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  • 特許-熱間鍛造用非調質鋼 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】熱間鍛造用非調質鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220830BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/60
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018132588
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2019019411
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017136237
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176833
【氏名又は名称】三菱製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正芳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 太一
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/136348(WO,A1)
【文献】特開2002-180194(JP,A)
【文献】特開2002-030339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cを0.10~0.19質量%含有し、
Siを0.01~1.00質量%含有し、
Mnを2.0~4.0質量%含有し、
Sを0.005~0.100質量%含有し、
Pを0.035質量%以下含有し、
Crを0.2質量%以下含有し、
Alを0.010~0.045質量%含有し、
Nを0.010~0.025質量%含有し、
を0.005質量%以下含有し、
Tiを0.005質量%以下含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる熱間鍛造用非調質鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造用非調質鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、C、Si、Mn、Cr、Mo、Al、V、N、Tiを含有する熱間鍛造用非調質鋼が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、Vは、非常に高価であるため、原料コストの上昇が避けられない。
【0004】
そこで、Vを含有しない熱間鍛造用非調質鋼が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-176842号公報
【文献】特開2002-030339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、熱間鍛造用非調質鋼を建設機械用部品等に適用する場合は、降伏強度が500MPa以上であり、衝撃値が60J/cm以上であることが求められている。
【0007】
しかしながら、熱間鍛造用非調質鋼をトラック用のドラッグリンクエンド、タイロッドエンド等に適用する場合は、衝撃値がそれ程必要とされておらず、降伏強度が440MPa以上であり、衝撃値が35J/cm以上であればよい。
【0008】
また、Tiも高価である。
【0009】
本発明の一態様は、上記のような事情を鑑み、V及びTiを実質的に含有せず、降伏強度を440MPa以上とし、衝撃値を35J/cm以上とすることが可能な熱間鍛造用非調質鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、熱間鍛造用非調質鋼において、Cを0.10~0.19質量%含有し、Siを0.01~1.00質量%含有し、Mnを2.0~4.0質量%含有し、Sを0.005~0.100質量%含有し、Pを0.035質量%以下含有し、Crを0.2質量%以下含有し、Alを0.010~0.045質量%含有し、Nを0.010~0.025質量%含有し、Vを0.005質量%以下含有し、Tiを0.005質量%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる。


【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、V及びTiを実質的に含有せず、降伏強度を440MPa以上とし、衝撃値を35J/cm以上とすることが可能な熱間鍛造用非調質鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の棒鋼のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。
図2】比較例1の棒鋼のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼は、C、Si、Mn、S、Al及びNを含有し、P及びCrを含有してもよく、V及びTiを実質的に含有しない。
【0015】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のCの含有量は、0.10~0.30質量%であり、0.13~0.19質量%であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のCの含有量が0.10質量%未満であると、降伏強度が低下し、0.30質量%を超えると、溶接性が低下する。
【0016】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のSiの含有量は、0.01~1.00質量%であり、0.2~0.4質量%であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のSiの含有量が0.01質量%未満であると、熱間鍛造用非調質鋼の脱酸が不十分になり、1.00質量%を超えると、靭性及び機械加工性が低下する。
【0017】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のMnの含有量は、2.0~4.0質量%であり、2.1~2.6質量%であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のMnの含有量が2.0質量%未満であると、熱間鍛造用非調質鋼の固溶強化が低下すること、及び、焼入性が低くなりすぎて、ベイナイト組織に、硬度に劣るフェライト-パーライト組織が混在することにより、降伏強度が低下する。一方、熱間鍛造用非調質鋼のMnの含有量が4.0質量%を超えると、熱間鍛造用非調質鋼の焼入性が高くなりすぎて、ベイナイト組織に、靱性に劣るマルテンサイト組織が混在することにより、降伏比(引張強度に対する降伏強度の比)が低下する。
【0018】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のSの含有量は、0.005~0.100質量%であることが好ましい。本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のSの含有量が0.005質量%であると、被削性を向上させることができ、0.100質量%以下であると、疲労強度を向上させることができる。
【0019】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のPの含有量は、0.035質量%以下であり、0.020質量%以下であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のPの含有量が0.035質量%を超えると、熱間鍛造用非調質鋼のオーステナイト粒界に偏析して粒界が脆弱になり、靭性が低下する。
【0020】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のCrの含有量は、0.2質量%以下であり、0.05質量%以下であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のCrの含有量が0.2質量%を超えると、溶接性が低下する。
【0021】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のAlの含有量は、0.010~0.045質量%であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のAlの含有量が0.010質量%未満であると、鍛造前の熱間鍛造用非調質鋼素材の鋼中に析出しているAlNの量が少なくなり、旧オーステナイト結晶粒の微細化に寄与しにくくなるとともに、鍛造温度への加熱時に鋼中にAlNが固溶することで、加熱により生成したオーステナイト組織の結晶粒が粗大化し、衝撃値と降伏比が低下する。一方、熱間鍛造用非調質鋼のAlの含有量が0.045質量%を超えると、Al介在物の生成を助長し、疲労強度が低下する。
【0022】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼のNの含有量は、0.010~0.025質量%であることが好ましい。熱間鍛造用非調質鋼のNの含有量が0.010質量%未満であると、鍛造前の熱間鍛造用非調質鋼素材の鋼中に析出しているAlNの量が少なくなり、旧オーステナイト結晶粒の微細化に寄与しにくくなるとともに、鍛造温度への加熱時に鋼中にAlNが固溶することで、加熱により生成したオーステナイト組織の結晶粒が粗大化し、衝撃値と降伏比が低下する。一方、熱間鍛造用非調質鋼のNの含有量が0.025質量%を超えると、熱間鍛造用非調質鋼の表面に気泡が発生し、熱間鍛造用非調質鋼の鍛造性が低下する。
【0023】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼は、V及びTiを実質的に含有しない。
【0024】
ここで、熱間鍛造用非調質鋼がV及びTiを含む場合、粗大な炭窒化物が生成して、疲労破壊の起点となり、疲労強度が低下する原因となる場合がある。
【0025】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、"実質的に含有しない"とは、含有量が0.005質量%以下であることを意味する。
【0026】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼は、残部がFe及び不可避的不純物元素からなる。
【0027】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼の熱間鍛造物のミクロ組織中のベイナイト組織の含有量は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。熱間鍛造用非調質鋼の熱間鍛造物のミクロ組織中のベイナイト組織の含有量が90%以上であると、降伏比を向上させることができる。
【0028】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼としては、特に限定されないが、鋼塊、棒鋼等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の熱間鍛造用非調質鋼を熱間鍛造することにより製造される部品としては、特に限定されないが、トラック用のドラッグリンクエンド、タイロッドエンド等が挙げられる。
【実施例
【0030】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
[実施例1、2、比較例1、2]
低炭素鋼に固溶強化元素を添加し、真空溶解炉で溶融させた後、鋼塊鋳型に注入して固化させ、表1に示す組成[質量%]の熱間鍛造用非調質鋼(鋼塊)を作製した。
【0032】
【表1】
なお、鋼塊の組成については、C、S、Nは、燃焼法により測定し、Si、Mn、P、Cr、Al、V、Tiは、発光分光分析により測定した。
【0033】
[降伏強度、引張強度、降伏比、衝撃値]
20kgの鋼塊を1200℃で加熱し、直径φ25mm、長さ1000mmに成形した後、空冷し、棒鋼を作製した。
【0034】
棒鋼の中心部からJIS4号サブサイズ引張試験用試験片(全長110mm、平行部50mm、φ10mm)及びJIS3号シャルピー衝撃試験用試験片を切り出して機械加工した後、引張試験とシャルピー衝撃試験を室温で実施し、降伏強度、引張強度、降伏比及び衝撃値を求めた。
【0035】
[ブリネル硬さHB]
鋼塊を1200℃で熱間鍛造した後、空冷し、平鋼を作製した。
【0036】
平鋼を試験片として用い、JIS Z 2243に準拠して、ブリネル硬さHBを測定した。
【0037】
表2に、試験片の降伏強度、引張強度、降伏比、衝撃値及びブリネル硬さHBの評価結果を示す。
【0038】
【表2】
表2から、実施例1、2の試験片は、降伏強度が469~493MPaであり、衝撃値が56.4~62.1J/cmであることがわかる。
【0039】
これに対して、比較例1、2の試験片は、Mnの含有量が1.84~1.88質量%である非調質鋼を熱間鍛造して作製されているため、降伏強度が378~428MPaとなる。
【0040】
[ミクロ組織]
20kgの鋼塊を1200℃で加熱し、直径φ25mm、長さ1000mmに成形した後、空冷し、棒鋼を作製した。
【0041】
光学顕微鏡を用いて、棒鋼のミクロ組織を観察した。
【0042】
図1及び図2に、それぞれ実施例1及び比較例1の棒鋼のミクロ組織を示す。
【0043】
図1から、実施例1の棒鋼は、ミクロ組織の95%がベイナイト組織で構成され、一部にフェライト組織が混在しているミクロ組織になっていることがわかる。
【0044】
なお、実施例2の棒鋼のミクロ組織も、実施例1の棒鋼のミクロ組織と同様である。
【0045】
図2から、比較例1の棒鋼は、主にフェライト-パーライト組織で構成され、一部にベイナイト組織が混在しているミクロ組織になっていることがわかる。
【0046】
なお、比較例2の棒鋼のミクロ組織も、比較例1の棒鋼のミクロ組織と同様である。
図1
図2