(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/34 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
A61M1/34 123
A61M1/34 125
(21)【出願番号】P 2018210892
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】古橋 智洋
(72)【発明者】
【氏名】江田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅顕
(72)【発明者】
【氏名】小野 和秀
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-23441(JP,A)
【文献】特開昭56-27257(JP,A)
【文献】特開昭55-112891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 ― 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有するとともに、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に、患者の血液を浄化する血液浄化器が介装された状態で、患者の血液を体外循環させる血液回路と、
前記動脈側血液回路に補充液を導入して前補液する前補液ラインと、
前記静脈側血液回路に補充液を導入して後補液する後補液ラインと、
一端が補充液を供給可能な補充液源に接続されるとともに、他端が前記前補液ライン及び後補液ラインに接続される補液ラインと、
前記補充液源の補充液を、前記前補液ライン及び後補液ラインの少なくとも一方を介して、前記補液ラインから前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路の少なくとも一方に送液する補液ポンプと、
前記補液ポンプを制御する制御部と、
を具備した血液浄化装置において、
前記補液ポンプは、
補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成るとともに、前記補液ラインに配設された第1補液ポンプと、前記前補液ライン及び後補液ライン
の一方に配設された第2補液ポンプと
を有し、且つ、
前記前補液ライン及び後補液ラインの他方に配設された逆止弁と、
前記補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける前記第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の液圧を検出する圧力センサと、
を具備し、前記制御部は、前記圧力センサにより検出された液圧に応じて前記第1補液ポンプ又は第2補液ポンプの駆動速度を補正して、前記補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける前記第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の補充液の流路に生じた陰圧又は陽圧を解消する血液浄化装置。
【請求項2】
加温器によって加温されると共に前記補液ラインの一部を内蔵する加温バッグを有し、当該加温バッグは、前記補液ラインにおける前記第1補液ポンプと前記前補液ライン及び後補液ラインの分岐部との間に取り付けられる請求項
1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記補液ラインにおける前記加温器と前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路との間には、補充液中の気泡を捕捉し得るエアトラップチャンバが取り付けられる請求項
2記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を体外循環させつつ浄化するための血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療を行うための血液浄化装置は、患者の血液を体外循環させるための血液回路を構成する動脈側血液回路及び静脈側血液回路と、血液回路にて体外循環する血液を浄化するための血液浄化手段と、血液回路及び血液浄化手段にて血液浄化治療させるための血液ポンプ等の種々の治療手段が配設された装置本体とを具備している。動脈側血液回路及び静脈側血液回路の先端には、それぞれバスキュラーアクセスカテーテル、或いは穿刺針(動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針)が取り付け可能とされる。
【0003】
そして、例えば動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者に穿刺した後、血液ポンプを駆動させることにより、患者の血液が動脈側血液回路及び静脈側血液回路を流動することとなり、その流動過程において血液浄化手段にて血液浄化されるようになっている。また、透析治療においては、血液浄化手段に透析液を導入するための透析液導入ラインと、血液浄化手段から排液を排出するための排液排出ラインとがそれぞれ血液浄化手段に接続されている。
【0004】
ところで、血液浄化治療においては、血液浄化器の透析液流路に透析液を流通させることにより、血液浄化膜を介して血液中の物質を拡散作用によって除去する血液透析治療(HD)、血液浄化器において限外濾過圧の作用によって血液中の水分及び物質を除去し、除去した水分と同量の補充液を血液中に注入する血液濾過治療(HF)、血液透析治療(HD)及び血液濾過治療(HF)を同時に行う血液透析濾過(HDF)なる治療法が確立されており、特に急性腎不全等の疾患を有する患者に対して血液浄化治療を行う場合、その患者の容態に合わせて、血液透析(HD)、血液濾過(HF)及び血液透析濾過(HDF)を一治療過程で切り替えて行うこと必要がある。
【0005】
また、血液濾過治療(HF)及び血液透析濾過治療(HDF)においては、血液浄化器の上流側(動脈側血液回路)に補充液を導入する前補液、血液浄化器の下流側(静脈側血液回路)に補充液を導入する後補液、血液浄化器の上流側及び下流側の両方(動脈側血液回路及び静脈側血液回路)に補充液を導入する前後補液が種々選択されて行われる。このため、近時において、血液透析治療(HD)、血液濾過治療(HF)及び血液透析濾過治療(HDF)の切り替えが可能とされ、前補液、後補液及び前後補液を任意選択することができる血液浄化装置が望まれている。
【0006】
このようなニーズに応えるべく、従来、動脈側血液回路に補充液を導入して補液するための前補液ライン、及び静脈側血液回路に補充液を導入して後補液するための後補液ラインと、一端が補充液を供給可能な補充液源に接続されるとともに、他端が前補液ライン及び後補液ラインに接続され、補充液源の補充液を前補液ライン又は後補液ラインを介して動脈側血液回路又は静脈側血液回路に導入する補液ラインとを具備するとともに、前補液ライン及び後補液ラインのそれぞれに補液ポンプを配設したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
具体的には、従来の血液浄化装置においては、前補液ラインにしごき型ポンプにて構成された補液ポンプが配設されるとともに、後補液ラインにしごき型ポンプにて構成された補液ポンプがそれぞれ配設されていた。そして、前補液を行う場合、前補液ラインに配設された補液ポンプを駆動させ、補充液源の補充液を動脈側血液回路に導入するとともに、後補液を行う場合、後補液ラインに配設された補液ポンプを駆動させ、補充液源の補充液を静脈側血液回路に導入していた。また、前補液及び後補液を同時に行う場合、前補液ラインの補液ポンプ及び後補液ラインの補液ポンプの両方を駆動させ、補充液源の補充液を動脈側血液回路及び静脈側血液回路の両方に導入させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の血液浄化装置においては、前補液ライン及び後補液ラインのそれぞれに補液ポンプを配設し、前補液及び後補液を同時に行う場合、当該前補液ラインに配設された補液ポンプと後補液ラインに配設された補液ポンプとの両方を駆動させるため、前補液ラインに配設された補液ポンプ及び後補液ラインに配設された補液ポンプの流量誤差が合算され、より大きな流量誤差が生じる。よって、補充液源からの補充液の使用量を正確に把握することが難しくなっていた。
【0010】
更なる問題として、前補液ライン及び後補液ラインのそれぞれに補液ポンプを配設するとともに、補液ラインに連結される流路が内部に形成されて加温する加温バッグを有するものにおいては、2つの補液ポンプの補液送液方向上流側に配置する場合、陰圧の影響を受けるため、硬質素材の高価な加温バッグを使用する必要がある。一方、2つの補液ポンプの送液方向下流側に配置する場合、陰圧の影響を受けないものの、加温バッグを2つ配置する必要があり、加温バッグのコストアップになる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、前補液及び後補液を良好に行わせることができるとともに、前補液及び後補液を同時に行う場合であっても、補充液源からの補充液の使用量を正確に把握することができる血液浄化装置を提供することを目的とする。また、本発明は、加温バッグのコストダウンを図ることを付加的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有するとともに、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に、患者の血液を浄化する血液浄化器が介装された状態で、患者の血液を体外循環させる血液回路と、前記動脈側血液回路に補充液を導入して前補液する前補液ラインと、前記静脈側血液回路に補充液を導入して後補液する後補液ラインと、一端が補充液を供給可能な補充液源に接続されるとともに、他端が前記前補液ライン及び後補液ラインに接続される補液ラインと、前記補充液源の補充液を、前記前補液ライン及び後補液ラインの少なくとも一方を介して、前記補液ラインから前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路の少なくとも一方に送液する補液ポンプと、前記補液ポンプを制御する制御部とを具備した血液浄化装置において、前記補液ポンプは、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成るとともに、前記補液ラインに配設された第1補液ポンプと、前記前補液ライン及び後補液ラインの一方に配設された第2補液ポンプとを有し、且つ、前記前補液ライン及び後補液ラインの他方に配設された逆止弁と、前記補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける前記第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の液圧を検出する圧力センサとを具備し、前記制御部は、前記圧力センサにより検出された液圧に応じて前記第1補液ポンプ又は第2補液ポンプの駆動速度を補正して、前記補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける前記第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の補充液の流路に生じた陰圧又は陽圧を解消する。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、加温器によって加温されると共に前記補液ラインの一部を内蔵する加温バッグを有し、当該加温バッグは、前記補液ラインにおける前記第1補液ポンプと前記前補液ライン及び後補液ラインの分岐部との間に取り付けられる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の血液浄化装置において、前記補液ラインにおける前記加温器と前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路との間には、補充液中の気泡を捕捉し得るエアトラップチャンバが取り付けられる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、補液ポンプは、補液ラインに配設された第1補液ポンプと、前補液ライン及び後補液ラインの少なくとも一方に配設された第2補液ポンプとを有するので、前補液及び後補液を良好に行わせることができるとともに、前補液及び後補液を同時に行う場合であっても、補充液源からの補充液の使用量を正確に把握することができる。
【0020】
また、第2補液ポンプは、前補液ライン及び後補液ラインの何れか一方のみに配設されるので、前補液ライン及び後補液ラインの両方に第2補液ポンプが配設されたものに比べ、2つの第2補液ポンプの同期を不要とすることができ、前補液ラインによる補充液の使用量及び後補液ラインによる補充液の使用量の誤差を抑制することができる。
さらに、第1補液ポンプ及び第2補液ポンプは、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプであるので、別個のクランプ手段等を要することなく、しごき型ポンプを停止させることによって、補充液の流路を閉止することができる。
またさらに、前補液ライン及び後補液ラインの一方には、第2補液ポンプが配設されるとともに、他方には、逆止弁が取り付けられるので、第1補液ポンプと第2補液ポンプとの間に陰圧が生じたとしても、逆止弁によって、血液回路内の血液が前補液ライン又は後補液ラインに吸入されてしまうのを防止することができる。
加えて、補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の液圧を検出する圧力センサを具備するとともに、制御部は、当該圧力センサにより検出された液圧に応じて第1補液ポンプ又は第2補液ポンプの駆動速度を補正して、補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける前記第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の補充液の流路に生じた陰圧又は陽圧を解消するので、補液ライン、前補液ライン及び後補液ラインにおける第1補液ポンプと第2補液ポンプと逆止弁との間の補充液の流路に陰圧又は陽圧が生じた場合であっても、第1補液ポンプ又は第2補液ポンプの駆動速度を補正することにより陰圧又は陽圧を解消させることができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、加温器によって加温されると共に補液ラインの一部を内蔵する加温バッグを有し、当該加温バッグは、補液ラインにおける第1補液ポンプと前補液ライン及び後補液ラインの分岐部との間に取り付けられるので、材質の硬軟を問わず加温バッグを構成することができ、且つ、加温バッグの個数を抑制できる。これにより、加温バッグのコストダウンを図ることが可能である。
【0022】
請求項3の発明によれば、補液ラインにおける加温器と動脈側血液回路又は静脈側血液回路との間には、補充液中の気泡を捕捉し得るエアトラップチャンバが取り付けられるので、加温器による加温によって補充液中に生じた気泡をエアトラップチャンバにて確実に捕捉して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
【
図2】同血液浄化装置における加温バッグを示す正面図
【
図3】本発明の他の実施形態(前補液ラインに逆支弁が接続されるとともに、後補液ラインに第2補液ポンプが配設されたもの)に係る血液浄化装置を示す模式図
【
図4】本発明の他の実施形態(前補液ライン及び後補液ラインのそれぞれに第2補液ポンプが配設されたもの)に係る血液浄化装置を示す模式図
【
図5】同血液浄化装置における制御手段による制御内容を示すフローチャート
【
図6】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
【
図7】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、患者の血液を体外循環させつつ浄化するための血液透析装置に適用されたもので、
図1に示すように、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを有する血液回路1と、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bの間に介装されて血液回路1を流れる血液を浄化するダイアライザ2(血液浄化器)と、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2と、第1補液ラインL3a、第2補液ラインL3bと、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dと、血液ポンプP1と、補液移送ポンプP4と、第1補液ポンプP3と、第2補液ポンプP2と、補充液小分けチャンバKと、制御部4と、加温器Hとを具備して構成されている。なお、図中符号Pbは、圧力センサを示している。また、本実施形態に係る血液ポンプP1、補液移送ポンプP4、第1補液ポンプP3、第2補液ポンプP2は、流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプにて構成されている。
【0028】
動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bには、それぞれの先端にコネクタが接続されており、当該コネクタを介して動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針(不図示)が接続可能とされている。そして、動脈側血液回路1aの先端に接続された動脈側穿刺針及び静脈側血液回路1bの先端に接続された静脈側穿刺針を患者に穿刺した状態で、血液ポンプP1を駆動させると、血液回路1にて患者の血液を体外循環させ得るようになっている。
【0029】
すなわち、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者に穿刺した状態において、血液ポンプP1を駆動させると、患者の血液は、動脈側血液回路1aを通ってダイアライザ2に至り、ダイアライザ2によって血液浄化が施された後、静脈側血液回路1bを通って患者の体内に戻るようになっている。なお、本明細書においては、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を「動脈側」と称し、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」と称しており、「動脈側」及び「静脈側」とは、穿刺の対象となる血管が動脈及び静脈の何れかによって定義されるものではない。
【0030】
また、静脈側血液回路1bの途中には、エアトラップチャンバ3が接続されており、血液回路1にて体外循環する血液は、当該エアトラップチャンバ3にて気泡が取り除かれた後、患者に戻ることとなる。なお、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者の血管に穿刺する形態に代えて、ダブルルーメンカテーテルを患者の鎖骨下静脈或いは大腿静脈に挿入、或いは患者の腕の血管に挿入する等の形態であってもよい。
【0031】
ダイアライザ2は、血液を導入可能な血液導入ポート2aと、血液を導出可能な血液導出ポート2bと、透析液を導入可能な透析液導入ポート2cと、透析液を導出可能な透析液導出ポート2dと、血液導入ポート2a及び血液導出ポート2bに亘って延設されて血液を流通可能な血液流路(不図示)と、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dに亘って延設されて透析液を流通可能な透析液流路(不図示)と、血液流路と透析液流路との間に介在して当該血液流路を流通する血液を浄化し得る血液浄化膜(不図示)とを有している。
【0032】
より具体的には、ダイアライザ2は、その筐体部に、血液導入ポート2a、血液導出ポート2b、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dが突出形成されており、このうち血液導入ポート2aには動脈側血液回路1aが、血液導出ポート2bには静脈側血液回路1bがそれぞれ接続されるとともに、透析液導入ポート2cには第2透析液導入ラインL1bが、透析液導出ポート2dには第1排液排出ラインL3aがそれぞれ接続されるようになっている。さらに、効率的な透析治療を行わせるために、血液の入り口である血液導入ポート2aと透析液の入り口である透析液導入ポート2cの上下方向の位置関係が逆になっており、血液流路にて流通する血液と対向する向きに透析液が流通するよう構成されている。
【0033】
また、ダイアライザ2内には、複数の中空糸膜が収容されており、この中空糸が血液を浄化するための血液浄化膜を構成している。すなわち、中空糸を構成する血液浄化膜の内部が血液流路とされるとともに、筐体と中空糸との間の空間が透析液流路とされているのである。そして、血液浄化膜は、中空糸膜を形成しており、その外周面と内周面とを貫通した微小な孔(ポア)が多数形成され、当該中空糸該膜を介して血液流路を流通する血液中の不純物等が透析液流路を流通する透析液内に透過(濾過)し得るよう構成されている。
【0034】
透析液導入ラインL1は、透析液を流通させる可撓性チューブから成り、ダイアライザ2の透析液導入ポート2cに接続されている。排液排出ラインL2は、排液を流通させる可撓性チューブから成り、ダイアライザ2の透析液導出ポート2dに接続されている。
【0035】
第1補液ラインL3aは、補充液収容バッグB(補充液収容部)に収容された補充液を補充液小分けチャンバKに流通させる可撓性チューブから成り、一端が補充液収容バッグB(補充液収容部)の下部に接続されるとともに、他端が補充液小分けチャンバKの下部に接続されている。補充液収容バッグBは、血液回路1に供給する補充液を所定容量収容したもので、装置本体に取り付けられた支持部(不図示)にて所定高さの位置で支持されている。補充液小分けチャンバKは、補充液収容バッグB(補充液収容部)の補充液を貯留するもので、補充液収容バッグBより小さい容量の容器から成るものである。
【0036】
また、第1補液ラインL3aには、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成る補液移送ポンプP4が配設されている。しかして、補液移送ポンプP4は、駆動によってロータが回転し、ローラが可撓性チューブを長手方向にしごくことにより、補充液収容バッグBに収容された補充液を補充液小分けチャンバKに送液して貯留させ得るようになっている。
【0037】
第2補液ラインL3bは、補充液小分けチャンバKに貯留された補充液を前補液ラインL3c又は後補液ラインL3dを介して血液回路1に流通させる可撓性チューブから成り、一端が補充液小分けチャンバKの下部に接続されるとともに、他端が前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dに接続されている。なお、第1補液ラインL3a及び第2補液ラインL3bにて本発明の補液ラインが構成されている。
【0038】
また、第2補液ラインL3bには、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成る第1補液ポンプP3が配設されている。かかる第1補液ポンプP3は、駆動によってロータが回転し、ローラが可撓性チューブを長手方向にしごくことにより、補充液小分けチャンバKに貯留された補充液を前補液ラインL3cを介して動脈側血液回路1a、又は後補液ラインL3dを介して静脈側血液回路1bに送液して補液し得るものである。
【0039】
さらに、本実施形態に係る第2補液ラインL3bには、補充液を加温するための加温器Hが取り付けられている。かかる加温器Hは、補充液小分けチャンバKから血液回路1に導入される補充液を加温し得るヒータから成るもので、
図2に示すような加温バッグ5を取り付け可能とされている。この加温バッグ5は、例えば可撓性のシートを2枚重ねて溶着することによって流路5aが形成されるとともに、当該流路5aの一端側及び他端側に第2補液ラインL3bと接続可能な接続部5b、5cを有して構成されている。
【0040】
またさらに、第2補液ラインL3bにおける加温器Hと動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bとの間には、補充液中の気泡を捕捉し得るエアトラップチャンバ6が取り付けられている。しかして、加温器Hで加温された補充液中の気泡は、エアトラップチャンバ6にて捕捉されるので、血液回路1に流れてしまうのを防止することができる。
【0041】
前補液ラインL3cは、動脈側血液回路1aに補充液を導入して前補液するための流路から成り、一端が第2補液ラインL3bに接続されるとともに、他端が動脈側血液回路1aにおける血液ポンプP1とダイアライザ2との間に接続されている。そして、第1補液ポンプP3が駆動して補充液小分けチャンバKから第2補液ラインL3bにて補充液が送液されると、その補充液が前補液ラインL3cを介して動脈側血液回路1aに導入されるようになっている。
【0042】
後補液ラインL3dは、静脈血液回路1bに補充液を導入して後補液するための流路から成り、一端が第2補液ラインL3bに接続されるとともに、他端が静脈側血液回路1bにおけるエアトラップチャンバ3との間に接続されている。そして、第1補液ポンプP3が駆動して補充液小分けチャンバKから第2補液ラインL3bにて補充液が送液されると、その補充液が後補液ラインL3dを介して静脈側血液回路1bに導入されるようになっている。
【0043】
本実施形態に係る前補液ラインL3cには、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成る第2補液ポンプP2が配設されるとともに、後補液ラインL3dには、補充液の血液回路1に対する流動を許容しつつ反対側への流動を規制する逆止弁V1が接続されている。また、本実施形態に係る補液ポンプは、補液ライン(第2補液ラインL3b)に配設された第1補液ポンプP3と、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの少なくとも一方(本実施形態においては、前補液ラインL2c)に配設された第2補液ポンプP2とを有して構成されている。
【0044】
ここで、第2補液ラインL3bは、本発明の補液ラインを構成するもので、
図1に示すように、一端が補充液を供給可能な補充液源(本実施形態においては補充液小分けチャンバK)に接続されるとともに、他端が前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dに接続され、補充液源(補充液小分けチャンバK)の補充液を前補液ラインL3c又は後補液ラインL3dを介して動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bに導入するよう構成されている。さらに、補液ライン(第2補液ラインL3b)には、第1補液ポンプP3が配設されるとともに、前補液ラインL3cには、第2補液ポンプP2が配設されている。
【0045】
これにより、第1補液ポンプP3と略同一の流動となるように第2補液ポンプP2を駆動させることにより、補充液小分けチャンバKの補充液を動脈側血液回路1aに導入させて前補液することができるとともに、第1補液ポンプP3を駆動させつつ第2補液ポンプP2を停止させることにより、補充液小分けチャンバKの補充液を静脈側血液回路1bに導入させて後補液することができる。また、第2補液ポンプP2を第1補液ポンプP3よりも低い送液量となるよう駆動させることにより、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに補充液を導入させて前後補液することができるようになっている。ここで、制御部5は、第1補液ポンプP3及び第2補液ポンプP8の送液量の比率を変更するように第1補液ポンプP3及び第2補液ポンプP8を制御することによって、前捕液量及び後捕液量の比率を変更可能である。
【0046】
さらに、後補液ラインL3dには、逆止弁V1が接続されているので、第1補液ポンプP3と第2補液ポンプP2との間の流路に陰圧が生じた場合であっても、血液回路1内の血液が後補液ラインL3dに吸入されてしまうのを防止することができる。なお、第2補液ポンプP2の送液量が第1補液ポンプP3の送液量より大きい場合に、第1補液ポンプP3と第2補液ポンプP2との間の流路に陰圧が生じる。また、
図3に示すように、前補液ラインL3cに逆支弁V1が接続されるとともに、後補液ラインL3dに第2補液ポンプP2が配設されたもの、或いは
図4に示すように、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dのそれぞれに第2補液ポンプP2が配設されたものとしてもよい。
【0047】
またさらに、第2補液ラインL3b(補液ライン)、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dにおける第1補液ポンプP3、第2補液ポンプP2及び逆止弁V1で囲まれた補充液の流路の液圧を検出する圧力センサPbを具備するとともに、制御部4は、当該圧力センサPbにより検出された液圧に応じて第1補液ポンプP3又は第2補液ポンプP2の駆動速度を補正するようになっている。
【0048】
例えば、第2補液ラインL3b(補液ライン)、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dにおける第1補液ポンプP3、第2補液ポンプP2及び逆止弁V1で囲まれた補充液の流路に陰圧が生じた場合の制御部4による制御について、
図5のフローチャートに基づいて説明する。先ず、圧力センサPbで検出された補充液の圧力(補充液圧)が規定値より小さいか否か判定され(S1)、規定値より小さいと判定されると、S2に進み、下流側ポンプである第2補液ポンプP2の駆動速度を低下させる。一方、S1にて、圧力センサPbで検出された補充液の圧力(補充液圧)が規定値より大きいと判定されると、S2をスキップする。
【0049】
一方、補充液小分けチャンバKの各上部は、エアフィルタFを介して大気開放されており、貯留した液体が流出すると各小分けチャンバ内に空気が導入されるとともに、液体が流入すると各小分けチャンバから空気が排出されるようになっている。
【0050】
制御部4は、補液ポンプ(第1補液ポンプP3及び第2補液ポンプP2)を制御するもので、装置本体に取り付けられたマイコン等から成る。本実施形態に係る制御部4は、計測工程において、透析液をダイアライザ2に導入し、第1補液ポンプP3(必要に応じて第2補液ポンプP2)を駆動して補充液小分けチャンバKに貯留された補充液を血液回路1に導入する。このとき、補液移送ポンプP4は停止した状態となっている。
【0051】
本実施形態によれば、補充液源(補充液小分けチャンバK)の補充液を動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bに送液する補液ポンプは、補液ライン(第2補液ラインL3b)に配設された第1補液ポンプP3と、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの少なくとも一方に配設された第2補液ポンプP2とを有するので、前補液及び後補液を良好に行わせることができるとともに、前補液及び後補液を同時に行う場合であっても、補充液源(補充液小分けチャンバK)からの補充液の使用量を正確に把握することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る第2補液ポンプP2は、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの何れか一方のみ(本実施形態においては前補液ラインL3cのみ)に配設されたので、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの両方に第2補液ポンプP2が配設されたもの(
図4参照)に比べ、2つの第2補液ポンプP2の同期を不要とすることができ、前補液ラインL3cによる補充液の使用量及び後補液ラインL3dによる補充液の使用量の誤差を抑制することができる。
【0053】
さらに、加温器Hによって加温されると共に補液ライン(第2補液ラインL3b)の一部を内蔵する加温バッグ5を有するため、加温器Hによって、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dを流通する補充液の加温できる。更に、当該加温バッグ5は、補液ライン(第2補液ラインL3b)における第1補液ポンプP3と前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの分岐部との間に取り付けられるので、第1補液ポンプP3の動作時に生じる陰圧の影響を受けにくい場所、且つ、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの分岐前である補液ラインの所定の場所に、加温バッグ5が配置される。従って、材質の硬軟を問わず加温バッグ5を構成することができると共に、加温バッグ5の個数を抑制でき、加温バッグのコストダウンを図ることが可能である。
【0054】
またさらに、補液ライン(第2補液ラインL3b)における加温器Hと動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bとの間には、補充液中の気泡を捕捉し得るエアトラップチャンバ6が取り付けられたので、加温器Hによる加温によって補充液中に生じた気泡をエアトラップチャンバ6にて確実に捕捉して除去することができる。なお、
図6に示すように、前補液ラインL3cにエアトラップチャンバ6を接続することにより、前補液ラインL3cを流れた補充液中の気泡をエアトラップチャンバ6にて捕捉するとともに、後補液ラインL3dを流れた補充液中の気泡を静脈側血液回路1bのエアトラップチャンバ3にて捕捉するようにしてもよい。
【0055】
また、第1補液ポンプP3及び第2補液ポンプP2は、補充液の流路を構成する可撓性チューブをしごいて送液するしごき型ポンプから成り、補液ライン(第2補液ラインL3b)、前補液ラインL3c(又は後補液ラインL3d)に配設されたので、別個のクランプ手段等を要することなく、しごき型ポンプを停止させることによって、補充液の流路を閉止することができる。
【0056】
さらに、前補液ラインL3c又は後補液ラインL3dは、一方に第2補液ポンプP2が配設されるとともに、他方に逆止弁V1が取り付けられたので、第1補液ポンプP3と第2補液ポンプP2との間に陰圧が生じたとしても、逆止弁V1によって、血液回路1内の血液が前補液ラインL3c又は後補液ラインL3dに吸入されてしまうのを防止することができる。
【0057】
またさらに、補液ライン(第2補液ラインL3b)、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dにおける第1補液ポンプP3、第2補液ポンプP2及び逆止弁V1で囲まれた補充液の流路の液圧(補液ライン、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dにおける第1補液ポンプP3と第2補液ポンプP2の間の液圧)を検出する圧力センサPbを具備するとともに、制御部4は、当該圧力センサPbにより検出された液圧に応じて第1補液ポンプP3又は第2補液ポンプP2の駆動速度を補正するので、補液ライン(第2補液ラインL3b)、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dにおける第1補液ポンプP3、第2補液ポンプP2及び逆止弁V1で囲まれた補充液の流路に陰圧又は陽圧が生じた場合であっても、第1補液ポンプP3又は第2補液ポンプP2の駆動速度を補正することにより陰圧又は陽圧を解消させることができる。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されず、例えば
図7に示すように、補充液小分けチャンバKを介さずに、補液ラインL3bに補充液源としての補充液収容バッグBを直接接続させるものであってもよい。この場合、補液ラインL3bに第1補液ポンプP3が配設されるとともに、前補液ラインL3c又は後補液ラインL3dの少なくとも一方(同図においては前補液ラインL3cのみ)に第2補液ポンプP2が配設されている。なお、補充液収容バッグBは、可撓性の容器にて構成されているが、これに代えて、硬質の容器や液相等で構成された補充液収容部としてもよい。また、本実施形態のように、補液ライン(第2補液ラインL3b)における第1補液ポンプP3と前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの分岐部との間にのみ、加温バッグ5を配置する構成が望ましいが、これに限らず、他の場所に加温バッグ5を配置しても良い。例えば、前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dに加温バッグ5を設けることも可能である。また、本実施形態では、補液ライン(第2補液ラインL3b)における第1補液ポンプP3と前補液ラインL3c及び後補液ラインL3dの分岐部との間に、単一の加温バッグ5を配置するが、例えば、複数の加温バッグ5を配置しても良い(複数個に分割して配置しても良い)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
補液ラインに配設された第1補液ポンプと、前補液ライン及び後補液ラインの少なくとも一方に配設された第2補液ポンプとを有する補液ポンプを具備した血液浄化装置であれば、他の機能が付加されたもの等であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 血液回路
1a 動脈側血液回路
1b 静脈側血液回路
2 ダイアライザ(血液浄化器)
3 エアトラップチャンバ
4 制御部
5 加温バッグ
6 エアトラップチャンバ
K 補充液小分けチャンバ
B 補充液収容バッグ(補充液収容部)
L1 透析液導入ライン
L2 排液排出ライン
L3a 第1補液ライン
L3b 第2補液ライン
L3c 前補液ライン
L3d 後補液ライン
P1 血液ポンプ
P2 第2補液ポンプ
P3 第1補液ポンプ
P4 補液移送ポンプ
H 加温器