(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ステップ式フライスカッタ
(51)【国際特許分類】
B23C 5/06 20060101AFI20220830BHJP
B23C 9/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B23C5/06 A
B23C9/00 Z
(21)【出願番号】P 2017151905
(22)【出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】熊切 孝之
(72)【発明者】
【氏名】黒木 啓史
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-276143(JP,A)
【文献】実開昭55-107918(JP,U)
【文献】実開平05-016033(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0197258(US,A1)
【文献】特表2013-534188(JP,A)
【文献】実開昭63-053612(JP,U)
【文献】特開2015-150661(JP,A)
【文献】実開平05-037411(JP,U)
【文献】特開2013-202767(JP,A)
【文献】米国特許第04586855(US,A)
【文献】実開昭51-162388(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/06、5/10
B23C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにカッタ回転方向に回転されるカッタ本体と、
上記カッタ本体の先端部の外周に配設される複数の切刃とを有し、
上記切刃は、上記軸線方向に延びる外周刃と、上記外周刃の先端から上記軸線に対する径方向内周側に延びる底刃とを備えて、上記カッタ本体の周方向に沿って徐々に位置をずらされて配設されたステップ式フライスカッタであって、
上記カッタ本体を、周方向において個々の上記切刃を間に挟むとともに上記軸線を含む2つの平面によって相互に区画された複数のセグメントの集合体としたとき、
これらのセグメントには、すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整するプリバランス部がそれぞれ形成され、
上記プリバランス部の外周面にはプリバランス面が形成されており、上記プリバランス面の上記軸線からの距離が調整されることにより、上記すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置が調整されて
おり、
複数の上記切刃のうち、上記外周刃が最も上記カッタ本体の内周側に位置するとともに上記底刃が最も上記軸線方向の先端側に位置する第1の切刃から、上記カッタ回転方向とは反対側に向けて順に、上記第1の切刃以外の上記各切刃の上記外周刃が外周側にずれるとともに上記底刃が上記軸線方向の後端側にずれてゆくことを特徴とするステップ式フライスカッタ。
【請求項2】
上記カッタ本体の先端面は、複数の上記セグメントのうち上記第1の切刃を含む第1のセグメントの先端面が最も先端側に突出し、上記第1のセグメントから、上記カッタ回転方向とは反対側に向けて順に、上記第1のセグメント以外の上記各セグメントの先端面が上記軸線方向の後端側に後退するように階段状に形成され
、
上記各セグメントの外周面からの上記外周刃の突出量は、最も外周側に突出する上記切刃の上記外周刃の突出量が大きく、他の上記切刃の上記外周刃の突出量はこれよりも小さな一定の突出量とされていることを特徴とする請求項1に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項3】
上記各セグメントの重心は、上記軸線を中心とした1つの円筒面上に位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項4】
上記各セグメントの重心は、上記カッタ本体の周方向に等間隔に位置していることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項5】
上記プリバランス面は、上記軸線方向視において上記切刃の外周刃と底刃とが交差するコーナ部と該軸線とを結ぶ直線に対して垂直な平面であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項6】
上記カッタ本体の先端部においては、上記セグメントの外周面が、上記2つの平面に挟まれる上記切刃の外周刃の上記軸線からの半径よりも小さな半径の円筒面状とされ、
上記カッタ本体の後端部に上記プリバランス部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項7】
上記切刃のうち、上記カッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃は、上記底刃の長さが他の切刃の底刃よりも長いワイパー刃とされるとともに、
上記他の切刃の底刃にはニックが形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項8】
上記切刃のうち、上記カッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃は、上記底刃の長さが他の切刃の底刃よりも長いワイパー刃とされるとともに、
上記カッタ本体には上記ワイパー刃を備えた切刃だけにクーラントを供給するクーラント孔が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【請求項9】
上記周方向に隣り合う上記プリバランス面同士が、互いに接続されていることを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載のステップ式フライスカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りにカッタ回転方向に回転されるカッタ本体の先端部外周に複数の切刃が、カッタ本体の周方向に沿って徐々に位置をずらされて配設されたステップ式フライスカッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなステップ式フライスカッタとして、例えば特許文献1~3には、カッタ本体の外周に複数の切刃を備え、これらの切刃のカッタ本体の軸線方向における位置をカッタ回転方向に沿って順次後退させるとともに、半径方向の位置を順次小さくしたものが記載されている。このうち、特許文献1には、このようなステップ式フライスカッタにおいては、送り量が一定の場合には幅が小さくて厚い切屑が生成されるため、比切削抵抗が小さいとともに切れ味がよいと記載されており、従ってビビリ振動を抑制することができ、またカッタ本体のチップポケットも小さくて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-051011号公報
【文献】特開平11-320235号公報
【文献】特開2014-113686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなステップ式フライスカッタでは、複数の切刃のカッタ本体における軸線方向と径方向の位置がずれているため、切刃を含めたカッタ本体の重心の位置も軸線上からずれてしまい、カッタ本体を高速回転させると振れが生じるおそれがある。そして、このような振れが生じると切削加工が不安定となって、良好な加工精度や加工面粗さを得ることができなくなったり、場合によっては切刃にチッピングや欠損を招いたりするおそれがある。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、複数の切刃のカッタ本体における軸線方向と径方向の位置がずらされたステップ式フライスカッタにおいても、カッタ本体を高速回転させたときに振れが生じるのを防いで安定した切削加工を行うことが可能なステップ式フライスカッタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りにカッタ回転方向に回転されるカッタ本体と、上記カッタ本体の先端部の外周に配設される複数の切刃とを有し、上記切刃は、上記軸線方向に延びる外周刃と、上記外周刃の先端から上記軸線に対する径方向内周側に延びる底刃とを備えて、上記カッタ本体の周方向に沿って徐々に位置をずらされて配設されたステップ式フライスカッタであって、上記カッタ本体を、周方向において個々の上記切刃を間に挟むとともに上記軸線を含む2つの平面によって相互に区画された複数のセグメントの集合体としたとき、これらのセグメントには、すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整するプリバランス部がそれぞれ形成され、上記プリバランス部の外周面にはプリバランス面が形成されており、上記プリバランス面の上記軸線からの距離が調整されることにより、上記すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置が調整されており、複数の上記切刃のうち、上記外周刃が最も上記カッタ本体の内周側に位置するとともに上記底刃が最も上記軸線方向の先端側に位置する第1の切刃から、上記カッタ回転方向とは反対側に向けて順に、上記第1の切刃以外の上記各切刃の上記外周刃が外周側にずれるとともに上記底刃が上記軸線方向の後端側にずれてゆくことを特徴とするものである。
【0007】
このように構成されたステップ式フライスカッタでは、カッタ本体を上述のような複数のセグメントの集合体としたときに、これらのセグメントに、すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心がカッタ本体の軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整するプリバランス部がそれぞれ形成されているので、切刃の位置がずらされていてもカッタ本体を高速回転させたときに振れが生じることはなく、安定した切削加工を可能として加工精度や加工面粗さの向上を図ることができるとともに、切刃のチッピングや欠損も防ぐことができる。
さらに、プリバランス部において上述のようにすべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整するには、このプリバランス部の外周面にプリバランス面を形成し、このプリバランス面の上記軸線からの距離を調整することにより、上記カッタ本体の重心の中心が上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整すればよい。
また上記ステップ式フライスカッタにおいて、上記カッタ本体の先端面は、複数の上記セグメントのうち上記第1の切刃を含む第1のセグメントの先端面が最も先端側に突出し、上記第1のセグメントから、上記カッタ回転方向とは反対側に向けて順に、上記第1のセグメント以外の上記各セグメントの先端面が上記軸線方向の後端側に後退するように階段状に形成され、上記各セグメントの外周面からの上記外周刃の突出量は、最も外周側に突出する上記切刃の上記外周刃の突出量が大きく、他の上記切刃の上記外周刃の突出量はこれよりも小さな一定の突出量とされていることが好ましい。
【0008】
なお、各セグメントの重心の位置は、例えば軸線を挟んで周方向に互いに反対側に位置する一対のセグメント同士の重心の位置が軸線に対する直径線上にあって軸線から等間隔にあれば、この一対のセグメントと他の一対のセグメントとでは重心の軸線からの間隔が異なっていても、すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心をカッタ本体の軸線上に位置させることができるが、これら各セグメントの重心を、上記軸線を中心とした1つの円筒面上に位置させることにより、確実に上記カッタ本体の重心のカッタ本体の軸線上に位置させることが可能となる。
【0009】
また、各セグメントの重心の位置は、同じく軸線を挟んで周方向に互いに反対側に位置する一対のセグメント同士の重心の位置が軸線に対する直径線上にあって軸線から等間隔にあれば、この一対のセグメントと他の一対のセグメントとでは重心の周方向の間隔が異なっていても、すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心をカッタ本体の軸線上に位置させることができるが、これら各セグメントの重心を、上記カッタ本体の周方向に等間隔に位置させることにより、一層確実に上記カッタ本体の重心をカッタ本体の軸線上に位置させることが可能となる。
【0011】
上記プリバランス面は、上記軸線方向視において上記切刃の外周刃と底刃とが交差するコーナ部と該軸線とを結ぶ直線に対して垂直な平面とし、この平面と軸線との間隔を調整することによって上記すべてのセグメントを集合した上記カッタ本体の重心を上記軸線上に位置するように各セグメントの重心の位置を調整するのが、カッタ本体の重心の位置を一層確実に軸線上に位置させる上で望ましい。
【0012】
また、上記カッタ本体の先端部においては、上記セグメントの外周面を、上記2つの平面に挟まれる上記切刃の外周刃の上記軸線からの半径よりも小さな半径の円筒面状とすることにより、この外周刃の半径とセグメントの外周面の半径との差をセグメント同士の間で適正な範囲で小さな大きさとすることによって、外周刃が必要以上にカッタ本体先端部の外周面から突出して切刃剛性が損なわれたり、あるいはカッタ本体先端部の外周面が外周刃よりも外周側に位置することで高切り込みができなくなったりするのを防ぐことができる。そして、このような場合には、上記カッタ本体の後端部に上記プリバランス部を形成すればよい。
【0013】
一方、このようなステップ式フライスカッタにおいて、加工面(仕上げ面)の最終的な精度や粗さを決定するのは、複数の上記切刃のうち、上記カッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃の底刃となる。そこで、このカッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃を、その底刃の長さが他の切刃の底刃よりも長いワイパー刃とすることにより、加工面を平滑に仕上げてより良好な加工精度および加工面粗さを得ることが可能となる。
【0014】
そして、こうしてカッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃をワイパー刃としたときには、このワイパー刃とされた切刃以外の上記他の切刃は加工面粗さ等には影響を及ぼさないので、この他の切刃の底刃にニックを形成することにより、予め分断された切屑を生成して切削抵抗を一層低減することが可能となる。
【0015】
また、同様にカッタ本体の最も先端内周側に配設される切刃を、その底刃の長さが他の切刃よりも長いワイパー刃としたときには、上記カッタ本体に、上記ワイパー刃とされた切刃だけにクーラントを供給するクーラント孔を形成することにより、このワイパー刃にクーラントを集中して供給することができ、長く延びる切屑の効率的な排出を促すことが可能となる。
また、上記周方向に隣り合う上記プリバランス面同士が、互いに接続されていることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、カッタ本体を高速で回転させても振れが生じるのを防ぐことができ、安定した切削加工を促して優れた加工精度や加工面粗さを得ることができるとともに、切刃にチッピングや欠損が発生するのも防いで円滑な切削を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態を示すカッタ本体の上面側からの斜視図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の底面側からの斜視図である。
【
図9】
図1に示す実施形態においてカッタ本体の最も先端内周側に切刃が配設されるセグメントを示す、カッタ本体の上面側からの斜視図である。
【
図10】
図9に示すセグメントの底面側からの斜視図である。
【
図13】図
11および
図12における矢線W方向視の側面図である。
【
図14】図
11および
図12における矢線X方向視の側面図である。
【
図15】図
11および
図12における矢線Y方向視の側面図である。
【
図16】図
11および
図12における矢線Z方向視の側面図である。
【
図17】
図1に示す実施形態に取り付けられる第1の切削インサートの(a)カッタ回転方向T側から見た側面図、(b)カッタ本体の底面側から見た底面図である。
【
図18】
図1に示す実施形態に取り付けられる第2~第8の切削インサートの一例を示すカッタ回転方向T側から見た側面図である。
【
図19】
図1に示す実施形態に取り付けられる第2~第8の切削インサートの他の例を示すカッタ回転方向T側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1ないし
図8は本発明のステップ式フライスカッタの一実施形態を示すものであり、
図9ないし
図16はこの実施形態のステップ式フライスカッタにおけるカッタ本体1の最も先端内周側に切刃が配設されるセグメントを示すものである。本実施形態において、カッタ本体1は、鋼材等の金属材料により概略円盤状に一体に形成されており、その先端部(
図5ないし
図8において下側部分)は大径で概略円板状の切刃部2とされるとともに、後端部(
図5ないし
図8において上側部分)は切刃部2よりも小径で多角形板状のプリバランス部3とされている。
【0019】
また、カッタ本体1には、軸線Oを中心とする断面円形の取付孔4が貫通するように形成されており、この取付孔4は、プリバランス部3では小径とされるとともに切刃部2では大径とされた段付き孔とされている。カッタ本体1は、この取付孔4に取り付けられるアーバ等を介して工作機械の主軸に把持され、図中に符号Tで示すカッタ回転方向に軸線O回りに回転されつつ、該軸線Oに垂直な方向に送り出されて、切刃部2に設けられた切刃5により被削材に平坦な加工面を形成する。
【0020】
ここで、本実施形態においては、上記切刃5はカッタ本体1に着脱可能に取り付けられる切削インサート6に形成されている。すなわち、本実施形態のステップ式フライスカッタは刃先交換式のフライスカッタであり、切刃部2の先端部外周には周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では8つ)のチップポケット7が形成されるとともに、これらのチップポケット7のカッタ回転方向Tを向く壁面には、上記切削インサート6が取り付けられるインサート取付座8がそれぞれ形成されている。
【0021】
本実施形態の切削インサート6における切刃5は、カッタ本体1の外周側に向けられて軸線O方向に延びる外周刃5aと、この外周刃5aの先端から軸線Oに対する径方向内周側に延びるカッタ本体1の先端側に向けられた底刃5bとを備えている。そして、各インサート取付座8に取り付けられる複数(本実施形態では8つ)の切削インサート6のこのような切刃5は、カッタ本体1の周方向のカッタ回転方向T側からカッタ回転方向Tと反対側に向けて、軸線O回りの回転軌跡を重なり合わせつつ、カッタ本体1の軸線O方向と径方向とに段差をもって順に徐々に位置をずらされるように配設される。
【0022】
すなわち、本実施形態では、
図4において右側に示す第1の切削インサート6Aの第1の切刃5Aが、その外周刃5aが最もカッタ本体1の内周側に位置するとともに底刃5bが最も軸線O方向の先端側に位置しており、この第1の切削インサート6Aからカッタ本体1の周方向に沿ってカッタ回転方向Tとは反対側に向けて第2~第8の切削インサート6B~6Hの順に、それぞれの第2~第8の切刃5B~5Hの外周刃5aが外周側に略平行にずれるとともに底刃5bが軸線O方向の後端側に略平行にずれてゆく。そして、これら第1~第8の切刃5A~5Hは、互いの外周刃5aと底刃5bの軸線O回りの回転軌跡が交差するようにして上述のように重なり合っている。
【0023】
ここで、本実施形態において、上記第1の切削インサート6Aは
図17に示すように、超硬合金等の硬質材料よりなる多角形板状(例えば、方形板状)のインサート本体(台金)6aの多角形面である底面における1つの辺稜部に、インサート本体6aよりも硬度が高いダイヤモンド焼結体等の高硬度焼結体よりなる長方形板状の切刃部材6bが接合されたポジティブタイプの切削インサートであって、この切刃部材6bの上記1つの辺稜部に相当する部分に底刃5bが形成されるとともに、この底刃5bの端部からインサート本体6aの厚さ方向に延びる辺稜部に外周刃5aが形成されている。なお、上記底面の中央には、インサート本体6aを貫通する貫通孔6cが開口している。
【0024】
このような第1の切削インサート6Aは、インサート本体6aの底面をカッタ本体1の先端側に向けるとともに切刃部材6bをカッタ回転方向Tに向け、貫通孔6cに挿通された取付ネジ9がインサート取付座8の先端側を向く面に形成されたネジ孔にねじ込まれることにより、カッタ本体1に着脱可能に取り付けられる。すなわち、この第1の切削インサート6Aは、厚さ方向よりも寸法の大きな長さ方向または幅方向をカッタ回転方向Tに向けた、いわゆる縦刃式にカッタ本体1に取り付けられる。このとき、カッタ本体1の外周側に向けられた外周刃5aには正のアキシャルレーキ角が与えられるとともに、カッタ回転方向Tに向けられる底刃5bは軸線Oに垂直な平面上に位置して
図4に示すように負のラジアルレーキ角が与えられる。
【0025】
一方、この第1の切削インサート6A以外の他の第2~第8の切削インサート6B~6Hは、例えば
図18に示すように、超硬合金等の硬質材料により一体に形成された同形同大の多角形板状(例えば、方形板状)のインサート本体6aを有し、このインサート本体6aのカッタ回転方向Tに向けられる多角形面の対角線上に位置する複数(
図18では4つ)のコーナ部Cに交差する2つの辺稜部に切刃5の外周刃5aと底刃5bとが形成されている。本実施形態では、底刃5bのコーナ部C側には該底刃5bに交差する凹溝状のニック6dが複数形成されている。また、上記多角形面の中央には、インサート本体6aを貫通する貫通孔6cが開口している。
【0026】
このような第2~第8の切削インサート6B~6Hは、上述したように切刃5が形成された多角形面をカッタ回転方向Tに向け、貫通孔6cに挿通された取付ネジ9がインサート取付座8のカッタ回転方向Tを向く面に形成されたネジ孔にねじ込まれることにより、カッタ本体1に着脱可能に取り付けられる。このとき、外周刃5aはカッタ本体1の外周側に向けられてコーナ部Cから軸線O方向後端側に延びるとともに、底刃5bはカッタ本体1の先端側に向けられて外周刃5aの先端であるコーナ部Cから内周側に延び、外周刃5aにはやはり正のアキシャルレーキ角が与えられる一方、底刃5bには
図4に示すように第1の切削インサート6Aの底刃5bよりも正角側に大きい略0°のラジアルレーキ角が与えられる。
【0027】
なお、これら第1~第8の切削インサート6A~6Hにおける第1~第8の切刃5A~5Hにおいては、底刃5bの長さが外周刃5aの長さよりも長くなるようにされている。また、第1の切削インサート6Aの第1の切刃5Aにおける底刃5bの長さは、第2~第8の切削インサート6B~6Hの第2~第8の切刃5B~5Hにおける底刃5bの長さよりも長くなるようにされており、この第1の切削インサート6Aの第1の切刃5Aにおける底刃5bは、ワイパー刃とされている。
【0028】
さらに、第1の切削インサート6Aから第2~第8の切削インサート6B~6Hの順に回転軌跡がずれてゆく第1~第8の切刃5A~5Hにおいて、個々の外周刃5aの外周側へのずれ量は互いに等しく設定されるとともに、個々の底刃5bの後端側へのずれ量も互いに等しく設定されている。さらにまた、第1~第8の切削インサート6A~6Hにおける第1~第8の切刃5A~5Hの外周刃5aと底刃5bとが交差するコーナ部Cは、本実施形態では周方向に等間隔となるように配置されている。
【0029】
また、カッタ本体1には、上述のようにアーバ等を介して取り付けられる工作機械の主軸から供給されたクーラントを切刃5に向けて噴出する図示されないクーラント供給孔が形成されている。ここで、このクーラント供給孔は、上記第1の切削インサート6Aが取り付けられるインサート取付座8のカッタ回転方向Tに隣接するチップポケット7にのみ開口して、この第1の切削インサート6Aの切刃5だけにクーラントを供給するものとされている。なお、他の第2~第8の切削インサート6B~6Hにおける第2~第8の切刃5B~5Hには、カッタ本体1の外部からクーラントが供給される。
【0030】
そして、上述のような切刃5が形成された切削インサート6および取付ネジ9を含めたカッタ本体1を、
図4および
図9ないし
図16に示すように周方向において個々の切刃5を間に挟むとともに軸線Oを含む2つの平面P1~P8によって相互に区画した、すなわち切断した複数のセグメントS1~S8の集合体としたとき、これらのセグメントS1~S8の重心の位置は、上記プリバランス部3により、すべてのセグメントS1~S8を集合した集合体である上記カッタ本体1の重心が上記軸線O上に位置するように調整されている。
【0031】
ここで、本実施形態では、このプリバランス部3の外周面に、プリバランス面10A~10Hがそれぞれ形成されており、これらのプリバランス面10A~10Hの上記軸線Oからの距離が調整されることにより、すべてのセグメントS1~S8を集合したカッタ本体1の重心が軸線O上に位置するように各セグメントS1~S8の重心の位置が調整されている。さらに、本実施形態においては、これらのセグメントS1~S8の重心の位置は、軸線Oから等しい距離にあって周方向に等間隔となるように配設されている。
【0032】
より詳しくは、本実施形態では、上記平面P1~P8は周方向に略等間隔に配設されており、これら平面P1~P8のうち周方向に隣接する2つによって区画される各セグメントS1~S8には1つずつの切刃5(切刃5A~5Hのうちのそれぞれ1つ)が含まれるように設定されている。ここで、これら各セグメントS1~S8のプリバランス面10A~10Hは、上記軸線O方向視において、各プリバランス面10A~10Hが形成されたセグメントS1~S8に含まれる上記切刃5A~5Hの外周刃5aと底刃5bとが交差するコーナ部Cと軸線Oとを結ぶ直線L1~L8に対して垂直な平面とされている。
【0033】
従って、8つの切刃5A~5Hを備えた本実施形態のステップ式フライスカッタにおいては、プリバランス面10A~10Hが形成されるプリバランス部3は概略八角形の平板状に形成される。なお、これらのプリバランス面10A~10Hには、軸線O方向視において上記直線L1~L8に平行で、すなわち該プリバランス面10A~10Hに垂直な中心線を有するネジ孔が形成されており、これらのネジ孔にはバランス微調整ネジ11がねじ込まれている。
【0034】
また、カッタ本体1先端部の切刃部2においては、上記セグメントS1~S8の外周面が、該セグメントS1~S8を区画する上記2つの平面P1~P8に挟まれる切刃5の外周刃5aの軸線Oからの半径よりも小さな半径の円筒面状とされている。ただし、これらの外周面が接する上記平面P1からP8の周辺部分においては、この外周面がなす円筒面の半径が調整されて、切刃部2の外周面は全体的には滑らかな凸曲面をなすようにされている。なお、外周刃5aの周辺における各セグメントS1~S8の外周面からの外周刃5aの突出量は、最も外周側に突出する第8の切刃5Hの外周刃5aの突出量が大きく、他の第1~第7の切刃5A~5Gの外周刃5aの突出量はこれよりも小さな略一定の突出量とされている。
【0035】
さらに、切刃部2の先端面は、最もカッタ本体1の先端側に突出する第1の切刃5Aの底刃5bを含む第1のセグメントS1の先端面が最も先端側に突出し、この第1の切刃5Aの底刃5bから含まれる底刃5bが順次後退する第2~第8のセグメントS2~S8の順に各セグメントS2~S8の先端面も軸線O方向後端側に後退するように階段状に形成されている。なお、各セグメントS1~S8の先端面からの底刃5bの突出量は略一定である。
【0036】
このように構成されたステップ式フライスカッタにおいては、切刃5を含めたカッタ本体1を上述のように相互に区画された複数のセグメントS1~S8の集合体としたとき、すべてのセグメントS1~S8を集合した上記カッタ本体1の重心が上記軸線O上に位置するように各セグメントS1~S8の重心の位置を調整するプリバランス部3がセグメントS1~S8にそれぞれ形成されているので、切削加工時にカッタ本体1を高速回転させてもカッタ本体1に径方向の振れが生じるのを防ぐことができて、安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0037】
従って、切刃5の位置が径方向にずれていても、このようなカッタ本体1の振れによって切刃5が必要以上に被削材に切り込まれるのを防ぐことができて、切刃5にチッピングや欠損が生じるのを防止することができるとともに、被削材においても加工精度や加工面粗さを向上させることができる。なお、バランス微調整ネジ11のネジ込み量を調整することにより、カッタ本体1のバランスの微調整を行うこともできる。
【0038】
さらに、本実施形態では、これらのセグメントS1~S8の重心の位置は、軸線Oから等しい距離にある1つの円筒面上において周方向に等間隔となるように配設されているので、重心の位置の設定が容易で、一層確実にすべてのセグメントS1~S8を集合したカッタ本体1の重心が軸線O上に位置するように調整することが可能となる。さらにまた、プリバランス部3におけるセグメントS1~S8の重心の調整は、本実施形態ではプリバランス部3の外周面に形成されたプリバランス面10A~10Hの軸線Oからの距離を調整することによって行われるので、この重心の位置の設定が一層容易である。
【0039】
さらに、本実施形態におけるプリバランス面10A~10Hは、軸線O方向視において切刃5の外周刃5aと底刃5bとが交差するコーナ部Cと軸線Oとを結ぶ直線L1~L8に対して垂直な平面とされている。このため、上記直線L1~L8を基準としてプリバランス面10A~10Hを形成することができるので、一層確実にカッタ本体1の重心を軸線O上に配置することが可能となる。特に本実施形態では、第1~第8の切削インサート6A~6Hにおける第1~第8の切刃5A~5Hのコーナ部Cは周方向に等間隔となるように配置されているので、直線L1~L8も等間隔となり、さらにプリバランス面10A~10Hを正確に形成し易くなってカッタ本体1の重心の位置も精度良く軸線O所に配置することができる。
【0040】
また、本実施形態では、カッタ本体1先端部の切刃部2において、各セグメントS1~S8の外周面が、切刃5の周辺では、この切刃5の外周刃5aの軸線Oからの半径よりも小さな半径の円筒面状とされており、プリバランス面10A~10Hはこの切刃部2よりも後端側のプリバランス部3に形成されている。従って、この外周刃5aの半径とセグメントS1~S8の外周面の半径との差、すなわち外周刃5aの突出量を適正な範囲で小さな大きさとすることにより、切刃5の外周刃5aの剛性や切削インサート6の取付強度を確保しつつ、軸線O方向にずらされた第1~第8の切削インサート6A~6Hの外周刃5aによって高切り込み加工を行うことが可能となる。
【0041】
しかも、本実施形態においては、カッタ本体1の先端面である切刃部2の先端面も、最もカッタ本体1の先端側に突出する第1の切刃5Aの底刃5bを含む第1のセグメントS1の先端面が最も先端側に突出し、この第1の切刃5Aの底刃5bから含まれる底刃5bが順次後退する第2~第8のセグメントS2~S8の順に各セグメントS2~S8の先端面も軸線O方向後端側に順次後退するように階段状に形成されていて、各セグメントS1~S8の先端面からの底刃5bの突出量は略一定とされている。このため、切刃5の底刃5bの剛性や底刃5b側での切削インサート6の取付強度も確実に確保することが可能となる。
【0042】
一方、本実施形態のようなステップ式フライスカッタでは、複数の切刃5A~5Hのうち、カッタ本体1の最も先端内周側に配設される第1の切刃5Aの底刃5bが、最終的な加工面の精度や粗さを決定することになる。従って、この第1の切刃5Aの底刃5bが軸線Oに垂直な平面に位置していれば、第1の切削インサート6Aの厚さ方向の正面振れ調整は不要となる。そして、本実施形態では、この第1の切刃5Aの底刃5bが、他の第2~第8の切刃5B~5Hよりも長いワイパー刃とされて、軸線Oに垂直な平面上に配設されているので、加工面をより平滑に仕上げて高い加工精度および加工面粗さを得ることが可能となる。
【0043】
これに対して、上記他の第2~第8の切刃5B~5Hの底刃5bには、本実施形態では凹溝状のニック6dが形成されており、切屑を分断しながら生成して切削抵抗の低減を図ることができるので、本実施形態のステップ式フライスカッタは、上述のように高切り込み加工が可能であることも相俟って、荒加工から仕上げ加工までに使用することが可能となる。なお、このように底刃5bにニック6dを形成したときには、他の第2~第8の切刃5B~5Hによる加工面粗さは損なわれることになるが、これら他の第2~第8の切刃5B~5Hの底刃5bによる加工面は第1の切刃5Aの底刃5bによって削り取られてしまうので、最終的な加工精度や加工面粗さに影響が及ぶことはない。
【0044】
さらに、本実施形態では、このようにカッタ本体1の最も先端内周側に配設される第1の切刃5Aが、その底刃5bの長さが他の第2~第8の切刃5B~5Hの底刃5bよりも長いワイパー刃とされているのに対し、カッタ本体1には、このワイパー刃となる底刃5bを備えた第1の切刃5Aだけにクーラントを供給するクーラント孔が形成されている。このため、ワイパー刃とされる底刃5bに集中してクーラントを供給することができて、ニックがないために分断されずに長く延びる切屑を効率的に排出することが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態では、上記他の第2~第8の切刃5B~5Hを有する第2~第8の切削インサート6B~6Hは、超硬合金等の硬質材料により一体に形成されたものであり、ダイヤモンド焼結体のような高硬度焼結体よりなる切刃部材6bが接合された第1の切削インサート6Aよりも低コストであるが、これら第2~第8の切削インサート6B~6Hにおいても、
図19に示す他の例のように高硬度焼結体よりなる切刃部材6bが接合されたものを用いてもよい。ここで、
図19において
図18に示した切削インサート6と共通する部分には同一の符号を配してある。
【0046】
すなわち、この他の例の切削インサート6B~6Hは、超硬合金等の硬質材料により一体に形成された多角形板状(例えば、方形板状)のインサート本体(台金)6aのカッタ回転方向Tに向けられる多角形面の対角線上に位置する複数(
図18では4つ)のコーナ部Cに、インサート本体6aよりも硬度が高いダイヤモンド焼結体等の高硬度焼結体よりなる三角形板状の切刃部材6bが接合されたポジティブタイプの同形同大の切削インサートである。そして、これらの切刃部材6bのカッタ本体1外周側に向けられる辺稜部に外周刃5aが形成されるとともに、先端側に向けられる辺稜部に外周刃5aよりも長くニック6dが形成されていない底刃5bが形成される。
【0047】
このような他の例の切削インサート6B~6Hにおいては、例えば鋳鉄等の鋳物の切削加工のように切屑が元々分断され易く生成される場合に、ニック6dが形成されていなくても切削抵抗の低減を図ることができる。しかも、切刃5が超硬合金よりも高硬度のダイヤモンド焼結体のような高硬度焼結体よりなる切刃部材6bに形成されているので、切削インサート6B~6Hの長寿命化を図ることができる。
【0048】
また、第1の切削インサート6Aにおいては、
図17(a)に破線で示すように、底面側に切刃部材6bが接合されてカッタ回転方向Tに向けられる側面を、底刃5bが形成された底面側から反対側に向かうに従い幅狭となる台形状に形成して、外周刃5aが軸線O方向後端側に向かうに従いカッタ本体1の内周側に向かうように傾斜させてもよい。このように外周刃5aを傾斜させることにより、最終的に加工精度や加工面粗さを決定する第1の切刃5Aの外周刃5aにバリ取り機能を持たせることができ、一層良好な仕上げ面を形成することができる。
【0049】
さらに、この第1の切削インサート6Aにおいては、超高硬度焼結体よりなる切刃部材6bが、
図17(b)がインサート本体(台金)6aの多角形面(底面)における1つの辺稜部だけに接合されており、この多角形面の反対側の他の1つの辺稜部はインサート本体6aを形成する超硬合金のままである。そこで、例えば鋳物の湯口を切削するような場合には、第1の切削インサート6Aをその貫通孔6c回りに180°回転してインサート取付座8に取り付け直し、この他の1つの辺稜部を底刃として切削に使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 カッタ本体
2 切刃部
3 プリバランス部
4 取付孔
5(5A~5H) 切刃
5a 外周刃
5b 底刃
6(6A~6H) 切削インサート
10A~10H プリバランス面
11 バランス微調整ネジ
O カッタ本体1の軸線
T カッタ回転方向
C 切刃5の外周刃5aと底刃5bとが交差するコーナ部
P1~P8 切刃5を間に挟む2つの軸線Oを含む平面
S1~S8 セグメント
L1~L8 軸線O方向視においてコーナ部Cと軸線Oとを結ぶ直線