(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】エレベーター装置
(51)【国際特許分類】
B66B 3/02 20060101AFI20220830BHJP
B66B 5/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B66B3/02 V
B66B3/02 P
B66B5/02 S
(21)【出願番号】P 2021529909
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019741
(87)【国際公開番号】W WO2021002107
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2019123656
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 真輔
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直人
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
(72)【発明者】
【氏名】大西 義人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健史
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057039(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148411(WO,A1)
【文献】特開2011-063354(JP,A)
【文献】特開2019-031356(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168619(WO,A1)
【文献】特開2015-124038(JP,A)
【文献】特許第6646117(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/02
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内における乗りかごの位置を検出する位置検出装置と、
前記乗りかごの運転を制御するエレベーターコントローラと、
前記位置検出装置の出力に基づいて、前記エレベーターコントローラによる制御に用いられる戸開可能位置であるか否かを示す信号を出力する、前記エレベーターコントローラとは独立した安全コントローラと、
を備えるエレベーター装置において、
前記位置検出装置は、
前記昇降路内において、階床位置に対応する位置に設けられる第一の被検出体と、前記第一の被検出体を検出する第一の位置検出器と、を有する第一の位置検出部と、
前記乗りかごの前記昇降路内における絶対位置を検出する第二の位置検出部と、
を有し、
前記安全コントローラは、
前記戸開可能位置のデータを格納するデータベースと、
前記第二の位置検出部の出力に基づいて、前記第二の位置検出部の異常の有無を判定する異常判定部と、
前記異常判定部が異常なしと判定する場合、前記第二の位置検出部の前記出力が、前記戸開可能位置の前記データの範囲内であるか否かを判定し、判定結果に基づいて、前記戸開可能位置であるか否かを示す前記信号を出力し、前記異常判定部が異常ありと判定する場合、前記戸開可能位置であるか否かを示す前記信号として、前記第一の位置検出部の出力信号を出力する戸開可能位置出力部と、
を備えることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター装置において、
前記安全コントローラは、さらに、
前記第一の位置検出部の前記出力信号に応じて、前記第二の位置検出部の出力値を取得し、取得される前記出力値に基づいて、階床位置を基準とする前記戸開可能位置を計算し、計算される前記戸開可能位置の前記データを前記データベースに格納する戸開可能位置作成部を備えることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーター装置において、
前記戸開可能位置作成部は、前記第一の位置検出部の前記出力信号のONエッジおよびOFFエッジに応じて、前記第二の位置検出部の前記出力値を取得し、前記出力値に基づいて前記階床位置を計算し、計算された前記階床位置と、前記戸開可能位置の所定の幅とに基づいて、前記戸開可能位置の範囲を計算することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項4】
請求項2に記載のエレベーター装置において、
前記エレベーターコントローラは、前記乗りかごを、定格速度よりも低速度で運転することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベーター装置において、
前記異常判定部は、前記第一の位置検出部の前記出力信号に応じて取得される前記第二の位置検出部の前記出力に基づいて計算される階床位置と、前記データベースに格納される階床位置データとを比較することにより、前記第二の位置検出部の異常の有無を判定することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエレベーター装置において、
前記異常判定部は、計算される前記階床位置と、前記階床位置データとの差分の大きさに基づいて前記第二の位置検出部の異常の有無を判定することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエレベーター装置において、
前記異常判定部は、計算される前記階床位置を時系列で蓄積し、蓄積データに基づいて、異常が発生する時期を予測することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項8】
請求項1に記載のエレベーター装置において、
前記エレベーターコントローラは、前記異常判定部が異常ありと判定する場合、前記第一の位置検出部の出力信号に基づいて、前記乗りかごを縮退運転することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項9】
請求項1に記載のエレベーター装置において、
前記安全コントローラは、さらに、
異常ありと判定する場合、前記第一の位置検出部の前記出力信号に応じて、前記第二の位置検出部の出力値を取得し、取得される前記出力値に基づいて、階床位置を基準とする前記戸開可能位置を計算し、計算される前記戸開可能位置の前記データを前記データベースに格納する戸開可能位置作成部を備えることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項10】
請求項9に記載のエレベーター装置において、
前記エレベーターコントローラは、前記乗りかごを、定格速度よりも低速度で運転することを特徴とするエレベーター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出装置を備えるエレベーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーター装置では、乗場ドアとかごドアは連動して開閉する。このとき、ドアを開くことが可能である位置を検出するために、位置検出装置が用いられる。この位置検出装置は、昇降路内に設置される被検出体と、乗りかごに設置され、被検出体を検出する位置検出器(センサ)とで構成される。例えば、位置検出装置として、光電式センサおよび光遮へい板が用いられる。
【0003】
このような位置検出装置は、乗りかごがドア開状態でドア開可能な位置から移動することを防止する安全装置に適用される。
【0004】
このような位置検出装置に関する従来技術として、特許文献1および2に記載される技術が知られている。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、乗場側のドアの敷居の下部にパターン化された磁石を取り付け、かご下に配置したセンサで、ドアの開閉が可能な位置を検出する。
【0006】
特許文献2に記載の技術では、では、各階に設けた被検出体を検出する位置検出器が故障した場合に、ガバナ機構に設けたパルス発生器(ガバナエンコーダ)を用いて戸開可能な位置を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-246139号公報
【文献】国際公開第2017/168619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、位置検出装置に異常が生じると、戸開可能位置を検出することができず、エレベーターの運転制御の信頼性が低下し、乗りかごの運転継続が難しくなる。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、位置検出器が故障した場合、位置検出器に代えてパルス発生器が用いられるが、パルス発生器に位置検出誤差が発生していると、検出される戸開可能位置の信頼性が低下する。
【0010】
そこで、本発明は、戸開可能位置を信頼性高く検出できる位置検出装置を備えたエレベーター装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明によるエレベーター装置は、昇降路内における乗りかごの位置を検出する位置検出装置と、乗りかごの運転を制御するエレベーターコントローラと、位置検出装置の出力に基づいて、エレベーターコントローラによる制御に用いられる戸開可能位置であるか否かを示す信号を出力する、エレベーターコントローラとは独立した安全コントローラと、を備えるものであって、位置検出装置は、昇降路内において、階床位置に対応する位置に設けられる第一の被検出体と、第一の被検出体を検出する第一の位置検出器と、を有する第一の位置検出部と、乗りかごの昇降路内における絶対位置を検出する第二の位置検出部と、を有し、安全コントローラは、戸開可能位置のデータを格納するデータベースと、第二の位置検出部の出力に基づいて、第二の位置検出部の異常の有無を判定する異常判定部と、異常判定部が異常なしと判定する場合、第二の位置検出部の出力が、戸開可能位置のデータの範囲内であるか否かを判定し、判定結果に基づいて、戸開可能位置であるか否かを示す信号を出力し、異常判定部が異常ありと判定する場合、戸開可能位置であるか否かを示す信号として、第一の位置検出部の出力信号を出力する戸開可能位置出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、戸開可能位置を信頼性高く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態であるエレベーター装置の全体構成図である。
【
図2】実施形態における安全コントローラの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】測定運転時における第一の位置検出器の出力信号の一例を示すタイムチャートである。
【
図4】第一の位置検出器および第二の位置検出器の出力信号の一例を示すタイムチャートである。
【
図6】戸開可能位置作成部が実行するDB作成処理を示すフローチャートである。
【
図7】戸開可能位置作成部が実行する戸階可能位置の設定処理を示すフローチャートである。
【
図8】異常判定部が実行する第二の位置検出器の異常判定処理を示すフローチャートである。
【
図9】階床位置の測定結果の時間的変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるエレベーター装置の全体構成図である。
【0016】
図1に示すように、建屋における昇降路内の上部に綱車104および反らせ車105が設けられる。これら綱車104および反らせ車105には主ロープ101が巻き掛けられる。主ロープ101の一端および他端には、それぞれ、乗りかご100および釣合い錘113が接続される。このような主ロープ101によって、乗りかご100および釣合い錘113が、昇降路内において吊られる。
【0017】
電力変換器108によって電力が供給される電動機106によって綱車104が回転駆動されると、主ロープ101が直線的に駆動される。これにより、乗りかご100および釣合い錘113は、昇降路内において、互いに上下反対方向に昇降する。この場合、乗りかご100は昇降路内を複数の階床間にわたって移動する。乗りかご100が、目的階に着床して停止すると、乗りかご100に設けられるかごドア112と乗場115に設けられる乗場ドア111が機械的に係合する。これにより、乗りかご100に設けられるドア駆動装置(図示せず)によって、かごドア112と乗場ドア111はともに開閉駆動される。
【0018】
また、パルス発生器107が電動機106に取り付けられている。パルス発生器107は、電動機106の回転に応じてパルス信号を発生する。なお、パルス発生器107として、例えば、ロータリーエンコーダやレゾルバなどが適用できる。パルス発生器107が出力するパルス信号はエレベーターコントローラ109に入力される。エレベーターコントローラ109は、パルス信号を計数することにより、電動機106の速度、乗りかご100の昇降路内移動方向の等価的な位置および移動距離などを計算する。
【0019】
ここで、「等価的な位置および移動距離」とは、パルス発生器107が出力するパルス信号の計数値が示す電動機106の回転変位量から求められる乗りかごの上下方向の位置および移動距離を意味している。
【0020】
乗りかご100には、第一の位置検出器1が、乗りかご100の昇降方向に乗りかご100から所定距離を離して設けられる。昇降路内には、第一の位置検出器1で検出される被検出体2が、各階の戸開可能な位置に対応するように設けられる。したがって、乗りかご100が戸開可能な位置に位置する時、被検出体2は第一の位置検出器1によって検出される。
【0021】
ここで、第一の位置検出器1としては、光電式センサ、磁気式センサ、高周波磁界式センサなどが適用できる。また、適用するセンサに応じて、様々な被検出体2(例えば、遮蔽板(光、磁気))が適用される。
【0022】
第一の位置検出器1の出力信号は、安全コントローラ110に入力される。安全コントローラ110は、エレベーターの安全システムを構成するコントローラであり、エレベーターコントローラ109とは独立に、ブレーキ動作および電源遮断による乗りかご100の制動を制御する。安全コントローラ110は、処理を実行するCPU(Central Processing Unit)を主たる構成要素とし、他にCPUの異常を検出するためのウォッチドッグタイマや、電源異常を監視する回路を有する。なお、CPUを2重化して、CPU相互で処理動作を比較することによりCPUの処理異常を検出してもよい。
【0023】
乗りかご100には、さらに第二の位置検出器3が、乗りかご100の昇降方向に乗りかご100から所定距離を離して設けられる。第二の位置検出器3の出力信号は、安全コントローラ110に入力される。また、昇降路内には、第二の位置検出器3によって検出される長尺状(テープ状、ロープ状、リボン状、細長い棒状など)の被検出体4が懸下される。
【0024】
長尺状の被検出体4は、その長手方向に沿って、昇降路内の上下方向における絶対位置情報、例えば、基準階からの高さ情報を有している。この絶対位置情報は、被検出体4の長手方向に沿って、電磁気的特性、光学的特性、機械的な形状や性質、表面の幾何学的パターン形状などを異ならしめることにより、被検出体4に連続的に設定される。これに対し、被検出体4に設定される絶対位置情報を検出する第二の位置検出器3としては、磁気センサ、磁歪センサ、光学センサ、画像センサなどが適用される。
【0025】
被検出体4は、その長手方向が、昇降路内の高さ方向に沿って、昇降路内の頂部から底部にわたって延びている。そして、被検出体4には、昇降路内の頂部に位置する部位から昇降路内の底部に位置する部位およびその間の部分において、連続的に絶対位置情報が設定されている。これにより、乗りかご100が移動可能な範囲内において連続的に、乗りかご100の絶対位置(例えば、基準階からの乗りかご100の位置の高さ)が検出できる。
【0026】
昇降路内における乗りかごの絶対位置を検出する手段としては、他に、ガバナロープを備えるガバナに設けられるロータリーエンコーダ、昇降路内に懸架した歯付きベルトと歯車付きアブソリュートエンコーダ、昇降路内のカメラ画像による位置検出などが適用できる。
【0027】
図2は、本実施形態における安全コントローラの機能構成を示すブロック図である。図中、破線部内が安全コントローラ110(
図1)に相当する。なお、本実施形態では、CPUが、所定のプログラムを実行することにより、各部として機能する。
【0028】
以下、他の図面(
図3-8)も参照しながら、安全コントローラ110の機能について説明する。
【0029】
図2に示す戸開可能位置作成部20は、第一の位置検出器1と第二の位置検出器の各出力信号に基づいて、昇降路内において乗りかご100の戸開が可能な位置(以下、「戸開可能位置」と記す)のデータを、昇降路下部の基準面からの絶対位置として作成し、作成した戸開可能位置をDB(データベース)21に格納する。
【0030】
このようなDB21は、エレベーターの据付完了時、地震などにより被検出体2(
図1)のずれが生じた場合、建物の経年変化に伴い被検出体2と建物床面の間に位置ずれが生じた場合などに作成される。このとき、エレベーター運転制御システム(図示せず)によって、DB21を作成するための位置測定用運転(以下、「測定運転」と記す)が実行される。また、安全コントローラ110は、エレベーター運転制御システム側からDB21の作成を指令するための戸開可能位置作成指令を受信すると、DB21を作成する処理を実行する。この測定運転は、乗りかご100を、最下階に移動させてから、定格速度よりも低速度の所定速度で、最下階から最上階まで移動させる。
【0031】
図3は、測定運転時における第一の位置検出器1の出力信号の一例を示すタイムチャートである。
【0032】
第一の位置検出器1が被検出体2を検出している間、出力信号はON状態となる。したがって、ON状態である期間は、乗りかご100の位置が戸開可能位置であることを示す。本実施形態では、第一の位置検出器1の出力信号がON状態になっている期間(以下、「ON期間」と記す)の中心の時点(図中、前後の時間幅が等しくAである時点)において、かご床面と乗場床面が一致している。このような出力信号は、例えば被検出体2が光もしくは磁気遮蔽板である場合、遮蔽板の高さを戸開可能位置の範囲に対応させ、遮蔽板の高さ方向の中心が着床位置に対応するように遮蔽板を設置することにより得られる。
【0033】
なお、測定運転は、位置測定中、一定速度で実行されるため、第一の位置検出器1の出力信号波形は、各階床において、かご床面と乗場床面の位置が一致する時点に対し対称になる。
【0034】
次に、戸開可能位置作成部20における、第一の位置検出器1および第二の位置検出器3の出力信号を用いてDB21を作成する処理の概要を説明する。
【0035】
図4は、第一の位置検出器1および第二の位置検出器3の出力信号の一例を示すタイムチャートである。
【0036】
安全コントローラ110の戸開可能位置作成部20は、第一の位置検出器1の出力信号のONエッジ(第一の位置検出器1が被検出体2の検出を開始した時点)を検出すると、この時点での第二の位置検出器3の出力値(
図4中の「A」)を記憶する。その後、戸開可能位置作成部20は、第一の位置検出器1の出力信号のOFFエッジ(第一の位置検出器1が被検出体2の検出を終了した時点)を検出すると、この時点での第二の位置検出器3の出力値(
図4中の「B」)を記憶する。
【0037】
図3に示したように、第一の位置検出器1の出力信号のON期間の中心は、かご床面と乗場床面が一致する時点であるため、戸開可能位置作成部20は、かご床面と乗場床面が一致する位置(以下、「階床位置」)として、(A+B)/2を計算する。そして、戸開可能位置作成部20は、階床位置((A+B)/2)を基準にして、乗りかごの昇降方向に戸開可能位置の幅Cを設定する。すなわち、戸開可能位置作成部20は、(A+B)/2±Cを算出し、これらを戸開可能位置の上限および下限とすることで、階床位置を中心として長さ2Cの戸開可能位置を設定する。なお、幅Cは、予め、安全コントローラ110が記憶している。
【0038】
戸開可能位置作成部20は、上述のような処理を各階で行い、最下階から最上階までの各階について、戸開可能位置のDB21を作成する。
【0039】
図5は、DB21の構成図である。なお、DB21は、安全コントローラ110が備える図示しない記憶装置に記憶される。
【0040】
DB21は、階床、各階床において第二の位置検出器3の出力値(A,B,…)から計算された第一の位置検出器1の中心位置(前述の階床位置)、並びにこの中心位置に戸開可能位置の幅(α,β)を加減算した戸開可能位置の上限および下限のデータを含む。なお、これらのデータとともに、DB21は、各階床にける第二の位置検出器3の出力値(A,B,…)含んでもよい。
【0041】
なお、戸開可能な幅は、
図5に示すように、階によって変更してもよい。
【0042】
図2に示す戸開可能位置出力部22は、DB21と、後述するように第二の位置検出器3の異常の有無を判定する異常判定部23の判定結果出力に基づいて、戸開可能位置を決定してエレベーターコントローラ109(
図1)などに出力する。戸開可能位置出力部22は、異常判定部23の判定結果が「異常」ではない場合に、DB21を参照して戸開可能位置を出力する。また、戸開可能位置出力部22は、異常判定部23の判定結果が「異常」である場合、第一の位置検出器1の出力信号を、戸開可能位置を示すデータとして出力する。このとき、第二の位置検出器3が異常であるため、エレベーターコントローラ109(
図1)は、第一の位置検出器1の出力信号を用いて、縮退運転を実行する。
【0043】
ここで、縮退運転とは、通常(サービス運転時)よりも速度を下げて運転すること、通常(サービス運転時)よりも階床範囲を制限して運転すること、最寄りの階へ移動することなどである。
【0044】
異常判定部23は、通常運転中(サービス運転中)に、第一の位置検出器1の出力信号のONエッジおよびOFFエッジの各時点での第二の位置検出器3の出力値から算出される階床位置と、DB21に格納される階床位置データとの差分の大きさが許容値を越えている場合に、第二の位置検出器3が異常であると判定する。そして、異常判定部23は、判定結果として、「異常」を戸開可能位置出力部22に出力する。
【0045】
なお、差分の許容値は、小さくするほど、異常の検出感度が高くなり早期検出が可能となるが縮退動作の回数が増加し、大きくするほど、異常の検出感度は低くなるが、縮退動作の回数は減少する。したがって、差分の許容値は、検出感度と、縮退動作の頻度とを共に考慮して、適宜設定される。
【0046】
このような差分は、地震による被検出体2の位置ずれ、建物の経年変化に伴う被検出体2と建物床面との間の位置ずれや、第二の位置検出器3が昇降路内の温度や湿度に依存する被検出体4の伸縮などに伴い発生する。このため、差分の大きさに基づき、位置検出手段の異常を検出できる。
【0047】
次に、戸開可能位置作成部20が実行するDB作成処理について説明する。
【0048】
図6は、戸開可能位置作成部が実行するDB作成処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明で特に断りの無い限り、各処理を実行する主体は戸開可能位置作成部20(
図2)である。
【0049】
まず、ステップ300にて、外部(エレベーター運転制御システム)からの戸開可能位置作成指令がONであるかを判定する。戸開可能位置作成指令がOFFの場合(ステップ300の「N」(NO))、DB作成処理を終了する(ステップ301)。
【0050】
戸開可能位置作成指令がONである場合(ステップ300の「Y」(YES))は、ステップ302にて、第一の位置検出器1の出力がONであるかを判定する。第一の位置検出器1の出力がOFFである場合(ステップ302の「N」)、ステップ303にて、乗りかご100の位置が初期位置(測定運転開始位置)ではないと判断して、外部(エレベーター運転制御システム)へ異常を出力した後、DB作成処理を終了する(ステップ304)。
【0051】
ここで、本実施形態では、測定運転において、エレベーター運転制御システムは、乗りかご100の初期位置を最下階(着床位置)とし、最上階へ向かって乗りかご100を走行させる。なお、エレベーター運転制御システムは、初期位置を最上階とし、最下階へ向かって乗りかご100を走行させてもよい。
【0052】
第一の位置検出器1の出力がONである場合(ステップ302の「Y」)、ステップ305にて、第二の位置検出器3の出力値を最下階の階床位置としてDB21へ格納する。
【0053】
次に、ステップ306にて、第一の位置検出器1がOFFになるまで待機する(DB作成処理実行を待つ)。
【0054】
さらに、ステップ307にて、第一の位置検出器1の出力が再びONになるまで、つまり次の戸開可能位置を検出するまで待機する。
【0055】
第一の位置検出器1の出力が再びONになると(ステップ307の「Y」)、ステップ308にて、第二の位置検出器3の出力値を記憶し、次にステップ309にて、第一の位置検出器1の出力がOFFになるまで待機する。OFFになったタイミング(ステップ309の「Y」)で、ステップ310にて、再び第二の位置検出器3の出力値を記憶する。
【0056】
次に、記憶されている第二の位置検出器3の出力値から、ステップ311にて、戸開可能位置の範囲の中心(
図5中の「中心」)すなわち階床位置を演算し、演算した階床位置をDB21へ格納する。また、演算した階床位置に戸開可能位置の幅の所定値(
図5中のα,β)を加減算することにより、戸開可能位置の範囲の上限および下限を演算し、DB21へ格納する。
【0057】
その後、ステップ312にて、階床Nを1階床分増加する。すなわち、次のDB21作成対象階を設定する。次に、ステップ313にて、外部からの戸開可能位置作成指令がOFFであるかを判定し、OFFではない場合(ステップ313の「N」)、上述の処理を繰り返し実行する。OFFである場合(ステップ313の「Y」)、ステップ314にて、第二の位置検出器3の出力値を最上階の階床位置としてDB21へ格納し、その後、処理を終了する(ステップ315)。
【0058】
本実施形態では、戸開可能位置作成指令がOFFするタイミングは、エレベーター運転制御システムによって、乗りかご100が最上階まで移動し、乗りかご100が、最上階に着床して停止した時点である。
【0059】
次に、戸開可能位置出力部22(
図2)が、制御に用いられる戸階可能位置を設定する処理について説明する。
【0060】
図7は、戸開可能位置作成部が実行する戸階可能位置の設定処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明で特に断りの無い限り、各処理を実行する主体は戸開可能位置出力部22(
図2)である。
【0061】
まず、ステップ400にて、異常判定部23からの異常の報知(判定結果出力)があるかを判定する。異常の報知があった場合(ステップ400の「Y」)、ステップ401にて、第一の位置検出器1出力を戸開可能位置として出力し、次に、ステップ402にて、第二の位置検出器3が故障していること示す通知を出力する。エレベーターコントローラ109(
図1)は、第二の位置検出器3が故障していることの通知を受けると、縮退運転を実行する。
【0062】
本実施形態では、エレベーターコントローラ109は、通常、第二の位置検出器3によって検出される戸開可能位置を用いて乗りかごの運転制御を実行するが、第二の位置検出器3の異常を検出した場合、第一の位置検出器1を用いて戸開可能位置を検出することにより、縮退運転ではあるが、乗りかご100の運転を継続することができる。
【0063】
異常判定部23からの異常の報知がなかった場合(ステップ400の「N」)、ステップ404にて、第二の位置検出器3の出力がDB21の戸開可能位置の範囲内(
図5中の「上限」と「下限」の間)にあるかを判定し、第二の位置検出器3の出力が戸開可能位置の範囲内にあれば(ステップ「404」のY)、戸開可能位置をON(戸開可能)として出力し(ステップ405)する。また、第二の位置検出器3の出力が戸開可能位置の範囲外であれば(ステップ404の「N」)、戸開可能位置をOFF(戸開不可)として出力する(ステップ406)。
【0064】
移動中の乗りかご100を階床位置に着床させる場合、上述のステップ405によれば、乗りかご100が昇降路内を移動して戸開可能位置の範囲内における上限(下方へ移動の場合)もしくは下限(上方へ移動の場合)に到達すると、戸開可能位置出力部22は戸開可能を示すON信号を出力する。エレベーターコントローラ109は、このON信号を受信すると、自コントローラもしくは安全コントローラ110の記憶装置に格納されている各階床の戸開可能位置の幅(
図5のα,βに相当)のデータを取得し、着床位置(=階床位置)までの残距離(=戸開可能位置の幅)を把握する。エレベーターコントローラ109は、この残距離に応じて、乗りかご100を減速して、階床位置に着床停止させる。
【0065】
また、移動中の乗りかご100を階床位置に着床させる場合、上述のステップ401によれば、乗りかご100が昇降路内を移動して戸開可能位置の範囲内における上限(下方へ移動の場合)もしくは下限(上方へ移動の場合)に到達すると、戸開可能位置出力部22の出力、すなわち第一の位置検出器1の出力信号(
図3参照)は、OFF状態(戸開不可)からON状態(戸開可)へ遷移する。このような出力信号ONエッジを受信すると、エレベーターコントローラ109は、被検出体2の寸法が戸開可能位置の幅に応じてあらかじめ設定されているので、着床位置までの残距離(=戸開可能位置の幅)を把握することができる。なお、エレベーターコントローラ109は、自コントローラの記憶装置に格納されている各階床の戸開可能位置の幅のデータを取得することにより、残距離を把握してもよい。エレベーターコントローラ109は、この残距離に応じて、乗りかご100を減速して、階床位置に着床停止させる。
【0066】
次に、異常判定部23が実行する第二の位置検出器の異常判定処理について説明する。
【0067】
図8は、異常判定部が実行する第二の位置検出器の異常判定処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明で特に断りの無い限り、各処理を実行する主体は異常判定部23(
図2)である。
【0068】
まず、ステップ500にて、第一の位置検出器1の出力のONエッジを検出したかを判定し、ONエッジを検出しなかった場合(ステップ500の「N」)、処理を終了する(ステップ506)。
【0069】
第一の位置検出器1の出力のONエッジを検出した場合(ステップ500の「Y」)、ステップ501にて第二の位置検出器3の出力である位置A’を記憶する。次に、ステップ502にて、第一の位置検出器1の出力のOFFエッジが検出されるまで待機する。
【0070】
第一の位置検出器の出力のOFFエッジが検出された場合(ステップ502の「Y」)、ステップ503にて、第二の位置検出器3の出力である位置B’を記憶する。
【0071】
次に、ステップ504では、すでに測定されDB21に格納されている階床位置である(A+B)/2と、今回測定した階床位置(A’+B’)/2とを比較する。すなわち、(A+B)/2と(A’+B’)/2の差分の大きさが所定の許容値δより大であるかを判定し、前述の差分が設定値δより大きい場合(ステップ504の「Y」)、戸開可能位置出力部22へ第二の位置検出器3の異常の報知(判定結果出力)を出力する(ステップ505)。
【0072】
なお、ステップ504において、毎回の階床位置の測定結果を蓄積して、階床位置の変化の傾向に基づいて、第二の位置検出器3の異常を判定したり、異常が発生する時期を予測したりしてもよい。そこで、異常の発生を予測する手段について説明する。
【0073】
図9は、階床位置の測定結果の時間的変化の一例を示す図である。本例は、ある階床における階床位置の測定結果を時系列でプロットした結果である。なお、
図9において、縦軸は階床位置を表し、横軸は時間を表す。
【0074】
異常判定部23は、初期に測定した階床位置(A+B)/2を含め、その階床を乗りかご100が通過する度に階床位置を測定して図示しない記憶装置に蓄積する。そして、蓄積されている、現時点より前の階床位置データと、現在測定した階床位置データとから、(A+B)/2からの階床位置のずれの時間変化の傾向を推定する。異常判定部23は、推定した傾向に基づいて、将来において階床位置のずれが許容値δに到達する時刻を予想し、予想される時刻をエレベーターコントローラ109などエレベーター運転制御システム側へ出力する。
【0075】
階床位置のずれが許容値δに到達する時刻は、上述のようにエレベーター運転制御システム側へ出力することで、保守作業員が、運転情報として取得することができる。したがって、予想される時刻に到達する前の点検時に、階床位置を測定するための測定運転を実施することにより、第二の位置検出器3の出力値に対する経年的要因(たとえば、被検出体4の伸びや、建物自体の経年的な圧縮など)の影響を補償することができる。これにより、階床位置データのずれに起因する戸開可能位置のずれや、着床制御に安全コントローラ110における階床位置データを用いる場合における乗りかごの着床時の位置ずれなどを抑制することができる。
【0076】
なお、戸開可能位置出力部22(
図2)が出力する戸開可能位置データは、エレベーターコントローラ109などの制御に用いられるほか、安全コントローラ110が備えるその他安全機能24に用いられる。この安全機能は、例えば、UCMP(Unintended Car Moving Protection:戸開走行保護装置)やETSD(Emergency Terminal Speed-limiting Device:終端階減速装置)などであり、乗りかごの位置検出値のほか、ドアスイッチによるドア開検出値や乗りかごの速度検出値が用いられる。
【0077】
上述の実施形態によれば、安全コントローラ110は、第二の位置検出器3に異常が生じる場合、エレベーター制御に用いる戸開可能位置として、第一の位置検出器の出力を設定する。これにより、信頼性高く戸開可能位置を設定できる。また、第二の位置検出器3に異常が生じても、乗りかご100を縮退運転させて、戸開可能位置で、かごドア112を開閉することができる。
【0078】
また、安全コントローラ110は、乗りかご100を測定運転させながら、昇降路内において階床位置および戸開可能位置に対応する位置に設けられる第一の位置検出器1の出力に応じて、第二の位置検出器3の出力値を取得し、取得する出力値を使用して各階の階床位置(着床位置)および戸開可能位置の範囲を計算し、DB21に設定する。このため、据付時において、安全コントローラ110やエレベーター運転制御システム(エレベーターコントローラ109など)への階床位置および戸開可能位置の設定作業が軽減される。また、階床位置および戸開可能位置の再設定作業も、同様に軽減される。
【0079】
さらに、第一の位置検出器1の出力(ONエッジおよびOFFエッジ)に応じて取得される第二の位置検出器3の出力値から階床位置(着床位置)および戸開可能位置の範囲を計算するので、乗りかご100の絶対位置を検出するための被検出体4の経年変化や建物の経年変化により第二の位置検出器3の出力値が変動しても、その影響が補償され、階床位置および戸開可能位置を確実に設定できる。
【0080】
上述の実施形態では、安全コントローラ110とエレベーター運転制御システム(エレベーターコントローラ109を含む)の各々が、独立した位置検出装置を有している。すなわち、安全コントローラ110は、第一の位置検出器1および被検出体2、並びに第二の位置検出器3および長尺状の被検出体4を備え、他方、エレベーターコントローラ109は、ロータリーエンコーダなどのパルス発生器107を備える。ただし、エレベーターコントローラ109は、安全コントローラ110から、制御(例えば、着床制御など)に用いる階床位置および戸開可能位置のデータを取得する。なお、このような位置検出の形態に限らず、例えば、独立した位置検出装置として、安全コントローラ110が第二の位置検出器3および被検出体4を備え、エレベーターコントローラ109がロータリーエンコーダなどのパルス発生器107を備えるとともに、第一の位置検出器1および被検出体2を、安全コントローラ110とエレベーターコントローラ109とで兼用してもよい。この場合、第一の位置検出器1および被検出体2は、安全コントローラ110では、上述の階床位置および戸開可能位置の設定に用いられ、エレベーターコントローラ109では、通常の制御(着床制御など)に用いられる。
【0081】
また、
図6に示したDB作成処理は、エレベーター据え付け時のほか、保守時においても実行される。例えば、第一の位置検出器および被検出体2が、地震などにより位置ずれを起こした場合、設置位置を当初の位置に戻した後、DB作成処理が実行される。また、異常判定部23が異常と判定した場合においても、DB作成処理が実行される。これらにより、DB21に格納される階床位置および戸開可能位置のデータの信頼性が向上する。
【0082】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0083】
例えば、エレベーター装置は、巻上機および制御装置が昇降路内に設置される機械室レス型でもよい。
【0084】
また、一つの乗場で複数のエレベーター号機が発着する場合、縮退運転として、異常が発生した号機を停止させ、通常よりも少ないエレベーター号機数でサービス運転を継続してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 第一の位置検出器、2 被検出体、3 第二の位置検出器、4 被検出体、20 戸開可能位置作成部、21 DB(データベース)、22 戸開可能位置出力部、23 異常判定部、100 乗りかご、104 綱車、105 反らせ車、106 電動機、107 パルス発生器、108 電力変換器、109 エレベーターコントローラ、110 安全コントローラ、111 乗場ドア、112 かごドア、113 釣合い錘、115 乗場