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特許7131732表面着色ガラスクロス及び繊維強化樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】表面着色ガラスクロス及び繊維強化樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20220830BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20220830BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20220830BHJP
   G01N 33/36 20060101ALI20220830BHJP
   D06B 11/00 20060101ALI20220830BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
D03D15/267
G01N33/38
B29C70/10
G01N33/36 A
D06B11/00 Z
B29K105:08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022524881
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003528
(87)【国際公開番号】W WO2021235014
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2020089536
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】門馬 秀明
(72)【発明者】
【氏名】佐野 一教
(72)【発明者】
【氏名】平山 紀夫
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-077127(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168921(WO,A1)
【文献】特開2008-248585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
D03D1/00-27/18
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
G01N33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸を有し、前記経糸及び前記緯糸が、それぞれ、集束された複数のガラスフィラメントを含む、ガラスクロスと、
前記ガラスクロスの表面に付着した複数の着色部と、
を備える、表面着色ガラスクロスであって、
前記着色部が、1つの着色点を含む領域ごとに1つずつ配置され、複数の前記着色点が、所定の方向に沿う複数の列が形成されるように前記ガラスクロスの表面内に配列され、
隣り合う前記着色点間の平均距離Dが0.50~10.00mmであり、
Dは、1つの前記着色点を基準着色点とし、前記基準着色点の周囲の領域を、前記基準着色点を通り、前記所定の方向に対して時計回りに22.5°、67.5°、112.5°又は157.5°の方向に延びる4本の直線によって8つの領域に等分したときに、前記8つの領域それぞれにおいて前記基準着色点と隣り合う8つの前記着色点と前記基準着色点との距離の平均値であり、前記基準着色点が、前記8つの領域それぞれにおいて隣り合う前記着色点が存在する前記着色点から選択され、
前記ガラスクロスにおいて、経糸段数がStで、経糸拡幅度がEtで、緯糸段数がSyで、緯糸拡幅度がEyであるとき、D、St、Et、Sy及びEyが下記式:
3.3≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦25.0
を満たし、
前記経糸段数及び前記経糸拡幅度はそれぞれ下記式:
経糸段数=(経糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(経糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(経糸の幅);及び
経糸拡幅度=(経糸の幅)/{25000μm/(経糸の織密度)}
によって算出され、
前記緯糸段数及び前記緯糸拡幅度はそれぞれ下記式:
緯糸段数=(緯糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(緯糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(緯糸の幅);及び
緯糸拡幅度=(緯糸の幅)/{25000μm/(緯糸の織密度)}
によって算出され、
前記織密度は、ガラスクロスの幅25mm当たりの経糸又は緯糸の本数であり、
St及びSyは0.8~8.0で、Et及びEyは0.30~1.20であり、
前記経糸又は前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの幅が3.0~11.0μmで、1本の前記経糸又は1本の前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの本数が30~600本で、前記経糸及び前記緯糸の幅が100~800μmで、前記経糸及び前記緯糸の織密度が30~120本/25mmである、
表面着色ガラスクロス。
【請求項2】
D、St、Et、Sy及びEyが下記式:
6.0≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦17.0
を満たす、請求項1に記載の表面着色ガラスクロス。
【請求項3】
D、St、Et、Sy及びEyが下記式:
9.5≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦16.0
を満たす、請求項1に記載の表面着色ガラスクロス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の表面着色ガラスクロスと、前記表面着色ガラスクロスに含浸した樹脂と、を含む繊維強化樹脂成形品。
【請求項5】
繊維強化樹脂である本体部と、前記本体部の表面上に設けられた検査用繊維強化樹脂層と、
を備え、
前記検査用繊維強化樹脂層が、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面着色ガラスクロスと、前記表面着色ガラスクロスに含浸した透明樹脂と、を含む、
繊維強化樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面着色ガラスクロス及び繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形品に関して、その疲労状態及び寿命を把握するために、歪み分布を測定することが必要とされることがある。そのため、例えば、炭素繊維強化樹脂成形品について、炭素繊維が屈曲等によって歪んだときに炭素繊維の電気抵抗が大きくなる性質を利用して、炭素繊維強化樹脂成形品の疲労状態を試験する方法が提案されている(特許文献1)。材料の二次元格子像の画像解析により、歪み分布を測定する方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平05-269874号公報
【文献】国際公開第2016/001986号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラスクロスを強化繊維として含む繊維強化樹脂成形品に関しては、ガラス繊維が電気絶縁性であり、また明確な二次元格子像を取得し難いことから、従来の方法では、歪み分布を高精度で測定することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、繊維強化樹脂成形品の歪み分布を画像解析によって高精度で測定することを可能にする表面着色ガラスクロスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、経糸及び緯糸を有し、前記経糸及び前記緯糸が、それぞれ、集束された複数のガラスフィラメントを含む、ガラスクロスと、前記ガラスクロスの表面に付着した複数の着色部と、を備える、表面着色ガラスクロスを提供する。
【0007】
前記着色部が、1つの着色点を含む領域ごとに1つずつ配置され、複数の前記着色点が、所定の方向に沿う複数の列が形成されるように前記ガラスクロスの表面内に配列される。隣り合う前記着色点間の平均距離Dが0.50~10.00mmである。Dは、1つの前記着色点を基準着色点とし、前記基準着色点の周囲の領域を、前記基準着色点を通り、前記所定の方向に対して時計回りに22.5°、67.5°、112.5°又は157.5°の方向に延びる4本の直線によって8つの領域に等分したときに、前記8つの領域それぞれにおいて前記基準着色点と隣り合う8つの前記着色点と前記基準着色点との距離の平均値である。前記基準着色点が、前記8つの領域それぞれにおいて隣り合う前記着色点が存在する前記着色点から選択される。
前記ガラスクロスにおいて、経糸段数がStで、経糸拡幅度がEtで、緯糸段数がSyで、緯糸拡幅度がEyであるとき、D、St、Et、Sy及びEyが下記式:
3.3≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦25.0
を満たす。前記経糸段数及び前記経糸拡幅度はそれぞれ下記式:
経糸段数=(経糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(経糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(経糸の幅);及び
経糸拡幅度=(経糸の幅)/{25000μm/(経糸の織密度)}
によって算出される。前記緯糸段数及び前記緯糸拡幅度はそれぞれ下記式:
緯糸段数=(緯糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(緯糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(緯糸の幅);及び
緯糸拡幅度=(緯糸の幅)/{25000μm/(緯糸の織密度)}
によって算出される。
【0008】
前記織密度は、ガラスクロスの幅25mm当たりの経糸又は緯糸の本数である。St及びSyは0.8~8.0で、Et及びEyは0.30~1.20である。前記経糸又は前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの幅は3.0~11.0μmである。1本の前記経糸又は1本の前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの本数は30~600本である。前記経糸及び前記緯糸の幅は100~800μmである。前記経糸及び前記緯糸の織密度が30~120本/25mmである。
【0009】
本発明の別の一側面は、上記表面着色ガラスクロスと、前記表面着色ガラスクロスに含浸した樹脂と、を含む繊維強化樹脂成形品を提供する。
【0010】
本発明の更に別の一側面は、繊維強化樹脂である本体部と、前記本体部の表面上に設けられた検査用繊維強化樹脂層と、を備える繊維強化樹脂成形品に関する。前記検査用繊維強化樹脂層は、上記表面着色ガラスクロスと、上記表面着色ガラスクロスに含浸した透明樹脂とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、繊維強化樹脂成形品の歪み分布を画像解析によって高精度で測定することを可能にする表面着色ガラスクロスが提供される。本発明の別の一側面によれば、歪み分布を画像解析によって高精度で測定することが可能な繊維強化樹脂成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】表面着色ガラスクロスの一実施形態を示す平面図である。
図2】着色部及び着色点の配列パターンの一例を示す模式図である。
図3】表面着色ガラスクロスの一実施形態を示す平面図である。
図4】着色部及び着色点の配列パターンの一例を示す模式図である。
図5】ガラスクロスの一実施形態を示す断面図である。
図6】繊維強化樹脂成形品の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、表面着色ガラスクロスの一実施形態を示す平面図である。図1に示される表面着色ガラスクロス1は、ガラスクロス3と、ガラスクロス3の表面に付着した複数の着色部5とを有する。ガラスクロス3は、X方向に引き揃えられた複数の経糸と、X方向に対して垂直なY方向に引き揃えられた複数の緯糸とで形成された織物であり、図示していないが、織物中に経糸及び緯糸が存在しない空隙部を有してもよい。経糸及び緯糸は、それぞれ、集束された複数のガラスフィラメントを含む。
【0015】
着色部5の色は、ガラスクロス3の色とコントラストがあれば特に限定されない。着色されないガラスクロス3は通常白色であるので、着色部5は、例えば、黒色であってもよい。着色部5は、例えば樹脂インクによって形成される。着色部5は、1つの着色点10を含む領域ごとに1つずつ配置されている。着色点10は、通常、着色部5の中心に位置する。着色部5に外接する最小の矩形の中心が着色点10であってもよい。複数の着色点10が、所定の方向(X方向)に沿う複数の列10Lが形成されるようにガラスクロス3の表面内に配列されている。それぞれの列10Lは、実質的に等間隔で配置された複数の着色点10から構成される。隣り合う列10Lにおいて、着色点10は、X方向における位置が重ならないように互い違いに配置されている。着色部5の色としては、黒色以外に、赤色、青色、緑色、黄色、灰色、白色が例示される。
【0016】
ガラスクロス3は、通常、着色されないが、着色されてもよい。例えば、ガラスクロス3全体が黒色に着色され、着色部5が白色等であってもよい。ガラスクロス3全体が白色に着色され、着色部5が黒色等であってもよい。
【0017】
隣り合う着色点10間の平均距離Dは、0.50~10.00mmである。図2は、図1の表面着色ガラスクロスにおける着色点の配列パターンを示す模式図である。図2を参照して平均距離Dを決定する方法について説明する。任意の1つの着色点が、基準着色点10Rとして選択される。基準着色点10Rの周囲の領域が8つの領域A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7及びA8に等分又は分割される。これら8つの領域は、基準着色点10Rを通る4本の直線L22.5、L67.5、L112.5及びL157.5によって基準着色点10Rの周囲の領域を等分した領域である。直線L0はX方向に延びる直線であり、直線L22.5、L67.5、L112.5及びL157.5は、それぞれ、X方向に対して時計回りに22.5°、67.5°、112.5°及び157.5°の方向に延びる直線である。基準着色点10Rを通りX方向に延びる直線L0上に、基準着色点10Rの両隣に位置する着色点11及び着色点15が、領域A1及びA5にそれぞれ配置されている。基準着色点10Rを通りX方向に対して45°の方向に延びる直線L45上に、基準着色点10Rの両隣に位置する着色点12及び着色点16が、領域A1及びA6にそれぞれ配置されている。基準着色点10Rを通りX方向に対して90°の方向に延びる直線L90上に、基準着色点10Rの両隣に位置する着色点13及び着色点17が、領域A3及びA7にそれぞれ配置されている。基準着色点10Rを通りX方向に対して135°の方向に延びる直線L135上に、基準着色点10Rの両隣に位置する着色点14及び着色点18が、領域A4及びA8にそれぞれ配置されている。8つの領域A1~A8それぞれにおいて基準着色点10Rと隣り合う8つの着色点11、12、13、14、15、16、17及び18と基準着色点10Rとの距離の平均値が、平均距離Dである。8つの着色点11~18は、8つの領域A1~A8それぞれにおいて基準着色点10Rに最も近い着色点である。基準着色点10Rは、8つの領域A1~A8それぞれにおいて隣り合う着色点が存在する着色点から選択される。基準着色点として選択できる複数の着色点において、平均距離Dが一定であってもよいが、ある程度変動してもよい。ガラスクロスの表面上に配置された着色点全体において、平均距離Dが±10%以内の範囲で変動してもよい。
【0018】
図1及び図2に例示されるように配列した着色部5は、例えば、着色点を中心とし図示された矩形(又は正方形)の領域を印刷領域として設定した印刷により、形成することができる。
【0019】
図3は、表面着色ガラスクロスの他の一実施形態を示す平面図であり、図4は、図3の表面着色ガラスクロスにおける着色点の配列パターンを示す模式図である。図3及び図4の実施形態の場合、複数の着色点10が、所定の方向(X方向)に沿う複数の列10Lが形成されるようにガラスクロス3の表面内に配列され、隣り合う列10Lにおいて着色点10のX方向における位置が一致している。隣り合う着色点10間の平均距離Dは、図4に示されるように、任意に選択された基準着色点10Rの周囲の8つの領域A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7及びA8それぞれにおいて基準着色点10Rと隣り合う着色点11、12、13、14、15、16、17及び18と基準着色点10Rとの距離の平均値である。
【0020】
図1~4に例示される実施形態では、平均距離Dは、0.50~10.00mmである。平均距離Dは、1.00mm、1.50mm以上又は3.00mm以上であってもよく、8.00mm以下、6.00mm以下又は5.00mm以下であってもよい。これら実施形態において、各列10Lの方向が経糸方向と一致する。ただし、着色点の列10Lの配列方向が経糸方向以外の方向であってもよい。
【0021】
図5は、表面着色ガラスクロスを構成するガラスクロスの一実施形態を示す断面図である。図5は、ガラスクロス3を緯糸方向に切断した断面図である。図5に示すガラスクロス3は、経糸30及び緯糸40を有する。経糸30は、複数のガラスフィラメント31を有する。ガラスフィラメント31の幅31W(長手方向に垂直な断面における最大幅)は、3.0~11.0μmであり、3.5~9.5μmであってもよい。ガラスフィラメント31が円形の断面を有する場合、幅31Wは円形の断面の直径である。1本の経糸30に含まれるガラスフィラメントの本数は、30~600本であり、40~450本であってもよい。経糸30の幅30W(長手方向に垂直な断面における最大幅)は、100~800μmであり、120~600μmであってもよい。経糸の織密度、すなわち、経糸の長手方向に垂直な方向におけるガラスクロスの幅25mm当たりの経糸30の本数は、30~120本/25mmであり、32~100本/25mmであってもよい。緯糸40も、経糸30と同様に複数のガラスフィラメントを有する。ガラスフィラメントの幅及び本数、緯糸の幅、緯糸の織密度は、経糸におけるものと同様であることができる。緯糸の織密度は、緯糸の長手方向に垂直な方向におけるガラスクロスの幅25mm当たりの緯糸40の本数である。前記ガラスフィラメントの幅(ガラスフィラメントの直径)は、経糸又は緯糸の断面それぞれ50点について、走査型電子顕微鏡で、ガラスフィラメントの幅を測定したときの、50個の測定値の平均値であることができる。前記ガラスフィラメントの本数は、経糸又は緯糸それぞれ50本について、走査型電子顕微鏡で、経糸又は緯糸を構成するガラスフィラメントの本数を計測したときの、50個の測定値の平均値であることができる。経糸及び緯糸の幅は、ガラスクロスから60mm×100mmのサンプル3枚を切り出し、各サンプル当たりそれぞれ30本の経(緯)糸について、マイクロスコープで糸幅を測定したときの、30個の測定値の平均値であることができる。前記織密度は、JIS R 3420:2013に準拠して、織物分解鏡を用い、ガラスクロスの幅25mm当たりの経糸又は緯糸の本数を計測して、求めることができる。ガラスクロス3を構成するガラスフィラメントのガラス組成は特に限定されず、Eガラス、Tガラス、Sガラス、NEガラス、又はLガラスであってよい。汎用性に優れるという観点からは、ガラスクロス3を構成するガラスフィラメントのガラス組成はEガラスであってもよい。ガラスクロス3の織組織は、特に限定されず、平織、綾織、又は朱子織であってもよい。経方向と緯方向との間の変形の異方性低減という観点から、ガラスクロス3が平織であってもよい。ガラスクロス3の表面には、シランカップリング剤、界面活性剤等の着色部5以外の有機物質が付着していてもよい。
【0022】
ガラスクロス3において、経糸段数がStで、経糸拡幅度がEtで、緯糸段数がSyで、緯糸拡幅度がEyである。経糸段数及び経糸拡幅度はそれぞれ下記式:
経糸段数=(経糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(経糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(経糸の幅);及び
経糸拡幅度=(経糸の幅)/{25000μm/(経糸の織密度)}
によって算出される。緯糸段数及び緯糸拡幅度はそれぞれ下記式:
緯糸段数=(緯糸を構成するガラスフィラメントの幅)×(緯糸を構成するガラスフィラメントの本数)/(緯糸の幅);及び
緯糸拡幅度=(緯糸の幅)/{25000μm/(緯糸の織密度)}
によって算出される。
【0023】
St及びSyは0.8~8.0であってもよい。St及びSyが1.0以上、2.0以上、又は3.0以上であってもよく、7.0以下又は5.0以下であってもよい。Et及びEyは0.30~1.20であってもよい。Et及びEyは0.60以上、0.70以上、又は0.80以上であってもよく、1.10以下、又は1.00以下であってもよい。
【0024】
D、St、Et、Sy及びEyは、下記式(1):
3.3≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦25.0 ・・・(1)
を満たす。D、St、Et、Sy及びEyがこの式を満たすように、ガラスクロスの構成及び平均距離Dを選択したとき、歪み分布を画像解析によって高精度で測定することが可能な繊維強化樹脂成形品を得ることができる。Et及びEyは、経糸又は緯糸間の空隙の大きさに相関する。Et及びEyが大きいことは、経糸又は緯糸間の空隙が小さいことを示唆する。St及びSyは、経糸又は緯糸の表面に発生し得る表面の凹凸の大きさ、及び、経糸又は緯糸の厚さに相関する。St及びSyが小さいことは、経糸又は緯糸の表面に発生し得る表面の凹凸は小さく、経糸又は緯糸の厚さが薄くなることを示唆する。ここで、経糸又は緯糸間の空隙が小さいこと、及び、経糸又は緯糸の表面に発生し得る凹凸が小さいことは、着色部5を設ける際の精度の向上に寄与し、ひいては、歪み分布測定の精度の向上に寄与する。一方、経糸又は緯糸の厚さが薄くなることは、着色部5を設ける際の着色工程の作業精度に影響し、着色部5の精度低下につながる。平均距離Dは、着色工程の作業精度に相関する。100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)の値は、このような諸要素を反映し、着色部5を設ける際の精度を示している。
【0025】
上記と同様の観点から、D、St、Et、Sy及びEyは、下記式(2)又は(3):
6.0≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦17.0 ・・・(2)
9.5≦100×D1/2×(Et×Ey)/(St×Sy)≦16.0 ・・・(3)
を満たしてもよい。
【0026】
以上の実施形態にかかる表面着色ガラスクロスと、樹脂とから繊維強化樹脂成形品を得ることができる。ここで、前記樹脂は、硬化性樹脂でも、熱可塑性樹脂でもよい。前記樹脂が硬化性樹脂の場合は、プレス成形法、ハンドレイアップ成形法、インフュージョン成形法、RTM成形法等を用いて、上述の実施形態にかかる表面着色ガラスクロスに、硬化性樹脂を含浸させ、熱硬化又は光硬化により、硬化性樹脂を硬化又は半硬化させることで、繊維強化樹脂成形品を得ることができる。硬化性樹脂が半硬化された状態の繊維強化樹脂成形品(プリプレグ)に対して、プレス成形法を用いて、繊維強化樹脂成形品を得ることもできる。また、前期樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、熱可塑性樹脂フィルムと上述の実施形態にかかる表面着色ガラスクロスを交互に積層したものに対して、プレス成形法やダブルベルト型の連続プレス成形法等を用いることで、繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0027】
前記樹脂として用いられる硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、及びポリイソシアヌレート樹脂が挙げられる。前記樹脂として用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、及びポリアミドイミド(PAI)樹脂が挙げられる。前記樹脂は、硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂以外の添加剤、例えば、低収縮剤、難燃剤、消泡剤等を含む樹脂組成物であってもよい。
【0028】
前記樹脂は、着色部5の視認性を確保するために、透明樹脂であってよい。透明樹脂は、JIS-K7375に準拠して測定した全光線透過率が90%以上の樹脂を意味する。透明樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイソシアネート樹脂、及びポリイミド樹脂のような硬化性樹脂であってもよく、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアリレート(PAR)樹脂のような熱可塑性樹脂であってもよい。
【0029】
上述の繊維強化樹脂成形品において、その全量に対する、表面着色ガラスクロスの割合は、5~70質量%、又は10~50質量%であってよい。
【0030】
上述の実施形態に係る表面着色ガラスクロスを用いて、歪み分布を検査するための検査用繊維強化樹脂層を有する繊維強化樹脂成形品を得ることができる。図6は、繊維強化樹脂成形品の一実施形態を示す断面図である。図6に示される繊維強化樹脂成形品100は、本体部50と、本体部50の表面上に設けられた検査用繊維強化樹脂層60とを備える。
【0031】
本体部50は、強化繊維と、強化繊維に含浸した樹脂層とを含む繊維強化樹脂である。本体部50は、シート状の強化繊維及び樹脂層を含む複数の繊維強化樹脂層を有し、これらが積層されている、成形品であってもよい。本体部50を構成する強化繊維は、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維又はこれらの組み合わせであってもよい。強化繊維が不織布であっても、織物であってもよい。
【0032】
検査用繊維強化樹脂層60は、上述の実施形態に係る1枚以上の表面着色ガラスクロスと、当該表面着色ガラスクロスに含浸した透明樹脂とを含む、上述の繊維強化樹脂成形品であってよい。表面着色ガラスクロスは、その着色部が繊維強化樹脂成形品100の外表面側に位置する向きで配置される。検査用繊維強化樹脂層60は、例えば、表面着色ガラスクロスと、表面着色ガラスクロスに含浸した、硬化性樹脂である透明樹脂とを含むプリプレグを用いて形成することができる。検査用繊維強化樹脂層60を構成する透明樹脂は、本体部50を構成する樹脂層と同じでも異なってもよい。検査用繊維強化樹脂層60の厚さは、例えば、0.01~1.5mm、又は0.05~0.5mmであってもよい。検査用繊維強化樹脂層60において、表面着色ガラスクロスの割合は、検査用繊維強化樹脂層60の質量を基準として25~80質量%、又は50~70質量%であってもよい。検査用繊維強化樹脂層60は、本体部50の表面全体を覆う必要はなく、本体部50の表面のうち、検査に必要とされる部分を覆うように設けることができる。検査用繊維強化樹脂層60と本体部50とを構成する透明樹脂が同じものである場合などに、検査用繊維強化樹脂層60と本体部50との境界、すなわち本体部50の表面が視覚的に明瞭でないことがあり得る。その場合、例えば、本体部50を構成する強化繊維全体を内包する最小の直方体の表面を、本体部50の表面とみなすことができる。
【0033】
検査用繊維強化樹脂層60表面の画像解析によって、着色部の位置の変化等を検出することにより、繊維強化樹脂成形品100の歪み分布を高精度で測定することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
1.表面着色ガラスクロスの作製
表1に示される構成を有する3種のガラスクロスA,B,Cを準備した。なお、ガラスクロスA,B,Cはいずれも平織である。ガラスクロスA,B,Cを構成するガラスフィラメントのガラス組成はEガラスである。
【0036】
【表1】
【0037】
各ガラスクロスの表面において、経糸方向に沿う複数の列が形成された図1又は図3と同様の配列パターンで、一定の間隔で配列した着色点を中心とする正方形の印刷領域を設定した。経糸方向及び緯糸方向において隣り合う着色点同士の間隔、及び印刷領域の面積を、表2に示されるように設定した。表2には、隣り合う着色点間の平均距離Dも示される。ガラスクロス表面内の各印刷領域を、印刷局式グラビア印刷試験機(熊谷理機社製)を用いて、黒色の樹脂インクで印刷し、経糸方向及び緯糸方向において一定の間隔で配置された複数の黒色の着色部を有する表面着色ガラスクロスを得た。比較例2の場合、樹脂インクを印刷した時に、ガラスクロスの目ずれ、インク抜けが生じたため、正常に印刷すること自体が困難であった。
【0038】
2.着色精度の評価
表面着色ガラスクロスの少なくとも10ヶ所の着色部を、デジタルマイクロスコープ(ハイロックス社製(KH-8700)の計測ツールを用いて四角形近似しながら撮影した。撮影した画像中の黒色部分を、画像処理ソフトを用いて検出し、その面積を着色部の面積とした。社団法人日本塗料工業会2011年F版塗料用標準色(ポケット版)において規定されたマンセルN1~N5の色の部分を黒色部分とした。各着色部の面積の平均値の設定された印刷領域の割合を着色精度(%)として算出した。
【0039】
3.繊維強化樹脂成形品の作製
カーボンクロス(東レ製CO6343)を8枚積層し、その上に表面着色ガラスクロスを1枚積層した。カーボンクロス及び表面着色ガラスクロスから構成される積層体に、透明エポキシ樹脂を含浸ロールを用いて含浸させた。この積層体を85℃で4時間のプレス成形により、表面着色ガラスクロスを含む繊維強化樹脂層を最外層(検査用繊維強化樹脂層60に相当)として有し、その他の層がカーボンクロスを含む繊維強化樹脂層(本体部50に相当)で構成される、厚さ2mmの繊維強化樹脂成形品を作成した。この繊維強化樹脂成形品における繊維補強材(カーボンクロス及び表面着色ガラスクロス)の割合は、繊維補強材及び透明エポキシ樹脂の合計質量に対して60質量%であった。また、表面着色ガラスクロスを含む繊維強化樹脂層(検査用繊維強化樹脂層60に相当)における表面着色ガラスクロスの割合は、70質量%であった。
【0040】
4.歪測定適性の評価方法
前記繊維強化樹脂成形品に対してX及びYの2軸方向に引張応力を加える引張試験を実施した。引張歪量がX方向,Y方向ともに3%の時の画像を600×600画素で撮影した。撮影画像の中心部における300×300画素の領域内の印刷部と非印刷部のX方向及びY方向の寸法を計測し、計測された歪(%;理想的には3%となる)の平均と標準偏差から変動率(標準偏差/平均×100)を計算した。計算された変動率が1.0%以下の場合に、歪測定適性が「A」、計算された変動率が1.0%超3.0%以下の場合に、歪測定適性が「B」、計算された変動率が3.0%超の場合に、歪測定適性が「C」とそれぞれ評価した。
【0041】
【表2】
【符号の説明】
【0042】
1…表面着色ガラスクロス、3…ガラスクロス、5…着色部、10,11,12,13,14,15,16,17…着色点、10L…着色点の列、10R…基準着色点、30…経糸、30W…経糸の幅、31…ガラスフィラメント、31W…ガラスフィラメントの幅、40…緯糸、50…本体部、60…検査用繊維強化樹脂層、100…繊維強化樹脂成形品、A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8…領域、L22.5,L67.5,L112.5,L157.5…基準着色点を通り、所定の方向に対して時計回りに22.5°、67.5°、112.5°又は157.5°の方向に延びる直線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6