(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】セルロース系樹脂改質剤およびセルロース系樹脂改質方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20220830BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20220830BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20220830BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20220830BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220830BHJP
B32B 23/14 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CEP
C08F293/00
C08F220/06
C08F220/18
C09K3/18 101
B32B23/14
(21)【出願番号】P 2017090032
(22)【出願日】2017-04-28
【審査請求日】2020-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2016091329
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】中野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】大田黒 圭史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵介
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528396(JP,A)
【文献】特開昭64-024879(JP,A)
【文献】特開昭49-099585(JP,A)
【文献】特開2015-174997(JP,A)
【文献】特開2002-066206(JP,A)
【文献】特表2011-528293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00-220/70
C08F 210/00-212/36
C08F 216/00-216/38
C08F 293/00-297/08
B32B 23/00-23/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系樹脂改質用の共重合体が、第1のモノマー(A)のブロック重合部と、第2のモノマー(B)のブロック重合部とを有する共重合体であって、
前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有し、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、αオレフィン、及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーであり、
前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基と化学結合する側鎖を有し、アクリル酸、メタクリル酸、及び3-ブテン-1-アミンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーである共重合体の製造方法により製造された共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤を用いるセルロース系樹脂改質方法。
【請求項2】
前記モノマー(A)の、前記アルカン鎖が、炭素数24以下である請求項1記載のセルロース系樹脂改質方法。
【請求項3】
前記第1のモノマー(A)由来の構造に対応する分子量(g/mol)と、前記第2のモノマー(B)由来の構造に対応する分子量(g/mol)とは、それぞれ500以上である請求項1または2に記載のセルロース系樹脂改質方法。
【請求項4】
前記セルロース系樹脂改質剤の溶媒として、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、及びテトラヒドロフランからなる群から選択されるいずれかを含む請求項1~3のいずれかに記載のセルロース系樹脂改質方法。
【請求項5】
前記共重合体の濃度は、0.5~20重量%である請求項4に記載のセルロース系樹脂改質方法。
【請求項6】
前記セルロース系樹脂改質剤を、セルロース系樹脂成形体に塗工し、乾燥することでセルロース系樹脂表面に、共重合体層を設けることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のセルロース系樹脂改質方法。
【請求項7】
第1のモノマー(A)由来のブロック重合部と、第2のモノマー(B)由来のブロック重合部とを有する共重合体であって、
前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有し、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、αオレフィン、及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーであり、
前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基と
化学結合する側鎖を有し、アクリル酸、メタクリル酸、及び3-ブテン-1-アミンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーである共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤。
【請求項8】
前記モノマー(A)が、ステアリルアクリレートであり、前記モノマー(B)が、アクリル酸である請求項7記載のセルロース系樹脂改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系樹脂改質用の共重合体ならびにその製造方法、セルロース系樹脂改質剤およびセルロース系樹脂改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプなどに由来するセルロースを原料として製造されるセロハンのようにセルロース系樹脂は、バイオマスを原料とする環境にやさしい素材として注目されている素材である。一方で、セロハンは、非常に吸湿性が高く、表面から吸水して力学的な特性等が変化し、その特性が損なわれることがある。このような特性の変化を防止するために、セロハン表面の疎水化などが検討され、防湿セロハンとして市販されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ポリ乳酸または乳酸とオキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性分解性ポリマーフィルムと、再生セルロースフィルムからなる分解性ラミネート積層フィルムを開示するものである。また、特許文献2は、セロハン等の生分解性を有する基材の片面又は両面に、生分解性ブレンド樹脂を押し出しコーティングにより積層した積層体を開示するものであり、生分解性ブレンド樹脂として、3ーヒドロキシブチレートと3ーヒドロキシバリレートとの共重合体とジカルボン酸とグリコールを重縮合して成る脂肪族ポリエステルとをブレンドした樹脂などを開示するものである。この特許文献2の具体的な積層のためにはセロハン等の生分解性を有する基材に予めコロナ処理が行われている。
【0004】
また、特許文献3には、ジカルボン酸とグリコールから合成された樹脂(脂肪族ポリエステル)を、Tダイ式溶融押出機等により脂肪族ポリエステルを押し出してコーティングして、積層させた積層フィルムが開示されている。
さらに、特許文献4には、脂肪族ポリエステルを含んでなる熱可塑性ポリマー組成物を、セロハン等のセルロースにコーティングや圧着等することで基材セロハンに圧着することで得られる分解性複合材料が開示されている。
さらに、特許文献5には、セロハン等の再生セルロースフィルムに親水性高分子化合物からなるアンカー剤を介して生分解性樹脂を積層又は塗布してなる積層又は被覆された再生セルロースフィルムが開示されている。
【0005】
これらの従来のセロハンの防湿方法を課題について、さらに優れた防湿化処理をする技術として、特許文献6には、生分解性ポリエステルウレタン樹脂と、ポリイソシアネート樹脂、重合ロジンエステル樹脂、及びパラフィンを有する添加剤とからなる被覆樹脂を基材セロハンに被覆し、前記基材セロハンに防湿層を形成する生分解性防湿セロハンが開示されている。
【0006】
一方、本発明者等は、長鎖アルカン基を保有し側鎖結晶性をしめすモノマーと溶媒親和性を示すモノマーを用いたブロック共重合体である、側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC:Side Chain Crystalline Block Copolymer)を用いた表面修飾材料を開示している(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3071881号公報
【文献】特開平10-6445号公報
【文献】特許第2733426号公報
【文献】特開平7-165944号公報
【文献】特開平10-109382号公報
【文献】特開2006-231870号公報
【文献】特開2015-229725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、セロハン等のセルロース系樹脂はバイオマス原料としてさらなる利用が期待されている素材である。一方で、特許文献1~6のように、その耐水性の改善方法が開示されているが、セルロース系樹脂の用途を更に広げるためにはこれらの他にも多様な改善方法や、その改善方針を調整できる技術が求められている。
【0009】
また、特許文献7に開示された技術は、SCCBCを利用した技術に関するものであるが、ここで開示される技術はポリエチレン等の疎水性を有する素材の表面を修飾することを目的として設計されており、セロハン等の親水性が高い素材の改質を目的として設計するものに適用するには更なる改善の余地がある。
係る状況下、本発明は、セロハン等のセルロース系樹脂の改質剤として使用することができる共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> セルロース系樹脂改質用の共重合体の製造方法であって、
前記セルロース系樹脂改質用の共重合体が、第1のモノマー(A)と、第2のモノマー(B)との共重合体であって、
前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有するモノマーであり、
前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基と化学結合する側鎖を有するモノマーである共重合体の製造方法。
<2> 前記モノマー(A)が、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーである前記<1>記載の共重合体の製造方法。
<3> 前記モノマー(B)が、アクリレート、メタアクリレート、3-ブテン-1-アミン、グリシジルアクリレートからなる群より選ばれるいずれかのモノマーであることを特徴とする前記<1>または<2>に記載の共重合体の製造方法。
<4> 前記セルロース系樹脂改質用の共重合体が、第二のモノマー(B)のブロック重合部にカルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、およびエポキシ基からなる群より選ばれるいずれかの基を有する共重合体である前記<1>または<2>に記載の共重合体の製造方法。
<5> 前記<1>~<4>のいずれかに記載の共重合体の製造方法により製造された共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤を用いるセルロース系樹脂改質方法。
<6> 前記<1>~<4>のいずれかに記載の共重合体の製造方法により製造された共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤を、セルロース系樹脂成形体に塗工し、乾燥することでセルロース系樹脂表面に、共重合体層を設けることを特徴とするセルロース系樹脂改質方法。
<7> 第1のモノマー(A)由来の構造単位と、第2のモノマー(B)由来の構造単位とを有する共重合体であって、
前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有するモノマーであり、
前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基とエステル結合する側鎖を有するモノマーである共重合体。
<8> 前記<7>記載の共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る共重合体によれば、セロハン等のセルロース系樹脂に、撥水性や疎水性を付与するなどの改質を行うことができる。特に成形後のセルロース系樹脂成形品に対しても簡易な手法でその改質を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明により改質されたセロハンシートの吸水率の経時変化を示す図である。
【
図2】本発明により改質されたセロハンシートのIRスペクトルを示す図である。
【
図3】本発明により改質された不織布の接触角の経時変化を示す図である。
【
図4】本発明により改質された不織布の接触角の経時変化を示す図である。
【
図5】本発明によりセロハンを改質するときの想定機構を示す概要図である。
【
図6】本発明によりセルロース系樹脂を改質するときのセルロース系樹脂と本発明に係る共重合体との化学結合の想定構造を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0015】
本発明は、セルロース系樹脂改質用の共重合体の製造方法であって、前記セルロース系樹脂改質用の共重合体が、第1のモノマー(A)と、第2のモノマー(B)との共重合体であって、前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有するモノマーであり、前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基と化学結合する側鎖を有するモノマーであることを特徴とする共重合体の製造方法に関する。また、本発明は、第1のモノマー(A)由来の構造単位と、第2のモノマー(B)由来の構造単位とを有する共重合体であって、前記モノマー(A)が、その側鎖に疎水基を有するモノマーであり、前記モノマー(B)が、その側鎖にOH基と化学結合する側鎖を有するモノマーであることを特徴とする共重合体とすることもでき、この共重合体は前記製造方法で得ることができる。
【0016】
本発明者らは、セルロース系樹脂の改質を検討するにあたり、側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC:Side Chain Crystalline Block Copolymer)に着目した。このSCCBCとして、セルロース系樹脂の改質を行うためのSCCBCの設計にあたり、セロハンの主原料となるセルロースの分子構造に着目した。セルロースは、基本構造単位中に水酸基が3つ存在する。
【0017】
このセルロースの水酸基との親和性が高いモノマーとして、SCCBCを製造するにあたり、モノマー(B)を選択する。また、この水酸基と化学結合する構造が側鎖となるようにモノマー(B)を選択することで、安定性が高い改質効果を得ることができる。一方で、セロハンの改質目的である撥水性や疎水性を付与するために、モノマー(A)を選択する。そして、このモノマー(A)とモノマー(B)とを用いて共重合体を製造した。
【0018】
[第一のモノマー(A)]
本発明に係る共重合体の製造方法に用いる第1のモノマー(A)として、前記モノマー(A)には、その側鎖に疎水基を有するモノマーを用いる。また、本発明の共重合体の製造方法により得られる共重合体において、この第1のモノマー(A)由来の構造単位を有する共重合体となり、その共重合体においてモノマー(A)の重合体において、その側鎖に疎水基を有する構造となる。
【0019】
前記モノマー(A)は、例えば、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーを用いることができる。この側鎖の炭素数や構造に応じて、その撥水性等を調整することができ、その撥水性の程度によってセルロース系樹脂を改質する程度も調整することができる。なお、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタアクリレートを指し、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミドを指す。
【0020】
その側鎖として、アルカン鎖を有するものを用いるとき、その炭素数は8以上であることが好ましく、12以上がより好ましい。なお、このアルカン鎖は直鎖状のアルカン鎖であることが好ましい。一方、その上限は、共重合体として重合することができ、セルロース系樹脂を改質することができる範囲で適宜設定することができる。現実的には24以下が好ましく、22以下がより好ましい。アルカン鎖が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれなかったり、重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0021】
このような側鎖を有する具体的なモノマーとしては、側鎖が、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、ドコシル基およびベヘニル基からなる群から選択されるいずれかのアルキル基を有する(メタ)アクリレートがあげられる。これらのモノマーは、本発明の共重合体の重合反応条件の設定が行いやすく、また、これらのモノマーを用いた共重合体は優れた撥水性を付与しやすい。
【0022】
[第二のモノマー(B)]
本発明に係る共重合体の製造方法に用いる第二のモノマー(B)として、前記モノマー(B)には、その側鎖にOH基と化学結合する側鎖を有するモノマーであることを特徴とする共重合体の製造方法に関する。また、本発明の共重合体の製造方法により得られる共重合体において、この第二のモノマー(B)由来の構造単位を有する共重合体となり、その共重合体においてモノマー(B)の重合体において、その側鎖にOH基とエステル結合等の化学結合する側鎖を有する構造となる。
【0023】
前記モノマー(B)は、例えば、前記モノマー(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、3-ブテン-1-アミン、グリシジルアクリレートからなる群より選ばれるいずれかのモノマーを用いることができる。このようなモノマーを用いて得られる重合体は、このモノマー(B)のブロック重合部の側鎖等により、セルロース系樹脂のOH基とエステル結合等の化学結合が生じて、優れた改質効果を得ることができる。なお、モノマー(B)のブロック重合部の主鎖がセルロース系樹脂のOH基と化学結合してもよく、側鎖がOH基と化学結合してもよい。例えば、(メタ)アクリル酸をモノマー(B)として選択すると、そのブロック重合部の側鎖にカルボキシル基が得られ、セルロース系樹脂のOH基とエステル結合する共重合体を得ることができる。
【0024】
前記モノマー(B)は、前記セルロース系樹脂改質用の共重合体として、第二のモノマー(B)のブロック重合部にカルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)、イソシアネート基(-NCO)、およびエポキシ基からなる群より選ばれるいずれかの基を有する共重合体とすることが好ましい。共重合体のブロック重合部に、前記したような基があることで、このモノマー(B)のブロック重合部の側鎖等により、セルロース系樹脂のOH基とエステル結合等の化学結合が生じて、優れた改質効果を得ることができる。
【0025】
本発明の共重合体は、前述したモノマー(A)と、モノマー(B)との共重合体である。本発明の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、トリブロック共重合体等のいずれであってもよいが、好ましくは、ブロック共重合体である。また、本発明の共重合体を製造する方法においても、前記共重合体が、前記モノマー(A)が重合した部分であるモノマー(A)由来重合ブロックと、前記モノマー(B)が重合した部分であるモノマー(B)由来重合ブロックとが、それぞれのブロックを形成しながら結合しているブロック共重合体となるように製造することが好ましい。ブロック共重合体とすることで、モノマー(A)の構造ユニットと、モノマー(B)の構造ユニットとのそれぞれの機能が十分に発揮されやすくなる。モノマー(A)とモノマー(B)との共重合体は、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することが可能である(例えば、WO2012/098750の共重合体の製造方法を準用できる。)。リビングラジカル重合法としては、NPM法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。
【0026】
例えば、改質対象となるセルロース系樹脂のポリマー構造と化学結合する側鎖を有するモノマー(B)を選択する工程でモノマー(B)を選択する。また、撥水性や疎水性を付与する改質のために第1のモノマー(A)を選択する工程でモノマー(A)を選択する。そして、ここで選択されたモノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合してモノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、別途選択されているモノマー(B)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B)を重合させるモノマー(B)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B)由来ブロックを有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)とモノマー(B)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更してもよい。
【0027】
本発明の共重合体において、第1のモノマー(A)由来の構造に対応する分子量(g/mol)と、第2のモノマー(B)由来の構造に対応する分子量(g/mol)とは、それぞれ500以上であることが好ましい。第1のモノマー(A)由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、セルロース系樹脂に高い撥水性を付与することができる。第1のモノマー(A)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0028】
また、第2のモノマー(B)由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、セルロース系樹脂との化学結合量がより安定した共重合体とすることができる。第2のモノマー(B)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることが好ましい。共重合体は、第1のモノマー(A)及び第2のモノマー(B)から成るものであってもよいし、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他のモノマーを含んでいてもよい。なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、モノマー(A)由来の構造は溶媒に溶けないことから分子量を測定しにくい場合があるため、分子量を求める場合、共重合体全体の分子量からモノマー(B)由来の構造による分子量を差し引いた値とすることで推算することができる。
【0029】
本発明の共重合体の一例として、下記化学式(I)で表されるポリマーが挙げられる。これは、モノマー(A)として、ステアリルアクリレート(STA:側鎖のアルカン鎖が、炭素数18の直鎖状のアルカン基である。)を重合させ、その後、モノマー(B)としてアクリル酸を用いて共重合させたブロック共重合体である。この共重合体は、モノマー(A)であるSTA由来の構造により疎水性を示すブロック共重合体部を有し、一方で、モノマー(B)であるアクリル酸由来のカルボキシル基構造が、セロハンのOH基とエステル結合することができる。なお、化学式(I)において、nは2~1,000であることが好ましく、mは2~1,000程度であることが好ましい。このnは改質することで付与しようとする撥水性や疎水性に応じて選択され、より強い改質効果を得るためには5以上や、10以上とすることがより好ましい。一方、このmは、より安定してセルロース系樹脂と化学結合させるためには5以上や、10以上とすることがより好ましい。これらのnおよびmは、それぞれの効果が十分に得られる範囲で、それぞれ800以下や、500以下としてもよい。
【0030】
【0031】
本発明の共重合体を用いて改質されるセルロース系樹脂としては、セルロースをもとに得られるものであり、その化学構造中にOH基を有するものをいう。具体的にはセルロースそのもの(繊維状としては綿等)や、セルロースを改質ことで得られるセロハン、レーヨン等があげられる。そして、その成形体であるセルロース系樹脂成形体となったものを改質することができる。成形形態としては、特に限定されず、例えば、シート、板、多孔質材料などの成形体が挙げられる。成形体の表層にあたる表面のみではなく、さらに孔内など、その内部にも浸透させて多孔質材料の全体を改質することができる。
【0032】
本発明は、本発明に係る共重合体を含有するセルロース系樹脂改質剤とすることができる。また、このセルロース系樹脂改質剤を用いるセルロース系樹脂改質方法とすることができる。このセルロース系樹脂改質方法としては、例えば、セルロース系樹脂成形体に塗工し、乾燥することでセルロース系樹脂表面に、共重合体層を設けることを特徴とするセルロース系樹脂改質方法とすることができる。
【0033】
本発明の共重合体を用いてセルロース系樹脂を改質するにあたっては、例えば、本発明の共重合体を溶媒に溶解や分散させて溶液(分散液)とし、その溶液をセルロース系樹脂の成形品に塗工したり、セルロース系樹脂の成形品をその溶液に浸漬させるなどの方法で処理することができる。溶媒としては、共重合体の溶解性(分散性)に優れ、適宜揮発性に優れたものを用いることができる。このような溶媒として、例えば、酢酸ブチルやベンゼン、トルエン、テトラヒドロフランなどがあげられる。また、溶液とする時の共重合体の濃度は、塗工処理や浸漬処理等に適した粘度や膜厚を得やすいように適宜設定され、例えば0.5~20重量%程度とすることができる。
【0034】
また、本発明の共重合体を用いたセルロース系樹脂改質剤によれば、基材が物理的に傷みにくいため、基材の力学的強度が劣化しにくく、基材の耐久性が高い。また、セルロース系樹脂のOH基とエステル結合等の化学結合が生じるため、安定した改質効果を得ることができる。
【0035】
例えば、前記化学式(I)記載の共重合体を、セロハン上に塗工して、脱水縮合が生じやすい減圧環境下で加熱乾燥させることで、得られた改質後のセロハンのIRスペクトルには、セロハンのOH基および化学式(I)の共重合体のCOOH基に相当するピークが低下している。すなわち、セロハンのOH基と、化学式(I)におけるモノマー(B)由来の構造として、共重合体に存在するカルボキシル基により、エステル結合が生じている。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<評価項目>
[接触角]
水接触角測定装置(協和界面科学社製“Dropmaster100”)を用いて、表面の接触角を測定した。
【0038】
[吸水率]
真空乾燥機(100℃、真空度5×10-4Torr)で24時間真空乾燥した後のシートの初期重量(W0)と、常温常湿(23℃、65%RH)の雰囲気下で所定時間経過後の重量(Wtx)とを求め、重量の経時変化から、吸水率を評価した。
吸水率=(所定時間経過後の重量(Wtx)-初期重量(W0))/初期重量(W0)
【0039】
[透湿度]
JIS-Z0208(1976)「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準拠して、透湿度を測定した。
【0040】
[IRスペクトル]
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum two(登録商標)」を用いて、測定した。
【0041】
<重合体の製造>
[原料]
[モノマー(A)]
・モノマー(A-1-1):STA
ステアリルアクリレートを用いた。このモノマーは、炭素数18のアルカン鎖を側鎖に有するモノマーである。
[モノマー(B)]
・モノマー(B-1-1):AA
アクリル酸(AA)を用いた。このモノマーは、側鎖にカルボキシル基を有するモノマーである。
[重合開始剤] Bloc Builder MA No.33
[溶媒] 酢酸ブチル
【0042】
[セロハン改質用共重合体の設計]
セロハンを用いた成形体に、撥水性を付与することができるセロハン改質用の共重合体(1)の設計を試みた。まず、セロハンのOH基とエステル結合の化学結合する基として、カルボキシル基を有する、アクリル酸(モノマー(B-1-1))を選択した。次に、撥水性を付与する改質目的にあわせて、アルカン鎖を有するアクリレートである前記モノマー(A-1-1)を選択した。そして、ここで選択されたモノマーを用いて、セロハン改質用の共重合体(1)の製造を行った。
【0043】
[共重合体(1)の調製]
STA6.6g、酢酸ブチル6.6g、重合開始剤(Bloc Builder MA No.33)0.386gを混合した溶液を、重合温度約105℃、リアクターの撹拌速度75rpm、窒素雰囲気下でリビングラジカル重合することにより、第1のモノマー(A)であるSTA(モノマー(A-1-1))のブロック重合体を製造した。さらに、これにより得られたSTAのブロック重合体の溶液に、第2のモノマー(B)であるモノマー(B-1-1)を3.415g、酢酸ブチルを3.42g投入してモノマー(A-1-1)のブロック重合体に、モノマー(B-1-1)ブロック重合体が結合したブロック共重合体である共重合体(1)を得た。この共重合体(1)の構造式を以下に化学式(I)として示す。なお、得られた共重合体(1)の分子量(Mw:重量平均分子量)を、GPCにより測定し、ポリスチレン換算にて求めた。モノマー(A-1-1)由来の構造は推算値として約4,519(g/mol)、モノマー(B-1-1)由来の構造が約3,371(g/mol)の共重合体であった。
【0044】
【0045】
[共重合体溶液(塗工用溶液)の調製]
・共重合体(1)の塗工用溶液
前述の方法で入手された共重合体(1)を、酢酸ブチル溶液に溶解させて共重合体(1)溶液を調製した。
【0046】
[塗工工程]
(1)ディッピング
共重合体溶液に、およそ1秒間、成形品の改質対象となる部分を浸漬させた。
(2)コーティング
共重合体溶液を、塗工厚みが約50μmのアプリケーターを用いて成形品の表面に塗工した。
【0047】
[乾燥工程]
(1)自然乾燥
前記塗工工程により、共重合体溶液を塗工した後、常温で静置し自然乾燥した。
(2)真空乾燥(加熱乾燥)
前記塗工工程により、セロハン改質用共重合体を塗工した後、真空乾燥機(100℃)にて、5×10-4Torrとなるように減圧下で乾燥した。
なお、この真空乾燥により、セロハンのOH基と、共重合体(1)のCOOH基を反応させ、その反応により生じる水等を除去しながら乾燥させることができ、よりエステル結合が促進されると考えられる。
【0048】
[実施例1~実施例8]
セロハンシート(厚さ0.8mm)の表面に、共重合体(1)の濃度が0.5重量%または1.0重量%の共重合体溶液(1)を塗工し、乾燥することで、改質されたセロハンシートを製造した。製造したシートの具体的な塗工工程、乾燥工程を表1、2に示す。
また、実施例1~8のシートについて、接触角を測定した結果を、表1、2に合わせて示す。なお、比較例1は、塗工、乾燥を行わないままのセロハンシートを評価した結果である。
【0049】
【0050】
【0051】
[吸水率の経時変化]
実施例7、8のシートおよび、比較例1のシートについて、吸水率の経時変化を測定した。結果を、
図1に示す。本発明により改質されたセロハンシート(実施例7、8)は、従来のセロハンシート(比較例1)よりも吸水率が低いことが確認された。
【0052】
[IRスペクトルの測定]
実施例7、8のシートならびに、比較例1のシート、および共重合体(1)単独のIRスペクトルを測定した結果を、
図2に示す。図中に1750(cm
-1)付近のピークは、-OCO-伸縮由来のピークであり、3300(cm
-1)付近のピークは、-OH伸縮由来のピークである。セロハンでは-OH伸縮由来のピークが強いピークであったが、実施例7、8ではこれらのピークが弱くなっている。一方、実施例7、8では、セロハンには見られなかった、-OCO-伸縮由来のピークが生じていることから、エステル結合が生じていると考えられる。このことから、共重合体(1)における、モノマー(B-1-1)(アクリル酸)由来のCOOH基は、セロハンシートのOH基(セルロースの糖の環構造に直接結合するOH基や、CH
2OHのOH基)と脱水縮合してエステル結合していることが想定される。
【0053】
[透湿度の測定]
実施例7、8のシートについて、透湿度の評価を行った。
・実施例7のシート:2142g/m2・24H
・実施例8のシート:1764g/m2・24H
市販されている防湿セロハン(フタムラ化学社製「G-3」(#300))の透湿度は、およそ45g/m2・24Hであり、本発明の実施例に係るシートの透湿度は非常に高く、セロハンシートに近い透湿度を維持していると考えられる。なお、未処理のセロハンシートは透湿度が極めて高いことから、測定に用いる乾燥剤が潮解して数値化が困難である。
【0054】
[実施例9~実施例12]
セルロースの不織布(フタムラ化学社製「TCF(登録商標)」 #504)に、共重合体(1)の濃度が0.5重量%または1.0重量%の共重合体溶液(1)を塗工し、乾燥することで、改質された不織布を製造した。製造した不織布の具体的な塗工工程、乾燥工程を表3に示す。
更に、これらの不織布は、乾燥後に、アセトンや水をかけ流すことで洗浄処理(洗浄工程)した。なお、水で洗浄すると、その水は弾かれるように流れたが、アセトンは浸透するように流れた。洗浄工程を行った不織布は、洗浄後、自然乾燥した後、接触角等の評価を行った。
また、実施例9~12の不織布について、接触角の経時変化を測定した結果を、
図3、4に示す。なお、比較例2は未処理のセルロースの不織布に関するものである。
【0055】
【0056】
図3、4に示すように、本発明により改質された不織布は、撥水性を有する。さらに、実施例10、12のように真空乾燥することでより長時間安定した撥水性を有する。また、実施例10、12の不織布は、アセトンや水で洗浄した後も撥水性が維持されていた。なお、比較例2の不織布は、水を吸収してしまうため、接触角は基本的に測定できないが、極めて吸水性が高い0°とみなすことができる。
【0057】
[作用機構]
上記実施例等の評価結果から、共重合体(1)により真空乾燥も行って改質されたセルロース系樹脂の成形品における作用機序の想定例を、
図5および6に示す。
図5は、本発明によりセロハンを改質するときの想定機構を示す概要図である。また、
図6は、本発明によりセルロース系樹脂を改質するときのセルロース由来構造と本発明に係る共重合体との化学結合の想定構造を示す概要図である。上記実施例(例えば、実施例5~8、10、12等)から、特に真空乾燥したセロハン成形品や、セルロース成形品では安定性が極めて高いものとなっていた。これは、
図5のように、本発明に係る共重合体(1)は、そのモノマー(B)由来のブロック重合部が、セロハン成形品の表面に化学結合して、モノマー(A)由来のブロック重合部により撥水性等が付与されていると考えられる。また、このとき、
図6に示すように、AA由来のカルボキシル基と、セルロース由来のOH基とがエステル結合していると考えられる。
【0058】
これらの評価結果から、本発明の実施例に係るシートは、接触率や吸湿率の変化から撥水性が向上して撥水性を有する一方で、透湿度は維持されたものである。これらは、例えばスポーツ用の衣類等に求められる特性であり、セルロース系素材の用途拡大に寄与することなどが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の共重合体を用いることで、セルロースやセロハン等のセルロース系樹脂に撥水性や疎水性を付与する等の改質を行うことができ、セルロースやセロハン等のセルロース系樹脂の用途を拡大することができ産業上有用である。