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特許7131894抽出物の製造方法、抽出物、水浄化剤、及び排水処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】抽出物の製造方法、抽出物、水浄化剤、及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20220830BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20220830BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20220830BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B01D21/01 101Z
B01D21/01 105
B01D21/01 107Z
C02F1/56 J
C02F1/56 K
C02F1/58 Z
C02F1/62 B
C02F1/62 C
C02F1/62 E
C02F1/62 Z
C02F1/58 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017174021
(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公開番号】P2018047454
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2016181619
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴則
(72)【発明者】
【氏名】島田 竜
(72)【発明者】
【氏名】伊東 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正人
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-114313(JP,A)
【文献】特開2011-194385(JP,A)
【文献】特開平07-069910(JP,A)
【文献】特開平03-041014(JP,A)
【文献】特開2016-073898(JP,A)
【文献】特開平07-070208(JP,A)
【文献】特開2014-008428(JP,A)
【文献】特開2016-153470(JP,A)
【文献】奥田哲士,熱帯植物Moringa oleifera の種に含まれる凝集活性成分の浄水処理への応用のための精製と評価,環境工学研究論文集,2006年,第43巻,p605-610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/52- 1/56
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出物の製造方法であって、
乾燥植物を粉砕し、酢酸エチルを用いて抽出する工程、
抽出残渣をさらに蒸留水を用いて抽出して、上澄を得る工程、
前記上澄を透析によって分画分子量12,000以上の成分(分画成分1)、及び分画分子量12,000未満の成分を分離する工程、を含み、
前記乾燥植物が、長朔黄麻、又はモロヘイヤであることを特徴とする、抽出物の製造方法。
【請求項2】
抽出物の製造方法であって、
乾燥植物を粉砕し、酢酸エチルを用いて抽出する工程、
抽出残渣をさらに蒸留水を用いて抽出して、上澄を得る工程、
前記上澄を透析によって分画分子量12,000以上の成分(分画成分1)、及び分画分子量12,000未満の成分を分離する工程、
前記分画分子量12,000未満の成分をさらに透析によって分画分子量6,000未満の成分を得る工程、及び、
前記分画分子量6,000未満の成分をさらに透析によって分画分子量3,400未満の成分(分画成分2)を分離する工程、を含
前記乾燥植物が、長朔黄麻、又はモロヘイヤであることを特徴とする抽出物の製造方法。
【請求項3】
長朔黄麻、又はモロヘイヤの抽出物であって、
前記抽出物が、請求項1に記載の抽出物の製造方法で分離された分画成分1、及び請求項2に記載の抽出物の製造方法で分離された分画成分2の少なくともいずれかであることを特徴とする抽出物。
【請求項4】
前記抽出物が前記分画成分2である場合、前記分画成分2が、水溶性のキトサン類である、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
請求項3から4のいずれかに記載の抽出物を含有することを特徴とする水浄化剤。
【請求項6】
高分子凝集剤を含有する、請求項5に記載の水浄化剤。
【請求項7】
前記高分子凝集剤がポリアクリルアミドである、請求項6に記載の水浄化剤。
【請求項8】
請求項6から7のいずれかに記載の水浄化剤を、排水に供することにより、排水中の無機系不溶物を除去することを特徴とする排水処理方法。
【請求項9】
前記排水が、ニッケル、フッ素、鉄、銅、亜鉛、クロム、ヒ素、カドミウム、錫、及び鉛の少なくともいずれかを有する無機系不溶物を含有する排水である、請求項8に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業排水などの水の浄化に使用する、植物粉末の抽出物、該抽出物を含有する水浄化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場に於いて種々の製品を製造する過程において、無機イオンとして金属イオンやフッ素イオン等の環境負荷物質を含む廃液が大量に発生している。
一方、これらの無機イオンの排出に関する規制は徐々に厳しくなっている。この排出規制を遵守するために、無機イオンを含む排水から無機イオンを効果的に除去することができ、しかもできるだけ簡易に、低コストで実施できる無機イオンの除去方法が求められている。
従来、工場排水などから不純物イオンを除去する方法としては、凝集沈殿法、イオン交換法、活性炭などの吸着剤への吸着法、電気的吸着法、および磁気吸着法などが提案されている。
【0003】
例えば、凝集沈殿法として、重金属イオンが溶解した排水に塩基を加え、排水を塩基性にして、重金属イオンの少なくとも一部を不溶化し、懸濁固形物を形成させる工程と、排水に無機凝集剤を加え、懸濁固形物を凝結沈降させる工程と、排水に高分子凝集剤を加え、懸濁固形物を巨大フロック化する工程と、モロヘイヤ、小松菜などの葉菜からなる陽イオン交換体が含有されている吸着層に排水を通水する吸着工程を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、モロヘイヤ、又はこの乾燥物、又はこの抽出物の少なくともいずれかを含有する凝集剤と、高分子凝集剤とを混合或いは併用して懸濁液中の微粒子を凝集分離する凝集方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、植物粉末と高分子凝集剤との混合物を含む造粒物からなる水浄化剤、及び該水浄化剤を使用した水浄化方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかし、従来、植物粉末が、排水の水浄化に使用できることは知られていたが、水浄化に何が起因しているか、その具体的な成分については明らかにされておらず、排水の水浄化に植物粉末を使用するうえで研究の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-194385号公報
【文献】特開平11-114313号公報
【文献】特開2016-73898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水浄化に起因する植物粉末における有効成分を特定し、排水に対し、少量でも効率よく、かつ確実に優れた水浄化性能を発揮できる水浄化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 植物粉末の水抽出物の分画成分1(以下、本発明では成分1ともいう)である抽出物であって、
前記分画成分1が、分画分子量12,000以上の分画成分であり、
前記分画成分1のエタノール未溶解成分が、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)測定において、カルボン酸由来のピークを示し、かつガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)測定において、セルロース由来のピークを示し、
前記分画成分1のエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、カルボン酸由来のピークを示し、かつGC-MS測定において、植物性タンパク質由来のピークを示すことを特徴とする抽出物である。
<2> 前記分画成分1のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、1700(cm-1)付近と1600(cm-1)付近にピークを示すものである、前記<1>に記載の抽出物である。
<3> 前記分画成分1が、重量平均分子量(Mw)30万以上の物質を50%以上含有している、前記<1>から<2>のいずれかに記載の抽出物である。
<4> 前記植物粉末が、長朔黄麻の粉末である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の抽出物である。
<5> 植物粉末の水抽出物の分画成分2(以下、本発明では成分2ともいう)である抽出物であって、
前記分画成分2が、分画分子量3,400未満の分画成分であり、
前記分画成分2のエタノール未溶解成分が、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示し、
前記分画成分2のエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示すことを特徴とする抽出物である。
<6> 前記分画成分2のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、1590(cm-1)~1630(cm-1)の間に主ピークを示すものである、前記<5>に記載の抽出物である。
<7> 前記分画成分2のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、GC-MS測定において、1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオンのピークを示すものである、前記<5>から<6>のいずれかに記載の抽出物である。
<8> 前記分画成分2が、重量平均分子量(Mw)200~2,500の物質を90%以上含有している、前記<5>から<7>のいずれかに記載の抽出物である。
<9> 前記分画成分2が、水溶性のキトサン類である、前記<5>から<8>のいずれかに記載の抽出物である。
<10> 前記植物粉末が、長朔黄麻の粉末である、前記<5>から<9>のいずれかに記載の抽出物である。
<11> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の抽出物を含有することを特徴とする水浄化剤である。
<12> 前記<11>に記載の水浄化剤に、さらに前記<5>から<10>のいずれかに記載の抽出物を含有する水浄化剤である。
<13> 前記<5>から<10>のいずれかに記載の抽出物を含有することを特徴とする水浄化剤である。
<14> 植物粉末を含有する水浄化剤であって、
前記植物粉末を水抽出した場合、分画分子量12,000以上の分画成分1からなる抽出成分を前記植物粉末に対して0.5質量%以上含有し、
前記分画成分1のエタノール未溶解成分が、FT-IR測定において、カルボン酸由来のピークを示し、かつGC-MS測定において、セルロース由来のピークを示し、
前記分画成分1のエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、カルボン酸由来のピークを示し、かつGC-MS測定において、植物性タンパク質由来のピークを示すことを特徴とする水浄化剤である。
<15> 前記分画成分1のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、1700(cm-1)付近と1600(cm-1)付近にピークを示すものである、前記<14>に記載の水浄化剤である。
<16> 前記分画成分1が、重量平均分子量(Mw)30万以上の物質を50%以上含有している、前記<14>から<15>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<17> 前記植物粉末が、長朔黄麻の粉末である、前記<14>から<16>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<18> 植物粉末を含有する水浄化剤であって、
前記植物粉末を水抽出した場合、分画分子量3,400未満の分画成分2からなる抽出成分を前記植物粉末に対して0.05質量%以上含有し、
前記分画成分2のエタノール未溶解成分が、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示し、
前記分画成分2のエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示すことを特徴とする水浄化剤である。
<19> 前記分画成分2のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、FT-IR測定において、1590(cm-1)~1630(cm-1)の間に主ピークを示すものである、前記<18>に記載の水浄化剤である。
<20> 前記分画成分2のエタノール未溶解成分及びエタノール溶解成分が、GC-MS測定において、1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオンのピークを示すものである、前記<18>から<19>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<21> 前記分画成分2が、重量平均分子量(Mw)200~2,500の物質を90%以上含有している、前記<18>から<20>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<22> 前記分画成分2が、水溶性のキトサン類である、前記<18>から<21>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<23> 前記植物粉末が、長朔黄麻の粉末である、前記<18>から<22>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<24> 前記<18>から<23>のいずれかに記載の水浄化剤である、前記<14>から<17>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<25> 高分子凝集剤を含有する、前記<11>から<24>のいずれかに記載の水浄化剤である。
<26> 前記高分子凝集剤がポリアクリルアミドである、前記<25>に記載の水浄化剤である。
<27> 前記<11>から<26>のいずれかに記載の水浄化剤を、排水に供することにより、排水中の無機系不要物を除去することを特徴とする排水処理方法である。
<28> 前記排水が、ニッケル、フッ素、鉄、銅、亜鉛、クロム、ヒ素、カドミウム、錫、及び鉛の少なくともいずれかを有する無機系不要物を含有する排水である、前記<27>に記載の排水処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排水に対し、少量でも効率よく、かつ確実に優れた水浄化性能を発揮できる水浄化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、植物粉末の水抽出物のうち、本発明の対象とする分画成分1(成分1ともいう)及び分画成分2(成分2ともいう)を説明するためのイメージ図である。
図2図2は、成分1及び成分2を抽出する方法を説明するためのイメージ図である。
図3図3は、成分1の水浄化効果の実験結果を示す図である。
図4図4は、成分2の顕微鏡IRにより測定した結果である。
図5図5は、成分2の水浄化効果の実験結果を示す図である。
図6A図6Aは、成分1のエタノール未溶解成分(成分A)をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定した結果である。
図6B図6Bは、成分1のエタノール溶解成分(成分B)をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定した結果である。
図6C図6Cは、成分2のエタノール未溶解成分(成分G)をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定した結果である。
図6D図6Dは、成分2のエタノール溶解成分(成分H)をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定した結果である。
図7A図7Aは、成分1のエタノール未溶解成分(成分A)をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定した結果である。
図7B図7Bは、成分1のエタノール溶解成分(成分B)をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定した結果である。
図7C図7Cは、成分2のエタノール未溶解成分(成分G)をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定した結果である。
図7D図7Dは、成分2のエタノール溶解成分(成分H)をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定した結果である。
図8A図8Aは、成分1をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定した結果である。
図8B図8Bは、成分2をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定した結果である。
図9図9は、本発明で使用し得る「中黄麻3号」の鑑定番号を示す図である。
図10図10は、本発明で使用し得る「中紅麻」の鑑定番号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(植物粉末の抽出物)
本発明者らは、植物粉末の水浄化機能について、鋭意研究を重ねたところ、植物粉末において、水浄化に寄与する有効成分を見出した。
植物粉末の水抽出物のうち、図1で示す分画分子量12,000以上の分画成分1(本発明では、成分1ともいう)、及び分画分子量3,400未満の分画成分2(本発明では成分2ともいう)のそれぞれの抽出成分に、優れた水浄化作用があることが確認できた。
ここで、植物としては、前記成分1及び成分2をそれぞれ有効量含有する植物であれば、特に制限はなく用いることができるが、好ましくは、長朔黄麻(チョウサクコウマ)、モロヘイヤなどを挙げることができる。
特に、長朔黄麻として、中国の長沙市産の長朔黄麻、又は中国農業科学院麻類研究所による鑑定番号が国鑑麻2013の「中黄麻4号」、鑑定番号が皖品▲鑑▼登字第1209006の「中黄麻3号」、鑑定番号がXPD005-2005の「中黄麻1号」、若しくは鑑定番号が皖品▲鑑▼登字第1209001の「中紅麻」などが好ましく使用できる。
中でも、前記「中黄麻4号」、前記「中黄麻3号」、及び前記「中紅麻」がより好ましく、前記「中黄麻4号」が特に好ましい。
尚、前記「中黄麻3号」の鑑定番号を図9に示す。前記「中紅麻」の鑑定番号を図10に示す。
【0011】
前記「中黄麻4号」は、以下の特性を有する。
農産物種類:黄麻
【0012】
<分画成分1からなる抽出物>
<<分画成分1の抽出方法>>
分画成分1は、図2で示す方法に従って抽出することができる。具体的には、乾燥植物を粉砕後、酢酸エチルによって抽出後の残渣をさらに蒸留水によって抽出して、上澄みを得、その上澄から透析操作によって、分画分子量12,000以上の成分を分離することにより得る。
【0013】
<<分画成分1の分析結果>>
<<<成分Aの分析結果>>
分画成分1のエタノール未溶解成分(図1中、成分Aで示す)をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により測定した。測定結果を図6Aに示す。係るFT-IR測定は、FTS-7000e/UMA600、VARIAN、顕微ダイヤモンドセルによって、測定した。尚、後述する成分B、成分G、成分HのFT-IR測定も同様の条件で測定した。
図6Aで示されるように、成分Aは、FT-IR測定において、カルボン酸由来のピークを示す。つまり、1700(cm-1)付近(ケトン伸縮)と1600(cm-1)付近(アミド伸縮)にピークを示している。
また、前記成分Aをガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定した。測定結果を図7Aに示す。係るGC-MS測定は、JMS-600H、JEOL製によってIonization mode:EI+にて測定した。尚、後述する成分B、成分G、成分HのGC-MS測定も同様の条件で測定した。
図7Aで示されるように、成分Aは、GC-MS測定において、セルロース由来のピークを示す。
なお、図7Aにおけるピーク(A1)~(A20)はそれぞれ以下のように帰属されると推定される。
(A1):CO
(A2):アセトアルデヒド
(A3)○:エタノール
(A4)○:アセチルホルムアルデヒド
(A5)○:ジアセチル
(A6)○:酢酸
(A7)○:アセトール
(A8)△:トルエン
(A9)○:アセチルオキシ酢酸
(A10)○:3-フルアルデヒド
(A11)○:ピルビン酸メチルエステル
(A12)○:フルフラール(2-フルアルデヒド)
(A13)○:下記化合物
【化1】
(A14)○:下記化合物
【化2】
(A15)○:下記化合物
【化3】
(A16)△:フェノール
(A17)△:4-ピリジノール
(A18)△:クレゾール
(A19)△:インドール
(A20):アセチルクエン酸トリブチル
上記符号に付された「○」は、セルロース由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「△」は、グルテン(植物タンパク質)由来のフラグメントのピークであることを表す。
【0014】
<<<成分Bの分析結果>>
分画成分1のエタノール溶解成分(図1中、成分Bで示す)をFT-IRにより測定した。測定結果を図6Bに示す。
図6Bで示されるように、成分Bは、FT-IR測定において、カルボン酸由来のピークを示す。つまり、1700(cm-1)付近(ケトン伸縮)と1600(cm-1)付近(アミド伸縮)にピークを示している。
また、前記成分BをGC-MSにより測定した。測定結果を図7Bに示す。
図7Bで示されるように、成分Bは、GC-MS測定において、植物性タンパク質由来のピークを示す。
なお、図7Bにおけるピーク(B1)~(B16)はそれぞれ以下のように帰属されると推定される。
(B1):CO
(B2):アセトアルデヒド
(B3)○:ジアセチル
(B4)□:酢酸
(B5)○:下記化合物
【化4】
(B6)□:無水酢酸
(B7)○:ピルビン酸メチルエステル
(B8)○:フルフラール(2-フルアルデヒド)
(B9)○:下記化合物
【化5】
(B10)○:下記化合物
【化6】
(B11)△:フェノール
(B12)△:クレゾール
(B13)○:下記化合物
【化7】
(B14)△:インドール
(B15):ハイドロキノン
(B16):オレイン酸アミド
上記符号に付された「○」は、セルロース由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「□」は、酢酸セルロース由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「△」は、グルテン(植物タンパク質)由来のフラグメントのピークであることを表す。
【0015】
上記成分A及び成分BのFT-IR測定及びGC-MS測定の結果より、成分1は、ウロン酸やガラクツロン酸類似構造のカルボン酸からなると考えられる。これにより、成分1は、無機イオンを吸着し、水浄化に優れた効果を発揮するものと思われる。
また、前記成分1をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定した。測定結果を図8Aに示す。係るGPC測定は、GPC SYSTEM21、Shodexによって、TSKgel GMPWを用いて測定した。尚、後述する成分2のGPC測定も同様の条件で測定した。
図8Aの結果から、成分1は、重量平均分子量(Mw)30万以上の物質を50(面積)%以上含有することがわかる。
【0016】
<<分画成分1の水浄化作用>>
成分1の抽出物を使用して、水の浄化作用を実験した。図3に結果を示す。
図3中、(i)は、成分1の抽出物を直接、Niを含有する水に添加した時のNiイオン濃度の変化を示す。一方、図3中、(ii)は、水浄化剤として、市販されている高分子凝集剤(ポリアクリルアミド:PAM)を、Niを含有する水に添加した時のNiイオン濃度の変化を示す。
図3の結果から、成分1は、PAMに比べ、少ない量で、水質を向上(Niイオン濃度が低下)できることが確認できた。
【0017】
<分画成分2からなる抽出物>
<<分画成分2の抽出方法>>
分画成分2は、図2で示す方法に従って抽出することができる。具体的には、上記透析操作によって得られた、分画分子量12,000未満の成分をさらに透析して得た分画分子量6,000未満の成分をさらに透析して得た分画分子量3,400未満の成分を分離することにより得る。
【0018】
<<分画成分2の分析結果>>
<<<成分Gの分析結果>>
分画成分2のエタノール未溶解成分(図1中、成分Gで示す)をFT-IRにより測定した。測定結果を図6Cに示す。
図6Cで示されるように、成分Gは、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示す。つまり、1590(cm-1)~1630(cm-1)の間に(アミド伸縮)主ピークを示している。
また、前記成分GをGC-MSにより測定した。測定結果を図7Cに示す。
図7Cで示されるように、成分Gは、GC-MS測定において、1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオンのピークを示す。
なお、図7Cにおけるピーク(C1)~(C13)はそれぞれ以下のように帰属されると推定される。
(C1):CO
(C2):アセトン
(C3):アセトール
(C4)△:トルエン
(C5)×:ピロール
(C6):シクロペンタノン
(C7):下記化合物
【化8】
(C8)△:クレゾール
(C9)×:2-ピロリジノン
(C10)×:インドール
(C11):ハイドロキノン
(C12):アセチルクエン酸トリブチル
(C13)×:1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオン
上記符号に付された「×」は、キチン・キトサン等の多糖類由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「△」は、グルテン(植物タンパク質)由来のフラグメントのピークであることを表す。
【0019】
<<<成分Hの分析結果>>
分画成分2のエタノール溶解成分(図1中、成分Hで示す)をFT-IRにより測定した。測定結果を図6Dに示す。
図6Dで示されるように、成分Hは、FT-IR測定において、アミド基由来のピークを示す。つまり、1590(cm-1)~1630(cm-1)の間に(アミド伸縮)主ピークを示している。
また、前記成分HをGC-MSにより測定した。測定結果を図7Dに示す。
図7Dで示されるように、成分Hは、GC-MS測定において、1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオンのピークを示す。
なお、図7Cにおけるピーク(D1)~(D17)はそれぞれ以下のように帰属されると推定される。
(D1):CO
(D2):メチルエチルケトン
(D3):酢酸
(D4)○:アセトール
(D5)△:トルエン
(D6)×:ピロール
(D7):スチレン
(D8)×:2-メチルー1H-ピロール
(D9)×:下記化合物
【化9】
(D10)△:フェノール
(D11):p-メトキシトルエン
(D12)△:クレゾール
(D13):p-エチルフェノール
(D14)×:インドール
(D15):ハイドロキノン
(D16):アセチルクエン酸トリブチル
(D17)×:1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,7-ジオン
上記符号に付された「○」は、セルロース由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「×」は、キチン・キトサン等の多糖類由来のフラグメントのピークであることを表す。
上記符号に付された「△」は、グルテン(植物タンパク質)由来のフラグメントのピークであることを表す。
【0020】
前記成分2の抽出物とキトサンとを比較した顕微赤外分光法(顕微IR)の測定結果を図4に示す。
上記成分G及び成分HのFT-IR測定及びGC-MS測定の結果、並びに上記図4の結果より、成分2は、水溶性のキトサン類であると考えられる。通常、甲殻類等から抽出されるキトサン(キチン)類は、非水溶性であるが、無機イオンの吸着には水溶性キトサンが効果を及ぼすと考えられる。
尚、本発明において、水溶性とは、水に50質量%以上溶けるものをいう。
また、前記成分2をGPCにより測定した。測定結果を図8Bに示す。
図8Bの結果から、成分2は、重量平均分子量(Mw)200~2,500の物質を90(面積)%以上含有することがわかる。
【0021】
<<分画成分2の水浄化作用>>
成分2の抽出物を使用して、水の浄化作用を実験した。図5に結果を示す。
図5中、(i)は、成分2の抽出物を直接、Niを含有する水に添加した時のNiイオン濃度の変化を示す。一方、図5中、(ii)は、凝結剤として、市販されているゼータエースを、(iii)は、キトサンを、Niを含有する水に添加した時のNiイオン濃度の変化を示す。
図5の結果から、ゼータエースは、添加するほどフロック成長が抑制され水質レベルが低下したのに対し、成分2は、添加量にかかわらず水質が向上(Niイオン濃度が低下)した。成分2には、ゼータエースが示す凝結効果だけでは説明のつかない、ゼータ電位とは異なるメカニズムにより水浄化効果が発揮されていると考えられる。
また、図5で示されているように、成分2は、キトサンを排水に添加した場合の結果と近似しており、この結果からも成分2は、キトサン類であると考えられる。
【0022】
(水浄化剤)
本発明の水浄化剤は、植物粉末を含有する。
本発明の水浄化剤の第1の態様として、植物粉末が、上記(植物粉末の抽出物)である前記成分1及び/又は前記成分2を含有するものであるとよい。
少量の添加量でも、効率よく効果的に水浄化作用を示すことができるからである。
また、本発明の水浄化剤の第2の態様として、前記成分1及び/又は前記成分2の抽出成分を所定の有効量含む植物粉末を含有するものであるとよい。
【0023】
<第1の態様>
本発明の水浄化剤は、上記製造方法により抽出された前記成分1及び/又は前記成分2を含有する。
特に、本発明の水浄化剤は、上記製造方法により抽出された前記成分1と前記成分2とを両方含有することが好ましい。図3及び図5で示されるように、前記成分1と前記成分2は、ともに水浄化機能を有するもののそのメカニズムには違いがあると推察されるため、両成分を含有させることにより、水浄化機能を複数のアプローチから発現させることができる。よって、前記成分1と前記成分2をともに含有する水浄化剤がより好ましい。
【0024】
<第2の態様>
本発明の水浄化剤は、前記成分1及び/又は前記成分2の抽出成分を含む植物粉末を含有する。
ここで、前記成分1は、実施例で示すように、前記植物粉末に対して0.5質量%以上含有する。より好ましくは、0.7質量%、さらに好ましくは0.9質量%含有する。
また、前記成分2は、前記植物粉末に対して0.05質量%以上含有する。より好ましくは、0.07質量%含有する。
【0025】
図2で示されるフローチャートに従い、葉・茎・根の全てを含有する長朔黄麻の乾燥物に対し、前記成分1及び前記成分2の抽出を行った。各抽出成分の収率は、1実験例の結果として、下記表1で示される結果が得られた。ここで、表1中の符号(1)~(5)は、図2中の符号(1)~(5)に対応している。つまり、植物粉末の原材料を100質量部としたとき、成分1は0.9質量部抽出され、成分2は0.07質量部抽出された(表1中の(2)及び(5)の結果参照)。
次に、葉のみ含有する長朔黄麻の乾燥物に対し、前記成分1及び前記成分2の抽出を行ったときの各抽出成分の収率の結果も以下に示す(下記表2)。
下記表1及び下記表2からわかるように、前記成分1及び前記成分2の収率は、原材料である植物粉末により変わってくる。そこで、植物の葉・茎・根の割合を変えることにより、前記成分1及び前記成分2の含有量がそれぞれ所望の範囲に入るように適宜調整するとよい。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
<その他の添加剤>
前記水浄化剤には、前記植物の粉末以外にその他の添加剤として、例えば、高分子凝集剤、フィラー、増粘剤、着色剤、チキソ性付与剤等の添加物を含有させてもよい。
【0029】
<<高分子凝集剤>>
前記高分子凝集剤としては、上記植物の粉末と同様と同様、排水中の前記無機系不要物を除去する効果を示すものであれば、特に制限はなく、例えば、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリアクリルアミドの部分加水分解塩、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、CMCナトリウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、ポリアクリルアミドが好ましく使用できる。該ポリアクリルアミドとしては、例えば、市販されているFlopan AN 956、Flopan AN 995SH、FA 920SH、FO 4490、AN 923(株式会社エス・エヌ・エフ製)などを用いることができる。
【0030】
高分子凝集剤等の他の添加剤も含有する前記水浄化剤において、前記成分1の占める割合は、水浄化剤全量に対し、0.5質量%以上であるとよい。
また、前記成分2の占める割合は、水浄化剤全量に対し、0.05質量%以上であるとよい。
【0031】
(排水処理方法)
本発明の排水処理方法は、上述した本発明の水浄化剤を排水に供することにより排水中の無機系不要物を除去するものである。
前記無機系不要物としては、例えば、ニッケル、フッ素、鉄、銅、亜鉛、クロム、ヒ素、カドミウム、及び鉛の少なくともいずれかを有する無機系不要物が挙げられる。
【0032】
本発明の排水処理方法について具体的に説明する。
例えば、排水に塩基を加え、排水を塩基性にして、前記重金属イオンの少なくとも一部を不溶化し、懸濁固形物を形成させる不溶化工程の後に本発明の水浄化剤を添加することができる。
前記水浄化剤を排水に供することにより、無機系不要物を凝集沈降させ、沈降分離された沈殿物を取り除くことにより、排水は浄化される。
【実施例
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
植物として、長朔黄麻の中国農業科学院麻類研究所による鑑定番号2013、「中黄麻4号」を使用した。
中黄麻4号の葉・茎・根の全てを含有する植物(該植物において葉の占める割合を8質量%とした)の乾燥物(成分1を0.56質量%含有)を用いた。
中黄麻4号は、乾燥して粉砕した後、250μm以下のものを使用するよう、ふるいによる分別を行なったものを使用した。
尚、本実施例で使用した中黄麻4号の乾燥物中に、成分1が0.56質量%含有されていることは、以下の抽出操作を行うことにより、確認した。
つまり、中黄麻4号の乾燥物に対して酢酸エチルを加え10質量%溶液とし、室温(23℃)で8時間静置し、濾紙による濾過を行なった。残渣は酢酸エチルで洗浄した。その後、さらに蒸留水によって抽出して、上澄みを得、その上澄から透析操作によって、分画分子量12,000以上の成分を分離して成分1を得た。そこで、原料である中黄麻4号の乾燥物に対する成分1の割合を求めた。
【0035】
ニッケルを含有する排水に対し、1次凝集剤として、FeClを250ppm添加し、次に上記成分1を0.56質量%含有する長朔黄麻の乾燥物を含有する水浄化剤を添加した。
初期のNiイオン濃度は、60ppmであった。
下記表3に、本発明の水浄化剤を添加した時のニッケルイオン濃度の結果を示した。表3で示すように、ニッケルイオン濃度の低下が確認できた。ニッケルイオン濃度が8ppm以下であれば、実用上問題ないと判断できる。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物として、葉の占める割合を10質量%とした乾燥物(成分1を0.7質量%含有)に変えた他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、実施例2は、ニッケルイオン濃度の低下が確認できた。
【0037】
(実施例3)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物として、葉の占める割合を100質量%とした乾燥物(成分1を7.0質量%含有)に変えた他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、実施例3は、ニッケルイオン濃度の低下が確認できた。
【0038】
(比較例1)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物として、茎・根を主に含有する、葉を含有しない乾燥物(成分1を0.1質量%含有)に変えた他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、比較例1では、ニッケルイオンの濃度の低下は少なかった。
【0039】
(比較例2)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物として、葉の占める割合を3質量%とした乾燥物(成分1を0.21質量%含有)に変えた他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、比較例2では、十分なニッケルイオンの濃度の低下は得られなかった。
【0040】
(比較例3)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物として、葉の占める割合を5質量%とした乾燥物(成分1を0.35質量%含有)に変えた他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、比較例3では、十分なニッケルイオンの濃度の低下は得られなかった。
【0041】
(実施例4)
実施例1において、中黄麻4号の乾燥物に変えて、中黄麻4号の乾燥物の成分1の抽出物を用い、係る抽出物を50ppm、直接添加した他は、実施例1と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、実施例4は、ニッケルイオン濃度の低下が確認できた。
【0042】
(実施例5)
実施例4において、中黄麻4号の乾燥物の成分1の抽出物の添加量を5ppmに変えて添加した他は、実施例4と同様にして実験を行なった。下記表3で示すように、このように少ない添加量であっても、実施例4と同様の優れたニッケルイオン濃度の低下が確認できた。
【0043】
(実施例6)
実施例1において、植物の種類として、中黄麻4号に変えて、長朔黄麻の中国農業科学院麻類研究所による鑑定番号、皖品▲鑑▼登字第1209006、「中黄麻3号」を使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。
実施例1の方がニッケルイオンの濃度低下効果は優れていたが、実施例6もほぼ実施例1と同様、良好なニッケルイオンの濃度低下効果を示した。
【0044】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9
図10