IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スリーボンドの特許一覧

<>
  • 特許-螺着部材用シール剤 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】螺着部材用シール剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20220831BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220831BHJP
   F16J 15/14 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C09K3/10 N
C09K3/10 Z
F16J15/10 K
F16J15/14 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019558231
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2018044608
(87)【国際公開番号】W WO2019111908
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017234206
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鷲野 江里佳
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110100(JP,A)
【文献】特表2015-524006(JP,A)
【文献】特開2010-106222(JP,A)
【文献】特開2009-52734(JP,A)
【文献】特開2008-69869(JP,A)
【文献】特開平10-288214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
F16B23/00-43/02
F16J15/00-15/14
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C09J1/00-5/10
C09J9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)自己架橋型の水性エマルジョンと、
(b)ナノファイバー化されたアラミド繊維物質と、
(c)混合物からなる造膜助剤と、
を含む、螺着部材用シール剤であって、
前記混合物が、下記式1:
【化1】
ただし、式中のnが4以上である、
で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上である、螺着部材用シール剤。
【請求項2】
前記混合物が、前記化合物を50質量%以上含む、請求項1に記載の螺着部材用シール剤。
【請求項3】
前記(a)成分が、スチレン-(メタ)アクリル酸エステルコポリマーエマルジョンである、請求項1または2に記載の螺着部材用シール剤。
【請求項4】
前記(b)成分のアスペクト比が、1,000~3,000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の螺着部材用シール剤。
【請求項5】
前記(b)成分の固形分の添加量が、前記(a)成分の固形分100質量部に対して、0.1~3.0質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の螺着部材用シール剤。
【請求項6】
前記(c)成分の添加量が、前記(a)成分の固形分100質量部に対して、54~79質量部である、請求項1~5のいずれか1項に記載の螺着部材用シール剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の螺着部材用シール剤をコーティングすることを有する、螺着部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の螺着部材用シール剤がコーティングされてなる、螺着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺着部材用シール剤ならびに螺着部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、配管の継手などの螺着部の密着にはシール剤としてシールテープが使用されてきた。シールテープを螺着部に用いる目的は、配管の接続部分等に生じた隙間を埋めこむことで液体やガスなどの漏洩を防ぐことである。シールテープはフッ素樹脂を主原料としたものであり、その柔らかさから螺着部に密着しやすく、機材に締め込んだ際もフッ素樹脂が柔軟に変形し、機材とのクリアランスを埋めることができるためシール剤として用いられてきた。このシールテープによって螺着部材を被覆する方法としては、シールテープの巻き付けを、巻き付け装置を用いることや手作業によって行われてきた。このようなシールテープ巻き付け装置、例えば、特許文献1の装置は、螺着部材とシールテープとを装置にそれぞれセットし、スイッチのON-OFF切り替えにより被覆を行うというものであった。しかしながら、装置一つにつき一度のスイッチのON-OFFの切り替えで一本しか被覆できず、螺着部材の取り付け作業を連続して行わなければならないため作業効率が悪く、生産性の点で問題を抱えていた。
【0003】
そこで、この課題を解決するために液状樹脂組成物からなるシール剤が開発されている。液状樹脂組成物であれば、螺着部材を一つずつ加工する必要はなく、例えば、螺着部材固定用パネル一面に螺着部材を整列し、それに対し一度のディッピング作業を行う。それによって、複数の螺着部材を加工できる。また、組成物が液状であることからシールテープよりも施工範囲の自由度が高い。そのため、様々なサイズに対して専用機械による自動塗布化が可能である。
【0004】
液状樹脂組成物からなるシール剤(分散媒(水)を用いる液状樹脂組成物からなるシール剤)は、螺着部材への塗布後、その分散媒(水)を揮発させるための乾燥工程が必須である。その乾燥工程は、量産性を考慮し、乾燥炉等を用い、熱風で乾燥させることによって行うことが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-120311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液状樹脂組成物からなるシール剤を螺着部材へ塗布した後、分散媒(水)が揮発していない状態で熱風により乾燥させると、塗膜が偏ってしまい、品質不良のため商品化できないといった問題があった。この品質不良としては、液状樹脂組成物からなるシール剤を螺着部材に塗布し、揮発成分を乾燥させた際に塗膜が偏ってしまうことで、螺着部材(例えば、ねじ切り部)を見渡したときに塗膜が不均一になることが挙げられ、つまり代表的には外観不良が挙げられる。この外観不良は場合によってはシール性の低下を起こすことがある。
【0007】
以上から、本発明の目的は、かような従来技術の課題を解決することであり、液状樹脂組成物からなるシール剤を螺着部材へ塗布した後、分散媒の水が揮発していない状態で熱風により乾燥させたとしても塗膜の偏りが起こらない技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の少なくとも一つを達成するための本発明のある側面を反映した螺着部材用シール剤は、以下の構成を有する。
【0009】
(a)自己架橋型の水性エマルジョンと、(b)ナノファイバー化されたアラミド繊維物質と、(c)混合物からなる造膜助剤と、を含む、螺着部材用シール剤であって、前記混合物が、下記式1:
【0010】
【化1】
【0011】
ただし、式中のnが4以上である、で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上である、螺着部材用シール剤。
【発明の効果】
【0012】
液状樹脂組成物からなるシール剤を螺着部材へ塗布した後、分散媒の水が揮発していない状態で熱風により乾燥させたとしても塗膜の偏りが起こらないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シール試験治具の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(a)自己架橋型の水性エマルジョンと、(b)ナノファイバー化されたアラミド繊維物質(単に「アラミド繊維」との用語でも規定できる)と、(c)混合物からなる造膜助剤と、を含む、螺着部材用シール剤であって、前記混合物が、下記式1:
【0015】
【化2】
【0016】
ただし、式中のnが4以上である、で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上である、螺着部材用シール剤である。かかる構成によって、液状樹脂組成物からなるシール剤を螺着部材へ塗布した後、分散媒の水が揮発していない状態で熱風により乾燥させたとしても塗膜の偏りが起こらないようにすることができる。
【0017】
本発明は、端的に言うと、螺着部材用シール剤中に、自己架橋型の水性エマルジョン、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質および造膜助剤を含有させることによって、熱風乾燥の際の塗膜の偏りを防ぐ技術を提供しようとするものである。本発明の好ましい形態によれば、螺着部材用シール剤は塗膜の偏りを防ぐことができるので、外観が優れた、いわゆるプレコートボルトを提供することができる。
【0018】
以下に発明の詳細を説明する。
【0019】
<(a)成分>
本発明の螺着部材用シール剤は、自己架橋型の水性エマルジョンを含む。
【0020】
本発明に用いられる(a)成分は、自己架橋型の水性エマルジョンであれば特に限定されるものではない。水性エマルジョンとは、重合可能なモノマーに、界面活性剤と、重合開始剤とを入れ、乳化重合させることで、作製されたポリマー粒子が安定的に水に分散しているものをいう。乾燥過程において水が揮発する際、ポリマー粒子同士は、寄せ集まって融着する。より具体的には、自己架橋型の水性エマルジョンは、乾燥過程において、水に不溶性の小滴状態のポリマー同士が融着する際にポリマー同士の間で架橋反応が行われるものである。ここで、本明細書中、乾燥工程(あるいは単に「乾燥」と称する場合もある)の条件は、温度としては、好ましくは20~150℃、より好ましくは40~120℃、さらに好ましくは50~110℃、よりさらに好ましくは60~100℃、よりさらに好ましくは70~95℃である。また、時間としては10~300分が好ましく、15~100分であることがより好ましく、20~50分であることがさらに好ましく、25~40分であることがよりさらに好ましい。
【0021】
前記水性エマルジョンの自己架橋の機構としては以下が想定できる。例えば、官能基(例えば、ペンダント官能基)を有するポリマーと、2つ以上の官能基を有する架橋剤物質とが水中に添加されている。乾燥過程において水が揮発する際に、ポリマーが有する官能基と、架橋剤が有する官能基とが反応することで自己架橋する。例えば、カルボニル基をペンダント官能基として有するポリマーと、2つ以上の官能基を有する架橋剤となる成分(例えば、ポリヒドラジド)とがそれぞれ反応することで自己架橋する。他に例えば、官能基(例えば、ペンダント官能基)を有するポリマーが水中に添加されている。しかし、当該水は架橋剤となる物質は含まない。乾燥過程において水が揮発する際、ポリマー上にペンダントした官能基と、別のポリマー上にペンダントした官能基とが反応することで自己架橋する。あるいは、乾燥過程において水が揮発する際、ポリマー上にペンダントした官能基と、螺着部材における螺着部材用シール剤を塗布する面(被着面)に存在しうる反応基(例えば、水酸基)の少なくとも一方とが反応することで自己架橋する。より具体的には、加水分解性基を有するシランをペンダントしたポリマー同士の反応や、加水分解性基を有するシランをペンダントしたポリマーと被着面の水酸基等との反応などが挙げられる。自己架橋型の水性エマルジョンにはこれらのようなタイプがあるものの、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の実施形態において、前記自己架橋型の水性エマルジョンは、脂肪族ビニル単量体または芳香族ビニル単量体のホモポリマーを含むものであっても、脂肪族ビニル単量体および芳香族ビニル単量体の少なくとも一方を含むコポリマーであってもよい。脂肪族ビニル単量体としては、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステル、イタコン酸またはそのエステル、マレイン酸またはそのエステル、フマル酸またはそのエステルなどのカルボキシル基を有する脂肪族ビニル単量体が挙げられる。ここで、エステルとしても制限はないが、例えば、メチル、エチル、ブチルまたは2-エチルヘキシルのエステルが好適である。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレンなどを用いることができる。
【0023】
本発明の実施形態においては、(メタ)アクリル酸エステルコポリマーおよび(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーの少なくとも一方を含む自己架橋型の水性エマルジョン;スチレン-(メタ)アクリル酸エステルコポリマーを含む自己架橋型の水性エマルジョン等が好適である。よって、本発明の実施形態によれば、前記(a)成分が、スチレン-(メタ)アクリル酸エステルコポリマーエマルジョンである。
【0024】
なお、これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルコポリマーおよび(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーの少なくとも一方を含む自己架橋型の水性エマルジョンの市販品として例えば、UW-600、UW-550CS(大成ファインケミカル株式会社)、アロンNW-400、アロンA-3611A(東亜合成株式会社)、NeocrylXK-12,NeocrylXK-16(楠本化成株式会社)などがある。また、スチレン-(メタ)アクリル酸エステルコポリマーを含む自己架橋型の水性エマルジョンの市販品として例えば、アロンNW-7060(東亜合成株式会社)、ACRONAL YS-800ap(BASFジャパン株式会社)などが挙げられる。
【0026】
本発明の実施形態において、本発明の螺着部材用シール剤を作製(調製)するための原料としての、自己架橋型の水性エマルジョンの水分散液中の固形分濃度は、20~60質量%が好ましく、30~55質量%がより好ましく、40~50質量%がさらに好ましい。
【0027】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中の自己架橋型の水性エマルジョンの含有量(固形分)は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量(ただし、原料としての水性エマルジョンの水分散液中に含まれる水は含む)が84~86質量部であるときは、好ましくは9~24質量部、より好ましくは11~22質量部、さらに好ましくは13~19質量部である。なお、本明細書において、2種以上のものを使用する場合、その含有量はその合計量を意味するものとする。
【0028】
<(b)成分>
本発明の螺着部材用シール剤は、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質を含む。ナノファイバー化されたアラミド繊維物質を螺着部材用シール剤に添加することで、揮発成分の乾燥工程における塗膜の偏りを防ぐことができる。ナノファイバー化されたアラミド繊維物質を添加しない場合に塗膜の偏りが生じる原因としては、螺着部材に塗布されたシール剤におけるエマルジョンが最初に成膜し始めた部分を核としてシール剤の成膜が続くため、全体的に樹脂が核部分に引っ張られてしまうためと考えられる。これに対し、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質が含まれることによって(好適には、樹脂(シール剤)中に均一に分散させることによって)、樹脂(シール剤)が一部の核部分に引っ張られることを防ぐことができるためと推測される。かかる推測によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。
【0029】
本発明に用いられる(b)成分とは、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質であれば特に限定されるものではない。ナノファイバー化とは、繊維径が1~1,000nmで、長さが繊維径の例えば100倍以上ある繊維にすることをいう。本発明の実施形態において、アラミド繊維物質の単繊維の平均繊維径は、好ましくは60nm以上1000nm未満であり、より好ましくは60~950nmであり、さらに好ましくは100~500nmであり、よりさらに好ましくは150~400nmであり、よりさらに好ましくは180~350nmである。ここで繊維径の測定方法としては、例えば走査型電子顕微鏡で得られた二次電子像から測定し、数平均繊維径を求めることができるが、これに限定されるものではない。より具体的には、走査型電子顕微鏡にて30~1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、無作為に選出した10箇所(統計的に信頼できる数値であれば10箇所に限られない)の繊維の直径を実測し、平均値にて算出することができる。一方、繊維長の測定方法としては、例えば、繊維長測定機を用いたレーザー解析法があり、繊維長分布を求めることで、数平均繊維長、長さ加重平均繊維長、および、長さ-長さ加重平均繊維長を算出することができる。長さ加重平均繊維長は、全ての繊維が同じ粗度であるとの仮定できるときに成り立つものであり、また、長さ-長さ加重平均繊維長は、繊維の粗度が長さに比例するという仮定の上に成り立つものである。これらのように仮定が成り立つ場合は、長さ加重平均繊維長、または、長さ-長さ加重平均繊維長で算出する方が、数平均繊維長で算出するよりも精度良く(分母数に重きをおいて)求めることができる。なお、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質の場合は、その製造方法の観点から繊維の粗度が長さに比例すると仮定することができるため、長さ-長さ加重平均繊維長の値を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施形態において、前記ナノファイバー化されたアラミド繊維物質の長さ-長さ加重平均繊維長は、100~900μmであることが好ましく、300~800μmであることがより好ましく、400~700μmであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の実施形態において、前記ナノファイバー化されたアラミド繊維物質は、単一の繊維におけるアスペクト比が1,000~3,500であることが好ましく、1,000~3,000であることがより好ましく、1,200~3,000であることがさらに好ましく、1,500~2,500であってもよい。アスペクト比とは、アラミド繊維物質の縦の長さ(繊維長)と横の長さ(繊維径)を比で表したものであり、その計算方法は縦の長さの平均値を横の長さの平均値で割って求めることができる。
【0032】
ナノファイバー化されたアラミド繊維物質の製造方法としては、例えば、特開2010-222717号公報に示されるように、繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与えることにより、ナノファイバー化させることを特徴とするものがあるが、特にこの製法に限定されるものではない。
【0033】
ここでアラミド繊維物質とは芳香族骨格のみで構成されるポリアミド物質のことであり、メタ系アラミド、パラ系アラミドがあるが、本発明においてはナノファイバー化されたものであればどちらかに限定されるものではない。本発明の好ましい実施形態において、ナノファイバー化される繊維としては、パラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(登録商標)」、テイジン・アラミド社製「トワロン」);コポリパラフェニレン-3,4-ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ(登録商標)」)等)、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」))が好適である。これらの繊維を用いて繊維集合体を作製する場合は、これらの繊維を1種または2種以上併用して作製することができる。
【0034】
前記ナノファイバー化されたアラミド繊維物質の市販品としては、例えば、ティアラKY-400S(東レ・デュポン株式会社製)が挙げられるが、アラミドを原料とし、ナノファイバー化されたものであれば、特に限定されない。
【0035】
本発明の実施形態において、本発明の螺着部材用シール剤を作製(調製)するための原料としての、ナノファイバー化されたアラミド繊維物質の水分散液の固形分濃度は、5~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。
【0036】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中のナノファイバー化されたアラミド繊維物質の含有量(固形分)は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量(ただし、原料としてのナノファイバー化されたアラミド繊維物質の分散液に含まれる水は含む)が84~86質量部であるときは、好ましくは0.01~1.0質量部、より好ましくは0.02~0.8質量部である。
【0037】
本発明の実施形態において、(a)成分の固形分100質量部に対する(b)成分の固形分の添加量は、好ましくは0.1~3.0質量部であり、より好ましくは0.15~2.5質量部であり、さらに好ましくは0.2~2.5質量部である。(a)成分の固形分に対する(b)成分の固形分の添加量が0.1質量部より少ない場合、塗膜の偏りを防ぐ十分な量ではないため、塗膜の偏りを生じてしまうことがある。一方、(a)成分の固形分に対する(b)成分の固形分の添加量が3.0質量部より多い場合、シール剤の粘度が高くなりすぎてしまい、例えば自動塗布装置を用いて螺着部材に塗布する際に均質な塗膜を形成できないといった作業性低下の虞がある。その作業性低下を解決するために、シール剤を分散媒(水)で希釈し粘度を下げるという手段もあるが、希釈しすぎると(a)成分の固形分(不揮発分)の分散媒(水)中での割合が小さくなり、螺着部材に塗布し、乾燥させるまでの間にタレが生じやすくなる虞がある。また、本発明の実施形態において、(a)成分の固形分100質量部に対する(b)成分の固形分の添加量は、0.33質量部以上である。かかる実施形態であることによって、塗膜の偏りを防ぐ技術的効果がある。
【0038】
<(c)成分>
本発明の螺着部材用シール剤は、混合物からなる造膜助剤を含み、前記混合物が、下記式1:
【0039】
【化3】
【0040】
ただし、式中のnが4以上である、で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上である、を含む。
【0041】
ここで、式1中、n=1である物質はエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、n=2である物質はジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、n=3である物質はトリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)、とそれぞれ呼ばれる。nが2以上であるとき式1で表される化合物は一般的にポリエチレングリコールモノメチルエーテルと呼ばれる。本発明の造膜助剤に含まれる式1で示される化合物のnは4以上であれば特に制限はないが、好ましくは15以下であり、より好ましくは11以下であり、さらに好ましくは8以下である。
【0042】
ここで、還流とは液体が常に沸騰と凝縮を繰り返している状態のことで、一般的には溶液をいれたフラスコに冷却器をつないで加熱することで達成される。還流している際には溶媒に依存した一定の沸点で反応が進行しており、その時の温度を平衡還流沸点(省略して、単に「還流沸点」と称される場合もある)という。
【0043】
本発明の螺着部材用シール剤が、混合物からなる造膜助剤を含み、前記混合物が、下記式1:
【0044】
【化4】
【0045】
ただし、式中のnが4以上である、で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上であることによって、以下の効果を有する。すなわち、乾燥工程における揮発成分の乾燥を、熱風乾燥機を用いて行うような塗膜の偏りが生じ易い環境であっても、塗膜の偏りを防ぐことができる。この作用は生じるメカニズムは以下のとおりと推測される。すなわち、分散媒(水)よりも有意に高い沸点を有する造膜助剤(化合物)を螺着部材用シール剤に添加することによって熱風により分散媒(水)が急激に揮発することを抑制することができる。そのため、エマルジョン融着時(造膜時)に生じる造膜収縮力が緩和される結果、塗膜の偏りを防ぐことになるものと推測される。なお、かかる推測によって本発明の技術的範囲が制限されることはない。ここで、熱風乾燥機とは設定された温度の環境下で乾燥機内の空気を常に流動させることができるものをいう。ここで前記式1中のnが4以上である化合物を含んでも、混合物全体の平衡還流沸点が280℃未満であると、塗膜の偏りが生じる虞がある。本発明の実施形態において、乾燥機内の空気を常に流動させることのできる乾燥機を用いることによって、乾燥機内の温度を一定に保つことができ、むらのない乾燥が実現でき、安定的な(むらのない)密着性が得られる。
【0046】
本発明の実施形態において、前記混合物が、前記化合物を50質量%以上含むことが好ましく、前記化合物を60質量%以上含むことがより好ましく、前記化合物を65質量%以上含むことがさらに好ましい。かかる実施形態であることによって、塗膜の偏りを防ぐことができる。上限としても特に制限はないが、100質量%以下、99質量%以下、あるいは、98質量%以下である。かかる実施形態であることによって、塗膜の偏りを防ぐことができる。
【0047】
本発明において、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上であるが、本発明の実施形態において、前記混合物全体の平衡還流沸点が282℃以上であることが好ましく、前記混合物全体の平衡還流沸点が285℃以上であることがより好ましく、前記混合物全体の平衡還流沸点が287℃以上であることがさらに好ましい。かかる実施形態であることによって、より効果的に塗膜の偏りを防ぐことができる。上限としても特に制限はないが、330℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、310℃以下であることがさらに好ましい。かかる実施形態であることによって、保存性を良好に保つことができる。
【0048】
混合物からなる造膜助剤であって、前記混合物が、下記式1:
【0049】
【化5】
【0050】
ただし、式中のnが4以上である、で示される化合物を含み、前記混合物全体の平衡還流沸点が280℃以上である、造膜助剤の市販品としては、例えば、MPG(日本乳化剤株式会社製)、Polyethylene Glycol Monomethyl Ether 550(東京化成工業株式会社)、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0051】
本発明の螺着部材用シール剤中の(c)成分の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量が84~86質量部であるときは、好ましくは3~20質量部、より好ましくは5~15質量部、さらに好ましくは8~13質量部である。
【0052】
本発明の実施形態において、(a)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量は、好ましくは54~79質量部であり、より好ましくは57~75質量部であり、60~73質量部であることがさらに好ましい。(a)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量が54質量部より少ない場合、塗膜の偏りを防ぐ十分な量ではないため、塗膜の偏りを生じてしまうことがある。一方、(a)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量が79質量部より多い場合、過度の粘度変化等によるシール性の低下や経時での保存安定性が低下するといった虞がある。
【0053】
本発明の螺着部材用シール剤は、分散媒を水とし、上述の(a)成分、(b)成分および(c)成分を主要な構成成分とするが、必要に応じてその他の成分を添加することができる。例えば、充填剤、pH調整剤、防錆剤、消泡剤、顔料、密着性付与剤、分散剤などを、本発明の機能を妨げない範囲で必要量添加し、適切な物性に調整することができる。なお、本発明の螺着部材用シール剤に充填剤を含有させる場合、前記(a)成分は、充填剤のバインダとしても機能しうる。なお、当該主要な構成成分(固形分換算)の下限は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤全体の量(ただし、仕込みの原料に含まれる水は含む)を84~86質量部としたとき、好ましくは12質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上であり、さらに好ましくは20質量部以上である。上限としても制限はないが、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下であり、さらに好ましくは40質量部以下であり、よりさらに好ましくは30質量部以下である。
【0054】
前記充填剤では、例えば、シリカ、タルク、マイカ、珪藻土、アクリル樹脂粉、ポリエチレン樹脂粉、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉、ナイロン樹脂粉、ガラス微粒子粉、金属酸化物微粒子粉、マイクロカプセル、などを用いることができる。シール性の観点からは柔軟性のあるポリエチレン樹脂粉、フッ素樹脂粉を用いることが好ましく、耐熱性の観点からはポリテトラフルオロエチレン樹脂粉を用いることがより好ましい。
【0055】
本発明の実施形態において、充填剤として粉状のものを使用する場合、平均粒径(D50)は、好ましくは0.1~200μmであり、より好ましくは0.5~150μmであり、さらに好ましくは1~80μmである。ここで、平均粒径(D50)の測定方法は、レーザー回折散乱法によるものとする。本発明の実施形態において、充填剤として2種類以上の平均粒径のものを併用して使用することが好ましい。かかる実施形態によれば、螺着部に塗布した際に最密充填構造を取りやすく、外観良好に繋がるため好ましい。本発明の実施形態において、充填剤として2種類以上の平均粒径のものを併用して使用する場合、相対的に最も小さい平均粒径(D50)に対する相対的に最も大きい平均粒径(D50)の値は、好ましくは1.5~400であり、より好ましくは2~100であり、さらに好ましくは2~30であり、よりさらに好ましくは3~20であり、よりさらに好ましくは4~15であり、よりさらに好ましくは5~10であり、よりさらに好ましくは6~9であり、よりさらに好ましくは7~8である。かかる実施形態によれば、最密充填構造を取りやすく、外観良好に繋がるため好ましいとの技術的効果がある。
【0056】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中の充填剤の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量が84~86質量部であるときは、好ましくは10~65質量部、より好ましくは20~60質量部、さらに好ましくは25~50質量部である。
【0057】
前記pH調整剤としては、任意のアルカリ性水溶液が挙げられる。例えばアンモニア水、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンなどが好適である。
【0058】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中のpH調整剤の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量が84~86質量部であるときは、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.5~8.0質量部、さらに好ましくは0.5~5.0質量部である。
【0059】
前記防錆剤としては、例えば、クロム酸塩(例えば、クロム酸亜鉛、クロム酸カルシウム、クロム酸ストロンチウム、クロム酸バリウム、クロム酸亜鉛カリウム、四塩基性クロム酸亜鉛など)、リン酸塩(例えば、リン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウムなど)、亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなど)、フィチン酸塩(例えば、フィチン酸亜鉛、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸カルシウムなど)、タンニン酸塩(例えば、タンニン酸ナトリウム、タンニン酸カリウムなど)、ポリアミン化合物(例えば、N-(2-ヒドロキシエチル) エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、およびこれらのアルカリ金属塩);モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状リン酸塩にインターカレートしてなる層間化合物;MIO、シアナミド鉛、メタバナジン酸アンモン、ジルコフッ化アンモン、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、有機ニトロ化合物亜鉛塩などが好適である。
【0060】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中の防錆剤の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量が84~86質量部であるときは、好ましくは0.01~15質量部、より好ましくは0.5~13質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。
【0061】
前記消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤(シリコーン系界面活性剤)、変性シリコーン系消泡剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、シリカ系消泡剤、ワックス、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パラフィン系オイル、破泡性脂肪族誘導体などが好適である。
【0062】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中の消泡剤の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤の量が84~86質量部であるときは、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5.0質量部、さらに好ましくは1.0~3.0質量部である。
【0063】
前記顔料としては、有機系顔料や無機顔料などが好適である。有機顔料としては、例えば、イソインドリノン、イソインドリン、アゾメチン、ペリレン、アントラキノン、ジオキサジン、フタロシアニン等が挙げられ、無機顔料では例えば、カーボンブラック、ウルトラマリン青、プロシア青、酸化鉄赤、二酸化チタン、リトポン、等が好適である。
【0064】
本発明の実施形態において、螺着部材用シール剤中の消泡剤の含有量は、分散媒としての水を除く螺着部材用シール剤が84~86質量部あるときは、好ましくは0.01~8質量部、より好ましくは0.1~7質量部、さらに好ましくは0.3~5質量部であり、よりさらに好ましくは1~4質量部である。
【0065】
[螺着部材用シール剤の製造方法]
本発明の螺着部材用シール剤は、上記説明した各成分を攪拌混合することで製造できる。添加順番としては、特に限定されないが、ナノファイバー化されたアラミド繊維を均一に分散させるために、分散媒としての水、ナノファイバー化されたアラミド繊維、充填剤、消泡剤をまず撹拌し、その後に他の原料を添加することが好ましい。攪拌装置としては、PRIMIX社のホモディスパーや新東科学株式会社のスリーワンモータ等が挙げられるが、各成分を均一に分散させることが可能な装置であれば特にこれらに限定されるものではない。攪拌時間としては、均一に分散させるために、10~180分が好ましく、30~120分がより好ましい。また、攪拌速度としては、均一に分散させるために、150~3000rpmが好ましく、200~2000rpmがより好ましい。攪拌翼としては、タービン翼、傾斜パドル翼、傾斜タービン翼、プロペラ翼のようなものが好適である。これらの時間や、回転数などは、適宜設定することができる。
【0066】
[螺着部材用シール剤が塗布された螺着部材]
本発明においては、前記螺着部材用シール剤をコーティングすることを有する、螺着部材の製造方法が提供される。
【0067】
本発明の螺着部材用シール剤は、螺着部材との密着性が優れたものである。特にねじ面に螺着部材用シール剤を塗布して塗膜を形成しても、雌ねじや基材などへの螺着部材の締付けによる摩擦によっては、当該塗膜はねじ界面からの剥がれ落ちが有意に抑制されている(好適には、剥がれ落ちることがない)。剥がれ落ちが有意に抑制されている(好適には、剥がれ落ちることがない)ということは、ねじ切り部への被覆形成を継続させることができる。よって、例えば、液体やガスの漏洩の防止を行う必要のある部材においては、部材における螺着部からの液体やガスの漏洩を防ぐことができる。そのため、螺着部材用シール剤が塗布された螺着部材は、プレコート型のねじシール剤として有用である。
【0068】
[螺着部材]
本発明においては、螺着部材用シール剤がコーティングされてなる、螺着部材が提供される。
【0069】
本発明の実施形態において螺着部材としては上述したねじ以外に、例えばねじ切り部を有するニップル、ソケット、テーパープラグ、エルボなどのねじ継手、ナットの内周などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【実施例
【0070】
以下、本発明の螺着部材用シール剤について以下の実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0071】
螺着部材用シール剤の作製
各成分を表1に示される組成に従って攪拌装置にて適宜攪拌混合することによって実施例および比較例の螺着部材用シール剤を調製した。より具体的には、ナノファイバー化されたアラミド繊維を均一に分散させるため、分散媒としての水、ナノファイバー化されたアラミド繊維、ポリテトラフルオロエチレンパウダーおよび界面活性剤をまず撹拌し、その後に他の原料を添加した。
【0072】
(実施例1~5、比較例1~10)
[(a)成分]
・ACRONAL(登録商標) YS-800ap(スチレン-(メタ)アクリル酸エステルコポリマーを含む自己架橋型のエマルジョン、固形分47wt%、BASFジャパン株式会社製)
[(a’)成分]
・モビニール(登録商標)6969 ((メタ)アクリル酸エステルコポリマーまたは(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーを含む自己架橋型でないエマルジョン、固形分50wt%、日本合成化学株式会社製)
[(b)成分]
・ティアラKY-400S (ナノファイバー化されたアラミド繊維、濃度:20%(100%のうちの80%は水分)、繊維径:200~300nm、長さ-長さ加重平均繊維長:500~600μm、アスペクト比:1,500~3,000、東レ・デュポン株式会社製)
[(b’)成分]
・ケブラーK29 (ナノファイバー化されていないアラミド繊維、濃度:93%(100%のうち7%は水分)、繊維径:12μm 繊維長:3.0mm、アスペクト比:250、東レ・デュポン株式会社製)
・セルロースナノファイバーCNF-500 (セルロースナノファイバー、濃度:5%、繊維径:30~200nm、繊維長:測定不能、アスペクト比(推定):100~500、モリマシナリー株式会社製)。
【0073】
[(c)成分]
・メチルポリグリコール(式1中のnが4以上である化合物を混合物全体の70質量%以上含む、平衡還流沸点295℃、MPG(日本乳化剤株式会社製))
[(c’)成分]
・メチルジグリコール (式1中のnが2である化合物を混合物全体の99質量%以上含む、沸点190℃、日本乳化剤株式会社製)
・メチルトリグリコール (式1中のnが3である化合物を混合物全体の99質量%以上含む、沸点249℃、日本乳化剤株式会社製)
・ブチルトリグリコール (式1中のnが3である化合物が混合物全体の50質量%未満含む、沸点271.2℃、日本乳化剤株式会社製)。
【0074】
[その他の添加成分]
・ルブロン(登録商標)L-5F(平均粒径D50:5μmのポリテトラフルオロエチレンパウダー、ダイキン工業株式会社製)
・KT-300M(平均粒径D50:40μmのポリテトラフルオロエチレンパウダー、株式会社喜多村製)
・BYK-019(シリコーン系界面活性剤、BYK-Chemi社製)
・オルフィン(登録商標)SK-14(アセチレンアルコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製)
・SNシックナ-651(ポリアクリル酸未中和品、サンノプコ株式会社製)。
【0075】
表1に記載の数値はそれぞれ添加した質量部を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
螺着部材用シール剤がコーティングされてなる螺着部材の作製
実施例および比較例に示す螺着部材用シール剤をコーティングすることによって螺着部材用シール剤がコーティングされてなる螺着部材を作製する方法を以下に示す。
【0078】
(実施例1~5、比較例1~10)
[螺着部材用シール剤をコーティングしてなる螺着部材の作製方法]
亜鉛めっきクロメート処理を施したボルト(ボルトサイズM10(直径)×1.5(ピッチ)×20mm(長さ)の六角ボルト)を準備した。
【0079】
上記で調製した螺着部材用シール剤を分散媒(希釈剤)(水)によって粘度350mPa・sに調整し、加工液を準備した。より具体的には、各組成物(各螺着部材用シール剤)を10分間攪拌機にて均一に攪拌し、その後、JIS K 7117-2:1999(BL型粘度計、60rpm、ローターNo.2、25℃×55%RH)にて規定される粘度測定法に従いそれぞれ粘度の測定を行った。希釈剤として水を適量入れ、螺着部材用シール剤を攪拌機にて10分間均一に攪拌して粘度測定を行う作業を螺着部材用シール剤の粘度が350mPa・sとなるまで繰り返し、加工液を準備した。
【0080】
前記ボルトの六角部を手でつまむか、あるいはディップ塗布用の磁石により固定したまま、前記ボルトを前記加工液の液面に対して垂直となるように下ろすことによってねじ切り部の8~9割に前記加工液を塗布し(ディップ塗布)、数秒後、ゆっくりと液面から前記ボルトを取り出した後、ねじ先端を下に向けたままウエスでねじ先端に着いたシール剤を拭き取り、ねじ切り部に塗布されている加工液中の希釈剤の水が揮発してしまわないうち(およそ30分以内)にねじ先端を下に向けたまま熱風乾燥機にて90℃×30分の加熱乾燥を行うことによって螺着部材用シール剤をコーティングしてなる螺着部材(プレコートボルト)を作製した。
【0081】
<螺着部剤用シール剤の特性評価方法>
[外観評価方法]
外観評価は目視により行った。
【0082】
○:塗膜の偏りやヒビワレなどの外観を損なう要因がない。
【0083】
×:塗膜の偏りやヒビワレなど外観を損なう要因がある。
【0084】
[加工液の保存性]
外観評価において、○であったサンプル(実施例、比較例)に対して、前記加工液(350mPa・sに調整したサンプル)をポリプロピレン製の300ml容器に入れて40℃で1ヶ月保存した。保存後の粘度変化およびシール性(下記の方法により試験する)を評価する、保存性の確認を行った。
【0085】
○:保存後の粘度が350±100mPa・sであり、かつ、保存後のシール性が初期のシール性と同等であったもの。
【0086】
×:保存後の粘度が250mPa・sより低い、または、450mPa・sよりも高い、あるいは、保存後のシール性が初期のシール性より悪化したもの。
【0087】
[シール性(気密)]
サンプルを配合後、密閉容器に入れた。その後、1週間以内にプレコートボルトを作製し、シール性の確認を行った。プレコートボルトを図1で示すアルミ製シール試験ブロックのボルト挿入孔aに10本ずつ組み付けた後、気体封入孔b1をシール試験機に組み付け、もう一方の気体封入孔b2を、シール試験機から封入する気体が漏れないよう、シールテープの巻かれたテーパープラグで塞いだ。プレコートボルトのアルミ製シール試験ブロックへの組み付けは締付トルク30N・mで行った。前記アルミ製シール試験ブロックを、水を張った容器に入れ、前記シール試験機から供給される窒素ガスによる圧力の供給を行い、ガスシール性の評価を行った。シール試験ブロックに加える窒素ガスの圧力は、始めは0.5MPaとし、2分間保持して漏れの有無を確認し、圧力を2分毎に段階的に0.5MPaずつ上昇して行き、前記ボルトを締付けた箇所からの漏れが発生した時点での圧力を目視にて確認した。なお、最終的な圧力は2.0MPaとし、漏れが発生しなかった最大圧力を記録した。圧力計はシール試験器に備え付けられており、圧力計を読みながら昇圧した。なお、前記アルミ製シール試験ブロックを、水を張った容器に入れシール試験をする理由は、漏れの発生を確認しやすくするためである。本シール性試験において、1.5MPa以上のシール性を示す場合、好ましい結果であることを示唆する。
【0088】
表2に特性評価結果を示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2の結果より、(b)成分(ナノファイバー化されたアラミド繊維)および(c)成分(上記式1で示す化合物であって、式中のnが4以上の化合物を含みかつ平衡還流沸点が280℃以上である造膜助剤)をそれぞれ用いることで、外観、保存性、シール性を優れたものとすることができた。
【0091】
実施例1~3および比較例1は、(a)成分の固形分100質量部に対する(b)成分の固形分の添加量を0.33質量部としたときの(c)成分の添加量を振ったものである。
【0092】
実施例2、4、5および比較例10は、(a)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量を66質量部としたときの(b)成分の添加量を振ったものである。
【0093】
比較例2~4は、(a)成分の固形分100質量部に対する(b)成分の固形分の添加量を0.33質量部としたときの(c’)成分が(a)成分の固形分100質量部に対して66質量部となるように添加したときの結果である。
【0094】
これらの結果より、上記式1の構造を持たない化合物や、n=3以下の化合物しか実質的に含まない成分では特性は良好でないことがわかった。また、n=3の化合物を用いた比較例4については、塗膜の偏りは生じない傾向にあったものの、シール性や経時での保存安定性が悪くなるといった傾向があることがわかった。
【0095】
比較例7および8は、(a)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量を66質量部としたときの、(b’)成分が(a)成分の固形分100質量部に対して0.33質量部となるように添加したときの結果である。これらの結果より、ナノファイバー化されたセルロースやナノファイバー化されていないアラミド繊維を用いた場合、特性は良好でないことがわかった。
【0096】
比較例9は、(a’)成分の固形分100質量部に対する(b)成分の固形分の添加量を0.33質量部のときに、(a’)成分の固形分100質量部に対する(c)成分の添加量を66質量部となるように添加したときの結果である。
【0097】
これより、(メタ)アクリル酸エステルコポリマーまたは(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーを含む自己架橋型でないエマルジョンを用いた場合、特性は良好でないことがわかった。
【0098】
比較例5は(a)成分を用い、(b)成分および(c)成分を添加しなかったときの結果であり、比較例6は(a’)成分を用い、(b)成分および(c)成分を添加しなかったときの結果である。いずれも(b)および(c)成分を用いなければ特性は良好でないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の螺着部剤用シール剤は、螺着部材に加工し、揮発成分を熱風乾燥により揮発させる際に生じる塗膜の偏りを防ぎ、プレコートボルトとしての外観が優れたものを提供することができる。
【符号の説明】
【0100】
a ボルト挿入孔
b-1、b-2 気体封入孔。
【0101】
なお、本出願は、2017年12月 6日に出願された日本国特許出願第2017-234206号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
図1