(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】二液型硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20220830BHJP
C08F 283/06 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F283/06
(21)【出願番号】P 2020219437
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 朗功
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】森山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】野杁 達也
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-234061(JP,A)
【文献】特表2002-536508(JP,A)
【文献】特表2002-521505(JP,A)
【文献】特開平06-322033(JP,A)
【文献】特開昭63-264603(JP,A)
【文献】特開2014-129473(JP,A)
【文献】特開平06-206942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/06
C08F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A剤とB剤とからなる二液型硬化性組成物であって、
A剤は、加水分解性シリル基を含有するポリアルキレンオキサイド系ポリマー100重量部と、有機過酸化物0.1~10重量部と、α-ヒドロキシケトン類及び/又はα-ヒドロキシエステル類0.01~5重量部と、を含み、
B剤は、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー0.5~30重量部を含有する(メタ)アクリル系モノマー100重量部と、バナジウム化合物0.01~5重量部と、
酸性リン化合物0.1~10重量部と、を含む、二液型硬化性組成物。
【請求項2】
前記α-ヒドロキシケトン類は、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、アセトイン、ベンゾイン、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、および1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシメチルプロパノンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の二液型硬化性組成物。
【請求項3】
前記α-ヒドロキシエステル類は、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、グリコール酸メチル、および酒石酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の二液型硬化性組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーは(メタ)アクリル酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載の二液型硬化性組成物。
【請求項5】
前記有機過酸化物はハイドロパーオキサイドである、請求項1から4のいずれか1項に記載の二液型硬化性組成物。
【請求項6】
前記酸性リン化合物は、酸性リン酸エステルまたはリン酸基含有(メタ)アクリレートである、請求項1から5のいずれか1項に記載の二液型硬化性組成物。
【請求項7】
前記B剤は、前記(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して、エラストマーを20~60重量部含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の二液型硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤、シーリング材、およびコーティング材等に用いる二液型硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系やエポキシ系の二液型硬化性組成物は、接着剤やシーリング材、あるいはコーティング材として、建築、土木、電子・電気機器、車両、自動車、航空機等の多方面の分野で使用されている。近年、これら二液型硬化性組成物に対しては、強力に接着できるだけでなく、長期間にわたる温度変化による材料自体または材料相互間の伸縮の繰り返しや、風圧や地震等による振動変化に起因する歪や応力を受けても接着性能を維持できる信頼性の向上が必要とされている。
【0003】
この要求に対し、例えば、変成シリコーンポリマーとエポキシ樹脂を含む二液型硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。さらに、変成シリコーンポリマーとアクリル系モノマーを含む二液型硬化性組成物も提案されている(例えば、特許文献2)。これらの二液型硬化性組成物は、硬化物がゴム状弾性を示し、信頼性の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-47054号公報
【文献】特開平5-331447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、変成シリコーンポリマーを含む二液型硬化性組成物は、信頼性の向上が期待できるものの、硬化速度が遅く硬化に時間を要し、作業性が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、信頼性に優れ、かつ、より短時間で硬化することが可能な二液型硬化性組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の二液型硬化性組成物は、A剤とB剤とからなる二液型硬化性組成物であって、A剤は、加水分解性シリル基を含有するポリアルキレンオキサイド系ポリマー100重量部と、有機過酸化物0.1~10重量部と、α-ヒドロキシケトン類及び/又はα-ヒドロキシエステル類0.01~5重量部と、を含み、B剤は、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー0.5~30重量部を含有する(メタ)アクリル系モノマー100重量部と、バナジウム化合物0.01~5重量部と、酸性リン化合物0.1~10重量部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性に優れ、かつ、より短時間で硬化することが可能な二液型硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
本実施の形態に係る二液型硬化性組成物は、A剤とB剤とからなる二液型硬化性組成物であって、A剤は、加水分解性シリル基を含有するポリアルキレンオキサイド系ポリマー100重量部と、有機過酸化物0.1~10重量部と、α―ヒドロキシケトン類及び/又はα―ヒドロキシエステル類0.01~5重量部と、を含み、B剤は、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー0.5~30重量部を含有する(メタ)アクリル系モノマー100重量部と、バナジウム化合物0.01~5重量部と、酸性リン化合物0.1~10重量部と、を含むことを特徴とするものである。
なお、本発明においては、特に断らない限り、「(メタ)アクリル」はアクリルまたはメタクリルを表わし、さらに、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを表わす。
【0011】
本発明において、硬化性組成物の信頼性とは、初期の接着強度が大きいだけでなく、長期間にわたる周囲環境の変化、具体的には温度変化や湿度変化によっても接着強度が低下しにくい耐久性を有することをいう。
【0012】
(加水分解性シリル基を含有するポリアルキレンオキサイド系ポリマー)
A剤に含まれる、加水分解性シリル基を含有するポリアルキレンオキサイド系ポリマーとは、ポリアルキレンオキサイドを主鎖とし、その末端または側鎖に連結基を介して結合した2個以上の加水分解性シリル基を有するポリマーである(以下、変成シリコーンポリマーとも言う)。ポリアルキレンオキサイドのアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、イソブチレン基、テトラメチレン基等を挙げることができ、分子中の異なるアルキレン基が2種以上存在してもよい。また、ポリアルキレンオキサイドの分子量は、特に限定されないが、数平均分子量で、数百から数万、好ましくは、数千から数万である。
【0013】
加水分解性シリル基としては、ジアルキルモノアルコキシシリル基、モノアルキルジアルコキシシリル基、およびトリアルコキシシリル基の1種以上を挙げることができる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等を挙げることができる。また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基等を挙げることができる。
【0014】
変成シリコーンポリマーは、特に限定されるものではないが、有機ポリマーの中では低粘度で低温下でも柔軟性に優れており、硬化性と接着性が良好であることから、メチルジメトキシシリル基またはトリメトキシシリル基を末端に含有するポリプロピレンオキサイド系の液状のポリマーが好ましい。これらの市販品としては、AGC社のエクセスターシリーズ、カネカ社のサイリルシリーズ等を挙げることができる。これらの変成シリコーンポリマーは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
((メタ)アクリル系モノマー)
B剤に含まれる(メタ)アクリル系モノマーとしては、
(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の複素環含有(メタ)アクリレート;
アリル(メタ)アクリレート等のビニル基含有(メタ)アクリレート;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(メタ)アクリレート;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアルキレンオキシド変性ジ及びトリ(メタ)アクリレート;
エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のアルキレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート;および
エチレンオキシド変性水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のアルキレンオキシド変性水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等、を挙げることができる。
【0016】
(メタ)アクリル系モノマーは、その100重量部中に、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを0.5~30重量部、より好ましくは1~25重量部を含む。カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー含有量が0.5重量部未満であると、硬化速度が遅くなり、接着強度も低下し、また、30重量部を超えると硬化物のゴム状弾性が低下し、接着強度もそれほど向上しないからである。また、(メタ)アクリル系モノマーは、残部に、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー以外のモノマーとして、上記のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート、複素環含有(メタ)アクリレート、ビニル基含有(メタ)アクリレート、アルコキシ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ジ及びトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびアルキレンオキシド変性水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートから成る群から選択される1種以上のモノマーを含むことができる。カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー以外のモノマーとして、好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートである。
【0017】
なお、必要に応じて、A剤が(メタ)アクリル系モノマーを含んでもよい。例えば、A剤とB剤の粘度が大きく異なり、混合するのが困難な場合、混合を容易にして作業性を向上させる観点から、(メタ)アクリル系モノマーをA剤に添加することで、A剤の粘度をB剤の粘度と同程度に調整することができる。その際、A剤に添加する(メタ)アクリル系モノマーの種類と量は、合わせようとするB剤の粘度に応じて適宜設定することができる。
【0018】
(有機過酸化物)
A剤に含まれる有機過酸化物としては、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシデカノエート等のアルキルパーオキシエステル類を挙げることができる。これらのうち、反応性の観点からハイドロパーオキサイド類が好ましい。これらの有機過酸化物は、単独で使用しても、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
有機過酸化物の含有量は、変成シリコーンポリマー100重量部に対して、1~10重量部、好ましくは2~7重量部である。1重量部未満では硬化速度が遅く、接着強度も低下し、また、10重量部を超えても硬化速度が向上しないからである。
【0020】
(α-ヒドロキシケトン類及び/又はα-ヒドロキシエステル類)
A剤に含まれるα-ヒドロキシケトン類とα-ヒドロキシエステル類は、後述の酸性リン化合物と共にバナジウム化合物と有機過酸化物とのレドックス触媒系に作用して(メタ)アクリル系モノマーの硬化を促進する化合物である。α-ヒドロキシケトン類としては、例えば、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、アセトイン、ベンゾイン、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシメチルプロパノン等を挙げることができる。α-ヒドロキシケトン類としては、好ましくは、ヒドロキシアセトンやベンゾインである。
【0021】
また、α-ヒドロキシエステル類としては、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、グリコール酸メチル、酒石酸エチル等を挙げることができる。α-ヒドロキシエステル類としては、好ましくは、乳酸エチルやグリコール酸メチルである。
【0022】
α-ヒドロキシケトン類及び/又はα-ヒドロキシエステル類の配合量は、変成シリコーンポリマー100重量部に対して0.01~5重量部、好ましくは0.1~3重量部である。0.1重量部未満であると硬化速度が遅く、また、5重量部を超えても硬化速度の向上は見られないからである。また、1種だけでなく、複数のα-ヒドロキシケトン類およびα-ヒドロキシエステル類を用いることもできる。
【0023】
なお、α-ヒドロキシケトン類とα-ヒドロキシエステル類は、広義のα-ヒドロキシカルボニル化合物に含まれ、乳酸やグリコール酸等のα―ヒドロキシカルボン酸もそのα-ヒドロキシカルボニル化合物に含まれる。α―ヒドロキシカルボン酸もα-ヒドロキシケトン類とα-ヒドロキシエステル類と同様に後述の酸性リン化合物と共にバナジウム化合物と有機過酸化物とのレドックス触媒系に作用して(メタ)アクリル系モノマーの硬化を促進する効果を有するが、本発明者らの知見によれば、A剤に使用すると、貯蔵中にゲル化を引き起こすため、使用することはできない。また、B剤に使用しても、後述のバナジウム化合物と反応してゲル化を引き起こすため、B剤に使用することはできない。
【0024】
(バナジウム化合物)
B剤に含まれるバナジウム化合物は、A剤に使用される有機過酸化物とレドックス触媒系を形成し、有機過酸化物のラジカル発生を促進する。バナジウム化合物は、特に限定されるものではないが、五酸化バナジウム等の酸化物、オクテン酸バナジル、ナフテン酸バナジル、ステアリン酸バナジル等の金属石けん、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等の金属キレート等を挙げることができる。バナジウム化合物としては、好ましくは、バナジルアセチルアセトネートである。
【0025】
バナジウム化合物の含有量は、(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して、0.1~5重量部、好ましくは0.2~2重量部である。0.1重量部未満では硬化速度が遅く、接着強度が低下し、また、5重量部を超えると保存安定性が低下するからである。
【0026】
(酸性リン化合物)
B剤に含まれる酸性リン化合物としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、酸性リン酸エステル、およびリン酸基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。酸性リン酸エステルとしては、モノメチルホスフェート、ジメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、ジエチルホスフェート、モノイソプロピルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノエトキシエチルホスフェート、ジエトキシエチルホスフェート、モノブトキシエチルホスフェート、ジブトキシエチルホスフェート、フェニルホスフェート、ジフェニルホスフェート等を挙げることができる。また、リン酸基含有(メタ)アクリレートとしては、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。酸性リン化合物としては、好ましくは酸性リン酸エステルまたはリン酸基含有(メタ)アクリレートであり、より好ましくはリン酸基含有(メタ)アクリレートである。リン酸基含有(メタ)アクリレートとしては、好ましくはアシッドホスホキシエチルメタクリレート(2-ヒドロキエチルメタクリレートアシッドホスフェートとも言う)である。アシッドホスホキシエチルメタクリレートは、例えば、城北化学社から商品名JPA-514として入手できる。
【0027】
酸性リン化合物は、変成シリコーンポリマーの硬化を促進する効果を有する。また、酸性リン化合物は、前述のα-ヒドロキシケトン類及び/又はα-ヒドロキシエステル類と共にバナジウム化合物と有機過酸化物とのレドックス触媒系に作用して、(メタ)アクリル系モノマーの硬化を促進する効果も有する。
【0028】
酸性リン化合物の含有量は、B剤のアクリル系モノマー100重量部に対して、0.1~10重量部、好ましくは0.5~8重量部、より好ましくは1~7重量部である。0.1重量部未満では、硬化反応が十分に進行しにくくなり、また、10重量部を超えても硬化速度の向上は見られないからである。
【0029】
(エラストマー)
B剤は、さらにエラストマーを含んでもよい。エラストマーは、常温付近でゴム弾性を示す高分子物質である。エラストマーを含有させることで、柔軟性、及び衝撃強度や剥離強度をさらに向上させることができる。エラストマーの具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体(MBAS樹脂)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等の熱可塑性エラストマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等の合成ゴムを挙げることができる。好ましくは、熱可塑性エラストマーである。熱可塑性エラストマーの中では、MBS樹脂が好ましい。例えば、ダウ・ケミカル日本社製のMBS樹脂(商品名パラロイドBTA-751)、カネカ社製のMBS樹脂(商品名カネエースB-56)等を市販品として入手できる。また、合成ゴムとしては、デュポン社製のエチレン-アクリルゴム(商品名ベイマックG)、日本ゼオン社製のカルボキシル基含有アクリロニトリルーブタジエンゴム(商品名ニポール1072)等を市販品として入手できる。
【0030】
エラストマーの含有量は、B剤の(メタ)アクリル系モノマーの100重量部に対して、10~60重量部、好ましくは30~50重量部、より好ましくは30~40重量部である。10重量部未満であると接着強度を向上させる効果が十分ではなく、60重量部を超えると粘度が高くなって作業性が低下するからである。
【0031】
(重合禁止剤)
B剤はさらに重合禁止剤を含んでもよい。貯蔵安定性をさらに向上させることができる。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、キンヒドロン、p-ベンゾキノン、トルキノン、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2‘-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス[6-(1-メチルシクロヘキシル-p-クレゾール)]等を挙げることができる。
【0032】
重合禁止剤の含有量は、(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して、0.01~2重量部、好ましくは0.02~1重量部、より好ましくは0.05~1重量部である。
【0033】
さらに、A剤およびB剤は、本発明の組成物の効果を損なわない範囲で、その目的に応じて、以下の公知の化合物を含むこともできる。
【0034】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤は被着体に対する密着性をさらに向上させることができる。シランカップリング剤は特に限定されないが、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。シランカップリング剤の含有量は、(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して、0.01~2重量部、好ましくは0.05~1重量部である。
【0035】
(揺変性付与剤)
本発明の組成物に、揺変性を付与させるために、フュームドシリカ、ベントナイト、セピオライト、ポリエチレンオキサイド等の揺変性付与剤を添加することもできる。
【0036】
また、空気接触部の硬化をより促進するためにパラフィン類やワックス類、及び顔料や着色剤等を添加することもできる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各成分の使用量を示す「部」はすべて「重量部」を示す。
【0038】
<硬化性組成物の調製>
A剤とB剤に用いた成分名を、表1に示した。また、調製したA剤とB剤の組成を、それぞれ、表2と表3に示した。なお、表1~3中、成分1、成分2、成分3、成分4、成分5および成分6とは、それぞれ、変成シリコーンポリマー、有機過酸化物、α―ヒドロキシカルボニル化合物、(メタ)アクリル系モノマー、バナジウム化合物および酸性リン化合物を意味する。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
<A剤の貯蔵安定性試験>
100mlのポリエチレン製容器にA剤を充填し、40℃で静置してゲル化が起こっていないかを調べた。なお、B剤はすべて40℃で30日以上安定であった。
A剤の貯蔵安定性は、以下の基準で判定した。
○:30日以上、粘度上昇やゲル化を起こさなかった。
×:10日以内にゲル化を起こした。
【0043】
<可使時間の測定>
23℃で容量が2mlのポリエチレン容器にA剤とB剤の各0.5gを秤量して混合し、反応の開始によって粘度上昇が始まり、接着が可能な時間を測定して可使時間とした。
【0044】
<セットタイムの測定>
被着体として、寸法が100×25×1.6mmのSPCC-SDのサンドブラスト処理鋼板を用いた。23℃で一方の試験片にラップの長さ12.5mmで接着剤を塗布し、A剤とB剤を重量比1:1で接着し、3kgの荷重をかけても剥がれなくなるまでの時間を測定してセットタイムとした
【0045】
<硬化物のショアー硬度Aの測定>
内径30mm、深さ7mmのポリエチレン容器にA剤、B剤の各2.5gを秤量して混合し、23℃で24時間後に硬化物のショアー硬度Aを測定した。測定にはテクロック社製硬度計GS-610を用いた。
【0046】
<引張剪断強度の測定>
金属板として、寸法が100×20×2.3mmのSPHCのサンドブラスト処理鋼板、硬質プラスチック板として、100×25×3.0mmのアクリル板とABS樹脂板を用いた。さらに、無機板として、寸法が100×25×3mmのケイ酸カルシウム板(ケイカル板と略す)、スレート板および木質板として寸法が100×25×3mmのラワン合板を用いた。23℃で同種の板同士をA剤とB剤を1:1で接着し、24時間後に試験速度25mm/分で引張剪断強度(N/mm2)を測定した。測定には、島津製作所製オートグラフAG-X50KNXを用いた。測定温度は23℃である。なお、ラップの長さは、鋼板は10mm、硬質プラスチック板、無機板およびラワン合板は12.5mmとした。
【0047】
<T型剥離強度の測定>
金属板として、150×25×0.3mmのSPHCのサンドブラスト処理鋼板を用いた。A剤とB剤を重量比1:1で接着し、24時間後に引張速度250mm/分でT型剥離強度を測定した。測定温度は23℃である。
【0048】
<耐水試験>
被着体として寸法が100×20×2.3mmのSPHCのサンドブラスト処理鋼板を用いた。23℃でラップの長さ10mmでA剤とB剤を重量比1:1で接着し、23℃で24時間養生し、60℃の温水に250時間浸漬した試験片を23℃で24時間養生し、試験速度25mm/分で引張剪断強度(N/mm2)を測定した。
【0049】
ここで、強度保持率は、以下の式で算出した。
[(耐水試験後の引張剪断強度)/(初期引張剪断強度)]×100(%)
【0050】
<熱老化試験>
被着体として寸法が100×20×2.3mmのSPHCのサンドブラスト処理鋼板を用いた。23℃でラップの長さ10mmでA剤とB剤を重量比1:1で接着し、23℃で24時間養生し、100℃の乾燥機に250時間暴露した試験片を23℃で24時間養生し、試験速度25mm/分で引張剪断強度(N/mm2)を測定した。
【0051】
ここで、強度保持率は、以下の式で算出した。
[(熱老化試験後の引張剪断強度)/(初期引張剪断強度)]×100(%)
【0052】
<熱時T型剥離強度>
金属板として、150×25×0.3mmのSPHCのサンドブラスト処理鋼板を用いた。A剤とB剤を重量比1:1で混合して接着し、24時間後に引張速度250mm/分で、-30℃、0℃、23℃、100℃の各温度下でT型剥離強度を測定した。
【0053】
(結果)
表4~8に試験結果を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
表2に示すように、A剤の貯蔵安定性試験では、α―ヒドロキシカルボン酸である乳酸またはグリコール酸を用いたA-5とA-6は、10日以内にゲル化を起こしたが、それ以外のA-1~A-4、およびA-7~A-11は30日以上安定であった。これより、成分3として、α-ヒドロキシケトン類またはα-ヒドロキシエステル類を含むA剤は貯蔵安定性に優れていることを確認した。また、B剤はすべて40℃で30日以上安定であり、貯蔵安定性に優れていた。
【0060】
表4に、実施例1~5と比較例1~4の結果を示す。実施例1~4はA剤の成分3の種類が異なるものである。実施例1~4では、成分3を含まない比較例3に比べ、セットタイムが短縮され、硬化速度が向上したことを確認できた。また、実施例1~4では、可使時間、硬化物のショアー硬度、引張剪断強度およびT型剥離強度について良好な特性が得られた。特に、ヒドロキシアセトンを用いた実施例1と、ベンゾインを用いた実施例2では、セットタイムを大幅に短縮することができた。なお、比較例1,2は比較例3に比べセットタイムが短縮されてはいるが、上記のように、貯蔵安定性が悪く、実用に供するのは困難である。また、実施例5は、A剤の成分3としてヒドロキシアセトンを5重量部使用した例であり、1重量部使用した実施例1と比べると可使時間とセットタイムが短縮され、硬化物のショアー硬度、引張剪断強度およびT型剥離強度についても同様の特性が得られた。一方、比較例4は、A剤の成分3としてヒドロキシアセトンを7重量部使用した例であり、実施例1と5よりもセットタイムが遅くなり、硬化物のショアー硬度、引張剪断強度およびT型剥離強度についても低い特性であった。
【0061】
表5に、実施例6~11と比較例5~7の結果を示す。実施例6~11は、B剤の成分4の種類が異なるものである。実施例6~11では、比較例5~7に比べ、セットタイムが短縮され、硬化速度が向上したことを確認できた。比較例5は、B剤の成分4としてカルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを含んでいない例であり、引張剪断強度とT型剥離強度は大きく低下した。また、比較例6,7は、B剤の成分4としてカルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを含むが、A剤の成分3を含まない例である。これより、B剤の成分4としてカルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを含み、かつA剤が成分3を含むことで、硬化物のショアー硬度、引張剪断強度およびT型剥離強度について良好な特性を維持しながら、硬化速度を向上させることができることを確認した。
【0062】
表6に、実施例1,6,10,11についての、耐水試験と熱老化試験の結果を示す。これらの実施例では、耐水試験および熱老化試験においても、引張剪断強度の強度保持率が90%以上であり、優れた耐久性を有していた。
【0063】
表7に、実施例1,6,10,11についての、各種被着材に対する引張剪断強度の測定結果を示す。いずれの実施例でも、硬化不良を起こさず、凝集破壊を示し、各種被着材に対して優れた接着強度を示した。
【0064】
表8に、実施例1,6,10,11についての、-30℃、0℃、23℃、100℃の各温度下でのT型剥離強度の測定結果を示す。いずれの実施例においても、-30℃~100℃の広い温度で剥がれることなく、優れた接着強度を示した。
【0065】
以上の通り、本発明の二液型硬化性組成物によれば、硬化速度を速くすることができるので、より短時間で硬化させることができる。また、本発明の二液型硬化性組成物は、貯蔵安定性が良好で、硬化物がゴム状弾性を有し、各被着材への接着性も安定しており、耐水性や熱老化性にも優れ、耐久性に優れることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の二液型硬化性組成物は、信頼性に優れ、硬化速度を向上させることができる。そのため、従来、速硬化が特徴の二液型アクリル系接着剤が用いられている、金属、硬質プラスチック、木材、セラミックス等の種々の被着体についても適用可能であり、作業性に優れた接着剤、シーリング材、コーティング材を提供できる。