(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/06 20060101AFI20220831BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20220831BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20220831BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220831BHJP
【FI】
B01D53/06 100
B01D53/26 220
B01D53/62
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2021211907
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2022-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】721012612
【氏名又は名称】岡野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡野浩志
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-013906(JP,A)
【文献】特開2016-175014(JP,A)
【文献】特開2012-005943(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012873(WO,A1)
【文献】特開2019-025482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0008366(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12
B01D 53/26-53/28
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
F24F 1/0007,1/0059-1/008,1/02,1/032-1/0355
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくともロータの回転方向の順に、処理ガスゾーンと、
結露水を生じない高断熱性構造の「積層構造パージ・回収ブロック」に形成された回収ゾーンと脱着ゾーンとを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ガスゾーンにてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気又は混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、脱着ゾーンに
100℃近い飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させ回収ゾーンを通して回収する
処理出口空気を空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置。
【請求項2】
二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくとも回転方向の順に、処理ガスゾーンと、
結露水を生じない高断熱性構造の「積層構造パージ・回収ブロック」に形成された処理ガスパージゾーンと回収ゾーンと脱着ゾーンと脱着ガスパージゾーンを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ガスゾーンにてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気又は混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、処理ガスパージゾーンと脱着ガスパージゾーンが循環パージし、脱着ゾーンに
100℃近い飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させ回収ゾーンを通して回収する
処理出口空気を空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置。
【請求項3】
二酸化炭素を含む混合ガスが大気又は空調空気であり、処理ガスゾーンを出た空気を空調用に給気し、回収ゾーンを出た二酸化炭素ガスを回収する請求項1又は請求項2の
処理出口空気を空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置。
【請求項4】
ハニカムロータと駆動モータ及び駆動ベルトで構成する駆動系を発泡板に組み込んだ「ロータカセットモジュール板」と、ロータ軸の保持及びロータの両端面を支持シール摺動する発泡板に、脱着、回収、パージ流路の空間と連通路を有する複数の耐熱性発泡ゴム板で構成した「積層構造パージ・回収ブロック」を夫々組み込んだ「ロータ端面モジュール板」の前後と、処理ガス送風機を組み込んだ「送風系モジュール板」とを積層組み立て一体化する請求項1
又は請求項2の
処理出口空気を空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置。
【請求項5】
各ゾーン空間を有した又は有していない扇形シートの積層構造であって、ロータ端面に接する摺動面は耐熱耐摩耗性の摺動シートと、その下
層は発泡ゴムシート層と、
さらにその下
層は各ゾーン間の連通路を設けた発泡ゴムシート層または発泡板層と、
最下層はゾーン空間を有していない断熱板を積層接着してブロック化し、外周部又は底面に蒸気導入部と脱着ガス回収部を設けた「積層構造パージ・回収ブロック」及び、それを組み込んだ
請求項1又は請求項2の、処理出口空気を空調給気可能な二酸化炭素ガス分離濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い回収率で回収し、高濃度に濃縮でき、耐久性が高く、100℃前後の排熱を利用でき、かつ消費エネルギーの少ない、安価でコンパクト化が容易な、湿式サーマルスイング法二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、産業や自動車及び家庭から排出される二酸化炭素ガスをできるだけ削減しようとする取り組みが世界レベルで行われている。例えばエネルギー多消費機器を省エネルギー型に代替するという取り組み。また、化石由来ではなく太陽光や風力等再生可能エネルギーに代替する取り組み、火力発電所など大規模二酸化炭素ガス発生源から二酸化炭素ガスを分離濃縮して、地中や深海に貯留する技術、採油末期の油田に二酸化炭素ガスを注入して採油量を増やす原油増進回収法(CO2―EOR)、あるいは大気中から二酸化炭素ガスを分離回収して燃料等にリサイクルする技術等も研究開発されている。
【0003】
以上のような取り組みの中で、本件発明は火力発電所や燃焼炉等から排出されるガスのみならず、大気や空調空気からでも二酸化炭素ガスを分離して高濃度濃縮可能な技術に関する。二酸化炭素ガスを大量に排出する施設に隣接して設置するのではなく、回収二酸化炭素ガスを回収利用する場所に隣接して、あるいは持ち運び用にコンパクト化も容易な、二酸化炭素ガス分離濃縮技術に関するものである。
【0004】
火力発電所は、燃料に石炭や石油、天然ガス等化石燃料を用いるものが最も普及しており、これ以外には都市より排出されるゴミを焼却発電するもの等がある。このような火力発電所は燃料が安価で、技術の歴史や実績があり、安定して電力を供給できるという特徴がある。 しかし火力発電所は二酸化炭素ガスを排出し、地球の温暖化を促進するという問題が有る。
【0005】
この対策として、排ガス中の二酸化炭素ガスを分離回収濃縮し、回収した二酸化炭素ガスを地中や深海に貯留する、あるいは原油増進回収法(CO2―EOR)に利用する他に様々な再利用方法が研究開発されている。この二酸化炭素ガスの分離回収濃縮手段としては、深冷法、吸収法、吸着法、膜分離法等種々提案されている。
【0006】
深冷法は原料ガスを加圧して、加圧下での各ガスの液化温度の差を利用して、二酸化炭素ガスを液化分離する方法である。ガスを圧縮するコンプレッサの電力と、深冷する冷凍機の電力が必要で、例えば二酸化炭素ガス濃度が10%前後の場合、二酸化炭素ガス以外の、回収する必要のないその他90%のガスも一緒に圧縮、深冷しなくてはならない為、エネルギー消費が過大になる欠点が有る。
【0007】
吸収法は、二酸化炭素ガスをモノエタノールアミン等アミン系のアルカリ液に吸収させて回収し、加熱することで二酸化炭素ガスを脱離させて濃縮する方法で、すでに実用化されているが、アルカリ液を取り扱うことで耐蝕性の高価な材料が必要で高コストである。また、アミン水溶液の濃度は30%前後で、70%前後が水であり、取り扱う液体の熱容量が膨大なため、要所に熱交換器を配置して熱回収しても省エネルギー化の限界に近づいている。
【0008】
吸着法はゼオライトや活性炭などのガス吸着材を用いるもので、圧力差を利用して吸・脱着するプレッシャースイング法(以下PSA法)と温度差を利用して吸・脱着するサーマルスイング法(以下TSA法)とがある。PSA法は圧力により二酸化炭素ガスの吸着量が変わる原理を利用して、加圧して二酸化炭素ガスのみを吸着させ、減圧して二酸化炭素ガスを脱着分離回収する方法なので高圧容器が必要で、周辺機器として電磁弁やコンプレッサ、真空ポンプ等精密機械も必要となり大型化が困難という問題が有る。
【0009】
TSA法は摂氏50℃以下(以降、温度は全て「摂氏」とする)の温度で二酸化炭素ガスを吸着させ、100~200℃前後の温度に加熱したガスで二酸化炭素ガスを脱着させて回収する方法である。二酸化炭素吸着材を充填した複数の吸着塔を吸着と再生と交互に切り替える多塔式では、ガスの圧力損失が高く、塔の切り替えによる濃度、圧力の変動が避けられない、大型化が困難などの欠点が有る。
【0010】
TSA法の中でも、低圧力損失で大型化の可能な回転型吸着ハニカムロータを用いる除湿技術や、塗装排気等から有機溶剤を回収濃縮する技術も実用化されている。ロータの入り口出口をセクターで仕切って複数のゾーンを構成し、処理ガスと脱着ガスの各ゾーンへのフロー(流し方)を工夫して性能向上が図られてきた。これまで極限的な超低露点温度まで除湿するためのガス吸着機(特許文献1)や、稀薄濃度のVOCをできるだけ高濃度に濃縮する特許文献2、3の方法も開示されている。二酸化炭素ガスの濃縮に関しても研究され、燃焼排ガスからの分離濃縮では特許文献4や大気中の二酸化炭素ガス分離空調では特許文献5も開示されている。しかし二酸化炭素ガスに関しては、従来のTSA法では回収率、回収濃度、省エネルギー性等の点で原理的限界に来ていることが分かってきた。特許文献6にはハニカムロータではなく、粒状吸着材の移動層方式で過熱蒸気を用いて脱着濃縮する技術も開示されているが回収コスト等課題が多い。本発明者は新規技術として飽和蒸気を再生脱着に用いる特許文献7、8、9、10の研究開発をして来たが、依然として二酸化炭素ガスの回収効率、濃縮濃度、低コスト化、省エネ性等実用化のための課題が多い。
【0011】
近年、特に海外にて大気中の二酸化炭素ガスを直接分離回収する技術(Direct Air Capture以下DAC 特許文献11、12、13)の開発や実証試験も行われている。DACの長所は(1)自動車や航空機等、分散してかつ移動する排出源を対象にすることができる。(2)過去に排出した二酸化炭素ガスも対象にすることができる。(3)回収装置の設置場所が排出源に制約されず再利用する工場近傍で二酸化炭素原料を得ることができる。等の特徴から欧州や米国にて大規模な実証試験が行われている例が有る。
【0012】
一方二酸化炭素ガスは溶接用、医療用、食品保管用その他一定の需要が有り、その原料ガスは石油化学プラントやアンモニア合成プラント等の副産物として回収利用されている。アンモニアは肥料用等として世界人口の70%の命を支える、人類が最も多く生産する化学物質とされ、その製造過程で発生する二酸化炭素は全排出量の3%を超えている。アンモニアは二酸化炭素ガスを出さない燃料として注目されつつあるが、その製造工程では天然ガスなどの化石燃料を利用するので二酸化炭素ガスが発生する。発生した二酸化炭素ガスは回収利用されているが、それでも回収できない二酸化炭素ガスは大気中に排出され地球温暖化を促進させる原因になる。
【0013】
今後、従来のアンモニア生産方法による二酸化炭素ガスの発生や、プラスチックゴミによる環境汚染等への懸念から資源リサイクルの推進や、より環境負荷の少ない生産方法に見直されて製品二酸化炭素の原料ガス源も不足してくると予想され、将来的に製品二酸化炭素源も再生可能型に変わって行くと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第2673300号公報
【文献】特開平11-309330号公報
【文献】特開2000-37611号公報
【文献】特許第6498483号公報
【文献】特開2011-94821号公報
【文献】特開2020-69423号公報
【文献】特許第6605548号公報
【文献】特許第6408082号公報
【文献】特許第6510702号公報
【文献】特許第6632005号公報
【文献】特表2017-528318号公報
【文献】特開2018-23976号公報
【文献】特表2017-502833号公報
【文献】特開平11-132522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、発電所などの排ガスだけでなく、外気や空調空気からでも二酸化炭素ガスを分離濃縮できる方法に関するもので、高い回収率で回収し、高濃度に濃縮でき、小型コンパクト化でき、低コストで、耐久性が高く、100℃程度の排熱を利用でき、かつ熱効率の高い湿式TSA法二酸化炭素ガス分離濃縮装置を提案するものである。
【0016】
吸着と吸収現象は異なるが似た現象で、両方の要素がある場合には収着という言葉を用いることもある。例えば二酸化炭素ガス回収に検討されるイオン交換樹脂はゲル型であっても、含水により水で満たされた細孔が存在し、その細孔内を拡散して細孔内面の固定アミン基に二酸化炭素が吸着すると考えられ、水中での活性炭による有機質の吸着除去と類似している。
【0017】
ここでは吸着、吸収の表現の混乱を避けるため引用文献や従来の乾式TSA法では従来通り「吸着」とし、湿式TSA法の二酸化炭素に関しては「収着」と表現する。
また収着「材」とか「剤」とする表現もあるが、「剤」は形状の定まらないもので、細孔構造や表面積なども制御され、官能基が固定された構造によって機能や優劣が生じるものは「材」として、本明細書中では「材」とする。
また水と水蒸気の表記を使い分けるように、化学物質や分子的表現は二酸化炭素とするが、あきらかにガスを指す場合は二酸化炭素ガスと表記する。更に、二酸化炭素の回収率、回収二酸化炭素濃度をそれぞれ単に回収率、回収濃度と表記する。
【0018】
除湿機など除湿処理された空気を目的物とする場合は吸着材に対して処理・再生と表現され、VOCガス物質等の濃縮を目的とする場合は、回収するガス物質に対して吸着・脱着と表現されることが有る。文中にも「処理・再生」表現と「収着・脱着」表現が混在するが、収着材を主体とするか、ガスを主体とするかの違いで、現象的には同じ操作を意味するものである。引用文献に従うか、その時の状況に応じて分りやすく説明するために両方の表現を使用している。
【0019】
高性能化の限界
特許文献4に開示されたものは、二酸化炭素吸着の可能なゼオライトハニカムロータを用いて従来の乾式TSA法にて、煙道ガス等から二酸化炭素ガスを濃縮回収するフローの改良型である。TSAロータ濃縮法で、ロータの冷却や吸着熱の除去及び省エネ性の追求及び回収率と回収濃度向上を目的に工夫、発明したフローである。回収率を高くするために吸着出口ガスを冷却しながら何度も冷却ゾーン(=吸着ゾーン)を循環させる方法と、回収濃度を高くするために脱着した二酸化炭素ガスを加熱しながら脱着ゾーンを何度も循環させ、さらに特殊なパージ方法とを組み合わせても回収率60%、回収濃度75%程度が限界で、どちらかを高くしようとすればもう一方が低下するというトレードオフ関係にある。また吸着側ガスと脱着側ガスを複数回循環させなくてはならないので、特許文献8に示すように除湿用やVOC濃縮用ロータの2倍以上の直径が必要になる。以上のように例え二酸化炭素収着材のイノベーションがあっても、従来の乾式TSA法の延長線上ではこれ以上の大幅な高性能化は望めず、全く新しい考えでブレークスルーが必要であることが分かった。
【0020】
ロータ大型化及び再生多風量
特許文献5に開示されたものは、空調空気や大気から二酸化炭素ガスを分離除去して空調給気し、空調の省エネ性を高める目的で研究開発してきたが、分離除去した二酸化炭素ガス濃度は1000ppm前後で、処理空気と同風量の大量の再生空気が必要でロータが大型になり、再生用の大型給・排気ダクトの設置スペースやコストが課題であった。
【0021】
水蒸気の介在による性能低下、エネルギーロス
特許文献7、8、9に開示されたものは以上の研究経験、知見からブレークスルーを目指して湿式TSA法を発明したものである。先に比較のため従来の乾式TSA法の問題について説明する。従来の乾式TSA法では、二酸化炭素収着時に原料ガス中の水蒸気も吸着して吸着熱を発生し、二酸化炭素ガスの収着を阻害するだけでなく、二酸化炭素ガス脱着時には吸着水の脱着エネルギー消費により顕著なエネルギーロスを生じる。
【0022】
特許文献6にはアミンを添着した球状シリカゲルを移動層方式にて、炉の排ガスから二酸化炭素ガスを収着して、過熱蒸気で再生脱着して高濃度二酸化炭素ガスを回収する方法が開示されている。しかし球状シリカゲルによる充填層及び移動層や流動層では、湿式TSA法は困難である。それは凝縮水による流路閉塞や偏流、あるいは凝縮水の表面張力による粒子の付着団結による不具合が発生するからである。
【0023】
この様な問題を避けるには1mm以上の粒径の球状シリカゲルを選択せざるを得ないが、1mm以上の粒径になると収着・脱着サイクルにおいて反応の早い表層部に対し、反応の遅い中心深部が熱力学的重荷となる。つまり収・脱着の遅い深部は顕熱蓄熱体として振る舞い、また深部の吸着水も顕熱蓄熱に加算される。つまり反応の遅い球状シリカゲルの深部は脱着加熱時には蓄熱して脱着の立ち上がりを遅らせて過剰で有害な凝縮水を生じ、収着時には熱負荷となって収着開始が遅れる。
【0024】
また収着、脱着に伴う水蒸気の凝縮、蒸発のバランスが崩れると連続運転の支障となる凝縮水が蓄積するので、乾燥工程が必要になり、さらに冷却工程も増える。さらに粒子内部拡散抵抗により有効収脱着率を生かすには収着帯の長さが長くなり、圧力損失の上昇や粒状シリカゲルの所要量が増えざるを得ない。
【0025】
特許文献6では凝縮‐蒸発のバランスが崩れて余剰となった凝縮水の処理のために、脱着工程の後に乾燥工程を追加しなくてはならず、それを避ける方法として蒸気過熱温度をコントロール供給する方法が提案されているが、省エネ的に反する対策になってしまう。本発明の湿式TSA法に用いる収着体は、特許文献7で開示した0.1mm以下のアミン系イオン交換樹脂微粒子を担持したシートまたは厚さ1mm以下の二酸化炭素収着機能を有する高分子シート、又は特許文献8に開示した粒子径1mm以下の粒子を接着固定担持したシートをハニカム加工するなどして作成した収着体を用いるので凝縮‐蒸発のバランスは崩れ難く凝縮水による悪影響も生じない。また特許文献10にはハニカム状ではなく、粒状収着材を分散担持したシートを、積層した収着体を用いる方法を開示しているが、粒状吸着材は距離を保って固定されているので凝縮水の表面張力による粒子の団結や、毛細管力による流路閉塞等の悪影響を受けない。特許文献7、8、9、10の何れも、凝縮水の挙動は粒子やハニカムの表面から移動流出しない。従って前述のような1mm以上の径の粒子層の熱挙動により余剰になった凝縮水処理の問題は発生しない。従って脱着後の乾燥工程や冷却工程、凝縮水量を制御するための過熱蒸気も必要としない。
【0026】
湿式TSA法は、二酸化炭素ガスの脱着に過熱蒸気ではなく、100℃以下の飽和蒸気を用いて、飽和蒸気の凝縮熱で二酸化炭素ガスを高濃度に濃縮回収できるだけでなく、脱着時に水蒸気から凝縮した水分がハニカム内表面に残り、処理ゾーンでは蒸発冷却しながら二酸化炭素ガスを収着するため、脱着直後のロータの速やかな冷却だけで無く、二酸化炭素ガスの収着熱をトレードオフして温度上昇を抑えるため、乾式TSA法より二酸化炭素ガスの収着性能が飛躍的に向上する。特許文献7、8、9、10に開示された技術では回収率や回収濃度、省エネ性、低コスト化の点で不十分で課題が残った。
【0027】
技術課題1 収着材の熱・酸化劣化
アミン系二酸化炭素収着材の熱・酸化劣化防止と、脱着温度高温化による性能向上とはトレードオフ関係にあり、常に重要課題としてつきまとう。
特許文献5では二酸化炭素ガス分離が可能なアミン系弱塩基性イオン交換樹脂を採用し、収着材の熱・酸化劣化を避けるため低温再生方式で実験した。しかし45℃程度の低温再生でも、乾燥状態の空気中では短時間で顕著に性能劣化する事が分った。
【0028】
特許文献11には二酸化炭素収着後の脱着工程に移る前に20~400mbに減圧して酸素濃度を低下させてアミン官能化収着材の酸化劣化を回避するとともに、回収二酸化炭素ガスへの空気などのガス混入を防止することで回収二酸化炭素ガスの純度を高める技術や、また脱着操作の前に、不活性ガスで収着材チャンバーをプレパージして酸素を含むガスを除去する方法も開示されているが、減圧設備、装置の耐圧性、不活性ガス代等コストアップの要因が多い。
【0029】
特許文献12には、収着工程から脱着工程に移行する前に、不活性ガスでパージして、脱着経路から酸素を除去する事。また収着工程に戻す前に不活性ガスで収着材構造を冷却することで、収着材への酸化ダメージが起こらないようにする方法が開示されている。しかし不活性ガスでパージする方法では、不活性ガスコストやパージ装置のイニシャルコストが課題となり、パージガスの混入による二酸化炭素濃度低下も考慮する必要がある。
【0030】
特許文献13には回転型の収着濃縮装置で、シール可能な再生ボックスを有し、排気ポンプ等により減圧して冷却するとともに、酸素濃度を低下させて熱・酸化劣化を防止する方法が開示されている。しかし排気ポンプで減圧する方法では排気ポンプのイニシャル、ランニングコストと共に、耐圧強度が必要な再生ボックスコストやシール性確保の困難性がある。
【0031】
特許文献9には湿式TSA法にて、脱着ゾーンの入口と出口を連通するガス循環路を構成し、脱着ゾーンから出た二酸化炭素ガスと水蒸気の混合気体に、飽和蒸気を供給しながら循環させる方法を開示している。それにより脱着経路の酸素濃度が低減され、二酸化炭素収着材の熱・酸化劣化が防止され耐久性が向上する。しかしこの方法で一定の効果を上げたものの、二酸化炭素ガスと水蒸気の加熱混合気体で脱着する原理なので、後述の比較例にて詳説するが混合気体の二酸化炭素ガス分圧に影響されてか二酸化炭素ガス回収率や回収濃度に限界のある事が分り、飽和蒸気による湿式TSA法二酸化炭素ガス分離回収濃縮技術のさらなるブレークスルーが必要と考えた。
【0032】
技術課題2 回収濃度向上方法(過去の発明分析)
特許文献1にはロータ回転式省エネルギー超低露点除湿機のフローが開示されている。ロータの回転方向の順に第2吸着ゾーン、第1吸着ゾーン、第2再生ゾーン、第1再生ゾーン、予冷パージゾーンに分割されている。処理空気は第1吸着ゾーンのハニカムを通過しながら除湿される。除湿後の処理空気は吸着熱により昇温するので冷却してから第2吸着ゾーンでさらに超低露点まで除湿して供給される。
【0033】
再生側は第2吸着ゾーンの出口空気の一部を予冷パージゾーンに導入、再生直後のハニカムを超低露点空気でパージしながら冷却し、ハニカムは第2吸着ゾーンに回転移動する。パージ出口空気はハニカムの熱を回収して昇温しているのでさらに再生空気加熱ヒータで昇温して第1再生ゾーンのハニカムを再生通過する。第1再生ゾーンを通過した空気はまだ再生可能な程に低露点であり温度も高いので、その空気を再度加熱して第2再生ゾーンのハニカムを通過再生排気する。このようなフロー構成にて、一台のロータ装置で省エネルギーを達成しながら超低露点まで除湿できる。この方法は処理空気中の水蒸気の除去率を極限まで高めながら再生エネルギー消費を抑制する工夫がされているが、回収濃度を高めることは不可能である。
【0034】
特許文献2に開示されたものは、希薄濃度のガスを濃縮するためのフローで、ロータの回転方向の順に吸着ゾーン、第一脱着ゾーン、濃縮ゾーン、第二脱着ゾーンを備えている。また処理ガスの一部をエアヒータにて昇温した加熱空気を第一脱着ゾーンと第二脱着ゾーンとに導入する。第一脱着ゾーンでは吸着ゾーンで吸着されたガスが濃縮脱着される。第一脱着ゾーンを出た一次濃縮ガスは濃縮ゾーンに導入再吸着される。さらにそのハニカムは第二脱着ゾーンに回転移動し、前述の脱着空気の導入により高倍率に濃縮回収される。この方法は十数倍~二十数倍濃縮想定に留まりこれ以上の高濃度にはできない。
【0035】
特許文献3に開示されたものも希薄濃度のガスをできるだけ濃縮するためのフローで、ロータの回転方向に吸着ゾーン、第一脱着ゾーン、第二脱着ゾーン、第三脱着ゾーン、パージゾーンを備えている。処理ガスの一部をパージゾーンに通してロータを冷却しつつパージ通過空気は熱回収して昇温し、さらにヒータを通過加熱して第一脱着ゾーン、第二脱着ゾーン、第三脱着ゾーン夫々に導入脱着する。ロータ回転により脱着初期で濃縮度の低い第一脱着ゾーン出口ガスと、脱着終了間際で濃縮度の低い第三脱着ゾーン出口ガスを処理入り口側に戻して混合し、吸着濃度を高めるよう工夫している。三つの脱着ゾーンで最も濃度ピークになる第二脱着ゾーンの出口から濃縮ガスを回収するフローである。この方法も十数倍~二十数倍濃縮を想定に留まりこれ以上の濃縮は不可能である。
【0036】
特許文献2、3共に希薄濃度のVOCガスをできるだけ濃い濃度に、十数倍から二十数倍に濃縮しようとするフローである。特許文献1、2、3は何れも乾式TSA法で、本発明が目指している二酸化炭素濃度数百ppmの外気、又は10%前後の濃度の燃焼排ガスから、50%~100%濃度に高濃度濃縮回収するのは原理的に不可能である。以上の様にこれまで出願されている先行特許知見にて、ロータ回転式TSA法で、数百ppm濃度から分離回収し数十%以上に高濃度濃縮できる方法は提案されていなかった。
【0037】
技術課題3 低コスト、断熱性を達成する装置構成
従来の乾式TSA法で再生に用いられる加熱ガスと比較して、飽和蒸気は100℃以下ながらエネルギー密度が高く、わずか数度の温度低下で多量の凝縮水とエネルギーロスを生じるので、コスト上昇を抑制しながら高断熱性を確保できる方法を検討した。
従来の空気処理装置製造方法では、板金加工、溶接組み立てした製缶品に塗装し、板金の重なり部のリーク防止のためコーキング材で目止めされる。ロータや熱交換コイル、ヒータ、送風機等の機器を組み込み配線し、必要な箇所に断熱処理する。耐熱性の必要が有ればガラス繊維断熱材等で、結露防止目的であれば発泡スチレン保温板等で断熱される。以上の様に工数が多くコストアップが避けられない。
【0038】
別の従来技術では、2枚の鋼板の間に発泡スチレン板等をサンドイッチ接着した断熱ボードを用いて、成形アルミフレームを介して箱型に組み立て、内部にロータや送風機等の機器を組み込んで断熱工数などコスト削減する工法も有るが、空調空気や冷熱を対象にした中~大型機器向け用であり、TSA操作を要するような機器ではさらに内部耐熱ダクトや断熱手段を講じなければならず、やはりコストアップになる。
【0039】
特許文献14は、熱交換換気装置の断熱性低コスト化に関するものである。熱交換素子を組み込み発泡スチロールで成形一体化した「熱交換素子構造体」、排気ファンを組み込み発泡スチロールで成形一体化した「排気ファン側構造体」、給気ファンを組み込み発泡スチロールで成形一体化した「給気ファン側構造体」の夫々を組み合わせ一体化することによって排気側、給気側の各流路が構成され、断熱性が高く、防音性の高い換気装置を実現する技術が開示されている。
【0040】
この技術は家庭用の熱交換換気扇の静粛性、低コスト化を目的としたもので、断熱性、静粛性、生産性、低コスト化の点で優れているが、少品種多量生産向きで、設備規模の設計対応少量生産システム向きではない。また静止型全熱交換器換気装置なのでこのような材料、構造体で対応できる。本発明の目的とする湿式TSA法による二酸化炭素ガス分離濃縮装置は高断熱性と共に耐熱性が必要で、回転ロータのための摺動シール部や複雑なパージや流路もあり、かつ飽和蒸気を用いるので次元の異なる困難さが有る。
【課題を解決するための手段】
【0041】
技術課題1及び課題2の同時解決手段
湿式TSA法の性能をさらに向上するために飽和蒸気温度を100℃近くまで上げる事を検討し、脱着ゾーンに持ち込まれた酸素により収着材が熱・酸化劣化する現象の対策を考えた。試作開発試験を繰り返しながら新たに発明した方法及び装置は、二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくともロータの回転方向の順に、処理ガスゾーンと、回収ゾーンと、脱着ゾーンとを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ガスゾーンにてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気又は混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、脱着ゾーンに飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させ回収ゾーンを通して回収する二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置である。
【0042】
これまでロータ式ガス回収濃縮装置のフローは様々発明されているが、何れも最も高エネルギーな脱着気体で脱着された脱着ゾーン出口ガスを回収する。しかし本発明は最も高エネルギーな脱着気体(飽和蒸気)で脱着された脱着出口ガスを回収ゾーンに通過させて熱回収、冷却、減湿させて回収する点で異なる。つまり100℃近い飽和蒸気を脱着ゾーンに導入してハニカムから二酸化炭素ガスを脱着し、その出口の二酸化炭素ガスと飽和水蒸気の混合気体を回転方向前段側の回収ゾーンに導入通過させて二酸化炭素ガスを回収する方法である。
【0043】
さらに回収率、回収濃度、省エネ性を高める方法として前記回収ゾーンと脱着ゾーンの前後に循環パージゾーンを組み合わせる方法の装置を考えた。二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくとも回転方向の順に、処理ガスゾーンと、処理ガスパージゾーンと、回収ゾーンと、脱着ゾーンと、脱着ガスパージゾーンを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ガスゾーンにてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気又は混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、処理ガスパージゾーンと脱着ガスパージゾーンが循環パージし、脱着ゾーンに飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させ回収ゾーンを通して回収する二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置である。循環パージガスはポンプで循環させる。
【0044】
二酸化炭素ガス分離濃縮回収は、それのみでは事業として成り立ちにくい。そこで二酸化炭素ガスの回収と共に、処理後の二酸化炭素ガス濃度の低い空気の有効利用を組み合わせる方法を考えた。二酸化炭素を含む混合ガスが大気又は空調空気であり、処理ガスゾーンを出た空気を空調用に給気し、回収ゾーンを出た二酸化炭素ガスを回収する二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置である。空調換気の省エネ効果と、空調空気は大気よりも二酸化炭素ガス濃度が高いので、処理風量当たりの二酸化炭素ガス回収量を増す効果が期待できる。
【0045】
技術課題3 装置の高断熱性とコスト低減を同時に達成する手段
本発明が目的とする湿式TSA法二酸化炭素分離濃縮技術は、後述する比較例2、3の実験結果から凝縮水の水漏れや排水量に注目し、高断熱性構造にすることが絶対条件と考えた。回収ガス以外での凝縮水の流出は膨大な熱ロスを意味するからである。
【0046】
従来除湿機やVOC濃縮装置等この種空気処理装置は、板金加工品を溶接して組み立てた製缶加工品を塗装し、送風機、ロータ及びシール装置、ヒータ、内部ダクトその他構成機器を取り付け組み立て、要所に断熱処理や電気配線をして生産される。断熱性の不具合は性能不足やエネルギーロス、結露水発生による不具合を生じるため、手間をかけて処理され、加工工数が増えコストアップの要因となっている。
【0047】
湿式TSA分離濃縮法では、従来製品より各段に高い断熱性が要求される。100℃近い飽和蒸気は同じ温度の空気や二酸化炭素ガスの数百倍のエンタルピを有するからである。また100℃の飽和水蒸気は100%水蒸気だが、温度が下がるほど水蒸気以外のガスの混入率が高くなる。このことから飽和蒸気温度をできるだけ100℃に近づける事は、熱・酸化劣化対策と高濃度回収のためには必須条件であると考えた。
【0048】
本発明の湿式TSA法二酸化炭素ガス分離濃縮装置は、前述のように複雑なゾーンを有しており、不要な箇所での蒸気の結露凝縮や熱ロスを防止するため高度な断熱性や耐湿・耐熱性が必要で、さらに原料ガスと回収ガスの濃度差が大きいので高いシール性が要求される。このような装置を高い生産性で、低コストでかつ断熱性が高く軽量な構造を実現できる方法を検討し、所要箇所の要求特性により材質選定した発泡板に、各機器、流路を作り込んだ複数の発泡モジュール板を、積層組み立て一体化する「モジュール板積層ユニット構造」を発明した。
【0049】
「モジュール板積層ユニット構造」は、複数の発泡板に構成機器の設置空間及びガスの流通路を夫々加工し、ロータや駆動装置など構成機器を組付け、夫々のモジュール板を積層組み立てることで二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置として完成される。具体的には二酸化炭素ガスの収着機能を有するハニカムロータと駆動モータ及び駆動ベルトで構成する駆動系を発泡板に組み込んだ「ロータカセットモジュール板」と、ロータ軸の保持及びロータの両端面を支持シール摺動する発泡板に、脱着、回収、パージ流路等の空間と連通路を有する複数の耐熱性発泡ゴム板等で構成した「積層構造パージ・回収ブロック」を夫々組み込んだ「ロータ端面モジュール板」の前後と、処理ガス送風機を組み込んだ「送風系モジュール板」とを積層組み立て一体化する二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置である。
【0050】
「ロータカセットモジュール板」の中でも特に重要なのは回収、脱着、パージ等のゾーン部を構成する扇形部分「積層構造パージ・回収ブロック」で、シール性確保のための弾力性や摺動性、耐摩耗性、耐熱性、耐水性も必要である。「積層構造パージ・回収ブロック」は少なくとも脱着、回収、パージ等各ゾーン空間を有した又は有していない扇形シートの積層構造であって、ロータ端面に接する摺動面は耐熱耐摩耗性の摺動シートと、その下段は発泡ゴムシート層と、その下段は各ゾーン間の連通路を設けた発泡ゴムシート層または発泡板層と、底面部はゾーン空間を有していない断熱板を積層接着してブロック化し、外周部又は底面に蒸気導入部と脱着ガス回収部を設けた「積層構造パージ・回収ブロック」を構成する。底部断熱板は、発泡ゴムや樹脂系発泡板何れも可能である。以上のように構成した「積層構造パージ・回収ブロック」を「ロータ端面モジュール板」に組み込む。
【発明の効果】
【0051】
技術課題1及び課題2の同時解決効果
新たに発明したフローは、ロータの回転方向の順に処理ガスゾーン、回収ゾーン、脱着ゾーンを設け、脱着ゾーンに100℃近い飽和蒸気を導入して水蒸気の凝縮熱によりハニカムに収着した二酸化炭素ガスを脱着し、そのガスを回転方向前段の回収ゾーンに導入通過させて二酸化炭素ガスを回収する。
【0052】
このフローにより、ロータ回転によって回収ゾーンに持ち込まれた空気がパージ回収されて最も高温になる脱着ゾーンに酸素が混入しない効果も合わさって収着材の酸化劣化が抑止され、100℃近い飽和蒸気を常用できる。また回収ゾーンでは脱着前にハニカムを予熱・熱回収する省エネ効果と、回収ガスの側から見ればガス温度や含有蒸気量を低下させる効果により回収後の二酸化炭素ガスと水蒸気分離のための冷却負荷も削減できる。
【0053】
さらに回収率、回収濃度、エネルギー効率を高める方法として、前述回収ゾーンと脱着ゾーンの前後に循環パージゾーンを組み合わせることを考えた。処理ガスゾーンからロータ回転によって、ハニカム空隙に内包して移行する処理ガスは処理ガスパージゾーンで排気され、その排気は循環路にて脱着ガスパージゾーンに導入され、脱着ガスパージゾーンに回転移動したハニカムに内包される脱着ガスを置換押し出す。押し出された脱着ガスは循環路で処理ガスパージゾーンに導入される。
以上の循環パージ原理で二酸化炭素ガスの回収ゾーンと脱着ゾーンの前後に組み合わせたパージゾーンにてハニカム空隙中のガスを相互に置換して、回収率、回収濃度を向上させエネルギー効率を高める効果が有る。この循環パージ技術は特許文献1にも開示されている。
【0054】
従来技術の課題3の解決効果
「モジュール板積層ユニット構造」は所要箇所の要求特性に合った材質の発泡板を選定し、夫々所要箇所を抜き取って構成部品を組み込んでモジュール化し、夫々のモジュール板を積層して装置全体を一体化構成するので、製缶加工や溶接部の漏れ止めシーリング、防錆塗装が不要で、簡単な組み立てにより、十分な断熱性も確保でき、少量生産から大量生産にも対応でき、大幅なコストダウンが可能である。また脱着、回収、パージ機能部「積層構造パージ・回収ブロック」採用により複雑な複数ゾーンを有しながら高精度で低摩擦摺動性、シール効果、追従性も良好で、煩雑な調整は不要で、耐熱性と断熱性と耐久性を確保でき、かつコストを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】は湿式TSA法の収・脱着原理説明図である。
【
図2】は本発明の第一実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の基本フロー図である。
【
図3】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の基本フロー図である。
【
図4】は飽和蒸気温度と加熱空気のエンタルピの比較図である。
【
図5】は飽和蒸気の温度による、蒸気以外のガスの混入率を説明する図である。
【
図6】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の発泡モジュール板積層ユニットの組み立て前の分解写真である。
【
図7】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「積層パージ・回収ブロック」の組み立て前のパーツ図である。
【
図8】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「積層パージ・回収ブロック」の組み立て後の図である。
【
図9】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「積層パージ・回収ブロック」のロータ端面モジュール板への組込み写真である。
【
図10】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「発泡モジュール板積層ユニット構造」による二酸化炭素分離回収濃縮装置ポータブルプロトタイプ2号機、実施例2の試作機の写真である。
【
図11】は本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の中型スケールアップの構想図である。
【
図12】は本発明による第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の中型を、集合配置した大型二酸化炭素分離回収濃縮設備の構想図である。
【
図13】は比較例1の乾式TSA法実験概要説明図である。
【
図14】は比較例2の湿式TSA法実験概要説明図である。
【
図15】は比較例2の実験装置立ち上げ時の二酸化炭素ガス回収濃度と回収率の時間変化グラフである。
【
図16】は比較例2の脱着側循環路のロータ入口と出口の温度、及び処理空気の上昇温度ΔTのグラフである。
【
図17】は比較例2の処理流量:脱着側循環流量比の影響を示すグラフである。
【
図18】は比較例2において蒸気入力を上げて性能向上を試みたグラフである。
【
図19】は比較例2においてロータ回転角度別処理ガス出口温度の分布グラフである。
【
図20】は比較例2においてロータ回転角度別処理ガス出口二酸化炭素回収率グラフである。
【
図21】は比較例3の、ポータブルプロトタイプ試作試験機1号機の写真である。
【
図22】は比較例3の試験機の脱着循環側流量増による性能影響と、処理側風速=風量増による性能向上効果比較グラフである。
【
図23】は第二実施形態実施例2の、ポータブルプロトタイプ試作試験機2号機の手前側「ロータ端面モジュール板」を外して「ロータカセットモジュール板」の見える写真である。
【
図24】は第二実施形態実施例2の試験装置起動後の回収率、回収濃度の立ち上がり状況グラフである。
【
図25】は第二実施形態実施例2の試験装置起動後の処理出口二酸化炭素濃度変化グラフである。
【
図26】は第二実施形態実施例2のロータ回転角度別処理側出口二酸化炭素濃度と回収濃度のグラフである。
【
図27】は第二実施形態実施例2の試験装置起動後の二酸化炭素ガス回収量の時間変化グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明を適用した実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、各図面において同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
高性能化のための処理収着、脱着、回収、パージフロー
性能向上するために飽和蒸気温度を100℃近くまで上げる事を検討し、脱着ゾーンに持ち込まれた酸素により収着材が熱・酸化劣化する現象の対策を考えた。本発明の第一実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の基本フローは、
図2に示すように二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータ1を、少なくとも回転方向の順に、処理ガスゾーン4と、回収ゾーン5と、脱着ゾーン6とを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させる。処理ガスゾーン4にてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気又は混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、脱着ゾーン6に飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させ、その出口ガスを、回収ゾーン5を通過させて回収するようになっている。
【0057】
このフローにより、酸素混入リスクを最小限にできるので、最も高温になる脱着ゾーンでの収着材の酸化劣化が抑止され、かつ100℃近い飽和蒸気の常用が可能になり性能向上できる。また回収ゾーン5では脱着に先立ってハニカムを予熱・熱回収するエネルギー効率向上効果と、回収ガス側から見れば二酸化炭素ガスの温度や蒸気量が減少するので、回収したガスの水蒸気分離のための冷却負荷も減少できるなどメリットが多い。回収ゾーン5はさらに省エネ性向上のため、ロータ回転の前段側に折り返して2段、3段に増設することも出来る。
【0058】
さらに回収率、回収濃度、省エネ性を高めるフローとして前記回収ゾーンと脱着ゾーンの前後に循環パージゾーンを組み合わせる第二の実施形態
図3の装置を発明した。本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置は
図3に示すように、二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータ1を、少なくとも回転方向の順に、処理ガスゾーン4と、処理ガスパージゾーン7と、回収ゾーン5と、脱着ゾーン6と、脱着ガスパージゾーン8を有し、処理ガスパージゾーン7と脱着ガスパージゾーン8が循環パージする二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置である。循環パージガスはダイヤフラム式等の定容積型ポンプで循環させるようになっている。
【0059】
ロータ回転によってハニカムに内包して処理ガスゾーンから持ち込まれる酸素を含むガスは処理ガスパージゾーン7で排気され、その排気は脱着ガスパージゾーン8に導入されてハニカムに内包する脱着ガスを押し出し置換される。置換された脱着ガスは処理ガスパージゾーン7に循環導入される。以上のように回収・脱着ゾーンの前後にてハニカム空隙中のガスを相互に置換することで、回収率、回収濃度、エネルギー効率を向上させる効果が有る。
【0060】
複雑なフロー構成を安価に高精度に実現する「積層構造パージ・回収ブロック」
従来の各種分離濃縮装置は、回収、脱着、パージゾーン等は板金を溶接したタイプや、小型では鋳物製のチャンバー構造になっており、各チャンバーは断熱処理され、ガス流路は外付けダクトにより流路が構成されるので複雑な流路構成は現実的には不可能であった。 このような複雑なゾーン及びフロー構成をできるだけシンプルで高断熱、安価に実施できる方法を考えた。回収、脱着、パージ等のゾーン構成を一体化した「積層構造パージ・回収ブロック」構造である。
【0061】
「積層構造パージ・回収ブロック」は弾力性や耐熱性、シール性が要求される。材質は耐熱性やその他要求特性に応じてゴム板の発泡倍率、材質等を選定する。例えば3~4mm以上の、装置の大きさによっては5mm以上の厚さのシリコーンゴム発泡板(ある程度の厚みや硬さを想定して板と表現する)を、本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「積層パージ・回収ブロック」の組み立て前のパーツ図である
図7のように各層毎に各ゾーン空間と連絡路を作りこむ。この加工に当たってはトムソン加工、レーザ加工、水ジェット加工その他既存の方法で量産できる。また将来的には各層を積み上げて構成していく3Dプリンターよる製造方法にも発展できる。
【0062】
ロータ端面に接して摺動する部分には、例えば
フッ素樹脂系の摺動摩擦の少ないシートを貼り合わせ。その直下の層には柔軟追従性に優れた軟質の発泡ゴム層を、その最下層には硬質の発泡ゴム板を選定することができる。スケールアップのため剛性が必要な場合は下層段に硬めの発泡ゴム板や樹脂系発泡板で構成する。必要に応じてレーザーカットした金属等の板を中間に挟み込んで補強することも容易である。これらの各層の発泡ゴム板を
図8のように積層接着することで各ゾーン及び必要な連通路を構成した「積層構造パージ・回収ブロック」18ができる。このように複雑な複数ゾーンを有しながら高精度で低摩擦摺動性、シール効果、追従性も良好で、煩雑な調整は不要で、耐熱性と断熱性と耐久性を確保でき、かつコストを抑えられる。
【0063】
また「積層構造パージ・回収ブロック」は複雑なフロー構成でも低コストで容易に装置化できるので、回収ゾーン5を折り返して回転方向の前段側に第二の回収ゾーンを増設し、2段階にガスの熱回収予冷効果、ハニカムの余熱効果によりさらに省エネ性を向上することも可能である。
【0064】
低コストで実現できる高断熱構造「モジュール板積層ユニット構造」
湿式TSA分離濃縮法(
図1)では、従来製品より各段に高い断熱性が要求される。その理由は、
図4のように100℃近い飽和蒸気は同じ温度の空気や二酸化炭素ガスの数百倍のエンタルピを有するからである。さらに
図5から100℃の飽和水蒸気では水蒸気が100%だが、80℃では水蒸気以外のガスの混入率は50%になることが分かる。このことから飽和蒸気温度をできるだけ100℃に近づける事は、熱・酸化劣化対策と高濃度回収のためには必須条件であると考えた。また
図4から、飽和蒸気100℃から数度低下するだけで膨大なエネルギーロスを生じることから高断熱性が必要であることが分かる。そこで低コストで高断熱を達成できる「モジュール板積層ユニット構造」を考えた。
【0065】
「モジュール板積層ユニット構造」は、複数の発泡板に構成機器の設置空間及びガスの流通路を夫々加工構成し、構成機器を組付け、夫々のモジュール板を積層組み立てることで二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置として完成される。具体的には本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の発泡モジュール板積層ユニットの組み立て前の分解写真である
図6のように発泡板に二酸化炭素ガス収着機能を有するハニカムロータ1及び駆動系を組み込み形成した「ロータカセットモジュール板」14と、ロータ軸及び両端面を支持シール摺動する発泡板に、流路空間を構成した複数の耐熱性発泡ゴム板等で積層し摺動面にガラス繊維入りフッ素樹脂系の摺動材を貼り合わせ積層した前述「積層構造パージ・回収ブロック」18を夫々組み込んで構成した「ロータ端面モジュール板」の前15後16と、処理ガス送風機を組み込んだ「送風系モジュール板」17とを、積層組み立て一体化する方法である。
【0066】
小型ボイラや循環ポンプは何れかのモジュール板に空間を構成して組み込む。「積層構造パージ・回収ブロック」18は、「ロータ端面モジュール板」のロータ端面摺動接触面より圧接分だけ少し突出させてセットするとゾーンブロックのロータ端面への追従性シール性が向上するのでより望ましく、メンテナンス交換や調整も容易となる。
【0067】
以上の様に発泡ゴム積層構造により形成した「積層構造パージ・回収ブロック」18を、発泡ポリスチレン板等で作成した前後「ロータ端面モジュール板」15、16に
図9(本発明の第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置の「積層パージ・回収ブロック」のロータ端面モジュール板への組込み写真)のように組み込み外周シールをセットする。さらに「ロータカセットモジュール板」14と「送風系モジュール板」17とを、15、14、16、17の順で積層一体化し「モジュール板積層ユニット構造」が完成する。
「モジュール板積層ユニット構造」
図10により低コスト化と高断熱性、柔軟密封シール性、省エネ性を兼ね備える装置が可能になる。持ち運びや屋外での使用に耐えるよう、また意匠性の必要性から、積層ユニットの外装をカラー鋼板等で貼り合わせ、または覆うことも設計の範囲内である。
【0068】
本発明装置の「モジュール板積層ユニット構造」は前述のように、所要箇所の要求特性に合った材質の断熱性発泡板を選定し、夫々所要箇所を抜き取って構成部品を組み込んでモジュール化し、夫々のモジュール板を積層して装置全体を一体化構成するので、製缶加工や溶接部の漏れ止めシーリング、防錆塗装が不要で、簡単な組み立てにより、十分な断熱性も確保でき、少量生産から大量生産にも対応でき、大幅なコストダウンが可能である。
【0069】
本発明をハニカムロータ式で説明する。無機繊維シート、又は金属シート、又はプラスチックシート等で出来たハニカムに粒子径1mm以下のアミン基を有する収着材等を担持したロータ1を用い、
図3のようにロータの回転方向の順に処理ガスゾーン4、処理ガスパージゾーン7、回収ゾーン5、脱着ゾーン6、脱着ガスパージゾーン8を経て、再び処理ガスゾーン4に戻る構成にしている。より簡単な構成では、先に発明した
図2のように各ガスパージゾーン7、8を省略するフローも可能である。またハニカム以外に、粒状吸着材を分散接着したシートを積層した吸着体を用いることも可能であり、ロータも円盤型ではなくシリンダー型も可能である。
【0070】
外気や空調空気から二酸化炭素ガスを回収する例について
図3により解説する。
処理ガスは大気あるいは空調空気なので特に前処理は必要なく、一般空調機に採用されている租塵フィルター程度が有れば良い。例えば外気を処理ガスゾーン4に通過させ、ハニカムロータ1に二酸化炭素ガスを収着させて送風機で排気する。この排気は二酸化炭素ガス濃度が外気よりも低いので室内空調に利用すると換気負荷を低減させ、知的生産性を向上させる効果も期待できる。二酸化炭素ガスを収着したロータは処理ガスパージゾーン7に回転移動し、脱着ガスパージゾーン8からのガスでパージされ、次の回収ゾーン5に回転移動する。回収ゾーン5では脱着ゾーン6の出口ガスが導入され、通過したガスが高濃度二酸化炭素ガスとして回収される。
【0071】
脱着ゾーン6の出口ガスは高濃度二酸化炭素ガスと飽和蒸気の混合ガスで、この混合ガスを回収ゾーン5に通して回収する。これにより脱着ゾーン6への酸素混入リスクをさらに低下させると共に、ハニカムは脱着に先立って通過ガスにより予熱される熱回収効果と、回収ガス側から見れば予冷されて、後工程での水蒸気冷却分離エネルギー負荷が削減できる。
【0072】
ハニカムが回収ゾーン5から脱着ゾーン6に回転すると100℃近い飽和蒸気が導入される。蒸気の凝縮熱によりハニカムに収着している二酸化炭素ガスが脱着され、同時に水蒸気が凝縮する。先立って回収ゾーン5にて脱着ゾーン6の出口ガス通過回収で混入酸素が除去されているので、脱着ゾーン6で100℃近い飽和蒸気が導入されても収着材の熱酸化劣化は抑制される。
【0073】
ハニカムは脱着ゾーン6から脱着ガスパージゾーン8に回転移動し、ハニカム空隙に含まれる脱着ガスと飽和蒸気の混合ガスはパージされる。パージに用いるガスは前述の処理ガスパージゾーン7でパージされて循環した処理ガス主体のガスである。脱着ガスパージゾーン8でパージされた脱着ガス主体のガスは前述の処理ガスパージゾーン7へと循環していく。
前述の循環ガスパージゾーン7、8は
図2のように省略が可能で、その場合回収ガスに処理ガスゾーンからの空気が混入して二酸化炭素濃度を減ずるが、植物工場等で再利用する場合は問題ない。
【0074】
循環ガスパージゾーン7、8の無い場合、二酸化炭素ガスを脱着したハニカムは次に処理ガスゾーン4へと回転移動する。移動直後のハニカムはまだ高温であるが、凝縮水で表面が覆われているので酸素を含む空気とは直接接触せず、凝縮水の蒸発潜熱によりすぐに冷却され熱酸化劣化は回避される。蒸発潜熱で冷却されたロータは二酸化炭素ガスの収着を開始し、収着熱は凝縮水の蒸発潜熱により冷却除去されるので温度上昇が抑えられ、効率的な収着が進行する。このようにして湿式TSA法は、収着時には二酸化炭素ガスの収着熱と水の気化熱を交換し、脱着時には二酸化炭素ガスの脱着熱と水蒸気の凝縮熱を交換しながら効果的に二酸化炭素ガスを分離濃縮することができる。
【0075】
中型化については、
図10をスケールアップして、
図11のように送風機能や脱着回収機能も一体化した中型ユニットを実現できる。さらに大型化する場合は軽量の特徴から
図12のように複数組み合わせることも容易である。
【0076】
煙道ガス等から二酸化炭素ガスを回収する場合、煙道ガスは高温高湿度で、硫黄酸化物、窒素酸化物、粉塵等の汚染ガスも含まれるため、脱硝装置、ウェットスクラバー、脱硫装置、バグフィルタ等前処理装置を設けて、有害なガスや粉塵を除去処理し、処理ガスとする。前処理後の処理ガスは収着するにはまだ高温多湿なので冷却減湿するのが望ましい。
【0077】
ゼオライト系ではマイナス露点温度まで減湿しなくてはならないが、湿式TSA法では年間を通しての外気温湿度程度で良く、特許文献9に開示する回転型全熱交換器にて外気と全熱交換して温湿度を下げる方法もあり、この方法ではランニングコスト増は僅かで、イニシャルコストも低く抑えられる。その他は外気や空調空気を処理ガスとする場合と同じだが、煙道等からの処理ガスは二酸化炭素ガス濃度が高いので、それぞれのゾーン比は専用に設計すればよい。
【実施検討の経緯】
【0078】
低温排熱を利用して二酸化炭素ガスの分離濃縮をするには脱着温度の高いゼオライト系では無理で、アミン系は有望だが、熱・酸化劣化しやすいので脱着温度に制限がある。各研究機関、各研究者が耐熱・耐酸化性収着材を研究しているが、装置や運用方法の面でもブレークスルーが望まれる。特許文献11、12に解決策が紹介されているが不活性ガスでパージする方法ではパージガス及びパージガス供給設備にコストがかかり不活性ガスの混入により回収濃度が低下する問題がある
【0079】
特許文献13には真空ポンプで酸素を含むガスを抜く回転式も提案されているが、装置強度や真空ポンプのイニシャル、ランニングコストも増加し、大気圧と真空切り替えシール構造、さらにスケールアップや低コスト化等に関する難題が多い。
【比較例1】
【0080】
図13に従来の乾式TSA法による大気中二酸化炭素ガス分離回収試験例を示す。ハニカムロータ12は、ガラス繊維等無機繊維主体の多孔質ペーパをピッチ3.0mm、高さ2.0mmにコルゲート加工し、それを巻きつけて、粒度分布0.02~0.1mmのアミン系弱塩基性イオン交換樹脂微粉と、耐熱耐水性のバインダーとを混合したコート液を含浸乾燥後研削加工して、前記微粉を50重量%含む嵩比重150kg/m
3、Φ200mm×200mm幅のハニカムロータ12を得る。
【0081】
二酸化炭素ガス濃度測定は非分散型赤外線式(NDIR)で、測定濃度0~10000ppmを使用した。試験条件は、処理:脱着ゾーン比及び通過流量比は1:1、処理ガス通過風速は2m/Sである。処理ガス側も脱着側も同じ外気で、脱着側は55℃に加熱して脱着ゾーンに導入している。この温度はイオン交換樹脂の熱酸化劣化を避けるためだが、実験の結果この条件でも劣化することが分かった。
【0082】
乾式TSA法では処理ガスゾーンのハニカムに空気を通過させると脱着ゾーンから持ち込んだ蓄熱と、二酸化炭素ガスの収着熱と水蒸気の吸着熱で、入口空気温度18.9℃が、出口では42.2℃に上昇し、二酸化炭素ガス回収率は45%、回収側二酸化炭素ガス濃度は710ppmであった。このような低温加熱空気による再生は、脱着エネルギー量を風量で補うために多量の脱着空気を必要とし、高濃度濃縮は不可能である。
【0083】
また処理ガスは外気なので二酸化炭素ガス濃度が低く、処理ガスゾーン通過による温度上昇Δt=23.3℃の主体が水蒸気の吸着熱によると考えられる。二酸化炭素ガス回収率は45%だったが、処理ガスが煙道ガス等二酸化炭素ガス濃度10%前後の高濃度になると膨大な二酸化炭素ガス収着熱を発生するためこのような除去率は望めない。特許文献4のように処理ガスを冷却しながら何度も循環させないと回収率を向上させることはできず、加えて100℃程度の脱着温度では不可能である。
【0084】
そこで湿式TSA法を発明開発してきた。
図1上図のように脱着ゾーンでは飽和蒸気を導入して水蒸気の凝縮熱で二酸化炭素を脱着し、ハニカムは凝縮水で湿ったまま処理ガスゾーンに回転移動する。処理ガスゾーンに二酸化炭素を含むガスを流してハニカムに二酸化炭素ガスを収着させるときに、乾式TSA法では二酸化炭素ガスや水蒸気の収着熱により収着材や原料ガスが温度上昇して二酸化炭素ガス収着量が減少するが、湿式TSA法では
図1下図のように、二酸化炭素ガスの収着によって生ずる収着熱は同時に進行するハニカム表面の凝縮水の蒸発冷却によって除去されることで、ハニカムや原料ガスの温度上昇が抑制され、高効率に二酸化炭素ガスを収着することが出来る。
【0085】
100℃近い飽和蒸気は同じ100℃の加熱空気や二酸化炭素ガスの100倍以上のエンタルピを有するので、特許文献1のように二酸化炭素ガスを脱着させるために二酸化炭素ガスを何度も再加熱しながら循環させる必要がない。また熱容量の膨大な飽和蒸気は必要な導入容積が少ないので脱着ゾーンは小さくなりロータも小型化できる。脱着ゾーンに導入した飽和蒸気は、ハニカムの加熱および二酸化炭素ガスの脱着熱供給により冷却され、ハニカム及び収着材表面に凝縮する。
【0086】
処理ガスゾーンに移動した直後のハニカム及び収着材は前述の理由で濡れているが、処理ガスが流入すると水の蒸発冷却現象により強力に冷却され、二酸化炭素ガスの収着が始まる。処理ガスの蒸発冷却効果を利用するためは、処理ガスを冷却減湿する事が望ましいが、合成ゼオライトを用いる場合のように、マイナス露点まで除湿する必要はなく、外気の温湿度範囲で良い。
【0087】
湿式TSA法では、ハニカムは水に濡れているので処理ガスによる気化冷却現象により、収着熱は凝縮水の気化熱に変換して効果的に冷却され、高い収着性能を維持することが出来る。ちなみに二酸化炭素ガスの収着熱の目安と考えられる気化潜熱369.9kJ/kg~昇華潜熱573kJ/kgに対し、水の気化潜熱は2500kJ/kgなのでハニカム及び収着材に付着または吸収している水1kgの蒸発によって、二酸化炭素ガス約4~5kg分の収着熱を除去することが出来る計算になる。
【0088】
さらに耐久性向上効果がある。固体アミン系二酸化炭素収着材やアミン系イオン交換樹脂は酸素がなければ耐熱性は100℃まで耐えるものがあるが、空気中の乾燥状態では40℃程度でも著しく劣化する例がある。イオン交換樹脂は水和状態の方が耐久性が高く、他のアミン系収着材についても同様と考えられる。本発明の方法では、全工程が湿式の水和状態で運用されることでも耐久性が向上すると考えられる。
【0089】
収着時の温度上昇は凝縮水の気化冷却現象で低く抑えられる。脱着ゾーンは60~100℃になるが二酸化炭素ガスと飽和蒸気が主体で酸素がほとんど無く、再び処理ゾーン4に回転移動した直後の高温時は収着材表面が凝縮水で覆われて酸素との直接接触を避け、凝縮水による気化冷却現象により速やかに冷却されるため酸化劣化が防止され、耐久性が向上する。
【0090】
特許文献9の湿式TSA法では脱着した二酸化炭素ガスを脱着ゾーンに循環させながら飽和蒸気を混入することで酸素濃度を抑えると共に、脱着温度も抑えて熱酸化劣化を抑制する方法が開示している。例えば二酸化炭素収着用に検討されることのある弱塩基性イオン交換樹脂の場合には乾燥状態より水和状態の方が安定性の高いことは知られており、他のアミン系収着材においても水和状態の方が安定すると考えられ、実験でもその傾向を確認している。しかし比較例2で解説するが、この方法では脱着循環路の二酸化炭素ガスの分圧が比較的高く脱着温度も80℃程度なので回収濃度は数%程度が限界で、回収濃度向上にはさらにブレークスルーが必要と考えた。
【比較例2】
【0091】
次に湿式TSA法実験装置
図14の比較例を示す。湿式TSA法では水蒸気の凝縮熱で二酸化炭素ガスを脱着し、二酸化炭素ガスの収着時には凝縮水の蒸発潜熱で収着熱を除去して回収率及び回収濃度を飛躍的に向上させる方法である。処理ガスは外気を使用した。回収ガスは高湿度で高濃度になるので、二酸化炭素ガス濃度計は液相、気相いずれも測定可能な隔膜式電極法で、測定濃度は0.1~100%のものを使用している。処理ガス側の二酸化炭素ガス濃度は非分散型赤外線式(NDIR)で、測定濃度0~10000ppmを使用した。
【0092】
試験ロータは比較例1と同じ種類、同じ仕様のものである。脱着側は高エネルギー密度の飽和蒸気を用いるので
図14のように脱着ゾーンははるかに小さく処理ガス:脱着ゾーン比は10:1である。処理ガス側の通過風速は2m/Sで同じ条件にしている。脱着側は回収した二酸化炭素含有ガスを循環させながら100℃の飽和蒸気を導入混合して80℃前後に調整して脱着ゾーンに導入している。
【0093】
図15~16に実験データを示す。
図15は装置立ち上げ時の二酸化炭素ガス回収濃度と回収率の時間変化のグラフである。立ち上げ後の回収率は1~2時間、回収ガス濃度は3時間位で平衡状態になる。
図16は脱着側循環路のロータ入口と出口の温度を示す。入口出口の温度差は10℃以下で、このエネルギー差を蒸気加湿器からの100℃の飽和蒸気導入によって供給している。処理側空気の温度上昇、つまり入口・出口温度差は湿式TSA法の気化冷却効果で、実験の終了まで1℃以下と僅かであった。回収ガス濃度は2~3%と比較例1よりはるかに高く、4ヶ月程の実験中に、検知できるような性能劣化は観察されなかった。
【0094】
図17は脱着回収循環側の流量を固定して処理流量増減による二酸化炭素ガス回収率と回収濃度への関係を調べた。回収濃度を高めるには処理側流量を多くするのが良いと考えたが効果は限定的で回収率は減少した。除去率=回収率が要求される場合には処理側流量を少なくした方が良いというトレードオフ関係が分かった。
【0095】
図18は同じ実験装置で、蒸気入力を上げて二酸化炭素ガス回収率と濃縮濃度を向上させることを試みた。収着材の劣化を避けるために脱着温度は脱着側循環ガス量とロータ回転数を操作して脱着温度80℃程度に調整した。回収率は50~70%で、比較例1の乾式TSA法より向上した。蒸気入力を上げロータ回転数を調整して二酸化炭素ガス回収率は向上するが回収濃度向上効果は少なかった。回収濃度向上にはさらにブレークスルーが必要であることが分かった。
【0096】
図19~20は処理ガス出口の温度及び二酸化炭素ガス回収率のロータ回転角度別分布を測定したものである。
図19の3本の線は3回分の測定結果を示すが、脱着ゾーンから処理ガスゾーンに回転した直後の箇所は出口温度も高く、
図20では同じ個所の回収率は大幅にマイナスである。つまり処理ガスよりも二酸化炭素ガス濃度が高い事から、ロータ回転による脱着ゾーンから処理ガスゾーンへの脱着ガスの移行流出が観測された。二酸化炭素ガス回収率を高めるためにはガスパージの検討が必要で、この点は処理ゾーンから回収・脱着ゾーンに空気が移行流入して回収濃度を減じることに対する工夫も必要であることを示唆している。
【比較例3】
【0097】
空調空気や大気から二酸化炭素ガスを除去低減した空気を空調空気に利用し、回収濃縮した二酸化炭素ガスを植物工場の野菜生育促進用に供給する想定のポータブル型二酸化炭素ガス分離濃縮装置のプロトタイプ1号機(
図21)を試作試験した。
【0098】
試験ロータはポータブル性を考慮してΦ300×50mm幅。ハニカムサイズは実施例1、2と同じでアミン系収着材を含浸している。ゾーン構成は実施例2とほぼ同じで、圧損が低いので処理ガス側は軸流型排気ファンを採用している。脱着側は風量可変型の小型ブロアで循環路を構成している。蒸気は家庭用スチームクリーナーのボイラ部品を転用し、発生した蒸気を循環路に導入し循環路からのガスを回収する構成にした。
【0099】
試験結果を
図22に示す。この図は脱着循環ガス量及び処理側風量を調整することによる二酸化炭素ガス濃度への影響を示している。脱着循環ガス量を増すと二酸化炭素ガス回収濃度が低下する。循環ガス量を必要以上に増すことで差圧増加によりガスリークが増えたためと考えた。処理風量の影響は処理ファンを2台にして風量269CMH(1.33m/S)、から356CMH(1.76m/S)に増して確認した。幾らか回収濃度向上効果はあったが先が見えており、この結果から実用化のためにはさらにブレークスルーが必要であることが分かった。
【実施例1】
【0100】
比較例2、3と同じ湿式TSA法により空調空気や大気から二酸化炭素ガスを除去した空気を空調空気に利用し、回収濃縮した二酸化炭素ガスは植物工場等の野菜生育促進用に供給する想定のポータブル型二酸化炭素ガス分離濃縮装置のプロトタイプ2号機を試作試験した。ロータは比較例3と同じものである。
【0101】
比較例2、3では回収率、回収濃度共に限界を感じ100℃の飽和蒸気を直接脱着ゾーンに投入できる方法を検討採用した。
図2のようにロータの回転方向の順に、処理ガスゾーン4、回収ゾーン5、脱着ゾーン6を経て再び処理ガスゾーン4に戻るように構成した。脱着ゾーン6に100℃近い飽和蒸気を導入して飽和蒸気の凝縮熱で二酸化炭素ガスを脱着し、その脱着ガスを回転方向前段の回収ゾーン5に導入通過させて回収する。
【0102】
実施例1の試作試験中に発泡板の耐熱不足による変形、リークが発生し、対策検討の結果「積層構造パージ・回収ブロック」を発明した。「積層構造パージ・回収ブロック」は複雑なパージ、フロー構成でも低コストで高精度に製作可能なことから、さらに回収性能、濃縮性能、省エネルギー性を高める発明、実施例2に発展。研究開発を急ぐため実施例1の性能試験は中断して実施例2を優先させたので試験データは採取していない。
【実施例2】
【0103】
図3のようにロータの回転方向の順に、処理ガスゾーン4、処理ガスパージゾーン7、回収ゾーン5、脱着ゾーン6、脱着ガスパージゾーン8を経て再び処理ガスゾーン4に戻るように構成した。脱着ゾーンに100℃近い飽和蒸気を導入して飽和蒸気の凝縮熱で二酸化炭素ガスを脱着し、その脱着ガスを回転方向前段の回収ゾーン5に導入通過させて回収する。
【0104】
ロータ回転によってハニカムに内包される処理ガスが処理ガスパージゾーン7に移動するが、脱着ガスパージゾーン8からのガスで処理ガスをパージし、それでも混入する可能性のある酸素は回収ゾーン5に脱着ゾーン6の出口ガスを通して回収することで、最も高温になる脱着ゾーン6への酸素混入は防止され、100℃近い飽和蒸気を投入しても酸化劣化が防止される。
【0105】
回収ゾーンを通過する脱着出口ガス、つまり二酸化炭素ガスと飽和水蒸気の混合ガスは、ハニカムの側から見れば、回収ゾーンを通過するガスから熱回収してハニカムを余熱する効果があると同時に、回収ガス側から見れば脱着直後のガスの潜熱除去により、回収後の回収ガスの水蒸気分離負荷を低減し、システム全体のエネルギー効率を向上させる効果も有る。また処理ガスパージゾーン7及び脱着ガスパージゾーン8のガス交換により、二酸化炭素ガス回収率及び回収濃度の向上及び省エネ効果もさらに向上する。
【0106】
図10にポータブルタイプ試作2号機の組み立て写真を示す。ロータは比較例3と同じである。この図の開口部から処理空気を吸引し、裏側に設置した41Wのファンで排気する。50mm幅のハニカムロータは圧力損失が少ないので軸流式の換気ファンで十分で、風速は3.4m/S、風量は7.3CMMであった。
【0107】
ポータブルタイプ試作2号機は二酸化炭素ガスの回収率、回収濃度、省エネ性向上、低コスト化の手段として発明した「発泡モジュール板積層ユニット構造」で試作している。二酸化炭素ガス分離濃縮のコア部であるロータとケーシング及びロータ駆動装置を発泡板で形成した「ロータカセットモジュール板」16、ロータ軸心及び両端面を支持シール摺動する発泡板に「積層パージ・回収ブロック」18を組み込んで流路を構成した前後「ロータ端面モジュール板」15、16そして処理ガス送風機やパージエアポンプを内蔵した「送風系モジュール板」17等の組み立て前(実施例2)を
図6写真に示す。小型ボイラは複数のモジュール板にまたがって装着空間を構成して内蔵する。各モジュール板を積層組み立て一体化すれば
図10写真の装置になる。
【0108】
図23は試作2号機の、手前の「ロータ端面モジュール板」15を外して「ロータカセットモジュール板」14の見える写真(実施例2)である。試作2号機は50mm幅のロータ用に作成したが、発泡板を厚い物に代えるか、複数段重ねれば広幅ロータのオプション対応も容易である。右上には4Wのロータ駆動モータ、ロータの斜め下には1kwの小型ボイラと給水タンクがあるが、すべて断熱ボードに埋め込まれているので断熱性が高い。
【0109】
回収ゾーン5、脱着ゾーン6、及び各パージゾーン7、8を構成する「積層パージ・回収ブロック」18は耐熱性、断熱性及び柔軟弾力性、シール性、摺動性、耐摩耗性が必要なので、この実施例2では発泡シリコーンゴム板にて
図7のように各ゾーン空間を切り抜いた板、各ゾーン空間に連通路を構成するように切り抜いた板、さらに最下層は切り抜きが無くガスの入口、出口チューブを設置した底板等を夫々作成し、シリコーンコーキングにて
図8の写真のように「積層パージ・回収ブロック」18を接着一体化して
図9写真のように「ロータ端面モジュール板」15、16に組み込んだ。またロータ端面を摺動する表層は、耐熱性、摺動性及び耐摩耗性に優れたガラスクロス補強フッ素樹脂シートを貼り合わせてシール性と摺動性を確保した。
【0110】
蒸気ボイラ10は家庭用スチームクリーナー1kWの部品を転用した。350cc容量で約10分蒸気発生できるが、増設給水タンクを設けて15分以上の運転時間を確保した。連続運転する場合は、水道やポリタンクからの自動給水式にすればよい。
図6写真の送風系モジュール板17にパージ用エアーポンプ11を内蔵しパージゾーンへの循環チューブを接続している。
【0111】
図24は装置起動後の立ち上がり状況を示している。比較例2の
図15では蒸気加湿器余熱後にスタートしたデータながら回収率の安定に1時間、回収濃度2.5%までに3時間かかったのに対し、実施例1の
図24ではボイラの水温からの立ち上がり時間にもかかわらず始動後3分位で回収率は45%に達し、回収濃度は15分程で50%濃度に達している。比較例2より圧倒的に立ち上がりが早く、つまり熱効率が優れていることが分かる。接ガス部や本体が高断熱でかつ熱容量も少ないので装置の起動、停止に伴う熱ロスが少なく、頻繁な起動停止が容易なことも大きな特徴である。
比較例2、3共に試験装置から想定外の結露水の流出があったが、実施例2では二酸化炭素ガス回収チューブ以外からは結露水も発生しなかった。従って断熱性や装置の余熱に起因する熱ロスが殆ど解消された。
【0112】
図25は起動後の処理出口二酸化炭素ガス濃度の変化を示す。440ppm程度の外気が2~3分の運転で250ppm程度になり、その後安定して供給できていることが分かる。この空気を空調用に利用すれば省エネ性を向上出来、知的生産性効果も期待できる。回収率は45%程度であったが、ロータ幅が50mm幅で処理側流速が3.3m/Sである。これに対し乾式TSA法の比較例1が200mm幅、2m/Sにて同程度の除去率データであることを考えると、湿式TSA法の優位性が理解できる。
【0113】
図26は処理ゾーン出口の回転角度別二酸化炭素ガス濃度の測定データである。外気濃度から処理出口濃度を差し引いた回収(除去)濃度も示している。脱着ガスパージゾーンから処理ゾーンに回転直後のポイントでも二酸化炭素ガス濃度は十分に低く、比較例2のような処理ガス濃度より高い二酸化炭素ガス濃度は観察されず、従って循環パージゾーンの効果が確認された。
【0114】
図27は起動後の二酸化炭素ガス回収量推移を示す。3分程度で平衡状態になり、二酸化炭素ガス回収量は0.9リットル毎分でほぼ安定していた。このデータは各パラメータの最適化途中で、ロータ回転数やパージガス流量の最適化も途中の状態での回収濃度50%であり、実験の過程で100%濃度を測定したこともあったことで、パラメータを最適化すれば100%近い濃度も可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は高回収率で高濃度に濃縮でき、耐久性が高く、100℃前後の排熱を利用でき、エネルギー効率が良く安価でコンパクト化容易な、湿式TSA法二酸化炭素ガス分離濃縮装置に関する。煙道ガスのみならず大気や空調空気からでも二酸化炭素ガスを分離濃縮回収できるので、二酸化炭素ガス濃度を低減した空気を空調換気に利用すると共に、回収した高濃度二酸化炭素ガスを植物工場等に供給して野菜の生産性向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 二酸化炭素収着ハニカムロータ
2 ロータ駆動モータ
3 ロータ駆動ベルト
4 処理ガスゾーン
5 回収ゾーン
6 脱着ゾーン
7 処理ガスパージゾーン
8 脱着ガスパージゾーン
9 処理ガスファン
10 蒸気ボイラ
11 パージポンプ
12 エアヒータ
13 ブロア
14 ロータカセットモジュール板
15 前ロータ端面モジュール板
16 後ロータ端面モジュール板
17 送風系モジュール板
18 積層パージ・回収ブロック
【要約】
【課題】煙道ガス等だけでなく、空調空気や大気中の二酸化炭素ガスを高効率に分離し、かつ高濃度に濃縮出来、100℃以下の低温排熱の利用が可能で、小型コンパクト化でき、エネルギー効率の高い、湿式TSAロータ回転型二酸化炭素ガス分離濃縮装置及び、又は空調装置に関する。
【解決手段】ロータの回転方向の順に少なくとも処理ガスゾーン、回収ゾーン、脱着ゾーンに区分シールした発泡モジュール板積層ユニット構造ケーシング内で、二酸化炭素ガス収着ロータを回転させ、処理ガスゾーンでハニカムが湿った状態で蒸発冷却しながら二酸化炭素ガスを収着させ、脱着ゾーンには飽和蒸気を導入して凝縮熱により二酸化炭素ガスを脱着し、回転方向前段の回収ゾーンを通過パージさせ回収する。これにより収着材の熱・酸化劣化を防止すると共に、二酸化炭素ガスを高効率に分離、高濃度に濃縮し、かつ高いエネルギー効率で回収することができる。
【選択図】
図2