IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-糸および布帛 図1
  • 特許-糸および布帛 図2
  • 特許-糸および布帛 図3
  • 特許-糸および布帛 図4
  • 特許-糸および布帛 図5
  • 特許-糸および布帛 図6
  • 特許-糸および布帛 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】糸および布帛
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/02 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
D02G3/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021561407
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043599
(87)【国際公開番号】W WO2021106843
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019213068
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】西浦 貴子
(72)【発明者】
【氏名】田口 英治
(72)【発明者】
【氏名】林 宏和
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-248442(JP,A)
【文献】特開2004-027374(JP,A)
【文献】特開2005-232645(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211817(WO,A1)
【文献】特開平09-209222(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239866(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/62
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのエネルギーにより電位を発生する複数の電位発生繊維と、
前記複数の電位発生繊維に付着する界面活性剤と、
を備え、
前記界面活性剤の付着態様が一様ではない、
糸。
【請求項2】
外側に配置される電位発生繊維と、内側に配置される電位発生繊維と、で付着する界面活性剤の量が異なる、
請求項1に記載の糸。
【請求項3】
外側に配置される電位発生繊維に付着する界面活性剤の量は、内側に配置される電位発生繊維に付着する界面活性剤の量よりも多い、
請求項2に記載の糸。
【請求項4】
前記複数の電位発生繊維は、前記電位が発生した時に異なる電位となる、少なくとも2つの電位発生繊維を含む、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の糸。
【請求項5】
前記複数の電位発生繊維の間に配置される絶縁体を備えた、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の糸。
【請求項6】
前記複数の電位発生繊維のうち内側に配置される電位発生繊維の太さは、外側に配置される電位発生繊維よりも太い、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の糸。
【請求項7】
前記糸は、仮撚糸である、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の糸。
【請求項8】
前記複数の電位発生繊維は、表面に凹凸を有している、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の糸。
【請求項9】
前記糸は短繊維を含む紡績糸であり、前記短繊維の端部は前記紡績糸の側面から露出する、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の糸。
【請求項10】
前記複数の電位発生繊維は、ポリ乳酸を含む、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の糸。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の糸を含む布帛。
【請求項12】
前記布帛に含まれる複数の前記糸の動的接触角の最大値および最小値は中心値から±10°以上である、
請求項11に記載の布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からのエネルギーにより電位を生じる電位発生繊維を備えた糸、および該糸を備えた布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外部からのエネルギーにより電位を生じる圧電糸が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6292368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
汗等の電解質を含む水分が存在すると、複数の圧電糸同士で電流が流れる。電流が流れると、発生した電位は消失する。したがって、電場が消失する。
【0005】
そこで、本発明は、従来よりも電場の消失を抑制する糸および布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸は、外部からのエネルギーにより電位を発生する複数の電位発生繊維と、前記複数の電位発生繊維に付着する界面活性剤と、を備える。また、糸は、前記界面活性剤の付着態様が一様ではないことを特徴とする。
【0007】
界面活性剤は、糸の表面の濡れ性を向上させる。水分は、糸の表面に濡れ広がり、蒸発し易くなる。特に、界面活性剤の付着態様が一様ではない場合、一様である場合よりも糸の表面に水分が濡れ広がり易くなる。したがって、複数の電位発生繊維同士の間で水分が介在し難くなる。よって、本発明の糸は、電場を維持し易くなる。
【発明の効果】
【0008】
この発明の糸は、従来よりも電場の消失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は、糸1の構成を示す図であり、図1(B)は、図1(A)のA-A線における断面図である。
図2図2(A)および図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電繊維10の変形と、の関係を示す図である。
図3図3は、糸2の構成を示す図である。
図4】糸1および糸2における、電場を示す図である。
図5】界面活性剤の量と所定時間経過後の含水量との関係を示すシミュレーション結果である。
図6】変形例に係る糸1Aの断面図である。
図7】布帛75を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(A)は、糸1の構成を示す一部分解図であり、図1(B)は、図1(A)のA-A線における断面図である。糸1は、複数の圧電繊維10が撚られてなるマルチフィラメント糸である。また、糸1は、複数の圧電繊維10に付着した界面活性剤100を有する。
【0011】
圧電繊維10は、断面が円形状の繊維である。糸1は、複数の圧電繊維10が左旋回して撚られた左旋回糸(以下、S糸と称する。)である。なお、本実施形態では、一例として7本の圧電繊維10が撚られてなる糸1を示しているが、撚り数は、実際には用途等を鑑みて、適宜設定される。
【0012】
圧電繊維10は、例えば圧電性ポリマーからなる。圧電繊維10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法により製造される。あるいは、圧電繊維10は、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程および延伸工程を分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程および延伸工程を連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む。)、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するような液晶紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法、等を含む。)により繊維化する手法、または圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法等により製造される。なお、圧電繊維10の断面形状は、円形状に限るものではない。
【0013】
圧電性ポリマーは、焦電性を有するものと、焦電性を有しないものとが存在する。本実施形態の圧電繊維10は、焦電性を有していてもよいし、焦電性を有していなくてもよい。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、焦電性を有しており、温度変化によっても電位が発生する。PVDF等の焦電性を有する圧電性ポリマーは、人体の熱エネルギーによっても、電位が生じる。この場合、人体の熱エネルギーが外部からのエネルギーである。
【0014】
ポリ乳酸(PLA)は、焦電性を有していない圧電性ポリマーである。ポリ乳酸は、一軸延伸されることで圧電性が生じる。ポリ乳酸には、L体モノマーが重合した右巻き螺旋構造を有するPLLAと、D体モノマーが重合した左巻き螺旋構造を有し、圧電定数の極性がPLLAとは逆であるPDLAと、がある。
【0015】
図2(A)および図2(B)は、圧電繊維10が一軸延伸されたL体のポリ乳酸である場合における、糸1の、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電繊維10の変形と、の関係を示す図である。なお、図2(A)および図2(B)は、モデルケースとして、圧電繊維10をフィルム形状と仮定した場合の図である。
【0016】
ポリ乳酸は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現する。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。一軸延伸されたポリ乳酸からなる圧電繊維10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。したがって、一軸延伸されたポリ乳酸からなる圧電繊維10は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に、電位を発生する。
【0017】
図2(A)に示すように、圧電繊維10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電繊維10は、紙面表側では、負の電位が発生する。圧電繊維10は、図2(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も、電位を発生するが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電繊維10は、紙面表側では、正の電位が発生する。
【0018】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0019】
以上の様な性質を有する圧電繊維10を図1(A)の糸1に適用する場合について説明する。図1(A)において、各圧電繊維10の延伸方向900は、それぞれの圧電繊維10の軸方向に一致している。複数の圧電繊維10が撚られることによって、圧電繊維10の延伸方向900は、糸1の軸方向に対して、紙面上において左45度に傾いた状態となる。
【0020】
この様なS糸である糸1に軸方向の張力をかけて伸張した場合、圧電繊維10は、糸1の軸方向に沿って伸び、糸1の幅方向に沿って縮む。糸1の軸方向は、図2(A)の例では第2対角線910Bに相当する。これにより、圧電繊維10は、図2(A)に示した例の様に、第1対角線910Aに相当する方向に縮み、第2対角線910Bの方向に相当する方向に伸びる。したがって、圧電繊維10の表面には負の電位が発生し、内側には正の電位が発生する。すなわち、圧電繊維10は、外部からのエネルギーにより電位を発生する。
【0021】
なお、圧電繊維10は、ずり応力が加わることによって電位を発生するため、糸1の軸方向に対する傾きは左45度に限られるものではない。延伸方向900は、少なくとも糸1の軸方向に対して交差していればよい。すなわち、圧電繊維10の延伸方向900は、糸の軸方向に対して0度より大きく左90度未満であればよい。
【0022】
一方、図3は、圧電繊維10を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、Z糸と称する。)を構成する、糸2を示す一部分解図である。糸2は、Z糸である。複数の圧電繊維10が撚られることによって圧電繊維10の延伸方向900は、糸2の軸方向に対して、紙面上において右45度に傾いた状態となる。
【0023】
Z糸である糸2に張力をかけて伸張した場合、圧電繊維10は、糸2の軸方向に沿って伸び、糸2の幅方向に沿って縮む。糸2の軸方向は、図2(B)の例では第1対角線910Aに相当する。これにより、圧電繊維10は、図2(B)に示した例の様に、第1対角線910Aに相当する方向に伸び、第2対角線910Bの方向に相当する方向に縮む。したがって、圧電繊維10の表面には正の電位が発生し、内側には負の電位が発生する。すなわち、圧電繊維10は、外部からのエネルギーにより電位を発生する。なお、圧電繊維10はずり応力が加わることによって電位を発生するため、糸2の軸方向に対する傾きは右45度に限られるものではなく、少なくとも糸2の軸方向に対して交差していればよい。すなわち圧電繊維10の延伸方向900は糸2の軸方向に対して0度より大きく右90度未満であればよい。
【0024】
図4は、糸1および糸2における、電場の状態を示す断面図である。糸1および糸2を構成する圧電繊維10がPLLAで形成された場合、糸1単独では、軸方向の張力が加わった時に表面が負の電位になり内部は正の電位になる。糸2単独では、軸方向の張力が加わった時に表面が正の電位になり内部は負の電位になる。
【0025】
これら糸1および糸2が近接した場合、近接する部分(表面)は同電位になろうとする。この場合、糸1と糸2との近接部は0Vとなり、元々の電位差を保つように、糸1の内部の正の電位はさらに高くなる。同様に糸2の内部の負の電位はさらに低くなる。
【0026】
糸1の断面では、主に糸1の内から外に向かう電場が形成され、糸2の断面では主に外から内に向かう電場が形成される。糸1および糸2を近接させた場合、これらの電場が空気中に漏れ出て合成され、糸1および糸2の間の電位差により、糸1と糸2との間に電場が形成される。あるいは、糸1と、人体等の所定の電位を有する物と、が近接した場合に、糸1と近接する物との間に電場が生じる。糸2と、人体等の所定の電位を有する物と、が近接した場合にも、糸2と近接する物との間に電場が生じる。
【0027】
なお、糸1および糸2は、互いに逆極性の電位を有する必要はない。糸1および糸2は、同じ極性の電位を有する場合であっても、両者に電位差があれば、電場が生じる。すなわち、糸1および糸2は、電位が発生した時に異なる電位となればよい。
【0028】
この様な電場は、例えば、細菌、真菌、古細菌またはダニやノミ等の微生物の増殖を抑制することができる。
【0029】
ここで、糸1または糸2に電解質を含む水分が存在する場合、当該水分を介して電流が流れる。電流が流れると、糸1または糸2で発生した電位は消失する。電位が消失すると、電場も消失する。
【0030】
本実施形態の糸1または糸2は、複数の圧電繊維10に付着した界面活性剤100を有する。界面活性剤100は、イオン性(カチオン性・アニオン性・双性)でも、非イオン性(ノニオン性)でもよい。また、界面活性剤100は、低分子であっても高分子であってもよい。
【0031】
界面活性剤100は、例えば、繊維の製造工程で用いられる油剤である。利用者が糸1(または糸2)を含む衣料を洗濯した場合、当該油剤を除去してしまう場合があるが、代わりに洗濯の仕上げ剤(柔軟剤)が付着する場合もある。この柔軟剤も、界面活性剤100の一例である。
【0032】
界面活性剤100は、圧電繊維10の表面の濡れ性を向上させる。そのため、水分は、圧電繊維10の表面に濡れ広がる。水分は、繊維表面に濡れ広がることにより糸の外側に多く露出する。よって、水分は、界面活性剤が付着していない場合よりも蒸発しやすくなり、速く乾燥する。
【0033】
図5は、界面活性剤の量と所定時間経過後の含水量との関係を示すシミュレーション結果である。図5に示す様に、界面活性剤の量が多くなるほど、所定時間経過後の含水量は少なくなる。つまり、界面活性剤の量が多いほど水分は蒸発し易くなる。
【0034】
水分が蒸発すると、電流経路が無くなるため、糸1の電位は維持され易い。また、糸2の電位も維持され易い。よって、糸1および糸2の間に形成される電場は、維持され易い。
【0035】
そして、本実施形における複数の圧電繊維10に対する界面活性剤100の付着態様は、一様ではない。つまり、糸1(または糸2)は、界面活性剤100の付着量が多い圧電繊維10と、界面活性剤100の付着量が少ない圧電繊維10と、を有する。より具体的には、糸1(または糸2)の外側に配置される圧電繊維10と、糸1(または糸2)の内側に配置される圧電繊維10と、で付着する界面活性剤100の量が異なる。例えば、図1(B)の例では、外側に配置される圧電繊維10に付着する界面活性剤100の量は、内側に配置される圧電繊維10に付着する界面活性剤100の量よりも多い。
【0036】
仮に複数の圧電繊維10に対する界面活性剤100の付着態様が一様である場合、水分の濡れ広がりには偏りがなくなる。糸1(または糸2)は、マルチフィラメント糸である。そのため、糸1または糸2は、内側に多くの界面活性剤を含むことになる。したがって、糸1または糸2の内側に水分を多く引き込む。内側に引き込まれた水分は、外部に露出しないため、外側に濡れ広がった水分よりも乾きにくい。糸1または糸2は、外側にも界面活性剤を含んでいるため、全体的に濡れた状態となる。
【0037】
一方で、複数の圧電繊維10に対する界面活性剤100の付着態様が一様ではない場合、水分の濡れ広がりに偏りが生じる。特に外側に配置される圧電繊維10に付着する界面活性剤100の量が多い場合、水分は、外側に多く露出する。よって、水分は、界面活性剤100の付着態様が一様である場合よりも、蒸発し易くなる。また、外側に配置される圧電繊維10に付着する界面活性剤100の量が多い場合、水分は糸の内部に引き込まれ易い。この場合、外部は乾燥状態になる。したがって、糸1および糸2の間に形成される電場は、維持され易くなる。
【0038】
次に、図6は、糸1の変形例に係る糸1Aの断面図である。糸1Aは、複数の圧電繊維10の間に、樹脂50を備えている。樹脂50は、絶縁体の一例である。図6の断面では、樹脂50は、中心に配置された圧電繊維10の周囲をコーティングし、周りの圧電繊維10との隙間を埋めるように配置される。そのため、界面活性剤100は、糸1Aの内側よりも外側に多く付着する。
【0039】
この様な糸1Aは、外側に多くの界面活性剤100を付着する。したがって、水分は、より蒸発し易くなる。よって、糸1Aは、電場を維持し易くなる。また、糸1Aは、樹脂50により、内側に水分が侵入しにくい。この点からも、糸1Aは、電場を維持し易くなる。
【0040】
なお、図6では、糸1の変形例を示したが、糸2についても、図6の例と同様に、樹脂50を備えた変形例2に係る糸2Aを構成することができる。
【0041】
なお、糸1Aは、圧電繊維10を樹脂50でコーティングし、該コーティングした圧電繊維10を芯糸として配置したカバリング糸であってもよい。この場合、他の複数の圧電繊維10は、芯糸の周囲を旋回する。界面活性剤100は、糸1Aの内側よりも外側に多く付着する。
【0042】
また、芯糸は、界面活性剤100の付着しにくい素材であってもよい。この場合も、界面活性剤100は、内側よりも外側に多く付着する。
【0043】
また、芯糸に巻く鞘糸は、フィラメント糸に限らず、フィルム形状の圧電体であってもよい。また、フィラメント糸は、仮撚糸であってもよい。仮撚糸は、多くの隙間を有する。よって、仮撚糸には界面活性剤100が付着し易い。また、仮撚糸は、風合いも良い。
【0044】
あるいは、糸は、内側に太い繊維を有し、外側に複数の細い圧電繊維10を有していてもよい。この場合も、界面活性剤100は、内側よりも外側に多く付着する。
【0045】
また、中空糸、あるいは表面に凹凸を有する糸も、内側と外側の界面活性剤100の付着量が異なる。
【0046】
また、糸を構成する圧電繊維は、長繊維に限らず、少なくとも1つの短繊維を含んでいてもよい。糸が複数の短繊維を撚った紡績糸である場合、長繊維よりも複雑な形状となる。したがって、界面活性剤100の付着量が一様ではなくなる。また、いくつかの短繊維の端部は、糸の側面から露出する。つまり、糸の表面には、より多くの繊維が露出する。したがって、短繊維を用いた場合には、界面活性剤は、内側よりも外側に多く付着する。
【0047】
なお、表面に負の電位を生じる繊維としては、PLLAを用いたS糸の他にも、PDLAを用いたZ糸も考えられる。また、表面に正の電位を生じる繊維としては、PLLAを用いたZ糸の他にも、PDLAを用いたS糸も考えられる。
【0048】
図7に示す布帛75は、上述した本実施形態の糸を含む。本実施形態に示した糸を含む布帛75も、電場を維持し易い。
【0049】
また、出願人は、布帛75から無作為に糸を10本抽出し、動的接触角測定(拡張/収縮法)を実施した。10本の糸において、引き上げ時の接触角の最大値および最小値は、それぞれ中心値から±10°以上であった。したがって、布帛75についても、界面活性剤の付着態様が一様ではないことが分かる。
【0050】
最後に、本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1,1A,2,2A…糸
10…圧電繊維
50…樹脂
100…界面活性剤
900…延伸方向
910A…第1対角線
910B…第2対角線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7