(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】表面を潤滑する方法
(51)【国際特許分類】
C10M 161/00 20060101AFI20220830BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20220830BHJP
C10M 143/06 20060101ALN20220830BHJP
C10M 145/24 20060101ALN20220830BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220830BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220830BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220830BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C10M161/00
C10M139/00 Z
C10M143/06
C10M145/24
C10M137/10 A
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018040838
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-03-03
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ ピーター ハートリー
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル レイン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー スティッダー
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-513856(JP,A)
【文献】特開2004-339486(JP,A)
【文献】特開2013-221155(JP,A)
【文献】特表2017-518426(JP,A)
【文献】特表2013-521369(JP,A)
【文献】特開2016-216653(JP,A)
【文献】特開2009-215406(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M159
C10M169
C10M135
C10M137
C10N10
C10N30
C10N40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VDI-規格VDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆された第一の表面と、鉄を含
む第二の表面との間の接触部を潤滑する方法であって、該方法が、該接触部に潤滑油組成物を供給する工程を含み、該潤滑油組成物が、
組成物の50質量%を超える、潤滑粘度を持つオイルおよび(a) 該潤滑油組成物に質量基準で150~1,000ppmのモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、
該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物が、1種または2種以上の二核モリブデン化合物と1種または2種以上の三核モリブデン化合物との混合物を含み、該有機摩擦調整剤が、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である、前記方法。
【請求項2】
オイル-溶解性
またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)が、潤滑油組成物に、質量基準で300~1,000pp
mの間のモリブデンを与えるような量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
官能化されたポリオレフィン(i)が、2~6個の炭素原子を持つモノ-オレフィンのポリマーから誘導される、請求項1~
2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
官能化されたポリオレフィン(i)が、ポリオレフィンと不飽和二酸または
その無水物との反応に由来する二酸または無水物官能基を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
官能化されたポリオレフィン(i)が、ポリイソブチレン琥珀酸無水物(PIBSA)を形成するように、無水マレイン酸と反応させられたポリイソブチレンポリマーである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ポリエーテル(ii)が、ポリグリセロールまたはポリアルキレングリコールを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ポリエーテル(ii)が、ポリエチレングリコール(PEG)、混合ポリ(エチレン-プロピレン)グリコールまたは混合ポリ(エチレン-ブチレン)グリコールを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ポリオール(iii)がジオール、トリオール
またはテトラオー
ルを含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ポリオール(iii)が、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールまたはソルビトールの内の1種または2種以
上を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
カルボン酸(iv)が、C
2-C
36カルボン
酸を含み、該酸は、直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和であってもよい、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
カルボン酸(iv)が、ラウリン酸、エルカ酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸およびリノール酸の内の1種または2種以上を含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ポリマー系摩擦調整剤(b)が、(i) マレイン酸化ポリイソブチレン(PIBSA)、(ii) ポリエチレングリコール(PEG)、(iii) グリセロールおよび(iv) タル油脂肪酸の反応生成物を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ポリマー系摩擦調整剤(b)が、潤滑油組成物中に、該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~3%の
間の量で存在する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
VDI-規格VDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆された1種または2種以上の構成部品を持つ内燃機関であって、該機関の動作中に該構成部品が、鉄を含
む表面と接触状態にあり、該機関内のリザーバ内には潤滑油組成物が収容されており、該組成物が、
組成物の50質量%を超える、潤滑粘度を持つオイルおよび(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性のモリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、
該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物が、1種または2種以上の二核モリブデン化合物と1種または2種以上の三核モリブデン化合物との混合物を含み、該有機摩擦調整剤が、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である、前記内燃機関。
【請求項15】
VDI-規格VDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆された1種または2種以上の構成部品を持つ内燃機関を潤滑するための、潤滑油組成物の使用であって、該機関の動作中に該構成部品が、鉄を含
む表面と接触状態にあり、該潤滑油組成物が、
組成物の50質量%を超える、潤滑粘度を持つオイルおよび(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性のモリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、
該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物が、1種または2種以上の二核モリブデン化合物と1種または2種以上の三核モリブデン化合物との混合物を含み、該有機摩擦調整剤が、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である、前記使用。
【請求項16】
VDI-規格のVDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆されている、内燃機関の1種または2種以上の構成部品と、鉄を含
む表面を有する、該内燃機関の1種または2種以上の構成部品との間の摩擦を減じ、かつその磨耗を防止するための、潤滑油組成物の使用であって、該潤滑油組成物が、
組成物の50質量%を超える、潤滑粘度を持つオイルおよび(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性のモリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、
該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物が、1種または2種以上の二核モリブデン化合物と1種または2種以上の三核モリブデン化合物との混合物を含み、該有機摩擦調整剤が、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である、前記使用。
【請求項17】
潤滑油組成物が、更に無灰分散剤、金属洗浄剤、腐蝕抑制剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤、追加の摩擦調整剤、摩耗防止剤および粘度調整剤からなる群から選択される、1種または2種以上の追加の添加剤をも含む、請求項1~
13のいずれかに1項に記載の方
法または請求項
15または
16に記載の使用。
【請求項18】
潤滑油組成物が、更に無灰分散剤、金属洗浄剤、腐蝕抑制剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤、追加の摩擦調整剤、摩耗防止剤および粘度調整剤からなる群から選択される、1種または2種以上の追加の添加剤をも含む、請求項14に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面と接触状態にある、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)フィルムまたは被膜で被覆された表面を潤滑する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
以下のダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、広範囲に及ぶアモルファス炭素物質を記載するのに一般的に使用される一般名称である。該物質は、通常フィルムまたは被膜の形状で与えられ、またダイヤモンドの機械的な特性と類似するが、全く同じではない、硬さ等の機械的な特性を持つことを特徴とする。DLCは水素化でき、あるいは非-水素化であり得、また一般的にPVDまたはCVD技術を利用して製造される。炭素(および水素化されたDLCの場合には水素)に加えて、DLCは、同様にその他の化学元素、例えば窒素、ケイ素またはフッ素または金属ドーパントを含むことができる。金属がその他の元素よりも一層一般的に使用され、タングステンおよびチタン等の金属が最も一般的である。DLCフィルムおよび被膜は、高い硬さ(約3~22GPa)、低い粗さ、低い乾燥摩擦係数および電磁スペクトルの主要部分に渡る透明性を持つことができる。一般に、DLCフィルムおよび被膜は、広範囲に及ぶアモルファス炭素物質を含み、そこで該炭素原子の少なくとも幾分かは、ダイヤモンドの構造に類似する化学構造内で結合しているが、ダイヤモンドの長距離に及ぶ結晶秩序を欠いている。ドイツ技術者協会(The Association of German Engineers)(VDI)は、DLCフィルムに関する分類体系を考案しており、該体系は、様々な型のフィルムを、その物理的および化学的特性に基いて体系化している。これは、VDI-規格VDI 2840として公開されており、また該様々な型のDLCフィルムが、誤解の余地なしに特定できるように、規則正しい分類および命名法を与えている。VDI 2840は、7つの型のDLCフィルムを特定している:
【0003】
・a-Cと名付けられた、水素を含まないアモルファス炭素フィルム、
・ta-Cと名付けられた、四面体形の水素を含まないアモルファス炭素フィルム、
・a-C:Meと名付けられた、金属を含有し、水素を含まないアモルファス炭素フィルム、
・a-C:Hと名付けられた、水素含有アモルファス炭素フィルム、
・ta-C:Hと名付けられた、四面体形の水素含有アモルファス炭素フィルム、
・a-C:H:Meと名付けられた、金属を含有する、水素含有アモルファス炭素フィルム、
・a-C:H:Xと名付けられた、変性水素含有アモルファス炭素フィルム。
上記の四面体フィルムは、sp2炭素結合がより優勢である他の型と比較して、より高レベルのsp3炭素結合を有している。金属ドーパント(Meにより表されている)は、タングステン、チタンおよび類似のものを含み、またその変性された構造におけるXは窒素、ケイ素、ホウ素および類似のものであり得る。水素化されたフィルムは、一般的に50原子%までの水素を含み、また通常は少なくとも5原子%の水素を含む。
DLCフィルムまたは被膜を直接堆積させるための多くの方法が、当技術において知られており、(i) ドーピング元素を含む、水素および/または不活性ガスおよび/またはその他のガスと混合することもできる、炭素-含有ガスまたは蒸気からの、直接イオンビーム蒸着、デュアルイオンビーム蒸着、グロー放電、高周波(RF)プラズマ、直流(DC)プラズマまたはマイクロ波プラズマ蒸着、(ii) 固体炭素またはドープ処理した炭素ターゲット物質からの、電子ビーム蒸着、イオンアシスト蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、またはイオンアシストスパッター蒸着、または(iii) (i)と(ii)との組合せを含む。
【0004】
内燃機関の部品の被覆におけるこのようなDLCフィルムの利用は、例えば米国特許第5,771,873号に記載されている。
スチール対スチール(steel-on-steel)接触が起こる機関部品に対する摩擦を減じ、かつ磨耗保護を与えるために、潤滑油組成物においてオイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物を使用することは、一般的である。二核モリブデン化合物(即ち、2個のモリブデン原子を含む化合物)および三核モリブデン化合物(即ち、3個のモリブデン原子を含む化合物)両者とも、相当な利益をもたらす。例えば、EP 1 426 508 A1から、二核および三核モリブデン化合物両者が、DLC対DLC接触部(DLC-to-DLC contact)における摩擦低下をもたらすことが知られている。しかし、多くの機関において、鉄を含む物質(一般的にスチール)で作られた部品があり、これらは、DLCフィルムまたは被膜を備えている部品と接触状態にある。研究は、オイル-溶解性モリブデン化合物が、DLC対スチール接触部において異なる挙動を示し、それにより該DLC被覆表面は、より高い比率で、そのスチール合せ面まで、および該合せ面が別のDLC被覆表面である場合には観測されない程度にまで擦り減らされることを示している(例えば、I Sugimoto, Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers, Series A, Vol.78, No.786, pp.213-222を参照のこと)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の型のDLCフィルムまたは被膜を備えた表面と、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面との間の接触部が、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物と、特定の型の有機摩擦調整剤との組合せを含む潤滑油組成物を使用することにより、効果的に潤滑し得るという発見に基づくものである。従って、本発明は、該潤滑油組成物により与えられる磨耗保護性を損なうことなしに、該モリブデン化合物によって与えられる摩擦低減特性を利用している。本発明によって検討された該磨耗挙動が、上記VDI 2840分類体系によるDLC被膜型の全てではないが、その幾つかに対して明白であることは、注目に値する。
従って、第一の局面において、本発明は、VDI-規格VDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有(hydrogenous)炭素フィルムまたは被膜で被覆された第一の表面と、鉄を含む(ferrous)、好ましくはスチール製の、第二の表面との間の接触部を潤滑する方法を提供するものであり、該方法は、該接触部に潤滑油組成物を供給する工程を含み、該潤滑油組成物は、多量の潤滑粘度を持つ(of lubricating viscosity)オイルおよび(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、該有機摩擦調整剤は、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である。
【0006】
第二の局面において、本発明は、VDI-規格のVDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆された1種または2種以上の構成部品を持つ内燃機関を提供し、該機関の動作中に該構成部品は、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面と接触状態にあり、該機関内のリザーバ内には潤滑油組成物が収容されており、該潤滑油組成物は、多量の潤滑粘度を持つオイル、および(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、該有機摩擦調整剤は、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である。
上記機関内の上記リザーバは、4-ストローク機関におけるクランクケース油溜めであり得、そこから、それが、潤滑のために該機関の回りに分配される。本発明は、2-ストロークおよび4-ストロークの火花点火および圧縮点火式機関に対して適用することができる。
【0007】
第三の局面において、本発明は、VDI-規格のVDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆された1種または2種以上の構成部品を持つ内燃機関を潤滑するための、潤滑油組成物の使用を提供するものであり、該機関の動作中に該構成部品は、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面と接触状態にあり、該潤滑油組成物は、多量の潤滑粘度を持つオイル、および(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、該有機摩擦調整剤は、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である。
第四の局面において、本発明は、VDI-規格のVDI 2840による分類に基づいてa-C:H、ta-C:H、a-C:H:Meまたはa-C:H:X型の水素含有炭素フィルムまたは被膜で被覆されている、内燃機関の1種または2種以上の構成部品と、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面を有する、該燃焼機関の1種または2種以上の構成部品との間の摩擦を減じ、かつその磨耗を防止するための、潤滑油組成物の使用を提供するものであり、該潤滑油組成物は、多量の潤滑粘度を持つオイル、および(a) 該潤滑油組成物に、質量基準で150~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量の、オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物、および(b) 該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~5質量%の間のポリマー系有機摩擦調整剤を含み、該有機摩擦調整剤は、(i) 官能化されたポリオレフィン、(ii) ポリエーテル、(iii) ポリオールおよび(iv) モノカルボン酸連鎖停止基の反応生成物である。
【0008】
好ましくは、上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)は、上記潤滑油組成物に、質量基準で300~1,000ppm、好ましくは400~1,000ppmの間、例えば500~1,000ppmの間のモリブデンを与えるような量で存在する。該潤滑油組成物のモリブデン含有率は、ASTM D5185により測定されるようなものである。
以下においてより詳しく説明されるように、上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)は、2種または3種以上のモリブデン化合物の混合物であり得、また好ましい一態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)は、2種または3種以上のモリブデン化合物の混合物である。これらの例において、ここにおいて言及される上記潤滑油組成物におけるモリブデンの量は、該化合物の混合物により与えられるモリブデンの合計された総量である。
好ましくは、上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)は、1種または2種以上のモリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテートまたは硫化モリブデンを含む。好ましい一態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上のモリブデンジチオカルバメートを含む。最も好ましいものは、二核および三核モリブデンジチオカルバメートである。一態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上の二核モリブデンジチオカルバメートを含む。もう一つの態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上の三核モリブデンジチオカルバメートを含む。更に別の態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上の二核モリブデンジチオカルバメートと、1種または2種以上の三核モリブデンジチオカルバメートとの混合物を含む。これらのモリブデン化合物を、以下において更に詳細に説明する。
【0009】
とりわけ、この発明は、鉄を含む、好ましくはスチール製の表面を持つ部品または部材と接触状態にあるDLCフィルムまたは被膜を備えた部品または部材を持つ、火花点火または圧縮点火式2-ストロークまたは4-ストローク内燃機関の潤滑のために適用される。このような部品および部材の例はカムシャフト、とりわけカムローブ;ピストン、特にピストンスカート;シリンダライナー;およびバルブを含む。
あらゆる局面に対して適用可能な、本発明の様々な特徴を、以下においてより詳細に説明する。
(a) オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物
オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物(a)の例として、モリブデンのジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテートおよび硫化物、およびこれらの混合物を挙げることができる。
加えて、上記モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。これら化合物は、ASTMテストD-664またはD-2896の滴定手順により測定されるような、塩基性窒素化合物と反応し、典型的には六価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびその他のアルカリ金属モリブデン酸塩およびその他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは同様な酸性モリブデン化合物が含まれる。
この発明において有用な上記モリブデン化合物の中に含まれるものは、式:Mo(ROCS2)4およびMo(RSCS2)4を持つ有機モリブデン化合物であり、ここでRは一般的に1~30個の炭素原子、および好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキル、アリール、アラルキルおよびアルコキシアルキル、および最も好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキルからなる群から選択される有機基である。モリブデンのジアルキルジチオカルバメートが特に好ましい。
更なる一群のオイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、二核モリブデン化合物である。その例は、以下の式によって表される:
【0010】
【0011】
ここで、R1~R4は、独立に1~24個の炭素原子を持つ直鎖、分岐鎖または芳香族ヒドロカルビル基を意味し、またX1~X4は、独立に酸素原子または硫黄原子を意味する。これら4つのヒドロカルビル基、R1~R4は、同一でも相互に異なっていてもよい。
この発明において有用な、もう一つの群のオイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、三核モリブデン化合物、特に式:Mo3SkLnQzを持つもの、およびその混合物であり、そこでLは、該化合物を上記オイルに対して溶解性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を持つ有機基を含む、独立に選択されるリガンドであり、nは1~4であり、kは4~7で変動し、Qは中性の電子供与化合物、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィン、およびエーテルからなる群から選択され、およびzは0~5の範囲にあり、かつ非-化学量論的な値を含む。nが3、2または1である例において、該三核モリブデン化合物に電気的中性性を付与するために、適切に帯電したイオン種が必要とされる。該イオン種は、任意の価数、例えば一価または二価のものであり得る。更に、該イオン種は、負に帯電した、即ちアニオン性の種であり得、あるいは正に帯電した、即ちカチオン性の種、またはアニオンおよびカチオンの組合せであってもよい。このような用語は、当業者にとっては公知である。該イオン種は、共有結合を介して、即ち1または2以上のモリブデン原子に、そのコア内で配位して、あるいは対イオンの場合におけるように静電結合または相互作用を介して、あるいは共有結合と静電結合との間の中間的な結合形式を通して、該化合物中に存在し得る。アニオン性の種の例は、ジスルフィド、水酸化物、アルコキサイド、アミドおよびチオシアネートまたはその派生物を含み、好ましくは該アニオン性の種は、ジスルフィドイオンである。カチオン性の種の例は、アンモニウムイオンおよび金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたは遷移金属イオン、好ましくはアンモニウムイオン、例えば[NR4]+を含み、ここでRは独立にHまたはアルキル基であり、RがHであること、即ち[NH4]+であることがより好ましい。少なくとも21個の全炭素原子、例えば少なくとも25、少なくとも30、または少なくとも35個の炭素原子が、全ての該リガンドの有機基内に存在すべきである。
上記リガンドは、以下に列挙するもの、およびその混合物からなる群から独立に選択される:
【0012】
【0013】
そこにおいて、X、X1、X2およびYは酸素および硫黄からなる群から独立に選択され、またそこでR1、R2およびRは、水素および有機基から独立に選択され、該基は同一でも異なっていてもよい。好ましくは、該有機基は、ヒドロカルビル基、例えばアルキル(例えば、該アルキルにおいて、上記リガンドの残部に結合する炭素原子は、一級または二級である)、アリール、置換アリールおよびエーテル基である。より好ましくは、各リガンドは、同一のヒドロカルビル基を持つ。
上記用語「ヒドロカルビル」とは、上記リガンドの残部に直接結合した炭素原子を持つ置換基を意味し、またこの発明の文脈において、特性上専らヒドロカルビルである。このような置換基は、以下に列挙するものを含む:炭化水素置換基、即ち脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキルまたはシクロアルケニル)置換基、芳香族-、脂肪族-および脂環式-置換芳香族核等、並びに環式置換基であって、そのリングが該リガンドの別の部分を通して完成されているもの(即ち、任意の2つの表示された置換基が、一緒に一つの脂環式基を形成し得る)、置換炭化水素置換基、即ち本発明の文脈において、該置換基の支配的なヒドロカルビル特性を変更することのない非-炭化水素基を含むもの。当業者は、適当な基(例えば、ハロ、特にクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)、およびヘテロ置換基、即ち本発明の文脈において特性上専ら炭化水素であるが、連鎖またはリング内に存在する炭素以外の原子を含み、その点を除けば炭素原子で構成されている置換基を認識しているであろう。
【0014】
重要なことに、上記リガンドの上記有機基は、上記化合物を上記オイルに対して溶解性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を持つ。例えば、各基内の炭素原子数は、一般的に1~100の間、好ましくは1~30、およびより好ましくは4~20の間に及ぶ。好ましいリガンドは、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、およびジアルキルジチオカルバメートを含み、これらの中のより好ましいものはジアルキルジチオカルバメートである。2つまたは3つ以上の上記官能性を含む有機リガンドは、同様にリガンドとして機能でき、かつ1つまたは2つ以上のそのコアに結合し得る。当業者は、本発明において有用な化合物の形成が、該コアの電荷との釣合いを保つために、適切な電荷を持つリガンドの選択を必要とすることを認識しているであろう。
式:Mo3SkLnQzを持つ化合物は、アニオン性のリガンドにより包囲されたカチオン性のコアを有しており、また例えば以下のような構造によって表され、かつ+4という正味の電荷を有している:
【0015】
【0016】
その結果として、これらコアを可溶化するためには、該リガンド全ての中に含まれる全電荷は、-4でなければならない。4個のモノアニオン性リガンドが好ましい。如何なる理論にも拘泥するつもりはないが、2種または3種以上の三核コアが、1種または2種以上のリガンドによって結合されまたは相互に連結でき、また該リガンドは、多座配位性であり得るものと考えられる。このような構造は、本発明の範囲内に入る。これは、単一のコアに対して多数の連結を持つ多座配位性リガンドの場合を含む。酸素および/またはセレンが、該コア(1または複数)内の硫黄と交換され得るものと考えられる。
オイル-溶解性またはオイル-分散性三核モリブデン化合物は、適当な液体(1または複数)および/または溶媒(1または複数)内で、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13・n(H2O)(ここで、nは0と2との間で変動し、非-化学量論的値を含む)と、適当なリガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィドとを反応させることにより調製し得る。その他のオイル-溶解性またはオイル-分散性三核モリブデン化合物は、適当な溶媒(1または複数)内での、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13・n(H2O)、リガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメート、またはジアルキルジチオホスフェート、および硫黄-引抜き剤(sulfur-abstracting agent)、例えばシアニドイオン、亜硝酸イオン、または置換ホスフィンの反応中に形成され得る。あるいは、三核モリブデン-硫黄ハライド塩、例えば[M’]2[Mo3S7A6](ここで、M'は対イオンであり、またAはハロゲン、例えばCl、Br、またはIである)を、適当な液体(1または複数)および/または溶媒(1または複数)内で、リガンド源、例えばジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェートと反応させて、オイル-溶解性またはオイル-分散性三核モリブデン化合物を形成することができる。該適当な液体および/または溶媒は、例えば水性または有機系であり得る。
【0017】
ある化合物のオイル溶解性または分散性は、その結合したリガンドの有機基における炭素原子数によって影響を受ける可能性がある。本発明において使用される上記化合物において、少なくとも21個という全炭素原子が、全ての該リガンドの有機基の中に存在すべきである。好ましくは、選択された該リガンド源は、その有機基内に、該化合物を上記潤滑組成物に対して溶解性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を持つ。
上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、好ましくは有機モリブデン化合物である。更に、該モリブデン化合物は、好ましくはモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、モリブデンスルフィドおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
最も好ましくは、上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上のモリブデンジチオカルバメートを含む。好ましい態様において、該オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上の二核モリブデンジチオカルバメートを含み、あるいは1種または2種以上の三核モリブデンジチオカルバメートを含む。
最も好ましい一態様において、上記オイル-溶解性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、1種または2種以上の二核モリブデンジチオカルバメートと、1種または2種以上の三核モリブデンジチオカルバメートとの混合物を含む。この態様において、二核モリブデンジチオカルバメート対三核モリブデンジチオカルバメートの比は、各型のモリブデン化合物により上記潤滑油組成物に対して与えられるモリブデンの質量の観点から、1:9~9:1、好ましくは1:4~4:1、より好ましくは1:2~2:1、例えば1:1である。上で論じたように、この態様において、ここにおいて言及される該潤滑油組成物中のモリブデンの量は、該化合物の混合物によって与えられるモリブデンの合計された総量である。
【0018】
(b) ポリマー系有機摩擦調整剤
全てのポリマー同様に、本発明において有用な上記ポリマー系有機摩擦張性剤(b)は、様々な大きさの分子からなる混合物を含む。適切には、該分子の大部分は、1,000~30,000ダルトンという範囲の分子量を持つ。
好ましくは、上記官能化されたポリオレフィン(i)は、2~6個の炭素原子を持つモノオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブテンおよびイソブテンのポリマーを由来とするものである。本発明の該官能化されたポリオレフィンは、適切には15~500個、好ましくは50~200個の炭素原子を持つ鎖を含む。好ましくは、モノオレフィンのポリマーは、ポリイソブチレンポリマーまたはその誘導体である。
上記官能化されたポリオレフィン(i)は、該ポリオレフィンと不飽和二酸または無水物との反応を由来とする、二酸または無水物官能基を含むことができる。該官能化されたポリオレフィンは、適切には無水マレイン酸との反応により官能化されている。
好ましい一態様において、上記官能化されたポリオレフィン(i)は、無水マレイン酸と反応させられて、ポリイソブチレン琥珀酸無水物(PIBSA)を形成している、ポリイソブチレンポリマーである。適切には、該PIBSAは、300~5,000Da、好ましくは500~1,500Daおよびとりわけ800~1,200Daの範囲の分子量を持つ。PIBSAは、末端不飽和基を持つポリイソブチレンと無水マレイン酸との付加反応によって製造される、市販品として入手し得る化合物である。
あるいはまた、上記官能化されたポリオレフィン(i)は、過酸、例えば過安息香酸または過酢酸とのエポキシ化反応により官能化され得る。
【0019】
上記ポリエーテル(ii)は、例えばポリグリセロールまたはポリアルキレングリコールを含むことができる。好ましい一態様において、該ポリエーテルは、水溶性アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール(PEG)である。適切には、該PEGは300~5,000Da、より好ましくは400~1,000Daおよび特に400~800Daという範囲の分子量を持つ。好ましい一態様において、該ポリエーテルは、PEG400、PEG600またはPEG1000である。あるいは、混合ポリ(エチレン-プロピレン)グリコールまたは混合ポリ(エチレン-ブチレン)グリコールを使用することもできる。あるいは、該ポリエーテルは、酸性基、例えばカルボン酸基、スルホニル基(例えば、スルホニルスチレン基)、アミノ基(例えば、テトラエチレンペンタミンまたはポリエチレンイミン)またはヒドロキシル基を含む、ジアミンまたはジオールから誘導し得る。
上記ポリエーテル(ii)は、適切には300~5,000Da、より好ましくは400~1,000Daまたは400~800Daという分子量を持つ。
上記官能化されたポリオレフィン(i)および上記ポリエーテル(ii)は、ブロックコポリマー単位を形成し得る。
上記官能化されたポリオレフィン(i)および上記ポリエーテル(ii)は、相互に直接結合することができ、および/またはこれらは主鎖部分により一緒に結合されていてもよい。
【0020】
本発明において有用な上記のポリマー系摩擦調整剤に係る上記ポリオール反応体(iii)は、適切には上記官能化されたポリオレフィン(i)およびポリエーテル(ii)反応体を一緒に結合することのできる主鎖部分を与える。該ポリオールはジオール、トリオール、テトラオール、またはこのような化合物の関連するダイマーまたはトライマーまたはより高級なオリゴマーを含むことができる。適切なポリオールはグリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールおよびソルビトールを含む。好ましい一態様において、該ポリオール(iii)は、グリセロールである。
本発明において有用な上記ポリマー系摩擦調整剤は、モノカルボン酸連鎖停止基(iv)を含む。任意のカルボン酸が、連鎖停止基として適している。適切な例はC2-36カルボン酸、好ましくはC6-30カルボン酸、およびより好ましくはC12-22カルボン酸を含む。該カルボン酸は、直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和であってもよい。好ましい態様において、該カルボン酸連鎖停止基(iv)は、1種または2種以上のラウリン酸、エルカ酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸およびリノール酸を含む。好ましい態様において、該カルボン酸連鎖停止基は、脂肪系カルボン酸であり、および特に好ましい脂肪酸はオレイン酸である。好適なかつ好ましいオレイン酸源は、タル油脂肪酸である。
上記ポリマー系有機摩擦調整剤(b)は、適切には1,000~30,000Da、好ましくは1,500~25,000、より好ましくは2,000~20,000Daという平均分子量を持つ。
【0021】
上記ポリマー系有機摩擦調整剤(b)は、適切には20未満、好ましくは15未満およびより好ましくは10未満の酸価を持つ。該ポリマー系有機摩擦調整剤(b)は、適切には1を超え、好ましくは3を超えおよびより好ましくは5を超える酸価を有する。好ましい一態様において、該摩擦調整剤(B1)は、6~9の範囲の酸価を持つ。
適切には、ポリマー系有機摩擦調整剤(b)は、国際特許出願WO 2011/107739号に記載されているようなものである。
本発明の全ての局面に係る好ましい態様において、上記ポリマー系有機摩擦調整剤(b)は、(i) マレイン化ポリイソブチレン(PIBSA)、(ii) ポリエチレングリコール(PEG)、(iii) グリセロールおよび(iv) タル油脂肪酸の反応生成物である。好ましくは、該マレイン化ポリイソブチレンのポリイソブチレンは、950amu近傍の平均分子量、および98mgKOH/gというおよその鹸化価を持つ。好ましくは、該PEGは、190mgKOH/gというヒドロキシル価を持つ。適当な生成物は、110gのマレイン化ポリイソブチレン、72gのPEG、5gのグリセロールおよび25gのタル油脂肪酸を、機械的スターラー、イソマントル(isomantle)ヒータおよびオーバーヘッド凝縮器を備えたガラス製の丸底フラスコに装入することにより製造し得る。この反応は、0.1gのエステル化触媒のテトラブチルチタネートの存在下で、200~220℃にて、10mgKOH/gという最終的な酸価までの水の除去を伴って起こる。
好ましくは、本発明の上記ポリマー系有機摩擦張性剤(b)は、上記潤滑油組成物中に、該潤滑油組成物の質量に関して、0.1~3%の間、より好ましくは0.1~1.5質量%の間の量で存在する。
【0022】
潤滑粘度を持つオイル
上記潤滑粘度を持つオイル(しばしば「ベースストック」または「ベースオイル」と呼ばれている)は、潤滑油の主要な液状成分であり、その中に、例えば最終的な潤滑油(または潤滑組成物)を製造するために、添加剤およびことによればその他のオイルが配合されている。ベースオイルは、濃縮物を製造するために、並びにこれから潤滑油組成物を製造するために有用であり、また天然(植物、動物または鉱物)および合成潤滑油およびこれらの混合物から選択することができる。
上記ベースストック群は、米国石油協会(American Petroleum Institute)(API)の刊行物:「機関オイルのライセンスと認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」,工業サービス部門(Industry Services Department),第14版, 1996年12月, 補遺1, 1998年12月において定義されている。典型的に、該ベースストックは、100℃において、好ましくは3~12、より好ましくは4~10、最も好ましくは4.5~8mm2/s(cSt)という粘度を持つ。
本発明における上記ベースストックおよびベースオイルの定義は、米国石油協会(API)の刊行物:「機関オイルのライセンスと認証システム」, 工業サービス部門, 第14版, 1996年12月, 補遺1, 1998年12月において見出されるものと同一である。該刊行物は、ベースストックを、以下のように分類している:
a) グループI(Group I)ベースストックは、90%未満の飽和物および/または0.03%を超える硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を用いた場合に、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120未満の粘度指数を持つ。
b) グループII(Group II)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を用いた場合に、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120に満たない粘度指数を持つ。
c) グループIII(Group III)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を用いた場合に、120に等しいかまたはこれを超える粘度指数を持つ。
d) グループIV(Group IV)ベースストックは、ポリα-オレフィン(PAO)である。
e) グループV(Group V)ベースストックは、グループI、II、III、またはIVには含まれない全ての他のベースストックを含む。
【0023】
【0024】
上記潤滑油組成物に含めることのできる、その他の潤滑粘度を持つオイルを、以下において詳しく述べる:
天然オイルは、動物および植物オイル(例えば、ヒマシ油およびラード油)、流動石油系オイル(liquid petroleum oils)およびパラフィン系、ナフテン系および混合パラフィン-ナフテン型からなる水素化精製され、溶媒-処理された鉱油系潤滑油を包含する。石炭またはシェール由来の潤滑粘度を持つオイルも、有用なベースオイルである。
合成潤滑油は炭化水素油、例えば重合されたおよび共重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);およびアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体、類似体および同族体を含む。
もう一つの適切な群の合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、琥珀酸、アルキル琥珀酸およびアルケニル琥珀酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、へキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。これらエステルの具体的な例は、ジブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-へキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸との反応により形成される複合エステルを含む。
【0025】
同様に、合成オイルとして有用なエステルは、C5~C12モノカルボン酸とポリオール、およびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールから製造されるエステルをも含む。
未精製、精製および再精製オイルを、本発明の上記組成物において使用することができる。未精製オイルは、更なる精製処理なしに、天然または合成源から直接得られるものである。例えば、レトルト操作から直接得られるシェールオイル、蒸留により直接得られる石油系オイルまたはエステル化工程から直接得られるエステルオイルであって、更なる処理なしに使用されるものは、未精製オイルに該当する。精製オイルは、これらが、1または2以上の特性を改善する目的で、1または2以上の精製段階において更に処理されている点を除き、該未精製オイルと類似する。多くのこのような精製技術、例えば蒸留、溶媒抽出、酸または塩基抽出、濾過およびパーコレーションは、当業者には公知である。再精製オイルは、運転において既に使用された精製オイルに対して適用される、精製オイルを得るために使用された工程と同様な工程により得られる。このような再精製オイルは、また再生または再処理オイルとしても知られており、またしばしば使用済み添加剤およびオイル分解生成物に係る承認を得るための技術によって付随的に処理されている。
ベースオイルのその他の例は、ガス-ツー-リキッド(gas-to-liquid)(「GTL」)ベースオイルであり、即ち該ベースオイルは、H2およびCOを含有する合成ガスから、フィッシャー-トロプシュ(Fisher-Tropsch)触媒を用いて製造された、フィッシャー-トロプシュ合成された炭化水素を由来とするオイルであり得る。これら炭化水素は、典型的に、ベースオイルとして有用であるためには、更なる処理を必要とする。例えば、これらは、当技術において公知の方法により、水素異性化;水素化分解および水素異性化;脱蝋;または水素異性化および脱蝋であり得る。
【0026】
上記ベースオイルの組成物は、上記潤滑油組成物の特定の用途に依存するであろうし、また該オイルの配合者は、妥当なコストで所望の性能特性を実現するために、該ベースオイルを選択するであろうが、本発明に従う潤滑油組成物のベースオイルは、典型的に85質量%以下のグループIVベースオイルを含み、該ベースオイルは、70質量%以下のグループIVベースオイル、あるいは更には50質量%以下のグループIVベースオイルを含む。本発明に従う潤滑油組成物のベースオイルは、0質量%のグループIVベースオイルを含むことができる。あるいは、本発明に従う潤滑油組成物のベースオイルは、少なくとも5質量%、少なくとも10質量%または少なくとも20質量%のグループIVベースオイルを含むことができる。本発明に従う潤滑油組成物のベースオイルは、0~85質量%、または5~85質量%、あるいはまた10~85質量%のグループIVベースオイルを含むことができる。
好ましくは、上記潤滑粘度を持つオイルまたはオイルブレンドの、ノアック(NOACK)テスト(ASTM D5800)により測定された粘度は、20%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは16%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは12%に等しいかまたはそれ未満、より好ましくは10%に等しいかまたはそれ未満である。好ましくは、該潤滑粘度を持つオイルの粘度指数(VI)は、少なくとも95、好ましくは少なくとも110、より好ましくは120まで(up to 120)、より一層好ましくは少なくとも120、より一層好ましくは少なくとも125、最も好ましくは約130~140である。
上記潤滑粘度を持つオイルは、少量の、ここで定義されたような添加剤成分(a)および(b)および必要ならば1種または2種以上の補助添加剤、例えば潤滑油組成物を構成する、以下において説明されるような補助添加剤との組合せで、多量で与えられる。この調製は、該添加剤を分散または溶解するために、該オイルに直接該添加剤を添加することにより、あるいはこれらをその濃縮物の形状で添加することにより達成し得る。添加剤は、当業者には公知の任意の方法によって、他の添加剤の添加に先立って、その添加と同時に、あるいは該添加後の何れかにおいて、該オイルに添加し得る。
【0027】
好ましくは、上記潤滑粘度を持つオイルは、上記潤滑油組成物の全質量を基準として、55質量%を超え、より好ましくは60質量%を超え、より一層好ましくは65質量%を超える量で存在する。好ましくは、該潤滑粘度を持つオイルは、該潤滑油組成物の全質量を基準として、98質量%未満、より好ましくは95質量%未満、より一層好ましくは90質量%未満の量で存在する。
上記潤滑油組成物を製造するのに、濃縮物が使用される場合、該濃縮物は、例えば該濃縮物の1質量部当たり、3~100質量部、例えば5~40質量部の潤滑粘度を持つオイルで希釈することができる。
好ましくは、上記潤滑油組成物は、粘度法によるデスクリプタSAE 20WX、SAE 15WX、SAE 10WX、SAE 5WXまたはSAE 0WX(ここで、Xは20、30,40および50の内の任意の一つを表す)によって特定されるマルチグレードオイルであり、該異なる粘度法グレードの特徴は、SAE J300分類において見出すことができる。本発明の各局面に係る態様において、その他の態様とは独立に、該潤滑油組成物はSAE 10WX、SAE 5WXまたはSAE 0WXの形状にあり、好ましくはSAE 5WXまたはSAE 0WXの形状にあり、ここでXは20、30,40および50の内の任意の一つを表す。好ましくは、Xは20または30である。
同様に、本発明において有用な上記潤滑油組成物は、以下に列挙する従来の添加剤(任意の追加の摩擦調整剤を含む)の何れかをも含むことができ、これらは、典型的に少量、例えばその標準的な付随する機能を与えるような量で使用される。同様に、個々の成分に関する典型的な量をも、以下に明記する。列挙された値全ては、該潤滑油組成物全体中の有効成分の質量%として示されている。
【0028】
【0029】
上記個々の添加剤は、任意の都合のよい方法でベースストック内に組入れることができる。従って、該成分各々は、それを、所望の濃度レベルにて、該ベースストック中に分散または溶解させることにより、該ベースストックに直接添加することができる。このようなブレンディングは、周囲温度または高温にて生じ得る。
好ましくは、上記粘度調整剤および上記流動点降下剤以外の上記添加剤全ては配合されて、濃縮物(または添加剤パッケージ)とされ、該濃縮物は、その後にベースストックに配合されて、完成された潤滑油組成物を作製する。このような濃縮物の使用は、慣例的なことである。該濃縮物は、典型的には、適量で該添加剤(1または複数)を含み、該濃縮物が予め定められた量のベースオイルと混ぜ合された際に、その最終的な潤滑油組成物において所望の濃度を与えるように配合される。
上記濃縮物は、米国特許第4,938,880号に記載されている方法に従って好都合に製造される。この特許は、無灰分散剤および金属洗浄剤からなるプレミックスの製造を記載しており、該プレミックスは、少なくとも約200℃という温度にて予め配合される。その後に、該プレミックスは、少なくとも85℃まで冷却され、また該追加の成分が添加される。
上記最終的なクランクケース潤滑油組成物は、2~20質量%および好ましくは4~15質量%の上記濃縮物(または添加剤パッケージ)を使用でき、その残部はベースオイルである。
無灰分散剤は、摩耗または燃焼中に、該オイルの酸化により生じるオイル-不溶物を懸濁状態に維持する。これらは、特にガソリン機関における、スラッジの沈殿およびワニスの形成を防止する上でとりわけ有利である。
【0030】
無灰分散剤は、1種または2種以上の官能基を持つオイル-溶解性ポリマー系炭化水素主鎖を含み、該官能基は、分散すべき粒子と結合することができる。典型的に、該ポリマー主鎖は、しばしば橋架け基を通して、アミン、アルコール、アミド、またはエステル極性部分によって官能化される。例えば、該無灰分散剤は、長鎖炭化水素置換モノおよびジカルボン酸またはその無水物のオキサゾリン、オイル-溶解性塩、エステル、アミノ-エステル、アミドおよびイミド;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;長鎖脂肪族炭化水素であって、それと直接結合したポリアミンを含むもの;および長鎖置換フェノールとホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより形成されるマンニッヒ(Mannich)縮合生成物から選択することができる。
これら分散剤の上記オイル-溶解性ポリマー系炭化水素主鎖は、典型的にオレフィンポリマーまたはポリエン、とりわけ主モル量(即ち、50モル%を超える)の、C2~C18オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、オクテン―1、スチレン)および典型的にC2~C5オレフィンを含むポリマーから誘導される。該オイル-溶解性ポリマー系炭化水素主鎖は、ホモポリマー(例えば、ポリプロピレンまたはポリイソブチレン)または2種または3種以上のこのようなオレフィンのコポリマー(例えば、エチレンとα-オレフィン、例えばプロピレンまたはブチレンとのコポリマー、または2種の異なるα-オレフィンのコポリマー)であり得る。その他のコポリマーは、少モル量、例えば1~10モル%の該コポリマーのモノマーが、α,ω-ジエン、例えばC3~C22非-共役ジオレフィンであるもの(例えば、イソブチレンとブタジエンとのコポリマー、またはエチレン、プロピレンおよび1,4-ヘキサジエンまたは5-エチリデン-2-ノルボルネンのコポリマー)を含む。好ましいものは、ポリイソブテニル(Mn:400~2,500、好ましくは950~2,200)サクシンイミド分散剤である。
【0031】
上記粘度調整剤(VM)は、潤滑油組成物に高温および低温操作性を付与するように機能する。使用される該VMは、その機能のみを持つことができ、あるいは多機能性であってもよい。
分散剤としても機能する多機能性粘度調整剤は、同様に公知である。適切な粘度調整剤は、ポリイソブチレン、エチレンおよびプロピレンおよびより高級なα-オレフィンのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリル酸エステルとの共重合体、およびスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、およびイソプレン/ブタジエンの部分的に水素添加されたコポリマー、並びにブタジエンおよびイソプレンおよびイソプレン/ジビニルベンゼンの部分的に水素化されたホモポリマーである。
金属-含有または灰分-形成性洗浄剤が存在していてもよく、またこれらは析出物を減じまたは除去するための洗浄剤としておよび酸の中和剤または防蝕剤両者として機能し、それにより磨耗および腐蝕を減じかつ機関寿命を延長する。洗浄剤は、一般的に長い疎水性尾部と共に極性ヘッドを含み、該極性ヘッドは、酸性有機化合物の金属塩を含む。これらの塩は、実質的に化学量論的量の該金属を含むことができ、そこでこれらの塩は、通常正塩または中性塩として説明され、また典型的に0~80の、ASTM D-2896により測定し得るような全塩基価(TBN)を持つ。過剰量の金属化合物、例えば酸化物または水酸化物を、二酸化炭素等の酸性ガスと反応させることにより、多量の金属塩基を含めることが可能である。この得られる過塩基化された(overbased)洗浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として、中和された洗浄剤を含む。このような過塩基化された洗浄剤は150またはこれを超え、および典型的には250~450またはこれを超えるTBNを持つことができる。使用し得る洗浄剤は、金属、特にアルカリ系、例えばナトリウム、カリウム、リチウムおよびマグネシウムの、オイル-溶解性の中性および過塩基化スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテネートおよびその他のオイル-溶解性カルボキシレートを含む。好ましいものは、中性または過塩基化カルシウムおよびマグネシウムフェネートおよびスルホネート、特にカルシウムである。
【0032】
その他の摩擦調整剤は、オイル-溶解性アミン、アミド、イミダゾリン、アミンオキサイド、アミドアミン、ニトリル、アルカノールアミド、アルコキシル化アミンおよびエーテルアミン;ポリオールエステル;およびポリカルボン酸のエステルを包含する。
ジヒドロカルビルジチオホスフェートの金属塩は、摩耗防止剤および酸化防止剤としてしばしば使用される。その金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であり得る。これらは、先ず通常は1種または2種以上のアルコールまたはフェノールと、P2S5との反応によりジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、および次に該形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することによる、公知の技術に従って製造し得る。例えば、ジチオリン酸は、一級または二級アルコールの混合物を反応させることにより製造し得る。あるいは、多数のジチオリン酸を製造することができ、そこでその一つの上のヒドロカルビル基は、その特性上専ら二級であり、かつその他方の上のヒドロカルビル基は、特性上専ら一級である。該亜鉛塩を製造するためには、任意の塩基性または中性亜鉛化合物を使用し得るが、酸化物、水酸化物および炭酸塩が、最も一般的に使用されている。市販の添加剤は、該中性化反応における、過剰量の該塩基性亜鉛化合物の使用のために、しばしば過剰量の亜鉛を含む。
【0033】
ZDDPは、比較的低コストにて優れた磨耗保護性をもたらし、かつ酸化防止剤としても機能する。しかし、潤滑剤中のリンが、自動車エミッション触媒の実効寿命を短縮する可能性があるという、幾つかの証拠がある。従って、本発明の潤滑油組成物は、好ましくは0.8質量%以下の、例えば50ppm~0.06質量%のリンを含む。リンの量とは無関係に、好ましくは、該潤滑油組成物は0.5質量%以下、好ましくは50ppm~0.3質量%の硫黄を含み、硫黄およびリンの量は、ASTM D5185に従って測定される。
酸化阻害剤または酸化防止剤は、運転中にベースストックが劣化する傾向を減じ、該劣化は、酸化による生成物、例えば金属表面上のスラッジおよびワニス-様の析出物によって、および粘度の増大により立証し得る。このような酸化阻害剤は、ヒンダードフェノール、好ましくはC5~C12アルキル側鎖を持つアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、無灰のオイル-溶解性フェネートおよび硫化フェネート、燐-硫化(phosphosulfurized)または硫化炭化水素、亜リン酸エステル、金属チオカルバメート、米国特許第4,867,890号に記載されているオイル-溶解性銅化合物、およびモリブデン-含有化合物を含む。
ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオールおよびそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、およびアニオン性アルキルスルホン酸からなる群から選択される防蝕剤を使用することができる。
【0034】
銅-および鉛-担持腐蝕抑制剤を使用し得るが、典型的には本発明の潤滑油組成物においては必要とされない。典型的に、このような化合物は、5~50個の炭素原子を含むチアジアゾールポリスルフィド、その誘導体およびそのポリマーである。1,3,4-チアジアゾールの誘導体、例えば米国特許第2,719,125号;同第2,719,126号;および同第3,087,932号に記載されているものが、典型的なものである。その他の類似の物質は、米国特許第3,821,236号;同第3,904,537号;同第4,097,387号;同第4,107,059号;同第4,136,043号;同第4,188,299号;および同第4,193,882号に記載されている。その他の添加剤は、チアジアゾールのチオおよびポリチオスルフェンアミド、例えばGB-A-1,560,830号に記載されているものである。ベンゾトリアゾール誘導体も、この群の添加剤に含まれる。これらの化合物が該潤滑油組成物に含まれている場合、これらは、好ましくは0.2質量%の有効成分を超えない量で存在する。
少量の解乳化成分を使用することができる。好ましい解乳化成分は、EP-A-330 522号に記載されている。これは、アルキレンオキサイドと、ビス-エポキサイドを多価アルコールと反応させることにより得られる付加物との反応により得られる。該解乳化剤は、0.1質量%の有効成分を超えないレベルにて使用すべきである。有効成分0.001~0.05質量%という処理率が好適である。
別名ルーブオイル(lube oil)改善剤として知られている流動点降下剤は、上記流体が流動し、または注液可能となる最低温度を下げる。このような添加剤は周知である。該流体の低温流動性を改善する、これら添加剤の典型は、C8~C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマーおよびポリアルキルメタクリレートである。
泡の制御は、ポリシロキサン型の消泡剤、例えばシリコーンオイルまたはポリジメチルシロキサンを含む多くの化合物によって与えることができる。
【0035】
本明細書において、用語「含む(comprising)」(またはその同語源の語、例えば「含む(comprises)」は、述べられた特徴、整数、段階または成分の存在を意味するが、1種または2種以上の他の特徴、整数、段階、成分またはその集団の存在または付加を排除するものではない。該用語「含む」(またはその同語源の語)が、ここにおいて使用されている場合、用語「から本質的になる(consisting essentially of)」(およびその同語源の語)は、その範囲内に入り、また好ましい一態様であり、結果として用語「からなる(consisting of)」(およびその同語源の語)は、「から本質的になる」の範囲に入り、かつその好ましい一態様である。
用語「オイル-溶解性(oil-soluble)」または「オイル-分散性(oil-dispersible)」とは、上記化合物が、あらゆる割合で上記オイルに対して可溶性、分散性、混和性または懸濁し得ることを意味しない。しかし、これらは、該化合物が、例えば、上記組成物が使用される環境内で、その意図された効果を発揮するのに十分な程度まで、該オイルに対して可溶でありまたは安定に分散し得ることを、確かに意味する。その上、上述のようなもの等の他の添加剤の付随的な組入れは、該化合物の溶解性または分散性に影響を及ぼす可能性がある。
用語「多量(major amount)」とは、上記組成物の内の50質量%を超えることを意味する。
用語「少量(minor amount)」とは、上記組成物の内の50質量%未満を意味する。
【実施例】
【0036】
本発明は、更に以下の実施例によって例解されるが、該実施例は、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。あらゆる百分率は、キャリヤまたは希釈剤を考慮することなしに、質量基準の添加剤に係る有効成分の含量である。
ベース潤滑油組成物を製造した。そのベースオイルはサクシンイミド分散剤、スルホン酸カルシウム洗浄剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP);ヒンダードフェノール、ジフェニルアミンおよび硫化エステルを含む酸化防止剤の組合せ;ケイ素-含有消泡剤;流動点降下剤;および粘度調整剤を含んでいた。これらの成分を、APIグループIIベースストックに配合して、該ベース潤滑油組成物を製造した。
次いで、テストオイルを調製した。一つのテストオイルは、更なる添加成分無しに、上で調製した如きベース潤滑油を含んでおり、また7種のテストオイルは、該ベース潤滑油に追加の成分を添加することにより調製された。これらテストオイルの詳細は、以下の表に与えられており、そこで該テストオイルにおけるモリブデンの濃度は、ASTM D5185によって測定されたような、該テストオイルの質量に対する、質量基準の百万分率(ppm)で表されており、また添加された摩擦調整剤の量もまた、該テストオイルの質量に対する質量%で与えられている。
【0037】
【0038】
オイル1~6および10は比較例であり、またオイル7、8、9および11は、本発明に従う例である。使用した上記ポリマー系有機摩擦調整剤は、(i) マレイン酸化ポリイソブチレン(PIBSA)、ここでそのポリイソブチレン基は、950amu近傍の平均分子量および98mgKOH/gというおよその鹸化価を有していた;(ii) 190mgKOH/gというヒドロキシル価を持つポリエチレングリコール(PEG);(iii) グリセロール;および(iv) タル油脂肪酸の反応生成物であった。これは、上で説明したようにして調製された。グリセロールモノオレエートは、潤滑油組成物において普通に使用されている従来の摩擦調整剤であることから、選択された。
各オイルは、英国、ロンドン(London, UK)のPCSインスツルメンツ(PCS Instruments)から入手できる、往復動機能を備えたミニ-トラクションマシーン(Mini-Traction Machine)(MTM-R)を使用してテストされた。この試験機は、径19mm(3/4in)のボールを、ディスク形状にある下方の試験体に対して、適用された荷重の下で往復動される上方の試験体として使用する。該ボールは、AIS152100グレードのスチール製であり、また被覆されていなかった。該ディスクは、2μm近傍の深さまで、DLC(バリニット(BalinitTM) DLC-スター(DLC-Star):a-C:H型)により被覆されているスチールで作られていた。該ボールと該ディスクとの間の接触部は、従って鉄を含む(スチール)表面およびダイヤモンドライクカーボン被膜で被覆された表面との間にあった。このテスト条件を、以下の表に与える:
【0039】
【0040】
上記下方のディスク状試験体(DLC被覆されている)上に形成された摩耗傷跡(wear scars)を、非-接触式干渉法的焦点走査法(interferometric focal scanning)を利用する、ゼメトリックスゼスコープ(Zemetrics ZeScope) 3D光学的粗面計を用いて解析した。これは、上記テスト中の該ディスクから失われた物質を測定することによる、摩耗量の測定を可能とした。これを、μm3という単位で表した磨耗傷跡容積(wear scar volume)(WSV)として報告した。更に、該接触部に係る摩擦係数を、各テストの終了時点において記録した。結果は、以下の表に示されており、そこで各値は、各テストオイルを用いた2回のテストの平均値である。
【0041】
【0042】
オイル1、2、3および10を比較することによって、上記モリブデン化合物単独での存在が、上記DLC表面上での著しく高い磨耗へと導くことを明らかに理解することができる。このことは、上述のI. Sugimotoにより、Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers, Series A, Vol.78, No.786, pp.213-222において報告された観測を裏付けている。上記ポリマー系有機摩擦調整剤(b)または上記従来のグリセロールモノオレエート摩擦調整剤の何れかの、単独の上記摩擦調整剤は、該DLC表面上での磨耗を減じるのに効果的であったが、摩擦係数における如何なる顕著な低下をも与えなかった(オイル1とオイル4および5とを比較せよ)。モリブデン化合物と従来のグリセロールモノオレエート摩擦調整剤との組合せは、良好な摩擦性能を与えたが、低い磨耗保護性をもたらした(オイル1とオイル6とを比較せよ)。対照的に、本発明による例(オイル7、オイル8およびオイル9を使用)は、良好な磨耗保護性および低い摩擦係数の両者をもたらした。オイル7は、該ポリマー系有機摩擦調整剤(b)が存在する点においてのみオイル2と異なっているが、この違いは、記録されたWSVにおけるほぼ60%の減少へと導き、かつ低い摩擦係数を維持している。同様に、オイル8は、該ポリマー系有機摩擦調整剤(b)が存在する点においてのみオイル3と異なるが、これは、記録されたWSVにおける85%の減少へと導き、かつ低い摩擦係数を維持している。同様に、オイル9は、良好な磨耗保護性および低い摩擦係数を示した。オイル10は、また少量の単独のモリブデン化合物が、摩耗における顕著な増加へと導くことを示している(オイル1と比較せよ)。該ポリマー系有機摩擦調整剤(b)の添加は、磨耗保護性を回復させ、かつまた低い摩擦係数をも与える(オイル11)。
【0043】
上記の結果は、本発明に従う、モリブデン化合物と上記特定の型のポリマー系有機摩擦調整剤(b)との組合せが、DLC表面と鉄を含む(スチール)表面との間の接触部を潤滑するのに使用した場合に、該DLC表面を磨耗から保護し、しかもまた低い摩擦接触を維持する、潤滑油の提供を可能とすることを示している。この挙動は、普通の型の摩擦調整剤については見られないものである。二核モリブデン化合物および三核モリブデン化合物の組合せ(オイル8)は、良好な磨耗保護性および低摩擦係数の観点から、最良の全体的性能を与えた。従って、本発明は、DLC表面が鉄を含む表面と接触状態にあるシステムにおいて、モリブデン化合物により与えられる有益な特性を、潤滑油の配合者が活用することを可能とする。
更なるテストオイルを、サクシンイミド分散剤;スルホン酸カルシウム洗浄剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP);ヒンダードフェノール、ジフェニルアミンおよび硫化エステルを含む酸化防止剤の組合せ;ケイ素-含有消泡剤;流動点降下剤;および粘度調整剤を含むベース潤滑油を用いて製造した。上記と同様に、使用したそのベースストックは、APIグループIIベースストックであった。以下の表は、これらテストオイルを詳述する。
【0044】
【0045】
パーファド(PerfadTM) 3006は、WO 2015/065801に記載されているような、ソルビトール、エチレンオキサイドおよびポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)の反応により形成される、ポリマー系有機摩擦調整剤であると考えられる。パーファド3006は、従って本発明において使用される上記ポリマー系有機摩擦調整剤とは化学的に異なっている。
上述のようなMTM-Rテストを、テストオイル12~14について実施して、以下の結果を得た。
【0046】
【0047】
前と同様に、単独の上記モリブデン化合物の存在は、上記DLC表面上での著しく高い磨耗へと導く(オイル12と13とを比較せよ)。しかし、パーファド3006と上記モリブデン化合物との組合せは、良好な摩擦性能を与えたが、該DLC表面に対して与えられた磨耗保護性は、さほど顕著なものとは言えなかった。オイル13と14との比較は、単独の該モリブデン化合物の存在に関連して、パーファド3006の追加の存在は、僅かに25%のWSVにおける低下をもたらした。これは、該ポリマー系有機摩擦調整剤の存在が、WSVにおける60%の低下をもたらした、オイル2および7に関する結果と対比させることができる。従って、本発明において使用される該ポリマー系有機摩擦調整剤が、パーファド3006よりも、スチール-DLC接触部における磨耗を防止する際に、有意に一層効果的であることは明白である。