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  • 特許-リチウムイオン電池 図1
  • 特許-リチウムイオン電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20220830BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220830BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220830BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220830BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20220830BHJP
   H01M 50/469 20210101ALI20220830BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20220830BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALN20220830BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/058
H01M10/0566
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
H01M4/131
H01M50/426
H01M50/46
H01M50/469
H01M50/489
H01M4/1393
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019130925
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015751
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075198(JP,A)
【文献】特開2018-152230(JP,A)
【文献】特開2016-028387(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103511(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0171518(US,A1)
【文献】国際公開第2019/246051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とが立体的に隣接する三次元電極構造を有する、リチウムイオン電池であって、
前記正極、前記負極、隔壁および電解液を含み、
前記負極は、炭素繊維束を含み、
前記炭素繊維束は、複数本の炭素繊維からなり、
前記炭素繊維束は、50μm以上300μm以下の束径を有しており、
前記隔壁は、前記複数本の炭素繊維の各々の表面を被覆しており、
前記隔壁は、5μm以上30μm以下の厚さを有しており、
前記隔壁は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーを含み、
前記電解液は、前記コポリマーに含浸されており、
前記正極は、前記隔壁を挟んで前記負極と対向しており、
前記正極は、第1活物質および第2活物質を含み、
前記第1活物質は、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であり、
前記第2活物質は、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物であり、
前記第1活物質と前記第2活物質とは、質量比で
前記第1活物質/前記第2活物質=85/15から50/50
の関係を満たしている、
リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-004706号公報(特許文献1)は、電極複合体を開示している。電極複合体は、複数の柱状体を含む。複数の柱状体の各々は、活物質を含む。柱状体同士の間に固体電解質が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-004706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンを電荷担体とする蓄電池である。蓄電池は、充放電(充電および放電)が可能な電池を示す。以下、本明細書においては、リチウムイオン電池が「電池」と略記され得る。
【0005】
従来、電池は「二次元電極構造」を有している。すなわち、正極および負極が平板状である。正極と負極とは平面的に隣接している。二次元電極構造において、容量を大きくするためには、電極を厚くする必要がある。電極が厚くなる程、単位体積あたりの対向面積が小さくなる。「対向面積」は、正極と負極とが互いに対向している領域の面積を示す。単位体積あたりの対向面積が小さくなることにより、出力が低下する。すなわち、二次元電極構造においては、容量と出力とがトレードオフの関係にある。
【0006】
「三次元電極構造」が検討されている。三次元電極構造においては、正極と負極とが立体的に隣接している。そのため、三次元電極構造においては、単位体積あたりの対向面積が大きくなり得る。三次元電極構造によれば、容量と出力とのトレードオフの関係から、脱却できる可能性がある。
【0007】
特許文献1における電極複合体は、三次元電極構造を有すると考えられる。該電極複合体においては、固体電解質が使用されている。すなわち、特許文献1における電池は、全固体電池である。
【0008】
正極および負極の各々は、充放電に伴って、膨張し収縮する。二次元電極構造においては、電極の膨張収縮によるストレスが、電極の積層方向に逃がされ得る。他方、三次元電極構造においては、電極の膨張収縮によるストレスの逃げ場が少ない。
【0009】
全固体電池は、固体のみにより構成されている。三次元電極構造を有する全固体電池においては、充放電の繰り返し(充放電サイクル)により、電池内部にストレスが蓄積し、部分的な破壊等が生じ得る。その結果、例えば、抵抗が増加する可能性がある。
【0010】
本開示の目的は、三次元電極構造を有するリチウムイオン電池において、充放電サイクルに伴う抵抗増加を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0012】
本開示のリチウムイオン電池は、正極と負極とが立体的に隣接する三次元電極構造を有する。リチウムイオン電池は、正極、負極、隔壁および電解液を含む。
負極は、炭素繊維束を含む。炭素繊維束は、複数本の炭素繊維からなる。炭素繊維束は、50μm以上300μm以下の束径を有している。
隔壁は、複数本の炭素繊維の各々の表面を被覆している。隔壁は、5μm以上30μm以下の厚さを有している。隔壁は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーを含む。
電解液は、コポリマーに含浸されている。
正極は、隔壁を挟んで負極と対向している。正極は、第1活物質および第2活物質を含む。第1活物質は、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。第2活物質は、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物である。第1活物質と第2活物質とは、質量比で「第1活物質/第2活物質=85/15から50/50」の関係を満たしている。
【0013】
本開示の電池においては、負極が炭素繊維束を含む。炭素繊維束は、複数本の炭素繊維からなる。個々の炭素繊維は、それぞれ負極活物質である。炭素繊維束は、三次元電極構造の基礎でもある。個々の炭素繊維の表面に、隔壁および正極が順次積層され得る。
【0014】
炭素繊維束は、50μm以上300μm以下の束径を有している。炭素繊維束の束径が50μm以上300μm以下であることにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【0015】
隔壁は、正極と負極との間に介在している。隔壁は、電子伝導性を有しない。隔壁は、正極と負極とを電気的に絶縁している。隔壁は、5μm以上30μm以下の厚さを有している。隔壁の厚さが5μm以上30μm以下であることにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【0016】
隔壁は、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマーを含む。以下、該コポリマーは「PVDF-HFP」とも記される。隔壁がPVDF-HFPを含むことにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【0017】
電解液は、リチウムイオン伝導体である。電解液を通じて、リチウムイオンが正極と負極との間を行き来する。電解液は、PVDF-HFPに含浸されている。電解液とPVDF-HFPとは、ゲルポリマー電解質を形成する。ゲルポリマー電解質は、固体電解質に比して柔軟であり得る。ゲルポリマー電解質は、電極の膨張収縮に応じて変形し得る。そのため本開示の電池においては、電極の膨張収縮によるストレスが、蓄積し難いと考えられる。
【0018】
正極は、第1活物質および第2活物質を含む。第1活物質は、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。第2活物質は、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物である。第1活物質と第2活物質とは、互いに異なる作動電位を有している。正極が第1活物質および第2活物質の両方を含むことにより、出力の取れる電圧範囲が拡大することが期待される。
【0019】
第1活物質は層状構造を有する。層状構造においては、リチウムイオンの引き抜き(充電)に伴って、層間距離が拡大する。その後、さらに深い充電深度に到達すると、層間距離が収縮し始める。層間距離が収縮する充電深度において、第1活物質が使用されると、第1活物質の劣化が進行しやすい。さらに結晶構造から酸素が放出されやすくなる。
【0020】
第2活物質はスピネル型構造を有する。第1活物質と第2活物質との混合系においては、充電時に、第1活物質が先に酸化され、その後、第2活物質が酸化される。他方、放電時は、第2活物質が先に還元され、その後、第1活物質が還元される。すなわち、深い充電深度においては、第1活物質の反応よりも、第2活物質の反応が優先される。そのため、深い充電深度における第1活物質の劣化が抑制され得る。
【0021】
ただし第2活物質は、例えば高温環境における充放電時にマンガンを溶出し得る。溶出したマンガンは、負極の表面に堆積し得る。負極の表面に堆積したマンガンは、抵抗を増加させ得る。
【0022】
本開示の電池においては、第1活物質と第2活物質とが、質量比で「第1活物質/第2活物質=85/15から50/50」の関係を満たしている。該関係が満たされることにより、第1活物質の劣化が抑制され、なおかつ、マンガンの溶出量が許容範囲内に収まり得る。さらに、前述の隔壁(PVDF-HFP)が溶出したマンガンをトラップし得る。その結果、負極の表面におけるマンガンの堆積量が低減され得る。すなわち、マンガンの溶出に伴う抵抗増加が抑制され得る。
【0023】
第1活物質と第2活物質との混合系においては、充放電時、第1活物質の電位と、第2活物質の電位との混成電位が形成される。混成電位の形成時、その時々の充電深度に応じて、最適な電子分配となるように、第1活物質と第2活物質との間で、電子がやりとりされると考えられる。その結果、第1活物質および第2活物質の各々に過大な電流が流れることが抑制され得る。そのため、第1活物質および第2活物質の混合系においては、第1活物質の単独系または第2活物質の単独系に比して、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制されると考えられる。
【0024】
以上の通り、本開示によれば、三次元電極構造を有する電池において、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本実施形態における三次元電極構造を示す概略図である。
図2図2は、図1のxy平面に平行な概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態(本明細書においては「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0027】
<リチウムイオン電池>
本実施形態の電池は、任意の形状を有し得る。電池の形状は、例えば、コイン形、ボタン形、シート形、パウチ形、円筒形、扁平形、角形等であってもよい。電池は、小型であってもよいし、大型であってもよい。本実施形態の電池は、任意の用途に適用され得る。例えば、電池は、モバイル端末、ポータブル機器、定置型電力貯蔵装置、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電源として使用され得る。
【0028】
<電極構造>
図1は、本実施形態における三次元電極構造を示す概略図である。図2は、図1のxy平面に平行な概略断面図である。
【0029】
電池は、電極複合体100を含む。電極複合体100は、例えば、所定の外装体(不図示)に収納されていてもよい。外装体は、特に限定されるべきではない。外装体は、例えば、アルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。外装体は、金属製の容器であってもよい。
【0030】
電極複合体100は、正極10、負極20、隔壁30および電解液を含む。すなわち、電池が、正極10、負極20、隔壁30および電解液を含む。電極複合体100においては、正極10と負極20とが立体的に隣接している。すなわち、電池は、正極10と負極20とが立体的に隣接する三次元電極構造を有する。
【0031】
<負極>
負極20は、炭素繊維束21を含む。負極20は、1個の炭素繊維束21のみからなっていてもよい。負極20は、複数個の炭素繊維束21を含んでいてもよい。負極20は、例えばバインダ、リードタブ等をさらに含んでいてもよい。炭素繊維束21は、三次元電極構造の基礎である。炭素繊維束21は、50μm以上300μm以下の束径を有している。炭素繊維束21の束径が50μm以上300μm以下であることにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。炭素繊維束21は、例えば、50μm以上200μm以下の束径を有していてもよい。「束径」は、炭素繊維束21の軸方向と直交する断面における、炭素繊維束21の最大径を示す。炭素繊維束21の軸方向は、図1および2中のz軸方向を示す。軸方向と直交する断面は、図1および2中のxy平面に平行な断面を示す。後述される個々の炭素繊維についても同様である。束径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡等により測定され得る。なお本実施形態における直交は、幾何学的に完全な直交のみを示すものではない。本実施形態における直交は、実質的に直交する態様も含む。
【0032】
炭素繊維束21は、複数本の炭素繊維からなる。炭素繊維束21は、例えば2本以上1000本以下の炭素繊維からなっていてもよい。複数本の炭素繊維が結束されることにより、炭素繊維束21が形成され得る。例えば、ポリマーバインダ、コールタールピッチ等により、複数本の炭素繊維が結束され得る。例えば、静水圧プレス等により、複数本の炭素繊維が結束され得る。ポリマーバインダは、例えば、PVDF-HFP等を含んでいてもよい。例えば、後述される隔壁30および正極10等が形成される前に、複数本の炭素繊維が結束されていてもよい。個々の炭素繊維の表面に、隔壁30および正極10が形成された後に、複数本の炭素繊維が結束されてもよい。複数本の炭素繊維は、全体的に結束されていてもよい。複数本の炭素繊維は、部分的に結束されていてもよい。
【0033】
個々の炭素繊維は、例えば1μm以上100μm以下の繊維径を有していてもよい。個々の炭素繊維は、例えば5μm以上50μm以下の繊維径を有していてもよい。「繊維径」は、炭素繊維の軸方向と直交する断面における、炭素繊維の最大径を示す。個々の炭素繊維は、それぞれ負極活物質である。炭素繊維は、例えば黒鉛成分を多く含んでいてもよい。黒鉛成分の含量は、例えば、原料の種類、焼成温度等により調整され得る。炭素繊維の表面には、マンガンが堆積し難い傾向がある。マンガンが堆積し難いメカニズムの詳細は、現時点において明らかではない。マンガンが堆積し難い理由の一つとして、例えば、炭素繊維は、その表面が主にベーサル面で覆われているため、黒鉛粒子等の炭素材料に比して、エッジ面の露出が少ないこと等が挙げられる。
【0034】
<隔壁>
隔壁30は、複数本の炭素繊維の各々の表面を被覆している。例えば、個々の炭素繊維の表面に、ポリマー溶液が塗布されることにより、隔壁30が形成されてもよい。隔壁30は、炭素繊維束21の表面を被覆している。炭素繊維束21がポリマー溶液に浸漬されることにより、隔壁30が形成されてもよい。
【0035】
隔壁30は、5μm以上30μm以下の厚さを有している。隔壁30の厚さが5μm以上30μm以下であることにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。隔壁30は、例えば、5μm以上10μm以下の厚さを有していてもよい。「隔壁30の厚さ」は、炭素繊維束21の直径方向における、隔壁30の寸法である。隔壁30の厚さは、少なくとも5箇所で測定される。少なくとも5箇所の算術平均が採用され得る。
【0036】
隔壁30は、PVDF-HFPを含む。隔壁30は、実質的にPVDF-HFPのみからなっていてもよい。隔壁30がPVDF-HFPを含むことにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【0037】
PVDF-HFPは、VDFとHFPとのコポリマーである。コポリマーは、例えば、ランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってもよい。
【0038】
PVDF-HFPは、ポリマーマトリックスを形成し得る。ポリマーマトリックスに電解液が浸透することにより、ゲルポリマー電解質が形成され得る。ゲルポリマー電解質は、固体電解質に比して柔軟である。正極10と負極20との間にゲルポリマー電解質が介在することにより、正極10と負極20とが円滑に接続され得る。ここでの「接続」はイオン的な接続を示す。
【0039】
<電解液>
電解液は、PVDF-HFPに含浸されている。電解液は、例えば、正極10等にも含浸されていてもよい。電解液は特に限定されるべきではない。電解液は、リチウムイオン伝導性を有する限り、任意の成分を含み得る。電解液は、例えば、支持塩および溶媒等を含んでいてもよい。支持塩は、例えばLiPF6等を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等を含んでいてもよい。電解液は、各種の添加剤(例えば被膜形成剤等)をさらに含み得る。
【0040】
<正極>
正極10は、隔壁30を挟んで負極20と対向している。正極10は、例えば、隔壁30の表面に、塗布されていてもよい。正極10は、例えば、隔壁30同士の間の空隙に充填されていてもよい。
【0041】
正極10は、少なくとも正極活物質を含む。本実施形態の正極活物質は、第1活物質と第2活物質との混合物である。すなわち、正極10が第1活物質および第2活物質を含む。正極10は、例えば、導電材、バインダ、リードタブ等をさらに含んでいてもよい。導電材は特に限定されるべきではない。導電材は、例えばカーボンブラック等を含んでいてもよい。バインダも特に限定されるべきではない。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を含んでいてもよい。
【0042】
第1活物質は、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。第2活物質は、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物である。第1活物質と第2活物質とが、質量比で「第1活物質/第2活物質=85/15から50/50」の関係を満たしている。そのため、本実施形態においては、第1活物質の劣化が抑制され、なおかつ、マンガンの溶出量が許容範囲内に収まり得る。第1活物質と第2活物質とは、質量比で「第1活物質/第2活物質=85/15から70/30」の関係を満たしていてもよい。
【0043】
第1活物質および第2活物質の各々は、化学量論組成に比して、Liを過剰に含んでいてもよい。例えば、第1活物質および第2活物質における「Mol(Li)/Mol(Me)」が、1.05以上1.2以下であってもよい。ここで「Mol(Li)」は、活物質に含まれるLiのモル数を示す。「Mol(Me)」は、活物質に含まれるLi以外の金属の合計モル数を示す。
【0044】
過剰分のLiの一部は、遷移金属(Ni、Mn等)を置換することにより、結晶構造に含まれる。過剰分のLiのうち、結晶構造に含まれないLiは、活物質(粒子)の表面に堆積する。粒子表面に堆積したLiは、第1活物質と第2活物質との結着性を向上させ、抵抗低減効果を示し得る。さらに、粒子表面に堆積したLiは、隔壁30(PVDF-HFP)と、活物質との結着性をも向上させ得る。
【0045】
第1活物質は、例えば、下記式(1)により表され得る。
Li1+zNi1-x-yCoxMny2 ・・・ (1)
ただし、式(1)中、x、y、zは、0<z<0.10、0<x≦0.3、0.2≦y<0.5、1-x>2yの関係を満たしている。
【0046】
第2活物質は、例えば、下記式(2)により表され得る。
Li1+aMn2-a-bb4 ・・・ (2)
ただし、式(2)中、a、bは、0<a<0.15、0≦b≦0.15の関係を満たしている。Mは、Al、Mg、Cr、Ni、CuおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0047】
上記式(2)において、MはAlを含んでいてもよい。Mは実質的にAlのみからなっていてもよい。MがAlを含むことにより、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制され得る。
【実施例
【0048】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0049】
<実験1>
《供試電池の作製》
(実施例1)
1.第1活物質の調製
イオン交換水が準備された。不活性ガスがイオン交換水に通気された。不活性ガスの通気により、イオン交換水において、溶存酸素が十分に低減された。以下、特に断りが無い限り、イオン交換水は、不活性ガスの通気によって溶存酸素が低減されたものを示す。
【0050】
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが準備された。硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが、イオン交換水に溶解された。これにより混合塩水溶液が調製された。混合塩水溶液は、Ni、CoおよびMnが、モル比で「Ni/Co/Mn=4/3/3」の関係を満たすように調製された。混合塩水溶液において、Ni、CoおよびMnの合計濃度は、2mоl/Lであった。
【0051】
2mоl/Lの水酸化ナトリウム水溶液、および0.352mоl/Lのアンモニア水がそれぞれ準備された。水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水の調製には、イオン交換水が使用された。
【0052】
反応槽が準備された。反応槽にイオン交換水が投入された。反応槽内の温度が50℃に設定された。800rpmの速度でイオン交換水が攪拌されながら、水酸化ナトリウム水溶液が滴下された。これにより、反応槽内の液体のpHが調整された。液体のpHは、25℃基準で12になるように調整された。「25℃基準」とは、25℃における測定値を示す。例えば、25℃基準でpHが12であることは、25℃で測定されたpHが12であることを示す。以下、特に断りが無い限り、pHは25℃基準の値を示す。
【0053】
反応槽内の液体のpHが12付近に保たれるように、混合塩水溶液、水酸化ナトリウムおよびアンモニア水が、それぞれ反応槽内に滴下された。これにより共沈生成物が得られた。共沈生成物は、Ni、CoおよびMnを含む複合水酸化物であった。
【0054】
共沈生成物の生成後、2時間にわたって攪拌が継続された。攪拌中、pHが12付近に保たれるように、適宜、水酸化ナトリウム水溶液が滴下された。攪拌後、反応槽内の温度が60℃に設定された。60℃に設定後、反応槽が12時間静置された。これにより、複合水酸化物の粒子成長が進行した。粒子成長後、複合水酸化物がろ別された。ろ別後、複合水酸化物が水洗された。水洗後、120℃のオーブン内において、複合水酸化物が12時間乾燥された。これにより、複合水酸化物の粉末が得られた。
【0055】
水酸化リチウムの粉末が準備された。複合水酸化物の粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合された。これにより混合粉末が調製された。混合粉末においては、「Mol(Li)/Mol(Me)=1.08」の関係が満たされていた。ここで「Mol(Li)」は、混合粉末に含まれるLiのモル数を示す。「Mol(Me)」は、混合粉末に含まれるNi、CoおよびMnのモル合計数を示す。
【0056】
混合粉末がペレット成形器に充填された。6MPaの圧力により、混合粉末が圧縮されることにより、ペレットが成形された。ペレットは円板状であった。ペレットの寸法は、直径 2cm×厚さ 5mm程度であった。
【0057】
ペレットが電気炉内に配置された。電気炉内は空気雰囲気であった。5℃/minの昇温速度により、電気炉内の温度が950℃まで昇温された。950℃において、ペレットが7時間焼成された。7時間経過後、ヒータの電源が切られ、ペレットが自然放冷された。約8時間経過後、電気炉内の温度が100℃以下になっていることが確認された。温度の確認後、ペレットが回収された。以上より、Li1.08Ni0.4Co0.3Mn0.32のペレットが調製された。
【0058】
2.第2活物質の調製
二酸化マンガンの粉末と、水酸化リチウムの粉末とが準備された。二酸化マンガンの粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合された。これにより混合粉末が調製された。混合粉末においては、「Mol(Li)/Mol(Me)=0.58」の関係が満たされていた。ここで「Mol(Li)」は、混合粉末に含まれるLiのモル数を示す。「Mol(Me)」は、混合粉末に含まれるMnのモル数を示す。
【0059】
混合粉末がペレット成形器に充填された。6MPaの圧力により、混合粉末が圧縮されることにより、ペレットが成形された。ペレットは円板状であった。ペレットの寸法は、直径 2cm×厚さ 5mm程度であった。
【0060】
ペレットが電気炉内に配置された。電気炉内は空気雰囲気であった。5℃/minの昇温速度により、電気炉内の温度が950℃まで昇温された。950℃において、ペレットが7時間焼成された。7時間経過後、電気炉内の温度が700℃まで降温された。700℃において、ペレットがさらに24時間焼成された。その後、ヒータの電源が切られ、ペレットが自然放冷された。約8時間経過後、電気炉内の温度が100℃以下になっていることが確認された。温度の確認後、ペレットが回収された。以上より、Li1.1Mn1.94のペレットが調製された。
【0061】
3.電池の製造
炭素繊維として、製品名「GRANOC Yarn」(グレード「XN-90-60S」、日本グラファイトファイバー社製)が準備された。該炭素繊維は、10μmの繊維径を有していた。
【0062】
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に、PVDF-HFPが溶解されることにより、ポリマー溶液が調製された。該ポリマー溶液は、炭素繊維束のバインダである。該ポリマー溶液は、隔壁の前駆体でもある。
【0063】
複数本の炭素繊維が束状に纏められることにより、炭素繊維束が形成された。炭素繊維束にポリマー溶液が塗布された。ヒートガンにより、ポリマー溶液が乾燥された。これにより、炭素繊維束が固定された。固定後の炭素繊維束は、200μmの束径を有していた。
【0064】
さらに、炭素繊維束にポリマー溶液が塗布された。ヒートガンにより、ポリマー溶液が乾燥されることにより、隔壁が形成された。すなわち、隔壁付き炭素繊維束が形成された。隔壁は10μmの厚さを有していた。
【0065】
第1活物質(Li1.08Ni0.4Co0.3Mn0.32)のペレットが粉砕されることにより、第1活物質の粉末が調製された。第2活物質(Li1.1Mn1.94)のペレットが粉砕されることにより、第2活物質の粉末が調製された。
【0066】
第1活物質の粉末と第2活物質の粉末とが混合された。これにより正極活物質が調製された。混合比は、質量比で「第1活物質/第2活物質=70/30」であった。導電材として、カーボンブラックが準備された。バインダとしてPVDFが準備された。正極活物質、導電材、バインダおよび分散媒が混合されることにより、正極スラリーが調製された。正極スラリーにおいて、固形分の混合比は、質量比で「正極活物質/導電材/バインダ=90/7/3」であった。分散媒はNMPであった。
【0067】
隔壁付き炭素繊維束に正極スラリーが塗布された。正極スラリーが乾燥された。これにより、正極、隔壁、および炭素繊維束(負極)からなる電極ユニットが形成された。複数個の電極ユニットが束状に纏められることにより、電極複合体が形成された。静水圧プレスにより、電極複合体の密度が高められた。電極複合体において、正極および負極に、それぞれリードタブが取り付けられた。
【0068】
外装体としてアルミラミネートフィルム製のパウチが準備された。パウチに電極複合体が挿入された。パウチに電解液が注入された。電解液は、以下の支持塩および溶媒を含んでいた。
【0069】
支持塩:LiPF6(濃度 1mоl/L)
溶媒:EC/DMC/EMC=3/4/3(体積比)
【0070】
電解液の注入後、ヒートシーラによりパウチが密封された。以上より、実施例1に係る供試電池が作製された。
【0071】
(実施例2)
隔壁の厚さが5μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例2に係る供試電池が作製された。
【0072】
(実施例3)
隔壁の厚さが30μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例3に係る供試電池が作製された。
【0073】
(実施例4)
炭素繊維束の束径が50μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例4に係る供試電池が作製された。
【0074】
(実施例5)
炭素繊維束の束径が300μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例5に係る供試電池が作製された。
【0075】
(実施例6)
第1活物質と第2活物質との混合比(質量比)が85/15に変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例6に係る供試電池が作製された。
【0076】
(実施例7)
第1活物質と第2活物質との混合比(質量比)が50/50に変更されることを除いては、実施例1と同様に、実施例7に係る供試電池が作製された。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同様に正極スラリーが調製された。アルミニウム箔が準備された。アルミニウム箔は15μmの厚さを有していた。アルミニウム箔の表面に、正極スラリーが塗布され、乾燥されることにより、正極原反が作製された。ロールプレスにより正極原反が圧縮された。圧縮後の正極原反から、正極が切り出された。正極は、幅 25mm×長さ 40mmの平面寸法を有していた。
【0078】
炭素繊維が破片状に加工された。これにより炭素繊維片(短繊維)が調製された。炭素繊維片は、5mm程度の繊維長を有していた。炭素繊維片、バインダおよび分散媒が混合されることにより、負極スラリーが調製された。バインダはPVDFであった。分散媒はNMPであった。
【0079】
銅箔が準備された。銅箔は10μmの厚さを有していた。銅箔の表面に、負極スラリーが塗布され、乾燥されることにより、負極原反が作製された。ロールプレスにより、負極原反が圧縮された。圧縮後の負極原反から、負極が切り出された。負極は、幅 27mm×長さ 42mmの平面寸法を有していた。
【0080】
NMPにPVDF-HFPが溶解されることにより、ポリマー溶液が調製された。ガラス板が準備された。ガラス板の表面に、ポリマー溶液が塗布され、乾燥されることにより、PVDF-HFPからなるポリマー膜が形成された。ポリマー膜は、10μmの厚さを有していた。ガラス板からポリマー膜が剥離された。これにより、自立膜であるポリマー膜が回収された。
【0081】
ポリマー膜を挟んで、正極と負極とが互いに対向するように、正極、負極およびポリマー膜が積層された。これにより電極積層体が形成された。外装体としてアルミラミネートフィルム製のパウチが準備された。パウチに電極積層体が挿入された。パウチに電解液が注入された。電解液には、実施例1において使用された電解液と同一物が使用された。電解液の注入後、ヒートシーラによりパウチが密封された。
【0082】
以上より、比較例1に係る供試電池が作製された。比較例1に係る供試電池は、平板型ラミネート電池である。平板型ラミネート電池は、二次元電極構造を有する。
【0083】
(比較例2)
隔壁の厚さが40μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例2に係る供試電池が作製された。
【0084】
(比較例3)
隔壁の厚さが3μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例3に係る供試電池が作製された。
【0085】
(比較例4)
炭素繊維束の束径が30μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例4に係る供試電池が作製された。
【0086】
(比較例5)
炭素繊維束の束径が400μmに変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例5に係る供試電池が作製された。
【0087】
(比較例6)
第1活物質と第2活物質との混合比(質量比)が90/10に変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例6に係る供試電池が作製された。
【0088】
(比較例7)
第1活物質と第2活物質との混合比(質量比)が40/60に変更されることを除いては、実施例1と同様に、比較例7に係る供試電池が作製された。
【0089】
《供試電池の評価》
供試電池の充放電が3サイクル実施された。サイクル条件は以下のとおりである。
【0090】
温度環境:25℃
充電:上限電圧 4.1V、電流レート 0.1C
放電:下限電圧 2.5V、電流レート 0.1C
【0091】
ここで「C」は、電流レートの単位である。1Cの電流レートにおいては、電池の定格容量が1時間で放電される。
【0092】
3サイクル後、供試電池のSOC(state of charge)が50%に調整された。SOCの調整後、0.5Cの電流レートにより、供試電池が2秒間通電された。2秒後の電圧が測定された。同様に、1C、2C、4Cおよび6Cの各電流レートにおいて、通電2秒後の電圧が測定された。二次元座標に測定結果がプロットされた。二次元座標の横軸は電流であり、縦軸は電圧である。二次元座標における近似直線の傾きから、IV抵抗が算出された。IV抵抗は、供試電池の内部抵抗に相当する。
【0093】
IV抵抗の測定後、充放電が20サイクル実施された。サイクル条件は以下のとおりである。
【0094】
温度環境:40℃
充電:上限電圧 4.1V、電流レート 0.5C
放電:下限電圧 2.5V、電流レート 0.5C
【0095】
20サイクル後、上記と同様に、IV抵抗が測定された。下記式により、抵抗増加率が算出された。
【0096】
抵抗増加率=(Rcyc-Rini)/Rini
式中「Rini」は、20サイクル実施前(初期)のIV抵抗を示す。
式中「Rcyc」は、20サイクル実施後のIV抵抗を示す。
【0097】
下記表1に抵抗増加率が示される。下記表1の「抵抗増加率」の欄に示される値は、各例における抵抗増加率が、実施例1における抵抗増加率で除された値である。抵抗増加率が低い程、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制されていると考えられる。本実施例においては、抵抗増加率が1.15以下であれば、充放電サイクルに伴う抵抗増加が抑制されているとみなされる。
【0098】
【表1】
【0099】
《結果と考察》
実施例1に係る供試電池は、三次元電極構造を有する。比較例1に係る供試電池は、二次元電極構造を有する。実施例1は、比較例1に比して、低い抵抗増加率を示した。
【0100】
実施例1から3、比較例2の結果において、隔壁の厚さが5μm以上30μm以下である時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。比較例3においては、正極と負極とが短絡していた。隔壁が過度に薄いためと考えられる。
【0101】
実施例1、4および5、比較例4および5の結果において、炭素繊維束の束径が50μm以上300μm以下である時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【0102】
実施例1、6および7、比較例6および7の結果において、第1活物質と第2活物質とが、質量比で「第1活物質/第2活物質=85/15から50/50」の関係を満たしている時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【0103】
<実験2>
《供試電池の作製》
(実施例8)
第1活物質の調製時に、「Mol(Li)/Mol(Me)=1.05」の関係が満たされるように、複合水酸化物の粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合されることにより、混合粉末が調製された。該混合粉末が使用されることにより、Li1.05Ni0.4Co0.3Mn0.32のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例8に係る供試電池が作製された。
【0104】
(実施例9)
第1活物質の調製時に、Ni、CoおよびMnが、モル比で「Ni/Co/Mn=5/2/3」の関係を満たすように、混合塩水溶液が調製された。ペレットの焼成温度が900℃に変更された。これにより、Li1.08Ni0.5Co0.2Mn0.32のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例9に係る供試電池が作製された。
【0105】
(実施例10)
第1活物質の調製時に、Ni、CoおよびMnが、モル比で「Ni/Co/Mn=6/2/2」の関係を満たすように、混合塩水溶液が調製された。ペレットの焼成雰囲気が酸素雰囲気に変更された。ペレットの焼成温度が880℃に変更された。これにより、Li1.08Ni0.6Co0.2Mn0.22のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例10に係る供試電池が作製された。
【0106】
(実施例11)
第1活物質の調製時に、Ni、CoおよびMnが、モル比で「Ni/Co/Mn=5/1/4」の関係を満たすように、混合塩水溶液が調製された。ペレットの焼成雰囲気が酸素雰囲気に変更された。ペレットの焼成温度は、実施例1と同様に950℃に設定された。これにより、Li1.08Ni0.5Co0.1Mn0.42のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例11に係る供試電池が作製された。
【0107】
(実施例12)
第2活物質の調製時に、「Mol(Li)/Mol(Me)=0.538」の関係が満たされるように、二酸化マンガンの粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合されることにより、混合粉末が調製された。該混合粉末が使用されることにより、Li1.05Mn1.954のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例12に係る供試電池が作製された。
【0108】
(比較例8)
第1活物質として、Li1.08Ni0.5Co0.2Mn0.32が使用されることを除いては、比較例1と同様に、比較例8に係る供試電池(平板型ラミネート電池)が作製された。
【0109】
(比較例9)
第1活物質として、Li1.08Ni0.6Co0.2Mn0.22が使用されることを除いては、比較例1と同様に、比較例9に係る供試電池(平板型ラミネート電池)が作製された。
【0110】
(比較例10)
第1活物質として、Li1.08Ni0.5Co0.1Mn0.42が使用されることを除いては、比較例1と同様に、比較例10に係る供試電池(平板型ラミネート電池)が作製された。
【0111】
(比較例11)
第2活物質として、Li1.05Mn1.954が使用されることを除いては、比較例1と同様に、比較例11に係る供試電池(平板型ラミネート電池)が作製された。
【0112】
(実施例13)
第2活物質の調製時に、「Mol(Li)/Mol(Me)=0.667」の関係が満たされるように、二酸化マンガンの粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合されることにより、混合粉末が調製された。該混合粉末が使用されることにより、Li1.2Mn1.84のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例13に係る供試電池が作製された。
【0113】
(実施例14)
第1活物質の調製時に、Ni、CoおよびMnが、モル比で「Ni/Co/Mn=8/1/1」の関係を満たすように、混合塩水溶液が調製された。「Mol(Li)/Mol(Me)=1.08」の関係が満たされるように、複合水酸化物の粉末と、水酸化リチウムの粉末とが混合されることにより、混合粉末が調製された。ペレットの焼成雰囲気が酸素雰囲気に変更された。ペレットの焼成温度が780℃に変更された。これにより、Li1.08Ni0.8Co0.1Mn0.12のペレットが調製された。該ペレットが使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例14に係る供試電池が作製された。
【0114】
(比較例12)
ジメチルスルホキシド(DMSO)に、ポリアクリロニトリル(PAN)およびポリビニルアルコール(PVA)が溶解されることにより、ポリマー溶液が調製された。PANとPVAとの混合比は、質量比で「PAN/PVA=5/95」であった。ポリマー溶液の温度が70℃に調整された。温度の調整後、ポリマー溶液が24時間攪拌された。該ポリマー溶液は、比較例12における隔壁の前駆体である。
【0115】
炭素繊維束にポリマー溶液が塗布された。ポリマー溶液の塗布後、炭素繊維束が水に浸漬されることにより、DMSOが実質的に除去された。DMSOの除去後、炭素繊維束が70℃で5時間真空乾燥された。これにより隔壁が形成された。隔壁は、PANおよびPVAを含んでいた。これらを除いては、実施例1と同様に、比較例12に係る供試電池が作製された。
【0116】
《供試電池の評価》
実験1と同様に、抵抗増加率が測定された。結果は下記表2に示される。
【0117】
【表2】
【0118】
《結果と考察》
実施例8から12においては、第1活物質の組成が上記式(1)を満たしている。実施例14においては、第1活物質の組成が上記式(1)を満たしていない。第1活物質の組成が上記式(1)を満たす時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【0119】
実施例8から12においては、第2活物質の組成が上記式(2)を満たしている。実施例13においては、第2活物質の組成が上記式(2)を満たしていない。第2活物質の組成が上記式(2)を満たす時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【0120】
比較例12の隔壁は、PVDF-HFPを含んでいなかった。比較例12の隔壁は、PANおよびPVAを含んでいた。比較例12は、実施例1等と異なり、高い抵抗増加率を示した。
【0121】
<実験3>
《供試電池の作製》
(実施例15)
第2活物質としてLi1.05Cr0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例15に係る供試電池が作製された。Li1.05Cr0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、酸化クロム(Cr23)および水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0122】
(実施例16)
第2活物質としてLi1.05Ni0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例16に係る供試電池が作製された。Li1.05Ni0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、炭酸ニッケルおよび水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0123】
(実施例17)
第2活物質としてLi1.05Cu0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例17に係る供試電池が作製された。Li1.05Cu0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、酸化銅(CuO)および水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0124】
(実施例18)
第2活物質としてLi1.05Mg0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例18に係る供試電池が作製された。Li1.05Mg0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、水酸化マグネシウムおよび水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0125】
(実施例19)
第2活物質としてLi1.05Zn0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例19に係る供試電池が作製された。Li1.05Zn0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、水酸化亜鉛および水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0126】
(実施例20)
第2活物質としてLi1.1Al0.1Mn1.84が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例20に係る供試電池が作製された。Li1.1Al0.1Mn1.84は、二酸化マンガン、水酸化アルミニウムおよび水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0127】
(実施例21)
第2活物質としてLi1.05Al0.05Mn1.94が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例21に係る供試電池が作製された。Li1.05Al0.05Mn1.94は、二酸化マンガン、水酸化アルミニウムおよび水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0128】
(実施例22)
第2活物質としてLi1.05Al0.15Mn1.84が使用されることを除いては、実施例1と同様に、実施例22に係る供試電池が作製された。Li1.05Al0.15Mn1.84は、二酸化マンガン、水酸化アルミニウムおよび水酸化リチウムが原料として使用されることにより、調製された。
【0129】
《供試電池の評価》
実験1と同様に、抵抗増加率が測定された。結果は下記表3に示される。
【0130】
【表3】
【0131】
《結果と考察》
実施例1、15から22の結果において、第2活物質(リチウムマンガン複合酸化物)に、Mn以外の金属(Al、Mg、Cr、Ni、Cu、Zn)が添加されている時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。さらに添加金属がAlである時、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【0132】
本開示の実施形態および実施例は、すべての点で例示である。本開示の実施形態および実施例は、制限的なものではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内におけるすべての変更を包含する。
【符号の説明】
【0133】
10 正極、20 負極、21 炭素繊維、25 炭素繊維束、30 隔壁、100 電極複合体。
図1
図2