(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】補強盛土構造及び補強盛土の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
E02D17/18 A
(21)【出願番号】P 2018134411
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】303059071
【氏名又は名称】独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 翔也
(72)【発明者】
【氏名】陶山 雄介
(72)【発明者】
【氏名】阪田 暁
(72)【発明者】
【氏名】曽我 大介
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144938(JP,A)
【文献】特開平09-105132(JP,A)
【文献】特開2009-121086(JP,A)
【文献】特開平08-253934(JP,A)
【文献】特開2001-311172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状又は網状の盛土補強材が盛土の内部に埋設されるとともに、のり面が現場打ちコンクリートによって被覆された補強盛土構造であって、
盛土の内部に横方向に敷設されて端縁がのり面に沿って垂れ下げられた盛土補強材と、
前記のり面と略平行に配置された鉄筋体と、
前記鉄筋体に一端が連結されるとともに、他端が前記盛土補強材の目に引っ掛けられた定着材と、
前記鉄筋体及び前記定着材の周囲に充填されて前記のり面を覆うコンクリート体とを備え
、
前記定着材は、Z字状に成形されていることを特徴とする補強盛土構造。
【請求項2】
前記盛土補強材は、ジオテキスタイルによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の補強盛土構造。
【請求項3】
前記定着材は、前記盛土補強材の垂れ下がり部分の上部に引っ掛けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の補強盛土構造。
【請求項4】
格子状又は網状の盛土補強材が盛土の内部に埋設されるとともに、のり面が現場打ちコンクリートによって被覆される補強盛土の構築方法であって、
所定の高さまで盛土材を敷き均して成形された上面に盛土補強材を敷設する際に、前記盛土補強材の端縁がのり面に沿って垂れ下げられるように配置する工程と、
前記のり面と略平行に鉄筋体を配置して、前記のり面に垂れ下がった前記盛土補強材の目に前記鉄筋体に連結される
Z字状に成形された定着材を引っ掛ける工程と、
前記鉄筋体及び前記定着材の周囲に前記のり面を覆うようにコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする補強盛土の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子状又は網状の盛土補強材が盛土の内部に埋設されるとともに、のり面が現場打ちコンクリートによって被覆された補強盛土構造及び補強盛土の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3に開示されているように、盛土補強材を内部に敷設して造成される補強盛土ののり面に、コンクリート製の壁面構造を設けることが知られている。例えば特許文献1,2には、プレキャストされたコンクリートブロックやコンクリートパネルをのり面に沿って設置した構造が開示されている。
【0003】
詳細には特許文献1では、格子鉄筋によって形成される盛土補強材の縁部を立ち上げて傾斜した壁面部を設け、その壁面部の横鉄筋に壁面ブロックの背面側に取り付けられたフックを引っ掛ける設置方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、コンクリートパネルの背面に取り付けられたリング片と、網状に組み立てられた支圧プレートを有する棒状引張材又は鉄筋グリッドののり面側の先端に設けられたリング片とを、ピンによって連結する構造が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、現場打ちで擁壁を構築する際に、ジオテキスタイルの補強シートの端部に側面視L字状の法面形成フレームを配置し、現場打ちコンクリート用の型枠の間隔を保持させるためのスペーサーロッドの一端を、法面形成フレームに連結する定着構造が開示されている。この法面形成フレームには、コンクリートの打設圧が作用することになるため、金属製の法面枠と接地枠との隅角部がアングルで補強された構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-232266号公報
【文献】特開平5-118038号公報
【文献】特開平4-108915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1,3に開示されているように、立ち上げられた壁部分に壁面ブロックのフックを引っ掛けたりスペーサーロッドの一端を定着させたりする場合は、壁部分が倒れないように補強して剛性を高めておく必要がある。一方、特許文献2に開示されているような2つのリング片をピンで連結する方法では、リング片の加工時や現地での連結作業時に多大な手間がかかる。
【0008】
そこで、本発明は、のり面を被覆するコンクリートの定着力を簡単な構造で高められるとともに、施工性に優れた補強盛土構造及び補強盛土の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の補強盛土構造は、格子状又は網状の盛土補強材が盛土の内部に埋設されるとともに、のり面が現場打ちコンクリートによって被覆された補強盛土構造であって、盛土の内部に横方向に敷設されて端縁がのり面に沿って垂れ下げられた盛土補強材と、前記のり面と略平行に配置された鉄筋体と、前記鉄筋体に一端が連結されるとともに、他端が前記盛土補強材の目に引っ掛けられた定着材と、前記鉄筋体及び前記定着材の周囲に充填されて前記のり面を覆うコンクリート体とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記盛土補強材は、ジオテキスタイルによって形成されているものであってもよい。また、前記定着材は、前記盛土補強材の垂れ下がり部分の上部に引っ掛けられる構成とすることができる。さらに、前記定着材は、Z字状に成形されているものが好ましい。
【0011】
また、補強盛土の構築方法の発明は、格子状又は網状の盛土補強材が盛土の内部に埋設されるとともに、のり面が現場打ちコンクリートによって被覆される補強盛土の構築方法であって、所定の高さまで盛土材を敷き均して成形された上面に盛土補強材を敷設する際に、前記盛土補強材の端縁がのり面に沿って垂れ下げられるように配置する工程と、前記のり面と略平行に鉄筋体を配置して、前記のり面に垂れ下がった前記盛土補強材の目に前記鉄筋体に連結される定着材を引っ掛ける工程と、前記鉄筋体及び前記定着材の周囲に前記のり面を覆うようにコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の補強盛土構造又は補強盛土の構築方法は、盛土の内部に横方向に敷設される盛土補強材の端縁がのり面に沿って垂れ下げられる。そして、のり面を被覆する現場打ちコンクリートの鉄筋体に一端が連結された定着材の他端が、盛土補強材の目に引っ掛けられる。このような定着材を盛土補強材の垂れ下がった部分に引っ掛けるという簡単な構造でのり面を被覆するコンクリートの定着力を高めることができるうえに、施工性に優れている。
【0013】
また、盛土補強材がジオテキスタイルであっても、のり面に沿って垂れ下げるのであれば、特別な補強をしなくても定着力を高めるための抵抗部として機能させることができる。さらに、定着材を盛土補強材の垂れ下がり部分の上部に引っ掛けておけば、定着効果を早い段階から発揮させることができるうえに、たとえ最初に引っ掛けた箇所が破断してもその下方の目に定着材が引っ掛かるので、急激に定着力が減少するのを防ぐことができる。この定着材の形状は、Z字状にすることで、加工がし易くなるうえに引っ掛け易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態の補強盛土構造の主要部の構成を示した説明図である。
【
図2】本実施の形態の補強盛土構造の全体構成を示した断面図である。
【
図3】盛土補強材の垂下部と定着鉄筋の位置関係を示した張コンクリートの正面図である。
【
図4】定着力の確認をする試験を行った盛土の断面図である。
【
図5】定着方法が異なる2つの供試体の構成を説明する図であって、(a)は定着鉄筋がないケース、(b)は定着鉄筋があるケースの正面図及び断面図である。
【
図6】載荷方向が水平方向となる引き剥がし試験の概要を示した説明図である。
【
図7】水平方向に載荷した試験の結果を示した図であって、(a)は定着鉄筋がないケース、(b)は定着鉄筋があるケースの変位-荷重関係図である。
【
図8】載荷方向がのり面直角方向となる引き剥がし試験の概要を示した説明図である。
【
図9】のり面直角方向に載荷した試験の結果を示した図であって、(a)は定着鉄筋がないケース、(b)は定着鉄筋があるケースの変位-荷重関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態で説明する補強盛土構造1の主要部の構成を拡大して示した説明図、
図2は補強盛土構造1の全体構成を説明するための図である。
【0016】
まず
図2を参照しながら全体構成を説明すると、盛土2は、基礎地盤となる地盤上に設けられる。本実施の形態で説明する補強盛土構造1は、盛土2の内部に盛土補強材3が埋設される。盛土2の内部に盛土補強材3を埋設することで、盛土材(土質)の強度不足を補うことができる。すなわち、引張強度の高い盛土補強材3を盛土材間に挟むことで、盛土2に引張り強さやせん断強さを与えることができる。
【0017】
盛土補強材3には、ジオテキスタイル、金網、格子鉄筋などの格子状又は網状のシート材が使用できる。ジオテキスタイルは、高分子材料の繊維やプラスチックによって形成された可撓性のある補強材である。
図3に破線で示したように格子状の盛土補強材3にも、網状の盛土補強材にも、無数の目(空隙)が形成される。
【0018】
盛土2は、基礎地盤から所定の厚さ(高さ)ごとに盛土材が敷き均されて、転圧によって締め固められる。
図2では、第1層の上面に最初の盛土補強材3Aを敷設し、2層目の上面には層厚管理材21を敷設している。そして、6層目の上面に再び盛土補強材3を敷設している。
【0019】
この盛土2の上部に埋設される盛土補強材3は、横方向である水平方向に敷設される水平敷設部31と、水平敷設部31と一体の端縁でのり面2aに沿って垂れ下げられる垂下部32とを有している。この水平敷設部31の上面にも、盛土材が敷き均されて転圧が行われる。
【0020】
このようにして構築される盛土2には、傾斜面となるのり面2aが形成される。のり面2aは任意の角度に成形できるが、盛土補強材3によって引張り補強効果が付与されるので、急勾配ののり面2aにもすることができるようになる。
【0021】
本実施の形態の補強盛土構造1では、のり面2aを現場打ちのコンクリートで被覆して保護する。すなわち、のり面2aに沿ってコンクリート体である張コンクリート5を一定の厚さで設ける。この張コンクリート5の内部には、引張り抵抗となる鉄筋体4を埋設させる。
【0022】
図1は、盛土2と盛土補強材3と張コンクリート5との関係を説明するための断面図である。ここで、のり面2aに沿って垂れ下げられる垂下部32の長さをLとする。この垂れ下がり長さLの範囲で、張コンクリート5の鉄筋体4と垂下部32とは連結される。
【0023】
ここで、
図3を参照しながら鉄筋体4の詳細について説明する。鉄筋体4は、のり面2aの傾斜方向と略平行に延伸される縦鉄筋41と、縦鉄筋41に直交して水平方向に延伸される横鉄筋42とによって構成される。縦鉄筋41は、のり面2aの幅方向(
図1の紙面直交方向)に間隔を置いて略平行に複数本が配置される。一方、横鉄筋42は、のり面2aの傾斜方向に間隔を置いて略平行に複数本が配置される。
【0024】
そして、定着材となる定着鉄筋6は、
図1に示すように、一端となる上片部61が鉄筋体4に連結されるとともに、他端となる下片部62が盛土補強材3の垂下部32の格子の目に引っ掛けられる。この定着鉄筋6は、上片部61と下片部62とが反対方向に略平行となるように延びる略Z字形に形成される。
【0025】
定着鉄筋6の上片部61は、例えば番線によって上片部61に隣接する縦鉄筋41に結束される。このため、横鉄筋42の位置に合わせて上片部61を配置する必要はない。また、
図1では、垂下部32の垂れ下がり長さLに合わせて傾斜方向に2段に定着鉄筋6,6を配置しているが、上段だけの1段であってもよい。また、垂れ下がり長さLが長い場合は、3段以上の定着鉄筋6,・・・を配置することもできる。
【0026】
また、
図3に示すように、本実施の形態では縦鉄筋41毎に定着鉄筋6を配置した例を示しているが、これに限定されるものではなく、必要とされる定着力に合わせて、1本飛ばしや2本飛ばしなど、任意の間隔で定着鉄筋6を配置することができる。
【0027】
次に、本実施の形態の補強盛土の構築方法について説明する。
まず上述したように、基礎地盤から層ごとに盛土材の敷き均しと転圧を繰り返して、所定の高さまで盛土2を構築する。そして、盛土補強材3を敷設する高さまで到達したときに、上面に盛土補強材3の水平敷設部31を敷設し、のり面2a側に突出した端縁は、のり面2aに沿って垂れ下げて垂下部32として配置する。
【0028】
続いて、水平敷設部31の上方にも盛土材を敷き均して転圧し、盛土2の最上面を成形する。一方、のり面2aに対しては、縦鉄筋41,・・・と横鉄筋42,・・・とを配筋して鉄筋体4に組み上げる。
【0029】
そして、盛土補強材3の垂下部32と重なる鉄筋体4の領域において、定着鉄筋6の下片部62を垂下部32の格子の目に挿し込むとともに、上片部61を隣接する縦鉄筋41に番線で結束する。定着鉄筋6の配置は、1本あたり15秒程度で実施できる。
【0030】
このようにしてのり面2aに垂れ下がった垂下部32の目に定着鉄筋6,・・・を引っ掛けることで、鉄筋体4を盛土補強材3によって支持させる。続いて、鉄筋体4及び定着鉄筋6の周囲に、のり面2aの表層となるようにコンクリートを充填して張コンクリート5を構築する。
【0031】
次に、本実施の形態の補強盛土構造1の張コンクリート5の定着力を確認するために行った試験について、
図4-
図9を参照しながら説明する。
図4は、試験を行った盛土2の断面図である。この盛土2の内部には、盛土補強材3,3Aが埋設されている。また、試験を上段と下段の両方の盛土補強材3,3Aで行うために、両方に垂下部32,32を設けた。
【0032】
そして、垂下部32の長さL(
図1参照)に合せた大きさの供試体7をそれぞれに配置した。
図5に、定着方法が異なる2つの供試体7A,7Bの構成を示した。供試体7A,7Bは、いずれも500mm×500mm×150mmの直方体に成形されるため、2つを区別しない場合は供試体7として説明する。
【0033】
供試体7には、縦鉄筋71と横鉄筋72とが配筋される。また、定着鉄筋73がある場合の定着方法Bでは、縦鉄筋71毎に略Z字形の定着鉄筋73を配置した。さらに、供試体7の上面側には、アイボルト75や固定用のボルトなどを装着するためのボルト穴74を設けた。
【0034】
この試験は、供試体7をのり面2aから引き剥がす力を載荷することで、定着鉄筋73の定着強度を確認する引き剥がし試験である。この引き剥がし試験では、供試体7を油圧ジャッキ76,77で引っ張り、ジャッキの荷重と供試体7の変位の計測とを行った。
【0035】
図6は、のり面2aの下段で行われた引き剥がし試験の概要を示している。この試験では、水平方向に供試体7を引き剥がせるように油圧ジャッキ76を配置した。油圧ジャッキ76は、
図6の紙面直交方向に間隔を置いて2台が配置される。
【0036】
また、下段の供試体7に対向する位置に、擁壁とそこにアンカーで固定された反力部762を設け、油圧ジャッキ76,76を水平にして供試体7に向けて配置する。油圧ジャッキ76と反力部762との間には、油圧ジャッキ76のシリンダが収縮する際の力が計測できるようにしたロードセル761を配置した。
【0037】
そして、油圧ジャッキ76の先端と供試体7に装着したアイボルト75とをワイヤ763で連結し、油圧ジャッキ76を縮めることで、供試体7が水平方向に引き剥がされる力を載荷した。
【0038】
図7に、水平方向に載荷した試験結果を示した。
図7(a)は定着鉄筋がないケースの供試体変位と引張荷重の関係、
図7(b)は定着鉄筋があるケースの供試体変位と引張荷重の関係を示している。なお、この図は、荷重については左右2箇所のロードセル761,761の計測値を合計値で整理し、変位については供試体7の4隅で計測した変位の平均値で整理している。
【0039】
この試験結果より、定着鉄筋を用いない定着方法Aでは、最大荷重は約2.6kN(10.4kN/m2)であり、その時の供試体変位の平均は45.65mmであった。一方、定着鉄筋73を用いた定着方法Bでは、最大荷重は約3.9kN(15.6kN/m2)であり、その時の供試体変位の平均は219.98mmであった。
【0040】
定着方法Bは、定着方法Aに比べて最大荷重が約1.5倍増加しており、供試体7Bへの定着鉄筋73の設置本数は3本であったため、定着鉄筋1本あたり約0.44kNの定着強度の増加があったことになる。
【0041】
この定着方法Bの試験結果より、引張荷重が2.0kNを上回ると変位が急速に進行していることがわかり、定着方法Aでも同様の傾向がみられることがわかる。この結果は、引張荷重が2.0kN付近に達したあたりで、垂下部32から供試体7が剥がれ始めていることを示している。
【0042】
また、定着方法Bにおいては、このときに定着鉄筋73が定着強度の増加に寄与しておらず、変位量50mm程度までは荷重の大きさも定着方法Aに近い大きさであった。しかしながら定着方法Bでは、変位量が150mmを超過してから再度荷重が増加しており、定着鉄筋73の効果が現れていることがわかる。
【0043】
水平方向に載荷した引き剥がし試験においてこのような結果となったのは、盛土補強材3に対して供試体7の上部から引き剥がされる挙動であったことに起因している。この引き剥がし試験では、供試体7の左右と下側の3辺は垂下部32を拘束していない自由縁となっており、垂下部32が盛土2内に敷設されている上側の1辺のみで拘束されていたことに起因して、上部から引き剥がれる挙動となったものと考えられる。
【0044】
また、定着鉄筋73が効果を発揮したのは、垂下部32が供試体7の上部から剥がれ、剥がれた領域が定着鉄筋73付近にまで到達した段階においてのものと考えられる。このため、定着鉄筋73による盛土補強材3との定着効果を効率的に発揮させるためには、可能な限りのり面2aに垂下した垂下部32の上部で定着し、張コンクリート5に生じる変位が小さなレベルから定着鉄筋73が効果を発揮できるようにすることが有効であると考えられる。
【0045】
引き剥がし試験後の盛土補強材3の垂下部32の状況は、定着方法Aは垂下部32に目立った損傷は無く剥がれていたのに対して、定着方法Bでは定着鉄筋6を引っ掛けた箇所の補強材が破断していた。
図7に示した試験結果からわかるように、約175mmの変位で最大荷重約3.9kNに至った後に荷重値が急激に0kNまで低下するのではなく、一定量低下後に再び荷重が増加しており、ある程度まで増加すると再び低下する挙動を繰返している。
【0046】
要するに、供試体7Bの変位の進行によって垂下部32の補強材と定着鉄筋6とが負担する荷重が増加していくことになるが、定着鉄筋6周辺の補強材ストランドが順次破断していくことで、階段状に荷重の増加と低下を繰返したものと推察される。なお、
図7において載荷途中で荷重値が0kN付近まで低下しているのは、油圧ジャッキ76のストロークが一杯となった時点で段取り替えを行っているためである。
【0047】
図8は、のり面2aの上段で行われた引き剥がし試験の概要を示している。この試験では、のり面直角方向に供試体7を引き剥がせるように油圧ジャッキ77を配置した。詳細には、上段の供試体7に対して一対の油圧ジャッキ77,77と反力梁772とで門形に載荷部を設ける。この反力梁772には、供試体7の上面にボルト穴74にねじ込まれたボルトで固定された固定プレート773に一端が接合された連結棒774を通し、反力梁772ののり面2aから離隔する方向への移動が制限されるように固定ナット775を取り付ける。
【0048】
油圧ジャッキ77とのり面2aに配置したH形鋼との間には、油圧ジャッキ77のシリンダが伸長する際の力が計測できるようにしたロードセル771を配置する。この状態で油圧ジャッキ77,77を伸ばすと、反力梁772と連結棒774と固定プレート773を介して、供試体7にのり面直角方向に引き剥がされる力が載荷される。
【0049】
また、供試体7周面の垂下部32は、H形鋼で拘束された状態にして載荷を行った。さらに、水平方向の載荷方法とは異なって載荷時に供試体7が回転しないように拘束し、のり面直角方向に供試体7が引っ張り上げられる状態にした。
【0050】
図9に、のり面直角方向に載荷した試験結果を示した。
図9(a)は定着鉄筋がないケースの供試体変位と引張荷重の関係、
図9(b)は定着鉄筋があるケースの供試体変位と引張荷重の関係を示している。なお、この図は、荷重については斜面上下2箇所のロードセル771,771の計測値を合計値で整理し、変位については供試体7の4隅で計測した変位の平均値で整理している。
【0051】
この試験結果より、定着鉄筋を用いない定着方法Aでは、最大荷重は約6.9kN(27.6kN/m2)であり、その時の供試体変位の平均は92.01mmであった。一方、定着鉄筋73を用いた定着方法Bでは、最大荷重は約10.3kN(41.2kN/m2)であり、その時の供試体変位の平均は69.22mmであった。
【0052】
定着方法Bは、定着方法Aに比べて最大荷重が約1.5倍増加しており、供試体7Bへの定着鉄筋73の設置本数は3本であったため、定着鉄筋1本あたり約1.15kNの定着強度の増加があったことになる。
【0053】
定着方法Aの試験結果と定着方法Bの試験結果とを比較すると、定着方法Bでは最大荷重値が増加し、最大荷重に至るまでの変位量は小さくなっている。このことから、上述した水平方向の引き剥がし試験のように垂下部32の上縁から供試体7Bが剥がれる挙動が先行せずに、載荷初期段階から定着鉄筋6の補強効果が発揮されていることがわかる。これは、引っ掛けられた定着鉄筋6に対して、供試体7Bと垂下部32との境界面全体で一様に抵抗力が発揮されたためと考えられる。
【0054】
また、
図9(b)に示すように、のり面直角方向の引き剥がし試験においても階段状の荷重の増減が起きており、水平方向の引き剥がし試験と同様に定着鉄筋6周辺の補強材ストランドが順次破断しているものと推察される。
【0055】
次に、本実施の形態の補強盛土構造1及び補強盛土の構築方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の補強盛土構造1は、盛土2の内部に横方向に敷設される盛土補強材3の端縁となる垂下部32が、のり面2aに沿って垂れ下げられる。
【0056】
そして、現場打ちコンクリートによって成形されるのり面2aを被覆する張コンクリート5の内部の鉄筋体4に、定着鉄筋6の一端である上片部61が連結され、他端となる下片部62は垂下部32の目に引っ掛けられる。
【0057】
このような定着鉄筋6を盛土補強材3の垂れ下がった垂下部32に引っ掛けるという簡単な構造によって、張コンクリート5の定着力を高めることができる。また、このような補強盛土の構築方法では、定着力を高めるための定着鉄筋6の設置が、垂下部32の目への挿し込みと番線による結束という簡単な作業によって短時間で行えるため、施工性に優れている。
【0058】
さらに、盛土補強材3がジオテキスタイルのような可撓性の材料であっても、立ち上げるのではなくのり面2aに沿って垂れ下げるのであれば、特別な補強をしなくても定着力を高めるための抵抗部として機能させることができる。
【0059】
また、定着鉄筋6を盛土補強材3の垂下部32に引っ掛けるという構成としたことで、張コンクリート5の自重によるすべり止め効果に加えて、地震時の慣性力に対する抵抗力を増加させることができる。この結果、地震時の張コンクリート5の安定性を高めることができる。
【0060】
さらに、定着鉄筋6を盛土補強材3の垂下部32の上部に引っ掛けておけば、張コンクリート5の変位発生後の早い段階から定着力が発揮されるようになる。また、たとえ最初に引っ掛けた箇所の補強材ストランドが破断しても、その下方の目の補強材ストランドに定着鉄筋6が引っ掛かるので、急激に定着力が減少するのを防ぐことができる。
【0061】
このような定着鉄筋6の形状は、Z字状であれば鉄筋を折り曲げ加工することで容易に製作することができる。また、Z字状であれば高さの調整もし易いので、鉄筋体4と垂下部32との離隔に合わせて、形状を調整することができる。さらに、Z字状であれば、真っ直ぐに延びる下片部62を垂下部32の目に挿し込んで引っ掛けた状態にすることが容易にできる。
【0062】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0063】
例えば、前記実施の形態では、略Z字形の定着鉄筋6を例に説明したが、これに限定されるものではなく、略S字形、略L字形など垂下部32の目に挿し込んで引っ掛けられる部分と、鉄筋体4に連結するための部分とを備えた定着材であればよい。
【符号の説明】
【0064】
1 :補強盛土構造
2 :盛土
2a :のり面
3,3A :盛土補強材
31 :水平敷設部
32 :垂下部(垂れ下がり部分、端縁)
4 :鉄筋体
5 :張コンクリート(コンクリート体)
6 :定着鉄筋(定着材)
61 :上片部(一端)
62 :下片部(他端)