(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】巻取制御装置、コイラー、巻取制御方法および熱間圧延金属帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 47/00 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B21C47/00 F
(21)【出願番号】P 2019209425
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真行
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049069(JP,A)
【文献】特開平02-303624(JP,A)
【文献】特開平07-148518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置において、
トルク指令値を受信し、受信した前記トルク指令値によって指示されたトルクを前記マンドレルに伝達して前記マンドレルを回転させるとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルに巻き取られる前記金属帯の板速度応答値を示す板速度応答信号を出力する駆動部と、
前記金属帯の板速度を指示する板速度指令信号を受け付け、フィードバックされた前記板速度応答信号に示される板速度応答値を用いて板速度偏差を出力する速度偏差計算部と、
巻取中のコイルを含む慣性モーメントをコイル径で除した値と前記板速度偏差とを乗じて、該板速度偏差を解消するためのトルク補正指令値を出力する回転速度制御部と、
前記金属帯の張力を制御するためのトルク値を指示するトルク指令信号を受け付け、前記トルク補正指令値を用いて、前記トルク指令信号のトルク値を補正して、前記駆動部にトルク指令値を出力するトルク指令計算部と、
を備えたことを特徴とする巻取制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の巻取制御装置を有することを特徴とする熱間圧延金属帯用コイラー。
【請求項3】
熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御方法において、
駆動部によって前記マンドレルにトルクを伝達して前記マンドレルを回転するとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルに巻き取られる前記金属帯の板速度応答値を取得し、前記金属帯の板速度指令値と前記駆動部からフィードバックされた前記板速度応答値との板速度偏差を解消するトルク値をコイルサイズで補正するとともに、前記金属帯の張力を制御するトルク値を加算したトルクによって、前記駆動部に対し前記マンドレルを回転するよう指示することを特徴とする巻取制御方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の巻取制御方法を用いて、金属帯を熱間圧延することを特徴とする熱間圧延金属帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置およびそれを有する熱間圧延金属帯用コイラー、ならびに、熱間圧延金属帯の巻取制御方法およびそれを用いる熱間圧延金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼分野において、千数百℃程度に加熱した金属材料を一対のロールの挟圧作用および回転作用によって薄く延ばし、その後、この圧延した帯状の金属材料(以下、ストリップという)をコイル状に巻き取るライン、所謂、熱間圧延ラインが広く知られている。
【0003】
熱間圧延ラインでは、一般に、加熱後の金属材料を所望の厚さに圧延する仕上ミルの後段に、ピンチロールおよびコイラーが配置され、仕上ミルから送出されたストリップをピンチロールの回転作用によってコイラーへ導き、その後、コイラーの回転によってストリップを順次巻き取る。なお、このコイラーの回転心棒としては、通常、マンドレルが用いられ、駆動源によってマンドレルを回転させることによって、コイラーはストリップを巻き取ることができる。
【0004】
このような熱間圧延ラインにおいては、ストリップが仕上ミルから送出されてからピンチロールを介してコイラーに巻き付くまでの期間、コイラーがストリップを適切に巻き取り始めるようにするために、ピンチロールおよびマンドレルの回転速度が制御される。
【0005】
一方、仕上ミルから送出されているストリップがピンチロールを介してコイラーに巻き取られている期間では、ストリップに対する仕上ミルの挟圧作用およびマンドレルの回転作用によって、仕上ミルとマンドレルとの間のストリップに張力が負荷される。この状態においては、巻き取られるまでのストリップにかかる張力を適切なものに制御するため、マンドレルの回転速度が制御され、このマンドレルの制御を通じてストリップの巻取速度が制御される。一方、ピンチロールは、この期間、ストリップに対して特に負荷を加えず、マンドレルに向かう方向へストリップを送出する役割を果たす。
【0006】
なお、このような熱間圧延ラインに関連する従来技術として、例えば、特許文献1は、ストリップが仕上圧延機から抜け出る前まで、ストリップを巻き取るマンドレルを電流制御によって駆動し、ストリップが仕上圧延機から抜け出た後に、このマンドレルを速度制御する装置を開示している。また、特許文献2は、ストリップ尾端が仕上スタンドを抜け出てからストリップの巻き取りが完了するまでの期間、マンドレルを速度制御するとともに、このマンドレルにかかる負荷電流値が、仕上スタンドからのストリップ尾端の抜け出し直前の電流値と常に一致するように、ピンチロールを速度制御する巻取制御方法を開示している。
【0007】
また、特許文献3は、ストリップの送り速度に比してピンチロールの周速を抑えた際に生じるストリップの擦り疵を抑制できる範囲に、この送り速度と周速とを制御する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-75824号公報
【文献】特開昭63-80921号公報
【文献】特開平8-257636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した熱間圧延ラインにおいては、製品としてのストリップの品質向上という観点から、ストリップを巻き取る際に発生するストリップの擦り疵または折れ曲がり等の品質不良の低減のみならず、ストリップをコイル状に巻き取った際の形状(以下、コイル巻き形状という)の向上にも着目する必要がある。ストリップの品質を向上するために、熱間圧延ラインにおけるストリップの張力、特に、仕上ミルからピンチロールを介してマンドレルに至るまでの間にストリップに負荷される張力の変動に留意してストリップの巻取速度を制御する必要がある。
【0010】
また、特に鉄鋼の熱間圧延ラインにおいては、高い生産性を確保するために先行材と後続材のピッチを短縮する必要があり、従って、ストリップ先尾端の衝突防止や巻取装置の設定切替時間確保のためにミルペーシング制御による搬送予測と搬送実績を合致させる必要がある。さらに、材質の作り込み上重要である巻取温度制御精度向上に対しても水冷時間予測と実績の合致が必要である。
【0011】
上記したように、熱間圧延ラインにおいては、ストリップの品質向上と、高い生産性や巻取温度制御精度向上を並立させる必要がある。そのために、ストリップの張力変動に影響されることなく、ストリップ巻取時のマンドレルの回転速度を指令に忠実に制御する必要がある。しかしながら、従来技術では、ストリップ尾端の速度制御を確実に実施することが困難である。
【0012】
特許文献1や2に開示のように、ストリップが仕上ミルを抜けた後のマンドレルモーター制御を速度制御とする方法では、尾端部が仕上ミルを抜けたときにマンドレルモーターを速度制御に切替えると、速度制御に切り替えたタイミングで瞬間的に張力抜けが発生し、マンドレルが減速することでコイル巻形状の不良部が発生する。また、マンドレル上で現在巻取中のコイルサイズ(径や板幅)により速度制御性が異なる欠点がある。
【0013】
特許文献3に開示のように、マンドレルモーターの制御がトルク制御下で、ストリップが仕上ミルを抜けた後のマンドレル速度指令値と実績値の偏差に応じて、比例積分等によりトルク指令を補償する方法では、マンドレル上で現在巻取中のコイルサイズ(径や板幅)により速度制御性が異なる欠点がある。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、前記課題であるストリップの巻取速度制御を瞬間的な張力抜けを生じることなく、コイルサイズが異なってもほぼ同一な制御性を確保することが可能な巻取制御装置およびその装置を有するコイラー、ならびに巻取制御方法およびその方法を用いた熱間圧延金属帯の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる巻取制御装置は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置において、トルク指令値を受信し、受信した前記トルク指令値によって指示されたトルクを前記マンドレルに伝達して前記マンドレルを回転させるとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を示す回転速度応答信号を出力する駆動部と、前記マンドレルの回転速度を指示する回転速度指令信号を受け付け、フィードバックされた前記回転速度応答信号に示される前記回転速度応答値を用いて回転速度偏差を出力する速度偏差計算部と、巻取中のコイルを含む慣性モーメントと前記回転速度偏差とを乗じて、該回転速度偏差を解消するためのトルク補正指令値を出力する回転速度制御部と、前記金属帯の張力を制御するためのトルク値を指示するトルク指令信号を受け付け、前記トルク補正指令値を用いて、前記トルク指令信号のトルク値を補正して、前記駆動部にトルク指令値を出力するトルク指令計算部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる巻取制御装置は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置において、トルク指令値を受信し、受信した前記トルク指令値によって指示されたトルクを前記マンドレルに伝達して前記マンドレルを回転させるとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルに巻き取られる前記金属帯の板速度応答値を示す板速度応答信号を出力する駆動部と、前記金属帯の板速度を指示する板速度指令信号を受け付け、フィードバックされた前記板速度応答信号に示される板速度応答値を用いて板速度偏差を出力する速度偏差計算部と、巻取中のコイルを含む慣性モーメントをコイル径で除した値と前記板速度偏差とを乗じて、該板速度偏差を解消するためのトルク補正指令値を出力する回転速度制御部と、前記金属帯の張力を制御するためのトルク値を指示するトルク指令信号を受け付け、前記トルク補正指令値を用いて、前記トルク指令信号のトルク値を補正して、前記駆動部にトルク指令値を出力するトルク指令計算部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるコイラーは、上記いずれかの巻取制御装置を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる巻取制御方法は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御方法において、駆動部によって前記マンドレルにトルクを伝達して前記マンドレルを回転するとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を取得し、前記マンドレルの回転速度指令値と前記駆動部からフィードバックされた前記回転速度応答値との回転速度偏差を解消するトルク値をコイルサイズで補正するとともに、前記金属帯の張力を制御するトルク値を加算したトルクによって、前記駆動部に対し前記マンドレルを回転するよう指示することを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる巻取制御方法は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御方法において、駆動部によって前記マンドレルにトルクを伝達して前記マンドレルを回転するとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルに巻き取られる前記金属帯の板速度応答値を取得し、前記金属帯の板速度指令値と前記駆動部からフィードバックされた前記板速度応答値との板速度偏差を解消するトルク値をコイルサイズで補正するとともに、前記金属帯の張力を制御するトルク値を加算したトルクによって、前記駆動部に対し前記マンドレルを回転するよう指示することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる熱間圧延金属帯の製造方法は、上記いずれかの巻取制御方法を用いて、金属帯を熱間圧延することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の巻取制御装置および巻取制御方法によれば、板速度やマンドレルの回転速度の指令値とフィードバックされた板速度や回転速度との偏差を解消するためのトルク補正にコイルサイズを考慮したので、張力変動やコイルサイズによらず、指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取ることができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明のコイラーによれば、上記巻取制御装置を有するものであるので、指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取ることができるという効果を奏する。
また、本発明の熱間圧延金属帯の製造方法によれば、上記巻取制御方法を用いるものであるので、ストリップの品質向上と、高い生産性や巻取温度制御精度向上を並立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる熱間圧延金属帯の巻取制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態にかかる熱間圧延金属帯の巻取制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【
図3】従来の熱間圧延金属帯の巻取制御装置の一例を示す概略構成図である。
【
図4】従来の熱間圧延金属帯の巻取制御装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明にかかる巻取制御方法を用いて金属帯の巻取り速度をシミュレーションしたグラフであって、(a)は板速度指令値の時間変化を表し、(b)は張力外乱の時間変化を表し、(c)は板速度偏差ΔVsの時間変化を表す。
【
図6】
図3に示す張力制御を速度制御に切り替える巻取制御方法を用いて金属帯の巻取り速度をシミュレーションしたグラフであって、(a)は板速度指令値の時間変化を表し、(b)は張力外乱の時間変化を表し、(c)は板速度偏差ΔVsの時間変化を表す。
【
図7】
図4の従来法にかかる巻取制御方法を用いて金属帯の巻取り速度をシミュレーションしたグラフであって、(a)は板速度指令値の時間変化を表し、(b)は張力外乱の時間変化を表し、(c)は板速度偏差ΔVsの時間変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者は、上記課題を解決するにあたり、鉄鋼の熱間圧延において、巻取制御の改善に努める中で、コイルサイズの相違によってストリップ尾端部の速度制御応答性および制御偏差に大きな相違があることから、ストリップの速度制御の調整に最適な手段を検討した。
マンドレルの加減速に必要なトルクTr[N・m]は下記数式(1)で与えられる。
Tr=J・(dω/dt)
=J・(2π/60)・(dNr/dt) ・・・(1)
=J・(2π/60)・{1/(πD)}・(dVs/dt)
ここで、Jはマンドレルおよびコイルの慣性モーメント[kg・m2]、
ωは角速度[rad/s]、
Nrは回転速度[1/min]、
Vsはストリップの板速度[m/min]、
Dはコイル直径[m]を表す。
なお、本発明においては、コイルを含む慣性モーメントはJで示される。
数式(1)を変形して下記数式(2)が得られる。
(dNr/dt)=60/(2πJ)・Tr
(dVs/dt)=60πD/(2πJ)・Tr ・・・(2)
一方、電動機の速度制御において、回転速度Nrの指令値と実績値との偏差をΔNrとし、板速度Vsの指令値と実績値との偏差をΔVsとすると、比例制御は下記数式(3)で表される。
Tr∝ΔNr∝{1/(πD)}・ΔVs ・・・(3)
ここで、コイル径によらず、回転速度制御の応答性を一定に保つためには、(dNr/dt)/ΔNrを一定に保つ必要があり、下記数式(4)を満足する必要がある。
Kr=(1/J)・(Tr/ΔNr)
Tr=Kr・J・ΔNr ・・・(4)
ここで、Krは回転速度制御の比例定数を表す。
また、板速度制御の応答を一定に保つためには、(dVs/dt)/ΔVsを一定に保つ必要があり、下記数式(5)を満足する必要がある。
Ks=(D/J)・(Tr/ΔVs)
Tr=Ks・(J/D)・ΔVs ・・・(5)
ここで、Ksは板速度制御の比例定数を表す。
【0025】
以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる巻取制御装置および巻取制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の一構成例を示すブロック図である。この実施の形態にかかる巻取制御装置20は、
図1に示す熱間圧延ラインの仕上ミル1から送出されたストリップ4をコイラーのマンドレル3によって巻き取る際、マンドレル3に生じる張力に応じてマンドレル3の回転速度を制御する装置である。
【0026】
すなわち、
図1に示すように、この巻取制御装置20は、マンドレル3を回転させる駆動電動機6とトルク指令信号に応じて駆動電動機6に流す電流を制御する電流制御装置8とマンドレル3の回転速度検出器とを持つ駆動部と、マンドレル3の回転速度を指示する速度指示装置(図示せず)からの回転速度指令信号S11を受け付け、回転速度検出器9からフィードバックされたマンドレル3の回転速度応答信号S13に示される回転速度応答値を用いて回転速度偏差を指示する回転速度信号S12を出力するマンドレル回転速度偏差計算部10と、巻取中のコイルを含む慣性モーメントJと前記回転速度信号S12とを用いて、前記回転速度偏差を解消するためのトルク補正指令信号S32を出力する回転速度制御部としてのマンドレル回転速度制御装置7と、金属帯の張力を制御するためのトルクを指示するマンドレルトルク指示装置(図示せず)からのトルク指令信号S31と前記トルク補正指令信号S32とを用いて駆動部にトルク指令値を出力するトルク指令計算部11と、を備えている。
【0027】
マンドレル回転速度偏差計算部10は、外部の速度指示装置(図示せず)によって送信されたマンドレルの回転速度指令信号S11を受け付ける。この回転速度指令信号S11は、熱間圧延ラインにおいて薄厚に圧延処理されたストリップ4をマンドレル3に巻き取る際の巻取速度、すなわち、マンドレル3の回転速度を指示する信号である。
【0028】
また、マンドレル回転速度偏差計算部10は、この予め設定されたマンドレル回転速度指令値からフィードバックされたマンドレル3の回転速度応答値を減算する減算処理を実行して、マンドレルの回転速度偏差ΔNrを回転速度偏差値とする。その後、マンドレル回転速度偏差計算部10は、この減算処理後の回転速度偏差値に対応するマンドレル回転速度信号S12をマンドレル回転速度制御装置7に送信する。
【0029】
マンドレル回転速度制御装置7はPI(比例積分)制御部と制御ゲイン乗算部を含み、予め求めた巻取中のコイルを含む慣性モーメントJと、受信したマンドレルの回転速度信号S12が指示する回転速度偏差とを用いて、PI制御および制御ゲインの乗算により、回転速度偏差を解消するトルク補正指令値を指示するトルク補正指令信号S32をトルク指令計算部11に出力する。
【0030】
トルク指令計算部11は、ストリップの張力を一定に保ち、さらに、加減速時、機械損失およびストリップの曲げトルクといった要因を外挿するためのトルクを指示するマンドレルトルク指示装置(図示せず)からのトルク指令信号S31を受信し、マンドレル回転速度制御装置7から受信したトルク補正指令信号S32を用いて、トルク指令信号を補正し、駆動部に補正後のトルク指令信号S33を出力する。
【0031】
駆動部は、マンドレル電流制御装置8、駆動電動機6および回転速度検出器9を持ち、ストリップ4をコイル5に巻き取る際にコイラーのマンドレル3を回転させるとともに、このマンドレル3の回転速度を検出する。具体的には、マンドレル電流制御装置8が受信した補正後のトルク指令信号S33を電流値に変換し、マンドレル駆動電動機6を駆動させ、コイラーのマンドレル3に、指示されたトルクを伝達する。これによって、駆動電動機6は、トルク指令信号S33に応じた回転速度でマンドレル3を回転させる。
【0032】
また、回転速度検出器9は、上述したようにマンドレル3を回転させた際の駆動電力等をもとに、マンドレル3に伝達したトルクに応答して実際にマンドレル3が回転した際の回転速度を、マンドレル3の回転速度応答値として検出する。その後、駆動電動機6は、マンドレル3を回転させつつ、その都度検出した回転速度応答値を示す回転速度応答信号S13を出力する。なお、この回転速度応答信号S13は、
図1に示すように、上述したマンドレル回転速度偏差計算部10にフィードバックされる。
【0033】
次に、本発明の他の実施形態を
図2に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の他の構成例を示すブロック図である。この構成例の巻取制御装置20も、
図1の構成例と同様、熱間圧延ラインの仕上ミル1から送出されたストリップ4をコイラーのマンドレル3によって巻き取る際、マンドレル3に生じる張力に応じてマンドレル3の回転速度を制御する装置である。
【0034】
すなわち、
図2に示すように、この巻取制御装置20は、マンドレル3を回転させる駆動電動機6とトルク指令信号に応じて駆動電動機6に流す電流を制御する電流制御装置8とマンドレル3の回転速度検出器と回転速度検出器9からフィードバックされたマンドレル3の回転速度応答信号S13を板速度応答信号S23に変換するストリップ板速度実績計算部13とを持つ駆動部と、ストリップ4の板速度を指示する速度指示装置(図示せず)からの板速度指令信号S21を受け付け、駆動部からフィードバックされた板速度応答信号S23を用いて板速度偏差を指示する板速度信号S22を出力するストリップ板速度偏差計算部12と、巻取中のコイルを含む慣性モーメントJをコイル径Dで除した値と板速度信号S22とを用いて、前記板速度偏差を解消するためのトルク補正指令信号S32を出力する回転速度制御部としてのマンドレル回転速度制御装置7と、金属帯の張力を制御するためのトルクを指示するマンドレルトルク指示装置(図示せず)からのトルク指令信号S31と前記トルク補正指令信号S32とを用いて駆動部にトルク指令値を出力するトルク指令計算部11と、を備えている。
図2の例では、ストリップの板速度応答値をマンドレルの回転速度とコイル周長D・πとを乗じて求めることとしたが、非接触式のレーザー速度計でストリップの板速度を測定してもよいし、接触式のコイル外周速度計測を行ってもよい。搬送方向FDのストリップの板速度を精度よく、適切な時定数で測定できる方法であれば適用可能である。
【0035】
ストリップ板速度偏差計算部12は、外部の速度指示装置(図示せず)によって送信されたストリップの板速度指令信号S21を受け付ける。この板速度指令信号S21は、熱間圧延ラインにおいて薄厚に圧延処理されたストリップ4がマンドレル3に巻き取られる際のストリップ4の搬送速度、すなわち、ストリップ4の板速度を指示する信号である。
【0036】
また、ストリップ板速度偏差計算部12は、この予め設定されたストリップ板速度指令値からフィードバックされたストリップ4の板速度応答値を減算する減算処理を実行して、ストリップの板速度偏差ΔVsを板速度偏差値とする。その後、ストリップ板速度偏差計算部12は、この減算処理後の板速度偏差値に対応するストリップの板速度信号S22をマンドレル回転速度制御装置7に送信する。
【0037】
マンドレル回転速度制御装置7はPI制御部と制御ゲイン乗算部を含み、予め求めた巻取中のコイルを含む慣性モーメントJをコイル外径Dで除した値J/Dと、受信したストリップの板速度信号S22が指示する板速度偏差とを用いて、PI(比例積分)制御および制御ゲインの乗算により、板速度偏差を解消するトルク補正指令値を指示するトルク補正指令信号S32をトルク指令計算部11に出力する。
【0038】
トルク指令計算部11は上記
図1の構成例と同様の動作を行う。また、駆動部は、
図1の構成例に加えて、回転速度検出器9が検出した回転速度応答値を示す回転速度応答信号S13を板速度応答値に変換するストリップ板速度実績計算部13を介して、板速度応答値を指示する板速度応答信号S23をストリップ板速度偏差計算部12にフィードバックされる。ストリップ板速度実績計算部13では、マンドレルの回転速度応答値にコイル周長D・πを乗じてストリップの板速度を算出する。なお、ストリップの板速度またはコイル外周の線速度を直接検出して、ストリップ板速度偏差計算部12にフィードバックすることもできる。
【0039】
本発明にかかるコイラーは、上記実施形態にかかる巻取制御装置20と、該巻取制御装置20によって回転制御されるマンドレルとを有しており、ピンチロール2、ラッパーロールほかの付帯設備や各種センサを有していてもよい。
【0040】
本発明にかかる熱間圧延金属帯の製造方法は、ストリップを熱間圧延機で熱間圧延したのち、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延ストリップを製造するに際し、上記巻取制御方法を用いて、ストリップを巻き取るものである。それにより、張力変動やコイルサイズによらず、指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取ることができるという効果を奏する。また、ストリップの品質向上と、高い生産性や巻取温度制御精度向上を並立させることが可能となる。
【0041】
(実施例)
図2のブロック図に示す巻取制御装置20の構成を用いて、張力外乱発生時の板速度応答性をシミュレーション実験した。
図2に示すように、仕上ミル1によって圧延されたストリップ4がピンチロール2を経由してマンドレル3に巻き取られる熱間圧延ラインである。ストリップ4は千数百℃程度に加熱された後、
図2に示したように、仕上ミル1によって上下から挟持されつつ、ローラー回転の作用によって、厚み0.8~25mmまで圧延される。このシミュレーションでは、ストリップとして、熱間圧延鋼帯の2.0mm厚さを用いた。このように圧延された帯状のストリップ4は、仕上ミル1から送出された後、
図2の白抜き矢印に示される搬送方向FDに搬送されつつ、ピンチロール2によって、挟持されつつマンドレル3側へ案内される。マンドレル3に到達したストリップ4は、マンドレル3によって順次巻き取られる。この際、このマンドレル3の回転速度は、常時、巻取制御装置20によって制御される。
【0042】
マンドレル3によって巻き取られているストリップ4には、その搬送方向とは逆の方向に張力が生じている。このストリップ4の張力は、仕上ミル1等のローラーによる挟持とマンドレル3による巻取との相乗作用等、熱間圧延ラインにおいてストリップ4を搬送する上で通常起こり得ることが容易に想定可能な要因によって生じる場合もあれば、想定困難な張力外乱によって生じる場合もある。
【0043】
これら双方の張力の少なくとも一方が発生している状態において、マンドレル3を回転させている駆動電動機6には、張力トルクが負荷される。張力トルクとは、張力が生じている状態でストリップ4をマンドレル3によって巻き取る際、この張力に起因してマンドレル3から駆動電動機6に負荷されるトルクである。
【0044】
一方、ストリップ4の張力は、その尾端部4aが仕上ミル1から抜け出る前後の状態変化等のストリップ4の挟持状態または張力外乱等に起因して、大きく変動する。このため、駆動電動機6に負荷される張力トルクは、このようなストリップ4の張力変動に伴って変動する。
【0045】
したがって、巻取中のストリップ4の蛇行等の不具合を発生させずに、マンドレル3にストリップ4を尾端部4aに至る最後尾まで巻取完了し、且つ、そのコイル巻き形状も良好なものにするために、巻取制御装置1は、以下のことを達成する必要がある。すなわち、巻取制御装置20は、上述した張力トルク、詳細には、張力外乱に起因する外乱トルクと、張力外乱以外の要因に起因する通常の張力トルクとの双方に対して好適に対応して、ストリップ4の巻取制御を行う。これによって、巻取制御装置20は、ストリップ4に生じる如何なる張力変動にも影響されることなく、意図した指令に対して忠実にマンドレル3の回転速度を制御する必要がある。
【0046】
ここで、この実施例においては、
図2に示したように、ストリップ4の張力変動が極めて大きい状況、すなわちストリップ4の尾端部4aが仕上ミル1から抜け出る前後の状況について、意図する速度指令に対するマンドレル3の回転速度の制御精度をシミュレーションした。
【0047】
ストリップ板速度指令値として、初期速度1000mpmを与え、7秒後から秒あたり60mpmを減速する(
図5(a))。ストリップの張力外乱として、5.2秒後から秒あたり-400kgfのマンドレルが減速する方向への後方張力を加えた(
図5(b))。この後方張力は、-1000kgfまでとした。このシミュレーションでは50ms毎にストリップの板速度応答値をフィードバックし、板速度偏差ΔVs=板速度応答値-板速度指令値として、時間変化を
図5(c)にグラフで示す。実線は、J/D=4.98×10
5kg・m、コイル外径D=2.3mの場合を表し、破線は、J/D=9.85×10
3kg・m、コイル外径D=0.8mの場合を表す。本実施例では、張力外乱、板速度指令値の変化、コイルのサイズに拘わらず、10mpm以下の板速度偏差ΔVsでストリップの巻取制御ができていることがわかる。
【0048】
(比較例1)
従来法として、張力制御をある時点で速度制御に切り替える巻取制御方法を用いて、張力外乱発生時の板速度応答性をシミュレーション実験した。装置構成のブロック図を
図3に示す。このシミュレーションでは、コイル周長を考慮して、板速度指令値をマンドレルの回転速度指令値に変換した。また、TC=3秒時点で張力制御から速度制御に切り替えた。ストリップ材質、板速度指令値および張力外乱は実施例と同じ条件とした。フィードバックの時間間隔も実施例と同じ条件とした。
図6(c)に示す板速度偏差の時間変化から、以下のことがわかる。まず、張力制御から速度制御に巻取制御方法を変化させることで減速ショックが発生する。また、コイル径が大きくなる(実線)と、ストリップの板速度指令値に対し、板速度応答値の偏差ΔVsが大きくなる。
【0049】
(比較例2)
図4に示す従来の巻取制御装置20を用いて、張力外乱発生時の板速度応答性をシミュレーション実験した。この巻取制御装置20では、速度偏差でトルク値を補正するにあたり、コイルサイズを考慮せず、速度偏差に比例するようにしている。このシミュレーションでは、コイル周長を考慮して、板速度指令値をマンドレルの回転速度指令値に変換した。ストリップ材質、板速度指令値および張力外乱は実施例と同じ条件とした。フィードバックの時間間隔も実施例と同じ条件とした。
図7(c)に示す板速度偏差の時間変化から、以下のことがわかる。比較例1のような制御切り替えの減速ショックは発生しない。コイルサイズが大きくなると実施例より速度偏差ΔVsが大きくなり、影響が尾を引く。
【産業上の利用可能性】
【0050】
なお、上述した実施の形態では、熱間圧延ラインによって圧延処理されるストリップ4の一例として鋼帯を例示したが、これに限らず、本発明にかかる巻取制御装置、コイラー、巻取制御方法および熱間圧延金属帯の製造方法では、銅またはアルミニウム等の他の金属材料のストリップ4であっても、鋼帯の場合と同様の作用効果を享受する。
【符号の説明】
【0051】
20 巻取制御装置
1 仕上ミル
2 ピンチロール
3 マンドレル
4 ストリップ
4a 尾端部
5 コイル
6 マンドレル駆動電動機
7 マンドレル回転速度制御装置
8 マンドレル電流制御装置
9 マンドレル回転速度検出器
10 マンドレル回転速度偏差計算部
11 トルク指令計算部
12 ストリップ板速度偏差計算部
13 ストリップ板速度実績計算部
FD 搬送方向
S11 マンドレル回転速度指令信号
S12 マンドレル回転速度指令信号
S13 マンドレル回転速度応答信号
S21 ストリップ板速度指令信号
S22 ストリップ板速度指令信号
S23 ストリップ板速度応答信号
S31、S32、S33 トルク指令信号
TC 張力制御から速度制御へ切替