(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】N-メチル-D-アスパラギン酸受容体アロステリックモジュレーター及びそれらの使用のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/166 20060101AFI20220830BHJP
A61K 31/15 20060101ALI20220830BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220830BHJP
A61K 31/175 20060101ALI20220830BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20220830BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220830BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220830BHJP
A61P 25/36 20060101ALI20220830BHJP
C07C 243/18 20060101ALI20220830BHJP
C07C 243/26 20060101ALI20220830BHJP
C07C 243/38 20060101ALI20220830BHJP
C07D 213/86 20060101ALI20220830BHJP
C07D 213/87 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61K31/166
A61K31/15
A61K31/167
A61K31/175
A61K31/357
A61K31/44
A61K31/455
A61P25/00 101
A61P25/04
A61P25/06
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/36
C07C243/18
C07C243/26
C07C243/38 CSP
C07D213/86
C07D213/87
(21)【出願番号】P 2019538308
(86)(22)【出願日】2017-09-26
(86)【国際出願番号】 CN2017103398
(87)【国際公開番号】W WO2018107853
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-07-16
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519106725
【氏名又は名称】チンタオ プライメディスン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 ユ ティアン
(72)【発明者】
【氏名】アクセリオ-シリーズ、ピーター
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/027548(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0155172(US,A1)
【文献】特表2008-500270(JP,A)
【文献】特表2008-540424(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0086704(KR,A)
【文献】国際公開第2008/066887(WO,A2)
【文献】Polyhedron,2015年,vol.97,pp.268-272,DOI:10.1016/j.poly.2015.07.012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 25/00-25/36
C07C 243/00-243/42
C07D 213/00-213/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療を必要とする対象における前記予防又は前記治療のための医薬の製造における、
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
からなる群より選択される化合物又はその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項2】
前記化合物がNMDARアロステリックモジュレーターである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化合物が含GluN2A-NMDAR(GluN2A-containing NMDAR)に対して選択的なポジティブモジュレーターである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記障害又は前記状態が興奮毒性に関連する神経障害である、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記障害又は前記状態が、学習及び記憶障害、片頭痛、てんかん、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、脳外傷、脳卒中などの急性脳損傷、統合失調症、神経因性疼痛、うつ病、並びに薬物依存からなる群より選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
からなる群より選択される化合物、又はその医薬的塩。
【請求項7】
請求項6に記載の化合物又はその医薬的に許容される塩、及び
医薬的に許容される担体又はアジュバント
を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用化合物及び組成物、並びに神経障害の予防又は治療におけるそれらの使用のための方法に関する。より詳細には、本発明は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アロステリックモジュレーター、及び、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療における、それらの使用のための方法に関する。本発明はまた、NMDARアロステリックモジュレーターを同定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)は、学習及び記憶などの脳機能の媒介(Tang, Y.P. et al. Nature (1999) 401(6748): 63-69)と、アルツハイマー病(Paoletti, P. et al. Nat Rev Neurosci (2013) 14(6): 383-400)、ハンチントン病(Fan, M. & Raymond, L. Prog Neurobiol (2007) 81(5-): 272-293)、及びパーキンソン病(Schmidt, B.J. Ann NY Acad Sci (1998) 860: 189-202)などの慢性脳変性疾患、並びに脳外傷を含む障害(Shohami, E. & Biegon, A. CNS Neurol Disord Drug Targets (2014) 13(4): 567-573)、及び脳卒中などの急性脳損傷(Liu, Y. et al. J Neurosci (2007) 27(11): 2846-2857)の発病との双方において、重要な役割を果たす、脳内のイオンチャネル型グルタミン酸受容体の亜科である。
【0003】
脳卒中は、重度の長期能力障害の主因である(Mozaffarian, D. et al. Circulation (2015) 131(4): e29-322)。さらに、すべての脳卒中のうちの87%は、虚血性脳卒中であり、その原因は、脳への血流を阻害する、血管内に形成された血餅である(Haast, et al. J Cereb Blood Flow Metab (2012) 32(12): 2100-2107; Mozaffarian, D. et al. Circulation (2015) 131(4): e29-322; Zhang, Y. et al. Circulation (2008) 118(15): 1577-1584)。この阻害は、最終的には、細胞への酸素供給の欠乏による脳機能の急激な喪失及び緩慢な細胞死、プログラム細胞死、フリーラジカルの形成、並びに制御不能な細胞死(壊死)を招き、そのすべてが脳に有害な影響を及ぼす(Northington, F.J. et al. Ann Neurol (2011) 69(5): 743-758)。
【0004】
NMDARサブユニットは、必須であるGluN1サブユニット(以前はNR1として知られていた)と、GluN2A-D(以前はNR2A-Dとして知られていた)及び/又はGluN3(A及びB)サブユニットとの組み合わせからなる、ヘテロ四量体の膜貫通チャネルを形成する(Collingridge, G.L. et al. Neuropharmacology (2009) 56(1): 2-5)。異なるGluN2サブユニット(GluN2A-D)は、受容体複合体に、別個の電気生理学的及び薬理学的な特性を付与し、それらを異なるシグナル伝達機構と結び付ける(Bliss, T. & Schoepfer, R. Science (2004) 304(5673): 973-974; Seeburg, P.H. Trends Neurosci (1993) 16(9): 359-365; Seeburg, P.H. Trends Pharmacol Sci (1993) 14(8): 297-303)。近年の証拠は、NMDARが、GluN2サブユニットの存在に応じて、シナプス可塑性及び細胞生存の媒介において異なる機能を発揮することを示唆している。一般に、含GluN2B-NMDAR(GluN2B-containing NMDAR)は、細胞死のシグナル伝達を活性化し、それによって興奮毒性による神経細胞障害を媒介し、一方、含GluN2A-NMDAR(GluN2A-containing NMDAR)は、学習、記憶及び神経細胞生存のために重要な長期増強の誘導を促進し、それによって興奮毒性による障害から神経細胞を保護する。
【0005】
神経細胞の生存及び死における、このNMDARの二重機能は、近年の臨床治験においてNMDARモジュレーターが奏功していない理由の、少なくとも一部である可能性がある。従来のNMDARアンタゴニストは表面受容体を標的とし、神経細胞の細胞生存シグナル伝達経路及び細胞死シグナルの伝達経路と、受容体の通常の機能との両方を本質的に阻害するため、望ましくない副作用の原因となる。これに対して、含GluN2A-NMDARの活性増進(enhancement)は、神経細胞の生存機序を特異的に促進することにより虚血性損傷から神経細胞を守り、それによって副作用を軽減し、かつ治療の機会を広げる可能性がある。
【0006】
虚血性脳卒中に対する現在の治療選択肢は、血管治療を介して脳卒中発症後の再灌流を行うことによって血流を回復させるか、又は神経を保護する手法により虚血性細胞死に至るシグナル伝達経路を阻害するかのいずれかに限られる(Woodruff T.M. et al. Mol Neurodegener (2011) 6(1): 11)。受容体チャネルをポジティブに調節する(positive modulation)手法を用いた、NMDARの機能の薬理学的強化においては、現在まで進歩はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、NMDAR活性を調節する化合物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明において同定される化合物は、NMDARのGluN1/GluN2Aサブタイプ及び/又はGluN1/GluN2Bサブタイプをポジティブに調節する効果を示す。
【0009】
本発明のある態様においては、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療を必要とする対象における、前記予防又は治療に使用するための、式1の化合物又はその医薬的に許容される塩が提供される。
【0010】
【0011】
式1中、
R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立に、H、OH、ハロゲン(halo)、CN、NO2、NRR’、COOR、CONRR’、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケノキシ基又は炭素数2~6のアルキノキシ基であり;
R15はH又は炭素数1~6のアルキル基であり;
R11はH又は炭素数1~6のアルキル基であり;
Gは直接結合、O、NR、S、OCR’R”、SCR’R”、NRCR’R”、NRC(O)、NRC(O)NR’、NRC(O)CR’R”又はNRC(O)CR’R”Oであり、Gはカルボニル及びAとどちらかの方向性で結合しており;
AはA-1:
【0012】
【0013】
であり;
XはCR7又はNであり;
YはCR8又はNであり;
R6、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立に、H、OH、ハロゲン、CN、NO2、NRR’、NRC(O)R14、COOR、CONRR’、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケノキシ基若しくは炭素数2~6のアルキノキシ基であるか、又は、R7及びR8が一緒になって、若しくはR8及びR9が一緒になって、O、N及びSからなる群より選択される1~3個のヘテロ原子を所望により含む、5員若しくは6員の飽和、部分不飽和若しくは芳香族の単環を形成していてもよく;
R14はH、炭素数1~6のアルキル基、又は、1つ若しくは複数の炭素数1~6のアルキル基で所望により置換された炭素数5~10のアリール基であり;
R、R’及びR”は、各存在箇所において、独立にH又は炭素数1~6のアルキル基であり;並びに
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルケノキシ基及びアルキノキシ基は、それぞれ、OH及びハロゲンからなる群より選択される1つ又は複数の基で所望により置換されている。
【0014】
本発明のさらなる態様では、対象において、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態を予防又は治療するための方法であって、前記方法が、予防的又は治療的有効量の本発明の化合物又はその医薬的に許容される塩を、前記対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0015】
本発明のさらなる態様では、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態を、予防又は治療することを必要とする対象において、前記予防又は治療を行うための医薬の製造における、本発明の化合物又はその医薬的に許容される塩の使用が提供される。
【0016】
本発明のさらなる態様では、本発明の化合物又はその医薬的に許容される塩、及び医薬的に許容される担体又はアジュバントを含む、医薬組成物が提供される。前記医薬組成物は、NMDAR活性を調節するために使用することができ、したがって、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療を必要とする対象において、前記予防又は治療のために使用することができる。
【0017】
本発明のさらなる態様では、N末端ドメイン(NTD)におけるGluN1サブユニットとGluN2Aサブユニットとの間の界面の標的部位に特異的に結合する化合物であって、前記標的部位が、少なくとも、GluN1のアミノ酸残基135並びにGluN2Aのアミノ酸残基79、111、115、177及び178のうちの1つ又は複数により画定(define)される、化合物が提供される。いくつかの実施形態において、前記化合物は、含GluN1/GluN2A-NMDAR(GluN1/GluN2A-containing NMDAR)を特異的に増強(potentiate)する。
【0018】
本発明のさらなる態様では、
i)NMDAR受容体のNTDにおいて、GluN1とGluN2Aとの間の界面の結合ポケットに、候補化合物の構造体をドッキングさせるステップであって、前記結合ポケットが、少なくとも、GluN1サブユニットのアミノ酸残基135並びにGluN2Aサブユニットのアミノ酸残基79、111、115、177及び178のうちの1つ又は複数により画定される、ステップと、
ii)含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強し得る候補化合物を同定するステップと、
を含み、コンピューターに支援される、含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強する化合物を同定する方法が提供される。
【0019】
前記方法は、同定された候補化合物を合成すること又は得ることと、前記化合物が含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強するかを判断することと、をさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、ホールセルボルテージクランプ記録を用いた最初のスクリーニングで得られた「ヒット」化合物の、増強及び抑制効果を示す図である。
【
図2】
図2は、GluN1/GluN2A NMDARを発現しているHEK293細胞及びGluN1/GluN2B NMDARを発現しているHEK293細胞における、Npam02の異なる類似体による調節効果を示す図である。
【
図3】
図3は、Npam02が、GluN1/GluN2AサブユニットでトランスフェクトしたHEK293細胞において、直接結合することにより、GluN1/GluN2Aを介するNMDAR電流を増強したが、GluN1/GluN2Bを介するNMDAR電流は変化させなかったことを示す図である。
【
図4】
図4は、Npam02が、培養された海馬神経細胞において神経細胞のNMDAR機能を強化し、この増強効果がGluN2Aアンタゴニストによって阻害されたことを示す図である。
【
図5】
図5は、GluN2Bサブユニットを遺伝子欠損させた皮質培養神経細胞への、Npam02の投与により、GluN2A NMDARを介する電流が増強されることを示す図である。
【
図6】
図6は、Npam02が、神経細胞培養物において、AMPA及びGABAにより誘導される電流応答に影響を与えないことを示す図である。
【
図7】
図7は、Npam02の二次元化学構造を示す図である。
【
図8】
図8は、GluN2AのF177及びQ111が、NMDAR受容体のNTDにおいて、GluN1とGluN2Aとの間の界面に、Npam02の結合ポケットを形成していることを示す図である。
【
図9】
図9は、GluN1/GluN2A NMDARを発現しているHEK293細胞及びGluN1/GluN2B NMDARを発現しているHEK293細胞における、Npam43による調節効果と、両発現系におけるその用量依存曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、Npam43による増強効果を減少させた、N末端ドメインにおけるGluN1/GluN2A界面の重要なアミノ酸残基を示す図である。
【
図11】
図11は、野生型GluN1/GluN2A、変異型GluN1(L135Q)及び変異型GluN1(L135Q)/GluN2A(F115S)を、それぞれ発現しているHEK293細胞における、グルタメートの用量反応性を示す図である。
【
図12】
図12は、Npam43が、培養された海馬神経細胞において、含GluN2A-NMDARを特異的に標的とすることを示す図である。
【
図13】
図13は、Npam43が、培養された海馬神経細胞において、NMDARを介する電流を用量依存的に増強し、NMDAアゴニストの結合を調節することを示す図である。
【
図14】
図14は、Npam43が、含GluN1/GluN2A-NMDARを介して、細胞内のCa
2+を増加させることを示す図である。
【
図15】
図15は、Npam43が、よく特徴づけられた(well characterized)、細胞生存シグナル伝達活性化の指標である、CREBのリン酸化(pCREB)を、皮質神経細胞において増加させる(enhance)ことを示す図である。
【
図16】
図16は、Npam43が、皮質神経細胞において、NMDAに誘導される興奮毒性を防ぐことを示す図である。
【
図17】
図17は、Npam43が、皮質神経細胞において、含GluN2A-NMDARの活性化を増加させることにより、非NMDA依存性の、H
2O
2に誘導される酸化的細胞傷害性をも防ぐことを示す図である。
【
図18】
図18は、Npam43が、海馬切片において、シナプス伝達のGluN2A成分を強化することを示す図である。
【
図19】
図19は、Npam43が、海馬切片において、長期増強(LTP)を促進することを示す図である。
【
図20】
図20は、Npam43が、NMDAに誘導される電流を、野生型マウスの海馬切片のCA1神経細胞においては増加させるが、GluN2Aノックアウトマウスの海馬切片のCA1神経細胞においては増加させないことを示す図である。
【
図21】
図21は、Npam43が、成熟したラットから迅速に調製した海馬切片において、pCREBレベルを増加させたことを示す図である。
【
図22】
図22は、成熟したラットへの静脈注射後、Npam43が血液脳関門を通過することを示す図である。
【
図23】
図23は、成熟したラットへの静脈注射後、Npam43が海馬組織及び皮質組織におけるpCREBレベルを増加させることを示す図である。
【
図24】
図24は、Npam43が、in vivoでマウスの虚血脳の梗塞体積を減少させることを示す図である。
【
図25】
図25は、Npam43が、脳卒中後の梗塞体積サイズを減少させることを、長期評価ポイントを使用して示す図である。
【
図26】
図26は、Npam43による脳卒中後の治療により、脳卒中の発症28日後、in vivoでの行動パフォーマンスが向上したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[GluN1/GluN2A NMDAR上の新規な調節結合部位]
NMDARの構造的アーキテクチャは、細胞外N末端ドメイン(NTD);細孔チャンネル形成-再入ループ(channel-forming re-entrant loop)(M2)を備えた3つの膜貫通ドメイン(M1、M3、M4);NTDより遠位のセグメント(S1ドメインと称される)、及び、M3とM4とを連結している大きな細胞外ループ(S2ドメインと称される)により形成される、二葉のリガンド結合ドメイン;並びに、細胞内C末端ドメイン(CTD)を有することを特徴とする(Paoletti et al., 2013)。
【0022】
本発明者は、三次元構造解析及び部位特異的変異誘発実験により、NTDのGluN1サブユニットとGluN2Aサブユニットとの間の界面にある、新規なアロステリック調節結合部位を特定した。具体的には、前記結合ポケットは、NMDAR受容体におけるGluN1のNTDとGluN2AのNTDとの間の界面に、(限定されないが)GluN1(Leu135)及びGluN2A(Phe177、Pro79、Phe115、Gln111及びPro178)を含むアミノ酸残基によって形成される。このポケットに嵌合し、GluN1のLeu135、又はGluN2AのPhe177、Pro79、Phe115、Gln111若しくはPro178と相互作用するモジュレーターは、NMDARを、例えば特異的にGluN2A-含有GluN2Aを、増強する能力を有しうる。
【0023】
したがって、本発明のある態様においては、N末端ドメイン(NTD)におけるGluN1サブユニットとGluN2Aサブユニットとの間の界面の標的部位に、特異的に結合する化合物が提供される。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記GluN1サブユニットのアミノ酸配列は、配列番号1で表される(UniProtKB/Swiss-Prot:P35439)。いくつかの実施形態において、前記GluN2Aサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号2で表される(UniProtKB/Swiss-Prot:Q00959)。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記標的部位は、少なくとも、GluN1のアミノ酸残基135並びにGluN2Aのアミノ酸残基79、111、115、177及び178のうちの1つ又は複数により画定される。いくつかの好ましい実施形態において、前記標的部位は、少なくとも、GluN1のL135と、GluN2AのP79、Q111、F115、F177及びP178のうちの1つ又は複数と、により画定される。いくつかの好ましい実施形態において、前記標的部位は、少なくとも、GluN1のL135並びにGluN2AのP79、Q111、F115、F177及びP178により画定される。いくつかの実施形態において、前記化合物は、GluN1のアミノ酸残基135並びにGluN2Aのアミノ酸残基79、111、115、177及び178のうちの1つ又は複数と相互作用する。いくつかの実施形態において、前記化合物は、GluN2Aのアミノ酸残基Q111及びF177と相互作用する。いくつかの実施形態において、前記化合物は、GluN1のアミノ酸残基L135並びにGluN2Aのアミノ酸残基P79、Q111、F115、F177及びP178と相互作用する。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記化合物は、GluN1/GluN2A含有N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)のアロステリックモジュレーターである。いくつかの実施形態において、前記モジュレーターは、含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強する。
【0027】
本発明の別の態様では、
i)NMDAR受容体のNTDにおいて、GluN1とGluN2Aとの間の界面の結合ポケットに、候補化合物の構造体をドッキングさせるステップであって、前記結合ポケットが、少なくとも、GluN1サブユニットのアミノ酸残基135並びにGluN2Aサブユニットのアミノ酸残基79、111、115、177及び178のうちの1つ又は複数により画定される、ステップと、
ii)含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強し得る候補化合物を同定するステップと、
を含み、コンピューターに支援される、含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強する化合物を同定する方法
が提供される。
【0028】
いくつかの好ましい実施形態において、前記結合ポケットは、少なくとも、GluN1のL135と、GluN2AのP79、Q111、F115、F177及びP178のうちの1つ又は複数と、により画定される。いくつかの好ましい実施形態において、前記結合ポケットは、少なくとも、GluN1のL135並びにGluN2AのP79、Q111、F115、F177及びP178により画定される。
【0029】
基質、コファクター、アンタゴニスト若しくはアゴニスト、又はアロステリックモジュレーターは、GRAM、DOCK又はAUTODOCKなどのドッキングプログラムを使用するコンピューターモデリングを使用することにより同定しうることが、当技術分野において公知である(Dunbrack et al.. 1997)。受容体に対する候補化合物の誘引、反発及び立体障害を推測するためにも、コンピュータープログラムを使用することができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記方法は、候補化合物を合成すること又は得ることと、前記化合物が含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強するか否かを判断することと、をさらに含む。
【0031】
候補化合物が、含GluN1/GluN2A-NMDARを特異的に増強するかを判断するために、本出願の実施例に記載される方法を使用することができる。
【0032】
[化合物]
本発明はさらに、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療を必要とする対象において、前記予防又は治療に使用するための、式1の化合物又はその医薬的に許容される塩を提供する。
【0033】
【0034】
式1中、
R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立に、H、OH、ハロゲン、CN、NO2、NRR’、COOR、CONRR’、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケノキシ基又は炭素数2~6のアルキノキシ基であり;
R15はH又は炭素数1~6のアルキル基であり;
R11はH又は炭素数1~6のアルキル基であり;
Gは直接結合、O、NR、S、OCR’R”、SCR’R”、NRCR’R”、NRC(O)、NRC(O)NR’、NRC(O)CR’R”又はNRC(O)CR’R”Oであり、Gはカルボニル及びAとどちらかの方向性で結合しており;
AはA-1:
【0035】
【0036】
であり;
XはCR7又はNであり;
YはCR8又はNであり;
R6、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立に、H、OH、ハロゲン、CN、NO2、NRR’、NRC(O)R14、COOR、CONRR’、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケノキシ基若しくは炭素数2~6のアルキノキシ基であるか、又は、R7及びR8は一緒になって、若しくはR8及びR9は一緒になって、O、N及びSからなる群より選択される1~3個のヘテロ原子を所望により含む、5員若しくは6員の飽和、部分不飽和若しくは芳香族の単環を形成していてもよく;
R14はH、炭素数1~6のアルキル基、又は、1つ若しくは複数の炭素数1~6のアルキル基で所望により置換された炭素数5~10のアリール基であり;
R、R’及びR”は、各存在箇所において、独立にH又は炭素数1~6のアルキル基であり;且つ
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルケノキシ基及びアルキノキシ基は、それぞれ、OH及びハロゲンからなる群より選択される1つ又は複数の基で所望により置換されている。
【0037】
好ましい実施形態において、Gは直接結合、NMeC(O)、NHC(O)CH2、NHCH2、NHC(O)CH2O又はCH2C(O)NHである。
【0038】
好ましい実施形態においては、X及びYが同時にNであることはない。
【0039】
好ましい実施形態において、R11及びR15はともにHであり;R4はH、ハロゲン、NO2、又は炭素数2~4のアルケニル基であり;R5はH又はハロゲンであり;R6はH又は炭素数1~4のアルキル基であり;並びにR10はH、OH、ハロゲン、NH2、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。
【0040】
好ましい実施形態において、R1はH、OH、炭素数1~4のアルコキシ基又は炭素数2~4のアルキノキシ基であり;R2はH、OH、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲンであり;R3はH又はOHであり;及びハロゲンはF、Cl、Br又はIを表し、好ましくはCl又はBrを表す。
【0041】
好ましい実施形態において、R7はH、OH、ハロゲン若しくは炭素数1~4のアルキル基であり;R8はH、OH、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはNHC(O)R14であり、ここでR14は炭素数1~4のアルキル基で置換されたフェニル基であり;R9はH、OH、ハロゲン、NO2若しくは炭素数1~4のアルキル基であるか;又は、
R7及びR8は一緒になってフェニルを形成するか;又は、
R8及びR9は一緒になって1,4-ジオキサニルを形成し;
ハロゲンはF、Cl、Br又はIを表す。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、式Iで表される構造を有する。
【化5】
【0043】
式I中、
R1は、H、OH、OMe、OC2H2、OEt、NH2、NEt2、NHEt、NHMe、COOH、CH2OH、NMe2、NO2、又はCONH2であり;
R2は、H、OH、OMe、OEt、OtBu、OPr、Pr、Me、Et、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、OIsoPr、IsoPr、CH2OH、CN、CBr3、又はCCl3であり;
R3は、H、OH、NH2、Me、OMe、OEt、F、Cl、Br、NHMe、NHEt、Et、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CH2OH、CN、CBr3、又はCCl3であり;
R4は、H、OH、NH2、OMe、OEt、F、Cl、Br、Me、CH2C2H4、NHMe、NHEt、Et、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、OtBu、OisoPr、IsoPr、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R5は、H、OH、NH2、OMe、F、Cl、Br、Me、Et、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R6は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R7は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R8は、H、OH、NH2、OMe、F、Cl、Br、Me、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R9は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R10は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CCl3、又はCBr3であり;
R11はH又はMeであり;
R12は(=O)であり;且つ
R15は、H、Me、Et、又はtert-Buである。
【0044】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、式IIで表される構造を有する。
【化6】
【0045】
式II中、
R1は、H、OH、OMe、OC2H2、OEt、NH2、NEt2、NHEt、NHMe、COOH、CH2OH、NMe2、NO2、又はCONH2であり;
R2は、H、OH、OMe、OEt、OtBu、OPr、Pr、Me、Et、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、OIsoPr、IsoPr、CH2OH、CN、CBr3、又はCCl3であり;
R3は、H、OH、NH2、Me、OMe、OEt、F、Cl、Br、NHMe、NHEt、Et、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CH2OH、CN、CBr3、又はCCl3であり;
R4は、H、OH、NH2、OMe、OEt、F、Cl、Br、Me、CH2C2H4、NHMe、NHEt、Et、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、OtBu、OisoPr、IsoPr、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R5は、H、OH、NH2、OMe、F、Cl、Br、Me、Et、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R11はH又はMeであり;
R12は(=O)であり;
R15は、H、Me、Et、又はtert-Buであり;
R14は
【0046】
【0047】
であり;
R6は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R7は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R8は、H、OH、NH2、OMe、F、Cl、Br、Me、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R9は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CBr3、又はCCl3であり;
R10は、H、OH、NH2、F、Cl、Br、Me、OMe、Et、OEt、NHMe、NHEt、NEt2、NMe2、COOH、NO2、I、tBu、CF3、CN、CH2OH、CCl3、又はCBr3であり;
R15は、H、Me、Et、又はtert-Buであり;且つ
G9は、O、N、又はSである。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、表A又は表Bに示す化合物のうちの1つ又は複数である。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
本発明の化合物は、NMDARアロステリックモジュレーターであり、好ましくは、含GluN2A-NMDARに対して選択的なポジティブモジュレーター及び/又は含GluN2B-NMDARに対して選択的なポジティブモジュレーターである。
【0062】
本明細書で使用される表現において、以下の定義が適用可能である。
【0063】
「アルキル基」という用語は、特定の数の炭素原子を有する、分岐鎖及び直鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を指す。特に指示がない限り、「アルキル基」は、炭素数1~6のアルキル基を指す。例えば、「炭素数1~6のアルキル基」は、直鎖又は分岐鎖状に配置された1、2、3、4、5又は6個の炭素原子を有する基を含むと定義される。例えば、「炭素数1~6のアルキル基」は、限定されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基を含む。
【0064】
「アルケニル基」という用語は、特定の数の炭素原子と、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合とを有する、分岐鎖及び直鎖両方の炭化水素基を指す。いくつかの実施形態においては、1つの炭素-炭素二重結合が存在し、最大3個までの炭素-炭素二重結合が存在していてもよい。したがって、「炭素数2~6のアルケニル基」とは、2、3、4、5又は6個の炭素原子と、1、2又は3個の炭素-炭素二重結合とを有する、アルケニルラジカルを意味する。例えば、「炭素数2~6のアルケニル基」は、限定されないが、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、及び2-メチルブテニル基を含む。
【0065】
「アルキニル」という用語は、特定の数の炭素原子と、少なくとも1つの炭素-炭素3重結合とを有する、分岐鎖及び直鎖両方の炭化水素基を指す。いくつかの実施形態においては、1個の炭素-炭素3重結合が存在し、最大3個までの炭素-炭素3重結合が存在していてもよい。したがって、「炭素数2~6のアルキニル基」とは、2、3、4、5又は6個の炭素原子と、1、2又は3個の炭素-炭素3重結合とを有するアルキニルラジカルを意味する。例えば、「炭素数2~6のアルキニル基」は、限定されないが、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、及び3-メチルブチニル基を含む。
【0066】
「アルコキシル基」、「アルケノキシ基」及び「アルキノキシ基」は、それぞれ、先に定義されたアルキルラジカル、アルケニルラジカル及びアルキニルラジカルであるが、利用可能な炭素原子のうちのいずれかにおいて、酸素橋を介して結合しているものを指す。したがって、例えば、「炭素数1~6のアルコキシ基」とは、1、2、3、4、5又は6個の炭素原子を有し、かつ酸素橋を介して結合しているアルキルラジカルを意味し、限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、i-ブトキシ基、ペントキシ、及びヘキソキシ基を含む。
【0067】
当業者は、本発明の化合物中のCOOH及びNRR’が、対応するイオンの形態、例えば、それぞれカルボキシレートイオン及びアンモニウムイオンとして、存在し得るということを理解するであろう。また当業者は、イオンが存在する場合には、対イオンも存在し得るということを理解するであろう。
【0068】
当業者は、部分(moiety)の、本明細書に記載される化合物への共有結合点は、例えば、限定されないが、特定の条件下で切断され得るということを理解するであろう。特定の条件には、例えば、限定されないが、in vivoにおける酵素的又は非酵素的手段が含まれ得る。前記部分の切断は、例えば、限定されないが、自発的に起こることもあり、又は他の剤、若しくは物理的パラメータや環境的パラメータ、例えば酵素、光、酸、温度若しくはpHなどにおける変化により、触媒作用を受けたり、誘導されたりすることもある。前記部分は、限定されないが、例えば、官能基をマスキングするように作用する保護基、1つ若しくは複数の能動的若しくは受動的輸送機序の基質として作用する基、又は、前記化合物の特性、例えば溶解度、生物学的利用率若しくは局在化などを付与若しくは強化するように作用する基であり得る。
【0069】
本明細書に記載される化合物は、遊離形態であってもよく、その塩の形態であってもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される化合物は、当技術分野で公知の、医薬的に許容される塩の形態であってもよい(Berge S. M. et al., J Pharm Sci (1977) 66(1):1-19)。
【0070】
本明細書で使用される、医薬的に許容される塩には、例えば、親化合物の望ましい薬理学的活性を有する塩(親化合物の生物学的有効性及び/又は特性を維持し、かつ生物学的に及び/又はそれ以外の点で望ましくないものではない、塩)が含まれる。本明細書に記載される、塩を形成可能な1つ又は複数の官能基を有する化合物は、医薬的に許容される塩として形成され得る。
【0071】
1つ又は複数の塩基性官能基を含む化合物は、例えば、医薬的に許容される有機酸又は無機酸と、医薬的に許容される塩を形成可能であり得る。医薬的に許容される塩は、例えば、限定されないが、酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、酪酸、ケイ皮酸、クエン酸、樟脳酸、カンファースルホン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジエチル酢酸、ジグルコン酸、ドデシルスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グリセロリン酸、グリコール酸、ヘミスルホン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、イソニコチン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ニコチン酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、ペクチン酸、3-フェニルプロピオン酸、リン酸、ピクリン酸、ピメリン酸、ピバリン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸、スルファミン酸、酒石酸、チオシアン酸又はウンデカン酸に由来するものであってもよい。
【0072】
1つ又は複数の酸性官能基を含む化合物は、医薬的に許容される塩基、例えば、限定されないが、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属に基づく無機塩基、又は1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物、4級アミン化合物、置換アミン、天然に存在する置換アミン、環状アミン若しくは塩基性イオン交換樹脂などの有機塩基と、医薬的に許容される塩を形成可能であり得る。医薬的に許容される塩は、例えば、限定されないが、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン若しくはアルミニウムなどの医薬的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩若しくは重炭酸塩、アンモニア、ベンザチン、メグルミン、メチルアミン、ジメチルアミン,トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、トリプロピルアミン,トリブチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、グルカミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、プロカイン、N-エチルピペリジン、テオブロミン、テトラメチルアンモニウム化合物、テトラエチルアンモニウム化合物、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、N,N-ジベンジルフェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、又はポリアミン樹脂に由来するものであってもよい。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される化合物は、酸性基及び塩基性基の両方を含んでいてもよく、分子内塩又は双性イオンの形態、例えば、限定されないがベタインであってもよい。
【0074】
本明細書に記載される塩は、当業者に公知の従来の方法により調製してもよく、例えば、限定されないが、前記遊離形態の化合物を、有機酸、無機酸、若しくは塩基と反応させることにより、又は他の塩からの陰イオン交換若しくは陽イオン交換により、調製してもよい。当業者は、前記化合物の単離及び精製の際に、塩がその場で調製され得ること、又は、単離及び精製された化合物を個別に反応させることにより、塩が調製され得るということを、理解するであろう。
【0075】
いくつかの実施形態において、化合物及びそのすべての異なる形態(例えば、遊離形態、塩、多形体、異性体形態など)は、溶媒を添加した形態、例えば、溶媒和物であってもよい。溶媒和物は、前記化合物又はその塩と物理的に会合している、化学量論量又は非化学量論量のいずれかの溶媒を含む。前記溶媒は、例えば、限定されないが、医薬的に許容される溶媒であり得る。例えば、前記溶媒が水である場合は水和物が形成され、前記溶媒が又はアルコールである場合はアルコラートが形成される。
【0076】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される化合物及びそのすべての異なる形態(例えば、遊離形態、塩、溶媒和物、異性体形態など)は、結晶形及び非晶形、例えば、多形体、擬多形体、立体配座多形体、非晶形、又はそれらの組み合わせを含み得る。多形体は、ある化合物の同じ元素組成の、異なる結晶充填配置を含む。多形体は通常、異なるX線回折パターン、赤外スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学的特性、電気的特性、安定性、及び/又は溶解度を有する。当業者は、再結晶溶媒、結晶化速度及び保管温度を含む様々な要因が、ある一つの結晶形が優位を占める原因となり得ることを、理解するであろう。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される化合物及びそのすべての異なる形態(例えば、遊離形態、塩、溶媒和物、多形体など)は、異性体、例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体、個々のエナンチオマー、個々のジアステレオマー、ラセミ体、ジアステレオマーの混合物、及びそれらの組み合わせなどを含むものであって、便宜上例示される化学式の記載に限定されるものではない。
【0078】
[医薬組成物及び製剤]
本発明は、本明細書に記載される化合物又はその医薬的に許容される塩、及び医薬的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、NMDAR活性を調節するために、例えば、含GluN2A-NMDARなどのNMDARを特異的に増強するために有用である。
【0079】
本発明の医薬組成物は、NMDAR活性を調節するために前記組成物を使用するための説明書を含む、商用パッケージの形態で提供され得る。
【0080】
医薬製剤は、注射、吸入、局所投与、灌流、又は選択された治療に好適な他の様式によるものであろうとなかろうと、典型的に、前記製剤の投与様式に許容される、1つ又は複数の担体、賦形剤又は希釈剤を含む。好適な担体、賦形剤又は希釈剤(以下、互換可能に使用される)は、そのような投与様式に使用するために、当技術分野で公知のものである。
【0081】
好適な医薬組成物は、当技術分野で公知の手段により製剤化してもよく、それらの投与の様式及び用量は、当業者により決定され得る。非経口投与の場合は、化合物を滅菌水若しくは生理食塩水、又は、非水溶性化合物の投与に使用される医薬的に許容されるビヒクル、例えばビタミンKの投与に使用されるものなどに、溶解してもよい。経腸投与の場合は、前記化合物を、錠剤、カプセル、又は液体状に溶解した形態で投与してもよい。前記錠剤又はカプセルは、腸溶性コーティング製剤、又は徐放用製剤であってもよい。放出する化合物を包んだポリマー微粒子若しくはタンパク質微粒子、軟膏、ペースト、ゲル、ハイドロゲル、又は溶液を含む、多くの好適な製剤が知られており、これらを、化合物を局所的又は局在的に投与するために使用することができる。長期間にわたる放出を実現するために、徐放パッチ又はインプラントを使用してもよい。当業者に公知の多くの技術が、Remington: the Science & Practice of Pharmacy by Alfonso Gennaro, 20th ed., Lippencott Williams & Wilkins, (2000)に記載されている。非経口投与のための製剤は、例えば、賦形剤、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物由来の油、又は水添ナフタレンを含んでいてもよい。生体適合性、生分解性のラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーを用いて、前記化合物の放出を制御してもよい。調節性化合物のための、有用な可能性のある他の非経口送達系としては、エチレン酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み可能な注入系、及びリポゾームが挙げられる。吸入用の製剤は、例えばラクトースなどの賦形剤を含んでいてもよく、例えばポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、グリココレート及びデオキシコレートなどを含む水溶液であってもよく、点鼻薬の形態で投与するための油性溶液であってもよく、又はゲルであってもよい。
【0082】
本明細書に記載されるか又は本明細書に記載される使用のための、化合物又は医薬組成物は、例えばインプラント、移植片、人工補綴物、ステントなどの医療機器又は器具により、投与され得る。また、そのような化合物又は組成物を含み、放出するよう意図されたインプラントを考案してもよい。一例としては、前記化合物を長期間にわたって放出するように構成された、高分子材料で作られたインプラントが挙げられる。
【0083】
本明細書に記載される医薬組成物の「有効量」には、治療的有効量(therapeutically effective amount)が含まれる。「治療的有効量」とは、必要な投与量及び期間で、望ましい治療結果、例えば梗塞サイズの縮小、神経細胞損傷の減少、行動パフォーマンスの向上、寿命の延長又は平均余命の延長などを達成するために有効な量を指す。化合物の治療的有効量は、対象の脳損傷又は疾患の状態、年齢、性別及び体重、並びに前記対象において望ましい反応を誘導する前記化合物の能力などの要因に応じて、変化し得る。
【0084】
投与計画は、最適な治療反応をもたらすために、調整され得る。治療的有効量はまた、前記化合物のいかなる有毒な又は有害な影響にも勝る、治療的に有益な効果が得られる量でもある。「予防的有効量(prophylactically effective amount)」とは、必要な投与量及び期間で、望ましい予防結果、梗塞サイズの縮小、神経細胞損傷の減少、行動パフォーマンスの向上、寿命の延長又は平均余命の延長を達成するために有効な量を指す。典型的に、予防的用量は、予防的有効量が治療的有効量未満となり得るように、疾患前又は疾患の早期にある対象において用いられる。
【0085】
なお、投与量の値は、緩和対象となる状態の重症度に応じて変化し得る。いかなる特定の対象、特定の投与計画についても、個々の必要、及び組成物の投与者又は投与の監督者の専門的な判断に基づいて、時間経過とともに調整され得る。本明細書に記載される投与量の範囲は、単に例示的なものであり、医師により選択され得る投与量の範囲を限定するものではない。組成物中の活性化合物の量は、対象の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの要因に応じて変化し得る。投与計画は、最適な治療反応をもたらすために調整され得る。例えば、単回ボーラス投与を行ってもよく、時間をかけて、複数回に分割された用量を投与してもよく、又は治療状況の緊急性に応じて、用量を比例的に低減若しくは増加させてもよい。投与の簡便性と投与量の均一性のために、用量単位剤形の非経口組成物を製剤化することは、有利であり得る。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される化合物及びそのすべての異なる形態は、例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、脳外傷、及び脳卒中などの急性脳損傷からなる群より選択されるが、これらに限定されない、少なくとも1つの徴候のための他の治療方法と組み合わせて使用し得る。例えば、本明細書に記載される化合物及びそのすべての異なる形態は、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)又は他の療法とともに、ネオアジュバント療法(治療前)、補助療法(治療中)、及び/又はアジュバント療法(治療後)として使用し得る。
【0087】
[医療的使用]
本発明は、哺乳類の細胞に、本明細書に記載される化合物若しくはその医薬的に許容される塩、又は本明細書に記載される医薬組成物を投与することを含む、NMDAR活性を調節する方法、例えば、含GluN2A-NMDARなどのNMDARを特異的に増強する方法、を提供する。
【0088】
あるいは、本発明は、本明細書に記載される化合物若しくはその医薬的に許容される塩、又は本明細書に記載される医薬組成物を必要とする対象に、前記化合物、前記塩又は前記医薬組成物を投与することを含む、NMDAR活性を調節する方法、例えば、含GluN2A-NMDARなどのNMDARを特異的に増強する方法、を提供する。
【0089】
本発明の化合物及び組成物は、NMDAR活性を調節することにより、NMDAR機能障害に起因するか又は関連する障害又は状態の予防又は治療のために用い得る。特に、前記障害又は状態は:学習及び記憶障害、片頭痛、てんかん、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、脳外傷、脳卒中などの急性脳損傷、統合失調症、神経因性疼痛、うつ病、並びに薬物依存からなる群より選択される、少なくとも1つであり得る。例えば、前記障害又は状態は、脳卒中、特に虚血性脳卒中である。本発明の化合物及び組成物を、学習、認知又は記憶を向上させるためにも使用することもできる。
【0090】
前記哺乳類の細胞は、ヒト細胞であり得る。前記細胞は、神経細胞であり得る。
【0091】
前記対象は、神経病理学的状態又は神経変性疾患を有するか又はそのリスクを有すると疑われる対象であり得る。前記神経病理学的状態は、脳卒中を含む急性脳損傷又は外傷性脳障害であり得る。前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、又は統合失調症、不安及びうつ病などの精神疾患であり得る。
【0092】
一般に、本明細書に記載される化合物は、実質的な毒性を引き起こすことなく使用されるべきである。本明細書に記載される化合物の毒性は、標準的な技術を用いて、例えば、細胞培養物又は実験動物で試験して治療指数を決定することにより、判断することができる。治療指数とは、LD50(個体群の50%に致死的な用量)と、LD100(個体群の100%に致死的な用量)との比率である。しかしながら、重篤な疾患状態などの、いくつかの状況においては、実質的過剰量の前記組成物を投与することが適切である場合もある。本明細書に記載されるいくつかの化合物は、いくつかの濃度においては、有毒であり得る。毒性濃度及び非毒性濃度を決定するために、滴定実験を行ってもよい。毒性は、特定の化合物又は組成物の特異性を、複数の細胞株にわたって調べることにより評価し得る。前記化合物が、他の組織に何らかの効果をもたらすか否かの徴候を得るために、動物実験を行ってもよい。
【0093】
本明細書に記載される化合物は、対象に投与することができる。本明細書において使用される場合、「対象」は、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどであり得る。前記対象は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、若しくは精神疾患などの神経変性疾患、又は外傷性脳障害、若しくは脳卒中などの急性脳損傷などの神経病理学的状態を有するか、そのリスクを有すると疑われる対象であり得る。アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、精神疾患、外傷性脳障害、又は脳卒中などの急性脳損傷などの、様々な神経病理学的及び神経変性状態のための診断方法が、当業者に知られている。
【0094】
本発明の様々な代替的実施形態及び実施例を、本明細書において説明する。これらの実施形態及び実施例は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0095】
一般的な方法及び材料
1. In silicoパイプライン
1.1 ZINCライブラリからの化合物の選択
様々な分子記述子に基づいて、ZINCライブラリから、鉛様化合物のサブセットをフィルタリングした。次いで、カルボキシル基を含まず、ペプチド結合様構造を含まず、極性表面積が60~80A2の間にあり、かつ少なくとも1個の窒素原子、1個の酸素原子及び1個の芳香環を有することを含む、付加的な化学的特性を加えたCNS化合物を開発するために、リピンスキーの法則、ルール・オブ・スリーを用いて、前記鉛様化合物のサブセットをさらにフィルタリングした(Pajouhesh & Lenz, 2005)。すべての候補化合物を、化学的モチーフ又は公知のトキシコフォアを含んでいるか否かに基づいてフィルタリングした。微量成分(塩)を除去するとともに水素を添加し、強酸を脱プロトン化し、かつ強塩基をプロトン化することにより、得られたデータベースを完成させた。最終的に、フィルタリングされたデータベースの化合物のエネルギー最小化を行って、当該化合物の、最低エネルギー状態での3次元構造を得た。完成した、最適化された構造は、その時点で、GluN1/GluN2Aヘテロ二量体のN末端ドメイン(NTD)の隙間界面にドッキングできる状態であった。
【0096】
1.2 相同性モデル
GluN1/GluN2Bの結晶構造に基づいて、相同性モデルを作成した。NR1/NR2A受容体の、ラットNMDAR N末端細胞外ドメインの相同性モデルを、類似のGluN1/GluN2BのN末端ドメイン(PDBコード:3QEK)のX線構造を用いて構築した。GluN1/GluN2A受容体は、四量体受容体であるが、前記相同性モデルは、GluN1のサブユニット1つ及びGluN2Aのサブユニット1つのみからなる、1つの二量体として構築した。GluN2AのNTDとGluN2BのNTDとは、72%の配列同一性を示し、かつ配列アライメントにおける82%の相同性を示した。
【0097】
1.3 含GluN1/GluN2A-NMDARの選択的モジュレーターの仮想スクリーニング(ドッキング)
本発明者らは、含GluN1/GluN2A-NMDARのポジティブアロステリック調節(PAM:positive allosteric modulation)が可能であり得る、特定の結合物質を同定するために、既述の、コンセンサスベースのin silico技法(Axerio-Cilies et al., 2011; Lack et al., 2011)を用いて、鉛様ZINC化学物質ライブラリ(Irwin & Shoichet, 2005)からあらかじめフィルタリングされた(Axerio-Cilies et al., 2009; Pajouhesh & Lenz, 2005)200,000種の購入可能な化学物質の仮想スクリーニングを実施した。このマルチパラメータによるアプローチの各段階から得られた結果を集計し、コンセンサススコアリングの手順を用いて、スクリーニングされた化合物をランク付けした。上位にランクされた約10,000種の化合物を可視化し、GluN1/GluN2A界面に結合する可能性が高いと予測された最初の200種の候補を、実証試験のために選択した。
【0098】
1.4 類似体の検索
化学物質の大きなプールを得、それから構造-活性関係(SAR)を導き出すために、類似体の検索を実施した。分子フィンガープリントに基づく類似性検索を使用し、活性化合物(Npam02)をテンプレート/クエリとして用いて、化学物質のデータベースの検索を実施した。ある分子にある特徴が存在する場合、ビットを「1」と設定し、その特徴が存在しない場合、ビットを「0」と設定することにより、各化学構造について、特有かつ独自のフィンガープリントプロファイルが形成される。2つの分子間の類似性は、分子のビット文字列を比較することにより特定され、Tanimoto係数(Tc)(Bajusz, Racz, & Heberger, 2015)として定量化される。この検索によって得られた化合物を、in silicoで設計された、化学的に合成された化合物と組み合わせて、皮質神経細胞におけるホールセルボルテージクランプ記録(whole-cell voltage clamp recording:全細胞の電位固定による電流記録)により試験してSARを得ることができる、一連の化合物を得た。
【0099】
1.5 Npam化合物の化学合成
Npam化合物の化学合成は、適切な置換ベンズアルデヒドを適切な置換ヒドラジドと反応させることにより、又は、適切な置換ベンズアルデヒドをヒドラジンと反応させ、その後その生成物を適切なハロゲン化アシルと反応させることにより、実施した。プロトン核磁気共鳴1H-NMR及びエレクトロスプレー質量分析法(ESI-MS)を実施して、各化合物の構造及び純度を確認した。
【0100】
[5.1 Npam43の合成]
【0101】
【0102】
工程I:2,3-ジクロロ-5-エトキシ-6-ヒドロキシ-ベンズアルデヒド(中間体-1)
2-ヒドロキシ-3-エトキシベンズアルデヒド(1.0g、5.2mmol)を酢酸(20mL)に溶解し、N-クロロスクシンイミド(NCS)(1.4g、11mmol)を一度に添加した。反応混合物を一晩80℃で撹拌し、その後室温まで冷却した。次いで水及びCH2Cl2を添加し、相を分離し、水相をさらにCH2Cl2で抽出し、MgSO4で乾燥し、真空下で蒸発させた。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2/ヘキサン)により精製し、黄色の固体である、純粋な生成物(1.2g、89%)を得た。
【0103】
工程II:(E)-2-ブロモ-N’-(2,3-ジクロロ-5-エトキシ-6-ヒドロキシベンジリデン)ベンゾヒドラジド(Npam43)
等モル量の2-ブロモベンゾヒドラジド(0.30mmol)及び中間体-1(0.30mmol)を、THF(0.5M溶液)に溶解する。2等量のMgSO4を添加し、還流するまで1時間加熱する。生成物が沈殿する場合もある。沈殿しない場合は、中間体-1の消費を確かめるためにTLC又はNMRにより反応を確認した。生成物が沈殿した場合は、沈殿物をろ過により回収し、水で洗浄(2mlで2回)して、残留MgSO4を取り除いた。生成物が沈殿しない場合は、生成物が沈殿するまで、反応混合物を水で希釈した。残留ヒドラジンを除去するために、前記混合物を希塩酸でpH3まで酸性化し、続いて濾過し、必要に応じて再結晶化した。得られた化合物は、高融点の固体(mp:210~212℃)である。抽出はしなかった。沈降が観察されなかった場合、溶媒を真空中で蒸発させ、前記化合物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0104】
1H NMR(400MHz、DMSO-d6):δ=12.59(s、1H)、10.41(s、1H)、8.89(s、1H)、7.61-7.34(m、4H)、7.08(s、1H)、4.11(q、J=6.9Hz、2H)、1.41(t、J=7.0Hz、3H)。
MS(EI):(C16H13BrCl2N2O3+H)+の計算値:433.0、実測値:433.0;(C16H13BrCl2N2O3+Na)の計算値:455.0、実測値:455.0。
【0105】
[5.2 他のNpam化合物の合成]
以下の化合物を同様の方法で合成した。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
2. 化合物のin vitro同定
2.1 HEK293細胞の培養及びプラスミドのトランスフェクション
各々がラット組換え型(GluN2AWT、GluN1WT、GluN2BWT)サブユニットのうちの1つを発現している、pcDNA3-CMV発現ベクターの組み合わせで、細胞をトランスフェクトした。自動化DNA塩基配列決定法により、すべてのプラスミドの配列を確認した。ヒト胚腎臓293細胞(HEK293細胞)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(インビトロジェン社)中で培養した。HEK293細胞が90%コンフルエンスに達したとき、GluN1とGluN2Aの組み合わせ、又はGluN1とGluN2Bの組み合わせのいずれかのプラスミドを、製造者の指示に従い、リポフェクタミン2000(11668019;インビトロジェン社)を使用して、前記細胞に同時導入した。次いで、HEK293細胞を、O295%、CO25%、37℃に保たれたインキュベーター中に48時間維持し、その後実験に使用した。前記NMDARサブユニットの組み合わせのトランスフェクション比率は、すべて1:1(GluN1/GluN2A、又はGluN1/GluN2B)であった。
【0114】
2.2 皮質神経細胞の初代培養
18日齢のスプラーグドーリーラットの胚から、ラット皮質神経細胞の解離培養物を、先に記載される通りに調製した。神経細胞を富化した混合皮質培養物を得るために、in vitroでの培養日数(DIV)3日目に、ウリジン(10μM)及び5-フルオロ-2’-デオキシウリジン(10μM)を培地に添加して48時間維持し、培養物を通常の培地に戻す前に、非神経細胞の増殖を抑制した。成熟した神経細胞(11~14DIV)を、実験に使用した。ヘテロ接合体GluN2A+/-又はGluN2B+/-の交配により得られた、交配後18日の同腹の胚を用いて、マウスの皮質培養物を調製した。ホモ接合型及び野生型(WT)同腹子の対照神経細胞培養物を得るために、個々の胚から得た皮質細胞を別個にプレートに撒いた。各胚から採取したテールサンプル(tail sample)を用いて、先に記載したとおりに、遺伝子型決定を実施した。神経細胞のアポトーシスを誘導するために、Mg2+を含まない細胞外液(ECS)(25mM HEPES酸、140mM NaCl、33mM グルコース、5.4mM KCl、及び1.3mM CaCl2を含む;pH:7.35及びモル浸透圧濃度:320~330mOsm)中で、皮質培養物をNMDA(50μM)及びグリシン(10μM)で20分間、又はSTS(100nM)で1時間、刺激した。シナプスのNMDA受容体の特異的阻害は、Mg2+を含まないECS中、ビククリン(50μM)の存在下で、(+)-5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプタン-5,10-イミンマレエート(MK-801)(10μM)で10~15分間処理し、その後1mMのMgCl2(正常ECS)を含むECSで洗浄して残留MK-801を除去することにより行った。GluN2A-特異的NVP-AAM077(0.4μM;ノバルティスファーマ株式会社(スイス、バーゼル)、YP Auberson氏からの寄贈)、又はGluN2B-特異的アンタゴニストであるRo 25-6981(0.5μM)を、処理の10分前及び処理の間中、ベース培地(bath medium)に添加した。
【0115】
2.3 in vitroでの電気生理
ホールセルパッチクランプ記録は、Axopatch 200B増幅器又は1Dパッチクランプ増幅器(モレキュラーデバイス社)を使用し、ボルテージクランプ(電位固定)モードで行った。特に断りがない限り、ホールセル(全細胞)電流は、保持電位-60mVで記録し、信号を2kHzでフィルタリングし、10kHzでデジタル化した(Digidata 1322A)。記録ピペット(3~5MΩ)に、細胞内液(CsCl 140mM、HEPES 10mM、Mg-ATP 4mM、QX-314 5mMを含む;pH:7.20、モル浸透圧濃度:290~295mOsm)を満たした。BAPTA(10mM)を前記細胞内液に添加した(特に指示がない限り)。カバーガラスを、細胞外液(NaCl 140mM、KCl 5.4mM、HEPES 10mM、CaCl2 1.3mM、グルコース 20mMを含む;pH:7.4、モル浸透圧濃度:305~315mOsm)で、連続的に灌流した。NMDAに誘導される電流は、NMDAにより、パーフュージョン・ファストステップ(perfusion fast-step)(ワーナーインスツルメンツ社)を介して印加した。NMDAの投与は、パーフュージョン・ファストステップ・システムにより、2角バレル(two-square barrel)ガラス管を用い、かつ培養された神経細胞の年齢に応じて行われ、CNQX(10μM)、TTX(0.5μM)又はBIC(10μM)を前記細胞外液に添加することにより、イオンチャネル型グルタミン酸受容体及び電位依存性ナトリウムチャネルの活性化をそれぞれ最少化した。すべての実験は室温で行った。すべての活性化合物について、少なくとも6個のHEK293細胞/神経細胞からの記録をとった。HEK293細胞又は一次神経細胞のデータをプールし、複合用量反応性のデータを、以下の方程式に当てはめた。
反応率(%)=100×相対効果/[1+(EC50/濃度)nH]
式中、EC50は半最大応答を生じるアゴニストの濃度であり、相対効果はグルタメートの最大応答に対する最大有効濃度での応答であり、nHはHill勾配である。
【0116】
2.4 ex vivoでの電気生理
ホールセルパッチクランプ記録は、Axopatch 200B増幅器 又は1Dパッチクランプ増幅器(モレキュラーデバイス社)を使用し、ボルテージクランプモードで行った。特に断りがない限り、ホールセル電流は、保持電位-60mVで記録し、信号を2kHzでフィルタリングし、10kHzでデジタル化した(Digidata 1322A)。記録ピペット(3~5MΩ)に、前記細胞内液(CsCl 140mM、HEPES 10mM、Mg-ATP 4mM、QX-314 5mMを含む;pH:7.20、モル浸透圧濃度:290~295mOsm)を満たした。BAPTA(10mM)を前記細胞内液に添加した(特に指示がない限り)。カバーガラスを、前記細胞外液(NaCl 140mM、KCl 5.4mM、HEPES 10mM、CaCl2 1.3mM、グルコース 20mMを含む;pH:7.4、モル浸透圧濃度:305~315mOsm)で、連続的に灌流した。NMDA、GABA又はAMPAに誘導される電流は、NMDA、GABA、AMPAのいずれかにより、パーフュージョン・ファストステップ(ワーナーインスツルメンツ社)を介して印加した。NMDAの投与は、パーフュージョン・ファストステップ・システムにより、2角バレル(two-square barrel)ガラス管を用い、かつ培養された神経細胞の年齢に応じて行われ、CNQX(10μM)及びTTX(0.5μM)を前記細胞外液に添加することにより、イオンチャネル型グルタミン酸受容体及び電位依存性ナトリウムチャネルの活性化をそれぞれ最少化した。すべての実験は室温で行った。すべての活性化合物について、少なくとも6個のHEK293細胞/神経細胞からの記録をとった。HEK293細胞又は一次神経細胞のデータをプールし、複合用量反応性のデータを、以下の方程式に当てはめた。
反応率(%)=100×相対効果/[1+(EC50/濃度)nH]
式中、EC50は半最大応答を生じるアゴニストの濃度であり、相対効果はグルタメートの最大応答に対する最大有効濃度での応答であり、nHはHill勾配である。
【0117】
2.5 切片記録:
6~8週齢のC57/Bl6マウス又はラットを頚椎脱臼させ、続いて断頭した。脳を直ちに、以下1mM 120 NMDG、2.5mM KCl、1.2mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、1.0mM CaCl2、7.0mM MgCl2、2.4mM Na-ピルベート、1.3mM Na-アスコルベート、及び20mM D-グルコースからなり、塩酸でpHを7.35に調整した、氷冷のNMDG-ベースの切断溶液に移した(特に断りがない限り、すべての化学物質及び薬剤は、シグマ社、又はカナダ、ビオショップ(BioShop)社から購入した)。海馬を切開して取出し、手動のティッシュチョッパー(ストールティング社、米国、イリノイ州、ウッドデール)を用いて、海馬の横断切片(400μm)を得た。ACSFを入れた、加熱された(30℃)培養チャンバーで、切片を1時間回復させた。当該ACSFは、124mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaH2PO4、1mM MgSO47H2O、2mM CaCl2、26mM NaHCO3及び15mM D-グルコースからなり、そこにカルボゲン(95%O2/5%CO2)を連続的に通気したものである(pH:7.3になるまで)。さらに30分間室温で保持したのち、浸漬記録チャンバーに切片を移し、カルボゲン化されたACSFで、連続的に灌流した(2~3ml/分)。マルチクランプ700B増幅器を用いて、「盲検法」により、CA1錐体神経細胞のホールセル記録を実施した。SC経路を刺激することにより、EPSC(興奮性シナプス後電流)を誘導した。NMDAR電流を分離するために、細胞を+40mVに電圧固定した。記録ピペットに溶液(122.5mM Cs-メタンスルホネート、17.5mM CsCl、2mM MgCl2、10mM EGTA、10mM HEPES、4mM ATP(K)、及び5mM QX-314を含む;CsOHでpHを7.2に調整)を満たした。GABA受容体を介する抑制性シナプス電流を阻害するために、ビククリンメチオダイド(10μM;アブカム社)を用い、AMPARを介する電流を阻害するために、CNQX(10μM;アブカム社)を用いて、さらにNMDAR電流を分離した。NMDAR電流のNR2A成分及びNR2B成分を明確に分離するために、NVP又はイフェンプロジルを添加して、これらの受容体をそれぞれ抑制した。実験の終盤に、APVを投与することにより、残留シナプス電流がNMDARによるものだということを確認した。WinLTPを用いて、EPSCを記録及び解析した。統計解析は、グラフパッド・インスタット(GraphPad InStat)を用いて完了した。各処理間の違いを判断するために、各種薬剤カクテルに応答したNMDAR電流を比較するANOVA分析と、Tukeyの事後検定を行った。統計的有意性の基準はp<0.05とし、細胞数=nとした。データは、平均値±SEMとして示す。細胞外記録(fEPSP)については、ホールセルの調製に用いたものと同様のスライス条件を用いた。刺激電極はSC経路中に配置し、記録電極はCA1の放線層に配置した。WinLTPを用いて記録を取り、解析した。最初のfEPSPの勾配を測定して、シナプス強度を定量化した(Johnston and Wu, 1995)。スチューデントのt検定を使用して、各群間のfEPSPの平均勾配を統計的に比較した。すべての示される値は平均値±SEMであり、切片数=nである。
【0118】
2.6 ex vivoでの電気生理(GluN2A-ノックアウトマウス)
20~25日齢の、雄性及び雌性の、野生型マウス又はGluN2Aノックアウトマウスを、イソフルランで麻酔し、素早く断頭した。脳を取出し、冷たい(2~4℃)切断溶液(92mM NMDG、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、30mM NaHCO3、20mM HEPES、4.5mM D-グルコース、5mM Na-アスコルベート、3mM Na-ピルベート、0.5mM CaCl2、及び10mM MgCl2を含む)に30秒間浸した。溶かした3%寒天-A(CAS番号:9002-18-0、ビオ・ベーシック・カナダ社(Bio Basic Canada Inc.))中で脳をブロッキングし、次いで、スライスプラットフォーム上に密着させ、通気された(95%O2/5%CO2)冷たい(2~4℃)切断溶液を入れたビブラトーム(Leica VT 1000S)で、厚さ320μmの冠状に切断した。前頭前皮質を含んだ切片を、連続的にカルボゲン化され、予め加温(32~34℃)された切断溶液に移し、初期回復のために12分間保持した。次いで前記切片を、カルボゲン化された室温の保持溶液(119mM NaCl、2.5mM KCl、1.2mM NaH2PO4、24mM NaHCO3、12.5mM D-グルコース、5mM Na-アスコルベート、3mM Na-ピルベート、2mM CaCl2、及び2mM MgCl2を含む)に移し、記録の前に、少なくとも30分間回復させた。
【0119】
2.7 GluN2A-ノックアウトマウス
C57BL/6Jバックグラウンドの、野生型(WT)マウス及びGluN2A-ノックアウト(GluN2A-/-)マウス(Sakimura et al., 1995; Townsend et al., 2003)を、21℃に維持した居住区で、標準ケージ(1ケージあたり2~3匹のマウス;最小限の収容密度)に収容した。食料と水を自由に摂取できるようにし、12時間の明暗サイクルで動物を維持した。各試料(2μLのDNA)を、以下からなるPCRマスターミックス中でインキュベートした:14.85μLのヌクレアーゼを含まないH2O、2.5μLの10$PE反応緩衝液、1.4μL(50mM)のMgCl2、2.0μL(2.5mM)のdNTP、0.5μLのNR2A1プライマー、1.0μLのNR2A3プライマー、0.5μLのNeo2Aプライマー、及び0.25μL(5U/μL)のTaq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン・カナダ社;カナダ、オンタリオ州、バーリントン)。以下のサイクルパラメータを使用した:最初に94℃で4分間のサイクル、次いで、94℃で30秒、60℃で40秒、及び72℃で60秒のサイクルを29回。試料を72℃で7分間静置し、その後使用するまで4℃で保管した。使用したプライマーは、NR2A1(5’-TCT GGG GCC TGG TCT TCA ACA ATT CTG TGC-3’)、NR2A3(5’-CCC GTT AGC CCG TTG AGT CAC CCC T-3’)及びNeo2A(5’-GCC TGC TTG CCG AAT ATC ATG GTG GAA AAT-3’)(インビトロジェン・カナダ社;カナダ、オンタリオ州、バーリントン)である。PCR生成物を、SYBR-safeを含む1.5%アガロースゲルで泳動し、トランスイルミネーターを使用して可視化した。
【0120】
2.8 脳切片の調製(GluN2A-ノックアウトマウス)
20~25日齢の、雄性及び雌性の、野生型マウス又はGluN2Aノックアウトマウスを、イソフルランで麻酔し、素早く断頭した。脳を取出し、冷たい(2~4℃)切断溶液(92mM NMDG、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、30mM NaHCO3、20mM HEPES、4.5mM D-グルコース、5mM Na-アスコルベート、3mM Na-ピルベート、0.5mM CaCl2、及び10mM MgCl2を含む)に30秒間浸した。溶かした3%寒天-A(CAS番号:9002-18-0、ビオ・ベーシック・カナダ社)中で脳をブロッキングし、次いで、スライスプラットフォーム上に密着させ、通気された(95%O2/5%CO)冷たい(2~4℃)切断溶液を入れたビブラトーム(Leica VT 1000S)で、厚さ320μmの冠状に切断した。前頭前皮質を含んだ切片を、連続的にカルボゲン化され、予め加温(32~34℃)された切断溶液に移し、初期回復のために12分間保持した。次いで前記切片を、カルボゲン化された室温の保持溶液(119mM NaCl、2.5mM KCl、1.2mM NaH2PO4、24mM NaHCO3、12.5mM D-グルコース、5mM Na-アスコルベート、3mM Na-ピルベート、2mM CaCl2、及び2mM MgCl2を含む)に移し、記録の前に、少なくとも30分間回復させた。
【0121】
2.9 pCREBによるイムノブロッティングのための海馬切片の調製
4~8週齢(125~200gm)の雄性スプラーグドーリーラットを断頭し、その脳を素早く切開し、氷冷のチョッピング食塩水(chopping saline)(110mM ショ糖、60mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaH2PO4、28mM NaHCO3、5mM D-グルコース、0.5mM CaCl2、7mM MgCl2、及び0.6mM アスコルベートを含み、95%のO2/5%のCO2で飽和したもの)に入れた。次いで400μmの横断切片を、ビブラトーム シリーズ1000(ペルコ;テッドペラ社(Ted Pella)、カリフォルニア州、レディング)を用いて調製した。切片を即座に、チョッピング食塩水(chopping saline)及び正常ACSF(125mM NaCl、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、10mM D-グルコース、2mMCaCl2、及び1mMMgCl2を含み、95%のO2/5%のCO2で飽和したもの)の1:1混合物に移し、少なくとも90分間、室温で保持した。次いで切片を、浸漬チャンバー内の32℃のACSFに移し、薬理学的刺激を与える前に、45~60分間保持した。
【0122】
2.10 電気生理学的方法(GluN2A-ノックアウトマウス)
脳切片を、縦型のニコンFN1顕微鏡上の記録チャンバーに移し、前記チャンバーを、32℃のカルボゲン化されたaCSF記録溶液(121.85mM NaCl、2.5mM KCl、1.2mM NaH2PO4、24mM NaHCO3、12.5mM D-グルコース、5mM Na-アスコルベート、3mM Na-ピルベート、2mM CaCl2、0.1mM MgCl2を含む)で、連続的に灌流した。CFI APO 40X W NIR対物レンズ(開口数:0.80、作動距離:3.5mm)を使用した、ビデオモニター型の赤外微分干渉コントラスト照明顕微鏡検査(infra-red differential interference contrast illumination microscopy)により、前頭前皮質のV層において、錐体神経細胞を同定した。パッチピペットを使用し、抵抗を5~8MΩの範囲で、ホールセルパッチクランプ記録を実施した。記録ピペットは、ホウ珪酸ガラス毛細管(1B150F-4、WPI社、米国)から作製し、ピペット溶液(135mM CsMeSO4、0.6mM EGTA、10mM HEPES、2.5mM MgCl2、5mM リン酸トリス、3mM Mg-ATP、0.2mM GTP トリス、及び5mM QX314塩化物を含む)(280~290mosM、pH:7.4)で満たした。電流信号の電圧固定記録を、マルチクランプ700B増幅器(モレキュラーデバイス社)を用いて増幅し、4kHzで低域フィルタリングを行い、Digidata 1440Aデータ取得システム(モレキュラーデバイス社)を用いて10kHzでサンプリングし、pCLAMP 10.2取得ソフトウェア(モレキュラーデバイス社)を用いて記録した。細胞は、-65mVに保持し、液間電位差及び直列抵抗は40%補正した。
【0123】
2.11 部位特異的変異誘発
QuikChange法(ストラタジーン社)を用いて、GluN1サブユニット又はGluN2Aサブユニットの部位特異的変異誘発を行った。DNA塩基配列決定法により、すべての変異クローンを確認した。野生型サブユニット又は変異型サブユニットを、HEK293細胞にトランスフェクトし、電気生理学的検査を行った。各々がラット組換え型(GluN2AWT、GluN1WT、GluN2BWT)サブユニットのうちの1つを発現している、pcDNA3-CMV発現ベクターの組み合わせで、細胞をトランスフェクトした。顕微鏡での可視化に資するため、高感度緑色蛍光タンパク質(GFP)、pcDNA3-GFPを同時導入した。PFU DNAポリメラーゼを用い、部位特異的変異誘発法により、GluN1WT又はGluN2AWTのいずれかから、GluN2AA108G、GluN2AP79A、GluN2AP178G、GluN2AQ111A、GluN2AF115Y、GluN2AF115S、GluN2AF177S、GluN2AI176Y、GluN2AM112I、GluN1R115E、GluN1L135Q各種プラスミドを構築した。自動化DNA塩基配列決定法により、すべてのプラスミドの配列を確認した。
【0124】
2.12 Ca2+感受性染料を用いた、ラット皮質培養物におけるCa2+の測定
皮質全体から単離されたラットの神経細胞を、ポリ-d-リジンでコーティングされた96ウェルのプレートに撒いた。培養開始から12~14日後、Fluo-4 No Wash カルシウムアッセイキット(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社)を使用し、製造者のプロトコルに従って、細胞内のカルシウムレベルをアッセイした。簡単に説明すると、神経細胞の培地を取り除き、カルシウムアッセイ緩衝剤(CAB)(1×HBSS、20mM HEPES、2.5mM プロベネシド及びFluo4-NW染料ミックスを含む(pH:7.4;サーモフィッシャー・サイエンティフィック社))と入れ替えた。その後、染料を充填するために、37℃で45分、次いで25℃で15分間、前記細胞をインキュベートした。NMDARを介するカルシウムシグナルを分離するため、NMDA(10μM)をアゴニストとして用い、2μMのグリシンを添加した。GluN1/GluN2A NMDARを阻害するために、アンタゴニストであるNVP-AAM007を用いた。FLEXStation II ベンチトップ走査蛍光光度計(モレキュラーデバイス社)による60秒間の記録後、カルシウム蛍光測定を25℃で行った。次いで180秒時点で、NMDARアゴニストとしてNMDA(10μM)/グリシン(2μM)を添加した。励起波長:485nM、発光波長:538nM、及びカットオフ波長:530nMを用いて、蛍光プレートの読み取りを合計30分間継続した。SoftMax Proソフトウェア(モレキュラーデバイス社)を使用して、データを記録した。
【0125】
2.13 乳酸デヒドロゲナーゼアッセイ
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)をNADH(還元型)に変換することができる、細胞質酵素である。LDHは、細胞膜の統合性が損なわれると、細胞から培地へと放出される。したがって、放出されたLDHの量は、細胞死の程度を表す。この実験において、細胞外LDHレベルは、シグマアルドリッチ社から入手したin vitro毒物学アッセイキット(番号:TOX-7)を用いて測定した。このLDHアッセイの原理は以下のとおりである:(1)LDHがNADをNADHに還元する;(2)次いで、得られたNADHを用いて、テトラゾリウム染料の化学量論的変換を行う;(3)得られた着色された化合物を、分光光度マイクロプレートリーダーにより、波長490nmで測定する。細胞死亡率は、治療群の吸光度と対照群の吸光度との間の比率(%)として表した。
【0126】
2.14 イムノブロッティング
脳組織又は培養細胞を、溶解バッファー中氷上で溶解させ、次いで、得られた溶液を4℃、14,000rpmで10分間遠心分離した。次に、上清を回収し、BCAプロテインアッセイキット(23227;サーモフィッシャー・サイエンティフィック社)を使用して、タンパク質濃度を測定した。等量のタンパク質サンプルを、4倍量のサンプルバッファーと混合し、100℃で5分間煮沸し、10%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドのゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離した。次いで、タンパク質を、イモビロン-PTMポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(162-0177;バイオ・ラッド社)に移した。前記メンブレンを、0.1%トゥイーン-20(TBST)を含むトリス緩衝生理食塩水中の5%脱脂乳で、室温で1時間ブロッキングし、次いで一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。TBSTで5分ずつ3回洗浄したのち、ECLウェスタンブロッティング基質(32016;ピアース社)を使用し、バイオ・ラッド社のイメージャで、タンパク質を可視化した。ホスホCREBの検出には、同日に調製されたサンプルを用いた。ポリビニリデンジフルオリドメンブレン(ミリポワ社、米国、マサチューセッツ州、ベッドフォード)を、ホスホCREB(Ser133)に対する一次抗体(セルシグナリングテクノロジー社、マサチューセッツ州、ベバリー)とともにインキュベートした。全CREBの検出には、同じポリビニリデンジフルオリドメンブレンをストリッピングし、次いで全CREBに対する一次抗体(セルシグナリングテクノロジー社)で再検出を行った。各タンパク質のバンド密度をQuantity Oneソフトウェアにより定量化し、同じメンブレン上の総CREB充填量(loading total-CREB)に対する、相対光学密度を解析した。
【0127】
2.15 興奮毒性アッセイ
皮質培養物をNpam43で処理し、20~24時間後の、NMDAに誘導された興奮毒性を、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより評価した。簡単に説明すると、細胞を75μmのNMDAで1.5時間処理し、その後神経細胞を、新鮮な、神経細胞用基本培地で一度洗浄し、培地を条件培地と入れ替えた。シグマアルドリッチ社から入手したin vitro毒物学アッセイキット(番号:TOX-7)を使用して、LDHの放出を測定した。細胞死亡率は、治療群の吸光度と対照群の吸光度との間の比率(%)として表した。
【0128】
2.16 H2O2細胞傷害性アッセイ
培養された皮質神経細胞を、600μmのH2O2に1時間暴露して、神経細胞の死を誘導した。GluN1/GluN2A NMDARに対するNpam43の選択性を示すために、GluN1/GluN2B選択的アンタゴニストであるイフェンプロジル(3μM)、又はGluN1/GluN2A選択的アンタゴニストであるNVP-AAM077(0.2μM)及びTCN-201(10μM)で、神経細胞を処理した。
【0129】
2.17 試薬
NaH2PO4.2H2O及びNa2HPO4.12H2Oを使用してリン酸バッファー溶液を調製し、当該溶液のpHを、NaH2PO4.2H2Oの、Na2HPO4.12H2Oに対するモル比を変えることにより調整した。他の化学物質には、分析用グレード又はそれ以上の品質のものを使用し、実験を通してMilli-Q超純水(>18MUcm)を使用した。
【0130】
2.18 計測手段及びクロマトグラフィー条件
高速液体クロマトグラフィーを用いて、CSF及び血清マトリックスからNpam43を単離し、電気化学的検出により定量化した。システムは、ESA 582ポンプ(マサチューセッツ州、ベッドフォード)、パルスダンパー(サイエンティフィック・システムズ社、ペンシルベニア州、ステートカレッジ)、Rheodyne Inert手動インジェクター(モデル9125i、20μL注入ループ;カリフォルニア州、ローナートパーク)、東ソーバイオサイエンス社のSuper ODS TSKカラム(2μm粒、2mm×10mm;ペンシルバニア州、モントゴメリーヴィル)、及びアンテック・レイデン社(Antec Leyden)の、Ag/AgCl参照電極を有するVT-03フローセルを備えたIntro電気化学検出器(Vapplied=+800mV;レイデン社、オランダ)からなる。移動相は、pH:7.0の、20mM リン酸バッファー-アセトニトリル(80:20、v/v)混合物であり、前記システム内を0.1mL/分で流動した。前記カラムは、分析の間中40℃に保たれ、注入体積は8uLであった。使用前に、移動相を0.22mm膜で濾過し、真空ポンプで脱気し、実験的試験の間、ヘリウムパージ下で維持した。EZChrome Eliteソフトウェア(サイエンティフィック・ソフトウェア社、カリフォルニア州、プレザントン)を使用して、クロマトグラフィー・データを取得及び解析した。
【0131】
2.19 試料の調製
検体のアリコットとアセトニトリルとを混合(50:50)することにより、サンプルを調製した。前記サンプルを混合し、周囲温度で10分間静置し、5000gで5分間遠心分離した。8マイクロリットルの上清を注入した。
【0132】
2.20 CSF及び血清の抽出及びHPLC-ECD解析
In vivo実験から得たCSF及び血清のサンプルを解凍し、8μlを個々のエッペンドルフチューブに移した。次いで、内部標準(IS)である2μlの0.5μg/ml Npam50、その後22μlのアセトニトリルを添加し、その後サンプルを5~10秒間ボルテックスし、20,000×gで5分間遠心分離して、析出したタンパク質を沈殿させた。清澄な上清を、分析のために、HPLCバイアルに移した。ラットのブランクcsf及びブランク血清を使用して、同様の手法で標準サンプルを調製した。試料の調製及びその後のHPLC-ECD解析には、オプティマグレード(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社)の溶媒及び18MΩの水(ミリポワ社)を用いた。校正標準は0.1~50uM(6ポイント、csf同等レベル)の範囲であり、R2>0.99であった。検出限界は、0.8μMを超えるNpam43であった。添加前後(pre- and postspiked)の血清を、純標準と比較したところ、約10%の抑制率、及び95%の抽出効率が示された。校正範囲外のサンプルはすべて、10倍に希釈して再分析した。
【0133】
3. 化合物のIn vivo解析
3.1 脳虚血
体重約200gの、成体の雄性スプラーグドーリーラットを麻酔し、頬骨と鱗状骨の前方接合部の1mm吻側に、開頭術によりウィンドウ(直径:2mm)を形成することにより、中大脳動脈(MCA)を露出させた。縫合結紮法を使用して、三枝閉塞(three-vessel occlusion)を起こさせた。暴露されたMCAを、10-0ナイロン縫合糸を用いた本結びで結紮した。次に、両側総頸動脈(CCA)を非外傷性の動脈クリップで固定した。レーザードップラー流量計(PF-5010、Perifluxシステム;ペリメド社(Perimed AB))でモニターした、局部的な大脳血流の激減により、手術の成功を確認した。虚血の90分後、縫合糸とクリップを除去し、瞬時に再灌流を起こさせた。実験用ラットを、大腿部への静脈注射により異なる用量のNpam43又は生理食塩水/ビヒクル(示される通り)の投与を受ける各群に細分した。2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)を用いて、染色した脳切片における梗塞サイズを評価した。Npam43及び生理食塩水/ビヒクルのボーラス投与は、脳卒中発症の3.5時間後に実施した。最適な結果を得るために、さらに2回分のNpam43を、第2日目と第3日目に、それぞれ投与した。その後、追加の実験を行うまで、異なる期間、ラットを回復させた。
【0134】
3.2 磁気共鳴撮像
ラットを麻酔し、撮像の間加熱パッドで体温を37.0±0.5℃に維持した。3.0T General Electric 撮像システム(R4;GE社)により、以下のパラメータにて、T2-強調スピンエコー撮像シーケンス(T2WI)を実施した:反復回数 4000ms;エコー時間 105ms;それぞれ厚さ2mmの、6~8片の隣接する冠状切片。脳卒中の進行のこの段階(虚血後7日目)では、脳梗塞は、磁気共鳴画像(MRI)上、高いシグナル(明るい白色)として現れる。非梗塞領域を、切片一枚一枚から手動で描き出し、Voxtool解析ソフトウェア(ゼネラル・エレクトリック社)を用いて、体積を測定した。対側半球の総体積から、虚血半球の非梗塞体積を減じることにより、梗塞サイズを定量化した。
【0135】
3.3 神経学的行動試験
虚血性損傷により損傷した神経回路の機能回復を評価するために、VersaMax動物活動モニター(アキュスキャン・インスツルメンツ社(Accuscan Instruments))を使用して、3つの自発運動(感覚運動)障害の様相を試験した:1)垂直活動(垂直センサーにおいて発生したビーム遮断の総数);2)垂直運動の数(動物が後ろ足で立つ回数);及び、3)垂直運動の時間(動物が後ろ足で立つ時間(秒))。昼/夜サイクルのうちの「暗」期の間に、虚血ラットを記録チャンバーに入れ、垂直運動の時間(秒)を2時間にわたり、コンピューターで自動的に記録した。垂直運動の総時間は、虚血性脳卒中により損傷した自発運動回路の回復を表す。
【0136】
[実施例1 ポジティブ・アロステリックモジュレーターの同定]
GluN1/GluN2A NMDARサブタイプは、ポジティブアロステリック調節のための格好の標的である。本発明者らは、GluN1/GluN2A-NMDARモジュレーターとなる可能性のある化合物を同定するために、in silico計算創薬方法(in silico computational drug discovery methods)を用いて、ZINCデータベースから選ばれた購入可能な鉛様化合物(Irwin, J., et al. Abstr Pap Am Chem Soc (2005) 230:U1009)及びいくつかの合成化合物の、仮想スクリーニングを実施した。このin silico法には、GluN1/GluN2Aヘテロ二量体の隙間界面に対する大規模なドッキング、及び実証試験用の化合物を選択するためのコンセンサススコアリングが含まれた。ヒト胚腎臓(HEK293)細胞に一過的にトランスフェクトされたGluN1/GluN2Aを用いて、候補化合物をさらにスクリーニングし、ホールセルパッチクランプ記録により試験した。
【0137】
表1は、GluN1/GluN2A NMDARに対してポジティブ調節効果を有するものとして同定された、合成化合物及びZINCデータベースの化合物を示す。
【0138】
【0139】
【0140】
実施例2 含GluN1/GluN2A-NMDARを選択的に増強するモジュレーターの同定
本発明者らは、GluN1/GluN2A NMDAR又はGluN1/GluN2B NMDARのいずれかを発現している、一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞を用い、ホールセルボルテージパッチクランプ記録により試験して、選択された化合物が薬剤のサブタイプ選択性プロファイルを制御していたかどうかを調べた。
【0141】
表2は、GluN1/GluN2A NMDARのポジティブ調節効果、及び/又はGluN1/GluN2B NMDARの抑制効果を示した、いくつかの同定された化合物を示す。
図1は、ホールセルパッチクランプ法による電気生理学的記録から得たデータを用いた、NMDARを介する電流に対する、いくつかのNpam化合物の様々な調節効果を示す。
図1は、Npam化合物が組換え型GluN1/GluN2A NMDARに対するポジティブな増強効果を有する場合もあり、且つ/又はGluN1/GluN2B NMDARに対する抑制効果を有する場合もあり、且つ/又はGluN1/GluN2B NMDARに対してほとんど若しくは全く効果をもたらさない場合もある、ということを示す。
【0142】
【0143】
図2は、選択されたNpam化合物の存在下での、含GluN1/GluN2A-NMDARの選択的増強を示す。
図2は、Npam01、Npam04、Npam59と比較して、Npam02、Npam58、Npam72及びNpam43が、GluN1/GluN2A NMDARに対して選択的であることを示す。
【0144】
含GluN1/GluN2A-NMDARを選択的に増強する2つの化合物、Npam02及びNpam43を、さらに調査した。Npam43は、Npam02をベースにした、構造-活性関係(SAR)の調査により得た。
【0145】
実施例3 Npam02の特徴づけ
3.1 GluN1/GluN2A又はGluN1/GluN2BでトランスフェクトしたHEK293細胞における、Npam02による増強効果の評価
ホールセルパッチクランプ記録を行い、グルタメートで誘導される電流を、塩化物ベースのピペット溶液を用いて保持電位-60mVで測定した。
【0146】
GluN1/GluN2A又はGluN1/GluN2Bを発現しているHEK293細胞において、Npam02自体が、なんらかの電流を誘導し得るという可能性を排除するために、Npam02(100μM)のみを投与したところ、内向き又は外向きの電流のいずれにおいても変化は見られなかった(
図3a、d)。GluN1/GluN2A受容体を発現しているHEK293細胞において、Npam02(100μM)をコ・アゴニストと同時投与したところ、NMDAを介する電流は、グルタメートのみを投与した場合(
図3a、d)と比較して、やや増加した(100μM;n=6;38.85±3.70%;P<0.001;及び(200μM;n=6;71.69±5.03%;P<0.001)(
図3b、d)。両コ・アゴニストの存在下で、選択的GluN1/GluN2AアンタゴニストであるNVP-AAM007(0.2μM)を同時投与することにより、増加したNMDAR電流を完全に阻害することができ、HEK293細胞に内在するタンパク質に起因する副次的効果はないということが確認された(
図3a、d)。これに対して、GluN1/GluN2Bの組み合わせを発現しているHEK293細胞では、Npam02(100μM)存在下において、NMDAR電流の増強は見られなかった(
図3c、e)。同様に、Npam02単独では電流を誘導せず、GluN1/GluN2B-受容体に起因するNMDAR電流は、GluN2Bの特異的アンタゴニストであるイフェンプロジル(IF;3μM)によって、首尾よく阻害された(
図3c、e)。
【0147】
3.2 野生型及びGluN2B欠損型の成熟皮質神経細胞におけるNpam02による増強効果の、ホールセルボルテージクランプ記録を用いた評価
GluN2A受容体が高発現されている時期の、14~18日齢の成熟した皮質神経細胞において、前記化合物がNMDARを増強できるかどうかを試験するため、本発明者は、NVP-AAM007(選択的GluN1/GluN2Aアンタゴニスト;低めの濃度で)を用いて、GluN1/GluN2A含有受容体を阻害した。
図4aに示す通り、海馬神経細胞において、コ・アゴニストであるNMDA(5uM)及びグリシン(2μM)の存在下、Npam02(100μM)を浴投与(bath application)したところ、NMDAR電流は、NMDA対照群と比較していくらか調節された(n=6、43.04±6.55%;P<0.001)。
【0148】
HEK293細胞のデータと整合して、Npam02単独では、内向き又は外向きの電流を誘発することはできなかった(
図4a)。さらに、APV(50μM)の投与により、すべての電流が阻害され、これは増強がNMDARを介したものであり、他の内在するタンパク質に起因する副次的効果によるものではないことを示している。一方、Npam02による増強効果は、NVPの存在により阻害可能であり(0.2μM;n=6、0.06±1.36%;P>0.05)、これはこの増強効果が含GluN2A-NMDARに由来することを示唆している(
図4b)。
【0149】
Npam01及びNpam04についても、同様の方法で試験したが、Npam02とは異なり、NMDAR電流の観察可能な増強効果又は下落効果は見られなかった(
図4c)。この結果は、GluN1/GluN2A NMDARを発現しているHEK293細胞において先に観察されたNpam01及びNpam04による増強効果が、神経細胞のGluN1/含GluN2B-NMDARに対する抑制効果によりマスキングされ、それによりNMDAR電流における純変化がゼロになった可能性があることを示唆した。
【0150】
Npam02による増強効果が、含GluN1/GluN2A-NMDARに対して選択的であったかどうかをさらに評価するために、GluN2Bサブユニットが欠損している神経細胞において、Npam02の試験を行った。条件付きGluN2B-ノックアウト神経細胞において、NVP-AAM007(0.2μM)とNMDA(20μM)とを同時投与したところ、NMDAR電流はほぼ完全に阻害された(n=4;90.73±1.11%;P<0.001)(
図5a、b)。これは、わずかな残留電流が未だ、GluN2Bから来ていることを示唆している。GluN2B欠損マウス由来の神経細胞において、コ・アゴニストであるNMDA(20μM)及びグリシン(2μM)の存在下、Npam02(100μM)を浴投与(bath application)したところ、NMDA対照群と比較して、NMDAR電流に対するポジティブな調節効果が見られた(n=4;44.72±4.29%;P<0.001)(
図5a、b)。この結果は、GluN1/GluN2A-NMDARを発現しているHEK293細胞における観察、及び野生型神経細胞において観察された増強効果と整合していた。
【0151】
さらに、純粋なGluN2A成分をさらに分離するために、GluN2B-アンタゴニストであるイフェンプロジル(IF)をNpam02と同時投与したところ、NMDA対照群と比較して、先に観察された増強効果と同様の効果が見られた(n=4;42.22±4.03%;P<0.001)(
図5a、b)。
【0152】
最後に、GluN2B-ノックアウト皮質神経細胞を使用して、Npam02が含GluN1/GluN2A-NMDARに対して選択的であるか否かを判定した。選択的GluN2Aアンタゴニストを用いてGluN2Aを介する電流を阻害し、前記化合物が2つのサブタイプを識別するか否かを確認した。2種のコ・アゴニストとGluN2A-NMDARアンタゴニストであるNVP-AAM007(0.2μM)及びNpam02とを浴投与(bath application)したところ、Npam02によるNMDAR電流の増強は、NMDA対照と比較して抑制された(100μM;n=4;88.87±3.45%P>0.001)(
図5a、b)。これは、残留GluN2B-NMDAR電流が増強されなかったことを示唆する。
【0153】
3.3 Npam02は、成熟皮質神経細胞において、AMPAR及びGABARを介する電流に対する明らかな調節効果を示さなかった。
次に、本発明者は、中枢神経系(CNS)の他の2種の主要なイオンチャネル型受容体に対する、Npam02の選択性プロファイルを評価した。その2種の受容体とは:中枢神経系(CNS)における迅速なシナプス伝達を媒介するグルタメートに対する非NMDA型のイオンチャネル型膜貫通受容体として知られる、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体、AMPAR;及び、主要な抑制性のリガンド開口型イオンチャネル受容体である、GABA受容体である。培養された海馬神経細胞において、ホールセルパッチクランプ記録を実施した。この試験により、Npam02は、AMPAR(
図6a、c)を介する電流又はGABAR(
図6b、c)を介する電流のいずれにおいても、観察可能な効果を示さなかったことが明らかになった。
【0154】
3.4 GluN1/GluN2Aの界面部位におけるNpam02の結合位置
構造解析において、GluN1/GluN2A二量体の界面の大部分が、前記ポケット全体及びNpam02リガンドの周囲に広がる疎水性の残基(例えばGluN2A
F115、GluN2A
M112、GluN2A
P79、GluN1
F113、GluN1
Y109、GluN1
L135、GluN2A
F177、GluN2A
P178など)により囲まれていることが観察された。実際、前記Npam02リガンドは、GluN2A
F115、GluN2A
P79、GluN1
F113及びGluN1
Y109により描かれる疎水性の籠の中に位置する。この籠は、その側鎖中の環構造からなる残基により特徴づけられる。この特徴は、特に興味深いものである。なぜなら、理想的には、この籠内のリガンドの環は、2つのΠ系(アリール-アリール)に媒介される強固な疎水性相互作用により、それ自体をこの領域に固定することができる可能性があるからである。Npam02のアリール環(
図7の位置1~6)はこの領域内に位置し、かつNpam02のアリール環(
図7の位置1~6)を取り囲むすべての前述の残基に疎水的に連結しているため、Npam02は、この可能性に従っているように見える。より具体的には、GluN2A
F115の2つのΠ系(アリール-アリール)と、Npam02のアリール環(
図7の位置1~6)との間では、T字型のエッジ・トゥー・フェース(edge-to-face)構造により強力な相互作用が働き、エネルギー的に誘引性かつ有利であるように思われる。他のアリール環(
図7の位置11~16)がGluN1
L135、GluN2A
F177及びGluN2A
P178と強力に相互作用するリガンドの反対側においても、同様の効果が見られた。GluN1
L135は、エッジ・トゥー・フェース相互作用により、Npam02の第2のアリール環と直接相互作用可能であるように見え、GluN2Aの他の残基は、前記リガンドからより離れた位置にあるため、おそらくより低い程度ではあろうが、同様に疎水的に相互作用する。逆に、GluN2A
Q111は、Npam02のヒドロキシル基(
図7の位置18)のプロトンとの相互作用を受け入れる、極性の水素結合を示す。
【0155】
3.5 N末端ドメイン(NTD)における予測結合部位の部位特異的変異誘発
薬剤がGluN1とGluN2Aとの間の二量体界面に結合するか否かを検証するために、N末端ドメイン(NTD)のポケットの部位特異的変異誘発を行った。薬剤との直接相互作用においてきわめて重要とみなされる2つの残基を選択した。広範な誘導適合ドッキング(induced-fit docking)により、Npam02がNTDの上葉(R1)間の空間を占有し利用できることが示唆された(
図8a)。そこで本発明者らは、Npam02による含GluN1/GluN2A-NMDARの増強が、前記ポケットの界面を取り囲む残基での変異により変化するか否かを試験した。この試験は、前記化合物に対する相互作用を阻むが、それ以外は全体的なタンパク質構造を攪乱しない置換用の側鎖を選択することによって行った。予想された調節部位におけるNpam02のドッキング後のモデルは、2つの残基GluN2A(Gln
111)及びGluN2A(F
177)(
図8b)がNpam02と直接相互作用し、その際GluN2A(Gln
111)はヒドロキシル基と水素結合を形成し(
図7の位置18)し、GluN2A(F
177)は芳香環(
図7の位置11~16)に対する疎水性の相互作用を誘導し得るということを示した。実際、野生型GluN1/GluN2A受容体に対して観察された調節効果と比較して、両変異により、調節の程度が顕著に減少した。野生型神経細胞におけるNpam02(100μM)による調節効果(n=7、41.75±2.62%)(
図8c)は、GluN2AがGln
111Alaから変異した際に有意に減少し(n=7、30.69±1.60%、P>0.05)(
図8c)、Phe
177Serの変異により、さらに減少した(n=7、22.86±1.12%、P>0.01)(
図8c)。これら2つの変異の導入、及びその後のNpam02による調節効果の減少は、Npam02が、この隙間界面部位に結合できたということを示唆する。
【0156】
[実施例4 Npam43の特徴づけ]
4.1 Npam43はトランスフェクトされたHEK293細胞において、含GluN1/GluN2A-NMDARを介する電流を選択的に増強する。
図9に示す通り、GluN1/GluN2A受容体を発現しているHEK細胞において、Npam43(10μM)をコ・アゴニストと同時投与したところ、NMDAを介する電流は、グルタメートのみを投与した場合と比較して、劇的に増加した。これは、Npam43がNpamとして作用し得ることを示唆している。これに対して、GluN1/GluN2Bサブタイプを発現しているHEK細胞では、Npam43(10μM)存在下において、NDMAR電流の増強は見られなかった(
図9)。同様に、Npam43単独では、電流を誘導しなかった。
図9に示す通り、HEK細胞におけるGluN1/GluN2A NMDARを介する電流の増強は、コ・アゴニストのみのベースラインと比較して約350%で飽和に達したNpam43の存在下で、用量依存性の関係を示し、EC
50は、pEC50:-0.614±0.05μM(0.24±0.05μM)であった。含GluN2B-NMDARの記録では、Nmap43による用量依存性の電流の増強は観察されなかった。
【0157】
4.2 増強効果を減少させた、N末端ドメインにおけるGluN1/GluN2A界面の重要なアミノ酸残基
本発明者らは、Npam43による含GluN1/GluN2A-NMDARの増強が、ポケット界面を取り囲む残基での変異により変化するか否かを、前記化合物との相互作用を阻むが、それ以外は全体的なタンパク質構造を攪乱しない置換用の側鎖を選択することにより、試験した。GluN1サブユニット及びGluN2Aサブユニットの一次配列を
図10aに示す。太字で示される残基は、GluN1/GluN2Aの3-Dモデルに基づいて、部位ポケットに必要であると定義されたものである(
図10b)。予想された調節部位におけるNpam43のドッキング後のモデルは、β-ストランド5の直前で曲がっているGluN1-(Leu135)(
図10b)が、リガンドとの相互作用において役割を果たし得ることを示した。
【0158】
実際、GluN1-(Leu
135Gln)では、調節の程度は顕著に減少し、ポジティブな調節は、70%超、有意に減少した(n=6;-77.5±2.12%;P<0.001;野生型GluN1/GluN2AにおけるNpam43の応答に対して正規化)。これは、このアミノ酸が前記化合物との疎水性接触において重要であることを示唆している(
図10c)。前記モデルはまた、α-へリックス80におけるGluN2A-(Gln
111)が、Npam43と主要な水素結合相互作用を形成するものであり(
図10b)、それゆえGln111がGluN2A-(Gln
111Ala)に変異したときに、増強の減少が観察された(
図10d)ことも示した。この結果は、前記リガンドの結合を媒介するうえでのこの領域の役割と整合している(n=6;-38.4±0.78%、P<0.001;野生型GluN1/GluN2AにおけるNpam43の応答に対して正規化)。さらに、α-へリックス80に位置するGluN2A-(Phe
115Ser)の変異は、ポジティブな調節を(n=6;-67.4±11.8%;P<0.001;野生型GluN1/GluN2AにおけるNpam43の応答に対して正規化)減少させ、これは、この位置における疎水性が必須であることを示唆する(
図10d)。
図11aは、GluN1-(Leu
135Gln)及びGluN2A-(Phe
115Ser)の変異が、単独でも、両方一緒でも、全体的なタンパク質構造の変化を直接反映するのではなく、むしろリガンドの結合に影響を与えたことを示す。これは、野生型GluN1/GluN2Aと比較して、これらの2つの変異に因るL-グルタメートの用量反応性に変化が無いことにより実証された。
【0159】
表3に要約し、かつ
図10dに示す、画定されたポケット内の別の8つの変異は、(10~62%)の範囲に及ぶ、増強の有意な減少も示した。これは、前記リガンドの結合が、NTDの上葉(R1)のこの接合部において起こることを、強く示唆している。このモデルの結合部位の正確性をさらに実証するために、前記結合ポケット内の、リガンド結合に寄与しない残基として定義された4つの陰性対照変異である、GluN1-(Arg
115Glu)、GluN2A-(Met
112Ile)、GluN2A-(Ile
176Tyr及びGluN2A-(Ala
108Gly)も変異させた(
図10d)。表3中には、Npam43の結合を無効にすることができる単一点変異はなかったので、二重変異を、1つはGluN1(Leu
135Gln)から、そして1つはGluN2A(Phe
115Ser)から構築して試験し、残留するポジティブ調節をさらに減少させることができるどうかを調べた。各変異それぞれが相互作用を阻害する、NTDの前記二重変異は、増強のさらなる減少に反映されるとおり、Npam43の結合をさらに減少させた(n=6;-93.9±10.3%;P<0.001;野生型GluN1/GluN2AにおけるNpam43の応答に対して正規化)(
図10e:
図10fは、前記結合部位における、これらの2つの点変異、当該変異の相対位置、及び当該変異の強力な、影響力のある相互作用を強調している)。この減少が、Npam43の結合に因るものか、又は受容体の感度低下に因るものかを判断するために、グルタメート活性化に対する用量反応関係を、野生型と前記二重変異の比較により調べた。
図11aは、グルタミンメート用量反応性において、GluN1/GluN2A野生型受容体と比較して、前記二重変異に因る有意な変化は無いことを示し、これは、この変異が、タンパク質の機能に影響を与えなかったことを示唆している。GluN1/GluN2A NTDに使用した構造モデルの正確性を評価するために、HEK293細胞のGluN1又はGluN2Aの各種変異型から観察された、Npam43による相対的増強と、ドッキング解析から予測された結合エネルギーとの間の相関関係をプロットした(
図11b)。観察された増強と予測された結合エネルギーとの間に、強い相関関係:R
2=0.93があり、これは、このモデルがこの結合ポケット内の前記化合物のモデルとして充分正確であることを示唆している(
図11b)。
【0160】
【0161】
4.3 Npam43による含GluN1/GluN2A-NMDARに対する調節は、培養されたラット海馬神経細胞においてNMDARを介する電流を増強する。
図12は、海馬神経細胞において、Npam43がGluN1/GluN2A NMDARを選択的に増強することを示す。
図12は、Npam43の存在下において、又はNpam43とGluN1/GluN2B-特異的アンタゴニストであるイフェンプロジル(IF;3μM)との同時投与により、増強が増加することを示す。
図12はさらに、GluN1/GluN2A-特異的アンタゴニストであるNVP-AAM077による処理で増強が減少し、NMDA遮断薬であるAP5による処理で前記電流が排除されることを示す。用量反応解析により、Npam43が用量依存的にNMDAR電流を増加させ、EC
50は0.25±0.12μM(
図13)であり、かつ10μM(n=6;対照レベルのベースラインより322±27%高い)で飽和点に達することが明らかになった。さらに、
図13に示す通り、NMDAの用量反応曲線はpEC
50=1.484±0.082μM又は30.5±11.7μMであり、当該用量反応曲線は、Npam43(5μM)の存在下では左側に移動し、したがって、NMDAアゴニストの親和性が増加していることがわかった。
【0162】
4.4 Npam43は、含GluN1/GluN2A-NMDARを介して細胞内のCa
2+を増加させる。
Npam43による調節が細胞内のCa
2+の増加に寄与するか否か、及びこの調節効果が含GluN1/GluN2A-NMDARに媒介されたものか否かを判断するために、初代培養されたラットの神経細胞を用いた細胞ベースのCa
2+流入アッセイを行った。NMDA(10μM)及びグリシン(2μM)を細胞培養物に添加して、NMDARを活性化した。培養された神経細胞へのNpam43の投与により、
図14に示すCa
2+流入蛍光シグナルが増加した。このCa
2+の流入が含GluN1/GluN2A-NMDARを介したものか否かを判断するために、本発明者らがGluN2AアンタゴニストであるNVP-AAM0077を同時投与したところ、Npam43に応答したCa
2+流入の顕著な減少が観察された。これは、GluN2A受容体が、
図14に示すカルシウム流入の増加を媒介していることを示唆している。
【0163】
[実施例5 Npam43の神経保護効果]
5.1 CREBのリン酸化(pCREB)
CREBのリン酸化は、細胞生存経路活性化の信頼できる指標である。
図15aは、CREBのリン酸化(pCREB)が、GluN1/GluN2Bのアンタゴニストであるイフェンプロジルの存在下又は非存在下で、Npam43での処理により増加することを示す。
図15aはさらに、GluN1/GluN2A特異的アンタゴニストであるNVP-AAM007が、陽性対照であるビククリン(BIC;10μM)と比較して、Npam43に誘導されるpCREBを減少させることを示す。
図15bは、Npam43の用量依存性の効果と、pCREBの増加との関係を示す。
【0164】
5.2 NMDAに誘導される興奮毒性及びH
2O
2に誘導される細胞傷害性の減少
図16~17は、皮質神経細胞における、NMDAに誘導される興奮毒性及びH
2O
2に誘導される非NMDAR依存性の細胞傷害性が、GluN1/GluN2AのアンタゴニストであるNVP-AAM007の非存在下で、Npam43による処理により減少することを示す。
図16はさらに、Npam43の用量依存性の効果と、NMDAに誘導される興奮毒性の関係を示す。
図17は、H
2O
2への暴露が、神経細胞の死を増加させることを示す。
図17はさらに、H
2O
2に誘導される細胞傷害性が、GluN1/GluN2Aアンタゴニスト(NVP-AAM077、0.2μM;及びTCN-201、10μM)との同時処理の場合を除いて、Npam43の存在下で減少することを示す。
【0165】
[実施例6 切片におけるNpam43の特徴づけ(ex vivo)]
6.1 シナプス伝達のGluN2A成分及び長期増強(LTP)の両方が強化される
電気生理学的記録を実施して、脳海馬切片におけるNMDAR電流に対するNpam43の効果を直接アッセイした。本発明者らは、GluN2Aアンタゴニスト又はGluN2Bアンタゴニスト(NVP-AAM007(NVP):0.2μM;又はイフェンプロジル(IF):3μM)の存在下で、シナプス伝達のGluN2A成分及びGluN2B成分を、薬理学的に分離した。
図18は、Npam43が、マウス海馬切片において、NMDAR電流のGluN2A成分を選択的に増強し、GluN2B NMDARには何の効果も与えなかったことを示す。GluN2Aの活性化が、シナプス可塑性に資することが示されたので、GluN2Aの増強が長期増強(LTP)を促し、それによりシナプス強度の増進を助けることを実証するために、電気生理学的記録も実施した。
図19は、Npam43が、マウス海馬切片において、LTPの誘導を促進できることを示す。
【0166】
6.2 GluN2Aノックアウト(KO)マウス由来の皮質切片により実証された、Npam43によるGluN2A NMDARに対する増強効果
シナプスが活性化されたNMDARに対するNpam43の選択性を直接試験するために、GluN2Aノックアウト(KO)マウス由来の切片、及び野生型(WT)マウス由来の切片において記録を実施した。
図20は、WTマウスにおいて、Npam43を脳切片に投与した際、NMDARのEPSCの明らかな増強が観察されたことを示す。GluN2AKOマウスにおいて、Npam43の投与はNMDARのEPSCに対して何の効果ももたらさなかった。これは、Npam43による増強効果がGluN2A NMDARに起因することを示唆する。
【0167】
6.3 Npam43は海馬切片においてpCREBレベルを増加させた
図21に示す通り、NVP-AAM077(0.2μM)の存在下及び非存在下で、ビククリン(BiC;10μM;30分間暴露)又はNpam43(10μM;30分間暴露)で処理された海馬切片において、基礎レベルでの、セリン133のCREBリン酸化(pCREB)の免疫細胞化学的解析を実施した。神経細胞をBiCで刺激したところ、pCREBレベルが増加し、この効果はb NVP-AAM007(0.2μM)により減少した。
図21に示す通り、Npam43(10μM)による処理によりpCREBレベルが有意に増加し、この増加はNVP-AAM077(0.2μM)の存在により完全に阻害された。
【0168】
[実施例7 Npam43の薬理学的プロファイリング]
成熟ラットへの静脈注射後、Npam43は、血液脳関門を通過する
Npam43のin vivoでの薬理学的プロファイルを、成熟したスプラーグドーリーラット(約300g)を使用して評価した。Npam43を、0.5~5mg/kgの範囲の異なる用量で各ラットに静脈注射(i.v)し、脳脊髄液(CSF)及び血清サンプルを抽出し、高速液体クロマトグラフィー・電気化学検出アッセイ(HPLC-ECD)を使用して解析した。静脈内投与後のNpam43の薬物動態解析により、
図22に示す通り、Npam43が効率よく血液脳関門(BBB)を突破したこと、かつCSF及び血清中における中程度の代謝安定性を有することが実証された。注射の1時間後、注射された用量と、CSF中の最終濃度との間に、線形関係が観察された。
図22に示す通り、Npam43の半減期は、CSFにおいて2.95±0.6時間と推定され、これは血清中におけるNpam43の減衰と同様であった。
【0169】
[実施例8 Npam43のin vivoでの有効性]
8.1 Npam43は、海馬組織及び皮質組織においてpCREBレベルを増加させる。
Npam43(1mg/kg)の静脈注射による治療の1時間後に、海馬及び皮質の脳切片を採取し、
図23に示す通り、各サンプルのpCREBレベル及びtCREBレベルを、イムノブロッティングにより調べた。In vitroでのアッセイと整合して、pCREBレベルが上昇していた。
【0170】
8.2 虚血性脳損傷後の神経細胞の損傷の減少
梗塞サイズは、発作後の脳の損傷の尺度として使用することができる。
図24~25は、Npam43での治療により、中大脳動脈閉塞(MCAo)のラットモデルにおける梗塞体積が、ビヒクル/生理食塩水で治療した対照と比較して、減少したことを示す。
図24は、虚血の24時間後の梗塞体積に対する、Npam43の用量依存性の効果を示す。
図25は、Npam43が梗塞サイズを減少させることを、MRI走査による長期評価ポイント(7日間)を使用して示している。
【0171】
8.3 局所虚血性脳損傷後の行動パフォーマンスの向上
脳卒中後の神経細胞の機能回復を評価するために、神経行動学的アッセイを実施した。
図26は、脳卒中発症の28日後、未治療の対照ラットと比較して、Npam43で治療したラットにおいて、脳卒中後の自発運動の増加が見られたことを示す。
【配列表】