(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】透明固形洗浄剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20220830BHJP
C11D 17/06 20060101ALI20220830BHJP
C11D 3/26 20060101ALI20220830BHJP
C11D 1/10 20060101ALI20220830BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20220830BHJP
A61K 8/42 20060101ALI20220830BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61K8/44
C11D17/06
C11D3/26
C11D1/10
A61K8/41
A61K8/42
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2018133545
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391019061
【氏名又は名称】四ツ葉油化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄也
(72)【発明者】
【氏名】薄羽 恭謙
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-025465(JP,A)
【文献】特開平01-282299(JP,A)
【文献】特開平09-125100(JP,A)
【文献】特開平06-264092(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C11D 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アシルグルタミン酸のトリエタノールアミン塩
、N-アシル中性アミノ酸のトリエタノールアミン塩
、および尿素を含有し、
原料配合において、N-アシルグルタミン酸:10~40重量%、N-アシル中性アミノ酸:5~20重量%、尿素:5~20重量%であり、N-アシルグルタミン酸とN-アシル中性アミノ酸との比率が重量比で50:50~85:15であり、
N-アシルグルタミン酸およびN-アシル中性アミノ酸の総中和度が80~100%である透明固形洗浄剤。
【請求項2】
N-アシル中性アミノ酸がN-アシル-N-メチル-β-アラニンまたはN-アシルサルコシンである請求項1記載の透明固形洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アシル酸性アミノ酸塩を成分要素とする透明固形洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
外観的に美的要素の高い透明固形洗浄剤は、単に贈答用石鹸としてだけでなく、女性の洗顔用石鹸として広く使用されている。
従来、この透明固形洗浄剤の組成成分としては、高級脂肪酸塩を主剤とし、透明化剤としてグリセリンやショ糖、ソルビトール等を添加したものが主に用いられている。しかしながら、上記した従来の透明石鹸は透明性が十分でなく、また使用途中において石鹸表面がゲル化し不透明化してしまう問題がある。
【0003】
また、近年では、N-アシル酸性アミノ酸塩を主成分とした透明固形洗浄剤が開発されているが、透明性に優れ、使用途中において不透明になる等の問題がない一方で、泡立ち性及び泡質等の使用性に劣る問題がある(特許文献1)。
【0004】
このような欠点に対しては、N-アシル酸性アミノ酸塩の塩をアルカリ金属塩とエタノールアミン塩から構成した透明固形洗浄剤組成物の技術が開示されている(特許文献2)。この透明固形洗浄剤は優れた泡立ち性を示すが、硬度に劣り石鹸容器への付着が大きく、使い減りしやすいという問題を有していた。
更に、上記した透明固形洗浄剤の改良としてN-アシル酸性アミノ酸塩の塩をカリウム塩とナトリウム塩及びエタノールアミン塩から構成した透明固形洗浄剤組成物の技術も開示されているが、依然硬度については十分でなく、高温高湿保管下で軟化しやすい問題を有している(特許文献3)。
【0005】
更に、N-アシル酸性アミノ酸塩にアシルグリシン塩を配合した透明固形洗浄剤組成物の技術が開示されている(特許文献4)。使用性の大幅な改善が図られているが、アシルグリシン塩の配合割合を増やすことで高温下での安定性が悪くなり、硬度が低下する問題を有している。
現在に至るまで十分満足できる透明固形洗浄剤組成物は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭55-25465号公報
【文献】特開平4-1297号公報
【文献】特開平6-264092号公報
【文献】国際公開第2016/060207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な透明固形洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、N-アシルグルタミン酸と、N-アシル中性アミノ酸を特定割合で配合し、それらをトリエタノールアミン塩とし、更に尿素を特定の割合で配合することにより、特許文献1に記載されるようなN-アシル酸性アミノ酸塩を主成分とした従来の透明固形洗浄剤と比較して、使用感(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)を改善できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] N-アシルグルタミン酸のトリエタノールアミン塩と、
N-アシル中性アミノ酸のトリエタノールアミン塩と、
尿素とを含有し、
原料配合において、N-アシルグルタミン酸:10~40重量%、N-アシル中性アミノ酸:5~20重量%、尿素:5~20重量%であり、N-アシルグルタミン酸とN-アシル中性アミノ酸との比率が重量比で50:50~85:15であり、
N-アシルグルタミン酸およびN-アシル中性アミノ酸の総中和度が80~100%である透明固形洗浄剤。
[2] N-アシル中性アミノ酸がN-アシル-N-メチル-β-アラニンまたはN-アシルサルコシンである請求項1記載の透明固形洗浄剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な透明固形洗浄剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は透明固形洗浄剤に関し、未中和のN-アシルグルタミン酸とトリエタノールアミンとの塩、および未中和のN-アシル中性アミノ酸とトリエタノールアミンとの塩を含有する。
【0012】
本発明に使用される未中和のN-アシルグルタミン酸及び未中和のN-アシル中性アミノ酸は市場にて通常に入手できる。
未中和のN-アシルグルタミン酸(成分(A1))としては、N-ラウロイルグルタミン酸、N-ミリストイルグルタミン酸、N-ステアロイルグルタミン酸、N-ココイル(ヤシ油脂肪酸アシル)グルタミン酸などが挙げられる。例えばこれらのうち必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、その含有量は原料配合において全組成中の10~40重量%で、硬度及び製造性の観点から、好ましくは15~30重量%である。
N-アシルグルタミン酸の配合量が10重量%を下回ると硬度の低下を引き起こし透明固形洗浄剤としての剤型が保てなくなり、40重量%を超えて配合されると製造時にゲル化が生じ製造が困難になる場合がある。
【0013】
未中和のN-アシル中性アミノ酸(成分(A2))としては、N-ラウロイル-メチル-β-アラニン、N-ミリストイル-メチル-β-アラニン、N-ステアロイル-メチル-β-アラニン、N-ココイル-メチル-β-アラニンなどのN-アシル-N-メチル-β-アラニン、N-ラウロイルサルコシン、N-ミリストイルサルコシン、N-ステアロイルサルコシン、N-ココイルサルコシンなどのN-アシルサルコシン、N-ラウロイルグリシン、N-ミリストイルグリシン、N-ステアロイルグリシン、N-ココイルグリシンなどのN-アシルグリシンが挙げられ、泡立ちの観点から、N-アシル-N-メチル-β-アラニンまたはN-アシルサルコシンが好ましい。例えばこれらのうち必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、その含有量は原料配合において全組成中の5~20重量%で、使用性(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)及び安定性の観点から、好ましくは5~15重量%である。配合量が5重量%未満では泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力に十分な効果が発揮できず、20重量%を超える配合では高温保存での安定性が悪くなる場合がある。
【0014】
本発明における成分(A1)及び(A2)の重量比は50:50~85:15であり、泡立ち、泡量の観点から、好ましくは55:45~80:20である。この50:50~85:15との範囲内であれば透明性及び硬度が良好で、泡立ち及び泡質等の使用性に優れた透明固形洗浄剤を提供することができる。50:50を超えて成分(A2)を加えた場合高温保存下での安定性が悪くなる場合があり、85:15を超えて成分(A1)が配合された場合十分な使用性が得られない場合がある。
本発明の透明固形洗浄剤は、成分(A1)および成分(A2)がトリエタノールアミンにより中和されている、これらのトリエタノールアミン塩を含有する。N-アシルグルタミン酸及びN-アシル中性アミノ酸についての以下の式で定義される総中和度が80~100%であり、より好ましくは82~100%である。総中和度が80%未満では透明性や硬度の低下につながり、総中和度が100%を超える場合では高温保存安定性が低下するため好ましくない。
【0015】
本発明においては成分(A1)および成分(A2)のトリエタノールアミン塩に加えて尿素(成分B)を含有する。尿素は原料配合において全組成中の5~20重量%で、低温保存安定性の観点から、好ましくは5~16重量%である。配合量が5重量%未満では硬度の低下を引き起こし、20重量%を超えるときには結晶化により失透が生じてしまう等の問題が発生する。
【0016】
また、本発明の透明固形洗浄剤は、硬度及び透明性の観点から、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコールや砂糖を5~30重量%の割合で含有することが好ましい。
また、本発明の透明固形洗浄剤は、製造の手間やコストなどの製造上の観点から、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールを0.5~10重量%の割合で含有することが好ましい。
【0017】
本発明の透明固形洗浄剤において、本発明の効果を阻害しない範囲で通常使用される各種添加剤を添加することができる。洗浄性、使用感を調整するなどの目的で、通常化粧品に用いられる他の成分、例えば、動物、植物、魚貝類、微生物由来の抽出物、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、シリコーン、アニオン性界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、被膜剤、紫外線吸収剤、消炎剤、金属封鎖剤、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、合成樹脂エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水などの1種以上を必要に応じて透明固形化を阻害しない範囲の添加量で加えてもよい。
【0018】
特に水溶性高分子の一種であるカチオン性高分子は、それを添加することにより泡立ち性を増加させ、更に使用感を向上させることができる。カチオン性高分子の好適例を例示すると、カチオン化セルロース、カチオン化グァーガム等が挙げられる。
本発明の透明固形洗浄剤についてその製造方法は特に限定されず当業者が適宜設定でき、例えば配合される原料を溶解させ、得られた溶解物を固化させることにより得ることができる。具体的には、例えば枠練り法によって製造することができる。枠練り法の場合、上記した(A1)未中和のN-アシルグルタミン酸、(A2)未中和のN-アシル中性アミノ酸、トリエタノールアミン、(B)尿素、水、および必要に応じて含有されるその他の成分の混合物を70℃~90℃に加熱し、均一に溶解した後、型に注入して冷却固化させる。その後、乾燥熟成を経て、透明固形洗浄剤を得ることができる。
【0019】
以上、本発明によれば、新規な透明固形洗浄剤を提供することができる。該透明固形洗浄剤は、特許文献1に記載されるようなN-アシル酸性アミノ酸塩を主成分とした従来の透明固形洗浄剤と比較して、使用感(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)について非常に優れている。
【実施例】
【0020】
本発明の効果に関して実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に配合成分を示す各種透明固形洗浄剤を枠練り法により製造し、下記の評価項目で評価した。
【0021】
<製造性の評価に関して>
製造性を以下の基準で評価した:
×:製造時にゲル化や固化不良が生じるもの
〇:製造可能なもの
なおゲル化や固化不良が生じたものは、以下にその評価基準を示す他の評価の対象外とした(表中「-」で示す)。
【0022】
<透明性の評価に関して>
厚さ20mmの透明固形洗浄剤を26ポイントの活字の上に置き、判読できるか否かで下記評価基準で判定し評価した。
◎:はっきりと判読できる
○:判読できる
△:何とか判読できる
×:判読できない
【0023】
<硬度の評価に関して>
各透明固形洗浄剤を触感により固形洗浄剤として十分な硬さであるか否かで下記判定基準で判定し評価した。
○:十分に硬い
△:固形洗浄剤として実用可能な硬度を有しているが、やや不足している
×:まったく実用に足りない
【0024】
<使用感の評価に関して>
各透明固形洗浄剤について、40℃の水道水で手洗いを行い、泡立ち、泡量、泡質(泡のクリーミーさ(泡に触れたときに感じられる柔らかさ))、泡の弾力、すすぎやすさについて以下の基準で評価した。評価は下記評価基準に従って5名のパネラーによって行い、平均値が4.0~3.5以上を◎、3.5未満~2.5以上を○、2.5未満から1.5以上を△、1.5未満を×とした。
また、評価項目ごとに評価を行ったほか、評価がより高い項目の数が多いものについて、使用感がより優れていると判定した(具体的には、◎と判定された数がより多いものについて、使用感がより優れていると判定した)。
【0025】
<泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力、すすぎやすさの評価基準>
4:非常に良い
3:良い
2:やや悪い
1:悪い
【0026】
<低温保存安定性の評価に関して>
各透明固形洗浄剤をストレッチフィルムで包装後、5℃の条件下で1ヵ月間保存し、常温に戻した後に下記判定基準で判定し評価した。
○:透明で且つ十分な硬さを有している
△:透明ではあるが僅かにくすみがある
×:析出が生じ失透している
【0027】
<高温保存安定性の評価に関して>
各透明固形洗浄剤をストレッチフィルムで包装後、40℃/湿度75%RHの条件下で3ヵ月間保存し、常温に戻した後に下記判定基準で判定し評価した。
○:透明で且つ十分な硬さを有している
△:透明ではあるが少し軟化している
×:軟化し変形している
【0028】
<総中和度に関して>
総中和度は以下の方法で計算した。
【0029】
【0030】
【0031】
比較例1は実施例1に対してアシル中性アミノ酸を配合しなかった場合であるが、この場合使用性(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)に劣る結果となった。
比較例2はN-アシル中性アミノ酸に該当しないアニオン活性剤を配合した場合の例であるが、実施例と比較して製造時の固化不良により、透明固形洗浄剤としての剤型を保つことができない結果となった。
比較例3はアシル中性アミノ酸のナトリウム塩を配合した例であるが、使用性の向上はみられるものの、実施例と比較して硬度が不足しており、実施例と比較して低温及び高温安定性も劣る結果となった。
比較例4,5はN-アシル中性アミノ酸に該当しないアニオン活性剤をナトリウム塩として配合した場合の例であるが、使用性(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)の面で実施例に劣る結果となった。
比較例6はN-アシル中性アミノ酸の配合量が5重量%より少ない場合の例であるが、実施例と比較して使用性(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力)に劣る結果となった。
比較例7はN-アシルグルタミン酸の配合量が10重量%より少ない場合の例であるが、実施例と比較して硬度が大きく低下しており、透明固形洗浄剤としての剤型を保つことができない結果となった。
比較例8は尿素の配合量が5重量%より少ない場合の例であるが、実施例と比較して硬度及び安定性が大きく低下しており、透明固形洗浄剤としての剤型を保つことができない結果となった。
比較例9は尿素の配合量が20重量%より多い場合の例であるが、実施例と比較して透明性及び安定性が大きく低下しており、透明固形洗浄剤としての剤型を保つことができない結果となった。
比較例10はN-アシルグルタミン酸の配合量が40重量%より多い場合の例であるが、実施例と比較し製造時のゲル化が酷く製造が難しい結果となった。
比較例11はN-アシル中性アミノ酸の配合量が20重量%より多い場合の例であるが、実施例と比較し製造時の固化不良により、透明固形洗浄剤としての剤型を保つことができない結果となった。
一方、実施例1~12の透明固形洗浄剤はいずれも透明性についてはっきりと判読できると判断され、また、硬度についても固形洗浄剤としての形状を保ち得るものであった。さらに、使用性(泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力、すすぎやすさ)についていずれも良いまたは非常に良いと判断され、比較例1よりも泡立ち、泡量、泡質、泡の弾力に優れていることが理解できる。さらにまた、低温保存安定性、高温保存安定性についても比較例と同等またはそれ以上との評価が得られた。