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  • 特許-塑性加工用金属材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】塑性加工用金属材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220830BHJP
   C23C 22/08 20060101ALI20220830BHJP
   C23C 22/46 20060101ALI20220830BHJP
   C10M 105/22 20060101ALI20220830BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220830BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C23C28/00 Z
C23C22/08
C23C22/46
C10M105/22
C10N30:06
C10N40:24 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020503460
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006682
(87)【国際公開番号】W WO2019167816
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018035966
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】柳 睦
(72)【発明者】
【氏名】青山 充
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-025553(JP,A)
【文献】特開平07-016982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面又は表面上に第1皮膜と、前記第1皮膜の表面又は表面上に第2皮膜とを有し、
前記第1皮膜は化成皮膜であり、
前記第2皮膜は表層であり、
前記第2皮膜は、芳香族カルボン酸化合物のアンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩又はカリウム塩から形成される、塑性加工用金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料またはその他の金属材料に対して鍛造(冷間、温間、熱間鍛造を含む)、伸線、伸管のような塑性加工を行う際に必要な皮膜を有する塑性加工用金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の塑性加工において、金型と塑性加工用金属材料は焼付くことがある。焼付きは、目的の成型物が得られないだけでなく、焼付いた金属の影響により金型の寸法も変化し、金型の使用に耐えうる回数は短くなる。それ故に、金型を再製しなくてはならず、費用対効果を低下させる。故に、耐焼付き性に優れる塑性加工用金属材料が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2個以上のカルボキシ基を有する芳香族カルボン酸化合物のアルカリ金属塩と、数種類の水溶性高分子化合物と、水とを含む温間及び熱間塑性加工用潤滑剤が開示されている。
特許文献2には、オルト位に位置する2つのカルボキシ基を有する芳香環2つを結合した特定の化合物が含まれる温間及び熱間鍛造用潤滑剤が開示されている。
特許文献3には、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムによって形成された融点が90℃以上の芳香族カルボン酸塩と、水溶性高分子化合物及び/又はワックスと、水とを含有する水性冷間塑性加工用潤滑剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-89938号公開公報
【文献】特開2015-89939号公開公報
【文献】特開2015-17171号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐焼付き性に優れた塑性加工用金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属材料の表面又は表面上に第1皮膜と、前記第1皮膜の表面又は表面上に第2皮膜とを有し、前記第2皮膜は表層であり、前記第2皮膜は、少なくとも1つのカルボキシ基が直接結合したベンゼン環を有する化合物又はその塩若しくはその過酸化物を含む塑性加工用金属材料が、優れた耐焼付き性を有する塑性加工用金属材料であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明(1)は、
金属材料の表面又は表面上に第1皮膜と、
前記第1皮膜の表面又は表面上に第2皮膜とを有し、
前記第2皮膜は表層であり、
前記第2皮膜は、少なくとも1つのカルボキシ基が直接結合したベンゼン環を有する化合物又はその塩若しくはその過酸化物を含む、塑性加工用金属材料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塑性加工時に起こる金型と成形加工用金属材料との摩擦による焼付きを防止する効果(耐焼付き性)に優れる塑性加工用金属材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】加工性能評価試験を行った試験片の、耐焼付き性評価基準を示す図である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0011】
<塑性加工用金属材料>
本発明の一実施形態である塑性加工用金属材料は、金属材料と、金属材料の表面又は表面上に第1皮膜と、前記第1皮膜の表面又は表面上に少なくとも1つのカルボキシ基が直接結合したベンゼン環を有する化合物又はその塩若しくはその過酸化物を含む第2皮膜とを、含む。また、第1皮膜と第2皮膜との間には、単層の又は複数の層が積層された、皮膜を有していてもよく、第2皮膜が表層に存在していればよい。
【0012】
本明細書における塑性加工とは、公知の塑性加工であれば特に限定されないが、例えば、鍛造(冷間、温間、熱間)、押し出し加工、伸線加工、伸管加工、引き抜き加工、絞り加工、曲げ加工、接合加工、せん断加工、サイジング加工などが挙げられる。これらのうち、鍛造、伸線加工、伸管加工のような、金属材料にかかる負荷が、特に大きな塑性加工において、本発明の塑性加工用金属材料は好適である。
【0013】
1.塑性加工用金属材料の構成
1-1.金属材料
金属材料は、特に限定されないが、通常は塑性加工に供される金属材料である。例えば、鉄、鉄合金(鋼、ステンレス鋼等)、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金、亜鉛、亜鉛合金などが挙げられる。
【0014】
前記金属材料は、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、めっき皮膜を有するめっき材料であってもよい。めっき皮膜の材質は、特に限定されず、例えば、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガン、クロム、マグネシウム、コバルト、鉛、亜鉛、錫、或いはアンチモン等の金属又は複数の金属の合金、さらには不可避不純物を含む金属又は複数の金属の合金を用いることができる。
【0015】
めっき皮膜を人為的に形成させる場合、その形成方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、電気めっき(電解めっき、電鍍)、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき、メカニカルプレーティング、溶射等が挙げられる。
【0016】
前記めっき皮膜の厚さは、特に限定されず、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0017】
また、前記金属材料の表面には、酸化皮膜が形成されていてもよい。前記酸化皮膜は、特に限定されず、大気中において自然に発生する自然酸化皮膜でもよいし、人為的に形成させた酸化皮膜でもよい。
【0018】
人為的な酸化皮膜の形成方法としては、特に限定されず、例えば、金属材料を陽極として電解質溶液中で通電して行う陽極酸化による方法、強酸性液体に浸漬する方法、電解研磨による方法、プラズマ電解による方法等が挙げられる。また、前記酸化皮膜は、蒸気法、純水沸騰水法、酢酸ニッケル法、重クロム酸法、ケイ酸ナトリウム法等により封孔処理されていてもよい。
【0019】
前記酸化皮膜の厚さは、特に限定されず、例えば、0.001μm以上100μm以下である。
【0020】
金属材料の形状としては、棒材やブロック材等の素形だけでなく、加工後の形状物(ギヤやシャフト等)でもよく、特に限定されない。
【0021】
1-2.第1皮膜
第1皮膜としては、特に限定されず、例えば、化成皮膜又は塗膜等を用いることができる。
【0022】
1-2-1.化成皮膜
化成処理の皮膜析出機構は、例えば、以下の通りである。金属材料を化成処理剤に接触させた際に、化成処理剤中の酸成分(エッチング成分)であるHイオンによって金属材料表面がエッチング(溶解)され、これにより表面近傍のpHが上昇する。表面近傍のpHが上昇することによって、表面近傍に存在する金属材料からエッチングされた金属成分と化成処理液に含まれる成分が不溶性の塩として、金属材料表面に析出する。この不溶性塩が皮膜を形成する。
【0023】
化成皮膜は、特に限定されず、例えば、リン酸塩、シュウ酸塩、アルミン酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩、ジルコニウム化合物、チタン化合物、バナジウム化合物及びハフニウム化合物等で構成される。なお、これらは、単独の塩で構成されていてもよく、複数の塩で構成されていてもよい。化成皮膜は、リン酸塩、シュウ酸塩及びアルミン酸塩で構成されていることが好ましく、リン酸亜鉛及びシュウ酸鉄で構成されているものがより好ましい。
【0024】
リン酸塩は、特に限定されないが、例えば、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸ニッケル、リン酸マンガン、リン酸マンガン鉄、リン酸カルシウム、リン酸コバルト、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム等が挙げられる。前記リン酸塩は、前記金属材料が鉄鋼やステンレスの場合等に好ましい。
【0025】
シュウ酸塩は、特に限定されないが、例えば、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸鉄及びシュウ酸アンモニウム等が挙げられる。前記シュウ酸塩は前記金属材料がステンレスの場合等に好ましい。
【0026】
アルミン酸塩は、特に限定されなないが、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム等を挙げることができる。前記アルミン酸は前記金属材料がアルミニウム及びアルミニウム合金の場合に好ましい。
【0027】
前記化成皮膜の付着量は、特に限定されないが、例えば、0.5g/m以上20.0g/m以下であり、好ましくは、2.0g/m以上10.0g/m以下である。前記付着量は、化成処理剤の組成や濃度等、接触方法、接触温度や接触時間等の接触条件を変更することで、調整することが可能である。
【0028】
1-2-2.塗膜
塗膜は、塗布型皮膜剤を金属材料の表面に塗布することで形成された皮膜である。
【0029】
塗膜の材質は、本実施形態に係る金属材料表面又は表面上に形成が可能であり、その表面又は表面上に第2皮膜を形成できる限りにおいて、特に限定されない。塗布型皮膜剤を用いて形成された塗膜としては、例えば、クロム酸、重クロム酸又はそれらの塩を主成分として含有する処理液により、塗布型クロメート処理により形成された塗膜;クロム酸や重クロム酸を配合しない塗布型ノンクロメート処理により形成された塗膜;シランカップリング剤単体による塗膜;シランカップリング剤等によって修飾された、シリカやコロイダルシリカ等の塗膜;ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエステルあるいはこれらの共重合物や変成物等を含む有機樹脂皮膜;ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム等のガラス等、金属酸素酸塩、水酸化金属化合物、リン酸金属塩、フッ化金属化合物等を含む無機皮膜(但し、めっき皮膜、酸化皮膜は除く);水や油等の溶媒や、スチレンとマレイン酸/無水マレイン酸を含む共重合体等のべースポリマーに潤滑剤を分散させた塗膜等;が挙げられる。
【0030】
前記固体潤滑剤は、特に限定されず、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のワックス;スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、パイロフィライト、カオリナイト等の層状粘土鉱物;ポリテトラフルオロエチレン;脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アマイド;二硫化モリブデン;二硫化タングステン;グラファイト;及びメラミンシアヌレート等;が挙げられる。
【0031】
1-3.第2皮膜
1-3-1.材質
本実施形態に係る第2皮膜は、少なくとも1つのカルボキシ基が直接結合したベンゼン環を構造内に有する化合物又はその塩若しくはその過酸化物の少なくとも1種以上を含む。本明細書において、少なくとも1つのカルボキシ基が直接結合したベンゼン環を有する化合物を芳香族カルボン酸化合物と記載する場合がある。
【0032】
ここで、本発明におけるベンゼン環とは、ベンゼン化合物のように、ベンゼン環1個が単独であるものに限られず、ナフタレンやアントラセンのように複数のベンゼン環が直接縮合した縮合多環芳香族炭化水素も含まれる。
【0033】
芳香族カルボン酸化合物は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されず、例えば、プレーニト酸、キシリル酸、へメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、ジュリル酸、β-イソジュリル酸 、α-イソジュリル酸、アニス酸、o-クレソチン酸、m-クレソチン酸、p-クレソチン酸、o-ピロカテク酸、β-レソルシル酸、ゲンチジン酸、γ-レソルシル酸、プロトカテク酸、α-レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、2,3-ジメトキシ安息香酸、オルセリン酸、m-ヘミピン酸、没食子酸、シリング酸、アサロン酸、ホモフタル酸、ホモイソフタル酸、ホモテレフタル酸、フタロン酸、イソフタロン酸、テレフタロン酸、クミン酸、ウビト酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等が挙げられる。なお、これらは単独で含まれていてもよく、複数が含まれていてもよい。
【0034】
芳香族カルボン酸化合物の塩のうち、塑性加工時の焼付きを防止する効果(耐焼付き性)が優れる前記芳香族カルボン酸化合物のアンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩がより好ましい。
【0035】
また、前記芳香族カルボン酸化合物の塩は、前記ベンゼン環に複数のカルボキシ基が直接結合している場合には、その少なくとも一部又は全部が塩になっていればよい。例えば、二つのカルボキシ基を有するフタル酸のナトリウム塩の場合に、一方のカルボキシ基がナトリウムと塩を形成したフタル酸水素ナトリウム、及び、両方のカルボキシ基がナトリウムと塩を形成したフタル酸2ナトリウムを含むことができる。
【0036】
芳香族カルボン酸化合物の過酸化物とは、前記芳香族カルボン酸化合物のベンゼン環に直接結合するカルボキシ基の少なくとも1つに、ペルオキシド構造を有する化合物である。例えば、芳香族カルボン酸化合物が安息香酸の場合には、その過酸化物は、過安息香酸である。
【0037】
前記芳香族カルボン酸化合物の過酸化物は、前記ベンゼン環に複数のカルボキシ基が直接結合している場合には、その少なくとも一部がペルオキシド構造を有していればよい。
【0038】
前記芳香族カルボン酸化合物又はその塩若しくはその過酸化物は、必ずしも原料に含まれている必要はなく、形成された第2皮膜に含まれていればよい。例えば、ベンゼン環に直接結合したカルボン酸の無水物(例えば無水フタル酸)と、水やアルコールと反応して、カルボキシ基が結合したベンゼン環を有する化合物が生成される場合などが挙げられる。
第2皮膜中の、芳香族カルボン酸化合物の含有量は特段限定されず、第2皮膜中に芳香族カルボン酸化合物以外の化合物、例えば他の樹脂等を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。第2皮膜中に芳香族カルボン酸化合物以外の化合物を含む場合、第2皮膜中の芳香族カルボン酸化合物の含有量は、0.5重量%以上であってよく、10重量%以上であることが好ましい。第2皮膜が芳香族カルボン酸化合物のみから形成されてもよい。
【0039】
1-4.第1皮膜と第2皮膜の間に含まれる皮膜
塑性加工用金属材料は、第1皮膜と第2皮膜との間に、単層の又は複数の層が積層された皮膜を含むことができる。
前記第1皮膜と第2皮膜との間に含まれる皮膜の、皮膜の種類、材質、材質の組合せ、皮膜処理方法の組合せ、積層数及び各皮膜の厚さ等は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。
【0040】
前記第1皮膜と第2皮膜との間に含まれる皮膜は、化成皮膜、塗膜、めっき皮膜、酸化皮膜等を含むことができる。例えば、第1皮膜上に、蒸着などの気相めっきによって、めっき皮膜を形成したのち、さらに前記めっき皮膜上に化成皮膜を形成すること等ができる。
【0041】
2.塑性加工用金属材料の製造方法
本発明の別の実施形態である塑性加工用金属材料の製造方法は、少なくとも金属材料の表面又は表面上に第1皮膜を形成する第1皮膜形成工程と、前記第1皮膜の表面又は表面上に第2皮膜を形成する第2皮膜形成工程とを含む。
【0042】
第1皮膜形成工程における各工程の前後に水洗工程を含んでもよく、第1皮膜を形成した後に乾燥工程を含んでもよい。また、第2皮膜形成工程においても同様であり、各工程の前後に水洗工程を含んでもよく、第2皮膜を形成した後に乾燥工程を含んでもよい。さらに、第1皮膜と第2皮膜の間の表面処理層を形成する際にも工程間で水洗工程を含んでもよいし、皮膜を形成した後に乾燥工程を含んでもよい。
【0043】
また必要に応じ、第1皮膜を形成した後、第2皮膜を形成する前に、単層の又は複数の層を積層した皮膜を形成する工程を含んでもよい。
【0044】
さらに、各工程の前後に、清浄化工程を含んでいてもよい。また、清浄化工程を複数回実施してもよい。
【0045】
2-1.第1皮膜形成工程
第1皮膜の形成工程は、化成皮膜形成工程、又は、塗膜形成工程の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0046】
2-1-1.化成皮膜形成工程
化成皮膜形成工程は、金属材料表面に、化成処理剤を接触させ、化成皮膜として第1皮膜を形成する接触工程を少なくとも含む。接触方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、電流を流して行う電解処理法、並びに、浸漬処理法、スプレー処理法、及び、流しかけ処理法等の電流を流さないで行う処理法が挙げられる。
【0047】
金属材料と化成処理剤の(接触)温度は、特に限定されないが、例えば、10℃以上98℃以下が好ましく、20℃以上50℃以下がより好ましい。
【0048】
また、前記接触時間は、特に限定されないが、例えば、30~300秒が好ましく、60~180秒がより好ましい。
【0049】
2-1-2.塗膜形成工程
塗膜形成工程は、金属材料表面又は表面上に、皮膜形成するための処理剤を接触させ、塗膜として第1皮膜を形成する工程を少なくとも含む。接触方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、転がし法、浸漬法、フローコート法、スプレー法、刷毛塗り、液体静電塗装法、バーコーティング、粉体塗装などを実施して、塗膜を形成することができる。より具体的には、例えば、金属材料がシート状であれば、ロールコート法やスプレーコート法を実施することが好ましい。また、金属材料が成形品であれば、浸漬法を実施することが好ましい。また原料が固体を含む場合には、水や有機溶媒などの溶媒に予め固体の原料を溶解、又は、分散させた後、処理剤を調製してもよい。
【0050】
前記塗膜の付着量は、特に限定されないが、例えば、0.5g/m以上50.0g/m以下であり、好ましくは、2.0g/m以上20.0g/m以下、より好ましくは、2.0g/m以上10.0g/m以下である。前記付着量は、処理剤の組成や濃度等、接触方法、接触温度や接触時間等の接触条件を変更することで、調整することが可能である。
【0051】
前記処理剤の接触条件は特に限定されない。例えば、前記処理剤を接触する際の処理剤の温度は、10℃以上80℃以下であり、好ましくは25℃以上75℃以下であり、より好ましくは25℃以上60℃以下であるが、これらの温度に制限されるものではない。なお、接触時間は適宜設定することができるが、通常、2秒以上180秒以内である。
【0052】
第1皮膜形成工程は、必要に応じ、乾燥工程を含むことができる。前記乾燥方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア等が挙げられる。また、これら複数を組み合わせてもよい。
【0053】
また、乾燥時間は、処理剤の組成によって適宜最適な条件を選択することができる。乾燥時間は、1秒以上、1800秒以下の範囲内が好ましく、10秒以上、1200秒以下の範囲内がより好ましい。
【0054】
乾燥温度は、通常の乾燥温度であればよく、金属材料の最高到達温度(PMT)が60℃以上150℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が60℃未満であると、表面処理剤の主溶媒である水分が残存して、皮膜が金属材料表面上に固定できなくなることもある。このような場合、水分が揮発するまで60℃未満の温度を維持することも可能である。水分が揮発するまで乾燥を続けることは生産性を低下させるから、前記60℃以上の乾燥温度が好ましい。
【0055】
2-2.第1皮膜と、第2皮膜との間に含まれる皮膜の形成方法
第1皮膜と、第2皮膜との間に含まれる皮膜の製造方法は、第1皮膜の表面に、所望する単層の又は複数の層を積層させた皮膜を形成する皮膜形成工程を含む。前記皮膜形成工程は、特に限定されず、形成する皮膜に応じた公知の方法を用いることができる。例えば、化成皮膜を形成する化成処理工程、塗膜を形成する処理剤と第1皮膜が形成した金属材料の接触工程及び乾燥工程、めっき皮膜を形成するめっき処理工程等が挙げられる。各工程の処理条件は、特に限定されず、それぞれの皮膜とその形成方法に応じた処理条件を用いることができる。
【0056】
2-3.第2皮膜形成工程
第2皮膜形成工程は、金属材料の表面又は表面上に形成された第1皮膜の表面又は表面上に、第2皮膜を形成するための処理剤を接触させる工程を含む。接触方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されず、前記塗膜形成工程における接触方法と同様の方法を用いることができる。また原料が固体を含む場合には、水や有機溶媒などの溶媒に予め固体の原料を溶解、又は、分散させた後、処理剤を調製してもよい。
【0057】
前記処理剤の接触条件は特に限定されない。例えば、前記処理剤を接触する際の処理剤の温度は、10℃以上80℃以下であり、好ましくは25℃以上75℃以下であり、より好ましくは25℃以上60℃以下であるが、これらの温度に制限されるものではない。なお、接触時間は適宜設定することができるが、通常、2秒以上180秒以内である。
【0058】
第2皮膜の形成工程は、必要に応じ、乾燥工程を含むことができる。乾燥方法は、前記塗膜の接触方法には限定されず、前記塗膜の乾燥方法と同様の方法を用いることができる。
【0059】
また、乾燥時間は、処理剤の組成によって適宜最適な条件を選択することができるが、生産性と皮膜形成性の観点から、1秒以上、1800秒以下の範囲内が好ましく、10秒以上、1200秒以下の範囲内がより好ましい。
【0060】
乾燥温度は、通常の乾燥温度であればよく、金属材料の最高到達温度(PMT)が60℃以上150℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が60℃以上であると、表面処理剤の主溶媒である水分が残存し難く、皮膜が金属材料表面上に固定され易くなり、耐食性にも好適と言える。
【0061】
第2皮膜の付着量は、特に限定されないが、例えば、0.1g/m以上20.0g/m以下であり、好ましくは、2.0g/m以上15.0g/m以下である。なお前記付着量は、処理剤の組成や濃度等、接触方法、接触温度や接触時間等の接触条件を変更することで、調整することが可能である。
【0062】
2-4.清浄化工程
清浄化工程は、金属材料、第1皮膜、及び、第1皮膜と、第2皮膜との間に含まれる各皮膜の表面を、例えば、水洗(例えば湯洗)、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄、酸洗等により清浄化する工程である。
【0063】
清浄化工程は、金属材料、第1皮膜、及び、第1皮膜と第2皮膜との間に含まれる各皮膜の表面又は表面上に、作業中に付着した油分、汚れやスケールを除去する目的で実施される。また金属材料の表面又は表面上には、防錆目的で防錆油が塗られている場合があり、その場合には防錆油を除去する目的も含まれる。清浄化工程を実施することにより、前記表面又は表面上を清浄し、その表面又は表面上に積層する皮膜の処理剤等を前記表面に均一に接触させることができるようになる。なお、前記表面又は表面上に油分や汚れ等が無く、前記化成処理剤や塗料を均一に接触させることができる場合は、特に本清浄化工程を行う必要はない。
【0064】
3.塑性加工方法
本実施形態に係る塑性加工方法は、特に限定されないが、例えば、鍛造、押し出し加工、伸線加工、伸管加工、引き抜き加工、絞り加工、曲げ加工、接合加工、せん断加工、サイジング加工等の公知の方法が挙げられる。
【実施例
【0065】
以下に、本発明の実施例と比較例を挙げることにより、本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0066】
(1-1)金属材料 実施例1~19及び比較例1~4に用いた金属材料の形状は、参考文献(高橋昭紀・広瀬仁俊・小見山忍・王志剛:第62回塑性加工連合会講演論文集,(2011),89・90)に開示されているボールしごき形摩擦試験法に用いられる据え込み率が45%となる樽状の形状とした。
前記金属材料の材質は、実施例1~10、比較例1、3及び4においては、S10C材を用い、実施例11~19及び比較例2はSUS430材を用いた。
【0067】
(1-2)各種表面処理剤の調製
実施例1~19の第1皮膜及び第2皮膜を形成するための表面処理剤を、表1に示す組み合わせにて調製した。以下には、第1皮膜形成用の表面処理剤を表面処理剤A、第2皮膜形成用表面処理剤を表面処理剤Bとして説明する。
【0068】
・表面処理剤A
実施例1から10の表面処理剤Aを調製した。まず、パルボンド181XM(日本パーカライジング株式会社製)を濃度が90.0g/Lとなるように脱イオン水に加えた。そして、滴定法により求めた全酸度の数値を、同様に求めた遊離酸度の数値で除し、これを酸比(全酸度/遊離酸度)として、これが6.5となることを確認した。
次に、促進剤131(日本パーカライジング株式会社製)を用いた促進剤の濃度(単位がポイント)が2.5ポイントとなるように調整した。
促進剤131の濃度は、サッカロメーター(容量は50mL)と称するガラス器具を用いて、計測した。濃度測定は、促進剤を添加した表面処理剤をサッカロメータに充填し、表面処理剤に含まれる促進剤と反応する試薬205(日本パーカライジング株式会社製)を5g加えた。このとき、表面処理剤に促進剤が含まれていれば、ガスが発生する。発生したガスの容積は促進剤の濃度を示し、発生したガス量が1mLであれば表面処理剤に含まれる促進剤の濃度(単位はポイント)は1ポイントとした。
【0069】
実施例11から19の表面処理剤Aを調製した。まず、フェルボンドA1とフェルボンドA2(いずれも日本パーカライジング株式会社製)を用いて、前者の濃度が40.0g/Lであり、後者の濃度が20.0g/Lとなるように脱イオン水に加えた。次に、促進剤16(日本パーカライジング株式会社製)を用いた促進剤の濃度が1.0ポイントとなるように調整した。
促進剤16の濃度は、25mLのホールピペットで表面処理液をビーカーに採取し、脱イオン水を50mL加え、試薬54(日本パーカライジング株式会社製)を25.0mL及び指示薬10(日本パーカライジング株式会社製)加え、滴定液53(日本パーカライジング株式会社製)で液が暗青色となるまで滴定した。それまでに要した前記滴定液53の滴下量を促進剤濃度(単位はポイント)とした。
【0070】
・表面処理剤B
表面処理剤Bは、表1に記載した芳香族カルボン酸化合物又はその塩若しくはその過酸化物を蒸留水に添加することで調製した。表面処理剤中Bの芳香族カルボン酸化合物又はその塩若しくはその過酸化物の濃度は、表面処理剤Bにより形成される第2皮膜の付着量が4.0g/m、8.0g/m、12g/mとなるように制御した。
【0071】
比較例1~4における、単独の皮膜を形成するための表面処理剤として、下記を用いた。
比較例1における表面処理剤:実施例1~10の表面処理剤A
比較例2における表面処理剤:実施例11~19の表面処理剤A
比較例3における表面処理剤:鉱物油(パラフィン系鉱物油 40℃のとき8cst(センチストークス))
比較例4における表面処理剤:実施例2及び12の表面処理剤B
【0072】
(1-3)金属材料の洗浄処理
前記実施例と比較例に用いられる金属材料の表面は、以下の方法によって洗浄した。
【0073】
市販の脱脂剤(ファインクリーナーE6400、日本パーカライジング株式会社製)の濃度を、水道水を用いて20g/Lに調製し、加熱して温度60℃で一定とした。金属材料を前記脱脂剤に10分間浸漬し、脱脂を行った。続いて、25℃の水道水に20秒間浸漬して残った脱脂剤や汚れなどを水洗した。次に、水洗後の前記金属材料を、25℃にした17.5%の塩酸に10分間浸漬し、水洗で除去しきれなかった汚れを除去した。さらに25℃の水道水に20秒間浸漬して金属材料に付着した塩酸を洗い流した。
【0074】
(1-4)実施例1~19の第1皮膜及び第2皮膜の形成方法
前記洗浄処理を行った金属材料に対し、以下の方法で第1皮膜及び第2皮膜を形成した。
【0075】
・実施例1~10
前記洗浄した金属材料を、80℃に調整した表面処理剤Aに10分間浸漬し、第1皮膜を形成した。続いて、第1皮膜を形成した金属材料を25℃の水道水に30秒間浸漬し水洗を行った。実施例1~10の第1皮膜の付着量を表1に示した。付着量は、第1皮膜形成前後の金属材料の重量を測定し、その差を付着重量とし、元の金属材料の表面積で除して算出した。
【0076】
さらに、前記第1皮膜を形成した金属材料を、60℃に加熱した表面処理剤Bに15秒間浸漬し、取り出したのち自然乾燥させ、第2皮膜を形成し、実施例1~10の塑性加工用金属材料とした。第2皮膜の付着量を表1に示した。付着量は第2皮膜形成前後の金属材料の重量を測定し、その差を付着重量とし、元の金属材料の表面積で除して算出した。
【0077】
・実施例11~19
前記洗浄した金属材料を、90℃に調整した表面処理剤Aに10分間浸漬し、第1皮膜を形成した。続いて、第1皮膜を形成した金属材料を25℃の水道水に30秒間浸漬し水洗を行った。実施例11~19の第1皮膜の付着量を表1に示した。付着量は、実施例1~10と同様の方法で算出した。
【0078】
さらに、前記第1皮膜を形成した金属材料を、60℃に加熱した表面処理剤Bに15秒間浸漬し、取り出したのち自然乾燥させ、第2皮膜を形成し、実施例11~19の塑性加工用金属材料とした。実施例11~19の第2皮膜の付着量を表1に示した。付着量は、実施例1~10と同様の方法で算出した。
【0079】
(1-5)比較例1~4の単独の皮膜の形成方法
比較例1は、実施例1~10の第1皮膜の形成方法と同様の方法で、単独の皮膜を形成し、続いて、金属材料を25℃の水道水に30秒間浸漬し水洗を行い、比較例1の塑性加工用金属材料とした。
比較例2は、実施例11~19の第1皮膜の形成方法と同様の方法で、単独の皮膜を形成し、続いて、金属材料を25℃の水道水に30秒間浸漬し水洗を行い、比較例2の塑性加工用金属材料とした。
比較例3は、40℃に加熱した鉱物油に10秒間浸漬した後に取り出し、前記鉱物油の付着量(g/m)が4.0g/mとなるように過剰な鉱物油をふき取り、比較例3の塑性加工用金属材料とした。
比較例4は、実施例2及び12の第2皮膜形成方法と同様の方法で、単独の皮膜を形成し、続いて、金属材料を25℃の水道水に30秒間浸漬し水洗を行い、比較例4の塑性加工用金属材料とした。
比較例1~4の単独の皮膜の付着量を表1に示した。
【0080】
(1-6)評価試験
(1-6-1)ボールしごき試験
耐焼付き性及び潤滑性の評価は、前出の参考文献に開示されているボールしごき形摩擦試験法に基づいて実施した。
【0081】
評価試験は、皮膜形成後、樽状の試験片において、張り出した側面部分を対象に、3個のボール形状の金型(直径10mmのSUJ-2ベアリングボール)を用いて、しごき加工(強加工)を行った。各試験片の耐焼付き性評価は、表面積の拡大が認められるしごき加工の後半の外観を、図1に示す評価基準(Aが最も優れる)に従って、目視にて判定した。また、各試験片の潤滑性評価は、以下の評価基準に従って評価した。
なお、本実施例では塑性加工前後の耐食性(等しい環境での発錆状況の比較)に差がないことから、塑性加工後の第2皮膜は残存し、第1皮膜を保護していると考えられた。
【0082】
<潤滑性の評価基準>
しごき加工時に得た最大荷重値を、下記の評価基準とする最大荷重値の範囲とを照らし合わせ、潤滑性を評価した。最大荷重値が小さい方が潤滑性に優れる。
A:最大荷重値が38kN未満である。
B:最大荷重値が38kN以上40kN未満である。
C:最大荷重値が40kN以上42kN未満である。
D:最大荷重値が42kN以上である。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
なお、本発明については、具体的な実施例を参照して詳細に説明されるが、本発明の趣旨及び範囲から離れることなく、種々の変更、改変を施すことができることは当業者には明らかである。
図1