(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】圧延機の振動予測方法、圧延機の異常振動判定方法、金属帯の圧延方法、及び圧延機の振動予測モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
B21B 38/00 20060101AFI20220830BHJP
B21B 28/02 20060101ALI20220830BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220830BHJP
B24B 5/37 20060101ALI20220830BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220830BHJP
B24B 49/16 20060101ALI20220830BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220830BHJP
【FI】
B21B38/00 D
B21B28/02 B
B21B38/00 G
B21C51/00 Q
B24B5/37
B24B49/10
B24B49/16
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2021559210
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028936
(87)【国際公開番号】W WO2022049975
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020148663
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 渉
(72)【発明者】
【氏名】山路 教弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103886373(CN,A)
【文献】Jone J. GASPARIC,Vibration analysis indentifies the causes of mill chatter,IRON AND STEEL ENGINEER,米国,Association of Iron and Steel Engineers,1991年02月28日,Vol.68, No.2,p.27-29
【文献】Gerald L. NESSLER et.al.,Idetification of chatter sources in cold rolling mills,IRON AND STEEL ENGINEER,米国,Association of Iron and Steel Engineers,1993年01月31日,Vol.70, No.1,p.40-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 38/00-38/12
B21C 51/00
B24B 5/37
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール研削機によって研削された圧延ロールを用いて圧延機により金属帯を圧延する圧延工程における前記圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測方法であって、
入力データとして、前記ロール研削機の研削操業パラメータから選択した1又は2以上のパラメータと、前記圧延機の圧延操業パラメータから選択した1又は2以上のパラメータと、を含み、圧延工程における前記圧延機の振動情報を出力データとした、機械学習により学習された圧延機の振動予測モデルを用いて、前記圧延機の振動を予測するステップを含
み、
前記研削操業パラメータは、前記圧延ロールを前記ロール研削機により研削するときの研削砥石への負荷情報に関する研削砥石負荷パラメータと前記研削砥石の使用履歴情報に関する研削砥石使用履歴パラメータとを含み、
前記圧延機の振動情報は、予め設定された周波数帯でのスペクトル値である、
圧延機の振動予測方法。
【請求項2】
前記研削操業パラメータは、前記圧延ロールを前記ロール研削機により研削する際に取得されるロール研削機の振動情報を含む、請求項1に記載の圧延機の振動予測方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の圧延機の振動予測方法を用いて、前記ロール研削機により研削した圧延ロールを前記圧延機に組み込んだ後であって、金属帯の圧延を開始する前に、前記ロール研削機の研削操業パラメータの実績値と、前記圧延機の圧延操業パラメータの設定値を用いて、前記金属帯を圧延する際の圧延機の振動を予測する第1ステップと、
前記第1ステップによる振動の予測結果と予め設定された圧延機の振動の上限値との比較に基づいて、前記圧延機の異常振動の発生の有無を判定する第2ステップと、
を含む、圧延機の異常振動判定方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の圧延機の異常振動判定方法を用いて圧延機の異常振動が発生すると判定された場合に、前記圧延機の圧延操業条件を再設定するステップを含む、金属帯の圧延方法。
【請求項5】
ロール研削機によって研削された圧延ロールを用いて圧延機により金属帯を圧延する圧延工程における前記圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測モデルを生成する圧延機の振動予測モデルの生成方法であって、
前記ロール研削機の研削操業パラメータから選択した実績データと、前記圧延機の圧延操業パラメータから選択した実績データとを、入力実績データとし、その入力実績データを用いた金属帯の圧延における前記圧延機の振動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって前記圧延機の振動予測モデルを生成する学習ステップを含
み、
前記研削操業パラメータは、前記圧延ロールを前記ロール研削機により研削するときの研削砥石への負荷情報に関する研削砥石負荷パラメータと前記研削砥石の使用履歴情報に関する研削砥石使用履歴パラメータとを含み、
前記圧延機の振動情報は、予め設定された周波数帯でのスペクトル値である、
圧延機の振動予測モデルの生成方法。
【請求項6】
前記機械学習として、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、及びサポートベクター回帰から選択した機械学習を用いる、請求項
5に記載した圧延機の振動予測モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機の振動予測方法、圧延機の異常振動判定方法、金属帯の圧延方法、及び圧延機の振動予測モデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や飲料缶等に使用される鋼板等の金属帯は、連続鋳造工程、熱間圧延工程、及び冷間圧延工程が施された後、焼鈍工程やめっき工程を経て製品となる。この中で、冷間圧延工程は、製品としての金属帯の厚みを決定する最終工程である。近年はめっき厚みを従来よりも薄くする場合があり、めっき工程前の金属帯の表面性状がめっき工程後の製品の表面性状に影響を与えやすいことから、表面欠陥の発生を防止する必要性が増している。
【0003】
冷間圧延工程で発生する表面欠陥の一つとしてチャタマークが挙げられる。これは、金属帯の幅方向に現れる線状のマークであって、このような線状のマークが金属帯の長手方向に周期的に現れる表面欠陥である。チャタマークは、圧延機の振動(以降、チャタリングと称す)により発生するとされている。非常に軽度のチャタマークは、冷間圧延工程後の目視検査や板厚測定等では判明せず、めっき工程後に初めて判明することがある。このため、その間にも大量の表面欠陥が発生していることに気づかず、結果として製品の歩留まりを低下させ、生産性を大きく阻害する要因となる。また、缶用鋼板や電磁鋼板等の薄物材料では、チャタリングによる金属帯の厚みや張力の急激な変動により、金属帯が破断する等の不具合が発生し、生産性を阻害する場合があることも知られている。
【0004】
このような背景から、チャタリングの発生を抑制する方法が提案されている。例えば特許文献1には、振動検出器を圧延機に取り付け、圧延中に振動情報を収集すると共に圧延荷重やスタンド間張力等の圧延操業パラメータを取得し、それらの周波数分析を行うことにより、チャタリングの発生を判定する方法が記載されている。また、特許文献1には、圧延機の固有振動数とベアリング不良やロール疵による固有の振動周波数を予め同定しておき、圧延中に振動情報と比較することによって、チャタマークの発生原因を特定する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2,3には、圧延機本体だけでなく、スタンド間及びタンデム圧延機の入出側に配置され、一定の角度以上で金属帯が巻きついているロール(小径ロール)に振動検出器を設置する方法が記載されている。また、特許文献2,3には、振動検出器によって得られた振動情報の周波数解析を行い、金属帯の弦振動周波数に一致した周波数において、その振動強度が所定の閾値を超えた場合をチャタリングと判定する方法が記載されている。さらに、特許文献2,3には、スタンド間の張力を制御することにより弦振動周波数が圧延機の基本周波数と一致しないように制御する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2964887号公報
【文献】特許第6296046号公報
【文献】特許第6102835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、一定の大きさの異常振動が発生した後でなければチャタリングの発生を認識することができない。このため、特許文献1に記載の方法では、チャタリングを検出した時点では既に金属帯の一部にチャタマークが発生しており、結果として製品の歩留まりが低下する。また、特許文献2,3に記載の方法も同様に、チャタリングが発生したと認識した時点では既に金属帯にチャタマークが発生しているため、製品の歩留まりが低下する。
【0008】
冷間圧延工程では、先行する金属帯の尾端部と後続の金属帯の先端部とを溶接により接合して連続的に圧延を行うのが通常である。その際、金属帯の溶接部を圧延する際には圧延速度を落とし、溶接部が圧延機を通過した後に圧延速度を上げて金属帯の定常部では高速で圧延を行う。しかしながら、チャタリングは、圧延速度が高い場合に発生しやすいことが知られており、金属帯の定常部でチャタマークが発生すると、金属帯を長手方向で分割して欠陥部を除去しなければならない等、製品の歩留まりの低下への影響が大きい。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測可能な圧延機の振動予測方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属帯を圧延する前に圧延機の異常振動を予測可能な圧延機の異常振動判定方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、チャタマークの発生を抑制して金属帯の製造歩留まりを向上させることが可能な金属帯の圧延方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測モデルを生成可能な圧延機の振動予測モデルの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る圧延機の振動予測方法は、ロール研削機によって研削された圧延ロールを用いて圧延機により金属帯を圧延する圧延工程における前記圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測方法であって、入力データとして、前記ロール研削機の研削操業パラメータから選択した1又は2以上のパラメータと、前記圧延機の圧延操業パラメータから選択した1又は2以上のパラメータと、を含み、圧延工程における前記圧延機の振動情報を出力データとした、機械学習により学習された圧延機の振動予測モデルを用いて、前記圧延機の振動を予測するステップを含む。
【0011】
前記研削操業パラメータは、前記圧延ロールを前記ロール研削機により研削する際に取得されるロール研削機の振動情報を含むとよい。
【0012】
前記研削操業パラメータは、前記圧延ロールを前記ロール研削機により研削するときの研削砥石への負荷情報に関する研削砥石負荷パラメータと前記研削砥石の使用履歴情報に関する研削砥石使用履歴パラメータとを含むとよい。
【0013】
本発明に係る圧延機の異常振動判定方法は、本発明に係る圧延機の振動予測方法を用いて、前記ロール研削機により研削した圧延ロールを前記圧延機に組み込んだ後であって、金属帯の圧延を開始する前に、前記ロール研削機の研削操業パラメータの実績値と、前記圧延機の圧延操業パラメータの設定値を用いて、前記金属帯を圧延する際の圧延機の振動を予測する第1ステップと、前記第1ステップによる振動の予測結果と予め設定された圧延機の振動の上限値との比較に基づいて、前記圧延機の異常振動の発生の有無を判定する第2ステップと、を含む。
【0014】
本発明に係る金属帯の圧延方法は、本発明に係る圧延機の異常振動判定方法を用いて圧延機の異常振動が発生すると判定された場合に、前記圧延機の圧延操業条件を再設定するステップを含む。
【0015】
本発明に係る圧延機の振動予測モデルの生成方法は、ロール研削機によって研削された圧延ロールを用いて圧延機により金属帯を圧延する圧延工程における前記圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測モデルを生成する圧延機の振動予測モデルの生成方法であって、前記ロール研削機の研削操業パラメータから選択した実績データと、前記圧延機の圧延操業パラメータから選択した実績データとを、入力実績データとし、その入力実績データを用いた金属帯の圧延における前記圧延機の振動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって前記圧延機の振動予測モデルを生成する学習ステップを含む。
【0016】
前記機械学習として、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、及びサポートベクター回帰から選択した機械学習を用いるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測可能な圧延機の振動予測方法を提供することができる。また、本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の異常振動を予測可能な圧延機の異常振動判定方法を提供することができる。また、本発明によれば、チャタマークの発生を抑制して金属帯の製造歩留まりを向上させることが可能な金属帯の圧延方法を提供することができる。また、本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測モデルを生成可能な圧延機の振動予測モデルの生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である圧延機の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態であるロール研削機の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、ロール研削機の振動信号処理部における処理フローを示す図である。
【
図4】
図4は、圧延機の振動信号処理部における処理フローを示す図である。
【
図5】
図5は、圧延機の振動情報として着目する周波数帯を説明するための図である。
【
図6】
図6は、振動予測モデル生成部の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、振動予測モデル生成部における処理フローを示す図である。
【
図8】
図8は、圧延機振動予測部における処理フローを示す図である。
【
図9】
図9は、ロール研削機の振動情報の取得方法を説明ための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
金属帯の冷間圧延工程における圧延機の異常振動をチャタリングと呼び、チャタリングによって金属帯の表面に形成される周期的な模様をチャタマークと呼ぶ。本実施形態では、金属帯の表面に0.5~10μm程度の振幅の凹凸が形成されているチャタマークを処理対象とする。これは金属帯の厚みが変動しているために生じることが多い。このような表面の微小な凹凸が形成されるチャタマークは、冷間圧延機の出側に設置された板厚計では検出することが難しい場合が多い。また、冷間圧延後の金属帯の表面を目視で観察しても判定しにくい。このような軽度のチャタマークは、めっき処理等の表面処理を行った後に検出されるか、金属帯のプレス成形後に初めて検出される場合も多い。
【0021】
チャタマークの発生原因となるチャタリングは、これまで、圧延機を構成するベアリング、ギアのかみ合い、カップリング等のがたつきに起因する場合が多いとされている。この場合、チャタリングは、圧延機に設置した振動計から取得される振動データを解析し、特定の周波数帯における振動の大きさが予め設定された閾値を超えた場合に検出できるとされてきた。しかしながら、本発明の発明者らは、チャタマークの発生原因の中には圧延ロールの研削に起因するものがあることを知見した。また、圧延機に圧延ロールを組み込む前のロール研削機による圧延ロールの研削状態によって圧延ロールの表面に微小な凹凸が発生し、そのような圧延ロールを用いて冷間圧延工程を行うと、特定の圧延条件との組み合わせによって圧延機の振動が大きくなることを知見した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0022】
〔圧延機〕
本実施形態において用いる圧延機は、連続式冷間圧延機であり、主として4~6スタンドのタンデムミルを対象とする。但し、本発明は、単スタンドのリバース式圧延機にも適用でき、タンデムミルのスタンド数もこれに限定されない。
図1は、本発明の一実施形態である圧延機の構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である圧延機は、通板方向の入側から順に第1~第4(#1~#4)スタンドを備えている。なお、圧延機に附帯する他の装置(例えば入側の巻戻機、溶接機、及びルーパ、並びに出側の切断機及び巻取機等の装置)については図示を省略している。
図1に示す圧延機を構成する各スタンドは4段式圧延機であり、上下のワークロール及び上下のバックアップロールを備えている。
【0023】
図中、符号Sは鋼板、符号1はワークロール、符号2はバックアップロール、符号3aはテンションメータロール、符号3bはデフレクターロール、符号4は電動機を含む駆動装置、符号5はハウジング、符号6は振動計をそれぞれ表す。なお、振動計6としては、圧電素子型振動センサが好適であるが、その他の方式の振動計を用いてもよい。また、振動計6はハウジング5に設置するのが好ましい。特にハウジング5の上部は、振動の変位が比較的大きいので、ハウジング5の上部に振動計6を設置するのが好ましい。
【0024】
各スタンドの上側のバックアップロールの上部にはロードセル7からなる圧延荷重検出器が設けられている。また、各スタンドには、ワークロールのロール周速を変更する電動機であるロール速度制御機と、ロールギャップを変更するロールギャップ制御機とがそれぞれ設置されている。さらに、各スタンド間のテンションメータロール3aには鋼板Sの張力を検出する張力計が設けられている。また、第1スタンド及び第4スタンドの出側には、鋼板Sの板厚を検出する板厚計8が設けられている。
【0025】
なお、圧延機には、ロール交換装置が備えられている。ロール交換装置には、レール上を圧延ロールの軸方向に走行可能な台車が備えられており、ロール交換装置は、使用後の圧延ロールを抜き出してから、研削後の圧延ロールを装入する。使用後の圧延ロールは、軸受箱が装着されたままクレーンや運搬台車を用いてロールショップに搬送される。
【0026】
ここで、鉄鋼製品の製造を行うためのシステムは、多数の設備を対象とした生産管理を行うために大規模な階層システムによって構成されている。具体的には、階層システムは、最上位にはLevel3であるビジネスコンピュータ、連続式冷間圧延機のような製造ライン単位にはLevel2である制御用計算機(プロセスコンピュータ)、各ラインを構成する設備単位にはLevel1である圧延制御コントローラ(PLC)といった階層で構成されている。
【0027】
制御用計算機は、上位のビジネスコンピュータと下位のPLCとの間に位置し、ビジネスコンピュータで計画された製造計画を受信して製造ラインに鋼板の製造指示を行う。また、制御用計算機は、PLCを含む下位機器より各種実績情報を収集し、それらを運転監視画面に表示したり、理論モデルに基づいた演算を行い、制御に必要な情報をPLCに送信したりすることが主な役割である。一方、PLCは、製造設備を構成するドライブやバルブ、センサ等に対して的確なタイミングで指示を出すこと、機器同士が干渉しないよう動作の調整を行うこと、センサが保持するカウント値を物理的な情報と紐づけて動作させること等が主要な役割である。
【0028】
本実施形態では、
図1に示すように、鉄鋼製品の製造を行うためのシステムは、タンデムミルと、そのタンデムミルを制御する圧延制御コントローラ(PLC)11と、PLC11を含む圧延機を管理する制御用計算機(プロセスコンピュータ)12と、製造ラインに対して製造指示を与えるビジネスコンピュータ13と、を備えている。制御用計算機12は、鋼板Sの溶接点が通過する前に次の鋼板Sの圧延操業条件を決定する。具体的には、ビジネスコンピュータ13から与えられる母材寸法(母材板厚と板幅)、製品目標板厚等の情報に従ってパススケジュールが設定され、制御用計算機12は、各スタンドの圧延荷重と先進率の予測値、及びロールギャップ、ロール速度の設定値を決定する。その際、圧延荷重やロール速度の設定のために、圧延機に使用する圧延ロールに関する情報として、研削後(スタンドへの装入前)のロール径等の実測値を含む圧延ロールの諸元情報(ロール径、ロールバレル長、ロール番号、ロール材質、表面粗さの規格区分等)が制御用計算機12に送られる。
【0029】
PLC11は、制御用計算機12から取得したロールギャップ、ロール速度の設定値(指令値)に基づき、各スタンドのロール速度制御機及び各スタンドのロールギャップ制御機を制御するための処理を実行する。また、PLC11は、ロードセル7で検出される圧延荷重や、張力計による張力測定値等の圧延データを連続的に収集し、予め設定された周期毎に制御用計算機12に出力する。
【0030】
本実施形態では、制御用計算機12において設定された又は収集された圧延機の操業条件が圧延機操業データ出力部14に送られ、後述する振動予測モデル生成部51の入力となる。但し、PLC11によって収集される圧延データから必要に応じて選択されたデータが直接、圧延機操業データ出力部14に送られるようにしてもよい。また、本実施形態では、振動計6により収集した圧延機の振動データは、圧延機による冷間圧延時の振動情報に変換する圧延機の振動信号処理部15に送られる。
【0031】
〔ロール研削機〕
図2は、本発明の一実施形態であるロール研削機の構成を示す図である。
図2に示すように、本実施形態において使用するロール研削機は、円筒型研削砥石を用いたロール研削機により構成されている。ロール研削機の研削対象となる圧延ロールは、圧延機にて使用された後にクレーン等を用いてロールショップに運搬される。その後、圧延ロールは、軸受箱から抜き出し、自然放冷により常温まで冷却された後、1本ずつロール研削機にセットされる。
【0032】
ロール研削機は、研削砥石21を支持する研削ヘッド22、研削ヘッド22を圧延ロール9の軸方向及び接近方向に移動駆動する二軸テーブル23、及び圧延ロール9を支持しながら回転させるロール支持装置(ロールチャック24、ロール回転モータ25、芯押し台26、受け台27)を備えている。
【0033】
ロール支持装置は、圧延ロール9を軸方向の一端側から支持するロールチャック24、圧延ロール9を所定の回転数で回転駆動させるロール回転モータ25、圧延ロール9を軸方向の他端側から支持する芯押し台26、及びネック部で圧延ロール9を支える受け台27を備えている。芯押し台26は、圧延ロール9の軸心をロール回転モータ25の回転軸の軸心とあわせる役割を有している。芯押し台26の圧延ロール9との接触部は円錐状の形状をしており、圧延ロール9の軸端部の中心に空いた座繰り穴ないしは固定治具の座繰り穴に円錐の先端を押し入れ、台の位置を微調整して芯を出す構造である。研削時の圧延ロール9の回転数は、ロール研削機の制御用コントローラ42により制御される。
【0034】
二軸テーブル23は、ガイド28a及びガイド28b上を移動する構造となっており、圧延ロール9の軸方向と平行に配置されるガイド28aに沿って横行するほか、ガイド28bに沿って研削砥石21を圧延ロール9の軸心と垂直方向に移動する構造となっている。ガイド28a及びガイド28bに沿った二軸テーブル23の移動は、サーボモータを用いた位置制御により行われ、これにより研削砥石21による研削位置と切込み量が制御される。研削に際しては、圧延ロール9の軸方向の一方の端部から他方の端部まで研削していき、引き続き他方の端部から一方の端部まで研削を行う。このように研削砥石21が1往復する単位をトラバースと呼ぶ。通常の研削過程は、研削量を大きく設定する粗研削と、圧延ロール9の表面を仕上げるための仕上研削の工程とに分けられる。一般的には、粗研削のトラバース数は80~150回程度、仕上研削のトラバース数は5~15回程度とする。
【0035】
研削ヘッド22は、研削砥石21、砥石回転用モータ29、研削動力を伝達するプーリー30とベルト31を支持する。但し、プーリー30とベルト31による動力伝達方式ではなく、砥石回転用モータ29により直接研削砥石21を回転駆動する場合もある。砥石切込み量とは、各トラバース前に圧延ロール9と研削砥石21が接触する状態を基準として、研削中に圧延ロール9の表面と研削砥石21の軸心部との接近量のことをいう。但し、研削砥石21と圧延ロール9の接触をセンサ等により検出することが難しい場合もある。このため、粗研削工程又は仕上研削工程の最初の研削(第1トラバース)を行う際に、研削砥石21と圧延ロール9の接触状態をオペレータが確認し、以降のトラバースでは、砥石回転用モータ29の消費電流値が第1トラバースにおける消費電流値と同じになるように研削条件を設定することもある。あるいは、砥石切込み量ではなく、砥石回転用モータ29の消費電流値を直接設定値として用いることにより研削を実施する場合もある。
【0036】
砥石切込み量の制御は、サーボモータを用いたNC装置による研削砥石21の位置制御によって行われる。通常は、砥石切込み量が大きいほど、1トラバース当たりの研削量が増加するため、ロール研削に要する時間を短くすることができる。一方、砥石切込み量が大きい場合には、砥石回転用モータ29の負荷が過大になり、圧延ロール9の表面に模様状の欠陥を発生させる場合がある。さらに、研削ヘッド22には、研削砥石21のドレス装置が付設されている場合がある。これは、研削砥石21を構成する表面の砥粒にダイヤモンド等を接触させて、砥石の切れ味を回復させる装置である。
【0037】
ここで、
図2に示すロール研削機には、ロール研削機の研削操業条件設定計算機(制御用計算機)41が設けられている。ロール研削機の制御用計算機41は、研削対象となる圧延ロール9の寸法情報、研削量、及び表面仕上粗さの目標値等を上位計算機であるビジネスコンピュータ13から取得し、ロール研削機における研削条件を設定し、ロール研削機の制御用コントローラ42に送る。
【0038】
ロール研削機における研削条件は、少なくとも、研削時のロール回転数、研削砥石回転数、及び砥石切込み量(又は砥石回転用モータ29の設定電流値)の3つの設定条件を含み、粗研削から仕上研削のトラバース毎に設定される。但し、これらのロール研削機における研削条件は、圧延ロール9の研削状態をオペレータが確認しながら適宜修正される場合がある。この場合には、修正されたロール研削機における研削条件がロール研削機の制御用計算機41に送られる。また、ロール研削機における研削条件として上記の操業条件を設定するにあたっては、研削対象となる圧延ロールの直径、表面の硬度、研削前の表面粗さ等の因子を考慮した設定テーブルを備える場合もある。一方、研削砥石21の条件として、研削砥石21の番手、砥石径(初期砥石径、現砥石径)や研削砥石21の累積研削時間、ドレス装置によるドレス後の総研削量等の因子が考慮される。
【0039】
ここで、初期砥石径とは、研削砥石21が製造されてからロール研削で最初に使用される前の砥石径であり、現砥石径とは、研削対象の圧延ロール9の研削を開始する前に測定した砥石径である。砥石径は、研削砥石21の外周部を複数個所選定して、マイクロメータにより測定する。また、予め研削砥石21の側面に半径方向に1~5mmピッチのマークを付与しておき、そのようなマークから砥石径を読み取ることによって特定してもよい。研削砥石21は、初期砥石径が850~950mmであり、外径が450~600mm程度になった場合に廃却される。
【0040】
ロール研削機の制御用コントローラ42は、ロール研削機の制御用計算機41により設定されるロール研削機の操業条件の制御目標値に対して、研削開始から研削終了までの各トラバースに対する研削時のロール回転数、研削砥石回転数、及び砥石切込み量(又は砥石回転用モータの電流値)がその制御目標値になるように各機器を制御する。また、ロール研削機の制御用コントローラ42は、研削時の研削砥石21を駆動するモータ電流値の実績値を取得する。なお、研削中のロール回転数、研削砥石回転数、及び砥石切込み量の実績値を計測できる場合には、ロール研削機の制御用コントローラ42は、それらの実績値を取得する。さらに、ロール研削機の研削ヘッド22に振動計(例えば加速度計)6を設置する場合には、ロール研削機の制御用コントローラ42は、その振動計測データ(加速度データ)を取得する。このようにして取得したデータは、ロール研削の操業状態を解析するためのデータとして、ロール研削機の制御用計算機41に送られる。なお、
図2のロール研削機の制御用計算機41とロール研削機の制御用コントローラ42は、単一の制御用コンピュータで構成してもよい。
【0041】
ここで、圧延ロール9の研削時の代表的な研削操業条件としては、研削砥石回転数として研削砥石21の周速が20~30m/秒、研削時の圧延ロール9の回転数が周速で0.5~1.5m/秒、1トラバースあたりの砥石切込み量は1~50μmである。なお、砥石回転用モータ29の電流値は、代表値として120~160A程度である。
【0042】
以上のような研削工程において、仕上研削が終了した圧延ロール9は、適宜仕上面を目視等により検査した後、研削済みロール保管エリアに移され、順番がくるとロール交換装置に戻され、圧延機に組み込まれる。その際、全ての圧延ロール9にはロール番号が付されており、そのロール番号によってロール研削における操業条件と圧延機に組み込まれた態様(装入されるスタンドやスタンド内での配置)を紐づけることができる。
【0043】
このとき、圧延ロール9のロール番号を含む諸元情報は、上位計算機であるビジネスコンピュータ13に送られる。ビジネスコンピュータ13は、ロール研削機と圧延機の共通の計算機であり、圧延ロール9の諸元情報はビジネスコンピュータ13を経て、ロール研削機と圧延機の双方から参照することができる。また、ロール研削機の制御用計算機41により認識される研削操業データは、ビジネスコンピュータ13を経由して、圧延機に送られるようにしてもよい。また、ロール研削機と圧延機の間で情報を受け渡すことができる専用のサーバーを設置してもよい。但し、圧延ロール9を研削するタイミングとそれらが圧延機に組み込まれるタイミングには時間的なずれがあるため、十分な記憶容量を確保しておく必要がある。さらに、ロール研削機に振動計6が設置される場合の、振動計6により収集したロール研削機の振動データについては、ロール研削機の振動信号処理部43に送られ、ロール研削機における振動情報に変換される。ロール研削機における振動情報も、上記と同様に、ビジネスコンピュータ13を経由するか、専用のサーバーを経由して圧延機側に送られるようにする。
【0044】
〔ロール研削機の研削操業パラメータ〕
本実施形態に用いる研削操業パラメータとしては、上記のロール研削機の操業状態を特定する任意の操業条件を用いることができる。例えば、ロール研削機の研削条件として、粗研削から仕上研削の各トラバースで設定される研削時のロール回転数、研削砥石回転数、及び砥石切込み量について、全トラバースから任意に選択したトラバースにおけるこれらの値を用いてもよい。また、任意のトラバースにおける研削砥石21を回転駆動するモータ電流や、その駆動軸に負荷されるトルクを用いてもよい。この場合には、トラバース中のモータ電流やトルクの平均値を用いる等、そのトラバースにおける駆動装置の出力についての代表値を用いることができる。さらに、研削対象となる圧延ロール9の直径、表面の硬度、表面粗さ等、圧延ロール9の諸元情報の中から研削操業パラメータを選択してもよい。一方、研削砥石21の操業条件として、研削砥石21の番手、砥石径(初期砥石径、現砥石径)やドレス装置によるドレス後の総研削量(距離)を研削操業パラメータとして用いてもよい。
【0045】
このとき、ロール研削機により圧延ロール9を研削する研削砥石への負荷状態を代表する情報として、任意のトラバースにおける研削砥石21を駆動するモータ電流値や砥石切込み量を用いるのが好ましい(研削砥石負荷パラメータ)。研削砥石21を駆動するモータ電流値は、研削時の研削砥石21によって圧延ロール9に与えられる研削仕事と相関があり、砥石切込み量は研削砥石21へ作用する荷重と相関があるため、それらに応じて研削時の圧延ロール9の凹凸形成に影響を与えるからである。
【0046】
また、研削砥石21の使用履歴情報を表す、研削砥石21の初期砥石径と研削対象の圧延ロール9を研削する前の状態の砥石径(現砥石径)との差や、研削砥石21の購入時の状態から現砥石径までの総研削時間、ドレス後の総研削量(総研削距離)を用いるのが好ましい(研削砥石使用履歴パラメータ)。これらは、研削砥石21が有する砥粒の状態や、研削砥石21の半径方向での砥粒の粒度分布状態、あるいは研削砥石21の劣化・摩耗状態を代表するパラメータとして、研削後の圧延ロール9の表面仕上状態に影響を与えるからである。研削砥石21は砥石メーカによりほぼ円形の状態で納入されるが、研削機の剛性及び研削砥石21の摩耗のしやすさにより、実際に研削に使用していくと徐々に円形とは乖離した形状となる場合がある。そのようになると、ロール研削時に砥石回転数の整数倍の振動が発生しやすくなる。この場合、研削している圧延ロール9に、目視では確認することができない程度の周期的模様又は圧延ロール9の周方向のプロフィール変化が発生する。これにより、圧延機において圧延ロール9を使用した際の振動挙動に影響を与える。
【0047】
一方、本実施形態では、上記の研削砥石負荷パラメータと、研削砥石使用履歴パラメータのぞれぞれのパラメータから選択される研削操業パラメータを組み合わせて用いるのが好ましい。研削砥石21への負荷状態と研削砥石21の劣化・摩耗状態の両者により、圧延ロール9の表面にわずかな凹凸が形成される、形成されやすさが変化するからである。
【0048】
〔ロール研削機の振動信号処理部〕
ロール研削機が振動計6を備える場合、振動計6で検出された信号を処理することにより得られるロール研削機の振動情報を研削操業パラメータに含めることができる。ロール研削機の振動情報は、
図2に示すロール研削機の振動信号処理部43による処理から得られる。ロール研削機が振動計6を備える場合、振動計6は、研削時の振動を測定可能な任意の位置に設置することができる。但し、研削ヘッド22及びロール支持装置のいずれかに設置するのが好ましい。より好ましくは、ロール研削機の研削ヘッド22の研削砥石21に比較的近い位置である。
【0049】
振動計6が検出する信号は、振動変位、振動速度、又は振動加速度である。従って、振動計6の出力はいずれの信号でもよく、ロール研削機の振動情報として、振動変位、振動速度、及び振動加速度のいずれの指標を用いてもよい。いずれの信号を検出しても、研削ヘッド22の振動変位のデータを得ることができる。ここで、ロール研削機の振動信号処理部43は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の演算処理装置によって実現されるものであり、例えば、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品としている。
【0050】
図3は、ロール研削機の振動信号処理部における処理のフローを示したものである。ここでは、振動計6が検出する信号として、研削ヘッド22の振動加速度が得られる場合であって、振動速度からロール研削機の振動情報を得る例を示す。このとき振動計6によって収集されるデータは、時系列の加速度データである。振動計6によって検出されるデータのサンプリング周波数は100Hz以上、好ましくは400Hz以上である。より好ましくは1000Hz以上である。振動計6によってサンプリング周期毎に出力される加速度データは、ロール研削機の振動加速度データ収集部43aに送られる。ロール研削機の振動加速度データ収集部43aは、振動計6のノイズを除去するために、所定のデータ特定時間(例えば1.0秒)毎に振動加速度の平均化処理を行い、ロール研削機の振動速度計算部43bに出力する。研削機の振動速度計算部43bは、所定のデータ特定時間毎に入力される振動加速度を時間積分することで振動速度を算出する。
【0051】
このようにして得られたロール研削機の振動速度に対して、ロール研削機の周波数解析部43cが、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を得る。本実施形態では、このようにして得られた周波数成分とスペクトル値との関係をロール研削機振動情報として用いる。具体的には、周波数成分とスペクトル値との関係から、任意の周波数帯域におけるスペクトル値を選択し、その値をロール研削機振動情報として用いることができる。その際、選択する周波数帯域として、2以上の周波数帯域を設定して、それらに対応するスペクトル値をロール研削機振動情報として用いてもよい。また、全周波数帯のスペクトル中の最大値を用いてもよい。さらに、ロール研削機の振動計6による時系列の加速度データを取得すると同時に、研削砥石21の回転速度計から得られる砥石回転周波数の時系列データを取得する。そして、取得した砥石回転数周波数で上記周波数帯域の割り算を行って無次元周波数を得て、その無次元周波数の値の整数値(例えば、1~10)におけるスペクトル値をロール研削機振動情報としてもよい。
【0052】
なお、振動速度に基づくロール研削機振動情報に代えて、振動変位に基づいて同様の方法で処理を行ってもよい。振動変位は振動速度を時間積分することにより算出でき、算出した振動変位に対してフーリエ変換により周波数成分とそのスペクトル値を得ることで、上記と同様にロール研削機振動情報とすることができる。また、計測によって得られた振動加速度を直接用いることも可能である。この場合、ロール研削機の振動加速度データ収集部43aで収集した加速度データに対してフーリエ変換により周波数成分とそのスペクトル値を得た結果を用いることができる。一方、予めロール研削機の固有振動数が分かっている場合には、固有振動数の1/2から2倍までの周波数帯域におけるスペクトル値の最大値をロール研削機振動情報として用いることもできる。
【0053】
本実施形態では、以上のようにして得られるロール研削機振動情報について、特に粗研削工程の終了前の5~10トラバース分のロール研削機振動情報を算出し、さらにそれらの平均値を用いるのが好ましい。仕上研削は、圧延ロールの表面粗さを最終的に調整する工程であり、圧延ロール9の表面に形成されるわずかな凹凸は、概ね粗研削工程が終了した時点では既に形成されていることが多いからである。なお、ロール研削機振動情報として、振動計6による時系列データに代えて、ロール研削時の研削砥石21を駆動するモータ電流値の時系列データを用いてもよい。この場合、モータ電流値の時系列データに対して、フーリエ変換によって周波数成分とそのスペクトル値を得ることにより、上記と同様にロール研削機振動情報を得ることができる。研削砥石21を駆動するモータ電流値の時間的な変動には、ロール研削機の振動状態に関する情報が含まれており、振動計6を設置しなくてもロール研削機の振動状態を代表する操業パラメータを取得できる点で有利である。
【0054】
以上のようにして、ロール研削機の振動信号処理部43により取得したロール研削機振動情報は、後述する振動予測モデル生成部51及び圧延機振動予測部61に送られる。
【0055】
〔圧延機の圧延操業パラメータ〕
本実施形態では、圧延機の圧延操業パラメータとして、鋼板Sに対する圧延状態を特定するための任意の圧延操業パラメータを用いることができる。
図1に示す制御用計算機12においては、鋼板Sの圧延に先立って鋼板Sの圧延条件を決定するために、スタンド毎に入側板厚、出側板厚、入側張力、出側張力、ワークロール径、ワークロール回転数、変形抵抗、及び摩擦係数が設定される。これらは、圧延機の圧延操業パラメータとすることができる。
【0056】
また、鋼板Sの圧延を行った圧延荷重、張力、板厚、先進率、ワークロール回転数、ロール間隙等のスタンド毎の実績値は、圧延機に設置された各種検出器により検出され、PLC11で収集された後、それらの時系列データから所定の周期毎の平均値を算出する等した後に制御用計算機12に送られる。これらはいずれも圧延機の圧延操業パラメータとなる。なお、制御用計算機12の設定計算において算出されるスタンド毎の圧延荷重、圧延トルク、先進率等の設定計算値を圧延機の圧延操業パラメータとして用いてもよい。さらに、鋼板Sの製造工程として、上流側の製造工程によって収集され、ビジネスコンピュータ13を通じて制御用計算機12に送られる母材の板厚や板幅の実績値、母材となる鋼板Sの変形抵抗も圧延機の圧延操業パラメータとすることができる。
【0057】
これらの圧延機の圧延操業パラメータからは、スタンド毎の板厚、圧下率、圧延速度を選択するのが好ましい。チャタリングの発生に対して影響が大きい操業パラメータだからである。但し、これらは圧延機の振動が大きくなりやすいスタンドとして、例えば連続式冷間圧延機の最終スタンドと、その1つ上流スタンドを対象として取得した圧延操業パラメータであってもよい。
【0058】
〔圧延機の振動情報〕
本実施形態の圧延機による冷間圧延時の振動情報は、圧延機を構成する任意のスタンドの振動情報を用いることができる。スタンドの振動情報として、スタンドのハウジング5に設置した振動計6の出力だけでなく、スタンド間の補助ロール(テンションメータロール3aやデフレクターロール3b)に設置した振動計等、圧延中の圧延機の振動状態を検出できる検出器によって得られる情報であればよい。また、連続式冷間圧延機については、特にチャタリングが発生しやすいスタンドに限定して振動情報を採取してもよい。ここでは、スタンドのハウジング5上部に設置した振動計6によって得られる冷間圧延時の振動情報について説明する。
【0059】
スタンドに設置した振動計6が検出する信号は、振動変位、振動速度又は振動加速度である。振動変位は振動速度を時間積分することにより算出することができ、振動速度は振動加速度を時間積分することで算出できるため、いずれの信号を検出しても、スタンドの振動変位のデータを得ることができる。ここで、
図1に示す圧延機の振動信号処理部15は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の演算処理装置によって実現されるものであり、例えばCPU、ROM、RAM等を主要構成部品としている。
【0060】
図4は、冷間圧延時における圧延機の振動情報を得るための処理例を示す図である。ここでは、振動計6が検出する信号として、スタンドの振動加速度が得られる場合に、振動速度に基づいて圧延機振動情報を得る例を示す。振動計6により収集されるデータは、時系列の加速度データである。圧延機の振動情報を得る場合には、振動計6によって検出されるデータのサンプリング周波数は、2,000~10,000Hzの範囲で設定される周波数が好ましい。より好ましくは3,000~7,000Hzである。チャタリングが発生する周波数よりも大きな周波数を選択する。
【0061】
このとき、スタンドに設置した振動計6によってサンプリング周期毎に出力される加速度データは、圧延機の振動信号処理部15が備える圧延機の振動加速度データ収集部15aに送られる。圧延機の振動加速度データ収集部15aは、振動計6のノイズを除去するために、所定のデータ特定時間(例えば0.2秒)毎に振動加速度の平均化処理を行い、圧延機の振動信号処理部15が備える圧延機の振動速度計算部15bに出力する。圧延機の振動速度計算部15bは、所定のデータ特定時間毎に入力される振動加速度を時間積分することで振動速度を算出する。
【0062】
このようにして得られた圧延機の振動速度に対して、圧延機の振動信号処理部15が備える圧延機の周波数解析部15cが、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を得る。本実施形態では、このようにして得られた周波数成分とスペクトル値との関係を圧延機の振動情報として用いる。具体的には、周波数成分とスペクトル値との関係から任意の周波数帯域におけるスペクトル値を取得し、その値を圧延機の振動情報として用いることができる。その際、選択する周波数帯域として、チャタマークが発生しやすい振動周波数に着目して、その周波数を含む周波数帯域を設定し、設定された周波数帯でのスペクトル値を圧延機の振動情報として用いることができる。また、圧延機の振動情報は、圧延機の振動信号処理部15が振動計6のデータを取得するときの圧延速度に対応付けられた情報であるのが好ましい。その場合、設定された周波数帯でのスペクトル値は圧延速度毎に取得される。振動計6から取得する信号と圧延速度とを対応付けるためには、圧延機の振動信号処理部15は、スタンドに設置した振動計6からの信号の他にワークロール周速データを取得すればよい。但し、圧延機の振動情報はチャタマークが発生しやすい圧延速度に限定して取得してもよい。例えば圧延速度が800m/分の条件でチャタマーク発生しやすい場合、一定の速度帯を設定して圧延速度が700~900m/分となるような条件で圧延機の振動情報を取得してもよい。
【0063】
例えば
図5に示すように、周波数成分とそのスペクトル値(振動強度)の関係として、チャタマークが発生した場合(異常振動あり)の圧延機の振動情報と、チャタマークが発生なかった場合(異常振動なし)の圧延機の振動情報とを対比する。そして、チャタマークが発生した場合の圧延機の振動強度のスペクトルが大きかった振動周波数帯(着目する振動周波数帯)を設定して、その設定された振動周波数帯における振動強度のスペクトルを圧延機の振動情報とすることができる。例えば、着目する振動周波数帯を設定し、その周波数帯で最大のスペクトル値を圧延機の振動情報としてもよい。
【0064】
〔振動予測モデルの生成〕
本実施形態の圧延機の振動予測モデルの生成方法は、ロール研削機によって研削された圧延ロール9を用いて圧延機により鋼板Sの冷間圧延を行う圧延工程において、ロール研削機の研削操業パラメータから選択した実績データと、圧延機の圧延操業パラメータから選択した実績データとを、入力実績データとし、その入力実績データを用いた冷間圧延時における圧延機の振動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって圧延機の振動予測モデルを生成する学習ステップを含む。
【0065】
図6に示す振動予測モデル生成部51には、ロール研削機の研削操業パラメータとして、研削操業データ出力部44から実績データが送られ、必要に応じてロール研削機振動情報が送られる。また、圧延機の圧延操業パラメータは、制御用計算機12を通じて圧延機操業データ出力部14により実績データが送られる。また、圧延機に組み込まれた圧延ロール9の諸元情報は、圧延ロール9のロール番号を参照して、ビジネスコンピュータ13から制御用計算機12を経由し、振動予測モデル生成部51に送られる。一方、それらの操業条件の下で圧延が行われた際の圧延機の振動情報は、圧延機の振動信号処理部15によって処理された圧延機の振動情報が振動予測モデル生成部51に送られる。
【0066】
振動予測モデル生成部51では、
図7に示すように、ロール研削機の実績データから選択される研削操業パラメータの実績データ、圧延機の操業条件の実績データから選択される圧延操業パラメータの実績データ、及び圧延機の振動情報がデータベース51aに蓄積される。その際、それらの実績データは、圧延機に組み込まれた圧延ロール9のロール番号が圧延機の制御用計算機12において認識されているので、ロール番号に基づいてデータの紐づけがなされ、データセットが構築されて、データベース51aに蓄積される。
【0067】
以上のようにして、振動予測モデル生成部51は、収集した入力データと出力データのデータセットを複数採取して、データベース51aに保存する。データベース51aのデータ数としては、少なくとも100個以上、好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上のデータが蓄積されていることが好ましい。その後、振動予測モデル生成部51では、機械学習部51bが、蓄積されたデータセットを用いて、少なくともロール研削機の研削操業パラメータから選択した実績データと、圧延機における鋼板Sの圧延操業パラメータから選択した実績データとを、入力実績データとし、その入力実績データを用いた圧延機の振動情報を出力実績データとした機械学習による圧延機の振動予測モデルMを生成する。
【0068】
機械学習の方法は、公知の学習方法を適用すればよい。機械学習は、例えばニューラルネットワーク(ディープラーニング、畳み込みニューラルネットワーク等)等の公知の機械学習手法を用いればよい。他の手法としては、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウス過程等を例示できる。また、複数のモデルを組み合わせたアンサンブルモデルを用いてもよい。さらに、圧延機の振動予測モデルMは、最新の学習データを用いて、適宜、更新すればよい。
【0069】
ところで、本実施形態の圧延機の振動予測モデルMに対する入力となるロール研削機の研削操業パラメータとしては、上下のワークロール又は上下のバックアップロールのいずれの圧延ロールに対する研削操業パラメータを選択してもよい。その場合、上バックアップロール又は下バックアップロールに対する研削操業パラメータを用いるのが好ましい。バックアップロールはワークロールよりも質量が大きいため、発生する振動エネルギーが大きく、チャタマークが発生すると振動を持続させやすい特性があるからである。また、圧延機の振動予測モデルMの入力として、上バックアップロールの研削操業パラメータと下バックアップロールの研削操業パラメータとを組み合わせて用いるのが好ましい。上下いずれかのバックアップロールにチャタリングの原因が含まれる場合にチャタマークが発生しやすいからである。
【0070】
なお、上記において、研削操業パラメータ、圧延操業パラメータ及び圧延機の振動情報が多数収集できる計算機能力や記憶媒体を備えている場合には、予め選択すべきパラメータを決めることなく、振動予測モデル生成部51のデータベース51aに実績データを蓄積しておき、機械学習部51bにより振動予測モデルMを生成する際に適宜選択してもよい。
【0071】
ここで、本実施形態の振動予測モデルMの入力データは、ロール研削機の研削操業パラメータから選択した実績データと、圧延機の圧延操業パラメータから選択した実績データの両者を含むものである。本発明の発明者らは、圧延ロール9の研削に起因して発生した表面のわずかな凹凸に起因する鋼板Sの冷間圧延時の圧延機振動が、チャタマークの発生原因の一つであるという知見を得ている。その場合には圧延機の操業条件のみによってチャタマークが発生するわけではない。一方、圧延ロール9の表面にわずかな凹凸が存在しても、必ずしも圧延機の周期的な変動が生じるものではなく、特定の圧延操業条件との組み合わせによって生じるという知見を得ている。従って、本実施形態の振動予測モデルMでは、ロール研削機の研削操業パラメータと、圧延機の圧延操業パラメータの両者を入力とする。
【0072】
〔振動予測方法〕
本実施形態の振動予測方法では、以上のようにして生成した圧延機の振動予測モデルMを用いた圧延機の振動予測を行う。振動予測を行うタイミングは、予測対象とする鋼板(連続式冷間圧延機の入側で接合された鋼板)Sの先端部が圧延機の第1スタンドに装入される前として、制御用計算機12による圧延対象の鋼板Sの設定計算が完了した後が好ましい。制御用計算機12によって計算される圧延荷重等の圧延操業パラメータを圧延機の振動予測モデルMの入力値として特定できるからである。また、鋼板Sの圧延を開始する前であれば、対象材のパススケジュールを適宜修正する等、チャタリングの発生を未然に防止することができるからである。
【0073】
具体的には
図8に示すように、圧延機振動予測部61に対して、ロール研削機の研削操業パラメータとして、研削操業データ出力部44から実績データが送られ、必要に応じてロール研削機振動情報が送られる。また、圧延機の圧延操業パラメータとして、圧延機操業データ出力部14から圧延機操業パラメータの設定値が送られる。圧延機振動予測部61は、これらを入力データとして、圧延機の振動予測モデルMを用いて、鋼板Sの冷間圧延における圧延機の振動情報の予測値を求める(第1ステップ)。
【0074】
一方、圧延機の制御用計算機12には、チャタマークが発生しない圧延機の振動レベルとして圧延機振動の上限値が予め設定され、その上限値が異常振動判定部61aに送られる。圧延機振動上限値は、例えば
図5に示すように、チャタマークが発生しやすい周波数帯域において、過去のデータ等に基づき設定される。具体的には、チャタマークが発生しない、又は発生する確率が低いスペクトル値を過去のデータから算出し、それを上限値(圧延機振動上限値)として設定することができる。
【0075】
異常振動判定部61aは、以上のようにして予め設定される圧延機振動上限値に対して、圧延機の振動予測モデルMを用いて予測される振動の予測結果を比較する。そして、振動の予測結果が圧延機振動上限値以下であれば、異常振動判定部61aは、初期設定のまま鋼板の冷間圧延の操業条件を設定し、PLC11への操業条件の指示を確定する。一方、振動の予測結果が圧延機振動上限値を超える場合には、異常振動判定部61aは、鋼板Sの冷間圧延において異常振動が発生するものと判定する(第2ステップ)。その場合、異常振動判定部61aは、鋼板Sの冷間圧延の開始前、あるいは鋼板Sの冷間圧延の開始後で、鋼板Sに対して設定された最高速度まで加速される前の段階で、冷間圧延の操業条件を再設定する(再設定ステップ)。具体的には、圧延のパススケジュールを再設定することができる。スタンド間張力の制御目標値を再設定してもよい。また、鋼板Sに対して予め設定されている最高速度を再設定して、チャタリングが発生しない速度域(最高速度の設定値を下げる)とした圧延操業条件を決定する等、チャタリングの発生を抑制できるとされる公知の手段によりチャタリングを回避することができる。これにより、歩留まりが良好な鋼板Sを製造することができると共に、圧延機の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0076】
〔実施例1〕
本実施例では、
図1に示す4スタンドの連続式冷間圧延機における圧延機の振動予測モデルを生成した。本実施例では、第3スタンドの下バックアップロールに着目し、当該バックアップロールのロール研削機における研削操業パラメータの実績データを採取した。対象とした圧延ロールは、ロールバレル長1750mm、全長2300mm、ロール径1451mmである。ロール研削機では、研削砥石としてアルミナ系砥石を使用した。砥石径は納入時φ910mm、研削時は650mmで、砥石回転数は620rpmとし、砥石を回転するモータの設定電流値は、粗研削時120A、仕上研削時50Aとなるよう砥石切込み量を設定した。このとき、ロール研削機の操業パラメータとしては、初期砥石径、使用前砥石径、砥石回転モータ負荷電流、及びロール回転モータ負荷電流を用いた。
【0077】
また、ロール研削機には、
図2に示す振動計6として加速度計を設置し、ロール研削機振動情報を取得した。加速度計による加速度データの収集は、サンプリング周波数1000Hzとし、加速度計のノイズを除去するために、所定のデータ特定時間(1.0秒)毎に振動加速度の平均化処理を行い、ロール研削機の振動速度計算部に出力した。ロール研削機の振動速度計算部では、データ特定時間毎に入力される振動加速度を時間積分して、振動速度を算出した。さらに、ロール研削機の周波数解析部では、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を得た。
【0078】
本実施例では、ロール研削機の固有振動数が42Hzであることが予め分かっており、
図9に示すように、その固有振動数に近い22~62Hzの周波数(固有周波数±20Hz)の成分のうち、砥石回転数10.3Hzの整数倍となる周波数帯(ただし±2Hzのバンド幅を設定した)の振動に着目した。このように、22~62Hzの周波数範囲であって、砥石回転数の整数倍となる周波数バンドにおけるスペクトル値(
図9に示す例では丸で囲んだ4つ)をロール研削機の振動情報とした。なお、ロール研削機の固有振動数は、ハンマーによる外力に対するインパルス応答の特性に基づいて同定した。また、本実施例に用いたロール研削機の振動情報は、上記周波数帯における4つのスペクトル値として、上記バックアップロールの粗研削終了までの10トラバース分の平均値を用いた。また、このようにして研削された第3スタンドの下バックアップロールを上記連続式冷間圧延機に組み込み、鋼板の冷間圧延を実施した際の圧延機操業データとして圧延速度、圧下率、先進率、鋼板の変形抵抗、及び圧延荷重の圧延実績データを取得し、これらを圧延操業パラメータとした。
【0079】
一方、圧延機の振動情報は、
図1に示す圧延機において第3スタンドのハウジング上部に設置した振動計によって取得される加速度データに基づくものを用いた。振動計のサンプリング周波数は2000Hzとし、所定のデータ特定時間(1.0秒)毎に、振動加速度の平均化処理と時間積分を行い、振動速度の時系列データを取得した。このようにして得られた圧延機の振動速度に対して、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を実績データとして得た。本実施例では、チャタマークが発生しやすい圧延速度400~1300mpmに対応する周波数帯として、350~900Hzに着目し、その周波数帯のスペクトル値の最大値を圧延機における振動情報の実績データとした。
【0080】
このようにして取得した実績データは、
図7に示すデータベース51aに蓄積された。そして、蓄積したデータベース51aから500個のデータを用いて機械学習による圧延機の振動予測モデルを生成した。具体的には、上記バックアップロールのロール研削機の研削操業パラメータ、ロール研削機の振動情報、当該バックアップロールを第3スタンドの下バックアップロールに使用して鋼板を圧延した際の圧延操業パラメータを入力実績データとして、圧延機の振動情報である周波数帯350~900Hzの中でのスペクトル値の最大値を出力実績データとした。機械学習手法にはニューラルネットワークを使用し、中間層を3層とし、ノード数は5個ずつとした。活性化関数はシグモイド関数を用いた。このようにして生成した圧延機の振動予測モデルを用いて、圧延機の異常振動判定を実施したところ、本予測モデルを適用する前に比べて、チャタマーク発生率が80%低減された。
【0081】
〔実施例2〕
本実施例では、5スタンドの連続式冷間圧延機における圧延機の振動予測モデルを生成した。圧延機の構成は、
図1に示す4スタンドの連続式冷間圧延機と同様である。但し、本実施例の圧延機は、上記実施例1の圧延機よりも板幅が大きな金属帯を製造するための連続式冷間圧延機であり、ワークロールの胴長が上記実施例1のそれよりも長い。本実施例では、5スタンドの連続式冷間圧延機における第4スタンドのバックアップロールに着目した。すなわち、本実施例では、第4スタンドの上側及び下側のバックアップロールについて、それらをロール研削機により研削した際の研削操業パラメータの実績値、それらを上記圧延機に組み込んで圧延を行った際の圧延操業パラメータの実績値、及び第4スタンドのハウジング上部に設置した振動計によって取得された圧延機の振動情報の実績値を振動予測モデル生成部51のデータベース51aに蓄積した。
【0082】
対象としたバックアップロールは、ロールバレル長1981mm、全長2300mm、直径1260~1480mmであった。このようなバックアップロールを研削するロール研削機で用いた研削砥石は白色アルミナ系砥石であり、砥石の購入時の砥石径(初期砥石径)がφ850~910mmのものを選定した。ここで、バックアップロールを研削する前に測定した使用前砥石径はφ490~910mmの範囲にあった。また、研削時の砥石回転数は360rpm~900rpmとし、砥石を回転するモータの設定電流値は、粗研削工程では100~140Aの範囲に設定し、仕上研削工程では50~80Aの範囲に設定し、そのような範囲の電流値になるように砥石切込み量を設定した。また、ロール研削機の研削ヘッド上には振動計として加速度計を設置し、バックアップロールを研削する際のロール研削機の研削情報を取得した。ロール研削機の研削情報としては、粗研削工程から仕上研削工程に移行する際の、仕上研削工程の研削パスの開始前の10トラバース分の粗研削工程において加速度計から取得される情報を用いた。
【0083】
ロール研削機に設置した加速度計は、サンプリング周波数1000Hzで加速度データを取得し、加速度データのノイズを除去するために、所定のデータ特定時間(1.0秒)毎に振動加速度の平均化処理を行い、ロール研削機の振動速度計算部43bに出力した。ロール研削機の振動速度計算部43bでは、データ特定時間毎に入力される振動加速度を時間積分することで振動速度を算出した。さらに、ロール研削機の周波数解析部43cでは、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を得た。一方、砥石回転数の周波数に対して3倍、4倍、5倍、及び6倍の4つの整数倍となる周波数帯(但し、±2Hzのバンド幅を設定した)の振動に着目し、その中で最大となるスペクトル値を選択した。さらに、そのように選択したスペクトル値の粗研削工程の最終10トラバースの間の平均値をロール研削機の振動情報とした。また、本実施例では、ロール研削機の研削操業パラメータとして、上記のロール研削機の振動情報の他、研削砥石については初期砥石径、使用前砥石径、研削条件として砥石回転数、砥石切込み量、砥石回転モータ負荷電流を選択した。さらに、ロール研削機の研削操業パラメータとして、上記バックアップロールの直径、研削時のロール回転数、ロール回転用のモータ負荷電流を選択し、データベース51aにこれらの実績値を蓄積した。
【0084】
以上のようにして、ロール研削機により研削されたバックアップロールは、連続式冷間圧延機の第4スタンドの上バックアップロール及び下バックアップロールとして使用され、その際の圧延操業パラメータの実績値を取得した。データベース51aに収集した圧延機の圧延操業パラメータには、圧延する鋼板の第4スタンドの入側板厚と出側板厚、前方張力、後方張力、先進率、変形抵抗、圧延荷重、及び上下ワークロールの平均径を選択した。また、これらの実績データを取得する際の圧延速度(最終スタンドのワークロール周速)を加えて全9種類の圧延実績データを取得した。これらの実績データは、サンプリングデータについて1秒毎に平均化処理を行うことにより、圧延機の圧延操業パラメータの実績値とした。さらに、圧延機の圧延操業パラメータを取得しながら、圧延機の振動情報の実測値を取得した。圧延機の振動情報は第4スタンドのハウジング上部に設置した振動計により取得される加速度データから算出した。圧延機に設置した加速度センサからはサンプリング周波数2000Hzの条件で加速度データを取得した。取得した加速度データは、所定のデータ特定時間(1.0秒)毎に振動加速度の平均化処理と時間積分を行うことにより、振動速度の時系列データとした。このようにして得られた圧延機の振動速度に対しては、高速フーリエ変換方式の周波数解析を行い、振動信号に含まれる周波数成分とそのスペクトル値を実績データとして得た。本実施例では、チャタマークが発生しやすい圧延速度400~1300mpmに対応する周波数帯として、350~900Hzに着目し、その周波数帯のスペクトル値の最大値を圧延機の振動情報の実績データとして、データベース51aに蓄積した。圧延に供された鋼板は、極低炭素鋼を含む軟鋼から引張強さ1.5GPaの高張力鋼板までを含み、板厚は圧延機入側で2~6mm、最終スタンド出側では0.6mm~2.8mm、板幅は750mm~1880mmであり、第4スタンドにおける圧下率は5%~40%であった。
【0085】
以上のようにしてデータベースに500個のデータが蓄積された段階で、圧延機の振動予測モデルを生成した。生成した圧延機の振動予測モデルは、以下の4種類とした。
【0086】
(1)ロール研削機の研削操業パラメータと圧延機の圧延操業パラメータの両方から入力データを選択した本発明例1
ロール研削機の研削操業パラメータとして、上バックアップロールの研削時における初期砥石径、使用前砥石径、砥石回転数、砥石回転モータ負荷電流の4つと、下バックアップロールの研削時における初期砥石径、使用前砥石径、砥石回転数、砥石回転モータ負荷電流の4つを選択した。また、圧延機の圧延操業パラメータからは圧下率、圧延荷重、圧延速度の3つを選択した。
【0087】
(2)ロール研削機の研削操業パラメータと圧延機の圧延操業パラメータの両方から入力データを選択した本発明例2
ロール研削機の研削操業パラメータとして、上バックアップロールの研削時におけるロール研削機の振動情報、砥石回転数、砥石回転モータ負荷電流の3つと、下バックアップロールの研削時におけるロール研削機の振動情報、砥石回転数、砥石回転モータ負荷電流の3つを選択した。また、圧延機の圧延操業パラメータから、圧下率、変形抵抗、圧延速度の3つを選択した。
【0088】
(3)圧延機の圧延操業パラメータから入力データを選択した比較例1
圧延機の圧延操業パラメータとして、第4スタンドの入側板厚と出側板厚、前方張力、後方張力、先進率、変形抵抗、圧延荷重、上下ワークロールの平均径、及び圧延速度の9つを選択した。
【0089】
(4)ロール研削機の研削操業パラメータから入力データを選択した比較例2
ロール研削機の研削操業パラメータとして、上バックアップロールの研削時におけるロール研削機の振動情報、初期砥石径、使用前砥石径、砥石回転数、砥石切込み量、砥石回転モータ負荷電流、上バックアップロールの直径、研削時のロール回転数、ロール回転用のモータ負荷電流の9個と、下バックアップロールの研削時におけるロール研削機の振動情報、初期砥石径、使用前砥石径、砥石回転数、砥石切込み量、砥石回転モータ負荷電流、下バックアップロールの直径、研削時のロール回転数、ロール回転用のモータ負荷電流の9個を選択した。
【0090】
以上の本発明例1,2及び比較例1,2の入力データに対して出力データを圧延機の振動情報とした機械学習により、それぞれに対して圧延機の振動予測モデルを生成した。機械学習手法にはニューラルネットワークを使用し、中間層を3層とし、ノード数は5個ずつとした。活性化関数はReLU関数を用いた。そして、本発明例1,2及び比較例1,2の圧延機の振動予測モデルを用いて、テストデータとして、2500コイルを圧延した実績データに対して、圧延機の振動予測を行った。圧延機の振動は、第4スタンドのハウジングに設置した振動計の出力により判定した。圧延機の異常振動は、350~900Hzの周波数帯における最大のスペクトル値0.03mm/秒を閾値として、その値よりも圧延機の振動が大きい状態を異常振動と判定した。一方、上記の圧延機の振動予測モデルによる出力である、圧延機の振動情報が0.03mm/秒を超えた場合を異常振動と予測した。そして、テストデータである2500コイルについて、上記圧延機の振動予測モデルにより異常振動ありと予測した場合に、圧延機の振動計によって異常振動ありと判定されたコイル数をI1とした。一方、上記圧延機の振動予測モデルにより異常振動なしと予測した場合に、圧延機の振動計によって異常振動なしと判定されたコイル数をI2とした。これらのI1とI2の和の全体のコイル数2500コイルに対する比率を一致率と呼ぶ。
【0091】
その結果、比較例1の一致率は38%であった。これは、圧延条件のみにより決まる圧延機振動を一部正確に計算できたものの、バックアップロールに根本原因のある圧延機振動については予測精度が低いためと考えられる。一方、比較例2の一致率は48%となった。これは、バックアップロールの凹凸起因で発生する圧延機振動をある程度反映している半面、圧延条件に起因した圧延機振動や、バックアップロールの凹凸があっても圧延条件によっては異常振動とはならなかった場合に十分な予測ができなかったためと考えられる。一方で、本発明例1の一致率は85%であった。これは、バックアップロールの凹凸状態に起因した振動と、圧延状態に起因した振動との両者が組み合わさることによって圧延機の異常振動が発生しやすくなることに対応して予測精度が向上したためと考えられる。さらに、本発明例2の一致率は93%であった。これは、ロール研削機の振動情報を入力に加えることによって、圧延機の異常振動の予測精度が向上したためと考えられる。
【0092】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測可能な圧延機の振動予測方法を提供することができる。また、本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の異常振動を予測可能な圧延機の異常振動判定方法を提供することができる。また、本発明によれば、チャタマークの発生を抑制して金属帯の製造歩留まりを向上させることが可能な金属帯の圧延方法を提供することができる。また、本発明によれば、金属帯を圧延する前に圧延機の振動を予測する圧延機の振動予測モデルを生成可能な圧延機の振動予測モデルの生成方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 ワークロール
2 バックアップロール
3a テンションメータロール
3b デフレクターロール
4 駆動装置
5 ハウジング
6 振動計
7 ロードセル
8 板厚計
9 圧延ロール
11 圧延制御コントローラ(PLC)
12 制御用計算機(プロセスコンピュータ)
13 ビジネスコンピュータ
14 圧延機操業データ出力部
15 圧延機の振動信号処理部
15a 圧延機の振動加速度データ収集部
15b 圧延機の振動速度計算部
15c 圧延機の周波数解析部
21 研削砥石
22 研削ヘッド
23 二軸テーブル
24 ロールチャック
25 ロール回転モータ
26 芯押し台
27 受け台
28a,28b ガイド
29 砥石回転用モータ
30 プーリー
31 ベルト
41 ロール計算機の研削操業条件設定計算機(制御用計算機)
42 ロール研削機の制御用コントローラ
43 ロール研削機の振動信号処理部
43a ロール研削機の振動加速データ収集部
43b ロール研削機の振動速度計算部
43c ロール計算機の周波数解析部
44 研削操業データ出力部
51 振動予測モデル生成部
51a データベース
51b 機械学習部
61 圧延機振動予測部
61a 異常振動判定部
M 圧延機の振動予測モデル
S 鋼板