば、P,Mg,Ca,Ti,Zr,Sr,Be,Ra,Hfから選択される1種または2種以上の添加元素を合計で2massppm超え10massppm未満の範囲で含有するので、ボイドの発生原因となるガス成分(O,H,N,S,Cl)とこれらの添加元素とが反応して化合物を生成することによって、ガス成分が固定され、ボイドの発生を抑制することが可能となる。これにより、成膜時において、ボイドに起因した異常放電(アーキング)の発生を抑制することが可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態において、上述の添加元素として、Pを少なくとも2massppmを超えて含有する場合には、銅中に容易に添加することができ、ボイドの発生原因となるガス成分(O,H,N,S,Cl)との化合物の生成を促進することが可能となり、ボイドの発生をさらに抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態において、ガス成分であるOの含有量を1massppm未満、Hの含有量を1massppm未満、Nの含有量を1massppm未満、Sの含有量を10massppm未満、Clの含有量を1massppm未満とした場合には、上述の添加元素とガス成分(O、H、N、S、Cl)とが反応して化合物を生成することにより、ガス成分を確実に固定でき、より的確にボイドの生成を抑制することが可能となる。
【0045】
さらに、本実施形態において、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満である場合には、異常放電の発生原因となるボイドの個数密度が十分に低減されており、ボイドに起因した異常放電(アーキング)の発生を確実に抑制することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態において、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満である場合には、異常放電の発生原因となる介在物の個数密度が十分に低減されており、介在物に起因した異常放電(アーキング)の発生を確実に抑制することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、配線膜として高純度銅膜を形成するスパッタリングターゲットを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の用途で銅膜を用いる場合であっても適用することができる。
【0048】
スパッタリングターゲット用銅素材の製造方法については、本実施形態に限定されることはなく、他の製造方法によって製造されたものであってもよい。例えば、連続鋳造装置を用いることなく鋳塊を得てもよい。
また、スパッタリングターゲット用銅素材が板形状をなす場合には、熱間加工工程として熱間圧延を実施し、冷間加工工程として冷間圧延を実施してもよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、円筒形状をなすスパッタリングターゲット用銅素材として説明したが、これに限定されることはなく、例えば、図3に示すように、円形平板形状をなしていてもよいし、図4に示すように矩形平板形状をなしていてもよい。なお、円形平板形状及び矩形平板形状のスパッタリングターゲット用銅素材においては、以下のようにして、ボイド及び介在物の個数密度を算出することが好ましい。
【0050】
円形平板形状をなすスパッタリングターゲット用銅素材においては、図3(a)に示すように、スパッタ面がなす円の中心(1)、及び、円の中心を通過するとともに互いに直交する2本の直線上の外周部分(2)、(3)、(4)、(5)の5つのブロックを採取し、図3(b)に示すように、これら5個のブロックを厚さ方向に(α)、(β)、(γ)のブロックに3分割して、合計15個の観察試料を採取し、これらの観察試料を研磨して鏡面仕上げとし、光学顕微鏡を用いて組織観察を行い、観察視野内における上述のボイドの個数密度及び介在物の個数密度を測定し、これらの15個の観察試料の測定結果の平均値を算出することが好ましい。なお、外周部分(2)、(3)、(4)、(5)は、外周縁から内側に向かって直径の10%以内の範囲内とする。
【0051】
矩形平板形状をなすスパッタリングターゲット用銅素材においては、図4(a)に示すように、スパッタ面がなす矩形の対角線が交差する中心部(1)と、4つの角部(2)、(3)、(4)、(5)の5個のブロックを採取し、図4(b)に示すように、これら5つのブロックを厚さ方向に(α)、(β)、(γ)のブロックに3分割して、合計15個の観察試料を採取し、これらの観察試料を研磨して鏡面仕上げとし、光学顕微鏡を用いて組織観察を行い、観察視野内における上述のボイドの個数密度及び介在物の個数密度を測定し、これらの15個の観察試料の測定結果の平均値を算出することが好ましい。なお、角部(2)、(3)、(4)、(5)は、角部から内側に向かって対角線全長の10%以内の範囲内とする。
【実施例
【0052】
以下に、前述した本実施形態であるスパッタリングターゲット用銅素材について評価した評価試験の結果について説明する。
【0053】
ガス成分を除いた銅の純度が99.99mass%以上99.999mass%未満の銅原料を準備し、表1,2に示す組成となるように銅溶湯を溶製した。このとき、必要に応じてガスバブリングを実施した。そして、連続鋳造装置を用いて、直径363mmの円柱形状の鋳塊を得た。なお、比較例2においては、銅原料として純度が99.9999mass%以上の高純度銅を銅原料として用いた。
得られた鋳塊に対して熱間押出加工(温度:800℃、加工率88%)を実施し、その後、冷間引抜加工(加工率:20%)を実施し、さらに熱処理(温度:620℃、保持時間:2時間)を実施した。
その後、切削加工を行い、外径:171mm、内径:125mm、長さ:3000mmの円筒形状のスパッタリングターゲット用銅素材を得た。
【0054】
得られたスパッタリングターゲット用銅素材について、ボイドの個数密度、介在物の個数密度、スパッタ時の異常放電発生状況について、以下の手順で評価した。評価結果を表1,2に示す。
【0055】
(ボイドの個数密度/介在物の個数密度)
実施形態において説明した位置から観察試料を採取し、研磨して鏡面仕上げとし、光学顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察した。そして、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度、及び、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度を算出した。評価結果を表1,2に示す。
また、本発明例1の組織観察結果を図5に、比較例3の組織観察結果を図6に示す。
【0056】
(成膜条件)
得られたスパッタリングターゲット用銅素材をバッキングプレートに接合し、以下の条件で銅の薄膜を成膜した。
スパッタ出力:600W
スパッタ圧:0.2Pa
スパッタ時間:8時間
到達真空度:4×10-5Pa
雰囲気ガス:Arガス/混合ガス(Ar:90vol%+O:10vol%)
上記成膜条件において成膜を行い、異常放電の発生回数をスパッタ電源装置に付属したアーキングカウンターにて自動的にその回数を計測した。異常放電発生回数が200回/時間以下の場合を「〇」、異常放電発生回数が200回/時間を超えて300回/時間以下の場合を「△」、異常放電発生回数が300回/時間を超えた場合を「×」とした。評価結果を表1,2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
比較例1においては、Cuの純度が99.95mass%と本発明の範囲よりも低く、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cmとなり、異常放電回数が多くなった。不純物量が多かったためと推測される。
比較例2においては、Cuの純度が99.9999mass%と本発明の範囲よりも高く、かつ、添加元素を添加しておらず、異常放電回数が多くなった。結晶粒が粗大化し、根粒組織となったためと推測される。
比較例3においては、添加元素を添加しておらず、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1.6個/cmとなり、このボイドに起因して異常放電回数が多くなった。ガス成分を固定できなかったためと推測される。
比較例4においては、添加元素の合計量が本発明の範囲を超えており、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が5個/cmとなり、この介在物に起因して異常放電回数が多くなった。
【0060】
これに対して、本発明例においては、いずれも、円相当径が5μm以上35μm以下のボイドの個数密度が1個/cm未満、円相当径が5μm以上35μm以下の介在物の個数密度が1個/cm未満となり、異常放電の発生を十分に抑制することができた。
【0061】
以上の結果から、本発明例によれば、高電圧を負荷した場合であっても異常放電の発生を抑制して安定して成膜を行うことができるとともに、低コストで製造可能なスパッタリングターゲット用銅素材を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6