(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】回転制御装置
(51)【国際特許分類】
F16D 43/26 20060101AFI20220830BHJP
F16D 43/21 20060101ALI20220830BHJP
F16D 43/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
F16D43/26 C
F16D43/21
F16D43/02
(21)【出願番号】P 2020107248
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】池川 汐里
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158061(JP,A)
【文献】特開2003-240022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/26,43/21,43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定のハウジングと、前記ハウジングの内側に配設され共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材、出力部材及びリテーナとを具備し、
前記入力部材は前記共通の回転軸と同心に軸方向に延出する入力軸及び前記共通の回転軸に対し偏心した枢軸を備え、前記枢軸にはリンク部材が回動自在に嵌め合わされており、
前記リンク部材には前記枢軸に対し偏心し且つ軸方向に突出する係合軸が、前記リテーナには径方向に延びて且つ前記係合軸の先端部が嵌入される案内溝が夫々形成されており、前記リテーナには保持トルク付与手段によって保持トルクが付与され、前記入力部材が前記出力部材に対して回転することで前記係合軸は前記案内溝に沿って移動可能であり、
前記出力部材の外周面には前記係合軸と係合可能な係合部が形成され、前記係合軸及び前記係合部が係合すると前記入力部材及び前記出力部材は一体的に接続され、前記係合軸及び前記係合部の係合が解除されると前記出力部材は前記入力部材に対して空転可能となり、
前記ハウジングの内側には更に、前記入力部材が一方向へ回転する際に前記入力軸に所定の抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段が配設されている、ことを特徴とする回転制御装置。
【請求項2】
前記係合部は軸方向に延びる溝である、請求項1に記載の回転制御装置。
【請求項3】
前記抵抗トルク付与手段は、前記入力部材が反対方向へ回転する際には前記入力軸に前記抵抗トルクを付与しない、請求項1又は2に記載の回転制御装置。
【請求項4】
前記枢軸は周方向に等角度間隔をおいて複数個設けられており、複数個の前記枢軸の各々に前記リンク部材が嵌め合わされている、請求項1乃至3のいずれかに記載の回転制御装置。
【請求項5】
前記係合部の数は前記枢軸の数の整数倍であって、前記係合部は周方向に等角度間隔をおいて設けられている、請求項4に記載の回転制御装置。
【請求項6】
前記保持トルク付与手段は波ばねである、請求項1乃至5のいずれかに記載の回転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、上記接続が解除されて出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互に切り替え可能な回転制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時の住宅の室内又は室外の天井には、竿が昇降機構によって昇降可能な物干し装置が配設されていることがある(例えば下記特許文献1)。かような物干し装置には、竿が、洗濯物が吊り下げられていないときには床から上方に充分離隔した収納位置で保持され、洗濯物が吊り下げられる際には上記収納位置から強制的に引き下ろされ、洗濯物が吊り下げられた状態で上記昇降機構によって昇降動せしめられて任意の高さ位置(中間位置)で保持されるように作動するものもある。
【0003】
ところで、入力部材と出力部材との間の回転伝達を制御する装置として、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、上記接続が解除されて出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互に切り替え可能な回転制御装置が周知である。かような回転制御装置の一例としては、本願の出願人によって本願より先に出願されて既に特許された下記特許文献2に記載のものがある。下記特許文献2に開示されている回転制御装置は、固定のハウジングと、ハウジングの内側に配設され共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材並びにリテーナとを具備している。入力部材は共通の回転軸と同心に軸方向に延出する入力軸及び共通の回転軸に対し偏心した枢軸を備え、枢軸にはリンク部材が回動自在に嵌め合わされている。リンク部材には枢軸に対し偏心し且つ軸方向に突出する係合軸が、リテーナには径方向に延びて且つ係合軸の先端部が嵌入される案内溝が夫々形成されている。リテーナには保持トルク付与手段によって保持トルクが付与されており、入力部材が出力部材に対して回転することで係合軸は案内溝に沿って径方向に移動可能である。そして、出力部材の外周面には係合軸と係合可能な係合部が形成されている。
【0004】
上記回転制御装置は以下のように作動する。即ち、リンク部材の係合軸が出力部材の係合部から離隔した状態(係合軸及び係合部の係合が解除された状態)にあっては、出力部材は入力部材に対して空転し、出力部材から入力部材への回転は遮断される。上記状態から入力部材が回転すると、初期状態にあっては、入力部材は出力部材に対して回転することから、枢軸は周方向に移動すると共に係合軸は径方向内側に移動する。そして、係合軸が係合部と係合すると、入力部材及び出力部材は一体的に接続され、入力部材の回転はリンク部材を介して出力部材に伝達される。入力部材から出力部材への回転の伝達が終了した後は、入力部材が反対方向に回転することで係合軸は係合部から離隔し(係合軸及び係合部の係合が解除され)、出力部材は再び入力部材に対して空転可能となる。つまり、入力部材を所要とおり作動させて、係合軸と係合部とを係合又は係合解除させることで、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と上記一体的な接続が解除されて出力部材が入力部材に対して空転可能な状態との間で切り替え可能となる。なお、係合軸及び係合部が係合した状態にあっては、出力部材の回転もリンク部材を介して入力部材に伝達され、入力部材は出力部材と一体となって回転する。つまり、出力部材から入力部材への逆入力は伝達される。
【0005】
また、入力部材が一方向へ回転する際に、入力部材に所定の抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与装置も周知である。かような抵抗トルク付与装置の一例としては、本願の出願人によって本願より先に出願されて既に特許された下記特許文献3に記載のものがある。下記特許文献3に開示されている抵抗トルク付与装置は固定のハウジングを備えており、かかるハウジングの内側には筒状の一方向クラッチが収容されている。一方向クラッチの内側にはシャフトが挿通されており、シャフトは一方向クラッチによってこれに対して一方向に回転することは許容されているが反対方向に回転することは規制されている。一方向クラッチの外周面にはリング部材が相対回転不能に嵌め合わされ、リング部材の外周面にはコイルばねが装着されている。コイルばねはフック部を備えており、かかるフック部がハウジングと係合することでコイルばねはハウジングに対して回転不能となっている。
【0006】
上記抵抗トルク付与装置は以下のように作動する。即ち、一方向クラッチに挿通されたシャフトが一方向回転する際には、上記シャフトに抵抗トルクは付与されない。上記シャフトは一方向クラッチに対して一方向に回転可能であるためである。一方、上記シャフトが反対方向に回転する際には、上記シャフトに所定の抵抗トルクが付与される。これは、以下の理由による。上記シャフトは一方向クラッチに対して反対方向に回転不能であることから、上記シャフトが反対方向に回転しようとすると一方向クラッチと一体となって回転しようとする。一方向クラッチが反対方向に回転しようとすると、リング部材及びコイルばねもシャフト及び一方向クラッチと一体となって反対方向に回転しようとする。そうすると、コイルばねのフック部がハウジングと係合していることから、上記回転によってフック部はコイルばねが緩む方向にハウジングによって相対的に押されることとなり、コイルばねがリング部材を締め付ける力が抵抗トルクとして作用するためである。従って、シャフトが反対方向に回転しようとする際、かかる回転トルクが上記抵抗トルク未満である場合にはこれによりシャフトは保持されて回転することができず、上記抵抗トルク以上である場合にはこれに抗してシャフトは回転することとなる。シャフトが上記抵抗トルクに抗して回転する際、シャフトと一体回転するリング部材はコイルばねに対して回転、つまりリング部材の外周面がコイルばねの内周面に対して滑りながら回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-18216号公報
【文献】特許第6524291号公報
【文献】特許第3592984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記回転制御装置と上記抵抗トルク付与装置とを直列に配置すると共に上記回転制御装置の入力軸を上記抵抗トルク付与装置の一方向クラッチに挿通すれば(入力軸をシャフトとすれば)、係合軸と係合部との係合を解除させることで竿を収納位置から下方に強制的に引き下ろすことができ、また、係合軸と係合部とを係合させることで入力部材を回転して竿を昇降動させることができる。そして、入力部材を回転して竿を昇降動させる際には、入力部材の回転を停止すれば竿は任意の中間位置で保持される。
【0009】
而して、上記回転制御装置及び抵抗トルク付与装置は相互に独立した装置であることから、これら2つの装置を直列に配置するには大きな設置スペースが必要である。また、相互に独立した2つの装置を直列に配置すると、両者の間に塵や埃の如きごみが溜まってしまいシャフト(入力軸)の回転体の回転を妨げてしまう虞もある。
【0010】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、かかる接続が解除されて出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互に切り替え可能であって更に、入力部材が一方向へ回転する際にはこれに所定の抵抗トルクが付与される回転制御装置をコンパクトに構成すると共に、塵や埃の如きごみが入力軸に付着してこれの回転が阻害されるのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、かかる接続が解除されて出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互に切り替え可能となる機構と、入力部材が一方向へ回転する際にはこれに所定の抵抗トルクを付与する機構とを共通のハウジングに収容することで、上記主たる技術的課題が解決されることを見出した。
【0012】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決する回転制御装置として、固定のハウジングと、前記ハウジングの内側に配設され共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材、出力部材及びリテーナとを具備し、
前記入力部材は前記共通の回転軸と同心に軸方向に延出する入力軸及び前記共通の回転軸に対し偏心した枢軸を備え、前記枢軸にはリンク部材が回動自在に嵌め合わされており、
前記リンク部材には前記枢軸に対し偏心し且つ軸方向に突出する係合軸が、前記リテーナには径方向に延びて且つ前記係合軸の先端部が嵌入される案内溝が夫々形成されており、前記リテーナには保持トルク付与手段によって保持トルクが付与され、前記入力部材が前記出力部材に対して回転することで前記係合軸は前記案内溝に沿って移動可能であり、
前記出力部材の外周面には前記係合軸と係合可能な係合部が形成され、前記係合軸及び前記係合部が係合すると前記入力部材及び前記出力部材は一体的に接続され、前記係合軸及び前記係合部の係合が解除されると前記出力部材は前記入力部材に対して空転可能となり、
前記ハウジングの内側には更に、前記入力部材が一方向へ回転する際に前記入力軸に所定の抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段が配設されている、ことを特徴とする回転制御装置が提供される。
【0013】
好ましくは、前記係合部は軸方向に延びる溝である。前記抵抗トルク付与手段は、前記入力部材が反対方向へ回転する際には前記入力軸に前記抵抗トルクを付与しないのが好適である。前記枢軸は周方向に等角度間隔をおいて複数個設けられており、複数個の前記枢軸の各々に前記リンク部材が嵌め合わされているのが好ましい。この場合には、前記係合部の数は前記枢軸の数の整数倍であって、前記係合部は周方向に等角度間隔をおいて設けられているのがよい。好適には、前記保持トルク付与手段は波ばねである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転制御装置にあっては、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互切り替え可能な機構と、入力部材が一方向へ回転する際にはこれに所定の抵抗トルクを付与する機構とを共通のハウジングに配置したことで、各々の機構を備える装置を各別に用意してこれらを直列に配置した場合と比べて、少なくとも夫々のハウジングの軸方向に配置される壁の厚み分だけコンパクトにすることが可能となる。更に、単一のハウジング内に両機構が配置されている故に、塵や埃等のごみが入力軸に付着することも防止される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に従って構成された回転制御装置の好適実施形態を示す構成図。
【
図2】
図1に示す回転制御装置の各構成部品を分解して示す斜視図。
【
図3】
図1に示す回転制御装置のハウジングを単体で示す図。
【
図4】
図1に示す回転制御装置の入力部材の入力円板を単体で示す図。
【
図5】
図1に示す回転制御装置のリンク部材を単体で示す図。
【
図6】
図1に示す回転制御装置のリテーナを単体で示す図。
【
図7】
図1に示す回転制御装置の出力部材の出力板を単体で示す図。
【
図8】
図1に示す状態から出力部材に対して入力部材を一方向に回転させた状態を示す図。
【
図9】
図1に示す状態から出力部材に対して入力部材を反対方向に回転させた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成された回転制御装置の好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0017】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示す回転制御装置は、固定のハウジング4と、ハウジング4の内側に配設され共通の回転軸oを中心として回転可能な入力部材6、出力部材8及びリテーナ9とを具備している。ここで、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、
図1の中央縦断面に示される状態を基準として、「軸方向片側」は同図において左側を、「軸方向他側」は同図において右側のことを言う。
【0018】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、ハウジング4は金属製であって、共通の回転軸oに対して垂直な円形の端板10と、端板10の外周縁から軸方向他側に向かって延びる円筒形状の外周壁12とを備えたカップ形状である。端板10の中央には後述する入力軸が挿通される円形の貫通穴14が形成されている。外周壁12の開口端部の外周面には径方向外側に向かって延出する略三角形状の鍔部16が直径方向に対向して2つ形成されている。鍔部16の中央部分には軸方向に貫通する穴18が形成されており、ハウジング4は穴18にボルトの如き適宜の固定具を挿通することで外部部材(図示せず)に固定される。外周壁12の内側には、径が異なる3つの円柱形状の空間部20a乃至20cが共通の回転軸oと同軸上に直列に設けられている。空間部20a乃至20cはこの順に軸方向片側から軸方向他側に向かって配置され、夫々の径は上記順で大きくなるように設定されている。外周壁12の内周面において空間部20aが設けられている部分の周方向所定角度位置には、外周壁12の内径を局部的に増大せしめて軸方向に延びるフック溝22が形成されている。かかるフック溝22には後述するコイルばねのフック部が挿入される。外周壁12の開口端部の内周面には円環形状の装着溝24が形成されており、かかる装着溝24に番号26で示されるシールド板(
図2を参照されたい)が嵌め合わされることでハウジング4の内側、つまり空間部20a乃至20cは閉塞せしめられる。シールド板26は円板形状であって中央には後述する出力軸が挿通される円形の貫通穴28が形成されている。
【0019】
図1及び
図2と共に
図4を参照して説明すると、入力部材6は金属製であって、ハウジング4の空間部20bに配置される入力円板30を備えており、入力円板30の中央には断面が非円形の中央穴部31が軸方向に貫通して形成されている。入力部材6は共通の回転軸oと同心に軸方向に延出する入力軸32も備えている。図示の実施形態においては、入力軸32は断面円形の中実軸状部材であって大径部34及び小径部36を備えており、小径部36の先端部には断面形状が入力円板30に形成された中央穴部31の断面形状と対応する突出部38が形成されている。入力軸32は、突出部38が中央穴部31に軸方向片側から挿入せしめられることで、入力円板30に連結されている。所望ならば、入力軸32は入力円板30と一体に形成されていてもよい。かような入力軸32には後述する抵抗トルク付与手段が嵌め合わされている。入力部材6は更に、共通の回転軸oに対し偏心した枢軸42も備えている。図示の実施形態においては、枢軸42は入力円板30の軸方向他側面の径方向中間部において軸方向に突出した軸突起であり、周方向に等角度間隔をおいて3個配置されている。入力円板30の軸方向他側面の中央には中央穴部31を囲繞して軸方向に突出する円筒形状の嵌合壁44も形成されている。
【0020】
入力部材6の枢軸42には番号46で示されるリンク部材が回動自在に嵌め合わされている。
図1(
図8及び
図9についても同様)の中央縦断面では容易に理解できるようリンク部材46には薄墨を付してこれを示している。リンク部材46は3個の枢軸42の夫々に嵌め合わされている。
図1及び
図2と共に
図5を参照して説明すると、リンク部材46は金属製であって、軸方向に対して垂直に配置される小判状のリンク片48を備えている。リンク片48の一端部には枢軸42が挿通される軸穴50が形成されている。所望ならば、入力部材6に形成される枢軸42を軸穴として、リンク部材46に形成された軸穴50を軸方向に突出する軸突起としてもよい。リンク片48の他端部(つまり枢軸42に対し偏心した位置)には軸方向に突出する係合軸52が形成されている。係合軸52は断面円形の軸突起である。
【0021】
図1及び
図2と共に
図6を参照して説明すると、リテーナ9は金属製の略円板形状部材であって、ハウジング4の空間部20cに配置されている。リテーナ9の中央には後述する出力軸が挿通される円形の貫通穴54が形成されている。リテーナ9の軸方向片側面の中央領域には円形の凹部56が形成されている。リテーナ9の軸方向片側面には更に、凹部56の径方向外側において径方向に直線状に延びる案内溝58が周方向に等角度間隔をおいて3つ形成されている。案内溝58の径方向両側端は解放されており、案内溝58にはリンク部材46の係合軸52の先端部が嵌入される。そして、後述するとおりに入力部材6が出力部材8に対して回転すると、リンク機構により係合軸52は案内溝58に沿って移動することができる。リテーナ9の軸方向他側面の外周縁部には円環溝60が形成されている。ここで、リテーナ9には保持トルク付与手段によって保持トルクが付与される。図示の実施形態においては、保持トルク付与手段は金属製の波ばね62であって、これはリテーナ9の円環溝60に配置され、ハウジング4に圧入されたシールド板26との間の摩擦によってリテーナ9に保持トルクを付与する。
【0022】
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、出力部材8は金属製であって、略円板形状の出力板63を備えている。出力板63はリテーナ9に対して回転可能な状態でその凹部56に嵌り込んでいる。出力板63の軸方向片側面の中央領域には円形の凹部64が形成されており、この凹部64には入力部材6に形成された嵌合壁44の先端部が相対回転可能な状態で嵌り込んでいる。出力板63の中央には断面が非円形の中央穴部65が軸方向に貫通して形成されている。出力部材8は共通の回転軸oと同心に軸方向に延出する出力軸66も備えている。図示の実施形態においては、出力軸66は断面円形の中実軸状部材であって、先端部には断面が非円形の突出部68が形成されている。出力軸66は、突出部68が中央穴部65に軸方向他側から挿入せしめられることで、出力板63に連結されている。所望ならば、出力軸66と出力板63とを一体に形成してもよい。出力部材8(出力板63)の外周面にはリンク部材46の係合軸52と係合可能な係合部72が形成されている。図示の実施形態においては、係合部72は軸方向に延びる溝であって、これは出力板63の外径を局所的に低減せしめることで形成されている。更に、溝である係合部72の断面形状は係合軸52の断面形状と対応し、係合軸52及び係合部72は面接触可能である。また、係合部72は周方向に等角度間隔をおいて複数設けられている。係合部72の数は枢軸42の数(リンク部材46の数)の整数倍であるのが好ましく、図示の実施形態においては9個設けられている。
【0023】
図1及び
図2に示すとおり、ハウジング4の内側には更に、入力部材6が一方向へ回転する際に入力軸32に所定の抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段74が配設されている。図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段74はハウジング4の空間部20aに配置されており、入力軸32の外周面に嵌め合わされて入力軸32が時計方向(
図1の中央縦断面の右方向から見て。以下同じ。)へ回転する際にはこれと一体回転するが入力軸32が反時計方向へ回転する際にはこれに対して空転する一方向クラッチ76と、一方向クラッチ76の外周面に相対回転不能に嵌め合わされるリング部材78と、リング部材78の外周面に装着されるコイルばね80とを有している。コイルばね80の軸方向他端には径方向に延びるフック部82が設けられており、かかるフック部82はハウジング4に形成されたフック溝22に進入する。これにより、コイルばね80はハウジング4に対して回転不能である。上述した抵抗トルク付与手段74の構成及びその作動は上記特許文献3に開示された抵抗トルク付与装置のものと同じであるため、その詳細な説明については省略する。図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段74は一方向クラッチ76を備えていることから、入力部材6が反時計方向(反対方向)へ回転する際には入力軸32に上記所定の抵抗トルクを付与しない。
【0024】
続いて、
図1と共に
図8及び
図9を参照して本発明の回転制御装置の作動について説明する。
まず、
図1に示す状態にあっては、同図のB-B断面に示すとおり、リンク部材46の係合軸52はリテーナ9に形成された案内溝58中の径方向中間部に位置し、出力部材8の外周面に形成された係合部72から離隔している。つまり、係合軸52及び係合部72の係合は解除された状態であり、かかる状態で出力部材8(出力軸66)が時計方向及び反時計方向のいずれの方向に回転しても、出力部材8は入力部材6に対して空転するだけで入力部材6に回転(逆入力)が伝達されることはない。
【0025】
図1に示す状態から入力軸32が時計方向(同図の中央縦断面の右方向から見て)に回転すると、初期状態にあっては、入力部材6はリテーナ9及び出力部材8に対して時計方向に回転する。このとき、リンク部材46の係合軸52の先端部はリテーナ9に形成された案内溝58に嵌入され、入力部材6が出力部材8に対して回転することで係合軸52は案内溝58に沿って移動可能であり、そしてリテーナ9には波ばね62(保持トルク付与手段)によって保持トルクが付与されていることに起因して、入力部材6の回転によって枢軸42が時計方向に移動すると、リンク片48は枢軸42を中心に同図のB-B断面において反時計方向に回転し、係合軸52は案内溝58中を径方向内側に移動する。係合軸52が案内溝58中を径方向内側に移動し、
図8に示すとおり出力部材8の係合部72と係合すると、入力部材6と出力部材8とは一体的に接続される。このとき、リンク部材46及びリテーナ9も入力部材6及び出力部材8と一体的に接続される。
【0026】
図8に示す状態から入力部材6又は出力部材8が時計方向に回転しようとすると、入力部材6と一体の入力軸32も時計方向に回転しようとするため、入力軸32には抵抗トルク付与手段74によって所定の抵抗トルクが付与される。このことから、入力部材6及び出力部材8が時計方向に回転するためには、入力部材6又は出力部材8に付加される回転トルクが上記所定の抵抗トルク以上であることが要求される。換言すると、入力部材6及び出力部材8は、これらに付加された時計方向の回転トルクが上記所定の抵抗トルク以上であれば回転可能であるが上記所定の抵抗トルク未満であれば回転しない(入力部材6及び出力部材8は抵抗トルク付与手段74によって保持される)。図示の実施形態にあっては、係合部72が軸方向に延びる溝であることから、係合軸52及び係合部72の係合は強固である。図示の実施形態においては更に、係合軸52及び係合部72は面接触可能であることから、両者の係合は強固である。それ故に、入力部材6又は出力部材8に付加される回転トルクが大きくても係合軸52及び係合部72の係合が不意に解除されてしまうことはなく、入力部材6及び出力部材8は確実に一体となって回転又は保持される。
【0027】
図8に示す状態から入力部材6が反時計方向に所要程度回転すると、係合軸52は案内溝58中を径方向外側に移動して係合部72との係合は解除され、
図1に示す状態に戻る。
【0028】
図8に示す状態から出力部材8に反時計方向の回転トルクが付加された場合には、係合軸52及び係合部72が係合していることから、出力部材8から入力部材6へ回転(逆入力)が伝達される。この際、入力部材6と一体の入力軸32には抵抗トルク付与手段74による上記抵抗トルクは付与されない。
【0029】
一方、
図1に示す状態から入力軸32が反時計方向に回転した場合も、初期状態にあっては、入力部材6はリテーナ9及び出力部材8に対して反時計方向に回転し、
図9に示すとおり係合軸52と係合部72とが係合すると、入力部材6と出力部材8とは一体的に接続される。
図9に示す状態から入力部材6又は出力部材8が反時計方向に回転すれば、両者は一体となって反時計方向に回転する。このとき、入力軸32には抵抗トルク付与手段74による上記抵抗トルクは付与されない。
【0030】
図9に示す状態から入力部材6が時計方向に所要程度回転すると、係合軸52は案内溝58中を径方向外側に移動して係合部72との係合は解除され、
図1に示す状態に戻る。
【0031】
図9に示す状態から出力部材8に時計方向の回転トルクが付加された場合には、係合軸52と係合部72とが係合していることに起因して入力部材6は出力部材と一体となって時計方向に回転しようとするため、入力部材6と一体の入力軸32には抵抗トルク付与手段74による上記抵抗トルクが付与される。それ故に、
図9に示す状態で出力部材8に時計方向の回転トルクが付加された場合には、かかる回転トルクが抵抗トルク付与手段74による上記抵抗トルク以上であれば出力部材8から入力部材6への回転(逆入力)は伝達され、上記抵抗トルク未満であれば出力部材8から入力部材6への回転(逆入力)は伝達されない(入力部材6及び出力部材8は抵抗トルク付与手段74によって保持される)。
【0032】
従って、例えば本発明の回転制御装置を竿が昇降可能な物干し装置に組み込み、入力部材6(入力軸32)を手動ハンドル、出力部材8(出力軸66)を竿の昇降機構に接続すれば、係合軸52と係合部72との係合が解除された状態にあっては、竿を手動で動かすことができ、係合軸52と係合部72とが係合した状態にあっては、手動ハンドルによって入力軸32を回転させることで竿を昇降動させることができる。
このとき、図示の実施形態の回転制御装置における抵抗トルク付与手段は、入力部材が反対方向へ回転する際には入力軸に抵抗トルクを付与しないことから、軽い力で入力軸32を回転させることができる。そしてまた、手動ハンドルの操作を停止した際には、竿に洗濯物が掛けられて負荷がかかっていた場合であっても、抵抗トルク付与手段74が入力軸32に所定の抵抗トルクを付加しているによって竿が降下することが防止される。
【0033】
本発明の回転制御装置にあっては、入力部材及び出力部材が一体的に接続された状態と、出力部材が入力部材に対して空転可能な状態とに相互切り替え可能な機構と、入力部材が一方向へ回転する際にはこれに所定の抵抗トルクを付与する機構とを共通のハウジングに配置したことで、各々の機構を備える装置を各別に用意してこれらを直列に配置した場合と比べて、少なくとも夫々のハウジングの軸方向に配置される壁の厚み分だけコンパクトにすることが可能となる。更に、単一のハウジング内に両機構が配置されている故に、塵や埃等のごみが入力軸に付着することも防止される。
【0034】
以上、本発明に従って構成された回転制御装置について添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段は、入力部材が反対方向へ回転する際には入力軸に抵抗トルクを付与しないが、入力部材が反対方向へ回転する際にも入力軸に抵抗トルクを付与するようにしてもよい。この場合、抵抗トルク付与手段はコイルばねや所謂輪ばねを用いた周知の双方向トルクリミッタ(例えば本願の出願人によって本願に先立って出願されて特許された特開平10-110739号公報及び特開2018-44573号公報に記載のもの)であってよい。また、図示の実施形態においては、保持トルク付与手段は波ばねであったが、これに替えて板ばね等周知の摩擦部材であって良い。さらにまた、図示の実施形態においては、波ばねを除いた各構成部品はいずれも金属製であったが、使用用途(例えば軽負荷)によっては合成樹脂製であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
2:回転制御装置
4:ハウジング
6:入力部材
8:出力部材
9:リテーナ
32:入力軸
42:枢軸
46:リンク部材
52:係合軸
58:案内溝
62:波ばね(保持トルク付与手段)
72:係合部
74:抵抗トルク付与手段