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特許7131945高調波計測装置とそれを用いた単独運転検出方法、単独運転検出装置及び分散型電源システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】高調波計測装置とそれを用いた単独運転検出方法、単独運転検出装置及び分散型電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20220830BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220830BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J3/38 110
H02M7/48 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018079550
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019193318
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】郭 中為
(72)【発明者】
【氏名】石渡 洋志
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144531(JP,A)
【文献】特開2015-220835(JP,A)
【文献】特開平07-154920(JP,A)
【文献】特開平11-187573(JP,A)
【文献】特開2016-012971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R19/00-19/32
H02J3/00-5/00
H02M7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換部が電力系統に連系された時に、前記電力系統の第1交流電圧を計測し、前記第1交流電圧に代えて高調波含有率の少ない第2交流電圧を前記電力変換部から出力させた時に、又は外部で生成された前記第2交流電圧が印加された時に、前記第2交流電圧を計測する電圧計測部と、
前記電圧計測部で計測された前記第2交流電圧をフーリエ演算して補正高調波電圧を算出する補正値算出部と、
前記電圧計測部で計測された前記第1交流電圧をフーリエ演算して高調波電圧を算出する高調波算出部と、
前記高調波電圧から前記補正高調波電圧を減算して補正後の高調波電圧の実効値を算出する補正後高調波算出部と、
を有することを特徴とする高調波計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の高調波計測装置を用いた単独運転検出方法であって、
予め、前記電圧計測部によって前記第2交流電圧を計測し、この計測値を前記補正値算出部でフーリエ演算して前記補正高調波電圧を取得する第1ステップと、
前記電力変換部が、前記電力系統から切り離されて単独運転を行う時に、前記電圧計測部によって前記第1交流電圧を計測し、この計測値を前記高調波算出部でフーリエ演算して前記高調波電圧を算出する第2ステップと、
前記補正後高調波算出部によって前記補正後の高調波電圧の実効値を算出する第3ステップと、
前記補正後の高調波電圧の実効値により、無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件が満たされているか否かのステップ注入判定を行い、前記ステップ注入発生条件が満たされていれば、前記電力変換部から前記電力系統へ、前記無効電力をステップ状に注入して系統周波数を急変させる第4ステップと、
前記系統周波数の変化に比例して前記無効電力の注入を増大させて、前記系統周波数の変化を拡大することにより、前記系統周波数の異常を生じさせて前記単独運転を検出させる第5ステップと、
を有することを特徴とする単独運転検出方法。
【請求項3】
前記補正後の高調波電圧Acor[k],Bcor[k]の実効値HarmRMS[k]は、次式より求めることを特徴とする請求項2記載の単独運転検出方法。
【数1】

但し、n;サンプリング点(N個)、n=0,1,2,…,N-1
N;交流周期/サンプリング周期
;基本周波数
T;サンプリング周期
k;高調波の次数、k=0,1,2,…,N/2
Acor[k];k次余弦の振幅
A[k]前記第2ステップにおいて算出されるk次余弦の振幅
A0[k]前記第1ステップにおいて算出されるk次余弦の振幅
Bcor[k];k次正弦の振幅
B[k]前記第2ステップにおいて算出されるk次正弦の振幅
B0[k]前記第1ステップにおいて算出されるk次正弦の振幅
x[nT];nTサンプリング時刻の交流電圧
2πkfnT(=2×π×k×f×n×T);
サンプリング時刻nTのk次高調波の位相角
arm[k];k次高調波電圧の振幅
armRMS[k];k次高調波電圧の実効値
【請求項4】
前記補正後の高調波電圧の実効値は、
複数の各次高調波電圧の実効値を合成した総合高調波電圧の実効値により算出される、
ことを特徴とする請求項2又は3記載の単独運転検出方法。
【請求項5】
前記第5ステップにおいて、
前記補正後の高調波電圧の実効値の変化が検出された時に、周波数フィードバックゲインの切り替えによって前記無効電力の注入量を変える、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項記載の単独運転検出方法。
【請求項6】
前記第1ステップにおいて、
前記電力系統から解列した状態にて前記電力変換部から三相交流電圧を出力させて、前記三相交流電圧を前記電圧計測部で計測し、フーリエ演算によって3次高調波の前記補正高調波電圧を取得する、
ことを特徴とする請求項2~5のいずれか1項記載の単独運転検出方法。
【請求項7】
前記補正高調波電圧として、
前記電圧計測部における計測誤差の大きい高調波電圧次数のみ取得する、
ことを特徴とする請求項2~6のずれか1項記載の単独運転検出方法。
【請求項8】
請求項1記載の高調波計測装置と、
前記補正後の高調波電圧の実効値により、無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件が満たされているか否かのステップ注入判定を行うステップ注入発生条件判定部と、
前記ステップ注入発生条件が満たされていれば、前記電力変換部から前記電力系統側へ、前記無効電力をステップ状に注入して系統周波数を急変させる無効電力ステップ注入手段と、
前記系統周波数の変化に比例して前記無効電力の注入を増大させて、前記系統周波数の変化を拡大することにより、前記系統周波数の異常を生じさせて、前記電力系統から切り離された前記電力変換部の単独運転を検出させる周波数フィードバック手段と、
を有することを特徴とする単独運転検出装置。
【請求項9】
前記周波数フィードバック手段は、
前記補正後の高調波電圧の実効値の変化が検出された時に、周波数フィードバックゲインの切り替えによって前記無効電力の注入量を変える、
ことを特徴とする請求項8記載の単独運転検出装置。
【請求項10】
前記補正後の高調波電圧の実効値に基づき、前記周波数フィードバック手段が通常動作を行う能動状態通常モードと、前記周波数フィードバック手段が停止する能動状態待機モードと、の切り替え行う無効電力発振抑制制御部を、
設けたことを特徴とする請求項8又は9記載の単独運転検出装置。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項記載の単独運転検出装置と、
前記直流電力を供給する前記直流電源と、
前記直流電源の系統連系に用いられ、前記直流電力を前記交流電力に変換する前記電力変換部と、
を有することを特徴とする分散型電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型電源が電力系統から切り離されて単独運転をしているか否かを検出するための高調波計測装置と、それを用いた単独運転検出方法、単独運転検出装置及び分散型電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーコンディショナ(以下「PCS」という。)は、太陽電池等の分散型の直流電源で発電した直流電力を交流電力に変換するインバータ部を有し、直流電源を電力系統に連系させて使用するために、周波数や電圧を電力系統に適合させる装置である。
【0003】
例えば、電力系統の停電時に、PCSがその電力系統から遮断(解列)されない状態で単独運転を継続していると、本来無電圧であるべき電力系統が充電されることとなる。この場合、保安や、電力供給の信頼度確保の面から問題を生ずる恐れがあるため、直流電源の単独運転状態を検出し、PCSを停止させる必要があるので、単独運転検出装置が、PCSの内部あるいは外部に設けられる。単独運転検出方法や単独運転検出装置に関しては、特許文献1、2及び非特許文献1~3等に記載されている。
【0004】
単独運転検出方法には、受動的方式と能動的方式とがある。受動的方式は、単独運転移行時の発電出力と負荷の不平衡による電圧位相や周波数等の急変を検出する方式であり、電圧位相跳躍検出方式、3次高調波電圧歪み急増検出方式、及び周波数変化率検出方式の3方式が一般的である。これに対し、能動的方式は、PCSの制御系や外部に付加した負荷等により、常時、電圧や周波数に変動を与えておき、単独運転移行時に顕著になるその変動を検出する方式であり、周波数シフト方式、スリップモード周波数シフト方式、有効電力変動方式、無効電力変動方式、及び負荷変動方式が一般的である。周波数シフト方式は、PCS内の発振器等に周波数バイアスを与えておき、単独運転移行時に現れる周波数変動を検出する方式である。無効電力変動方式は、直流電源の出力電力に周期的な無効電力を与え、単独運転移行後に発生する周波数変動を検出する方式である。
【0005】
単独運転検出装置としては、検出速度及び保護の信頼性の面から、受動的検出方式と能動的検出方式とを各1方式以上組み合わせて適用することが、非特許文献3の一般社団法人日本電気協会の系統連系規程上に定められている。単独運転能動的検出方式として、ステップ注入付周波数フィードバック方式が規格化され、それに準拠して単独運転検出を行う必要がある。ステップ注入付周波数フィードバック方式は、前記系統連系規程に記載されているように、周波数偏差に応じた無効電力を注入することで、周波数変化を更に助長させて単独運転を検出する方式であり、単独運転の高速検出が可能、他方式との相互干渉がない等の特徴がある。
【0006】
図9は、特許文献1、2に記載された従来の分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図である。
分散型電源システムは、太陽電池等の分散型の直流電源1と電力系統(例えば、商用電力系統)2とを備え、この直流電源1と電力系統2との間に、PCS3が接続されている。電力系統2からPCS3の間には、遮断器4、柱上変圧器(以下「柱上トランス」という。)5、及び負荷6等が設けられている。
【0007】
PCS3は、ステップ注入付周波数フィードバック方式の単独運転検出装置を備えた装置であり、例えば、ハードウェア部10とソフトウェア部20とにより構成されている。ハードウェア部10は、直流電源1から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ部11と、このインバータ部11の出力側と柱上トランス5との間に設けられた周波数検出回路12、基本波計測用の電圧計測回路13、及び高調波計測用の電圧計測回路14と、を有している。ソフトウェア部20は、例えば、中央処理装置(以下「CPU」という。)により実行されるものであり、インバータ部11のスイッチング動作を制御する電流制御処理部21と、系統周波数計測部22と、無効電力注入部である周波数フィードバック部23と、無効電力ステップ注入判定部24と、加算部25と、単独運転検出部26と、を有している。
【0008】
ハードウェア部10において、インバータ部11は、例えば、スイッチング電源装置により構成されている。周波数検出回路12は、インバータ部11の出力側における交流電圧の周波数を検出してこの検出結果をソフトウェア部20内の系統周波数計測部22へ与える回路である。基本波計測用の電圧計測回路13は、インバータ部11の出力側の交流電圧を計測してこの計測結果をソフトウェア部20内の無効電力ステップ注入判定部24へ与える回路である。更に、高調波計測用の電圧計測回路14は、インバータ部11の出力側の交流電圧を計測してこの計測結果をソフトウェア部20内の無効電力ステップ注入判定部24へ与える回路である。
【0009】
ソフトウェア部20において、電流制御処理部21は、系統周波数計測部22及び加算部25の出力信号に基づき、インバータ部11のスイッチング動作を制御するものである。系統周波数計測部22は、周波数検出回路12の検出結果に基づき、周波数偏差の演算に用いる周波数を計測してこの計測結果を電流制御処理部21へ与えるものであり、周波数計測処理部22a及び位相差計測同期処理部22bを有している。周波数フィードバック部23は、系統周波数の偏差から、注入する無効電力を演算し、この演算結果を加算部25へ与えて周波数の変化を促すものであり、周波数の移動平均を算出する第1移動平均算出部23a及び第2移動平均算出部23bと、周波数の偏差を算出する周波数偏差算出部23cと、フィードバック量である無効電力注入量を算出する無効電力注入量算出部23dと、を有している。
【0010】
無効電力ステップ注入判定部24は、単独運転発生時においても、PCS3の出力電力及び負荷6のバランス状態によって、周波数偏差が微小の条件において、周波数の変化を促すための無効電力を、加算部25を通してステップ注入する機能を有している。この無効電力ステップ注入部24は、基本波電圧算出部24a、高調波電圧算出部24b、ステップ注入発生条件判定部24c、及びステップ注入量算出部24dを有している。
【0011】
単独運転検出部26は、系統周波数の変化によって単独運転の発生の有無を判定するものであり、単独運転能動的方式判定部26aと、単独運転受動的方式判定部26bと、を有している。
このようなPCS3の周波数検出回路12、電圧計測回路13,14及びソフトウェア部20により構成される単独運転検出装置では、以下のように動作する。
【0012】
PCS3と負荷6の無効電力アンバランス状態において、電力系統2の停電後、周波数が変化するため、周波数フィードバック部23により、その周波数変化を検出し、加算部25を通して無効電力を注入し、周波数変化を正帰還させる。周波数変化が大きくなり、単独運転検出条件に達した場合は、単独運転検出部26によって単独運転を検出する。又、PCS3の出力電力と負荷6のバランス状態において、電力系統2側の柱上トランス5における励磁電流の影響により、交流電圧の高調波歪みが変化する。そのため、無効電力ステップ注入判定部24により、その高調波歪みの変化を検出し、周波数を低下させるように加算部25を通して無効電力を注入する。周波数が変化した後、周波数フィードバック部23が動作するため、単独運転検出部26によって単独運転を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015-144531号公報(特許第6228854号公報)
【文献】特開2016-12971号公報(特許第6173978号公報)
【非特許文献】
【0014】
【文献】(一般社団法人)日本電機工業会、日本電機工業会規格JEM1498「分散型電源用単相パワーコンディショナの標準形能動的単独運転検出方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)2017.12.15改正(第3回)
【文献】(一般社団法人)日本電機工業会、日本電機工業会規格JEM1505「低圧配電線に連系する太陽光発電用三相パワーコンディショナの標準形能動的単独運転検出方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)2015.9.14制定
【文献】(一般社団法人)日本電気協会、系統連系専門部会、系統連系規程JE交流 9701-2016、2017年追補版(その1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の単独運転検出方法及び単独運転検出装置では、ステップ注入を安定に動作させるために、電圧計測回路14において、系統電圧に含まれる高調波電圧を高精度に計測する必要がある。特許文献1の技術では、専用の電圧計測回路14を用いて高調波電圧の計測を行っている。PCS3が交流電圧計測を行い、系統連系制御や交流電圧のモニタを行うため、その電圧計測回路14と併用できれば、装置を低コストに実現できる。しかしながら、通常の交流電圧計測は高電圧範囲の電圧計測を行う必要があり、電圧計測回路14の微小な誤差は高調波電圧演算結果に大きく影響するため、高調波電圧計測誤差が大きい、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の高調波計測装置は、電圧計測部と、補正値算出部と、高調波算出部と、補正後高調波算出部と、を有することを特徴とする。
ここで、前記電圧計測部は、直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換部が電力系統に連系された時に、前記電力系統の第1交流電圧を計測し、前記第1交流電圧に代えて高調波含有率の少ない第2交流電圧を前記電力変換部から出力させた時に、又は外部で生成された前記第2交流電圧が印加された時に、前記第2交流電圧を計測するものである。前記補正値算出部は、前記電圧計測部で計測された前記第2交流電圧をフーリエ演算して補正高調波電圧を算出するものである。前記高調波算出部は、前記電圧計測部で計測された前記第1交流電圧をフーリエ演算して高調波電圧を算出するものである。更に、前記補正後高調波算出部は、前記高調波電圧から前記補正高調波電圧を減算して補正後の高調波電圧の実効値を算出するものである。
【0017】
本発明の単独運転検出方法は、前記高調波計測装置を用いた単独運転検出方法であって、第1ステップ~第5ステップを有することを特徴とする。
ここで、前記第1ステップでは、予め、前記電圧計測部によって前記第2交流電圧を計測し、この計測値を前記補正値算出部でフーリエ演算して前記補正高調波電圧を取得する。前記第2ステップでは、前記電力変換部が、前記電力系統から切り離されて単独運転を行う時に、前記電圧計測部によって前記第1交流電圧を計測し、この計測値を前記高調波算出部でフーリエ演算して前記高調波電圧を算出する。前記第3ステップでは、前記補正後高調波算出部によって前記補正後の高調波電圧の実効値を算出する。前記第4ステップでは、前記補正後の高調波電圧の実効値により、無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件が満たされているか否かのステップ注入判定を行い、前記ステップ注入発生条件が満たされていれば、前記電力変換部から前記電力系統側へ、前記無効電力をステップ状に注入して系統周波数を急変させる。その後、前記第5ステップでは、前記系統周波数の変化に比例して前記無効電力の注入を増大させて、前記系統周波数の変化を拡大することにより、前記系統周波数の異常を生じさせて前記単独運転を検出させる。
【0018】
本発明の単独運転検出装置は、前記高調波計測装置と、前記補正後の高調波電圧の実効値により、無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件が満たされているか否かのステップ注入判定を行うステップ注入発生条件判定部と、前記ステップ注入発生条件が満たされていれば、前記電力変換部から前記電力系統側へ、前記無効電力をステップ状に注入して系統周波数を急変させる無効電力ステップ注入手段と、前記系統周波数の変化に比例して前記無効電力の注入を増大させて、前記系統周波数の変化を拡大することにより、前記系統周波数の異常を生じさせて前記単独運転を検出させる周波数フィードバックと、を有することを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の分散型電源システムは、前記単独運転検出装置と、前記直流電力を供給する前記直流電源と、前記直流電源の系統連系に用いられ、前記直流電力を前記交流電力に変換する前記電力変換部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高調波計測装置とそれを用いた単独運転検出方法、単独運転検出装置及び分散型電源システムによれば、高調波含有率の少ない第2交流電圧を電力変換部から出力させて、補正高調波電圧を予め取得しておき、電力変換部が電力系統に連系された時に、その電力系統の第1交流電圧から高調波電圧を求め、高調波電圧から補正高調波電圧を減算して補正後の高調波電圧の実効値を算出し、その補正後の高調波電圧の実効値により、ステップ注入判定を行うようにしている。そのため、簡単で安価な回路構成で高調波電圧を高精度に計測できる。更に、制御に必要な計測回路と併用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1における分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図
図2図1(b)中の高調波電圧演算部の構成を示す機能ブロック図
図3図1(a)中のステップ注入発生条件(高調波電圧変動)を示す図
図4図1(a)中のステップ注入発生条件(基本波電圧変動)を示す図
図5】計測誤差及び計測誤差変化の発生メカニズムを示す図
図6】本発明の実施例1の単独運転検出方法を示すフローチャート
図7】本発明の実施例2における分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図
図8図7中の無効電力発振抑制制御部のモード遷移図
図9】従来の分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0023】
(実施例1の分散型電源システムの構成)
図1(a)、(b)は、本発明の実施例1における分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図であり、同図(a)は分散型電源システムの全体の構成図、及び同図(b)は同図(a)中の電圧計測回路及び高調波電圧演算部の構成図である。図2は、図1(b)中の高調波電圧演算部の構成を示す機能ブロック図である。図3は、図1(a)中のステップ注入発生条件(高調波電圧変動)を示す図である。更に、図4は、図1(a)中のステップ注入発生条件(基本波電圧変動)を示す図である。
【0024】
図1(a)に示すように、本実施例1の分散型電源システムは、太陽電池等の分散型の直流電源31と電力系統(例えば、商用電力系統)32とを備え、この直流電源31と電力系統32との間に、PCS33が接続されている。電力系統32からPCS33の間には、高圧配電線(例えば、交流6600V)を遮断する遮断器34、高圧電力を低圧電力(例えば、交流100V又は200V)に降圧して低圧配電線へ供給する柱上トランス35、及びその低圧配電線に接続された負荷36等が設けられている。
【0025】
PCS33は、従来と同様に、ステップ注入付周波数フィードバック方式の単独運転検出装置を備えた装置であり、例えば、ハードウェア部40とソフトウェア部50とにより構成されている。
ハードウェア部40は、直流電源31から供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換部(例えば、インバータ部)41と、このインバータ部41の出力側と負荷36との間に分岐接続された計器用変圧器(以下「VT」という。)42、周波数検出回路43、及び電圧検出部44と、を有している。インバータ部41は、例えば、スイッチング電源装置により構成されている。VT42は、インバータ部41の出力側の交流電圧を所定の低電圧に降圧するものであり、この出力側に、周波数検出回路43と電圧検出部44とが並列に接続されている。周波数検出回路43は、VT42の交流出力電圧の周波数を検出する回路である。
【0026】
電圧検出部44は、VT42の交流出力電圧を検出する回路であり、基本波電圧計測用の電圧計測回路44aと、高調波電圧計測用の電圧計測回路44bと、を有している。基本波電圧計測用の電圧計測回路44aは、例えば、VT42の交流出力電圧を分圧する分圧抵抗、及びその分圧された交流電圧をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器(以下「A/D変換器」という。)等により構成されている。高調波電圧計測用の電圧計測回路44bは、例えば、VT42の交流出力電圧を分圧して正規化するための抵抗及び演算増幅器(以下「オペアンプ」という。)と、正規化された電圧をデジタル信号に変換するA/D変換器等と、により構成されている。なお、2つの電圧計測回路44a,44bは、1つの電圧計測回路により構成しても良い。
【0027】
ソフトウェア部50は、例えば、CPUにより実行されるものであり、従来と同様の電流制御処理部51、系統周波数計測部52、及び無効電力注入部である周波数フィードバック部53と、従来と異なる無効電力ステップ注入判定部54と、従来と同様の加算部55と、を有している。
ここで、VT42、周波数検出回路43、電圧検出部44、電流制御処理部51、系統周波数計測部52、周波数フィードバック部53、無効電力ステップ注入判定部54、及び加算部55により、本実施例1の単独運転検出装置が構成されている。
【0028】
電流制御処理部51は、系統周波数計測部52から出力される同期信号φ52bと、加算部55から出力される無効電力指令p55と、に基づき、インバータ部41のスイッチング動作を制御するものである。系統周波数計測部52は、周波数検出回路43で検出された周波数に基づき、周波数偏差の演算に用いる周波数を計測するものであり、周波数計測処理部52a及び位相差計測同期処理部52bを有している。周波数計測処理部52aは、周波数検出回路43で検出された周波数を処理して処理結果を出力する回路である。更に、位相差計測同期処理部52bは、前記処理結果に基づき、位相差計測の同期処理を行って同期信号φ52bを電流制御処理部51へ出力するものである。
【0029】
周波数フィードバック部53は、系統周波数の偏差から、注入する無効電力を演算し、周波数の変化を促す機能を有している。この周波数フィードバック部53は、第1移動平均算出部53a、第2移動平均算出部53b、周波数偏差算出部53c、及び無効電力注入量算出部53dを有している。
【0030】
第1移動平均算出部53a及び第2移動平均算出部53bは、周波数計測処理部52aの処理結果に基づいて、周波数の第1及び第2移動平均を算出し、第1及び第2移動平均算出結果を出力するものである。周波数偏差算出部53cは、第1及び第2移動平均算出結果に基づいて、周波数の偏差を算出するものである。無効電力注入量算出部53dは、算出された周波数の偏差に基づいて、フィードバック量である無効電力注入量p53dを算出し、加算部55へ出力するものである。
これらの周波数フィードバック部53、加算部55、及び電流制御処理部51により、周波数フィードバック手段が構成されている。
【0031】
無効電力ステップ注入判定部54は、単独運転発生時においても、PCS33の出力電力及び負荷36のバランス状態によって、周波数偏差が微小の条件において、周波数の変化を促すために加算部55を通して無効電力をステップ注入する機能を有している。この無効電力ステップ注入判定部54は、基本波電圧演算部54a、高調波電圧演算部60、ステップ注入発生条件判定部54b、及びステップ注入量算出部54cを有している。
【0032】
基本波電圧演算部54aは、電圧計測回路44aで計測されたVT42の交流出力電圧をフーリエ演算(例えば、離散フーリエ変換(DFT)をコンピュータ上で高速に演算す高速フーリエ変換(FFT))して基本波電圧を算出し、この算出結果をステップ注入発生条件判定部54bへ出力するものである。高調波電圧演算部60は、電圧計測回路44bで計測されたVT42の交流出力電圧をフーリエ演算(例えば、高速フーリエ変換(FFT))して高調波電圧(例えば、2次~7次以上の高調波電圧)を算出し、この算出結果をステップ注入発生条件判定部54bへ出力するものである。
【0033】
ステップ注入発生条件判定部54bは、周波数計測処理部52aの処理結果、基本波電圧演算部54aで算出された基本波電圧、及び、高調波電圧演算部60で算出された高調波電圧の実効値に基づき、加算部55を通して無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件の判定を行うものである。ステップ注入発生条件は、次の第1条件及び第2条件の2つである。
第1条件:周波数偏差が±0.01Hz以内(即ち、周波数不感帯0.01H以下)である。
第2条件:高調波電圧及び基本波電圧を監視し、高調波電圧が図3のステップ注入発生条件(高調波電圧変動)を満たす、又は、基本波電圧が図4のステップ注入発生条件(基本波電圧変動)を満たすことである。
【0034】
ステップ注入量算出部54cは、ステップ注入発生条件判定部54bの判定結果に基づき、無効電力ステップ注入量s54cを算出して加算部55へ与えるものである。無効電力のステップ注入は、次の第1~第4による。
第1:注入時間は、3サイクル以下とする。
第2:注入量は、上限を0.1p.u.(=1per unit)とする。
第3:無効電力は、PCS33から見て電流位相を遅らせる方向に注入する(周波数は低下方向)。
第4:無効電力のステップ注入は、前記ステップ注入発生条件を満たしてから系統周波数(周期)の半サイクル以内に行う。
【0035】
これらのステップ注入量算出部54c、加算部55、及び電流制御処理部51により、無効電力ステップ注入手段が構成されている。
加算部55は、無効電力注入量算出部53dで算出された無効電力注入量p53dと、ステップ注入量算出部54cで算出された無効電力ステップ注入量S54cと、を加算して無効電力を注入するための無効電力指令p55を電流制御処理部51へ出力するものである。
【0036】
単独運転検出部56は、系統周波数の変化によって単独運転の発生の有無を判定するものであり、単独運転能動的方式判定部56a、及び単独運転受動的方式判定部56bを有している。
前記VT42及び電圧計測回路44bからなる電圧計測部と、高調波電圧演算部60と、によって本実施例1の高調波計測装置が構成されている。
【0037】
図1(b)に示すように、電圧計測回路44bは、例えば、抵抗44b1、オペアンプ44b2、及びA/D変換器44b3を有している。この電圧計測回路44bでは、VT42の交流出力電圧が抵抗44b1とオペアンプ44b2で分圧されて計測レベルが正規化された後、所定のサンプリングクロックパルスにより、A/D変換器44b3でデジタル信号に変換され、この変換された電圧計測結果が高調波電圧演算部60へ出力される構成になっている。
【0038】
高調波電圧演算部60は、A/D変換器44b3から出力された電圧計測結果を入力する補正値算出部61及び高調波算出部62と、この補正値算出部61及び高調波算出部62の出力側に接続された補正後高調波算出部63と、を有している。
【0039】
補正値算出部61は、第1交流電圧に代えて、高調波含有率の少ない第2交流電圧をインバータ部41から出力させた時に、VT42及び電圧計測回路44bで計測された電圧計測結果を、フーリエ演算して補正高調波電圧A0[k],B0[k]を算出し、この算出結果を補正後高調波算出部63へ出力するものである。補正高調波電圧A0[k],B0[k]の算出結果において、「k」は高調波の次数(0,1,2,・・・,N/2)、A0[k]は、k次余弦の振幅、及び、B0[k]は、k次正弦の振幅である。
【0040】
高調波算出部62は、インバータ部41が電力系統32に連系された時に、その電力系統32の第1交流電圧がVT42及び電圧計測回路44bで計測された電圧計測結果を、フーリエ演算して高調波電圧A[k],B[k]を算出し、この算出結果を補正後高調波算出部63へ出力するものである。高調波電圧A[k],B[k]の算出結果において、A[k]は、k次余弦の振幅、及び、B[k]は、k次正弦の振幅である。
【0041】
更に、補正後高調波算出部63は、入力された高調波電圧A[k],B[k]から補正高調波電圧A0[k],B0[k]を減算して、補正後の高調波電圧Acor[k](=A[k]-A0[k]),Bcor[k](=B[k]-B0[k])の実効値HarmRMS[k]を算出し、この算出結果をステップ注入発生条件判定部54bへ出力するものである。補正後の高調波電圧Acor[k](=A[k]-A0[k]),Bcor[k](=B[k]-B0[k])の実効値HarmRMS[k]の算出結果において、Acor[k]は、k次余弦の振幅、及び、Bcor[k](k)は、k次正弦の振幅である。
【0042】
図2に示すように、高調波電圧演算部60において、補正値算出部61は、高調波含有率の少ない第2交流電圧の計測結果を、例えば、次式(1)のフーリエ演算により、補正高調波電圧A0[k],B0[k]を算出する機能を有している。
【0043】
【数2】
但し、n;サンプリング点(N個)、n=0,1,2,…,N-1
N;交流周期/サンプリング周期
;基本周波数
T;サンプリング周期
k;高調波の次数、k=0,1,2,…,N/2
A0[k];k次余弦の振幅
B0[k];k次正弦の振幅
x[nT];nTサンプリング時刻の交流電圧
2πkf nT(=2×π×k×f ×n×T);
サンプリング時刻nTのk次高調波の位相角
高調波算出部62は、インバータ部41が電力系統32に連系された時に、その電力系統32の第1交流電圧の計測結果を、例えば、次式(2)のフーリエ演算により、高調波電圧A[k],B[k]を算出する機能を有している。
【0044】
【数3】
但し、A[k];k次余弦の振幅
B[k];k次正弦の振幅
x[nT];nTサンプリング時刻の交流電圧
2πkf nT(=2×π×k×f ×n×T);
サンプリング時刻nTのk次高調波の位相角
補正後高調波算出部63は、例えば、次式(3)に示すように、入力された高調波電圧A[k],B[k]から補正高調波電圧A0[k],B0[k]を減算して、補正後の高調波電圧Acor[k],Bcor[k]の実効値HarmRMS[k]を算出する機能を有している。
【0045】
【数4】
但し、Acor[k],A[k],A0[k];k次余弦の振幅
Bcor[k],B[k],B0[k];k次正弦の振幅
x[nT];nTサンプリング時刻の交流電圧
2πkf nT(=2×π×k×f ×n×T);
サンプリング時刻nTのk次高調波の位相角
arm[k];k次高調波電圧の振幅
armRMS[k];k次高調波電圧の実効値
【0046】
(実施例1の分散型電源システムの全体の概略動作)
図1の分散型電源システムにおいて、負荷36に対して直流電源31の電力供給能力が大きい場合、直流電源31から出力された直流電力は、電流制御処理部51のスイッチング制御により、インバータ部41にて交流電力に変換される。変換された交流電力は、負荷36へ供給される。直流電源31の余剰電力は、柱上トランス35及び遮断器34を経由して電力系統32へ逆潮流される。負荷36に対して直流電源31の電力供給が不足する場合は、電力系統32から供給された交流電力が、遮断器34及び柱上トランス35を経由して負荷36へ供給(潮流)される。電力系統32の不測の停電時又は作業停電時には、単独運転検出部56によってPCS33の単独運転状態が検出され、この検出結果に基づいて遮断器34がオフ状態になり、直流電源31が電力系統32から解列(遮断)されて、直流電源31の単独運転が防止される。
【0047】
直流電源31及びPCS33で構成される分散型電源システムの単独運転は、以下のようにして検出される。
PCS33の出力電力と負荷36の無効電力アンバランス状態において、電力系統32の停電後、周波数が変化するため、周波数検出回路43及び周波数計測処理部52aを介して、周波数フィードバック部53により、その周波数変化が検出されて無効電力指令p55が求められる。求められた無効電力指令p55が電流制御処理部51に与えられ、この電流制御処理部51により、無効電力がインバータ部41の出力電力に注入され、周波数変化が正帰還される。これにより、周波数変化が大きくなり、単独運転検出部56内の単独運転検出条件に達した場合は、その単独運転検出部56によって単独運転が検出される。
【0048】
又、PCS33の出力電力と負荷36のバランス状態において、柱上トランス35における励磁電流の影響により、交流電圧の高調波歪みが変化する。そのため、無効電力ステップ注入判定部54により、その高調波歪みの変化が検出されて、周波数を低下させるような無効電力ステップ注入量s54cが算出され、加算部55を通して無効電力指令p55が生成される。生成された無効電力指令p55が電流制御処理部51に与えられ、この電流制御処理部51により、無効電力がインバータ部41の出力電力へ注入される。周波数が変化した後、周波数フィードバック部53が動作するため、単独運転検出部56によって単独運転が検出される。
【0049】
しかしながら、電圧計測回路44bの微小な誤差は、高調波電圧演算結果に大きく影響するため、高調波電圧計測誤差が大きい、という問題がある。そこで、本実施例1では、以下のようにして解決している。
【0050】
(実施例1の単独運転検出装置)
図l(a)、(b)及び図2に示すように、本実施例1の単独運転検出装置は、高調波計測装置と、ステップ注入発生条件判定部54bと、ステップ注入手段と、周波数フィードバック手段と、を有している。
【0051】
前記高調波計測装置は、VT42及び電圧計測回路44bからなる電圧計測部と高調波電圧演算部60とを有している。前記ステップ注入手段は、ステップ注入量算出部54c、加算部55及び電流制御処理部51により構成され、ステップ注入発生条件が満たされていれば、インバータ部41から電力系統32側へ、無効電力をステップ状に注入して系統周波数を急変させる機能を有している。更に、周波数フィードバック手段は、周波数フィードバック部53、加算部55及び電流制御処理部51により構成され、系統周波数の変化に比例して無効電力の注入を増大させて、系統周波数の変化を拡大することにより、系統周波数の異常を生じさせて単独運転を検出させる機能を有している。
このような構成の単独運転検出装置における単独運転検出方法を以下説明する。
【0052】
(実施例1の単独運転検出方法)
図5は、VT42及び電圧計測回路44bにおける計測誤差及び計測誤差変化の発生メカニズムを示す図である。
【0053】
図5において、H0,A0,B0は、VT42及び電圧計測回路44bによる計測回路誤差であって、そのH0は、計測回路誤差の高調波電圧、A0は高調波電圧H0の余弦項、及び、B0は高調波電圧H0の正弦項である。H1は、単独運転となった時に、柱上トランス35の励磁電流等に起因する高調波電圧、A1は、高調波電圧H1の余弦項、及び、B1は、高調波電圧H1の正弦項である。H2は、補正なし条件の高調波電圧の演算結果、A2は、補正なし条件の高調波電圧H2の演算結果の余弦項、及び、B2は、補正なし条件の高調波電圧H2の演算結果の正弦項である。
【0054】
VT42及び電圧計測回路44bの固有特性として、計測回路誤差の高調波電圧H0が存在している。そのため、外部から高調波電圧H1を、VT42を通して電圧計測回路44bに印加した場合は、高調波電圧H2に示す計測信号となる。又、外部からVT42及び電圧計測回路44bに印加された高調波電圧の位相角が変化した時に、計測結果である高調波電圧H2の変化が現れる。
【0055】
そこで、本実施例1では、予め、計測回路誤差のk次高調波電圧H0[k]における余弦項A0[k]及び正弦項B0[k]を取得し、k次高調波電圧演算結果の余弦項A[k]と正弦項B[k]から、余弦項A0[k]と正弦項B0[k]をそれぞれ減算し、補正後のk次高調波電圧Acor[k],Bcor[k]の実効値HarmRMS[k]を算出し、ステップ注入発生条件を判定するようにしている。
【0056】
図6は、本発明の実施例1における単独運転検出方法を示すフローチャートである。
本実施例1の単独運転検出方法では、VT42及び電圧計測回路44bからなる電圧計測部と、高調波電圧演算部60と、を有する高調波計測装置を用いて、フローチャートの第1ステップSP1~第5ステップSP5が実行される。
【0057】
先ず、単独運転検出方法が開始され、第1ステップSP1において、電流制御処理部51によってスイッチング制御されるインバータ部41から、高調波含有率のすくない第2交流電圧が出力される。この第2交流電圧が、VT42によって低電圧の交流電圧に変換される。変換された低電圧の交流電圧は、電圧計測回路44b内において、抵抗44b1とオペアンプ44b2で分圧されて計測レベルが正規化される。正規化された計測レベルは、A/D変換器44b3において、所定のサンプリングクロックによりデジタル信号に変換され、補正値算出部61へ出力される。補正値算出部61では、入力されたデジタル信号を、式(1)に従い、フーリエ演算して補正値のk次余弦の振幅A0[k]及びk次正弦の振幅値B0[k]を算出し、この算出結果を補正後高調波算出部63へ出力し、第2ステップSP2へ進む。なお、外部の基準交流電圧等から第2交流電圧を生成し、この第2交流電圧を電圧計測回路44bに印加しても良い。
【0058】
第2ステップSP2において、インバータ部41が電力系統32から切り離されて単独運転を行う時に、その電力系統32の第1交流電圧が、VT42及び電圧計測回路44bで計測され、この計測結果のデジタル信号が高調波算出部62へ出力される。高調波算出部62では、入力されたデジタル信号を、式(2)に従い、フーリエ演算してk次余弦の振幅A[k]及びk次正弦の振幅B[k]を算出し、この算出結果を補正後高調波算出部63へ出力し、第3ステップSP3へ進む。
【0059】
第3ステップSP3において、補正後高調波算出部63は、式(3)に従い、高調波電圧のk次余弦の振幅A[k]及びk次正弦の振幅B[k]から、補正高調波電圧のk次余弦の振幅A0[k]及びk次正弦の振幅B0[k]をそれぞれ減算し、補正後の高調波電圧のk次余弦の振幅Acor[k]及びk次正弦の振幅Bcor[k]を算出する。更に、その算出結果に基づき、k次高調波電圧の振幅Harm[K]を求め、このk次高調波電圧の振幅Harm[K]から、k次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]を算出する。ここで、補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]は、複数の各次高調波電圧の実効値を合成した総合高調波電圧の実効値により算出される。この算出結果は、ステップ注入発生条件判定部54bへ出力され、第4ステップSP4へ進む。
【0060】
第4ステップSP4において、ステップ注入発生条件判定部54bは、補正後のk次高調波電圧Acor[k],Bcor[k]の実効値HarmRMS[k]に基づき、無効電力をステップ状に注入するためのステップ注入発生条件が満たされているか否かのステップ注入判定を行う。ステップ注入発生条件が満たされていれば、ステップ注入量算出部54cによって無効電力ステップ注入量S54cが算出され、加算部55へ出力される。すると、加算部55から無効電力指令p55が電流制御処理部51へ出力され、この電流制御処理部51のスイッチング制御により、インバータ部41から電力系統32側へ、無効電力がステップ状に注入され、系統周波数が急変し、第5ステップSP5へ進む。
【0061】
第5ステップSP5において、周波数フィードバック部53は、系統周波数の変化に比例して無効電力の注入を増大させるための無効電力注入量p53dを算出し、加算部55へ出力する。すると、加算部55から無効電力指令p55が電流制御処理部51へ出力され、インバータ部41によって系統周波数の変化が拡大し、この系統周波数に異常が生じる。そのため、単独運転検出部56によって単独運転が検出され、単独運転検出方法の処理が終了する。
【0062】
(実施例1の単独運転検出方法の変形例(a)~(c))
(a) 補正値算出部61では、k次余弦の振幅A0[k]及びk次正弦の振幅B0[k]として、VT42及び電圧計測回路44bにおける計測誤差の大きい高調波電圧次数のみ取得し、補正後高調波算出部63へ与えるようにしても良い。これにより、高調波電圧演算部60の演算処理を簡易化できる。
【0063】
(b) 図1(a)中の一点鎖線で示すように、高調波電圧演算部60から出力される補正後のk次高調波電圧Acor[k],Bcor[k]の実効値HarmRMS[k]を、無効電力注入量算出部53dへ入力し、周波数フィードバックゲインの切り替えを行う構成に変形しても良い。このような変形により、周波数フィードバック部53内の無効電力注入量算出部53dは、補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]の変化が検出された時に、周波数フィードバックゲインの切り替えによって無効電力注入量p53dを変えることができる。
【0064】
(c) インバータ部41から出力される交流電圧が三相の場合は、第1ステップSP1において、電力系統32から解列した状態にてインバータ部41から三相交流電圧を出力させる。そして、その三相交流電圧をVT42及び電圧計測回路44bで計測し、補正値算出部61において、フーリエ演算によって3次高調波電圧の余弦の振幅A0[3]及び正弦の振幅B0[3]を取得し、補正後高調波算出部63にて高調波電圧の実効値HarmRMS[3]を算出させれば良い。
【0065】
(実施例1の効果)
本実施例1の高調波計測装置とそれを用いた単独運転検出方法、単独運転検出装置及び分散型電源システムによれば、高調波含有率の少ない第2交流電圧をインバータ部41から出力させて、補正高調波電圧のk次余弦の振幅A0[k]及びk次正弦の振幅B0[k]を予め取得しておき、インバータ部41が電力系統32に連系された時に、その電力系統32の第1交流電圧から高調波電圧のk次余弦の振幅A[k]及びk次正弦の振幅B[k]を求め、高調波電圧のk次余弦の振幅A[k]及びk次正弦の振幅B[k]から補正高調波電圧のk次余弦の振幅A0[k]及びk次正弦の振幅B0[k]をそれぞれ減算して補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]を算出し、その補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]により、ステップ注入判定を行うようにしている。
そのため、簡単で安価な回路構成で高調波電圧を高精度に計測できる。更に、制御に必要な計測回路と併用することができる。
【実施例2】
【0066】
(実施例2の構成)
図7は、本発明の実施例2における分散型電源システムの概略の構成を示す機能ブロック図であり、実施例1の分散型電源システムを示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0067】
本実施例2の分散型電源システムでは、実施例1のソフトウェア部50とは構成の異なるソフトウェア部50Aが設けられている。本実施例2のソフトウェア部50Aでは、実施例1のソフトウェア部50に対して、新たに無効電力発振抑制制御部70が追加されている。無効電力発振抑制制御部70は、周波数計測処理部52aの処理結果と、高調波電圧演算部60から出力される補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]と、を入力し、注入無効電力の発振予兆(無効電力発振予兆)の検出及び単独運転発生予兆の検出を行い、これらの検出状態に応じて、能動機能通常状態(モード)と能動機能待機状態(モード)との間のモード遷移を行い、各々のモードに応じて、周波数フィードバック部53における周波数フィートバック時の無効電力注入量p53dを制御することによって、注入無効電力の発振を抑制する機能を有している。
【0068】
無効電力発振抑制制御部70は、外乱検知部71、高調波電圧急変検出部72、及び状態判定部73等により構成されている。外乱検知部71は、周波数計測処理部52aの出力側に接続され、周波数急変検知や低振幅周波数変動継続検知といった外乱検知を行い、この検知結果を状態判定部73へ出力するものである。高調波電圧急変検出部72は、高調波電圧演算部60の出力側に接続され、高調波電圧急変検出を行い、この検出結果を状態判定部73へ出力するものである。状態判定部73は、外乱検知部71の検知結果及び高調波電圧急変検出部72の検出結果に基づき、能動機能通常モードか又は能動機能待機モードかの判定を行い、この判定結果により、無効電力注入量算出部53dに対して周波数フィードバックゲインを変化させるものである。
つまり、無効電力発振抑制制御部70は、能動機能通常モードから能動機能待機モード、又は、その逆のモード遷移を行う機能を有している。
又、実施例1の変形例(b)で説明したように、高調波電圧演算部60の出力側は、無効電力注入量算出部53dの入力側に接続されている。
【0069】
(実施例2の無効電力発振抑制制御部の動作)
図8は、図7中の無効電力発振抑制制御部70の動作を示すモード遷移図である。
周波数フィードバック部53による周波数フィードバック機能動作の結果の無効電力発振の影響により、系統連系のPCS33Aが多数連系された配電線において、フリッカ事象が発生することがある。このフリッカ事象を解消するために、無効電力発振を検出するための外乱検知機能を用いて外乱を検知し、周波数フィードバックゲインを0にして周波数フィードバック機能を停止する能動機能待機モードに遷移する必要がある。そのため、本実施例2の無効電力発振抑制制御部70が設けられている。
【0070】
系統運転中、周波数フィードバック部53により、所定の周波数フィードバックゲインによって周波数フィードバック機能が通常動作をしている能動状態通常モードSP11において、外部検知部71が外乱検知を行うと、周波数フィードバックゲインを0にして周波数フィードバック機能を停止する能動状態待機モードSP12へ遷移する。この能動状態待機モードSP12への遷移が、状態判定部73によって判定され、この判定結果によって無効電力注入量算出部53dの動作が停止され、周波数フィードバック機能が停止する。能動状態待機モードSP12において、高調波電圧急変検出部72により、高調波電圧急変が検出されると、状態判定部73の判定結果によって無効電力注入量算出部53dの動作が開始され、周波数フィードバック機能が働く能動状態通常モードSP11へ遷移する。
【0071】
(実施例2の効果)
能動状態待機モードSP12では、周波数フィードバック機能が動作しないため、無効電力発振抑制制御部70によって単独運転状態の可能性があると判定した場合は、能動状態通常モードSP11へ遷移して周波数フィードバック機能を復活させる必要がある。その判定条件として、高調波電圧演算部60から出力された補正後のk次高調波電圧の実効値HarmRMS[k]に基づき、高調波電圧急変検出部72による高調波電圧変化の検出が利用されている。このように、無効電力発振抑制制御部70を設け、周波数フィードバック時の無効電力注入量p53dを制御することによって、注入無効電力の発振を的確に抑制できる。
【0072】
(実施例1、2の他の変形例)
本発明は、上記実施例1、2に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。
PCS33,33Aは、図1及び図7以外の構成に変更しても良い。例えば、直流電源31は、太陽電池等の直流電源に限定されず、風力発電、燃料電池、蓄電池等の他の直流電源であっても良い。インバータ部41は、他の電力変換部に置き換えても良い。又、ソフトウェア部50,50Aには、他の機能を付加する等して図示以外の構成に変更しても良い。
【符号の説明】
【0073】
31 直流電源
32 電力系統
33,33A PCS
41 インバータ部
42 VT
43 周波数検出回路
44 電圧検出部
44a,44b 電圧計測回路
51 電流制御処理部
52 系統周波数計測部
53 周波数フィードバック部
54 無効電力ステップ注入判定部
54a 基本波電圧演算部
54b ステップ注入発生条件判定部
54c ステップ注入量算出部
55 加算部
60 高調波電圧演算部
61 補正値算出部
62 高調波算出部
63 補正後高調波算出部
70 無効電力発振抑制制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9