(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20220830BHJP
H05K 1/18 20060101ALI20220830BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20220830BHJP
H05K 3/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
H05K3/28 A
H05K1/18 K
H05K3/34 502D
H05K3/00 X
(21)【出願番号】P 2020556021
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042775
(87)【国際公開番号】W WO2020095813
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018210868
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】村北 直哉
(72)【発明者】
【氏名】大坪 喜人
(72)【発明者】
【氏名】山元 一生
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕太
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156393(WO,A1)
【文献】特開2002-171050(JP,A)
【文献】特開2005-209881(JP,A)
【文献】特開2012-164784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/28
H05K 1/18
H05K 3/00
H05K 3/46
H05K 3/34
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層を含む部品本体と、
前記部品本体の一方主面に設けられた少なくとも1つの端子電極と、
前記端子電極の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、
前記端子電極の周縁部に沿った形状に設けられ、かつ、前記セラミック層及び前記端子電極に跨って設けられた絶縁性の被覆層とを備え、
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記被覆層で覆われていない前記端子電極
の周縁部と前記被覆層とが交わる交差部分において、
前記端子電極を覆う部分の前記被覆層は、
前記被覆層で覆われていない前記端子電極
の周縁部の延長線と垂直でない角度で交わっている、セラミック電子部品。
【請求項2】
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記交差部分において、前記被覆層は、前記被覆層と前記端子電極とのなす角度が鋭角となるように、前記端子電極と交わっている、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記交差部分に向かって、前記被覆層が湾曲形状を有している、請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記被覆層の先端部は、前記端子電極から突出し、前記セラミック層の表面に設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
セラミック層を含む部品本体と、
前記部品本体の一方主面に設けられた少なくとも1つの端子電極と、
前記端子電極の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、前記セラミック層及び前記端子電極に跨って設けられた絶縁性の被覆層とを備え、
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記被覆層で覆われていない前記端子電極と前記被覆層とが交わる交差部分において、前記被覆層は、前記端子電極と垂直でない角度で交わり、
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記被覆層の先端部は、前記端子電極から突出し、前記セラミック層の表面に設けられ、
前記被覆層の先端部が湾曲形状を有している
、セラミック電子部品。
【請求項6】
前記セラミック層の線膨張率をα
1、前記端子電極の線膨張率をα
2、前記被覆層の線膨張率をα
3としたとき、α
3<α
1<α
2の関係が成り立つ、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記部品本体の一方主面から平面視したとき、前記交差部分において、前記被覆層は、前記被覆層と前記端子電極とのなす角度が鈍角となるように、前記端子電極と交わっている、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
実装基板上に実装されるセラミック電子部品の一例として、特許文献1には、部品本体と、上記部品本体の主面に沿って設けられた外部端子電極と、を備えるセラミック電子部品であって、上記外部端子電極は、周縁部と上記周縁部によって囲まれた中央部とを備え、上記周縁部の厚みは、上記中央部の厚みよりも厚く、かつ、上記周縁部の少なくとも一部が上記部品本体に埋め込まれている、セラミック電子部品が開示されている。特許文献1には、外部端子電極の周縁部の少なくとも一部を覆うように部品本体の主面に沿って電気絶縁性の被覆層が形成されることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、外部端子電極(以下、単に端子電極という)の周縁部の全周又は一部を被覆層で覆うことによって、端子電極の密着強度を向上させることができる。
【0005】
図11は、端子電極の周縁部の全周が被覆層で覆われている従来のセラミック電子部品の一例を模式的に示す平面図である。
図12は、端子電極の周縁部の一部が被覆層で覆われている従来のセラミック電子部品の一例を模式的に示す平面図である。
図11に示すように端子電極20の周縁部の全周を被覆層30で覆う場合には、
図12に示すように端子電極20の周縁部の一部を被覆層30で覆う場合に比べて、部品本体10に対する端子電極20の密着強度は高くなる。
【0006】
しかしながら、所定の寸法を有する部品本体に形成可能な端子電極の面積は限られているため、端子電極の周縁部の全周を被覆層で覆う場合には、端子電極の露出面積が小さくなるため、抵抗が高くなる等して、電気特性が低下する。また、部品本体の端面付近に端子電極を形成する場合、被覆層の幅を考慮に入れて端子電極を形成する必要があるため、部品本体の端面と端子電極との距離を小さくすることができない。
【0007】
上記の問題を解決するには、端子電極の周縁部の全周ではなく一部を被覆層で覆うことが有効である。しかしながら、被覆層で覆われていない端子電極の周縁部では、端子電極の密着強度が低くなる。
【0008】
また、端子電極の周縁部の全周ではなく一部を被覆層で覆う場合、例えば
図12に示す矢印の向きに収縮しようとする端子電極に対して、端子電極と被覆層が重なる箇所において、応力が集中するため、端子電極が剥離しやすくなる。
【0009】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、端子電極の周縁部の一部が被覆層で覆われていながら、端子電極が剥離しにくいセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセラミック電子部品は、セラミック層を含む部品本体と、上記部品本体の一方主面に設けられた少なくとも1つの端子電極と、上記端子電極の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、上記セラミック層及び上記端子電極に跨って設けられた絶縁性の被覆層とを備え、上記部品本体の一方主面から平面視したとき、上記被覆層で覆われていない上記端子電極と上記被覆層とが交わる交差部分において、上記被覆層は、上記端子電極と垂直でない角度で交わっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、端子電極の周縁部の一部が被覆層で覆われていながら、端子電極が剥離しにくいセラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した断面図の一例である。
【
図3】
図3は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した平面図の一例である。
【
図5】
図5は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した平面図の別の一例である。
【
図6】
図6は、先端部が端子電極から突出している被覆層の別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、先端部が端子電極から突出していない被覆層の一例を模式的に示す平面図である。
【
図8】
図8は、セラミック層、端子電極及び被覆層の線膨張率の関係を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、被覆層と端子電極とのなす角度が鈍角となるように端子電極と交わっている被覆層の一例を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、端子電極の周縁部の全周が被覆層で覆われている従来のセラミック電子部品の一例を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図12は、端子電極の周縁部の一部が被覆層で覆われている従来のセラミック電子部品の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセラミック電子部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0014】
本発明のセラミック電子部品は、実装基板上に実装可能なセラミック電子部品である。本発明は、例えば、多層セラミック基板等の種々の積層セラミック電子部品に対して適用することが可能である。ただし、本発明のセラミック電子部品は、積層構造に限ったものではなく、単層構造でもよい。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品を模式的に示す断面図である。
図1に示すセラミック電子部品1は、積層セラミック電子部品である。セラミック電子部品1は、積層された複数のセラミック層11を含む部品本体10を備えている。部品本体10の内部には、内部導体として、内部導体膜12がセラミック層11間の特定の界面に沿って設けられ、また、ビア導体13が特定のセラミック層11を貫通するように設けられている。ただし、セラミック電子部品1は、積層構造に限ったものではなく、単層構造でもよい。すなわち、部品本体10は、複数のセラミック層11を含んでもよいし、1層のセラミック層11を含んでもよい。
【0016】
図1に示すセラミック電子部品1は、さらに、部品本体10の一方主面10aに設けられた端子電極20を備えている。セラミック電子部品1は、図示しない実装基板に端子電極20が電気的に接続され、かつ機械的に固定されながら、実装基板上に実装される。
【0017】
図2は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した断面図の一例である。
図2では、
図1と比べて端子電極20を天地逆にして示している。また、
図3は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した平面図の一例である。
図3では、積層方向から部品本体の一方主面を平面視したときの平面図を示している。
【0018】
図2及び
図3に示すように、
図1に示すセラミック電子部品1では、端子電極20の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、セラミック層11及び端子電極20に跨って絶縁性の被覆層30が設けられている。
【0019】
端子電極20の平面形状は特に限定されないが、
図3に示すように方形状又は略方形状であることが好ましい。
図3では、被覆層30は、端子電極20の2辺を覆っているが、端子電極20の3辺を覆っていてもよいし、1辺を覆っていてもよい。また、被覆層30は、端子電極20の辺の途中までを覆っていてもよい。
【0020】
図示されていないが、端子電極20の表面には、めっき膜が形成されていることが好ましい。この場合、めっき膜は、端子電極20の全体に加えて、被覆層30の一部を覆うように形成されることが好ましい。
【0021】
本実施形態では、
図2に示すように、端子電極20は部品本体10に埋め込まれており、端子電極20の表面は部品本体10の一方主面10aと同一面上に位置している。また、被覆層30も部品本体10に埋め込まれており、被覆層30の表面は端子電極20の表面及び部品本体10の一方主面10aと同一面上に位置している。ただし、端子電極20及び被覆層30は、部品本体10に埋め込まれていなくてもよい。また、端子電極20及び被覆層30が部品本体10に埋め込まれている場合であっても、端子電極20の表面及び被覆層30の表面は部品本体10の一方主面10aと同一面上に位置していなくてもよい。
【0022】
図3に示すように、被覆層30で覆われていない端子電極20と被覆層30とが交わる交差部分(
図3中、点Xで示す部分)において、被覆層30は、端子電極20と垂直でない角度で交わっている。すなわち、被覆層30は、端子電極20と垂直には交わっていない。
【0023】
このように、本発明のセラミック電子部品では、部品本体の一方主面から平面視したとき、被覆層で覆われていない端子電極と被覆層とが交わる交差部分において、被覆層が端子電極と垂直でない角度で交わっていることを特徴としている。
【0024】
図3に示すように端子電極20の周縁部の一部を被覆層30で覆うことにより、
図11に示すように端子電極20の周縁部の全周を被覆層30で覆う場合に比べて、端子電極20の露出面積を大きくできるため、電気特性の低下を抑えることができる。また、部品本体10の端面付近に端子電極20を形成する場合、部品本体10の端面に近い端子電極20の周縁部を被覆層30で覆わないことにより、部品本体10の端面と端子電極20との距離を小さくすることができる。
【0025】
さらに、
図12に示すように端子電極20と垂直に交わるように被覆層30で覆う場合と異なり、
図3に示すように端子電極20と垂直に交わらないように被覆層30で覆うことにより、端子電極20を剥離しにくくすることができる。
その理由の1つとしては、
図12の場合と異なり、
図3に示す矢印の向きに収縮しようとする端子電極20に対して、交差部分Xに向かう被覆層30が斜めに交わることで、応力集中を防ぐことができるためと考えられる。
【0026】
図4は、
図3に示す交差部分付近の拡大図である。
図4では、被覆層30と端子電極20とのなす角度(
図4中、θ
1で示す角度)が鋭角となっている。すなわち、被覆層30と、被覆層30に覆われた端子電極20の縁端(
図4中、端子電極20の延長線として示す部分)とが、鋭角に交わっている。そのため、交差部分Xに向かって被覆層30の幅が広くなっている。
【0027】
本発明のセラミック電子部品では、
図4に示すように、被覆層で覆われていない端子電極と被覆層との交差部分において、被覆層は、被覆層と端子電極とのなす角度が鋭角となるように、端子電極と交わっていることが好ましい。
図12に示す構造では交差部分に応力が集中しやすいのに対し、
図3及び
図4に示す構造では交差部分に応力が集中せず、分散しやすくなる。
【0028】
なお、
図4に示すように被覆層が湾曲形状を有している場合、被覆層と端子電極とのなす角度とは、被覆層の接線と、被覆層に覆われた端子電極の縁端とのなす角度を意味する。
【0029】
本発明のセラミック電子部品において、被覆層と端子電極とのなす角度θ1が鋭角である場合、上記角度θ1は、20°以上であることが好ましく、60°以下であることが好ましい。
【0030】
本発明のセラミック電子部品では、
図3及び
図4に示すように、交差部分Xに向かって、被覆層30が湾曲形状を有していることが好ましい。この場合、交差部分Xにかかる応力をより分散させることができる。
【0031】
交差部分Xに向かって被覆層30が湾曲形状を有する場合、上に凸の湾曲形状でもよいし、下に凸の湾曲形状であってもよい。湾曲形状の頂部は、端子電極20の外側に位置してもよいし、内側に位置してもよい。また、複数の屈曲部を有する湾曲形状であってもよい。
【0032】
図5は、
図1に示すセラミック電子部品の端子電極付近を拡大した平面図の別の一例である。
図5に示すように、交差部分Xに向かって、被覆層30が直線形状を有していてもよい。
【0033】
交差部分Xに向かって被覆層30が直線形状を有する場合、複数の屈曲部を有する直線形状であってもよい。
【0034】
本発明のセラミック電子部品では、
図3及び
図5に示すように、部品本体10の一方主面から平面視したとき、被覆層30の先端部は、端子電極20から突出し、セラミック層11の表面に設けられていることが好ましい。
被覆層30の先端部が端子電極20から突出していると、被覆層30によって応力を受ける面積が増加するため、応力を分散させることができる。
【0035】
被覆層30の先端部が端子電極20から突出し、セラミック層11の表面に設けられている場合、被覆層30の先端部が湾曲形状を有していることが好ましい。この場合、被覆層30の先端部にかかる応力をより分散させることができる。
【0036】
被覆層30の先端部が湾曲形状を有する場合、
図3及び
図5に示すように端子電極20に対して上に凸の湾曲形状であることが好ましいが、端子電極20に対して下に凸の湾曲形状であってもよい。また、複数の屈曲部を有する湾曲形状であってもよい。
【0037】
図6は、先端部が端子電極から突出している被覆層の別の一例を模式的に示す平面図である。
図6に示すように、被覆層30の先端部が端子電極20から突出し、セラミック層11の表面に設けられている場合、被覆層30の先端部が直線形状を有していてもよい。
【0038】
被覆層30の先端部が直線形状を有する場合、複数の屈曲部を有する直線形状であってもよい。
【0039】
図7は、先端部が端子電極から突出していない被覆層の一例を模式的に示す平面図である。
図7に示すように、被覆層30の先端部は、端子電極20から突出せず、端子電極20の端面と同じ位置にあってもよい。
【0040】
被覆層の先端部が端子電極から突出する場合、端子電極から突出している被覆層の長さ(
図3中、D
1で示す長さ)は、端子電極を被覆している被覆層の幅(
図3中、W
1で示す長さ)よりも長いことが好ましい。端子電極を被覆している被覆層の幅W
1とは、
図3に示すように、端子電極20側の被覆層30の端部から端子電極20の端部までの長さである。
【0041】
端子電極から突出している被覆層の長さD1は特に限定されず、例えば、端子電極を被覆している被覆層の幅W1の4倍以下であってもよいし、2倍以下であってもよい。また、端子電極から突出している被覆層の長さD1は、端子電極を被覆している被覆層の幅W1と同等以上であってもよい。
【0042】
本発明のセラミック電子部品においては、セラミック層の線膨張率をα1、端子電極の線膨張率をα2、被覆層の線膨張率をα3としたとき、α3<α1<α2の関係が成り立つことが好ましい。
【0043】
図8は、セラミック層、端子電極及び被覆層の線膨張率の関係を説明するための断面図である。
図8では、線膨張率の大きさを矢印の長さで表している。
一般に、セラミック層11の線膨張率α
1は、端子電極20の線膨張率α
2よりも小さい。そのため、
図8に示す矢印の向きに端子電極20が収縮した際には、端子電極20周辺のセラミック層11が引張応力を受ける。そこで、最も小さい線膨張率α
3を有する被覆層30で端子電極20を覆うことにより、
図8に破線の矢印で示すように、端子電極20の収縮による引張応力に対して対抗する力が発生する。その結果、端子電極20の収縮による応力の集中を防ぎ、強度を向上させることができる。
【0044】
なお、線膨張率は、熱機械分析(TMA)により、室温から500℃まで5℃/minの昇温速度で測定した値として得られる。
【0045】
これまでは、被覆層で覆われていない端子電極と被覆層との交差部分において、被覆層と端子電極とのなす角度が鋭角となるように、被覆層が端子電極と交わっている実施形態について説明してきた。しかしながら、被覆層で覆われていない端子電極と被覆層との交差部分において、被覆層と端子電極とのなす角度が鈍角となるように、被覆層が端子電極と交わっていてもよい。
【0046】
図9は、被覆層と端子電極とのなす角度が鈍角となるように端子電極と交わっている被覆層の一例を模式的に示す平面図である。
図10は、
図9に示す交差部分付近の拡大図である。
図9及び
図10においても、
図3及び
図4と同様、端子電極20の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、セラミック層11及び端子電極20に跨って絶縁性の被覆層30が設けられている。一方、
図9及び
図10においては、被覆層30と端子電極20とのなす角度(
図10中、θ
2で示す角度)が鈍角となっている。すなわち、被覆層30と、被覆層30に覆われた端子電極20の縁端(
図10中、端子電極20の延長線として示す部分)とが、鈍角に交わっている。そのため、交差部分Xに向かって被覆層30の幅が狭くなっている。
【0047】
図9及び
図10に示す構造であっても、
図3及び
図4に示す構造と同様、端子電極20を剥離しにくくすることができる。
その理由の1つとしては、
図3の場合と同様、
図9に示す矢印の向きに収縮しようとする端子電極20に対して、交差部分Xに向かう被覆層30が斜めに交わることで、応力集中を防ぐことができるためと考えられる。
【0048】
さらに、
図9及び
図10に示す構造においては、
図3及び
図4に示す構造と比べて、端子電極20の露出面積を大きくすることができる。そのため、電気特性の低下をより抑えることができる。また、部品本体10の端面付近に端子電極20を形成する場合、
図3及び
図4に示す構造と同様、部品本体10の端面と端子電極20との距離を小さくすることができる。
【0049】
本発明のセラミック電子部品において、被覆層と端子電極とのなす角度θ2が鈍角である場合、上記角度θ2は、120°以上であることが好ましく、160°以下であることが好ましい。
【0050】
図9及び
図10に示すように、交差部分Xに向かって、被覆層30が湾曲形状を有していることが好ましい。
この場合、上に凸の湾曲形状でもよいし、下に凸の湾曲形状であってもよい。湾曲形状の頂部は、端子電極20の外側に位置してもよいし、内側に位置してもよい。また、複数の屈曲部を有する湾曲形状であってもよい。
【0051】
あるいは、交差部分Xに向かって、被覆層30が直線形状を有していてもよい。
この場合、複数の屈曲部を有する直線形状であってもよい。
【0052】
図9及び
図10に示すように、部品本体10の一方主面から平面視したとき、被覆層30の先端部は、端子電極20から突出し、セラミック層11の表面に設けられていることが好ましい。この場合、被覆層30の先端部が湾曲形状を有していることが好ましい。
【0053】
被覆層30の先端部が湾曲形状を有する場合、
図9に示すように端子電極20に対して上に凸の湾曲形状であることが好ましいが、端子電極20に対して下に凸の湾曲形状であってもよい。また、複数の屈曲部を有する湾曲形状であってもよい。
【0054】
あるいは、被覆層30の先端部が端子電極20から突出し、セラミック層11の表面に設けられている場合、被覆層30の先端部が直線形状を有していてもよい。被覆層30の先端部が直線形状を有する場合、複数の屈曲部を有する直線形状であってもよい。また、被覆層30の先端部は、端子電極20から突出せず、端子電極20の端面と同じ位置にあってもよい。
【0055】
被覆層の先端部が端子電極から突出する場合、端子電極から突出している被覆層の長さ(
図9中、D
2で示す長さ)は、端子電極を被覆している被覆層の幅(
図9中、W
2で示す長さ)よりも長いことが好ましい。端子電極を被覆している被覆層の幅W
2とは、
図9に示すように、端子電極20側の被覆層30の端部から端子電極20の端部までの長さである。
【0056】
端子電極から突出している被覆層の長さD2は特に限定されず、例えば、端子電極を被覆している被覆層の幅W2の4倍以下であってもよいし、2倍以下であってもよい。また、端子電極から突出している被覆層の長さD2は、端子電極を被覆している被覆層の幅W2と同等以上であってもよい。
【0057】
被覆層と端子電極とのなす角度が鈍角である場合であっても、セラミック層の線膨張率をα1、端子電極の線膨張率をα2、被覆層の線膨張率をα3としたとき、α3<α1<α2の関係が成り立つことが好ましい。
【0058】
本発明のセラミック電子部品は、好ましくは、以下のように製造される。以下、
図1に示すセラミック電子部品1を製造する方法の一例について説明する。
【0059】
まず、複数のセラミック層11となるべき複数のセラミックグリーンシートを準備する。セラミックグリーンシートは、例えば、キャリアフィルム上でセラミックスラリーに対してドクターブレード法等を適用することによって成形される。
【0060】
セラミックグリーンシートの厚みは、例えば5μm以上100μm以下である。
【0061】
セラミックスラリーには、例えば、セラミック粉末、バインダー及び可塑剤等が含まれる。セラミックグリーンシートに含まれるセラミック材料としては、例えば、低温焼結セラミック(LTCC)材料を用いることができる。低温焼結セラミック材料とは、1000℃以下の温度で焼結可能であって、比抵抗の小さなAu、Ag、Cu等と同時焼成が可能なセラミック材料である。低温焼結セラミック材料としては、具体的には、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、フォルステライト等のセラミック粉末にホウ珪酸系ガラスを混合してなるガラス複合系低温焼結セラミック材料、ZnO-MgO-Al2O3-SiO2系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラス系低温焼結セラミック材料、BaO-Al2O3-SiO2系セラミック粉末やAl2O3-CaO-SiO2-MgO-B2O3系セラミック粉末等を用いた非ガラス系低温焼結セラミック材料等が挙げられる。
【0062】
特定のセラミックグリーンシートに対して、導電性ペーストを用いて、内部導体膜12及びビア導体13が形成される。内部導体膜12は、例えば、導電性ペーストをスクリーン印刷等の方法で印刷することによって形成される。ビア導体13は、例えば、セラミックグリーンシートにレーザ光を照射したり、メカパンチを適用したりして貫通孔を設け、この貫通孔に導電性ペーストを充填することによって形成される。
【0063】
導電性ペーストには、例えば、導電性金属粉末、バインダー及び可塑剤等が含まれる。導電性ペーストには、収縮率調整用の共素地(セラミック粉末)が添加されていてもよい。導電性ペーストに含まれる導電性金属材料としては、例えば、Ag、Ag-Pt合金、Ag-Pd合金、Cu、Ni、Pt、Pd、W、Mo及びAuの少なくとも1種を主成分とする金属等を用いることができる。これらの導電性金属材料のうち、Ag、Ag-Pt合金、Ag-Pd合金及びCuは、比抵抗が小さいため、特に高周波向けの導体パターンにおいてより好ましく用いることができる。
【0064】
また、被覆層30の構成材料として、上述のセラミック層11用のセラミック粉末に、アルミナ(Al2O3)粉末を適量添加、混合することにより得た混合原料粉末を、有機ビヒクル中に分散、混錬することにより、被覆層用のセラミックペーストを作製する。
【0065】
有機ビヒクルは、バインダーと溶剤とを混合したものであり、バインダーや溶剤の種類、それらの配合割合は特に限定されない。有機ビヒクルとしては、例えば、テルピネオール、イソプロピレンアルコール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等のアルコール類に、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、エチルセルロース等を溶解させたものを用いることができる。また、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、活性剤を添加してもよい。
【0066】
被覆層用のセラミックペーストを作製する際、アルミナ粉末の添加量を調整することにより、被覆層の線膨張率を調整することができる。その結果、セラミック層の線膨張率をα1、端子電極の線膨張率をα2、被覆層の線膨張率をα3としたとき、α3<α1<α2の関係とすることが好ましい。例えば、セラミック層の線膨張率α1:10ppm/℃、端子電極の線膨張率α2:16ppm/℃、被覆層の線膨張率α3:9ppm/℃とすることが好ましい。
【0067】
積層後に一方主面に配置されるセラミックグリーンシートに対して、上述の導電性ペーストを用いて端子電極20を形成する。端子電極20は、例えば、導電性ペーストをスクリーン印刷等の方法で印刷することによって形成される。
【0068】
端子電極20の印刷後の厚みは、例えば10μm以上20μm以下である。
【0069】
その後、スクリーン印刷等の方法により、端子電極20の周縁部の全周ではなく一部を覆うように、被覆層用のセラミックペーストを印刷する。例えば、
図3等の形状を有する被覆層30が形成されるようなスクリーン版を用いて印刷する。
【0070】
被覆層30の印刷後の厚みは、例えば20μm以上30μm以下である。また、被覆層30と端子電極20の重なり量は、例えば30μm以上200μm以下である。
【0071】
なお、被覆層用のセラミックペーストを印刷する工程は、上記のようにセラミックグリーンシートに対して実施してもよく、また、後述する積層工程が完了した後、焼成工程を開始するまでの間に実施してもよい。
【0072】
複数のセラミックグリーンシートを所定の順序で積層し、圧着することにより、未焼成の部品本体10を作製する。
【0073】
得られた未焼成の部品本体10を焼成することにより、焼結した部品本体10が得られる。ここで、内部導体膜12、ビア導体13及び端子電極20も焼結する。
【0074】
必要に応じて、めっき工程が実施され、端子電極20上にめっき膜が形成される。
以上により、
図1に示すセラミック電子部品1が得られる。
【0075】
図1に示すセラミック電子部品1では、例えば、ICチップ又は受動素子のような表面実装部品が部品本体10の上面(一方主面10aと反対側の主面)に実装され、また、表面実装部品を覆うように、金属カバーが部品本体10に装着される。
【0076】
なお、上述した工程が複数のセラミック電子部品1を取り出すことができるマザー電子部品の状態で実施される場合には、マザー電子部品を分割して個々のセラミック電子部品1を取り出す工程がさらに実施される。
【0077】
本発明のセラミック電子部品は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、セラミック電子部品の構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0078】
本発明のセラミック電子部品においては、被覆層で覆われていない端子電極と被覆層との交差部分のうち、全ての交差部分において、被覆層が端子電極と垂直に交わっていないことが好ましいが、少なくとも1つの交差部分において、被覆層が端子電極と垂直に交わっていなければよい。
【0079】
被覆層の先端部の平面形状は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、ある交差部分において、被覆層と端子電極とのなす角度が鋭角となるように被覆層が端子電極と交わっている場合、他の交差部分において、被覆層と端子電極とのなす角度が鈍角となるように被覆層が端子電極と交わっていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 セラミック電子部品
10 部品本体
10a 部品本体の一方主面
11 セラミック層
12 内部導体膜
13 ビア導体
20 端子電極
30 被覆層
D1,D2 端子電極から突出している被覆層の長さ
W1,W2 端子電極を被覆している被覆層の幅
X 被覆層で覆われていない端子電極と被覆層との交差部分
θ1,θ2 被覆層と端子電極とのなす角度