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特許7131920蓄電池管理装置、蓄電池管理方法および蓄電池管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】蓄電池管理装置、蓄電池管理方法および蓄電池管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20220830BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20220830BHJP
   H02J 3/14 20060101ALI20220830BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20220830BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220830BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
H02J3/00 180
G06Q50/06
H02J3/14 130
H02J3/32
H02J7/00 B
H02J13/00 311R
H02J13/00 311T
H02J13/00 311U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018012973
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019134522
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-03-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 龍朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 功太朗
【合議体】
【審判長】土居 仁士
【審判官】丸山 高政
【審判官】寺谷 大亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-186290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J
G06Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測部と、
所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成部と、
を備える蓄電池管理装置。
【請求項2】
前記作成部は、さらに、前記第1の制約条件と前記第2の制約条件の両方を満たす前記充電量および前記放電量が複数存在する場合に、他の前記充電量および前記放電量を規定した場合よりも複数の前記需要家の従量電気料金の合計値が小さくなるように前記充電量および前記放電量を規定した前記第1の充放電計画を作成する、
請求項1に記載の蓄電池管理装置。
【請求項3】
前記第1の充放電計画に従って、前記蓄電池の充放電を制御する制御部をさらに備える、
請求項1または2に記載の蓄電池管理装置。
【請求項4】
前記作成部は、前記デマンドレスポンスによる削減の要請の有無に関わらず、前記第1の充放電計画と、前記所定の時間帯より前の時刻における前記第1の充放電計画の蓄電残量、充電電力量および放電電力量に基づく前記所定の時間帯に前記受電電力量の削減を行わない第2の充放電計画との両方を、前記第1の充放電計画および前記第2の充放電計画の対象となる日の前に予め作成し、
前記第2の充放電計画は、前記所定の時間帯より前の時刻においては、前記第1の充放電計画と等しい、
請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電池管理装置。
【請求項5】
前記作成部は、さらに、前記蓄電池の蓄電残量が閾値以上となるように前記蓄電池の前記時間単位ごとの前記充電量および前記放電量を規定する前記第1の充放電計画を作成し、
前記閾値は、前記蓄電池のBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)容量である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電池管理装置。
【請求項6】
複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測ステップと、
所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成ステップと、
を含む蓄電池管理方法。
【請求項7】
複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する予測ステップと、
所定の時間帯の複数の前記需要家の受電電力量の合計値を予測された前記需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された前記需要家ごとの前記需要電力量に基づいて前記需要家ごとの前記時間単位ごとの前記受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、前記需要家のそれぞれが有する蓄電池の前記時間単位ごとの充電量および放電量を規定する、第1の充放電計画を作成する作成ステップと、
をコンピュータに実行させる蓄電池管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電池管理装置、蓄電池管理方法および蓄電池管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力の供給状況に応じて、需要家の受電電力量を変化させるデマンドレスポンス(DR、Demand Response)や、これを活用した取り組みである、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)への注目が高まっている。このようなデマンドレスポンスを実現するために、需要家側に設置された蓄電池を制御する技術が知られている。
【0003】
また、需要家の受電電力のピークカットを目的として需要家側に設置された蓄電池を制御する技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-220384号公報
【文献】国際公開第2016/084347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術においては、複数の需要家の合計の需要電力量を、決められた時間帯に決められた量削減するデマンドレスポンスと、各需要家ごとの受電電力量のピークカットをすることの両方を行うことは困難な場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の蓄電池管理装置は、予測部と、作成部とを備える。予測部は、複数の需要家それぞれの時間単位ごとの需要電力量を予測する。作成部は、所定の時間帯の複数の需要家の受電電力量の合計値を予測された需要電力量の合計値よりもデマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量である第1の電力量以上削減するという第1の制約条件と、予測された需要家ごとの需要電力量に基づいて需要家ごとの時間単位ごとの受電電力量が予め定められたピークカットの目標値である第2の電力量以下になるという第2の制約条件の両方を必須条件として満たし、需要家のそれぞれが有する蓄電池の時間単位ごとの充電量および放電量を規定する第1の充放電計画を作成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態にかかる電力需給システムの概要を示す図である。
図2図2は、実施形態にかかる蓄電池管理装置が有する機能の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態にかかる各需要家の契約内容データの一例である。
図4図4は、実施形態にかかる各需要家の蓄電池性能データの一例である。
図5図5は、実施形態にかかる各需要家の過去の受電電力量の実績の一例である。
図6図6は、実施形態にかかる蓄電池管理処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、実施形態にかかる第1の充放電計画の一例を示すグラフである。
図8図8は、実施形態にかかる第1の充放電計画から、1つの需要家に関するデータを抽出したグラフである。
図9図9は、実施形態にかかる第2の充放電計画の一例を示すグラフである。
図10図10は、実施形態にかかる第2の充放電計画から、1つの需要家に関するデータを抽出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、実施形態にかかる電力需給システムの概要を示す図である。図1に示す系統運用者6は、電力会社や送配電事業者等であり、電力系統5を運用して、発電機8を制御することにより、複数の需要家3および需要家7へ電力を供給する。
【0009】
需要家3および需要家7は、電力の供給を受け、当該電力を利用する主体である。本実施形態においては、需要家3は、事務所や商業施設が入居するビル等とする。また、需要家7は、工場やビル、住宅等とする。また、ビル等を運用する事業者を、需要家3としても良い。また、各需要家3は、蓄電池4を有している。
【0010】
DRアグリゲータ2は、系統運用者6からの受電電力量の削減要請(DR要請)に基づいて、複数の需要家3の受電電力量を削減してデマンドレスポンスを行う事業者である。本実施形態のDRアグリゲータ2は、系統運用者6からの削減要請に基づいて、各需要家3の蓄電池4を制御することによって、所定の時間帯の各需要家3の受電電力量の合計を、各需要家3のベースライン電力の合計から、予め決められた量だけ削減する。
【0011】
本実施形態では、デマンドレスポンスにおいて予め決められた削減量を、DR量という。また、本実施形態のベースライン電力は、各需要家3の予想される需要電力量である。ベースライン電力は、デマンドレスポンスによって受電電力の削減が行われていない場合における各需要家3の受電電力量でもある。また、DRアグリゲータ2がデマンドレスポンスによって受電電力量の削減を行う所定の時間帯を、DR時間帯という。DR時間帯は、系統運用者6からDRアグリゲータ2への要請や、事前に結ばれた契約等によって決定する。
【0012】
本実施形態のDRアグリゲータ2は、デマンドレスポンスだけではなく、各需要家3ごとの受電電力量のピークカットをする。具体的には、DRアグリゲータ2は、各需要家3の蓄電池4を制御することによって、各需要家3ごとの受電電力量の最大値を、予め定められたピークカットの目標値以下にする。
【0013】
DRアグリゲータ2は、蓄電池管理装置10によって蓄電池4の充電または放電のスケジュール(充放電計画)を作成し、当該充放電計画に従って蓄電池4の充放電を制御する。蓄電池管理装置10は、PC(Personal Computer)等であり、CPUと、メモリと、HDDと、通信インタフェース(I/F)と、ディスプレイ等の表示装置と、キーボードやマウス等の入力装置とを備える通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0014】
図2は、本実施形態にかかる蓄電池管理装置10が有する機能の一例を示す図である。図2に示すように、蓄電池管理装置10は、入力部11と、記憶部12と、取得部13と、表示制御部14と、予測部17と、作成部18と、制御部16とを備える。
【0015】
記憶部12は、入力部11から入力された需要家3の契約内容や蓄電池4に関するデータや、取得部13が取得したデータ、予測部17および作成部18でデータ処理を行うための計算条件、予測部17および作成部18の演算結果等を記憶する。記憶部12は、例えばHDDや、メモリである。
【0016】
図3は、本実施形態にかかる各需要家3の契約内容データの一例である。契約内容データは、各需要家3の契約に関するデータであり、より詳細には、需要家名と、各需要家3の契約電力と、各需要家3のピークカット電力とが対応付けられたデータである。ピークカット電力は、需要家3が受電電力の最大値の目標値として電力会社と契約した値である。ピークカット電力を30分ごとの電力量に変換すると、ピークカットの目標値(目標電力量)となる。各需要家3は、一定期間以上、受電電力をピークカット電力以下に保つことができた場合に、契約電力を引き下げることが可能となり、基本料金を低くすることができる。
【0017】
また、図4は、本実施形態にかかる各需要家3の蓄電池性能データの一例である。蓄電池性能データは、各需要家3の蓄電池4に関するデータであり、より詳細には、蓄電池4を特定可能な蓄電池名と、当該蓄電池4を有する需要家名と、各蓄電池4の容量、充放電レートと、充放電効率とが対応付けられたデータである。
【0018】
入力部11は、入力装置を介してデータの入力を受け、記憶部12に保存する。入力部11が受けるデータは、後述の最適化モデルにおけるパラメータ等である。
【0019】
取得部13は、需要家3に設置された電力量計21から、需要家3の受電電力量の計測値を取得する。図5は、本実施形態にかかる各需要家3の過去の受電電力量の実績の一例である。取得部13は、日付と、時刻と、需要家3毎に、30分間隔の時間単位ごとの受電電力量を電力量計21から取得し、これらのデータを対応付けて、受電電力量の実績データとして記憶部12に保存する。
【0020】
表示制御部14は、予測部17および作成部18の演算結果等を表示装置に表示する。
【0021】
予測部17は、各需要家3の時間単位ごとの需要電力量を予測する。より詳細には、予測部17は、記憶部12に保存された受電電力量の実績データや、曜日等のカレンダー情報に基づいて、デマンドレスポンスによって受電電力の削減が行われない場合の、翌日の時間単位ごとの各需要家3の需要電力量を予測する。予測部17の予測した結果が、時間単位ごとの各需要家3のベースライン電力となる。
【0022】
作成部18は、DR時間帯の複数の需要家3の受電電力量の合計値を予測された需要電力量(ベースライン電力)の合計値よりもDR量以上削減するとともに、予測された需要家3ごとの需要電力量に基づいて需要家3ごとの時間単位ごとの受電電力量がピークカットの目標値以下となるように、蓄電池4の時間単位ごとの充電量および放電量を規定する第1の充放電計画を作成する。第1の充放電計画は、デマンドレスポンスを行う場合における蓄電池4の充放電計画である。DR量は、本実施形態における第1の電力量の一例である。ピークカットの目標値は、本実施形態における第2の電力量の一例である。
【0023】
また、作成部18は、デマンドレスポンスを行わない場合における翌日の蓄電池4の時間単位ごとの充電量および放電量を規定する充放電計画を、第2の充放電計画として作成する。本実施形態においては、系統運用者6は、DRアグリゲータ2に対して、デマンドレスポンスによる受電電力削減の要否を当日に連絡するものとする。このため、DRアグリゲータ2は、予め翌日の第1、第2の充放電計画の両方を作成することによって、デマンドレスポンスを行う場合と行わない場合いずれにも対応可能な準備をする。
【0024】
制御部16は、作成部18によって作成された第1の充放電計画または第2の充放電計画に従って、各蓄電池4の充放電を制御する。より詳細には、制御部16は、第1の充放電計画または第2の充放電計画を、時間単位ごとの充電または放電の電力値を示す指令信号に変換して、各蓄電池4に送信する。蓄電池4は、制御部16から充電を指示する指令信号を受信した場合は、時間単位ごとに指定された量だけ、電力系統5から電力を取得して充電をする。また、蓄電池4は、放電を指示する指令信号を受信した場合は、時間単位ごとに指定された量だけ、放電をして屋内配電線22を介して負荷23に電力を供給する。負荷23は、照明や空調等の電力を消費する機器である。
【0025】
次に、以上のように構成された本実施形態の蓄電池管理装置10が実行する処理の流れについて説明する。図6は、本実施形態にかかる蓄電池管理処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0026】
まず、予測部17は、記憶部12から受電電力量の実績データや、曜日等のカレンダー情報を読み出し、これらの情報に基づいて、デマンドレスポンスによって受電電力の削減が行われない場合の、翌日の時間単位ごとの各需要家3の需要電力量(ベースライン電力)を予測する(S1)。
【0027】
次に、作成部18は、予測部17によって予測された需要電力量と、需要家3それぞれの蓄電池4に関する情報とに基づいて、翌日の第1の充放電計画を作成する(S2)。より詳細には、作成部18は、式(2)~(9)に示される制約条件下で、式(1)の目的関数を最小化する最適化モデル(最適化問題)の最適解を算出することによって、各需要家3の蓄電池4の時間単位ごとの充放電量を求める。式(1)~(9)の最適化問題は、線形計画問題と呼ばれる問題である。作成部18は、例えば、単体法や内点法等の手法によって(1)の目的関数を最小化する最適解を算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)は、計画対象の時間Tにおける全需要家3の従量電気料金の合計値を示す。ここでは、Tは、この処理が実行される日の翌日の24時間とする。tは30分間隔の時間単位を示す。式(1)~(9)の説明では、時間単位を時刻tという。また、dは需要家3を示す。Dは、DRアグリゲータ2が管理する全需要家3を示す。
【0030】
作成部18は、式(2)~(9)を満たした上で、全需要家3の従量電気料金の合計値がより少なくなる変数P(d,t)、S(d,t)、Qchg(d,t)、Qdis(d,t)の値を求める。
【0031】
(d,t)は、需要家3ごとの時刻tにおける受電電力量(kWh)である。S(d,t)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとの時刻tにおける蓄電残量(kWh)である。
【0032】
また、Qchg(d,t)は、需要家3ごとの蓄電池4の時刻tにおける充電電力量(kWh)である。Qdis(d,t)は、需要家3ごとの蓄電池4の時刻tにおける放電電力量(kWh)である。この最適化モデルによって作成部18が算出するQchg(d,t)とQdis(d,t)の値が、第1の充放電計画となる。本実施形態では、式(1)の値が最小化する解が最適解であるため、作成部18は、式(2)~(9)の制約条件を満たすQchg(d,t)とQdis(d,t)の値が複数存在する場合、式(1)の値が他のQchg(d,t)とQdis(d,t)よりも小さくなるQchg(d,t)とQdis(d,t)の値を、第1の充放電計画とする。
【0033】
作成部18は、記憶部12に保存されたデータから入力パラメータΔt、P(d,t)、Ppc(d)、c(d,t)、nchg(d)、ndis(d)、W(d)、C(d)、DR、SBCP(d)は、式(1)~(9)への入力値を取得し、各入力パラメータに入力した上で、式(1)~(9)の最適化モデルの最適解を求める。
【0034】
Δtは、時間ステップ(time step)であり、各式の時間単位を示す。本実施形態の時間ステップは、30分刻みである。P(d,t)は、需要家3ごとの時刻tにおける電力需要の予測値(ベースライン電力)(kWh)である。Ppc(d)は、図3に示された需要家3ごとのピークカット電力(kW)である。c(d,t)は、需要家3ごとの時刻tにおける買電単価(円/kWh)である。nchg(d)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとの充電効率である。ndis(d)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとの放電効率である。W(d)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとの定格容量(kWh)である。C(d)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとの充放電レート(C)である。DRは、DR量、つまり、系統運用者6とDRアグリゲータ2との間の契約で予め決められた全需要家3の受電電力量の削減量(kWh)を示す。SBCP(d)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとのBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)容量である。BCP容量は、災害時等に電力系統5からの電力供給が停止した場合においても需要家3が一定期間事業を継続するために、蓄電池4が蓄える電力量である。BCP容量は、本実施形態における閾値の一例である。
【0035】
式(2)は、DRアグリゲータ2がDR時間帯TDRにおいて、全需要家3の受電電力量の合計値が、ベースライン電力からDR量を減算した値以下であるという制約条件である。
【0036】
式(3)は、需要家3ごとの、時刻tごとの需要電力量と、蓄電池4または系統運用者6からの供給電力量が等しくなるという電力の需給バランスを保つという制約条件である。より詳細には、式(3)は、需要家3ごとかつ時刻tごとのベースライン電力に対して蓄電池4の充電電力を加算し、蓄電池4の放電電力を減算した値が、需要家3の受電電力量と等しくなるという制約条件である。
【0037】
式(4)は、逆潮流禁止の制約条件である。需要家3に設置された蓄電池4から放電された電力が電力系統5に流入することを逆潮流という。式(4)は、需要家3ごとの時刻tにおける受電電力量が0以上となること、つまり、蓄電池4から電力系統5への電力の流入が無いことを規定している。
【0038】
式(5)は、需要家3ごとのピークカットの制約条件である。式(5)は、需要家3ごとの時刻tにおける受電電力量が、需要家3ごとのピークカットの目標値以下となるように規定する。
【0039】
式(6)は、蓄電池4におけるエネルギー保存則の制約条件である。より詳細には、式(6)は、時間単位における蓄電池4の蓄電残量の変化量は、充電電力量に充電効率を乗算した値から、放電電力量に放電効率を乗算した値を減算した値となることを規定する。
【0040】
式(7)は、蓄電池4の放電電力量の上限の制約条件である。また、式(8)は、蓄電池4の充電電力量の上限の制約条件である。需要家3に設置された蓄電池4ごとの時刻tにおける放電電力量および充電電力量は、各蓄電池4の定格容量と充放電レートによって規定される。
【0041】
式(9)は、需要家3に設置された蓄電池4ごとのBCPの制約条件である。式(9)は、各蓄電池4の蓄電残量が、BCP容量以上であることを規定する。
【0042】
図7は、本実施形態にかかる第1の充放電計画の一例を示すグラフである。図7の横軸は24時間分の時刻t、縦軸は受電電力量または需要電力量(kWh)を示す。図7上部の棒グラフは、需要家3ごとの受電電力量を積み上げた値を示す。また、図7上部の折れ線グラフは、需要家3ごとの需要電力量(ベースライン電力)を積み上げた値を示す。また、図7下部の棒グラフは、需要家3の蓄電池4ごとの充放電量を積み上げた値を示す。図7下部の棒グラフの正の数は放電、負の数は充電を示す。図7下部の折れ線グラフは、需要家3の蓄電池4ごとの蓄電容量を積み上げた値を示す。
【0043】
本実施形態では、DR時間帯90におけるDR量は、全需要家3の合計で8kWh+8kWh=16kWhであるとする。図7に示す第1の充放電計画では、DR時間帯90に、需要家3の蓄電池4が放電することによって、受電電力量がベースライン電力よりもDR量分減少している。また、第1の充放電計画では、各蓄電池4は、DR時間帯90の開始前に、DR時間帯90に放電するための電力を充電する。また、DR時間帯90にDR量分の電力削減を行っても、各蓄電池4の蓄電残量はBCP容量以上であるとする。つまり、第1の充放電計画では、各蓄電池4は、BCP容量を確保した上で、余力分の蓄電残量を用いて、DR時間帯90に、受電電力量をDR量分減少させるための放電をする。
【0044】
また、第1の充放電計画では、各蓄電池4の充放電によって、需要家3全体に対してデマンドレスポンスを行うだけではなく、需要家3ごとの受電電力量のピークカットを行う。図8は、本実施形態にかかる第1の充放電計画から、1つの需要家3に関するデータを抽出したグラフである。図8に示すように、当該需要家3に設置された蓄電池4は、需要電力量がピークカット目標値を超えることが予測される時間帯に放電をすることにより、受電電力量をピークカット目標値以下にする。
【0045】
DR時間帯90は全需要家3に共通して同じ時間帯であるが、各需要家3の需要電力量がピークカット目標値を超えることが予測される時間帯はそれぞれの需要家3によって異なる。このため、DR時間帯90と各需要家3の需要電力量がピークカット目標値を超えることが予測される時間帯とは、一致するとは限らない。作成部18は、需要家3ごとの需要電力量の予測値に基づいて第1の充放電計画を作成するため、各需要家3の需要電力量が増加する時間帯に合わせて各蓄電池4の放電をしてピークカットをする計画を作成することができる。
【0046】
作成部18は、作成した第1の充放電計画を、記憶部12に保存する。
【0047】
次に、作成部18は、予測部17によって予測された需要電力量と、需要家3それぞれの蓄電池4に関する情報と、S2の処理で求めた変数の値とに基づいて、翌日の第2の充放電計画を作成する(S3)。より詳細には、作成部18は、上述の式(3)~(9)に示される制約条件に加えて、式(10)~(12)の制約条件を満たした上で、式(1)の目的関数を最小化する最適化モデルの最適解を算出することによって、各需要家3の蓄電池4の時間単位ごとの充放電量を求める。
【0048】
【数2】
【0049】
作成部18は、式(10)~(12)の入力パラメータS´(d,t)、Q´chg(d,t)、Q´dis(d,t)に、S2の処理で求めた第1の充放電計画の変数S(d,t)、Qchg(d,t)、Qdis(d,t)の値を入力する。式(10)~(12)の条件に記載のtdrは、DR時間帯90の開始時刻である。
【0050】
式(10)~(12)は、DR時間帯90前の時刻においては、第2の充放電計画の各蓄電池4の時刻tごとの蓄電残量と、充電電力量と、放電電力量とは、第1の充放電計画の各蓄電池4の時刻tごとの蓄電残量と、充電電力量と、放電電力量とそれぞれ等しいという制約条件である。
【0051】
本実施形態においては、DRアグリゲータ2がデマンドレスポンスを行うか否かは、当日になるまで不明である。このため、作成部18は、DR時間帯90よりも前の時刻においては、第1の充放電計画と同様にデマンドレスポンスを行うことが可能な量の各蓄電池4の蓄電残量を確保するために、式(10)~(12)の制約条件を満たす第2の充放電計画を作成する。
【0052】
また、作成部18は、翌日の第2の充放電計画を作成するために、翌々日にデマンドレスポンスが発動される可能性がある場合には、予測部17によってさらに翌々日の需要電力量を予測し、2日分の制約条件式(3)~(9)と、式(10)~(12)の下で、式(1)の目的関数を最小化する最適化モデルの最適解を導出することにより、各需要家3の蓄電池4の時間単位ごとの充放電量を求めても良い。
【0053】
図9は、本実施形態にかかる第2の充放電計画の一例を示すグラフである。図9は、翌々日にもデマンドレスポンスが発動されることを想定した第2の充放電計画を示す。第2の充放電計画は、DR時間帯90の開始前までは、図7に示した第1の充放電計画と同様である。このため、各蓄電池4は、DR時間帯90の開始前に、デマンドレスポンスが行われた場合にDR時間帯90の受電電力量をDR量以上削減可能な電力を充電する。第2の充放電計画では、DR時間帯90における需要家3の受電電力の合計値を削減するという制約はない。各蓄電池4は、DR時間帯90の開始前に充電した電力のうち、BCP容量を超える余力分を、DR時間帯90以降にピークカットのために必要な量だけを放電し、再び翌日のデマンドレスポンスに対応するために、充電する。
【0054】
図10は、本実施形態にかかる第2の充放電計画から、1つの需要家3に関するデータを抽出したグラフである。図8に示すように、当該需要家3に設置された蓄電池4は、DR時間帯90までは図10に示した第1の充放電計画と同様に充放電を行う。蓄電池4は、図10の第1の充放電計画では、DR時間帯90の後に充電をしてその後のピークカットのための電力を蓄電していた。これに対して、第2の充放電計画では、蓄電池4は、DR時間帯90の前に充電した電力を、DR時間帯90の後にピークカットをするために放電する電力として用いている。作成部18が予め翌々日のデマンドレスポンスまでを考慮して第2の充放電計画を作成しておくため、蓄電池4は、翌日にデマンドレスポンスを行わない場合であっても、デマンドレスポンスのために蓄電した電力を計画的に効率よく翌々日に使用することができる。
【0055】
作成部18は、作成した第2の充放電計画を、記憶部12に保存する。
【0056】
次に、表示制御部14は、第1の充放電計画および第2の充放電計画を表示装置に表示する(S4)。DRアグリゲータ2の担当者等(ユーザ)は、第1の充放電計画および第2の充放電計画を表示装置上で確認することができる。
【0057】
制御部16は、作成された第1の充放電計画または第2の充放電計画のいずれかに従って、各蓄電池4の充放電を制御することによって、第1の充放電計画または第2の充放電計画を実行する(S5)。制御部16は、第1の充放電計画または第2の充放電計画のいずれを実行するかを、例えば、記憶部12に設定されたフラグや、入力部11から入力されたユーザの指示等によって決定する。ここで、このフローチャートの処理は終了する。
【0058】
従来技術においては、デマンドレスポンスによって受電電力量の削減を行う時間帯(DR時間帯90)と、各需要家3の需要電力量がピークカット目標値を超える時間帯とが一致することが前提とされていた。しかしながら、DRアグリゲータ2が複数の需要家3をまとめてデマンドレスポンスを行う場合は、それぞれの需要家3によって需要電力量が増加する時間帯が異なるため、DR時間帯90と各需要家3の需要電力量がピークカット目標値を超える時間帯とが異なる場合がある。このような場合に、従来技術では、デマンドレスポンスとピークカットの両方を行う充放電計画を作成することができない場合があった。
【0059】
これに対して、本実施形態の蓄電池管理装置10は、複数の需要家3それぞれの需要電力量を時間単位ごとに予測し、DR時間帯90の複数の需要家3の受電電力量の合計値を、予測された需要電力量の合計値よりもDR量以上削減するとともに、需要家3ごとの時間単位ごとの受電電力量がピークカット目標値以下となるように蓄電池4の時間単位ごとの充電量および放電量を規定する第1の充放電計画を作成する。このため、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、DR時間帯90と各需要家3の需要電力量がピークカット目標値を超える時間帯とが異なる場合でも、複数の需要家3の受電電力量の合計値に対するデマンドレスポンスと、各需要家3ごとの受電電力量のピークカットの両方を行うことができる。
【0060】
また、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、蓄電池4を充電または放電することによって、需要家3の消費電力量を削減しなくとも、デマンドレスポンスとピークカットとを行うことができる。
【0061】
さらに、本実施形態の蓄電池管理装置10は、DR時間帯90の複数の需要家3の受電電力量の合計値を予測された需要電力量の合計値よりもDR量以上削減するとともに、需要家3ごとの時間単位ごとの受電電力量がピークカット目標値以下になる充電量および放電量が複数存在する場合に、他の充電量および放電量を規定した場合よりも複数の需要家3の従量電気料金の合計値が小さくなるように充電量および放電量を規定した第1の充放電計画を作成する。このため、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、デマンドレスポンスとピークカットとをした上で、各需要家3の経済的な負担をさらに低減することができる。
【0062】
さらに、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、第1の充放電計画に従って、蓄電池4の充放電を制御するため、デマンドレスポンスとピークカットとを確実に実行することができる。
【0063】
さらに、本実施形態の蓄電池管理装置10は、デマンドレスポンスを行わない第2の充放電計画を作成し、第2の充放電計画は、DR時間帯90より前の時刻においては、第1の充放電計画と等しい。このため、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、デマンドレスポンスを行うか否かが当日まで不明である場合に、DR時間帯90まではデマンドレスポンスに備えて蓄電池4を充電した上で、デマンドレスポンスを行わなかった場合にも、デマンドレスポンスのために蓄電した電力を計画的に効率よく使用することができる。
【0064】
さらに、本実施形態の蓄電池管理装置10によれば、各蓄電池4の蓄電残量がBCP容量以上となるように蓄電池4の時間単位ごとの充電量および放電量を規定する第1の充放電計画を作成するため、デマンドレスポンスおよびピークカットのために放電した際にも、各需要家3の事業継続のために必要な蓄電残量を蓄電池4に保持することができる。例えば、需要家3がBCPを目的として既に蓄電池4を設置している場合がある。このような場合に、本実施形態の蓄電池管理装置10は、BCPのための蓄電残量を確保した上で、既設の蓄電池4の余力分の蓄電残量をデマンドレスポンスおよびピークカットに利用することができる。
【0065】
なお、翌日のDR時間帯90が予め決められていない場合、作成部18は、DR時間帯90の候補となる複数の時間帯ごとに、複数の第1の充放電計画および第2の充放電計画を作成しても良い。また、作成部18は、翌日分の第1の充放電計画および第2の充放電計画だけではなく、当日分の第1の充放電計画および第2の充放電計画を作成しても良い。
【0066】
本実施形態の記憶部12に保存されるデータ、および、取得部13が取得するデータは一例であり、上述の例の限定されるものではない。また、本実施形態では、30分間隔の時間単位を基準としたが、時間単位は1時間間隔でも良い。
【0067】
本実施形態の蓄電池管理装置10で実行される蓄電池管理プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。また、本実施形態の蓄電池管理装置10で実行される蓄電池管理プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の蓄電池管理装置10で実行される蓄電池管理プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、本実施形態の蓄電池管理プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0068】
本実施形態の蓄電池管理装置10で実行される蓄電池管理プログラムは、上述した各部(入力部、取得部、表示制御部、予測部、作成部、制御部)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体から蓄電池管理プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ入力部、取得部、表示制御部、予測部、作成部、制御部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
2 DRアグリゲータ
3 需要家
4 蓄電池
5 電力系統
6 系統運用者
10 蓄電池管理装置
11 入力部
12 記憶部
13 取得部
14 表示制御部
16 制御部
17 予測部
18 作成部
90 DR時間帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10