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7131513シリコン試料の前処理方法、シリコン試料の金属汚染評価方法、単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法、単結晶シリコンインゴットの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】シリコン試料の前処理方法、シリコン試料の金属汚染評価方法、単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法、単結晶シリコンインゴットの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20220830BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01L21/66 L
C30B29/06 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019161793
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021040082
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏和
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-031430(JP,A)
【文献】特開平08-088259(JP,A)
【文献】特開2000-150509(JP,A)
【文献】特開2003-173998(JP,A)
【文献】特開2006-278678(JP,A)
【文献】特開2014-099479(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129246(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0225775(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0020192(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属汚染評価前のシリコン試料をフッ化水素および硝酸を含むエッチング液により酸エッチングすること、
前記酸エッチング後のシリコン試料を液温が80℃超100℃以下のSC1洗浄液によりSC1洗浄すること、ならびに
前記SC1洗浄後のシリコン試料を酸洗浄すること、
を含む、金属汚染の評価が行われるシリコン試料の前処理方法。
【請求項2】
前記エッチング液は、フッ硝酸である、請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
前記酸洗浄は、フッ化水素酸による酸洗浄である、請求項1または2に記載の前処理方法。
【請求項4】
前記SC1洗浄液の液温は、85℃以上95℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の前処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の前処理方法によってシリコン試料を前処理すること、
前記前処理後のシリコン試料の表面をエッチングガスと接触させて気相エッチングを行うこと、
前記気相エッチング後の残渣を回収液中に回収すること、
前記残渣を回収した回収液中の金属成分を分析すること、
を含む、シリコン試料の金属汚染評価方法。
【請求項6】
前記気相エッチングは、
オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストをチャンバー内に導入して混合することによりエッチングガスを調製すること、ならびに、
前記前処理後のシリコン試料の表面を前記エッチングガスと接触させること、
を含む、請求項5に記載の金属汚染評価方法。
【請求項7】
評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、
育成された単結晶シリコンインゴットからシリコン試料を切り出すこと、
前記シリコン試料を請求項5または6に記載の金属汚染評価方法によって評価すること、および、
前記評価の結果に基づき、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルを評価すること、
を含む、単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法。
【請求項8】
前記シリコン試料の切り出しを、バンドソーによって行うことを含む、請求項7に記載の単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法によって単結晶シリコンインゴット育成工程を評価すること、
前記評価の結果に基づき、前記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程の工程管理の必要性を判定し、工程管理が必要と判定された場合には工程管理を実施した後に、工程管理が不要と判定された場合には工程管理を実施することなく、前記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、
を含む、単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法によって単結晶シリコンインゴットを製造すること、および
製造された単結晶シリコンインゴットをスライシング加工すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン試料の前処理方法、シリコン試料の金属汚染評価方法、単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法、単結晶シリコンインゴットの製造方法およびシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコン等のシリコン材料の製造分野では、シリコン材料の金属汚染評価の前処理として、シリコン試料をエッチングすることが行われている(例えば特許文献1の段落0013参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-283581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、単結晶シリコンインゴットの製造分野では、単結晶シリコンインゴットの育成工程における金属汚染の発生レベルを評価するために、育成された単結晶シリコンインゴットから切り出されたシリコン試料のバルク金属汚染を評価することが行われている。この評価によってシリコン試料に多量の金属成分が混入していることが確認されたならば、単結晶シリコンインゴットの育成工程において重度の金属汚染が発生しているため工程管理が必要であると判定することができる。そのように判定された場合には、育成工程における金属汚染の発生原因の除去または金属汚染の発生抑制のために、例えば、単結晶材料の高純度化、育成工程で使用される部材の交換や洗浄、育成工程で使用されるプロセスガスの高純度化等の工程管理を行うことができる。こうして工程管理を行うことにより、金属汚染が少ない単結晶シリコンインゴットを安定的に供給することが可能となる。
【0005】
例えば上記のようなシリコン試料のバルク金属汚染評価を行う前にシリコン試料の表層部を除去することは、バルク金属汚染をより精度よく評価するうえで望ましい。例えば、シリコン試料を前処理して表層部を除去した後、前処理後のシリコン試料をエッチングしてエッチングの残渣中の金属成分を分析することができる。エッチングの残渣にはエッチングによって分解除去された部分を汚染していた金属成分が含まれるため、残渣中の金属成分を分析することによってシリコン試料のバルク金属汚染を評価することができる。このようなバルク金属汚染の評価の精度を高めるためには、シリコン試料の前処理に起因する金属成分が、上記のエッチングの残渣に混入すること(例えば、前処理で除去された表層部に含まれていた金属成分の残留)を抑制することが望ましい。
【0006】
以上に鑑み本発明の一態様は、金属汚染評価前のシリコン試料の新たな前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
金属汚染評価前のシリコン試料をフッ化水素および硝酸を含むエッチング液により酸エッチングすること、
上記酸エッチング後のシリコン試料を液温が80℃超100℃以下のSC1洗浄液によりSC1洗浄すること、ならびに
上記SC1洗浄後のシリコン試料を酸洗浄すること、
を含む、金属汚染の評価が行われるシリコン試料の前処理方法、
に関する。
【0008】
上記前処理方法では、金属汚染評価前のシリコン試料をフッ化水素および硝酸を含むエッチング液により酸エッチングする。この酸エッチングによって、バルク金属汚染の評価を行う前にシリコン試料の表層部を分解除去することができる。
ただし、フッ化水素および硝酸を含むエッチング液による酸エッチング後には、シリコン試料表面にシリコンと窒素酸化物ガスとの反応によるステイン膜が形成されていると考えられる。このステイン膜には、酸エッチングによって分解除去した表層部に含まれていた金属成分が残留していると推察される。この点に関して、上記前処理方法においてフッ化水素および硝酸を含むエッチング液による酸エッチング後に液温が80℃超100℃以下のSC1洗浄液によるSC1洗浄を行うことは、ステイン膜を効果的に除去することに寄与すると考えられる。その結果、上記SC1洗浄後に酸洗浄を行い得られたシリコン試料について金属汚染の評価を行うことにより、酸エッチングにより分解除去された表層部に含まれていた金属成分の影響を大きく受けることなく、バルク金属汚染を精度よく評価することが可能になる。近年、半導体デバイスの微細化に伴い、シリコン試料のバルク金属汚染低減に対する要求レベルは高くなっている。この点から、シリコン試料のバルク金属汚染をより精度よく評価できることは望ましい。
【0009】
一形態では、上記エッチング液は、フッ硝酸であることができる。
【0010】
一形態では、上記酸洗浄は、フッ化水素酸による酸洗浄であることができる。
【0011】
一形態では、上記SC1洗浄液の液温は、85℃以上95℃以下であることができる。
【0012】
本発明の一態様は、
上記前処理方法によってシリコン試料を前処理すること、
上記前処理後のシリコン試料の表面をエッチングガスと接触させて気相エッチングを行うこと、
上記気相エッチング後の残渣を回収液中に回収すること、
上記残渣を回収した回収液中の金属成分を分析すること、
を含む、シリコン試料の金属汚染評価方法、
に関する。
【0013】
一形態では、上記気相エッチングは、
オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストをチャンバー内に導入して混合することによりエッチングガスを調製すること、ならびに、
上記前処理後のシリコン試料の表面を上記エッチングガスと接触させること、
を含むことができる。
【0014】
本発明の一態様は、
評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、
育成された単結晶シリコンインゴットからシリコン試料を切り出すこと、
上記シリコン試料を上記金属汚染評価方法によって評価すること、および、
上記評価の結果に基づき、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルを評価すること、
を含む、単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法、
に関する。
【0015】
一形態では、上記シリコン試料の切り出しは、バンドソーによって行うことができる。
【0016】
本発明の一態様は、
上記単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法によって単結晶シリコンインゴット育成工程を評価すること、
上記評価の結果に基づき、上記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程の工程管理の必要性を判定し、工程管理が必要と判定された場合には工程管理を実施した後に、工程管理が不要と判定された場合には工程管理を実施することなく、上記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、
を含む、単結晶シリコンインゴットの製造方法、
に関する。
【0017】
本発明の一態様は、
上記単結晶シリコンインゴットの製造方法によって単結晶シリコンインゴットを製造すること、および
製造された単結晶シリコンインゴットをスライシング加工すること、
を含む、シリコンウェーハの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、金属汚染評価前のシリコン試料の新たな前処理方法を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる前処理方法によって前処理した後にシリコン試料の金属汚染評価を行うことにより、シリコン試料のバルク金属汚染を精度よく評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[前処理方法]
本発明の一態様は、金属汚染評価前のシリコン試料をフッ化水素および硝酸を含むエッチング液により酸エッチングすること、上記酸エッチング後のシリコン試料を液温が80℃超100℃以下のSC1洗浄液によりSC1洗浄すること、ならびに上記SC1洗浄後のシリコン試料を酸洗浄することを含む金属汚染の評価が行われるシリコン試料の前処理方法に関する。
以下、上記前処理方法について、更に詳細に説明する。
【0020】
<シリコン試料>
前処理が施されるシリコン試料は、前処理後に金属汚染の評価が行われるシリコン試料であればよく、任意の形状およびサイズのシリコン試料であることができる。例えば、前処理が施されるシリコン試料は、単結晶シリコンインゴットからウェーハ形状に切り出されたシリコン試料であることができるが、これに限定されるものではない。シリコン試料の導電型はp型であってもn型であってもよい。例えば、p型のシリコン試料は、ボロンがドープされた単結晶シリコンであることができる。その抵抗率は、特に限定されるものではなく、例えば0.006~0.3Ωcmであることができ、または0.006~0.016Ωcm以下であることができる。例えば、単結晶シリコンインゴットからのシリコン試料の切り出しは、バンドソーを用いるスライシング加工、ワイヤソーを用いるスライシング加工等のインゴットのスライシングのために通常行われる方法によって行うことができる。ワイヤソーを用いるスライシング加工ではスラリーが通常使用されるのに対し、バンドソーを用いるスライシング加工ではスラリーは通常使用されない。スライシング時にスラリーからシリコン試料への金属成分(例えばCu)の混入が起こり得ると考えられるため、スライシングに起因する金属汚染を低減する観点からは、バンドソーを用いるスライシング加工が好ましい。
【0021】
上記前処理方法では、上記シリコン試料に対して、酸エッチング、SC1洗浄およびその後の酸洗浄を実施する。以下に、各工程について更に詳細に説明する。各工程は、通常、大気圧下、室温雰囲気中で行うことができる。室温は、例えば20~25℃の範囲であることができる。
【0022】
<酸エッチング>
酸エッチングでは、金属汚染評価前のシリコン試料をフッ化水素および硝酸を含むエッチング液により酸エッチングする。上記酸エッチングは、例えばアルカリエッチングと比べてエッチング中にシリコン試料への金属成分の混入が生じ難い傾向がある。上記エッチング液は、酸成分としてフッ化水素および硝酸を含む。上記エッチング液は、フッ化水素酸および硝酸の二種のみであってもよく、上記二種の酸成分に加えて一種以上の他の酸成分を含むこともできる。他の酸成分としては、例えば酢酸を挙げることができる。上記エッチング液は、例えば水溶液であることができる。酸エッチング時の上記エッチング液の液温は、通常、室温(例えば20~25℃)であることができる。上記エッチング液のフッ化水素濃度は、5~20質量%の範囲であることが好ましく、8~15質量%の範囲であることがより好ましい。上記エッチング液の硝酸濃度は、30~60質量%の範囲であることが好ましく、40~50質量%の範囲であることがより好ましい。また、上記エッチング液が酢酸を含む場合、酢酸濃度は0質量%超10質量%以下であることが好ましく、0質量%超5質量%以下であることがより好ましい。一形態では、上記エッチング液は、酸成分としてフッ化水素および硝酸のみを含む水溶液、即ちフッ硝酸であることができる。酸エッチングは、例えば、酸エッチングの対象のシリコン試料を上記エッチング液に浸漬することによって行うことができる。浸漬時間は、例えば1~10分間とすることができる。前処理が施されるシリコン試料の厚みは、例えば700~2000μmの範囲であることができ、酸エッチングにより分解除去される表層部の厚みは、例えば10~300μmの範囲であることができる。
【0023】
<SC1洗浄>
上記前処理方法では、上記酸エッチング後のシリコン試料をSC1洗浄する。「SC1洗浄(Standard Cleaning 1)」とは、アンモニア水、過酸化水素水およびHOが混合されたSC1洗浄液による洗浄処理である。SC1洗浄液のアンモニアの濃度は0.5~3.0質量%の範囲であることが好ましく、過酸化水素の濃度は1.0~3.0質量%の範囲であることが好ましい。そして上記前処理方法におけるSC1洗浄は、液温が80℃超100℃以下のSC1洗浄液により行われる。このことが、先に記載したステイン膜を効果的に除去することに寄与すると考えられる。また、SC1洗浄を行うことは、酸エッチング後のシリコン試料表面のパーティクルを除去することにも寄与し得る。SC1洗浄液の液温は、ステイン膜をより一層効果的に除去する観点から、81℃以上であることが好ましく、82℃以上であることがより好ましく、83℃以上であることが更に好ましく、84℃以上であることが一層好ましく、85℃以上であることがより一層好ましい。また、SC1洗浄液の液温は、SC1洗浄液の揮発抑制の観点から、100℃以下であり、99℃以下であることが好ましく、98℃以下であることがより好ましく、97℃以下であることが更に好ましく、96℃以下であることが一層好ましく、95℃以下であることがより一層好ましい。SC1洗浄は、例えば、酸エッチング後のシリコン試料を、上記液温のSC1洗浄液に浸漬することによって行うことができる。浸漬時間は、例えば5~20分間とすることができる。
【0024】
<酸洗浄>
上記SC1洗浄後のシリコン試料は、酸洗浄される。酸洗浄は、酸成分を含む洗浄液により行われる洗浄である。上記SC1洗浄後のシリコン試料の表面には、水酸化物の薄膜が形成されていると考えられ、酸洗浄によって上記薄膜を除去することができると推察される。酸洗浄に使用される洗浄液としては、例えば、フッ化水素の水溶液、即ちフッ化水素酸を挙げることができる。フッ化水素酸のフッ化水素の濃度は、例えば、10~50質量%の範囲であることができる。また、酸洗浄に使用される洗浄液としては、SC2洗浄液を挙げることもできる。「SC2洗浄(Standard Cleaning 2)」とは、塩酸、過酸化水素水およびHOが混合されたSC2洗浄液による洗浄処理である。SC2洗浄液の塩酸の濃度は1~5質量%の範囲であることが好ましく、過酸化水素の濃度は1~5質量%の範囲であることが好ましい。酸洗浄時の上記洗浄液の液温は、通常、20~60℃の範囲であることができる。酸洗浄は、例えば、上記SC1洗浄後のシリコン試料を上記洗浄液に浸漬することによって行うことができる。浸漬時間は、例えば5~20分間とすることができる。
【0025】
以上の前処理方法によって前処理されたシリコン試料は、金属汚染の評価に付される。かかる評価の詳細について、以下に説明する。
【0026】
[金属汚染評価方法]
本発明の一態様は、上記前処理方法によってシリコン試料を前処理すること、上記前処理後のシリコン試料の表面をエッチングガスと接触させて気相エッチングを行うこと、上記気相エッチング後の残渣を回収液中に回収すること、上記残渣を回収した回収液中の金属成分を分析すること、を含むシリコン試料の金属汚染評価方法に関する。
【0027】
<前処理>
上記金属汚染評価方法は、先に詳述した前処理方法によってシリコン試料を前処理することを含む。これにより、シリコン試料のバルク金属汚染をより精度よく評価することができる。この点の詳細は、先に記載した通りである。
【0028】
<気相エッチング>
上記金属汚染評価方法では、上記前処理方法によって前処理されたシリコン試料の表面を、エッチングガスと接触させて気相エッチングを行う。エッチングガスと接触させる表面は、上記前処理方法において酸エッチングにより表層部が除去された後にSC1洗浄および酸洗浄が施された表面である。この表面側を気相エッチングすることにより、前処理に起因する金属成分が気相エッチングの残渣に混入すること(例えば、前処理で除去された表層部に含まれていた金属成分の残留)を抑制することができ、その結果、シリコン試料のバルク金属汚染の精度を高めることができる。
【0029】
上記気相エッチングによって、前処理後のシリコン試料の少なくとも一部を気相分解することができる。以下において、気相エッチングによって除去される領域を、「被エッチング領域」と記載する。被エッチング領域は、シリコン試料の表面から深さ方向に向かう少なくとも一部の領域である。シリコン試料全体を気相分解することもでき、一部領域を気相分解することもできる。一般的なシリコン試料の金属汚染評価では、シリコン試料の表面から厚み0.02~10μm程度の領域が分析対象領域となることが多い。したがって、一例では、被エッチング領域の厚みは、0.02~10μm程度であることができる。ただし被エッチング領域の厚みは、上記範囲外であってもよく、金属汚染評価の目的に応じて設定すればよい。
【0030】
上記気相エッチングは、一例として、特開2000-35424号公報に記載されているエッチング方法によって行うことができる。かかるエッチング方法の詳細については、同公報の特許請求の範囲および明細書の全記載を参照でき、特に、明細書の段落0013~0020を参照できる。
【0031】
また、上記気相エッチングは、一例として、
オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストをチャンバー内に導入して混合することによりエッチングガスを調製すること、ならびに、
上記前処理後のシリコン試料の表面を上記エッチングガスと接触させること、
によって行うことができる。
【0032】
以下に、上記エッチング方法について、更に詳細に説明する。
【0033】
(エッチングガスの調製)
エッチング対象のシリコンウェーハの表面と接触させるエッチングガスは、オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストをチャンバー(エッチングガス調製用チャンバー)内に導入して混合することにより調製することができる。エッチングガス調製用チャンバーは、気相分解を行うチャンバー(気相分解用チャンバー)と同じチャンバーであってもよく、別のチャンバーであってもよい。エッチングガス調製用チャンバーが気相分解用チャンバーとは別のチャンバーである態様に関しては、エッチングガス調製用チャンバーから気相分解用チャンバーへのエッチングガスの供給が可能な各種の公知の構成のチャンバーを使用することができる。エッチングガス調製用チャンバーと気相分解用チャンバーが通気可能に連通している一例として、WO2014/129246に記載のエッチング装置(同文献の図1図2等参照)を挙げることができる。ただし、上記エッチング方法で使用されるチャンバーはWO2014/129246に記載のエッチング装置に限定されるものではない。
【0034】
上記エッチング方法では、エッチングガスの調製のために、オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストをエッチングガス調製用チャンバー内に導入する。オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストの導入は、シリコンウェーハの表層領域の気相分解中に連続的または断続的に継続して行うことが好ましく、連続的に継続して行うことがより好ましい。また、気相分解を行うチャンバーは、シリコンウェーハ表面と接触したエッチングガスの少なくとも一部をチャンバー外に排気可能な排気手段を備えることが好ましい。以下、エッチングガス調製用チャンバー内へのオゾン含有ガスの導入およびフッ酸ミストの導入について更に詳細に説明する。
【0035】
(オゾン含有ガスの導入)
オゾン含有ガスは、エッチングガス調製用チャンバー内へ、好ましくは3000sccm以上の流量で導入することができる。流量に関する単位「sccm」とは、「standard cc/min」の略称であり、本発明および本明細書においては、大気圧(1013hPa)下、温度0℃の環境における流量(cc/min)を意味するものとする。エッチングを行う環境が上記気圧以外および上記温度以外の環境であってもよく、その場合には、上記気圧および上記温度における流量に換算して3000sccm以上となる流量で、エッチングガス調製用チャンバー内へのオゾン含有ガスの導入が行われることが好ましい。エッチングガス調製用チャンバー内へ、好ましくは3000sccm以上の流量でオゾン含有ガスを導入することは、エッチング後のシリコン試料表面に走査させる回収液の回収率向上に寄与し得る。一方、オゾン含有ガスの調製の容易性の観点からは、上記流量は、5000sccm以下であることが好ましく、4000sccm以下であることがより好ましい。また、上記オゾン含有ガスのオゾン濃度は、気相分解反応の反応速度を高める観点からは、0.5質量%以上であることが好ましく、0.7質量%以上であることがより好ましい。一方、オゾン含有ガスの調製の容易性の観点からは、上記オゾン含有ガスのオゾン濃度は、3.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましい。オゾン含有ガスは、誘電体バリア放電を利用する方法等の公知の方法により調製することができる。エッチングガス調製用チャンバーへのオゾン含有ガスの導入は、エッチングガス調製用チャンバーの少なくとも1つの開口部から行うことができ、2つ以上の開口部から行うこともできる。エッチングガス調製用チャンバーへのオゾン含有ガスの導入を2つ以上の開口部から行う場合、エッチングガス調製用チャンバー内へのオゾン含有ガスの流量とは、それら2つの開口部からの合計流量を意味するものとする。この点は、フッ酸ミストの導入についても同様である。
【0036】
(フッ酸ミストの導入)
フッ酸ミストは、フッ酸(フッ化水素酸の水溶液)を霧化することにより調製することができる。このフッ酸として、好ましくはフッ化水素酸(HF)濃度が41質量%以上のフッ酸を使用することができる。この点も、エッチング後のシリコン試料表面に走査させる回収液の回収率向上に寄与し得る。回収液の回収率を更に高める観点から、上記フッ酸のHF濃度は、43質量%以上であることがより好ましい。一方、調製または入手の容易性の観点からは、上記フッ酸のHF濃度は、50質量%以下であることが好ましい。
【0037】
フッ酸の霧化は、溶液をキャリアガスと混合することにより霧化して溶液の液滴を含むガス流をもたらすことができる公知の構成の霧化装置(一般に「ネブライザ」と呼ばれる。)によって行うことができる。一例としては、負圧吸引タイプのネブライザを挙げることができる。
霧化のためのキャリアガスとしては、不活性ガスの一種または二種以上の混合ガスを用いることができる。具体例としては、窒素ガス、アルゴンガス等を挙げることができる。キャリアガスの流量は、フッ酸の霧化を効率よく行う観点からは、700sccm以上とすることが好ましい。一方、フッ酸ミスト中のフッ酸濃度を高める観点からは、キャリアガスの流量は、1300sccm以下とすることが好ましい。
【0038】
(シリコン試料の表面とエッチングガスとの接触)
上記エッチングガスをエッチング対象のシリコン試料の表面と接触させることによって、シリコン試料の上記エッチングガスと接触した表面から深さ方向に向かう領域(被エッチング領域)を気相分解することができる。エッチングガスとシリコン試料表面との接触時間(エッチング時間)は、例えば0.1~4時間とすることができる。ただし、エッチング時間は、気相分解すべき領域の厚みに応じて設定すればよく、上記範囲に限定されるものではない。気相エッチングを行うチャンバー内の温度は、例えば17~29℃程度であることができる。
【0039】
<気相エッチング後の残渣の回収>
上記気相エッチング後の残渣には、シリコン試料の被エッチング領域に含まれていた金属成分(表面および内部)に含まれていた金属成分が含有されている。先に説明した前処理方法によれば、前処理に起因する金属成分が、この残渣に混入することを抑制することができる。これにより、シリコン試料のバルク金属汚染評価の精度を高めることができる。例えば、シリコン試料の表面から深さ方向に向かう一部領域を気相エッチングにより気相分解した後、シリコン試料の表面には、気相分解された領域に含まれていた金属成分が残留している。したがって、気相エッチング後のシリコン試料の表面から金属成分を回収して分析することにより、シリコン試料の気相エッチングにより分解除去された部分の金属汚染の有無および/または程度を評価することができる。
【0040】
例えば、上記気相エッチングによって被エッチング領域が除去された後に露出したシリコン試料の表面で回収液を走査させることにより、かかる表面から回収液中に金属成分を取り込むことができる。回収液を走査する前には、任意に、シリコン試料を加熱することができる。この加熱により、エッチングガスに含まれていた水分や気相分解の反応により生じた水分を乾燥させることができ、気相分解の反応により生じた易分解性物質をシリコン表面から除去することもできる。加熱温度は、シリコン試料の表面温度として、90~100℃程度が好適である。加熱方法および加熱時間は特に限定されるものではない。
【0041】
シリコン試料の表面での回収液の走査は、気相エッチング後のシリコン試料表面から回収液を用いて金属成分を回収する方法として公知の方法により行うことができる。例えば、回収液の走査は、回収液走査用ノズル(以下、「スキャンノズル」とも記載する。)を使用し、ノズル先端に回収液を液滴として保持しつつノズルをシリコン試料の表面上で移動させることによって行うことができる。その後、このノズルにより液滴を吸引することによって、シリコン試料の表面で走査させた回収液を回収することができる。回収液走査用ノズルとしては、公知の構成のノズルを使用することができる。シリコン試料の表面でのノズルの移動速度は、例えば2~3mm/s程度とすることができる。回収液走査用ノズルの移動を自動化することにより、シリコン試料の表面での回収液の走査を自動で行うことができる。
【0042】
回収液としては、シリコン試料の表面から金属成分を回収する回収液として公知の回収液を使用することができる。かかる回収液としては、例えば、純水、フッ化水素酸と過酸化水素との混酸水溶液、過酸化水素と塩酸との混酸水溶液、フッ化水素酸、過酸化水素および塩酸の混酸水溶液等を挙げることができる。酸成分を含む回収液を使用する場合、酸成分の濃度については、公知技術を制限なく適用することができる。また、回収液の使用量は、例えば700~1000μl程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではなく、評価対象のシリコン試料のサイズ等を考慮して決定すればよい。
【0043】
<金属成分の分析>
上記回収液には、気相エッチングにより除去された被エッチング領域に含まれていた金属成分が取り込まれている。したがって、上記回収液中の金属成分を分析することにより、シリコン試料の気相エッチングにより除去された部分に含まれていた金属成分の定性分析および/または定量分析を行うことができる。金属成分の分析は、金属成分の分析装置として公知の分析装置、例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;ICP-MS)、原子吸光分光装置(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって行うことができる。シリコン試料の表面で走査させて回収された回収液はそのまま、または必要に応じて希釈もしくは濃縮した後、上記分析装置に導入することができる。
【0044】
上記金属汚染評価方法は、各工程の実施および工程間のウェーハの搬送が自動化された自動評価システムにおいて行うことができる。例えば、前処理部、エッチング部、加熱部、回収部、および分析部を備えた評価装置において、前処理部へのシリコン試料の搬入、前処理部での前処理の実施、エッチング部へのシリコン試料の搬入、エッチング部での気相エッチングの実施、加熱部への気相エッチング後のシリコン試料の搬入、加熱部でのシリコン試料の加熱乾燥、回収部へのシリコン試料の搬入、回収部でのシリコン試料表面への回収液の供給、走査および回収、ならびに分析部での回収液中の金属成分分析を自動で行うことができる。例えば、上記の各部での工程の実施およびウェーハの搬送をプログラミングし、制御部でプログラムを実行することにより、全工程の自動化(全自動評価)が可能となる。
【0045】
上記の金属汚染評価方法によれば、シリコン試料のバルク金属汚染評価を、前処理に起因する金属成分の影響を低減または排除して高精度に行うことができる。
【0046】
[単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法、単結晶シリコンインゴットの製造方法]
本発明の一態様は、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、育成された単結晶シリコンインゴットからシリコン試料を切り出すこと、上記シリコン試料を上記金属汚染評価方法によって評価すること、および、上記評価の結果に基づき、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルを評価すること、を含む単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法に関する。
【0047】
また、本発明の一態様は、上記単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法によって単結晶シリコンインゴット育成工程を評価すること、上記評価の結果に基づき、上記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程の工程管理の必要性を判定し、工程管理が必要と判定された場合には工程管理を実施した後に、工程管理が不要と判定された場合には工程管理を実施することなく、上記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成すること、を含む単結晶シリコンインゴットの製造方法に関する。
【0048】
上記の単結晶シリコンインゴット育成工程の評価方法では、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程において育成された単結晶シリコンインゴットから切り出されたシリコン試料を、先に説明した金属汚染評価方法によって評価する。この評価によって得られる評価結果は、金属汚染評価の前処理に起因する金属成分の影響が低減または排除された評価結果であることができる。そのため、この評価の結果は、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルと良好に相関しているということができる。したがって、この評価の結果に基づけば、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルを精度よく評価することができる。
【0049】
単結晶シリコンインゴットの育成は、CZ法(チョクラルスキー法)、FZ法(浮遊帯域溶融(Floating Zone)法)等の公知の方法により行うことができる。例えば、CZ法により育成されるシリコン単結晶インゴットには、原料ポリシリコンの混入金属、育成工程で使用されるプロセスガス、部材等に起因して、金属成分が混入する可能性がある。このような混入金属成分を評価し、評価結果に基づき育成工程の工程管理を必要に応じて実施することは、金属汚染が少ない単結晶シリコンインゴットを製造するために好ましい。そのために混入金属成分を評価する方法として、上記の本発明の一態様にかかる金属汚染評価方法は好適である。
【0050】
単結晶シリコンインゴットから切り出されるシリコン試料の詳細については、上記前処理方法における前処理対象のシリコン試料に関する先の記載を参照できる。先に記載したように、シリコン試料の切り出しは、バンドソーによって行うことが好ましい。
【0051】
金属汚染評価に付されるシリコン試料の数は、少なくとも1つであり、2つ以上であってもよい。1つのシリコン試料の金属汚染評価の結果に基づき評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルを評価する場合、例えば、評価対象の1種または2種以上の金属成分の定量値を、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルの指標とすることができる。2つ以上のシリコン試料の金属汚染評価を行う場合には、例えば、評価対象の1種または2種以上の金属成分の定量値の算術平均、最大値等の代表値を、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルの指標とすることができる。定量値または代表値が大きいほど、評価対象の単結晶シリコンインゴット育成工程における金属汚染の発生レベルが高いと判定することができる。そして上記評価の結果に基づき、上記評価された単結晶シリコンインゴット育成工程の工程管理の必要性を判定し、工程管理が必要と判定された場合には工程管理を実施した後に、工程管理後の単結晶シリコンインゴット育成工程において、単結晶シリコンインゴットを育成することができる。他方、工程管理が不要と判定された場合には工程管理を実施することなく、上記評価が行われた単結晶シリコンインゴット育成工程において単結晶シリコンインゴットを育成することができる。こうして、育成工程に起因する金属汚染が少ない単結晶シリコンインゴットを安定供給することが可能になる。工程管理が必要と判断する評価結果の閾値は、単結晶シリコンインゴットまたはこのインゴットから作製されるシリコン製品(例えばシリコンウェーハ)に求められる品質に応じて任意に決定することができる。
【0052】
上記工程管理としては、例えば、CZ法については、下記手段(1)~(3)の1つ以上を採用することができる。また、例えば、FZ法については、下記手段(4)~(6)の1つ以上を採用することができる。
(1)原料ポリシリコンとしてより金属成分の混入の少ない高グレード品を使用すること。
(2)プロセスガスとしてより金属成分の混入の少ない高グレード品を使用すること。
(3)引き上げ装置に含まれる部材の交換、洗浄、設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
(4)シリコン原料として、より金属成分の混入の少ない高グレード品を使用すること。
(5)単結晶製造装置内に導入するガス流量を多くすることによって雰囲気ガスからの金属成分の取り込みを抑制すること。
(6)単結晶製造装置に含まれる部材の交換、洗浄、設計変更、取り付け位置の変更等を行うこと。
【0053】
[シリコンウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、上記単結晶シリコンインゴットの製造方法によって単結晶シリコンインゴットを製造すること、および製造された単結晶シリコンインゴットをスライシング加工すること、を含む、シリコンウェーハの製造方法に関する。
【0054】
上記単結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、育成工程に起因する金属汚染が少ない単結晶シリコンインゴットを製造することができる。育成工程に起因する単結晶シリコンインゴットの金属汚染は、このインゴットから切り出されたシリコンウェーハのバルク金属汚染の原因となり得る。したがって、育成工程に起因する金属汚染が少ない単結晶シリコンインゴットを製造できることは、バルク金属汚染が少ないシリコンウェーハを製造するために好ましい。
【0055】
育成工程において育成された単結晶シリコンインゴットのスライシング加工は、先に記載したように、バンドソーを用いる方法、ワイヤソーを用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。スライシング加工において金属汚染が生じる可能性が低いという観点からはバンドソーを用いる方法が好ましい。スライシング加工によってインゴットから切り出されたシリコンウェーハ(単結晶シリコンウェーハ)は、例えば、鏡面研磨等の研磨加工、面取り加工、洗浄等の加工処理の一種以上を任意に施すことができる。また、任意の段階で、熱処理炉へ導入して熱処理を行うことができる。熱処理の具体例としては、アニール、気相成長、熱酸化等の各種熱処理を挙げることができる。以上の各種処理は、公知の方法によって実施することができる。こうして、ポリッシュドウェーハ、単結晶シリコンウェーハにアニール処理により改質層が形成されたアニールウェーハ、エピタキシャル層を単結晶シリコンウェーハ上に有するエピタキシャルウェーハ、熱酸化膜を有する単結晶シリコンウェーハ等の各種シリコンウェーハを得ることができる。
【実施例
【0056】
以下に、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の各種工程および評価は、特記しない限り、大気圧下、室温(20~25℃)の雰囲気中で行われた。また、エッチング液、洗浄液等の各種薬液の液温は、特記しない限り、室温(20~25℃)である。
【0057】
[実施例1、比較例1]
<単結晶シリコンインゴットの育成、シリコン試料の前処理>
CZ法によってボロンドープp型単結晶シリコンインゴットの育成を行った。
育成された単結晶シリコンインゴットからバンドソーを用いるスライシング加工(スラリー不使用)によってウェーハ形状のシリコン試料(シリコンウェーハ、抵抗率0.006Ωcm)を複数枚切り出した。
実施例1では、シリコンウェーハの一方をフッ硝酸(フッ化水素濃度:11質量%、硝酸濃度:49質量%、液温25℃)に2分間浸漬することにより、酸エッチングを行った。
比較例1では、エッチング液として、フッ硝酸に代えて水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:40質量%)を使用した点以外は実施例1と同様としてアルカリエッチングを行った。
実施例1および比較例1におけるエッチングでは、それぞれシリコンウェーハの表面から厚み約20μmの表層部が分解除去される。
実施例1、比較例1では、上記エッチング後、以下の工程を同様に実施した。
エッチング後のシリコンウェーハをSC1洗浄液(アンモニア濃度:1.6質量%、過酸化水素濃度:2.2質量%)に15分間浸漬した。
次いで、SC1洗浄液から取り出したシリコンウェーハをフッ化水素酸(フッ化水素濃度:50質量%)に10分間浸漬した。
フッ化水素酸から取り出したシリコンウェーハを水洗、乾燥させた後に以下の気相エッチングを行った。
【0058】
<前処理後のシリコン試料の気相エッチング>
以下の気相エッチングは、WO2014/129246の図1に示されているチャンバーを用いて実施した。このチャンバーは、気相分解用チャンバー上にエッチングガス調製用チャンバーが備えられ、両チャンバーが通気可能に連通され、かつ気相分解用チャンバーはシリコンウェーハ表面と接触したエッチングガスの少なくとも一部をチャンバー外に排気可能な排気パイプを備えている。気相エッチングは、以下の方法により実施し、エッチング中、気相分解用チャンバーおよびエッチングガス調製用チャンバーのチャンバー内の温度は、温度制御手段によって23℃に維持した。
まず、気相分解用チャンバーにエッチング対象のシリコンウェーハを導入した。
エッチングガス調製用チャンバーに、オゾン含有ガスおよびフッ酸ミストを導入した。具体的には、オゾン含有ガスとして、0.7質量%オゾン含有ガスを流量3000sccmで連続的に継続してエッチングガス調製用チャンバー内に導入した。フッ酸ミストについては、負圧吸引タイプのネブライザ(フッ酸吸引速度:300~400μl/min)に、キャリアガスとして窒素ガスを流し(流量:700sccm)、フッ酸を霧化してフッ酸ミストをエッチングガス調製用チャンバー内に連続的に継続して噴霧した。フッ酸ミストの調製に用いるフッ酸としては、フッ化水素酸濃度44質量%のフッ酸を使用した。こうしてエッチングガス調製用チャンバー内でオゾン含有ガスとフッ酸ミストが混合されて気相分解用チャンバーに供給され、気相エッチングが行われる。気相エッチングは2時間行った。
その後、シリコンウェーハを気相分解用チャンバーから取り出して加熱ステージへ移し、加熱ステージ上で約5分間加熱した(ウェーハ表面温度約100℃)。この加熱により気相エッチング後のシリコンウェーハ表面の水分や易分解性物質を除去することができる。
【0059】
<気相エッチング後の残渣の回収、金属成分の分析>
上記加熱後のシリコンウェーハをスキャンステージへ移し、スキャンステージ上でウェーハ表面に回収液として酸水溶液(フッ化水素濃度:2質量%、過酸化水素濃度:2質量%)を1000μl滴下し、この液滴をスキャンノズル先端に保持しながらスキャンノズルを速度2mm/sで移動させてウェーハ表面の全面で上記液滴を走査させた。その後、スキャンノズルによりノズル先端の液滴を吸引し回収した。
回収された回収液をICP-MSに導入して金属成分の定量分析を行った。ニッケル(Ni)の定量結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[実施例2~4、比較例2、3]
SC1洗浄液の液温を表2に示す液温に変更した点以外、実施例1と同様に各種工程を実施した。
実施例2~4、比較例2、3において得られた各種金属成分の定量結果を、実施例1で得られた定量結果とともに表2に示す。
【0062】
[実施例5、比較例4、5]
実施例5では、評価対象のシリコン試料として抵抗率0.016Ωcmのボロンドープp型単結晶シリコンウェーハを使用した点以外、実施例1と同様に各種工程を実施した。
比較例4、5では、SC1洗浄液の液温を表2に示す液温に変更した点以外、実施例5と同様に各種工程を実施した。
実施例5、比較例4、5において得られた各種金属成分の定量結果を表2に示す。表2中、周知のとおり、「E+11」は10の11乗を意味し、「E+10」は10の10乗を意味し、「E+09」は10の9乗を意味する。
【0063】
【表2】
【0064】
表1および表2に示す結果から、比較例1~3では実施例1~4と比べて、比較例4、5では実施例5と比べて、金属成分の定量値が高くなっていることが確認できる。この結果は、比較例1では前処理のエッチングがアルカリエッチングであったこと、比較例2~5では前処理のSC1洗浄液の液温が80℃以下であったことに起因していると推察される。
これに対し、実施例1~4では比較例1~3と比べて、実施例5では比較例4、5と比べて、前処理に起因する金属成分の影響を低減することができたと推察される。その結果、実施例1~5では、シリコン試料のバルク金属汚染を、比較例1~5より精度よく評価可能であったということができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の一態様は、単結晶シリコンインゴットの製造分野、シリコンウェーハの製造分野等の各種シリコン材料の製造分野において有用である。