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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】検眼装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/13 20060101AFI20220830BHJP
   A61B 3/16 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61B3/13
A61B3/16 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018170717
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020039701
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辺 光春
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 睦月
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佳人
(72)【発明者】
【氏名】大場 篤哉
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-68829(JP,A)
【文献】特開平8-150117(JP,A)
【文献】特開2011-5131(JP,A)
【文献】特開2002-65612(JP,A)
【文献】特開2015-146859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
見口と、
前記見口を介して被検眼の角膜に測定光を照射するように構成される光源と、
前記見口を介して前記角膜からの反射光を受光するセンサを備える受光系と、
前記センサからの受光信号に含まれる角膜内皮の信号波形と角膜上皮の信号波形とに基づき、前記被検眼の角膜厚を測定するように構成される制御部と、
を備え、前記制御部は更に、前記角膜内皮の信号波形と角膜上皮の信号波形とに基づき、前記見口が汚れているか否かを判定するように構成される検眼装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記見口が汚れていると判定したときに、前記見口が汚れていることを、表示器を介して報知する請求項1記載の検眼装置。
【請求項3】
前記検眼装置は、前記被検眼の眼圧を測定するための測定系を備え、パキメータ及びトノメータとして機能し、
前記見口には、前記眼圧の測定時に圧縮空気が送出される開口部が設けられている請求項1又は請求項2記載の検眼装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記角膜内皮の信号波形から前記角膜上皮の信号波形までの前記受光信号の波形変化に基づき、前記見口が汚れているか否かを判定する請求項1~請求項3のいずれか一項記載の検眼装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記角膜内皮の信号波形が示す第一のピークと前記角膜上皮の信号波形が示す第二のピークとの間の谷部の高さ、前記第二のピークの幅、前記第二のピークの面積、前記第一のピークのピークエンドから前記第二のピークのピークトップまでの区間の近似直線の傾き、前記近似直線の前記角膜上皮の信号波形からの乖離度、前記第一のピークのピークエンドから前記第二のピークのピークトップまでの区間の局所ピークの数の少なくとも一つに基づき、前記見口が汚れているか否かを判定する請求項1~請求項4のいずれか一項記載の検眼装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記角膜内皮の信号波形が示す第一のピークと前記角膜上皮の信号波形が示す第二のピークとの間の谷部の高さ、及び、前記第二のピークの幅に基づき、前記見口が汚れているか否かを判定する請求項1~請求項4のいずれか一項記載の検眼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検眼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼に対向する見口の汚れを検知する機能を備えた検眼装置が既に知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、検眼装置は、被検眼の角膜に所定の位置関係を有する複数の指標を投影し、角膜に投影された複数の指標の光量レベルに基づき、見口周辺の光学部材の汚れを検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-210413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来装置は、光学部材を通る光の光量レベル、及び、光学部材を通らない光の光量レベルに基づき、光学部材の汚れを検知するため、汚れ検知のための構造が複雑であった。
【0005】
そこで、本開示の一側面によれば、従来よりも簡易な構成で、見口の汚れを検知可能な検眼装置を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る検眼装置は、見口と、光源と、受光系と、制御部と、を備える。光源は、見口を介して被検眼の角膜に測定光を照射するように構成される。受光系は、見口を介して角膜からの反射光を受光するセンサを備える。制御部は、センサからの受光信号に含まれる角膜内皮の信号波形と角膜上皮の信号波形とに基づき、被検眼の角膜厚を測定するように構成される。制御部は更に、角膜内皮の信号波形と角膜上皮の信号波形とに基づき、見口が汚れているか否かを判定するように構成される。
【0007】
この検眼装置によれば、角膜厚測定に用いる光学系からの受光信号に基づいて、見口が汚れているか否かを判定することができる。従って、本開示の一側面によれば、従来よりも簡易な構成で、見口の汚れを検知可能な検眼装置を提供することができる。
【0008】
本開示の一側面によれば、制御部は、見口が汚れていると判定したときに、見口が汚れていることを、表示器を介して報知してもよい。
【0009】
本開示の一側面によれば、検眼装置は、被検眼の眼圧を測定するための測定系を備え、パキメータ及びトノメータとして機能してもよい。見口には、眼圧の測定時に圧縮空気が送出される開口部が設けられていてもよい。トノメータとして機能する検眼装置によれば、圧縮空気を被検眼に当てる際に、見口が汚れやすい。この見口の汚れを、角膜厚の測定のための構成を用いて検知することは、検眼装置の簡素化に貢献する。
【0010】
本開示の一側面によれば、制御部は、角膜内皮の信号波形から角膜上皮の信号波形までの受光信号の波形変化に基づき、見口が汚れているか否かを判定してもよい。
【0011】
例えば、制御部は、角膜内皮の信号波形が示す第一のピークと角膜上皮の信号波形が示す第二のピークとの間の谷部の高さ、第二のピークの幅、第二のピークの面積、第一のピークのピークエンドから第二のピークのピークトップまでの区間の近似直線の傾き、近似直線の角膜上皮の信号波形からの乖離度、第一のピークのピークエンドから第二のピークのピークトップまでの区間の局所ピークの数の少なくとも一つに基づき、見口が汚れているか否かを判定してもよい。
【0012】
見口の汚れは、センサまでの光伝播に影響を与え、第二のピークの立ち上がりに影響を与える。従って、上述したパラメータを用いることで、見口が汚れているか否かを良好に判定することができる。
【0013】
本開示の一側面によれば、制御部は、角膜内皮の信号波形が示す第一のピークと角膜上皮の信号波形が示す第二のピークとの間の谷部の高さ、及び、第二のピークの幅に基づき、見口が汚れているか否かを判定してもよい。この判定手法によれば、比較的簡単に、見口の汚れを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】検眼装置の外観構成を表す図である。
図2】検眼装置の内部構成を表すブロック図である。
図3】光学系の構成を表す図である。
図4】制御装置が実行する角膜厚測定に関する処理のフローチャートである。
図5】角膜からの反射光成分を含む受光信号の波形グラフであって、下段に見口が汚れていないときの波形を表し、上段に見口が汚れているときの波形を表すグラフである。
図6】制御装置が実行する汚れ判定に関する処理のフローチャートである。
図7図7A及び図7Bは、汚れ判定に用いるパラメータを説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態の検眼装置1は、被検眼Eの角膜の厚みを測定するパキメータ、及び、眼圧を測定するトノメータとして機能するように構成される。この検眼装置1は、ヘッド部3と、本体部5と、支持構造7と、ディスプレイ9とを備える。
【0016】
ヘッド部3は、本体部5に対してXYZ(左右、上下、前後)方向に相対移動可能に取り付けられている。支持構造7は、被検者の顔、特には、被検者の顎を支持するように構成され、本体部5に固定される。ディスプレイ9は、ヘッド部3の被検者と向き合う前部とは反対側の後部に設けられる。検眼時には、被検者の顔が支持構造7に配置される。これにより、被検眼Eの位置は、被検者の顔が支持構造7に支えられることにより安定する。検眼時には、更に、ヘッド部3が本体部5に対してXYZ方向に相対移動して、ヘッド部3に内蔵される光学系が、被検眼Eに位置合わせされる。
【0017】
図2に示すように、ヘッド部3は、アライメント光学系100、観察光学系300、固視光学系400、第一測定光学系500、及び第二測定光学系600を上記光学系として備える。
【0018】
本体部5は、制御装置700、記憶装置710、XYZ駆動制御系720、及び操作系740を備える。制御装置700は、検眼装置1の全体を統括制御し、被検眼Eの測定データを処理するように構成される。制御装置700は、例えば、プロセッサ701及び一時記憶メモリ703を備え、記憶装置710が記憶するプログラムに従う処理をプロセッサ701が実行するように構成される。記憶装置710は、例えばフラッシュメモリ等の、電気的にデータ書換可能な不揮発性メモリで構成される。
【0019】
XYZ駆動制御系720は、制御装置700からの指示に基づき、ヘッド部3を本体部5に対してXYZ方向に相対移動させるように構成される。操作系740は、検査者からの操作を受け付けるために、ジョイスティック741を備える。更に、タッチパネル(図示せず)が、操作系740の一部として、ディスプレイ9の画面上に設けられてもよい。ディスプレイ9は、制御装置700に制御されて、被検眼Eの画像、並びに、測定された眼圧及び角膜厚等の各種情報を検査者に向けて表示するように構成される。
【0020】
図3に示すように、ヘッド部3に内蔵されるアライメント光学系100は、光源101、ホットミラー102、対物レンズ103、及びホットミラー104を備える。光源101は、アライメント光を出力するように構成される。
【0021】
光源101からのアライメント光は、ホットミラー102で反射され、対物レンズ103を通り、ホットミラー104で反射された後、見口200を通って、被検眼Eの角膜に向けて照射される。光源101は、例えば、赤外光を出力するLEDである。
【0022】
見口200は、ノズル201及び平面ガラス205を備える。ノズル201は、被検眼Eと対向する透明な窓部材201aと、窓部材201aの中央に噴射口201bを形成する圧縮空気の噴射路としての開口部201cと、を備え、眼圧測定時には、この開口部201cを通じて噴射口201bから被検眼Eに向けて圧縮空気が送出される。上記ホットミラー104で反射されたアライメント光は、見口200の平面ガラス205及びノズル201の開口部201cを通って、被検眼Eに照射される。
【0023】
被検眼Eの角膜で反射された光は、主光軸O1上に配置された、観察光学系300の二次元撮像素子(CCD)306で受光される。これにより、アライメント光に対応する反射光は、二次元撮像素子306で撮影される。反射光の撮影画像を含む二次元撮像素子306からの画像信号は、制御装置700で処理される。制御装置700は、この画像信号に含まれる反射光に基づいて、被検眼Eの角膜頂点のXY方向の位置を検出する。XYZ駆動制御系720は、検出されたXY方向の位置に基づき、ヘッド部3を被検眼Eに対してXY方向に位置合わせするように移動させる。
【0024】
観察光学系300は、光源301、光源302、対物レンズ303、ダイクロイックミラー304、結像レンズ305、及び二次元撮像素子306を備える。光源301及び光源302は、被検眼Eの前眼部領域を照明するように設けられる。光源301及び光源302には、アライメント用の光源101よりも短波長の赤外光を出力するLEDが採用される。以下では、光源301及び光源302からの光を観察光と表現する。
【0025】
光源301及び光源302からの観察光は、被検眼Eで反射する。その反射光は、ホットミラー104を透過し、対物レンズ303、ダイクロイックミラー304、結像レンズ305を通って、二次元撮像素子(CCD)306で受光される。この受光動作により、被検眼Eの前眼部領域は、二次元撮像素子306で撮影され、二次元撮像素子306からは、その撮影画像を表す画像信号が出力される。制御装置700は、この二次元撮像素子306からの画像信号に基づき、被検眼Eの前眼部画像を、ディスプレイ9に表示させるように、ディスプレイ9を制御する。
【0026】
この他、固視光学系400は、光源401、リレーレンズ403、及び反射ミラー404を備える。光源401は、被検者の固視を促す光(以下、固視光と表現する。)を照射するように動作する。この固視光は、リレーレンズ403を通り、反射ミラー404で反射した後、ダイクロイックミラー304で反射して主光軸O1を通り、対物レンズ303、ホットミラー104を通って、被検眼Eの網膜上で結像する。この固視光により、被検眼Eは、眼圧検査などの眼特性を検査可能な固視状態に置かれる。光源401には、被検者が視認可能な可視光を出力するLEDが採用される。
【0027】
眼圧測定用の第一測定光学系500は、光源501、ハーフミラー502、集光レンズ503、及び受光素子504を備える。光源501からの光(以下、第一測定光と表現する。)は、ハーフミラー502を透過後、ホットミラー102及び対物レンズ103を透過し、ホットミラー104で反射して主光軸O1を通り、平面ガラス205、ノズル201の開口部201cを通って、被検眼Eの角膜に照射される。
【0028】
被検眼Eの角膜に照射した光は、角膜で反射し、往路を戻るように、ノズル201の開口部201c及び平面ガラス205を通り、ホットミラー104で反射し、対物レンズ103及びホットミラー102を通り、ハーフミラー502で反射し、集光レンズ503を通って、受光素子504で受光される。
【0029】
眼圧検査時には、ノズル201から圧縮空気が被検眼Eの角膜に向けて噴射される。圧縮空気が噴射されると被検眼Eの角膜が変位変形し、これにより受光素子504で受光される光量が変化する。被検眼Eの眼圧は、この光量の変化の度合いから算出される。
【0030】
光源501には、観察光より長波長で、且つ、アライメント光より短波長の赤外光を出力するLEDが採用される。このように、アライメント光、観察光、固視光、第一測定光の波長が設定され、ホットミラー102、104及びダイクロイックミラー304の反射/透過特性が適宜設定されることにより、これら4つの光は適切な光路に沿って伝播する。
【0031】
角膜厚測定用の第二測定光学系600は、光源601、レンズ602、円柱レンズ603、及び受光素子604を備える。光源601からの光(以下、第二測定光と表現する。)は、レンズ602により平行光に変換された後、見口200の透明な窓部材201aを通って被検眼Eの角膜に照射される。角膜に照射された第二測定光は、被検眼Eの角膜内皮および角膜上皮で反射する。これらの反射光は、見口200の透明な窓部材201aを通って円柱レンズ603を通り受光素子604で受光される。光源601には、例えば、可干渉性を有するスーパールミネッセントダイオード(SLD)が採用される。光源601には、SLDに限らずレーザーダイオード(LD)のように可干渉性をもつ光源(ダイオード)が採用されてもよい。
【0032】
光源601として可干渉性光源を用いた場合には、スペックルノイズが発生し、角膜厚の測定精度が低下する可能性があるが、上記のように被検眼Eの角膜内皮および角膜上皮で反射された第二測定光を、円柱レンズ603を通しライン状の光とすることにより、スペックルノイズを低減することができる。
【0033】
受光素子604からの受光信号は、制御装置700で処理される。制御装置700は、この受光信号から特定される被検眼Eの角膜内皮からの反射光と、角膜上皮からの反射光との受光面上の受光位置の差に基づき、被検眼Eの角膜厚を測定するように動作する。
【0034】
付言すれば、第二測定光学系600は、検眼前にZアライメント光学系としても利用される。受光素子604における反射光の受光位置は、被検眼Eの角膜のZ方向の位置に応じて変化する。制御装置700は、この受光位置に基づき、被検眼Eの角膜のZ方向の位置を検出する。XYZ駆動制御系720は、この検出位置に基づき、被検眼Eに対するヘッド部3のZ方向の位置を調整する。
【0035】
検眼装置1において、被検眼Eに対するヘッド部3のZ方向の位置合わせは、例えばジョイスティック741を用いて手動で粗く行われ(粗アライメント)、その後、第二測定光に基づいて、自動で精度よく行われる(精アライメント)。上述したように、被検眼Eに対するヘッド部3のXY方向の位置合わせも同様に、例えば、ジョイスティック741を用いて手動で粗く行われ(粗アライメント)、その後、アライメント光に基づいて、自動で精度よく行われる(精アライメント)。
【0036】
続いて、制御装置700が角膜厚の測定時に実行する処理の詳細を、図4を用いて説明する。制御装置700は、操作系740を通じて検査者から角膜厚の測定指示が入力されると、図4に示す処理を開始する。
【0037】
図4に示す処理を開始すると、制御装置700は、測定前処理を実行する(S110)。測定前処理では、角膜厚の測定のための準備動作が制御装置700の制御の下、検眼装置1内で行われる。
【0038】
具体的に、制御装置700は、検眼装置1内各部を制御し、観察用の光源301、302、アライメント用の光源101、固視用の光源401及び角膜厚測定用の光源601を点灯させる。
【0039】
更に、制御装置700は、検査者によるジョイスティック741の操作に応じて、ヘッド部3をXYZ方向に粗アライメントする。制御装置700は、粗アライメントによりヘッド部3が自動アライメント可能な位置に調整されると、XYZ駆動制御系720と協働して、ヘッド部3を自動で精度よく位置合わせする(精アライメント)。また、光源401からの固視光の照射により、被検眼Eの固視状態を形成する。
【0040】
その後、制御装置700は、光源601から第二測定光を被検眼Eの角膜に照射する(S120)。この照射により、角膜からの反射光が、受光素子604で受光される。制御装置700は、この受光信号を受光素子604から取得し、取得した受光信号を解析する(S130)。受光信号には、角膜内皮からの反射光成分及び角膜上皮からの反射光成分が含まれる。
【0041】
具体的に、受光信号は、受光素子604の受光面における受光強度の一次元空間分布を表す画像信号である。受光素子604は、反射光の一次元空間分布を測定可能なラインセンサであり、被検眼Eを通るZ軸を中心に、光源601とは対照的な位置に存在する。
【0042】
角膜内皮及び角膜上皮は、角膜内皮及び角膜上皮のZ方向の位置が異なることから、角膜内皮及び角膜上皮からの反射光は、受光素子604の受光面上の異なる位置で受光される。このため、横軸を受光位置、縦軸を受光強度に設定したグラフに、受光信号が示す各受光位置(画素)の受光強度をプロットしたとき、角膜内皮からの反射光成分及び角膜上皮からの反射光成分は、横軸上の異なる位置に急峻な山を形成するピーク信号波形として現れる。
【0043】
S130において、制御装置700は、角膜内皮からの反射光に対応するピーク信号波形P1と、角膜上皮からの反射光に対応するピーク信号波形P2との受光位置の差Dを計算することにより、角膜厚を測定する。図5の下段に示す受光強度のグラフは、正常時の受光信号の波形の例を示す。図5下段に示すグラフから理解できるように、正常時の受光信号には、角膜内皮に対応するピーク信号波形P1と、角膜上皮に対応するピーク信号波形P2と、が急峻なピーク信号波形として現れる。
【0044】
これに対し、図5の上段に示す受光強度のグラフは、見口200の窓部材201aに汚れが付着しているときの受光信号の波形の例を示す。光源601からの第二測定光は、窓部材201aを透過して被検眼Eの角膜に照射され、その反射光も窓部材201aを透過して受光素子604で受光される。
【0045】
見口200の窓部材201aが汚れている場合には、汚れに起因する乱反射等で、ピーク信号波形P1,P2の急峻度が弱まり、角膜内皮のピーク信号波形P1のピークスタートから角膜上皮のピーク信号波形P2のピークエンドまでの受光信号の波形が、正常時とは大きく変化する。特に、ピーク信号波形P1のピークエンドからピーク信号波形P2のピークトップまでのピーク信号波形P2の立ち上がり区間における受光信号の波形が、正常時とは大きく変化する。
【0046】
本実施形態の制御装置700は、このような受光信号の波形の変化を検知して、見口200の汚れを検知する。このために、制御装置700は、S130において、角膜内皮に対応するピーク信号波形P1のピークエンドにおける受光強度A2を特定する。受光強度A2は、角膜内皮に対応するピーク信号波形P1と角膜上皮に対応するピーク信号波形P2との間の谷の高さに対応する。
【0047】
更に、制御装置700は、ピーク信号波形P2の立ち上がりの緩慢さを表す値として、ベースラインの受光強度A1と、ピーク信号波形P2のピークトップにおける受光強度A6との中間の受光強度A4=(A1+A6)/2における、ピーク信号波形P2の幅Wを算出する。幅Wは、ピーク信号波形P2の上昇区間において受光強度が値A4を上回る受光位置から、ピーク信号波形P2の下降区間において、受光強度が値A4を下回る受光位置までの距離に対応する。
【0048】
その後、制御装置700は、S130における受光信号の解析結果に基づいて、見口200が汚れているか否かを判定する(S140)。汚れは、例えば、眼圧測定時に、被検眼Eから飛散した涙液が窓部材201aの表面に付着することにより現れる。
【0049】
S140において、制御装置700は、図6に示す処理を実行することができる。図6によれば、制御装置700は、谷の高さ(受光強度A2)が、予め定められた第一の閾値以上であるか否かを判断し(S210)、谷の高さ(受光強度A2)が第一の閾値未満であると判断すると(S210でNo)、見口200が汚れていないと判定する(S240)。
【0050】
一方、制御装置700は、谷の高さ(受光強度A2)が第一の閾値以上であると判断すると(S210でYes)、ピーク信号波形P2の幅Wが、予め定められた第二の閾値以上であるか否かを判断する(S220)。そして、幅Wが第二の閾値未満であると判断すると(S220でNo)、見口200が汚れていないと判定し(S240)、幅Wが第二の閾値以上であると判断すると(S220でYes)、見口200が汚れていると判定する(S230)。
【0051】
このように、制御装置700は、ピーク信号波形P1とピーク信号波形P2との間の谷が浅く、ピーク信号波形P2の急峻度が低い場合に、見口200が汚れていると判定し、それ以外の場合には、見口200は汚れていないと判定する。
【0052】
S140において、見口200が汚れていないと判定すると、制御装置700は、ディスプレイ9に、S130での解析結果に基づく角膜厚の測定値を表示し(S150)、その測定値を、正当な測定値として記憶装置710に保存する(S160)。その後、図4に示す処理を終了する。
【0053】
一方、制御装置700は、見口200が汚れていると判定すると(S140でYes)、ディスプレイ9を通じて、見口200が汚れていることを検査者に報知する(S170)。
【0054】
具体的には、制御装置700は、ディスプレイ9を制御し、ディスプレイ9に、見口200が汚れていることを知らせるメッセージと、汚れの除去を検査者に促すメッセージと、を表示させる(S170)。その後、図4に示す処理を終了し、角膜厚の測定値を破棄する。
【0055】
上述した第一及び第二の閾値は、検眼装置1の製造者が、見口200に汚れが付着している場合と付着していない場合のそれぞれの受光信号に関する複数の標本を取得し、その標本を解析することにより決定され得る。標本に基づいた閾値の決定により、見口200の汚れを高精度に検知可能である。
【0056】
パキメータ及びトノメータとしての機能を有する検眼装置1では、眼圧測定時に見口200に汚れが付着しやすく、この汚れにより角膜厚の測定精度が低下する可能性がある。しかしながら、本実施形態によれば、角膜厚の測定時に得られる受光信号と同じ受光信号に基づいて、見口200の汚れを検知することができる。
【0057】
即ち、本実施形態によれば、専用部品や専用の光学系を検眼装置1に設ける必要なしに、見口200の汚れを検知することができる。従って、本実施形態によれば、従来よりも簡易な構成で、見口200の汚れ検知を可能な検眼装置1を提供することができる。本実施形態によれば、測定時に汚れを検知することができることも有意義である。即ち、起動時や測定前など、測定時以外のタイミングで汚れ検知のための動作を行う場合と比較して、無駄なく効率的に汚れを検知することが可能である。起動時にのみ汚れを検知する従来の手法によれば、その後、複数人の眼の検査を行う間に見口が汚れても、その汚れを検知することができない。本実施形態のように、測定時に汚れを検知可能であることは、迅速に汚れを検知し、適切な検査を行うのに有利である。
【0058】
付言すると、見口200の汚れの有無は、ピーク信号波形P1,P2の緩慢さとして表れる。この緩慢さについては、谷の高さ及びピーク信号波形P2の幅Wに限定されず、様々なパラメータを用いて評価することが可能である。
【0059】
例えば、制御装置700は、角膜内皮のピーク信号波形P1におけるピークトップの受光強度A3と、角膜内皮のピーク信号波形P1におけるピークエンドの受光強度A2と、角膜上皮のピーク信号波形P2の幅Wと、に基づいて、見口200が汚れているか否かを判定してもよい。
【0060】
例えば、制御装置700は、S140において、谷の深さに対応するピーク信号波形P1のピークトップの受光強度A3とピーク信号波形P1のピークエンドの受光強度A2との差(A3-A2)が、第一の閾値以下であり、且つ、ピーク信号波形P2の幅Wが、第二の閾値以上であるとき、見口200が汚れていると判定し、それ以外の場合には、見口200が汚れていないと判定してもよい。即ち、S140においては、谷の高さ(A2)に代えて、谷の深さ(A3-A2)が判定に用いられてもよい。
【0061】
更なる別例によれば、制御装置700は、ピーク信号波形P2の幅Wに代えて、図7Aに示すようにピーク信号波形P2のピークトップ周辺の面積Hを、S130で算出し、S140では、谷の高さ(A2)が第一の閾値以上であり(又は深さ(A3-A2)が第一の閾値以下であり)、且つ、上記面積Hが第二の閾値以上であるとき、見口200が汚れていると判定し(S140でYes)、それ以外の場合には、見口200が汚れていないと判定してもよい(S140でNo)。上記面積Hは、図7Aにおいてハッチングされた領域に対応し、予め定められた受光強度A5を超えるピーク信号波形P2の部分の面積に対応する。
【0062】
上記面積Hは、ピーク信号波形P2のピークトップとベースラインとの中間の受光強度A4を基準に、受光強度A4を超えるピーク信号波形P2の部分の面積として算出されてもよい。
【0063】
更なる別例によれば、S140における判定に、角膜内皮のピーク信号波形P1におけるピークエンドから、角膜上皮のピーク信号波形P2のピークトップまでのピーク信号波形P2の立ち上がり区間における局所ピークの数Nの情報が用いられてもよい。局所ピークは、所定以上の大きさのピーク、例えば、ピークスタートからピークトップまでの差が予め定められた基準以上のピークであってもよい。
【0064】
例えば、制御装置700は、第一の指標としての、谷の高さ(A2)が第一の閾値以上であり(又は深さ(A3-A2)が第一の閾値以下であり)、且つ、第二の指標としての、上記面積Hが第二の閾値以上であり、且つ、第三の指標としての、局所ピークの数Nが予め定められた第三の閾値以上であるときに、見口200が汚れていると判定し(S140でYes)、それ以外の場合には、見口200が汚れていないと判定してもよい(S140でNo)。
【0065】
更なる別例によれば、制御装置700は、図7Bに示すように、第四の指標として、角膜内皮のピーク信号波形P1におけるピークエンドから、角膜上皮のピーク信号波形P2のピークトップまでのピーク信号波形P2の立ち上がりの近似直線Lを求め、その傾きを用いて、見口200が汚れているか否かを判定してもよい(S140)。制御装置700は、第五の指標として、近似直線Lの傾きに代えて、又は、加えて、実際の信号波形の近似直線Lからの乖離量を算出し、この乖離量を用いて、見口200が汚れているか否かを判定してもよい(S140)。乖離量は、実際の信号波形の近似直線Lからの二乗誤差和として算出されてもよい。
【0066】
あるいは、制御装置700は、上述した第一、第二、第三、第四、第五の指標のうちの一つ以上、二つ以上、三つ以上、四つ以上、又は五つ以上が、対応する条件を満足するときに、見口200が汚れていると判定し(S140でYes)、それ以外の場合には、見口200が汚れていないと判定してもよい(S140でNo)。上記谷の高さ(A2)及び深さ(A3-A2)の両者が、S140における判定に用いられてもよいし、上記幅W及び面積Hの両者が、S140における判定に用いられてもよい。ピーク信号波形P1のピークトップの受光強度A3及びピーク信号波形P1のピークエンドの受光強度A2が、谷の深さ(A3-A2)ではなく、個別の指標として、S140における判定に用いられてもよい。
【0067】
即ち、制御装置700は、次のパラメータの一つ以上を指標に、見口200が汚れているか否かを判定することができる。
(1)角膜内皮のピーク信号波形P1の高さ(A3)
(2)ピーク信号波形P1と角膜上皮のピーク信号波形P2との間の谷の高さ(A2)
(3)ピーク信号波形P1とピーク信号波形P2との間の谷の深さ(A3-A2)
(4)ピーク信号波形P2の立ち上がり区間の傾き
(5)ピーク信号波形P2の立ち上がり区間の近似直線(L)からの実信号の乖離度
(6)ピーク信号波形P2の立ち上がり区間における局所ピークの数(N)
(7)ピーク信号波形P2の幅(W)
(8)ピーク信号波形P2の面積(H)
【0068】
以上に、本開示の例示的実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0069】
1…検眼装置、3…ヘッド部、5…本体部、9…ディスプレイ、100…アライメント光学系、200…見口、201a…窓部材、201b…噴射口、201c…開口部、300…観察光学系、400…固視光学系、500…第一測定光学系、600…第二測定光学系、601…光源、602…レンズ、603…円柱レンズ、604…受光素子、700…制御装置、710…記憶装置、720…XYZ駆動制御系、740…操作系。
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図7