(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20220831BHJP
B29C 44/50 20060101ALI20220831BHJP
B29C 44/56 20060101ALI20220831BHJP
B29C 49/04 20060101ALI20220831BHJP
C08J 9/12 20060101ALI20220831BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
B29C44/00 F
B29C44/50
B29C44/56
B29C49/04
C08J9/12 CER
C08J9/12 CEZ
B29K101:12
(21)【出願番号】P 2018065785
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】大野 慶詞
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/114996(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/007032(WO,A1)
【文献】特開2005-343776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
C08J 9/00- 9/42
B29C 49/00-49/80
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料樹脂と発泡ガスを押出機のシリンダ内で溶融混練してなる溶融混練樹脂を用いて発泡パリソンを形成し、前記発泡パリソンをブロー又は真空成形して発泡成形体を得る工程を備え、
前記発泡ガスは、吸着剤を用いて大気から酸素を除去することによって得られ
且つ0.1%以上のアルゴンを含むガスである、発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の空調装置では、空気を通風させるための管状の空調用ダクトが用いられている。
【0003】
空調用ダクトとしては、熱可塑性樹脂を発泡ガスにより発泡させた発泡樹脂を用いた発泡成形体が知られている。発泡成形体は、高い断熱性と軽量化を同時に実現できることから需要が拡大している。
【0004】
こうした発泡成形体の製造方法としては、溶融状態の発泡樹脂を分割金型で型締めし、内部に空気を吹き込んで膨張させるブロー成形方法が広く知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、発泡成形体は、気泡が真円形状に近いほど断熱性が高くなるので好ましいが、気泡形状は樹脂の流れに沿った方向に長くなる傾向があり、気泡形状を真円に近づけることは容易ではない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、気泡形状を真円に近づけることが可能な発泡成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、原料樹脂と発泡ガスを押出機のシリンダ内で溶融混練してなる溶融混練樹脂を用いて発泡パリソンを形成し、前記発泡パリソンを成形して発泡成形体を得る工程を備え、前記発泡ガスは、0.1~1.0%のアルゴンを含む、発泡成形体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明者は鋭意検討を行ったところ、発泡ガスが0.1~1.0%のアルゴンを含む場合に気泡形状が真円に近づくことを見出し、本発明の完成に到った。
【0010】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記記載の方法であって、前記発泡ガスは、98.0~99.9%の窒素を含む、方法である。
好ましくは、前記記載の方法であって、前記発泡ガスは、吸着剤を用いて大気から酸素を除去することによって得られるガスである、方法である。
本発明の別の観点によれば、原料樹脂と発泡ガスを押出機のシリンダ内で溶融混練してなる溶融混練樹脂を用いて発泡パリソンを形成し、前記発泡パリソンを成形して発泡成形体を得る工程を備え、前記発泡ガスは、吸着剤を用いて大気から酸素を除去することによって得られるガスである、発泡成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の製造方法で利用可能な発泡ブロー成形機1の一例を示す。
【
図2】
図1中の窒素ガス発生ユニット15の詳細な構成を示す。
【
図3】
図3Aは、実施例1の発泡成形体の断面写真であり、
図3Bは、比較例1の発泡成形体の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0013】
本発明の一実施形態の発泡成形体の製造方法は、原料樹脂と発泡ガスを押出機のシリンダ内で溶融混練してなる溶融混練樹脂を用いて発泡パリソンを形成し、前記発泡パリソンを成形して発泡成形体を得る工程を備え、前記発泡ガスは、0.1~1.0%のアルゴンを含む。
【0014】
本実施形態の方法は、
図1に例示される発泡ブロー成形機1を用いて実施することができる。発泡ブロー成形機1は、ホッパー12と、押出機13と、インジェクタ16と、アキュームレータ17と、ヘッド18と、分割金型19を備える。押出機13とアキュームレータ17は、連結管25を介して連結される。アキュームレータ17とヘッド18は、連結管27を介して連結される。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0015】
<ホッパー12,押出機13>
ホッパー12は、原料樹脂11を押出機13のシリンダ13a内に投入するために用いられる。原料樹脂11の形態は、特に限定されないが、通常は、ペレット状である。原料樹脂11は、ホッパー12からシリンダ13a内に投入された後、シリンダ13a内で加熱されることによって溶融されて溶融樹脂になる。また、シリンダ13a内に配置されたスクリューの回転によってシリンダ13aの先端に向けて搬送される。スクリューは、シリンダ13a内に配置され、その回転によって溶融樹脂を混練しながら搬送する。スクリューの基端にはギア装置が設けられており、ギア装置によってスクリューが回転駆動される。
【0016】
<インジェクタ16,ガス供給装置14、窒素ガス発生ユニット15、発泡ガス>
シリンダ13aには、シリンダ13a内に発泡ガスを注入するためのインジェクタ16が設けられる。インジェクタ16には、配管2を介して、ガス供給装置14が連結される。
【0017】
発泡ガスは、ガス供給装置14において圧力及び流量が調整された状態でインジェクタ16を通じてシリンダ13a内に注入される。発泡ガスは、超臨界流体の状態でシリンダ13a内に注入されることが好ましい。
【0018】
ガス供給装置14は、発泡ガスを供給する装置であり、1又は複数のボンベからのガスを発泡ガスとして供給する装置であってもよく、大気から所望成分を取り出したものを発泡ガスとして供給する装置であってもよい。
【0019】
発泡ガスは、0.1~1.0%のアルゴンを含むものであればよく、残りの成分としては、窒素、酸素、二酸化炭素などの、大気に含まれるガスが挙げられる。このような発泡ガスを用いて発泡成形を行うことによって、発泡成形の気泡の真円度が高まる。
【0020】
発泡ガス中のアルゴン濃度は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。発泡ガスは、98.0~99.9%(好ましくは99.0~99.9%)の窒素を含むことが好ましい。発泡ガス中の窒素濃度は、具体的には例えば、98.0、98.1、98.2、98.3、98.4、98.5、98.6、98.7、98.8、98.9、99.0、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。発泡ガス中の窒素とアルゴンの合計濃度は、例えば99~100%であり、具体的には例えば、99、99.9、99.99、99.999、99.9999、100%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
ガス供給装置14は、吸着剤を用いて大気から酸素を除去する方式の窒素ガス発生ユニット15であることが好ましい。このような方式では酸素は効率的に除去可能であるが、アルゴンはほとんど又は全く除去されないので、得られる発泡ガス中には、大気中に含まれるアルゴンの少なくとも一部が残留する。このため、アルゴンを別途添加することなく、0.1~1.0%のアルゴンを含む発泡ガスが得られる。吸着剤としては、活性炭やゼオライトなどの微多孔の吸着剤が挙げられる。
【0022】
図2に示すように、窒素ガス発生ユニット15は、一例では、コンプレッサ15aと、タンク15bと、窒素ガス発生装置15cと、バッファタンク15dと、コンプレッサ15eと、バッファタンク15fを備える。
【0023】
コンプレッサ15aは、大気を圧縮する設備であり、製造工場で高圧空気を得るために使用されている。タンク15bは、コンプレッサ15aで製造した圧縮空気を貯蔵するための設備であり、コンプレッサ15aとタンク15bは、窒素ガス発生ユニット15を配備する工場に、コンプレッサ15a及びタンク15bに相当する設備がすでに備えられている場合には、別途用意する必要は無い。
【0024】
タンク15bに蓄えられた圧縮空気は、窒素ガス発生装置15cを運転するために使用される。窒素ガス発生装置15cは、吸着剤を用いて圧縮空気から酸素を除去する設備であり、ここで純度を高めた窒素ガスはバッファタンク15dに蓄積される。コンプレッサ15eは、バッファタンク15dに貯めたガスを昇圧するために用いられ、バッファタンク15fは、コンプレッサ15eで昇圧したガスを蓄えるために設けられた設備である。
【0025】
なお、製造開始時に大流量の発泡ガスを消費するため(消費総量は少ない)、配管2を分岐し窒素ボンベに接続することで全体的なダウンサイジングを図ることができるとともに、設備の安定性を確保することもできる。
【0026】
窒素ガス発生装置15cは、大気から酸素を除去する設備であるため、運転原料用空気圧以上の吐出圧を得る事はできない。コンプレッサ15aで圧縮された空気は0.7MPa前後、窒素ガス発生装置15cの吐出圧は0.6MPa程度の実力値である。また国内では1.0MPa以上に昇圧すると「高圧ガス製造設備」として括られるため販売し難くなるとともに、窒素を1.0MPa以上に昇圧して消費する需要が無いため、昇圧に対応する窒素ガス発生装置は殆ど存在しない。
【0027】
一方で、インジェクタ16は、ボンベからガスが供給されることを前提としているため、ボンベ残量の確認と昇圧の安定性確保を目的とし1.5MPa以上のガス圧を必要とする。そこで窒素ガス発生装置15cの直後、すなわちインジェクタ16の直前に、昇圧用のコンプレッサ15eが必要となる。コンプレッサ15eが大きすぎるとバッファタンク15dがすぐ空になり安定運転ができず、コンプレッサ15eが小さすぎるとバッファタンク15fを満たすまでに時間を要してしまうため、適正サイズのコンプレッサ15eを選択する必要がある。
【0028】
<アキュームレータ17、ヘッド18>
原料樹脂と発泡ガスが溶融混練されてなる溶融混練樹脂は、シリンダ13aの樹脂押出口から押し出され、連結管25を通じてアキュームレータ17内に注入される。アキュームレータ17は、シリンダ17aとその内部で摺動可能なピストン17bを備えており、シリンダ17a内に溶融混練樹脂11aが貯留可能になっている。そして、シリンダ17a内に溶融混練樹脂11aが所定量貯留された後にピストン17bを移動させてことによって、連結管27を通じて溶融混練樹脂11aをヘッド18内に設けられたダイスリットから押し出して発泡パリソン23を形成する。発泡パリソン23の形状は、特に限定されず、円筒状であってもよく、シート状であってもよい。
【0029】
<分割金型19>
発泡パリソン23は、一対の分割金型19間に導かれる。分割金型19を用いて発泡パリソン23の成形を行うことによって発泡成形体が得られる。分割金型19を用いた成形の方法は特に限定されず、分割金型19のキャビティ内にエアーを吹き込んで成形を行うブロー成形であってもよく、分割金型19のキャビティの内面からキャビティ内を減圧して発泡パリソン23の成形を行う真空成形であってもよく、その組み合わせであってもよい。
【実施例】
【0030】
1.発泡成形体の作製
<実施例1>
図1に示す発泡ブロー成形機1を用いて、発泡成形体を作製し、発泡成形性の評価を行った。押出機13のシリンダ13aの内径は50mmであり、L/D=34であった。原料樹脂には、プロピレン単独重合体(ポレアリス社(Borealis AG)製、商品名「Daploy WB140」)と、長鎖分岐ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名「EX6000K」)を質量比30:70で混合し、樹脂100質量部に対して、核剤として20wt%の炭酸水素ナトリウム系発泡剤を含むLDPEベースマスターバッチ(大日精化工業株式会社製、商品名「ファインセルマスターP0217K」)を1.0重量部、および着色剤として40wt%のカーボンブラックを含むLLDPEベースマスターバッチ1.0重量部を添加したものを用いた。発泡パリソン23の温度が190~200℃になるように各部位の温度制御を行った。スクリューの回転数は、60rmmとし、押出量は、20kg/hrとした。
【0031】
発泡ガスとしては、
図2に示す窒素ガス発生ユニット15で発生させたガスを、インジェクタ16を介して、シリンダ13a内に注入した。窒素ガス発生装置15cとしては、微多孔の吸着剤を用いて酸素を吸着するPSA方式のものを用いた。窒素とアルゴンの合計濃度は99.990%であった。吸着剤ではアルゴンはほとんど又は全く除去されないので、実施例1の発泡ガス中のアルゴン濃度は、0.1~1.0%である。
【0032】
以上の条件で形成された発泡パリソンを用い、円筒状の成形体を成形するための分割金型の間に配置した。続いて、その分割金型を型締めしてから発泡パリソン内に0.1MPaの圧力でエアーを吹き込むことでブロー成形を行って、φ50mm、高さ100mmで厚さ5mmの円筒状の発泡成形体を作製した。
【0033】
<比較例1>
比較例1では、発泡ガスとして、深冷分離法によって生成した窒素ガスを充填させた窒素ガスボンベのガスを用いた以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。
【0034】
発泡ガス中の窒素とアルゴンの合計濃度は99.995%であった。深冷分離法では、アルゴンの除去が可能であるので、発泡ガス中にはアルゴンはほとんど又は全く残留しておらず、その濃度は0.1%未満である。
【0035】
2.評価
実施例1及び比較例1の発泡成形体の断面写真を
図3A~
図3Bに示す。
図3A~
図3Bに示すように、実施例1の発泡成形体は、比較例1の発泡成形体に比べて、気泡の真円度が大幅に高いことが分かる。
【0036】
また、実施例1及び比較例1の発泡成形体の表面粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、8.5μm及び9.6μmであった。この結果は、実施例1の発泡成形体は、比較例1の発泡成形体に比べて、表面が滑らかであることを示している。
【符号の説明】
【0037】
1 :発泡ブロー成形機
2 :配管
11 :原料樹脂
11a:溶融混練樹脂
12 :ホッパー
13 :押出機
13a:シリンダ
14 :ガス供給装置
15 :窒素ガス発生ユニット
15a:コンプレッサ
15b:タンク
15c:窒素ガス発生装置
15d:バッファタンク
15e:コンプレッサ
15f:バッファタンク
16 :インジェクタ
17 :アキュームレータ
17a:シリンダ
17b:ピストン
18 :ヘッド
19 :分割金型
23 :発泡パリソン
25 :連結管
27 :連結管