(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】共役系導電性重合体を含有する分散液の製造方法、固体電解コンデンサの製造方法および固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20220830BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2018068443
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】川原 勇汰
(72)【発明者】
【氏名】大久保 隆
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-157555(JP,A)
【文献】特表2013-539227(JP,A)
【文献】特開2017-200995(JP,A)
【文献】特開2009-267232(JP,A)
【文献】特開2006-186292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で、共役系導電性重合体を得るための単量体化合物を重合して、共役系導電性重合体を含む分散液(1)を得ると共に、前記分散液(1)に分散処理を施して、前記共役系導電性重合体を含有する分散液(2)を得る工程(A)を含み、
前記工程(A)において、
前記分散処理中の前記分散液(1)に、または
前記単量体化合物の重合中に前記分散液(1)を得る途上の前記水性媒体に塩化合物を添加する
共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項2】
ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で、共役系導電性重合体を得るための単量体化合物を重合して、共役系導電性重合体を含む分散液(1)を得ると共に、前記分散液(1)に分散処理を施して、前記共役系導電性重合体を含有する分散液(2)を得る工程(A)を含み、
前記分散処理は、前記重合の後に行われ、
前記工程(A)において、前記単量体化合物の重合後かつ前記分散処理前の前記分散液(1)に塩化合物を添加する
共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項3】
前記塩化合物の添加量が前記分散液(2)の量の0.01~30質量%となる量である、請求項1
または2に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項4】
前記塩化合物が、有機酸塩及び無機酸塩から選択される少なくとも1種である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項5】
前記塩化合物が、クエン酸塩、乳酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、酒石塩、塩酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸水素塩、およびリン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項6】
前記分散処理の後、脱塩する請求項
1~5のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項7】
前記分散処理は、高圧ホモジナイザーを用いて行われる請求項1~
6のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項8】
前記水性媒体にポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子が分散している、請求項1~
7のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項9】
前記シード粒子がエチレン性不飽和単量体の重合体の粒子である請求項
8に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項10】
前記ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子のd50粒子径が0.01~10μmである請求項
8または
9に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項11】
前記単量体化合物が、ピロール化合物、アニリン化合物、及びチオフェン化合物からな
る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~
10のいずれか一項に記載の共役系導
電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項12】
前記単量体化合物が、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表し、または
R
1及びR
2は、R
1とR
2
とが互いに結合して、置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。)で示される化合物である請求項1~
11のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアニオンが、スルホ基およびスルホ基の塩からなる基の少なくとも一方を有するポリマーである請求項1~
12のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項14】
前記ポリアニオンが、前記ポリアニオン中のアニオン性基の割合が前記単量体化合物1モルに対し0.25~30.00モルとなる量で使用される請求項1~
13のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法。
【請求項15】
表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体と、前記誘電体被膜の表面に設けられた固体電解質層とを有する固体電解コンデンサの製造方法であって、
請求項1~
14のいずれか一項に記載の共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の製造方法によって、分散液(2)を得る工程(A)、
前記分散液(2)を、表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(B)、および
前記多孔性陽極体に付着した前記分散液(2)から前記水性媒体を除去し固体電解質層を形成する工程(C)
を有
する
固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
請求項
15に記載の製造方法により得られた固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法及びその製造方法により得られる固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に陽極酸化によって誘電体酸化被膜を形成し、これに固体電解質を接触させて製造され、固体電解質として導電性高分子を用いた固体電解コンデンサが提案されている。
【0003】
陽極酸化による誘電体酸化被膜で被われる金属の例として、アルミニウム、タンタル、ニオブ等が知られている。
また、固体電解コンデンサに用いられる導電性高分子として、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリ(p-フェニレン-ビニレン)、ポリアセン、ポリチオフェンビニレン及びその誘導体等の共役系導電性重合体が知られている。また、上記共役系導電性重合体の対アニオンとしてポリスチレンスルホン酸等のポリアニオンを共役系導電性重合体へドープする技術が知られている。
【0004】
固体電解質は、一般的に弁作用を有する金属表面に形成した誘電体酸化被膜上に、単量体化合物溶液と酸化剤溶液とを化学酸化重合して形成するか、もしくは電解重合によって形成する。また、導電性高分子水溶液もしくは懸濁液の塗布によって形成する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、コンデンサ素子に導電性高分子の微粒子を分散させた導電性高分子分散水溶液を含浸させて第1の固体電解質層を形成する工程と、この第1の固体電解質層の表面に、複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液を個々に含浸させることにより、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合溶液を含浸させることにより第2の固体電解質層を形成する工程とを具備した製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、弁金属粉末を焼結してなる焼結体の表面に誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子に、固体電解質層として重合性モノマーの化学重合により導電性高分子層を形成した後、このコンデンサ素子を導電性高分子溶液に浸漬、または導電性高分子溶液を塗布し乾燥させることにより、化学重合による導電性高分子層の上にさらに厚く導電性高分子層を形成する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、導電性ポリマーをコンデンサ内部へ含浸させるために、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT-PSS)分散液を低粘度化し、超音波照射を用いて重合するプロセスが提案されている。
【0008】
特許文献4には、単量体化合物とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、単量体化合物を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程により、コンデンサ特性に優れた固体電解コンデンサを生産性よく製造できる方法及び固体電解コンデンサが示されている。この固体電解コンデンサは、導電性高分子を用いることで低等価直列抵抗(ESR)、優れた周波数特性、温度変化に対し特性変化が小さいという特徴を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-100561号公報
【文献】特開2005-109252号公報
【文献】特表2011-510141号公報
【文献】国際公開第2014/163202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの従来技術には、容量発現率(静電容量)及び等価直列抵抗(ESR)の性能をさらに改善する余地があった。
本発明は、容量発現率(静電容量)が高く、かつ等価直列抵抗(ESR)が低い固体電解コンデンサ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、固体電解コンデンサの固体電解質として用いる共役系導電性重合体分散液の製造過程において、共役系導電性重合体とポリアニオンとが形成する複合体の解凝集を効率的に行うために、これらを含む分散液に塩化合物を添加することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は下記[1]~[14]の固体電解コンデンサの製造方法及び固体電解コンデンサに関する。
[1]
表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体と、前記誘電体被膜の表面に設けられた固体電解質層とを有する固体電解コンデンサの製造方法であって、
ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で、共役系導電性重合体を得るための単量体化合物を重合して、共役系導電性重合体を含む分散液(1)を得ると共に、前記分散液(1)に分散処理を施して、前記共役系導電性重合体を含有する分散液(2)を得る工程(A)、
前記分散液(2)を、表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(B)、および
前記多孔性陽極体に付着した前記分散液(2)から前記水性媒体を除去し固体電解質層を形成する工程(C)
を有し、
前記工程(A)において、前記分散液(1)に、または前記分散液(1)を得る途上の前記水性媒体に塩化合物を添加する
固体電解コンデンサの製造方法。
【0013】
[2]
前記水性媒体にポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子が分散している、前記[1]の固体電解コンデンサの製造方法。
【0014】
[3]
前記塩化合物の添加量が分散液(2)の量の0.01~30質量%となる量である、前記[1]または[2]の固体電解コンデンサの製造方法。
【0015】
[4]
前記塩化合物が、有機酸塩及び無機酸塩から選択される少なくとも1種である、前記[1]~[3]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0016】
[5]
前記塩化合物が、クエン酸塩、乳酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、酒石塩、塩酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸水素塩、およびリン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、前記[1]~[4]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0017】
[6]
前記工程(A)において、前記分散液(1)に塩化合物を添加する、前記[1]~[5]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0018】
[7]
前記塩化合物を添加した直後の分散液(1)の粘度が、塩化合物を添加する直前の粘度に比べて1.05~100.0倍である、前記[1]~[6]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0019】
[8]
前記シード粒子がエチレン性不飽和単量体の重合体の粒子である前記[2]~[7]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0020】
[9]
前記ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子のd50粒子径が0.01~10μmである前記[2]~[8]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0021】
[10]
前記単量体化合物が、ピロール化合物、アニリン化合物、及びチオフェン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]~[9]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0022】
[11]
前記単量体化合物が、下記式(1)
【0023】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表し、または
R
1及びR
2は、R
1とRとが互いに結合して、置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。)
で示される化合物である前記[1]~[10]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0024】
[12]
前記ポリアニオンが、スルホ基およびスルホ基の塩からなる基の少なくとも一方を有するポリマーである前記[1]~[11]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0025】
[13]
前記ポリアニオンが、前記ポリアニオン中のアニオン性基の割合が前記単量体化合物1モルに対し0.25~30.00モルとなる量で使用される前記[1]~[12]のいずれかの固体電解コンデンサの製造方法。
【0026】
[14]
前記[1]~[13]のいずれかの製造方法により得られた固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0027】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法によれば、容量発現率(静電容量)が高く、かつ等価直列抵抗(ESR)が低い固体電解コンデンサを製造することができる。
本発明の固体電解コンデンサは、容量発現率(静電容量)が高く、かつ等価直列抵抗(ESR)が低い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施例等における工程(A)の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、
表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体と、前記誘電体被膜の表面に設けられた固体電解質層とを有する固体電解コンデンサの製造方法であって、
ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で、共役系導電性重合体を得るための単量体化合物を重合して、共役系導電性重合体を含む分散液(1)を得ると共に、前記分散液(1)に分散処理を施して、前記共役系導電性重合体を含有する分散液(2)を得る工程(A)、
前記分散液(2)を、表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(B)、および
前記多孔性陽極体に付着した前記分散液(2)から前記水性媒体を除去し固体電解質層を形成する工程(C)
を有し、
前記工程(A)において、前記分散液(1)に、または前記分散液(1)を得る途上の前記水性媒体に塩化合物を添加する
ことを特徴としている。
【0030】
本明細書においては、共役系導電性重合体を得るための単量体化合物を1種単独で重合して得られる重合体、および複数種の前記単量体化合物を共重合して得られる共重合体を合わせて「共役系導電性重合体」と言う。
【0031】
本明細書において、ポリアニオンがシード粒子の表面に配位して保護コロイドを形成した状態の粒子を「ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子」と言う。なお、ポリアニオンは、アニオン性基を2個以上有する重合体を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味し、また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0032】
<共役系導電性重合体を含有する分散液(2)を得る工程(A)>
(共役系導電性重合体を含む分散液(1)の調製)
共役系導電性重合体を含む分散液(1)を得る工程は、ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で上記単量体化合物を重合して行われる。この液のより具体的な態様としては、
(i)単量体化合物、ポリアニオンおよび水性媒体を含む液、および
(ii)単量体化合物,ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子および水性媒体を含む液
が挙げられる。液(ii)には、さらにポリアニオン(シード粒子の保護コロイド化に用いられるポリアニオンとは別に添加されるポリアニオン。以下「遊離ポリアニオン」と記載する場合もある。)が含まれていてもよい。
【0033】
共役系導電性重合体を含む分散液(1)は、共役系導電性重合体とポリアニオンとの複合体、および共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との複合体から選択される少なくとも一つの複合体が水性媒体中に分散した分散液である。本工程において、ポリアニオンは共役系導電性重合体にドープされることで複合体を形成すると考えられる。
【0034】
[単量体化合物]
前記共役系導電性重合体の構成単位を誘導する単量体化合物は、ピロール化合物(すなわち、置換基を有してもよいピロール)、アニリン化合物(すなわち、置換基を有してもよいアニリン)、及びチオフェン化合物(すなわち、置換基を有してもよいチオフェン)から選ばれる1種以上であることが好ましい。置換基としては、例えば炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基が挙げられる。なお、上記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子およびシアノ基から選ばれる1種以上で置換されていてもよい。また、2つ以上の前記置換基が縮合して環を形成していてもよい。
【0035】
上記単量体化合物の具体例としては、前記ピロール化合物である、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシルピロール、3-メチル-4-カルボキシルピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール;
前記アニリン化合物である、アニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸;
前記チオフェン化合物である、チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン、3,4-エチレンオキシチアチオフェン;
が挙げられる。
【0036】
前記単量体化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記化合物の中でも、導電性が高い共役系導電性重合体を得る観点からは、ピロール、N-メチルピロール、チオフェン、3-メチルチオフェン、3-メトキシチオフェン及び3,4-エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0037】
前記単量体化合物には、上記の化合物の中でも下記式(1)で示される化合物が含まれることが好ましく、下記式(2)で示される化合物が含まれることがより好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェンが含まれることがさらに好ましい。
【0038】
【0039】
上記式(1)中、R1及びR2は、各々独立して、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数(置換基の炭素数は含まない。以下も同様である。)1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表す。R1とR2とは互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。「R1とR2とが互いに結合して環を形成した」とは、「R1とR2とが互いに結合し、式(1)のチオフェン骨格中の2つの炭素原子と共に環を形成した」ことを意味し、R1とR2とが互いに結合して形成された環の炭素数には、チオフェン骨格中の炭素原子2つが含まれる。
【0040】
置換基としては、例えば炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基が挙げられる。なお、上記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子またはシアノ基で置換されていてもよい。また2つ以上の置換基が縮合して環を形成していてもよい。
【0041】
上記酸素原子含有複素環としては、オキシラン環、オキセタン環、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環、ピロン環、ジオキサン環、トリオキサン環等が挙げられる。
上記イオウ原子含有複素環としては、チイラン環、チエタン環、チオフェン環、チアン環、チオピラン環、チオピリリウム環、ベンゾチオピラン環、ジチアン環、ジチオラン環、トリチアン環等が挙げられる。
【0042】
上記イオウ原子及び酸素原子含有複素環としては、オキサチオラン環、オキサチアン環等が挙げられる。
式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を表し、または、R3とR4とが互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~6の酸素原子含有複素環を表す。
【0043】
R3及びR4は、好ましくはR3とR4とが互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~6の酸素原子含有複素環である。「R3とR4とが互いに結合して環を形成した」とは、「R3とR4とが互いに結合し、隣接する2つの酸素原子、および式(2)のチオフェン骨格中の2つの炭素原子と共に環を形成した」ことを意味し、R3とR4とが互いに結合して形成された環の炭素数には、チオフェン骨格中の炭素原子2つが含まれる。
【0044】
上記酸素原子含有複素環としては、ジオキサン環、トリオキサン環等が挙げられ、好ましくはジオキサン環である。置換基としては、例えば炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基が挙げられる。なお、上記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子またはシアノ基で置換されていてもよい。また2つ以上の置換基が縮合して環を形成していてもよい。
【0045】
[共役系導電性重合体]
前記共役系導電性重合体は、主鎖にπ共役系を有する有機高分子化合物であれば特に限定されるものではない。共役系導電性重合体としては、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリイソチアナフテン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及び重合体のモノマー単位を2種以上含む共重合体等が挙げられる。
【0046】
これらの共役系導電性重合体の中でも、導電性が高い点から、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)及びポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。特に導電性がより高く、耐熱性にも優れていることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)がより好ましい。
【0047】
[ポリアニオン]
前記ポリアニオンは、アニオン性基を有するモノマー単位を2つ以上有する重合体であり、シード粒子の表面に配位して保護コロイドを形成し、かつ、共役系導電性重合体へのドーパントとして機能する。
【0048】
アニオン性基としては、例えば、スルホ基またはその塩からなる基(スルホ基の水素原子を金属原子に置換してなる基。たとえばSO3Na、SO3K、SO3(NH4)。)、リン酸基またはその塩からなる基(リン酸基の水素原子を金属原子に置換してなる基。たとえばPO4Na2、PO4NaH、PO4K2、PO4KH、PO4(NH4)2、PO4(NH4)H。)、一置換リン酸エステル基、カルボキシル基またはその塩からなる基(カルボキシル基の水素原子を金属原子に置換してなる基。たとえばCOONa、COOK、COO(NH4)。)、一置換硫酸エステル基が挙げられる。これらの中でも、強酸性基が好ましく、スルホ基またはその塩からなる基、及びリン酸基またはその塩からなる基がより好ましく、スルホ基またはその塩からなる基がさらに好ましい。
【0049】
アニオン性基は、重合体の主鎖に直接結合していても、側鎖に結合していてもよい。アニオン性基が側鎖に結合している場合、ドープ効果がより顕著となることから、側鎖の末端に結合していることが好ましい。
【0050】
ポリアニオンは、アニオン性基以外の置換基を有してもよい。置換基としては、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、エステル基、ハロゲノ基、アルケニル基、イミド基、アミド基、アミノ基、オキシカルボニル基、カルボニル基等が挙げられる。これらの中でアルキル基、水酸基、シアノ基、ヒドロキシフェニル基、オキシカルボニル基が好ましく、アルキル基、水酸基、シアノ基がより好ましい。置換基はポリマー主鎖に直接結合していてもよいし、側鎖に結合していてもよい。側鎖に置換基が結合している場合にそれぞれの置換基の作用効果を示すため、置換基は側鎖の末端に結合していることが好ましい。
【0051】
ポリアニオン中に置換し得るアルキル基は、水性媒体への溶解性及び分散性、共役系導電性重合体との相溶性及び分散性等を高くする作用が期待できる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。水性媒体への溶解性、共役系導電性重合体への分散性、立体障害等を考慮すると、炭素数1~12のアルキル基がより好ましい。
【0052】
ポリアニオン中に置換し得る水酸基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくし、水性媒体への溶解性、共役系導電性重合体との相溶性、分散性、接着性を高くする作用が期待できる。水酸基は、ポリマー主鎖に結合した炭素数1~6のアルキル基の末端に結合したものが好ましい。
【0053】
ポリアニオン中に置換し得るシアノ基及びヒドロキシフェニル基は、共役系導電性重合体との相溶性、水性媒体への溶解性、耐熱性を高くする作用が期待できる。シアノ基は、ポリマー主鎖に直接結合したもの、ポリマー主鎖に結合した炭素数1~7のアルキル基の末端に結合したもの、ポリマー主鎖に結合した炭素数2~7のアルケニル基の末端に結合したものが好ましい。ヒドロキシフェニル基としては、4-ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0054】
ポリアニオン中に置換し得るオキシカルボニル基は、ポリマー主鎖に直接結合した、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、他の官能基を介在してなるアルキルオキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基が好ましい。
【0055】
ポリアニオンのポリマー主鎖の組成は、特に制限されない。ポリマー主鎖としては、例えば、ポリアルキレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。これらのうち、合成や入手し易さの観点から、ポリアルキレンが好ましい。
【0056】
ポリアルキレンは、エチレン性不飽和単量体の繰り返し単位で構成されるポリマーである。ポリアルキレンは主鎖に炭素-炭素二重結合を有してもよい。ポリアルキレンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3-トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等が挙げられる。
【0057】
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2,3,3-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2-[4,4’-ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物とオキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとの重縮合反応で得られるものが挙げられる。
【0058】
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0059】
ポリアニオンとして好適に用いられるスルホ基およびスルホ基の塩からなる基の少なくとも一方を有するポリマーの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、およびポリイソプレンスルホン酸、ならびにこれらの全部または一部のスルホ基をスルホ基の塩からなる基に置き換えたもの等が挙げられる。これらは単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマー単位を含む共重合体であってもよい。これらのうち、導電性付与の点から、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、およびポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ならびにこれらの全部または一部のスルホ基をスルホ基の塩からなる基に置き換えたものが好ましく、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、およびポリスチレンスルホン酸の全部または一部のスルホ基をスルホ基の塩からなる基に置き換えたものがより好ましい。
【0060】
ポリアニオン、特にスルホ基およびスルホ基の塩からなる基の少なくとも一方を有するポリマーは、単量体化合物の水性媒体中での分散性を向上させ、さらに共役系導電性重合体のドーパントとして機能する。
【0061】
前記ポリアニオンの重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは5,000~500,000、さらに好ましくは50,000~300,000である。重量平均分子量がこの範囲にあると、ポリアニオンの水性媒体への溶解性、ポリアニオンの共役系導電性重合体へのドーピングが良好となる。なお、ここで言う重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算分子量として測定された値である。
【0062】
ポリアニオンは市販品の中から上記特性を有するものを選択してもよいし、または公知の方法により合成したものでもよい。ポリアニオンの合成法は、例えば、特開2005-76016号公報に記載されている。
【0063】
ポリアニオンの使用量、すなわちシード粒子の保護コロイド化に使用されるもの、重合開始前に予め仕込んでおくもの及び重合途上で添加するものを合わせたポリアニオンの総使用量は、ポリアニオン中のアニオン性基が、単量体化合物1モルに対して、好ましくは0.25~30モル、より好ましくは0.5~28モル、さらに好ましくは0.8~25モルとなる量である。
【0064】
また、本工程で製造される共役系導電性重合体100質量部に対するポリアニオンの使用量は、好ましくは10~30,000質量部、より好ましくは30~20,000質量部、さらに好ましくは50~15,000質量部である。
ポリアニオンの使用量が10質量部以上であれば導電性重合体の導電性が適切であり、30,000質量部以下であれば導電性重合体の水性媒体中での分散性が良好である。
【0065】
[シード粒子]
本発明に用いられてもよいシード粒子は、水性媒体中でポリアニオンにより保護コロイド化されたポリマー粒子である。シード粒子としては、例えば、1種または2種以上のエチレン性不飽和単量体を構成単位として含む重合体からなるものが好ましい。重合体は、1種単独でも、2種以上の混合物でもよく、また、結晶性または非晶性のいずれでもよい。結晶性の場合は、結晶化度が50%以下であることが好ましい。
【0066】
結晶化度は、示差走査熱量計またはX線回折装置で測定することができる。
エチレン性不飽和単量体は、重合性のエチレン性炭素-炭素二重結合を1個以上有する単量体である。エチレン性不飽和単量体としては、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチルアクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、アルカン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のモノオレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のハロゲン原子を有していてもよい共役ジオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和モノあるいはジカルボン酸;アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有ビニル化合物が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
また、エチレン性不飽和単量体は、架橋性単量体であってもよく、それ自身同士を、または架橋性単量体と活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物と組み合わせて架橋させてもよい。架橋した共重合体とすることにより、導電膜の耐水性、耐湿性、耐熱性等を向上させることができる。なお、架橋性単量体とは、エチレン性炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物、またはエチレン性炭素-炭素二重結合を1個以上有し、かつその他の反応性基を1個以上有する化合物を言う。
【0068】
架橋性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β-エチレン性不飽和化合物;ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β-エチレン性不飽和化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物等が挙げられる。
【0069】
また、カルボニル基含有α,β-エチレン性不飽和化合物(ケトン基含有のもの)等の架橋性単量体を用いて、ポリヒドラジン化合物(特に、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等の2個以上のヒドラジド基を有するもの)と組み合わせて架橋させてもよい。
エチレン性不飽和単量体中の架橋性単量体の含有量は、50質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0070】
(ポリアニオンによって保護コロイド化されたシード粒子の製造)
シード粒子は、水性媒体中でポリアニオンによって保護コロイド化される。水性媒体中に分散した保護コロイド化されたシード粒子の分散液は、樹脂エマルジョンとして製造することができる。
【0071】
樹脂エマルジョンを製造する際のエチレン性不飽和単量体の重合反応は、ラジカル重合反応であり、常圧反応器または耐圧反応器を用い、バッチ式、半連続式、連続式のいずれかの方法で行われる。また、重合時の反応安定性や重合体の均一性の点から、ポリアニオンを水性媒体中に予め溶解させたポリアニオン含有液に、エチレン性不飽和単量体を水性媒体中に溶解させたエチレン性不飽和単量体溶液を連続的または断続的に添加して、エチレン性不飽和単量体を重合させることが好ましい。
【0072】
反応温度は、重合開始剤の分解温度にもよるが、通常、10~100℃であり、30~90℃が一般的である。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の使用量、重合開始剤の種類及び反応温度等に応じて適宜調整すればよい。
【0073】
ラジカル重合する際、保護コロイドであるポリアニオンがエマルジョン粒子の安定性に寄与するが、必要に応じてアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤及び反応性乳化剤等の乳化剤や、脂肪族アミン等を重合系内に添加してもよい。乳化剤、脂肪族アミンの種類や使用量は、ポリアニオンの使用量、エチレン性不飽和単量体の組成をはじめとした種々の条件に応じて適宜調節すればよい。
【0074】
このようなラジカル重合反応に使用する乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル等のアニオン性乳化剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0075】
脂肪族アミンとしては、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の1級アミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン等の2級アミン、N,N-ジメチルラウリルアミン、N,N-ジメチルミリスチルアミン、N,N-ジメチルパルミチルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N.N-ジメチルベヘニルアミン、N,N-ジメチルオレイルアミン、N-メチルジデシルアミン、N-メチルジオレイルアミン等の3級アミン等が挙げられる。
乳化剤及び脂肪族アミンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
また、得られる共役系導電性重合体の特性を損なわない範囲で、上述したエチレン性不飽和単量体の重合反応を行う際に、水性媒体中にポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を併存させてもよい。
【0077】
シード粒子の分散液を製造する際に使用される水性媒体としては、水、または水と水溶性溶媒との混合溶媒が挙げられる。混合溶媒中での水溶性溶媒の割合は0~30質量%が好ましい。水溶性溶媒の割合が30質量%以下であると樹脂エマルジョンの重合反応を安定化させることができる。水溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0078】
ラジカル重合に際して使用される重合開始剤としては、公知慣用のものを使用することができる。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物類、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ化合物類が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤をナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸類、亜硫酸塩類、酒石酸またはその塩類、硫酸鉄(II)等と組み合わせてレドックス重合としてもよい。また、必要に応じて、アルコール類、メルカプタン類等の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0079】
保護コロイド化されたシード粒子の製造時におけるエチレン性不飽和単量体の使用量は、ポリアニオン100質量部に対して、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~80質量部、さらに好ましくは30~70質量部である。エチレン性不飽和単量体の使用量が10質量部以上であれば、共役系導電性重合体に占めるポリアニオンによって保護コロイド化されたシード粒子を含む導電性重合体の割合が適切であり、重合による増粘を抑制できる。100質量部以下であれば、保護コロイド化されたシード粒子の安定性が良好である。
【0080】
保護コロイド化されて、水性媒体中に分散しているシード粒子の粒径のd50(体積基準での50%メジアン径)は、0.01~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1μmで、さらに好ましくは0.1~0.8μmである。シード粒子の粒子径分布は、日機装(株)製、マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定できる。水性媒体中に分散しているシード粒子の粒径のd50が0.01μm以上であればシード粒子の分散性が良好であり、10μm以下であれば粒子が沈降しにくい。
【0081】
《単量体化合物の重合》
単量体化合物の重合は、当該単量体化合物、ポリアニオンおよび水性媒体を含む液の中で行われる。この液のより具体的な態様としては、
(i)当該単量体化合物、ポリアニオンおよび水性媒体を含む液、および
(ii)当該単量体化合物、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子および水性媒体を含む液
が挙げられる。
【0082】
[単量体化合物液]
単量体化合物を上記液中で重合するためには、単量体化合物とポリアニオンとを含む分散液、または単量体化合物とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液(以下、併せて単に「単量体化合物液」と称すことがある。)を調製する。
【0083】
上記単量体化合物液は、単量体化合物が溶解、乳化または分散しているものであればよく、そのためには通常、ホモジナイザー等の強力な撹拌装置または超音波照射装置が使用される。たとえば、超音波照射による乳化の場合、超音波照射エネルギーは、均一な単量体化合物液が得られるのであれば特に限定されない。超音波照射は、消費電力5~500W/L(リットル)、照射時間0.1~2時間/L(リットル)で行うことが好ましい。
【0084】
また、単量体化合物液として単量体化合物とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液を用いる場合には、重合により生成する共役系導電性重合体の凝集を抑える観点から、シード粒子の保護コロイド化に使用されるものと同じポリアニオン(すなわち、遊離ポリアニオン)を単量体化合物液に含有させることが好ましい。このポリアニオン(すなわち、遊離ポリアニオン)は、単量体化合物液に添加し、溶解、乳化または分散させることによって含有させることができる。遊離ポリアニオンを単量体化合物液に含有させる場合、その量は、使用するポリアニオンの総量(すなわち、シード粒子の保護コロイド化に使用されているポリアニオンおよび遊離ポリアニオンの合計量)の5~99質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、20~80質量%がさらに好ましい。
【0085】
[水性媒体]
単量体化合物の重合に用いられる水性媒体は、共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との複合体、共役系導電性重合体とポリアニオンとの複合体、またはこれら2種の複合体を分散させることができるものであれば特に限定されないが、シード粒子の分散液に用いた水性媒体と同じ種類のものが好ましい。
【0086】
単量体化合物の重合に用いられる水性媒体としては、水、または水と水溶性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
水溶性溶媒としては、例えば、N-ビニルピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のアミド類;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコール類;アセトン等のケトン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
混合溶媒中での水溶性溶媒の割合は0~30質量%が好ましい。水性媒体は、水を50~99質量%含むことがより好ましく、水を単独で用いることがさらに好ましい。水溶性溶媒の割合が30質量%以下であると単量体化合物の重合反応を安定化させることができる。
【0088】
水性媒体の使用量は、単量体化合物、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子、及び保護コロイド化に寄与していないポリアニオンの総計100質量部に対して、好ましくは10~50,000質量部、より好ましくは50~10,000質量部である。水性媒体の使用量が10質量部以上であれば重合中の粘度が適切であり、50,000質量部以下であれば固体電解コンデンサの性能が良好である。
【0089】
[酸化剤]
上記単量体化合物の重合において、例えば、ポリピロール類やポリチオフェン類を共役系導電性重合体として含む分散液を製造する場合、酸化剤の存在下に単量体化合物液を所定の温度にすることによって重合が開始される。
【0090】
酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ二硫酸塩;三フッ化ホウ素等の金属ハロゲン化合物;塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物;酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物;過酸化水素、オゾン等の過酸化物;過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;酸素等が挙げられる。これらのうちペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸塩が好ましく、ペルオキソ二硫酸塩がより好ましい。
上記酸化剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
[重合温度]
上記単量体化合物の重合時の温度は通常、5~80℃であり、好ましくは10~60℃であり、より好ましくは15~40℃である。重合時の温度をこの範囲内にすると、適度な反応速度で重合を行うことができ、反応液の粘度の上昇を抑えることができ、共役系導電性重合体を含む分散液の製造を安定的に経済的な時間で行うことができ、かつ得られる共役系導電性重合体の導電率が高くなる傾向がある。重合時の温度は、公知のヒータやクーラを用いることにより管理することができる。また、必要に応じ、上記範囲内で温度を変化させながら重合を行ってもよい。
【0092】
[保護コロイド化されたシード粒子の分散液の添加]
上記単量体化合物と保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液を用いた上記単量体化合物の重合中に、反応液にポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子の分散液をさらに添加することが好ましい。上記単量体化合物の重合中に、所定量の保護コロイド化されたシード粒子の分散液をさらに添加することにより、重合時の反応液の増粘を抑制でき撹拌混合効率の向上や製造装置への負荷を低減することができる。重合中に添加する保護コロイド化されたシード粒子の分散液の量は、使用する保護コロイド化されたシード粒子の分散液の総量の10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
【0093】
[ポリアニオンの添加]
上記単量体化合物の重合中に、反応液にポリアニオンをさらに添加してもよい。上記単量体化合物の重合中に所定量のポリアニオンの一部をさらに添加することにより重合時の反応液の増粘を抑制でき撹拌混合効率の向上や製造装置への負荷を低減することができる。重合中に添加するポリアニオンの量は、使用するポリアニオンの総量の0~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
【0094】
(共役系導電性重合体を含有する分散液(2)の調製)
工程(A)では、上記のように共役系導電性重合体を含む分散液(1)を調製すると共に、前記分散液(1)に分散処理を施すことで、前記共役系導電性重合体を含有する分散液(2)(以下「共役系導電性重合体含有分散液(2)」ともいう。)を得る。
【0095】
なお、共役系導電性重合体の種類の異なる2種以上の分散液(1)を準備し、これらを混合して得られた分散液に対して分散処理を施してもよい。
前記共役系導電性重合体を含む分散液(1)は、(i)共役系導電性重合体とポリアニオンとの複合体、および(ii)共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との複合体、から選択される少なくとも一つが水性媒体中に分散した分散液である。
【0096】
前記重合性化合物の重合の進行とともに前記複合体は凝集することがある。
静電容量およびESRの向上のためには多孔性陽極体への含浸性を向上させる必要があるため、本発明においては、工程(A)において複合体を解砕し、平均粒子径が1~10μmの微粒子が分散された状態とする。
【0097】
[分散処理]
分散処理は、前記複合体を前記微粒子の大きさまで解砕するものであり、ホモジナイザー等の強力な撹拌装置や超音波照射によって行うことが好ましい。分散処理は前記重合性化合物を重合する際に行ってもよい。すなわち、分散処理が施される分散液(1)には、未反応の前記重合性化合物が含まれていてもよい。例えば、特開2007-332183公報にはせん断速度5,000s-1以上で撹拌しながら共役系導電性重合体を重合させる方法が記載されている。
【0098】
超音波照射の場合、分散処理液あたりの消費電力5~500W/Lで行うことが好ましい。分散処理は、フロー方式でもバッチ方式でもどちらでもよい。
高圧ホモジナイザーを使用する場合、高圧ホモジナイザーの圧力は、好ましくは10~2000barであり、より好ましくは20~1500barであり、さらに好ましくは50~1000barである。高圧ホモジナイザーの圧力が10bar以上であれば、分散処理が効率的に行われ、固体電解コンデンサの性能が良好である。高圧ホモジナイザーの圧力が2000bar以下であれば、分散処理の際の作業性が良好である。
【0099】
例えば、分散処理能力が500ml/分の高圧ホモジナイザーを用いて、1500mlの分散液を分散処理する場合、分散液全量を1回分散処理するのに必要な時間は3分となる。分散処理時間は、好ましくは合計15~900分であり、より好ましくは30~600分であり、さらに好ましくは60~300分である。高圧ホモジナイザーの分散処理時間が3分以上であれば、分散処理の効果が発現され、固体電解コンデンサの性能が良好である。高圧ホモジナイザーの分散処理回数が900分以下であれば、分散処理の効率性が良好である。
【0100】
[分散液の濃度]
分散処理を行うときの分散液(1)中の共役系導電性重合体の濃度は、分散処理における生産性を損なわない範囲で、とくに限定はされないが、固体電解コンデンサへの含浸性の観点から、仕上がりの濃度、すなわち工程(A)により得られる分散液(2)中の共役系導電性重合体の濃度は1.0~10.0質量%が好ましい。1.0質量%以上であれば、固体電解コンデンサの等価直列抵抗が良好である。10.0質量%以下であれば、静電容量が良好である。
【0101】
水性媒体で希釈することで分散液(1)中の共役系導電性重合体の濃度を下げてもよい。希釈のタイミングは、分散処理の前、分散処理の途中、分散処理の後のいずれでも構わないが、分散処理の途中に行うことが好ましい。分散処理の途中で水性媒体により希釈することで、高濃度で効率よく分散処理を行うことができ、希釈による再凝集の影響を軽減できる。
【0102】
[塩化合物の添加]
本発明では工程(A)において、前記分散液(1)に、または前記分散液(1)を得る途上の前記水性媒体に塩化合物を添加する。塩化合物の添加により分散液のイオン強度を高め、分散していた複合体を凝集させ、分散液(1)を増粘させることが可能となる。増粘後に再度複合体を分散させることで、複合体の解凝集を促進させることができる。
【0103】
複合体の解凝集の促進により固体電解コンデンサの静電容量及びESRが向上する原因の詳細は不明であるが、複合体の表面における共役系導電性重合体の存在率に変化が生じると推測される。
【0104】
塩化合物を添加するタイミングは特に制限は無いが、均一性を確保するため、単量体化合物の重合における撹拌中、又は分散液(1)の分散処理中が好ましい。なお、後述の脱塩を行う場合、脱塩後に再び塩化合物を添加して分散してもよい。分散液(1)の分散処理中に塩化合物を添加することが好ましく、分散処理終了の10分前までに添加することがより好ましい。
【0105】
塩化合物としては、水性媒体に溶解し、分散液のイオン強度を高め、分散液を増粘させるものであれば特に制限されない。
例えば、水性媒体に溶解し、分散液のイオン強度を高め、分散液を増粘させる無機塩及び有機塩から選ばれる少なくとも一種の塩化合物であることが好ましい。
【0106】
有機塩としては、クエン酸塩、乳酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩および酒石塩などが挙げられ、より具体的には酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
無機塩としては、塩酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸水素塩、およびリン酸塩などが挙げられ、より具体的には塩化アルミニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、塩化アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムが好ましい。これらの塩化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
添加量は分散液(2)の総量(100質量%)に対して0.01~30質量%となる量が好ましく、0.01~15質量%となる量がさらに好ましく、0.01~5質量%となる量がより好ましい。添加量が0.01質量%以上であれば、分散液(1)の増粘が十分であり、30質量%以下であれば、分散処理の効率性が良好である。
【0109】
増粘させた直後の分散液の粘度(たとえば、塩化合物添加から6分後の粘度)は、好ましくは、増粘させる前の粘度(たとえば、塩化合物添加直前の粘度)の1.05~100.0倍の粘度であり、さらに好ましくは1.10~50.0倍の粘度であり、上限はたとえば15倍であってもよい。増粘直後の分散液の粘度が増粘させる前の粘度の1.05倍以上であれば、共役系導電性重合体の解凝集が効率的に行われ、固体電解コンデンサの性能が良好である。増粘直後の分散液の粘度が増粘させる前の粘度の100.0倍以下であれば、分散処理の効率が良好である。
【0110】
[添加剤]
共役系導電性重合体を含む分散液(1)には、必要に応じて種々の添加剤を添加することができる。添加剤は、共役系導電性重合体、及びポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子若しくはポリアニオンと混合しうるものであれば特に制限されない。
【0111】
このような添加剤としては、例えば、中和剤、水溶性高分子化合物、水分散性化合物、アルカリ性化合物、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、電気伝導率向上剤が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
水溶性高分子化合物は、高分子の主鎖または側鎖にカチオン性基やノニオン性基を有する水溶性ポリマーである。水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリオキシアルキレン、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸が挙げられる。これらのうち、ポリオキシアルキレンが好ましい。
【0113】
ポリオキシアルキレンの具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オリゴポリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノクロルヒドリン、ジエチレングリコールモノクロルヒドリン、オリゴエチレングリコールモノクロルヒドリン、トリエチレングリコールモノブロムヒドリン、ジエチレングリコールモノブロムヒドリン、オリゴエチレングリコールモノブロムヒドリン、ポリエチレングリコール、グリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリエチレンオキシド、トリエチレングリコール・ジメチルエーテル、テトラエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジエチルエーテル・ジエチレングリコール・ジブチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンジオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドが挙げられる。
【0114】
水分散性化合物は、親水性の低い化合物の一部が親水性の高い官能基で置換されたもの、あるいは、親水性の低い化合物の周囲に親水性の高い官能基を有する化合物が吸着したもの(例えばエマルジョン等)であって、水中で沈殿せずに分散するものが挙げられる。具体例としては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらポリマーのエマルジョンが挙げられる。また、アクリル樹脂とポリエステルやポリウレタン等の他の共重合体とのブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。
【0115】
水溶性高分子化合物及び水分散性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性高分子化合物及び水分散性化合物を添加することにより、導電性重合体を含む分散液の粘度調節ができ、また塗布性能を向上させることができる。
【0116】
水溶性高分子化合物及び水分散性化合物の使用量は、共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との合計100質量部に対して、好ましくは10~100,000質量部、より好ましくは25~50,000質量部、さらに好ましくは50~20,000質量部である。水溶性高分子化合物及び水分散性化合物の量が10~100,000質量部の範囲にあると適正な導電性を発現させることができ、良好な固体電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR)が得られる。
【0117】
アルカリ性化合物として、公知の無機アルカリ性化合物や有機アルカリ性化合物を使用できる。無機アルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアが挙げられる。有機アルカリ性化合物として、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。アルカリ性化合物の添加によって分散液を適用した物品に耐腐食性を付与することでき、また共役系導電性重合体含有分散液のpHを調整することができる。
【0118】
芳香族アミンの中では、窒素含有ヘテロアリール環化合物が好ましい。窒素含有ヘテロアリール環化合物は芳香族性を示す窒素含有ヘテロ環化合物である。芳香族アミンにおいては、ヘテロ環に含まれる窒素原子が他の原子と共役関係を持つ。
【0119】
窒素含有ヘテロアリール環化合物としては、例えば、ピリジン類、イミダゾール類、ピリミジン類、ピラジン類、トリアジン類が挙げられる。これらの中でも、溶媒溶解性等の観点から、ピリジン類、イミダゾール類、ピリミジン類が好ましい。
【0120】
脂肪族アミンとしては、例えば、エチルモルホリン、エチルアミン、n-オクチルアミン、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アリルアミン、2-エチルアミノエタノール、2,2’-イミノジエタノール、N-エチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0121】
アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、カルシウムアルコキシドが挙げられる。
【0122】
界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤;アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤;カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0123】
消泡剤としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジンが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類が挙げられる。
【0124】
電気伝導率向上剤は、導電性重合体を含む分散液の電気伝導率を増大させるものであれば特に制限されない。電気伝導率向上剤としては、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル結合を含む化合物;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン基を含む化合物;カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルホルムアニリド、N-メチルピロリドン、N-オクチルピロリドン、ピロリドン等のアミド若しくはラクタム基を含む化合物;テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド等のスルホン化合物若しくはスルホキシド化合物;スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース等の糖類または糖類誘導体;ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;スクシンイミド、マレイミド等のイミド類;2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸等のフラン誘導体;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のジアルコール若しくはポリアルコールが挙げられる。これらの中でも、電気伝導率向上の観点から、テトラヒドロフラン、N-メチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ソルビトールが好ましく、中でもエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンがより好ましい。電気伝導率向上剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0125】
[脱塩]
前記分散処理を終えた後に分散液(1)を脱塩してもよい。工程(A)で一次粒子まで分散された共役系導電性重合体及びポリアニオンの複合体は、脱塩することにより静置しても分散性を保つことができる。
脱塩の方法に特に制限は無く、透析法、遠心分離洗浄法、イオン交換法等により脱塩を行うことができる。
【0126】
<多孔性陽極体に共役系導電性重合体含有分散液(2)を付着させる工程(B)>
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、前述の工程(A)で得られた共役系導電性重合体含有分散液(2)を、弁金属からなる陽極体と、該陽極体表面の少なくとも一部に形成された誘電体被膜とを有する多孔性陽極体の表面に付着させる工程(B)を有する。
【0127】
本発明の製造方法に係る固体電解コンデンサは、例えば、高表面積を有する弁金属粉末を焼結してなる多孔性の電極、あるいは弁金属箔をエッチングし得られる多孔性膜を電極とすることができる。
【0128】
上記弁金属としては、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)、ならびにこれらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物が挙げられる。中でもAl、Nb、またはTaの弁金属から構成される電極材料が好ましい。
【0129】
弁金属からなる多孔性電極は、例えば、陽極酸化によって表面に誘電体酸化被膜を形成し、多孔性陽極体とする。
上記多孔性電極は、例えばリン酸溶液中で電圧を印加することにより陽極酸化され、多孔性電極の表面に誘電体酸化被膜を形成することができる。誘電体酸化被膜の厚さやコンデンサの耐電圧により、化成電圧の大きさを決めることができる。好ましい化成電圧は1~800Vであり、より好ましくは1~300Vである。
【0130】
次いで、共役系導電性重合体含有分散液(2)を多孔性陽極体に付着させる。付着させる方法としては、塗布、噴霧、浸漬等の公知の方法が挙げられる。中でも共役系導電性重合体含有分散液(2)を多孔性陽極体にムラなく均一に付着、浸透させることができる点から、浸漬させる方法が好ましい。また、多孔性陽極体の細部により含侵させるために、減圧下で含侵してもよい。
浸漬時間は、通常10秒~5分間であり、共役系導電性重合体含有分散液(2)の温度は、水性媒体の種類にもよるが通常10~35℃である。
【0131】
<固体電解質層を形成する工程(C)>
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、前述の工程(B)で得られた多孔性陽極体に付着した共役系導電性重合体含有分散液(2)から、水性媒体を除去し固体電解質層を形成する工程(C)を有する。本工程(C)における水性媒体の除去は、水性媒体の全てを除去することを意味するものでなく、固体電解コンデンサの製造に影響しない範囲で水性媒体が一部残存してもいて差し支えない。
【0132】
水性媒体の除去方法としては、効率性の点から加熱処理による乾燥が好ましい。加熱条件は、水性媒体の沸点や揮発性を考慮して決めることができる。加熱は、導電性重合体の酸素による劣化のない温度範囲、例えば、10~300℃、好ましくは50~200℃で行うことが好ましい。加熱処理時間は5秒~数時間が好ましい。加熱処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、熱風乾燥機を用いて大気下で、もしくは加熱処理を迅速に行うために減圧下で行ってもよい。
【0133】
本発明では、電極体の種類に応じて、上述の共役系導電性重合体含有分散液(2)を付着させる工程(B)と固体電解質層を形成する工程(C)を1回または2回以上繰り返し行ってもよい。ただし、2回目以降の工程(B)では、工程(C)で形成された固体電解質層の表面に分散液(2)を付着させる。分散液を付着させるごとに加熱処理を行い、水性媒体の一部または全部を除去してもよく、または複数回分散液を連続で付着させ、最後に水性媒体を除去してもよい。さらに、付着させた分散液に含まれる水性媒体の一部はまたは全部を除去した後に、任意の電解液を含浸させてもよい。
【0134】
以上の工程(A)~(C)を経ることにより、表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体と、前記誘電体被膜の表面に設けられた固体電解質層とを有する固体電解コンデンサが製造される。
【実施例】
【0135】
以下に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。実施例及び比較例における分散液の各物性の測定方法を下記の通りである。
【0136】
(1)固形分濃度
各例の固形分濃度は、各例で得られた試料およそ10gを、赤外線水分計((株)ケツト科学研究所製、形式FD-720、加熱条件110℃/30分)を用いて測定し、蒸発残分を固形分として計算した。
【0137】
(2)pH
各例で得られた分散液のpHは、25℃においてpHメーター(東亜ディーケーケー(株)製、型式HM-30G)を用いて測定した。
【0138】
(3)粘度
各例で得られた分散液の粘度は、23℃、60rpmにおいて回転粘度計(東機産業(株)製、型式TV25形粘度計)を用いて測定した。
【0139】
(4)シード粒子の粒径
シード粒子の粒径(ポリアニオンの層の厚さを含む。)は、日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置により測定した。
【0140】
(5)ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した。測定には昭和電工(株)製の「Shodex(登録商標) GPC 101」(カラム OHPak SB-806M HQ)を用い、測定条件はカラム温度40℃、溶出液は水、溶出速度1ml/分とした。重量平均分子量を標準ポリスチレン換算分子量(Mw)で表示した。
【0141】
(6)固体電解コンデンサ素子の静電容量及び等価直列抵抗
固体電解コンデンサ素子の120Hzでの静電容量(μF)および100kHzでの等価直列抵抗〔ESR〕(mΩ)を、LCRメーター(Agilent製、型式E4980A)を用いて測定した。
【0142】
[実施例1]
(ポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子の分散液の作製)
スチレン86g、2-エチルヘキシルアクリレート49g、ジビニルベンゼン15g及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製、ポリナスPS-5、重量平均分子量:約120,000)22質量%水溶液500gを撹拌混合し、エチレン性不飽和単量体混合液を調製した。一方、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(同上)22質量%水溶液1000gを撹拌しながら、80℃に昇温し、これに過硫酸カリウム2gを添加した。こうして得られた溶液に、前記エチレン性不飽和単量体混合液及び過硫酸カリウム2.5質量%水溶液40gを、それぞれ、2時間及び2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を80℃で2時間保持し、その後、室温(25℃)まで冷却した。得られた反応液に陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR120B-H)1500ml及び陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IRA410-OH)1500mlを添加し、12時間撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別した。ろ液にイオン交換水(以下、単に水と言う。)を添加して固形分濃度が15.0質量%となるように調整し、ポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子(粒径d50:0.46μm)の分散液を得た。
【0143】
(工程(A):重合による共役系導電性重合体の分散液(2)の製造)
(重合工程(A-1))
1Lポリエチレン製容器内で、水223.2g、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(同上)12質量%水溶液31.5g、及び上記のとおり作製したポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子の分散液34.0gを32℃で撹拌混合した。この混合液に、32℃で3,4-エチレンジオキシチオフェン2.80gを添加して、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、ロボミックス;4000rpm)で30分間乳化混合し、単量体化合物分散液を調製した。3,4-エチレンジオキシチオフェン1モルに対するスルホ基およびスルホ基の塩からなる基の量は1.9モルであった。なお、前記スルホ基等は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム12質量%水溶液及び前記分散液中のポリスチレンスルホン酸ナトリウム由来のものである。
【0144】
前記単量体化合物分散液を、ハイシェアミキサー(太平洋機工株式会社製、マイルダー(登録商標)303V;5000rpm)及び循環ポンプが接続された1Lステンレス製容器に投入し、撹拌翼及びハイシェアミキサーにより、32℃で循環させながら撹拌し、前記分散液に酸化剤としてペルオキソ二硫酸ナトリウム5.89g及び硫酸鉄(III)六水和物の1質量%水溶液6.88gを添加して、重合反応を開始させた。重合反応開始5分後に塩化合物として硫酸アンモニウム1.5gを添加し、24時間重合反応を行うことで、共役系導電性重合体を含む分散液(1-1)を得た。共役系導電性重合体100部に対するポリアニオンの使用量は261質量部であった。
【0145】
(高圧分散処理工程(A-2))
固形分濃度5.80%の前記分散液(1-1)304.27gに、純水を加えて、固形分濃度3.00質量%、全量1500mLに調整した。その後、分散液(1-1)(以下、前記分散液(1-1)、およびこれに各種操作(純水の添加、高圧分散処理、イオン交換等)を施したものを、区別することなく「分散液(1-1)」と記載する(ただし、最終生成物である分散液(2-1)を除く。)。)を、高圧ホモジナイザー(TWIN PANDA 600、Niro Soavi社製)により分散圧力を400barとして連続で45分間高圧分散処理した。その後純水を加えて分散液(1-1)を固形分濃度2.50質量%、全量1500mLに調整し、再度分散液(1-1)を、高圧ホモジナイザーにより400barで連続で135分間高圧分散処理した。
【0146】
(脱塩工程(A-3))
前記分散処理の直後に陽イオン交換樹脂100.5gおよび陰イオン交換樹脂87.9gにより3時間イオン交換し、脱塩させた。その後、分散液(1-1)を孔径が5μmのフィルターで濾過した後、さらに孔径が3μmのフィルターで濾過し、純水を加えて固形分濃度2.0%に調整することで、pH1.9の、共役系導電性重合体の分散液(2-1)を得た。
工程(A)の概略を
図1に示す。
【0147】
(誘電体酸化被膜を表面に有する多孔性陽極体の形成)
特開2011-77257号公報に記載の方法によって、固体電解コンデンサに用いる、誘電体酸化被膜を表面に有する多孔性陽極体を製造した。すなわち、コンデンサ用ニオブ粉末を用い、陽極体表面に五酸化二ニオブを有する誘電体酸化被膜が形成された陽極リード付きの多孔性陽極体を作製した。この多孔性陽極体の20質量%硫酸中での静電容量は、21.4μFであった。
【0148】
(工程(B)及び(C):固体電解コンデンサの作製)
25℃の大気下で、上記方法で得られた多孔性陽極体を、上記共役系導電性重合体の分散液(2-1)に1分間含浸させた後、熱風乾燥器(TABAI製、形式ST-110)により120℃で30分間乾燥させた。この処理を10回繰り返し行い、多孔性陽極体の誘電体酸化被膜の表面に固体電解質層を形成して、固体電解コンデンサを得た。
【0149】
次いで、固体電解コンデンサに、陽極リード端子に接触させないようにカーボンペーストを塗布し乾燥させ、さらに、陽極・陰極の接点をとるために銀ペーストを塗布し、リードフレーム上で乾燥させた。陽極リード線をリードフレームの陽極リード部に電気的に接続させ樹脂で封止し、これによって固体電解コンデンサ素子を得た。
【0150】
[実施例2]
塩化合物の添加のタイミングを重合開始から24時間後(すなわち高圧分散処理開始の直前)に変更したこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
【0151】
[実施例3]
塩化合物の添加のタイミングを高圧分散処理開始から90分後に変更したこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
【0152】
[実施例4]
(2回目の高圧分散処理工程(A-4))
塩化合物(硫酸アンモニウム)を添加しなかったこと、および脱塩を行わなかったこと以外は実施例1の工程(A)と同様の操作を行い、共役系導電性重合体を含む分散液(以下「分散液(1-4)」と記載する。)を得た。1500mLの分散液(1-4)に塩化合物として硫酸アンモニウム1.5gを添加し、高圧ホモジナイザー(TWIN PANDA 600、Niro Soavi社製)により分散圧力を400barとして連続で135分間高圧分散処理(以下「2回目の高圧分散処理」とも記載する。)した。
【0153】
(脱塩工程(A-5))
前記分散処理の直後に陽イオン交換樹脂100.5gおよび陰イオン交換樹脂87.9gにより3時間イオン交換し、脱塩させた。脱塩後の分散液(1-4)を孔径が5μmのフィルターで濾過した後、さらに孔径が3μmのフィルターで濾過し、純水を加えて固形分濃度2.0%に調整することで、pH1.9の、共役系導電性重合体の分散液(2-4)を得た。
前記分散液(2-1)を前記分散液(2-4)に変更したこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
【0154】
[実施例5]
塩化合物の添加のタイミングを2回目の高圧分散処理開始から90分後に変更したこと以外は実施例4と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
【0155】
[比較例1]
前記塩化合物の添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
【0156】
[比較例2]
前記塩化合物の添加を行わなかったこと以外は実施例4または5と同様にして固体電解コンデンサ素子を製造した。
実施例1~5及び比較例1~2の製造条件および評価結果(静電容量及び等価直列抵抗)を表1に示す。
【0157】
【0158】
表1の結果から、誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程において、共役系導電性重合体の分散液(2)を使用した実施例1~5の固体電解コンデンサ素子は、工程(A)において塩化合物を添加しなかった分散液を用いた比較例1および2の固体電解コンデンサ素子に比べて容量発現率(静電容量)が高く、かつ等価直列抵抗(ESR)が低いことがわかる。
【0159】
なお、本発明においてはポリアニオンと共役系導電性重合体とを含有する分散液(1)を分散処理しているため、分散液(2)から水性媒体を除去して形成された固体電解質層、および固体電解コンデンサが取り得る全ての構造を示すのは非実際的である。