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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】光源装置、検査装置、および調整方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/37 20060101AFI20220830BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G02F1/37
H01S3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022103448
(22)【出願日】2022-06-28
【審査請求日】2022-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115902
【氏名又は名称】レーザーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 純
(72)【発明者】
【氏名】森 涼太朗
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-343786(JP,A)
【文献】特開2000-250082(JP,A)
【文献】特開平05-011300(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0250979(US,A1)
【文献】米国特許第06614584(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H01S 3/00-3/02
3/04-3/0959
3/098-3/102
3/105-3/131
3/136-3/213
3/23-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長466nm~472nmの範囲における可視光を発生させる第1の光源と、
複数の光学鏡を有する第1の外部共振器と、
前記第1の外部共振器内に設置された、前記可視光の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光を発生させるBBO結晶と、
前記紫外光の光路上に設けられた光学素子を経て形成される遠視野像面の近傍に配置された1次元または2次元の半導体センサと、
前記半導体センサで検出された光強度分布の代表位置を算出する算出部と
前記代表位置が所定範囲内に含まれるように、前記BBO結晶の温度を調整する温度制御部と、
波長1071nm~1138nmの範囲における赤外光を発生させる第2の光源と、
複数の光学鏡を有する第2の外部共振器と、
前記第2の外部共振器内に設置され、前記紫外光と前記赤外光の和周波混合光である波長193nmの近傍の深紫外光を発生させるCLBO結晶と、
前記紫外光を前記CLBO結晶に集光する集光レンズと、
前記集光レンズと前記CLBO結晶の間に配置された、前記半導体センサに入射される紫外光を取り出すビームスプリッタと
を備え、
前記代表位置の初期値は前記深紫外光の出力が最大になるように設定される
光源装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記代表位置と前記BBO結晶の温度の関係を表す一次式に基づいて、前記BBO結晶の温度補正量を決定し、
前記半導体センサは、CCDセンサであり、
光学損傷に伴い前記BBO結晶は空間的に平行移動され、
前記温度制御部は、前記BBO結晶を空間的に平行移動する前に設定された前記初期値と、前記BBO結晶を空間的に平行移動した後の前記代表位置の差に基づいて前記温度補正量を決定する
請求項に記載の光源装置。
【請求項3】
前記代表位置は、前記光強度分布の重心位置である
請求項1または2のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載の光源装置で発生した前記深紫外光を照射光として用いる検査装置。
【請求項5】
複数の光学鏡を有する第1の外部共振器内に設置された、波長466nm~472nmの範囲における可視光の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光を発生させるBBO結晶の温度を調整する調整方法であって、
前記紫外光の光路上に設けられた光学素子を経て形成される遠視野像面の近傍に配置された1次元または2次元の半導体センサで検出された光強度分布の代表位置を算出するステップと
前記代表位置が所定範囲内に含まれるように、前記BBO結晶の温度を調整するステップと、
波長1071nm~1138nmの範囲における赤外光を発生させるステップと、
複数の光学鏡を有する第2の外部共振器に設置されたCLBO結晶により、前記紫外光と前記赤外光の和周波混合光である波長193nmの近傍の深紫外光を発生させるステップと、
前記紫外光を集光レンズにより前記CLBO結晶に集光するステップと、
前記集光レンズと前記CLBO結晶の間に配置されたビームスプリッタにより、前記半導体センサに入射される紫外光を取り出すステップと
を含み、
前記代表位置の初期値は前記深紫外光の出力が最大になるように設定される
調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源装置、検査装置、および調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスクの欠陥を検査する検査装置では、光学的分解能を高めるため、短波長、特に、波長250nm以下の深紫外域の照射光源が用いられている。この場合、途切れなく高速な検査を可能とするため、連続出力で高出力の光源が望ましい。
【0003】
深紫外域の連続光を発生するために、非線形光学結晶を内部に設置した外部共振器で、可視または赤外域のレーザ光の第2高調波や和周波を発生させることが行われている(特許文献1参照)。
【0004】
紫外光発生用の非線形光学結晶として、主に、CsLiB10(CLBO)結晶、β-BaB(BBO)結晶、LiB(LBO)結晶が利用されている。
【0005】
第2高調波を発生させる装置は、単一の励起光源で構成できるため、一般に2つの光源が必要な和周波を発生させる装置よりも簡素かつ効率的である。ただし、第2高調波として発生可能な波長は、BBO結晶により位相整合が得られる205nmが限界とされており、それ以下の波長の光は和周波として発生させる必要がある。和周波発生用の非線形光学結晶としては、BBO結晶、LBO結晶、CLBO結晶の全てが利用可能である。
【0006】
特許文献2では、第1の外部共振器内に設置したBBO結晶を用いて、第2高調波として波長233nm~234nmの連続出力紫外光を発生させている。そして、第2の外部共振器内に配置したCLBO結晶で紫外光と1111nm~1130nmの光とを和周波混合し、波長193.2nm~193.6nmの深紫外光を発生させている。
【0007】
第2高調波の発生および和周波の発生のいずれにおいても、実用的な紫外光を発生させるためには、位相整合条件を満たすことが必要である。位相整合条件とは、非線形光学結晶内の入射光の屈折率および波長と発生光の屈折率および波長に関する特殊な条件である。
【0008】
例えば、和周波を発生する場合の簡素化した位相整合条件は、n/λ=n/λ+n/λと表される。λおよびλは入射光の波長を表し、λは和周波の波長を表す。nおよびnは入射光に対する屈折率を表し、nは和周波に対する屈折率を表す。第2高調波を発生する場合の位相整合条件は、上式でλ=λおよびn=nとすることで得られる。
【0009】
BBO結晶、LBO結晶、CLBO結晶などの複屈折性結晶の場合、位相整合条件を満たす方法として、角度位相整合と温度位相整合の2つが存在する。角度位相整合は入射光軸と結晶軸がなす角度を調整し、温度位相整合はペルチェ素子等により結晶の温度を調整する。
【0010】
角度位相整合が可能な角度に加工された非線形光学結晶を用いる場合も、位相整合を維持するためには、結晶温度を精密に管理する必要がある。つまり、角度位相整合および温度位相整合のいずれを用いる場合も、結晶温度の精密な管理が必要になる。結晶温度を管理する場合、波長変換光の出力が最大になる温度を中心に±0.1℃以内で安定化させる場合が多い。
【0011】
非線形光学結晶から高出力の紫外光を発生させる場合、結晶自身による紫外光吸収、いわゆるセルフヒーティングによる温度変化が発生し、位相整合条件が満たされなくなるという問題がある。そのため、結晶温度を±0.1℃またはそれ以下の精度で安定化しても、紫外光出力が不安定になる場合が多い。
【0012】
紫外光は光子エネルギーが高く、非線形光学結晶で長時間紫外光を発生し続けると、結晶自身に光学損傷が生じ、波長変換効率が低下してしまう。これを解決する技術として、レーザ光が非線形光学結晶を通過する位置を変更する技術が提案されている(特許文献3~特許文献8を参照)。
【0013】
しかしながら、非線形光学結晶は熱伝導率が高くないため、ペルチェ素子等で結晶の周囲から温度を制御した場合、結晶全体の温度を均一に保つことは容易でない。そのため、結晶を空間的に平行移動させた場合、一般に位相整合条件が保てなくなり、波長変換光の出力が上昇せずに低下してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2004―055695号公報
【文献】特許第5825642号公報
【文献】特開2003-57696号公報
【文献】特開2004-22946号公報
【文献】特開平10-268367号公報
【文献】特許第4729093号公報
【文献】特開2006―317724号公報
【文献】特許4572074号公報
【文献】特開2014―149315号公報
【文献】特許第6210520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
セルフヒーティングや、光学損傷後の結晶移動により、紫外光出力を最大化する、つまり位相整合条件を満たす結晶の保持温度は変化し続ける。この変化する温度を把握して制御し続けないと、紫外光光源を長期間運用できないという課題があった。
【0016】
特に2つ以上の非線形光学結晶を利用して紫外光または深紫外光を発生する装置の場合、このような制御がより複雑で難しいのは明らかである。
【0017】
このような課題を解決する手段として、特許文献9には、複数の非線形光学結晶を用いた波長変換により紫外光を発生させる光源装置において、最終的な波長変換光の出力が最大になるように、複数の非線形光学結晶を交互に温度調整することが記載されている。
【0018】
また、特許文献10には、均一化光を生成する導光素子に波長変換光を入射し、導光素子と波長変換光の結合効率を大きくするように、非線形光学結晶の温度をフィードバック制御することが記載されている。
【0019】
しかしながら、BBO結晶を用いて紫外光を発生させる場合、特許文献9や特許文献10に記載された技術を用いたとしても最終的な波長変換光の出力を最大化させることは困難であった。また、1つのBBO結晶を用いる場合にも、BBO結晶から発生する紫外光の出力を最大化し続けることが困難であった。
【0020】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、BBO結晶の温度調整を容易化する光源装置、検査装置、および調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る光源装置は、
可視光を発生させる第1の光源と、
複数の光学鏡を有する第1の外部共振器と、
前記第1の外部共振器内に配置され、前記可視光の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光を発生させるBBO結晶と、
前記紫外光の光路上に設けた光学素子を経て形成される遠視野像面の付近に配置された1次元または2次元の半導体センサと、
前記半導体センサで検出された光強度分布の代表位置を算出する算出部と
を備える。
【0022】
また、本発明に係る検査装置は、
上記光源装置で発生した紫外光または深紫外光を照射光として用いる。
【0023】
また、本発明に係る調整方法は、
複数の光学鏡を有する第1の外部共振器内に設置された、波長466nm~472nmの範囲における可視光の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光を発生させるBBO結晶の温度を調整する調整方法であって、
前記紫外光の光路上に設けられた光学素子を経て形成される遠視野像面の近傍に配置された1次元または2次元の半導体センサで検出された光強度分布の代表位置を算出するステップ
を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、BBO結晶の温度調整を容易化する光源装置、検査装置、および調整方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】紫外光および深紫外光の出力とBBO結晶の温度の関係を示すグラフである。
図2】BBO結晶で生成する第2高調波の広がり角を説明するための図である。
図3】関連する光源装置の構成を示す構成図である。
図4】BBO結晶で発生する紫外光のウォークオフを説明するための図である。
図5】BBO結晶で発生する紫外光の遠視野像を例示するグラフである。
図6】ピーク位置の算出方法を説明するための図である。
図7】重心位置の算出方法を説明するための図である。
図8】実施形態1にかかる光源装置の構成を示す構成図である。
図9】光強度分布の形状の変化を示す概略図である。
図10】紫外光のサイドローブが深紫外光に変換されていることを説明するための図である。
図11】紫外光のサイドローブが深紫外光に変換されていることを説明するための図である。
図12】BBO結晶の温度と重心位置の関係を示すグラフである。
図13】紫外光または深紫外光の出力と重心位置との関係を示すグラフである。
図14】温度補正量の決定方法を説明するための図である。
図15】温度補正量の決定方法を説明するための図である。
図16】温度補正量の決定方法を説明するための図である。
図17】BBO結晶およびCLBO結晶の温度の調整方法の概要を示す概略図である。
図18】実施形態1にかかる検査装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態の具体的構成について図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものは実質的に同様の内容を示している。
【0027】
実施の形態に至る経緯
まず、本願の発明者が、本発明に想到した経緯について説明する。本願の発明者は、BBO結晶を用いて波長466nm~472nmの光源から波長233nm~236nmの紫外光を発生する光源装置について検討を行った。検討の結果、BBO結晶は、CLBO結晶やLBO結晶と比較して均一性が悪いことがわかった。そして、本願の発明者は、光学損傷に伴いBBO結晶を空間的に平行移動させた場合、BBO結晶の光吸収量が不連続的に変化し、最適な位相整合条件を得るための結晶の保持温度が突如5℃以上変化し得ることを発見した。
【0028】
さらに、本願の発明者は、BBO結晶から発生する波長233nm~236nmの紫外光と、波長1071~1138nmの赤外光の和周波混合光である波長193nm近傍の深紫外光を発生させる場合、BBO結晶の位相整合条件のずれが、より深刻な問題を引き起こすことを発見した。
【0029】
図1の横軸はBBO結晶の温度(℃)を表し、縦軸は波長235nmの紫外光および波長193nmの深紫外光の出力の相対値を示している。
【0030】
温度を90℃から100℃まで変化させた場合でも、波長235nmの紫外光の出力に対する位相整合条件のずれの影響は大きくない。温度が90℃や100℃であっても、温度が95℃のときに得られる最大出力の90%以上の出力が得られている。
【0031】
一方、温度が92℃以下または100℃付近である場合の波長193nmの深紫外光の出力は、温度が95℃のときに得られる最大出力の0%に近い。したがって、BBO結晶を空間的に平行移動させて、最適温度が5℃以上ずれた場合、波長193nmの深紫外光の出力は非常に小さくなってしまう。
【0032】
波長193nmの深紫外光の出力が0に近くなると、深紫外光の出力を再び最大化することは困難である。なぜならば、BBO結晶の温度補正量が分からないだけでなく、保持温度を高温側に調整するべきか、低温側に調整するべきかまでもが分からなくないためである。この場合、BBO結晶の温度を自動的に走査して最適温度を見出す装置があったとしても、光源の復旧に長い時間が掛かってしまう。
【0033】
次に、BBO結晶の温度変化に対して、CLBO結晶から発生する波長193nmの深紫外光の出力が鋭敏に変化してしまう原因について説明する。
【0034】
BBO結晶で第2高調波を発生する場合の位相整合条件は、複屈折結晶であるBBO結晶で正常光(ordinary-ray)として伝搬する基本波の屈折率と、異常光(extraordinary-ray)として伝搬する第2高調波の屈折率が等しいことに相当する。
【0035】
屈折率は、結晶軸と光伝搬方向の成す角度および結晶温度の関数で表される。BBO結晶は他の結晶と比べて複屈折性が大きいため、上記角度が僅かに変化した場合にも位相整合条件が満たされなくなる。すなわち、BBO結晶には、位相整合角許容幅が狭いという特徴がある。
【0036】
基本波の波長を470nmとして波長235nmの波長変換光を発生させる、長さ10mmのBBO結晶の場合、位相整合角許容幅は半値全幅で0.18mradしかない。
【0037】
一方、実用的な出力の第2高調波を得るためには、レンズ等を用いて小さい径の可視光をBBO結晶に集光する必要がある。例えば、可視光を直径100μmに集光すると、その広がり角は結晶内で約7.4mradになる。その7.4mradの広がり角のうち、位相整合角を中心とした±0.09mradの範囲しか位相整合しない。そして、発生する第2高調波の広がり角は、位相整合する角度範囲内に制限される。
【0038】
図2は、長さL(例:10mm)のBBO結晶11に入射光である可視光L101を集光させた状態を表す模式図である。6本の矢印は、可視光L101の入射方向を示している。角度A1(例:7.4mrad)は入射光の広がり角を表している。角度A2は、第2高調波の広がり角を例示している。波形B1は、第2高調波の光強度分布を模式的に示している。何らかの原因でBBO結晶11の屈折率が変化した場合、位相整合条件を満たす角度が変化し、7.4mradの広がり角の範囲で第2高調波の伝搬方向が変化する。
【0039】
図3を参照して、CLBO結晶で発生した深紫外光の強度が変化する理由について説明する。図3は、関連する光源装置10の構成を示す概略図である。光源装置10は、BBO結晶11、集光レンズ12、ビームスプリッタ13、およびCLBO結晶14を備えている。
【0040】
BBO結晶11に、一定の広がり角を持った波長470nmの可視光L101が入射している。そして、BBO結晶11が、水平方向に伝搬する波長235nmの紫外光L201を発生したものとする。紫外光L201は、焦点距離Fの集光レンズ12を通り、ビームスプリッタ13を透過し、CLBO結晶14に入射する。紫外光L201は、集光レンズ12により直径100μm程度に集光される。また、波長1080nmの赤外光L301が、ビームスプリッタ13で反射され、CLBO結晶14に入射する。CLBO結晶14内で、紫外光L201と赤外光L301が重なる。赤外光L301も、紫外光L201と同様に、直径100μm程度に集光されていてもよい。CLBO結晶14は、紫外光L201と赤外光L301を和周波混合した波長193nmの深紫外光L401を発生させる。
【0041】
位相整合条件を満たす角度が変化すると、BBO結晶11は、紫外光L101の伝搬角度からΔθだけ伝搬角度を変えた紫外光L202を発生させる。
【0042】
この場合、fθレンズの原理により、CLBO結晶14内の集光点はFΔθだけ移動する。例えば、F=200mmの場合、Δθが0.5mrad変化しただけで、集光点は100μm移動する。集光点が、紫外光L201の直径分移動しているため、CLBO結晶14内で紫外光L201と赤外光L301とが重ならず、波長193nmの深紫外光L401の出力が大幅に低下する。
【0043】
したがって、波長193nmの深紫外光L401の出力を維持するためには、紫外光L201の出力を高めるようにBBO結晶11の位相整合を調整する従来技術では不十分である。
【0044】
また、異常光である第2高調波(紫外光)は、ウォークオフと呼ばれる現象により、結晶軸を含む面内に引き延ばされた光強度分布を持つ。基本波と第2高調波のエネルギーの伝搬方向が成す角は、ウォークオフ角と呼ばれる。
【0045】
図4を参照してウォークオフについて説明する。cは結晶軸を表している。δは、BBO結晶11に入射する可視光L101の広がり角を表している。波長470nmの可視光L101を入射光とした第2高調波発生を可能とするBBO結晶11の位相整合角θは、θ=59°付近であり、ウォークオフ角ρは78.9mradである。BBO結晶11の結晶長Lが10mmの場合、入射する可視光L101のビーム径を0.1mmとすると、波長235nmの紫外光L201のウォークオフ方向(図4の縦方向)のビーム径Wは、0.1+10×0.0789~0.9mmとなる。
【0046】
一般にウォークオフ方向の第2高調波の光強度分布は、BBO結晶11を出射した直後はほぼフラットであり、BBO結晶11からの距離に応じて回折現象により様々に変化する。波長193nmの深紫外光L401を発生させるために、レンズ等を用いて第2高調波をCLBO結晶14に集光した場合、ウォークオフ方向(ウォークオフ面方向とも言う)における集光点での光強度分布は、フラウンホーファ回折像とも言われる遠視野像になる。波形B2はBBO結晶11を出射した直後の光強度分布を表しており、波形B3は遠視野像を表している。3つの矢印は、波形B2に含まれるフラットな形状と、波形B3に含まれる凸形状とが対応していることを表している。
【0047】
図5に示す4つの波形B4~B7は、紫外光L201を焦点距離約600mmのレンズで集光した場合の焦点面におけるウォークオフ方向の光強度分布、つまり遠視野像の測定結果を示している。遠視野像は、一次元のCCD(Charge―Coupled Device)センサにより測定された。波形B4~B7間で、BBO結晶11に対する可視光L101の入射位置(透過位置)が互いに異なっている。
【0048】
発明者は、図5に示されるようなウォークオフ方向における複雑な光強度分布から代表位置(基準位置とも言う)を算出した。発明者は、代表位置をCCDセンサ上の一定範囲に収めることで、紫外光L201の出力をほぼ最大にしつつ、出射方向もほぼ一定に保てることを発見した。
【0049】
代表位置としては、光強度分布のピーク位置や、ピーク位置を含む一定範囲内の光強度分布の重心が適切であるが、これらには限定されない。
【0050】
図6および図7を参照して、代表位置の具体例について説明する。図6は、一次元のCCDセンサを用いて遠視野像を測定した結果を示している。縦軸は、各画素からの出力の相対値(センサ出力と言う)を表し、横軸は画素の番地(センサ番地と言う)を表している。実線が測定結果を表しており、点線はセンサ出力が「50」を超えた部分を抽出した結果を示している。点線で示されたグラフは、図7に実線で示されたグラフと同一であり、重心位置を算出する際に用いられる。
【0051】
センサ素子はウォークオフ方向に沿って並べられており、横軸はウォークオフ方向における位置に対応している。光強度分布のピーク位置を代表位置とする場合、代表位置は、例えば「21」と算出される。
【0052】
図7を参照して、重心位置を算出する方法について具体的に説明する。この場合、重心よりも左側の面積(面積S1)と、重心よりも右側の面積(面積S21と面積S22の和)とが等しくなるように、光強度分布の重心が「20」と定められる。
【0053】
本願の発明者は、以上の検討に基づき、実施形態にかかる発明に想到した。
【0054】
実施形態1
以下、実施形態1にかかる光源装置および検査装置について、図面を参照しながら説明する。
【0055】
(光源装置)
図8は、実施形態1にかかる光源装置100の構成を示している。光源装置100は、第1の光源21、集光レンズ22、第1の外部共振器23、BBO結晶24、第1の熱電素子25、集光レンズ26、ビームスプリッタ27、ミラー28、半導体センサ29、第2の光源30、集光レンズ31、ミラー32、ミラー33、第2の外部共振器34、CLBO結晶35、第2の熱電素子36、画像処理回路37、コンピュータ38、および温度調整器39を備えている。
【0056】
第1の光源21は、レーザ光源であり、連続出力光を出力する。第1の光源21は、波長466nm~472nmの範囲における可視光L1を発生する。
【0057】
第1の光源21からの可視光L1は、集光レンズ22で集光されて第1の外部共振器23に入射する。
【0058】
第1の外部共振器23は、光学鏡231、光学鏡232、光学鏡233、光学鏡234、アクチュエータ235、および共振器長制御装置236を備えている。光学鏡231~234は、例えば凹面鏡または平面鏡である。可視光L1は、部分反射ミラーである光学鏡231を介して、第1の外部共振器23に導かれる。可視光L1は、光学鏡231~234での反射を順番に繰り返していく。
【0059】
光学鏡231~234のうちの一つ(例:光学鏡233)には第1の外部共振器23の長さを調整するためのアクチュエータ235が取り付けられる。共振器長制御装置236が、アクチュエータ235を適切に制御することにより第1の外部共振器23の共振が保たれる。
【0060】
BBO結晶24は、第1の外部共振器23内(例:光学鏡231と光学鏡232の間)に設置される。BBO結晶24は、可視光L1の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光L2を発生させる。BBO結晶24の入出射面は、可視光L1および第2高調波の両方に対して反射防止膜が施されている。または、BBO結晶は可視光L1に対して反射率0となるブリュースター角に加工されていてもよい。BBO結晶24は、第1の熱電素子25によって温度制御される。
【0061】
第1の熱電素子25は、例えばペルチェ素子であり、温度調整器39からの制御信号に応じてBBO結晶24の温度を制御する。BBO結晶24は、第1の熱電素子25を含むステージに載置されていてもよい。
【0062】
BBO結晶24で発生した紫外光L2は、光学鏡232から取り出される。光学鏡232には、例えば、可視光L1の波長に対して高反射、紫外光L2の波長に対して反射防止の膜が施されている。なお、光学鏡232とBBO結晶24の間に、可視光L1を透過して、紫外光L2を反射するダイクロイックミラー等を設置してもよい。
【0063】
第1の外部共振器23からの紫外光L2は、集光レンズ26で集光されてビームスプリッタ27に入射する。ビームスプリッタ27は、ビームサンプラであってもよい。ビームスプリッタ27は、入射した紫外光L2の一部を透過し、一部を反射する。よって、ビームスプリッタ27は、入射した紫外光L2を2本の紫外光L21およびL22に分岐する。ビームスプリッタ27で反射された紫外光L2を紫外光L21とし、ビームスプリッタ27を透過した紫外光L2を紫外光L22とする。
【0064】
ビームスプリッタ27で反射した紫外光L21は、ミラー28で反射され、半導体センサ29に入射する。ビームスプリッタ27を透過した紫外光L22は、第2の外部共振器34に入射する。
【0065】
半導体センサ29は、1次元または2次元の半導体センサ(例:CCDセンサ)であり、BBO結晶24で発生した紫外光L2の遠視野像を撮像している。半導体センサ29は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、TDI(Time Delay Integration)センサなどであってもよい。半導体センサ29は、紫外光L21の光強度分布を撮像している。半導体センサ29が一次元の半導体センサ(ラインセンサ)である場合、半導体センサ29は、ライン方向とウォークオフ方向が一致するように配置される。半導体センサ29は、出力信号を画像処理回路37に出力する。
【0066】
半導体センサ29は、紫外光L2の光路上に配置された光学素子(集光レンズ26等)を経て形成される遠視野像面の近傍に配置されている。集光レンズ26が紫外光L2をCLBO結晶35に集光しているため、CLBO結晶35内には、BBO結晶24で発生した紫外光L2の遠視野像面が含まれる。半導体センサ29は、CLBO結晶35に含まれる遠視野像面と共役な面に配置される。
【0067】
半導体センサ29がラインセンサである場合、紫外光L21を縦シリンドリカルレンズでライン方向と垂直な方向に広げてもよい。これにより、半導体センサ29から紫外光L21のビームが外れにくくなる。BBO結晶24の温度を変化させると、紫外光L21のビームがライン方向に沿って移動する。
【0068】
第2の光源30は、レーザ光源であり、連続出力光を出力する。第2の光源30は、波長1071nm~1138nmの範囲における赤外光L3を発生させる。
【0069】
第2の光源30からの赤外光L3は、集光レンズ31で集光され、ミラー32およびミラー33で反射され、第2の外部共振器34に入射する。
【0070】
第2の外部共振器34は、光学鏡341、光学鏡342、光学鏡343、光学鏡344、アクチュエータ345、および共振器長制御装置346を備えている。光学鏡341~344は、例えば凹面鏡または平面鏡である。
【0071】
紫外光L22は、部分反射ミラーである光学鏡341を介して、第2の外部共振器34に導かれる。赤外光L3は、部分反射ミラーである光学鏡343を介して、第2の外部共振器34に導かれる。赤外光L3は、光学鏡341~344での反射を順番に繰り返していく。
【0072】
光学鏡341~344のうちの一つ(例:光学鏡344)には、第2の外部共振器34の長さを調整するためのアクチュエータ345が取り付けられる。共振器長制御装置346が、アクチュエータ345を適切に制御することにより第2の外部共振器34の共振が保たれる。
【0073】
CLBO結晶35は、第2の外部共振器34内(例:光学鏡341と光学鏡342の間)に設置されている。CLBO結晶35は、紫外光L22と赤外光L3の和周波混合光である波長193nmの近傍の深紫外光L4を発生する。CLBO結晶35の入出射面は、紫外光L22、赤外光L3、および深紫外光L4の一部ないし全てに対して反射防止膜が施されている。または、CLBO結晶35は、赤外光L3に対してほぼ反射率が0となるブリュースター角に加工されていてもよい。CLBO結晶35は、第2の熱電素子36によって温度制御される。
【0074】
第2の熱電素子36は、温度調整器39からの制御信号に応じてCLBO結晶35の温度を制御する。第2の熱電素子36は、例えば、ペルチェ素子である。CLBO結晶35は、第2の熱電素子36を含むステージに載置されていてもよい。
【0075】
CLBO結晶35で発生した深紫外光L4は、光学鏡342から取り出される。光学鏡342には、例えば、紫外光L2および赤外光L3の波長に対して高反射、深紫外光L4の波長に対して反射防止の膜が施されている。なお、CLBO結晶35と光学鏡342の間に、深紫外光L4を反射して、赤外光L2を透過するダイクロイックミラー等を用いてもよい。第2の外部共振器34から取り出された深紫外光L4は、フォトマスクなどを検査する際の照明光として用いられる。また、深紫外光L4の光路には、図示しないビームスプリッタとフォトダイオードが設けられ、深紫外光L4の出力はフォトダイオードでモニタされる。
【0076】
画像処理回路37は、半導体センサ29の出力信号を処理し、紫外光L2の遠視野像を表す信号を生成する。画像処理回路37は、生成した信号をコンピュータ38に出力する。
【0077】
コンピュータ38は、プロセッサやメモリなどを備えている。コンピュータ38は、算出部381および温度制御部382を備えている。
【0078】
算出部381は、半導体センサ29で検出された光強度分布の代表位置を算出する。代表位置は、上述の通り、ピーク位置であっても重心位置でもあってもよいが、これらに限定されない。算出部381は、算出した代表位置を温度制御部382に出力する。
【0079】
温度制御部382は、代表位置が所定範囲内に含まれるように、BBO結晶24の温度を制御する。つまり、温度制御部382は、代表位置が所定範囲内に含まれるように、第1の熱電素子25の温度の調整量(第1の温度補正量と言う)を決定し、温度調整器39に出力する。なお、調整方法の具体的な決め方については後述する。そして、温度制御部382は、深紫外光L4の出力が最大になるように、第2の熱電素子36の温度の調整量(第2の温度補正量と言う)を決定し、温度調整器39に出力する。
【0080】
温度調整器39は、コンピュータ38が決定した第1の温度補正量に従って第1の熱電素子25の温度を設定して制御する。また、温度調整器39は、コンピュータ38が決定した第2の温度補正量に従って第2の熱電素子36の温度を設定して制御する。
【0081】
光源装置100を初期調整する場合には、紫外光L2の出力が最大になるようにBBO結晶24の温度を調整する。紫外光L2の出力は、半導体センサ29によって測定されてもよい。そして、深紫外光L4の出力が最大になるように、CLBO結晶35への紫外光L22の入射角度と、CLBO結晶35の温度(第2の熱電素子36の温度)を調整する。調整後、半導体センサ29で測定された光強度分布の代表位置(例:重心位置)を算出し、参照位置としてコンピュータ38のストレージに記憶する。コンピュータ38の温度制御部382は、代表位置が参照位置から外れた場合、代表位置が参照位置に戻るようにBBO結晶24の温度(第1の熱電素子25の温度)を設定する。
【0082】
BBO結晶24から発生する紫外光L2と第2の光源30から発生する赤外光L3をCLBO結晶35内に同軸に集光して和周波発生を行い、波長193nm近傍の深紫外光L4を発生する場合、上述のようにBBO結晶24の温度を制御することで、CLBO結晶35内の紫外光L2と赤外光L3の重なりを一致させることができる。これにより、長時間安定した高出力の波長193nmの深紫外光L4を発生できる。
【0083】
半導体センサ29は、集光レンズ26の後方に紫外光L12を取り出すビームスプリッタ27を設け、CLBO結晶35と共役な面に配置されればよい。
【0084】
図9を参照し、BBO結晶24の温度を変えた場合の光強度分布の形状の変化について説明する。波形B11、B12、B13、およびB14は、BBO結晶24の温度が130℃、140℃、146℃、および150℃のときに半導体センサ29で測定した光強度分布である。ここでは波形B11~B14の代表位置ではなく形状に注目している。波形B11~B14の形状はBBO結晶24の温度によって異なり、温度が150℃のとき、メインローブ(最大光強度を含む楕円領域)よりも、サイドローブ(メインローブ以外の領域)が大きくなっている。代表位置を決定する際、サイドローブを考慮すべきか否かが問題となる。そこで、発明者は、紫外光L2のメインローブのみが深紫外光L4に変換されるのか、紫外光L2のメインローブとサイドローブの両方が深紫外光L4に変換されるのかについて検討を行った。
【0085】
なお、プロファイルP1、P2、P3、およびP4は、BBO結晶の温度が130℃、140℃、146℃、および150℃のときの紫外光L2のビームプロファイルを表している。紫外光L2の出力の大きさがグレースケールで表現されている。プロファイルP1~P4は、プロファイラによって取得されている。ラインL1は、深紫外光L4の出力が最大になる場合の紫外光L2のビームの位置を表している。BBO結晶24の温度が130℃である場合、温度を10℃上げると、白抜き矢印で示す方向にビームが移動し、深紫外光L4の出力を最大にすることができる。
【0086】
図10は、紫外光L21の光強度分布を示す波形B15と、深紫外光L4のビームプロファイルP5とを含んでいる。波形B15とビームプロファイルP5の両方がサイドローブC1を含んでいることから、紫外光L2のサイドローブも深紫外光L4に変換されていることが分かる。
【0087】
図11は、紫外光L21の光強度分布を示す波形B16および波形B17を含んでいる。波形B16のサイドローブは大きく、波形B17のサイドローブは小さい。発明者は、波形B16のようなサイドローブが大きい紫外光L2の変換効率が、波形B17のようなサイドローブが小さい紫外光L2の変換効率よりも大きい場合があることを発見した。この点からも、紫外光L2のサイドローブが深紫外光L4に変換されていることが分かる。
【0088】
サイドローブも深紫外光L4に変換されていることを考慮すると、算出部381は、重心位置を代表位置とすることが好ましい。コンピュータ38の算出部381は、ピーク位置を中心とした±50ピクセルの範囲の重心位置を、代表位置として算出してもよい。
【0089】
図12は、BBO結晶24の温度と重心位置との関係を点線で示すグラフと、BBO結晶24の温度と深紫外光L4の出力の関係を実線で示すグラフとを含んでいる。横軸はBBO結晶24の温度を表しており、縦軸は重心位置(相対値)または深紫外光L4の出力(相対値)を表している。深紫外光L4の出力が最大であるときのBBO結晶24の温度は約94℃であり、このとき重心位置が「2」である。つまり、重心位置が「2」のとき深紫外光L4の出力は最大になる。
【0090】
深紫外光L4の出力を最大にするBBO結晶24の温度は、高出力の紫外光L2を発生させている場合に生じるBBO結晶24内の屈折率変化、温度分布変化、ビームが透過(入射)する位置の移動などによって刻々と変化する。よって、BBO結晶24の温度を94℃に保持し続ければ深紫外光L4の出力を最大に維持できる訳ではない。特に損傷発生に伴ってBBO結晶24を空間的に平行移動させると、温度が異なる位置に可視光L1が入射する場合がある。この場合、BBO結晶24の温度を90℃付近に調整しないと紫外光L2が発生しない場合もある。
【0091】
上述の通り、紫外光L2の出力を最大にする代表位置は、常に同じ位置であることが実験的に見出されている。図13は、深紫外光L4の出力と重心位置との関係を実線で示すグラフと、紫外光L2の出力と重心位置の関係を点線で示すグラフとを含んでいる。図13を参照すると、重心位置が「2」であるときに深紫外光L4および紫外光L2の出力が最大になることがわかる。
【0092】
代表位置が同一である場合、CLBO結晶35内における紫外光L22の位置(例:紫外光L22の光強度分布の重心、紫外光L22の光強度分布のピーク位置)が同一である。そのため、CLBO結晶35内での紫外光L22と赤外光L3との重なりが常に最適化される。
【0093】
次に、第1の熱電素子25の温度補正量の決定方法について説明する。図12を参照して説明したように、代表位置とBBO結晶24の温度との関係はほぼ直線で示される。したがって、代表位置と参照位置の差から、必要な温度の調整量(温度補正量)を一次式で容易に算出し、代表位置を参照位置に略一致させることができる。すなわち、コンピュータ38の温度制御部382は、代表位置とBBO結晶24の温度の関係を表す一次式に基づいて、BBO結晶の温度補正量を決定できる。
【0094】
図14および図15を参照して、温度補正量の決定方法を具体的に説明する。図14は、図12と同様に、BBO結晶24の温度と重心位置の関係を点線で示すグラフと、BBO結晶24の温度と深紫外光L4の出力の関係を実線で示すグラフとを含んでいる。図15は、図10と同様に重心位置と同様に、深紫外光L4の出力と重心位置の関係を実線で示すグラフと、紫外光L2の出力と重心位置の関係を点線で示すグラフとを含んでいる。図15を参照すると、重心位置の初期値である参照位置は、深紫外光L4の出力が最大となる「2」に設定される。
【0095】
ここで、BBO結晶24を空間的に移動させ、重心位置が「-10」に変化したものとする。図15を参照すると、重心位置が「2」から「-10」に変化すると、深紫外光L4の出力が40%低下し、移動前の約60%になることがわかる。したがって、BBO結晶24を空間的に移動させることにより紫外光L2の出力が20%上昇したとしても、移動直後の深紫外光L4の出力は、移動前の深紫外光L4の出力の72%(1.2×0.6=0.72)となる。
【0096】
図14の点線で示されたグラフを参照し、重心位置が「-10」のときのBBO結晶24の温度と、重心位置が「2」のときのBBO結晶24の温度を読み取ると、重心位置を「-10」から「2」に移動させるためには、BBO結晶24の温度を約2℃下げればよいことがわかる。コンピュータ38の指令により、BBO結晶24の温度(第1の熱電素子25の温度)を2.0℃下げ、重心位置をBBO結晶24の移動前と同じ「2」にすると、紫外光L2の出力に対する深紫外光L4の出力は40%上昇する。深紫外光L4の出力は紫外光L2の出力にほぼ比例するため、深紫外光L4の出力はBBO結晶24を移動する前の1.2倍に上昇する。
【0097】
このように、BBO結晶24から出射する紫外光L2の、集光レンズ26による焦点面に1次元または2次元の半導体センサ29を配置し、半導体センサ29の出力により求められる代表位置と参照位置の差を算出する。そして、その差に応じた温度差を無くすような制御を行うことで、紫外光L2の出力をほぼ最大化しつつ、出射方向を一定範囲内に収めることができる。
【0098】
図16を参照して、温度補正量の決定方法について補足的な説明を行う。図16は、BBO結晶24の温度と代表位置の関係を点線で示すグラフと、BBO結晶24の温度と紫外光L2の出力の関係を一点鎖線で示すグラフと、BBO結晶24の温度と深紫外光L4の出力の関係を点線で示すグラフを含んでいる。横軸はBBO結晶24の温度を表し、縦軸は紫外光L2の出力、深紫外光L4の出力、または代表位置を示している。代表位置が「0」のときに深紫外光L4の出力が最大になるように調整されている。代表位置とBBO結晶24の温度との関係は線形であり、代表位置から温度補正量を容易に算出できる。例えば、BBO結晶が135℃であり、深紫外光L4の出力が0に近いものとする。この場合、関連技術では、BBO結晶24の温度を適切に制御できない。一方、光源装置100を用いる場合、代表位置のずれ(例:+30)をもとに温度補正量(例:+5℃)を容易に算出できるため、光源装置100は、復帰速度が速く、信頼性が高い。
【0099】
図17は、BBO結晶24およびCLBO結晶35の温度の調整方法の概要を示す概略図である。横軸はBBO結晶24の温度を表し、縦軸はCLBO結晶35の温度を表している。エリアE1、E2、E3、およびE4は、深紫外光L4の出力に対する、検査に必要な光量の割合が90~100%、80~90%、70~80%、および60~70%の領域を表している。例えば、上記割合が85%の場合、エリアE2に入るので、一時的に検査は出来るが、深紫外光L4の光量に余裕が少ない(NG)と判断される。点F1は、装置起動直後、または結晶移動後のBBO結晶24の温度とCLBO結晶35の温度を表している。この場合、上記割合は100%を超えており、温度を示す点がエリアE3またはエリアE4に入るように温度調整される。
【0100】
この場合、まず、代表位置を算出し、代表位置に基づいてBBO結晶24の温度を補正する(ステップS11)。そして、深紫外光L4の出力が大きくなるようにCLBO結晶35の温度を補正する(ステップS12)。従来技術を用いた場合、BBO結晶24およびCLBO結晶35の温度調整時間は約7分であったが、この調整方法を用いた場合の調整時間は約1分であった。
【0101】
最後に実施形態1にかかる光源装置100が奏する効果について説明する。BBO結晶24を用いた第2高調波発生により紫外光L1を発生させる光源で、理由に依らず位相整合条件が変化したとしても、紫外光L2の出力を一定範囲内に制御しつつ、紫外光L2の出力を最大化し続けることができる。
【0102】
特に、BBO結晶24を空間的に平行移動し、移動前とは屈折率が異なる場所に可視光L1が入射(透過)すると、BBO結晶24の最適温度が大きく変化してしまう場合がある。この場合に、波長193nmの深紫外光L4の出力が得られなくなる場合でも、必要な温度補正量を直ちにコンピュータ38で計算し、10秒程度の短時間でBBO結晶24を最適温度に調整し、深紫外光L4の出力を回復できる。また、光源装置100は、深紫外光L4の出力が最大の状態を維持し続けることができる。
【0103】
これにより、波長235nmの紫外光L2、または紫外光L2と赤外光L3とを和周波混合した波長193nmの深紫外光L4を半導体検査装置に使用する場合、検査装置を長期間安定動作させることができる。
【0104】
(検査装置)
次に、実施形態1にかかる光源装置100を用いた検査装置の構成について、図18を用いて説明する。図18は、検査装置300の全体構成を示す図である。図18に示す検査装置300は、半導体製造の露光工程に用いられるマスクの検査装置である。なお、検査対象であるフォトマスクは、主に193nmのDUV光を露光波長とするリソグラフィーに用いられる。もちろん、検査対象はフォトマスクに限定されるものではない。
【0105】
図18に示すように、検査装置300は、光源装置100、レンズ302a~302d、均一化光学系303a、303b、λ/2波長板304、偏光ビームスプリッタ305、λ/4波長板306、対物レンズ307、結像レンズ311、二次元光検出器312、ハーフミラー313a、ミラー313b~313c、コンデンサーレンズ314、3λ/4波長板315を有している。
【0106】
光源装置100はP波である照明光L5を発生する。照明光L5は、深紫外光L4に相当する。あるいは、深紫外光L4をさらに波長変換素子に入射させることで、発生した波長変換光を照明光として用いてもよい。照明光L5はハーフミラー313aにより2本の照明光に分岐される。ここで、ハーフミラー313aを透過した照明光L5は、反射照明用レーザ光L501となり、ハーフミラー313aで反射した照明光L5は、透過照明用レーザ光L506となる。
【0107】
反射照明用レーザ光L501は、レンズ302aで集光され、均一化光学系303aに入射する。均一化光学系303aには、例えば、ロッド型インテグレータと呼ばれるものなどが適する。
【0108】
均一化光学系303aから、空間的に強度分布が均一化された反射照明用レーザ光L501が出射する。反射照明用レーザ光L501は、レンズ302bを通り、λ/2波長板304を通ることによって偏光方向が90度回転してS波となる。そして、S波となった反射照明用レーザ光L301は、偏光ビームスプリッタ305に入射し、反射照明用レーザ光L502のように図18の下方に反射する。反射照明用レーザ光L502は、λ/4波長板306を通って円偏光の反射照明用レーザ光L503になる。反射照明用レーザ光L503は、対物レンズ307を通ってマスク308のパターン面309内の観察領域310を照明する。なお、以上は反射照明と呼ばれる照明系である。そして、マスク308のパターン面309で反射して上方に進む反射光がレーザ光L504となる。
【0109】
一方、光源装置100から供給された透過照明用レーザ光L506は、ミラー313bで反射される。ミラー313bで反射した透過照明用レーザ光L506は、レンズ302cで集光され、均一化光学系303bに入射する。均一化光学系303b内を進むことで、空間的に強度分布が均一化された透過照明用レーザ光L507が出射する。透過照明レーザ光L307はレンズ302dを通過し、ミラー313cで反射し、3/4波長板315を通過して、円偏光の透過照明レーザ光L508のようになる。そして、透過照明用レーザ光L508は、コンデンサーレンズ314を通り、マスク308のパターン面309内の観察領域310を照射する。なお、以上は透過照明と呼ばれる照明系である。マスク308を通過して、上方に進む透過光は、レーザ光L504となる。
【0110】
マスク308を反射したレーザ光L304、又はマスク308を透過したレーザ光L504は、対物レンズ307を通過後、λ/4波長板306を通過して直線偏光に戻る。上方に進むレーザ光L504は、下方に進む透過照明用レーザ光L502とは偏光方向が直交するP波となり、偏光ビームスプリッタ305を透過する。その結果、レーザ光L505のように進んで結像レンズ311を通過して二次元光検出器312に当たる。したがって、二次元光検出器312は、波長変換光により照明されたマスク308を撮像する。観察領域310を二次元光検出器312上に拡大投影させて、パターン検査する。なお、二次元光検出器312としては、CCDセンサ、CMOSセンサ、又はTDIセンサなどの撮像装置を用いることができる。
【0111】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0112】
10、100 光源装置
21 第1の光源
12、22、26、31 集光レンズ
23 第1の外部共振器
231、232、233、234、341、342、343、344 光学鏡
235、345 アクチュエータ
236、346 共振器長制御装置
11、24 BBO結晶
25 第1の熱電素子
13、27 ビームスプリッタ
28、32、33 ミラー
29 半導体センサ
30 第2の光源
34 第2の外部共振器
14、35 CLBO結晶
36 第2の熱電素子
37 画像処理回路
38 コンピュータ
381 算出部
382 温度制御部
39 温度調整器
L101、L1 可視光
L201、L2、L21、L22 紫外光
L301、L3 赤外光
L401、L4 深紫外光
A1、A2 角度
B1、B2、B3、B4、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B17 波形
C1、C2 サイドローブ
E1、E2、E3、E4 エリア
【要約】
【課題】BBO結晶の温度調整を容易化する光源装置、検査装置、および調整方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光源装置100は、可視光L1を発生させる第1の光源21と、複数の光学鏡を有する第1の外部共振器23と、第1の外部共振器23内に配置され、可視光L1の第2高調波である波長233nm~236nmの範囲における紫外光L2を発生させるBBO結晶24と、紫外光L2の光路上に設けられた光学素子を経て形成される遠視野像面の近傍に配置された1次元または2次元の半導体センサ29と、半導体センサ29で検出された光強度分布の代表位置を算出する算出部381とを含む。
【選択図】図8
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