(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】鋼管杭による連続壁及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/06 20060101AFI20220830BHJP
E02D 5/14 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
E02D5/06
E02D5/14
(21)【出願番号】P 2018172267
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020640(JP,A)
【文献】特開2007-051435(JP,A)
【文献】特開2018-199931(JP,A)
【文献】実開平05-038030(JP,U)
【文献】特開平02-058614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/06
E02D 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をあけて設置された複数の本杭同士の間において、当該本杭間の隙間を閉塞させる位置に弾性部材を設置した鋼管杭による連続壁であって、
前記弾性部材は、前記連続壁の一方の側に位置する中空部材と他方の側に位置する中空部材を有し、これら中空部材が連結部材によって連結されて構成され、
前記中空部材は、内部に流体が加圧注入されることで拡径変形自在であることを特徴とする、鋼管杭による連続壁。
【請求項2】
前記連結部材は、前記中空部材を保持する一対の保持部と、当該一対の保持部を連結する連結部から構成され、
前記連結部は、前記中空部材の拡径変形に合わせた前記保持部の変形に応じて張力が加わる構成であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼管杭による連続壁。
【請求項3】
前記中空部材の外周面には1又は複数の突起部が形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼管杭による連続壁。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼管杭による連続壁を施工する施工方法であって、
複数の本杭を所定の間隔をあけて設置すると共に、前記連続壁の一方の側に位置する中空部材と他方の側に位置する中空部材を有する弾性部材を、当該本杭間の隙間を閉塞させるように設置し、
前記中空部材の内部空間に水または硬化物を加圧注入し、連続壁を施工することを特徴とする、施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水や土留を目的として設置される鋼管杭による連続壁及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば河川に設置された橋を耐震補強する際には、橋脚周りの締切りを行うために、止水壁を構築することがある。止水壁の構成方法の一例として、複数の本杭(鋼管杭)を所定間隔で圧入した後、小径の鋼管杭である杭間パイプを、隣り合う本杭にそれぞれ接近させて圧入し、更に、本杭と杭間パイプとで囲まれた杭間領域に硬化物(セメントミルク、モルタル、セメント等)を充填するといった技術が知られている。また、地盤等に所定の土留壁を構築して土留を行う場合にも、同様の技術を用いて土留壁を構成することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に代表される技術では、鋼管杭間を挟むように小径のパイプを施工し、これら小径パイプ間の空間を高圧水、ダウンザホールハンマー、小径オーガといった技術を用いて掘削し、掘削された空間に硬化物を投入し止水や土留を行う構成が採られている。
【0004】
また、連続壁を構築する際に、隣接する部材(鋼管杭)間を高精度で閉塞させ止水や土留を確実に行う技術としては、特許文献2~4が開示されている。特許文献2では、隣接する鋼管杭の間を閉塞する弾性シール材及び補助部材を配置し、止水もしくは土留を確実に行う構成としている。特許文献3、4では、部材(鋼管杭等)間の隙間に拡径変形可能な中空の筒状弾性体を設け、当該筒状弾性体の中空部に充填材を加圧充填することで拡径変形させ、隣接する部材間に密着させて閉塞させる構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-112928号公報
【文献】特開2005-155303号公報
【文献】特開2013-76313号公報
【文献】特開2018-12972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の連続壁においては、止水や土留時に片側を排水あるいは掘削すると、水圧や土圧のバランスが崩れることにより、鋼管杭や硬化物にたわみ・変形を引き起こす場合がある。そしてセメントミルクやモルタルといった硬化物がたわみ・変形の変位に追随できず、クラック等が発生し、漏水や土漏れが生じてしまう恐れがある。
【0007】
また、上記特許文献2に記載された技術においては、止水や土留時に片側を排水あるいは掘削すると、水圧や土圧のバランスが崩れ弾性シール材及び補助部材の寸法や配置によっては鋼管杭のたわみ・変形に追随しきれない恐れがある。また、上記特許文献3、4に記載された技術においては、筒状弾性体に充填材を加圧充填させた際に、当該筒状弾性体を支持する部材が無いため、開放側に筒状弾性体の拡径変形が起こり、本来のシール部の接触面圧を高めて止水性能を上げることができないため、十分な閉塞(止水・土留)が行われない恐れがある。即ち、上記特許文献2~4に記載の技術では、連続壁にかかる水圧や土圧のバランスによっては閉塞(止水・土留)が十分に行われない恐れがあり、更なる改良の余地があった。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、止水や土留を目的として設置される鋼管杭からなる連続壁において、水圧のバランスに応じて鋼管杭に変位が生じた場合であっても、弾性部材が変位に追随し、2重構造による十分な止水や土留を実現させることが可能な鋼管杭による連続壁及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、所定の間隔をあけて設置された複数の本杭同士の間において、当該本杭間の隙間を閉塞させる位置に弾性部材を設置した鋼管杭による連続壁であって、前記弾性部材は、前記連続壁の一方の側に位置する中空部材と他方の側に位置する中空部材を有し、これら中空部材が連結部材によって連結されて構成され、前記中空部材は、内部に流体が加圧注入されることで拡径変形自在であることを特徴とする、鋼管杭による連続壁が提供される。
【0010】
前記連結部材は、前記中空部材を保持する一対の保持部と、当該一対の保持部を連結する連結部から構成され、前記連結部は、前記中空部材の拡径変形に合わせた前記保持部の変形に応じて張力が加わる構成であっても良い。
【0011】
前記中空部材の外周面には1又は複数の突起部が形成されても良い。
【0012】
また、他の観点からの本発明によれば、上記記載の鋼管杭による連続壁を施工する施工方法であって、複数の本杭を所定の間隔をあけて設置すると共に、前記連続壁の一方の側に位置する中空部材と他方の側に位置する中空部材を有する弾性部材を、当該本杭間の隙間を閉塞させるように設置し、前記中空部材の内部空間に水または硬化物を加圧注入し、連続壁を施工することを特徴とする、施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、止水や土留を目的として設置される鋼管杭からなる連続壁において、水圧のバランスに応じて鋼管杭に変位が生じた場合であっても、弾性部材が変位に追随し、2重構造による十分な止水や土留を実現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る杭圧入機の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本杭及び弾性部材設置時の概要を示す概略平面断面図である。
【
図3】弾性部材設置時の概要を示す概略側面断面図である。
【
図7】杭間距離の異なる場合の施工方法に関する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
(杭圧入機の概略構成)
図1は、本発明の実施形態に係る杭圧入機10の概略構成の一例を示す図である。
図1に示す杭圧入機10は、本杭2を地中に回転圧入する場合を示している。杭圧入機10は、チャック部17に本杭2を把持して回転させながら、メインシリンダ11の稼働によって本杭2を下降させて回転圧入する構成となっている。
【0017】
図1に示すように、杭圧入機10は、地盤に圧入された既設の本杭2の上端側を掴んで既設の本杭2から反力を取りながら、メインシリンダ11の稼働により、新たな本杭2をチャック部17に把持して下降させて、新たな本杭2を地盤に圧入する。また、杭圧入機10においては、本杭2同士の間に種々の部材(例えば、以下に説明する弾性部材3)を圧入・挿入させることもできる。チャック部17に把持する部材を適宜他の部材とすることで、所望の部材を圧入・挿入することが可能である。なお、部材挿入の際には、先行掘削を行っても良い。
【0018】
本発明は、例えば上記のような杭圧入機10で、本杭2と、本杭2同士の間に弾性部材3を設置し、鋼管杭による連続壁1(止水壁、土留壁)を設ける場合に関する技術である。以下、本発明の実施形態に係る連続壁及びその施工方法について、本杭2及び弾性部材3を用いた場合を例示して説明する。
【0019】
なお、本明細書においては、本杭2の総称として「鋼管杭」と呼称する場合がある。また、本杭2や弾性部材3といった各部材同士が「当接する」あるいは「接する」とは、各部材が直に接触する場合の他、必要に応じて硬化物(セメントミルク、モルタル、セメント等)を用いることにより、連続壁構造物として所定の機能を発揮できる程度に、各部材間に少しだけ隙間があいている場合も含む概念である。
また、一般的に、本杭2や弾性部材3により構成される構造物は、所定の区間内において連続的に複数の本杭2や弾性部材3が同様の構成で隣接設置されるが、以下では、説明のために当該構造物を構成する複数の本杭2や弾性部材3のうち、一部のみを拡大して図示する場合がある。
【0020】
(本発明の実施の形態に係る鋼管杭による連続壁及びその施工方法)
以下、本発明の実施の形態に係る鋼管杭による連続壁とその施工方法の一例について説明する。本実施の形態に係る連続壁1とは、例えば河川等において橋脚周りの締切りを行うために構築され、略一定の間隔で設置された複数の本杭2と、本杭2同士の間に設置される弾性部材3からなる止水壁等である。ここでは、水中及び土中において止水を行うために鋼管杭を連続的に配置して構成される構造物を連続壁1として記載し、当該連続壁1を構成する方法を例示して説明する。
【0021】
本杭2の設置、圧入方法は特に限定されるものでなく、例えば
図1に示すような杭圧入機10を用いて、複数の本杭2を所定間隔で圧入する。この工程を、延伸方向に所定の長さになるまで繰り返し行い、複数の本杭2同士の隙間(鋼管杭間領域)に対し後述する止水を行うことで連続壁1は構築される。
【0022】
図2は、本杭2及び弾性部材3設置時の概要を示す概略平面断面図である。
図2に示すように、例えば上述した杭圧入機10により、鋼管杭による連続壁1を構成する2本の本杭2が所定の距離をあけて隣接して圧入される。また、2本の本杭2の間の隙間において、本杭2間の隙間を閉塞させるような位置に弾性部材3が設置される。弾性部材3は、水圧を受ける側に設置される一方の中空部材3aと、水圧を受けない側に設置される他方の中空部材3bを有している。また、これら一方の中空部材3aと他方の中空部材3bはその一部又は全部において連結部材40を介して連結している。
【0023】
また、
図3は、弾性部材3設置時の概要を示す概略側面断面図であり、
図3(a)は止水前、
図3(b)は止水後を示し、図中の弾性部材3右側を施工面として水抜きする場合を想定して図示している。なお、実際の連続壁1の施工では本杭2と弾性部材3は併せて施工されるが、ここでは、説明のため本杭2は図示せず、弾性部材3の側面のみを図示し、施工の一例として水中及び土中に対し弾性部材3を設置した場合を図示している。
図3に示すように、弾性部材3は、上記各中空部材3a、3bが長尺方向(鉛直方向:図中の上下方向)に水上、水中、土中に亘って挿入される。この場合、連続壁1は水上、水中において止水壁として機能し、土中において土留壁として機能する。
【0024】
図3中の水上及び水中においては、一方の中空部材3aと他方の中空部材3bが連結部材40によって連結された構成となっている。
また、弾性部材3の土中への設置においては、小径パイプ等のガイド材を施工後、ガイド材内部に対し掘削を行い、小径パイプ等のガイド材を抜き土中に空間を確保した後に設置を行う。この掘削は、例えば、ダウンザホールハンマー、小径オーガといった技術により行われても良い。なお、土中においては、周囲の土がガイドとなり、弾性部材3の位置を保持するため、一方の中空部材3aと他方の中空部材3bとの間に連結部材を設けなくても良い。
【0025】
また、
図3(b)に示すように、図示しない本杭2と弾性部材3を設置して連続壁1を施工し止水壁を構成し、片側(図中右側)での水抜きを行った場合には、水抜きを行った後に所定の深さまで地盤の掘削を行う場合がある(図中の斜線部参照)。弾性部材3の土中への設置に関しては、そのような地盤の掘削も考慮した上で、十分な深さまで弾性部材3を挿入させておくことが求められる。
【0026】
連結部材40は、各中空部材3a、3bの長尺方向において所定の間隔でもって複数箇所に好適に設けられても良く、その位置や数等は特に限定されるものではない。また、本実施の形態に係る構成では、各中空部材3a、3bの上端部は水上に位置し、その上端部は開口しており、当該開口から流体である水や硬化物を加圧注入可能な構成となっている。
【0027】
図2、3に示すように、弾性部材3を構成する中空部材3a、3bは、長さ方向に長尺であり、且つ、弾性的に拡径変形可能な筒状体である。その断面形状は任意に設計可能であり、中空部材3a、3bは、流体を内部に注入可能ないわゆるチューブ状の部材である。各中空部材3a、3bにおいては、長さ方向両端のうち、一方の端部(
図3中の上端部)は開口部となっており、他方の端部(
図3中の下端部)は閉塞している。即ち、開口部から各中空部材3a、3b内に注入された流体は、当該開口部以外からは漏出しない構成である。なお、中空部材3a、3bの断面形状は、拡径変形により本杭2間の隙間を閉塞させるといった観点から、例えば略円形状が好ましい。
【0028】
弾性部材3を構成する中空部材3a、3bはいわゆるチューブ状のゴムやシリコン部材といった伸縮可能な弾性素材で構成される。即ち、その内部に水や硬化物、充填材等の流体が注入され、加圧されると、内部空間が拡がり、それと共に中空部材3a、3bが弾性的に延伸(拡径変形)し、その断面積が拡がる構成となっている。また、連結部材40の素材や形状は特に限定されるものではないが、例えば、連結部材40は非弾性体であることが好ましく、中空部材3a、3bを保持する2つの保持部と、それら保持部同士を繋ぐ連結部からなる、例えば8の字形状あるいは眼鏡形状の部材であっても良い。
【0029】
図4は連結部材40の概略説明図であり、(a)が中空部材拡径前、(b)が中空部材拡径時を示している。なお、図中の破線は中空部材3a、3bを表し、その形状は拡径変形により適宜変化するものである。
図4に示すように、連結部材40は、中空部材3a、3bをそれぞれ保持可能な平面視で円環状の保持部40a、40bと、それら一対の保持部40a、40b同士を繋ぐ平面視で略直線状の連結部40cから構成される。保持部40a、40bは中空部材3a、3bの拡径変形に合わせて変形し、その変形に応じて連結部40cには張力等が加わり、連結長さが変化する構成となっている。保持部40a、40bと連結部40cは一体的なベルト状の非弾性体部材で構成されても良く、
図4(a)、(b)を比較して分かるように、保持部40a、40bが拡径変形すると、連結部40cに張力が加わり、中空部材3a、3bの中心間距離(図中のP1、P2)が短くなる構成となっている。図示の通り、中空部材3a、3b及び保持部40a、40bが拡径変形するほど、3a-3bの中心間距離は短くなる(P1>P2)。
【0030】
図5は、仮設施工に関する概略説明図であり、中空部材3a、3b内に流体として水Wを加圧注入した場合の概略平面断面図である。
図5に示すように、中空部材3a、3b内に水Wが加圧充填されることで、当該中空部材3a、3bが拡径変形し、併せて、それら中空部材3aと3bの間に張力が加わるため、隣接する2本の本杭2間の隙間において、中空部材3a、3bが共に本杭2に押し付けられた状態となる。即ち、図示のように、中空部材3a、3bが本杭2の周面形状に追従するように押し付けられ、本杭2間の隙間が閉塞される。
【0031】
このように、中空部材3a、3bに水Wが加圧充填され、加圧状態が維持された状態の連続壁1では、中空部材3a、3bが本杭2の周面に押し付けられ、密着した状態となっているため、十分な止水性を発揮することができる。例えば、中空部材3a、3bに水Wを加圧充填した状態の連続壁1を構築し、当該連続壁1による止水を一時的に実施した後、所定の作業後に連続壁1を取り外す、いわゆる連続壁1の「仮設施工」を行う場合には
図5に示すような水Wを加圧充填した状態で構成される連続壁1で十分な止水を実現できる。また、本実施の形態に係る連続壁1では、水圧を受ける側と、水圧を受けない側の両側において、中空部材3a又は3bによる2重構造での止水が行われるため、シール性が極めて高い施工を行うことができる。更には、中空部材3a、3bに充填した水Wを排水することで、容易にこれら部材の回収や再利用を行うことができ、施工性の向上やコスト削減が図られる。
【0032】
また、連続壁1を半永久的に施工し止水壁として構築する、いわゆる「本設施工」を行う場合には、より止水性を恒常的に安定させることが必要となる。
図6は、本設施工に関する概略説明図であり、中空部材3a、3bの内部に流体である硬化物(セメントミルク、モルタル、セメント等)Uを加圧注入した構成を示している。
図6に示すように、中空部材3a、3bに硬化物Uを加圧注入し、拡径変形させることで中空部材3aと3bの間に張力が加わるため、隣接する2本の本杭2間の隙間において、中空部材3a、3bが共に本杭2に押し付けられた状態となる。その状態で硬化物Uを固化させることで、連続壁1が本設施工される。
【0033】
図6に示す硬化物Uによって本設施工された連続壁1の構成では、中空部材3a、3bを本杭2の周面に密着させ、中空部材3aと3bの間に張力が加わり、それら中空部材3a、3bが本杭2に押し付けられた状態で硬化物Uを固化させ本杭2間の隙間を閉塞させている。そのため、安定的な止水が実現され、連続壁1を半永久的に構築する、いわゆる「本設施工」に適した構成となっている。また、この構成では、硬化物Uを例えばチューブ状の中空部材3a、3bに注入して用いているため、外部からの硬化物Uへの汚染等が無く、例えば、水中での施工において硬化物Uが水と混ざり薄まってしまうといった事も防止される。
【0034】
また、本実施の形態に係る連続壁1の施工方法によれば、圧入された複数の本杭2において、杭間距離にばらつきがある場合であっても、有効な止水を実現させることが可能である。
図7は杭間距離の異なる場合の施工方法に関する概略説明図であり、(a)は杭間距離が狭い場合、(b)は杭間距離が広い場合である。なお、ここでは、中空部材3a、3bに水Wを加圧注入する場合(仮設施工)を例として
図7に図示しているが、硬化物Uを加圧注入する場合(本設施工)にも同様の効果が得られる。
【0035】
図4を参照して上述したように、本実施の形態に係る弾性部材3の構成によれば、中空部材3a、3bに加圧注入する水W(あるいは硬化物U)の注入量により、中空部材3a、3bの拡径変形量を調整することができる。即ち、
図7に示すように、複数の既設の本杭2の間の距離にばらつきがあり、例えば、同じ施工現場において杭間距離がQ1とQ2(Q1<Q2)で異なるような場所があったとしても、中空部材3a、3bに加圧注入する水W(あるいは硬化物U)の注入量を変えることで、杭間距離の異なるいずれの場合であっても有効な杭間の止水を実現させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0037】
例えば、上記実施の形態で説明した連結部材40において、保持部40aと連結部40bは異なる素材で構成されても良い。例えば、保持部40aは拡径変形する弾性体とし、連結部40bは非弾性体としても良い。また、連結部材40の全てを弾性体で構成しても良い。また、連結部材40においてゴムをライニングするといった表面処理を施しても良い。
【0038】
また、上記実施の形態において、中空部材3a、3bや、連結部材40の表面形状等には特に言及していないが、例えば、中空部材3a、3bや連結部材40が本杭2に密着した際のシール性を高めるため、各部材の表面(外周面)に1又は複数の突起部等を設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、止水や土留を目的として設置される鋼管杭による連続壁及びその施工方法に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1…連続壁
2…本杭
3…弾性部材
3a、3b…中空部材
40…連結部材
40a、40b…保持部
40c…連結部
W…水
U…硬化物