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特許7131831ヘモグロビン定量装置、ヘモグロビン定量方法及びヘモグロビン定量プログラム、並びに施術支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ヘモグロビン定量装置、ヘモグロビン定量方法及びヘモグロビン定量プログラム、並びに施術支援装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20220830BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61B5/1455
A61B1/00 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019509388
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013763
(87)【国際公開番号】W WO2018181953
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017071837
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320013182
【氏名又は名称】池田 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】長原 一
(72)【発明者】
【氏名】沖 英次
(72)【発明者】
【氏名】堤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】大崎 誠
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-200572(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158276(WO,A1)
【文献】特開2015-150186(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132742(WO,A1)
【文献】特開平3-170866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
A61B 5/06 - 5/22
A61B 34/00 -90/98
G01N 21/00 -21/01
G01N 21/17 -21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得手段と、
前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出手段とを備え、
前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出することを特徴とし、
前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の合計値から前記青色成分及び前記緑色成分で除算することでヘモグロビン量を示す前記光成分として算出することを特徴とするヘモグロビン定量装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘモグロビン定量装置において、
前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の比に基づいて、前記ヘモグロビンの酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出手段を備えることを特徴とするヘモグロビン定量装置。
【請求項3】
請求項2に記載のヘモグロビン定量装置において、
前記酸素飽和度算出手段が、手術中における動脈の酸素飽和度を基準として、前記酸素飽和度を算出することを特徴とするヘモグロビン定量装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のヘモグロビン定量装置において、
前記ヘモグロビン量算出手段が算出した前記ヘモグロビン量、及び前記酸素飽和度算出手段が算出した前記酸素飽和度を、それぞれ切り替えて表示する表示制御手段を備えることを特徴とするヘモグロビン定量装置。
【請求項5】
コンピュータが、
生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得ステップと、
前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出ステップとを含み、
前記ヘモグロビン量算出ステップが、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出することを特徴とし、
前記ヘモグロビン量算出ステップが、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の合計値から前記青色成分及び前記緑色成分で除算することでヘモグロビン量を示す前記光成分として算出することを特徴とするヘモグロビン定量方法。
【請求項6】
生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得手段、
前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出手段としてコンピュータを機能させ、
前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出することを特徴とし、
前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の合計値から前記青色成分及び前記緑色成分で除算することでヘモグロビン量を示す前記光成分として算出することを特徴とするヘモグロビン定量プログラム。
【請求項7】
請求項2ないしのいずれかに記載のヘモグロビン定量装置を用いた施術支援装置であって、
ヘモグロビン量算出手段が算出したヘモグロビン量の光成分から画像を生成すると共に、酸素飽和度算出手段が算出したヘモグロビンの酸素飽和度の光成分に基づいて、画像を生成する画像生成手段と、
生成されたそれぞれの画像をディスプレイに表示する表示制御手段と、
表示された前記画像における吻合箇所を利用者の操作に基づいて特定する吻合箇所特定手段と、
特定された吻合箇所におけるヘモグロビン量及びヘモグロビンの酸素飽和度に基づいて、吻合の可否について判定を行う判定手段とを備える施術支援装置。
【請求項8】
生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得手段と、
前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出手段と、
前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の比に基づいて、前記ヘモグロビンの酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出手段を備え、
前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出することを特徴とするヘモグロビン定量装置を用いた施術支援装置であって、
ヘモグロビン量算出手段が算出したヘモグロビン量の光成分から画像を生成すると共に、酸素飽和度算出手段が算出したヘモグロビンの酸素飽和度の光成分に基づいて、画像を生成する画像生成手段と、
生成されたそれぞれの画像をディスプレイに表示する表示制御手段と、
表示された前記画像における吻合箇所を利用者の操作に基づいて特定する吻合箇所特定手段と、
特定された吻合箇所におけるヘモグロビン量及びヘモグロビンの酸素飽和度に基づいて、吻合の可否について判定を行う判定手段とを備える施術支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビンの酸素飽和度及びヘモグロビン量を定量化するヘモグロビン定量装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度で繊細な手術操作が求められる中、手術ナビゲーション技術への必要性が急速に高まっている。手術ナビゲーションとは、手術前又は手術中に得た画像を、手術の過程において術野の位置関係をリアルタイムにコンピュータ上で処理することで、手術を補助するものである。しかし、現在のナビゲーションは、病変と脈管との立体的位置関係に基づく治療計画の立案とその情報共有の域(シュミレーション)を出ていないのが現状であり、術中に生体組織の状態を正確にイメージングし、適切な判断を可能とするナビゲーション装置の開発が望まれている。
【0003】
その中で、特に、血中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメータが、非侵襲に生体の酸素飽和度を測定(数値化)できる装置として全世界の医療現場に広く普及している。酸化ヘモグロビン及び水の吸光が最小となる650nm~1000nmの波長帯域は、光が生体に吸収されにくい領域であり、「生体の窓」と呼ばれ上記パルスオキシメータ等で利用されている。パルスオキシメータは、近赤外光を皮膚に照射し、生体組織内を透過、散乱して皮膚表面に戻ってきた光を検出するもので、光源とセンサで測定箇所を挟み込んで測定を行う。
【0004】
しかしながら、上記パルスオキシメータなど現在普及している装置は、生体の一点の酸素飽和度を測定し、全身の肺又は心臓の機能を反映させる装置であり、(1)時間と酸素飽和度の二次元的情報であり位置情報を含んでいないため、生体の心肺機能を反映するに過ぎず、組織の酸素代謝を反映していない。(2)数値化のみでイメージングできず直感的でない。(3)透過光または散乱光を用いているため、生体局所の投光機とセンサーを目的の部位を挟みこむように、密着させる必要があり、手術を含む処置中では接触機器が空間的障害となり操作を妨げ、接触による組織障害を及ぼす。といった問題を有している
【0005】
これらの問題に関連して、以下の技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、電子内視鏡システム10の光源装置13は、白色光源30と、半導体光源ユニット31と、ロータリフイルタ34とを有し、白色光源30は白色光BBを常時発光し、検体内には、半導体光源ユニット31からの青色狭帯域光Nbと、ロータリフイルタ34で色分離されたG色光が交互に照射され、青色狭帯域光Nbの反射像と、G色光の反射像とは、交互に撮像され、青色狭帯域光Nbの反射像の撮像時に得られる画像データNbを、G色光の反射像の撮像時に得られる画像データGで規格化して信号比Nb/Gを得、信号比Nb/Gと色情報とが対応付けられたカラーテーブル65aと、信号比Nb/Gとに基づいて、血中ヘモグロビンの酸素飽和度を画像化した第1酸素飽和度画像を作成する。
【0006】
特許文献2に示す技術は、それぞれ異なる波長の光を出力する発光源を備え、前記発光源よりの光を血液中に照射し、その反射光強度をもとに血液中のヘモグロビンの酸素飽和度を測定する方法であって、少なくとも2つの周波数の異なる第1と第2の交流信号により前記発光源のそれぞれを駆動し、各発光源よりの光のうち血液中で反射された光の反射光強度を検知して電気信号に変換する工程と、前記電気信号を前記第1と第2の交流信号の周波数成分を含む信号にそれぞれ分離し、前記第1及び第2の交流信号のそれぞれに同期して復調する工程と、復調された信号のそれぞれより前記第1或は第2の交流信号の周波数成分を除去して第1と第2の反射光強度信号を取り出す工程と、前記第1と第2の反射光強度信号をもとに前記血液中のヘモグロビンの酸素飽和度を演算する工程と、を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/132742号
【文献】特開平3-170866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
組織の変化を組織中のヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量の2つの指標で評価することができれば、組織の状態を正確且つ具体的に判断することが可能となる。例えば、腫瘍の診断に関して、腫瘍はたとえ形状が同じであっても酸素代謝が異なるため、正常組織との境界を明瞭に描出することができ、正常固有組織内のどこに腫瘍が存在するかをリアルタイムに判断することが可能である。これまでの方法では、例えば、造影剤を血管内に注入し放射線手法によって撮影するか、一部を摘出して病理学的に診断することが行われており、リアルタイムに判断できることは腫瘍の存在を確認し切除範囲を決定するなど治療のナビゲーションとして有用となる。
【0009】
また、例えば、同一の臓器中での虚血やうっ血などの変化があれば、酸素飽和度や組織中の血液量に増減が生じる。異なる組織間ではヘモグロビンの含有量も異なり、酸素消費量の多い悪性腫瘍ならば組織中の酸化ヘモグロビンは低下する。サイトカインにより血流が豊富になれば、炎症組織中の総ヘモグロビン量は上昇する。このように組織中のヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量の双方がわかることで、組織血流のみならず、組織の境界や活動性の評価など、さまざまな情報を知ることができる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1及び2に示す技術は、ヘモグロビンの酸素飽和度を定量化することができるものの、総ヘモグロビン量を定量することができないため、より詳細な診断を行うことができないという課題を有する。
【0011】
本発明は、非接触及び非侵襲的に生体組織のヘモグロビン量を算出して定量化することで、生体組織酸素代謝状態を明確に定量化することができるヘモグロビン定量装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るヘモグロビン定量装置は、生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得手段と、前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出手段とを備え、前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出するものである。
【0013】
このように、本発明に係るヘモグロビン定量装置においては、生体組織から反射した反射光であって、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域の成分、及び白色成分を取得する成分取得手段と、前記2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、前記ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出手段とを備え、前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正して、前記ヘモグロビン量を算出するため、パルスオキシメータなどでは測定不可能なヘモグロビン量を定量化することが可能となり、より正確な組織酸素代謝の診断に役立てることができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係るヘモグロビン定量装置は、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の比に基づいて、前記ヘモグロビンの酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出手段を備えるものである。
【0015】
このように、本発明に係るヘモグロビン定量装置においては、組織のヘモグロビン量に加えて、ヘモグロビン酸素飽和度を算出することができるため、それぞれの値に基づいた組織酸素代謝を明瞭に定量化することができるという効果を奏する。
【0016】
また、ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を算出することで、臓器の血流評価や、腫瘍の診断と浸潤範囲の判定、炎症の程度と範囲の診断などに利用することが可能になるという効果を奏する。
【0017】
本発明に係るヘモグロビン定量装置は、前記酸素飽和度算出手段が、手術中における拍動する動脈の酸素飽和度を基準として、前記酸素飽和度を算出するものである。
【0018】
このように、本発明に係るヘモグロビン定量装置においては、前記酸素飽和度算出手段が、手術中における拍動する動脈の酸素飽和度を基準として、前記酸素飽和度を算出するため、十分に酸素化され極限に達した動脈血であって、ヘモグロビン酸素飽和度が確実に高い状態を基準とすることで、正確にヘモグロビン酸素飽和度を算出し定量化することができるという効果を奏する。
【0019】
本発明に係るヘモグロビン定量装置は、前記ヘモグロビン量算出手段が算出した前記ヘモグロビン量、及び前記酸素飽和度算出手段が算出した前記酸素飽和度を、それぞれ切り替えて表示する表示制御手段を備えるものである。
【0020】
このように、本発明に係るヘモグロビン定量装置においては、前記ヘモグロビン量算出手段が算出した前記ヘモグロビン量、及び前記酸素飽和度算出手段が算出した前記酸素飽和度を、それぞれ切り替えて表示する表示制御手段を備えるため、ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を画像でリアルタイムに確認することが可能となり、手術ナビゲーションとして利用することができるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係るヘモグロビン定量装置は、前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の合計値、前記青色成分及び前記緑色成分に基づいて補正することでヘモグロビン量を示す光量として算出するものである。
【0022】
このように、本発明に係るヘモグロビン定量装置においては、前記ヘモグロビン量算出手段が、前記2つの狭小波長帯域における前記光成分の合計値、前記青色成分及び前記緑色成分に基づいて補正することでヘモグロビン量を示す光量として算出するため、ヘモグロビンの反射特性に関与しない青色成分と緑色成分を使って、対象組織の形状、照度ムラ、照明ムラ等によって生じたシェーディングを補正することができ、正確にヘモグロビン量を算出することが可能になるという効果を奏する。
【0023】
本発明に係る施術支援装置は、上記ヘモグロビン定量装置を用いた施術支援装置であって、ヘモグロビン量算出手段が算出したヘモグロビン量の光成分から画像を生成すると共に、酸素飽和度算出手段が算出したヘモグロビンの酸素飽和度の光成分に基づいて、画像を生成する画像生成手段と、生成されたそれぞれの画像をディスプレイに表示する表示制御手段と、表示された前記画像における吻合箇所を利用者の操作に基づいて特定する吻合箇所特定手段と、特定された吻合箇所におけるヘモグロビン量及びヘモグロビンの酸素飽和度に基づいて、吻合の可否について判定を行う判定手段とを備えるものである。
【0024】
このように、本発明に係る施術支援装置においては、ヘモグロビン量の光成分から画像を生成すると共に、ヘモグロビンの酸素飽和度の光成分に基づいて画像を生成し、生成されたそれぞれの画像をディスプレイに表示し、表示された前記画像における吻合箇所を利用者の操作に基づいて特定し、特定された吻合箇所におけるヘモグロビン量及びヘモグロビンの酸素飽和度に基づいて、吻合の可否について判定を行うため、吻合箇所として適した位置を利用者(医師)の判断だけではなく、数値として客観的に提示して判定することが可能になるという効果を奏する。なお、ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を算出することで、吻合の可否以外にも、臓器の血流評価や、腫瘍の診断と浸潤範囲の判定、炎症の程度と範囲の診断などに利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施形態に係るヘモグロビン定量装置のハードウェア構成図である。
図2】第1の実施形態に係るヘモグロビン定量装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3】ヘモグロビン酸素飽和度に応じた波長帯域ごとの反射特性を示すグラフである。
図4】アクティブ投光器で照射するスペクトル特性を示す図である。
図5】酸素飽和度が70%の場合の総ヘモグロビン量の変化を示す図である。
図6】670nmの波長帯域における生体組織の画像と、830nmの波長帯域における生体組織の画像とを示す図である。
図7】カラー画像からR成分、G成分及びB成分を分割してそれぞれの成分ごとに表示したものである。
図8】総ヘモグロビン量を定量化した画像を示す図である。
図9】酸素飽和度の画像を示す図である。
図10】第1の実施形態に係るヘモグロビン定量装置の動作を示すフローチャートである。
図11】第2の実施形態に係るヘモグロビン定量装置においてフリッカを排除する場合のスペクトルの一例を示す図である。
図12】第3の実施形態に係る施術支援装置の構成を示す機能ブロック図である。
図13】第3の実施形態に係る施術支援装置の動作を示すフローチャートである。
図14】実施例において循環型の症例の画像を示す図である。
図15】実施例において虚血型の症例の画像を示す図である。
図16】実施例においてうっ血型の症例の画像を示す図である。
図17】実施例において混合型の症例の画像を示す図である。
図18】実施例において複数の症例を分類した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係るヘモグロビン定量装置について、図1ないし図10を用いて説明する。本実施形態に係るヘモグロビン定量装置は、生体組織を撮像した際の反射光を第1波長帯域成分、第2波長帯域成分及び白色成分で取得し、受光した反射光を利用してヘモグロビンの酸素飽和度及びヘモグロビン量を算出するものである。また、算出したそれぞれの値で画像を生成し、ディスプレイにリアルタイムに表示することで手術ナビゲーション(手術支援装置)として機能するものである。
【0028】
図1は、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置のハードウェア構成図である。ヘモグロビン定量装置1のコンピュータ100は、CPU101、RAM102、ROM103、ハードディスク(HDとする)104、通信I/F105、及び入出力I/F106を備える。ROM103やHD104には、オペレーティングシステム、プログラム、データベース等が格納されており、必要に応じてプログラムがRAM102に読み出され、CPU101により実行される。
【0029】
通信I/F105は、装置間の通信を行うためのインタフェースである。入出力I/F106は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力機器からの入力を受け付けたり、プリンタやディスプレイ等にデータを出力するためのインタフェースである。この入出力I/F106は、必要に応じて光磁気ディスク、CD-R、DVD-R等のリムーバブルディスク等に対応したドライブを接続することができる。各処理部はバスを介して接続され、情報のやり取りを行う。なお、上記ハードウェアの構成はあくまで一例であり、必要に応じて変更可能である。
【0030】
図2は、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置の構成を示す機能ブロック図である。ヘモグロビン定量装置1は、生体組織aから反射する反射光を受光する受光部2と、受光した反射光から第1波長帯域の光成分を取得する第1波長成分取得部3と、受光した反射光から第2波長帯域の光成分を取得する第2波長成分取得部4と、受光した反射光における白色成分のうちの緑色成分を取得するG成分取得部5と、受光した反射光における白色成分のうちの青色成分を取得するB成分取得部6と、第1波長成分取得部3が取得した光成分、及び第2波長成分取得部4が取得した光成分に基づいて、ヘモグロビン酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出部7と、第1波長成分取得部3が取得した光成分、第2波長成分取得部4が取得した光成分、G成分取得部5が取得した光成分、及びB成分取得部6が取得した光成分に基づいて、総ヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出部8と、酸素飽和度算出部7が算出したヘモグロビン酸素飽和度の光成分から画像を生成すると共に、ヘモグロビン量算出部8が算出した総ヘモグロビン量の光成分から画像を生成する画像生成部9と、生成されたヘモグロビン酸素飽和度の画像及び総ヘモグロビン量画像を利用者の操作に基づいて、ディスプレイbに切り替え表示する表示制御部10とを備える。
【0031】
ここで、本実施形態における定量の対象となるヘモグロビンについて説明する。赤血球中の大部分を占めている血色素はヘモグロビンであり、ヘムという色素とグロビンというタンパク質から構成されている。赤血球中のヘモグロビンは、酸素分子と結合する性質を持ち、肺から全身へと酸素を運搬する役割を担っている。酸化ヘモグロビンが酸素を体内の組織に運び、代わりに二酸化炭素を受け取って還元ヘモグロビンとして肺に戻り、再び酸素と結びついて各生体組織に酸素を運ぶという非常に重要な役割を担っている。この酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとは、それぞれスペクトルごとの反射特性が異なるため、ヘモグロビン全体の色調は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの割合で変化する。例えば、酸素飽和度が高い場合は、酸化ヘモグロビンは近赤外光(波長830nm)をよく吸収するため赤色光が多く検出される。酸素飽和度が低い場合は、還元ヘモグロビンは赤色光(波長670nm)を吸収するため近赤外光が多く検出される。このことから、酸素飽和度が高い動脈血は鮮紅色で、酸素飽和度が低い静脈血は暗褐色に見えるような反射特性を有している。
【0032】
本実施形態に係るヘモグロビン定量装置は、これらの酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの反射特性を利用してヘモグロビンの定量を行う。上記に示した、第1の波長帯域と第2の波長帯域とは、ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて反射特性が異なる任意の2つの狭小波長帯域であり、例えば、第1の波長帯域が670nmの波長帯域であり、第2の波長帯域が830nmの波長帯域である。図3は、ヘモグロビン酸素飽和度に応じた波長帯域ごとの反射特性を示すグラフである。図3に示すように、ヘモグロビン酸素飽和度が100%の場合は、約600nmの波長から約670nmの波長帯域にかけて光成分が次第に大きくなり、670nmでピーク値となり、そこから波長が長くなるに連れて次第に光成分が減少する。一方、ヘモグロビン酸素飽和度が0%の場合は、約600nmの波長から約670nmの波長帯域にかけて光成分が次第に大きくなり、730nmあたりで一旦ピークが現れた後に830nmで最大ピークが現れ、そこから波長が長くなるに連れて次第に光成分が減少する。ヘモグロビン酸素飽和度が70%の場合は、約600nmの波長から約670nmの波長帯域にかけて光成分が次第に大きくなり、710nmあたりで最大ピークが現れ、そこから波長が長くなるに連れて次第に光成分が減少する。このように、ヘモグロビンは酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの割合に応じてスペクトル毎の反射率が異なるため、波長帯域ごとの反射特性を示すグラフの形状が異なっている。つまり、ヘモグロビンは酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの割合が同じ場合には、同じグラフ形状となる。
【0033】
ここで、図3からわかる通り670nmの波長帯域においては、ヘモグロビン酸素飽和度が高い程、反射光の成分が大きくなっており、ヘモグロビン酸素飽和度の減少に応じて反射光の成分が大きく減少している。一方、830nmの波長帯域においては、ヘモグロビン酸素飽和度が高い程、反射光の成分が小さくなっており、ヘモグロビン酸素飽和度の減少に応じて反射光の成分が少し増加している。すなわち、670nmの波長帯域と830nmの波長帯域において、ヘモグロビン酸素飽和度と反射光成分との関係は相補的な関係になっており、それぞれに応じて変化している。本実施形態においては、後述するように、これらの2波長間における反射特性の相関関係を利用することで、ヘモグロビン酸素飽和度及びヘモグロビン量を算出することが可能となる。
【0034】
受光部2は、生体組織の反射光を受光するセンサであり、例えば、アクティブ投光型の投光器で生体組織を照射した際の反射光が受光部2で受光される。このとき、投光器では図4に示すようなスペクトル特性を有する光が生体組織を照射する。すなわち、約300nm~1000nmの波長帯域で均等に成分を有するランプと、670nmの波長帯域の成分を有するランプと、830nmの波長帯域の成分を有するランプとで生体組織を照射する。このアクティブ照明方式は、異なるスペクトルを持つ照明を切り替えながら撮影してハイパースぺクトルイメージを得る方式であり、照明の切り替えは液晶チューナブルフィルタと同様に電気的に制御するため、対象の2次元分光画像を高速に取得できる。
【0035】
なお、アクティブ投光型の投光器による照射を行わなくても、必要な波長帯域の光成分のみをフィルタリングにより取り出すような構成としてもよい。フィルタ方式では、CCDカメラなどの前に特定の波長域の光のみを通すフィルタを設置して撮影することで分光画像を得ることが可能である。
【0036】
受光部2が受光した反射光は、第1波長成分取得部3が670nmの波長帯域における光成分を取得し、第2波長成分取得部4が830nmの波長帯域における光成分を取得し、G成分取得部5が緑色成分を取得し、B成分取得部6が青色成分を取得する。
【0037】
以下、酸素飽和度算出部7及びヘモグロビン量算出部8の処理について説明する。酸素飽和度算出部7は、第1波長成分取得部3が取得した670nmの波長帯域における反射度と、第2波長成分取得部4が取得した830nmの波長帯域における反射度とに基づいて、血中の酸素飽和度を算出する。ある物質がどれくらい光を反射するかを反射度とし、反射度は照射量が一定であれば反射光量をCCDなどのセンサーを使って測定することが可能である。スペクトルに対応した一定の反射度を持った物質も、その物質の一定面積当たりの濃度(密度)が濃く(高く)なればなるほど、反射される光の量は多くなる。溶液の吸光度であれば、ランバート・ベールの法則により、ある液体中の溶質の濃度を知ることが可能になる。物質(溶質)が2種類の場合は、2種類の波長の光を当ててその反射度(吸光度)を測定することで、その物質の相対濃度を知ることができる。したがって、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとから構成されているヘモグロビンは2種類の波長の光を当てることによって、それぞれの相対濃度を知ることが可能となる。
【0038】
【数1】
【0039】
rは相関係数、PR670はP点での波長670nmの反射度、PR830はP点での波長830nmの反射度である。
【0040】
実際に測定できるのは反射度ではなく、反射光量である。しかしながら、P点における反射光量は以下の式に示す通り、P点での照射光量に反射度を乗じた値である。
【0041】
【数2】
【0042】
LPはP点での照射光量を示し、照明において波長670nmと波長830nmとの照射量は等しく設定してあれば、
【0043】
【数3】
【0044】
LPR670はP点での波長670nmの照射光量、LPR830はP点での波長830nmの照射光量とする。
【0045】
すなわち、図3において示したように、酸化ヘモグロビン量と還元ヘモグロビン量との割合に応じて各波長(670nmと830nm)ごとの反射光成分が異なり、それぞれの波長間において相関関係を有することから、上記の式(1)により血中の酸素飽和度を算出することができる。670nmと830nmとの反射光成分の比は、ある瞬間の画面上の位置Pにおけるヘモグロビン酸素飽和度を反映する。この値は、2つの値の比を取ることによって算出されているため、照射光量が異なる時間及び部位的な変化にも対応できる数値である。つまり、経時的な観察や他の部位との比較には有用である。しかし、絶対的な評価を行うためには、絶対値(測定値)と算出された定量値のスケールを統一する基準を決める必要がある。測定値と定量値のスケールを統一するため、手術中は全身に対して十分な酸素化が行われていることを利用して、拍動する動脈の酸素飽和度(R670nm/R830nm)を最高値の基準100とする係数Kを算出する。すなわち、以下の式により酸素飽和度を算出する。
【0046】
【数4】
【0047】
ヘモグロビン量算出部8によるヘモグロビン量の算出においても、その物質の一定面積当たりの濃度(密度)が濃く(高く)なればなるほど、反射される光の量は多くなる。溶液の吸光度であれば、上述したように、ランバート・ベールの法則により、物質の相対濃度を知ることができ、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとから構成されているヘモグロビンの量も酸素飽和度と同様に2種類の波長の光を当てることによって算出できる。
【0048】
反射特性の異なる2つの物質が様々な割合で存在している場合に、全体の濃度は以下のように算出することが可能である。図3において、反射度の異なる物質の相対濃度によって反射特性を示すグラフの形状が異なることを示したが、相対的濃度が一定で絶対的な濃度が変化した際には、反射特性を示すグラフの形状は図5に示すように、そのままで絶対値が変化する。絶対濃度が低下すれば、すべての波長において反射率は低下する。しかし、元々の反射度が異なっているため、1つの波長の反射量の変化だけでは、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの相対濃度の影響を除外することができない。
【0049】
ここで、P点において酸素飽和度に比例して反射度が増加する670nmと、反比例して反射度が低下する830nmの反射量を用いて、ヘモグロビンの絶対量を定量化する。2つの波長では元々増減量が異なるため、2つの波長での増減幅を考慮した係数iを用いることによって、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの相対的濃度に影響されない絶対量を算出することが可能となる。
【0050】
位置Pにおけるヘモグロビンの絶対量(Hbamount)は、次式で算出することができる。
【0051】
【数5】
【0052】
ここで、酸素飽和度(酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの相対的濃度)の算出に際しては、各々の波長の反射光量の比を取ることで、照射量の影響を打ち消すことが可能であったが、絶対量の算出には比を取ることができないので、照射量の影響、すなわち生体組織の凹凸や照明ムラから生じるシェーディングを補正する必要がある。補正には、同じ光源の光を同時に捕らえているRGBカラー成分のうち、ヘモグロビンの変化の影響を受けないG(green)成分とB(Blue)成分とを利用する。
【0053】
【数6】
【0054】
ヘモグロビンの絶対量においても測定値と定量値のスケールを統一するため、補正値Kの算出にはうっ血や虚血がない拍動している動脈における(R670+R830)/R(B+G)を100として利用する。すなわち、
【0055】
【数7】
【0056】
となる。このようにR(B+G)の比で補正することで、シェーディングを補正しヘモグロビンの絶対値を定量化することが可能となる。
【0057】
画像生成部9は、酸素飽和度算出部7及びヘモグロビン量算出部8がそれぞれ算出したヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を画素に置き換えて画像として生成する。表示制御部10は、画像生成部9が生成したヘモグロビン酸素飽和度を示す画像、及び総ヘモグロビン量を示す画像を、利用者の操作に応じて切り替えてディスプレイbにリアルタイムに表示する。
【0058】
図6図9に具体的な画像を示す。図6は、670nmの波長帯域における生体組織の画像と、830nmの波長帯域における生体組織の画像とを示している。また、図7は、カラー画像からR成分、G成分及びB成分を分割してそれぞれの成分ごとに表示したものである。図6におけるそれぞれの波長帯域の画像の加算値を、図7におけるG成分とB成分との加算値で除算することで、図8に示すように総ヘモグロビン量を定量化した画像を生成することが可能となる。また、図6におけるそれぞれの波長帯域の画像を除算(P670/P830)することで、図9に示すように酸素飽和度を示す画像を生成することが可能となる。図8及び図9の画像は、それぞれ個別に生成されるため、利用者の操作に応じて切り替えて表示、又は同一画面に同時に表示されることとなる。
【0059】
次に、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置の動作を説明する。図10は、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置の動作を示すフローチャートである。まず、カメラ又はセンサの受光部2が生体組織の注目箇所を撮像する(S1)。第1波長成分取得部3が670nmの波長帯域の成分を取得し、第2波長成分取得部4が830nmの波長帯域の成分を取得し、G成分取得部5がRGBのうちのG成分(緑色成分)を取得し、B成分取得部6がRGBのうちのB成分(青色成分)を取得する(S2)。酸素飽和度算出部7が、第1波長成分取得部3が取得した670nmの波長帯域の成分、及び第2波長成分取得部4が取得した830nmの波長帯域の成分に基づいて、ヘモグロビン酸素飽和度を算出する(S3)。画像生成部9が、算出されたヘモグロビン酸素飽和度に応じた画像を生成する(S4)。ヘモグロビン量算出部8が、第1波長成分取得部3が取得した670nmの波長帯域の成分、第2波長成分取得部4が取得した830nmの波長帯域の成分、G成分取得部5が取得したRGBのうちのG成分、及びB成分取得部6が取得したRGBのうちのB成分に基づいて、総ヘモグロビン量を算出する(S5)。画像生成部9が、算出された総ヘモグロビン量に応じた画像を生成する(S6)。表示制御部10が、利用者の操作に応じてヘモグロビン酸素飽和度の画像と総ヘモグロビン量の画像とを切り替えて、又は同一の画面内に同時に表示するように制御し(S7)、処理を終了する。
【0060】
このように、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置においては、2つの狭小波長帯域における光成分に基づいて、ヘモグロビンのヘモグロビン量を算出するヘモグロビン量算出部8を備え、ヘモグロビン量算出部8が、2つの狭小波長帯域における光成分を青色成分及び緑色成分に基づいて補正してヘモグロビン量を算出するため、パルスオキシメータなどでは測定不可能な総ヘモグロビン量を得ることが可能となり、より正確な診断に役立てることができる。
【0061】
また、総ヘモグロビン量に加えて、ヘモグロビン酸素飽和度を算出することができるため、それぞれの値に基づいた正確且つ詳細な診断を可能にする。
【0062】
さらに、手術中における動脈の酸素飽和度を基準として、酸素飽和度を算出するため、ヘモグロビン酸素飽和度が確実に高い状態を基準とすることで、正確なヘモグロビン酸素飽和度を算出することができる。
【0063】
さらにまた、ヘモグロビン量、及び酸素飽和度をそれぞれ切り替えて表示するため、総ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を画像でリアルタイムに確認することが可能となり、手術ナビゲーションとして利用することができる。
【0064】
さらにまた、ヘモグロビンの反射特性に関与しない青色成分と緑色成分を使って、演算に不必要な成分に関する情報を除去することができ、正確に総ヘモグロビン量を算出することが可能になる。
【0065】
さらにまた、ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を算出することで、臓器の血流評価や、腫瘍の診断と浸潤範囲の判定、炎症の程度と範囲の診断などに利用することが可能になる。
【0066】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係るヘモグロビン定量装置について、図11を用いて説明する。本実施形態に係るヘモグロビン定量装置は、アクティブ投光型の投光器で生体組織を照射した場合に生じ得るフリッカを防止する機能を備える。
【0067】
アクティブ投光器により異なる波長の投光器を短時間で切り替えて使用するため、ちらつき(フリッカ)が発生する。肉眼や通常のRGBカメラで撮像した場合にフリッカが発生してしまうと、利用者にとって非常に邪魔なものとなってしまう。人間の肉眼やRGBカメラは3種類の色感度を持っているが、実際の光原色は、次式のように人間の視覚特性により積分されて観測される。
【0068】
【数8】
【0069】
すなわち、第1波長帯域である680nmや第2波長帯域である830nmの光成分を画像として復元できると共に、人間の視覚特性を考慮し、投光器の切り替えによる観測色の変化が感じられないような波長の光の組み合わせLを上記式の最適化により求め、アクティブ投光器として構成することで、フリッカを排除したマルチスペクトル計測が可能となる。
【0070】
図11は、フリッカを排除する場合のスペクトルの一例を示す図である。図11(A)に示すように、照明1と証明2とで2つの異なる波長帯域における光成分(第1波長帯域及び第2波長帯域)を切り替えて使用するとフリッカが発生する。これに対して、図11(B)に示すように、それぞれの波長帯域の近傍の波長帯域の光成分であって、それぞれの照明の光成分が類似するように他の波長帯域の光成分を追加することで、照明1の光成分と照明2の光成分との差異を小さくし、フリッカを防止することが可能となる。
【0071】
なお、上記では、照明(投光器)間の光成分の差異を小さくすることで、フリッカを排除する手法について説明したが、単一の可視光(例えば、680nm)の照明を点滅させるような場合は、当該可視光近傍の波長帯域における弱い光成分を追加することで、前記の単一の可視光を照射した場合と照射しない場合との差を小さくし、フリッカを防止するようにしてもよい。
【0072】
このように、本実施形態に係るヘモグロビン定量装置においては、アクティブ投光型により光を照射する場合に、照明の切り替えにより発生するフリッカを防止して、利用者の邪魔にならないように生体組織を撮像することができる。
【0073】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係るヘモグロビン定量装置を用いた施術支援装置について、図12及び図13を用いて説明する。本実施形態に係る施術支援装置は、前記各実施形態におけるヘモグロビン定量装置で得られたヘモグロビンの酸素飽和度及びヘモグロビン量に基づいて、吻合箇所の判定を行うものである。
【0074】
図12は、本実施形態に係る施術支援装置の構成を示す機能ブロック図である。ここで、本実施形態に係る施術支援装置は、前提として図2に示す画像生成部9により、酸素飽和度算出部7が算出したヘモグロビン酸素飽和度の光成分、及びヘモグロビン量算出部8が算出した総ヘモグロビン量の光成分から画像が生成され、生成されたヘモグロビン酸素飽和度の画像及び総ヘモグロビン量画像がディスプレイbに表示された状態で処理が開始されるものとする。
【0075】
施術支援装置120は、ヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量が画像により視認可能な状態で表示されたディスプレイb上で、利用者の操作に基づいて入力される吻合箇所情報aを入力する入力部121と、吻合に適していると判断されるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を閾値として予め入力部121から入力して記憶すると共に、その他設定値や処理に必要な情報を記憶する記憶部122と、入力された吻合箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量と記憶部122に記憶されている閾値とを比較して入力された吻合箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量が吻合に適した箇所であるかどうかを判定する判定部123と、判定部123の判定結果をディスプレイbに出力する出力制御部124とを備える。
【0076】
実際の実験結果は実施例において詳細を説明するが、利用者は、まずヘモグロビン定量装置において生成された画像に対して、ディスプレイb上で吻合に適していると判断される箇所を吻合箇所情報として入力する。そして、判定部123は、入力された吻合箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度が記憶部122に記憶されている所定の閾値よりも高く、且つ、総ヘモグロビン量が記憶部122に記憶されている所定の閾値よりも低い場合は、入力された箇所を吻合箇所として決定する。
【0077】
入力された吻合箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度が記憶部122に記憶されている所定の閾値以下、又は、総ヘモグロビン量が記憶部122に記憶されている所定の閾値以上である場合は、他の吻合箇所を入力するように出力制御部124がその旨を提示する。利用者は、物理的に吻合可能な他の箇所を入力し、判定部123が再度上記と同じ処理を行うことで、その箇所における吻合の適正が判定される。その結果、吻合の適正がよければ、変更後の入力箇所が吻合箇所として決定される。
【0078】
他の吻合箇所が入力できる間は上記処理が繰り返して行われる。そして、他の吻合箇所を入力できなくなると(吻合箇所を入力できない旨が利用者から入力されると)、判定部123が記憶部122に記憶されている他の施術方法を提示して出力する。利用者は出力された施術方法を選択し、その施術方法を施した後に、再度ヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を求めて、吻合箇所を特定する。
【0079】
なお、本実施形態において、利用者が入力した吻合箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量は、予め画像に対応付けて記憶部122で記憶してもよいし、利用者の操作に応じてリアルタイムに演算して求めるようにしてもよい。
【0080】
また、記憶部122には、予め施術箇所(例えば、食道、胃、肝臓、小腸、大腸を含めた全身の諸臓器等)ごとに設定値や閾値やその他処理に必要な情報が記憶され、利用者が施術箇所を最初に入力することで、その施術箇所に応じた設定値や閾値等が読み出され、施術箇所に適した処理がなされるようにしてもよい。
【0081】
次に、本実施形態に係る施術支援装置の動作について説明する。図13は、本実施形態に係る施術支援装置の動作を示すフローチャートである。なお、ここでは、仮に食道と胃管を吻合する際の吻合箇所を決定する処理について説明する。
【0082】
まず、ヘモグロビン酸素飽和度の光成分、及び総ヘモグロビン量の光成分から生成された画像がディスプレイbに表示された状態で、利用者の指示により吻合部位が吻合箇所情報aとして入力部121に入力される(S1)。判定部123が、記憶部122に記憶されているヘモグロビン酸素飽和度の閾値と、総ヘモグロビン量の閾値とを読み出し、入力部121に入力された吻合箇所のヘモグロビン酸素飽和度が閾値(例えば、90)以上で、且つ、総ヘモグロビン量が閾値(例えば、110)以下であるかどうかを判定する(S2)。条件を満たす場合は、入力された吻合部位を吻合箇所として決定し(S3)、出力制御部124がその旨をディスプレイbに表示する。なお、このとき、吻合箇所を決定した旨を積極的にディスプレイbに表示してもよいし、アラート等の情報が表示されないことを吻合箇所が決定した旨としてもよい。
【0083】
入力部121に入力された吻合箇所がステップS2の条件を満たさない場合は、利用者がディスプレイb上で吻合部位を変更し(S4)、他の吻合箇所情報aを入力部121に入力する。変更された吻合部位の吻合箇所情報aに対して、判定部123が、再度ヘモグロビン酸素飽和度が閾値(例えば、90)以上で、且つ、総ヘモグロビン量が閾値(例えば、110)以下であるかどうかを判定する(S5)。条件を満たす場合は、変更された吻合部位を吻合箇所として決定し(S3)、出力制御部124がその旨をディスプレイbに表示する。
【0084】
条件を満たさない場合は、他の施術方法を選択して実施する(S6)。他の施術方法として、例えば、明らかに胃管の長さが足りない場合に行う施術で、遊離した空腸を食道と胃管の間に間置移植する遊離空腸移植(このとき、遊離した空腸の動脈と静脈も頸部の血管に併せて吻合する)や、胃管の静脈還流が悪いと判断した場合に胃管の静脈と頚部の静脈を吻合する静脈吻合や、胃管の動脈血流が障害されていると判断された場合に胃管の動脈と頚部の動脈を吻合する動脈吻合等がある。
【0085】
これらの施術方法が予め記憶部122に記憶されており、ステップS5の条件を満たさない場合には、出力制御部124が、記憶部122から上記の他の施術方法に関する情報を読み出してディスプレイbに表示する。利用者は、それらの施術方法からいずれか1又は複数の組み合わせを選択し、実際にその施術を行う。
【0086】
施術した結果、再度ステップS1に戻って吻合部位を入力し、上記の処理を繰り返して吻合箇所の特定を行う。
【0087】
このように、本実施形態に係る施術支援装置においては、ヘモグロビン量の光成分から画像を生成すると共に、ヘモグロビンの酸素飽和度の光成分に基づいて画像を生成し、生成されたそれぞれの画像をディスプレイに表示し、表示された前記画像における吻合箇所を利用者の操作に基づいて特定し、特定された吻合箇所におけるヘモグロビン量及びヘモグロビンの酸素飽和度に基づいて、吻合の可否について判定を行うため、吻合箇所として適した位置を利用者(医師)の判断だけではなく、数値として客観的に提示して判定することが可能になる。なお、ヘモグロビン量及びヘモグロビン酸素飽和度を算出することで、吻合の可否以外にも、臓器の血流評価や、腫瘍の診断と浸潤範囲の判定、炎症の程度と範囲の診断などに利用することが可能になる。
【実施例
【0088】
本発明に係るヘモグロビン定量装置及び施術支援装置を用いて、以下の臨床試験を行った。施術箇所は食道と胃管であり、ヘモグロビン定量装置及び施術支援装置が食道と胃管を吻合する上で、その吻合箇所を特定するのに非常に効果的であることが明確となった。
【0089】
以下、典型的な4つの症例について説明する。
(1)循環型
図14は、循環型の症例の画像を示す図である。これは、胃管の先端までヘモグロビン酸素飽和度が90以上あり(左画像)、総ヘモグロビン量も先端まで一定した量を保っている(右画像)症例である。C1(□マーク)の箇所は動脈であり、ここのヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を100として、C2(○マーク)、A(☆マーク)及びE(△マーク)の3箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を示している。この循環型においては、いずれの箇所においてもヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量が高い値を示しており、どの箇所で吻合しても問題なく吻合可能であると判断される。
【0090】
(2)虚血型
図15は、虚血型の症例の画像を示す図である。これは、左画像のヘモグロビン酸素飽和度については、胃管の中央部分でヘモグロビン酸素飽和度が低く、末端部分ではさらに低くなっており、右画像の総ヘモグロビン量については、胃管の中央部分で高く、末端部分では低くなっている症例である。また、末端との動静脈の連続性に障害があると判断される。C1(□マーク)の箇所は動脈であり、ここのヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を100として、C2(○マーク)、A(☆マーク)及びE(△マーク)の3箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を示している。この症例においては、A部位において吻合を行ったが、その箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度が83.1、総ヘモグロビン量が125.2であり、術後に吻合部狭窄を合併した。
【0091】
(3)うっ血型
図16は、うっ血型の症例の画像を示す図である。これは、胃管中央部のヘモグロビン酸素飽和度が低く(左画像)、総ヘモグロビン量が高く(右画像)なっている。また、末端部分はヘモグロビン酸素飽和度が高く、総ヘモグロビン量が減少傾向にあり、末端との動静脈の連続性に障害がないと判断される。この症例においては、A部位(胃管中央部よりも末端側)において吻合を行ったが、吻合部に問題は生じなかった。
【0092】
(4)混合型
図17は、混合型の症例の画像を示す図である。図17においても、C1(□マーク)の箇所は動脈であり、ここのヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を100として、C2(○マーク)、A(☆マーク)及びE(△マーク)の3箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を示している。ここでは、C2の箇所から末端までヘモグロビン酸素飽和度の低下が認められ、総ヘモグロビン量の増加が認められる。吻合箇所はA部位であるが、吻合部抹消にヘモグロビン酸素飽和度が極端に低く(62.4)、総ヘモグロビン量が高い(144.4)線状の部位が認められ、静脈内血栓が認められた。吻合後に内頸静脈と大網静脈管の静脈吻合を行ったが、術後に吻合不全を発症した。
【0093】
上記4つの典型的な症例をベースに複数の症例を分類した。その結果を図18に示す。図18は、吻合を行った箇所におけるヘモグロビン酸素飽和度と総ヘモグロビン量とをプロットしたものであり、破線で示す3つの症例については、術後に縫合不全を発症し、その他の症例では経過が順調だった。
【0094】
図18の結果から、食道と胃管とを吻合する場合の施術においては、ヘモグロビン酸素飽和度が85以下で、且つ、総ヘモグロビン量が115以上である場合に、術後に縫合不全を発症する可能性があると判断することができる。したがって、術前に吻合箇所を特定する際に、これらの判断材料に基づいて安全でリスクの少ない施術を実施することが可能になる。
【0095】
なお、本実施例においては食道と胃管との吻合について臨床試験を行ったが、他の施術においても同様に臨床試験を実施することで、施術方法や施術対象に応じた数値の設定が可能となる。
【0096】
また、上記各実施形態や本実施例においては、動脈におけるヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を基準(本実施例においては基準値を100としている)としてそれぞれ施術箇所のヘモグロビン酸素飽和度及び総ヘモグロビン量を定量しているが、例えば、肺であれば気管支動脈を基準とすることができ、肝臓であれば肝動脈が少ないことから門脈を基準としてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 ヘモグロビン定量装置
2 受光部
3 第1波長成分取得部
4 第2波長成分取得部
5 G成分取得部
6 B成分取得部
7 酸素飽和度算出部
8 ヘモグロビン量算出部
9 画像生成部
10 表示制御部
100 コンピュータ
101 CPU
102 RAM
103 ROM
104 ハードディスク
105 通信I/F
106 入出力I/F

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