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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】突き合わせ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/173 20060101AFI20220831BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20220831BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23K9/173 E
B23K9/23 F
B23K37/02 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020546785
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032090
(87)【国際公開番号】W WO2020054310
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018170676
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】野々村 将一
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡
(72)【発明者】
【氏名】早川 秀隆
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-224082(JP,A)
【文献】特開昭49-021346(JP,A)
【文献】特開2000-102871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する突き合わせ溶接方法において、
前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側に形成された下向き開先に対して上向き溶接台車による上向き溶接を行う上向き溶接工程と、
前記被溶接材間の突き合わせ部における上面側に形成された上向き開先に対して下向き溶接台車による下向き溶接を行う下向き溶接工程を含み、
前記下向き溶接工程では、前記下向き溶接台車に搭載されて前記被溶接材間の突き合わせ部における前記上向き開先上で距離をおいて並べられた2つ以上の溶接トーチを同時に移動させ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの先行する溶接トーチには前記上向き開先に肉を盛るための溶接を行わせ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの最後尾の溶接トーチには前記上向き開先に外観を整えるための肉を盛る溶接を行わせ、
前記2つ以上の溶接トーチの間隔は、先頭の溶接により盛られた肉が完全に凝固してから後続の溶接トーチによる肉盛りが行われる間隔としてあり、台車本体の走行速度に応じて決定し、
前記上向き溶接工程では、前記被溶接材に対する前処理を行った後、前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側の前記下向き開先の幅に基づいて設定した径の溶接トーチを前記上向き溶接台車における上向き溶接トーチとして用いると共にシールドガスの露点温度を所定の値に設定して、前記上向き溶接トーチと前記被溶接材との間隔及び前記シールドガスの流量を所定の値に保ちつつ上向き溶接を行わせる突き合わせ溶接方法。
【請求項2】
前記下向き溶接工程において、前記2つ以上の溶接トーチの1回の移動で前記上向き開先に盛った肉の外観が整う場合には、前記上向き溶接工程及び前記下向き溶接工程を同時に行わせる請求項1に記載の突き合わせ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型構造物、例えば、タンカーに搭載される自立角型タンク(Self-supporting, Prismatic-shape IMO type B(自立角型IMOタイプBタンク))を製造する際に用いられる突き合わせ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した自立角型タンクは、船体の形状に合わせて製造されるアルミ合金製のタンクであり、個々に製造された多数のブロックから構成されている。多数のブロック個々における最初の製造工程は、その大半がアルミ合金製の大型パネル(例えば16m角の大型パネル;被溶接材)同士を突き合わせてMIG溶接により接合する突き合わせ溶接工程である。
【0003】
従来において、上記したように、アルミ合金製の大型パネル同士を突き合わせ溶接する場合には、まず、大型パネルを水平支持可能な冶具上に2枚の大型パネルを並べて載置し、両パネル同士の突き合わせ部分に下向き溶接を行って、両パネルの上面側を接合する。
この際、大型パネルの素材であるアルミ合金(アルミニウム)は、線膨張係数が高くて変形しやすいので、両パネルの上面側から下向き姿勢で片面裏波溶接のみで対応しようとすると、溶接トーチを移動させる回数分だけ、加熱及び冷却が繰り返されることとなり、冷却の際には溶接変形が生じてしまう。
【0004】
そこで、従来にあっては、突き合わせ部分の上面側が接合された両パネルをクレーン等によって反転させ、上面側と同様に、両パネル同士の突き合わせ部分に溶接を行って、両パネルの下面側を接合することで、大型パネル同士を突き合わせ接合するようにしていた。このようなパネル同士の突き合わせ溶接には、例えば、非特許文献1に記載されたMIG溶接が採用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】第2版 溶接・接合便覧 社団法人 溶接学会編 第257頁~第278頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような従来における大型パネルの突き合わせ溶接において、突き合わせ部分の上面側が接合された両パネルをクレーン等によって反転させなくてはならないので、この大型パネルの反転に多くの時間を費やさなくてはならないという問題があった。
【0007】
また、大型パネルの板厚寸法が大きい場合には、両パネルの上面側及び下面側のそれぞれで溶接トーチを複数回ずつ移動させて溶接を行うことで、両パネル間の開先に肉を盛る必要があり、加熱冷却を複数回繰り返す分だけ、接合に要する時間が長くかかるうえ、冷却の際に溶接変形が生じるのを抑えきれないという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本開示は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、アルミ合金製の大型の被溶接材同士を突き合わせ溶接する場合において、必要とされていた被溶接材の反転作業をなくしたうえで、突き合わせ溶接作業時間の短縮及び溶接変形の低減を実現することが可能である突き合わせ溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、水平に支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する突き合わせ溶接方法において、前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側に形成された下向き開先に対して上向き溶接台車による上向き溶接を行う上向き溶接工程と、前記被溶接材間の突き合わせ部における上面側に形成された上向き開先に対して下向き溶接台車による下向き溶接を行う下向き溶接工程を含み、前記下向き溶接工程では、前記下向き溶接台車に搭載されて前記被溶接材間の突き合わせ部における前記上向き開先上で距離をおいて並べられた2つ以上の溶接トーチを同時に移動させ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの先行する溶接トーチには前記上向き開先に肉を盛るための溶接を行わせ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの最後尾の溶接トーチには前記上向き開先に外観を整えるための肉を盛る溶接を行わせ、前記2つ以上の溶接トーチの間隔は、先頭の溶接により盛られた肉が完全に凝固してから後続の溶接トーチによる肉盛りが行われる間隔としてあり、台車本体の走行速度に応じて決定し、前記上向き溶接工程では、前記被溶接材に対する前処理を行った後、前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側の前記下向き開先の幅に基づいて設定した径の溶接トーチを前記上向き溶接台車における上向き溶接トーチとして用いると共にシールドガスの露点温度を所定の値に設定して、前記上向き溶接トーチと前記被溶接材との間隔及び前記シールドガスの流量を所定の値に保ちつつ上向き溶接を行わせる構成としている。
【0010】
本開示の第1の態様に係る突き合わせ溶接方法において、例えば、冶具上に並べて載置したアルミ合金製の2つの被溶接材を突き合わせて接合する場合には、上向き溶接工程及び下向き溶接工程によって、2つの被溶接材の突き合わせ部における上面側及び下面側に対する溶接を冶具上に載置したまま行い得ることとなる。その結果、両被溶接材をクレーン等によって反転させなくても済むので、その分だけ、溶接作業時間の短縮が図られることとなる。
【0011】
また、本開示の第1の態様に係る突き合わせ溶接方法において、被溶接材間の突き合わせ部における上面側の溶接を行う際には、例えば、1つの溶接トーチを用いて行う場合と比較して、溶接トーチを移動させる回数が減るので、加熱冷却の回数が減る分だけ、溶接作業時間の短縮及び溶接変形の低減が図られることとなる。
【0012】
本開示に係る突き合わせ溶接方法では、上向き溶接工程におけるブローホール等の欠陥対策として、溶接金属である溶接ワイヤの束の湿度を管理したり、溶接環境の湿度を管理したりすることが望ましい。
【0013】
また、本開示に係る突き合わせ溶接方法では、上向き溶接工程における溶接ワイヤの供給に際して、溶接個所を映し出すモニタシステムを用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る突き合わせ溶接方法において、例えば、アルミ合金製の大型の被溶接材同士を突き合わせ溶接する場合において、必要とされていた被溶接材の反転作業をなくしたうえで、突き合わせ溶接作業時間の短縮及び溶接変形の低減を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法により接合される被溶接材を示す斜視説明図である。
図2A】本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法の上向き溶接工程に用いる上向き溶接台車の側面説明図である。
図2B】本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法の上向き溶接工程に用いる上向き溶接台車の正面説明図である。
図3A】本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法の下向き溶接工程に用いる下向き溶接台車の側面説明図である。
図3B】本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法の下向き溶接工程に用いる下向き溶接台車の正面説明図である。
図4図2A図2Bの上向き溶接台車及び図3A図3Bの下向き溶接台車を用いて突き合わせ溶接を行った際の被溶接材間の開先における肉盛状況を示す拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法により接合されるアルミ合金製の大型パネル(被溶接材)を示しており、図2A図2B及び図3A図3Bは、本開示の一実施例に係る突き合わせ溶接方法に用いるMIG溶接台車を示している。
【0017】
図1に示すように、水平に並べて冶具J上に載置されたアルミ合金製の大型パネルW,W(被溶接材)間の突き合わせ部において、上面側(図示上側)にはU開先Wu(上向き開先)が形成され、下面側(図示下側)にはV開先Wv(下向き開先)が形成されている。そして、大型パネルW,W間の突き合わせ部の両端(一端側のみ示す)には、U開先Wuに連続する溝Wmを有するタブ板WTが装着されている。
【0018】
上記大型パネルW,W間に形成されたV開先Wvに対して溶接を行う図2A図2Bに示す上向き溶接台車1は、4個の走行車輪2を有する台車本体3と、この台車本体3に搭載された駆動力伝達機構4と、V開先Wvに沿って設置したガイドレール5を備えている。この上向き溶接台車1は、駆動力伝達機構4からの動力を台車本体3の前側(図2A左側)の走行車輪2に伝えることでV開先Wvに沿って走行する。
【0019】
また、この上向き溶接台車1は、台車本体3の前端部において側面方向(図2B右方向)に張り出して配置されて溶接トーチ6を上向きに支持するトーチ支持部7と、このトーチ支持部7と同じく台車本体3の後端部において側面方向に張り出して配置されて溶接ワイヤ8を巻き付け状態で保持するリール9と、このリール9から溶接ワイヤ8を引き出して溶接トーチ6に送るフィーダ10を備えている。
【0020】
トーチ支持部7は、台車本体3上に垂直に設置した昇降ガイド7aと、この昇降ガイド7aに沿って昇降可能なスライドブロック7bと、このスライドブロック7bに配置された台車本体3の走行方向と直交する方向(図2B左右方向)のレール7cと、レール7c上を往復移動可能なトーチホルダ7dを具備している。
【0021】
さらに、この上向き溶接台車1は、トーチ支持部7のスライドブロック7bに支持されて、大型パネルW及び溶接トーチ6間の上下方向の距離を検出する超音波センサ等の間隔感知センサ11を備えていると共に、台車本体3に搭載された制御部12を備えている。
【0022】
制御部12は、トーチ支持部7に取り付けられた図示しないウィービン用モータの動作を制御する。加えて、制御部12は、間隔感知センサ11で検出する大型パネルWと溶接トーチ6との間の距離を一定に保持するように、トーチ支持部7の図示しない昇降用モータの動作を制御するようになっている。
【0023】
この場合、溶接トーチ6には、V開先Wv内に向けてシールドガスを噴射する図示しないノズルが一体に設けられている。ガス供給系12aからノズルを介してV開先Wvに供給されるシールドガスの流量は、ガス圧力センサ12bで検出するガス圧に応じて制御部12により制御されるようになっている。
【0024】
つまり、制御部12では、大型パネルW,W間に形成されたV開先Wvに対して溶接を行う際に、溶接トーチ6と大型パネルWとの間隔及びシールドガスの流量をあらかじめ算出した所定の値に保つように、トーチ支持部7及びガス供給系12aを制御するようになっている。
【0025】
一方、アルミ合金製の大型パネルW,W間のU開先Wuに対して溶接を行う図3A図3Bに示す下向き溶接台車21は、先端にローラ22aを有する2本の懸垂腕22を具備したガントリーローダ本体23と、このガントリーローダ本体23に搭載された駆動力伝達機構24と、U開先Wuに沿って設置したガイド梁25を備えている。
【0026】
ガイド梁25には,ガントリーローダ本体23における懸垂腕22,22の各ローラ22a,22aを移動可能に吊り下げ保持するローラ受25aが設けてある。下向き溶接台車21は、駆動力伝達機構24が具備する駆動ローラ24aの回転力をガイド梁25のローラ受25aに伝えることでガイド梁25に沿って走行する。
【0027】
また、この下向き溶接台車21は、ガントリーローダ本体23の側面方向(図3B右方向)に張り出して配置されたトーチ支持部27と、ワイヤ矯正器30,30,30を備えている。トーチ支持部27は、3本の溶接トーチ26,26,26を斜め下向きに支持し、ワイヤ矯正器30,30,30は、3本の溶接トーチ26,26,26にそれぞれに設けられている。ワイヤ矯正器30,30,30は、溶接トーチ26,26,26に図示しないワイヤリールからの溶接ワイヤ28を個々に送るようになっている。
【0028】
この場合、3本の溶接トーチ26,26,26は、アルミ合金製の大型パネルW,W間のU開先Wu上で距離をおいて配置してあり、先行する図示左側及び中央に位置する溶接トーチ26,26は、U開先Wuに肉を盛るための溶接を行う。図示右側の最後尾に位置する溶接トーチ26はU開先Wuに外観を整えるための肉を盛るための溶接を行うものとしている。
【0029】
ここで、3本の溶接トーチ26,26,26の間隔は、先行の溶接トーチ26により盛られた肉が完全に凝固してから後行の溶接トーチ26による肉盛りが行われる間隔としてあり、下向き溶接台車21の走行速度(溶接速度)に応じて決定する。
【0030】
トーチ支持部27は、ガントリーローダ本体23上に配置されたガントリーローダ本体23の走行方向と直交する方向(図3B左右方向)のレール27aと、移動用モータ27eからの出力によりレール27aに沿って往復移動するスライド体27bと、このスライド体7bに接続する垂直方向の昇降ガイド27cと、昇降用モータ27fからの出力により昇降ガイド27cに沿って昇降するトーチホルダ27dを具備している。
【0031】
さらに、この下向き溶接台車21は、ガントリーローダ本体23に配置された開先倣いローラ31と、図外の制御部を備えている。
開先倣いローラ31は、大型パネルW,W間のU開先Wuに先行して係合することで、3本の溶接トーチ26,26,26のふらつきを抑えつつ3本の溶接トーチ26,26,26をU開先Wuに沿って移動させるようになっている。
【0032】
なお、図3A図3Bにおける符号33は車輪であり、ガントリーローダ本体23の梁部分の撓みを吸収している。また、図3Aにおける符号34はガスノズルであり、3本の溶接トーチ26,26,26のそれぞれに対してシールドガスを吹き付けるようになっている。さらに、図3Bにおける符号35は裏当て材である。
【0033】
そこで、上記上向き溶接台車1及び下向き溶接台車21を用いて、冶具J上に載置されたアルミ合金製の大型パネルW,W同士を突き合わせ接合する要領を説明する。
【0034】
まず、冶具J上に載置されたアルミ合金製の大型パネルW,W同士を複数個所で溶接により仮付けすると共に、大型パネルW,W間の突き合わせ部の両端(一端側のみ示す)にタブ板WTを装着する。
【0035】
この後、大型パネルW,W間のV開先Wvに対して上向き溶接台車1によって上向き溶接を実施する(上向き溶接工程)。
【0036】
この上向き溶接工程において、上向き溶接の実施に先立って、大型パネルW,W及びV開先Wvに対して前処理としての酸化被膜除去作業(バフ掛け等)を行い、続いて、V開先Wvの幅に基づいて設定した径の溶接トーチ6を上向き溶接台車1のトーチ支持部7にセットすると共に、シールドガスの露点温度を所定の値(例えば、-45℃dp位)に設定する。
【0037】
なお、この上向き溶接工程におけるブローホール対策として、溶接金属である溶接ワイヤ8を巻き付け状態で保持するリール9の湿度を管理したり、溶接環境の湿度を管理したりすることが望ましい。
【0038】
そして、上記前処理及び溶接条件等の設定終了後、上向き溶接台車1による上向き溶接を開始する。この上向き溶接は、上向き溶接台車1の制御部12により、溶接トーチ6と大型パネルWとの間隔及びシールドガスの流量がいずれもあらかじめ算出した所定の値に保たれた状態で行われる。この上向き溶接により、図4の下側に示すように、V開先Wvには肉Bbが盛られることとなる。
【0039】
この際、冶具J上に載置されたアルミ合金製の大型パネルW,Wの下方が狭隘な環境である場合には、溶接個所を映し出すモニタシステムを用いて溶接ワイヤ8の供給を遠隔操作することが望ましい。
【0040】
この上向き溶接工程の上向き溶接により大型パネルW,W間の突き合わせ部分の下面側が接合された後、大型パネルW,W間の上面側のU開先Wuに対して下向き溶接台車21によって下向き溶接を実施する(下向き溶接工程)。
【0041】
この下向き溶接工程の下向き溶接台車21による下向き溶接において、U開先Wuに沿って移動する3本の溶接トーチ26,26,26のうちの先行する図3A左側及び中央に位置する2本の溶接トーチ26,26は、図4の上側に示すように、U開先Wuに肉B1,B2を盛るための溶接を行う。そして、図3A右側の最後尾に位置する溶接トーチ26は,U開先Wuに外観を整えるための肉B3を盛る溶接を行う。
【0042】
この下向き溶接工程の下向き溶接において、3本の溶接トーチ26,26,26の1回の移動(1パス)でU開先Wuに肉を盛り切れない場合は、下向き溶接台車21を溶接開始位置に戻して、U開先Wuに肉を盛り切るまで下向き溶接を繰り返す。
【0043】
本実施例に係る突き合わせ溶接方法において、上記したように、冶具J上に並べて載置したアルミ合金製の2枚の大型パネルW,Wを突き合わせて接合する場合には、上向き溶接工程及び下向き溶接工程によって、2枚の大型パネルW,Wの突き合わせ部における上面側及び下面側に対する溶接を冶具J上に載置したまま行い得ることとなる。その結果、2枚の大型パネルW,Wをクレーン等によって反転させなくても済むので、その分だけ、溶接作業時間の短縮が図られることとなる。
【0044】
また、本実施例において、大型パネルW,W間の突き合わせ部における上面側の溶接を行う際には、例えば、1つの溶接トーチを用いて行う場合と比較して、溶接トーチ26,26,26を移動させる回数が減るので、加熱冷却の回数が減る分だけ、溶接作業時間の短縮及び溶接変形の低減が図られることとなる。
【0045】
さらに、本実施例では、上向き溶接工程において、前処理としてアルミ合金製の大型パネルW,Wの酸化被膜を除去することや、溶接トーチ6の径及びシールドガスの露点温度を各々の所定値に管理することを行ったうえで、溶接トーチ6と大型パネルWとの間隔及びシールドガスの流量を各々の所定値に保ちつつ上向き溶接を行う。したがって、アルミ合金製の大型パネルW,W、特に厚みのある大型パネルW,Wに対して上向き溶接を行う場合であったとしても、ブローホール等の欠陥が生じるのを少なく抑え得ることとなる。
【0046】
ここで、下向き溶接工程において、3本の溶接トーチ26,26,26の1回の移動(1パス)でU開先Wuに肉を盛り切れて肉の外観が整う場合には、上向き溶接工程及び下向き溶接工程を同時に行うようにしてもよい。この場合には、上向き溶接工程及び下向き溶接工程においていずれも溶接トーチ6及び溶接トーチ26,26,26を1回移動させれば接合が完了することとなり、溶接作業時間のより一層の短縮が図られることとなる。
【0047】
なお、上記した実施例では、本開示に係る突き合わせ溶接方法により、アルミ合金製の大型パネル(被溶接材)同士を接合する場合を例に挙げて説明したが、パネル同士の突き合わせ接合に限定しない。
【0048】
また、上記した実施例では、上向き溶接工程の上向き溶接を実施する下向き開先がV開先Wvであり、下向き溶接工程の下向き溶接を実施する上向き開先がU開先Wuである場合を例に挙げて説明したが、下向き開先がU開先であってもよく、一方、上向き開先がV開先であってもよい。
【0049】
本開示に係る突き合わせ溶接方法の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではない。
【0050】
本開示の第1の態様は、水平に支持されたアルミ合金製の被溶接材同士を突き合わせて接合する突き合わせ溶接方法において、前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側に形成された下向き開先に対して上向き溶接台車による上向き溶接を行う上向き溶接工程と、前記被溶接材間の突き合わせ部における上面側に形成された上向き開先に対して下向き溶接台車による下向き溶接を行う下向き溶接工程を含み、前記下向き溶接工程では、前記下向き溶接台車に搭載されて前記被溶接材間の突き合わせ部における前記上向き開先上で距離をおいて並べられた2つ以上の溶接トーチを同時に移動させ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの先行する溶接トーチには前記上向き開先に肉を盛るための溶接を行わせ、前記2つ以上の溶接トーチのうちの最後尾の溶接トーチには前記上向き開先に外観を整えるための肉を盛る溶接を行わせ、前記2つ以上の溶接トーチの間隔は、先頭の溶接により盛られた肉が完全に凝固してから後続の溶接トーチによる肉盛りが行われる間隔としてあり、台車本体の走行速度に応じて決定し、前記上向き溶接工程では、前記被溶接材に対する前処理を行った後、前記被溶接材間の突き合わせ部における下面側の前記下向き開先の幅に基づいて設定した径の溶接トーチを前記上向き溶接台車における上向き溶接トーチとして用いると共にシールドガスの露点温度を所定の値に設定して、前記上向き溶接トーチと前記被溶接材との間隔及び前記シールドガスの流量を所定の値に保ちつつ上向き溶接を行わせる構成としている。
【0051】
本開示の第1の態様に係る突き合わせ溶接方法において、例えば、冶具上に並べて載置したアルミ合金製の2つの被溶接材を突き合わせて接合する場合には、上向き溶接工程及び下向き溶接工程によって、2つの被溶接材の突き合わせ部における上面側及び下面側に対する溶接を冶具上に載置したまま行い得ることとなる。その結果、両被溶接材をクレーン等によって反転させなくても済むので、その分だけ、溶接作業時間の短縮が図られることとなる。
【0052】
また、本開示の第1の態様に係る突き合わせ溶接方法において、被溶接材間の突き合わせ部における上面側の溶接を行う際には、例えば、1つの溶接トーチを用いて行う場合と比較して、溶接トーチを移動させる回数が減るので、加熱冷却の回数が減る分だけ、溶接作業時間の短縮及び溶接変形の低減が図られることとなる。
さらに、本開示の第1の態様に係る突き合わせ溶接方法では、上向き溶接工程において、前処理としてアルミ合金製の被溶接材の酸化被膜を除去したり、上向き溶接トーチの径及びシールドガスの露点温度を各々の所定値に管理したりしたうえで、上向き溶接トーチと被溶接材との間隔及びシールドガスの流量を各々の所定値に保ちつつ溶接を行う。したがって、アルミ合金製の被溶接材、特にアルミ合金製の厚みのある被溶接材に対して上向き溶接を行う場合であったとしても、ブローホール等の欠陥が生じるのを少なく抑え得ることとなる。
【0053】
本開示の第2の態様は、前記下向き溶接工程において、前記2つ以上の溶接トーチの1回の移動で前記上向き開先に盛った肉の外観が整う場合には、前記上向き溶接工程及び前記下向き溶接工程を同時に行わせる構成としている。
【0054】
本開示の第2の態様に係る突き合わせ溶接方法では、例えば、冶具上に並べて載置したアルミ合金製の2つの被溶接材を突き合わせて接合する場合に、上向き溶接工程及び下向き溶接工程においていずれも溶接トーチを1回移動させれば接合が完了することとなり、溶接作業時間のより一層の短縮が図られることとなる。
【符号の説明】
【0057】
1 上向き溶接台車
6,26 溶接トーチ
21 下向き溶接台車
B1~B3,Bb 肉
W アルミ合金製の大型パネル(被溶接材)
Wu U開先(上向き開先)
Wv V開先(下向き開先)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4