(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】自動変速機のクラッチ構造
(51)【国際特許分類】
F16D 25/0638 20060101AFI20220830BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
F16D25/0638
F16D13/52 C
(21)【出願番号】P 2019072929
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】石坂 友隆
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115741(JP,A)
【文献】特開2018-155285(JP,A)
【文献】特開2013-155849(JP,A)
【文献】実開昭62-200808(JP,U)
【文献】特開昭62-147150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチを備えた、自動変速機のクラッチ構造であって、
上記第1クラッチは、上記軸方向に並んで配設された複数の摩擦板と、該複数の摩擦板の径方向内側に配置された第1ハブ部材と、該複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第1締結ピストンと、該第1締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室とを有し、
上記第2クラッチは、上記軸方向に並んで配設された複数の摩擦板と、該複数の摩擦板の径方向内側に配置された第2ハブ部材と、該複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第2締結ピストンと、該第2締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室とを有し、
上記軸方向において上記第1クラッチの上記第2クラッチとは反対側に設けられた環状の動力伝達部材と、
上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を、上記第1クラッチ及び上記第2クラッチの摩擦板に対して径方向内側の位置で、互いに一体的に回転するように上記軸方向に連結固定する複数の連結部材とを更に備え、
上記第1締結油圧室は、上記連結部材よりも径方向内側でかつ上記軸方向において上記動力伝達部材と上記第1ハブ部材との間に位置し、
上記第1締結ピストンは、上記軸方向において上記動力伝達部材と上記第1クラッチの摩擦板及び第1ハブ部材との間に位置しており、
上記第1締結ピストンにおける上記複数の連結部材に対応する径方向中間部分に、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されていることを特徴とする自動変速機のクラッチ構造。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機のクラッチ構造において、
上記第2締結油圧室は、上記連結部材よりも径方向内側でかつ上記軸方向において上記第1ハブ部材と上記第2ハブ部材との間に位置し、
上記第2締結ピストンは、上記軸方向において上記第1ハブ部材と上記第2クラッチの摩擦板及び第2ハブ部材との間に位置しており、
上記第2締結ピストンにおける上記複数の連結部材に対応する径方向中間部には、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されていることを特徴とする自動変速機のクラッチ構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動変速機のクラッチ構造において、
上記複数の連結部材のうちの一部は、上記軸方向に延びかつ上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を互いに上記軸方向に締め付ける締付部材で構成され、残りは、上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を互いに相対回転不能にする回転規制部材で構成されていることを特徴とする自動変速機のクラッチ構造。
【請求項4】
請求項3記載の自動変速機のクラッチ構造において、
上記回転規制部材は、ノックピンで構成されていることを特徴とする自動変速機のクラッチ構造。
【請求項5】
請求項3又は4記載の自動変速機のクラッチ構造において、
上記締付部材は、ボルトで構成されていることを特徴とする自動変速機のクラッチ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のクラッチ構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に搭載される自動変速機は、複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)と、クラッチを含む複数の摩擦締結要素(特に油圧式の摩擦締結要素)とを備える。これら複数のプラネタリギヤセット及び複数の摩擦締結要素は、同軸に配置される。そして、自動変速機では、上記複数の摩擦締結要素を、油圧制御等によって選択的に締結することにより、上記プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて、複数の前進変速段と後退変速段(通常、1速)とを達成している。
【0003】
上記クラッチは、クラッチドラム部材と、該クラッチドラム部材の内周側に、自動変速機の軸方向に並ぶ複数の摩擦板を介して設けられたハブ部材とを有している。クラッチドラム部材及びハブ部材は、それぞれ他の回転部材(入力軸、出力軸、プラネタリギヤセットの回転要素、動力伝達部材、他のクラッチのクラッチドラム部材又はハブ部材)と連結される。上記クラッチドラム部材やハブ部材は、他の回転部材とスプライン嵌合により連結される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、自動変速機が、該自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ(特許文献1では、第3クラッチCL3と呼ばれている)及び第2クラッチ(特許文献1では、第2クラッチCL2と呼ばれている)を有し、第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材が共に、上記軸方向において上記第1クラッチの上記第2クラッチとは反対側に設けられた動力伝達部材(特許文献1では、シリンダ11と呼ばれている)と連結されている。具体的には、第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材の内周側で自動変速機の軸方向に延びかつ第2クラッチのハブ部材と一体的に結合された軸方向延設部材が設けられ、該軸方向延設部材と動力伝達部材とがスプライン嵌合され、該軸方向延設部材と第1クラッチのハブ部材とがスプライン嵌合されている。
【0005】
また、特許文献1では、軸方向延設部材の動力伝達部材側の端部にナットが螺号されて、該ナットにより、軸方向延設部材にスプライン嵌合された動力伝達部材及び第1クラッチのハブ部材が軸方向に締め付けられている。これにより、動力伝達部材及び第1クラッチのハブ部材の軸方向延設部材に対する移動を規制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のように、ナットにより、軸方向延設部材にスプライン嵌合された動力伝達部材及び第1クラッチのハブ部材を軸方向に締め付ける構成では、ナットの締付力が緩み易くなるという問題がある。すなわち、ナットは、軸方向延設部材にスプライン嵌合された動力伝達部材に押し付けられる。動力伝達部材と軸方向延設部材との間には、スプライン嵌合によるガタが生じる。このスプライン嵌合によるガタは、周方向のガタと軸方向のガタとを含む。このようなガタによって動力伝達部材及び軸方向延設部材には振動が生じ、この振動によってナットの締付力が緩み易くなる。特に、ナットが押し付けられる動力伝達部材が、軽量化のために、例えばアルミニウム合金からなる場合には、ナットの長期の押し付けによって、動力伝達部材におけるナットが押し付けられる部分が経たり易くなり、この結果、上記振動と相俟って、ナットの締付力がより一層緩み易くなる。さらに、ナット自体には、上記ガタによる振動を吸収するような変形は生じず、この点からも、ナットの締付力が緩み易くなる。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を共に、動力伝達部材と連結するように構成する場合に、動力伝達部材並びに第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を、これらの材料に関係なく、長期に亘って適切な力で互いに上記軸方向に固定しておくことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチを備えた、自動変速機のクラッチ構造を対象として、上記第1クラッチは、上記軸方向に並んで配設された複数の摩擦板と、該複数の摩擦板の径方向内側に配置された第1ハブ部材と、該複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第1締結ピストンと、該第1締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室とを有し、上記第2クラッチは、上記軸方向に並んで配設された複数の摩擦板と、該複数の摩擦板の径方向内側に配置された第2ハブ部材と、該複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第2締結ピストンと、該第2締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室とを有し、上記軸方向において上記第1クラッチの上記第2クラッチとは反対側に設けられた環状の動力伝達部材と、上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を、上記第1クラッチ及び上記第2クラッチの摩擦板に対して径方向内側の位置で、互いに一体的に回転するように上記軸方向に連結固定する複数の連結部材とを更に備え、上記第1締結油圧室は、上記連結部材よりも径方向内側でかつ上記軸方向において上記動力伝達部材と上記第1ハブ部材との間に位置し、上記第1締結ピストンは、上記軸方向において上記動力伝達部材と上記第1クラッチの摩擦板及び第1ハブ部材との間に位置しており、上記第1締結ピストンにおける上記複数の連結部材に対応する径方向中間部分に、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されている、という構成とした。
【0010】
上記の構成により、動力伝達部材、第1ハブ部材及び第2ハブ部材が、互いに一体的に回転するように自動変速機の軸方向に連結固定する複数の連結部材によって連結固定されるので、これらの部材の間に、スプライン嵌合のようなガタは生じないようにすることができ、これにより、例えば複数の連結部材の一部が締付部材であったとしても、その締付部材の締付力が緩むようなことは殆どない。また、連結部材を周方向に複数設けることができ、このようにすれば、上記部材の連結固定を確実なものとすることができる。よって、動力伝達部材並びに第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を、これらの材料に関係なく、長期に亘って適切な力で互いに自動変速機の軸方向に固定しておくことができる。
【0011】
また、自動変速機の軸方向において動力伝達部材と第1クラッチの摩擦板及び第1ハブ部材との間に位置する第1締結ピストンは、径方向において、連結部材よりも径方向内側に位置する第1締結油圧室の位置から、連結部材よりも径方向外側に位置する摩擦板の位置まで延びているため、そのままでは、連結部材と干渉することになる。しかし、本発明では、第1締結ピストンにおける複数の連結部材に対応する径方向中間部分に、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されているので、第1締結ピストンと連結部材との干渉を防止することができる。
【0012】
上記自動変速機のクラッチ構造において、上記第2締結油圧室は、上記連結部材よりも径方向内側でかつ上記軸方向において上記第1ハブ部材と上記第2ハブ部材との間に位置し、上記第2締結ピストンは、上記軸方向において上記第1ハブ部材と上記第2クラッチの摩擦板及び第2ハブ部材との間に位置しており、上記第2締結ピストンにおける上記複数の連結部材に対応する径方向中間部には、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されていてもよい。
【0013】
このことにより、自動変速機の軸方向において第1ハブ部材と第2クラッチの摩擦板及び第2ハブ部材との間に位置する第2締結ピストンも、第1締結ピストンと同様に、複数の連結部材に対応する径方向中間部分に、該連結部材が通る貫通孔がそれぞれ形成されているので、第1締結ピストンと連結部材との干渉を防止することができる。
【0014】
上記自動変速機のクラッチ構造において、上記複数の連結部材のうちの一部は、上記軸方向に延びかつ上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を互いに上記軸方向に締め付ける締付部材で構成され、残りは、上記動力伝達部材、上記第1ハブ部材及び上記第2ハブ部材を互いに相対回転不能にする回転規制部材で構成されている、ことが好ましい。
【0015】
このことで、動力伝達部材、第1ハブ部材及び第2ハブ部材が、締付部材によって互いに自動変速機の軸方向に締め付けられているとともに、回転規制部材によって互いに相対回転不能にされているので、これらの部材の間に、スプライン嵌合のようなガタは生じず、ガタによる各部材の振動によって締付部材の締付力が緩むようなことは殆どない。また、締付部材を周方向に複数設けることができ、このようにすれば、各締付部材の締付力を小さくすることができるので、各部材が、例えばアルミニウム合金からなっていても、各部材における締付部材が押し付けられる部分が経たり難くなる。さらに、たとえ上記部材の間のガタ(スプライン嵌合によるガタよりも小さい僅かなガタ)により各部材に振動が生じたとしても、締付部材が上記軸方向に延びているので、その延びる部分の変形により上記振動を吸収することができる。すなわち、上記のように各締付部材の締付力を小さくすることができるので、各締付部材の剛性を低くして変形し易くすることができ、上記軸方向に延びる部分の剛性を締付力に応じた適切な剛性にしておくことで、上記振動を吸収できるようになる。よって、動力伝達部材並びに第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を、これらの材料に関係なく、長期に亘って適切な力で互いに自動変速機の軸方向に固定しておく(締め付けておく)ことができる。
【0016】
上記自動変速機のクラッチ構造の一実施形態では、上記回転規制部材は、ノックピンで構成されている。
【0017】
このことで、動力伝達部材、第1ハブ部材及び第2ハブ部材を互いに相対回転不能にすることが容易にできる。
【0018】
上記自動変速機のクラッチ構造の別の実施形態では、上記締付部材は、ボルトで構成されている。
【0019】
これにより、動力伝達部材、第1ハブ部材及び第2ハブ部材を互いに自動変速機の軸方向に締め付けることが容易にできる。また、ボルトの軸部の径を調整することによって、上記振動を容易に吸収できるようになる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の自動変速機のクラッチ構造によると、動力伝達部材並びに第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を、これらの材料に関係なく、長期に亘って適切な力で互いに自動変速機の軸方向に固定しておくことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るクラッチ構造が適用された自動変速機を示す骨子図である。
【
図2】上記自動変速機の各変速段時における摩擦締結要素の締結状態を示す締結表である。
【
図3】上記自動変速機における3つのクラッチが設けられた部分を拡大して示す、ボルトの位置で径方向に切断した断面図である。
【
図4】上記自動変速機における3つのクラッチが設けられた部分を拡大して示す、ノックピンの位置で径方向に切断した断面図である。
【
図5】第1締結ピストンを、ボルト及びノックピンと併せて示す、前側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るクラッチ構造が適用された自動変速機1を一例として示す。この自動変速機1は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0024】
自動変速機1は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
【0025】
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸に配置されており、自動変速機1が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(
図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(
図1の右側)を後側という。また、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)は、自動変速機1の軸方向とも呼ばれ、以下、自動変速機1の軸方向を、単に軸方向といい。軸方向に垂直な方向である自動変速機1の径方向を、単に径方向という。
【0026】
変速機構14は、軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。
【0027】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0028】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0029】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0030】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0031】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0032】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
【0033】
変速機構14は、第1~第4ギヤセットPG1~PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(3つのクラッチ20,30,40及び2つのブレーキ50,60)を有している。
【0034】
3つのクラッチ20,30,40は、第1ギヤセットPG1よりも前側に配置されているとともに、軸方向に並設されている。これら3つのクラッチ20,30,40は、後側(第1ギヤセットPG1に近い側)から、クラッチ20、クラッチ30及びクラッチ40の順に配置されている。以下、クラッチ20を後側クラッチ20といい、クラッチ30を中間クラッチ30といい、クラッチ40を前側クラッチ40という。
【0035】
軸方向において、ブレーキ50は、前側クラッチ40よりも前側に配置され、ブレーキ60は、ブレーキ50よりも後側であって、第3ギヤセットPG3の近傍に配置されている。以下、ブレーキ50を前側ブレーキ50といい、ブレーキ60を後側ブレーキ60という。
【0036】
後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。後側クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の直ぐ前側に配設されている。
【0037】
中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。中間クラッチ30は、後側クラッチ20の直ぐ前側に配設されている。
【0038】
前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。前側クラッチ40は、中間クラッチ30の直ぐ前側に配設されている。
【0039】
前側ブレーキ50は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。前側ブレーキ50の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとは、連結部材8によって互いに連結されている。
【0040】
後側ブレーキ60は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。後側ブレーキ60の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
【0041】
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。
図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速~8速及び後退速が形成される。尚、
図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
【0042】
具体的には、後側クラッチ20、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、1速が形成される。中間クラッチ30、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、2速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び後側ブレーキ60の締結により、3速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、4速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、5速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の締結により、6速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、7速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、8速が形成される。前側クラッチ40、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
【0043】
次に、後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の構成について
図3及び
図4により詳細に説明する。前側クラッチ40は、本発明の第1クラッチに相当し、中間クラッチ30は、本発明の第2クラッチに相当する。尚、
図3及び
図4中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)である。
【0044】
図3及び
図4に示すように、前側クラッチ40は、第1クラッチドラム部材6と、該第1クラッチドラム部材6の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板41を介して設けられた第1ハブ部材35とを有している。第1クラッチドラム部材6及び第1ハブ部材35は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第1クラッチドラム部材6は、前側に開口する有底筒状をなしている。第1クラッチドラム部材6の後側端部(底部)は、第2リングギヤR2に連結される。第1ハブ部材35は、前側クラッチ40の中間クラッチ30とは反対側(つまり前側クラッチ40の前側)に設けられかつ入力軸12の周りに回転可能な環状の動力伝達部材45に連結されて、該動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。第1ハブ部材35と動力伝達部材45との連結については、後に詳細に説明する。上記のような連結により、前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0045】
動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。動力伝達部材45は、環状の本体部45aと、該本体部45aの内周側端部から後側に突出する筒状のボス部45bとを有する。ボス部45bの後側端面は、第1ハブ部材35に当接している。動力伝達部材45は、アルミニウム合金からなる。
【0046】
動力伝達用ドラム部材5は、前側に開口する有底筒状をなしているとともに、第1クラッチドラム部材6の外周側に設けられている。動力伝達用ドラム部材5の前側端部(開放側の端部)が、動力伝達部材45の本体部45aの外周側端部と連結される。動力伝達用ドラム部材5の後側端部(底部)が第3サンギヤS3に連結される。
【0047】
前側クラッチ40の複数の摩擦板41は、第1クラッチドラム部材6の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板41aと、第1ハブ部材35の外周部(後述の摩擦板取付部35b)に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板41aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板41bとを含む。
【0048】
前側クラッチ40は、複数の摩擦板41(ドラム側摩擦板41a及びハブ側摩擦板41b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第1締結ピストン42と、第1締結ピストン42を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室43とを更に有する。第1締結油圧室43は、軸方向において、動力伝達部材45と第1ハブ部材35との間に位置している。
【0049】
動力伝達部材45の本体部45aは、第1締結ピストン42と共に第1締結油圧室43を形成する第1締結油圧室形成部45cを有している。第1締結油圧室形成部45cは、第1締結油圧室43を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。ボス部45bは、第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分から後側に突出している。
【0050】
第1締結油圧室形成部45cの上記開放された部分を塞ぐように、第1締結ピストン42の受圧部42aが配置されている。受圧部42aは、受圧部42aに対して第1締結油圧室43とは反対側(第1ハブ部材35側)に位置する第1遠心バランス室48において周方向に並んで設けられた複数の第1リターンスプリング47の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第1リターンスプリング47は、圧縮コイルスプリングで構成されている。尚、第1リターンスプリング47を板バネで構成することも可能である(後述の第2リターンスプリング37及び第3リターンスプリング27も同様)。
【0051】
第1締結ピストン42は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部42aに相当する。第1締結ピストン42の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板41の前側に位置して該摩擦板41を後側に押圧する押圧部42bが設けられている。第1締結ピストン42は、軸方向において、動力伝達部材45と前側クラッチ40の摩擦板41及び第1ハブ部材35との間に位置している。
【0052】
第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分及び後述の軸方向延設部材10には、第1締結油圧室43にその径方向内側から作動油を供給するための第1締結油圧室用油路45dが径方向に連続して延びるように設けられている。
【0053】
ここで、入力軸12と第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分及びボス部45bとの径方向の間には、前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとを連結する連結部材8と、動力伝達部材45、第1ハブ部材35及び後述の第2ハブ部材34を回転可能に支持する回転支持部材9とが設けられている。回転支持部材9は、動力伝達部材45、第1ハブ部材35及び第2ハブ部材34を、これらの部材の内周面に一体的に回転するように固定されかつ軸方向に延びる軸方向延設部材10を介して支持する。第1締結油圧室用油路45dは、軸方向延設部材10を貫通するように延設されている。また、回転支持部材9は、回転支持部材9の内周側に位置する連結部材8の回転支持も行う。
【0054】
入力軸12には、入力軸12の中心に沿って延びる油路12aと、油路12aから径方向外側に延びる複数の油路12bとが設けられている。連結部材8の各油路12bに対応する部分には、径方向に延びる油路8aが設けられている。油路12a,12b,8aにより作動油が回転支持部材9に供給される。この回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第1締結油圧室用油路45dに対応する部分に設けられた油路9aから第1締結油圧室用油路45dを介して第1締結油圧室43に供給される。この第1締結油圧室43に供給された作動油によって、第1締結ピストン42の受圧部42aが第1リターンスプリング47の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部42bが摩擦板41を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板41aとハブ側摩擦板41bとが互いに係合して、前側クラッチ40が締結状態となる。尚、摩擦板41の後側には、押圧部42bによる押圧力を受け止める、第1ハブ部材35で構成されたリテーニング部35aが設けられている。
【0055】
第1締結ピストン42と第1ハブ部材35(詳細には、後述の径方向延設部35c)との間には、第1遠心バランス室48の壁部の一部を構成する第1遠心バランス室形成部材49が設けられている。第1遠心バランス室48の壁部は、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第1締結ピストン42、及び第1遠心バランス室形成部材49で構成される。
【0056】
第1遠心バランス室形成部材49は、第1リターンスプリング47の、受圧部42aを前側に付勢する付勢力の反力によって後側に押圧されて、第1遠心バランス室形成部材49の後側端が第1ハブ部材35(詳細には、径方向延設部35c)に当接されている。第1遠心バランス室形成部材49は、第1ハブ部材35における後述の前側突出部35dの外周面に嵌合している。
【0057】
動力伝達部材45のボス部45b及び軸方向延設部材10には、第1締結油圧室用油路45dと同様に径方向に連続して延びる第1遠心バランス室用油路45eが設けられている。第1遠心バランス室用油路45eは、ボス部45b及び軸方向延設部材10において第1締結油圧室用油路45dとは周方向で異なる部分に設けられている。第1遠心バランス室48には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第1遠心バランス室用油路45eを介して供給される。
【0058】
第1ハブ部材35は、ハブ側摩擦板41bが取り付けられる摩擦板取付部35bと、摩擦板取付部35bから径方向内側に延びる径方向延設部35cとを有する。摩擦板取付部35bの後側端部に、上述のリテーニング部35aが設けられている。第1ハブ部材35は、アルミニウム合金からなる。
【0059】
径方向延設部35cの内周側部分には、動力伝達部材45のボス部45bの後側端面と当接する前側突出部35dが設けられている。
【0060】
中間クラッチ30は、第1クラッチドラム部材6の内周側に設けられた第2クラッチドラム部材7と、第2クラッチドラム部材7の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板31を介して設けられた第2ハブ部材34とを有している。第2クラッチドラム部材7及び第2ハブ部材34は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第2クラッチドラム部材7は、前側に開口する有底筒状をなしている。第2クラッチドラム部材7の後側端部(底部)は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2に連結される。第2ハブ部材34は、第1ハブ部材35(及び動力伝達部材45)に連結されていて、該第1ハブ部材35、動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。第2ハブ部材34と第1ハブ部材35(及び動力伝達部材45)との連結については、後に詳細に説明する。上記のような連結により、中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0061】
中間クラッチ30の複数の摩擦板31は、第2クラッチドラム部材7の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板31aと、第2ハブ部材34の外周部(後述の摩擦板取付部34b)に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板31aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板31bとを含む。
【0062】
中間クラッチ30は、複数の摩擦板31(ドラム側摩擦板31a及びハブ側摩擦板31b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第2締結ピストン32と、第2締結ピストン32を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室33とを更に有する。第2締結油圧室33は、軸方向において、第1ハブ部材35と第2ハブ部材34との間に位置している。
【0063】
第1ハブ部材35の径方向延設部35cは、第2締結ピストン32と共に第2締結油圧室33を形成する第2締結油圧室形成部35fを有している。第2締結油圧室形成部35fは、第2締結油圧室33を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。第2締結油圧室形成部35fの径方向内側部分からは、筒状のボス部35gが後側に突出している。ボス部35gの後側端面は、第2ハブ部材34に当接している。
【0064】
第2締結油圧室形成部35fの上記開放された部分を塞ぐように、第2締結ピストン32の受圧部32aが配置されている。受圧部32aは、受圧部32aに対して第2締結油圧室33とは反対側(第2ハブ部材34側)に位置する第2遠心バランス室38において周方向に並んで設けられた複数の第2リターンスプリング37の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第2リターンスプリング37は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
【0065】
第2締結ピストン32は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部32aに相当する。第2締結ピストン32の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板31の前側に位置して該摩擦板31を後側に押圧する押圧部32bが設けられている。第2締結ピストン32は、軸方向において、第1ハブ部材35と中間クラッチ30の摩擦板31及び第2ハブ部材34との間に位置している。
【0066】
第2締結油圧室形成部35fの径方向内側部分及び軸方向延設部材10には、第2締結油圧室33にその径方向内側から作動油を供給するための第2締結油圧室用油路35hが連続して径方向に連続して延びるように設けられている。
【0067】
上記のように油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第2締結油圧室用油路35hに対応する部分に設けられた油路9bから第2締結油圧室用油路35hを介して第2締結油圧室33に供給される。この第2締結油圧室33に供給された作動油によって、第2締結ピストン32の受圧部32aが第2リターンスプリング37の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部32bが摩擦板31を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板31aとハブ側摩擦板31bとが互いに係合して、中間クラッチ30が締結状態となる。尚、摩擦板31の後側には、押圧部32bによる押圧力を受け止める、第2ハブ部材34で構成されたリテーニング部34aが設けられている。
【0068】
第2締結ピストン32と第2ハブ部材34(詳細には、後述の径方向延設部34c)との間には、第2遠心バランス室38の壁部の一部を構成する第2遠心バランス室形成部材39が設けられている。第2遠心バランス室38の壁部は、第1ハブ部材35、第2締結ピストン32、及び第2遠心バランス室形成部材39で構成される。
【0069】
第2遠心バランス室形成部材39は、第2リターンスプリング37の、受圧部32aを前側に付勢する付勢力の反力によって後側に押圧されて、第2遠心バランス室形成部材39の後側端が第2ハブ部材34(詳細には、径方向延設部34c)に当接されている。第2遠心バランス室形成部材39は、第1ハブ部材35のボス部35gに嵌合している。
【0070】
第1ハブ部材35のボス部35g及び軸方向延設部材10には、第2締結油圧室用油路35hと同様に径方向に連続して延びる第2遠心バランス室用油路35iが設けられている。第2遠心バランス室用油路35iは、ボス部35g及び軸方向延設部材10において第2締結油圧室用油路35hとは周方向で異なる部分に設けられている。第2遠心バランス室38には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第2遠心バランス室用油路35iを介して供給される。
【0071】
第2ハブ部材34は、ハブ側摩擦板31bが取り付けられる摩擦板取付部34bと、摩擦板取付部34bから径方向内側に延びる径方向延設部34cとを有する。摩擦板取付部34bの後側端部に、上述のリテーニング部34aが設けられている。第2ハブ部材34は、アルミニウム合金からなる。
【0072】
後側クラッチ20は、第2クラッチドラム部材7の内周側に設けられた第3クラッチドラム部材4と、第3クラッチドラム部材4の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板21を介して設けられた第3ハブ部材24とを有している。第3クラッチドラム部材4及び第3ハブ部材24は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第3クラッチドラム部材4は、後側に開口する有底筒状をなしていて、アルミニウム合金からなる。第3クラッチドラム部材4は、その底部4a(前側端部)で、第2ハブ部材34(並びに第1ハブ部材35及び動力伝達部材45)に連結されていて、第2ハブ部材34、第1ハブ部材35、動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。第3クラッチドラム部材4と第2ハブ部材34(並びに第1ハブ部材35及び動力伝達部材45)との連結については、後に詳細に説明する。第3ハブ部材24は、第2ハブ部材34の第1ハブ部材35とは反対側(第2ハブ部材34の後側)に配設されていて、第1キャリヤC1の回転軸81の前側端部に結合された円板状部材82に連結される。上記の如く、第1キャリヤC1(回転軸81)は、動力伝達部材18を介して入力軸12と連結されている。上記のような連結により、後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0073】
後側クラッチ20の複数の摩擦板21は、第3クラッチドラム部材4の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板21aと、第3ハブ部材24の外周部に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板21aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板21bとを含む。
【0074】
後側クラッチ20は、複数の摩擦板21(ドラム側摩擦板21a及びハブ側摩擦板21b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第3締結ピストン22と、第3締結ピストン22を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第3締結油圧室23とを更に有する。第3締結油圧室23は、第2ハブ部材34の径方向延設部34cの後側に位置している。
【0075】
第2ハブ部材34の径方向延設部34cは、第3締結ピストン22と共に第3締結油圧室23を形成する第3締結油圧室形成部34fを有している。第3締結油圧室形成部34fは、第3締結油圧室23を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。第3締結油圧室形成部34fの径方向内側部分からは、筒状のボス部34gが後側に突出している。
【0076】
第3締結油圧室形成部34fの上記開放された部分を塞ぐように、第3締結ピストン22の受圧部22aが配置されている。受圧部22aは、受圧部22aに対して第3締結油圧室23とは反対側に位置する第3遠心バランス室28において周方向に並んで設けられた複数の第3リターンスプリング27の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第3リターンスプリング27は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
【0077】
第3締結ピストン22は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部22aに相当する。第3締結ピストン22の開口側の端部(後側の端部)は、第3クラッチドラム部材4の底部4aの内周側から、後側に向かって径方向外側に拡がるように形成されており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板21の前側に位置して該摩擦板21を後側に押圧する押圧部22bが設けられている。押圧部22bは、軸方向において、第3クラッチドラム部材4の底部4aと摩擦板21との間に位置している。
【0078】
第3クラッチドラム部材4の底部4aには、後述の複数(本実施形態では、3つ)のボルト62のねじ部が内部に螺号される筒状部4bが周方向に等間隔に設けられている。
【0079】
本実施形態では、第3締結ピストン22と第3クラッチドラム部材4の底部4a(詳細には、筒状部4b)とは、軸方向にオーバーラップする部分を有している。このため、第3締結ピストン22における筒状部4bと対応する径方向中間部分には、貫通孔22cがそれぞれ形成されている。尚、円板状部材82が第3締結ピストン22と干渉しないように後側に配置されている場合には、第3締結ピストン22が底部4aと円板状部材82との間を通ることが可能になり、この場合には、貫通孔22cをなくすことができる。
【0080】
第3締結油圧室形成部34fの径方向内側部分及び軸方向延設部材10には、第3締結油圧室23にその径方向内側から作動油を供給するための第3締結油圧室用油路34hが径方向に連続して延びるように設けられている。
【0081】
回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第3締結油圧室用油路34hに対応する部分に設けられた油路9cから第3締結油圧室用油路34hを介して第3締結油圧室23に供給される。この第3締結油圧室23に供給された作動油によって、第3締結ピストン22の受圧部22aが第3リターンスプリング27の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部22bが摩擦板21を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板21aとハブ側摩擦板21bとが互いに係合して、後側クラッチ20が締結状態となる。尚、摩擦板21の後側には、押圧部22bによる押圧力を受け止めるリテーニング部材76(スナップリングで構成される)が設けられている。
【0082】
第3遠心バランス室28は、第2ハブ部材34、第3締結ピストン22、第3遠心バランス室形成部材29、及び筒状の規制部材51で構成される。規制部材51の前側部分が、第2ハブ部材34のボス部34gの後側部分の径方向外側に重ねられている。第3遠心バランス室形成部材29は、規制部材51の前側部分の外周面に嵌合されている。規制部材51は、その前側端面によって、第2ハブ部材34(並びに第1ハブ部材35及び動力伝達部材45)の後側への移動を規制する。尚、第2ハブ部材34並びに第1ハブ部材35及び動力伝達部材45は、動力伝達部材45の前側に設けられた不図示の規制部材により前側への移動も規制されている。
【0083】
第3遠心バランス室形成部材29は、規制部材51の外周面に形成された段差部51aによって後側への移動が規制されている。これにより、第3遠心バランス室形成部材29は、第3リターンスプリング27の、受圧部22aを前側に付勢する付勢力の反力を受け止めることができる。
【0084】
第2ハブ部材34のボス部34gには、第3締結油圧室用油路34hと同様に径方向に延びる第3遠心バランス室用油路34iが設けられている。第3遠心バランス室用油路34iは、ボス部34gにおいて第3締結油圧室用油路34hとは周方向で異なる部分に設けられている。第3遠心バランス室28には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第3遠心バランス室用油路34iを介して供給される。
【0085】
動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4は、複数の連結部材61によって、互いに一体的に回転するように軸方向に連結固定されている。連結部材61は、前側クラッチ40及び中間クラッチ30の摩擦板41,31に対して径方向内側の位置で、上記部材45,35,34,4を互いに連結固定している。
【0086】
第1締結油圧室43、第2締結油圧室33、及び第3締結油圧室23は、連結部材61よりも径方向内側に位置している。第1遠心バランス室48、第2遠心バランス室38、及び第3遠心バランス室28も、連結部材61よりも径方向内側に位置している。
【0087】
複数の連結部材61のうちの一部は、軸方向に延びかつ動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4を互いに軸方向に締め付ける締付部材で構成される。本実施形態では、締付部材は、動力伝達部材45から第3クラッチドラム部材4の筒状部4bまで軸方向に延びるボルト62(
図3参照)で構成されている。ボルト62は、複数(本実施形態では、3つ)設けられており、複数のボルト62が周方向に等間隔に設けられている(
図5参照)。各ボルト62は、その軸部が動力伝達部材45の本体部45a、第1ハブ部材35の径方向延設部35c、及び第2ハブ部材34の径方向延設部34cを貫通して軸方向に延び、ボルト62の後側端部に設けられたねじ部が、第3クラッチドラム部材4の筒状部4bの内部に螺号されている。ボルト62の頭部(前側端部)は、動力伝達部材45の本体部45aの前側の面に当接している。これらのボルト62によって、所定の締付力でもって、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4が互いに軸方向に締め付けられている。
【0088】
残りの連結部材61は、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4を互いに相対回転不能にする回転規制部材で構成される。本実施形態では、回転規制部材は、ノックピン63(
図4参照)で構成されている。ノックピン63は、軸方向に相隣接する動力伝達部材45及び第1ハブ部材35を相対回転不能にするべく、本体部45aと径方向延設部35cとに打ち込まれたノックピン63aと、軸方向に相隣接する第1ハブ部材35及び第2ハブ部材34を相対回転不能にするべく、径方向延設部35cと径方向延設部34cとに打ち込まれたノックピン63bと、軸方向に相隣接する第2ハブ部材34及び第3クラッチドラム部材4を相対回転不能にするべく、径方向延設部34cと、第3クラッチドラム部材4の底部4aに設けられた、筒状部4bと略同じ外径を有するボス部4cとに打ち込まれたノックピン63cとを含む。軸方向に相隣接する部材同士を連結するノックピン63(63a,63b,63c)は、周方向において相隣接するボルト62の間に2つずつ設けられている(
図5参照)。
【0089】
尚、ボルト62及びノックピン63の周方向の並び方に特に制限はなく、例えば、ボルト62及びノックピン63が周方向に交互に並んでいてもよい。また、ボルト62の数は複数であることが好ましいが、1つであってもよい。但し、ボルト62の数が1つである場合には、ボルト62の締付力が大きくても、各部材(特に、動力伝達部材45)におけるボルト62が押し付けられる部分が経たり難い材料(例えば、鋼)で各部材を構成することが好ましい。さらに、軸方向に相隣接する部材同士を連結するノックピン63の数も、複数であることが好ましいが、1つであってもよい。
【0090】
動力伝達部材45の本体部45の後側の面には、連結部材61(ボルト62及びノックピン63a)が位置する部分において、後側に突出する突出部45fが設けられている。この突出部45fの後側端面が、第1ハブ部材35の径方向延設部35cの前側の面に当接している。
【0091】
第1ハブ部材35の径方向延設部35cの前側の面には、連結部材61(ボルト62及びノックピン63a)が位置する部分において、後側に突出する突出部35jが設けられている。この突出部35jの後側端面が、第2ハブ部材34の径方向延設部34cの前側の面に当接している。第3クラッチドラム部材4の筒状部4b及びボス部4cの前側端面は、第2ハブ部材34の径方向延設部34cの後側の面に当接している。
【0092】
軸方向において動力伝達部材43と摩擦板41及び第1ハブ部材35との間に位置する第1締結ピストン42は、径方向において、連結部材61よりも径方向内側に位置する第1締結油圧室43の位置から、連結部材61よりも径方向外側に位置する摩擦板41の位置まで延びている。この第1締結ピストン42が、連結部材61(突出部45f)と干渉しないようにするために、第1締結ピストン42における複数の連結部材61(突出部45f)に対応する径方向中間部分に、連結部材61(突出部45f)が通る貫通孔42cがそれぞれ形成されている(
図5参照)。
【0093】
また、軸方向において第1ハブ部材35と摩擦板31及び第2ハブ部材34との間に位置する第2締結ピストン32も、第1締結ピストン42と同様に、複数の連結部材61(突出部35j)に対応する径方向中間部分に、連結部材61(突出部35j)が通る貫通孔32cがそれぞれ形成されている。
【0094】
したがって、本実施形態では、ノックピン63によって、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4が互いに相対回転不能にされているので、これらの部材の間に、スプライン嵌合のようなガタは生じず、ガタによる各部材の振動によってボルト62の締付力が緩むようなことは殆どない。また、ボルト62が周方向に複数(本実施形態では、3つ)設けられているので、各ボルト62の締付力を小さくすることができる。これにより、各部材(特に、動力伝達部材45)がアルミニウム合金からなっていても、各部材におけるボルト62が押し付けられる部分が経たり難くなる。この結果、自動変速機1を長期に亘って使用しても、ボルト62の締付力が緩み難くなる。
【0095】
また、たとえ上記部材の間のガタ(スプライン嵌合によるガタよりも小さい僅かなガタ)により各部材に振動が生じたとしても、ボルト62の軸部の軸方向の長さが長いので、ボルト62の軸部の変形により上記振動を吸収することができる。すなわち、上記のように各ボルト62の締付力を小さくすることができるので、各ボルト62の軸部の剛性を低くして(軸部の径を小さくして)変形し易くすることができ、各ボルト62の軸部の剛性を締付力に応じた適切な剛性にしておくことで、上記振動を吸収できるようになる。
【0096】
よって、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4を、長期に亘って適切な力で互いに軸方向に固定しておく(締め付けておく)ことができる。
【0097】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0098】
例えば、上記実施形態では、複数の連結部材61のうちの一部は、ボルト62(締付部材)で構成され、残りの連結部材61が、ノックピン63(回転規制部材)で構成されていたが、これには限られず、例えば、複数の連結部材61の全てが、回転規制部材の機能を有する締付部材で構成されていてもよい。このような締付部材としては、長さ方向の中間部(相隣接する部材の互いの当接面に対応する部分)を他の部分よりも太くしたボルトを用いる。このボルトの該中間部が回転規制部材の機能を有するように、該中間部の径が、該ボルトが挿通される孔の径と丁度同じか、又は該孔の径よりも僅かに大きくする(ボルトの締付けのために回転できるような大きさにする)。
【0099】
また、上記実施形態では、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、及び第3クラッチドラム部材4が、連結部材61によって軸方向に連結固定されているが、中間クラッチ30の直ぐ後側に後側クラッチ20がなくて、前側クラッチ40及び中間クラッチ30のみが軸方向に並設されている場合、又は、第3クラッチドラム部材4が動力伝達部材45に連結されない場合には、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、及び第2ハブ部材34が、連結部材61によって軸方向に連結固定されるようにしてもよい。この場合において、前側クラッチ40の摩擦板41、第1締結ピストン42、及び第1締結油圧室43、並びに中間クラッチ30の摩擦板31、第2締結油圧室33、及び第2締結ピストン32が、上記実施形態と同様の位置にそれぞれ配置されているならば、第1締結ピストン及び第2締結ピストン32には、上記実施形態と同様の貫通孔42c,32cがそれぞれ形成される。例えば、第2締結油圧室33が第2ハブ部材34の後側に位置して、第2締結ピストン32が第2ハブ部材34の後側を通って径方向外側に延びて、押圧部32bが摩擦板31の後側に位置する場合には、第2締結ピストン32が連結部材61と干渉しないので、第2締結ピストン32に貫通孔32cを形成する必要はない。
【0100】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチを備えた、自動変速機のクラッチ構造に有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 自動変速機
30 中間クラッチ(第2クラッチ)
31 摩擦板
32 第2締結ピストン
33 第2締結油圧室
34 第2ハブ部材
35 第1ハブ部材
40 前側クラッチ(第1クラッチ)
41 摩擦板
42 第1締結ピストン
43 第1締結油圧室
45 動力伝達部材
61 連結部材
62 ボルト(締付部材)
63 ノックピン(回転規制部材)