(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】アルミニウムブレージングシート
(51)【国際特許分類】
B23K 35/28 20060101AFI20220830BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20220830BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
(21)【出願番号】P 2020568047
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051412
(87)【国際公開番号】W WO2020153103
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/002119
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼一
(72)【発明者】
【氏名】松下 彬
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-050861(JP,A)
【文献】特許第4547032(JP,B1)
【文献】特開2012-050992(JP,A)
【文献】特開2014-155955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22 - 35/28
C22C 21/00 - 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、
質量%で、Mgを0.01~2.0%、Siを1.5~14.0%、Biを0.005~1.5%およびBを0.005~0.2%含有するAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材が心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置し、
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物は、表層面(RD-TD)方向の観察により、円相当径で0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり10個よりも多く存在し、かつ、5.0μm以上の径を有する粗大Mg-Bi系化合物が10000μm
2視野あたり2個未満であり、さらに、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれ、前記表層面方向の観察において、円相当径で5.0μm以上の径を有する粗大Bi単体粒子が10000μm
2視野あたり5個未満であり、かつ、長辺の長さが50μm以上の粗大Si粒子が1000000μm
2あたり3個以下であることを特徴とするアルミニウムブレージングシート。
【請求項2】
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるSi粒子は、前記表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径を有するSi粒子の数の内、円相当径で1.75μm以上の径を有
し、前記粗大Si粒子よりも小さい比較的粗大なSi粒子の数が25%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項3】
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるSi粒子は、円相当径で1.75μm以上の径を有
し、前記粗大Si粒子よりも小さい比較的粗大なSi粒子の面積率が対表面積で0.1~1.5%の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項4】
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるMgとBiの原子組成比が、Mg/Bi=1.5以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項5】
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれる不純物中で、Caが質量ppmで100ppm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項6】
前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に、さらに、質量%で0.1~9.0%のZnを含有する請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項7】
前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項8】
前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項9】
前記心材に犠牲材がクラッドされ、前記犠牲材が質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%の内1種または2種以上を含有する請求項1~8のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラックスフリーろう付用などのアルミニウムブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ラジエータなどのアルミニウム製自動車用熱交換器は、これまでの小型軽量化と共にアルミニウム材料の薄肉高強度化が進んできている。アルミニウム製熱交換器の製造では、継手を接合するろう付が行われるが、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法では、フラックスが材料中のMgと反応して不活性化しろう付不良を生じ易いため、Mg添加高強度部材の利用が制限される。このため、フラックスを使用せずにMg添加アルミニウム合金を接合するろう付方法が望まれている。
【0003】
Al-Si-Mgろう材を用いるフラックスフリーろう付では、溶融して活性となったろう材中のMgが接合部表面のAl酸化皮膜(Al2O3)を還元分解することで接合が可能となる。閉塞的な面接合継手などでは、Mgによる酸化皮膜の分解作用によりろう材を有するブレージングシート同士を組合せた継手や、ブレージングシートとろう材を有さない被接合部材(ベア材)を組合せた継手で良好な接合状態が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2014-50861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、チューブとフィン接合部など雰囲気の影響を受け易い継手形状では、Mg添加ろう材の表面でMgO皮膜が成長し易くなるが、MgO皮膜は分解され難い安定な酸化皮膜であるため接合が著しく阻害される。このため、開放部を有する継手で安定した接合状態が得られるフラックスフリーろう付方法が強く望まれている。
【0006】
フラックスフリーろう付の接合状態を安定させる方法として、例えば特許文献1に示すAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材を用い、ろう材中のBi粒子やMg-Bi化合物粒子の分布状態を制御する技術が提案されている。この技術によれば、円相当径5.0~50μmの単体BiあるいはBi-Mg化合物をろう材中に分散させておくことで、これら化合物が材料製造時にろう材表面に露出し、露出部での酸化皮膜形成が抑制されることで短時間のろう付加熱時間でのフラックスフリーろう付性が向上するとされている。
しかし、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法を代替できるほどに安定した接合性が得られているとは言い難く、一般的な熱交換器に広く適用するためには、さらなる技術の向上が必要である。
【0007】
そこで本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、Bi添加Al-Si-Mg-B系ろう材においてろう付性をさらに向上させるためには、ろう溶融時に表面にBiを均一に濃化させることが最も重要であることを見出した。また、本発明者らは、5μm以上の粗大なMg-Bi系化合物は、材料製造時の酸化皮膜生成抑制には効果があるものの、ろう付加熱時に溶解しにくいことを見出した。更に、本発明者らは、むしろある程度微細な円相当径0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi系化合物を所定の数密度以上に分散させることで、ろう付加熱時に確実にMg-Bi系化合物が溶解することを見出した。更に、本発明者らは、前記Mg-Bi系化合物の溶解により、金属Biを生成し、かつ、生成したBiが表面に均一に濃化することで、良好なろう付性が得られることを見出した。
また、本発明者らは、ろう付前のろう材中に円相当径5.0μm以上の粗大Bi単体粒子が存在すると、ろう付昇温過程の低温域でBiが溶融し、材料表面に濃化することを見出し、更に、昇温すると、ろう溶融前にBi酸化物などが材料表面に堆積し、接合が阻害されるため、ろう付前の粗大Bi単体粒子を抑制することが重要であることを見出した。
【0008】
さらに、Al-Si-Mg系ろう材において、Al-Si系で亜共晶組成であってもあたかも初晶Siのような粗大なSiが晶出する場合がある。粗大なSi晶出物の粒子はAlより相対的に硬く、鋳造後の圧延工程でも破砕されずに、ろう材に粗大なまま残存してしまう。粗大に残存したSi晶出物の粒子はろう付時にAl中に拡散し、Si濃度を上昇させるので、Alの融点を低下させ、ろう付時に局所的に溶融するエロージョンが発生する原因となる。そのため、粗大なSiが晶出しないようにしなければならない。
【0009】
例えば、非特許文献『鋳造工学』89巻6号P375に、冷却速度によっては初晶のようなSiが晶出し、ブレージングシートで問題となると記載されている。
更に、非特許文献『アルミニウムの組織と性質』軽金属学会発行(1991)P239には、AlにSrやNa、Sbを添加し、共晶組織を改良できることが示されている。しかしながら、Mg、Biを含むAl合金においては、非特許文献Journal of Alloys and Compounds,Volume 656, 25 January 2016, Pages 944-956に記載のように、SrはMg、Biが入っているAl合金の場合に化合物を形成し、共晶改良効果が失われるとされており、容易に改良できない。
【0010】
かかる状況下、本発明者らは、Bを0.005~0.2質量%、より望ましくは、0.01~0.1質量%を添加してろう材を鋳造することにより、粗大なSiの晶出を抑制できることを見出した。
抑制された後のSi粒子の粒径は、50μm以下、より望ましくは20μm以下が望ましい。
粗大Si粒子の定義:粗大Si粒子とは、針状ではなく、アスペクト比が5以下の粒子であり、粗大Si粒子とは、長辺の長さが50μm以上の粒子である。
粗大Si粒子は、冶金学的な意味として、平衡凝固による共晶凝固により晶出するものではなく、Siの非平衡な偏析、AlP化合物の存在、過冷却の存在等により、非平衡的に晶出する粒子を意味する。
【0011】
本発明は、前記事情を背景としてなされたものであり、フラックスフリーろう付において良好な接合性が得られるフラックスフリーろう付用アルミニウムブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ろう付前のAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材中のMg-B i系化合物を微細かつ密に分散させることで、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中のフラックスフリーろう付で優れた接合状態が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明のフラックスフリーろう付用アルミニウムブレージングシートのうち、第1の形態は、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、質量%で、Mgを0.01~2.0%、Siを1.5~14.0%、Biを0.005~1.5%およびBを0.005~0.2%含有するAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材が心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置し、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物は、表層面(RD-TD)方向の観察により、円相当径で0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり10個よりも多く存在し、かつ、5.0μm以上の径を有する粗大Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり2個未満であり、さらに、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれ、前記表層面方向の観察において、円相当径で5.0μm以上の径を有する粗大Bi単体粒子が10000μm2視野あたり5個未満であり、かつ、長辺の長さが50μm以上の粗大Si粒子が1000000μm2あたり3個以下であることを特徴とする。
【0014】
他の形態のブレージングシートにおいて、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるSi粒子は、前記表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径を有するSi粒子の数の内、円相当径で1.75μm以上の径を有し、前記粗大Si粒子よりも小さいSi粒子の数が25%以上であることを特徴とする。
【0015】
他の形態のブレージングシートにおいて、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるSi粒子は、円相当径で1.75μm以上の径を有し、前記粗大Si粒子よりも小さいSi粒子の面積率が対表面積で0.1~1.5%の範囲であることを特徴とする。
【0016】
他の形態のブレージングシートにおいて、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるMgとBiの原子組成比が、Mg/Bi=1.5以上であることを特徴とする。
【0017】
他の形態のブレージングシートにおいて、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれる不純物中で、Caが質量ppmで100ppm以下であることを特徴とする。
【0018】
他の形態のブレージングシートにおいて、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に、さらに、質量%で0.1~9.0%のZnを含有することができる。
【0019】
他の形態のブレージングシートは、前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0020】
他の形態のブレージングシートは、前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0021】
他の形態のブレージングシートは、前記心材に犠牲材がクラッドされ、前記犠牲材が質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%の内1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0022】
以下に、本発明において規定される組成等について以下に説明する。なお、含有量の記載はいずれも質量比で示され、質量比の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、0.01~2.0%は、0.01%以上、2.0%以下を意味する。
ろう材
Mg:0.01~2.0%
Mgは、Al酸化皮膜(Al2O3)を還元分解する。但し、含有量が過小であると、効果が不十分であり、一方、過剰に含有すると、ろう付雰囲気中の酸素と反応して接合を阻害するMgOが生成することや、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。このため、本形態のろう材におけるMgの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でMg含有量を、下限で0.05%、上限で1.5%とするのが望ましい。
【0023】
Si:1.5~14.0%
Siは、ろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成する。但し、含有量が過小であると、フィレットを形成するための溶融ろうが不足する。一方、過剰に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。このため、本形態のろう材において、Siの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でSi含有量を、下限で3.0%、上限で12.0%とするのが望ましい。
【0024】
Bi:0.005~1.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃化し、緻密な酸化皮膜の成長を抑制する。さらに、溶融ろうの表面張力を低下させることで隙間充填性が向上する。但し、含有量が過小であると、効果が不十分であり、一方、過剰に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。このため、本形態のろう材においてBiの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でBi含有量を、下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。
【0025】
B:0.005~0.2質量%
ろう材にBを添加することで粗大Si粒子の析出を抑制できるが、0.005質量%未満では所望の微細化効果が得られない。Bは通常Al-4%B母合金で添加するが、その中に含まれるAlB2あるいはAlB12の融点が高く、0.2質量%を超えると粗大なAlB2あるいは粒子の溶け残りが多く残存し、その粒子自体が圧延時の欠陥やろう付時の穴あきなどの欠陥の原因となり得るため好ましくない。よりよい粗大化抑制効果を得るためには、B含有量を0.01質量%以上とすることが望ましく、溶け残りをより少なくするには0.1質量%以下とすることがより望ましい。
【0026】
Bは母合金中に存在するAlB2あるいはAlB12として粗大Si粒子の析出抑制効果を発揮するのではなく、Bがアルミ溶湯中に溶けて効果を発揮すると思われる。溶解したBはSi粒子の成長時に界面に濃縮し、成長を抑制する効果や結晶成長時に多くの双晶が導入され、Si粒子の成長を結果的に抑制する効果を有するものと考えられる。
なお、Bを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えばBを0.005質量%以下、ろう材中に含有してもよい。
【0027】
Ca:100質量ppm以下
Caは、不可避不純物としては、通常数百質量ppm程度以下で含有するが、Biと高融点化合物を形成し、Biの作用を低下させるので含有量を制限するのが望ましい。100質量ppmを超えると、Biの作用が低下しろう付性が不十分となるので、100質量ppmを上限とするのが望ましい。なお、同様の理由で本形態のろう材におけるCa含有量を10質量ppm以下とするのが一層望ましい。
【0028】
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の電位を卑にすることで犠牲防食効果が得られるので、所望により含有させる。ただし、Znを含有させる場合、含有量が過小であると犠牲防食効果が不十分となり、一方、過大であると効果が飽和する。このため、本形態のろう材においてZnを含有する場合は、含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由でZn含有量を、下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。また、Znを積極添加しない場合でも、Znを不純物として0.1%未満で含有するものであってもよい。
【0029】
また、ろう材には、他の元素として、各2.0%以下ただし合計でも2.0%以下のIn、Sn、Mn、各1.0%以下ただし合計でも1.0%以下のFe、Ni、Ce、Se、各0.3%以下ただし合計でも0.3%以下のBe、Na、Sb、Ti、Zr、P、S、K、Rbなどの一種以上を含有してもよい。
【0030】
微細Mg-Bi系化合物:本形態のろう材には、円相当径で、0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり10個よりも多く含まれている。
微細Mg-Bi系化合物が分散することで、ろう付昇温過程で化合物が溶融した際に、Biが材料表面に均一に濃縮し易くなり、緻密な酸化皮膜の成長が抑制される。ろう材に含まれる微細Mg-Bi系化合物が10個以下であると、緻密な酸化皮膜の抑制効果が不十分となり、ろう付性が低下する。同様の理由で、本形態のろう材に含まれる微細Mg-Bi系化合物は、20個以上であることが望ましい。
【0031】
なお、ろう材表面の微細Mg-Bi系化合物の数は、作製した材料のろう材表面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行うと共に、さらに、1μm以下の微細Mg-Bi系化合物を測定するため、切出したろう材層の表面から機械研磨、および電解研磨を行って薄膜を作製し、TEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、表面方向10000μm2(100μm角)の観察視野において、0.01μm以上5.0μm以下の微細Mg-Bi系化合物の粒子数をカウントすることで求められる。
【0032】
また、Mg-Bi系化合物を細かく密に分布させる手段としては、鋳造時に、溶湯温度が高いところから早い冷却速度で鋳込むこと、熱延時に、一定以上の大きな総圧下量をとること、高温域での圧延時間を長くとること、熱延仕上り温度を一定以上低く、かつ、その後の冷却速度を早くすることなどを適正に組み合わせることで調整することができる。
【0033】
粗大Mg-Bi系化合物:円相当径で、5.0μm径以上の粗大Mg-Bi系化合物が10000μm2視野(100μm角)あたり2個未満
粗大Mg-Bi系化合物は、ろう付昇温過程で溶融し難く、材料表面にBiが均一に濃化しにくくなるため、酸化皮膜成長の抑制効果が低い。また、粗大Mg-Bi系化合物ができることで5.0μm未満の微細Mg-Bi化合物の生成量が減るため、酸化皮膜成長の抑制効果が低下する。
なお、ろう材表面の粗大Mg-Bi系化合物の数は、前述したEPMAによる全自動粒子解析により求められる。
また、粗大Mg-Bi系化合物の生成を抑制する手段としては、前述の条件と同様に鋳造時に溶湯温度が高いところから早い冷却速度で鋳込むこと、熱延時には、一定以上の大きな総圧下量をとること、高温域での圧延時間を長くとること、熱延仕上り温度を一定以上低く、かつ、その後の冷却速度を早くすることなどを適正に組み合わせることで調整することができる。
【0034】
粗大Bi単体粒子:円相当径で5.0μm以上の粗大Bi単体粒子が10000μm2視野(100μm角)あたり5個未満
ろう材中に粗大Bi単体粒子が存在すると、ろう付昇温過程でBiの融点である271℃から溶融して材料表面に濃化するが、濃化が始まる温度域は、ろう付昇温過程の低い温度域である。このため、ろう材が溶融するまでに材料表面でBiが酸化して堆積することや、早い段階で酸化皮膜が不安定となり、再酸化が進み易くなることで、接合が阻害され、良好な接合状態が得られ難くなる。また、酸化によりBiが消耗するため、溶融ろうの表面張力を低下させる効果が低下する。
【0035】
このとき、ろう材中で粗大Bi単体粒子が殆ど存在しないように材料を作製することでこれら問題を防止することが可能となる。具体的には、前記Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれる円相当径で5.0μm径以上の粗大Bi単体粒子を、ろう付前の表層面(RD-TD)方向の観察において、10000μm2視野あたり5個未満とすることで、酸化などによるBiの消耗が殆どなく、Bi添加によるろう付性向上効果を大きくできる。前記(RD-TD)において、RDはRolling Direction(圧延方向)を示し、TDはTransversal Direction(圧延直角方向)を示す。
ろう材表面の粗大Bi単体粒子の数は、作製した材料のろう材表面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行うことで求めることができる。
【0036】
なお、粗大Bi単体粒子の発生を抑制する手段としては、合金のMgとBiの配合比率や、鋳造時の溶湯温度と冷却速度、および、均質化処理条件を適正に組み合わせることで調整することができる。鋳造時の溶湯温度が低いほど、また、鋳造時の冷却速度が遅いほど、粗大Bi単体粒子の数が増加する傾向があり、均質化処理条件が低温で短時間であるほど、同様に粗大Bi単体粒子の数が増加する傾向にある。
【0037】
ろう材表層面におけるSi粒子の分布
(1)円相当径0.8μm以上のSi粒子のうち、円相当径が1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の数が25%以上
本形態を実施するにあたっては、ろう材表面に円相当径:1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子が存在していることが好ましい。通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl2O3等の酸化皮膜が存在し、ろう付熱処理過程ではこれがさらに成長し、厚膜となる。酸化皮膜の厚みが増すほど、酸化皮膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。しかし、本形態では、ろう材表面に円相当径:1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子が存在することで、比較的粗大なSi粒子表面にアルミニウムの緻密な酸化皮膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化皮膜欠陥として働く。
【0038】
すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付熱処理中に厚膜となっても、円相当径:1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化皮膜破壊作用が進んでいくものと考えられる。ここで言う円相当径:1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe-Si系化合物や、Fe-Siを主成分とするAl-Fe-Si系の金属間化合物等をも含むものとする。
本形態の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に1.75μm以上の円相当径:1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子が25%以上存在すると、この効果が十分に得られる。なお、ここで、ろう材の表面とは、酸化皮膜を除いたアルミニウム合金生地の表面を意味しており、酸化皮膜を除いたアルミニウム合金生地の表面のいずれかの面方向において、前記条件を満たしていればよい。
【0039】
ろう材表面のSi粒子はそのサイズが小さ過ぎると、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。したがって、1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の数が、0.8μm以上のSi粒子の数の25%以上とした。比較的粗大なSi粒子の数の割合が25%未満では、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。
ろう材のSi粒子分布は、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等の調整によってSi粒子の大きさや面積率を制御することができる。
【0040】
(2)円相当径1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の面積率が対表面積で0.1~ 1.5%
また、比較的粗大なSi粒子の分布密度が低い場合は、ろう材の染み出しが発生する箇所が少なく、酸化皮膜の破壊や分断も不十分となるため、安定した接合状態を得ることが困難となる。本形態では、円相当径1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の面積率を規定することで、ろう材の染み出しが発生する箇所を十分に確保する。
対表面積(ろう材全体の表面積)に対する前記面積率(ろう材中の比較的粗大なSi粒子の表面積比率)が下限未満であると、接合面内の接合起点が少なすぎ、充分な接合状態が得られない。一方、前記面積率が上限を超えると、比較的粗大なSi粒子部において材料側ろう侵食が顕著となり、ろう付不具合の原因となる。よって、比較的粗大なSi粒子の面積率を前記範囲に定めている。
比較的粗大なSi粒子の面積率は、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等の調整によってSi粒子の大きさや面積率を制御することができる。
【0041】
(3)粗大Si粒子:長辺の長さが50μm以上の粗大Si粒子が1000000μm2あたり3個以下
鋳造起因の粗大Si粒子は塊状、あるいは板状で熱間圧延でも破砕されずにブレージングシートにそのまま残存することが多い。この粗大Si粒子はろう付時にエロージョンと呼ばれる局所溶融を引きおこし、穴あきの原因となる。
また、この粗大Si粒子は鋳造時に生じるものであり、例えば、DC鋳造時の表面側と中心側とで凝固条件が異なることから、分布状態に差が出る可能性がある。また、ブレージングシートは、通常はコイルから幅方向および長さ方向ともに分割して切り出されて供される。そのため、異なる鋳造条件でも生じていないことを確認するため、鋳造時の幅方向に3分割した場合にそれぞれが含まれるように、さらに長さ方向でも鋳造時の高さ方向(横型連鋳の場合は長さ方向)に3分割した場合にそれぞれが含まれるように観察し、観察視野として1000000μm2視野(1000μm角)を構成することが好ましい。
【0042】
MgとBiの原子組成比(Mg/Bi):1.5以上
前記MgとBiの原子組成比を満たすことで、ろう材中の単体Biの生成を抑制し、ろう付性を向上させるので、所望により前記MgとBiの原子組成比を規定する。
前記原子組成比が1.5未満であると、単体Biが生成し易くなり、ろう付性が低下する。なお、同様の理由により、前記MgとBiの原子組成比はさらに4.0以上であることが望ましい。
【0043】
心材
本形態における心材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
心材は、一例として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
また、心材は、他の例として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
【0044】
Si:0.05~1.2%
Siは、固溶により材料強度を向上させる他、Mg2SiやAl-Mn-Si化合物として析出し材料強度を向上させる効果がある。但し、含有量が過小であると、効果が不十分となる。一方、含有量が過大であると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にSiを含有させる場合、Si含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Si含有量を下限で0.1%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Siを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下心材に含有してもよい。
【0045】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、Siなどとの化合物が析出することで材料強度を向上する。一部はろう材に拡散し、酸化皮膜(Al2O3)を還元分解する。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、心材にMgを含有させる場合、Mg含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mg含有量を、下限で0.05%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Mgを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0046】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。さらに固溶により材料の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、材料が硬くなり素材圧延性が低下する。これらのため、心材にMnを含有させる場合、Mn含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mn含有量を下限で0.3%、上限で1.8%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
【0047】
Cu:0.01~2.5%
Cuは、固溶して材料強度を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にCuを含有させる場合、Cu含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Cu含有量を下限で0.02%、上限で1.2%とするのが望ましい。なお、Cuを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0048】
Fe:0.05~1.5%
Feは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。さらに、ろう付時の再結晶を促進させ、ろう侵食を抑制する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、ろう付後の腐食速度が速くなる。これらのため、心材にFeを含有させる場合、Fe含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Fe含有量を下限で0.1%、上限で0.6%とするのが望ましい。なお、Feを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下含有する心材であってもよい。
【0049】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にZrを含有させる場合、Zr含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zr含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Zrを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0050】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にTiを含有させる場合、Ti含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Ti含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Tiを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0051】
Cr:0.01~0.5%
Crは、微細な金属間化合物を形成し、材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にCrを含有させる場合、Cr含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Cr含有量を下限で0.05%、上限で0.3%とするのが望ましい。なお、Crを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0052】
Bi:0.005~1.5%
Biは、一部がろう材層に拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させる。また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、心材にBiを含有させる場合、Bi含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。なお、Biを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する心材であってもよい。
【0053】
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和する。これらのため、心材にZnを含有させる場合、Zn含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zn含有量を下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。なお、Znを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
【0054】
犠牲材
本形態では、心材に犠牲材をクラッドしたアルミニウムブレージングシートとすることができる。
本形態における犠牲材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の自然電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮させ、クラッド材の耐孔食性を向上させるために犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると電位が卑となりすぎて犠牲材の腐食消耗速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZn量を下限で1.0%、上限で8.0%とするのが望ましい。
【0055】
Si:0.05~1.2%
Siは、Al-Mn-Si、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるSi量を下限で0.3%、上限で1.0%とするのが望ましい。
【0056】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、酸化皮膜を強固にすることで耐食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると材料が硬くなりすぎて圧延製造性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMg量を下限で0.05%、上限で1.5%とするのが望ましい。
【0057】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、Al-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。同様の理由で、犠牲材に含まれるMn量を下限で0.4%、上限で1.8%とするのが望ましい。
【0058】
Fe:0.05~1.5%
Feは、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるFe量を下限で0.1%、上限で0.7%とするのが望ましい。
【0059】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、Al-Zr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Zrの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZr量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
【0060】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、Al-Ti系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Tiの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるTi量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
【0061】
Cr:0.01~0.5%
Crは、Al-Cr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや固溶Crの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるCr量を下限で0.1%、上限で0.4%とするのが望ましい。
【0062】
Bi:0.005~1.5%
Biは、溶融ろうが犠牲材表面に接触した際に溶融ろうに拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させ、また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制するので、所望により犠牲材に添加される。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、犠牲材に含まれるBi含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。ただし、Biを積極的に添加しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する犠牲材であってもよい。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、非酸化性雰囲気において、フラックスフリーで良好で安定したろう付接合を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】本発明の一実施形態におけるフラックスフリーろう付用のブレージングシートを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例におけるろう付評価モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。
本発明のブレージングシートに用いるアルミニウム材は、例えば以下の方法により製造することができる。
ろう材用アルミニウム合金としては、質量%で、Mgを0.01~2.0%、Siを1.5~14.0%、Biを0.005~1.5%、Bを0.005~0.2%含有し、所望により、これらの組成に加えて、質量%で0.1~9.0%のZnを含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成のAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材を調製する。
【0066】
なお、ろう材には、他の元素として各2.0%以下ただし合計でも2.0%以下のIn、Sn、Mnの少なくとも1種または2種以上、各1.0%以下ただし合計でも1.0%以下のFe、Ni、Ce、Seの少なくとも1種または2種以上、各0.3%以下ただし合計でも0.3%以下のBe、Na、Sb、Ti、Zr、P、S、K、Rbの少なくとも1種または2種以上などを含有してもよい。また、前記ろう材は、最表層に位置するものであり、その内層に、組成の異なるろう材を有するものであってもよい。すなわち、ろう材層は複数層からなるものとしてもよい。
内層のろう材を有する場合、内層のろう材の組成は特に限定されるものではないが、例えば、Al-Si系ろう材、Al-Si-Zn系ろう材などを挙げることができる。
【0067】
また、心材用アルミニウム合金として、質量%で、Si:0.05~1. 2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなる組成に調整する。
【0068】
なお、フッ化物系フラックスを使わないフラックスフリーろう付においては、Mgとの反応によるフラックスの不活性化が生じないため、材料の高強度化に有効なMgを心材に積極的に添加することができる。このとき、Mg単体で含有するよりもSiと共存させ、微細なMg2Si粒子を時効などで析出させることで大幅な強度向上が見込めるため、Mg、Siを心材に含有させる必須元素とすることが有効である。
【0069】
さらに、犠牲材を用いる場合は、犠牲材用アルミニウム合金として、例えば、質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなる組成に調整する。
【0070】
本形態の組成に調製してアルミニウム合金を溶製する。該溶製は半連続鋳造 法によって行うことができる。
BはAl4%Bの母合金を用いて添加し、添加後、高融点のAlB2をあるいはAlB12を溶解するため、溶湯の温度を750℃以上、より望ましくは800℃程度まで昇温してから半連続鋳造法によりスラブを作成するのが好ましい。
本形態では、ろう付前時点で微細なMg-Bi化合物を分散させるため、ろう材の鋳造時に高い溶湯温度から急冷することでMgとBiを鋳塊内で過飽和に固溶させる。具体的には、溶湯温度を700℃以上とすることでMgとBiの固溶度を高めることができる。
得られたアルミニウム合金鋳塊に対しては、所定条件で均質化処理を行う。均質化処理温度が低いと粗大なMg-Bi化合物が析出し、ろう付前時点で本形態のMg-Bi化合物の分布状態が得られにくくなるため、処理温度400℃以上で1~10時間行うことが望ましい。
【0071】
また、本形態では、ろう材に含まれるSi粒子で、円相当径で0.8μm以上の径をもつSi粒子の数の内、1.75μm以上の径の比較的粗大なSi粒子の数が25%以上とするのが望ましい。本材料を得るには、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等によってSi粒子の大きさや面積率を制御することができる。
例えば、ろう材を鋳造するにあたり、その冷却速度を10℃/secよりも遅くすると、凝固冷却で生じるSi粒子サイズが粗大になるが、その後の圧延工程でSi粒子が破砕されることで前記条件を満たすことが可能となる。但し、この冷却速度が10℃/secより速くなった場合においても、鋳造後に均質化処理として、例えば500℃以上の条件で数時間の熱処理を加えれば、Si粒子の粗大化が図れ、前記同様に、圧延後には本発明条件のSi粒子サイズを得ることが可能である。
また、熱間圧延時の圧下率は、一度の圧下率が大きいほどSi粒子が微細に破砕される。
【0072】
これらの条件を複合的に制御することでSi粒子の分布(大きさ、粗大な粒子の比率、面積率)を変えることができる。
ただし、前記、通常の共晶Siは針状に晶出するため、熱間圧延等で破砕されやすいが、初晶のように晶出する粗大Si粒子は塊状や板状になる形状の違いがあるため、破砕されにくい違いがある。そのため、針状ではない粗大Si粒子は、圧下率を高めてもろう材からクラッド材にめり込む形で残存してしまうことが多い。その為、粗大Si粒子の晶出は防がなければならないが、後記するように、Bを添加することで粗大Si粒子の晶出を抑制することができる。
【0073】
次に、前記ろう材を心材などと組み付けて熱間でクラッド圧延するが、このとき、本形態では、熱延時の所定温度での圧延時間、熱延開始から終了までの相当ひずみ、熱延仕上げ温度、熱延後の冷却速度を制御し、Mg-Bi化合物を所定のサイズと数密度に調整する。
【0074】
まず、熱延時所定の温度域での圧延時間を満たすことで、本形態で定義する所定サイズのMg-Bi化合物の析出を動的ひずみが入る環境下で促進する。具体的には、熱延時の材料温度が400~500℃の間の圧延時間を10min以上とすることで微細Mg-Bi化合物の析出を促進する。
【0075】
また、熱延開始から終了までの相当ひずみを制御することで、鋳造時に生成した粗大なMg-Bi晶出物を破砕し微細化することができる。具体的には、以下の式(1)で示す相当ひずみεが、ε>5.0となるようにスラブ厚みや仕上げ厚みを調整することでMg-Bi晶出物を十分に微細化できる。
ε=(2/√3)ln(t0/t) ・・・式(1)
式(1)において、t0:熱延開始厚み(スラブ厚み)、t:熱延仕上げ厚み。
【0076】
さらに、熱延の仕上げ温度が高く、動的ひずみがない状態が維持されることや、熱延後の冷却速度が遅くなると、結晶粒界などに本形態が目的とするよりも粗大なMg-Bi化合物が析出するため、熱延仕上げ温度を所定温度まで低くし、一定以上の冷却速度を確保することで粗大なMg-Bi化合物の析出を抑制する。
具体的には、一例として、熱延仕上げ温度を250~350℃とし、仕上げ温度から200℃までの冷却速度を-20℃/hrよりも早く制御することで粗大なMg-Bi化合物の析出を抑制する。
【0077】
その後、冷間圧延などを経て、本形態のブレージングシートが得られる。
冷間圧延では、例えば、75%以上の総圧下率で冷間圧延を行い、温度300~400℃にて中間焼鈍を行い、その後圧延率40%の最終圧延を行うことができる。冷間圧延では、Mg-Bi化合物が破砕され微細化がある程度進むが、本形態で目的とするサイズや数密度を逸脱することはないため、特に条件が限定されるものではない。また、中間焼鈍は行わないものとしてもよい。
【0078】
さらに、本形態ではAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれる円相当径 で5.0μm径以上の粗大Bi単体粒子が、表層面(RD-TD)方向の観察において、10000μm2視野(100μm角)あたり5個未満とすることが望ましい。
本形態の材料を得るには、合金のMgとBiの配合比率や、鋳造時の溶湯温度と冷却速度、および、均質化処理条件を適正に組み合わせることで調整することができる。
例えば、ろう材中のMgとBiの原子組成比を1.5以上にすることでMg-Bi化合物の生成を促進することができる。また、鋳造では冷却速度を10℃/secよりも遅くすることでMg-Bi化合物の生成を促進することができる。さらに、均質化処理では、400℃以上の高温で行うことで鋳塊内でのMg-Bi化合物の生成を促進することができる。
【0079】
熱間圧延、冷間圧延を行って心材の一方または両方の面にろう材が重ね合わされて接合されたクラッド材を得る。
前記工程を経ることにより、
図1に示すように、アルミニウム合金心材2の一方の面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のアルミニウムブレージングシート1が得られる。なお、
図1では、心材の片面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシート1が記載されているが、心材の両面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。また、心材の他の面に犠牲材10などがクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。
【0080】
ろう付対象部材4として、例えば、質量%で、Mg:0.1~0.8%、Si:0.1~1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成などのアルミニウム合金を調製し、フィン材などの適宜形状に加工される。なお、本形態としては、ろう付対象部材の組成が特に限定されるものではない。
【0081】
前記冷間圧延などによって熱交換機用のフィン材を得た場合には、その後、必要に応じてコルゲート加工などを施す。コルゲート加工は、回転する2つの金型の間を通すことによって行うことができ、良好に加工を行うことを可能とし、優れた成形性を示す。
【0082】
前記工程で得られたフィン材は、熱交換器の構成部材として、他の構成部材(チューブやヘッダーなど)と組み合わされた組み付け体として、ろう付に供される。
前記組み付け体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性雰囲気は、窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa~0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために、大気圧よりも5~100Pa程度陽圧としてもよい。これらの圧力範囲は、本形態における「減圧を伴わない」の範囲に含まれる。
【0083】
加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性雰囲気が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で100ppm以下が望ましい。
【0084】
前記非酸化性雰囲気下で、例えば、昇温速度10~200℃/minで加熱して、 組み付け体の到達温度が559~630℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0085】
このとき、Al-Si系の共晶温度は577℃であり、前記ろう付条件では共晶部が溶融する。この際に、粗大Si粒子が存在すると、特に板厚が薄い場合には局所溶融が発生するため好ましくなく、前記したようにろう材にBを添加することが好ましい。
【0086】
図2は、前記アルミニウムブレージングシート1を用いてフィン6を形成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のチューブ7を用いたアルミニウム製熱交換器5を示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダプレート9と組み込んで、フラックスフリーろう付によって自動車用などのアルミニウム製熱交換器5を得ることができる。
【実施例1】
【0087】
表1~10に示す組成(心材、ろう材、犠牲材;残部がAlと不可避不純物)の各種ブレージングシートを表11に示す鋳造条件、および熱間圧延条件にて得た熱間圧延板から作製した。
なお、犠牲材成分を全て「-」で示した供試材(表8のNo.1~45、表9のNo.46~47、表9のNo.86~90、表10のNo.91~110)は、犠牲材を用いていない供試材である。その後、中間焼鈍を含む冷間圧延によって、H14相当調質の0.30mm厚の冷間圧延板を作製した。なお、各層のクラッド率は、ろう材10%、犠牲材15%とした。また、ろう付対象部材としてA3003合金、H14のアルミニウムベア材(0.06mm厚)のコルゲートフィンを用意した。
【0088】
前記アルミニウムブレージングシートを用いて幅25mmのチューブを製作し、該チューブとコルゲートフィンとを該チューブろう材とコルゲートフィンが接するように組み合わせ、ろう付評価モデルとしてチューブ15段、長さ300mmのコアとした。前記コアを、窒素雰囲気中(酸素含有量20ppm)のろう付炉にて、600℃まで加熱して5分間保持し、その後冷却するろう付処理を施し、そのろう付状態を評価した。評価結果は、表12~表14に示した。
【0089】
<ろう付性>
・接合率
以下の式にて接合率を求め、各試料間の優劣を評価した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100
判定は以下の基準によって行い、その結果を表8、表9に示した。
ろう付後のフィン接合率 ◎:98%以上、○:90%以上98%未満、△:80%以上90%未満、×:80%未満
【0090】
・接合部フィレット長さ
ろう付したコアの一部を切り出し樹脂に包埋、鏡面研磨し、光学顕微鏡を用いて接合部におけるフィレット長さを測定した。計測方法は、
図3に示すフィン11の湾曲部とチューブ12との間に形成されたフィレットからなる接合部13の幅W(フィン11の湾曲部頂点とチューブ12の接点部分を挟むようにチューブ12の長さ方向に沿って存在するフィレットの全幅)を各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。
判定は以下の基準とし表12~表14に示した。
◎:1.0mm以上、○:0.8mm以上1.0mm未満、
△:0.6mm以上0.8mm未満、×:0.6mm未満
【0091】
<ろう付後の強度>
ブレージングシートをドロップ形式で炉に設置し、前記ろう付条件にてろう付相当熱処理を行った。その後、サンプルを切り出し、JIS Z2241に準拠した通常の方法にて室温にて引張試験を実施して引張強さを評価し、その結果を表12~表14に示した。
【0092】
<耐食性>
犠牲材を有するブレージングシートをドロップ形式で炉に設置し、前記ろう付条件にてろう付相当熱処理を行った。その後、サンプルを30mm×80mmのサイズに切り出し、犠牲材面以外をマスキングしたのち、SWAAT(SeaWaterAceticAcid. Test, ASTM G85-A3)に40日間供した。腐食試験後のサンプルはリン酸クロム酸によって腐食生成物を除去し、最大腐食部の断面観察を行って腐食深さを測定した。
判定は以下の基準とし表12~表14に示した。
◎:犠牲材層内、○:板厚の半分以内、△:貫通なし、×:貫通
【0093】
実施例の何れの試料も良好なろう付性を示したのに対し、比較例では十分な接合が得られなかった。
【0094】
<ろう材層表面の1.75μm以上の径をもつ比較的粗大なSi粒子の割合と面積率>
作製したアルミニウムクラッド材について、ろう材最表面を0.1μm程度の砥粒で研磨し、表面方向からEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を各サンプル10000μm2(100μm角相当)の観察視野で実施した。上記砥粒で研磨しているのは圧延目(表面凹凸)を除去し、ろう材表面をより平滑にすることで、粒子解析の精度を向上させることを目的とする。該測定では、円相当径で0.8μm以上のSi粒子の個数中における円相当径1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の個数が占める割合(%)を算出し、さらに、円相当径1.75μm以上の比較的粗大なSi粒子の面積率(対表面積)を算出し、測定結果を表1~表4に示した。
【0095】
<エロージョン>
ろう付処理後、チューブ断面を光学顕微鏡で観察し、最も激しくエロージョンを生じている箇所のチューブ材へのろう侵食(エロージョン深さ)を測定した。
耐エロージョン性の評価基準は、
(1)◎:ろう侵食深さが0.02mm以下
(2)○:ろう侵食深さが0.02mm超0.05mm以下の範囲
(3)×:ろう侵食深さが0.05mm以下
とし、表12~表14に示した
【0096】
<AlB2溶け残り>
連続鋳造により製造するろう材用のスラブは、成分を確認するため鋳造前に成分分析サンプル(通称:ペシネサンプル)を取得する。
ペシネサンプルを切断し、研磨後、光学顕微鏡で観察し、250mm2以上の観察視野で、25μm以上のAlB2粒子あるいはAlB12粒子あるいはそれらが凝集して25μm以上になっているものが一つでも存在する場合は、溶け残りが存在すると定義した。
AlB2あるいはAlB12粒子はEPMAによる成分分析でAlとBが検出され、通常、ろう材中では、形状や色が似ているもので判別可能である。
ろう付試験では異常が無かった場合もあるが(比較例113)、圧延時の欠陥や、ろう付を繰り返した際に異常が発生する原因となる可能性もあるため、溶け残りは無い方がよい。
表1~表4に結果を示した。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
表4に示す比較例91のようにMg含有量が少ない場合、円相当径0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi化合物数が少なく、円相当径5.0μm以上の粗大Mg-Bi化合物数が多くなり、比較例92のように、Mg含有量が多い場合、ろう材層が硬く脆くなるため圧延時のクラックにより材料が破断し、製作不可となった。
表4に示す比較例93のようにSi含有量が少ない場合、1.75μm以上のSi粒子の面積率が低くなり、比較例94のように、Si含有量が多い場合、ろう材層が硬く脆くなるため、圧延時に割れが生じて製作不可となった。
表4に示す比較例95のようにBi含有量が少ない場合、円相当径0.01μm以上5.0μm未満の微細Mg-Bi化合物数が少なく、円相当径5.0μm以上の粗大Mg-Bi化合物数が多くなり、比較例96のように、Bi含有量が多い場合、ろう付温度よりも低い材料作製工程中の焼鈍時にBiが材料表層部に濃化し、その後、酸化皮膜が厚く異常成長したため評価不可となった。
比較例91~96は表14に示すように材料製作やろう付性に問題を生じた。
【0112】
比較例97~102の試料は、望ましい組成範囲であるものの、表11に示す製造条件2のK、L、M、N、Oのいずれかを採用したため、微細Mg-Bi化合物数が少ないか、粗大Mg-Bi化合物数が多いか、粗大Bi単体粒子数が多いか、1.75μm以上のSi粒子の面積率が低い試料である。
比較例97~102は表14に示すようにろう付性に問題を生じた。
【0113】
比較例103、110は心材のSi、Cu、Zn量が多く固相線温度が低くなり過ぎた)ため、(ろう付時に心材が溶融しろう付性)で問題を生じた。
比較例104~109は、心材のMg、Mn、Cu、Fe、Zr、Ti、Cr量が多く心材が硬く脆くなり、(圧延時に割れが生じ材料が破断したため製造不可となった。
【0114】
比較例111、112、および、比較例114~117は、Bを含んでいないか、または、含有量が不十分なため、50μm以上の粗大Si単体粒子数が多くなり、耐エロージョン性に問題を生じた。比較例113は、Bを多く含ませすぎたため、粗大なAlB2化合物が生じ圧延時の破断原因となり製造不可となった。
【0115】
これらに対し、実施例1~90は、質量%で、Mgを0.01~2.0%、Siを1.5~14.0%、Biを0.005~1.5%、Bを0.005~0.2%含有するAl-Si-Mg-Bi-B系ろう材が心材にクラッドされ、Al-Si-Mg-Bi-B系ろう材に含まれるMg-Bi系化合物において、0.01μm以上5.0μm未満の径を有する微細Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり10個よりも多く存在し、かつ、5.0μm以上の径を有する粗大Mg-Bi系化合物が10000μm2視野あたり2個未満であり、5.0μm以上の径を有する粗大Bi単体粒子が10000μm2視野あたり5個未満であり、かつ、長辺の長さが50μm以上の粗大Si粒子が1000000μm2あたり3個以下の試料である。
これら実施例1~90は、ろう付性に優れ、ろう付後の強度が高く、耐食性と耐エロージョン性に優れたろう付を実施できた試料であった。
【0116】
実施例1において接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量少ないため、ろう付時に酸化皮膜分解作用が少ないためであり、単体Biが多いため、ろう付中に酸化などが進み易いためである。
実施例4において、接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量が多いため、ろう付時に酸化が進み易いためである。
実施例39において、接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量少ないため、ろう付時に酸化皮膜分解作用が少ないことと、Mg/Bi組成比が小さいため、(微細なものを含め)単体Biが多くなり、ろう付中の酸化などが進み易いためである。
【0117】
実施例48において、接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量少ないため、ろう付時に酸化皮膜分解作用が少ないことと、5μm未満のMg-Bi化合物が少ないため、ろう付時の酸化抑制効果が弱いこと、単体Biが多いため、ろう付中に酸化などが進み易いこと、Mg/Bi組成比が小さいため、(微細なものを含め)単体Biが多くなりろう付中の酸化などが進み易いためである。
実施例51において、接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量が多いため、ろう付時に酸化が進み易いためである。
実施例69において、接合率とフィレット長さが両方△であるのは、ろう材Mg量少ないため、ろう付時に酸化皮膜分解作用が少ないこと、Mg/Bi組成比が小さいため、(微細なものを含め)単体Biが多くなり、ろう付中の酸化などが進み易いためである。
【0118】
以上、本発明について、先の実施形態と実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲は前記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは、前記実施形態に対する適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 アルミニウムブレージングシート
2 アルミニウム合金心材
3 アルミニウム合金ろう材
4 対象部材
5 アルミニウム製熱交換器
6 フィン
7 チューブ
11 フィン
12 チューブ
13 接合部