(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】セラミック成形用バインダー組成物、セラミック成形用組成物、及びセラミックグリーンシート
(51)【国際特許分類】
C04B 35/634 20060101AFI20220830BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220830BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220830BHJP
【FI】
C04B35/634 240
C08L33/06
C08K3/00
(21)【出願番号】P 2019029895
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】髪口 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186184(JP,A)
【文献】特開2015-202987(JP,A)
【文献】特開2015-042608(JP,A)
【文献】特開2000-233975(JP,A)
【文献】特開平06-056511(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016495(WO,A1)
【文献】特開2018-129215(JP,A)
【文献】特開2012-069368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/634
C08L 33/06
C08K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含み、かつ、酸価が0mgKOH/gを超えて85mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体Aと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及び水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含み、水酸基価が0mgKOH/gを超えて50mgKOH/g以下であり、かつ、重量平均分子量が、前記(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量よりも小さい(メタ)アクリル系共重合体Bと、を含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体Bに対する前記(メタ)アクリル系共重合体Aの含有比率が、質量基準で、50/50~95/5であるセラミック成形用バインダー組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量が、25万以上150万以下である請求項1に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量が、0.1万以上25万未満である請求項1又は請求項2に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度が、0℃以上40℃以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度が、-20℃以上15℃以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のセラミック成形用バインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、を含むセラミック成形用組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のセラミック成形用バインダー組成物と、セラミック粉末と、を含むセラミックグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形用バインダー組成物、セラミック成形用組成物、及びセラミックグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミック基板は、グリーンシートを焼成して製造される。グリーンシートは、通常、セラミック粉末とバインダーとから構成されている。バインダーとしては、(メタ)アクリル系重合体を含む組成物が多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量が100,000以上であり、ガラス転移温度が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、重量平均分子量が1,000~30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度が、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度より高い、セラミック成形用バインダー組成物が開示されている。
また、特許文献2には、(A)カルボキシ基含有ビニルモノマー、(B)ヒドロキシ基含有ビニルモノマー、(C)アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステルモノマー、及び(D)ポリオキシエチレン構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを含むモノマー組成物の共重合体及び/又はその塩からなる、焼結工程を含む成型用バインダーポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-202987号公報
【文献】特開2011-225702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリーンシートは、セラミック粉末とバインダーと溶剤とを含むスラリーを作製した後、作製したスラリーを、通常、コンマコーター(登録商標)を用いて、支持体上に塗工し、乾燥させることにより作製している。
スラリーを作製してから、塗工するまでの期間(所謂、スラリーの保管期間)は、例えば、24時間乃至2週間程度である。スラリーの保管期間が長いと、スラリーの分散性が低下し、スラリーに含まれる成分の分離又は沈殿が生じる場合がある。成分の分離又は沈殿が生じたスラリーを塗工して得られるグリーンシートには、厚みムラが生じやすく、グリーンシートの焼成により得られるセラミック基板の寸法安定性が不良となりやすい。
【0006】
上述の点に関し、特許文献1に記載のセラミック成形用バインダー組成物を含むスラリー及び特許文献2に記載の成型用バインダーポリマーを含むスラリーは、いずれも保管時の分散安定性について、改善の余地があると考えられる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、セラミック粉末及び溶剤を含むスラリーの作製に用いた場合に、セラミック粉末の分散性に優れ、かつ、その優れた分散性を経時で保持し得るスラリーを作製できるセラミック成形用バインダー組成物、セラミック成形用組成物、及びセラミックグリーンシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含み、かつ、酸価が0mgKOH/gを超えて85mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体Aと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及び水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含み、水酸基価が0mgKOH/gを超えて50mgKOH/g以下であり、かつ、重量平均分子量が、上記(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量よりも小さい(メタ)アクリル系共重合体Bと、を含み、
上記(メタ)アクリル系共重合体Bに対する上記(メタ)アクリル系共重合体Aの含有比率が、質量基準で、50/50~95/5であるセラミック成形用バインダー組成物。
<2> 上記(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量が、25万以上150万以下である<1>に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
<3> 上記(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量が、0.1万以上25万未満である<1>又は<2>に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
<4> 上記(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度が、0℃以上40℃以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物。
<5> 上記(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度が、-20℃以上15℃以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、を含むセラミック成形用組成物。
<7> <1>~<5>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物と、セラミック粉末と、を含むセラミックグリーンシート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セラミック粉末及び溶剤を含むスラリーの作製に用いた場合に、セラミック粉末の分散性に優れ、かつ、その優れた分散性を経時で保持し得るスラリーを作製できるセラミック成形用バインダー組成物、セラミック成形用組成物、及びセラミックグリーンシートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル系共重合体」とは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位(即ち、(メタ)アクリル系共重合体の全構成単位)の50質量%以上である共重合体を意味する。
【0013】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両方を包含する用語である。
【0014】
本明細書において、「n-」はノルマルを意味し、「i-」はイソを意味し、「s-」はセカンダリーを意味し、「t-」はターシャリーを意味する。
【0015】
[セラミック成形用バインダー組成物]
本発明のセラミック成形用バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含み、かつ、酸価が0mgKOH/gを超えて85mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体A〔以下、「特定(メタ)アクリル系共重合体A」ともいう。〕と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及び水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含み、水酸基価が0mgKOH/gを超えて50mgKOH/g以下であり、かつ、重量平均分子量が、上記(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量よりも小さい(メタ)アクリル系共重合体B〔以下、「特定(メタ)アクリル系共重合体B」ともいう。〕と、を含み、上記(メタ)アクリル系共重合体Bに対する上記(メタ)アクリル系共重合体Aの含有比率が、質量基準で、50/50~95/5である。
本発明のバインダー組成物は、上記のような構成を有することで、セラミック粉末及び溶剤を含むスラリーの作製に用いた場合に、セラミック粉末の分散性に優れ、かつ、その優れた分散性を経時で保持し得るスラリーを作製できる。
本明細書では、「優れた分散性を経時で保持し得る」ことを、「分散安定性に優れる」ともいう。
【0016】
本明細書では、特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bを総称して、「特定(メタ)アクリル系共重合体」という。
【0017】
〔特定(メタ)アクリル系共重合体A〕
本発明のバインダー組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含み、かつ、酸価が0mgKOH/gを超えて85mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体A〔即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体A〕を含む。
【0018】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位は、セラミック粉末の分散安定性に寄与する。
【0019】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位」とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の種類は、特に制限されない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、無置換の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよい。
アルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、セラミック粉末と適度な相互作用を有するとの観点から、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート(EA)、及びエチルメタクリレート(EMA)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0022】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0023】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して50質量%以上であることは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する構成単位の主成分として含まれていることを意味する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)の上限は、特に制限されないが、例えば、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して、97.0質量%以下であることが好ましい。
【0024】
<カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含む。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位は、セラミック粉末の分散安定性の向上に寄与する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aがカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含むと、カルボキシ基の相互作用による立体障害によって、セラミック粉末の再凝集が抑制され、セラミック粉末の分散安定性が向上し得る。
【0025】
本明細書において、「カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位」とは、カルボキシ基を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0026】
カルボキシ基を有する単量体の種類は、特に限定されない。
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート〔例えば、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート〕、コハク酸エステル(例えば、2-アクリロイルオキシエチル-コハク酸)等が挙げられる。
これらの中でも、カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、共重合性の観点から、アクリル酸が好ましい。
【0027】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0028】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率(割合)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して、0質量%を超えて11質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して0質量%を超えると、カルボキシ基の相互作用による立体障害によって、セラミック粉末の再凝集が良好に抑制されるため、セラミック粉末の分散安定性が向上し得る。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの全構成単位に対して11質量%以下であると、特定(メタ)アクリル系共重合体A同士の凝集がより生じ難くなるため、セラミック粉末の分散安定性がより向上し得る。
【0029】
<その他の構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、本発明の効果が発揮される範囲内において、既述の構成単位、すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する構成単位以外の構成単位(所謂、その他の構成単位)を含んでいてもよい。
【0030】
その他の構成単位を構成する単量体は、既述の構成単位を構成する単量体と共重合できるものであれば、特に限定されない。
その他の構成単位を構成する単量体の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートに代表される環状基を有する(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート及びエトキシエチル(メタ)アクリレートに代表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、及びビニルトルエンに代表される芳香族モノビニル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニルに代表されるビニルエステル、並びに、これらの単量体の各種誘導体が挙げられる。
また、その他の構成単位を構成する単量体の具体例としては、水酸基を有する単量体及びアミノ基を有する単量体も挙げられるが、特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、水酸基を有する単量体に由来する構成単位、及び/又は、アミノ基を有する単量体に由来する構成単位を含まないことが好ましい。
【0031】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価は、0mgKOH/gを超えて85mgKOH/g以下であり、0.2mgKOH/g以上55mgKOH/g以下であることが好ましく、0.4mgKOH/g以上28mgKOH/g以下であることがより好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価が0mgKOH/gを超えることは、特定(メタ)アクリル系共重合体Aが、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含むことを意味する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価が85mgKOH/g以下であると、特定(メタ)アクリル系共重合体A同士の凝集が生じ難くなるため、セラミック粉末の分散性及び分散安定性が向上し得る。
【0032】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価は、以下の計算式によって求められる。なお、以下の計算式において、56.1は、KOHの分子量である。
酸価(mgKOH/g)
={(A1/100)÷A2}×56.1×1000×A3
A1:特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に使用される全単量体中の、カルボキシ基を有する単量体の占める割合(単位:質量%)
A2:特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に使用されるカルボキシ基を有する単量体の分子量
A3:カルボキシ基を有する単量体1分子中に含まれるカルボキシ基の数
【0033】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に使用されるカルボキシ基を有する単量体が2種以上ある場合には、それぞれの単量体について、上記の計算式に準じて酸価を求めた後、得られた値を合計して酸価を求める。
【0034】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)よりも大きければ、特に限定されない。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、例えば、20万以上150万以下であることが好ましく、25万以上150万以下であることがより好ましく、25万以上80万以下であることが更に好ましく、30万以上40万以下であることが特に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)が20万以上であると、適切な立体障害によって、セラミック粉末の再凝集がより良好に抑制されるため、セラミック粉末の分散安定性がより向上し得る。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)が150万以下であると、スラリーを作製する際に、より適切に混合でき、作業性がより向上し得る。
【0035】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定される値である。具体的には、下記(1)~(3)に従って測定する。
(1)特定(メタ)アクリル系共重合体Aの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で1分間乾燥し、フィルム状の特定(メタ)アクリル系共重合体Aを得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の特定(メタ)アクリル系共重合体Aとテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件にて、標準ポリスチレン換算値として、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0036】
~条件~
測定装置:高速GPC(型番:HLC-8220 GPC、東ソー(株)製)
検出器:示差屈折率計(RI)(HLC-8220に組込、東ソー(株)製)
カラム:TSK-GEL GMHXL(東ソー(株)製)を直列に4本接続
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
注入量:100μL
流量:0.6mL/分
【0037】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、0℃以上50℃以下であることが好ましく、0℃以上40℃以下であることがより好ましく、5℃以上35℃以下であることが更に好ましく、10℃以上25℃以下であることが特に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であると、作製したグリーンシートが強度と柔軟性とを兼ね備え、例えば、搬送中に外力が加わった場合でもグリーンシートが裂ける等、破損し難い傾向がある。
【0038】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)は、下記の式1から計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。
1/Tg=m1/Tg1+m2/Tg2+・・・+m(k-1)/Tg(k-1)+mk/Tgk (式1)
【0039】
式1中、Tg1、Tg2、・・・、Tg(k-1)、及びTgkは、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する各単量体を単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度(Tg)をそれぞれ表す。m1、m2、・・・、m(k-1)、及びmkは、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する各単量体のモル分率をそれぞれ表し、m1+m2+・・・+m(k-1)+mk=1である。
なお、絶対温度(K)から273を引くことで絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算でき、セルシウス温度(℃)に273を足すことでセルシウス温度(℃)を絶対温度(K)に換算できる。
【0040】
なお、「単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度(Tg)」とは、その単量体を単独で重合して製造した単独重合体の絶対温度(K)で表されるガラス転移温度(Tg)をいう。
単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定装置(DSC)(型番:EXSTAR6000、セイコーインスツル(株)製)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定し、得られたDSCカーブの変曲点を単独重合体のガラス転移温度(Tg)としたものである。
【0041】
代表的な単量体の「単独重合体としたときのセルシウス温度(℃)で表されるガラス転移温度(Tg)」は、以下に示すとおりである。
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が-76℃、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)が-10℃、n-ブチルアクリレート(n-BA)が-57℃、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)が21℃、t-ブチルアクリレート(t-BA)が41℃、t-ブチルメタクリレート(t-BMA)が107℃、i-ブチルメタクリレート(i-BMA)が48℃、メチルアクリレート(MA)が5℃、メチルメタクリレート(MMA)が103℃、イソボニルメタクリレート(IBXMA)が155℃、イソボニルアクリレート(IBXA)が96℃、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)が56℃、エチルアクリレート(EA)が-27℃、エチルメタクリレート(EMA)が42℃、メタクリル酸が185℃、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)が-39℃、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)が-15℃、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)が55℃、アクリル酸(AA)が163℃、イソオクチルアクリレート(i-OA)が-75℃、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)が18℃、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレートが-30℃、及び2-アクリロイルオキシエチル-コハク酸が-40℃である。
【0042】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有率>>
本発明のバインダー組成物における特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有率は、特に限定されないが、例えば、セラミック粉末の分散性及び分散安定性がより良好となるとの観点から、バインダー組成物中の全固形分量に対して、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、75質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
【0043】
本明細書において、「バインダー組成物中の全固形分量」とは、バインダー組成物が溶媒等の揮発性成分を含まない場合には、バインダー組成物の全質量を意味し、バインダー組成物が溶媒等の揮発性成分を含む場合には、バインダー組成物から溶媒等の揮発性成分を除いた残渣の質量を意味する。
【0044】
〔特定(メタ)アクリル系共重合体B〕
本発明のバインダー組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及び水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含み、水酸基価が0mgKOH/gを超えて50mgKOH/g以下であり、かつ、重量平均分子量が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量よりも小さい(メタ)アクリル系共重合体B〔即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体B〕を含む。
【0045】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位は、セラミック粉末の分散性に寄与する。
【0046】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の種類は、特に制限されない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、無置換の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよい。
アルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例は、既述のとおりであるため、ここでは、説明を省略する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、セラミック粉末と適度な相互作用を有するとの観点から、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート(EA)、及びエチルメタクリレート(EMA)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0048】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0049】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)が、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して50質量%以上であることは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位が、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する構成単位の主成分として含まれていることを意味する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率(割合)の上限は、特に制限されないが、例えば、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して、99.0質量%以下であることが好ましい。
【0050】
<水酸基を有する単量体に由来する構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体(B)は、水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含む。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する単量体に由来する構成単位は、セラミック粉末の分散性の向上に寄与する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bが水酸基を有する単量体に由来する構成単位を含むと、特定(メタ)アクリル系共重合体Bのセラミック粉末への濡れが良好となるため、セラミック粉末の分散性が向上し得る。
【0051】
本明細書において、「水酸基を有する単量体に由来する構成単位」とは、水酸基を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0052】
水酸基を有する単量体の種類は、特に限定されない。
水酸基を有する単量体の具体例としては、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1-ジメチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチル-3-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-3-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、ジカプロラクトン2-アクリロイルオキシ-エチルエーテルなどが挙げられる。
これらの中でも、水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との共重合性が良好であるとの観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、セラミック粉末の分散性がより良好であるとの観点から、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)及び4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
特定(メタ)アクリル系共重合体(B)は、水酸基を有する単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0054】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する単量体に由来する構成単位の含有率(割合)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して、0質量%を超えて11質量%以下であることが好ましく、1質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上6質量%以下であることが更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して0質量%を超えると、特定(メタ)アクリル系共重合体Bのセラミック粉末への濡れが良好となるため、セラミック粉末の分散性が向上し得る。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの全構成単位に対して11質量%以下であると、特定(メタ)アクリル系共重合体B同士の凝集がより生じ難くなるため、セラミック粉末の分散性がより向上し得る。
【0055】
<その他の構成単位>
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、本発明の効果が発揮される範囲内において、既述の構成単位、すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位及び水酸基を有する構成単位以外の構成単位(所謂、その他の構成単位)を含んでいてもよい。
【0056】
その他の構成単位を構成する単量体は、既述の構成単位を構成する単量体と共重合できるものであれば、特に限定されない。
その他の構成単位を構成する単量体の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートに代表される環状基を有する(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート及びエトキシエチル(メタ)アクリレートに代表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、及びビニルトルエンに代表される芳香族モノビニル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニルに代表されるビニルエステル、並びに、これらの単量体の各種誘導体が挙げられる。
また、その他の構成単位を構成する単量体の具体例としては、カルボキシ基を有する単量体及びアミノ基を有する単量体も挙げられるが、特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及び/又は、アミノ基を有する単量体に由来する構成単位を含まないことが好ましい。
【0057】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価は、0mgKOH/gを超えて50mgKOH/g以下であり、4mgKOH/g以上34mgKOH/g以下であることが好ましく、7mgKOH/g以上26mgKOH/g以下であることがより好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価が0mgKOH/gを超えることは、特定(メタ)アクリル系共重合体Bが水酸基を有する単量体に由来する構成単位を有することを意味する。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価が50mgKOH/g以下であると、特定(メタ)アクリル系共重合体B同士の凝集が生じ難くなるため、セラミック粉末の分散性が向上し得る。
【0058】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価は、以下の計算式によって求められる。なお、以下の計算式において、56.1は、KOHの分子量である。
水酸基価(mgKOH/g)
={(B1/100)÷B2}×56.1×1000×B3
B1:特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に使用される全単量体中の、水酸基を有する単量体の占める割合(単位:質量%)
B2:特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に使用される水酸基を有する単量体の分子量
B3:水酸基を有する単量体1分子中に含まれる水酸基の数
【0059】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に使用される水酸基を有する単量体が2種以上ある場合には、それぞれの単量体について、上記の計算式に準じて水酸基価を求めた後、得られた値を合計して水酸基価を求める。
【0060】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)よりも小さければ、特に限定されない。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、例えば、0.1万以上25万未満であることが好ましく、0.3万以上20万以下であることがより好ましく、0.5万以上18万以下であることが更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)が0.1万以上であると、セラミック粉末の分散性がより向上し得る。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)が25万未満であると、スラリーの塗工性がより向上し得る。
【0061】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)と同様の方法により測定されるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度>>
特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-20℃以上25℃以下であることが好ましく、-20℃以上15℃以下であることがより好ましく、-15℃以上10℃以下であることが更に好ましく、-5℃以上10℃以下であることが特に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であると、特定(メタ)アクリル系共重合体Bのセラミック粉末への作用がより強くなるため、セラミック粉末の分散性がより向上し得る。
【0063】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)と同様の方法により計算されるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
<<特定(メタ)アクリル系共重合体Bの含有率>>
本発明のバインダー組成物における特定(メタ)アクリル系共重合体Bの含有率は、特に限定されないが、例えば、セラミック粉末の分散性及び分散安定性がより良好となるとの観点から、バインダー組成物中の全固形分量に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上25質量%以下であることが更に好ましい。
【0065】
(特定(メタ)アクリル系共重合体Bに対する特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有比率)
本発明のバインダー組成物は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bに対する特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有比率(以下、「含有比率A/B」ともいう。)が、質量基準で、50/50~95/5であり、60/40~95/5であることが好ましく、70/30~95/5であることがより好ましく、70/30~90/10であることが更に好ましい。
含有比率A/Bが、質量基準で50/50以上であると、適切な立体障害によって、セラミック粉末の再凝集が良好に抑制されるため、セラミック粉末の分散安定性が向上し得る。
含有比率A/Bが、質量基準で95/5以下であると、セラミック粉末の分散性が向上し得る。
【0066】
〔特定(メタ)アクリル系共重合体の製造方法〕
特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体B〔即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体〕の製造方法は、特に限定されない。
特定(メタ)アクリル系共重合体は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、及び塊状重合に代表される公知の重合方法で、既述の単量体を重合して製造できる。
【0067】
特定(メタ)アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が異なる単量体を2種以上用いることで、適宜調整できる。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、重合温度、重合時間、有機溶媒の使用量、重合開始剤の種類、重合開始剤の使用量等を調整することにより、所望の値にできる。
【0068】
重合方法としては、製造後に本発明のバインダー組成物を調製するにあたり、処理工程が比較的簡単であり、かつ、短時間で行える点で、溶液重合が好ましい。
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中及び/又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。この場合、有機溶媒、単量体、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0069】
重合反応時に用いられる有機溶媒としては、芳香族炭化水素化合物、脂肪族系又は脂環式系炭化水素化合物、エステル化合物、ケトン化合物、グリコールエーテル化合物、アルコール化合物等が挙げられる。
重合反応時に用いられる有機溶媒としては、より具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、t-ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、テトラリン、デカリン、及び芳香族ナフサに代表される芳香族炭化水素化合物、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、及びテレピン油に代表される脂肪族系又は脂環式系炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-アミル、酢酸2-ヒドロキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、酢酸3-メトキシブチル、及び安息香酸メチルに代表されるエステル化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノンに代表されるケトン化合物、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルに代表されるグリコールエーテル化合物、並びに、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、並びに、t-ブチルアルコールに代表されるアルコール化合物が挙げられる。
重合反応時には、これらの有機溶媒を1種のみ用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
特定(メタ)アクリル系共重合体の製造に際しては、芳香族炭化水素化合物、エステル化合物、ケトン化合物、アルコール化合物等の重合反応中に連鎖移動を生じ難い有機溶媒の使用が好ましく、特に、特定(メタ)アクリル系共重合体の溶解性、重合反応の容易さ等の観点から、トルエン、酢酸エチル等の使用が好ましい。
【0071】
重合開始剤としては、通常の溶液重合で用いられる有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ-i-プロピルペルオキシジカルボナート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカルボナート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-アミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-α-クミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン、及び2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルペルオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ABVN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、及び2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが挙げられる。
重合反応時には、これらの重合開始剤を1種のみ用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
重合開始剤の使用量は、特に限定されず、目的とする特定(メタ)アクリル系共重合体の分子量に応じて、適宜設定される。
【0073】
特定(メタ)アクリル系共重合体の製造に際しては、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸、シアノ酢酸の炭素数1~8のアルキルエステル化合物、ブロモ酢酸、ブロモ酢酸の炭素数1~8のアルキルエステル化合物、α-メチルスチレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、及び9-フェニルフルオレンに代表される芳香族化合物、p-ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p-ニトロ安息香酸、p-ニトロフェノール、及びp-ニトロトルエンに代表される芳香族ニトロ化合物、ベンゾキノン及び2,3,5,6-テトラメチル-p-ベンゾキノンに代表されるベンゾキノン誘導体、トリブチルボランに代表されるボラン誘導体、四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2-テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、及び3-クロロ-1-プロペンに代表されるハロゲン化炭化水素化合物、クロラール及びフラルデヒドに代表されるアルデヒド化合物、炭素数1~18のアルキルメルカプタン化合物、チオフェノール及びトルエンメルカプタンに代表される芳香族メルカプタン化合物、メルカプト酢酸、メルカプト酢酸の炭素数1~10のアルキルエステル化合物、炭素数1~12のヒドロキシアルキルメルカプタン化合物、並びに、ビネン及びターピノレンに代表されるテルペン化合物が挙げられる。
【0074】
特定(メタ)アクリル系共重合体の製造に際し、連鎖移動剤を用いる場合、連鎖移動剤の使用量は、特に限定されず、目的とする特定(メタ)アクリル系共重合体の分子量に応じて、適宜設定される。
【0075】
重合温度は、特に限定されず、目的とする特定(メタ)アクリル系共重合体の分子量に応じて、適宜設定される。
【0076】
〔他の成分〕
本発明のバインダー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述した成分以外の成分(所謂、他の成分)を含んでいてもよい。
他の成分としては、特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体B以外の重合体、可塑剤(フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ポリエステル系等)などが挙げられる。
【0077】
[セラミック成形用組成物]
本発明のセラミック成形用組成物は、既述の本発明のバインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、を含む。
本発明のセラミック成形用組成物は、本発明のバインダー組成物を含むため、セラミック粉末の分散性に優れ、かつ、その優れた分散性を経時で保持し得る。
【0078】
〔セラミック粉末〕
本発明のセラミック成形用組成物は、セラミック粉末を含む。
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、フェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素等の粉末が挙げられる。
【0079】
本発明のセラミック成形用組成物は、セラミック粉末を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0080】
本発明のセラミック成形用組成物に含まれるセラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.5μm~10μmである。
本発明のセラミック成形用組成物は、本発明のバインダー組成物を含むため、セラミック粉末の平均粒径が10μm以下である場合でも、セラミック粉末の分散性及び分散安定性が共に優れる。
なお、本明細書において、セラミック粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準の粒度分布において、検出頻度の体積累積が50%になる粒径を意味する。
【0081】
本発明のセラミック成形用組成物におけるセラミック粉末の含有率は、特に限定されないが、例えば、セラミック成形用組成物の全質量に対して、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~88質量%であることがより好ましく、70質量%~80質量%であることが更に好ましい。
【0082】
〔溶剤〕
本発明のセラミック成形用組成物は、溶剤を含む。
溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルアルコール、メチルアルコール、n-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、水等が挙げられる。
【0083】
本発明のセラミック成形用組成物は、溶剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0084】
本発明のセラミック成形用組成物における溶剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、塗工性の観点から、セラミック成形用組成物の全質量に対して、5質量%~35質量%であることが好ましく、10質量%~30質量%であることがより好ましく、15質量%~25質量%であることが更に好ましい。
【0085】
〔他の成分〕
本発明のセラミック成形用組成物は、必要に応じて、本発明のバインダー組成物、セラミック粉末、及び溶剤以外の成分(所謂、他の成分)を含んでいてもよい。
本発明のセラミック成形用組成物における他の成分としては、分散剤(ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤、ポリエーテル系分散剤、ポリアルキレンポリアミン系分散剤、アルキルスルホン酸系分散剤、4級アンモニウム系分散剤、アルキルポリアミン系分散剤、ポリリン酸塩系分散剤等)、焼結助剤〔CaO、MgO、SiO2、Fe2O3、Na2O、TiO2、MgCO3、Mg3Si4O10(OH)2等の粉末〕、レベリング剤、消泡剤などが挙げられる。
【0086】
〔セラミック成形用組成物の製造方法〕
本発明のセラミック成形用組成物の製造方法は、特に限定されない。
本発明のセラミック成形用組成物は、例えば、本発明のバインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、必要に応じて添加される他の成分と、を混合することにより製造できる。
混合方法としては、特に限定されず、例えば、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の公知の混合機を用いる混合方法が挙げられる。
【0087】
[セラミックグリーンシート]
本発明のセラミックグリーンシートは、既述の本発明のバインダー組成物と、セラミック粉末と、を含む。
本発明のセラミックグリーンシートは、本発明のバインダー組成物を含むため、厚みムラが生じ難い傾向を示す。本発明のセラミックグリーンシートは、セラミック基板の製造に好適に使用できる。
【0088】
セラミック粉末は、「セラミック成形用組成物」において説明したセラミック粉末と同義であり、好ましい例も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0089】
本発明のセラミックグリーンシートは、セラミック粉末を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0090】
本発明のセラミックグリーンシートにおけるセラミック粉末の含有率は、特に限定されず、目的に応じて、適宜設定することができる。
本発明のセラミックグリーンシートにおけるセラミック粉末の含有率は、一般的には、セラミックグリーンシートの全質量に対して、70質量%~99質量%であり、80質量%~97質量%であることが好ましい。
【0091】
本発明のセラミックグリーンシートは、必要に応じて、本発明のバインダー組成物及びセラミック粉末以外の成分(所謂、他の成分)を含んでいてもよい。
本発明のセラミックグリーンシートにおける他の成分としては、可塑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
【0092】
本発明のセラミックグリーンシートの厚さは、特に限定されず、目的に応じて、適宜設定することができる。
本発明のセラミックグリーンシートの厚さは、一般的には、50μm~1000μmであり、100μm~500μmであることが好ましい。
【0093】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、特に限定されない。
本発明のセラミックグリーンシートは、例えば、本発明のバインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、必要に応じて添加される他の成分と、を含むスラリー状の組成物(即ち、本発明のセラミック成形用組成物)を支持体上に塗布し、形成した塗布膜を乾燥させることにより製造できる。
【0094】
支持体としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどの樹脂を含む基材が挙げられる。
支持体は、本発明のセラミックグリーンシートが形成される側の面に、離型性を付与するための表面処理が施されていることが好ましい。
表面処理としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、ワックス系離型剤等の離型剤を用いた表面処理が挙げられる。
【0095】
塗布方法としては、特に限定されず、例えば、アプリケーター、コンマコーター(登録商標)に代表される各種ロールコーター等を用いる公知の塗布方法が挙げられる。
乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、熱風乾燥機を用いる公知の乾燥方法が挙げられる。
乾燥条件は、特に限定されず、塗布膜中の溶剤の含有量、塗布膜の厚さ等に応じて、適宜設定できる。
【0096】
本発明のセラミックグリーンシートは、既述の方法以外に、本発明のバインダー組成物と、セラミック粉末と、必要に応じて添加される他の成分と、を含む粉末状の組成物を成形機に充填し、加圧成形することによっても製造できる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[(メタ)アクリル系共重合体Aの製造]
〔製造例A-1〕
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(有機溶媒)788.2質量部を仕込んだ。
次いで、別の容器に、メチルアクリレート(MA;アクリル酸アルキルエステル単量体)56.2質量部、エチルメタクリレート(EMA;メタクリル酸アルキルエステル単量体)88.5質量部、及びアクリル酸(AA;カルボキシ基を有する単量体)44.8質量部からなる単量体混合物を反応器に仕込んだ後、この反応器に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;重合開始剤)0.45質量部を添加した。この重合開始剤の添加後、還流温度で60分間還流を行った。
次いで、還流温度条件下、反応器内に、メチルアクリレート(MA;アクリル酸アルキルエステル単量体)796.0質量部、エチルメタクリレート(EMA;メタクリル酸アルキルエステル単量体)506.1質量部からなる単量体混合物、酢酸エチル149.0質量部、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.45質量部からなる混合物を、120分間かけて逐次滴下した。滴下終了後、更に同温度を90分間保持し、重合反応物(a1)を得た。得られた重合反応物(a1)に、トルエン(有機溶媒)234.9質量部及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.34質量部からなる混合物を、60分間かけて逐次滴下した。滴下終了後、更に同温度を70分間保持し、重合反応物(a2)を得た。得られた重合反応物(a2)を、酢酸エチル及びトルエンを用いて固形分濃度40質量%に希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系共重合体A-1の溶液を得た。
ここでいう「固形分濃度」とは、(メタ)アクリル系共重合体A-1の溶液に占める、(メタ)アクリル系共重合体A-1の溶液から溶媒等の揮発性成分を除いた残りの成分の質量割合を意味する。以下の(メタ)アクリル系共重合体A-2~A-14の各溶液についても同様である。
【0099】
〔製造例A-2及びA-10~A-12〕
製造例A-1において、(メタ)アクリル系共重合体Aの単量体組成を表1に示す単量体組成に変更したこと以外は、製造例A-1と同様の操作を行い、固形分濃度が40質量%である(メタ)アクリル系共重合体A-2及びA-10~A-12の各溶液を得た。
【0100】
〔製造例A-6~A-8〕
製造例A-1において、有機溶媒の使用量及び重合開始剤の使用量の少なくとも一方を調整することにより、(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)を、表1に示す重量平均分子量(Mw)に変更したこと以外は、製造例A-1と同様の操作を行い、固形分濃度が40質量%である(メタ)アクリル系共重合体A-6~A-8の各溶液を得た。
【0101】
〔製造例A-3~A-5、A-9、A-13、及びA-14〕
製造例A-1において、(メタ)アクリル系共重合体Aの単量体組成を、表1に示す単量体組成に変更したこと、並びに、有機溶媒の使用量及び重合開始剤の使用量の少なくとも一方を調整することにより、(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)を、表1に示す重量平均分子量(Mw)に変更したこと以外は、製造例A-1と同様の操作を行い、固形分濃度が40質量%である(メタ)アクリル系共重合体A-3~A-5、A-9、A-13、及びA-14の各溶液を得た。
【0102】
(メタ)アクリル系共重合体A-1~A-14の単量体組成(単位:質量%)、酸価(単位:mgKOH/g)又は水酸基価(単位:mgKOH/g)、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)、及び重量平均分子量〔Mw、単位:万(表中では、「×104と表記)〕を表1に示す。
(メタ)アクリル系共重合体A-1~A-14のガラス転移温度(Tg)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)における方法と同様の方法により計算した。
(メタ)アクリル系共重合体A-1~A-14の重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)における方法と同様の方法により測定した。
【0103】
(メタ)アクリル系共重合体A-1~A-10、A-12、及びA-14の酸価は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価の計算方法と同様の計算方法により求めた。例えば、(メタ)アクリル系共重合体A-1の酸価は、次のようにして求めた。得られた値は、小数点以下2桁目を四捨五入した。なお、(メタ)アクリル系共重合体A-1におけるAAの含有率(A1)は、3.0質量%であり、AAの分子量(A2)は、72.06である。また、AA 1分子中に含まれるカルボキシ基の数(A3)は、1である。
(メタ)アクリル系共重合体A-1の酸価(mgKOH/g)={(A1/100)÷A2}×56.1×1000×A3={(3.0/100)÷72.06}×56.1×1000×1=23.35・・・≒23.4
【0104】
(メタ)アクリル系共重合体A-13及びA-14の水酸基価は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価の計算方法と同様の計算方法により求めた。例えば、(メタ)アクリル系共重合体A-13の水酸基価は、次のようにして求めた。得られた値は、小数点以下2桁目を四捨五入した。なお、(メタ)アクリル系共重合体A-13における2HEAの含有率(B1)は、3.0質量%であり、2HEAの分子量(B2)は、116.12である。また、2HEA 1分子中に含まれる水酸基の数(B3)は、1である。
(メタ)アクリル系共重合体A-13の水酸基価(mgKOH/g)={(B1/100)÷B2}×56.1×1000×B3={(3.0/100)÷116.12}×56.1×1000×1=14.49・・・≒14.5
【0105】
【0106】
表1に記載の各単量体の詳細は、以下に示すとおりである。
「MA」:メチルアクリレート(アクリル酸アルキルエステル単量体)
「EA」:エチルアクリレート(アクリル酸アルキルエステル単量体)
「EMA」:エチルメタクリレート(メタクリル酸アルキルエステル単量体)
「MMA」:メチルメタクリレート(メタクリル酸アルキルエステル単量体)
「AA」:アクリル酸(カルボキシ基を有する単量体)
「HOA-MS」〔商品名、共栄社化学(株)製〕:2-アクリロイルオキシエチル-コハク酸(カルボキシ基を有する単量体)
「2HEA」:2-ヒドロキシエチルアクリレート(水酸基を有する単量体)
【0107】
表1中、「-」は、該当する欄の単量体を使用していないことを意味する。
表1では、「ガラス転移温度(Tg)」を単に「Tg」と表記し、「重量平均分子量(Mw)」を単に「Mw」と表記した。
【0108】
[(メタ)アクリル系共重合体Bの製造]
〔製造例B-1〕
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(有機溶媒)1540.0質量部を仕込んだ。
次いで、別の容器に、メチルアクリレート(MA;アクリル酸アルキルエステル単量体)1209.0質量部、エチルメタクリレート(EMA;メタクリル酸アルキルエステル単量体)263.5質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA;水酸基を有する単量体)77.5質量部からなる単量体混合物1550.0質量部を準備した。
次いで、準備した単量体混合物のうち、157.7質量部(単量体混合物の10.2質量%に相当する量)を反応器に仕込んだ後、この反応器に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;重合開始剤)0.46質量部を添加した。この重合開始剤の添加後、還流温度で60分間還流を行った。
次いで、還流温度条件下、反応器内に、上記単量体混合物の残り1392.3質量部(単量体混合物の89.8質量%に相当する量)、酢酸エチル292.1質量部、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.81質量部からなる混合物を、120分間かけて逐次滴下した。滴下終了後、更に同温度を90分間保持し、重合反応物(a1)を得た。得られた重合反応物(a1)に、トルエン(有機溶媒)243.0質量部及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.40質量部からなる混合物を、60分間かけて逐次滴下した。滴下終了後、更に同温度を70分間保持し、重合反応物(a2)を得た。得られた重合反応物(a2)を、酢酸エチル及びトルエンを用いて固形分濃度40質量%に希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系共重合体B-1の溶液を得た。
ここでいう「固形分濃度」とは、(メタ)アクリル系共重合体B-1の溶液に占める、(メタ)アクリル系共重合体B-1の溶液から溶媒等の揮発性成分を除いた残りの成分の質量割合を意味する。以下の(メタ)アクリル系共重合体B-2~B-14の各溶液についても同様である。
【0109】
〔製造例B-2~B-5、B-8~B-11、及びB-14〕
製造例B-1において、(メタ)アクリル系共重合体Bの単量体組成を表2に示す単量体組成に変更したこと以外は、製造例B-1と同様の操作を行い、固形分濃度が40質量%である(メタ)アクリル系共重合体B-2~B-5、B-8~B-11、及びB-14の各溶液を得た。
【0110】
〔製造例B-6、B-7、B-12、及びB-13〕
製造例B-1において、有機溶媒の使用量及び重合開始剤の使用量の少なくとも一方を調整することにより、(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)を、表2に示す重量平均分子量(Mw)に変更したこと以外は、製造例B-1と同様の操作を行い、固形分濃度が40質量%である(メタ)アクリル系共重合体B-6、B-7、B-12、及びB-13の各溶液を得た。
【0111】
(メタ)アクリル系共重合体B-1~B-14の単量体組成(単位:質量%)、水酸基価(単位:mgKOH/g)又は酸価(単位:mgKOH/g)、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)、及び重量平均分子量〔Mw、単位:万(表中では、「×104と表記)〕を表2に示す。
(メタ)アクリル系共重合体B-1~B-14のガラス転移温度(Tg)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)における方法と同様の方法により計算した。
(メタ)アクリル系共重合体B-1~B-14の重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)における方法と同様の方法により測定した。
(メタ)アクリル系共重合体B-1~B-14の水酸基価は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Bの水酸基価の計算方法と同様の計算方法により求めた。
(メタ)アクリル系共重合体B-1~B-14の酸価は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの酸価の計算方法と同様の計算方法により求めた。
【0112】
【0113】
表2に記載の各単量体の詳細は、以下に示すとおりである。
「MA」:メチルアクリレート(アクリル酸アルキルエステル単量体)
「EA」:エチルアクリレート(アクリル酸アルキルエステル単量体)
「EMA」:エチルメタクリレート(メタクリル酸アルキルエステル単量体)
「MMA」:メチルメタクリレート(メタクリル酸アルキルエステル単量体)
「2HEA」:2-ヒドロキシエチルアクリレート(水酸基を有する単量体)
「4HBA」:4-ヒドロキシブチルアクリレート(水酸基を有する単量体)
「AA」:アクリル酸(カルボキシ基を有する単量体)
【0114】
表2中、「-」は、該当する欄の単量体を使用していないことを意味する。
表2では、「ガラス転移温度(Tg)」を単に「Tg」と表記し、「重量平均分子量(Mw)」を単に「Mw」と表記した。
【0115】
[セラミック成形用組成物の作製]
〔実施例1~21、比較例1~8、比較例10、及び比較例11〕
-セラミック成形用バインダー組成物の作製-
上記にて製造した(メタ)アクリル系共重合体Aの溶液と(メタ)アクリル系共重合体Bの溶液とを、表3に示す組み合わせで、表3に示す含有比率となるように混合し、セラミック成形用バインダー組成物の溶液を作製した。
【0116】
-セラミック成形用組成物の作製-
上記にて作製したセラミック成形用バインダー組成物の溶液(固形分濃度:40質量%)10質量部、セラミック粉末〔商品名:AL-M41-01、主成分:アルミナ、平均粒径:2.0μm、住友化学(株)製〕100質量部、トルエン(溶剤)25.1質量部、及び153gのアルミナ製ボール(φ3mm)をアルミナ製のポット〔容量:500mL〕に投入し、撹拌混合した後、遊星ボールミル(型式:P-5、フリッチェ社製)を用いて、360rpm(revolutions per minute)で1時間撹拌混合し、スラリー状のセラミック成形用組成物を作製した。
【0117】
〔比較例9〕
上記にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A-1の溶液を、セラミック成形用バインダー組成物の溶液として用い、実施例1と同様の方法により、スラリー状のセラミック成形用組成物を作製した。
【0118】
〔比較例12〕
上記にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A-14の溶液を、セラミック成形用バインダー組成物の溶液として用い、実施例1と同様の方法により、スラリー状のセラミック成形用組成物を作製した。
【0119】
〔比較例13〕
-セラミック成形用バインダー組成物の作製-
上記にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A-1の溶液とポリエチレングリコールとを、表3に示す含有比率となるように混合し、セラミック成形用バインダー組成物の溶液を作製した。
【0120】
-セラミック成形用組成物の作製-
上記にて作製したセラミック成形用バインダー組成物の溶液を用い、実施例1と同様の方法により、スラリー状のセラミック成形用組成物を作製した。
【0121】
〔比較例14〕
-ポリビニルブチラール溶液の調製-
酢酸エチル及びトルエンの混合溶液〔酢酸エチル/トルエン=50/50(体積比)〕100質量部中に、ポリビニルブチラール40質量部を溶解させて、固形分濃度40質量%のポリビニルブチラール溶液を調製した。
【0122】
上記にて調製したポリビニルブチラール溶液を、セラミック成形用バインダー組成物の溶液として用い、実施例1と同様の方法により、スラリー状のセラミック成形用組成物を作製した。
【0123】
[評価]
1.初期分散性
上記にて作製したセラミック成形用組成物30mLを、50mL容量の透明ガラス瓶に量り取った。次いで、セラミック成形用組成物が入った透明ガラス瓶を、雰囲気温度23℃、50%RHの環境下に静置した。
そして、セラミック成形用組成物の状態を目視で経時観察し、下記の評価基準に従って、セラミック粉末の初期分散性を評価した。結果を表3に示す。
評価結果が「A」、「B」又は「C」であれば、セラミック粉末の初期分散性に優れるセラミック成形用組成物であると判断した。
【0124】
-評価基準-
A:静置から120時間以上経過しても沈降物が確認されなかった。
B:静置後48時間以上120時間未満で、沈降物が確認された。
C:静置後24時間以上48時間未満で、沈降物が確認された。
D:静置後24時間未満で、沈降物が確認された。
【0125】
2.分散安定性
上記にて作製したセラミック成形用組成物30mLを、50mL容量の透明ガラス瓶に量り取った。次いで、セラミック成形用組成物が入った透明ガラス瓶を、雰囲気温度23℃、50%RHの環境下に静置した。
そして、セラミック成形用組成物の状態を目視で経時観察し、下記の評価基準に従って、セラミック粉末の分散安定性を評価した。結果を表3に示す。
評価結果が「A」、「B」又は「C」であれば、セラミック粉末の分散安定性に優れるセラミック成形用組成物であると判断した。
【0126】
-評価基準-
A:静置から3週間以上経過しても沈降物が確認されなかった。
B:静置後2週間以上3週間未満で、沈降物が確認された。
C:静置後1週間以上2週間未満で、沈降物が確認された。
D:静置後1週間未満で、沈降物が確認された。
【0127】
【0128】
表3中、「-」は、該当する成分を含んでいないことを意味する。
【0129】
表3に示すように、本発明のセラミック成形用バインダー組成物を用いて作製した実施例1~21のセラミック成形用組成物は、いずれも初期分散性及び分散安定性の評価において、良好な結果を示した。
以上の結果から、本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、セラミック粉末及び溶剤を含むスラリー(即ち、セラミック成形用組成物)の作製に用いた場合に、セラミック粉末の分散性に優れ、かつ、その優れた分散性を経時で保持し得るスラリーを作製できることが明らかとなった。
【0130】
一方、本発明のセラミック成形用バインダー組成物を用いずに作製した比較例1~14のセラミック成形用組成物は、いずれも分散安定性の評価において、良好な結果を示さなかった。
【0131】
[セラミックグリーンシートの作製]
実施例1~21の各セラミック成形用組成物を用い、以下のようにして、セラミックグリーンシートを作製した。
調製してから3週間経過したセラミック成形用組成物を、シリコーン系離型剤で表面処理されたポリエステルフィルム(支持体、厚さ:100μm)の表面処理面に、乾燥後の厚みが100μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、塗布膜を形成した。次いで、形成した塗布膜を、室温下で1時間放置した後、80℃に設定した熱風乾燥機内で、更に1時間乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0132】
作製したセラミックグリーンシートを目視にて観察したところ、いずれのセラミックグリーンシートにおいても、厚みムラが確認されなかった。