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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】車載センサカバー
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20220830BHJP
   B60R 13/04 20060101ALI20220830BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20220830BHJP
   G01S 7/481 20060101ALN20220830BHJP
   G01S 17/931 20200101ALN20220830BHJP
【FI】
G01S7/03 246
B60R13/04
G01S13/931
G01S7/481 Z
G01S17/931
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019148329
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2021028621
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 明弘
(72)【発明者】
【氏名】飯村 公浩
(72)【発明者】
【氏名】野々山 晋
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086452(JP,A)
【文献】特開2009-017125(JP,A)
【文献】特開2019-027835(JP,A)
【文献】特開2019-069713(JP,A)
【文献】特開2019-007776(JP,A)
【文献】特開2010-111011(JP,A)
【文献】特開2019-117260(JP,A)
【文献】特開2019-110428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
G01S 13/00 -13/95
G01S 17/00 -17/95
B60R 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する車載センサが搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記車載センサの前方に配置され、前記車両を装飾し、かつ前記電磁波の透過性を有する車載センサカバーであって、
透明な樹脂材料により形成され、かつ前記送信方向における後面に凹凸面を有する前基材と、
樹脂材料により形成されて、前記送信方向における前記前基材の後側に配置され、かつ前記送信方向における前面に、前記前基材の前記凹凸面に対応する凸凹面を有する後基材と、
前記前基材及び前記後基材の間において、前記前基材の凹凸面及び前記後基材の凸凹面に密着した状態で形成された加飾層と
を備え、前記加飾層は、複数の有色加飾層及び光輝加飾層を備え、複数の前記有色加飾層は、互いに異なる色の樹脂材料が用いられて形成された樹脂成形部により構成されている車載センサカバー。
【請求項2】
前記加飾層のうち、前記有色加飾層が形成されている領域では、前記光輝加飾層は、前記送信方向における前記有色加飾層の後側に形成され、
前記加飾層のうち、前記有色加飾層が形成されていない領域では、前記光輝加飾層は、前記送信方向における前記加飾層の最前部に形成されている請求項1に記載の車載センサカバー。
【請求項3】
前記光輝加飾層及び前記後基材の間には押え塗膜層が形成されている請求項1又は2に記載の車載センサカバー。
【請求項4】
前記前基材は、前記送信方向における後部に、後面において開放された凹部を有し、
前記凹部は、前記送信方向に対し傾斜する側壁面を、前記凹凸面の一部として有し、
複数の前記有色加飾層の1つは前記側壁面に形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の車載センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を送信及び受信する車載センサが搭載された車両において、電磁波の送信方向における車載センサの前方に配置される車載センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
図5及び図6に示すように、車載センサとしてミリ波レーダ装置51が搭載された車両50では、そのミリ波レーダ装置51からミリ波52が車外へ向けて送信される。先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射されたミリ波52は、上記ミリ波レーダ装置51によって受信される。送信及び受信されたミリ波52により、上記物体が認識されたり、車両50と物体との距離や相対速度が検出されたりする。
【0003】
上記車両50では、ミリ波52の送信方向におけるミリ波レーダ装置51の前方に車載センサカバー53が配置される。車載センサカバー53は、前基材54と、上記送信方向における前基材54の後側に配置された後基材63とを備えている。前基材54は、透明な樹脂材料により形成されており、上記送信方向における後面に凹凸面55を有している。すなわち、上記送信方向における前基材54の後部には、平坦な一般壁面56と、一般壁面56よりも同送信方向における前方へ凹んだ凹部58とが形成されている。凹部58は、底壁面61と側壁面62とを有している。これらの一般壁面56、底壁面61及び側壁面62は、それぞれ上記凹凸面55の一部を構成している。
【0004】
後基材63は、樹脂材料により形成され、かつ上記送信方向における前面に、上記凹凸面55に対応する凸凹面64を有している。前基材54及び後基材63の間には、凹凸面55及び凸凹面64に密着した状態で加飾層65が形成されている。加飾層65は、上記送信方向の前側から後側に向けて順に、第1有色加飾層66、光輝加飾層67、押え塗膜層68及び第2有色加飾層69が積層されることによって構成されている。
【0005】
第1有色加飾層66は、黒色等の樹脂材料からなり、凹凸面55の一部、例えば一般壁面56に形成されている。光輝加飾層67は、第1有色加飾層66と、凹凸面55における底壁面61とに形成されている。押え塗膜層68は、光輝加飾層67に形成されている。光輝加飾層67及び押え塗膜層68は、凹凸面55における側壁面62には形成されていない。第2有色加飾層69は、押え塗膜層68と、凹凸面55における側壁面62とに形成されており、上記第1有色加飾層66とは異なる色、例えば白色に着色されている。
【0006】
上記加飾層65は、図7(a)~(d)に示すように形成される。まず、図7(a)に示すように、黒色の顔料等が含有された樹脂材料が用いられ、2色成形法等の樹脂成形方法によって、前基材54の一般壁面56上に第1有色加飾層66が成形される。次に、図7(b)に示すように、第1有色加飾層66、底壁面61及び側壁面62に対し、蒸着、スパッタリング等の方法によって、金属皮膜からなる光輝加飾層67が形成される。さらに、光輝加飾層67の全体に対し、塗装が行なわれることによって押え塗膜層68が形成される。図7(c)に示すように、光輝加飾層67及び押え塗膜層68の両層において、側壁面62に対応する箇所がレーザ光の照射によって剥離される。さらに、図7(d)に示すように、白色の顔料等が含有されたインキが用いられて、押え塗膜層68及び側壁面62に対しスクリーン印刷等の印刷法が行なわれることによって、第2有色加飾層69が形成される。このようにして、目的とする加飾層65が形成される。なお、上記のように、スクリーン印刷により凹凸面の一部に有色加飾層が形成される技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【0007】
上記のように、前基材54及び後基材63の間に加飾層65が形成された、図5及び図6に示す車載センサカバー53を上記送信方向における前方から見ると、凹凸面55の底壁面61に対応する箇所が光輝加飾層67により金属のように光り輝いて見え、一般壁面56に対応する箇所が第1有色加飾層66により黒色に見える。光輝加飾層67及び押え塗膜層68の各一部が、レーザ光の照射により剥離された箇所を通じて、側壁面62に対応する箇所が第2有色加飾層69により白色に見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-17125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、スクリーン印刷等の印刷法により、凹凸面55の一部である側壁面62に第2有色加飾層69が形成される従来の車載センサカバー53では、凹部58が深い等、凹凸面55の形状によっては、インキが到達しない箇所が生ずるおそれがある。この場合、本来ならば白色に見えるべき上記箇所が白色を帯びているように見えず、上記送信方向における前方から見た場合の車載センサカバー53の見栄えが悪くなる。
【0010】
こうした問題は、ミリ波レーダ装置51に限らず、車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する車載センサが搭載された車両において、電磁波の送信方向における車載センサの前方に配置される車載センサカバーであれば、同様に起り得る。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、電磁波の送信方向における前方から見た場合の見栄えの向上を図ることのできる車載センサカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する車載センサカバーは、車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する車載センサが搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記車載センサの前方に配置され、前記車両を装飾し、かつ前記電磁波の透過性を有する車載センサカバーであって、透明な樹脂材料により形成され、かつ前記送信方向における後面に凹凸面を有する前基材と、樹脂材料により形成されて、前記送信方向における前記前基材の後側に配置され、かつ前記送信方向における前面に、前記前基材の前記凹凸面に対応する凸凹面を有する後基材と、前記前基材及び前記後基材の間において、前記前基材の凹凸面及び前記後基材の凸凹面に密着した状態で形成された加飾層とを備え、前記加飾層は、複数の有色加飾層及び光輝加飾層を備え、複数の前記有色加飾層は、互いに異なる色の樹脂材料が用いられて形成された樹脂成形部により構成されている。
【0013】
上記の構成によれば、加飾層における複数の有色加飾層が、それぞれ樹脂成形部によって構成されている。すなわち、複数の有色加飾層は、いずれも金型を用いた樹脂成形法によって形成されている。各有色加飾層の樹脂成形時には、溶融状態の樹脂材料に高い圧力が加えられる。そのため、スクリーン印刷等の印刷法によって有色加飾層を形成する場合に比べ、凹凸面の形状に拘わらず、同凹凸面のどの箇所に対しても、特に凹部の最も深い箇所に対しても、樹脂材料が到達しやすい。従って、複数の有色加飾層のそれぞれを、樹脂材料によって、凹凸面に沿った形状に形成することが可能である。
【0014】
上記の構成を有する車載センサカバーに対し、電磁波の送信方向における前方から可視光が照射されると、その可視光の一部は、透明な前基材を透過し、加飾層で反射、透過、散乱又は吸収される。可視光は光輝加飾層で反射され、各有色加飾層で吸収、透過又は散乱される。
【0015】
そのため、車載センサカバーの上記送信方向における前方からは、前基材を通して、その後側(奥側)に加飾層が位置するように見える。加飾層のうち光輝加飾層については、金属のように光り輝いて見える。加飾層のうち有色加飾層については、その有色加飾層が有する色が見える。このように、加飾層によって車載センサカバーが装飾され、同車載センサカバー及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0016】
しかも、有色加飾層毎に見える色が異なる。そのため、単一の色の樹脂材料が用いられて一種類の有色加飾層が形成された場合に比べ、上記送信方向における前方から見た場合の車載センサカバーの見栄えが向上する。
【0017】
また、複数の有色加飾層のそれぞれが、上述したように、樹脂材料を用いた樹脂成形法によって凹凸面に沿った形状に形成されている。そのため、上記送信方向における車載センサカバーの前方からは、凹凸面に沿って形成された各有色加飾層が前基材を通して見える。その結果、上記送信方向における前方からの車載センサカバーの見栄えは、有色加飾層がスクリーン印刷等の印刷法によって形成された場合よりも良好になる。
【0018】
上記車載センサカバーにおいて、前記加飾層のうち、前記有色加飾層が形成されている領域では、光輝加飾層は、前記送信方向における前記有色加飾層の後側に形成され、前記加飾層のうち、前記有色加飾層が形成されていない領域では、前記光輝加飾層は、前記送信方向における前記加飾層の最前部に形成されていることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、上記送信方向における前方から車載センサカバーを見た場合、加飾層のうち、有色加飾層が形成されている領域では、前基材を通してその有色加飾層の色が見える。また、加飾層のうち、有色加飾層が形成されていない領域では、前基材を通して光輝加飾層が金属のよう光り輝いて見える。
【0020】
上記車載センサカバーにおいて、前記光輝加飾層及び前記後基材の間には押え塗膜層が形成されていることが好ましい。
上記の構成によれば、光輝加飾層と後基材との間の押え塗膜層により、光輝加飾層の耐食性が向上される。また、押え塗膜層により、後工程で成形される後基材との密着性が向上される。さらに、押え塗膜層により、後基材の成形時の応力等から光輝加飾層が保護される。
【0021】
上記車載センサカバーにおいて、前記前基材は、前記送信方向における後部に、後面において開放された凹部を有し、前記凹部は、前記送信方向に対し傾斜する側壁面を、前記凹凸面の一部として有し、複数の前記有色加飾層の1つは前記側壁面に形成されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、車載センサカバーを上記送信方向における前方から見た場合、凹部における側壁面に対応する箇所に、有色加飾層の色が見える。
しかも、有色加飾層は、樹脂材料が用いられた樹脂成形法によって側壁面に沿った形状に形成されている。そのため、上記送信方向における車載センサカバーの前方からは、側壁面に沿って形成された有色加飾層が前基材を通して見え、見栄えが良好となる。
【発明の効果】
【0023】
上記車載センサカバーによれば、電磁波の送信方向における前方から見た場合の見栄えの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態における車載センサカバーとしてのエンブレムの正面図。
図2】一実施形態におけるエンブレムの断面構造をミリ波レーダ装置とともに示す部分縦断面図。
図3図2のX部を拡大して示す部分縦断面図。
図4】(a),(b)は一実施形態におけるエンブレムを製造する工程を説明する部分縦断面図。
図5】従来の車載センサカバーの断面構造をミリ波レーダ装置とともに示す部分縦断面図。
図6図5のY部を拡大して示す部分縦断面図。
図7】(a)~(d)は、従来の車載センサカバーにおける加飾層を形成する工程を説明する部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、車載センサカバーを車両用のエンブレムに具体化した一実施形態について、図1図4を参照して説明する。
なお、以下の記載に関し、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、一部の図では、エンブレムにおける各部を認識可能な大きさとするために、各部の縮尺を適宜変更して図示している。
【0026】
図2に示すように、車両10の前部の左右方向における中央部分であって、図示しないフロントグリルの後方には、前方監視用のミリ波レーダ装置11が車載センサとして搭載されている。ミリ波レーダ装置11は、電磁波の一形態であるミリ波12を車外のうち、車両10の前方における所定の角度範囲へ向けて送信し、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射されたミリ波12を受信するセンサ機能を有する。ミリ波12とは、波長が1mm~10mmであり、かつ周波数が30GHz~300GHzである電波をいう。
【0027】
ミリ波レーダ装置11は、送信したミリ波12と受信したミリ波12との時間差や、受信波の強度等から、車外の上記物体を認識したり、車両10と上記物体との距離や相対速度を検出したりする。ミリ波レーダ装置11は、雨や霧、雪といった悪天候に強く、他の方式と比較して検出可能距離が長いといった特徴を有している。
【0028】
なお、上述したように、ミリ波レーダ装置11が車両10の前方に向けてミリ波12を送信することから、ミリ波レーダ装置11によるミリ波12の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。ミリ波12の送信方向における前方は、車両10の前方と合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と合致する。そのため、以後の記載では、ミリ波12の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0029】
上記フロントグリルの厚み(前後方向の寸法)は、一般的なフロントグリルと同様、一定ではない。また、フロントグリルでは、樹脂製基材の表面に金属めっき層が形成されることがある。この場合、フロントグリルは、送信又は反射されたミリ波12と干渉する。そこで、フロントグリルにおいて、ミリ波レーダ装置11のミリ波12の経路となる箇所、具体的には、フロントグリルにおいて、ミリ波12の送信方向におけるミリ波レーダ装置11の前方となる箇所には、図示しない窓部が設けられ、エンブレム13が車載センサカバーとしてこの窓部に配置されている。
【0030】
エンブレム13は、前基材14、後基材25及び加飾層35を備えている。図1及び図2に示すように、エンブレム13は、全体として横長の略楕円の板状をなしている。また、エンブレム13は、前方へ膨らむように緩やかに湾曲している。
【0031】
図2及び図3に示すように、前基材14は、エンブレム13の前側部分を構成する部材である。前基材14は、誘電正接(誘電体内での電気エネルギ損失の度合いを表す指標値)の小さな樹脂材料であるPC(ポリカーボネート)樹脂等の樹脂材料によって透明に形成されている。PC樹脂の誘電正接は、0.006である。誘電正接が小さければ、ミリ波12が熱エネルギに変換され難いため、ミリ波12の減衰を抑制可能である。なお、ここでの透明には、無色透明のほかにも着色透明(有色透明)も含まれる。
【0032】
前基材14の前面15は、前後方向に対し略直交する単一の平坦な面によって構成されている。ここでの平坦な面とは、凹凸を有していない面を指し、平面に限らず、全体として緩やかに湾曲した面も含まれる。上記前面15には、樹脂に対する公知の表面処理剤を塗布することにより、透明でミリ波透過性を有するハードコート層24が形成されている。
【0033】
表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。このようなハードコート剤により形成されるハードコート層24は、前基材14の前面15に対して、傷付き防止作用、汚れ防止作用、紫外線カットによる耐光性及び耐候性向上作用、撥水作用の向上等の有用な作用をもたらす。なお、ハードコート層24は、必要に応じて、ミリ波12が透過できる範囲内で着色されてもよい。
【0034】
これに対し、前基材14の後面は、凹凸面16によって構成されている。より詳しくは、前基材14の後部には、前後方向に対し略直交する平坦な一般壁面17と、その一般壁面17よりも前方へ凹んだ凹部21とが形成されている。凹部21は、前基材14の後面において開放されている。凹部21は、前後方向に対し傾斜する側壁面22と、凹部21の最前部に位置する底壁面23とを有している。図3に示すように、凹部21が相対向する一対の側壁面22を有している場合、両側壁面22は、それらの間隔が、前側ほど小さくなるように、前後方向に対し傾斜している。底壁面23は、前後方向に対し略直交する平坦な面によって構成されている。なお、凹部21は、側壁面22を1つのみ有するものであってもよい。一般壁面17、側壁面22及び底壁面23は、それぞれ上記凹凸面16の一部を構成している。
【0035】
上記一般壁面17は、図1におけるエンブレム13の背景領域13aに対応し、底壁面23はエンブレム13の模様領域13bに対応している。ここでは、文字(A)とその周りの環状部分とにより模様領域13bが構成されている。凹部21の側壁面22は、背景領域13aと模様領域13bとの境界部分13cに対応している。
【0036】
なお、前基材14は、上記PC樹脂と同様に、誘電正接の小さな樹脂材料であるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂によって形成されてもよい。
図2及び図3に示すように、後基材25は、エンブレム13の後側部分を構成する部材であり、誘電正接の小さな樹脂材料であるAES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂等の樹脂材料によって、有色に形成されている。AES樹脂の誘電正接は、0.007であり、比誘電率はPC樹脂の比誘電率と略同じである。後基材25の後面26は、上記前基材14の前面15と同様に、前後方向に対し略直交する単一の平坦な面によって構成されている。
【0037】
後基材25の前面は、前基材14の上記凹凸面16に対応する凸凹面27によって構成されている。より詳しくは、後基材25の前部であって、前基材14の一般壁面17の後方となる箇所には、前後方向に対し略直交する平坦な一般壁面28が形成されている。後基材25の前部であって、前基材14の凹部21の後方となる箇所には、一般壁面28よりも前方へ突出して同凹部21に入り込んだ突部31が形成されている。突部31は、前後方向に対し傾斜する側壁面32と、突部31の最前部に位置する頂壁面33とを有している。図3に示すように、突部31が一対の側壁面32を有している場合、両側壁面32は、それらの間隔が、前側ほど小さくなるように、前後方向に対し傾斜している。頂壁面33は、前後方向に対し略直交する平坦な面によって構成されている。なお、突部31は、側壁面32を1つのみ有するものであってもよい。一般壁面28、側壁面32及び頂壁面33は、それぞれ上記凸凹面27の一部を構成している。
【0038】
なお、後基材25は、AES樹脂に代えて、前基材14と比誘電率が近い樹脂、例えば、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合)樹脂、PC樹脂、PC/ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂等によって形成されてもよい。
【0039】
なお、上記前基材14及び後基材25は、それらの周囲に設けられた図示しない連結部によって連結されている。
加飾層35は、前基材14及び後基材25の間において、凹凸面16及び凸凹面27に密着した状態で形成されており、ミリ波透過性を有している。
【0040】
加飾層35は、第1有色加飾層36、第2有色加飾層37、光輝加飾層38及び押え塗膜層39によって構成されている。加飾層35を構成する上記各層のうち、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37はいずれも樹脂成形法によって形成された樹脂成形部によって構成されている。また、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37は、加飾層35の面に沿う方向に互いに重ならない箇所に形成されている。
【0041】
第1有色加飾層36は、本実施形態では、黒色の顔料が含有されたPC樹脂等の樹脂材料によって、凹凸面16における一般壁面17に形成されている。第1有色加飾層36は、図1における上記背景領域13aに位置している。
【0042】
第2有色加飾層37は、上記第1有色加飾層36とは異なる色、本実施形態では、白色の顔料が含有されたPC樹脂等の樹脂材料によって、凹凸面16における側壁面22に形成されている。第2有色加飾層37は、図1における境界部分13cに位置している。
【0043】
光輝加飾層38は、凹凸面16における底壁面23の全体と、第1有色加飾層36の後面の全体と、第2有色加飾層37の後面及び内側面のそれぞれの全体とに対し形成された金属皮膜によって構成されている。ここで、仮に、金属皮膜が一面にわたって連続した状態で形成されると、ミリ波12が遮断又は大きく減衰される。そのため、金属皮膜は、インジウム(In)等の金属材料がスパッタリング又は蒸着されることにより、島構造をなすように形成されている。島構造は、金属皮膜が一面に連続しておらず、多数の微細な金属皮膜が島状に互いに僅かに離間し又は一部接触した状態で敷き詰められてなる構造である。この構造を採用することにより、金属皮膜は不連続構造となり、電気抵抗が高くなり、ミリ波透過性を有する。光輝加飾層38は金属光沢を有しており、図1における上記模様領域13bに位置している。
【0044】
このように、加飾層35のうち、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37が形成されている領域では、光輝加飾層38は、それらの第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37の後側等に形成されている。また、加飾層35のうち、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37が形成されていない領域では、光輝加飾層38は同加飾層35の最前部に形成されている。
【0045】
押え塗膜層39は、黒色等の塗料が用いられて、光輝加飾層38と後基材25との間に形成されており、光輝加飾層38と後基材25の凸凹面27とに対し密着している。押え塗膜層39は、光輝加飾層38の耐食性を向上させたり、後工程で成形される後基材25との密着性を向上させたり、後基材25の成形時の応力等から光輝加飾層38を保護したりする機能を有している。
【0046】
エンブレム13において、ミリ波12が透過される領域の前後方向の厚みは、ミリ波の減衰量が少なくなる値に設定されている。
上記エンブレム13の後面の周縁部における複数箇所には、図示しない取付部が形成されている。取付部は、クリップ、ビス、係合爪等によって構成されている。そして、エンブレム13は、図2に示すように、起立させられた状態で窓部内に配置され、取付部においてフロントグリルに取り付けられている。
【0047】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
最初に、エンブレム13を製造する方法について、図3及び図4を参照して簡単に説明する。この製造方法には、加飾層35を形成する方法が含まれている。
【0048】
まず、図4(a)に示すように、後部に凹凸面16を有する前基材14が射出成形等の樹脂成形法によって成形される。
次に、黒色の顔料が含有されて、黒色に着色されたPC樹脂が用いられて、多色成形法、インサート成形方等の樹脂成形法によって、前基材14の凹凸面16における一般壁面17に対し、第1有色加飾層36が成形される。また、白色の顔料が含有されて白色に着色されたPC樹脂が用いられて、上記と同様の樹脂成形法によって、上記凹凸面16における側壁面22に対し、第2有色加飾層37が成形される。このように、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37のいずれもが、金型を用いた樹脂成形法によって成形される。第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37の樹脂成形時には、溶融状態の樹脂材料に高い圧力が加えられる。そのため、図7(d)に示すように、スクリーン印刷等の印刷法によって第2有色加飾層69を形成する従来技術とは異なり、凹凸面16のどの箇所に対しても、特に凹部21の最も深い箇所に対しても、樹脂材料が到達しやすい。従って、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37のそれぞれを、凹凸面16に沿った形状に形成することができる。
【0049】
次に、図4(b)に示すように、凹凸面16の底壁面23、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37に対し、インジウム等の金属材料がスパッタリング又は蒸着されることにより、島構造をなす光輝加飾層38が形成される。
【0050】
さらに、光輝加飾層38の全体に対し、後側から塗装により押え塗膜層39が形成される。この押え塗膜層39の形成により、前基材14の後側に加飾層35を形成してなる中間成形体41が得られる。
【0051】
続いて、図3に示すように、上記中間成形体41をインサートとしたインサート成形法等の樹脂成形法によって、AES樹脂からなり、かつ凸凹面27を前部に有する後基材25が成形される。
【0052】
そして、前基材14の前面に表面処理剤が塗布されることにより、ハードコート層24が形成されることにより、目的とするエンブレム13が得られる。このエンブレム13は、フロントグリルの窓部に配置され、取付部において同フロントグリルに組付けられる。
【0053】
次に、本実施形態のエンブレム13の使用時の作用について説明する。
図2及び図3に示すように、ミリ波レーダ装置11からミリ波12が送信されると、そのミリ波12は、エンブレム13における後基材25、加飾層35、前基材14及びハードコート層24を順に透過する。透過したミリ波12は、先行車両、歩行者等を含む車両前方の物体に当たって反射された後、ハードコート層24、前基材14、加飾層35及び後基材25を順に透過する。上記ミリ波12は、ミリ波レーダ装置11によって受信される。金属皮膜からなる光輝加飾層38は、島構造を採っていて不連続であることから、電気抵抗が高く、ミリ波透過性を有する。ミリ波レーダ装置11では、送信及び受信されたミリ波12に基づき、上記物体の認識や、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出が行われる。
【0054】
ところで、図2に示すように、エンブレム13に対し前方から入射した可視光L1の一部は、ハードコート層24及び前基材14を順に透過する。この可視光L1は、前基材14よりも後側に位置する加飾層35で反射、透過、散乱又は吸収される。図3に示すように、可視光L1は、模様領域13bに位置する光輝加飾層38では反射される。可視光L1は、背景領域13aに位置する第1有色加飾層36では吸収される。可視光L1は、境界部分13cに位置する第2有色加飾層37では散乱される。
【0055】
そのため、エンブレム13の前方からは、ハードコート層24及び前基材14を通して、それらの後側(奥側)に加飾層35が位置するように見える。加飾層35のうち、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37が形成されていない領域、すなわち、凹凸面16における底壁面23(模様領域13b)では、光輝加飾層38が、金属のように光り輝いて見える。加飾層35のうち、第1有色加飾層36が形成されている領域、すなわち凹凸面16における一般壁面17(背景領域13a)では、第1有色加飾層36が黒色を帯びているように見える。また、加飾層35のうち、第2有色加飾層37が形成されている領域、すなわち、凹凸面16における側壁面22(境界部分13c)では、第2有色加飾層37が白色を帯びているように見える。このように、加飾層35によってエンブレム13が装飾され、エンブレム13及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0056】
しかも、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37毎に見える色が異なる。そのため、単一の色の樹脂材料が用いられて一種類の有色加飾層が形成された場合に比べ、前方から見た場合のエンブレム13の見栄えが向上する。
【0057】
また、本実施形態では、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37のそれぞれが、上述したように、樹脂材料を用いた樹脂成形法によって凹凸面16に沿った形状に形成されている。そのため、前方からエンブレム13を見たときの見栄えは、第2有色加飾層69がスクリーン印刷等の印刷法によって形成された従来技術よりも良好になる。
【0058】
また、光輝加飾層38は底壁面23に形成されて、加飾層35の最前部に位置していることから、一般壁面17に形成された黒色の第1有色加飾層36よりも前側(手前)に位置しているように立体的に見える。従って、エンブレム13及びその周辺部分の見栄えが一層向上する。こうした効果は、前基材14の後面を単一の平坦面によって構成し、その平坦面上に加飾層を形成したタイプの車載センサカバーでは得られにくい。
【0059】
なお、可視光L1の加飾層35での上記反射、透過、散乱及び吸収は、ミリ波レーダ装置11よりも前側で行われる。加飾層35は、ミリ波レーダ装置11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、エンブレム13の前方からは、ミリ波レーダ装置11が見えにくい。従って、エンブレム13が用いられず、ミリ波レーダ装置11がむき出しの状態で車体に組み込まれるものや、ミリ波レーダ装置11がエンブレム13を介して透けて見える場合に比べて意匠性が向上する。
【0060】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・従来の車載センサカバー53では、第1有色加飾層66の色(黒色)とは異なる色(白色)を表現するために、加飾層65の形成に際し、光輝加飾層67及び押え塗膜層68にレーザ光を照射して剥離する工程(図7(c))と、第2有色加飾層69をスクリーン印刷により形成する工程(図7(d))との2工程が必要である。これに対し、本実施形態では、図4(a)に示すように、第2有色加飾層37を樹脂成形によって形成することによって、第1有色加飾層36の色(黒色)とは異なる色(白色)を表現することができる。そのため、上記の2工程が不要となり、その分、製造工数を少なくし、製造コストを低減することができる。
【0061】
・本実施形態では、第1有色加飾層36が凹凸面16における一般壁面17に形成され、第2有色加飾層37が側壁面22に形成されている。表現を変えると、第1有色加飾層36と第2有色加飾層37とは、加飾層35の面に沿う方向に互いに重ならない箇所に形成されている。そのため、エンブレム13の前方からは、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37の互いの色が重なって見えない。また、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37の間で色の干渉も起りにくい。
【0062】
・フロントグリルにおいて、樹脂製基材の表面に金属めっき層が形成されている場合には、光輝加飾層38で反射され、かつ金属のような輝きを伴う色を、上記金属めっき層の色に合わせることで、エンブレム13のフロントグリルとの一体感を得ることができ、車両10の前部の意匠性を高めることができる。
【0063】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0064】
・エンブレム13は、楕円とは異なる形状の板状に形成されてもよい。
・エンブレム13におけるハードコート層24は省略可能である。
・エンブレム13の最前部に位置する部材の前面に、例えば、有機系塗装膜、シリコーン膜等からなる撥水膜が形成されてもよい。このようにすると、上記部材の前面に付着した水を弾き、同部材を濡れにくくすることで、上記部材の前面に水の膜が形成されるのを抑制することができる。
【0065】
上記実施形態の場合、最前部に位置する部材はハードコート層24であるため、撥水膜はこのハードコート層24の前面に形成される。
上記実施形態とは異なり、ハードコート層24が設けられない場合には、前基材14が最前部に位置するため、この前基材14の前面に撥水膜が形成される。
【0066】
・エンブレム13は、フロントグリルに代えて、車体に取り付けられてもよい。
・樹脂成形部によって構成される有色加飾層の数が3以上に変更されてもよい。その場合、互いに異なる色、例えば、黄色、青色等の樹脂材料が用いられて、各有色加飾層が樹脂成形法によって形成される。この場合の樹脂材料には、着色透明(有色透明)の樹脂材料も含まれる。
【0067】
・加飾層35における光輝加飾層38が上記実施形態とは異なる前後位置に形成されてもよい。例えば、光輝加飾層38は、第1有色加飾層36及び第2有色加飾層37が形成されない箇所にのみ、すなわち、上記実施形態の場合、底壁面23にのみ形成されてもよい。
【0068】
・加飾層35において、押え塗膜層39は必須ではなく省略が可能である。
・光輝加飾層38が、誘電体多層膜、いわゆるコールドミラー層によって構成されてもよい。誘電体多層膜は、高屈折率材料からなる誘電体薄膜と、これよりも屈折率の低い低屈折率材料からなる誘電体薄膜とを交互に積層することにより形成された膜である。
【0069】
・上記車載センサカバーは、車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する車載センサが搭載された車両において、電磁波の送信方向における上記車載センサの前方に配置される車載センサカバーであれば、車載センサの種類に拘わらず適用可能である。例えば、車載センサは、電磁波として赤外線を送信及び受信する赤外線センサであってもよい。
【0070】
また、車載センサは、前方監視用以外にも、後方監視用、前側方監視用、又は後側方監視用の車載センサであってもよい。
・上記車載センサカバーは、エンブレムとは異なる形態の車載センサカバー、例えばフロントグリルに適用されてもよい。
【0071】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項1~4のいずれか1項に記載の車載センサカバーにおいて、複数の前記有色加飾層は、前記加飾層の面に沿う方向に互いに重ならない箇所に形成されている。
【0072】
上記の構成によれば、上記送信方向における車載センサカバーの前方からは、複数の有色加飾層の互いの色が重なって見えない。また、複数の有色加飾層間で色の干渉が起りにくい。
【符号の説明】
【0073】
10…車両、11…ミリ波レーダ装置(車載センサ)、12…ミリ波(電磁波)、13…エンブレム(車載センサカバー)、14…前基材、16…凹凸面、21…凹部、22…側壁面、25…後基材、27…凸凹面、35…加飾層、36…第1有色加飾層(樹脂成形部)、37…第2有色加飾層(樹脂成形部)、38…光輝加飾層、39…押え塗膜層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7