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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】エアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/18 20060101AFI20220830BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20220830BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20220830BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A01N37/18 Z
A01N25/06
A01N25/30
A01P17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018090229
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196321
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】文珠 良侑
(72)【発明者】
【氏名】川田 伸秀
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/155630(WO,A1)
【文献】特開2011-063576(JP,A)
【文献】特開2015-017083(JP,A)
【文献】特開2005-068127(JP,A)
【文献】特開平07-109203(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033196(WO,A1)
【文献】油化学,1958年,第7巻、第7号,p434-438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/18
A01N 25/06
A01N 25/30
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫忌避成分と界面活性剤と水溶性高分子と水とを含む原液と、液化ガスとからなり、
前記原液と前記液化ガスとが乳化しており、
前記原液は、
害虫忌避成分を25~35質量%含み、
前記界面活性剤は、HLBが7.5以下の低HLB界面活性剤と、HLBが11以上の高HLB界面活性剤とを含み、
前記原液の含有量は、35~70質量%であり、
前記液化ガスの含有量は、30~65質量%であり、
前記害虫忌避成分は、N,N-ジエチル-m-トルアミド、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン、p-メンタン-3,8-ジオール、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルまたは2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン-1-カルボン酸1-メチルプロピルのうち、少なくともいずれか1種を含む、エアゾール組成物。
【請求項2】
前記低HLB界面活性剤と高HLB界面活性剤とのHLBの差は、6以上である、請求項1記載のエアゾール組成物。
【請求項3】
前記高HLB界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、請求項1または2記載のエアゾール組成物。
【請求項4】
前記害虫忌避成分は、N,N-ジエチル-m-トルアミドを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のエアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール組成物に関する。より詳細には、本発明は、原液中に高濃度の害虫忌避成分を含んでいるにもかかわらず、原液と液化ガスとを容易に乳化および再乳化させることができ、冷却感があり、破泡音を発する吐出物を吐出することのできるエアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デング熱等の害虫(蚊)を介した感染症を予防するための、害虫忌避成分を含むエアゾール組成物が開発されている(特許文献1~2)。特許文献1には、害虫忌避剤であるディートと水と所定の界面活性剤とを含む水中油型エマルジョンよりなる害虫忌避クラッキングエアゾール組成物が開示されている。特許文献2には、原液と液化ガスとからなる発泡性エアゾール組成物であって、原液が害虫忌避剤等の難水溶性有効成分、所定のHLBである界面活性剤、炭素数が2~3の1価アルコールおよび水を含む発泡性エアゾール組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-203663号公報
【文献】国際公開第2012/33196号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような害虫忌避成分を含む製品において、害虫忌避効果を高くするためには、ディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)等の害虫忌避成分を多く配合する必要がある。しかしながら、このような害虫忌避剤(特にディート)は、多くが油溶性であり、べたつきやすい。べたつきを改善するために水と乳化させることが考えられる。しかしながら、このような害虫忌避剤は、水と乳化しにくく、かつ、乳化安定性が悪い。そのため、このような害虫忌避剤を多く含むエアゾール組成物を吐出する場合、エアゾール組成物は、吐出の途中で分離しやすく均一な組成で吐出しにくい。特許文献1~2のエアゾール組成物は、いずれも害虫忌避成分を高配合(たとえば25質量%以上)する場合において、充分な乳化性や再乳化性を示すことが困難である。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、原液中に高濃度の害虫忌避成分を含んでいるにもかかわらず、原液と液化ガスとを容易に乳化および再乳化させることができ、冷却感があり、破泡音を発する吐出物を吐出することのできるエアゾール組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)害虫忌避成分と界面活性剤と水溶性高分子と水とを含む原液と、液化ガスとからなり、前記原液と前記液化ガスとが乳化しており、前記原液は、害虫忌避成分を25~35質量%含み、前記界面活性剤は、HLBが8未満の低HLB界面活性剤と、HLBが11以上の高HLB界面活性剤とを含み、前記原液の含有量は、35~70質量%であり、前記液化ガスの含有量は、30~65質量%である、エアゾール組成物。
【0008】
このような構成によれば、本発明のエアゾール組成物は、HLBが8未満の低HLB界面活性剤と、HLBが11以上の高HLB界面活性剤とを含む。このような特定範囲のHLBである2種の界面活性剤が併用されていることにより、エアゾール組成物は、害虫忌避成分が原液中に25~35質量含まれる場合であっても、原液と液化ガスとを容易に乳化および再乳化させることができる。そのため、エアゾール組成物は、均一な組成で吐出され、腕などの対象物上で塗り伸ばされやすく、冷却感があり、シュワシュワと破泡音を発する吐出物を形成し得る。
【0009】
(2)前記低HLB界面活性剤と高HLB界面活性剤とのHLBの差は、6以上である、(1)記載のエアゾール組成物。
【0010】
このような構成によれば、エアゾール組成物は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、特に乳化しやすい。
【0011】
(3)前記高HLB界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、(1)または(2)記載のエアゾール組成物。
【0012】
このような構成によれば、エアゾール組成物は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、特に乳化しやすい。
【0013】
(4)前記害虫忌避成分は、N,N-ジエチル-m-トルアミドを含む、(1)~(3)のいずれかに記載のエアゾール組成物。
【0014】
N,N-ジエチル-m-トルアミド(ディート)は、特に乳化させにくい害虫忌避成分である。本発明のエアゾール組成物は、このような乳化させることが困難であるN,N-ジエチル-m-トルアミドが高濃度となるよう配合されている場合であっても、原液と液化ガスとを乳化および再乳化させやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原液中に高濃度の害虫忌避成分を含んでいるにもかかわらず、原液と液化ガスとを容易に乳化および再乳化させることができ、冷却感があり、破泡音を発する吐出物を吐出することのできるエアゾール組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<エアゾール組成物>
本発明の一実施形態のエアゾール組成物は、害虫忌避成分と界面活性剤と水溶性高分子と水とを含む原液と、液化ガスとからなる。原液と液化ガスとは、乳化している。原液は、害虫忌避成分を25~35質量%含む。界面活性剤は、HLBが8未満の低HLB界面活性剤と、HLBが11以上の高HLB界面活性剤とを含む。原液の含有量は、35~70質量%である。液化ガスの含有量は、30~65質量%である。以下、それぞれについて説明する。
【0017】
(原液)
原液は、エアゾール組成物を構成する液体成分であり、害虫忌避成分と界面活性剤と水溶性高分子と水とを含む。
【0018】
・害虫忌避成分
害虫忌避成分は特に限定されない。一例を挙げると、害虫忌避成分は、N,N-ジエチル-m-トルアミド(ディート)、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン(ピカリジン)、p-メンタン-3,8-ジオール、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル、2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン-1-カルボン酸1-メチルプロピル等である。害虫忌避成分は、併用されてもよい。これら害虫忌避成分は、一般に原液中において水等と乳化させにくい。しかしながら、本実施形態のエアゾール組成物は、このような乳化させることが困難である害虫忌避成分が原液中25~35質量%となるよう高配合されている場合であっても、原液と液化ガスとを乳化させやすく、かつ、乳化状態を安定に保つことができる。
【0019】
害虫忌避成分の含有量は、原液中、25質量%以上であればよく、27質量%以上であることが好ましい。また、害虫忌避成分の含有量は、原液中、35質量%以下であればよく、33質量%以下であることが好ましい。害虫忌避成分の含有量が25質量%未満である場合、エアゾール組成物は、近年求められているような極めて優れた害虫忌避効果を発揮するためには充分でない傾向がある。一方、害虫忌避成分の含有量が35質量%を超える場合、エアゾール組成物は、乳化が不充分となったり、乳化安定性が低下する傾向がある。
【0020】
本実施形態の害虫忌避成分が忌避対象とする害虫は特に限定されない。一例を挙げると、対象害虫は、屋内外に生息する害虫であり、飛翔害虫、匍匐害虫等である。より具体的には、飛翔害虫は、蚊、アブ、ブユ、ヌカカ、ハチ、その他のランディング行動を有する害虫である。匍匐害虫は、アリ、ゴキブリ、ダンゴムシ、カミキリムシ、ワラジムシ、アリ、シロアリ、ムカデ、ヤスデ、トコジラミ、マダニ、イエダニ、ヤマビル等である。
【0021】
・界面活性剤
界面活性剤は、害虫忌避成分を原液中において乳化させる役割や、原液と液化ガスとを乳化する役割や、吐出直後の吐出物中に液化ガスを保持させて吐出物を発泡させる役割のために配合される。界面活性剤は、HLBが8未満の低HLB界面活性剤と、HLBが11以上の高HLB界面活性剤とを含む。
【0022】
低HLB界面活性剤は、HLBが8未満であればよく、特に限定されない。一例を挙げると、低HLB界面活性剤は、POE(5)硬化ヒマシ油(HLB6.0)、POE(10)硬化ヒマシ油(HLB6.5)などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタンモノパルミテート(HLB6.7)、ソルビタンモノステアレート(HLB4.7)、ソルビタンモノオレエート(HLB5.0)、ソルビタンセスキオレエート(HLB3.7)などのソルビタン脂肪酸エステル、グリセリルモノステアレート(HLB3.0)、グリセリルモノオレエート(HLB2.5)などのモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリルモノオレエート(HLB5.5)、テトラグリセリルモノオレエート(HLB6.0)などのポリグリセリン脂肪酸エステル、POE(2)オレイルエーテル(HLB7.5)、POE(5)ベヘニルエーテル(HLB7.0)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、POE(2)モノステアレート(HLB4.0)、POE(4)モノステレート(HLB6.5)などのポリエチレングリコール脂肪酸エステル等である。これらの中でも、低HLB界面活性剤は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を乳化しやすい点から、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。低HLB界面活性剤は、併用されてもよい。
【0023】
低HLB界面活性剤は、HLBが8未満であればよく、7.5以下であることがより好ましい。これにより、後述する高HLB界面活性剤とのHLB差が7以上となりやすく、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、より乳化しやすい。
【0024】
低HLB界面活性剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、低HLB界面活性剤の含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、低HLB界面活性剤の含有量は、原液中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。低HLB界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、より乳化しやすく、かつ、原液と液化ガスとを乳化させやすい。
【0025】
高HLB界面活性剤は、HLBが11以上であればよく、特に限定されない。一例を挙げると、高HLB界面活性剤は、POE(40)硬化ヒマシ油(HLB12.5)、POE(50)硬化ヒマシ油(HLB13.5)、POE(60)硬化ヒマシ油(HLB14.0)、POE(80)硬化ヒマシ油(HLB15.0)、POE(100)硬化ヒマシ油(HLB16.5)などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、デカグリセリルモノラウレート(HLB15.5)、デカグリセリルモノミリステート(HLB14.0)、デカグリセリルモノオレエート(HLB12.0)、ヘキサグリセリルモノラウレート(HLB14.5)、ヘキサグリセリルモノミリステート(HLB11.0)などのポリグリセリン脂肪酸エステル、POE(20)ソルビタンモノラウレート(HLB16.9)、POE(20)ソルビタンモノパルミテート(HLB15.6)、POE(20)ソルビタンモノステアレート(HLB14.9)、POE(20)ソルビタントリオレエート(HLB11.0)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、POE(30)ソルビットテトラオレエート(HLB11.5)などのポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、POE(9)ラウリルエーテル(HLB14.5)、POE(21)ラウリルエーテル(HLB19.0)、POE(15)セチルエーテル(HLB15.5)、POE(20)セチルエーテル(HLB17.0)、POE(30)セチルエーテル(HLB19.5)、POE(20)ステアリルエーテル(HLB18.0)、POE(10)オレイルエーテル(HLB14.0)、POE(20)ベヘニルエーテル(HLB16.5)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、POE(20)POP(8)セチルエーテル(HLB12.5)、POE(20)POP(6)デシルテトラデシルエーテル(HLB11.0)などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、POE(15)グリセリルモノオレエート(HLB14.5)、POE(15)グリセリルモノステアレート(HLB13.5)などのポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、POE(10)モノラウレート(HLB12.5)、POE(25)モノステレート(HLB15.0)などのポリエチレングリコール脂肪酸エステル等である。これらの中でも、高HLB界面活性剤は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を特に乳化しやすい点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが好ましい。高HLB界面活性剤は、併用されてもよい。
【0026】
高HLB界面活性剤は、HLBが11以上であればよく、11.5以上であることがより好ましい。これにより、上記低HLB界面活性剤とのHLB差が6以上となりやすく、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、より乳化しやすい。
【0027】
高HLB界面活性剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、高HLB界面活性剤の含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、高HLB界面活性剤の含有量は、原液中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。高HLB界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、より乳化しやすく、かつ、原液と液化ガスとを乳化させやすい。
【0028】
低HLB界面活性剤と高HLB界面活性剤とのHLBの差は、6以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましい。HLBの差が6以上であることにより、エアゾール組成物は、高濃度となるよう配合されている上記害虫忌避成分を、特に乳化しやすい。
【0029】
なお、本実施形態の原液は、上記低HLB界面活性剤および高HLB界面活性剤を含んでいればよく、これら以外の他の界面活性剤を含んでいてもよい。一例を挙げると、他の界面活性剤は、HLBが8以上11未満の界面活性剤である。このような他の界面活性剤は、ヘキサグリセリルモノステアレート(HLB9.0)、ヘキサグリセリルモノオレエート(HLB9.0)などのポリグリセリン脂肪酸エステルPOE(6)ソルビタンモノステアレート(HLB9.5)、POE(20)ソルビタントリステアレート(HLB10.5)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、POE(2)ラウリルエーテル(HLB9.5)、POE(2)セチルエーテル(HLB8.0)、POE(4)ステアリルエーテル(HLB9.0)、POE(10)ベヘニルエーテル(HLB10.0)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、POE(10)POP(4)セチルエーテル(HLB9.5)、POE(12)POP(6)デシルテトラデシルエーテル(HLB8.5)などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、POE(5)グリセリルモノステアレート(HLB9.5)などのポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等である。
【0030】
・水溶性高分子
水溶性高分子は、原液の粘度を調整したり、吐出物中に液化ガスを長く保持したり、破泡音を大きくしたり、エアゾール組成物の乳化しやすさ(初期乳化)を向上させるために配合される。
【0031】
水溶性高分子は特に限定されない。一例を挙げると、水溶性高分子は、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアゴム、トラガントゴム、カチオン化グアガム、グアガム、ジェランガムなどのガム質;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース系高分子;デキストラン、カルボキシメチルデキストランナトリウム、デキストリン、ペクチン、デンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、アルギン酸ナトリウム、変性ポテトスターチ、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー等である。これらの中でも、水溶性高分子は、エアゾール組成物の乳化しやすさを向上させやすい点から、セルロース系高分子であることが好ましい。水溶性高分子は併用されてもよい。
【0032】
水溶性高分子の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、水溶性高分子の含有量は、原液中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、水溶性高分子の含有量は、原液中、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。水溶性高分子の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、原液と液化ガスとの乳化しやすさが向上しやすい。
【0033】
なお、一般的に、水溶性高分子が配合されることにより原液の粘度が上昇すると、原液と液化ガスとの乳化しやすさが低下する傾向がある。しかしながら、本実施形態のエアゾール組成物は、このような技術常識とは異なり、害虫忌避成分を高濃度で含有し、水溶性高分子が上記所定量配合されることにより、エアゾール組成物の乳化しやすさが向上する。
【0034】
・水
水は原液の主溶媒である。水は、精製水、イオン交換水、生理食塩水、海洋深層水等である。
【0035】
水の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、水の含有量は、原液中、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、水の含有量は、原液中、74質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。水の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、原液と液化ガスとが乳化しやすく、かつ、乳化に要する界面活性剤を必要量配合しやすい。
【0036】
・有効成分
原液全体の説明に戻り、原液は、上記成分のほか、適宜有効成分を含んでもよい。有効成分は、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、コラーゲン、キシリトール、ソルビトール、ヒアルロン酸、乳酸ナトリウム、dl-ピロリドンカルボン酸塩、ケラチン、レシチン、尿素などの保湿剤;l-メントール、カンフルなどの清涼剤;クロタミトン、d-カンフルなどの鎮痒剤;酸化亜鉛、アラントインヒドロキシアルミニウム、タンニン酸、クエン酸、乳酸などの収斂剤;パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化クロルヘキシジンなどの殺菌・消毒剤;パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、エチルヘキシルトリアゾン、オキシベンゾンなどの紫外線吸収剤;酸化亜鉛、酸化チタンなどの紫外線散乱剤;レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、dl-α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、トコフェロールおよびこれらの混合物などのビタミン類;シャクヤクエキス、ヘチマエキス、バラエキス、レモンエキス、アロエエキス、ユーカリエキス、セージエキス、茶エキス、海藻エキス、プラセンタエキス、シルク抽出液などの抽出液;アルブチン、コウジ酸などの美白剤;天然香料、合成香料などの各種香料等である。有効成分は、併用されてもよい。
【0037】
有効成分が含まれる場合、有効成分の含有量は、原液中、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~8質量%であることがより好ましい。有効成分の含有量が上記範囲内であることにより、有効成分を配合することによる効果が適切に得られやすい。0.01質量%よりも少ない場合は、有効成分の効果が不充分になり易く、10重量%よりも多い場合は、有効成分濃度が高くなりすぎ、有効成分によっては人体へ悪影響を及ぼす場合がある。
【0038】
また、本実施形態のエアゾール組成物は、アルコール、油分、パウダー等を含んでもよい。
【0039】
アルコールは、水に溶解し難い有効成分を溶解するための溶媒として、また噴射したときの破泡音を調整する、乾燥を速くしてべたつきを抑制する等の目的で好適に配合される。
【0040】
アルコールは特に限定されない。一例を挙げると、アルコールは、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が2~3個の1価アルコール等である。アルコールは併用されてもよい。
【0041】
アルコールが含有される場合、アルコールの含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、アルコールの含有量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。アルコールの含有量が上記範囲内であることにより、原液と液化ガスとが適切に乳化されやすく、かつ、上記アルコールを配合することによる効果が奏されやすい。
【0042】
油分は、原液と液化ガスとの乳化状態を調整する、皮膚に潤いを与える、滑りを良くする等の目的で好適に配合される。
【0043】
油分は特に限定されない。一例を挙げると、油分は、ホホバ油、アボカド油、マカダミアナッツ油、オリーブ油、ツバキ油などの油脂;ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、アジピン酸ジイソブチル、コハク酸ジエトキシエチル、リンゴ酸ジイソステアリルなどのエステル油;スクワレン、スクワラン、流動パラフィンなどの炭化水素油;メチルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーンオイル;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸;ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコールなどの高級アルコール;ミツロウ、ラノリンロウなどのロウ類等である。油分は併用されてもよい。
【0044】
油分が含有される場合、油分の含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、油分の含有量は、原液中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。油分の含有量が上記範囲内であることにより、原液と液化ガスとが適切に乳化されやすく、かつ、上記油分を配合することによる効果が奏されやすい。
【0045】
パウダーは、原液と液化ガスとを乳化し易くする、乳化安定性を向上させる等の目的で好適に配合される。
【0046】
パウダーは特に限定されない。一例を挙げると、パウダーは、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、ゼオライト、カオリン、雲母、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム等である。パウダーは、併用されてもよい。
【0047】
パウダーが含有される場合、パウダーの含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、パウダーの含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。パウダーの含有量が上記範囲内であることにより、原液と液化ガスとが適切に乳化されやすく、かつ、エアゾール組成物が吐出される際に、エアゾール製品の吐出通路等においてパウダーが詰まりにくい。
【0048】
原液全体の説明に戻り、原液の含有量は、エアゾール組成物中、35質量%以上であればよく、40質量%以上であることが好ましい。また、原液の含有量は、エアゾール組成物中、70質量%以下であればよく、65質量%以下であることが好ましい。原液の含有量が35質量%未満である場合、エアゾール組成物は、原液と液化ガスとが乳化しにくくなる。一方、原液の含有量が70質量%を超える場合、エアゾール組成物は、吐出物が破泡音を発しにくくなり、爽快感が得られにくくなる。
【0049】
原液の粘度は特に限定されない。一例を挙げると、原液の粘度(20℃)は、10mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましい。また、原液の粘度は、20000mPa・s以下であることが好ましく、10000mPa・s以下であることがより好ましい。原液の粘度が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、原液と液化ガスとを混合することにより乳化されやすく、かつ、乳化安定性が優れる。なお、粘度は、B型回転粘度計にて測定し得る。なお、粘度の測定条件(ロータ回転数、ロータ番号等)は、測定すべき原液の粘度や粘性に基づいて適切に選択され得る。たとえば、数百~数千mPa・sの比較的低粘度の原液に対しては、1番ロータまたは2番ロータを使用し、高回転数(たとえば30~60rpm)にて測定することにより、上記B型回転粘度計の測定可能範囲内で適切に原液の粘度を測定し得る。一方、数千~数万mPa・sの比較的高粘度の原液に対しては、3番ロータまたは4番ロータを使用し、高回転数(たとえば6~12rpm)にて測定することにより、上記B型回転粘度計の測定可能範囲内で適切に原液の粘度を測定し得る。
【0050】
(液化ガス)
液化ガスは、エアゾール容器内に加圧・密封された状態において、原液と乳化される蒸気圧を有する液体成分である。また、液化ガスは、吐出直後の吐出物中に保持されて発泡し、泡が弾ける際にシュワシュワと破泡音を発するシュワシュワ感を調整したり、吐出物を冷却して適用箇所に冷感を付与する等の目的で含有される。
【0051】
液化ガスは特に限定されない。一例を挙げると、液化ガスは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンおよびこれらの混合物である炭素数が3~5個の脂肪族炭化水素、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO-1234ze)、トランス-2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO-1234yf)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)などのハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテル、およびこれらの混合物等である。これらの中でも、液化ガスは、原液と乳化しやすい点から、疎水性液化ガスである脂肪族炭化水素やハイドロフルオロオレフィンが好ましい。液化ガスは、併用されてもよい。
【0052】
液化ガスの含有量は、エアゾール組成物中、30質量%以上であればよく、35質量%以上であることが好ましい。また、液化ガスの含有量は、エアゾール組成物中、65質量%以下であればよく、60質量%以下であることが好ましい。液化ガスの含有量が30質量%未満である場合、エアゾール組成物は、冷却感が弱くなり、破泡音が小さくなりやすい。一方、液化ガスの含有量が65質量%を超える場合、エアゾール組成物は、液化ガスと原液とが乳化しにくくなる。
【0053】
なお、エアゾール組成物は、加圧剤として、窒素、空気、二酸化炭素、亜酸化窒素などの圧縮ガスが併用されてもよい。
【0054】
本実施形態のエアゾール組成物を充填したエアゾール製品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、まず、容器本体内に原液が充填される。次いで、容器本体の開口部にエアゾールバルブが取り付けられ、エアゾールバルブから液化ガスが充填される。液化ガスは容器本体にエアゾールバルブを取り付ける前に両者の隙間から充填してもよい。さらに、容器本体を振盪して原液と液化ガスとが乳化される。その後、エアゾールバルブのステムに吐出部材を取り付けられ、エアゾール容器にキャップを取り付けられることにより、エアゾール製品が製造される。
【0055】
得られたエアゾール製品は、吐出部材を操作することによりエアゾール組成物を吐出することができる。吐出されたエアゾール組成物は、液化ガスが気化して泡状の吐出物を形成する。この吐出物は、均一な組成であり、腕などの対象物上で塗り伸ばされやすく、冷却感があり、シュワシュワと破泡音を発する。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0057】
(実施例1)
以下の表1に示される処方にしたがい、原液を調製し、得られた原液60.0gをアルミニウム製耐圧容器に充填し、エアゾールバルブを固着した。エアゾールバルブから液化石油ガス(*1)40.0gを充填し、原液と液化石油ガスとを混合してエアゾール組成物を製造した。得られたエアゾール組成物に、吐出部材(吐出孔の断面積が3.8mm2)を取り付け、エアゾール製品を作製した。
*1:イソブタンとノルマルブタンの混合物、20℃における圧力が0.15MPa
【0058】
(実施例2~34、比較例1~5)
表1~表3に示される処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、それぞれのエアゾール組成物およびエアゾール製品を作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1~34および比較例1~5のエアゾール組成物およびエアゾール製品を使用し、以下の評価方法により、初期乳化、再乳化および噴射物の状態を評価した。結果を表1~表3に示す。
【0063】
<初期乳化>
原液と液化ガスとを充填した直後のエアゾール製品を、振幅幅30cmで振盪し、以下の評価基準にしたがって、初期乳化に要した振盪回数を評価した。なお、振盪回数は1往復を1回とした。
(評価基準)
◎:エアゾール組成物は、振盪回数が10回未満で乳化した。
〇:エアゾール組成物は、振盪回数が10~20回で乳化した。
△:エアゾール組成物は、振盪回数が21~30回で乳化した。
×:エアゾール組成物は、30回振っても乳化しなかった。
【0064】
<再乳化>
エアゾール製品を45℃の恒温室内で1ヶ月間静置して原液と液化ガスとを分離させ、このエアゾール製品を25℃の恒温水槽に1時間浸漬してエアゾール組成物を25℃に調整し、エアゾール製品を振幅幅30cmで振盪し、以下の評価基準にしたがって、再乳化に要した振盪回数を評価した。
(評価基準)
◎:エアゾール組成物は、振盪回数が10回未満で再乳化した。
〇:エアゾール組成物は、振盪回数が10~20回で再乳化した。
×:エアゾール組成物は、振盪回数が21~30回で再乳化した。
-:エアゾール組成物は初期乳化で乳化しなかったため、評価できなかった。
【0065】
<吐出物の状態>
エアゾール製品を25℃の恒温水槽に1時間浸漬してエアゾール組成物を25℃に調整し、エアゾール製品から吐出して、以下の評価基準にしたがって、吐出物の状態を評価した。
(評価基準)
〇:吐出物は、泡が弾けるときにシュワシュワという破泡音を発した。
△:吐出物は、泡が弾けるときにシュワシュワという破泡音を発したが、破泡音が小さかった。
×:吐出物は、泡が弾けるときにシュワシュワという破泡音を発しなかった。
【0066】
表1~表3に示されるように、実施例1~34のエアゾール組成物は、いずれも初期乳化しやすく、かつ、分離後に再乳化させやすかった。また、これらのエアゾール組成物は、吐出後にシュワシュワという破泡音を発した。一方、水溶性高分子を含んでいない比較例1のエアゾール組成物、高HLB界面活性剤を含んでいない比較例2のエアゾール組成物、低HLB界面活性剤を含んでいない比較例3のエアゾール組成物、原液の含有量の少ない比較例4のエアゾール組成物は、いずれも30回振っても初期乳化しなかった。また、これらのエアゾール組成物は、吐出後にシュワシュワという破泡音を発生させることができなかった。なお、低HLB界面活性剤を含んでいない比較例5のエアゾール組成物は、初期乳化させにくく、かつ、分離後に再乳化させにくかった。また、これらのエアゾール組成物は、吐出後にシュワシュワという破泡音は小さかった。