IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特許7131568推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム
<>
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図1
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図2
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図3
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図4
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図5
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図6
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図7
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図8
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図9
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図10
  • 特許-推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20220830BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20220830BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20220830BHJP
   G01R 31/3842 20190101ALI20220830BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220830BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/378
G01R31/392
G01R31/3842
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019551122
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2018039201
(87)【国際公開番号】W WO2019082846
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2017205559
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】井上 直樹
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-20916(JP,A)
【文献】特開2012-54220(JP,A)
【文献】特開2017-97995(JP,A)
【文献】特表2006-514776(JP,A)
【文献】特開2016-126976(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025402(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0108930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/367
G01R 31/378
G01R 31/392
G01R 31/3842
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定装置であって、
前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得する取得部と、
前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部と、を備える、推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子が正極制限型か負極制限型かを判定する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記電圧値及び通電量から得られるdQ/dVが第一判定値又は変曲点に到達したか否かを判定する、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記dQ/dVが、前記第一判定値又は変曲点に到達した後に第二判定値に到達したか否かを判定する、請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記所定の電圧範囲は、前記負極の電位が第一プリセット値以上での電圧範囲、又は第二プリセット値以下の電圧範囲である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有した負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定方法であって、
前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得し、
前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する、推定方法。
【請求項7】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を、コンピュータに推定させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得し、
前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する、
処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項8】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定装置であって、
負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報、又は第二プリセット値以下の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部を備える、推定装置。
【請求項9】
前記推定部は、前記放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子が正極制限型か負極制限型かを判定する、請求項8に記載の推定装置。
【請求項10】
前記推定部は、前記電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状の変化に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する、請求項8又は9に記載の推定装置。
【請求項11】
前記放電曲線の形状は、第一状態、前記第一状態よりも傾きが緩やかな第二状態、前記第二状態より傾きが急な第三状態、の順に変化する、請求項8から10までのいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項12】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定方法であって、
負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報、又は第二プリセット値以下の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する、推定方法。
【請求項13】
正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を、コンピュータに推定させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報、又は第二プリセット値以下の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する、
処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一局面は、蓄電素子の内部状態を推定する推定装置、推定方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の蓄電素子は、ノートパソコン及び携帯電話機等のモバイル機器の電源として用いられてきた。近年、EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)の電源等、幅広い分野で使用されており、用途により高容量タイプの二次電池の実現が期待されている。
そのような次世代の高容量電池として、負極の活物質にケイ素酸化物であるSiOx (0.5≦x≦1.5)を用いたものが近年注目されている。
二次電池をEV等に搭載するために、容量低下量等の蓄電素子の劣化状態を推定することは重要であり、種々の技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
従来からよく研究されている、一般的な炭素系負極とは異なり、負極にSiOx を用いたリチウムイオン二次電池においては、その特性の違いから、従来の劣化状態推定方法を適用できない。本出願人は、負極にSiOx を用いた蓄電素子において、放電末期の電圧値の変化量に対する通電量の変化量であるdQ/dVと容量維持率との間に相関関係があることを見出し、劣化状態の推定を可能にした(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-68458号公報
【文献】特開2017-20916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負極にSiOxを用いた負極制限型の蓄電素子の場合、充放電の繰り返しにより、負極の活物質と電解液との界面に形成されるSEI(Solid Electrolyte Interface)被膜の量が増大し、該SEI被膜へのLiのトラップ量が大きくなる(制限極とは、電池の設計上、放電容量が小さい方の電極をいう。正極と比較して負極の放電容量が小さい蓄電素子は、蓄電素子の放電容量は負極の放電容量によって制限されるので、負極制限型という)。結果的に、正負極間の容量バランスのずれ量が拡大する。
電池反応を開始させる前に、負極に予め正極と比較して化学量論的に多くのLiイオンを含有させる、Liのプリドープ処理を行い、正極の放電容量によって放電容量が制限される正極制限型の蓄電素子を構成することが検討されている。正極に対する負極の放電容量比が大きくなるので、負極の利用率が低下するとともに、充放電の繰り返しに伴う正負極間の容量バランスのずれ量の拡大が抑制される。その結果、容量劣化が抑制され、サイクル特性が向上する。
このような蓄電素子において、内部状態を推定することが求められている。
【0005】
本発明の一局面は、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定することができる推定装置、推定方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る推定装置は、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定装置であって、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得する取得部と、前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部とを備える。
本発明の他の局面に係る推定装置は、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する推定装置であって、負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報、又は第二プリセット値以下の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部を備える。
【発明の効果】
【0007】
使用(サイクル)に伴い正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子において、蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における電圧値及び通電量を用いて、又は、放電曲線の形状に関する情報に基づいて、蓄電素子の劣化状態を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】負極に対するLiのプリドープ(PD)量が0%である場合の充放電曲線を示すグラフである。
図2】プリドープ量が40%である場合の充放電曲線を示すグラフである。
図3】充放電を繰り返した場合の、DODとセル電圧値との関係を示すグラフである。
図4】実施形態1に係る推定装置を備える蓄電装置の外観図である。
図5】実施形態1に係る推定装置の機能的な構成を示すブロック図である。
図6】推定装置による蓄電素子の内部状態推定処理の手順を示すフローチャートである。
図7】プリドープ量を変えた場合の、サイクル数と容量維持率との関係を示したグラフである。
図8】蓄電素子を放電し、電圧値2.75VにおけるdQ/dVを求めた場合の、容量維持率とdQ/dVとの関係を示すグラフである。
図9】プリドープ量が40%である蓄電素子を用い、放電した場合の、電圧値2.75VにおけるdQ/dVとサイクル数との関係を示すグラフである。
図10】実施形態2に係る車両を示すブロック図である。
図11】実施形態3に係る内部状態推定サーバ及び蓄電素子を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施形態の概要)
実施形態に係る蓄電素子(非水電解質二次電池)の負極はSiOx を含む活物質を含有し、蓄電素子は製造後、正極制限型である。
【0010】
図1は負極の充電容量に対するLiのプリドープ量(PD量)が0%である場合の充放電曲線を示し、図2はプリドープ量が40%である場合の充放電曲線を示す。横軸がSOC(State of Charge)、縦軸が蓄電素子セルの電圧値である。図1及び図2中、曲線aは負極の充電曲線、曲線bは負極の放電曲線、曲線cは正極の充電曲線、曲線dは正極の放電曲線、曲線eはセルの充電曲線、曲線fはセルの放電曲線である。
図1に示すように、プリドープ量が0%である場合、正極と比較して負極の放電容量が小さいため、セルの放電容量は負極によって決まる。即ち、蓄電素子は負極制限型である。
図2のプリドープ量が40%である場合、負極と比較して正極の放電容量が小さいため、セルの放電容量は正極によって決まる。即ち、蓄電素子は正極制限型である。上述したように、正極制限型の蓄電素子はサイクル特性が向上する。
【0011】
図3は、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子において、充放電を繰り返した場合の、DOD(Depth of Discharge)とセル電圧値との関係を示すグラフである。横軸はDOD(%)、縦軸はセル電圧値(V)である。図中、曲線gはサイクルの開始前、曲線hは300サイクル後、曲線iは600サイクル後、曲線jは900サイクル後を示すグラフである。
図3に示すように、充放電の繰り返し数が多くなるに従い、劣化が進行する。所定電圧範囲において、放電曲線の形状は、第一状態(曲線g)、前記第一状態よりも傾きが緩やかな第二状態(曲線h,曲線i)、前記第二状態より傾きが急な第三状態(曲線j)、の順に変化する。第二状態から第三状態への変化は、負極のケイ素酸化物の構造変化又は抵抗増大により、放電末期の負極電位の立ち上がりが急峻になることが要因と考えられる。
充放電の繰り返し数が増加するに従い、負極上でSEI被膜形成量が多くなり、その被膜にLiイオンがトラップされて容量バランスのずれ量が拡大し、蓄電素子は寿命に到達する、と考えられる。蓄電素子を正極制限型にすることにより、負極制限型の蓄電素子と比較してサイクル特性は向上するが、サイクル数がさらに増大した場合、蓄電素子は負極制限型に変わり、容量は徐々に低下する。
【0012】
一実施形態では、蓄電素子を放電若しくは充電した場合の所定電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得する。電圧値及び通電量に基づいて、dQ/dVを求めてもよい。充放電を行う場合、充電時又は放電時のdQ/dVを求める。
SiOx を負極に用いた蓄電素子は、放電時又は充電時の電圧値と容量との関係を示す曲線における所定の電圧範囲において、充放電の繰り返し数の増加により、電圧値の変化の度合が変わる。この電圧範囲におけるdQ/dVは、充放電の繰り返し数の増加に伴い、特有の変化をする。
【0013】
前記所定電圧範囲は、負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲、又は蓄電素子の放電末期の電圧範囲であるのが好ましい。この電圧範囲では、充放電の繰り返し数の増加により、蓄電素子の電圧が急激に低下する。この電圧範囲内の所定の測定電圧値におけるdQ/dVの絶対値は、充放電の繰り返し数の増加に伴い、大きくなる。変曲点を経て、さらに充放電の繰り返し数が多くなった場合、dQ/dVの絶対値が小さくなる。
範囲は、セルの負極電位が第一プリセット値以上であることが好ましい。第一プリセット値は、例えば0.6V(vs.Li/Li+ )であってもよい。
負極電位を取得できない場合、範囲は、第二プリセット値以下のセル電圧範囲であることが好ましい。第二プリセット値は、例えば3.4Vであってもよい。セル電圧範囲は、2.5V~3.25Vであることが好ましく、2.75V~3.2Vであることがさらに好ましい。
【0014】
dQ/dVの絶対値が第一判定値以上になった場合に、蓄電素子の制限極は正極から負極に切り替わったと判定してもよい。
その後、dQ/dVの絶対値が第二判定値以下になった場合に、蓄電素子は寿命に到達したと判定してもよい。
他の実施形態では、負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報、又は第二プリセット値以下の電圧範囲における蓄電素子の放電曲線の形状に関する情報に基づいて、前記蓄電素子の内部状態を推定する。
ここで、「放電曲線の形状に関する情報」とは、電気量変化及び電圧変化から描かれる放電曲線における、(1)形状、(2)曲線上の所定の2点間の直線の傾き、(3)曲線上の接線の交差角、を含む。
【0015】
(実施形態1)
以下、実施形態1として、車両に搭載される蓄電装置を例に挙げて説明する。
図4は、実施形態1に係る推定装置100を備える蓄電装置10の外観図である。
蓄電装置10は、推定装置100と、複数の蓄電素子200と、推定装置100及び蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備える。
【0016】
推定装置100は、蓄電素子200の内部状態を推定する回路を搭載した回路基板を備え、複数の蓄電素子200の上方に配置されてもよい。推定装置100は、複数の蓄電素子200に接続されており、複数の蓄電素子200から情報を取得して、蓄電素子200の内部状態を推定する。推定装置100は、CMU(Cell Monitoring Unit)、又はBMU(Battery Management Unit)により実現されてもよい。
代替的に、推定装置100は、収容ケース300の外側に配置されてもよいし、蓄電装置10から離れた遠隔地に配置されてネットワーク経由で蓄電装置10に接続されてもよい。推定装置100の詳細な機能構成は、後述する。
【0017】
蓄電素子200は、電気を充電し、放電することができる二次電池である。本実施形態では、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池が用いられる。複数の矩形状の蓄電素子200が、直列に接続・配置されて組電池を構成している。蓄電素子200の形状はプリズマティック型に限定されず、円筒型や長円筒型、パウチ型であってもよい。
【0018】
蓄電素子200は、容器201と、容器201に突設された電極端子202(正極端子及び負極端子)とを備える。容器201の内側には、電極体と、電極体及び電極端子202を接続する集電体(正極集電体及び負極集電体)とが配置され、電解液(非水電解質)が封入されている。電極体は、正極、負極及びセパレータが巻回されて形成されている。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、平板状極板を積層した積層型の電極体であってもよい。
【0019】
正極は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等からなる長尺帯状の金属箔である正極基材に、正極活物質層が形成された電極板である。正極活物質層に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、正極活物質として、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有ポリアニオン金属複合化合物等が挙げられる。遷移金属酸化物としては、マンガン酸化物、鉄酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、バナジウム酸化物等が挙げられる。遷移金属硫化物としては、モリブデン硫化物、チタン硫化物等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。リチウム含有ポリアニオン金属複合化合物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム等が挙げられる。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等が挙げられる。
リチウム遷移金属複合酸化物型の活物質は、Me(遷移金属)中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超え、Meの比率に対するLiの組成比率Li/Meが1より大きい、Li過剰型活物質であってもよい。
【0020】
正極活物質は、図3のグラフにおいて階段状の放電曲線を描くものであってもよい。しかし、本実施形態は、サイクルが進んだ負極の電位挙動の変化を利用するものであるから、正極の電位があまり複雑に変化しない正極活物質を選択することが好ましい。
この観点から、放電曲線が連続的に変化するか又は平坦部が広範囲に観察される正極活物質が好ましい。このような正極活物質としては、例えば、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、オリビン型結晶構造を有するリン酸鉄リチウム等が挙げられる。
代替的に、容量が低下したり、放電曲線の形状が変化する正極を用いた場合であっても、正極の劣化状態を推定することや、バランスずれによる曲線形状の変化を推定することを行って、蓄電素子の内部状態を良好に推定することができる。
【0021】
負極は、例えば銅、銅合金等からなる長尺帯状の金属箔である負極基材に、負極活物質層が形成された電極板である。負極活物質層に用いられる負極活物質としては、SiOx のみを用いてもよいし、SiOx と他のリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を混合して用いてもよい。SiOx と混合して用いる他の負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。これらの他の活物質の中でも、黒鉛は、充放電電位が比較的卑であることから、高いエネルギー密度の蓄電素子を提供できるので好ましい。SiOx と混合して用いる黒鉛としては、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。中でも、鱗片状黒鉛を用いることは、充放電を繰り返してもSiOx 粒子表面との接触を維持しやすく、充放電サイクル性能が優れた蓄電素子を容易に提供できるので、好ましい。SiOx と他の負極活物質との混合比率は限定されない。例えば、負極活物質として、SiOx と鱗片状黒鉛とが8:2乃至2:8の比率で配合されているものが挙げられる。さらに、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電助剤を含んでいてもよい。負極活物質中のSiOx の含有率は、特に限定されないが、以下で説明する放電時の特徴が現れるためには、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。SiOx の粒子として、表面にあらかじめ炭素材料が被覆されたものを用いてもよい。
【0022】
SiOx は、Liがドープされている。SiOx にLiをドープする時期は、正負極間で最初の充電を行う前であればどの段階であってもよい。LiがドープされたSiOx の粒子を用いて他の負極活物質や結着剤等と混合して負極合剤を形成してもよい。
正極制限型の蓄電素子200では、Liのプリドープ量が多いほど負極の利用率が低下するため、サイクル特性が向上するが、蓄電素子の放電容量は低下する。従って、プリドープ量は、正極のクーロン効率、負極中のSiOx の含有量、及び負極のクーロン効率、蓄電素子に要求されるサイクル特性、定格容量等に基づいて、適宜の値を設定する。
【0023】
セパレータは、例えば合成樹脂からなる微多孔性のシートである。セパレータは、蓄電素子200の性能を損なうものでなければ、適宜公知の材料を使用できる。容器201に封入される電解液(非水電解質)は、蓄電素子200の性能を損なうものでなければ、その種類に特に制限はなく、様々のものを選択できる。
【0024】
蓄電素子200は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよい。
【0025】
次に、推定装置100の機能構成について、説明する。
図5は、本実施形態に係る推定装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
推定装置100は、蓄電素子200の内部状態を推定する。推定装置100は、情報処理部110、推定部120、記憶部130、計時部140、及びインタフェース(I/F)150を備える。記憶部130は、蓄電素子200の内部状態を推定するための推定プログラム131、充放電履歴データ132、及び推定用データ133を記憶している。
情報処理部110には、I/F150を介し、各蓄電素子200の電流値,電圧値,温度等の物理量を検出する、電流センサ,電圧センサ,温度センサ等のセンサ600が接続されている。ここでは、複数のセンサを一つの「センサ600」として表している。センサにより温度を検出しない場合もある。
【0026】
推定プログラム131は、記憶媒体40にコンピュータ読み込み可能な状態で記憶されていてもよい。この場合、記憶部130は、図示しない読出装置によって記憶媒体40から読み出された推定プログラム131を記憶する。記憶媒体40はフラッシュメモリ等の半導体メモリであってもよい。代替的に、記憶媒体40はCD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)等の光ディスクであってもよい。記憶媒体40は、フレキシブルディスク、ハードディスク等の磁気ディスク、磁気光ディスク等であってもよい。通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから本実施形態に係る推定プログラム131を取得し、記憶部130に記憶させてもよい。
【0027】
情報処理部110は、センサ600から各蓄電素子200の物理量の検出情報を取得する。検出情報の取得のタイミングは特に限定されない。情報処理部110は計時部140を参照して、タイミングを計る。情報処理部110は、取得した検出情報を記憶部130の充放電履歴データ132に書き込む。蓄電素子200の物理量の検出情報が蓄積されることで、物理量の経時データが得られ、これが充放電履歴となる。
充放電履歴とは、蓄電素子200の運転履歴であり、蓄電素子200が充電又は放電を行った期間(使用期間)を示す情報、使用期間において蓄電素子200が行った充電又は放電に関する情報等を含む。蓄電素子200の使用期間を示す情報とは、蓄電素子200が充電又は放電を行った時点を示す情報、蓄電素子200が使用された累積使用期間等を含む。
【0028】
蓄電素子200が行った充電又は放電に関する情報とは、蓄電素子200が行った充電時又は放電時の電圧、電流及び電池状態等を示す。電池状態とは充電状態、放電状態、休止状態等、蓄電素子200がどのような運転状態にあるかを示す。蓄電素子200の電圧又は電流を示す情報から、電池状態が推認される場合には、電池状態を示す情報は不要である。
【0029】
情報処理部110は、充放電履歴データ132から、蓄電素子200を放電した場合の電圧、電流、通電期間等を読み出して、通電量(Q)を算出する。情報処理部110は、前記所定の電圧範囲の所定の測定電圧値における、電圧(V)に対する通電量(Q)の変化(dQ/dV)を算出する。
【0030】
情報処理部110は、算出した容量から、蓄電素子200の容量維持率を算出してもよい。
情報処理部110は、取得したdQ/dV、それに対応する電圧値と、使用期間(例えば日時)とを、記憶部130に記憶されている推定用データ133に書き込む。推定用データ133は、「使用期間」と「電圧値」と「dQ/dV」とが対応付けられたデータテーブルであってもよい。
【0031】
推定部120は、情報処理部110が取得したdQ/dVを用いて、蓄電素子200の内部状態を推定する。具体的には、推定部120は、dQ/dVの絶対値が第一判定値以上になった場合に、蓄電素子の制限極は正極から負極に切り替わったと判定する。
その後推定部120は、極大値(変曲点)を経たdQ/dVの絶対値が第二判定値以下になった場合に、蓄電素子は寿命に到達したと判定する。
【0032】
図6は、推定装置100の情報処理部110及び推定部120による蓄電素子200の内部状態推定処理の手順を示すフローチャートである。
推定装置100の情報処理部110は、所定の時間間隔で、蓄電素子200を放電した場合に、上述のようにdQ/dVを取得し、該dQ/dVの絶対値を記憶部130の充放電履歴データ132に記憶する(S1)。
推定装置100の推定部120は、蓄電素子200の制限極が負極であるか否かを判定する(S2)。dQ/dVの絶対値が第一判定値以上になった場合に、蓄電素子の制限極は正極から負極に切り替わったと判定する。推定部120は制限極が負極でないと判定した場合(S2:NO)、処理をS1へ戻す。
【0033】
推定部120は蓄電素子200の制限極が負極であると判定した場合(S2:YES)、dQ/dVの絶対値が閾値(第二判定値)以下になったか否かを判定する(S3)。推定部120はdQ/dVの絶対値が閾値以下でないと判定した場合(S3:NO)、処理をS1へ戻す。
推定部120はdQ/dVの絶対値が閾値以下であると判定した場合(S3:YES)、蓄電素子が寿命に到達したと判定し(S4)、例えば報知手段により報知して処理を終了する。
【0034】
上記の推定部120による内部状態の推定処理について、実施例に基づき説明する。
組成式LiCo1/3 Ni1/3 Mn1/32 で表される活物質、導電助剤であるアセチレンブラック、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデンを94:3:3の質量比率で含有させ、正極を作製した。活物質としてのSiOx 及び黒鉛、結着剤としてのポリイミドを72:18:10の質量比率で含有させ、負極を作製した。ここで、負極の充電容量に対して電気化学的にプリドープ量を夫々0%、20%、30%、40%に変えて、セルを作製した。セルの放電容量は3mAh/cm2 である。
プリドープ量が多い程、正極に対する負極の放電容量比が大きくなる。プリドープ量が0%及び20%の場合、セルは負極制限型(比較例)であり、プリドープ量が30%及び40%の場合、セルは正極制限型(実施例)である。
各セルにつき、充放電を繰り返した場合のサイクル数と容量維持率(放電容量維持率)との関係を求めた。
【0035】
図7は、各セルのサイクル数と電圧値2.75Vにおける容量維持率との関係を示すグラフである。横軸はサイクル数、縦軸は容量維持率(%)である。
図7より、プリドープ量が増加するに従い、サイクル数が増加しても容量低下が抑えられ、サイクル特性が向上することが分かる。これは、前記放電容量比が大きくなることによって、負極の利用率が低下するとともに、充放電の繰り返しに伴う正負極間の容量バランスのずれ量の拡大が抑制されるためと考えられる。
【0036】
各セルにつき、充放電サイクルを行ったときの電圧値2.75VにおけるdQ/dVを容量維持率に対しプロットした。
図8は、この容量維持率とdQ/dVとの関係を示すグラフである。横軸は容量維持率(%)、縦軸はdQ/dVである。
各点の括弧内の数値は、図7のサイクル数に対応する。
プリドープ量が0%及び20%である負極制限型の蓄電素子の場合、図8の(A)の領域において、容量維持率とdQ/dVの絶対値とは比例関係にある。
プリドープ量が30%及び40%である正極制限型の蓄電素子の場合、放電容量の低下を伴わずにdQ/dVの絶対値が大きくなる(B)の領域を経た後、(A)の領域の劣化挙動に従って、dQ/dVの絶対値が小さくなる。
以上より、製造直後は正極制限型であって、充放電の繰り返しに従い、負極制限型に変わる蓄電素子において、プリドープ量、正負極間のバランス、(A)の領域に達するまでの履歴に関わらず、内部状態を推定できる。
【0037】
充放電の繰り返し数がさらに増加することにより、容量バランスのずれが生じる。充放電を繰り返しても正極の容量低下及び放電曲線の変化が生じない場合、容量バランスのずれが生じても見かけ上、セルの容量低下は生じない。正負極間の容量バランスのずれ量が大きくなるに従い、放電曲線形状に変化が生じる。これが、(B)の領域に相当する。
さらに、容量バランスのずれ量が大きくなると、セルの容量が低下し始める。これが、(A)の領域に相当する。
【0038】
(B)の領域のdQ/dVの変化を監視することにより、正極の容量低下が生じない場合においても、正負極間の容量バランスのずれ、即ち蓄電素子200の内部状態を推定することができる。
【0039】
図9は、プリドープ量が40%である蓄電素子200を用い、放電した場合の、電圧値2.75VにおけるdQ/dVとサイクル数との関係を示すグラフである。横軸はサイクル数、左の縦軸はdQ/dV、右の縦軸は容量維持率(%)である。
図9より、サイクル数が増加するに従い、dQ/dVの絶対値は大きくなり、サイクルが略500を超えたときにdQ/dVは小さくなる。dQ/dVの変曲点が、(B)の領域から(A)の領域への切替点である。この切替点において、容量維持率は大きく低下し始める。
この切替点のdQ/dVを前記第一判定値に設定してもよい。
第一判定値は、例えば実験により求められ、推定用データ133に記憶される。第二判定値は蓄電素子200の使用状況等に基づいて設定されてもよい。
【0040】
本実施形態の推定装置100によれば、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子200において、蓄電素子200の放電時の所定の電圧範囲内の所定の測定電圧値におけるdQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の劣化状態を推定できる。蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったか否かを判定できる。負極制限型に変わり、正負極間の容量バランスのずれ量が大きくなると、蓄電素子200の容量が低下し始める。dQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の余寿命を推定できる。
従って、蓄電素子200の内部状態を推定できる。
蓄電素子200の放電末期におけるdQ/dVを取得するタイミングは、例えば、蓄電装置の定期的な点検時であってもよいし、充電器によるリフレッシュ充電時(一旦満放電してから充電する時)であってもよい。
【0041】
(実施形態2)
実施形態2においては、ECU(Electronic Control Unit)が推定装置として機能する。
図10は、実施形態2に係る車両20を示すブロック図である。
車両20は、エンジンECU等の統括ECU、又は電源装置全体を制御するECUとしてのECU400を備える。
ECU400は、複数の蓄電素子200の状態を示す信号を取得し、蓄電素子200の内部状態を判断し、蓄電素子200の放電状態及び充電状態を制御する。
ECU400は、情報処理部410、推定部420、記憶部430、計時部440、及びI/F450を備える。情報処理部410には、I/F450を介し、各蓄電素子200の電流値,電圧値,温度等の物理量を検出する、電流センサ,電圧センサ,温度センサ等のセンサ600が接続されている。ここでは、複数のセンサを一つの「センサ600」として表している。センサにより温度を検出しない場合もある。
【0042】
記憶部430は、蓄電素子200の内部状態を推定するための推定プログラム431、充放電履歴データ432、及び推定用データ433を記憶している。推定プログラム431は、記憶媒体40にコンピュータ読み込み可能な状態で記憶されていてもよい。この場合、記憶部430は、図示しない読出装置によって記憶媒体40から読み出された推定プログラム431を記憶する。通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから推定プログラム431を取得し、記憶部430に記憶させてもよい。
【0043】
情報処理部410は、センサ600から各蓄電素子200の物理量の検出情報を取得する。情報処理部410は計時部440を参照して、タイミングを計る。情報処理部410は、取得した検出情報を記憶部430の充放電履歴データ432に書き込む。蓄電素子200の物理量の検出情報が蓄積されることで、物理量の経時データが得られ、これが充放電履歴となる。
情報処理部410は、充放電履歴データ432から、蓄電素子200を放電した場合の電圧、電流、通電期間等を読み出して、通電量(Q)を算出する。所定の電圧範囲の所定の測定電圧値におけるdQ/dVを算出する。所定の電圧範囲は2.4V~3.25Vであるのが好ましい。情報処理部410は、算出した容量から、dQ/dVに対応する容量維持率を算出してもよい。
【0044】
情報処理部410は、取得したdQ/dVと、それに対応する電圧と、使用期間(例えば日時)とを、記憶部430に記憶されている推定用データ433に書き込む。推定用データ433は、「使用期間」と「電圧」と「dQ/dV」とが対応付けられたデータテーブルである。
【0045】
推定部420は、情報処理部410が取得したdQ/dVを用いて、蓄電素子200の内部状態を推定する。具体的には、推定部420は、dQ/dVの絶対値が第一判定値以上になった場合に、蓄電素子の制限極は正極から負極に切り替わったと判定する。
推定部420は、その後、dQ/dVの絶対値が第二判定値以下になった場合に、蓄電素子は寿命に到達したと判定する。
【0046】
本実施形態のECU400によれば、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子200において、蓄電素子200の放電時の所定の電圧範囲内の所定の測定電圧値におけるdQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の劣化状態を推定できる。蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったか否かを判定できる。負極制限型に変わり、正負極間の容量バランスのずれが大きくなると、蓄電素子200の容量が低下し始める。dQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の余寿命を推定できる。
従って、蓄電素子200の内部状態を推定できる。
【0047】
(実施形態3)
実施形態3においては、内部状態推定サーバ500が推定装置として機能する。
図11は、実施形態3に係る内部状態推定サーバ500及び蓄電装置700を示すブロック図である。
内部状態推定サーバ500は、情報処理部510、推定部520、記憶部530、計時部540、及び通信部550を備える。
蓄電装置700は、複数の蓄電素子200と、各蓄電素子200の電流値,電圧値,温度等の物理量を検出する、電流センサ,電圧センサ,温度センサ等のセンサ600と、制御部710とを備える。図11においては、複数のセンサを一つの「センサ600」として表し、一つの蓄電素子200のみ示している。
情報処理部510は、通信部550及びネットワーク30を介し、蓄電装置700の制御部710と接続されている。情報処理部510は、ネットワーク30を介して制御部710との間でデータの送受信を行う。
【0048】
記憶部530は、蓄電素子200の内部状態を推定するための推定プログラム531、充放電履歴データ532、及び推定用データ533を記憶している。推定プログラム531は、記憶媒体40にコンピュータ読み込み可能な状態で記憶されていてもよい。この場合、記憶部530は、図示しない読出装置によって記憶媒体40から読み出された推定プログラム531を記憶する。通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから本実施形態に係る推定プログラム531を取得し、記憶部530に記憶させてもよい。
【0049】
情報処理部510は、センサ600から蓄電素子200の物理量の検出情報を取得する。情報処理部510は計時部540を参照して、タイミングを計る。情報処理部510は、取得した検出情報を記憶部530の充放電履歴データ532に書き込む。蓄電素子200の物理量の検出情報が蓄積されることで、物理量の経時データが得られ、これが充放電履歴となる。
情報処理部510は、充放電履歴データ532から、蓄電素子200を放電した場合の電圧、電流、通電期間等を読み出して、通電量(Q)を算出する。所定の電圧範囲の所定の測定電圧値におけるdQ/dVを算出する。所定の電圧範囲は2.4V~3.25Vであるのが好ましい。情報処理部510は、算出した容量から、dQ/dVに対応する容量維持率を算出してもよい。
【0050】
情報処理部510は、取得したdQ/dVと、それに対応する電圧と、使用期間(例えば日時)とを、記憶部530に記憶されている推定用データ533に書き込む。推定用データ533は、「使用期間」と「電圧」と「dQ/dV」とが対応付けられたデータテーブルである。
【0051】
推定部520は、情報処理部510が取得したdQ/dVを用いて、蓄電素子200の内部状態を推定する。具体的には、推定部520は、dQ/dVの絶対値が第一判定値以上になった場合に、蓄電素子の制限極は正極から負極に切り替わったと判定する。
推定部520は、その後、dQ/dVの絶対値が第二判定値以下になった場合に、蓄電素子は寿命に到達したと判定する。
【0052】
本実施形態の内部状態推定サーバ500によれば、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子200において、蓄電素子200の放電時の所定の電圧範囲内の所定の測定電圧値におけるdQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の劣化状態を推定できる。蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったか否かを判定できる。負極制限型に変わり、正負極間の容量バランスのずれが大きくなると、蓄電素子200の容量が低下し始める。dQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子200の余寿命を推定できる。
従って、蓄電素子200の内部状態を推定できる。
【0053】
以上まとめると、推定装置は、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する。推定装置は、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量を取得する取得部と、前記電圧値及び通電量を用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部とを備える。
【0054】
上記構成によれば、使用(サイクル)に伴い正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子において、蓄電素子の放電時の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における電圧値及び通電量に基づいて、蓄電素子の劣化状態を推定できる。蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったか否かを判定できる。負極制限型に変わり、正負極間の容量バランスのずれが大きくなると、蓄電素子の容量が低下し始める。電圧値及び通電量(例えば、dQ/dVの変化)に基づいて、蓄電素子の余寿命を推定できる。
従って、蓄電素子の内部状態(正極制限型か負極制限型か、近未来にどのように蓄電素子が劣化するか、蓄電素子の余寿命はどの程度か)を推定できる。
【0055】
前記推定部は、前記電圧値及び通電量から得られるdQ/dVが、第一判定値又は変曲点に到達したか否かを判定してもよい。
【0056】
第一判定値は、蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったことを判定できるように、任意に設定される。上記構成によれば、蓄電素子が正極制限型から負極制限型に変わったか否かが判定できるため、近未来にどのように蓄電素子が劣化するかを精度良く推定できる。
【0057】
前記推定部は、前記dQ/dVが、第二判定値に到達したか否かを判定してもよい。
【0058】
第二判定値は、蓄電素子が寿命に達したことを判定できるように、任意に設定される。上記構成によれば、蓄電素子が寿命に達したか否かを簡便に判定できる。
【0059】
前記所定の電圧範囲は、前記負極の電位が第一プリセット値以上の電圧範囲であってもよいし、第二プリセット値以下の電圧範囲であってもよい。
【0060】
この範囲では、充放電の繰り返し数の増加により、電圧が急激に、特徴的に低下する。この電圧範囲内の所定の測定電圧値におけるdQ/dVの絶対値は、充放電の繰り返し数の増加に伴い大きくなる。さらに繰り返し数が多くなった場合、dQ/dVの絶対値が小さくなる。
従って、蓄電素子の内部状態を監視・推定し易い。
【0061】
蓄電装置は、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有した負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型の蓄電素子と、上述の推定装置とを備える。
【0062】
上記構成によれば、例えば蓄電装置に内蔵又は一体化されたCMUやBMUにより、蓄電素子の内部状態を推定できる。
【0063】
ECUは、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する。ECUは、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量からdQ/dVを取得する取得部と、前記dQ/dVを用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部とを備える。
【0064】
上記構成によれば、車両に搭載されたECUにより、蓄電素子の内部状態を推定できる。
【0065】
サーバは、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有する負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型のから放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる電素子の内部状態を推定する。サーバは、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量からdQ/dVを取得する取得部と、前記dQ/dVを用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する推定部とを備える。
【0066】
上記構成によれば、蓄電素子の内部状態を遠隔から推定できる。
【0067】
推定方法は、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有した負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定する。推定方法は、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量からdQ/dVを取得し、前記dQ/dVを用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する。
【0068】
上記構成によれば、正極制限型から負極制限型に変わる蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値におけるdQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子の内部状態を推定できる。
【0069】
コンピュータプログラムは、正極と、ケイ素酸化物(SiOx )を含有した負極活物質を含む負極と、非水電解質とを有し、放電容量が前記正極によって制限される正極制限型から放電容量が前記負極によって制限される負極制限型に変わる蓄電素子の内部状態を推定するコンピュータに、前記蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値における、電圧値及び通電量からdQ/dVを取得し、前記dQ/dVを用いて、前記蓄電素子の内部状態を推定する処理を実行させる。
コンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、上述のコンピュータプログラムを記憶する。
【0070】
上記構成によれば、任意のコンピュータによって、正極制限型から極制限型に変わる蓄電素子の所定の電圧範囲、又は所定の測定電圧値におけるdQ/dVの変化に基づいて、蓄電素子の内部状態を推定できる。
【0071】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
10 蓄電装置
20 車両
40 記憶媒体
100 推定装置
110 情報処理部(取得部)
120 推定部
130、430、530 記憶部
131、431、531 推定プログラム
200 蓄電素子
201 容器
202 電極端子
300 収容ケース
400 ECU
500 内部状態推定サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11