(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】レンズ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20220830BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20220830BHJP
【FI】
G02B7/02 E
G02B7/04 D
(21)【出願番号】P 2018218274
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 洋平
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215395(JP,A)
【文献】特開平10-123397(JP,A)
【文献】特開2002-055267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒に設けた操作リングの回動操作により調整対象となるレンズを光軸方向へ変位させるレンズ調整機構部を備えるレンズ装置において、少なくとも270°以上の回動角度範囲にわたって回動可能に支持された操作リングと、この操作リングの回動変位を少なくとも光軸方向への変位に変換するとともに、変位量を所定の比率により変換する第一運動変換機構部と、この第一運動変換機構部により変換された変位を、前記レンズを光軸方向へ変位させるカム筒部の回動変位に変換する第二運動変換機構部とを有してなるレンズ調整機構部を備え、前記第一運動変換機構部を、前記レンズ鏡筒における固定筒の外周面に対して第一ヘリコイド結合部を介して内周面が噛合する第一内筒部及びこの第一内筒部に対して回動変位を許容可能に結合した第二内筒部により構成するとともに、前記第一内筒部を、前記操作リングに対して光軸方向へ変位を許容可能に係合し、かつ前記第二内筒部の変位を、前記第二運動変換機構部に伝達可能に構成してなることを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記レンズ調整機構部は、フォーカス調整機構に適用してなることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記操作リングは、回動角度範囲を360°以上に設定し、かつ前記カム筒部の回動角度範囲を180°以下に設定することを特徴とする請求項1又は2記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記第二運動変換機構部は、前記カム筒部に形成した周方向へ所定角度で傾斜した少なくとも一つのガイドスリット部と、前記第二内筒部の外周面に設け、かつ前記ガイドスリット部に対して光軸方向へ変位を許容可能に係合する従動子により構成することを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記レンズ調整機構部は、前記第一内筒部を、アウタ筒部とこのアウタ筒部に対して所定の隙間を介して結合したインナ筒部により構成し、前記アウタ筒部と前記インナ筒部の間に、中間筒部を配することにより、この中間筒部を前記第一内筒部に対して第二ヘリコイド結合部を介して噛合させ、かつこの中間筒部を前記第二内筒部に対して光軸方向の変位を許容可能に係合させることにより、この中間筒部に支持されるレンズを変位させる補助レンズ調整機構部を備えることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記レンズ調整機構部は、前記カム筒部の回動角度範囲を規制する回動範囲規制部を備えることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒に設けた操作リングの回動操作により調整対象となるレンズを光軸方向へ変位させるレンズ調整機構部を備えるレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カメラに装着するレンズ装置は、レンズ鏡筒に設けたフォーカス調整リング(操作リング)の回動操作によりフォーカスレンズ群を光軸方向へ変位させてフォーカス調整を行うレンズ調整機構部を備えており、この種のレンズ調整機構部を備えるレンズ装置としては、特許文献1により開示される交換レンズ及び特許文献2により開示されるレンズ装置が知られている。
【0003】
同文献1の交換レンズは、カメラボディに対する正確なフランジバック長の設定及び距離指標の正確な設定を可能にするとともに、容易かつ低コストに実現することを目的としたものであり、具体的には、フォーカス調整機構部における調整範囲を、基準となる無限遠位置から、最近接側に対する反対方向に、所定の範囲だけ拡大させて構成するとともに、フォーカスリングを、フォーカスリング本体部,このフォーカスリング本体部に対して別体に形成した距離指標表示部,及びこの距離指標表示部をフォーカスリング本体部に対して周方向ヘ相対変位可能又は固定可能にする指標位置調整機構部により構成したものである。
【0004】
また、同文献2のレンズ装置は、操作リングの良好な操作性を確保し、同時に、ヘリコイド結合部の有効なガタ防止を図るとともに、実施の容易性,低コスト性,汎用性を確保することを目的としたものであり、具体的には、レンズ鏡筒の固定筒に回動変位可能に配した操作リングと、レンズ枠によリ一又は二以上のレンズを保持してなるレンズユニットと、操作リングの回動変位を運動変換してレンズユニットを光軸方向ヘ変位させるヘリコイド結合部とを有するレンズ操作機構を具備してなり、特に、固定筒又はレンズ枠の一方に固定ネジにより固定可能であって、かつ光軸方向に対する直角面を有する規制プレートと、固定筒又はレンズ枠の他方に固定し、かつ光軸方向に軸心を有するとともに、規制プレートに係合して位置が規制される係合シャフトとを有する位置規制機構部を設けて構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-120317号公報
【文献】特開2015-219385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1及び2のレンズ装置をはじめ、従来のレンズ装置は、次のような問題点があった。
【0007】
第一に、フォーカス調整リングの場合、操作できる回動角度範囲はほとんどが100゜以内、最大でも180゜程度である。このため、操作時の敏感度が高くなる傾向があり、僅かな操作量でもピント位置が大きくズレてしまう。したがって、操作に慣れている人はよいが、操作に慣れていない人やあまり操作に関して器用でない人には、ピント合わせが容易でない。結局、一部の人にとっては、正確なピント合せにより最適な高画質撮影を行いにくい難点があった。
【0008】
第二に、フォーカス調整機構は、フォーカス調整リングの回動変位が伝達されるカム筒部に形成したガイドスリットに係合する従動子の光軸方向への変位によりレンズの位置を調整するため、ガイドスリットの長さは、カム筒部の長さや形態等に制約される。したがって、回動角度範囲を大きくするには構造的な限界もあり、構造面から操作できる回動角度範囲を大きくすることができないとともに、大きくする場合には、レンズ装置全体のサイズアップやコストアップを招く難点があった。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したレンズ装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、レンズ鏡筒Cに設けた操作リングの回動操作により調整対象となるレンズL1,L2を光軸方向Fcへ変位させるレンズ調整機構部を備えるレンズ装置1を構成するに際して、少なくとも270°以上の回動角度範囲Zsにわたって回動可能に支持された操作リング2と、この操作リング2の回動変位を少なくとも光軸方向Fcへの変位に変換するとともに、変位量を所定の比率により変換する第一運動変換機構部3と、この第一運動変換機構部3により変換された変位を、レンズL1,L2を光軸方向Fcへ変位させるカム筒部5の回動変位に変換する第二運動変換機構部4とを有してなるレンズ調整機構部Mを備え、第一運動変換機構部3を、レンズ鏡筒Cにおける固定筒11の外周面11fに対して第一ヘリコイド結合部13を介して内周面12iが噛合する第一内筒部12及びこの第一内筒部12に対して回動変位を許容可能に結合した第二内筒部14により構成するとともに、第一内筒部12を、操作リング2に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合し、かつ第二内筒部14の変位を、第二運動変換機構部4に伝達可能に構成してなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、レンズ調整機構部Mは、フォーカス調整機構Mfに適用できるとともに、操作リング2は、回動角度範囲Zsを360°以上に設定し、かつカム筒部5の回動角度範囲Zcを180°以下に設定することができる。一方、第二運動変換機構部4は、カム筒部5に形成した周方向Ffへ所定角度Qsで傾斜した少なくとも一つのガイドスリット部15…と、第二内筒部14の外周面14fに設け、かつガイドスリット部15…に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合する従動子16…により構成することができる。他方、レンズ調整機構部Mには、第一内筒部12を、アウタ筒部21とこのアウタ筒部21に対して所定の隙間を介して結合したインナ筒部22により構成し、アウタ筒部21とインナ筒部22の間に、中間筒部23を配することにより、この中間筒部23を第一内筒部12に対して第二ヘリコイド結合部24を介して噛合させ、かつこの中間筒部23を第二内筒部14に対して光軸方向Fcの変位を許容可能に係合させることにより、この中間筒部23に支持されるレンズL3を変位させる補助レンズ調整機構部25を設けることができる。さらに、レンズ調整機構部Mには、カム筒部5の回動角度範囲Zcを規制する回動範囲規制部26を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るレンズ装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 少なくとも270°以上の回動角度範囲Zsにわたって回動可能に設けた操作リング2を備えるため、操作リング2を回動操作した際における敏感度を低くすることができる。即ち、目的の調整位置に合わせる際の操作を緩やかに行うことが可能になり、精度の高い調整を容易に行うことができる。これにより、操作に慣れていない人や操作を器用にできない人などであっても、正確に調整されたレンズ装置1により最適な高画質撮影等をより確実に行うことができる。
【0014】
(2) 操作リング2の回動変位を少なくとも光軸方向Fcへの変位に変換するとともに、変位量を所定の比率により変換する第一運動変換機構部3と、この第一運動変換機構部3により変換された変位を、レンズL1,L2を光軸方向Fcへ変位させるカム筒部5の回動変位に変換する第二運動変換機構部4とを有してなるレンズ調整機構部Mを備えるため、操作リング2の回動角度範囲をカム筒部5の長さや形態等に制約されることなく、任意の範囲に設定できる。加えて、構造面からの制約を排除できるため、構成の複雑化及びサイズアップを容易に回避できるとともに、低コスト化にも寄与できる。
【0015】
(3) 第一運動変換機構部3を、レンズ鏡筒Cにおける固定筒11の外周面11fに対して第一ヘリコイド結合部13を介して内周面12iが噛合する第一内筒部12及びこの第一内筒部12に対して回動変位を許容可能に結合した第二内筒部14により構成するとともに、第一内筒部12を、操作リング2に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合し、かつ第二内筒部14の変位を、第二運動変換機構部4に伝達可能に構成してなるため、合理的機構を構築する観点から好適な形態として実施可能になるため、機構の非大型化及び低コスト化を図る観点からの有効性を高めることができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、レンズ調整機構部Mを、フォーカス調整機構Mfに適用すれば、操作時の敏感度が最も大きく影響を受けるレンズ調整に適用できるため、適用対象の観点から最適な形態により実施できる。これにより、操作に慣れていない人や操作を器用にできない人などであっても、ピントの合った高画質の写真撮影等を容易に行うことができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、操作リング2の回動角度範囲Zsを360°以上に設定し、かつカム筒部5の回動角度範囲Zcを180°以下に設定すれば、カム筒部5の回動角度範囲Zcを従来のレンズ装置と同等に設定できるとともに、操作リング2の回動角度範囲Zsを従来のレンズ装置に対して、少なくとも2倍以上に設定できるため、操作時の敏感度を緩やかさに設定する観点から最適な形態として実施できる。
【0018】
(6) 好適な態様により、第二運動変換機構部4を構成するに際し、カム筒部5に形成した周方向Ffへ所定角度Qsで傾斜した少なくとも一つのガイドスリット部15…と、第二内筒部14の外周面14fに設け、かつガイドスリット部15…に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合する従動子16…により構成すれば、従来の構造、即ち、本来的に必要な構成部品であるカム筒部5を直接利用できるため、部品点数の削減及び構造の簡略化により、更なる機構の非大型化及び低コスト化に寄与できる。
【0019】
(7) 好適な態様により、レンズ調整機構部Mに、第一内筒部12を、アウタ筒部21とこのアウタ筒部21に対して所定の隙間を介して結合したインナ筒部22により構成し、アウタ筒部21とインナ筒部22の間に、中間筒部23を配することにより、この中間筒部23を第一内筒部12に対して第二ヘリコイド結合部24を介して噛合させ、かつこの中間筒部23を第二内筒部14に対して光軸方向Fcの変位を許容可能に係合させることにより、この中間筒部23に支持されるレンズL3を変位させる補助レンズ調整機構部25を設ければ、補助的な調整機構となる補助レンズ調整機構部25を追加できるため、調整機構全体の柔軟性及び機能性の向上に寄与できる。
【0020】
(8) 好適な態様により、レンズ調整機構部Mに、カム筒部5の回動角度範囲Zcを規制する回動範囲規制部26を設ければ、カム筒部5の回動を利用した回動範囲規制部26を構成できるため、部品点数の削減及び構造の簡略化により、更なる機構の非大型化及び低コスト化に寄与できるとともに、操作リング2に対する回動角度範囲Zsの規制を兼用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の好適実施形態に係るレンズ装置の要部構造を抽出した異なる二つの態様を示す断面側面図、
【
図2】同レンズ装置の一部を省略した全体の概要を示す断面側面図、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係るレンズ装置1の構成について、
図1~
図6を参照して具体的に説明する。
【0024】
例示のレンズ装置1は、スチルカメラのカメラボディ(不図示)に対して着脱する交換レンズである。このレンズ装置1は、一部を仮想線で描いた全体の概要を示す
図2のように、後で詳述するレンズ鏡筒Cを備え、このレンズ鏡筒Cの内部に、操作リング2の回動操作により調整対象となる仮想線で示すレンズ(レンズ群)L1,L2、更にはレンズ(レンズ群)L3を内蔵する。なお、各レンズL1,L2,L3は、模式的に描いたものであり、光学的に正確なレンズを示すものではない。
【0025】
そして、このレンズ装置1には、各レンズL1,L2,l3を光軸方向Fcへ変位させる本発明の要部を構成するレンズ調整機構部Mを備える。本実施形態におけるレンズ調整機構部Mは、フォーカス調整機構Mfを構成する。このように、レンズ調整機構部Mをフォーカス調整機構Mfに適用すれば、操作時の敏感度が最も大きく影響を受けるレンズ調整に適用できるため、適用対象の観点から最適な形態により実施できる。これにより、操作に慣れていない人や操作を器用にできない人などであっても、ピントの合った高画質の写真撮影等を容易に行うことができる。なお、レンズL1,L2,L3は、それぞれ仮想線で示すレンズ保持枠31s,32s,33により保持されるとともに、このレンズ保持枠31s,32s,33は、光軸方向Fcへスライド変位自在に支持される。
【0026】
レンズ調整機構部Mは、レンズ鏡筒Cの最外周位置に操作リング(フォーカス調整リング)2を備える。この操作リング2は、少なくとも270°以上の回動角度範囲Zsにわたって回動可能に構成する。この回動角度範囲Zsは、より望ましくは360°以上に設定する。本実施形態の場合、操作リング2自体は、規制されることなく、360°以上にわたって回動可能となるが、後述するカム筒部5に設けた回動範囲規制部26により、回動角度範囲Zsが475゜に規制される。
【0027】
また、11は固定筒であり、この固定筒11の内側には、前後に配したレンズ保持枠31s,32sを変位させるカム筒部5を配する。
図3~
図5に、カム筒部5を具体的に示す。
図3はカム筒部5の正面図、
図4は
図3中A-A線断面図、
図5はカム筒部5の展開図をそれぞれ示している。
【0028】
この場合、
図2に示すように、前側のレンズ保持枠31sの外周面における周方向Ffには等間隔で配したローラ形式による3つの従動子31…を設けるとともに、後側のレンズ保持枠32sの外周面における周方向Ffには等間隔で配したローラ形式による3つの従動子32…を設ける。そして、
図5(
図3及び
図4)に示すように、前側の従動子31…は、カム筒部5に貫通形成した3つの第一ガイドスリット34…を通して、固定筒11に形成した光軸方向Fcの3つのリニアスリット36…に係合させるとともに、後側の従動子32…は、カム筒部5に貫通形成した3つの第二ガイドスリット35…を通して、固定筒11に形成した上記3つのリニアスリット36…に係合させる。これにより、各従動子31…,32…は、各ガイドスリット34…,35…に係合してガイドされる。
【0029】
この際、各ガイドスリット34(他のガイドスリット34…,35…も同じ)の一端34fと他端34eの有効長、即ち、回動角度範囲は、
図5に示すZcとなり、本実施形態では、この回動角度範囲Zcを、50゜に設定した。したがって、本実施形態では、前述したように、操作リング2の回動角度範囲Zsは、475゜(360°以上)に設定するとともに、カム筒部5の回動角度範囲Zcは、50゜(180°以下)に設定することになる。
【0030】
このように、操作リング2の回動角度範囲Zsを360°以上に設定し、かつカム筒部5の回動角度範囲Zcを180°以下に設定すれば、カム筒部5の回動角度範囲Zcを従来のレンズ装置と同等に設定できるとともに、操作リング2の回動角度範囲Zsを従来のレンズ装置に対して、少なくとも2倍以上に設定できるため、操作時の敏感度を緩やかさに設定する観点から最適な形態として実施できる利点がある。特に、本実施形態では、操作リング2の回動角度範囲Zsを475°に設定したため、従来の操作リング2の回動角度範囲Zsが100゜の場合、操作リング2の操作時敏感度を、従来に比べて、1/5程度までに低下させることができる。
【0031】
一方、操作リング2とカム筒部5間には、
図1及び
図2に示す第一運動変換機構部3と第二運動変換機構部4を配設する。したがって、本実施形態に係るレンズ調整機構部Mは、操作リング2を、475゜回動変位させれば、この回動変位は、第一運動変換機構部3と第二運動変換機構部4を介してカム筒部5に伝達され、カム筒部5は50゜にわたって回動変位する。
【0032】
第一運動変換機構部3は、操作リング2の回動変位を少なくとも光軸方向Fcへの変位に変換するとともに、変位量を所定の比率により変換する機能を備える。このため、第一運動変換機構部3は、レンズ鏡筒Cにおける固定筒11の外周面11fに対して第一ヘリコイド結合部13を介して内周面12iが噛合する第一内筒部12及びこの第一内筒部12に対して回動変位を許容可能に結合した第二内筒部14を備え、第一内筒部12は、操作リング2に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合し、かつ第二内筒部14の変位を、第二運動変換機構部4に伝達可能に構成する。
【0033】
この場合、第一内筒部12は、
図1に示すように、アウタ筒部21とこのアウタ筒部21に対して所定の隙間を介して結合したインナ筒部22により構成する。この際、アウタ筒部21とインナ筒部22は、後端部同士をリング状となる結合部42により結合し、前端が開口する隙間を形成する。第一内筒部12をこのように構成すれば、アウタ筒部21とインナ筒部22間の隙間を利用して筒体部品を追加可能になるため、光学的性能を高めるための追加的な調整機構を付加することができ、本実施形態では、後述する補助レンズ調整機構部25を設けている。
【0034】
また、操作リング2は、
図1に示すように、内周面に、光軸方向Fcのリニアスリット41…を形成し、第一内筒部12(アウタ筒部21)の外周面に取付けたローラ形式による従動子12s…を係合させるとともに、第一内筒部12(インナ筒部22)と第二内筒部14の前端部同士は、光軸方向Fcの相対変位が規制され、かつ相対的な回動変位のみが許容される係合部43を介して結合する。そして、第二内筒部14の後端部の変位が第二運動変換機構部4に伝達される。このように構成すれば、合理的機構を構築する観点から好適な形態として実施可能になるため、機構の非大型化及び低コスト化を図る観点からの有効性も高めることができる。
【0035】
他方、第二運動変換機構部4は、第一運動変換機構部3により変換された変位を、レンズL1,L2を光軸方向Fcへ変位させるカム筒部5の回動変位に変換する機能を備える。このため、第二運動変換機構部4は、
図5に示すように、カム筒部5に形成した周方向Ffへ所定角度Qsで傾斜した少なくとも一つのガイドスリット部15…と、第一運動変換機構部3における第二内筒部14の外周面14fに設け、かつガイドスリット部15…に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合する従動子16…により構成する。
【0036】
本実施形態では、
図5に示すように、ガイドスリット34…,35…を形成しない空エリアを利用して2つのガイドスリット部15,15を貫通形成した。そして、第二内筒部14の外周面14fに、ローラ形式による2つの従動子16…を設け、各従動子16…を、それぞれガイドスリット部15…を通し、固定筒11に形成した光軸方向Fcにおける2つのリニアスリット部44…に係合させて構成した。
【0037】
この際、ガイドスリット部15の一端15fと他端15eの有効長、即ち、回動角度範囲は、
図5に示すZsとなり、各ガイドスリット34…,35…における回動角度範囲Zc(例示は、50゜)に一致させる。このように構成すれば、従来の構造、即ち、本来的に必要な構成部品であるカム筒部5を直接利用できるため、部品点数の削減及び構造の簡略化により、更なる機構の非大型化及び低コスト化に寄与できる。
【0038】
さらに、レンズ調整機構部Mには、カム筒部5の回動角度範囲Zcを規制する回動範囲規制部26を設ける。この場合、
図5に示すように、カム筒部5の周方向Ffに規制スリット部45を形成するとともに、固定筒11側に、この規制スリット部45に係合するローラ形式による従動子46を設ける。また、規制スリット部45の一端45fと他端45eの有効長、即ち、回動角度範囲は、
図5に示すZmとなり、各ガイドスリット34…,35…における回動角度範囲Zc(例示は、50゜)に一致させる。
【0039】
このような回動範囲規制部26を設ければ、カム筒部5の回動を利用した回動範囲規制部26を構成できるため、部品点数の削減及び構造の簡略化により、更なる機構の非大型化及び低コスト化に寄与できるとともに、操作リング2に対する回動角度範囲Zsの規制を兼用できる。なお、例示する規制スリット部45は、両端側にオフセットするクランク形状部を設けている。これにより、規制スリット部45の両端位置において従動子46をクリック的に停止させることができる。
【0040】
他方、レンズ調整機構部Mには、アウタ筒部21とインナ筒部22の間に、中間筒部23を配することにより、この中間筒部23の内周面23iをインナ筒部22(第一内筒部12)の外周面22fに対して第二ヘリコイド結合部24を介して噛合させ、かつこの中間筒部23を第二内筒部14に対して光軸方向Fcの変位を許容可能に係合させることにより、この中間筒部23に支持されるレンズL3を変位させる補助レンズ調整機構部25を設ける。このため、中間筒部23の前端部には、レンズ保持枠33を一体に有する補助筒部47の前端部を結合するとともに、この補助筒部47の外周面における後端部に取付けたローラ形式による従動子48を、第二内筒部14に形成した光軸方向Fcに沿ったリニアスリット部49に係合させる。このような補助レンズ調整機構部25を設ければ、補助的な調整機構となる補助レンズ調整機構部25を追加できるため、調整機構全体の柔軟性及び機能性の向上に寄与できる。
【0041】
次に、本実施形態に係るレンズ装置1の使用方法を含む機能について、
図1~
図7を参照して具体的に説明する。
【0042】
今、操作リング(例示は、フォーカス調整リング)2を、
図1(a)に示す始点位置(
図7中の0位置)から終点位置まで、475゜(
図7)にわたって回動操作する場合を想定する。この場合、まず、操作リング2の回動変位は、第一運動変換機構部3に伝達される。この際、操作リング2の回動変位は、第一内筒部12(アウタ筒部21)に伝達されるため、この回動変位は、一体のインナ筒部22に伝達される。インナ筒部22は、固定筒11に対して、第一ヘリコイド結合部13を介して噛合するため、操作リング2と一緒に回動変位する第一内筒部12は、光軸方向Fcに変位する。即ち、第一内筒部12(アウタ筒部21)の従動子12s…は、光軸方向Fcのリニアスリット41…にガイドされ、第一内筒部12は、操作リング2に追従して回動変位するとともに、光軸方向Fcに変位する。
【0043】
一方、第二内筒部14は、係合部43が介在することにより、第一内筒部12(インナ筒部22)に対しては、光軸方向Fcの変位が規制され、かつ回動変位が許容されるとともに、さらに、従動子16…を介して固定筒11のリニアスリット部44…に係合するため、第一内筒部12の回動変位は係合部43により吸収され、光軸方向Fcにおける変位のみが第二内筒部14に伝達される。
【0044】
そして、第二内筒部14の後部における光軸方向Fcの変位は、第二運動変換機構部4に伝達される。即ち、第二内筒部14の従動子16…は、固定筒11のリニアスリット部44…に沿って、光軸方向Fcに変位するため、この従動子16…に係合する傾斜したガイドスリット部15…によりカム筒部5が回動変位する。この場合、操作リング2を始点位置から終点位置まで、475゜の回動角度範囲Zsにわたって回動変位させれば、前述したように、カム筒部5は、50゜にわたって回動変位する。カム筒部5の回動角度範囲Zcを、操作リング2の回動角度範囲Zsと対比して
図7に示す。
【0045】
また、カム筒部5には、ガイドスリット34…,35…が形成され、このガイドスリット34…,35…には、レンズ保持枠31,32に取付けた従動子31…,32…が係合してガイドされるため、このレンズ保持枠31,32にそれぞれ保持されるレンズL1,L2は、ガイドスリット34…,35…のガイド形状に沿って変位する。即ち、目的のフォーカス調整が行われる。なお、
図1(b)に示すように、中間筒部23は、第二ヘリコイド結合部24を介してインナ筒部22の外周面22fに噛合しているため、第一内筒部12が光軸方向Fcの前方へ変位した際には、対応して前方に変位することになる。
【0046】
このように、本実施形態に係るレンズ装置1によれば、基本構成として、少なくとも270°以上の回動角度範囲Zsにわたって回動可能に支持された操作リング2と、この操作リング2の回動変位を少なくとも光軸方向Fcへの変位に変換するとともに、変位量を所定の比率により変換する第一運動変換機構部3と、この第一運動変換機構部3により変換された変位を、レンズL1,L2を光軸方向Fcへ変位させるカム筒部5の回動変位に変換する第二運動変換機構部4とを有してなるレンズ調整機構部Mを備えるため、操作リング2を回動操作した際における敏感度を低くすることができる。即ち、目的の調整位置に合わせる際の操作を緩やかに行うことが可能になり、精度の高い調整を容易に行うことができる。これにより、操作に慣れていない人や操作を器用にできない人などであっても、正確に調整されたレンズ装置1により最適な高画質撮影等をより確実に行うことができる。しかも、操作リング2の回動角度範囲をカム筒部5の長さや形態等に制約されることなく、任意の範囲に設定できる。加えて、構造面からの制約を排除できるため、構成の複雑化及びサイズアップを容易に回避できるとともに、低コスト化にも寄与できる。
【0047】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0048】
例えば、レンズL1,L2,L3には、単レンズ,複合レンズ,レンズ群等の一又は二以上のレンズを含む各種レンズ(レンズ群)が含まれる。また、回動角度範囲Zs及びZcは、例示の回動角度範囲に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない任意の数値を選定できる。さらに、レンズ調整機構部Mは、フォーカス調整機構Mfを例示したが、ズーミング調整機構等の他のレンズ調整機構部にも同様に適用できる。
【0049】
一方、第二運動変換機構部4を構成するに際し、カム筒部5に形成した周方向Ffへ所定角度Qsで傾斜した少なくとも一つのガイドスリット部15…と、第二内筒部14の外周面14fに設け、かつガイドスリット部15…に対して光軸方向Fcへ変位を許容可能に係合する従動子16…により構成する形態を示したが、同一の機能を有する他の構成により置換可能である。
【0050】
他方、第一内筒部12は、アウタ筒部21とこのアウタ筒部21に対して所定の隙間を介して結合したインナ筒部22により構成する場合を示したが、必ずしも必須の構成となるものではない。したがって、アウタ筒部21とインナ筒部22の間に、中間筒部23を配することにより、この中間筒部23を第一内筒部12に対して第二ヘリコイド結合部24を介して噛合させ、かつこの中間筒部23を第二内筒部14に対して光軸方向Fcの変位を許容可能に係合させることにより、この中間筒部23に支持されるレンズL3を変位させる補助レンズ調整機構部25を設けた形態を例示したが、補助レンズ調整機構部25も、必ずしも必須の構成となるものではない。なお、例示の場合、中間筒部23の内周面23iがインナ筒部22の外周面22fに噛合する第二ヘリコイド結合部24を例示したが、中間筒部23の外周面がアウタ筒部22の内周面に噛合する第二ヘリコイド結合部24であってもよいなど、レンズ装置1における各部の係合機構や結合機構は、必要により対向する相互構成を入換構成することも可能である。さらに、レンズ調整機構部Mに、カム筒部5の回動角度範囲Zcを規制する回動範囲規制部26を設ける場合を示したが、他の部位、例えば、操作リング2の回動角度範囲を規制する構成など、他の部位に付属させた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、操作リングの回動操作により調整対象となるレンズを光軸方向へ変位させるレンズ調整機構部を備えるスチルカメラ,ビデオカメラ,プロジェクタ等の各種光学機器に装着するレンズ装置として利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1:レンズ装置,2:操作リング,3:第一運動変換機構部,4:第二運動変換機構部,5:カム筒部,11:固定筒,11f:固定筒の外周面,12:第一内筒部,12i:第一内筒部の内周面,13:第一ヘリコイド結合部,14:第二内筒部,14f:第二内筒部の外周面,15…:ガイドスリット部,16…:従動子,21:アウタ筒部,22:インナ筒部,23:中間筒部,24:第二ヘリコイド結合部,25:補助レンズ調整機構部,26:回動範囲規制部,C:レンズ鏡筒,L1:レンズ,L2:レンズ,L3:レンズ,Fc:光軸方向,Ff:周方向,Zs:回動角度範囲,Zc:回動角度範囲,M:レンズ調整機構部,Mf:フォーカス調整機構,Qs:所定角度