IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NECトーキン株式会社の特許一覧

特許7132231圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ
<>
  • 特許-圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ 図1
  • 特許-圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ 図2
  • 特許-圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ 図3
  • 特許-圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220830BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220830BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20220830BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220830BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220830BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220830BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220830BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01F41/02 C
H01F27/255
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F17/04 F
H01F1/153 141
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F3/24 B
C22C38/00 303S
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019545063
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035066
(87)【国際公開番号】W WO2019065500
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2017190682
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】千葉 美帆
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-103265(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022227(WO,A1)
【文献】特開2016-94652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 27/255
H01F 1/153
H01F 17/04
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質軟磁性合金粉末を熱処理してナノ結晶粉末を得る工程と、
前記ナノ結晶粉末と展性粉末と結合材とから造粒粉末を得る工程と、
前記造粒粉末を加圧成型して圧粉体を得る工程と、
前記結合材の硬化開始温度以上かつ前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化開始温度未満の温度で前記圧粉体を熱処理し、前記結合材を硬化させる工程と、を備え
前記ナノ結晶粉末のナノ結晶化度は30%以上である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記展性粉末のビッカース硬度は450Hv未満であり、
前記ナノ結晶粉末に対する前記展性粉末の粒径比は1以下である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記展性粉末の添加量は10wt%以上90wt%以下である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
ナノ結晶粒径は45nm未満である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記展性粉末のビッカース硬度は250Hv未満である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記展性粉末の添加量は20wt%以上80wt%以下である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記ナノ結晶粉末のナノ結晶化度は45%以上であり、
前記ナノ結晶粉末におけるナノ結晶粒径は35nm以下である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記ナノ結晶粉末に対する前記展性粉末の粒径比は0.25以下である
圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一つに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記非晶質軟磁性合金粉末は、組成式Fe(100-a-b-c-x-y-z)SiCrNbCuで表され、0≦a≦17at%、2≦b≦15at%、0≦c≦15at%、0≦x+y≦5at%、及び0.2≦z≦2at%を満たすものであり、
前記展性粉末は、カルボニル鉄粉、Fe-Ni合金粉末,Fe-Si合金粉末,Fe-Si-Cr合金粉末、Fe-Cr合金粉末及び純鉄粉の中から選択された一つである
圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記非晶質軟磁性合金粉末に含まれるFeの3at%以下をCo,Ni,Zn,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Ag,Au,Pd,K,Ca,Mg,Sn,Ti,V,Mn,Al,S,C,O,N,Bi及び希土類元素の中から選ばれる1種類以上の元素で置換した
圧粉磁心の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の圧粉磁心の製造方法であって、
前記組成式は、0≦a≦8at%、4≦b≦13at%、1≦c≦11at%、0≦x≦3at%、y=0at%及び0.2≦z≦1.4at%を満たすものである
圧粉磁心の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのうちのいずれか一つに記載された圧粉磁心の製造方法により製造された圧粉磁心であって、
圧粉磁心を二等分する断面を想定したとき、その断面は10mm以上の断面積を有し、
前記断面において、前記圧粉磁心の表面から0.1mm深さに位置するナノ結晶に対する中心に位置するナノ結晶の結晶粒径比は1.3未満である
圧粉磁心。
【請求項13】
請求項12に記載の圧粉磁心と、
前記圧粉磁心に内蔵されたコイルと、を備える
インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法、圧粉磁心及びインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気機器や電子機器の小型、軽量、高速化への対応はめざましく、それに伴い電気機器や電子機器に用いられる磁性材料には、より高い飽和磁束密度と、より高い透磁率が求められている。そこで、高飽和磁束密度及び高透磁率を有する軟磁性合金粉末や、それを用いた圧粉磁心等を得るために、多様な技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非晶質合金磁粉と鉄粉とからなる複合圧粉磁心材料が開示されている。また、特許文献2には、軟磁性鉄基合金粉及び純鉄粉からなる圧縮成形用の軟磁性混合粉末が開示されている。また、特許文献3には、軟磁性材料粉末の間にCuが分散している圧粉磁心が開示されている。また、特許文献4には、第1の軟磁性合金粉末材料(非晶質粉末)と第2の軟磁性合金粉末材料(非晶質粉末,結晶性磁性粉末又はナノ結晶化済み粉末)とを使用して圧粉磁心を製造する方法が開示されている。さらに、特許文献5には、軟磁性金属粉末と純鉄粉末とを含む磁心用粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平07-034183号公報
【文献】特許6088284号公報
【文献】特開2014-175580号公報
【文献】特許6101034号公報
【文献】特開2017-043842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から特許文献5に記載された複合圧粉磁心材料等は、いずれも、加圧成型により圧粉体とした後にナノ結晶化を生じさせる比較的高い温度での熱処理を受ける必要がある。このような熱処理では、圧粉体の内部に熱がこもりやすく、ナノ結晶の析出状態が不均一になったり、結晶粒子が粗大化したりし、さらには熱暴走によって化合物が多量に析出したりする。その結果、圧粉磁心の磁気特性は劣化する。また、このような熱処理は、圧粉磁心の作製に使用できる結合材を制限したり、圧粉磁心と一体化されるコイル線材を劣化させたりするという問題点もある。
【0006】
そこで、本発明は、加圧成型後に比較的高い温度で熱処理を行わなくても所望の磁気特性を得ることができる圧粉磁心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の側面は、第1の圧粉磁心の製造方法として、
非晶質軟磁性合金粉末を熱処理してナノ結晶粉末を得る工程と、
前記ナノ結晶粉末と展性粉末と結合材とから造粒粉末を得る工程と、
前記造粒粉末を加圧成型して圧粉体を得る工程と、
前記結合材の硬化開始温度以上かつ前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化開始温度未満の温度で前記圧粉体を熱処理し、前記結合材を硬化させる工程と、を備える
圧粉磁心の製造方法
を提供する。
【0008】
また、本発明の他の側面によれば、第1の圧粉磁心として、第1の圧粉磁心の製造方法により製造された圧粉磁心であって、
圧粉磁心を二等分する断面を想定したとき、その断面は10mm以上の断面積を有し、
前記断面において、前記圧粉磁心の表面から0.1mm深さに位置するナノ結晶に対する中心に位置するナノ結晶の結晶粒径比は1.3未満である
圧粉磁心
が得られる。
【0009】
また、本発明のさらに他の側面によれば、
前記第1の圧粉磁心と、
前記第1の圧粉磁心に内蔵されたコイルと、を備える
インダクタが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧粉磁心の製造方法では、圧粉体に対して結合材を硬化させるのに必要な比較的低い温度での熱処理を行うだけでよい。これにより、比較的高い温度での熱処理による磁気特性の劣化やコイル線材の劣化を抑制することができ、所望の特性を有する圧粉磁心及びそれを含むインダクタを得ることができる。また、圧粉磁心の作製に使用可能な結合材の選択肢が増加する。
【0011】
添付の図面を参照しながら下記の最良の実施の形態の説明を検討することにより、本発明の目的が正しく理解され、且つその構成についてより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態による圧粉磁心の製造方法に用いられる非晶質軟磁性合金粉末のDSC測定結果を示すグラフである。
図2】本発明の一実施の形態による圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】従来の圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の一実施の形態による圧粉磁心の製造方法を用いて製造されるインダクタを示す斜視透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明については多様な変形や様々な形態にて実現することが可能であるが、その一例として、図面に示すような特定の実施の形態について、以下に詳細に説明する。図面及び実施の形態は、本発明をここに開示した特定の形態に限定するものではなく、添付の請求の範囲に明示されている範囲内においてなされる全ての変形例、均等物、代替例をその対象に含むものとする。
【0014】
図1を参照して、まず、本発明の一実施の形態による圧粉磁心の製造方法に使用される非晶質軟磁性合金粉末(以下、非晶質性粉末という)の特性について説明する。図1は、本実施の形態において使用される非晶質性粉末を、所定の昇温速度となるように加熱し続けた場合に得られるDSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量測定)曲線10を示している。図1のDSC曲線10は、2つの発熱ピーク11,15を持っている。これらの発熱ピークのうち、低温側のピークはbccFe結晶(ナノ結晶)の析出に伴うものである。高温側のピークは不純物となる化合物(Fe-B系化合物やFe-P系化合物等)の析出に伴うものである。ここで、ベースライン20と第1上昇接線32(第1立ち上がり部12のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線)との交点にて定まる温度を第1結晶化開始温度Tx1という。また、ベースライン21と第2上昇接線42(第2立ち上がり部16のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線)との交点にて定まる温度を第2結晶化開始温度Tx2という。
【0015】
図1から理解されるように、非晶質性粉末を比較的高い温度で熱処理すると、化合物が析出する。析出した化合物(不純物)は、微量であれば圧粉磁心の磁気特性を劣化させないが、多量になると磁気特性を劣化させる。したがって、非晶質性粉末の熱処理において、化合物の析出はできるだけ避けなければならない。換言すると、非晶質性粉末の熱処理温度はできるだけ低いことが望ましい。なお、第1結晶化開始温度Tx1及び第2結晶化開始温度Tx2は、非晶質性粉末の組成等に依存する。高い飽和磁束密度Bsを実現するために選択される軟磁性材料は、通常Feを主成分とする。Feを主成分とする軟磁性材料(非晶質性粉末)の第1結晶化開始温度Tx1は、一般に300℃以上となる。
【0016】
次に、図2を参照して、本発明の一実施の形態による圧粉磁心の製造方法を説明する。図2に示す圧粉磁心の製造方法は、大きく分けて、粉末熱処理工程P1と磁心作製工程P2とからなる。
【0017】
まず、粉末熱処理工程P1のステップS21において、所定の温度条件で熱処理し、ナノサイズの微結晶(ナノ結晶)が析出したナノ結晶(化)粉末を得る。ナノ結晶の析出には加熱時間等も関係するため、ナノ結晶の析出は結晶化開始温度(Tx1)よりも低い温度でも生じる。通常、この熱処理は、ナノ結晶の適切な析出と化合物の析出抑制とを両立させるため、「第一結晶化開始温度Tx1-50℃」以上、「第二結晶化開始温度Tx2」未満で行われる。熱処理においては、抵抗加熱、誘導加熱、レーザー加熱、赤外線加熱などの電気式や燃焼式など一般的な加熱設備を使用することが可能である。処理形式としても、バッチ式、ローラーやコンベアを用いた連続式、回転式など一般的な設備を使用することが可能である。また、熱処理する際の雰囲気は、粉末の表面酸化を抑制するためには不活性雰囲気が望ましい。しかしながら、特定の目的のために大気等の酸化雰囲気や水素等の還元雰囲気を用いることも可能である。
【0018】
次に、磁心作製工程P2に進み、ステップS22において、ステップS21で得られたナノ結晶粉末に展性粉末を添加し、十分に混合して混合粉末を得る。次いで、ステップS23において、混合粉末と結合材とを混合し、得られた混合物に対して粒度調整を行い、造粒粉末を得る。次に、ステップS24において、金型を用いて造粒粉末を加圧成型し、圧粉体を得る。最後に、ステップS25において、圧粉体を熱処理し、結合材を硬化させる。この熱処理は、結合材の硬化開始温度以上で行うが、ナノ結晶粉末のさらなる結晶化(結晶化の進行)を生じさせないように、出来るだけ低い温度で行う。こうして、圧粉磁心が製造される。なお、熱処理する際の雰囲気は、粉末の表面酸化を抑制するためには不活性雰囲気が望ましい。しかしながら、結合材の硬化反応の制御など、特定の目的のために大気等の酸化雰囲気を用いてもよい。
【0019】
ここで比較のため、従来の圧粉磁心の製造方法を、図3を参照して説明する。まず、ステップS31において、非晶質性粉末に展性粉末を添加し、十分に混合し、混合粉末を得る。次いで、ステップS32において、混合粉末と結合材とを混合し、さらに粒度調整して造粒粉末を得る。使用する結合材は、成形後の熱処理温度を考慮して、シリコーン系などの耐熱性が高く絶縁性が良好な結合材を使用する。その後、ステップS33において、金型を用いて造粒粉末を加圧成型して圧粉体を作製する。最後に、ステップS34において、圧粉体を不活性雰囲気にて熱処理し、結合材の硬化と非晶質性粉末のナノ結晶化とを行い、圧粉磁心を得る。
【0020】
上述したように、図3に示す従来の方法では、加圧成型後にナノ結晶化のために比較的高い温度での熱処理を行う。ナノ結晶が析出する温度は、先述した通り一般に300℃以上である。そのため、この方法では、耐熱性の低い結合材を使用することはできない。また、ナノ結晶化反応は発熱反応であるため、成形体(磁心)の内部に熱がこもりやすい。そのため、ナノ結晶の析出状態が不均一になったり、粒子が粗大化したり、さらには熱暴走によって化合物が多量に析出する。その結果、磁気特性が劣化する。このような磁気特性の劣化は、断面積が10mm以上の圧粉磁心を作製した場合に顕著となる。特に、圧粉磁心の断面において、断面中心に位置するナノ結晶の粒径と磁心の表面から0.1mmの位置に位置するナノ結晶の粒径との比(結晶粒径比(中心/表面))が1.3を超える場合には、磁気特性の劣化が大きい。なお、圧粉磁心の断面におけるナノ結晶粒径は、電子顕微鏡による組織観察において求めることができる。圧粉磁心の断面は、圧粉磁心を冷間樹脂中に埋め込み硬化し、研磨することで作製することができる。本実施の形態では、断面として圧粉磁心を二等分する面を想定している。結晶粒径は、圧粉磁心断面の組織写真において、所定位置における結晶粒を30個以上ランダムに選択し、各粒子の長径と短径を測定して算出した平均値とすることができる。所定位置は、断面の中心及びその近傍と、表面から0.1mmの距離にある線上とする。
【0021】
本実施の形態による圧粉磁心の製造方法においては、予めナノ結晶化した軟磁性粉末を展性粉末とともに用いる。粉末状態で熱処理を行うので、圧粉体を熱処理するときのような熱分布の不均衡や熱暴走が生じにくい。また、展性粉末を添加するので、加圧成型時にナノ結晶粉末に生じる応力を低減し、ナノ結晶粉末の磁気特性の劣化を抑えることができる。さらに、圧縮成型後の熱処理を、結合材を硬化させるのに必要な温度で、結晶化を生じさせないようあるいは進行させないように行うことで、比較的高い温度での熱処理によって生じる問題を解決する。具体的には、高温の熱処理によって生じ得る磁心内部のナノ結晶構造の不均一化を抑え、熱暴走の発生も抑える。これにより、発熱量の大きな材料(高Fe含有率)を用いることを可能にし、高い磁束飽和密度Bsを実現することができる。また、より大型の圧粉磁心の作製が可能になり、またはより高い充填率の(小型の)圧粉磁心の作製が可能になる。こうして、本実施の形態によれば、高い飽和磁束密度を持ち、コアロスの少ない優れた磁気特性を有する圧粉磁心を作製することができる。さらに、熱処理温度が低いことから、結合材の選択肢が増えるとともに、コイル線材の劣化を防止することができる。
【0022】
以下、図2を参照しつつ、実施の形態による圧粉磁心の製造方法についてより詳細に説明する。
【0023】
まず、ステップS21において、非晶質性粉末に熱処理を行い、ナノ結晶を析出させる。使用する非晶質性粉末は、組成式Fe(100-a-b-c-x-y-z)SiCrNbCuで表され、0≦a≦17at%、2≦b≦15at%、0≦c≦15at%、0≦x+y≦5at%、及び0.2≦z≦2at%を満たす合金粉末である。非晶質性粉末は、公知の方法で製造することができる。たとえば、非晶質性粉末は、アトマイズ法で製造することができる。また、非晶質性粉末は、合金薄帯を粉砕して製造してもよい。
【0024】
非晶質性粉末において、Feは主元素であり、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。
【0025】
非晶質性粉末において、Siは非晶質相形成を担う元素である。Siは、必ずしも含まれなくても良いが、添加することでΔTを広くして、安定的な熱処理を可能にする。ここで、ΔTは、第1結晶化開始温度Tx1と第2結晶化開始温度Tx2との差(図1参照)である。ただし、Siの割合が17at%よりも多いとアモルファス形成能が低下し、非晶質を主相とする粉末が得られない。
【0026】
非晶質性粉末において、Bは非晶質相形成を担う必須元素である。Bの割合が2at%より少ないと急冷によるアモルファス相の形成が困難になり、熱処理後の軟磁気特性が低下する。また、Bの割合が15at%より多いと、融点が高くなり製造上好ましくなく、アモルファス形成能も低下する。
【0027】
非晶質性粉末において、Pは非晶質相形成を担う元素である。Pを添加することで微細で均一なナノ結晶組織を形成しやすく、良好な磁気特性を得ることができる。Pの割合が15at%より多いと、他のメタロイド元素とのバランスが悪くなりアモルファス形成能が低下すると同時に、飽和磁束密度Bsが著しく低下する。
【0028】
非晶質性粉末において、Cr及びNbは必ずしも含まれていなくてもよい。しかしながら、Crを添加することで粉末表面に酸化膜が形成され、耐食性が向上する。また、Nbを添加することでナノ結晶化の際にbcc結晶粒成長を抑制する効果があり、微細なナノ結晶構造を形成しやすくなる。ただし、Cr及びNbを添加することで相対的にFe量が減少するので飽和磁束密度Bsが低下し、また、アモルファス形成能が低下する。したがって、Cr及びNbは、両者を合わせて5wt%以下であることが好ましい。
【0029】
非晶質性粉末において、Cuは微細結晶化に寄与する必須元素である。Cuの割合が0.2at%より少ないと、ナノ結晶化熱処理時のクラスター析出が少なく均一なナノ結晶化が難しい。一方、Cuの割合が2at%を超えるとアモルファス形成能が低下し、アモルファス性の高い粉末を得るのが難しい。
【0030】
非晶質性粉末において、Fe一部を、Co,Ni,Zn,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Ag,Au,Pd,K,Ca,Mg,Sn,Ti,V,Mn,Al,S,C,O,N,Bi及び希土類元素から選ばれる1種類以上の元素と置換することが好ましい。このような元素が含まれることにより、熱処理後の均一なナノ結晶化が容易となる。但し、この置換において、Feのうち上記元素に置換される原子量(置換原子量)は、磁気特性、非晶質形性能、融点等の溶解条件および原料価格に悪影響のない範囲内とする必要がある。より具体的には、好ましい置換原子量は、Feの3at%以下である。
【0031】
なお、非晶質性粉末は、完全な非晶質でなくてもよい。たとえば、非晶質性粉末は、製造の過程で形成される初期結晶成分を含んでいてもよい。初期結晶成分は、Fe基ナノ結晶合金粉末の磁気特性が劣化する一因になる。詳しくは、初期析出物に起因して、Fe基ナノ結晶合金粉末において100nmを超える粒径を有するナノ結晶が析出する場合がある。100nmを超える粒径のナノ結晶は、少量析出しただけで磁壁の移動を阻害し、Fe基ナノ結晶合金粉末の磁気特性を劣化させる。このため、初期結晶成分の割合(初期結晶化度)は10%未満が好ましく、特に、良好な磁気特性を得るためには、初期結晶化度は3%未満が好ましい。初期結晶化度は、X線回析(XRD:X‐ray diffraction)による測定結果をWPPD法(Whole-powder-pattern decomposition method)によって解析することで算出できる。尚、上記初期結晶化度は非晶質性粉末全体における初期結晶成分全体の体積比であり、該粉末を構成する個々の粒子における結晶化度を指すものではない。
【0032】
非晶質性粉末を熱処理して得られるナノ結晶粉末において、析出させた結晶相は、bccFe(αFe(-Si))に加えて化合物相(Fe-B、Fe-P、Fe-B-Pなど)を含んでいてもよい。ナノ結晶粉末の磁気特性が応力によって劣化するのを抑制するため、析出させるナノ結晶の結晶粒径(平均粒径)は45nm未満が望ましく、ナノ結晶の析出割合(結晶化度)は30%以上がよい。特に、得られたナノ結晶粉末を用いて圧粉磁心を作製した場合により良好な磁気特性を得るためには、ナノ結晶の平均粒径は35nm以下が好ましく、結晶化度は45%以上であることが好ましい。また、化合物相の結晶粒径(平均粒径)は30nm未満が望ましく、より良好な磁気特性を得るためには20nm以下が良い。すなわち、結晶化度と結晶粒径を上記範囲とすることによって、ナノ結晶粉末自身が応力によって磁気特性劣化するのを効果的に抑制できる。なお、結晶化度及び結晶粒径は、熱処理における保持温度・保持時間・昇温速度の調整により変更可能である。また、ナノ結晶の平均粒径及び結晶化度は、X線回析(XRD:X‐ray diffraction)による測定結果をWPPD法(Whole-powder-pattern decomposition method)によって解析することで算出できる。
【0033】
次に、ステップS22において、ナノ結晶粉末に展性粉末を添加し、十分に混合して混合粉末を得る。展性粉末は、圧粉磁心を作製する際(加圧成型の際)に所望の展性を示し、ナノ結晶粉末への応力歪みを低減するように、そのビッカース硬度が450Hv未満であることが好ましい。加えて、磁気特性を向上させるためには、展性粉末のビッカース硬度は、250Hv未満であることが好ましい。また、ナノ結晶粉末に対する展性粉末の粒径比(展性粉末の平均粒径/ナノ結晶粉末の平均粒径)は優れた磁気特性を得るために1以下であればよく、好ましくは0.25未満であればよい。また、展性粉末の含有率は、10wt%以上90wt%以下が好ましく、特に優れた磁気特性を得るためには20~80wt%がより好ましい。本実施の形態において使用する展性粉末は、カルボニル鉄粉、Fe-Ni合金粉末,Fe-Si合金粉末,Fe-Si-Cr合金粉末、Fe-Cr及び純鉄粉の中から選択された一つの合金粉末である。
【0034】
なお、ステップS22で用いられるナノ結晶粉末として、組成や粒度分布の異なる2種類以上の粉末を用いてもよい。また、展性粉末として、組成や粒度分布の異なる2種類以上の粉末を用いてもよい。粒度分布の異なる粉末を組み合わせることで、充填率の向上が見込め、それにより磁気特性の向上が期待される。例えば、微細なカルボニル鉄粉と、カルボニル鉄粉とナノ結晶粉末の中間の粒度を有するFe-Si-Cr粉末の2種類を組み合わせなどである。さらには、特定の目的のため、ナノ結晶粉末とは異なる組成を持ち、450Hv以上のビッカース硬度を有する第三の粉末を混合してもよい。第三の粉末は磁性粉末であっても良い。また、第三の粉末は、例えば、圧粉磁心の絶縁抵抗(IR:Insulation resistance)を向上させるために、シリカやチタニアやアルミナなどのセラミックス粉末を用いることもできる。
【0035】
ステップS22に先立ち、ナノ結晶粉末の表面に、樹脂、リン酸塩、シリカ、DLC(Diamond like carbon)、低融点ガラス等の表面コーティングを施すようにしてもよい。同様に、展性粉末の表面にも、樹脂、リン酸塩、シリカ、DLC、低融点ガラス等を用いて表面コーティングを施すようにしてもよい。なお、これらの表面コーティングは、ステップS22ではなく、ステップS21に先立って施してもよい。すなわち、非晶質粉末の表面にコーティングを施した後に、ナノ結晶化のための熱処理を行うことも可能である。
【0036】
次いで、ステップS23において、混合粉末と絶縁性の良好な結合材とを十分に混合し、得られた混合物に対して粒度調整を行って造粒粉末を得る。ただし、本発明はこれに限られず、ナノ結晶粉末と絶縁性結合材とを混合した後に、展性粉末を混合するようにしてもよい。
【0037】
次に、ステップS24において、金型を用いて造粒粉末を加圧成型し、圧粉体を作製する。前述のように、展性粉末として、ビッカース硬度が450Hv未満であり、ナノ結晶粉末に対する粒径比が1以下の粉末を用いることで、加圧成型時におけるナノ結晶粉末の応力歪みを低減することができる。即ち、このような展性粉末を用いることで、ナノ結晶粉末の磁気特性の劣化を抑えるとともに、歪を除去するための比較的高温の熱処理を不要にすることができる。
【0038】
最後に、ステップS25において、圧粉体を熱処理する。この熱処理は、結合材を硬化させるのに必要な温度(硬化開始温度)以上の温度で行う。この温度は、第1結晶化開始温度Tx1より低い温度とする。すなわち、本実施の形態では、加圧成型後にはナノ結晶化を生じさせないように、あるいは進行させないようにしつつ、結合材の硬化を行う。こうして、圧粉磁心が製造される。なお、熱処理する際の雰囲気は、粉末の表面酸化を抑制するためには不活性雰囲気が望ましい。しかしながら、結合材の硬化反応の制御など、特定の目的のために大気等の酸化雰囲気を用いてもよい。
【0039】
以上のように、本実施の形態による圧粉磁心の製造方法においては、加圧成型後に比較的高い温度での熱処理を行なわない。本実施の形態では、適切にナノ結晶化した軟磁性粉末にビッカース硬度450Hv未満の展性粉末を添加していることから、結合材を硬化させる熱処理のみで、優れた磁気特性を有する圧粉磁心を作製することができる。また、従来の圧粉磁心の製造方法に比べると、本実施の形態による圧粉磁心の製造方法は、結合材の選択肢が多い。さらに、本実施の形態による圧粉磁心は、内部のナノ結晶構造が均一で、優れた軟磁気特性を有している。
【0040】
本実施の形態による圧粉磁心の製造方法は、図4に示されるようなコイルを内蔵する圧粉磁心、即ちインダクタ1の製造に利用することができる。図4のインダクタ1は、圧粉磁心3の内部にコイル2を内蔵した磁心一体型構造のインダクタである。このインダクタ1は、前述したステップS24において、圧粉体を作製する際に、金型内にコイル2を配置しておくことで作製することができる。図4に示されるコイル2は、長さ方向に垂直な断面の形状が長方形の平角導体を用い、その断面の長辺が巻線の中心軸に対して垂直となるように、巻き回まわされているエッジワイズ巻きのコイルである。コイル2は、その両方の端子部4a,4bが圧粉磁心3の外側に突出するように、圧粉磁心3に内蔵されている。ただし、本発明はこれに限られず、他の形状のコイルを用いてもよい。
【実施例
【0041】
(実施例1~5,比較例1~3)
実施例1~5及び比較例2,3は、ナノ結晶粉末に種々のビッカース硬度を有する展性粉末(添加粉末)を混合して作製した圧粉磁心である。比較例1はナノ結晶粉末のみから作製した圧粉磁心である。
【0042】
実施例1~5及び比較例2,3は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例1は、ステップS22を除いて、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。非晶質性粉末(母粉末)としては、水アトマイズ法にて作製した平均粒径40μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。
【0043】
ステップS21において、赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱した。母粉末を毎分30℃の昇温速度で450℃まで加熱して20分間保持し、その後、空冷した。熱処理後の粉末(ナノ結晶粉末)をXRDにより解析したところ、その結晶化度は51%、結晶粒径は35nmであった。
【0044】
ステップS22において、ナノ結晶粉末に添加粉末を25wt%の割合で混合した。さらに、ステップS23において、ナノ結晶粉末と添加粉末からなる混合粉末に対して、重量比で2%となるように結合材を加え、攪拌混合した。ここでは、結合材として、フェノール樹脂を使用した。続いて、目開き500μmのメッシュを用いて、結合材を混合した混合粉末の粒度調整を行い、造粒粉末を得た。
【0045】
ステップS24において、造粒粉末から4.5gを秤量し、秤量した造粒粉末を金型に入れた。油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて金型内の造粒粉末を成型し、外径20mm、内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。
【0046】
ステップS25において、圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を150℃にして2時間保持した。こうして、圧粉体に含まれる結合材を硬化させた。
【0047】
作製した圧粉磁心の磁気特性評価として、インピーダンスアナライザを用いて、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。表1に、実施例1~5及び比較例1~3の評価結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、比較例1のナノ結晶粉末のみから作製した圧粉磁心に比べて、添加粉末を混合した圧粉磁心は、初透磁率μが増加し、コアロスPcvが低下しており、磁気特性が改善していることがわかる。特に、本発明の実施例であるビッカース硬度450Hv以下の粉末を添加した場合には、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500mW/km以下となり、優れた磁気特性が得られている。特に、ビッカース硬度250未満の粉末を添加した場合には、初透磁率μが35以上かつコアロスPcvが2000kW/m以下であり、より優れた磁気特性が得られている。
【0050】
(実施例6~15、比較例1,4)
実施例6~15は、添加粉末としてカルボニル鉄を用い、添加量を変更して作製した圧粉磁心である。比較例1は、ナノ結晶粉末のみから作製した圧粉磁心(前述したものと同じ)である。比較例4はカルボニル鉄粉のみから作製した圧粉磁心である。
【0051】
実施例6~15の製造は、添加粉末をカルボニル鉄粉とし、その添加量を変更した点を除いて、実施例1~5と同様に行った。比較例1,4の製造も、原料粉末が異なる点を除いて、実施例1~5と同様に行った。また、実施例6~15及び比較例1,4の磁気特性評価を、実施例1~5の評価と同様の方法で行った。表2に、実施例6~15及び比較例1,4の評価結果を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より、ナノ結晶粉末にカルボニル鉄粉を添加することで、比較例1,4に示される単独粉末から作製した圧粉磁心に比べて、初透磁率μが増加し、コアロスPcvが低下していることがわかる。具体的には、カルボニル鉄粉の添加割合が10~90wt%の範囲において、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となっており、優れた磁気特性が得られている。特に、カルボニル鉄粉の添加割合が20wt%以上の場合、コアロスPcvが2000kW/m以下であり、さらに80wt%未満においては、初透磁率μが35以上であり、より優れた磁気特性が得られている。
【0054】
(実施例16~20、比較例5,6)
実施例16~20及び比較例5,6は、ナノ結晶粉末と添加粉末の粒径比を変更して作製した圧粉磁心である。実施例16~20及び比較例5,6は、図2に示される圧粉磁心の製造方法により製造した。非晶質性粉末(母粉末)として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径60μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。実施例1~5と同様に粉末熱処理工程P1を行い、その後、ふるい分級を行うことで、ナノ結晶粉末の粒径調整を行った。実施例16~20及び比較例5,6に使用される添加粉末の種類、粒径、添加量は、表3に示すとおりである。磁心作製工程P2におけるその他の条件は、実施例1~5と同様である。また、実施例16~20及び比較例5,6の磁気特性評価も、実施例1~5の場合と同様に行った。表3に、実施例16~20及び比較例5,6の評価結果を示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3より、ナノ結晶粉末と添加粉末の粒径比(添加粉末/ナノ結晶粉末)が1以下の場合には、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となっており、優れた磁気特性が得られていることがわかる。特に、粒径比が0.25未満においては、初透磁率μが35以上かつコアロスPcvが2000kW/m以下であり、より優れた磁気特性が得られている。
【0057】
(実施例21~26、比較例7)
実施例21~26及び比較例7は、ナノ結晶粉末の結晶化度及び平均結晶粒径を変更して作製した圧粉磁心である。実施例21~26及び比較例7は、図2に示される圧粉磁心の製造方法により製造した。母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径50μmのFe82.9Si6.5Cu0.6粉末を使用した。粉末熱処理工程P1において、赤外線加熱装置を用い、母粉末を不活性雰囲気中で毎分10~50℃の昇温速度で400~450℃まで加熱し、20分保持した後、空冷することで、結晶化度及び平均結晶粒径の異なるナノ結晶粉末を得た。ナノ結晶粉末の結晶化度及び平均結晶粒径は、XRD結果から算出した。磁心作製工程P2は、添加粉末をカルボニル鉄粉、その添加量を25wt%として、実施例1~5と同様に行った。また、実施例21~26及び比較例7の夫々について、実施例1~5と同様に磁気特性評価を行った。表4に、実施例21~26及び比較例7の評価結果を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4より、結晶化度が30%以上かつ結晶粒径が45nm未満では、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となり、優れた磁気特性が得られていることがわかる。また、結晶化度が45%以上かつ結晶粒径が35nm以下では、初透磁率μが35以上かつコアロスPcvが2000kW/m未満であって、特に優れた磁気特性が得られており、ナノ結晶粉末自身が応力によって磁気特性劣化するのを効果的に抑制できている。
【0060】
(実施例27,28、比較例8、参考例1,2)
参考例1及び比較例8は図3に示される従来の圧粉磁心の製造方法で作製した圧粉磁心である。参考例2及び実施例27,28は、図2に示される本発明の圧粉磁心の製造方法で作製した圧粉磁心である。
【0061】
参考例1及び比較例8では、母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径40μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。添加粉末として、カルボニル鉄粉を使用し、添加量は20wt%とした。結合材として、固体シリコーンレジンを使用した。結合材を、ナノ結晶粉末とカルボニル鉄粉の混合粉末に対して重量比で2%となるように秤量し、IPA(イソプロピルアルコール)に攪拌溶解してから使用した。結合材を混合した後の粒度調整は、500μmのメッシュを通すことで行った。所定重量の造粒粉末を秤量して金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型することで、外径13mm、内径8mmの円筒形状で、異なる高さの圧粉体を作製した。圧粉体の熱処理は、赤外線加熱装置を用いて、不活性雰囲気中で毎分40℃の昇温速度で450℃まで加熱し、20分間保持した後、空冷することで行った。
【0062】
参考例2及び実施例27,28では、母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径40μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を毎分40℃の昇温速度で450℃まで加熱し、20分間保持した後、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。結合材として、固体シリコーンレジンを使用した。結合材を、ナノ結晶粉末とカルボニル鉄粉の混合粉末に対して重量比で2%となるように秤量し、IPA(イソプロピルアルコール)に攪拌溶解してから使用した。ステップS23における粒度調整は、500μmのメッシュを通すことで行った。所定重量の造粒粉を秤量して金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型することで、外径13mm、内径8mmの円筒形状で、異なる高さの圧粉体を作製した。ステップS24における結合材の硬化処理は、圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を150℃にして2時間保持することで行った。
【0063】
実施例27,28、参考例1,2及び比較例8の磁気特性評価を実施例1~5と同様の方法で行った。圧粉磁心内部の結晶粒径は、電子顕微鏡による圧粉磁心断面の組織観察から求めた。表5に、実施例27,28、参考例1,2及び比較例8の評価結果を示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5より、参考例1及び参考例2のように、圧粉磁心の高さが低く、断面積が小さい場合には、従来の製造方法においても本発明においても、表面近傍における結晶粒径と断面中央における結晶粒径との間にはほとんど差はなく、優れた磁気特性が得られていることがわかる。しかしながら、比較例8のように、圧粉磁心の断面積が10mm以上になると、圧粉磁心の表面近傍の結晶粒径に対して、断面中心付近における結晶粒径が大きくなっている。その結果、比較例8は、実施例27と比較して、初透磁率μが低下し、コアロスPcvが増加している。一方、本発明においては、実施例28のように、圧粉磁心の断面積がより大きくなった場合にも、表面近傍と断面中心近傍における結晶粒径に差はない。そして、実施例28は、均一な微細構造により、優れた磁気特性が得られている。
【0066】
(実施例29,30、比較例9,10)
実施例29,30は、図2に示される圧粉磁心の製造方法を用いて製造した磁心一体型インダクタである。比較例9,10は、図3に示される圧粉磁心の製造方法を用いて製造した磁心一体型インダクタである。
【0067】
比較例9、10は、以下のように製造した。母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径20μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。また、添加粉末として、カルボニル鉄粉を使用し、添加量は50wt%とした。結合材にはシリコーン樹脂(比較例9)もしくはフェノール樹脂(比較例10)を使用した。母粉末と添加粉末の混合粉末に対して重量比で2%となるように結合材を加えた後、攪拌混合し、粒度調整を行った。結合材混合後の粒度調整は、500μmのメッシュを通すことで行った。コイルとして、絶縁被覆銅線である平角線(断面寸法が縦0.75mm×横2.0mm)を、内径4.0mmの2.5層にエッジワイズ巻きした2.5ターンの空芯コイルを用いた。空心コイルを金型にセットし、空芯コイルが埋設された状態になるように造粒粉末を金型に充填し、油圧式自動プレス機により圧力490MPaにて成型した。金型から成型体を取り出し、赤外線加熱装置を用いて、不活性雰囲気中で毎分40℃の昇温速度で450℃まで加熱し、20分間保持した後、空冷した。こうして、比較例9,10として、外形10.0mm×10.0mm×4.0mmの磁心一体型インダクタを作製した。
【0068】
実施例29,30は、以下のように製造した。母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径20μmのFe80.9Si6.5CrCu0.6粉末を使用した。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で毎分40℃の昇温速度で450℃まで加熱し、20分間保持した後、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度は53%、結晶粒径は33nmであった。ナノ結晶粉末にカルボニル鉄粉を添加量50wt%となるように混合した。混合粉末に対して重量比で2%となるように結合材であるシリコーン樹脂(実施例29)もしくはフェノール樹脂(実施例30)を添加し、攪拌混合し、流動調節を行って造粒粉末を得た。結合材混合後の粒度調整は、500μmのメッシュを通すことで行った。コイルとして、絶縁被覆銅線である平角線(断面寸法が縦0.75mm×横2.0mm)を、内径4.0mmの2.5層にエッジワイズ巻きした2.5ターンの空芯コイルを用いた。空心コイルを金型にセットして、空芯コイルが埋設された状態になるように造粒粉末を金型に充填し、油圧式自動プレス機により圧力490MPaにて成型した。金型から成型体を取り出した後、成型体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を150℃にして2時間保持した。これにより成型体の結合材を硬化させ、外形10.0mm×10.0mm×4.0mmの磁心一体型インダクタを作製した。
【0069】
比較例9,10及び実施例29,30の評価を行った。この評価としては、目視による外観観察と、印加電圧50Vにおける磁心-コイル間の絶縁抵抗測定を実施した。表6に、比較例9,10及び実施例29,30の評価結果を示す。
【0070】
【表6】
【0071】
比較例9,10の外観は、コイル部分がいずれも変色していた。また、比較例10においては、磁心部分についても黒く変色していることが確認された。一方、実施例29,30においては、その外観に変色等は確認されなかった。また、絶縁抵抗については、実施例29,30は、測定上限の5000MΩ以上であった。一方、比較例9は1MΩ、比較例10は測定下限の0.05MΩ未満であった。比較例9と比較例10の違いは結合材にある。高耐熱のシリコーン樹脂を用いた比較例9では、フェノール樹脂を用いた比較例10より絶縁抵抗が高くなっている。それでも、比較例9では、コイル部分の絶縁被膜が劣化したため、実施例29,30に比べて絶縁抵抗が低下している。本発明は、加圧成形後の熱処理温度が比較的低いため結合材の選択肢が多い。それゆえ、本発明では、構成部品の劣化がない磁心一体型インダクタを得ることができる。
【0072】
(実施例31~36、比較例11~16)
実施例31~36は、ナノ結晶粉末と添加粉末を種々に組み合わせて作製した圧粉磁心である。比較例11~16は、添加粉末を混合せずに種々のナノ結晶粉末のみで作製した圧粉磁心である。実施例31~36は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例11~16は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例31~36と同様に製作した。表7に、実施例31~36の各種作製条件及び磁気特性評価結果を示す。
【0073】
【表7】
【0074】
実施例31~36、比較例11~16では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径50μmの粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。母粉末の組成及び母粉末に対する熱処理工程における昇温速度、保持温度、保持時間は表7に記載したとおりである。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度及び結晶粒径についても表7に記載したとおりである。
【0075】
実施例31~36については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表7に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のうち、Fe-Crはビッカース硬度200Hvである。Fe-Ni、Fe-3Si、カルボニル鉄粉、Fe-Si-Cr、Fe-6.5Siについては表1に記載した実施例1~5のものと同じである。比較例11~16は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例31~36)またはナノ結晶粉末(比較例11~16)に結合材を重量比で3%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0076】
実施例31~36及び比較例11~16の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0077】
表7より、ナノ結晶粉末の組成と添加粉末の種類及び量を種々に組み合わせた場合にも、初透磁率μが高く、コアロスPcvが低い、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。すなわち、本発明においては、所定のナノ結晶化状態(結晶化度、結晶粒径)を有するナノ結晶粉末と所定の添加粉末(ビッカース硬度、添加量)を混合することで、優れた磁気特性を得ることができる。
【0078】
(実施例37~40、比較例17,18)
実施例37~40は、ナノ結晶粉末(と添加粉末)の表面にコーティングを施してから作製した圧粉磁心である。比較例17,18は、添加粉末を混合せずに、表面コーティングしたナノ結晶粉末のみで作製した圧粉磁心である。ナノ結晶粉末および添加粉末への表面コーティングは、メカノフュージョン法を用いてガラスフリットを付着させることで実施した。添加したガラスフリットの量は粉末重量に対して1.0wt%である。実施例37~40は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例17,18は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例37~40と同様に作製した。表8に、実施例37~40および比較例17,18の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0079】
【表8】
【0080】
実施例37~40、比較例17,18では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径65μmの粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。母粉末の組成及び母粉末に対する熱処理工程における昇温速度、保持温度、保持時間は表8に記載したとおりである。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度及び結晶粒径についても表8に記載したとおりである。
【0081】
実施例37~40については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表8に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のうち、Fe-Crは表7に記載した実施例36のものと同じである。Fe-Si-Crは表1に記載した実施例4のものと同じである。比較例17,18は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例37~40)またはナノ結晶粉末(比較例17,18)に結合材を重量比で1.5%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力780MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0082】
実施例37~40及び比較例17,18の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0083】
表8より、ナノ結晶粉末(と添加粉末)の表面にコーティングを施した場合にも、展性粉末を添加することで、初透磁率μが高く、コアロスPcvが低い、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。すなわち、本発明においては、所定のナノ結晶化状態(結晶化度、結晶粒径)を有するナノ結晶粉末と所定の添加粉末(ビッカース硬度、添加量)を混合することで、粉末表面にコーティングを施した場合にも優れた磁気特性を得ることができる。
【0084】
(実施例41~43、比較例19,20)
実施例41~43および比較例20は、ナノ結晶粉末に含まれる化合物の結晶粒径を変更して作製した圧粉磁心である。比較例19は、添加粉末を混合せずにナノ結晶粉末のみで作製した圧粉磁心である。実施例41~43および比較例20は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例19は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例41~43と同様に作製した。表9に、実施例41~43および比較例19,20の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0085】
【表9】
【0086】
実施例41~43、比較例19,20では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径50μmのFe80.4SiCr1.0Cu0.6粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。母粉末に対する熱処理工程における昇温速度、保持温度、保持時間は表9に記載したとおりである。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度及び結晶粒径についても表9に記載したとおりである。
【0087】
実施例41~43および比較例20については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表9に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のFe-Crは表7に記載した実施例36のものと同じである。比較例19は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例41~43および比較例20)またはナノ結晶粉末(比較例19)に結合材を重量比で2.0%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末4.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力780MPaにて成型し、外径20mm、内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0088】
実施例41~43及び比較例19,20の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0089】
表9より、ナノ結晶粉末に含まれる化合物の結晶粒径が30nm未満の場合は、展性粉末を添加することで、初透磁率μが高く、コアロスPcvが低い、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。また、化合物の結晶粒径が20nm以下の場合には、初透磁率μが35以上かつコアロスPcvが2000kW/m未満であって、特に優れた磁気特性が得られており、ナノ結晶粉末自身が応力によって磁気特性劣化するのを抑制できている。一方で、ナノ結晶粉末に含まれる化合物の結晶粒径が30nm以上の場合(比較例20)では、展性粉末を添加しても、コアロスPcvは2500kW/m以上であって、ナノ結晶粉末自身が応力によって磁気特性劣化するのを十分に抑制できていない。
【0090】
(実施例44~48、比較例21~25)
実施例44~48は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例21~25は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例44~48と同様に作製した。表10に、実施例44~48および比較例21~25の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0091】
【表10】
【0092】
実施例44~48、比較例21~25では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径40μmの粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。母粉末の組成及び母粉末に対する熱処理工程における昇温速度、保持温度、保持時間は表10に記載したとおりである。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度及び結晶粒径についても表10に記載したとおりである。
【0093】
実施例44~48については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表10に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のうち、純鉄粉はビッカース硬度85Hvである。Fe-Crは表7に記載した実施例36のものと同じである。Fe-Si-Crおよびカルボニル鉄粉は表1に記載した実施例4および実施例2のものと夫々同じである。比較例21~25は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例44~48)またはナノ結晶粉末(比較例21~25)に結合材を重量比で2.5%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0094】
実施例44~48及び比較例21~25の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0095】
表10より、ナノ結晶粉末の組成と添加粉末の種類及び量を種々に組み合わせた場合にも、初透磁率μが高く、コアロスPcvが低い、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。すなわち、本発明においては、所定のナノ結晶化状態(結晶化度、結晶粒径)を有するナノ結晶粉末と所定の添加粉末(ビッカース硬度、添加量)を混合することで、優れた磁気特性を得ることができる。
【0096】
(実施例49~55、比較例26~32)
実施例49~55および比較例26~32は、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部を置換して作製した圧粉磁心である。実施例49~55は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例26~32は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例49~55と同様に作製した。表11に、実施例49~55および比較例26~32の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0097】
【表11】
【0098】
実施例49~55、比較例26~32では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径35μmの粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。母粉末に対する熱処理工程における昇温速度、保持温度、保持時間は表11に記載したとおりである。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度及び結晶粒径についても表11に記載したとおりである。
【0099】
実施例49~55および比較例26~32については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表11に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のFe-Crは表7に記載した実施例36のものと同じである。Fe-Ni、Fe-3Si、Fe-Si-Cr、Fe-6.5Siは表1に記載した実施例1および実施例3~5と同じものである。比較例26~32は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。結合材として、固体シリコーンレジンを使用した。結合材を、混合粉末(実施例49~55)またはナノ結晶粉末(比較例26~32)に対して重量比で3.0%となるように秤量し、IPA(イソプロピルアルコール)に攪拌溶解してから使用した。結合材を混合した後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末4.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力780MPaにて成型し、外径20mm、内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を150℃として2時間保持した。
【0100】
実施例49~55及び比較例26~32の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0101】
表11より、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部を種々の元素で置換した場合にも、展性粉末を添加することで、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となり、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。
【0102】
(実施例56,57、比較例33)
実施例56および比較例33は、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部をO元素に置換して作製した圧粉磁心である。実施例57はFe元素をO元素に置換する工程を行わずに作製した圧粉磁心である。実施例56,57は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例33は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例56と同様に作製した。表12に、実施例56,57および比較例33の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0103】
実施例56,57、比較例33では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径30μmのFe80.9Si8.5Cu0.6粉末を用いた。実施例56および比較例33については、赤外線加熱装置を用いて、母粉末を大気雰囲気中で加熱し、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。実施例57については、不活性雰囲気中で加熱して、ナノ結晶粉末を得た。母粉末に対する熱処理工程における昇温速度はいずれも10℃/分、保持温度は425℃、保持時間は30分である。実施例56および比較例33においては、大気雰囲気中で加熱することで、ナノ結晶粉末の表面に酸化膜を形成させることが可能である。酸素・窒素分析装置により測定したところ、上記ナノ結晶粉末の酸素含有量は4800ppmであった。酸素以外の元素割合が変化していないとすると、ナノ結晶化後の粉末の組成(at%)はFe79.70Si2.966.908.37Cu0.591.48である。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度はいずれも48%であり、結晶粒径はいずれも27nmであった。
【0104】
【表12】
【0105】
実施例56,57については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表12に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。カルボニル鉄粉は表1に記載した実施例2のものと同じである。比較例33は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例56,57)またはナノ結晶粉末(比較例33)に結合材を重量比で2.5%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0106】
実施例56,57及び比較例33の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0107】
表12より、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部をO元素で置換した場合にも、展性粉末を添加することで、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となり、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。また、実施例56と実施例57を比べると、実施例56では、粉末表面に酸化膜を形成させることにより、すなわち、Fe元素の一部をO元素で置換することで、コアロスPcvを低減できたといえる。
【0108】
(実施例58、比較例34)
実施例58および比較例34は、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部をSn元素に置換して作製した圧粉磁心である。実施例58は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例34は、添加粉末を用いない点(ステップS22)を除いて、実施例58と同様に作製した。表13に、実施例58および比較例34の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0109】
【表13】
【0110】
実施例58、比較例34では、いずれも母粉末として、単ロール液体急冷法にて作製した薄帯を粉砕して得られた平均粒径70μmのFe80.4Si8.5Cu0.6Sn1.5粉末を用いた。具体的には、Fe、Fe-Si、Fe-B、Fe-P、Cu、Snからなる原料を表13に示す合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて、溶解した。それから、溶解した合金組成物を、大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、厚さ25μm、幅5mm、長さ30mの連続薄帯を作製した。得られた薄帯20gをビニール袋に入れて手で荒粉砕した後、金属製のボールミルを用いて本粉砕を実施した。得られた粉砕粉末を150μmのメッシュに通すことで非晶質性粉末を作製した。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で毎分5℃の昇温速度で425℃まで加熱し、30分間保持した後、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度は40%であり、結晶粒径は30nmであった。
【0111】
実施例58および比較例34については、ナノ結晶粉末と添加粉末(展性粉末)とを表13に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。Fe-Niは表1に記載した実施例1のものと同じである。比較例34は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。結合材として、固体シリコーンレジンを使用した。結合材を、混合粉末(実施例58)またはナノ結晶粉末(比較例34)に対して重量比で2.5%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0112】
実施例58及び比較例34の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0113】
表13より、ナノ結晶粉末におけるFe元素の一部をSn元素で置換した場合にも、展性粉末を添加することで、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となり、優れた磁気特性を有する圧粉磁心が得られていることがわかる。また、ナノ結晶粉末として薄帯粉砕粉末を用いた場合にも、優れた磁気特性を得られていると言える。
【0114】
(実施例59,60、比較例35)
実施例59はステップS22で用いられる展性粉末として、組成と粒度分布の異なる2種類の粉末を用いて作製した圧粉磁心である。実施例60はナノ結晶粉末でも展性粉末でもない第三の粉末(添加粉末2)を混合して作製した圧粉磁心である。比較例35は、添加粉末を混合せずにナノ結晶粉末のみで作製した圧粉磁心である。実施例59,60は、図2に示す圧粉磁心の製造方法により作製した。比較例35は、添加粉末を用いない点を除いて、実施例59,60と同様に作製した。表14に、実施例59,60および比較例35の各種作製条件および磁気特性評価結果を示す。
【0115】
【表14】
【0116】
実施例59,60および比較例35では、いずれも母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径55μmのFe80.15Si6.5CrCu0.35粉末を用いた。赤外線加熱装置を用いて、母粉末を不活性雰囲気中で毎分3℃の昇温速度で450℃まで加熱し、30分間保持した後、空冷し、ナノ結晶粉末を得た。XRDより解析したナノ結晶粉末の結晶化度は38%であり、結晶粒径は41nmであった。
【0117】
実施例59,60については、ナノ結晶粉末と2種類の添加粉末とを表14に記載された割合で混合し、混合粉末を得た。添加粉末のうち、シリカ粉末は粒径30nmであり、Fe-Si-Crおよびカルボニル鉄粉は表1に記載した実施例4および実施例2のものと同じである。比較例35は、添加粉末を添加せず、ナノ結晶粉末をそのまま用いた。混合粉末(実施例59,60)またはナノ結晶粉末(比較例35)に結合材を重量比で2.5%となるように加えた後、攪拌混合した。結合材として、フェノール樹脂を使用した。結合材混合後の粒度調整は、目開き500μmのメッシュを通すことで行った。造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0118】
実施例59,60及び比較例35の磁気特性評価を行うため、インピーダンスアナライザにより、周波数1MHzにおける初透磁率μを測定した。また、B-Hアナライザを用いて、周波数300kHz-磁束密度50mTにおけるコアロスPcvについても測定した。
【0119】
表14より、展性粉末として組成と粒度分布の異なる2種類の粉末を用いた場合にも(実施例59)、ナノ結晶粉末と展性粉末に加えて第三の粉末を混合した場合にも(実施例60)、初透磁率μが25以上かつコアロスPcvが2500kW/m以下となり、優れた磁気特性が得られていることがわかる。
【0120】
(実施例61~75)
実施例61~75は、組成比の異なる母粉末を用いて作製した圧粉磁心である。実施例61~75は、図2に示される圧粉磁心の製造方法により製造した。母粉末として、水アトマイズ法にて作製した平均粒径50μmのFe(100-a-b-c-x-y-z)SiCrCu粉末を使用した。実施例61~75における、母粉末の組成比は表15に示されるとおりである。なお、この粉末は、本発明の実施の形態における非晶質性粉末のうちNbを含まない(y=0)ものに相当する。
【0121】
実施例61~75の作製は以下のように行った。まず、粉末熱処理工程P1において、赤外線加熱装置を用い、母粉末を不活性雰囲気中で毎分30℃の昇温速度で400~475℃まで加熱し、10分保持した後、空冷することでナノ結晶粉末を得た。磁心作製工程P2は、添加粉末の種類を表15に示されるとおりとし、その添加量を20wt%として、実施例1~5と同様に行った。その際、結合材としてフェノール樹脂を用いた。混合粉末に対する結合剤の割合は、重量比で2.5%とした。得られた造粒粉末2.0gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力245MPaにて成型し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。得られた圧粉体を恒温槽内に導入して不活性雰囲気中に置き、恒温槽内の温度を160℃として4時間保持した。
【0122】
実施例61~75の夫々について、B-Hアナライザを用いて飽和磁束密度Bsを測定した。実施例61~75の測定結果を組成比とともに表15に示す。
【0123】
【表15】
【0124】
表15から理解されるように、実施例61~63,65,66,69,70,72~74は、1.20T以上の高い飽和磁束密度Bsを有している。換言すると、0≦a≦8at%、4≦b≦13at%、1≦c≦11at%、0≦x≦3at%及び0.2≦z≦1.4at%の組成範囲において、飽和磁束密度Bsは1.20T以上の高い数値を示している。このように、実施例61~63,65,66,69,70,72~74は優れた磁気特性を有している。
【0125】
以上、実施例を用いてこの発明の実施の形態を説明したが、この発明はこれらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然為し得るであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
上述した実施の形態では、圧粉磁心および磁心一体型インダクタ、それらの作製方法について説明したが、本発明は、他の磁性部品(磁性シートなど)およびその作製方法に適用することもできる。
【0127】
本発明は2017年9月29日に日本国特許庁に提出された日本特許出願第2017-190682号に基づいており、その内容は参照することにより本明細書の一部をなす。
【符号の説明】
【0128】
1 インダクタ
2 コイル
3 圧粉磁心
4a,4b 端子部
10 DSC曲線
11 第1ピーク
12 第1立ち上がり部
15 第2ピーク
16 第2立ち上がり部
20,21 ベースライン
32 第1上昇接線
42 第2上昇接線
図1
図2
図3
図4