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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】N,N-ジメチルアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/06 20060101AFI20220830BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20220830BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C07C231/06
C07C233/05
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018244995
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105105
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
(72)【発明者】
【氏名】上田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】宮田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-003813(JP,B1)
【文献】特公昭47-008050(JP,B1)
【文献】特公昭36-003967(JP,B1)
【文献】特開平07-053486(JP,A)
【文献】特開平11-255724(JP,A)
【文献】特開2014-171958(JP,A)
【文献】特開平07-197110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルとメタノールとを触媒の存在下で気相反応させてN,N-ジメチルアミドを製造するN,N-ジメチルアミドの製造方法であり、
前記ニトリルが、アセトニトリルまたはプロピオニトリルであり、
前記触媒が、銅とアルミニウムとを含む合金であるN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【請求項2】
前記ニトリルとして、アセトニトリルを用いる請求項1に記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【請求項3】
前記触媒がスポンジ銅である請求項1または請求項2に記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【請求項4】
前記触媒中の銅含有量が25.0~99.5質量%である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N-ジメチルアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N,N-ジメチルアセトアミドなどのN,N-二置換アミドは、工業的に重要であり、種々の溶剤として使用されている。
N,N-二置換アミドを製造する方法としては、一般に、ジアルキルアミンを原料として使用する方法が用いられている。具体的には、例えば、N,N-ジアルキルアミンであるN,N-ジメチルアミンと、酢酸または酢酸エステルとを反応させて、N,N-ジメチルアセトアミドを製造する方法が用いられている。
【0003】
一方、N,N-ジアルキルアミンは、一般に、アンモニアと、対応するアルコールまたはハロゲン化アルキルとを反応させて製造されている。この反応では、N,N-ジアルキルアミンとともに、モノアルキルアミンおよび/またはトリアルキルアミンが副生しやすい。このため、反応後にN,N-ジアルキルアミンを副生物と分離し、精製する必要がある。このことから、N,N-ジアルキルアミンは、一般に高価である。
【0004】
そこで、N,N-ジアルキルアミンを原料として使用せずに、対応するN,N-二置換アミドを製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1~特許文献6参照)。
N,N-ジアルキルアミンを原料として使用せずに、N,N-二置換アミドを製造する方法としては、ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させる方法がある。ニトリルとアルコールとの反応を促進させる触媒および/または促進剤としては、SbCl、ZnCl、SnCl、CoClなどの塩化物、酢酸カドミウム、ゼオライト、BPOなどのリン酸塩、硫酸塩、ピリジン、水等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭36-3967号公報
【文献】特公昭45-35525号公報
【文献】特公昭48-3813号公報
【文献】米国特許第5103055号明細書
【文献】米国特許第5072024号明細書
【文献】米国特許第5118846号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ニトリルとアルコールとを原料としてN,N-二置換アミドを製造する際には、液相反応を利用している。しかしながら、工業的に連続してN,N-二置換アミドを製造する場合には、液相反応よりも気相反応を用いることが望ましい。気相反応は、原料と触媒との接触時間の制御、および反応混合物(生成物)と触媒との分離が、液相反応よりも容易であるためである。
【0007】
しかし、従来、ニトリルとアルコールとを気相反応させてN,N-二置換アミドが得られる製造方法はなかった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、ニトリルとメタノールとを気相反応させてN,N-ジメチルアミドを製造できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ゼオライトとシリカとアルミナから選択される少なくとも一種の担体に、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含む金属の酸化物を担持させた触媒の存在下で、ニトリルとアルコールとを反応させることにより、気相反応でN,N-二置換アミドが得られることを見出した。
しかしながら、上記触媒の存在下で、ニトリルとアルコールとを気相反応させてN,N-二置換アミドを製造した場合、N,N-二置換アミドを十分に高い収率で製造することはできなかった。
【0009】
そこで、本発明者は、気相反応により高収率でN,N-二置換アミドを製造できる方法について、検討を重ねた。その結果、触媒として、銅とアルミニウムとを含む合金を用い、特定のニトリルとメタノールとを気相反応させることにより、高収率でN,N-ジメチルアミドを製造できることを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1]ニトリルとメタノールとを触媒の存在下で気相反応させてN,N-ジメチルアミドを製造するN,N-ジメチルアミドの製造方法であり、
前記ニトリルが、アセトニトリルまたはプロピオニトリルであり、
前記触媒が、銅とアルミニウムとを含む合金であるN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【0011】
[2]前記ニトリルとして、アセトニトリルを用いる[1]に記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
[3]前記触媒がスポンジ銅である[1]または[2]に記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
[4]前記触媒中の銅含有量が25.0~99.5質量%である[1]~[3]のいずれかに記載のN,N-ジメチルアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、アセトニトリルまたはプロピオニトリルとメタノールとを、触媒である銅とアルミニウムとを含む合金の存在下で、気相反応させる。このため、本発明のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、気相反応により高収率でN,N-ジメチルアミドを製造できる。また、本発明の製造方法で用いる触媒は、不均一触媒であるため、反応後に得られた目的物と触媒との分離が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のN,N-ジメチルアミドの製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「N,N-ジメチルアミドの製造方法」
本実施形態の製造方法では、原料であるニトリルとメタノールとを、触媒の存在下で気相反応させて、N,N-ジメチルアミドを製造する。
【0014】
(目的物)
本実施形態の製造方法により合成される目的物であるN,N-ジメチルアミドは、N,N-ジメチルアセトアミドまたはN,N-ジメチルプロピオンアミドであり、N,N-ジメチルアセトアミドであることが好ましい。本実施形態の製造方法により合成されるN,N-ジメチルアミドが、N,N-ジメチルアセトアミドであると、より速い反応速度で、高収率で合成できる。また、N,N-ジメチルアセトアミドは、溶剤として工業的に重要な化合物である。
【0015】
(反応装置)
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法は、例えば、出発物質(原料)を気化させる気化器と、触媒を含む触媒層を有し、ニトリルとメタノールとを気相反応させる反応容器と、反応生成物を捕集する捕集容器とを有する反応装置を用いて行うことが好ましい。
【0016】
本実施形態の製造方法において使用する反応容器内の触媒層は、固定床であってもよいし、流動床であってもよい。固定床からなる触媒層である場合、触媒層は1層であってもよいし、2層以上であってもよい。また、固定床からなる触媒層においては、触媒層に含まれる触媒間の隙間によって、触媒が触媒層に安定的に保持されにくい場合がある。この場合、ニトリルとメタノールとの反応に影響しないガラスビーズなどの固体粉末を用いて、触媒層に含まれる触媒間の隙間を埋めてもよい。
【0017】
本実施形態の製造方法を用いてN,N-ジメチルアミドを製造するには、まず、ニトリルとメタノールとを混合した出発物質溶液を、気化器に送液する。同時に、窒素ガスなどの希釈ガスを気化器に供給し、気化させた出発物質溶液と混合して、気化した原料ガスとする。その後、気化した原料ガスを、触媒層を有する反応容器内に導入し、ニトリルとメタノールとを気相反応させる。そして、反応容器内で生成した反応生成物を、反応容器内と捕集容器とを連結する導管を介して捕集容器に流出させて、捕集する。
【0018】
(原料)
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、ニトリルとして、アセトニトリル(CHCN)またはプロピオニトリル(CCN)を用いる。ニトリルとしては、アセトニトリルを用いることが好ましい。アセトニトリルを用いることで、N,N-ジメチルアミドとしてN,N-ジメチルアセトアミドが得られる。
【0019】
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、メタノールを用いる。原料としてメタノールを用いることにより、有用性の高いN,N-ジメチルアミドを製造できる。また、原料としてメタノールを用いることで、アルコールの分子内脱水に伴うアルケンなどの副生成物の生成を抑制でき、N,N-ジメチルアミドを高い収率で製造できる。
【0020】
(触媒)
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、触媒として、銅とアルミニウムとを含む合金を用いる。
合金の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粉末状、粒状、スポンジ銅のいずれであってもよい。
スポンジ銅は、スポンジ金属の一種である。本実施形態におけるスポンジ銅とは「銅とアルミニウムとを含む合金材料から、銅を溶解しない酸性溶液、アルカリ性溶液などの溶液を用いて、アルミニウムを溶出(この工程を展開と称する)させて得られたものであり、多数の細孔が形成されていることによって大きな表面積を有している銅合金」であることを意味する。
【0021】
本実施形態において、触媒を形成している合金は、銅とアルミニウムとを含むものであり、銅とアルミニウムだけでなく、触媒としての機能が得られる範囲で他の金属を含有していてもよい。本実施形態の触媒を形成している合金は、アセトニトリルまたはプロピオニトリルとメタノールとの反応速度向上機能が特に良好であるため、銅とアルミニウムのみであることが好ましい。
【0022】
本実施形態の触媒がスポンジ銅である場合、スポンジ銅を形成している合金は、銅とアルミニウムの他に、両性金属などの金属を含有していてもよい。スポンジ銅に含まれる銅およびアルミニウム以外の金属としては、例えば、スポンジ銅の原料として使用した合金材料中に含まれていた金属であって、展開によりアルミニウムと共に合金材料から溶出させた後に残留している金属が挙げられる。このような金属としては、亜鉛、スズなどの酸およびアルカリに溶出可能な両性金属などが挙げられる。
【0023】
触媒中の銅の含有量は25.0~99.5質量%であることが好ましく、45~99質量%であることがより好ましい。銅の含有量が99.5質量%以下であると、メチル化および脱水プロセスに有効な銅と、ニトリルの活性化に有効な(ルイス酸性の強い)アルミニウムとを同時に含有することの相乗効果が得られるため、アセトニトリルまたはプロパンニトリルとメタノールとの反応速度向上機能がより顕著となる。また、銅の含有量が25.0質量%以上であると、本反応の進行に必須である銅による触媒作用が効果的に得られるため、アセトニトリルまたはプロパンニトリルとメタノールとの反応速度向上機能がより顕著となる。
【0024】
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、触媒として、市販の銅とアルミニウムとを含む合金やスポンジ金属を用いてもよい。
具体的には、例えば、粉末合金(商品名;R-30、日興リカ株式会社製)、粉末スポンジ銅(商品名;R-300、日興リカ株式会社製)、粉末スポンジ銅(商品名;R-300C、日興リカ株式会社製)などを用いることができる。
【0025】
R-30は、銅とアルミニウムの質量比(銅:アルミニウム)が1:1である合金粉末である。したがって、R-30は、銅を50質量%、アルミニウムを50質量%含む。
R-300は、銅とアルミニウムの質量比(銅:アルミニウム)が1:1である合金粉末を展開して得られた粉末スポンジ銅触媒である。R-300は、銅を98質量%、アルミニウムを1.8質量%含む。
R-300Cは、銅とアルミニウムの質量比(銅:アルミニウム)が1:1であって、遠心噴霧法により製造された略球状の合金粉末を展開して得られた粉末スポンジ銅触媒である。。R-300Cは、銅を93質量%、アルミニウムを6.6質量%含む。
【0026】
(触媒の製造方法)
触媒を製造する方法としては、公知の方法を用いることができる。
本実施形態の触媒が、粉末状または粒状である場合、遠心噴霧法など、公知の方法で製造された粉末状または粒状の銅とアルミニウムとを含む合金をそのまま触媒として使用できる。
【0027】
本実施形態の触媒がスポンジ銅である場合、例えば、以下に示す方法を用いて製造できる。
まず、銅とアルミニウムとを含む合金材料を用意する。合金材料の製造方法としては、遠心噴霧法など、従来公知の方法を用いることができる。合金材料に含まれる銅とアルミニウムとの質量比(銅:アルミニウム)は、特に限定されないが、例えば2:1~1:3とすることができる。スポンジ金属の原料として用いる合金材料の形状としては、特に限定されないが、例えば略球状の緻密な合金粉末を用いることができる。
【0028】
次に、合金材料中のアルミニウムなどの溶出可能成分を溶解し、かつ銅を溶解しない酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いて、合金材料中に含まれるアルミニウムを溶出させる展開工程を行う。この操作により、合金材料に多数の細孔が形成されて表面積が増大されたスポンジ銅が得られる。
展開工程において用いる酸性溶液としては、例えば、塩酸などが挙げられる。展開工程において用いるアルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0029】
スポンジ銅の原料として用いる合金材料の組成(銅とアルミニウムとのモル比)および形状、展開工程において用いる酸性溶液またはアルカリ性溶液の種類、展開時間(溶解時間)などを適宜調整することにより、スポンジ銅に含まれるアルミニウムの含有量、スポンジ銅の比表面積および細孔径分布を制御できる。
【0030】
本実施形態の製造方法では、出発物質の総質量(キャリアガスの質量は含まない)に対する触媒の使用量を5~150質量%とすることが好ましい。触媒の使用量が5質量%以上であると、触媒を用いることによる反応速度向上機能がより顕著となる。その結果、N,N-ジメチルアミドの収率がより一層高くなる。触媒の使用量が150質量%以下であると、コストを抑制できる。また、スポンジ銅は活性の高い触媒であるため、触媒としてスポンジ銅を用いる場合には、出発物質の総質量に対する触媒の使用量を75質量%以下とすることがより好ましい。
【0031】
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、触媒として、出発物質(原料)および生成物に溶解しない不均一触媒を用いる。このため、本実施形態の製造方法では、生成物と触媒とを容易に分離できる。
【0032】
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、気化させた出発物質と触媒との接触時間を1~10秒とすることが好ましく、1.5~5秒とすることがより好ましい。気化させた出発物質と触媒との接触時間を1秒以上とすることで、アセトニトリルまたはプロピオニトリルとメタノールとの反応速度を向上させる効果が顕著となり、N,N-ジメチルアミドの収率がより一層高くなる。また、気化させた出発物質と触媒との接触時間を10秒以下とすることで、気化させた出発物質中のメタノールから生成しうる水素ガスに起因する還元などの副反応の進行を抑制できる。
【0033】
本実施形態のN,N-ジメチルアミドの製造方法では、ニトリルとメタノールとの反応温度は、ニトリルおよびメタノールの沸点以上であり、ニトリルとメタノールとの反応が進行する範囲内の温度であればよい。ニトリルとメタノールとの反応温度は、300℃未満とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。反応温度が低いほど、N,N-ジメチルアミドの合成反応の安全性が向上するとともに、反応容器の耐久性が向上する。ただし、反応温度が低くなるのに伴って反応速度が遅くなるので、反応温度の下限値は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。
【0034】
また、反応容器内で生成した反応生成物中の成分が、反応容器内で固化したり、捕集容器と反応容器内とを連結する導管内で固化したりすることを抑制することが好ましい。したがって、反応容器内の温度および導管内を通過する反応生成物の温度を、反応生成物中の成分が固化しない温度にすることが好ましい。
【0035】
例えば、アセトニトリルとメタノールとを気相反応させてN,N-ジメチルアセトアミドを合成する場合、反応生成物中には、原料であるアセトニトリルと大気中の水とが反応して副生したアセトアミドが含まれる場合がある。アセトアミドの融点は約80℃である。このため、導管内を通過している反応生成物の温度が低下したとしても、反応生成物の温度が80℃未満にならないように、アセトニトリルとメタノールとの反応温度を十分に高くすることが好ましい。このことにより、導管内でのアセトアミドの固化を抑制でき、アセトアミドの固化による導管の詰まりを防止できる。また、捕集容器と反応容器内とを連結する導管を加温したり保温したりすることにより、導管内を通過する反応生成物の温度が80℃未満にならないようにしてもよい。
【実施例
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0037】
(実施例1)
[N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の合成]
アセトニトリル4.2g(0.10mol)とメタノール32g(1.0mol)とを100mL三角フラスコ内で均一に混合し、出発物質溶液を得た。ステンレス管を通して、出発物質溶液を気化器に送液し、275℃に加熱して気化させた。出発物質溶液は、ポンプ(昭和電工株式会社製、Shodex DS-4)を用いて流速0.1mL/分で気化器に送液した。気化器としては、ガラスビーズ3g(東新理興株式会社製、直径1mm)を詰めた全長5cm、直径8mmの気化器(昭和電工株式会社製、Shodexガードカラム)を用いた。
【0038】
窒素ガス(東京高圧山崎株式会社製)を50mL/分の流速で気化器に供給し、気化させた出発物質溶液と混合し、気化した原料ガスとした。
反応容器として、全長5cm、直径8mm、容量2.5mLの反応器(昭和電工株式会社製、Shodexガードカラム)を用意した。次いで、反応容器内に、表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用し、固定床からなる触媒層を形成した。
【0039】
そして、マントルヒーター(東京硝子器械株式会社製)によって275℃(反応温度)に加熱された反応容器内に、気化した原料ガスを導入し、アセトニトリルとメタノールとを60分間(反応継続時間)反応させた。気化させた出発物質と触媒との接触時間を表1に示す。
上記の反応によって反応容器から流出した反応生成物を、ゴム管を通して反応容器に連結された捕集瓶に捕集した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において「MeOH」はメタノールであり、「DMAc」はN,N-ジメチルアセトアミドである。表1の実施例1~5、比較例1~3、5に記載の「MeOH当量」はアセトニトリル1当量に対するメタノール当量である。表1の比較例4に記載の「MeOH当量」はアセトニトリル1当量に対するエタノール当量である。
表1に記載の触媒の使用量は、反応容器に封入した触媒の質量(g)である。
【0042】
表1に記載の触媒は、下記のとおりである。
「R-300C」粉末スポンジ銅触媒(商品名;R-300C、日興リカ株式会社製)
「R-300」粉末スポンジ銅触媒(商品名;R-300、日興リカ株式会社製)
「R-30」粉末合金触媒(商品名;R-30、日興リカ株式会社製)
「銅粉」(商品名;銅(粉末)、関東化学株式会社製、規格;鹿1級、純度99.5%超)
「822HOA(Cu8.26質量%)」ゼオライトにCu酸化物が担持されたものであり、以下に示す方法により製造したものである。
「822HOA(Mo12.5質量%)」ゼオライトにMo酸化物が担持されたものであり、以下に示す方法により製造したものである。
「BPO」リン酸ホウ素(米山化学工業株式会社製)
【0043】
「822HOA(Cu8.26質量%)」「822HOA(Mo12.5質量%)」において、822HOAの後に記載の括弧内のCuまたはMoの後の数値は、触媒中のゼオライトの質量に対する金属の質量の割合(金属酸化物に含まれる金属の質量/ゼオライトの質量)×100(質量%))であり、原料の仕込み量から算出した算出値である。この算出値は、各触媒をICP(誘導結合プラズマ)発光分析することにより得られる分析値と、同等の値であることを予め確認している。
【0044】
「822HOA(Cu8.26質量%)」の製造方法
硝酸銅(II)(三水和物、富士フイルム和光純薬株式会社製)1.6gを純水5.3gに溶解させた水溶液に、担体として粉末状のゼオライト(商品名:822HOA、東ソー株式会社製)5.0gを含浸させて攪拌し、触媒含浸担体を得た。
次に、触媒含浸担体を室温で100分間風乾し、熱風乾燥器により大気雰囲気下110℃で27時間乾燥させた。その後、乾燥させた触媒含浸担体を、マッフル炉(株式会社コクゴ製Y-1218-P)を用いて大気雰囲気下500℃で2時間加熱して焼成し、ゼオライトに酸化銅が担持された触媒を得た。
【0045】
「822HOA(Mo12.5質量%)」の製造方法
モリブデン酸アンモニウム(四水和物、日本無機化学株式会社製)2.2gを純水10gに溶解した水溶液に、担体として粉末状のゼオライト(商品名:822HOA、東ソー株式会社製)10gを含浸させて攪拌し、触媒含浸担体を得た。
次に、触媒含浸担体を室温で1時間風乾し、熱風乾燥器により大気雰囲気下110℃で4時間乾燥させた。その後、乾燥させた触媒含浸担体を、マッフル炉(株式会社コクゴ製Y-1218-P)を用いて大気雰囲気下500℃で2時間加熱して焼成し、ゼオライトに酸化モリブデンが担持された触媒を得た。
【0046】
(実施例2、3)
表1に示す「MeOH当量」の出発物質溶液を気化させたこと以外は、実施例1と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
【0047】
(実施例4)
表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用したことと、反応容器内でアセトニトリルとメタノールとを30分間(反応継続時間)反応させたこと以外は、実施例1と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
【0048】
(実施例5)
表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用したことと、反応容器内でアセトニトリルとメタノールとを30分間(反応継続時間)反応させ、反応温度250℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
【0049】
(比較例1、2)
表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用したこと以外は、実施例4と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
(比較例3)
表1に示す「MeOH当量」の出発物質溶液を気化させ、表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用し、表1に示す反応温度および接触時間としたこと以外は、実施例4と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
【0050】
(比較例4)
メタノールに代えてエタノールを使用し、表1に示す反応温度としたこと以外は、実施例4と同様にして、アセトニトリルとエタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
(比較例5)
表1に示す触媒を表1に示す使用量で使用したことと、反応容器内でアセトニトリルとメタノールとを60分間(反応継続時間)反応させたこと以外は、実施例4と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を捕集した。
【0051】
実施例1~5、比較例1~5において捕集瓶に捕集した反応生成物を、それぞれガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析した。
その結果、実施例1~5、比較例1、2、5のいずれにおいても反応生成物中には、目的物であるN,N-ジメチルアセトアミドが含まれ、その他に、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、酢酸、酢酸メチル、ジメチルアミン、ジメチルエーテルが副生物として含まれていた。
しかし、比較例3の反応生成物には、目的物であるN,N-ジメチルアセトアミドは含まれていなかった。また、比較例4の反応生成物には、目的物であるN,N-ジエチルアセトアミドは含まれていなかった。
【0052】
また、反応生成物のガスクロマトグラフィー(GC)分析結果を用いて、以下に示す方法により、実施例1~5、比較例1、2、5の製造方法により生成したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の収率を算出した。その結果を表1に示す。
【0053】
(N,N-ジメチルアセトアミドの収率)
アセトニトリルとメタノールとをモル比で1:2(MeCN:MeOH)の割合で混合した混合溶液で、目的物である化合物の市販品(N,N-ジメチルアセトアミド:富士フイルム和光純薬工業製、超脱水、有機合成用)を希釈し、目的物の濃度が異なる3つ以上のサンプルを調製した。各サンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析し、得られたピーク面積より検量線を求めた。
【0054】
次に、上記の方法により求めた検量線を用いて、以下に示す方法により収率を算出した。ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて反応生成物を分析し、反応生成物中の目的物のピーク面積を求め、上記の方法により求めた検量線と回収された反応生成物質量に基づいて、反応生成物中の目的物の含有量を算出し、そのモル数を求めた。そして、原料として使用したアセトニトリルのモル数に対する反応生成物中の目的物のモル数の割合を求め、収率を算出した。
【0055】
表1に示すように、銅とアルミニウムとを含む合金である「R-300C(スポンジ銅)」「R-300(スポンジ銅)」「R-30(合金粉末)」を触媒として用いた実施例1~5では、銅とアルミニウムとを含む合金でない触媒を用いた比較例1、2、5と比較して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の収率が高かった。
また、「MeOH当量」が同じである実施例1と実施例4の結果から、特に触媒として「R-300C」を用いることで、N,N-ジメチルアセトアミドを高収率で製造できることが確認できた。
【0056】
さらに、実施例1、4および5と比較例5の結果から、触媒が銅単体であるよりも銅とアルミニウムとを含有する合金である方が、N,N-ジメチルアセトアミドを高収率で製造できることが確認できた。
また、比較例4の結果からメタノールに代えてエタノールを使用した場合、触媒として銅とアルミニウムとを含有する合金を用いてもN,N-ジエチルアセトアミドを得ることが困難であることが示唆された。