(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】イオン系放射線治療計画の評価のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
A61N5/10 P
(21)【出願番号】P 2020188836
(22)【出願日】2020-11-12
(62)【分割の表示】P 2019526260の分割
【原出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-11-12
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516027694
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ,エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503315(JP,A)
【文献】特表2010-521259(JP,A)
【文献】特表2015-536770(JP,A)
【文献】特開2006-280457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0304154(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0213394(US,A1)
【文献】国際公開第2012/032609(WO,A1)
【文献】特表2000-507848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G16H 20/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン系放射線治療
においてコンピュータシステムを用いて放射線治療計画の評価の結果を表示する
ための方法であって、
患者の治療体積の一部における、イオンの入射点、前記イオンの照射方向、および前記イオンのトラックエンド位置を含む第1の情報、前記患者の臓器の位置および質量密度を含む第2の情報、および前記イオンの入射エネルギーを含む第3の情報をデータメモリから取得する工程(A)と、
前記第1ないし第3の情報を基にして、前記治療体積の一部において停止するイオンのボクセル毎の線量の値を計算する工程(B)と、
計算された
線量の値を前記データメモリに格納する工程(C)と、
前記
治療体積の一部に関し計算された前記
線量の値を
累積して、前記放射線治療計画のロバスト性の尺度として用いる工程(D)であって、前記工程Dが
前記データメモリにおける前記計算された
線量の値を
、イオンビームの入射方向に対して垂直方向に層分割された複数のエネルギー層のうちの1つに各々割り当てる工程(D1)および
患者の前記治療体積を表示し、前記治療体積の一部に、前記複数のエネルギー層を重ねて表示する工程(D2)であって、前記複数のエネルギー層は前記計算された
線量の値を割り当てる
ことにより前記複数のエネルギー層を可視化表示する工程(D2)を含む、工程(D)、
を包含する方法。
【請求項2】
前記工程AないしDが前記治療体積における複数の部分に関し実行され
る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程D1の前記計算された
線量の値を各々割り当てることは、前記計算された
線量の値を複数の離散的もしくは連続的
に表示された前記複数のエネルギー層のうち1つに割り当てる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記入射エネルギーに関する
第3の情報は
、コントロールポイントインデックス、公称コントロールポイントエネルギー、またはサンプルされたイオンあたりのサンプルされた実際のエネルギーのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(B)はモンテカルロ線量計算により実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(B)において計算された前記
線量の値は、前記治療体積の
一部において停止する前記イオンの前記
線量の値の平均を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記
線量の値の平均はイオンが停止する前記治療体積の
一部におけるイオンの平均コントロールポイントインデックスまたは平均公称エネルギーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(D)において、前記治療体積の
一部において停止する個々の
イオンの線量の値の差
を用いて、ロバスト性の程度を評価する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(D2)において、計算された前記線量を割り当てた前記複数のエネルギー層を配色することにより、可視化表示を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第1のコンピュータ装置が実行されると、前記装置に請求項1に記載の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令が符号化された非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項11】
請求項1
0に記載のコンピュータ実行可能命令が符号化された非一時的コンピュータ可読媒体を含むプログ
ラムメモリ、データメモリ、およびプロセッサを備えるコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン系放射線治療計画を評価するための方法およびシステムならびにそのようなシステムを制御するためのコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン系放射線治療では、各イオンはその経路の末端に向かってそのエネルギーの大部分を放出し、ブラッグピークとして知られているものを形成する。治療計画における重要な問題は、治療体積の全ての部分がその周囲体積への線量を最小限に抑えながら処方された線量を受けるように、全てのビームのブラッグピークが治療体積の中に配置されるように保証することである。
【0003】
ブラッグピークの位置は各イオンの運動エネルギーTpによって影響を受ける。Tpの値は、最も低いエネルギーを有するイオンが治療体積の最も近い端部にある領域で停止し、かつ最も高いエネルギーを有するイオンが治療体積の最も遠い領域にある領域で停止するように選択される。
【0004】
イオン系放射線治療では、イオンは入射点からイオンがそのエネルギーを全て失って停止する点まで治療体積を通る個々の経路を辿る。この停止点は「トラックエンド」と呼ばれる。イオン放射線治療では、トラックエンドが治療照射野の飛程の末端を決定するため、トラックエンドの分布は重要である。
【0005】
イオン放射線治療を送達するための現在の方法は、
・患者への照射が、治療体積が網羅されるようにそのエネルギー、方向および重量が選択される一連の準単一エネルギー「スポット」として送達されるアクティブスキャニング技術(アクティブ技術はペンシルビームスキャニング(PBS)と呼ばれることもある)と、
・パッシブ技術、すなわち治療体積が網羅されるようにその方向、入射エネルギーおよび側方拡張が調整される広い照射野によって患者が照射される技術(パッシブ技術はいくつかの技術的解決法によって実現することができる。例は、二重散乱(DS)、ユニフォームスキャニング(US)またはワブラー法である)と
を含む。
【0006】
本発明は、イオン放射線治療を送達するための現在の方法の全てに適用可能である。
【0007】
この文献全体を通して、アクティブスキャニング技術およびパッシブ技術の両方について考察する。便宜上これらをそれぞれ、それぞれの技術の最も顕著な例として単にPBSおよびDSと呼ぶこともある。
【0008】
PBS計画では、ビームのスポットを当該計画の作成プロセス中に「エネルギー層」にグループ化することができる。エネルギー層内の全てのスポットは、同じ入射エネルギースペクトルを有する。エネルギー層には、インデックス(コントロールポイントインデックス)および公称エネルギー(コントロールポイントエネルギー)を割り当てることができる。
【0009】
DS計画では、イオンのエネルギーはビームごとに単一の照射野として送達される。この照射野では、イオンエネルギーはブラッグピークが治療体積の最も浅い部分と最遠位部分との間に収まるように定められたエネルギー飛程にわたって分散される。入射エネルギーは補償器によってさらに側方に飛程調整され、かつ開口部によって平行にされる。
【0010】
DS計画では、PBS計画のために存在するのと同じようにはエネルギー層は通常存在しないが、パッシブ技術計画により入射エネルギーをエネルギー層にグループ化することはなお可能である。
【0011】
この文献全体を通して、本発明を説明する場合および本発明の目的のために必須な区別がアクティブ技術とパッシブ技術との間で必要とされない場合に、本発明者らはエネルギー層という用語をこのより広い意味で使用することを理解すべきである。
【0012】
CT較正、組織不均質性、臓器の移動および変形による不確実性因子が存在する。そのような不確実性因子を理由に、計画が可能な限りロバストであることが望まれ、これは、いくつかの因子が変化した場合であってもそれが同じ線量分布を与えなければならないことを意味する。放射線治療計画の品質を評価して、それが正確に送達され、かつ所望の方法で患者に影響を与えることを保証することが重要である。放射線治療計画を評価する場合、そのロバスト性は鍵となる因子である。ロバスト性は、セットアップに対する小さい変化の場合に計画がどの程度良好に機能するかを反映する。例えば、治療を受けている患者が想定される位置に対して移動すれば、これは粒子が停止する場所に影響を与え、それにより治療にも影響を与える。
【0013】
ロバスト性を決定するための現在の方法は、
・エネルギー層ごとにビーム線量を表示する工程(この場合、単一のエネルギー層の線量分布が各画像で示される)と、
・イオンのブラッグピーク位置を表示する工程と
を含む。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、例えばロバスト性に関するイオン治療計画の品質の分析を改善および容易にすることにある。
【0015】
本発明は、イオン系放射線治療のための放射線治療計画を評価する方法であって、治療体積の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれのために、
・当該部分において停止するイオンの入射エネルギーに関する情報を得る工程と、
・当該部分において停止するイオンの入射エネルギーを表す量の値を計算する工程と、
・第1および第2の部分のために計算された量の値を放射線治療計画の品質、特にそのロバスト性の尺度として使用する工程と
を含む方法に関する。
【0016】
典型的には治療体積の当該部分は線量計算ボクセルであるが、これらの部分を別の方法で、例えば線量計算ボクセルのグループとして定めてもよい。この文献全体を通して、厳密な意味でのボクセルの代わりに、本方法は治療体積の他の種類の部分に適用できることを理解すべきである。但し通常は、実用的な目的のために線量計算ボクセルが治療体積の好適な分割として使用される。
【0017】
好ましくは当該工程を複数の部分のために行い、かつ計算された量の値を使用する工程は当該量の値の分布を決定する工程を含む。
【0018】
量の値は1つのエネルギー層に属するイオンの透過飛程を特徴づける。この量の値は、トラックエンドにおける平均コントロールポイントインデックスまたはトラックエンドにおける平均公称エネルギーであってもよい。計算された量を本システムによって使用して計画のロバスト性が満足なものであるか否かを決定してもよく、次いで本システムは評価の結果を簡単に示すことができる。但し好ましくは、データは可視化されてユーザに表示され、ユーザは表示されたデータを使用して計画に対して何か変更が必要であるか、その場合、どのようにその変更を実行すべきかを決定することができる。以下ではデータを可視化する異なる方法について考察する。
【0019】
本発明は、患者の解剖学的構造におけるエネルギー層ごとの飛程の分布の明瞭な可視化を可能にし、これを使用して治療計画のロバスト性を評価することができる。さらに、この可視化は特性帯の幅を通るエネルギー層ごとの到達される深さ飛程の明瞭な可視化も可能にする。本発明によれば、単一の表示は、イオンが媒体を通って伝播する方法に一致するように、当該計画のエネルギー層分布の結果全体を示す。これは、ビーム線量またはブラッグピーク位置に基づく方法に勝る改良点である。前者の場合、その結果は合成画像ではなく一連の可視化として得られる。後者の場合、スポットの中心光線に沿った幾何学的追跡のみが示される。
【0020】
特にPBSなどのアクティブ技術に適した一実施形態では、当該量を品質尺度として使用する工程は、
・計算された量の値のそれぞれを多くのエネルギー層のうちの1つに割り当てる工程と、
・治療体積の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれのために、計算された量の値が割り当てられているエネルギー層を表す情報を表示する工程と
を含む。
【0021】
特にパッシブ技術に適した他の実施形態では、当該量を品質尺度として使用する工程は、
・計算された量の値のそれぞれを多くの離散的もしくは連続的な標識された仮想エネルギー層のうちの1つに割り当てる工程と、
・治療体積の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれのために、計算された量の値が割り当てられているエネルギー層を表す情報を表示する工程と
を含む。
【0022】
好ましくは、治療体積の当該部分において停止するイオンの量の値に関する情報は、最も正確な累積された値を提供するという理由から、治療体積の当該部分において停止する全てのイオンの組み合わせられた量の値を示す値を含む。あるいは、イオンのいくつかに関する情報のみを使用し、これにより計算リソースを節約する。
【0023】
イオンの入射エネルギーを表す量は、イオンが停止する治療体積の当該部分におけるイオンの平均コントロールポイントインデックスまたは平均公称エネルギーなどの治療体積の当該部分において停止するイオンの量の値の平均も含んでもよい。
【0024】
イオンの入射エネルギーを表す量は、イオンが停止する治療体積の当該部分におけるイオンのコントロールポイントインデックスの1つの標準偏差または公称エネルギーの1つの標準偏差などの治療体積の当該部分において停止するイオンの量の値の広がりの尺度を含んでもよい。
【0025】
イオンのエネルギーを表す量は追加または代わりとして、治療体積の当該部分において停止する個々のイオンの量の値の分布尺度を表す値を含んでもよい。そのような値は同じボクセルにおいて停止する粒子の入射エネルギーにおける広がりを示し、次いでこれが計画のロバスト性を示す。
【0026】
一実施形態では、本方法は放射線輸送方法を使用して、プロトンが停止する各線量ボクセルに関するエネルギー層に固有のデータを蓄積する。このデータは例えば、
・トラックエンドにおけるエネルギー層コントロールポイントインデックス、
・トラックエンドにおける公称コントロールポイントエネルギー、
・例えばMev/uの単位のトラックエンドにおけるエネルギー層ごとのサンプル源イオンエネルギー
であってもよい。
エネルギー層コントロールポイントインデックスは、1からエネルギー層の数までの範囲にあるそれぞれがエネルギー層の1つを表す整数のセットである。
公称コントロールポイントエネルギーは、例えばMev/uの単位のそれぞれがエネルギー層のうちの1つを表す実数のセットである。
エネルギー層ごとのサンプル源イオンエネルギーは、モンテカルロ線量エンジンが使用される場合に関連がある。
【0027】
他の方法は、以下で考察するように、好適な放射線輸送方法を用いて各エネルギー層の線量分布を計算し、かつエネルギー層ごとの最大線量を結合する線を表示することである。これは計画のロバスト性を示す、同様であるが、あまり圧縮されていない情報を提供する。
【0028】
放射線輸送方法それ自体は当該技術分野で知られており、線量分布を計算するなどの他の目的のための放射線治療システムに含まれている。線量分布を計算するための放射線輸送方法は「線量計算エンジン」と呼ばれ、例えばモンテカルロアルゴリズムまたはペンシルビームアルゴリズムを使用することができる。量を計算するための線量計算エンジンを用いることにより、全ての関連する効果(密度不均質性、側方散乱およびエネルギーストラグリング)を線量計算と同じ物理特性を用いて正確に説明するのを保証する。また、正規の線量計算中に実際に追加のコンピュータ計算使用料なしでそのデータを提供することができる。あるいは、十分な正確性で患者の解剖学的構造において放射線輸送をモデル化することができる専用の計算アルゴリズムを用いて当該量を計算してもよい。
【0029】
得られた累積された量の値は、任意の好適な方法で表示することができる。好ましい実施形態では、各エネルギー層に色が割り当てられており、エネルギー層を表す情報を表示する工程は治療体積の表示を表示する工程を含み、ここでは、治療体積の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれが、治療体積の当該部分が割り当てられているエネルギー層を表す色で表示される。
【0030】
結果を表示する他の方法は3D表示であり、ここでは各エネルギー帯に高さレベルが割り当てられており、エネルギー帯を表す情報を表示する工程は治療体積の3次元表示を表示する工程を含み、ここでは治療体積の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれが、治療体積の当該部分が割り当てられているエネルギー帯を表す高さレベルで表示される。好ましくは各エネルギー層の累積された量の値を示す数と共にエネルギー層間の境界を単に重ね合わせることも可能である。
【0031】
この文献全体を通して、厳密な意味でのボクセルの代わりに、本方法は治療体積の他の種類の部分に適用できることを理解すべきである。但し通常は、実用的な目的のために線量計算ボクセルが治療体積の好適な分割として使用される。
【0032】
本発明は、コンピュータで実行された場合に、コンピュータに下記請求項のいずれか1つに記載の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。
【0033】
本発明は、第1のコンピュータ装置で実行されると装置に下記請求項のいずれか1つに記載の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令が符号化されている非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【0034】
本発明は、プロセッサ、データメモリおよびプログラムメモリを備えたコンピュータシステムにも関し、プログラムメモリは上記に係るコンピュータプログラム製品または上記に係る非一時的コンピュータ可読媒体を含む。
【0035】
以下では本発明を例として、かつ添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】
図2aおよび
図2bはそれぞれ理想的な状況下およびより現実的な状況下での治療体積におけるエネルギー層の分布を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の別の実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図5】本発明の方法を実装することができるコンピュータシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、入射点からその最大飛程Rまでの移動距離の関数として、媒体を通って伝播しているイオンのエネルギー付与を表すブラッグ曲線の例を示す。実際の形状および振幅は、異なる種類のイオンおよび媒体で異なるが、一般的な形状は
図1に示されている。図に示すように、イオンのエネルギーの主要部分は、一般にブラッグピークと呼ばれるピークがあるイオンの経路の末端に向かって付与される。
【0038】
故に、ブラッグ曲線はイオンのエネルギーが付与される場所を予想するのに役立つ。治療体積外の領域への線量を最小限に抑えながら治療体積の全ての部分が処方された線量を受けるように異なるビームのブラッグピークが配置されるように、放射線治療を計画しなければならない。
【0039】
体積に送達される線量Dは、
D=E/m
(式中、Eは体積において付与されるエネルギーであり、mは当該体積における物質の質量である)である。付与されるエネルギーは、イオンの運動エネルギー、イオンの種類および物質の組成によって決まる。使用されるイオンは、TminからTmaxまでの範囲の入射エネルギーを有し、ここで、Tminは治療体積の最も近い端部にブラッグピークを配置するために必要なエネルギーであり、Tmaxは治療体積の最も遠い領域にブラッグピークを配置するために必要なエネルギーである。
【0040】
患者の体内における骨、空気腔または他の構造的ばらつきなどの不均質性が原因で、イオンはイオンの入射点および方向に応じて当該体積において異なって散乱および/または減速される。トラックエンドの分布は構造的ばらつきの種類によって変わる。従って、イオンによって付与されるエネルギーおよびトラックエンド位置を決定することは一般に簡単ではない。
【0041】
図2aは、イオンが平らな外面を有する完全に均質な媒体を通り抜ける理想的な状況下での治療体積1における当該量の分布(この例ではプロトンPBS計画のためのトラックエンドにおける平均コントロールポイントインデックス)を示す。入射されるイオンの方向は、水平の矢印によって示されているように媒体の表面に垂直である。6つの異なるエネルギー層B1~B6は異なるパターン、すなわち水平線、垂直線および4つの異なるパターンの対角線によって識別されている。図に示すように、各エネルギー層は、イオンの入射面に実質的に平行な治療体積全体を通るトラックエンド帯を形成する。これは、同じエネルギー層に属する全てのイオンが同様の長さの経路、すなわちそれらの入射運動エネルギーTpに相関する距離に実質的に沿った治療体積を通って移動することを示す。
【0042】
図2bは患者体積における当該量の分布を示す。イオンの経路にある空気腔などの低密度領域3が存在する。これは同じエネルギーを有するイオンを異なる経路に沿って移動させ、それらに異なる方向および/または経路長を辿らせ、エネルギー層B1’~B6’によって示されているように、特定のエネルギー層に属するイオンのトラックエンド分布をより不規則な形状にさせる。図に示すように、低密度体積を通って伝播しているイオンによって生じる波状部分が存在する。
【0043】
図2aおよび
図2bなどの画像は、当該体積を通って伝播しているイオンの妨害の結果としてのトラックエンド位置相関に対するエネルギー層の規則性の判定の目安となる。トラックエンド帯に対するエネルギー層の大きな波状部分、すなわち不規則な形状は、セットアップに対する患者の小さい移動または他の変化が患者に実際に送達される線量の分布およびトラックエンドの分布における有意なばらつきを引き起こし得るという点で、計画のより低いロバスト性を示す。
【0044】
図3は、モンテカルロ系線量エンジンを用いる本発明に係る方法の原理を示すフローチャートである。本方法は治療体積の各部分、典型的には治療体積の各ボクセルに対して別々に行われる。
【0045】
工程S31では、治療体積内のボクセルを選択する。工程S32では、イオンの入射エネルギーを表す量の値を決定する。この値は例えばこのプロトンが属するエネルギー層のインデックスであってもよい。工程S33では、このボクセルに、このボクセルにおいて停止する全てのイオンの累積された量の値を特徴とする累積された量の値を割り当てる。累積された量の値はボクセルにおいて停止するイオンの特定の選択されたものを基にすることができる。工程S34では、当該手順を別のイオンのために繰り返すべきか否かを決定する。典型的には多数のボクセルに対して工程S31~S33を行う。工程S35では、全てのボクセルの累積された量の値を典型的には、治療体積を表す画像において重ね合わせられる情報として表す。これは任意の好適な可視化方法によって達成してもよい。単純な方法は、画像の各領域または選択された領域の量を表す数を提示することである。1つの特に好適な方法は、画像中の治療体積のボクセル上に重なり合っている色を含み、各色は特定のエネルギー層を識別するように選択されている。画像は
図2aまたは2bに示されているものと同様であってもよいが、通常は図に示されているパターンの代わりに色分けを有する。
【0046】
他の可視化方法は、3D画像として画像を表示する工程を含む。この場合、色の代わりに高さレベルが各エネルギーレベルに割り当てられており、各領域に対応する高さレベルは画像に重ね合わせられた状態で表示される。
【0047】
当該量分布を表す層の形状を使用して治療計画のロバスト性を決定してもよい。エネルギー層が規則的な形状を有する場合、計画はロバストであるとみなされる。エネルギー層によって表示される不規則性すなわち波状部分が大きくなるほど、計画のロバスト性がより低くなる。エネルギー層の形状は、例えば他の領域よりも不規則性によって影響を受ける治療体積の特定の領域が存在する場合に、計画のどの部分が最もロバスト性が低いかも示す。この情報を使用して計画を変更してもよく、例えば別の放射線照射野を使用したりマージンを増加させたりしてもよい。
【0048】
当該量分布を表す層の形状を使用して、目的の点(例えば線量ボクセル)を取り囲む領域(例えば特定の半径を有する球体)内の量の値に基づくロバスト性指標を導出してもよい。このロバスト性指標は、数またはスルー画像によって報告することができる。
【0049】
入射エネルギーを特徴づける量は、そのトラックの末端における例えば各イオンの平均エネルギー層インデックスまたは平均公称エネルギーであってもよい。またモンテカルロ線量エンジンの場合、それはサンプリングされたイオンごとの実際のサンプリングされたエネルギーであってもよい。
【0050】
工程S33で計算された累積された量の値の代わりまたは追加として、工程S32で決定された個々の量の値の分布または広がりを示す分布値を使用してもよい。例えば、最も高い入射エネルギーと最も低い入射エネルギーとの差を考慮してもよい。この差が小さい場合、これはロバストな計画を示す。より大きな差はイオンが当該体積内の多くの異なる経路を取ることを示し、これは計画のロバスト性が低いことを示す。
【0051】
図4は、既存の線量エンジンにおいて実行し得るような、
図3の方法の他の実施形態のフローチャートである。この実施形態はモンテカルロ線量計算エンジンに特に適している。工程S41では、イオンを生成する。工程S42では、イオンをそれが停止するまでその経路に沿って追跡し、そのトラックエンド位置を決定する。工程S43では、イオンの入射エネルギーに関するデータを収集し、例えば、各イオンのコントロールポイントインデックスCP
iを決定する。工程S44では、別のイオンのために工程S41~S43を繰り返すべきか否かを決定する。繰り返す必要がある場合、このプロセスは工程S41に戻り、繰り返す必要がない場合、このプロセスは工程S45を続ける。工程S45では、各特定のボクセルにおいて停止する全てのイオンまたはそのようなイオンの選択されたものの累積されたデータを処理する。その結果はボクセルのそれぞれの累積された量の値であり、各累積された量の値は特定のボクセルにおいて停止するイオンの入射エネルギーを表す。典型的には、
図3に関して、累積された量は検討される全てのイオンの入射エネルギーの平均値であるが、それはボクセル内で停止するイオンの入射エネルギーのばらつきを表してもよい。工程S46では、工程S35について考察されているように、累積されたデータを好適な方法で表す。
【0052】
一例として、工程S32で収集されたデータがコントロールポイントインデックスであれば、使用される量はコントロールポイントインデックスの平均値である。この平均値の標準偏差はロバスト性のさらなる指標としてみなし得ることを理解すべきである。
【0053】
ボクセルにおいて停止するイオンの組み合わせられた入射エネルギーまたはそのようなイオンのそれぞれのエネルギーの決定は、線量計算エンジンを用いて行ってもよい。そのような線量計算エンジンは一般に放射線治療システムの中に存在する。線量計算は典型的には、当該技術分野で知られている方法でCT強度値を質量密度に対応づけることによって作成される患者モジュールに基づいている。質量密度が確立したら、物質特性をヒトの体内で生じる可能性のある質量密度に従って割り当てる。物質特性から阻止能および散乱能などの線量計算に関連する量を導出する。画像データから導出された物質に優先する物質にオーバーライドを割り当てることも可能である。
【0054】
当業者であれば十分に理解しているように、データ項目が収集されて処理される実際の順序は本発明にとって必須ではなく、いずれの場合も使用される送達方法および線量計算エンジンによって異なる。典型的には、モンテカルロ線量計算エンジンが使用される場合、
図4と同様に全てのボクセルのための計算は並行して行われ、かつ同時に提示される。
【0055】
当業者であれば十分に理解しているように、データは半解析もしくは数値輸送方程式ソルバーに基づく線量エンジンを使用することによって得てもよい。
【0056】
図5は、本発明の方法を行うことができるコンピュータシステムを表す概略図である。コンピュータ31は、プロセッサ33、データメモリ34およびプログラムメモリ35を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、声認識手段または任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態のユーザ入力手段37、38も存在する。またユーザ入力手段は、外部記憶装置からデータを受信するように構成されていてもよい。
【0057】
評価される治療計画はデータメモリ34に存在する。治療計画はコンピュータ31において作成されるか、当該技術分野で知られている任意の方法で別の格納手段から受信されてもよい。
【0058】
データメモリ34は、各ボクセルの付与されるイオンエネルギー情報も保持する。理解されるように、データメモリ34は概略的に図示されているにすぎない。例えば治療計画のための1つのデータメモリ、CTスキャンのための1つのデータメモリなど、それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持するいくつかのデータ記憶装置が存在してもよい。
【0059】
プログラムメモリ35は、本発明に係る計画評価を行うためのプロセッサを制御するように構成されているコンピュータプログラムを保持する。