(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】多孔質グラフェン膜を製造する方法及び該方法を使用して製造される膜
(51)【国際特許分類】
C01B 32/186 20170101AFI20220830BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220830BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220830BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C01B32/186
B01D71/02
B01D69/00
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2018564741
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2017064156
(87)【国際公開番号】W WO2017212039
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-06-09
(32)【優先日】2016-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508092576
【氏名又は名称】エーテーハー チューリヒ
(73)【特許権者】
【識別番号】518432115
【氏名又は名称】ハイキュ マテリアルズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイト、マレイ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒュン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ギョンジュン
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0160701(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0241069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5~900nmの範囲内の平均サイズを有する細孔(6)を有する、100nm未満の厚さの多孔質グラフェン層(5)を製造する方法であって、該方法は下記のステップ:
化学蒸着条件下でグラフェン形成を触媒するための触媒活性基板(1)を準備するステップであり、前記触媒活性基板(1)はCu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの組合せからなる金属元素の群から選択され、前記触媒活性基板(1)の表面(3)内又は前記触媒活性基板(1)の表面(3)上に、得られる多孔質グラフェン層(5)中の細孔(6)のサイズと本質的に対応するサイズを有する複数の触媒不活性ドメイン(2)が設けられるステップと、
気相の炭素源を使用した化学蒸着をし、前記触媒活性基板(1)の表面(3)上に前記多孔質グラフェン層(5)を形成するステップであり、前記グラフェン層(5)中の前記細孔(6)が、前記触媒不活性ドメイン(2)が存在することにより前記触媒不活性ドメイン(2)が存在する場所で形成されるステップとを有し、
複数の触媒不活性ドメイン(2)を有する前記触媒活性基板(1)が、モリブデン、タングステン、金、銀、ジルコニウム、ニオブ、クロム、それらの混合物/合金、それらの酸化物又は酸化アルミニウムからなる群から選択される触媒不活性材料の
、前記触媒不活性材料の1つの連続する層を形成するための噴霧又は物理蒸着と、
表面マイグレーション/塊状凝集プロセスにおいて本質的にランダムな複数の触媒不活性ドメインとして前記複数の触媒不活性ドメイン(2)を形成するためのその後の
前記1つの連続する層の熱アニーリングとによって製造され、
前記化学蒸着のステップの前に、前記複数の触媒不活性ドメイン(2)を有する前記触媒活性基板(1)を、化学的還元水素環境中においてアニーリングのステップに供する、前記方法。
【請求項2】
前記化学蒸着のステップの前に、前記触媒活性基板(1)に、化学的還元環境中においてアニーリングのステップに供された、複数の触媒不活性ドメイン(2)を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学蒸着のステップの前に、前記触媒活性基板(1)に、化学的還元環境である水素中においてアニーリングのステップに供された、複数の触媒不活性ドメイン(2)を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アニーリングのための条件が、次の通りに選択される、請求項2に記載の方法:
Ar、He及びNe又はN
2を含むイナートガスを含む不活性キャリアガス中50~90体積%のH
2又は70~85体積%のH
2、900~1200℃又は950~1100℃の範囲内の温度で、1~100000Pa又は10~100Paの範囲内の圧力で、30~120分の範囲内又は60~90分の範囲内の期間。
【請求項5】
複数の触媒不活性ドメイン(2)を有する前記触媒活性基板(1)が、触媒不活性材料の又は前記基板を触媒的に不活性化する材料の、スパッタリング、電子ビーム蒸着又は粒子噴霧と、前記複数の触媒不活性ドメイン(2)を形成するためのその後の熱アニーリングとによって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒活性基板(1)が、Cu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの混合物からなる第1の群から選択される元素金属を含む基板であるか、又は、Cu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの混合物からなる第1の群から選択される元素金属からなる基板であり、
前記触媒不活性ドメイン(2)が、前記ドメイン内の前記第1の群と異なる金属の存在によるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒活性基板(1)が、Cu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの混合物からなる第1の群から選択される元素金属を含む基板であるか、又は、Cu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの混合物からなる第1の群から選択される元素金属からなる基板であり、
前記触媒不活性ドメイン(2)が、前記ドメイン内の前記第1の群と異なる金属の存在によるものであり、
前記第1の群と異なる金属は、モリブデン、タングステン、ニオブ、金、銀、ジルコニウム、クロムもしくはそれらの混合物/合金からなる第2の群から、又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒不活性ドメイン(2)が、5~900nmの間の範囲内、10~100nmの範囲内又は10~50nmの範囲内の平均サイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔質グラフェン層(5)が、50nm未満、20nm未満、10nm未満、又は5nm未満の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔質グラフェン層(5)の化学蒸着の後に、前記多孔質グラフェン層(5)を前記基板(1)から除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記多孔質グラフェン層(5)の化学蒸着の後に、ファンデルワールス剥がし、電気化学的層間剥離、又は超音波作動及び/もしくは熱作動を含む機械的作動による離脱を含む、機械的方法及び/又は電気化学的方法を使用して、前記多孔質グラフェン層(5)を前記基板(1)から除去し、その後、別の基板に移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
層間剥離された前記多孔質グラフェン層(5)を、その後、前記多孔質グラフェン層の片側又は両側が多孔質である基板に付着させ、
前記多孔質基板が、群:織布、不織布又はニット構造、金属又はセラミックのメッシュ又は発泡体から選択されてもよい、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記基板(1)を、多孔質グラフェン層(5)の次の製造プロセスに再利用する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
連続プロセス又はバッチプロセスである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細孔(6)が、10~500nm又は20~100nmの範囲内の平均サイズを有し、並びに/あるいは
前記細孔(6)の密度が、0.1~100×10
10cm
-2もしくは0.1~500×10
10cm
-2の範囲内、又は、0.5~150×10
10cm
-2もしくは1~10×10
10cm
-2の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
化学蒸着のステップにおいて、下記の条件が使用される、請求項1に記載の方法:
メタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物を含む飽和又は不飽和の炭化水素を含む炭化水素となるように選択される前記炭素源が、炭化水素及び水素の流動混合物として、水素1部当たり1~1000部、600~800部、1~20部又は1~10部の炭化水素の体積比で提供され、
前記炭化水素及び水素ガスは、アルゴン又は窒素を含むキャリアガスと混合されてもよく、全体圧力が10~10000Pa、10~200Pa、20~150Pa又は80~120Paの範囲内に維持されてもよく、
前記化学蒸着プロセスは、300~1200℃、300~900℃、300~800℃又は500~1000℃の範囲内の温度で、1~12時間の範囲内又は2~4時間の範囲内の期間にわたって行われてもよい。
【請求項17】
化学蒸着のステップにおいて、下記の条件が使用される、請求項1に記載の方法:
メタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物を含む飽和又は不飽和の炭化水素を含む炭化水素となるように選択される前記炭素源が、1~20体積%の濃度で水素と混合され、10~10000Pa、10~200Pa、20~150Pa又は80~120Paの範囲内の全体圧力で使用され、
前記化学蒸着プロセスは、300~1200℃、300~900℃、300~800℃又は500~1000℃の範囲内の温度で、1~12時間の範囲内又は2~4時間の範囲内の期間にわたって行われてもよい。
【請求項18】
前記触媒活性基板上での基板の製造のために、金属層が、触媒的に活性ではない金属を使用して製造され、
次いで、圧力が0.0002Pa以下のベースライン値に低下した後、圧力を10~100Paの範囲内に調整し、前記基板を最初に900~1200℃の範囲内又は950~1100℃の範囲内の温度に加熱して、化学的還元環境中、30~120分の範囲内又は60~90分の範囲内の期間にわたってアニールする、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
銅箔の形態である前記触媒活性基板上での基板の製造のために、金属層が、タングステンとして選択された、触媒的に活性ではない金属を使用して製造され、
厚さ1~10nmである連続する層が、第1のステップにおいて、物理蒸着によって、2.0×10
-5から3.0×10
-4Paまでの範囲内のチャンバ圧力で、0.01~1.0Å/秒の範囲内の堆積速度で製造され、
次いで、圧力が0.0002Pa以下のベースライン値に低下した後、圧力を10~100Paの範囲内に調整し、前記基板を最初に900~1200℃の範囲内又は950~1100℃の範囲内の温度に加熱して、化学的還元環境中、水素及び/又はアンモニアガスの存在下、希ガス又は不活性キャリアガス中50~90体積%の水素中、30~120分の範囲内又は60~90分の範囲内の期間にわたってアニールする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
さらなる加工により、テキスタイル用途のための防水及びかつ高通気性膜;携帯電話及び携帯用デバイスを含む電子機器のための水バリア膜;携帯電話及び携帯用デバイスを含む電子機器のための均圧膜;フィルタ;ガス分離膜;又は導電体用途、半導体用途及び/もしくは発電用途のための電子部品を形成する、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン層内に穿孔された細孔を介する蒸気透過の増強により、防水であるが高通気性である、多孔質(「ホーリー(穴のある)」)グラフェン膜を製造する方法に関する。さらに、本発明は、該方法を使用して製造されるグラフェン膜及びそのような膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アウトドア衣料品において使用される防水膜は、高い液体静圧(雨水の浸透抵抗性)に対して有効であるが、概して、十分な水蒸気輸送、衣服の通気性及びユーザ快適性を可能にするには低い蒸気浸透性に悩まされている。
【0003】
高通気性膜は、化学的防護用の軍服、緊急時対応要員の制服、防護手袋及びアウトドア用の電気回路保護パッケージを含む種々のテクニカルテキスタイル用途にも関連する。高い流出率及び/又は選択性を提供する膜は、分離及びエネルギー用途における広範囲の潜在的用途も有する。これらは、現在存在しない高通気性膜には見られない、多くの他の潜在的な用途領域も活気づけるであろう。
【0004】
GoreTex(登録商標)は、防水膜市場において支配的であるが、ポリアミド及びポリウレタン等のPTFE以外にも種々のポリマーから膜を製造する多数の代替的な膜供給業者がある。いずれの場合にも、膜は、水蒸気の通過を可能にするための小細孔を持つポリマーフィルムからなる。従来の膜の厚さ及び細孔面積密度に対する制約は、蒸気輸送の規模を限定する。
【0005】
高い蒸気透過及び水封特性が必要とされる用途のために提案されている1つの置き換え材料が、多孔質グラフェンである。sp2混成炭素原子の二次元単層シートであるグラフェンは、高い電子伝導性、熱安定性及び機械的強度を含むその例外的な物理的特性のために、世界的な注目及び研究的関心を集めてきた。布ラミネート構造における多孔質グラフェン膜の使用は、下記の文書において提案されている。
【0006】
特許文献1は、概して、繊維質基板バッキングへの多孔質グラフェン層の固定について記述している。該特許は、ラミネートを構築し組み立てるための方法と一緒に、ラミネートアセンブリについて記述している。該特許は、多孔質グラフェン層を形成するために使用される方法については記述していない。
【0007】
特許文献2は、特許文献1において記述されている方法を、グラフェン層の側面における選択的膜層の包含と一緒に、布基板上での多孔質グラフェン膜のアセンブリを用いてさらに詳しく説明している。多孔質グラフェン膜材料の製造は、連続する単層の成長及び層に穿孔すること並びにその後のステップを伴うように描かれている。
【0008】
多孔質グラフェン及びその種々の製造方法に関して本発明に関連する態様を、次の通りのカテゴリ及びサブカテゴリにまとめることができる。
【0009】
カテゴリ1:多孔質グラフェンの合成後形成-シリアルプロセス
合成後形成は、前のステップにおいて合成された連続するグラフェン層中に孔を穿孔することを伴う。シリアルプロセスは、多孔質グラフェン層の孔毎の製作を伴う。これは、多孔質膜のスケールアップ製造のための最小限の実用性を提供する時間のかかるプロセスである。
【0010】
カテゴリ1.1:窒素支援電子ビーム穿孔
窒素ガスの存在下での走査型電子顕微鏡(SEM)撮像を使用して、窒素分子をSEMの集束電子ビームでイオン化することにより、局所反応性イオンエッチングプロセスを誘発することができる。このアプローチを用いて、10nmまでの細孔を多層グラフェン(10層未満)にエッチングすることができる。しかしながら、電子ビーム集束の領域から外への窒素イオン拡散により、細孔に、目的の領域の外側をエッチングさせて、小細孔の密な配列を産出することがこのアプローチの問題点である。加えて、SEMの使用により、シリアル細孔粉砕プロセスをスケールアップすることを困難にする。
【0011】
カテゴリ1.2:FIB及び非収束電子ビームパターニング
この2ステッププロセスにおいて、最初に3keVのAr+集束イオンビーム(FIB)を使用して、所望の欠陥サイズを取得するために148Kに冷却する必要があるグラフェン単層中に1及び2原子欠陥を作成する。次に、80keVの非収束電子ビームを使用して、細孔フリンジから欠陥を成長させ、一方で、欠陥のないグラフェン部分を影響されないままにしておいて、0.6nmまでの直径の細孔の作成を可能にする。
【0012】
代替的に、Ga+又はHe+イオンのいずれかを使用する集束イオンビームを使用して、1000nmから10nm未満までのサイズの細孔を作成することができる。プロセスは、細孔サイズ、細孔密度及び細孔配置の制御を可能にするが、粉砕のシリアルな性質により、スケールアップは困難なままである。また、5nm未満の細孔の粉砕は、難易度が高い。
【0013】
特許文献3において開示されている通りの方法は、グラフェン膜及びそれを製造するための方法を開示している。グラフェン膜は、5から100nmのサイズを有する複数の細孔及びグラフェン層を支持するように構成された支持体を含み、グラフェン層の細孔よりも大きいサイズを有する複数の細孔を含む、多孔質パターンを有するグラフェン層を含む。提案されている方法は、マスクテンプレートを形成するための、グラフェン表面上でのブロックコポリマードメインの形成を伴う。イオンビーム照射へのその後の曝露を使用して、細孔をグラフェン層中にエッチングする。
【0014】
カテゴリ1.3:TEMベースの方法
グラフェンナノ細孔を介するDNAの転位を測定するために、透過型電子顕微鏡(TEM)において300kV加速電圧電子ビームによってフリースタンディング(支えの無い)グラフェンに穿孔することができる。単層及び多層グラフェンは、2nm~40nmの範囲の細孔でパターン化され得る。細孔の周囲ではアモルファス化が観察されず、結晶化度が保持されていることを示している。しかしながら、この方法は、並列ではなく、かなりの時間を要する。
【0015】
カテゴリ2:多孔質グラフェンの合成後形成-並列プロセス
合成後形成は、前のステップにおいて合成された連続するグラフェン層中に孔を穿孔することを伴う。並列加工は、複数の位置のグラフェン層を同時に穿孔することを伴う。
【0016】
カテゴリ2.1:紫外線により誘発される酸化的エッチング
UVエッチングを実施して、長時間曝露時に成長するnm未満の欠陥をグラフェン中に作成する。二層グラフェン膜への1分間曝露で15回のエッチングを繰り返すことにより、例えば、4.9Åの動的直径を有するSF6のサイズの選択的ふるい分けを示す細孔を産出する。
【0017】
カテゴリ2.2:イオン衝撃及び酸化的エッチング
8keVのGa+イオンを、グラフェン表面において52°の入射角で加速して、欠陥をグラフェン格子中に作成することができる。その後、酸性の過マンガン酸カリウムを使用してグラフェン欠陥をエッチングして、不飽和炭素結合をエッチングし、故に、60分のエッチング時間後に細孔径0.4nmの安定化が起こるまで、細孔を拡大することができ、これは、さらなる成長反応を阻害する官能基の形成が起源であると考えられる。
【0018】
カテゴリ2.3:酸素プラズマ
nm未満の細孔は、懸濁した単層グラフェンを、1秒~6秒の酸素プラズマエッチング(20W)に曝露することによって作成でき、ここで、エッチング時間が細孔サイズ及び密度を決定する。1細孔/100nm2の細孔密度での0.5~1nmの細孔サイズは、プラズマへの1.5秒曝露で実現することができる。
【0019】
カテゴリ2.4:ひずみ支援Ptナノ粒子穿孔
Pt前駆体を含有するブロックコポリマー(BCP)ミセルの自己アセンブリは、400℃でのアニーリング後に穿孔が取得されるような、以前に製造されたグラフェン単層を移動することができる基板全体にわたるPtナノ粒子の分布につながる。グラフェンの触媒穿孔は、Ptナノ粒子における局所ひずみにより、容易になる。細孔サイズ及び密度は、ミセル組成物を用いて12.8%の多孔性で17nmの細孔まで制御することができる。大規模穿孔は、理論的には可能なはずであるが、Pt前駆体の均一な分散を取得することは難易度が高く、示されている最大面積はおよそ4μm2である。
【0020】
カテゴリ2.5:金属粒子と接触させる触媒酸化を使用する穿孔
特許文献4及び特許文献5は、現存するグラフェン層の表面に金属薄膜層(Au又はAg)を塗布して堆積すること、続いて、グラフェン表面上に金属粒子ドメインを形成するためのアニーリングステップを提案している。さらなる熱ステップは、触媒酸化を介する金属ドメインとの接触時における細孔の形成につながる。
【0021】
カテゴリ2.6:陽極アルミナをテンプレートとして使用する
基板上のグラフェンは、陽極アルミナ膜を使用してパターン化することができる。陽極アルミナは、小細孔側を現存する連続グラフェン基板に向けて置き、アルミニウムによって保護されていない場合は、プラズマ曝露によりグラフェンを除去する。得られる細孔サイズは、40nm~60nmである。
【0022】
カテゴリ3:グラフェンプレートレットからの多孔質グラフェン膜の形成
グラファイト層の多孔質膜は、代替的に、グラフェン(又は酸化グラフェン)プレートレットで構成されるフィルムのアセンブリを介して形成されてもよい。プレートレットは、原理上、プレートレット境界間での細孔形成によって層状構造を形成する。グラフェンプレートレットアプローチは、グラフェンの固有の二次元平面形状を十分に活用しない、比較的厚い層を形成する傾向がある。
【0023】
カテゴリ3.1:フィルム形成中の細孔テンプレート
特許文献6は、三次元多孔質構造を持つグラフェンフィルムの製造方法について記述している。ポリスチレンドメインは、出発材料としての酸化グラフェンプレートレットから形成されたフィルム層内での細孔形成のための犠牲テンプレートとして使用される。
【0024】
カテゴリ4:多孔質グラフェン膜の直接合成
多孔質グラフェン膜の直接合成は、グラフェン層における多孔質形状を直接的に形成するグラフェン層の同時形成を伴う。直接合成法は、多孔質構造を実現するための合成後加工の必要性を回避する。
【0025】
カテゴリ4.1:粒界欠陥による細孔
特許文献7は、未処理の銅基板上でのグラフェン層の成長を提案している。単層をその後PMMAで溶液コーティングし、次いで、エッチング液に浸漬して、銅を除去する。グラフェン層を担持するPMMA層をPTMSPフィルムに付着させ、溶媒を使用してPMMA層を除去した。得られるグラフェン層において、グラフェンの複数の粒が、グラフェン粒間の欠陥としての細孔とともに存在する。該特許は、液体及び気体からの種々の物質の分離のための膜特性について記述している。
【0026】
カテゴリ4.2:炭素源のテンプレートパターニング、続いて、グラフェン層形成
特許文献8は、グラフェンナノ細孔配列を製造するための方法であって、下記:1)多孔質陽極アルミナ(PAA)テンプレートの表面上に炭素源溶液をコーティングするステップと;2)PAAテンプレートに、金属床の表面上にコーティングされた炭素源を押圧し、PAAテンプレートを剥がし、炭素源が金属床の表面上に保持されており、PAAテンプレートの表面上のものと一致するパターンを炭素源が保持されていることを確実にするステップと;3)水素ガス及びアルゴンガスの混合ガス流の存在下、得られた金属床に対するアニーリング処理を実施し、それにより、炭素源をグラフェンナノ細孔配列に変換するステップと、を含む、グラフェンナノ細孔配列を製造するための方法を提供する。この本発明によって得られるナノ細孔配列は、単一のナノ細孔又はいくつかのナノ細孔よりもむしろ相互接続されたナノ細孔配列構造であり、ナノ細孔の細孔サイズは、PAA自体のテンプレート効果によって調節することができ、後の段階での成長及びエッチングによってさらに調節することができる。
【0027】
特許文献9は、化学蒸着プロセスにより、多孔質基板上に大面積グラフェン層を形成するための方法について記述している。第1のステップにおいて、CVDを使用して炭素材料を多孔質テンプレート上に堆積させる。第2のステップにおいて、炭素材料はアニーリング及び触媒黒鉛化を受けて、炭素がグラフェン層に変換される。第3のステップにおいて、液体剥離を使用して、基板上のグラフェン層の数を低減させる。
【0028】
カテゴリ4.3:多孔質テンプレート及び多孔質パターンを使用する多孔質グラフェンの直接成長
特許文献10は、多孔質構造を持つグラフェン材料の製造方法について記述している。多孔質酸化マグネシウム/シリコン複合材料を、テンプレート基板として使用する。化学蒸着(CVD)を使用して、多孔質テンプレート上に直接的にグラフェンを成長させる。グラフェン層は、テンプレート基板の多孔質構造を保持する。酸化マグネシウム/シリコン複合基板の破壊的なエッチングによって、多孔質グラフェン層を回収する。
【0029】
特許文献11は、成長基板上でパッシベーション材料のパターンを形成することにより、如何にしてグラフェンパターンが作製されるかを開示している。パッシベーション材料のパターンは、成長基板上における露出面の逆パターンを規定する。炭素含有ガスが成長基板の露出面の逆パターンに送給され、炭素からパターン化されたグラフェンが形成される。パッシベーション材料は、グラフェン成長を容易にせず、一方、成長基板の露出面の逆パターンは、グラフェン成長を容易にする。
【0030】
特許文献12は、微細構造及びナノ構造のグラフェンを最初から所望のパターンで直接的に成長させることにより、微細構造及びナノ構造のグラフェンを成長させるための方法を提案している。グラフェンの成長をガイドするパターン化されたグラフェン成長バリアによって部分的に覆われた基板上での化学蒸着(CVD)によって、グラフェン構造を成長させることができる。
【0031】
要約すると、防水通気性膜のための現存する技術は、改善することができ、顧客の快適さ及び衣服又はパッケージの下での材料の保護のために、液体バリア特性を維持しながら、蒸気通気性(急速な水分除去)を獲得するための、改善の余地及び画期的な技術の必要性が存在する。多孔質グラフェン膜は、そのような用途のために提案されており、分析及び従来の通気性膜との比較もされており、より良好な通気性を呈することが示されているが、適切な多孔質グラフェン膜を製造するための現存するプロセスは、アップスケーリング及び工業プロセスに適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】WO-A-2014084860
【文献】US-A-2015273401
【文献】WO-A-2015167145
【文献】KR-A-20120081935
【文献】KR-A-101325575
【文献】CN-A-104261403
【文献】EP-A-2511002
【文献】CN-A-103241728
【文献】TW-A-201439359
【文献】CN-A-102583337
【文献】US-A-2012241069
【文献】US-A-2013160701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
従って、本発明の目的は、多孔質グラフェン膜を製造するための改善された方法、特に、制御可能な低膜層厚さを実現すること並びにグラフェン膜の制御可能な細孔サイズ及び良好な機械的特性を実現することを可能にする方法を提供することである。さらに、該方法は、大規模生産に産業上利用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0034】
アウトドア衣料品において使用される現在の膜は、高い液体静圧(雨水の浸透抵抗性)に対して有効であるが、主に不十分な蒸気浸透性と関連する衣服の乏しい通気性及び顧客の不快感に悩まされている。防水であるが通気性の衣料品市場における、特に水蒸気除去の改善の方向での、画期的な技術革新に向けたかなりの推進力が存在することが認識されている。故に、解決策が求められている技術的課題は、
・ テキスタイル防水特性を維持すること、
・ テキスタイルの防水層全体にわたって蒸散を向上させること、及び
・ 費用効率の高い製造プロセスを設計すること
である。
【0035】
上記の課題の技術的な解決策は、従来の膜よりもはるかに高い速度で蒸気透過を許しながら、毛細管現象によって、液滴、例えば水滴をはじく、グラフェンベースの多孔質疎水性層を製造するための方法の提供である。提案されている通りのこの膜成分の製造は、例えば追加の合成後穿孔プロセスなしに多孔質グラフェンを合成することにより、容易で高速かつ費用効率の高いものである。この材料の合成法は、バッチプロセス又は連続プロセスを可能にする。
【0036】
故に、本発明は、多孔質グラフェンの使用による蒸気透過増強に取り組むものである。多孔質グラフェンは、グラフェン層の平面内にグラフェン材料が局所的に存在しない細孔を有するグラフェン層である。これは、細孔が毛細管現象に好都合な範囲内である場合、液体水浸透をブロックしながら大幅に増強された速度で蒸気透過を可能にする、原子的に薄い疎水性かつ機械的に弾力性のあるグラフェンである。細孔サイズにおいてはトレードオフが存在し、細孔が大きくなればなるほど、水蒸気透過は速くなるが、液体水漏れの可能性が増大する。それ故、本発明の標的細孔サイズは、5~900nmをひとまとめとする。位相選択的輸送機構は、輸送分子自体のサイズではなく固体-液体-気体界面における表面張力に基づくため、広範囲の細孔サイズが混合した手法で可能であり、それにより、製造オプションを容易にし、拡張する。
【0037】
わずかに不活性化した触媒(又は細孔ドメインパターン化銅)箔の使用による多孔質グラフェンの提案されている1ステップ合成法は、追加の合成後穿孔ステップをなくし、それにより、操作効率を増大させることから、有利である。
【0038】
触媒層からの多孔質グラフェン脱離のプロセス設計は、触媒及び基板を再生利用することを狙いとしている。
【0039】
多孔質グラフェンを製造するための連続プロセスの設計は、市場性のある製造オプションに潜在的に近いという点で、技術水準の製作法のほとんどに有利である。
【0040】
従って、一般的に言えば、本発明は、5~900nmの範囲内の平均サイズを有する細孔を持つ、100nm未満、好ましくは50nm未満又は20nm未満、より好ましくは10nm未満の厚さの多孔質グラフェン層を製造するための方法であって、下記:
・ 化学蒸着条件下でグラフェン形成を触媒する触媒活性基板を準備するステップであり、前記触媒活性基板の表面内又は前記触媒活性基板上には、得られる多孔質グラフェン層中の細孔のサイズと本質的に対応する(細孔のサイズと本質的に対応するとは、触媒不活性ドメインが、得られる細孔±20%、好ましくは±10%、最も好ましくは±5%又は±3%のサイズに等しいサイズを有することを意味する)サイズを有する複数の触媒不活性ドメインが設けられているステップと、
・ 気相中の炭素源を使用した化学蒸着及び触媒活性基板の表面上での多孔質グラフェン層の形成ステップであって、グラフェン層中の細孔が、触媒不活性ドメインが存在することにより触媒不活性ドメインが存在する場所で(in situ)形成されるステップと
を含む、方法に関する。
【0041】
グラフェン層は、0.35nmの範囲内の典型的な厚さを有する単層であってよいが、いくつかの層、典型的には最大5、又は最大10の層を有する構造であってもよい。従って、好ましくは、層厚さは、8nm未満、好ましくは5nm未満、又は2nm未満の範囲内である。
【0042】
細孔の平均サイズは、5~900nmの範囲内である。また、サイズ分布は、典型的には単峰性又は二峰性、通常は単峰性及び狭域である。典型的には、最大周波数の半分での細孔サイズの対応する分布の全幅は、平均細孔サイズの50%又は30%未満である。好ましくは、細孔のサイズは、10~800nmの範囲内、最も好ましくは10~500nm又は20~100nmの範囲内である。
【0043】
好ましい実施形態によれば、高密度の細孔が可能であり、0.1~100×1010cm-2の範囲内、好ましくは1平方センチメートル当たり0.5~150×1010個の細孔又は1~10×1010個の細孔の範囲内である。
【0044】
化学蒸着のステップにおいて、好ましくは下記の条件が使用される:
炭素源、好ましくは炭化水素、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物を含む飽和又は不飽和炭化水素が、好ましくは、炭化水素及び水素の流動混合物として、水素1部当たり1~1000部、好ましくは600~800、1~20、又は1~10、又は2~7の炭化水素の体積測定比で提供される。炭化水素及び水素ガスは、アルゴン又は窒素等の(イナート)キャリアガスとさらに混合されてよい。全体圧力は、好ましくは、10~100000Paの範囲内、好ましくは10~200Pa又は20~150Pa又は80~120Paの範囲内に維持される。代替的に、炭素源、好ましくは炭化水素、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物を含む飽和又は不飽和炭化水素が、水素中1~20体積%、好ましくは1~10又は2~7体積%の炭化水素の流動混合物として、10~200Paの範囲内、好ましくは20~150Pa又は80~120Paの範囲内の全体圧力で提供される。CVDプロセスは、好ましくは、300~1200℃の範囲内、特に300~900、500~800又は500~1000℃の範囲内の温度で、1~12時間の範囲内、好ましくは2~4時間の範囲内の期間にわたって行われる。
【0045】
提案されている方法は、上記で論じた通りの技術水準に関して、下記の相違を示す。
【0046】
カテゴリ1(多孔質グラフェンの合成後形成-連続プロセス)とは異なり、本発明は、種々の連続モードの穿孔法を使用する細孔の合成後形成よりも、層内での細孔の形状の直接形成を用いるグラフェンの合成を伴う方法について記述している。シリアル法は、時間がかかり、かつスケールすることが本来困難であるため、本発明は、工業化のための明らかな利点を提供する。
【0047】
カテゴリ2(多孔質グラフェンの合成後形成-並列プロセス)とは異なり、本発明は、種々の並列モード穿孔法を使用する細孔の合成後形成よりも、層内での細孔の形状の直接形成を用いるグラフェンの合成を伴う方法について記述している。時間がかかる後プロセシングの必要性を回避することにより、本発明は、カテゴリ2の方法よりも効率的となる。
【0048】
カテゴリ3(グラフェンプレートレットからの多孔質グラフェン膜の形成)とは異なり、本発明は、グラフェン含有フィルムを形成するためのビルディングブロック成分としてグラフェン(又は酸化グラフェン)プレートレットを使用しない。本発明は、カテゴリ3における方法の比較的厚いフィルム層と比較して、最小限の膜厚さを提供する多孔質グラフェンの直接合成を伴う。より薄い多孔質層ほど、概して、蒸気透過に対してより抵抗性が低くなる。
【0049】
細孔がグラフェン粒界間に受動的に形成されるカテゴリ4.1(直接合成-粒界欠陥による細孔)とは異なり、本発明は、テンプレートアプローチを使用して、形成された細孔の細孔サイズ及び密度特徴のより優れた制御を提供する。本発明は、多孔質特徴のより優れた一貫性及びより好都合な多孔性も提供する。
【0050】
多孔質形状を持つ堆積した炭素層(多孔質基板テンプレートによる)がグラファイト層に変換されるカテゴリ4.2(直接合成-炭素源のテンプレートパターニング、続いて、グラフェン層形成)とは異なり、本発明は、単一ステップにおけるグラフェン層の直接形成を伴う。さらに、本発明において、細孔の形状が触媒不活性金属ドメインの存在により形成されるのに対し、カテゴリ4.2の方法は、多孔質基板を伴う。本発明は、基板特性のより優れた制御及び細孔寸法のより微細な制御を提供する。
【0051】
多孔質基板が多孔質グラフェンの直接成長に使用されるカテゴリ4.3(多孔質テンプレート及びパターンを使用する多孔質グラフェンの直接成長)とは異なり、本発明は、グラフェン層中で細孔の形状を発生させるために、基板表面内又は基板表面上の触媒不活性金属ドメインを使用する。カテゴリ4.3の方法とは異なり、成長基板は、グラフェン層の除去中に破壊されるよりもむしろ再利用され得る。
【0052】
本発明の目的は、グラフェン層上に穿孔された細孔を介する蒸気透過を増強することにより、防水であるが高通気性である多孔質(「ホーリー(孔のある)」)グラフェン膜を製造する方法を提供することである。この方法は、下記の態様:
(i)再生利用可能な基板、連続又はバッチでの多孔質グラフェンの1ステップ合成、
(ii)基板を保持しながらの多孔質グラフェンの移動、
(iii)基板を再生利用する手法、
(iv)従来の膜と比較して蒸気透過が大幅に増強された防水衣料品を実現するために、布と組み合わせた多孔質グラフェン膜の使用
の1つ又は組合せを含む。
【0053】
結果として、超極薄多孔質グラフェンの使用により、究極の蒸気透過が可能になる。多孔質グラフェン、連続又はバッチの1ステップ合成は、プロセス強化の概念を提供する。細孔ドメインパターン化触媒基板を再生利用することにより、資源の持続可能な製造が利用可能になる。該方法は、蒸気透過性多孔質グラフェンから防水であるが通気性のテキスタイルへの変換を可能にする。多孔質グラフェンシートを製造するための連続製造プロセスが利用可能になる。
【0054】
好ましい実施形態によれば、方法は、次の通りに行われる。
1. ドーパント金属(触媒不活性ドメイン形成材料)を触媒活性材料(例えば、銅)基板上に堆積させる、
2. イナートガス中、好ましくは水素ガスを使用する好ましくは還元条件下、触媒活性(銅)表面上で制御されたドーパント粒子ドメインを成長させるための熱アニーリングステップ、
3. 化学蒸着プロセスを使用して、触媒活性(例えば、銅)金属基板上でグラフェンを成長させる。グラフェンは、ドーパント金属粒子が位置する多孔質空隙を形成する。
4. 再利用のために局所的に不活性化された触媒基板を残しながらのグラフェン層の除去。
5. 多孔質グラフェン層を布積層基板に固定して、撥水膜アセンブリ(任意選択)を形成する。
【0055】
好ましい実施形態によれば、複数の触媒不活性ドメインを持つ触媒活性基板を、化学蒸着のステップの前に、熱アニーリングのステップ及び/又は(好ましくは乾燥)水素中で還元する。「乾燥水素」という場合、これは、使用される水素ガスが、好ましくは1体積%を超える、より好ましくは0.1体積%を超える、最も好ましくは0.01体積%を超える、又は0.001、0.0001もしくは0.00001体積%の水(水素ガスを100%とする)を含有しないことを意味する。典型的には、このアニーリングのための条件は、次の通りに選択される:希ガス又は不活性ガス、好ましくはAr、He及びNe又はN2中に混合された50~90体積%、好ましくは70~80体積%のH2、10~100000Pa、好ましくは10~100Pa、より好ましくは30~50Paの範囲内の圧力で、30~120分の範囲内、好ましくは60~90分の範囲内の期間にわたって。
【0056】
複数の触媒不活性ドメインを持つ前記触媒活性基板は、触媒不活性材料の又は基板を触媒的に不活性化する材料の、噴霧又は物理蒸着、特に、スパッタリング、電子ビーム蒸着又は粒子噴霧、及び複数の触媒不活性ドメインを形成するためのその後の熱アニーリングによって、製造することができる。
【0057】
好ましい実施形態によれば、気相中の炭素源を使用する化学蒸着のステップは、好ましくはメタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物からなる群から選択される炭化水素を使用して行われる。好ましくは、これらのガスは、気相の残りを形成する水素と好ましくは混合されて、1~20体積%の濃度で使用される。好ましくは、気相は、10~10000Paの範囲内、好ましくは10~200Pa又は20~150Pa又は80~120Paの範囲内の全体圧力に維持される。好ましい実施形態によれば、化学蒸着プロセスは、300℃超、好ましくは300~1200℃の範囲内、500~1000℃の範囲内又は500~900℃もしくは500~800℃の範囲内の温度で行われる。典型的には、蒸着プロセスは、1~12時間の範囲内、好ましくは2~4時間の範囲内、最も好ましくは2~3時間の範囲内の期間にわたって行われる。
【0058】
特に好ましい実施形態によれば、化学蒸着のステップにおいて、下記の条件が使用される:好ましくは炭化水素、特にメタン、エタン、エチレン、アセチレン及びそれらの混合物を含む飽和又は不飽和炭化水素となるように選択される炭素源が、水素と混合されて、1~20体積%の濃度で、10~10000Paの範囲内、好ましくは10~200又は20~150Pa又は80~120Paの範囲内の全体圧力で使用され、ここで、CVDプロセスは、好ましくは、300~1200℃の範囲内、特に500~1000℃の範囲内の温度で、1~12時間の範囲内、好ましくは2~4時間の範囲内の期間にわたって行われる。
【0059】
さらに別の好ましい実施形態によれば、触媒活性基板、好ましくは銅箔(又は以下でさらに記載する通りの別の触媒活性材料)上での基板の製造のために、好ましくは連続する金属層は、触媒的に活性ではない、好ましくはモリブデン、タングステン、金、銀、ジルコニウム、ニオブ、クロム又はそれらの組合せからなる群から選択される、好ましくはタングステンとして選択される、金属を使用して製造される。好ましい実施形態によれば、触媒的に活性ではない厚さ1~10nmである金属のそのような好ましくは連続する層は、第1のステップにおいて、物理蒸着によって、2.0×10-5から3.0×10-4Paまでの範囲内のチャンバ圧力で製造され、ここで、好ましくは0.01~1.0Å/秒の範囲内の堆積速度が使用される。
【0060】
好ましくは、その後のステップにおいて、この金属層は、還元条件下で、好ましくは水素ガス雰囲気及び少なくとも900℃の範囲内の高温を使用する熱アニーリングを受けて、表面マイグレーション/塊状凝集プロセスにおいて本質的にランダムな触媒不活性ドメインを生成させる。好ましくは、このアニーリングは、30~120分の範囲内の期間にわたって、イナートガス中水素を少なくとも50体積%の割合で使用して行われる。
【0061】
特に好ましい実施形態によれば、触媒活性基板、好ましくは銅箔上での基板の製造のために、金属層は、触媒的に活性ではない金属、好ましくはタングステンを使用して製造され、好ましくは、厚さ1~10nmであるそのような好ましくは連続する層は、第1のステップにおいて、物理蒸着によって、2.0×10-5から3.0×10-4Paまでの範囲内のチャンバ圧力で製造され、ここで、好ましくは、0.01~1.0Å/秒の範囲内の堆積速度が使用される。
【0062】
好ましくは、圧力が0.0002Pa以下のベースライン値に低下した後、圧力を好ましくは10~100Paの範囲内に好ましくは調整し、基板を最初に900~1200℃の範囲内、好ましくは950~1100℃の範囲内の温度に加熱して、化学的還元環境中、好ましくは水素ガス及び/アンモニアガスの存在下、好ましくは希ガス又は不活性キャリアガス中50~90体積%の水素中、30~120分の範囲内、好ましくは60~90分の範囲内の期間にわたってアニールする。
【0063】
好ましくは、触媒活性基板、好ましくは銅箔上で、金属層は、触媒的に活性ではない金属、好ましくはタングステンから製造される。厚さ1~10nmであるそのような連続する層を、第1のステップにおいて、2.0×10-5から3.0×10-4Paまでの範囲内の低いチャンバ圧力で製造することができる。好ましくは、例えば、0.01~1.0Å/秒の範囲内の低い堆積速度が使用される。次いで、圧力を、例えば0.0002Pa未満の値までさらに低減させることができ、基板を最初に900~1200℃の範囲内、好ましくは950~1100℃の範囲内の温度に加熱してアニールし、次いで、下記の還元条件を適用することができる:イナート、好ましくは希ガス又は不活性ガス、好ましくはAr又はN2中に混合された50~90体積%、好ましくは70~85体積%のH2、10~100Pa、好ましくは30~50Paの範囲内の圧力で、通常は900~1200℃、好ましくは950~1100℃の範囲内の温度で、30~120分の範囲内、好ましくは60~90分の範囲内の期間にわたって。アニーリング中、マイグレーション、塊状凝集及びオストヴァルト熟成等の熱的に誘発される表面現象が、触媒活性基板の上で触媒不活性薄フィルムをナノ粒子に変換することに寄与する。
【0064】
触媒活性基板は、好ましい実施形態によれば、銅基板であり、触媒不活性ドメインは、前記ドメインにおける銅と異なる金属の存在によるものである。銅の代わりに又は銅に加えて、別の触媒活性遷移金属を触媒活性基板のための材料として用いることができる。好ましい実施形態によれば、触媒活性基板を形成する材料は、下記の元素金属:Cu、Ni、Pt、Ru、Ir、Rh又はそれらの組合せから選択される。好ましくは、銅と異なる、又はより一般的に言えば触媒活性基板の材料と異なる金属は、モリブデン、タングステン、金、銀、ジルコニウム、クロム、ニオブ又はそれらの混合物/合金からなる金属の群から選択される。対応する金属酸化物系の使用も可能であり、触媒不活性ドメインを形成すること又はそれを形成する酸化アルミニウム粒子の噴霧による、触媒基板のコーティングもさらに可能である。
【0065】
触媒活性基板及び触媒不活性ドメインという場合、これらの用語は、相対的に解釈されるべきであることに留意されたい。触媒不活性ドメインを形成する材料は、ある特定の具体的な状況下で使用される場合及び対応する形態(例えば元素金属形態)で提供される場合、ある特定の程度まではグラフェン形成のための触媒としても作用し得る。しかしながら、不活性ドメインの触媒活性は、触媒活性基板材料のものよりもはるかに小さい。触媒活性は、対応する材料の形態及び触媒(グラフェン形成)活性が実現されるであろう条件に常に依存する。さらに、これは、異なる触媒活性を有する隣接領域の存在又は不存在に依存する。本発明によれば、かつ好ましい実施形態によれば、例えば、銅は、選択されたプロセス条件下でグラフェン成長を容易にするための触媒活性支持体として使用され(それ故「触媒」挙動)、それらの同じプロセス条件を使用して、他の金属(例えば、W)は、グラフェンを形成する傾向が比較的低いことを示し、従って、明白な「非触媒」挙動を呈する。この差動挙動は、提案されている通りのプロセスにおいて細孔の形成を可能にするために十分である。
【0066】
従って、金属の挙動は、成長条件及び系内で同時に使用される他の材料に依存する。従って、触媒及び非触媒は絶対的用語ではなく、ある特定の程度までは、特定のプロセスについての文脈に依拠する。
【0067】
さらに別の好ましい実施形態によれば、触媒不活性ドメインは、5nmから900nm又は好ましくは10nmから100nmの間の範囲内、より好ましくは10~50nmの範囲内の平均サイズを有する。
【0068】
さらなる好ましい実施形態によれば、多孔質グラフェン層の化学蒸着の後に、多孔質グラフェン層はさらなる取り扱い及び使用のために基板から除去される。この除去は、機械的及び/又は電気化学的方法を使用して、特に好ましくは、ファンデルワールス剥がし、電気化学的層間剥離、又は超音波作動による離脱によって達成でき、次いで、別の基板に塗布される。
【0069】
層間剥離された多孔質グラフェン層を、例えば、その後、衣類等の使用、もしくは液体(例えば、水)をはじき蒸気を透過する他の技術分野のために、並びに/又は多孔質グラフェン膜層の後加工及び取り扱いを容易にするために、水及び蒸気浸透性テキスタイル基板に付着させることができる。
【0070】
触媒不活性ドメインを持つ基板は、多孔質グラフェン層の次の製造プロセスに再利用することができ、プロセスは、連続又はバッチプロセスであってよい。
【0071】
さらに、本発明は、テキスタイル用途のための防水かつ高通気性膜としての、上記で記載した通りの方法を使用して製造された多孔質グラフェン層の使用に関する。提案されている多孔質グラフェン層のさらなる用途は、次の通りである:特に携帯電話及び携帯用デバイスを含む電子機器のための水バリア膜;電子デバイスのための均圧膜;フィルタ;ガス分離膜;導電体用途、半導体用途及び/又は発電用途のための電子部品。
【0072】
さらに、本発明は、100nm未満の厚さを持ち、5~900nmの範囲内の平均サイズを有する細孔を持つ、特に、テキスタイル用途のための防水かつ高通気性膜、並びに特に携帯電話及び携帯用デバイスを含む電子機器のための水バリア膜;フィルタ;ガス分離膜;導電体用途、半導体用途及び/又は発電用途のための電子部品としての使用のための、上述した通りの方法を使用して製造された通りの多孔質グラフェン層に関する。
【0073】
本発明の方法に従って製造された通りの細孔の性質は、従来の方法を使用する穴加工によって製造されたものと異なる。製造された細孔は、縁部格子構造により、さらに強固である。また、改善された細孔充填及び面密度を提供する、より可変の孔サイズ分布の確立が可能である。さらに、新たな方法を使用したグラフェンの性質は異なる。トンネルビームからのあまり浮遊しない衝撃(例えば、エネルギーイオン)により、孔間には、より強力な区分がある。
【0074】
それ故、要約すると、防水であるが高通気性のテキスタイル用の多孔質グラフェン膜を製造するための方法が提案される。防水であるが高通気性の膜のための多孔質グラフェン層は、細孔の生成のために予めパターン化された触媒基板上に1ステップ合成によって形成され得る。細孔のサイズは、5nmから900nmの間であってよい。
【0075】
成長予定のグラフェンの細孔のために予めパターン化された触媒基板は、モリブデン、タングステン、金又は他の適切な金属等の触媒不活性材料のサブマイクロメータサイズの粒子でわずかにコーティングされている、銅箔及び銅フィルムであってよい。
【0076】
成長予定のグラフェンの細孔のために予めパターン化された触媒基板は、モリブデン、タングステン、金又は他の適切な金属等の触媒不活性材料のサブマイクロメータサイズのドメインで満たした、エッチングされたキャビティのテンプレートパターンを特色とする、銅箔及び銅フィルムであってよい。
【0077】
多孔質グラフェン層全体にわたる水蒸気透過速度は、市場に現存するテキスタイル膜フィルムよりも1桁分以上高くなり得る。
【0078】
細孔がパターン化された触媒基板の上の多孔質グラフェンは、機械的、化学的及び電気化学的方法によって基板から脱離させることができ、それにより、多孔質グラフェン膜成長のその後のサイクルのための触媒基板の再利用を可能にすることができる。これらの機械的電気化学的方法は、音波処理、熱応答性テープ、感圧テープ、熱膨張の不整合、水分解ベースの泡立ち、及び界面活性剤支援ナイフスライスを含み得る。これらの方法の任意の混ぜ合わせ及びそれらに類似する方法が可能である。
【0079】
多孔質グラフェンの1ステップ成長及び機械的電気化学的脱離は、バッチプロセスで又は連続プロセスで処理することができる。
【0080】
バッチプロセス又は連続プロセスでは、液体炭素原料のスプレーコーティング及びその後の熱アニーリングにより、細孔がパターン化された触媒基板上に多孔質の数層のグラフェンを容易かつ経済的な方式で形成することができる。また、バッチプロセス又は連続プロセスでは、機械的電気化学的方法により、グラフェン層整合性及び基板の再利用の両方を保持しながら、触媒基板から多孔質グラフェンを脱離させることができる。
【0081】
該プロセスに由来する多孔質グラフェン膜成分を特徴とする、防水であるが高通気性のアセンブリも、本発明の目的である。
【0082】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0083】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して下記に記述され、これらは、本発明の好ましい実施形態を例示することを目的とするものであり、本発明を限定することを目的とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】銅箔上への高炭素溶解性金属の堆積(5nm)を示す図であり、(a)において、堆積したドーパント金属は、銅上に40~80nmサイズの粒子のアイランドを形成し、(b)においては、化学的還元環境中の熱的にアニールされたサンプルは、アイランドを変化させないが、銅の結晶化度を、グラフェン成長のためにより適切に変化させる。
【
図2】細孔(又は孔)の形状を持つ多孔質グラフェンの直接形成の概略を示す図である。
【
図3】多孔質グラフェンの成長手順の別の概略図である。
【
図4】多孔質グラフェンの考えられる成長プロセスを示す図である。
【
図5】2×2cm
2の大きさに成長した多孔質グラフェンの写真である。
【
図6】Cu上のWナノ粒子の代表的な走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図7】SiO
2/Si上に移動した多孔質グラフェンの代表的な低倍率のSEM画像である。
【
図8】SiO
2/Si上に移動した多孔質グラフェンの代表的な高倍率のSEM画像である。
【
図9】SiO
2/Si上に移動した多孔質グラフェンの代表的な高倍率のSEM画像である。
【
図10】多孔質グラフェン及びプリスティングラフェンの代表的なラマンスペクトルである。
【
図11】多孔質グラフェンの細孔サイズヒストグラムである。
【
図12】多孔質グラフェンの代表的な原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
物理蒸着(触媒不活性化細孔パターンドーピング)及び化学蒸着(CVD)を組み合わせたアプローチは、単一CVDステップにおいて触媒基板上で直接的に多孔質グラフェンフィルムを決定論的に(deterministically)合成するために使用される。決定論的合成は、細孔サイズ分布及び面密度の適正な制御を必然的にもたらす(implies)。細孔サイズ制御は、触媒基板上への触媒不活性材料の物理蒸着、続いて、熱アニーリングによって達成される。
【0086】
触媒基板の不活性化孔パターニングは、
図1において例示されている通りに使用される。物理蒸着が長期にわたるか又は費用のかかるものであることが判明すれば、触媒不活性化材料を触媒基板上に噴霧することを、代替的方法として考慮することができる。
【0087】
グラフェンCVDを、この孔がパターン化された触媒基板上で実行されて、不活性化した触媒ドメインのパターンを除くどこにでもグラフェンを成長させることにより、多孔質グラフェンを製造する。
【0088】
成長した多孔質グラフェンを、電気化学的に又はファンデルワールス脱離によって又は触媒-基板エッチングによって除去する。触媒基板の再利用が可能である。
【0089】
このプロセスの概略は、
図2において例示されている。銅基板1の形状の触媒基板には、複数の触媒不活性ドメイン2が設けられている。これらは、図の下段において例示されている通り、基板に埋め込まれたようになっていてよく、平面を改変しなくてもよいが、基板の表面3上に局所粒又は隆起の形態で存在してもよい。化学蒸着プロセスにおけるグラフェン層の成長のステップ4の中央に例示されている通り、触媒不活性ドメイン2上ではグラフェン形成が阻害されるため、細孔6を形成し、細孔の分布は、触媒不活性ドメイン2の分布に対応する。このように、得られる多孔質グラフェン層5の細孔サイズ及び細孔分布の非常に高度な制御が可能である。グラフェン層は、触媒活性表面と触媒不活性ドメイン2との間の界面において、最大で縁部7までしか成長しない。
【0090】
多孔質グラフェン層5の除去のステップ10を示す
図2の左端の列において例示されている通り、基板は、基本的に層の除去後に影響されず、矢印9によって例示されている通り、その後の製造プロセスに再利用され得る。
【0091】
このように、900nm未満の範囲の直径及び5nm未満の膜厚さを持つ多孔質グラフェンの合成及び再生利用可能な移動が、1ステッププロセスにおいて高制御及び高効率で可能である。
【0092】
多孔質グラフェン膜は、下記のアプローチを使用して製造される。
【0093】
(A)細孔がパターン化された基板テンプレートの製造
図2に描写されている通り、非触媒ドープドメイン2のランダムパターンは、触媒基板1(銅箔)の真上に形成される。グラフェン成長条件中、この非触媒ドープドメイン2は、犠牲金属炭化物を形成するか、又は単に触媒的に不活性のままであり、それにより、その上にグラフェンを製造しない。
【0094】
ランダム孔ドーピングパターンを製造する最も簡単な手法の1つは、触媒活性基板1上へのスパッタリング又は電子ビーム蒸着又は粒子噴霧等、物理蒸着によって非触媒金属を堆積させることである。非常に少量の材料の堆積は、パーコレーション閾値に到達することなく、表面拡散、塊状凝集及びオストヴァルト熟成によるナノ粒子への熱アニーリングによって後に成長する核製造種を作成する。
【0095】
一例として、
図1に示されている通りの結果は、銅箔の上での100nm未満の金属ナノアイランドの形成成功を例示するものである。CVD環境中で炭素質前駆体に曝露されると、グラフェン核製造の代わりにタングステンが堆積して、炭化物形成をする又は無傷のままである傾向がある。タングステン堆積量と熱アニーリング条件との間の関係は、金属ドメインの粒度分布を、理想的には10から100nmの間に制御するように調整できる。タングステンが触媒不活性材料として無効ならば、モリブデン、ジルコニウム、クロム及びニオブ等の他の非触媒又は炭化物形成金属種でタングステンを置き換えてよく、あるいは銅基板上への金(又は銀等の他の金属)ナノ粒子の堆積物又は噴霧物を代替的に使用することができる。
【0096】
(B)多孔質グラフェンのCVD合成
基板1としての局所的に不活性化された銅又はタングステンがパターン化された酸化銅は、CVDプロセスに入って、タングステンドメイン2上ではなく銅の上にグラフェンを合成する。
【0097】
始めのステップとして、混合金属層を乾燥水素雰囲気中でアニールして、タングステンがパターン化された銅を形成した後、続けてグラフェンCVDを行う。
【0098】
グラフェンCVDは、十分な量の炭素原料(エチレン又はアセチレン)を供給して、銅基板の上でのグラフェンの完全な被覆の形成を確実にすることを伴う。
【0099】
テキスタイル用途では、グラフェン単層を合成することが必ずしも重要であるとは限らない。二重層、三重層又は数層のグラフェンは、この方法において、より大きい炭素原料分圧で形成され得る。
【0100】
タングステンアイランドドメイン2は、タングステンの上にグラフェンを形成する代わりに、炭化物形態に転換するか又は無傷のままとなって、グラフェン層の中に「細孔」を選択的に生じさせることになる。同様に、モリブデン、ニオブ、金、銀又は他の適切な金属ナノ粒子を使用することができる。
【0101】
成長した多孔質グラフェンの成長速度論及び品質は、顕微ラマン分光法(600nm未満の励起波長を使用する)及び走査型電子顕微鏡法(SEM)によってモニターすることができる。サンプルの2D走査により、多孔質グラフェンのランダムホーリー特徴を同定する、ラマンGピーク、G’ピーク、Dピーク及びD’ピークのマップを生成することができる。SEMにより、グラフェンの大面積接続についての情報を得ることができる。原子間力顕微鏡法(AFM)も、顕微ラマン分光法の2Dマップを裏付ける表面モルフォロジーを提供することができる。
【0102】
(C)布地又は他の多孔質基板へのグラフェンの移動
多孔質グラフェンを再度成長させるのに金属層を再利用するための、銅1上のタングステンの混合金属層からの多孔質グラフェン層5の脱離。この目的を達成するために、3つ以上の方法が可能である:ファンデルワールス剥がし(方法論A);電気化学的層間剥離(方法論B);及び機械的(例えば、超音波)又は熱作動を介する離脱(方法論C)。
【0103】
方法論Aは、ファンデルワールス力を使用して、わずかに不活性化した触媒基板から多孔質グラフェン層を剥がす。例えば、この方法は、混合金属層から多孔質グラフェンを脱離させてそれをメッシュ又は布地基板に移動することができるように、熱応答性テープ又は感圧テープを用いることができる。移動が成功したら、熱及び加圧処理を使用して、グラフェンからテープを除去することができる。場合により、グラフェンと窒化ホウ素との間のファンデルワールス相互作用を増大させるために、これらのテープを二次元窒化ホウ素層でコーティングすることができる。
【0104】
方法論Bは、電気化学反応を用いてグラフェン-金属界面に泡を発生させて、多孔質グラフェンをクリーンな手法で層間剥離させる。
【0105】
方法論Cは、グラフェンを触媒基板(例えば、銅箔)から離脱させるために、主に(largely)該基板の機械的及び熱作動を伴う。超音波活性化は、およそ40mJ/m2の層間凝集エネルギーを克服することで、液体中のグラファイトからグラフェンを剥離するために広く用いられてきた。グラフェンと銅との間の凝集は、より強くなり得る。グラフェンと銅の下地層との間の平均凝集エネルギーは、6J/m2の高さであると測定されたが、音波処理及び界面活性剤を組み合わせて使用することによってグラフェンの離脱成功の見込みがある。銅上でのグラフェンの超音波作動は、電気化学的層間剥離(方法論B)を容易にすることもできる。代替的に、超音波作動を、界面活性剤水溶液環境中で機械的なナイフエッジ剥がしと組み合わせることができる。また、グラフェン及び銅の急速冷却又は急速加熱は、熱膨張の不整合を誘発し得、この方法を機械的作動オプションと組み合わせることができる。
【0106】
実験例(特に
図3~
図12も参照):
Cu箔の上の厚さ数ナノメートルのタングステンフィルム、W/Cu二重層金属触媒を、2.0×10
-5から3.0×10
-4Paまでの範囲内の低いチャンバ圧力及び0.02Å/秒の低い堆積速度での電子ビーム蒸着によって製造した。
【0107】
ホーリーグラフェンを合成させるために、ベース圧(base pressure)が0.1Pa未満に到達したら、CVDチャンバ内の2つの炉を最初に1050℃に加熱して、W/Cuを、Ar中80体積%のH2の混合物中、40Paの圧力下、75分間にわたってアニールした。アニーリング中、マイグレーション、塊状凝集及びオストヴァルト熟成等の熱的に誘発される表面現象が、Cuの上でW薄フィルムをWナノ粒子に変換することに寄与する。
【0108】
次いで、炉の上流側を700℃に60分間にわたって温度を下げて、グラフェンの成長速度を低下させた。
【0109】
次いで、多孔質グラフェンを、自己エンクロージャ又は折り畳まれた形態で、W修飾された(decorated)Cu上に、H2中5体積%のCH4とともに、90Paで3時間にわたって成長させた。最後に、炉を、Ar又はH2リッチAr中、90Paの圧力で冷却した。
【0110】
多孔質グラフェンを保護するために、スピンコーターを使用してポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)溶液をグラフェン/金属基板上に塗布した。
【0111】
次いで、金属基板を、0.5M過硫酸アンモニウムによって10時間かけて除去した。PMMA/多孔質グラフェンを蒸留水ですすぎ、次いでPMMA支持層を持つ多孔質グラフェン浮動(floating)層を、標的基板に移動させた。
【0112】
完全な合成プロセスの概略図を
図3において例示し、プロセスの個々の段階を
図4において例示する。
【0113】
成長し、移動した多孔質グラフェンを、走査型電子顕微鏡法(SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)及びラマン分光法を使用することによって特徴付けた。特に
図5~
図12を参照する。
【0114】
平均細孔サイズは29.2±8.5nmであり(
図11における特徴付けも参照)、単位面積当たりの細孔の数は1.56×10
10cm
-2である。
【符号の説明】
【0115】
1 触媒基板、銅基板
2 触媒不活性ドメイン
3 基板の表面
4 基板上でのグラフェン層の成長のステップ
5 多孔質グラフェン層
6 多孔質グラフェン層5中の細孔
7 細孔6の縁部
8 基板1からの多孔質グラフェン層5の除去
9 再利用基板
10 多孔質グラフェン層の除去のステップ
11 タングステン堆積
12 連続したタングステンフィルム層
13 銅エンクロージャ
14 銅エンクロージャを塗布するステップ
15 熱アニーリングのステップ
16 銅エンクロージャの除去
17 PMMAコーティング
18 PMMAコーティング層
19 金属触媒除去
20 キャリア基板への移動
21 キャリア基板
22 断面図
23 上面図
24 炉ゾーン2
25 炉ゾーン3
26 アニーリング(アルゴン又は窒素等のキャリアガス中50~90体積%の水素)
27 成長(1~20体積%の炭化水素原料中)